説明

粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物と粉末イオン交換樹脂包含支持体

【課題】粉末イオン交換樹脂を主成分とする均一な液状組成物を調製する技術とその使用方法を提供する。
【解決手段】粉末イオン交換樹脂に対する微小繊維状化合物の混合割合を調整し、溶液中で混合撹拌処理して、任意の接着力を持った液状組成物を調製し、該液状組成物を用いて、粉末イオン交換樹脂を支持体に接着させた粉末イオン交換樹脂包含加工品を調製する。粉末イオン交換樹脂に対し、微小繊維状化合物の混合割合を5〜100重量%とした液状組成物を支持体と混合塗付し、脱水・乾燥することで、粉末イオン交換樹脂が表層に固着して剥離することのない濾過機用エレメントや消臭シートが出来る。更に微小繊維状化合物の混合割合を10重量%以下に減らすことで、支持体との接着力の小さい粉末イオン交換樹脂を主成分とする均一な液状組成物とし、該液状組成物を用いることで、噴霧器ノズルの目詰まりを防ぎ操作性を高めたハンドスプレーができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末イオン交換樹脂特に使用済粉末イオン交換樹脂に対し微小繊維状化合物を添加して粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物を調製する。この液状組成物を、原材料として付加価値の高い加工品を製作する。例えば空気や水に含まれる悪臭成分や有害成分を除去するための環境浄化剤や不純糖液の浄化剤、及び植物工場などに使用されている代替土壌であって、前記液状組成物を利用することで、使用済粉末イオン交換樹脂の用途範囲を日常品から工業的分野にわたる広い範囲に適用可能な技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂は水中に含まれる不純物を除去して純水を生産する分離精製技術として定着している。イオン交換樹脂は再生することで、数百サイクル反復使用した後、廃棄処分している。現在、我が国におけるイオン交換樹脂の使用量は、年間2万立法メーター前後と云われている。現在使用済イオン交換樹脂をリサイクル利用しているのは一部の精糖企業に限られ、電力会社を始めとする大形プラントから排出される大半の使用済み樹脂が、リサイクル使用されることなく産業廃棄物として処理されている。 粉末イオン交換樹脂は、原子力発電所の復水中の放射能汚染物質の除去や不純糖液の脱色等に用いられていたが、新しい技術(膜)の台頭で使用範囲が極端に縮小している。この様な情勢の下、新品粉末イオン交換樹脂の生産量は少なく、その分高価であり用途が限定される。使用済み粉末イオン交換樹脂は、前記イオン交換樹脂のリサイクル品であるだけに用途が拡大すれば安価に生産出来る。使用済み粉末イオン交換樹脂の機能は、新品粉末イオン交換樹脂と比べても遜色がないだけに、資源の有効利用の見地からも発展が期待されているが、現状では殆ど有効利用されていない。
【0003】
粉末イオン交換樹脂を原材料とした加工品としては、例えば、特許文献1または3,4に記載されるように、多孔性支持体(例、不織布や発泡石等の多孔体)と微小セルローズと粉末イオン交換樹脂を、水中で接触させることで、多孔性支持体の細孔内部で微小セルローズと粉末イオン交換樹脂とを凝集反応させ、前記多孔性支持体細孔内部に粉末イオン交換樹脂を内蔵させた加工品や多孔性鉱物等と粉末イオン交換樹脂固体を混合して調製した粉末イオン交換樹脂包含支持体があるが、粉末イオン交換樹脂を包含させる方法に難点があり、粉末イオン交換樹脂と支持体との接着力が弱く、閉鎖系水溶液の濾過フイルターなどに用途範囲が限定されていた。
【0004】
使用済み粉末イオン交換樹脂の用途範囲を拡大するには、粉末イオン交換樹脂を原材料とする加工品の製作方法を容易にすることであり、例えば外乱に対して包含したイオン交換樹脂を離脱することのない機能性に優れた粉末イオン交換樹脂包含支持体及び前記支持体をフイルターエレメントとする濾過機を製作することである。粉末イオン交換樹脂包含支持体を製作する上で最大の技術的難点は、粉末イオン交換樹脂と支持体となる固形物を接着させることが難しく、常用の化学合成接着剤を用いることが出来ないことであった。即ち、接着剤がイオン交換樹脂の細孔を閉塞し、致命的欠陥、即ちイオン交換樹脂固有の機能(再生、イオン交換作用)を損なうことであった。この難点を解消して、粉末イオン交換樹脂を前記固形物に接着させる技術を確立することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−312881
【特許文献2】特開2003−245687
【特許文献3】特開2004−203988
【特許文献4】特開2005−102674
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、粉末イオン交換樹脂の用途拡大であって、粉末イオン交換樹脂を原材料とする加工品の機能を高めること、粉末イオン交換樹脂の使用形態を工夫して利便性の優れた加工品の原材料を見出すことである。その為には粉末イオン交換樹脂が、容易に支持体と接合して、外乱に対し剥離することがない、粉末イオン交換樹脂の機能を長期間にわたって維持した加工品を製作することが重要ある。例えば糖液の浄化用濾過剤として利用する場合、操作工程で最も激しい外乱を伴う再生操作に於いても、粉末イオン交換樹脂を脱離することのない、支持体に強固に接着された粉末イオン交換樹脂包含濾過支持体、及び前記濾過支持体をフイルターエレメントとする濾過機を製作することが重要課題である。
【0007】
イオン交換樹脂の基体は高分子化合物からなる固体であり、粒状イオン交換樹脂を機械粉砕して調製した粉末イオン交換樹脂は、固形微粉末であって、素材自体の操作性に大きな難点があった。粉末イオン交換樹脂を原材料とした用途範囲の広い加工品を調製する為には、利用し易い形態の原材料、即ち粉末イオン交換樹脂を主成分とする粉末イオン交換樹脂を均一に分散した液状組成物を調製することである。この液状組成物の具備すべき条件としては、溶液、好ましくは水に粉末イオン交換樹脂が液全体に分散した均一組成を持った溶液であって、溶液と接触させた時、支持体となる固形物表層に粉末イオン樹脂を付着させ、付着しなかった過剰の粉末イオン交換樹脂と溶液を遠心分離等の操作で分離して、粉末イオン交換樹脂を支持体表層に付着させ、可能な限り多量に粉末イオン交換樹脂を包含した固形物(加工品)を製作することである。支持体となる固形物に塗付し易く、好ましくは噴霧散布などの簡単な操作でも適用可能な液状組成物であって、塗付された粉末イオン交換樹脂と加工品との接着力を制御できる液状組成物とその使用方法を見出すこと、粉末イオン交換樹脂を多孔性支持体の表層や空隙内部に吸蔵した加工品が、粉末イオン交換樹脂固有の不純物吸着機能(再生、イオン交換作用)を維持することが重要である。
【0008】
均一な組成とイオン交換機能を維持した粉末イオン交換樹脂を主成分とした液状組成物、特に陰・陽粉末イオン交換樹脂を混合して使用する場合に於いても、取り扱いが容易で、要に応じて既定量を採取し易く、換言すれば前記液状組成物が、多方面に共通して適用可能で、好ましくは粉末イオン交換樹脂の機能をそのまま保持し、イオン交換樹脂交換基の再生操作の可能なことが要求される。
【0009】
