説明

粉末成形プレス装置

【課題】粉末成形プレス装置において、粉末成形体の製造効率向上を図ることができるようにする。
【解決手段】貫通孔2Cが形成されたダイ2と、ダイ2に対して貫通孔2Cの貫通方向に相対移動可能とされて、貫通孔2Cに挿入された状態で貫通孔2Cと共に原料粉末Pを充填するための充填部Aを画成する下パンチ3と、ダイ2及び下パンチ3に対して前記貫通方向に相対移動可能とされた上パンチ4とを備え、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4の相対移動により充填部Aに充填された原料粉末Pを加圧成形して圧粉成形体を成形する粉末成形プレス装置1に対し、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4の相対位置を検出する位置検出手段41,42,43と、原料粉末Pを加圧成形する際に位置検出手段41,42,43から出力された前記相対位置に基づいて、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4の相対移動データを記憶する記憶手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉成形に使用する粉末成形プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粉末成形プレス装置は、例えば非特許文献1に記載されているように、下パンチをダイ内に挿入した状態でダイ内に原料粉末を充填し、さらにダイ内に上パンチを挿入して原料粉末をダイ内で上パンチや下パンチによって圧縮することで、ダイの内面及び上下のパンチの端面形状が転写された圧粉成形体を製造するように構成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「焼結部品の成形技術」、日本粉末冶金工業会、平成16年5月14日、p.9―11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この粉末成形プレス装置において、良品として許容できる圧粉成形体(例えば、クラック等の欠陥がなく所望の密度バランス等の条件を満たす圧粉成形体)を製造できる条件を見出すまでには、試験的に圧粉成形体を製造する試し打ちを数多く実施する必要がある。このため、圧粉成形体の量産を開始できるまでの時間が長くなり、製造効率が悪いという問題がある。なお、空気圧や油圧、ばね等の弾性力を利用して圧粉成形を行う場合には、圧縮時における上下のパンチやダイの動きが特に複雑となるため、良品の製造可能条件を見出すまでの試し打ち回数が特に多くなってしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みたものであって、圧粉成形体の製造効率向上を図ることが可能な粉末成形プレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明の粉末成形プレス装置は、貫通孔が形成されたダイと、当該ダイに対して前記貫通孔の貫通方向に相対移動可能とされて、前記貫通孔に挿入された状態で当該貫通孔と共に原料粉末を充填するための充填部を画成する下パンチと、前記ダイ及び前記下パンチに対して前記貫通方向に相対移動可能とされた上パンチとを備えて、前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対移動により前記充填部に充填された前記原料粉末を加圧成形することで、前記原料粉末を圧粉成形体に成形するものであって、前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対位置を検出する位置検出手段と、少なくとも前記原料粉末を加圧成形する際に、前記位置検出手段から出力された前記相対位置に基づいて、前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対移動データを記憶する記憶手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
なお、前記加圧成形は、ダイ、下パンチ及び上パンチの相対移動によって原料粉末を圧縮する圧縮工程だけではなく、圧縮工程後に、ダイ、下パンチ及び上パンチの相対移動によって圧粉成形体を充填部から取り出す抜出し工程等を含んでいてもよい。
