説明

粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物

【課題】 粉体流動性が良好で、かつ、フォキングを起こしにくい粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)ポリプロピレン系重合体20〜80重量%と(B)オレフィン系重合体又は/及び芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体80〜20重量%とからなる混合物の粉体100重量部、及び(C)ガラス転移温度が60℃以上で一次平均粒径が0.01〜70μmのアクリレート系重合体0.5〜30重量部を含有してなる粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粉体成形用のポリオレフィン重合体組成物に関する。詳しくは、粉体流動性に優れ、フォギングの起きにくい粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】インストルメントパネル、ヘッドレストなど自動車内装品の表層材として、塩化ビニル重合体(以下、PVCと記す。)組成物の粉体成形用材料が主に使用されている。しかし、これらの自動車内装品は、例えば表層はPVC、内側の発泡層は発泡ポリウレタン、芯材はポリオレフィンと複数の素材から構成されているので、近年、リサイクル使用の観点から、分別しやすいように内外層材の統合が望まれるようになった。そのため、表層についてはこれまでPVCが性能面、コスト面においてバランスの取れた優れた材料であったが、分別の都合上、ポリオレフィン系重合体への変更が提案されている(特開平5−1183号公報、特開平5−279484号公報)。また、発泡層もポリオレフィン系重合体の使用が検討され始めた。しかし、前記提案による表層へのポリオレフィン系重合体の使用には、粉体流動性や耐熱性が不充分なため、成形品にピンホールが発生するなどの問題があった。一般に、表層のための粉体成形用の材料は、粉体流動性の良い、優れた粉体特性を有することが良好な成形品を得る上で重要である。粉体流動性が悪化すると、成形品の肉厚が不均一になるばかりでなく、ピンホールが発生するなど、成形不良の発生率が高くなる。こういった不具合を解消する為、これまで、粉体成形用ポリオレフィン系重合体組成物には、主として無機系の微粉末がコロの役割を果たす目的で添加されていた。しかし、無機系の微粉末は少量で粉体成型用組成物の粉体特性を大幅に改善するものの、成型品の物性の低下を招き、また材料重合体そのものの溶融性を大幅に低下させるため、成形品の厚みムラやピンホールなどの不具合を誘発する問題があった。加えて、無機系の微粉末は少量しか使用できないために、粉体成形用組成物を夏期に高温の倉庫で長期貯蔵すると、重合体粉末が融着を起こし、粉体流動性が低下する問題もあった。これらの問題を改善するため、特開平6−106553号公報ではエチレン・α−オレフィン系共重合体及びポリオレフィン系重合体の部分架橋型エラストマーの粉体に対して、ポリプロピレン系重合体、ポリエチレン系重合体、塩化ビニル系重合体などの有機系の微粒子を添加することが提案された。しかし、ポリプロピレン系重合体とポリエチレン系重合体においては、得られる成型品を自動車内に装着すると車内のガラスが揮発成分で曇るフォギングの現象が発生する問題が起き、また、塩化ビニル系重合体はポリオレフィン系重合体との相溶性が悪くて成型品の機械的強度を低下させるなど、いまだ実用性は不十分であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これらの状況のもと、本発明者らは、粉体流動性を改善して、かつ、フォギングを起こさない、高強度の成形品の得られる粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物の実現の検討を重ねた結果、特定のアクリレート系重合体微粒子を配合することにより上記の諸問題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、(A)ポリプロピレン系重合体20〜80重量%と(B)オレフィン系重合体又は/及び芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体80〜20重量%とからなる混合物の粉体100重量部、及び(C)ガラス転移温度が60℃以上で一次平均粒径が0.01〜70μmであるアクリレート系重合体0.5〜30重量部を含有してなる粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物、を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳細に説明する。本発明で(A)成分として使用するポリプロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体又はプロピレン50重量%以上と炭素数2〜12の他のα−オレフィンとの共重合体である。ここで、プロピレンと炭素数2〜12のα−オレフィンとの共重合体はランダム共重合体、交互共重合体及びブロック共重合体を含むもので、通常、チーグラー・ナッタ系触媒などを用いて重合することにより製造されることが多い。かかるα−オレフィンとしては、例えばエチレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1などが挙げられる。プロピレン系重合体は、特に限定されないが、JIS K 7210によるメルトフローレート(以下、MFRと記す。)が5g/min以上(230℃、2.16kg荷重)のものが好ましく、MFRが20g/min以上のものが更に好ましい。ポリプロピレン系重合体のMFRが5g/minより小さいと、溶融性が悪くてピンホールが発生し易い虞がある。