多方面に適用可能な粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物を開示した先行技術はなく、特に粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持したまま固体表層に接着させ、接着力の強弱に基づき、要に応じて用途範囲の広い加工品を製作することに関する先行技術はない。本発明は、粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持した液状組成物と加工品であって、微小繊維状化合物の添加量を変えることで、異なった特性(接着力や分散性)を持った液状組成物を調製し、これら組成物の特性に応じた加工品を製作する技術と使用方法を開示する。
【0010】
濾過材(フイルター)を製作する場合は、粉末イオン交換樹脂と濾過支持体が強固に付着して、イオン交換樹脂の特性を維持し、再生操作等の激しい外乱に於いても剥離することのないこと、一方消臭剤を製作する場合は、粉末イオン交換樹脂と悪臭を発生する床下などへの散布操作が容易で、例えば安価なハンドスプレー等を使用出来ることが望まれる。この場合、粉末イオン交換樹脂と固形物との付着力は弱くても、噴霧器ノズルを閉塞しないことが重要である。粉末イオン交換樹脂の用途範囲を拡大する為には、加工品に対する粉末イオン交換樹脂の接着力の違った液状組成物を作成し、要に応じて適用することが重要である。本発明により粉末イオン交換樹脂を原材料とする加工品の製作を容易にし、最大の課題であった、粉末イオン交換樹脂の用途範囲を拡大した。
【0011】
工業的に有用な粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物を調製する為には、第1に安価で、取り扱いが容易で、計量し易い、均一な組成を持った液体を調製することである。例えば、水中で陰・陽粉末イオン交換樹脂を併用する際、発生する凝集物の生成、長期保存時に発生する形態変化、即ち液体底部に沈殿した粉末イオン交換樹脂凝集体がゲル化することによる粉末イオン交換樹脂特有の物性変化を回避する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
粉末イオン交換樹脂に微小繊維状化合物を添加して、溶液中で混合撹拌することで均一な液状組成物を得るが、微小繊維状化合物の混合割合が増加するにつれて、均一な組成物を調製する為には長時間の撹拌操作が必要となる。強力な撹拌操作、例えば高速回転撹拌、好ましくはホモゲナイズ処理して、前記両化合物を均一に接合させ、粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持した液状組成物を調製する。前記液状組成物は固形物表層と反応して、粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物の均一な組成を持ったゾル成分である。前記ゾルを支持体表面に付着させた後、遠心分離操作等で脱水することで、粉末イオン交換樹脂を接着した支持体と溶液とを容易に分離出来ることを知った。前記液状組成物を支持体に塗付した後、支持体表層に粉末イオン交換樹脂と微小繊維の均一組成物からなるゾル成分を接着反応させることで、大部分の微粒子状固形物を支持体表層に残し、支持体に付着しなかった余分な粉末イオン交換樹脂を含む液体部分を分別して、粉末イオン交換樹脂包含固形物を調製する。前記粉末イオン交換樹脂包含固形物を強制乾燥することで粉末イオン交換樹脂と固形物が強固に接着することを知った。この様にして剥離することのない、優れた粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持した加工品を提供することが可能となった。これらの操作を実施する過程で、粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物の混合割合を変えることで固形物との接合力に大きな差が生じることを知見した。即ち、微小繊維状化合物の粉末イオン交換樹脂混合割合の少ない液状組成物を用いて同一操作を実施して調製した粉末イオン交換樹脂包含固形物は、乾燥することで粉末イオン交換樹脂と支持体との接着力は弱まり、外乱(軽い振動)を加えることで、粉末イオン交換樹脂が容易に飛散して離脱する。微小繊維状化合物の混合比を増加させた後、強制乾燥して調製した加工品は、激しい外乱(揉みほぐし)を加えても粉末イオン交換樹脂を離脱することはなかった。この現象を利用して、使用目的に応じた粉末イオン交換樹脂を包含した加工品を調製することが可能であることを知見した。
【0013】
本発明の微小繊維化合物は含水率が高く、繊維太さが1ミクロン好ましくは0.1ミクロン以下の超微細繊維状粒子がよく、物性変化を防ぐために多量の水分を含有している。粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物とは溶液中で結合して凝集物を形成し、固形物に散布することで表層に付着する。前記溶液を遠心分離して粉末イオン交換樹脂包含固形物を得る。前記固形物を強制乾燥して水分を逸散させることで、粉末イオン交換樹脂は固形物表層に強固に接着することが分かった。本発明で使用する前記微小繊維化合物は、合成品であっても植物繊維を機械的に微粉化して調製されたものの何れでもよく、溶液中で粉末イオン交換樹脂と結合して、ゾルを形成する能力を持った化合物であればよい。例えば微小繊維セルローズで代表される微小繊維状化合物(商品名:セリッシュ)を一定量存在させ、溶液中でホモジナイズ処理することで、粉末イオン交換樹脂と微小繊維セルローズ粒子が結合して、粉末イオン交換樹脂と微小セルローズとのゾルを生成し、溶液全体に分散して均一な液状組成物を調製出来ることを知った。
【0014】
常用されている高分子接着剤を用いて粉末イオン交換樹脂を接着した加工品は、粉末イオン交換樹脂固有の吸着機能を消失することは段落「0004」で記述したが、本発明の液状組成物を原材料とすることで、粉末イオン交換樹脂と支持体が強固に接着して剥離することのない優れた粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持した加工品が製作出来ることを知った。
【0015】
前記加工品を調製する為には、粉末イオン交換樹脂の支持体の形状により相違するが、前記微小繊維状化合物と粉末イオン交換樹脂の混合比が重要で、微小繊維状化合物(含水物)の使用量が粉末イオン交換樹脂重量に対し、0〜200重量%がよく、好ましくは5〜100重量%がよい。前記粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物(含水物)を合計した濃度は、溶媒重量に対し1〜50重量%であることが適切である。粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物を前述した混合比で溶液中に存在させた状態で、撹拌して均一に分散した溶液を調製することが必要である。濃度の高い微小繊維状化合物を溶液中に分散させる為には、通常の緩やかな撹拌では難しく、本発明で必要とする均一な組成を持った液状物を調製する為には、強力撹拌、好ましくはホモジナイズ処理することが重要である。ホモジナイズ処理することで、粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物が接合し、溶液全体に分散したゾルを形成することを知った。
【0016】