そして、加圧成形時におけるダイ、下パンチ及び上パンチの相対移動データは、圧縮工程や抜出し工程等におけるダイ、下パンチ及び上パンチの相対的な移動の履歴を示すものである。
【0008】
この粉末成形プレス装置によれば、位置検出手段によりダイ、下パンチ及び上パンチの相対位置を検出して、ダイ、下パンチ及び上パンチの相対移動データを取得することで、加圧成形におけるダイ、下パンチ及び上パンチの相対的な位置や動き(例えば、移動速度や加速度等)を詳細に知ることが可能となる。例えば、空気圧や油圧、ばね等の弾性力を利用して加圧成形を行う場合であっても、この弾性力の影響を含むダイ、下パンチ及び上パンチの複雑な動きまで詳細に知ることができる。
【0009】
したがって、製造された圧粉成形体とこれに対応する相対移動データとを比較することで、ダイ、下パンチ及び上パンチの相対的な動きや、充填部に充填される原料粉末の量等の各種パラメータが、圧粉成形体の品質(例えばクラック等の欠陥の有無、密度バランス等)に与える影響について、容易かつ詳細に解析・分析することが可能となる。その結果として、良品として許容できる圧粉成形体(例えばクラック等の欠陥が無く、所望の密度バランス等の条件を満たすもの)の製造可能条件を見出すために実施する各種パラメータの調整を、オペレータの経験や感覚に頼ることなく、効率よく行うことができる。すなわち、圧粉成形体の量産を開始するまでの試し打ち回数を確実に減らすことができる。
なお、各種パラメータの調整としては、例えば、原料粉末の量の調整や、ダイ、下パンチ、上パンチを動かす駆動力の調整、駆動力を変化させるタイミングの調整等が挙げられる。また、空気圧や油圧、ばね等の弾性力を利用して加圧成形を行う場合には、この弾性力の調整も各種パラメータの調整の一例として挙げられる。
【0010】
そして、前記粉末成形プレス装置は、前記記憶手段に予め記憶された前記圧粉成形体の製造条件と、前記原料粉末を一の圧粉成形体に加圧成形した際の一の相対移動データとを比較し、当該一の相対移動データが前記製造条件に含まれる場合には、前記一の圧粉成形体が良品であることを出力し、前記一の相対移動データが前記製造条件から外れている場合には、前記一の圧粉成形体が不良品であることを出力する判別手段を備えていることが好ましい。
【0011】
なお、前記製造条件は、良品として許容できる圧粉成形体の製造条件であり、例えば、原料粉末を良品である圧粉成形体に加圧成形した際の相対移動データ(良品データ)、あるいは、良品データに対して所定の上限値や下限値を設けた所定の許容範囲が挙げられる。これらの場合、一の相対移動データが製造条件に含まれることは、良品データと一致する、あるいは、良品データの許容範囲の内側に位置することを意味する。また、一の相対移動データが製造条件から外れることは、良品データと一致しない、あるいは、良品データの許容範囲の外側に位置することを意味する。
【0012】
この粉末成形プレス装置によれば、ダイ、下パンチ及び上パンチの詳細な動きを示す相対移動データに基づいて圧粉成形体の良否を判定しているため、良否判定の信頼性を高めることができる。したがって、この良否判定を圧粉成形体の量産時に適用すれば、量産された圧粉成形体に対するクラック等の欠陥の有無や密度バランスの計測等の各種検査を無くす、あるいは、各種検査の頻度を減らすことが可能となる。また、量産された多数の圧粉成形体を良品・不良品に振り分ける作業を判定手段からの出力に基づいて行うことができるため、この振分作業を容易かつ迅速に行うことができる。以上のことから、圧粉成形体の製造効率向上をさらに図ることが可能となる。
なお、上述した圧粉成形体の振分作業は人為的に行ってもよいが、判別手段からの出力に基づいて所定の振分装置により自動的に行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダイ、下パンチ及び上パンチの相対位置を検出する位置検出手段を備えることで、圧粉成形体の量産を開始するまでの試し打ち回数を確実に減らすことができるため、圧粉成形体の製造効率向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る粉末成形プレス装置において原料粉末を加圧成形する前の状態を示す概略断面図である。
【図2】図1の粉末成形プレス装置を構成するコンピュータを示すブロック図である。
【図3】図1の粉末成形プレス装置による圧縮工程を示す概略断面図である。
【図4】図1の粉末成形プレス装置による圧縮工程を示す概略断面図である。