【0006】本発明組成物における(B)成分として、オレフィン系重合体又は/及び芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体を用いる。ここで、オレフィン系重合体は、オレフィンの単独重合体又は共重合体で、(A)成分のポリプロピレン系重合体を除くものである。すなわち、エチレン単独重合体又はエチレンと他のビニル系単量体(50重量%以上となるプロピレンを除く)との共重合体であるエチレン系重合体、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などが挙げられる。エチレン系重合体の具体例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−ヘプテン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体などが挙げられる。エチレン系重合体として好ましいものは、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−ヘプテン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体などである。また、好ましいオレフィン系重合体は、MFRが5g/min以上(190℃、2.16kg荷重)のものであり、MFRが20g/min以上のものが更に好ましい。オレフィン系重合体のMFRが5g/minより小さいと、溶融性が悪くてピンホールが発生し易い虞がある。
【0007】本発明組成物における(B)成分として、芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体(以下、芳香族ビニル系共重合体と記す。)を使用しても良い。芳香族ビニル炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンなどが挙げられる。これらの中で、スチレンまたはα−メチルスチレンが好ましい。共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。これらの中で、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0008】また、本発明において、芳香族ビニル系共重合体には、芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体の共役ジエン単量体部分の二重結合に対して水素添加されたものも含まれる。すなわち、芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体水素添加物も本発明における(B)成分として使用することができる。このような水素添加共重合体の例としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体水素添加物(通称、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体又はSEBSと記す。)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体水素添加物(通称、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体又はSEPSと記す。)、スチレン−ブタジエン共重合体水素添加物などが挙げられる。好ましい芳香族ビニル系共重合体は、MFRが0.5g/min以上(230℃、2.16kg荷重)のものであり、MFRが5g/min以上のものが更に好ましい。オレフィン系重合体のMFRが5g/minより小さいと、溶融性が悪くてピンホールが発生し易い虞がある。本発明において、(A)成分と(B)成分との使用比率は、重量比で20/80〜80/20であり、好ましくは40/60〜60/40である。(A)成分の使用比率が20重量%より少ないと、得られる成型品の機械的強度が低下する危険性があり、一方、80重量%より多いと、得られる成型品の硬度が高くなる虞がある。
