説明

粉体塗料

【課題】強いアルカリ性の環境下においてもより高い耐性が得られる塗膜が、より簡便に形成できるようにする。
【解決手段】熱可塑性ポリエチレン系の第1樹脂からなる第1粉体101と、第1樹脂より融点が低く耐アルカリ性が高い第2樹脂からなる第2粉体102とから構成する。第1粉体101および第2粉体102は、混合されている。第2樹脂としてポリビニル系樹脂を用いる場合、例えば、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。また、第2樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合、例えば、ナイロン11樹脂であればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の粉体からなる粉体塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題を解決するために、構造物等の長寿命化や美観のために用いられる塗料にも、厳しい環境性能が求められるようになってきている。このような背景から、従来よりリサイクル性を有する材料を用い、かつ有機溶剤を含まない環境負荷が低い熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合物を用いた粉体塗料による塗装が開発され、市場において実用に供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−002987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合物を用いた粉体塗料では、形成される塗膜の耐アルカリ性があまり高くないという問題があった。この粉体塗料を用いた塗装では、強いアルカリ性環境下において塗膜が劣化し、塗膜表面に膨れや剥がれ、亀裂が生じ、ついには塗膜剥離が生じていた。
【0005】
これに対し、上述した粉体塗料による塗装を形成した後、この塗膜の上に、耐アルカリ性の高い材料の塗膜(被膜)を形成して耐アルカリ性を向上させる方法がある。しかしながら、この方法では、2回以上の塗装工程が必要となり、工程が複雑となるという問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、強いアルカリ性の環境下においてもより高い耐性が得られる塗膜が、より簡便に形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る粉体塗料は、熱可塑性ポリエチレン系の第1樹脂からなる第1粉体と、第1樹脂より融点が低く耐アルカリ性が高い第2樹脂からなる第2粉体とを備える。例えば、第1粉体および第2粉体は、混合されていればよい。
【0008】
上記粉体塗料において、第2樹脂は、ポリビニル系樹脂であればよい。例えば、第2樹脂は、ポリビニルブチラールであればよい。また、第2樹脂は、ポリアミド系樹脂であってもよい。例えば、第2樹脂は、ナイロン11であればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、第1樹脂より融点が低く耐アルカリ性が高い第2樹脂からなる第2粉体を用いるようにしたので、強いアルカリ性の環境下においてもより高い耐性が得られる塗膜が、より簡便に形成できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における粉体塗料の構成を模式的に示す構成図である。
【図2】図2は、粉体塗料による塗装方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における粉体塗料の構成を模式的に示す構成図である。この粉体塗料は、熱可塑性ポリエチレン系の第1樹脂からなる第1粉体101と、第1樹脂より融点が低く耐アルカリ性が高い第2樹脂からなる第2粉体102とから構成されている。第1粉体101および第2粉体102は、混合されている。
【0012】
ここで、粉体塗料による塗装方法について簡単に説明する。図2に示すように、まず、ステップS201で、2つの粉体を混合して粉体塗料を作製し、次に、ステップS202で、作製した粉体塗料を対象物に塗装する。ここで、粉体塗料の作製では、上述した2つの粉体の他に、例えば、紫外線吸収剤および酸化防止剤を各々0.1〜0.5重量%含有させればよい。また、塗装においては、よく知られているように、対象物に作製した粉体塗料を吹き付ければよい。次に、ステップS203で、対象物の表面に塗装した塗膜を焼成する。例えば、300〜400℃程度に加熱すればよい。この後、ステップS204で、焼成した塗膜を冷却する。例えば、水冷により冷却すればよい。
【0013】
上述した本実施の形態の粉体塗料による塗膜は、形成した塗膜の表面側に第2樹脂からなる被膜が形成された2層構造となる。この構造は、顕微鏡の観察により確認されている。これは、塗膜を焼成した後の冷却の過程で、より融点の高い第1樹脂が先に固化するため、まず、第1樹脂による固化した第1被膜が対象物表面に形成される。この後、より融点の低い第2樹脂が固化し始めて、既に固化した第1被膜の表面に、第2樹脂による固化した第2被膜が形成されるためと考えられる。
【0014】
このように、本実施の形態の粉体塗料による塗膜は、表面が耐アルカリ性の高い第2樹脂の膜で覆われた状態となるので、強いアルカリ性の環境下においてもより高い耐性(耐アルカリ性)が得られる。また、上述したように、本実施の形態によれば、1回の塗装で高い耐アルカリ性の塗膜形成できるので、簡便である。耐アルカリ試験において、従来の混合熱可塑性ポリエステル粉体塗膜はことごとく塗膜剥離が生じるのに対し、本実施の形態の粉体塗料を用いた焼き付け塗装による塗膜は、全く剥離することなく健全な塗膜を維持することがわかった。
【0015】
このように、本実施の形態によれば、耐アルカリ性が飛躍的に向上し、優れた耐候性、耐加水分解性を有し、防食性に優れ、環境に優しく、高い機械的強度を有する長寿命の塗膜が得られる。従って、本実施の形態における粉体塗料は、建設時に大きな外力が加わる用途への使用、有色で長寿命が要求される橋梁等への防食塗装への使用、厳しい腐食環境となる塩害地域や紫外線の強い地域の構造材料への適用、さらにはアルカリ性のコンクリート中に埋め込まれ、また接触する鋼材などへの防食塗装への使用に適し、形成される塗膜は、ほぼメンテナンスフリーの防食性能を発揮することができる。