【図5】図1の粉末成形プレス装置による圧縮工程を示す概略断面図である。
【図6】図1の粉末成形プレス装置による圧縮工程を示す概略断面図である。
【図7】図1の粉末成形プレス装置による抜出し工程を示す概略断面図である。
【図8】図1の粉末成形プレス装置による抜出し工程後の動作を示す概略断面図である。
【図9】図3〜8に示す工程を経ることで得られる相対移動データの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜9を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る粉末成形プレス装置1は、フローティングダイ法により原料粉末を圧縮して圧粉成形体に成形するものであり、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4を備えている。
【0016】
ダイ2は、厚板状に形成されると共にその厚さ方向(紙面の上下方向)に貫通する貫通孔2Cを形成して構成され、エアダンパー11を介してベースプレート5の上面5a上に配されている。言い換えれば、ダイ2はエアダンパー11の圧力によってベースプレート5上に浮上した状態で配置されている。なお、図示例では、ダイ2が一つのエアダンパー11のみによって支持されているが、実際には、貫通孔2Cの貫通方向とベースプレート5の上面5aとの直交が保たれるように、複数のエアダンパー11によって支持されている。
【0017】
この構成において、ダイ2に対してその厚さ方向に外力を加えた場合には、ダイ2がエアダンパー11の圧力に抗うように、ベースプレート5に対して厚さ方向に移動する。なお、外力を解除すれば、ダイ2がエアダンパー11の弾性力によって元の位置に復帰する。すなわち、ダイ2はベースプレート5に対して上下方向に移動可能に設けられている。
このダイ2の下面には、ベースプレート5の上面5aに設けられたスライディングブロック12に対応する開放用ウェッジ13、及び、後述する下第一パンチプレート23に当接させるための当接ロッド14が突出して設けられている。これら開放用ウェッジ13及び当接ロッド14は、ダイ2に外力が加えられていない状態において、それぞれスライディングブロック12及び下第一パンチプレート23の上方に間隔をあけて位置している。また、開放用ウェッジ13とスライディングブロック12との間隔は、当接ロッド14と下第一パンチプレート23との間隔よりも短く設定されている。
【0018】
開放用ウェッジ13の下端には、下端側から上端側に向かうにしたがって漸次外側に傾斜するテーパ面13bが形成されている。このため、スライディングブロック12の初期位置は、下第一パンチプレート23の下方に設定されているが、ダイ2を下方向に移動させることに伴い、開放用ウェッジ13がスライディングブロック12に形成された突起部12Cを押圧することで、スライディングブロック12は初期位置から側方に水平移動し、下第一パンチプレート23の下方から外れることになる(図7参照)。なお、スライディングブロック12は、この状態からダイ2を元の位置に戻した際に、開放用ウェッジ13がスライディングブロック12の上方に離間することに伴い、初期位置に復帰するように設定されている。
【0019】
さらに、ダイ2の下面にはベースプレート5を貫通する長尺のロッド16が複数突出して設けられており、これら複数のロッド16の先端には、吊下げプレート17が固定されている。吊下げプレート17は、少なくともダイ2に外力が加えられていない状態において、ベースプレート5の下面5bに対して間隔をあけて配されている。さらに、吊下げプレート17には、その下側から下方ラム18が挿通されている。また、下方ラム18の上端には、吊下げプレート17と上下方向に当接可能とされた係合突起18Cが形成されている。
【0020】
下方ラム18は、機械式や空気圧式、油圧式の駆動装置(不図示)によって上下方向に所定区間で昇降駆動されるものであり、これによって、吊下げプレート17に対してその厚さ方向に移動可能とされている。なお、機械式の駆動装置としては、例えばクランク機構やエキセン機構、トグルジョイント機構、カム機構等を用いたもの、すなわち、モータ等の駆動軸が一回転することで下方ラム18が上下方向に一往復するような機構を備えるものが挙げられる。