本発明に使用する粉末イオン交換樹脂の支持体としては、表面積の大きい程、粉末イオン交換樹脂を保持し易い形体を備えた固形物がよく、例えば不織布、フエルト、不織布シート、珪藻土、ゼオライト、活性炭、発泡石、発泡樹脂などが用いられる。前記微小繊維状化合物の添加量を増減させることで、前記液状組成物と固形物との接着力に著しい差が生じることを知った。即ち、微小繊維状化合物の添加量を減らせば減らす程、支持体との付着力は減少し、溶液中に均一に分散した長期間安定なゾルを形成することの難しいことを知った。微小繊維状化合物の添加量を調整することで、固形物との強固な固着、或いは緩やかな固着、短時間だけの付着などと、要に応じて選択することが可能となり、この現象を利用することで粉末イオン交換樹脂の用途範囲の拡大することを知り本発明に至った。
【0017】
本発明の液状組成物を噴霧使用する時、最大の難点として噴霧ノズルの目詰まりがあったが、微小繊維状化合物の添加量を減らし、粉末イオン交換樹脂量に対し10%以下にすることで、ノズルの目詰まりを防ぐことが判った。例えば消臭効果を期待して、粉末イオン交換樹脂を床面に噴霧して利用する場合、微小繊維状化合物の添加量を最小にして、噴霧使用することで、噴霧器ノズルの目詰まりを防ぎ、噴霧操作時の粉末イオン交換樹脂の飛散もなく、床面の清掃が容易になること等、実用面に於いて有効なことを知った。
【0018】
使用する溶液は、経済的見地より水を用いることが有利であるが、アルコール等の親水性有機溶剤を用いてもよく、アルコールを用いることで雑菌の繁殖を防止すだけでなく、粉末イオン交換樹脂の分散性を高め、保存性を高めることが分かった。要に応じて植物抽出成分や芳香剤、酸化チタン粉末(nmサイズ、光触媒)、逆性石鹸、防腐・殺菌剤、有効バクテリア等を追加して用いてもよい。特に植物培地として利用する場合、微生物農薬、EM菌、肥料等を混入させることは、商品としての付加価値を高めるよい方法である。
【0019】
本発明の微小繊維状化合物は、粉末イオン交換樹脂の比重よりも小さく、比表面積の大きい、溶液中に浮遊分散し、粉末イオン交換樹脂と急速に接合する特性を持った化合物である。粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物の混合物を溶液中で強力撹拌、好ましくはホモジナイズ処理して調製した液状組成物は、粉末イオン交換樹脂固体の沈降を防止して、粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物の集合体を溶液中に均一に分散した液状組成物を得る。前記微小繊維状化合物は、イオン交換樹脂固有の機能を損なわないで、粉末イオン交換樹脂と固形物を接着すること、微小繊維状化合物の混合割合を減らすことで接着力を弱めることが出来るなど優れた特性を具備することが実験を通じて明らかになった。
【発明の効果】
【0020】
粉末イオン交換樹脂固有の機能を維持し接着力を制御することが出来る液状組成物が調製出来たこと、と前記液状組成物を支持体に接着させることにより、要に応じた粉末イオン交換樹脂固有の機能(再生、イオン交換作用)を維持した用途範囲の広い加工品を提供する。この様にして調製した液状組成物を加工品の原材料として用いることで、加工品の製作が容易になったばかりでなく、例えば実施例7に示す様に、著しく合理化された製糖技術や、粉末イオン交換樹脂の噴霧利用を容易にする技術等、結果として、粉末イオン交換樹脂の用途範囲を拡大した。
【0021】
粉末イオン交換樹脂、好ましくは粉末陰イオン交換樹脂と粉末陽イオン交換樹脂、及び、微小繊維状化合物を溶液中で強力撹拌、好ましくはホモジナイズ処理することで初めて調製可能となった液状組成物及び又は前記液状組成物を原材料とした加工品である。例えば前記液状組成物を粉末イオン交換樹脂支持体表層に塗付、好ましくは散布して調製した粉末イオン樹脂含有固形物は、粉末イオン交換樹脂固有の卓越した機能を持った使いやすい空気や水の浄化剤、例えばトイレの消臭剤、ペット用消臭剤、養魚水浄化材、不純糖液(蔗糖液や蜂蜜等)の精製用の濾過材や植物栽培用培地など広い範囲に利用される。
【0022】
本発明の液状組成物は、粉末イオン交換樹脂の含有量が高く、取り扱い容易な、流動性のある糊状流動体であって、固形物と混合撹拌することで粉末イオン交換樹脂を表層に付着する。遠心分離して水を分別した後、乾燥して調製した粉末イオン交換樹脂包含固形物は、微小繊維状化合物を媒体として、粉末イオン交換樹脂を固形物表層に強固に接着し剥離することもなく、通気・通水性に優れた空隙を備えた濾過層(膜)を形成する。
【0023】
前記液状組成物は固形物と接触することで粉末イオン交換樹脂を表層に接着する。この時、微小繊維状化合物の含有量が多いほど接着力が増すことが分かった。例えば粉末イオン交換樹脂に対し微小繊維状化合物(含水物)を重量比で5重量%以上含有させた本発明の液状組成物を支持体と接触反応させ、支持体表層に粉末イオン交換樹脂を付着させた固形物を、遠心分離等により水分を除いた後、強制乾燥、例えば60℃以上で送風乾燥することで、粉末イオン交換樹脂を支持体表面に強固に接着することを知った。この様にして調製した粉末イオン交換樹脂包含支持体を濾過機エレメントとして利用することで、新しい精糖システムを採用した製糖技術を発明した。即ち、Bx70の高粘度糖液の通流操作を可能にしたばかりでなく、激しい外乱に対しても脱離することのない粉末イオン交換樹脂包含支持体及び前記支持体をフイルターエレメントとする濾過機を提供する。
【0024】
本発明の液状組成物の取り扱いが容易になったことにより、例えば、再生操作の可能な濾過吸着体を製作する場合、微小繊維状化合物の混合割合の高い液状組成物を濾過支持体(固形物)に投入して混合撹拌する。これら混合物を含む液体を遠心分離器で脱水して調製した粉末イオン交換樹脂包含固形物を、引き続き熱風乾燥(60℃)することで、粉末イオン交換樹脂が強固に接着して脱離することのない糖液の脱色精製用濾過材を短時間で調製することが可能となった。更には、微小繊維状化合物の混合比率の低い本発明の液状組成物は、スプレーに投入して消臭剤として手軽に利用出来る、ロックウール等に必要量散布して、植物栽培用培地としても利用される。
【0025】
本発明の液状組成物は、粉末イオン交換樹脂の浄化機能を維持したまま、多孔性支持体(例、珪藻土焼結品等)を始めとする多くの固形物に塗付することが可能で、効率よく広範囲にわたり、その浄化機能を発揮するだけでなく、例えば本発明の加工品を適用することで、従来技術では不可能であった工程への適用が可能となり、例えば革新的な製糖技術(実施例7)を提供する。
【0026】
前記液状組成物を塗付する装置、好ましくは散布装置を使用することで、作業者が、例えば、建築物内部の広範囲にわたり、粉末イオン交換樹脂の浄化機能を持たせるための作業を簡単にできる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
下記実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
【0028】
粒状イオン交換樹脂を機械粉砕して調製した粉末陽イオン交換樹脂(商品名PK216:水分約50%、平均粒径17ミクロン、三菱化学製)100gと粉末陰イオン交換樹脂(商品名PA312:水分約50%、平均粒径15ミクロン、三菱化学製)100gを採取し、水1,000mlに混合した粉末イオン交換樹脂を懸濁させた水溶液に、微小繊維状セルローズ(商品名、セリッシュ:)の添加量を次の条件:(A)1,000g、(B)400g、(C)200g、(D)20g、(E)0gと変動させた後、混合撹拌、好ましくはホモゲナイズ処理して、粉末イオン交換樹脂と微小繊維状セルローズからなる液状組成物を調製した。各々の液状組成物について、保存時の物性変化を観察し、粉末イオン交換樹脂包含固形物を製作する為に基礎実験を実施した。(A),(B),(C),(D),(E)の試験結果を表示する。
試験結果
【0029】


粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物の物性変化

A
・通常の撹拌機では、均一な液状組成物を調製することは難しいが、ホモジナイズ処理することで、短時間で均一な液状組成物を作る。
・ホモジナイズすることで、粉末樹脂が均一に分散したゾルを作り気泡を包含して容積が膨らむが、時間経過とつれて容積が減少し、自然乾燥して水分が蒸発して、粉末イオン交換樹脂は固形物に強固に固着して剥離しない。
・粉末イオン交換樹脂の化学吸着・物理吸着機能は大であるが、ゾルが縮小して容積変化するので、原材料としては取り扱いにくい。
・粉末イオン交換樹脂包含固形物を送風乾燥(60℃)することで、粉末イオン交換樹脂は強固に接着し、強く擦っても剥離しない。

B
・ホモジナイズすることで粉末樹脂を均一に分散した液状組成物を容易に形成し、数ヶ月間
保存しても均一性を維持しているので、原材料として利用し易い。容積変化もなく、固形物と接触すると接着し、自然乾燥した加工品は、外乱により粉末イオン交換樹脂を剥離することもないが、強く擦ると剥離する。
・粉末イオン交換樹脂の化学吸着・物理吸着機能は大で、容易に再生できる。
・粉末イオン交換樹脂包含固形物を送風乾燥(60℃)することで、粉末イオン交換樹脂は強固に付着し、強く擦っても剥離しない。

C
・粉末樹脂が均一に分散した液状組成物を形成するが、長期保存しても粉末イオン交換樹脂が分離沈降することもなく、イオン交換樹脂の化学吸着・物理吸着機能は大きく、再生操作も可能であるが、再生時、逆洗・混合操作で、粉末イオン交換樹脂の一部が離脱する。
・固形物との付着力はA、Bに比べて弱く、自然乾燥することで、一部の粉末イオン交換樹脂が剥離する。
・粉末イオン交換樹脂包含固形物を送風乾燥(60℃)することで、粉末イオン交換樹脂は強固に付着し、強く擦っても剥離しない。

D
粉末樹脂が均一に分散した液状組成物を形成するが、数日以上保存すると陰・陽イオン交換樹脂の凝集物を溶液下部に分離して沈降するが、溶液に振動を与えることで速やかに分散して均一になる。
・固形物との付着力は弱く、イオン交換樹脂の化学吸着・物理吸着機能は大きいが、再生操作で粉末イオン交換樹脂の大半が離脱する。
・固形物に噴霧する時、スプレーノズルの目詰まりを起こさない等、操作上での利点の大きいことが分かった。
・充分に水分を含んで湿潤した粉末イオン交換樹脂は、固形物に付着しているが、乾燥して水分を逸散することで、付着力が弱まり、擦ると簡単に剥離する。