【0009】本発明組成物の(C)成分として用いられるアクリレート系共重合体は、ガラス転移温度(以下、Tgともいう。)が60℃以上で、かつ、一次平均粒径が0.01〜70μmのものである。(C)成分のTgは示差熱分析計にて求めることができ、好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃より高い温度である。Tgが60℃より低いと、成形時の温度上昇過程にある粉体の流動性が悪化する傾向がある。アクリレート系共重合体がコア−シェル構造である場合は、シェルを構成する重合体のTgが上記の要件を満たせば良い。即ち、シェルの重合体のTgが60℃以上、好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃より高い温度であれば、コア重合体のTgが例えばポリエチルアクリレートのように−22℃というように低くても良い。また、(C)成分の一次平均粒径、即ち単一粒子の平均径は、アクリレート系共重合体の粉末を水に分散し、発振周波数が50kHzの超音波振盪器に1分間かけた後、3分間静置した懸濁液を用いて遠心沈降濁度法により積分粒径分布を求め、累積値50%となる粒径をもって表わす。(C)成分の好ましい一次平均粒径は0.3〜30μmである。一次平均粒径が0.01μmより小さいと、成型品に色むらが発生する傾向があり、一方、30μmより大きいと粉体成形用組成物の粉体流動性が不十分となる虞がある。
【0010】本発明における前記アクリレート系共重合体の組成の主成分(コア−シェル構造の場合はシェルの重合体の主成分)は、炭素数1〜8のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸〔(メタ)はアクリル酸とメタクリル酸とを指す場合に記すことがある。〕のエステルである。、その具体例としては、メチルメタクリレート〔ホモ重合体の場合のTg(以下同様):105℃〕、エチルメタクリレート(65℃)、イソプロピルメタクリレート(81℃)、t−ブチルメタクリレート(107℃)、シクロヘキシルメタクリレート(56℃)、フェニルメタクリレート(110℃)などを挙げることができ、これらの単量体は、重合体を形成する全単量体を基準にして50重量%以上を占めるものである。50重量%を下廻ると、共重合体のガラス転移温度が60℃を下廻る虞がある。
【0011】また、本発明におけるアクリレート系重合体の第二成分として、必要に応じて他の単量体を50重量%未満の量で共単量体として用いることもできる。これらの単量体の例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物;(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル化合物;エチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物;α−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどの官能基含有アクリル酸又はメタクリル酸アルキルエステル化合物;2−ヒドロキシエチルフマレート、モノブチルマレートなどの二塩基酸エステル化合物;塩化ビニルなどを挙げることができる。これらのアクリレート系共重合体のなかでも、メチルメタクリレートを50重量%以上含有するメタアクリレート系共重合体が好ましい。
【0012】上記のような(C)成分のアクリレート系重合体の微粒子を製造するには、乳化重合法(播種乳化重合法を含む)、微細懸濁重合法(播種微細懸濁重合法を含む)又は懸濁重合法によると良い。本発明組成物における(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の混合物の粉体100重量部あたり0.5〜30重量部であり、好ましくは1〜10重量部である。0.5重量部より少いと粉体流動性の改善が不十分となる危険性があり、一方、30重量部より多いと成型品の機械的強度が低下する虞がある。
【0013】本発明組成物には、上記の(A)、(B)及び(C)成分のほか、必要に応じて更に酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、スリップ剤、分散剤、フィラーなどを添加することができるし、公知の可塑剤などもベトツキ、成形性などを損なわない範囲で添加することができる。本発明組成物は、上記した各成分を均一に混合することによりでき上がる。このような組成物の製造は、各成分の良好な分散が得られれば如何なる方法を採用してもよく、特に限定されるものではない。通常、ゴム・重合体工業に使用されるヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどの密閉型混合機、又は一軸押出機、二軸押出機などによって、対象ポリマーを溶融混練りする。また、混練方法として多段の添加口のある押出機にて前段で重合体成分及び各種添加剤を投入し、後段で可塑剤などの液状成分を注入する方法を採用することもできる。