下方ラム18の初期位置は、図1に示すように、係合突起18Cが吊下げプレート17の上方に間隔をあけて配される位置であり、下方ラム18はこの初期位置を基準として下方向に移動可能となっている。また、下方ラム18は、係合突起18Cが吊下げプレート17の上面に当接した状態からさらに下方向に移動可能となっている。したがって、係合突起18Cが吊下げプレート17の上面に当接した状態で、下方ラム18を下方向に駆動した際には、ダイ2がエアダンパー11の圧力に抗って下方ラム18と共に下方向に移動することになる。
【0021】
下パンチ3は、ダイ2の下面側から貫通孔2Cに挿入・抜出されるように、ダイ2に対して貫通孔2Cの貫通方向(上下方向)に相対移動可能とされている。なお、図示例のように、下パンチ3が貫通孔2Cに挿入された状態では、下パンチ3が貫通孔2Cの下端開口を閉塞し、貫通孔2C及び下パンチ3によって原料粉末Pを充填するための充填部Aが画成される。
この下パンチ3は、複数段のパンチによって構成されている。具体的に説明すれば、下パンチ3は、略円筒形状の下第一パンチ21と、下第一パンチ21内に挿通される略円柱形状の下第二パンチ22によって構成されている。下第二パンチ22は、ベースプレート5の上面5aから上方に突出するようにベースプレート5に固定されている。
【0022】
一方、下第一パンチ21は、下第一パンチプレート23上に固定された上で、ダイ2の場合と同様に、エアダンパー24を介してベースプレート5の上面5a上に配されている。言い換えれば、下第一パンチ21はエアダンパー24の圧力によってベースプレート5上に浮上した状態で配置されている。なお、図示例では、下第一パンチ21及び下第一パンチプレート23が一つのエアダンパー24のみによって支持されているが、実際には、下第一パンチ21及び下第二パンチ22の中心軸線が一致するように、複数のエアダンパー24によって支持されている。
【0023】
上パンチ4は、ダイ2の上面側から貫通孔2Cに挿入・抜出されるように、ダイ2及び下パンチ3に対して貫通孔2Cの貫通方向に相対移動可能とされている。なお、上パンチ4の下部が貫通孔2Cに挿入された状態では、貫通孔2Cの上端開口が上パンチ4によって閉塞される(図3〜6参照)。
そして、上パンチ4の上部には、エアシリンダ31のピストン部32が装着され、エアシリンダ31のシリンダ部33は、上方ガイド34内を上下に滑動する上方ラム35の下端に配設されている。さらに、上方ラム35の上端はリンク36を介してクランク軸37に連結され、クランク軸37は駆動モータに接続されている。
【0024】
エアシリンダ31のシリンダ部33には、その内部と空気圧調整ユニット38とを連通するためのエア供給管39が連結されており、エア供給管39の中途部には、シリンダ部33内と空気圧調整ユニット38との連通・遮断を切り換える電磁弁40が設けられている。空気圧調整ユニット38は、エアをシリンダ部33内に供給するためのエア供給源や、シリンダ部33内のエアを排出するための排出部等を備えており、シリンダ部33内と空気圧調整ユニット38とが連通状態のときにシリンダ部33内の圧力を調整できるようになっている。なお、シリンダ部33内の圧力を調整するための構成は、上記構成に限らず、任意の構成を取り得る。
【0025】
以上の構成において、エアシリンダ31のピストン部32は、シリンダ部33内の圧力の増減によってシリンダ部33に対して上下方向に移動可能とされている。すなわち、エアシリンダ31の下側に設けられた上パンチ4は、空気圧式の駆動装置によって上下方向に移動可能とされている。また、クランク軸37が駆動モータMによって一回転することで、上方ラム35が上下方向に一往復することになる。すなわち、エアシリンダ31を介して上方ラム35の下側に設けられた上パンチ4は、クランク機構を利用した機械式の駆動装置によっても上下方向に移動可能とされている。
【0026】
また、粉末成形プレス装置1は、ベースプレート5と、ダイ2、下第一パンチプレート23及び上パンチ4との各間にそれぞれ配されたリニアスケール(位置検出手段)41,42,43を備えている。各リニアスケール41,42,43は、ベースプレート5に固定された下第二パンチ22の位置を基準として、ダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の上下方向の各位置を監視・検出するものである。すなわち、この構成では、複数のリニアスケール41,42,43により、ダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の相対位置を検出することができる。