【0016】
次に、第1樹脂および第2樹脂について説明する。まず、第1樹脂は、熱可塑性ポリエチレン系の樹脂であり、例えば、熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合物である。熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合物は、よく知られているような。エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位として有する重合物あり、特に制限はない。
【0017】
第2樹脂は、融点が第1樹脂の融点よりも低いものから選択する。このような樹脂としては、例えば、ポリビニル系樹脂およびポリアミド系樹脂がある。これらを用いることで、融点の差により塗膜形成時に融点の低い樹脂の層が表層へ移動し、最終的に前述したような2層構造が得られる。このような2層構造の表面に形成された第2樹脂の被膜は、外界の強いアルカリ環境においても強い耐性を発揮する。この結果、従来の熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合物では塗膜剥離が生じるような環境においても、本実施の形態における粉体塗料を用いた塗膜によれば、剥離を生じない強靭な塗膜物性を発揮する。
【0018】
上述したように、第2樹脂は第1樹脂より融点が低いものであれば特に制限はないが、第2樹脂としてポリビニル系樹脂を用いる場合、例えば、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。また、第2樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合、例えば、ナイロン11樹脂であればよい。
【0019】
以下、実施例を用いて、より詳細に説明する。
【0020】
[材料]
はじめに、材料について説明する。まず、第1樹脂は、熱可塑性ポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(SAPOE5000)である。また、第2樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)およびポリアミド樹脂(PI)である。また、PVB(M)(MOWITAL B30H)およびPVB(BL)(エスレックBL-1)の2種類のポリビニルブチラール樹脂を用いる。また、ポリアミド樹脂としては、PA11(RILSAN ES NATURELLE:ナイロン11)を用いる。用いた各材料の特性を以下の表1に示す。混合の比率は、第1樹脂による第1粉体100分に対して第2樹脂による第2粉体を20部混合させる。また、各分量の粉体を透明なポリ袋(ユニパックJ−4;340×240×0.04mm)に入れ、手動により数分間混合した。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、上述した各材料を混合した粉体塗料による塗膜を形成する。本実施例では、予め加熱(予熱)してある試験片を、粉体塗料に接触(浸漬)させることにより、試験片の表面に塗膜を形成する。また、塗膜が形成された試験片は、水冷により冷却する。まず、予熱温度は370℃とする。また、塗膜を形成する評価試験片は、下地鋼材が100×50×3.2mmのSS400鋼板に、HDZ55相当の溶融Znめっきしたものを用いた。なお、この評価試験片の表面は、スイープブラスト処理してある。
【0023】
次に、評価および測定の項目について説明する。
【0024】
[塗膜外観]
塗膜を形成した評価試験片である塗装試験片の塗膜外観を目視で観察し、塗膜全面が完全に焼成しているものを良好(○)、試験片引き上げ方向の上部に未焼成箇所があるものをやや劣る(△)、塗膜に未焼成箇所があるものを劣る(×)と判定した。
【0025】
[塗膜重量]
各下地の溶融Znめっき鋼板の重量と、塗装後の鋼板の重量を上皿天秤で測定し、各塗膜重量を求め、塗装試験片5個の平均値を測定値とした。
【0026】
[塗膜厚さ]
各下地の溶融Znめっき鋼板のZnめっき厚さと、塗装後の鋼板(塗装試験片)の塗膜厚さを電磁式膜厚計(elcometer345;lcometer社製)で表裏各5箇所を測定し、各々の平均値の差から塗膜厚さ求め、試験片5個の平均値を測定値とした。
【0027】
[鏡面光沢度]
塗装試験片の表裏面塗膜について60°鏡面光沢度を変角光沢計(UGV−5;スガ試験機)で測定し、塗装試験片5個の平均値を測定値とした。
【0028】
[塗膜表面粗さ]
塗装試験片の長手方向50mm、幅方向10mmの箇所を、10mmについて表面粗さ計(surfcom;東京精密製)でRa(中心線平均粗さ)、Rmax(最大高さ)を測定した。試験片3個の平均値を測定値とした。
【0029】
[断面観察]
塗装試験片を精密切断機で切断し、切断面の全塗膜厚さと2層被覆が形成された状態を観察し、表層の塗膜厚さをデジタルマイクロスコープ(VHX−900;KEYENCE社製)で観察した。
【0030】
[断面塗膜表面層の同定]
剥離剤塗布鋼板で塗装を行い、塗膜をカッターナイフで剥がした各塗膜について、塗膜表層部の樹脂をFT−IR(Spectrum One PerkinElmer社製)で測定し、2層被覆形成性を調査した。
【0031】
[耐アルカリ試験]
塗装試験片を40℃の10wt%NaOH水溶液(40℃の恒温槽内に設置)に浸漬し、所定時間毎に7日間の塗膜外観を評価するとともに、塗膜重量増減、鏡面光沢度を測定し、試験終了時に塗膜外観(ピンホール、クラック、塗膜剥離、表層塗膜の有無等)を観察し、塗膜の付着性を碁盤目テープ法で評価した。
【0032】
碁盤目テープ法による付着性はJIS K5400(1995)に準拠して切り傷の間隔を5mm、マス目数を9個としてカッターナイフで塗膜を切断後に+方向に各1回セロハンテープを付着して塗膜面に直角方向に瞬間的に引きはがした。付着性は塗膜マス目の剥離数を評価し、およびセロハンテープへの表層塗膜の付着程度を観察した。
【0033】
[実施例1]
上述した各試験の結果について説明する。まず、第2樹脂をPVB(BL)とした場合について示す。この場合、塗膜形成性および形成した塗膜の諸特性は、以下の表2に示す結果となった。
【0034】
【表2】