E

・緩やかな撹拌することで、粉末イオン交換樹脂を均一に分散した液状組成物を容易に形成するが、撹拌を停止した直後より粉末イオン交換樹脂の分離沈降が始まり、長期間保存すると水溶液下部に塊状物を形成する。
・粉末陽イオン交換樹脂単独又は粉末陰イオン交換樹脂を単独で使用した場合は、緩やかな撹拌でも、数時間以上溶液中に分散し、均一性を維持することが分かった。
・噴霧器を用いて、粉末イオン交換樹脂を主成分とする本発明の液状組成物を散布する場合は、使用前に撹拌後利用することでノズルを詰めることもなく、操作面での利点が大きい。
・充分に水分を含んで湿潤した粉末イオン交換樹脂は、固形物に付着しているが、乾燥して水分を逸散することで、外乱で容易に飛散する。


(実施例2)
【0030】
粒状イオン交換樹脂を機械粉砕して調製した粉末陽イオン交換樹脂(商品名PK216:水分約50%、平均粒径約17ミクロン、三菱化学製)100gと粉末陰イオン交換樹脂(商品名PA312:水分約50%、平均粒径約15ミクロン、三菱化学製)100gと、微小繊維状セルローズ(商品名、セリッシュ:水分90%、FD-1000、ダイセル株式会社)200gとを、純水1000mlに添加した後、高速回転ミキサーで2分間ホモジナイズ処理して、粉末イオン交換樹脂を均一に含有した保存性の優れた液状組成物を調製した。
【0031】
1カ月以上保存した後、20gの粉末イオン交換樹脂に相当する既定量100mlの前記液状組成物を採取し、不織布シート(ポリエステル、10mm×500mm×250mm)表面に塗付した後、60℃で1時間送風乾燥して粉末イオン交換樹脂含有シートを調製する。本発明組成物の機能を検証するために、このシート(調製後1か月保存)を用いて、アンモニア、蟻酸、ホルムアルデヒドの代表的な悪臭成分の吸着特性を求めた。コントロールとして市販の脱臭用備長炭粉砕物20g(粉末イオン交換樹脂と同量)を用いた試験区と粉末陽イオン交換樹脂20gを使用して前述仕様で調製した単独粉末陽イオン交換樹脂使用区、及び同様にして調製した、粉末陰イオン交換樹脂20gの単独使用区を用いて、各々試験区に於ける脱臭効果を調べた。コントロールとして脱臭機能の優れた消臭剤として評価されている備長炭20gを使用した。
(実験方法)
【0032】
内容量200リットルのポリプロピレン製の密閉容器の底部に、実施例1で調製した粉末陰イオン交換樹脂10gと粉末陽イオン交換樹脂10gの混合物、及び粉末陽イオン交換樹脂単独20g、粉末陰イオン交換樹脂単独20gを用いて調製した本発明のシートを封入した実験区と、脱臭用備長炭20gを設置した比較実験区を調製した。前記実験区の密閉容器内に各臭気成分を所定量注入し、本発明の脱臭シートと陰イオン樹脂単独と陽イオン交換樹脂単独、備長炭を使用した実験区との比較試験を実施した。初期濃度は、所定量を密閉容器内に注入し、1時間放置後室内に拡散させ、一定になった時の値を測定して、初期値とした。所定時間毎に、サンプリング孔に検知管をセットし、各々の実験区容器内の臭気成分含量の消長を測定した。
(試験結果)
【0033】
・ アンモニアの吸着特性