【0027】
また、粉末成形プレス装置1は、図1,2に示すように、HDDやRAM、ROM等からなるメモリ(記憶手段)51、CPU等からなる制御部52、モニタ等からなる表示部53、及び、キーボード等からなる入力部54を備えたコンピュータ50を有している。
メモリ51には、加圧成形に要する各種プログラムや各種データが格納されている。また、入力部54は、各種データを人為的に入力するものである。
制御部52は、メモリ51に格納された各種プログラムや各種データ、あるいは、入力部54から出力された各種データに基づいて、各種情報処理を実施するものである。具体的に説明すれば、制御部52は、例えば、メモリ51に格納された各種プログラムや各種データに基づいて、加圧成形に要する制御信号を電磁弁40や駆動モータM等に出力する。また、制御部52は、例えば、複数のリニアスケール41,42,43から出力されたダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の相対位置に基づいて、ダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の相対移動データ(図9参照)を作成する。さらに、制御部52は、例えば、入力部54において入力されたデータや前述の相対移動データ等の各種データをメモリ51に記憶させたり、表示部53に出力したりする。
【0028】
以上のように構成された粉末成形プレス装置1では、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4の相対移動により充填部Aに充填された原料粉末Pを加圧成形することで、原料粉末Pを圧粉成形体に成形することができる。以下、この加圧成形の方法について図1,3〜9を参照して説明する。
なお、図9に示すグラフは、加圧成形におけるダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の上下方向の相対位置の変動を示している。そして、グラフの横軸は、クランク軸37のクランク部が天頂に位置した点を基準(0度)としたクランク軸37の角度を示しており、グラフの縦軸は、下第二パンチ22の上面を基準としたダイ2の上面、下第一パンチ21の上面及び上パンチ4の下面の各上下方向位置を示している。また、図9のグラフ中に示す各状態(イ)〜(ト)は、それぞれ図1,3〜8に示す状態に対応している。また、図9に示すように、クランク軸37は、そのクランク部が天頂(0度)から移動して再び天頂に戻るまで、停止することなく連続して回転する。
【0029】
加圧成形の際には、はじめに、下第二パンチ22の上下位置を基準として、ダイ2や下第一パンチ21、上パンチ4等の装置各部を図1に示す初期位置(図9における状態(イ))に配置した上で、不図示のフィーダにより充填部Aに原料粉末Pを充填する(充填工程)。なお、この工程では、ダイ2と下パンチ3との相対的な上下位置を変化させることで充填部Aの容積を調節し、充填部Aに充填する原料粉末Pの量を調整することが可能である。
次いで、ダイ2、下パンチ3及び上パンチ4の相対移動によって原料粉末Pを圧縮する(圧縮工程)。この圧縮工程では、はじめに、駆動モータMにより上方ラム35を下方に駆動することで、図3に示すように、上パンチ4が下降して貫通孔2C内に挿入され、原料粉末Pを加圧して圧縮する(第一圧縮工程)。この第一圧縮工程は、図9における状態(イ)から状態(ロ)への移行に対応しており、この移行において、ダイ2及び下第一パンチ21は上下方向に移動していない。
【0030】
次いで、上方ラム35をさらに下方に駆動して、図4に示すように、上パンチ4がさらに下降すると、第一圧縮工程における原料粉末Pの加圧に伴い、下第一パンチ21はエアダンパー24の圧力に抗って上パンチ4と共に下降するが、原料粉末Pはダイ2と下第二パンチ22との間でさらに加圧・圧縮される(第二圧縮工程)。この第二圧縮工程は、図9における状態(ロ)から状態(ハ)への移行に対応しており、この移行において、ダイ2は上下方向に移動しない。この第二圧縮工程後の状態においては、下第一パンチプレート23の下面にスライディングブロック12が当接するため、下第一パンチ21の下方へのさらなる移動が規制されている。
【0031】