【0014】上記の各種の混合法の中で押出機などの重合体成分の溶融を伴う混合法を採用する場合は、次に粉砕工程を入れて組成物の粉体流動性を向上させることが好ましい。このような粉砕工程にはターボミル、ローラミル、ボールミル、遠心力粉砕機、パルペライザーなどの粉砕機を用いて粉砕することにより、調製することができる。このようにして得られた粉末状のポリオレフィン重合体組成物の平均粒径は50〜500μm、好ましくは100〜300μmの範囲にあるのが望ましい。ここで、ポリオレフィン重合体組成物の平均粒径は、JIS標準篩を用いる篩分析による積分粒径分布曲線が50重量%を指す目開きに相当する粒径のことである。この平均粒径が50μm未満のものは粉砕工程の効率が悪い上に、貯蔵時に凝集しやすいし、500μmを超えると成形品のキメが荒くなり、厚さの薄い成形品の場合にはピンホールが発生しやすくなる。本発明のポリオレフィン重合体組成物は、粉体スラッシュ成形、流動浸漬成形又は粉体回転成形などの種々の粉体成形方法が適用でき、特にインストルメルトパネル、ヘッドレスト、コンソールボックス、ドアトリム、アームレストなどの自動車内装品の表層の粉末成形材料として好適に使用することができる。
【0015】
【実施例】以下に実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。アクリレート系重合体1〜4を下記製造例の方法により調製した。
アクリレート系重合体製造例1攪拌機及びジャケット付きのステンレス製反応器に水200重量部、オレイン酸カリウム1.0重量部及び過硫酸カリウム0.6重量部を入れて脱気し、メチルメタクリレート50重量部、ステアリルアクリレート50重量部及びt−ドデシルメルカプタン0.15重量部を仕込んだ。反応器を昇温して反応温度を60℃に維持して重合反応を行い、少量サンプリングした反応液の固形分濃度の変化により重合率を追跡し、重合率92%を確認してから冷却して反応を終え、ラテックスを得た。ラテックスを170℃の窒素気流の噴霧乾燥機にて乾燥してアクリレート系重合体1を得た。アクリレート系重合体1の特性を表1に記す。
【0016】アクリレート系重合体製造例2攪拌機及びジャケット付きのステンレス製反応器にポリビニルアルコール0.5重量部とメチルセルロース0.5重量部を溶解した水200重量部を入れて脱気し、アゾビスイソブチルニトリル0.2重量部とメチルメタクリレート100重量部とを仕込み、反応器を昇温して温度を55℃に維持して重合反応を行い、少量サンプリングした反応液の固形分濃度により重合率を追跡し、重合率90%を確認してから冷却して反応を終え、スラリーを得た。スラリーを脱水後、170℃の窒素による流動乾燥機にて乾燥してアクリレート系重合体2を得た。アクリレート系重合体2の特性を表1に記す。
【0017】アクリレート系重合体製造例3単量体に、メチルメタクリレート50重量部及びステアリルアクリレート50重量部に代えてメチルメタクリレート50重量部及びスチレン50重量部を用いたほかはアクリレート系重合体製造例1と同様に行ってアクリレート系重合体3を得た。アクリレート系重合体3の特性を表1に記す。
【0018】アクリレート系重合体製造例4攪拌機及びジャケット付きのステンレス製反応器に水200重量部を入れて脱気し、メチルメタクリレート50重量部、n−ブチルアクリレート50重量部、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム1.0重量部、ステアリルアルコール1.5重量部及びベンゾイルパーオキサイド0.3重量部添加し、室温で30分間撹拌混合した後、ホモミキサーで均質化し、撹拌機及びジャケット付きステンレス製重合器に移送し、重合温度60℃で5時間重合を行った。サンプリングで重合率90%を確認してから冷却して反応を終え、ラテックスを得た。ラテックスを170℃の窒素気流の噴霧乾燥機にて乾燥してアクリレート系重合体4を得た。アクリレート系重合体4の特性を表1に記す。
【0019】
【表1】


【0020】実施例1〜5、比較例1〜3ポリプロピレン重合体(J709、グランドポリマー(株)製、MFR=55g/10min.)60重量部、直鎖状低密度ポリエチレン重合体(ノバテックLL UJ790、日本ポリケム(株)製、MFR=50g/10min.)20重量部、SEBS(タフテックH1042、旭化成工業(株)製、MFR=30g/10min.)20重量部及び表2に示す種類及び量の微細粉体をヘンシェルミキサーにて混合してから2軸押出機(TEM−35B、東芝機械(株)製、シリンダー径35mm、バレル温度200℃)にて混練して径2mm、長さ3mmのペレットを得、次いでターボミルにて粉砕し、粉末状のポリオレフィン重合体組成物を得た。得られたポリオレフィン重合体組成物について下記の方法にて粉体流動性を、また、粉体成形における溶融性、成型品の非フォギング性及び引張り強度を評価した。結果を表2に示す。
【0021】(1)粉体流動性JIS K 6721規定の嵩比重測定装置を用いて温度23℃の粉末状のポリオレフィン重合体組成物100ccの落下時間を測定する。落下時間が短かい程粉体流動性が良い。30秒より長いと、流動性が悪いため、シートの厚みにムラが生ずる可能性がある。また、ポリオレフィン重合体組成物を50℃のオーブン内に30分置いて50℃に加温されたのを確認して直ちに上記と同様にして組成物100ccの落下時間を測定した。加温状態の粉体流動性が良いと、実機での成形の際、金型に粉体状組成物を付着させて、余剰の組成物をリザーバーに受け、繰り返し金型に供給されるときの金型細部への行き渡りが良い傾向がある。