【0035】
次に、耐アルカリ性の結果について説明する。まず、比較例としての従来の粉体塗料による塗膜の耐アルカリ性試験(鏡面光沢度および塗膜表面粗さ)の結果は、以下の表3に示すものとなった。
【0036】
【表3】

【0037】
また、本実施例1の粉体塗料による塗装試験片における塗膜の耐アルカリ性試験の外観観察などの結果は、以下の表4に示す結果となった。
【0038】
【表4】

【0039】
以上に示したように、本実施例1によれば、1回の塗装で、塗膜の表面にPVB(BL)の被膜が形成されるため、従来の粉体塗料による塗膜が剥離を示す強アルカリ環境下においても、耐アルカリ性、塗膜外観に優れた性能を示した。
【0040】
[実施例2]
次に、第2樹脂をPVB(M)とした場合について示す。この場合、塗膜形成性および形成した塗膜の諸特性は、以下の表5に示す結果となった。
【0041】
【表5】

【0042】
また、実施例2における粉体塗料による塗膜の耐アルカリ性試験(鏡面光沢度および塗膜表面粗さ)の結果は、以下の表6に示すものとなった。
【0043】
【表6】

【0044】
また、本実施例2の粉体塗料による塗装試験片における塗膜の耐アルカリ性試験の外観観察などの結果は、以下の表7に示す結果となった。
【0045】
【表7】