その後、上方ラム35をさらに下方に駆動して、図5に示すように、上パンチ4をさらに下降させると、第二圧縮工程における原料粉末Pの加圧に伴い、ダイ2と原料粉末Pとの摩擦力がエアダンパー11の圧力よりも大きくなるため、ダイ2がエアダンパー11の圧力に抗って上パンチ4と共に下降する。この際、下第一パンチ21はスライディングブロック12によって下方への移動が規制されているため、図9の状態(ハ)から状態(ニ)への移行にも示されているように、下方向には移動しない。したがって、この際には、原料粉末Pがダイ2と下第一パンチ21及び下第二パンチ22との間でさらに加圧・圧縮される(第三圧縮工程)。なお、第三圧縮工程後の状態(図5及び図9の状態(ニ))においては、クランク軸37のクランク部及び上方ラム35の位置が最下点(180度)に位置している。
【0032】
最後に、図6に示すように、所定時間だけ原料粉末Pに対する加圧を保持する(加圧保持工程)ことで、充填部Aにおいて原料粉末Pが所定形状の圧粉成形体に成形され、圧縮工程が完了する。
上記加圧保持工程は、図9の状態(ニ)から状態(ホ)への移行に対応している。この加圧保持工程においては、クランク軸37のクランク部及び上方ラム35が最下点から上昇する代わりに、ピストン部32を上方ラム35及びシリンダ部33に対して下方に突出させることで、上パンチ4の上下方向の位置を保持する。詳細に説明すれば、この工程では、上パンチ4とベースプレート5との間のリニアスケール43の検出結果に基づいて、制御部52が電磁弁40や空気圧調整ユニット38の動作を制御し、ピストン部32がシリンダ部33から突出するようにシリンダ部33内の圧力を調整することで、上パンチ4の上下方向の位置が保持される。
【0033】
上記圧縮工程後には、圧粉成形体Fをダイ2内から抜き出す(抜出し工程)。
この工程では、はじめに、図7に示すように、下方ラム18を下方に駆動して係合突起18Cを吊下げプレート17に当接させた上で、下方ラム18をさらに下方に移動させることにより、ダイ2を下方に移動させる。また、このダイ2の下方への移動に伴って、開放用ウェッジ13によりスライディングブロック12を初期位置から外側に水平移動させ、スライディングブロック12による下第一パンチ21及び下第一パンチプレート23の下方への移動規制を解除する。
その後、ダイ2をさらに下降させて当接ロッド14を下第一パンチプレート23に当接させる。この状態においては、ダイ2及び下第一パンチ21の上面が同一平面をなす。そして、この当接状態からさらにダイ2を下降させると、下第一パンチ21がダイ2と一体に下降し、これによって圧粉成形体Fがダイ2内から抜け出る。
【0034】
なお、このように圧粉成形体Fをダイ2内から抜き出す際、上パンチ4の上下方向の位置は、前述した加圧保持工程のときと同じ位置に保持されている。すなわち、抜き出し工程においては、圧粉成形体Fが下第二パンチ22及び上パンチ4によって挟持された状態でダイ2内から抜き出される。この抜き出し工程におけるダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の挙動は、図9の状態(ホ)から状態(ヘ)への移行に対応している。
最後に、図8に示すように、上パンチ4を圧粉成形体Fに対して上方に離間させることで、原料粉末Pを圧粉成形体Fに成形する加圧成形が完了し、圧粉成形体Fを粉末成形プレス装置1から取り出すことができる。なお、上パンチ4の上方への離間は、駆動モータMによる上方ラム35の上昇の他、電磁弁40や空気圧調整ユニット38の動作制御によりシリンダ部33内の圧力を減少させて、ピストン部32を上方ラム35及びシリンダ部33に対して上昇させることでも行われる。この上パンチ4の離間は、図9の状態(ヘ)から状態(ト)への移行に対応している。
【0035】
また、上述したように原料粉末Pを加圧成形する際には、制御部52が、複数のリニアスケール41,42,43から出力された下第二パンチ22に対するダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の相対位置に基づいて、図9に示すように、下第二パンチ22に対するダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の相対移動データを作成し、この相対移動データをメモリ51に記憶させる。
なお、本実施形態では、下第二パンチ22に対するダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の相対位置を、クランク軸37の角度に対応づけて、相対移動データを作成しているが、例えば、時間に対応づけて作成してもよい。