【0022】(2)溶融性粉末状のポリオレフィン重合体組成物を用いてスラッシュ成形を3回行って得られるシートの均一性如何で調べる。即ち、150×100×3mmのニッケル金型を温度280℃、260℃及び240℃にそれぞれ加熱し、各々粉末状の熱可塑性重合体組成物を置いて10秒間経てから反転して付着していない余剰の粉末を取り除いた後、付着している熱可塑性重合体組成物について更に30秒間保持してゲル化させる。次いで、金型を水冷し、金型の温度が60℃になったときゲル化シートを剥がし、シート厚み及びシート表面のピンホールの状態を調べ、下記の記号で評価した。ピンホールがないほど良好である。
○:シート厚みにムラが見られず、また、ほとんどピンホールがない。
△:わずかにシート厚みムラ及びピンホールがある。
×:シート厚みにムラがあり、また、かなりピンホールがある。
【0023】(3)非フォギング性スラッシュ成形して得られたシートを直径70mmの円形に切り抜き、フォギングテスター(スガ試験機(株)製)にて下記の条件で試験を実施。その後のヘイズ値を求めた。ヘイズ値が低いほど非フォギング性が良好である。
加熱オイル温度×時間:110℃×5時間冷却板温度 :30℃(4)引張り強度溶融性の試験と同様の方法で、金型を用いて280℃、10秒の条件で厚み1mmの焼結シートを作成する。このシートからJIS K 6301の1号型試験片を打ち抜く。次いでJIS K 7113の方法に基づいて引っ張り強度を測定する。
【0024】比較例4ポリプロピレン重合体を86重量部、直鎖状低密度ポリエチレン重合体及びSEBSを各7重量部としたほかは実施例1と同様に行った。得られたポリオレフィン重合体組成物の粉体流動性、溶融性及び非フォギング性についての評価結果を表2に示す。
比較例5ポリプロピレン重合体を14重量部、直鎖状低密度ポリエチレン重合体を60重量部及びSEBSを26重量部としたほかは実施例1と同様に行った。得られたポリオレフィン重合体組成物の粉体流動性、溶融性及び非フォギング性についての評価結果を表2に示す。
【0025】
【表2】


【0026】注*1:メチルメタクリレート重合体、ゼオンF−325、日本ゼオン(株)製、Tgは105℃、平均粒径は0.8μm。
*2:シリカ、エアロジルA200、日本アエロジル(株)製、平均粒径は0.016μm。
*3:ポリプロピレン、ランコワックスPP1362D、三晶(株)製、平均粒径は3.5μm。
【0027】本発明の要件を備えた実施例1〜5は、いずれも粉体流動性、溶融性及び非フォギング性が良好であった。殊に、実施例2〜4から、アクリレート系重合体のTgが80℃より高いと、ポリオレフィン重合体組成物の加温時の粉体流動性が特に良いことが判る。しかし、(C)成分の微細粉体としてシリカを用いた比較例1では、微粉が平均粒径は本発明の要件に適合するものの、無機粉末であるために粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物の溶融性が劣り、成形シートの引張り強度が低かった。また、微粉としてポリプロピレンを用いた比較例2では、本発明の平均粒径の規定を満すものであっても、粉体流動性および非フォギング性が不良であった。また、微粉の粒径とガラス転移温度が本発明の要件に適合しても、量が少なすぎると、粉体流動性が悪化した(比較例3)。本発明の規定に照らして(A)成分の比率が多く、(B)成分の比率が少ない比較例4では、溶融性が悪く、硬くて結果として引っ張り強度の大きい成形品が得られた。本発明の規定に照らして(A)成分の比率が少なく、(B)成分の比率が少多い比較例5では、溶融性がやや悪く、引張り強度の小さな成形品が得られた。
【0028】
【発明の効果】本発明により、粉体流動性が良好で、かつ、フォギングを起こしにくい粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物が提供され、これを用いた粉体成形品を表層に用いた重合体成形製品はリサイクル使用の利便性が高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ポリプロピレン系重合体20〜80重量%と(B)オレフィン系重合体又は/及び芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体80〜20重量%とからなる混合物の粉体100重量部、及び(C)ガラス転移温度が60℃以上で一次平均粒径が0.01〜70μmであるアクリレート系重合体0.5〜30重量部を含有してなる粉体成形用ポリオレフィン重合体組成物。

【公開番号】特開2000−336219(P2000−336219A)
【公開日】平成12年12月5日(2000.12.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−150441
【出願日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【出願人】(000108214)ゼオン化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】