経過時間
初期濃度
10分
20分
30分

備長炭
500ppm
0.5ppm
0.3ppm
0.025ppm

陰陽粉末イオン交換樹脂混合物
500ppm
0.04ppm
0.02ppm
N.D

粉末陽イオン交換樹脂単独
500ppm
0.3ppm
0.1ppm
0.01ppm

粉末陰イオン交換樹脂単独
500ppm
0.5ppm
0.3ppm
0.025ppm

【0034】
2、蟻酸吸着特性

経過時間
初期濃度
10分
30分
60分

備長炭
60ppm
0.9ppm
0.85ppm
0.85ppm

陰陽粉末イオン交換樹脂混合物
60ppm
0.3ppm
0.2ppm
0.1ppm

粉末陽イオン交換樹脂単独
60ppm
1.5ppm
1.3ppm
1.2ppm

粉末陰イオン交換樹脂単独
60ppm
0.3ppm
0.2ppm
0.1ppm

【0035】
3、ホルムアルデヒドの吸着特性

経過時間
初期濃度
30分
60分
120分

備長炭
5ppm
0.8ppm
0.6ppm
0.4ppm

陰陽粉末イオン交換樹脂混合物
5ppm
0.4ppm
0.1ppm
0.1ppm

粉末陽イオン交換樹脂単独
5ppm
0.8ppm
0.6ppm
0.4ppm

粉末陰イオン交換樹脂単独
5ppm
0.6ppm
0.2ppm
0.2pm

(考察)
【0036】
試験結果で明らかな様に、陰・陽粉末イオン交換樹脂の混合物を主成分とする本発明の組成物を散布して調製したシートの脱臭能力が最も優れ、粉末陽イオン交換樹脂、粉末陰イオン交換樹脂単独を使用して調製したシートも、備長炭の吸着機能より優れていることが分かった。
【0037】
アンモニア、蟻酸、ホルムアルデヒドと全ての成分に対し、粉末イオン交換樹脂を包含したシートは、粉末陰イオン交換樹脂と粉末陽イオン交換樹脂の混合物のみならず、粉末陰イオン交換樹脂単独、粉末陽イオン交換樹脂単独何れの吸着機能も備長炭のそれを上まわり、交換基の違いによる大きな差異のないことが分かった。このことは粉末イオン交換樹脂による悪臭吸着機能は、イオン交換基によるイオン交換作用に基づく化学的吸着よりも、微細構造に基づく物理的吸着作用が大きく、陰・陽粉末イオン樹脂の混合物が、最も好結果になった。両イオン交換樹脂の混合比率を1:10〜10:1にしても吸着能力は大きく変わらなかった。
【0038】
本実験と並行して、微小繊維状セルローズの使用量を変動させて、数種類のシートを調製し、固形物に対する付着性を調べたが、微小セルローズを減少させて調製したシートは、水分が蒸発して乾燥すると粉末イオン交換樹脂が剥離し易く、外乱で粉末イオン交換樹脂が飛散する。 微小セルローズの使用量を、粉末イオン交換樹脂と等量近く迄増加させることで、付着性が著しく向上し、外乱を加えても剥離しないこと、微小繊維状セルローズの添加量を10%以下にすると付着量が著しく減少することが分かった。強固に付着して安定な粉末イオン交換樹脂包含固形物を調製するか、短期間だけ付着させ、外乱を加えることで剥離しやすい粉末イオン交換樹脂包含固形物を調製するか、要に応じて微小繊維状セルローズの混合比率を調製することの重要なことが分かった。
【0039】
水溶液中で陰・陽粉末イオン交換樹脂を混合すると両者が凝集して、例えば塗付装置として噴霧器を用いる時、ノズルを詰めることがある。この場合、粉末イオン交換樹脂を単独使用するか、混合比率を小さくして凝集物を作りにくくすること、又は粉末イオン交換樹脂に対して微小繊維状化合物の混合比率を小さくすることで、ノズルの目詰まりに起因する操作上の難点を解消することが分かった。
(実施例3)
【0040】
強塩基性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約15ミクロン、三菱化学製PA316)8kgと強酸性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約17ミクロン、三菱化学製PK216)2kgを、微小繊維状化合物(商品名、セリッシュ、FD1000 ,ダイセル工業株式会社)2kgを、水道水10lに添加し、高速回転ミキサーで1分間ホモゲナイズ処理することで、水に均一に分散した本発明の液状組成物を調製した。前記液状組成物を10ml採取し、水で100mlに希釈後、多孔性鉱物(珪藻土焼結造粒品:平均粒径0.5mm、昭和化学工業株式会社)1kgに散布することで、粉末イオン交換樹脂含有吸着体を容易に製作出来ることが分かった。
【0041】
本発明の液状組成物を、前記珪藻土焼結造粒品に散布する時、前記液状組成物を細孔内部に瞬間的に吸蔵し、水の吸収と同時に微粒子状の固形物である粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物を細孔内部に吸蔵して、粉末イオン交換樹脂をリークすることもない。細孔内部に吸蔵された余分な水分を除く為に、60℃で送風乾燥を実施することで、粉末イオン交換樹脂を前記珪藻土造流品の表層・細孔内部に強固に接着し、表層を擦るなどの外乱を加えても、外気中に粉末イオン交換樹脂を剥離することもなかった。
【0042】
本発明で開示した粉末イオン交換樹脂含有液状組成物と散布装置と珪藻土焼結造粒品を用いたことで、粉末イオン交換樹脂包含加工品の製作がしやすくなったことの工業的価値は大きい。
【0043】
この消臭剤は見栄えもよく、アンモニア臭、有機酸臭、ホルムアルデヒド臭の除去効果、特に悪臭の代表とされる酪酸臭の除去効果に優れ、密閉空間(犬、猫用ペットハウス、病院、トイレ、冷蔵庫他)に設置して利用する時、優れた消臭機能を発揮することや、水中で使用する時、色素や懸濁物を除去する優れた濾過材として機能する。
(実施例4)
【0044】
資源の有効利用を目的として、イオン交換樹脂のリサイクル品・フエルトのリサイクル品を使用して、より安価な粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体の製作を実施した。
使用済粒状強塩基性イオン交換樹脂のリサイクル品である強塩基性粉末陰イオン交換樹脂(水分50%、平均粒径15ミクロン)10gと使用済粒状強酸性イオン交換樹脂のリサイクル品である強酸性粉末陽イオン交換樹脂10gと微小繊維状化合物(商品名、セリッシュ、水分90%、ダイセル株式会社)2gを、水200mlに添加した後、ホモジナイズ処理して本発明の液状組成物を調製する。50〜100mm長さのフエルト破砕片に前記液状組成物を散布し、フエルト空隙内部に粉末イオン交換樹脂を包含させる。(前記フエルト破砕片は産業廃棄物として大量に発生する自動車用シートの型枠品の枠外品のリサイクル品であって、有効利用が強くの望まれていた)。
【0045】
前記フエルトを遠心分離器で脱水後、70℃で送風乾燥して粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を製作する。前記吸着体に使用した微小繊維状化合物の混合割合は、粉末イオン交換樹脂重量に対し必要量を最小にした為に、表層に付着した粉末イオン交換樹脂は、激しい外乱で剥離し易く、例えばイオン交換樹脂の再生操作に於ける逆洗・混合操作で、粉末イオン交換樹脂を離脱する。(微小繊維状化合物の混合割合を増やすことで、粉末イオン交換樹脂の離脱を防止できるが、本発明に使用する粉末イオン交換樹脂、フエルト破砕片がリサイクル品であることを踏まえ、出来るだけ安価な、使い捨ての粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体を深層濾過材として利用する為の、より安価な前記濾過材が製作出来ることを重視した。)
【0046】
前記粉末イオン交換樹脂包含濾過吸着体5,000mlをステインレス製カラム(内径10cm×高さ25cm)に充填し、人工温泉・風呂水を用いて、流速500l/hで、通流した。その結果、濁度が著しく減少し、供給水の濁度10前後あったものが1以下となり、3か月経過後も前記カラム出液の品質は変動することなく清澄液が安定して生産出来ることが分かった。外乱の激しい条件下では適用し難いが、激しい外乱操作(粉末イオン交換樹脂の再生操作)を伴わない、緩やかな層流域に於いてのみ通流する場合、水の浄化剤として優れた機能を発揮するばかりでなく、資源の有効利用としての経済効果の大きいことが分かった。例えば、深層濾過材として、温泉水や循環風呂水、プールの循環水の浄化に適用する時、粉末イオン交換樹脂の離脱もなく、長期間に亘り清澄度の優れた水質を維持することが明らかになった。