【0036】
本実施形態に係る粉末成形プレス装置では、加圧成形における相対移動データを取得することで、ダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の相対的な位置や動き(例えば移動速度や加速度)を詳細に知ることが可能となる。特に、本実施形態の粉末成形プレス装置1では、加圧成形におけるダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の動きがエアダンパー11,24やエアシリンダ31による空気圧(弾性力)の影響を受ける場合があるが、この空気圧の影響を含むダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の複雑な動きまで詳細に知ることができる。
したがって、製造された圧粉成形体Fとこれに対応する相対移動データとを比較することで、ダイ2、下第一パンチ21、下第二パンチ22及び上パンチ4の相対的な動きや、充填部Aに充填される原料粉末Pの量等の各種パラメータが、圧粉成形体Fの品質(例えばクラック等の欠陥の有無、密度バランス等)に与える影響について、容易かつ詳細に解析・分析することが可能となる。
【0037】
以上のことから、良品として許容できる圧粉成形体Fの製造条件を見出すための試し打ちを実施する場合には、前述した各種パラメータの調整を、オペレータの経験や感覚に頼ることなく、効率よく行うことができる。その結果として、圧粉成形体Fの量産を開始するまでの試し打ち回数を確実に減らすことができ、圧粉成形体Fの製造効率向上を図ることが可能となる。
なお、本実施形態における各種パラメータの調整としては、例えば、原料粉末Pの量の調整や、駆動モータMやエアシリンダ31による上パンチ4の駆動力の調整、エアダンパー11,24の空気圧の調整、また、上パンチ4の駆動力を変化させるタイミング(例えば加圧保持工程や抜き出し工程においてシリンダ部33内の圧力を変化するタイミング)の調整、が挙げられる。これら各種パラメータの調整を行う場合には、例えば、オペレータが、入力部54を用いてメモリ51に格納された加圧成形に要するプログラムの内容を変更すればよい。
【0038】
また、この粉末成形プレス装置1においては、前述した試し打ちにおいて得られた相対移動データと、圧粉成形体Fに関するクラック等の欠陥の有無や密度バランス等の各種情報とを対応づけたデータテーブルが、メモリ51に格納されている。すなわち、このデータテーブルには各圧粉成形体Fについて欠陥の有無や密度バランス等の各種情報が含まれており、これら各種情報は、例えばオペレータによる入力部54の操作によって入力することが可能である。
さらに、この粉末成形プレス装置1においては、オペレータによる入力部54の操作や予めメモリ51に格納されたプログラムにより、上記データテーブル等に基づいて、良品として許容できる圧粉成形体Fの製造条件を作成し、これをメモリ51に格納することができる。なお、製造条件としては、例えば、良品である圧粉成形体Fに対応する相対移動データ(良品データ)、あるいは、良品データに対して所定の上限値や下限値を設けた所定の許容範囲のデータが挙げられる。
【0039】
また、メモリ51には、上記製造条件と、原料粉末Pを一の圧粉成形体Fに加圧成形した際の一の相対移動データとを比較し、一の相対移動データが前述の製造条件に含まれる場合には、一の圧粉成形体が「良品」であることを出力し、一の相対移動データが前述の製造条件から外れている場合には、一の圧粉成形体Fが「不良品」であることを出力するプログラムが格納されている。
すなわち、この粉末成形プレス装置1においては、制御部52が、上記プログラムに基づいて、上記製造条件と、一の圧粉成形体Fを製造した際の一の相対移動データとを比較し、一の相対移動データが前述の製造条件に含まれる場合に、一の圧粉成形体Fが「良品」であることを出力し、一の相対移動データが前述の製造条件から外れている場合には、一の圧粉成形体Fが「不良品」であることを表示部53等に出力する判別手段として機能する。なお、一の相対移動データが製造条件に含まれることは、例えば良品データと一致する、あるいは、良品データの許容範囲内に含まれることを意味する。また、一の相対移動データが製造条件から外れることは、良品データと一致しない、あるいは、良品データの許容範囲の外側に位置することを意味する。
【0040】