【0046】
以上に示したように、本実施例2によれば、1回の塗装で、塗膜の表面にPVB(M)の被膜が形成されるため、従来の粉体塗料による塗膜が剥離を示す強アルカリ環境下においても、耐アルカリ性、塗膜外観に優れた性能を示した。
【0047】
[実施例3]
次に、第2樹脂をPA11とした場合について示す。実施例3における粉体塗料による塗膜の耐アルカリ性試験(鏡面光沢度および塗膜表面粗さ)の結果は、以下の表8に示すものとなった。
【0048】
【表8】

【0049】
また、本実施例3の粉体塗料による塗装試験片における塗膜の耐アルカリ性試験の外観観察などの結果は、以下の表8に示す結果となった。
【0050】
【表9】

【0051】
以上に示したように、本実施例3においても、1回の塗装で、塗膜の表面にPA11の被膜が形成されるため、従来の粉体塗料による塗膜が剥離を示す強アルカリ環境下においても、耐アルカリ性、塗膜外観に優れた性能を示した。
【0052】
以上に説明したように、第2樹脂としてPVB(BL),PVM(M),およびPA11を用いた各実施例の粉体塗料を用いた塗装をした各試験片は、1回の粉体塗料で形成した塗膜により高いアルカリ耐性が得られている。このように、上記実施例によれば、強いアルカリ性の環境下においてもより高い耐性が得られる塗膜が、より簡便に形成できることがわかる。
【0053】
なお上述した実施例では、予熱した塗装試料片を粉体塗料中に浸漬することにより塗装を行ったが、予熱した塗装対象物に粉体塗料を吹き付けるなど、通常の粉体塗料に関して一般的に適用されている他の塗装方法でもかまわない。また、上述した実施例においては塗膜を形成した後に水冷により冷却を行っているが、自然放冷など他の冷却方法でもかまわない。
【0054】
以上に説明したように、本発明によれば、優れた防食性と機械的特性、環境保全性はもちろんのこと、高いアルカリ耐性を有する塗膜を、1回の塗装で形成できるようになる。また、形成した塗膜は、従来の性能を凌ぎ、かつ、課題であった耐アルカリ性を飛躍的に向上する。このように、本発明の粉体塗料を用いることで、環境に優しく、高い機械的強度を有する長寿命の塗膜が形成できる。このため、建設時に大きな外力が加わる用途への使用、有色で長寿命が要求される橋梁等への防食塗装への使用、厳しい腐食環境となる塩害地域や紫外線の強い地域の構造材料への適用、さらにはアルカリ性のコンクリート中に埋め込まれ、また、接触する鋼材などへの防食塗装への使用に適し、ほぼメンテナンスフリーの防食性能を発揮することができる。
【0055】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施例では、第1粉体100分に対して第2粉体を20部混合して粉体塗料としたが、これに限るものではない。形成される塗膜の表面が、第2樹脂からなる被膜で覆われた状態となればよく、第1樹脂および第2樹脂の諸特性に適合させ、第1粉体および第2粉体の言合否を適宜に設定すればよい。
【符号の説明】
【0056】
101…第1粉体、102…第2粉体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエチレン系の第1樹脂からなる第1粉体と、
前記第1樹脂より融点が低く耐アルカリ性が高い第2樹脂からなる第2粉体と
を備えることを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
請求項1記載の粉体塗料において、
前記第1粉体および前記第2粉体は、混合されていることを特徴とする粉体塗料。
【請求項3】
請求項1または2記載の粉体塗料において、
前記第2樹脂は、ポリビニル系樹脂であることを特徴とする粉体塗料。
【請求項4】
請求項3記載の粉体塗料において、
前記第2樹脂は、ポリビニルブチラールであることを特徴とする粉体塗料。
【請求項5】
請求項1または2記載の粉体塗料において、
前記第2樹脂は、ポリアミド系樹脂であることを特徴とする粉体塗料。
【請求項6】
請求項5記載の粉体塗料において、
前記第2樹脂は、ナイロン11であることを特徴とする粉体塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158705(P2012−158705A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20407(P2011−20407)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】