(実施例5)
【0047】
使用済み強酸性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約17ミクロン、三菱化学製PK216)10gと使用済み強塩基性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約15ミクロン、三菱化学製PA316)10gを、水1、000mlに投入し、微小繊維状化合物(商品名セリッシュ、水分90%、ダイセル株式会社)を皆無とした液状組成物(A)、及び微小繊維状化合物2gを添加した試験区:(B)、5gを添加した試験区:(C)、10gを添加した試験区:(D)を用いて、ホモゲナイズして混合撹拌して4種類の液状組成物を調製する。この液状組成物を小型手動噴霧器に200ml採取して、小動物飼育箱周辺に、1日に1回ごとに約10mlの少量を噴霧使用して、小動物の排泄物等から発生する悪臭、例えばアンモニア臭や酪酸臭の除去能力を調べた。
【0048】
本発明による粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物は、噴霧量が少量で、微小繊維状化合物添加比率を変えた試験区(A),(B)でも(C),(D)でも脱臭能力に大きな差異はなく、無添加の(A)に於いても、脱臭効果に劣ることはなく、危惧した小動物の移動や羽ばたきで、粉末イオン交換樹脂が容易に飛散することはなかった。この実験の場合、小型ハンドスプレーの機能を検証する為の実験であって、何れの試験区でも液状組成物を振ってから使用したが、(D)試験区に於いては、噴霧回数を増すごとに、10mlの噴霧に要する時間がかかり、5回目の噴霧で、スプレーノズルが閉塞した。
【0049】
少量散布が必要で、手軽にスプレーを利用して粉末イオン交換樹脂を主成分とする本発明の液状組成物を用いる時は、噴霧対象固体に粉末イオン交換樹脂を強力に固着させる必要もなく、微小繊維状化合物の添加量を減少させた液状組成物を適用することが実用的であり、微小繊維状化合物の添加量を調整することで、固形物との付着力を制御できることが分かった。従って、使い捨てで・強固な付着を必要としない場合は、微小繊維状化合物の添加量を出来るだけ少なくした本発明の液状組成物を使用すること及び、粉末陰イオン交換樹脂単独又は粉末陽イオン交換樹脂単独で使用することで凝集物の生成を抑えた液状組成物を用いることで、スプレーノズルの目詰まりを抑えることも分かった。粉末イオン交換樹脂の用途範囲を広げる為には、要に応じて本発明の液状組成物を適用することが重要である。
【0050】
実施例2の試験結果でも明らかなように、粉末イオン交換樹脂の脱臭能力は、陽イオン交換樹脂単独、又は陰イオン交換樹脂単独使用でも、備長炭に優ることがあっても劣ることはない。ハンドスプレーを使用して本発明の液状組成物を消臭剤として利用する場合は、微粉末の凝集・接着力の少ない粉末陰イオン交換樹脂単独又は粉末陽イオン交換樹脂単独の使用で、微小繊維状化合物を添加しない粉末イオン交換樹脂含有液状組成物を用いることが操作性の難点を解消した良い使用方法であることが分かった。
(実施例6)
【0051】
H形強酸性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約17ミクロン、三菱化学製PK216)1gとOH形強塩基性粉末イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径約15ミクロン、三菱化学製PA316)20gと微小繊維状化合物(水分90%、FD-1000、ダイセル株式会社、1gと、安息香酸(防腐剤)0.5gをエタノール100mlに添加し、高速回転ミキサーで2分間処理し、水中に陰・陽粉末イオン交換樹脂を均一に分散した液状組成物を得る。
【0052】
前記液状組成物を、使用時に水で希釈して散布に適した濃度、例えば1,000mlとする。希釈液を散布装置に入れ、既定量を、悪臭発生箇所(ごみ箱から発生する腐敗臭など)に散布使用することを可能にした。本発明の組成物は、液状の流動体であって、容易に計量可能である。本発明の組成物は、要に応じて適正量採取して散布使用することが容易となった。要に応じて必要量を散布することが容易になったことにより、粉末イオン交換樹脂の適用範囲が拡大し、空気や水の有害成分を除去するフイルターを始めとして、各種シートや床等の支持体、容器、トイレ部屋の壁など、広範囲にわたる悪臭発生箇所に、粉末イオン交換樹脂を散布して使用することが可能となった。前述した実施例で明らかなように、広範囲にわたる悪臭を含んだ水や空気を浄化する本発明の液状組成物と加工品を提供する。
(実施例7)
【0053】
(実験方法)
塩素形強塩基性粉末陰イオン交換樹脂(水分約50%、平均粒径15ミクロン)100g
及び微小繊維状化合物(水分90%、PC110SとFD1000の等量混合物、ダイセル工業株式会社)100gを水10,000mlに混合し、2分間ホモゲナイズ処理して、本発明の液状組成物を調製した。前記液状組成物に、ポリエステル不織布繊維からなる放射球状フエルト(青山産業株式会社製作による特注開発品、直径、約10mm)10,000ml(100g)を投入し、緩やかに混合して、前記不織布内部空間と表層に粉末イオン交換樹脂を塗付した後、脱水後80℃、2時間送風乾燥することで、強塩基性粉末イオン交換樹脂をフエルト繊維表層に強固に接着した球状支持体を調製した。この支持体は粉末イオン交換樹脂を多量に包含して剥離することがなく、Bx70の高濃度糖液処理の可能なことも分かった。この様にして既存の濾過材にはなかった卓越した粉末イオン交換樹脂固有の浄化機能を備えた不織布濾過材(A)を調製した。
【0054】
精製糖工場などで使用済みの強塩基性イオン交換樹脂10kgと使用済み弱酸性陽イオン交換樹脂2kgを機械粉砕して調製した粉末陰・陽イオン交換樹脂(平均粒径20ミクロン)と微小繊維状セルローズ0.2kgを20lの水に混入し、ホモゲナイズ処理して本発明の液状組成物(a)を調製した。前記液状組成物(a)2lを採取し、水で希釈して100lとすることで、前記使用済み強塩基性陰イオン交換樹脂1%を含む水溶液(所定濃度)に相当する液状組成物(b)を調製した。
【0055】
前記粉末イオン交換樹脂包含した不織布濾過材(A)を、濾過塔(内径8cm×高さ50cm)に充填し、濾過材(A)の層高が約40cm、底部に層高5cmのザクロ石を敷いた濾過床を設けた。サトウキビ原糖工場の中間糖液である濃縮汁を供給液として、前記濾過塔に次の様な条件で、定量ポンプを用いて通液試験を実施した。
【0056】
濃縮汁の精製工程:約20lの前記濃縮汁を、下向流で、温度、70℃に加温して、定量ポンプを用いて通液速度、2(l/hr)で通液して前記濾過塔の出液を得る。前記濾過塔出液の色価を測定しながら、定量ポンプを用いて前記液状組成物(b)を添加することで、一定の品質を維持した清浄糖液を生産する(従来技術では、このような不純糖液を濾過することは難しかった)。即ち、前記液状組成物を約0.1〜0.5 (l/hr)に可変して添加することで、所定の品質を維持した不織布濾過材(A)の供給糖液を調製する。
【0057】
安価なリサイクル品である使用済粉末イオン交換樹脂からなる液状組成物(b)を少量添加して、1サイクルだけ使用した後、廃棄することを特徴とする前処理工程、と粉末イオン交換樹脂を再生して繰り返し利用することを特徴とする前記濾過材(A)による主工程に通流することを特徴とする不純糖液の浄化システムであって、初めて開示された新しい製糖技術である。
【0058】
約10時間通液後、精製工程を終了し、続いて常法により脱糖した後、逆洗混合を実施する。この工程で、前記液状組成物(b)で用いた使用済み粉末イオン交換樹脂は、再使用することなく逆洗水と共に排出することを特徴とする。次いで、濾過材(A)に包含されている粉末イオン交換樹脂の再生工程に移動する。
【0059】
再生工程:再生剤として、70℃に加温した0.1%塩酸水溶液20lを、定量ポンプを用いて上向流で通流する。この操作で、色素や懸濁物を始めとする不純物の大半を、濾過吸着層から脱着させ、粉末イオン交換樹脂を再生する。洗浄操作で、炭酸ソーダを添加して、洗浄効率を上げると共に、出液のpHを中性に調製する。この様な精製・再生工程を反復して10サイクルに及ぶ通流試験を実施した。試験結果は、10サイクの平均値で示す。
(試験結果)
【0060】