以上のように、本実施形態の粉末成形プレス装置1では、ダイ2、下第一パンチ21及び上パンチ4の詳細な動きを示す相対移動データに基づいて圧粉成形体Fの良否を判定できるため、良否判定の信頼性を高めることが可能となる。したがって、この良否判定を圧粉成形体Fの量産時に適用すれば、量産された圧粉成形体Fに対するクラック等の欠陥の有無や密度バランスの計測等の各種検査を無くす、あるいは、各種検査の頻度を減らすことができる。また、量産された多数の圧粉成形体Fを良品・不良品に振り分ける作業を判定手段からの出力に基づいて行うことができるため、この振分作業を容易かつ迅速に行うことができる。以上のことから、圧粉成形体Fの製造効率向上をさらに図ることが可能となる。
なお、上述した圧粉成形体Fの振分作業は、良否判定が表示部に表示されることで人為的に実施されてもよいが、例えば良否判定を所定の振分装置に直接出力することで、自動的に実施されてもよい。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上パンチ4を駆動する機械式の駆動装置は、クランク機構を利用したものに限らず、エキセン機構、トグルジョイント機構、カム機構等の他の機構を利用したものであってよい。また、上パンチ4の上下方向の移動は、空気圧式及び機械式両方の駆動装置によって行われることに限らず、機械式や空気圧式、油圧式の駆動装置のいずれか一つ、あるいは、これらを適宜組み合わせたものによって行われてよい。
【0042】
さらに、下パンチ3及び上パンチ4の段数は、上記実施形態のものに限らず、それぞれ任意の段数に設定されていてよい。なお、上パンチ4が複数段のパンチによって構成される場合には、上パンチ4を構成する各段のパンチとベースプレート5との各間に上記実施形態と同様のリニアスケールを設ければよい。
また、本願発明の粉末成形プレス装置は、上記実施形態のようなフローティングダイ法のものに限らず、ウイズドロアル法等の他の両押成形法、あるいは、片押成形法のものに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 粉末成形プレス装置
2 ダイ
2C 貫通孔
3 下パンチ
4 上パンチ
21 下第一パンチ
22 下第二パンチ
41,42,43 リニアスケール(位置検出手段)
50 コンピュータ
51 メモリ(記憶手段)
52 制御部
A 充填部
F 圧粉成形体
P 原料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成されたダイと、当該ダイに対して前記貫通孔の貫通方向に相対移動可能とされて、前記貫通孔に挿入された状態で当該貫通孔と共に原料粉末を充填するための充填部を画成する下パンチと、前記ダイ及び前記下パンチに対して前記貫通方向に相対移動可能とされた上パンチとを備えて、前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対移動により前記充填部に充填された前記原料粉末を加圧成形することで、前記原料粉末を圧粉成形体に成形する粉末成形プレス装置であって、
前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対位置を検出する位置検出手段と、
少なくとも前記原料粉末を加圧成形する際に、前記位置検出手段から出力された前記相対位置に基づいて、前記ダイ、前記下パンチ及び前記上パンチの相対移動データを記憶する記憶手段とを備えることを特徴とする粉末成形プレス装置。
【請求項2】
前記記憶手段に予め記憶された前記圧粉成形体の製造条件と、前記原料粉末を一の圧粉成形体に加圧成形した際の一の相対移動データとを比較し、当該一の相対移動データが前記製造条件に含まれる場合には、前記一の圧粉成形体が良品であることを出力し、前記一の相対移動データが前記製造条件から外れている場合には、前記一の圧粉成形体が不良品であることを出力する判別手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の粉末成形プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235349(P2011−235349A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111225(P2010−111225)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)