Bx
pH
灰分
色価
ICUMSA
OD
T720nm1cm
純糖率
転化糖
S.S量
on solid

供給液
甘蔗糖濃縮汁
59.5
5.7
4.0
21,390
0.293
87.6
2.4
0.29

本発明に
よる精製液
59.6
6.5
3.6
4,780
0.010
88.5
2.4
0.001

(考察)
【0061】
甘蔗糖汁の濾過清浄操作は、古くから要求されていたが、経済的見地より適切な方法はなかった。
【0062】
本発明の加工品は、粉末イオン交換樹脂重量に対し微小繊維状セルローズの使用量を等量近くまで増加したことで、不織布支持体を核として粉末イオン交換樹脂と微小繊維状セルローズの接合物が強固に付着し、再生操作による外乱でも剥離することもなく、不純物の多い高粘度糖液の通流を可能とした非圧縮性濾過吸着床を作成できたことによるものと思われる。
【0063】
本発明の液状組成物を使用することで、糖液の清浄に必須の強塩基性粉末イオン交換樹脂を正確に添加することが容易になった。供給液中の性状に応じて、粉末イオン交換樹脂の添加量を増減させること、と安価な使用済み粉末イオン交換樹脂を、前記液状組成物(b)に使用することで、低コストで効率的に色素や懸濁物等の不純物を吸着除去することが可能となり、必要な品質を維持した精製糖液の生産が可能となった(この様な工程は、本発明の液状組成物を使用することで、粉末イオン交換樹脂の定量採取が容易になったことで初めて可能となった)。
【0064】
本発明の濾過材は、激しい外乱(逆洗)を伴う再生操作に於いても粉末イオン交換樹脂が剥離して離脱することなく、多サイクルにわたって浄化能力を維持することが分かった。粉末イオン交換樹脂固有の機能を保持した、通流抵抗の少ない本発明の濾過吸着塔を適用することで、従来不可能とされていた難濾過性不純物を多く含んだ糖液(甘蔗糖工場中間糖液や粗製蜂蜜など)の脱色精製濾過操作を実施することが可能となった。この操作を適用することによる工業的価値は大きい。
・ 本発明の精製液は、新しいタイプの液糖、含密糖を提供する。
・ 甘蔗糖濃縮汁で実現可能になったことで、希薄な糖液である混合汁や精製糖工場に於ける各種中間糖液での応用が可能なことは容易に推定できる。























【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末イオン交換樹脂と微小繊維状化合物を含む混合物を、溶液中で混合撹拌して均一に分散されてなることを特徴とする粉末イオン交換樹脂を主成分とする液状組成物を,粉末イオン交換樹脂の支持体となる固形物に接触反応させ、前期支持体に付着させた後、脱水・乾燥することで、前期支持体の表層に粉末イオン交換樹脂を接着させることを特徴とする粉末イオン交換樹脂包含支持体からなる加工品。
【請求項2】
請求項1で記載の液状組成物が、粉末イオン交換樹脂に対し微小繊維状化合物(含水物)を5〜100重量%に調製した混合物を、水溶液中で撹拌して調製した液状組成物であって、前記液状組成物を支持体に接触反応させ、粉末イオン交換樹脂を付着させた後、脱水・強制乾燥させることで、前記支持体の表層に粉末イオン交換樹脂を強固に接着させることを特徴とする請求項1で記載の粉末イオン交換樹脂包含支持体をフイルターエレメントとする濾過機に、不純糖液を通流して脱色・精製すること、および前記粉末イオン交換樹脂を再生して多サイクル繰り返し使用することを特徴とする糖液の精製方法。
【請求項3】
請求項1で記載の液状組成物が、粉末イオン交換樹脂に対し微小繊維状化合物(含水物)を10重量%以下に調製した混合物を、水溶液中で撹拌して調製した液状組成物であって、前記液状組成物を散布して利用することを特徴とする粉末イオン交換樹脂の使用方法。


















【公開番号】特開2012−11348(P2012−11348A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151942(P2010−151942)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(599077166)
【Fターム(参考)】