説明

粉末成形方法、金型、及び、粉末成形装置

【課題】滑沢剤に依拠することなく抜き出し時の不具合を防止することができる、粉末成形方法、及び、この方法の実施に適した金型と粉末成形装置を提供する。
【解決手段】本粉末成形方法は、成形室7を画定する側壁9及び底壁11を有する金型3を用意するステップと、側壁に対し、成形室を狭める方向に予備圧17を付与しておくステップと、成形室内に、原料粉末を充填するステップと、予備圧が付与された状態で成形室内の原料粉末を加圧するステップと、原料粉末の加圧後に、予備圧を除去又は低減するステップと、予備圧の除去又は低減後に、成形室から成形体を抜き出すステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末成形方法、及び、この方法の実施に適した金型と粉末成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末成形は、原料粉末を成形金型に充填し、パンチで圧縮成形して成形体を得るものである。かかる粉末成形を実施するための従来の粉末成形装置の一例として、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
粉末成形装置は、上方が開放された成形室を有する金型を備えている。金型は、成形体の主に側面の成形を担うダイと、成形体の主に底面の成形を担う下パンチとによって構成されている。さらに、粉末成形装置には、ダイと下パンチとによって画定された成形室に、上方から加圧力を付与するための上パンチが設けられている。そして、上パンチを成形室に挿入し、原料粉末を加圧して成形体を得る。成形が完了すると、例えばダイに対して下パンチが上昇し或いは下パンチに対してダイが下降し、成形体の成形室からの抜き出しが行われる。
【0004】
ここで、本発明者の経験によれば、成形体の抜き出しに関しては幾つかの問題を抱えていた。まず、成形体の抜き出しを行う際には、圧縮成形後の成形体とダイとの間に生じる大きな摩擦力によって、ダイに対する成形体の移動が抑制されるため、下パンチからの圧力によって成形体が再加圧されてしまう問題がある。また、抜き出しに伴って生じるスプリングバックによって、成形体の下部に傘状のラミネーションクラックが発生したり、断続的なかじりによる異音、傷が発生したりする問題もある。その一方で、本発明者は、このような問題を避けるべく、原料粉末に予め滑沢剤を含有しておき、抜き出し時の成形体とダイとの間に生じる摩擦力を低減する対策を講じることも考えた。しかしながら、滑沢剤は、上記の問題を緩和できる一方で、成形体の強度を低下させるという新たな問題を生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−138399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これに鑑みてなされたものであり、滑沢剤に依拠することなく抜き出し時の不具合を防止することができる、粉末成形方法、及び、この方法の実施に適した金型と粉末成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための本発明に係る粉末成形方法は、成形室を画定する側壁及び底壁を有する金型を用意するステップと、前記側壁に対し、前記成形室を狭める方向に予備圧を付与しておくステップと、前記成形室内に、原料粉末を充填するステップと、前記予備圧が付与された状態で前記成形室内の前記原料粉末を加圧するステップと、前記原料粉末の加圧後に、前記予備圧を除去又は低減するステップと、前記予備圧の除去又は低減後に、前記成形室から成形体を抜き出すステップとを備える。
【0008】
また、本発明に係る金型は、成形室を画定する側壁及び底壁を有し、前記側壁に沿って油圧室が内部に形成され、前記油圧室に油圧を供給することにより、前記成形室を狭める方向に前記側壁が歪む。
【0009】
さらに、本発明に係る粉末成形装置は、金型と、上パンチとを備える。前記金型は、上記の金型であり、前記上パンチは、前記金型の上方に昇降可能に設けられ、下降時に前記成形室内に進入して、前記成形室内を加圧する。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によれば、滑沢剤に依拠することなく抜き出し時の不具合を防止することができる。
【0011】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る粉末成形方法に使用する粉末成形装置の概略を示す側面図である。
【図2】図1の粉末成形装置に関し、成形室の開口の形状変化を示す平面図である。
【図3】油圧機構を備えた粉末成形装置の概略を示す側面図である。
【図4】本実施の形態に係る粉末成形方法の工程を示すフローチャートである。
【図5】成形対象となる金属圧粉コアを含んだ金属圧粉コイル部品の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る粉末成形方法に関する実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る粉末成形方法に使用する粉末成形装置の概略を示す側面図であり、図2は、当該粉末成形装置における成形室の開口を上方から示す平面図である。粉末成形装置1は、金型3と、上パンチ5とを備えている。金型3には、成形室7が設けられている。成形室7は、金型3における側壁9と底壁11とによって画定され、上方は解放されている。金型3は、ダイ13と、下パンチ15とを含んでいる。本実施の形態では、側壁9はダイ13に形成されており、底壁11は下パンチ15に形成されている。側壁9は、平面視環状に形成されており、ダイ13において貫通空間を画定している。そして、かかる貫通空間に下パンチ15が下方から挿入されている。底壁11は、そのように挿入されている下パンチ15の上端面に形成されている。上パンチ5は、金型3の上方に配置されており、上下方向に昇降可能に設けられている。粉末成形は、上パンチ5を下降させて、金型3の成形室7の上部開口7aに挿入し、成形室7内を加圧することによって行われる。
【0015】
ダイ13は、ダイス鋼から構成されている。図2に示されるように、ダイ13の側壁9に対して、予備圧17を付与することで、成形室7を狭める方向に側壁9を僅かに歪めることができるようになっている。予備圧17を付与する機構としては、例えば、油圧機構がある。
【0016】
図3は、かかる油圧機構を備えた粉末成形装置の概略を示す側面図である。ダイ13の内部には、油圧室13aが、ダイ13の側壁9に沿った環状空間となるように形成され、同じく内部に形成された供給路13bを介して、油圧ポンプ20のパイプ19と接続されている。この構成において、油圧ポンプ20から油圧室13aに油圧を供給することによって、ダイ13の側壁9に対して予備圧17を付与することができる。このとき、予備圧17によって側壁9が僅かに歪むが、これにより側壁9に損傷を与えないように、油圧ポンプ20の吐出圧、側壁9の材質及び厚み寸法などを設定する必要がある。
【0017】
また、本実施形態において、油圧室13aは、環状の形態を有しているが、これに限定されることはなく、複数の油圧室に分けて構成してもよいし、さらに、その断面も、図3に示したような略方形形状に限られず、対象となる成形物に合わせて円形など他の形状を適宜に採用すればよい。
【0018】
次に、本実施の形態に係る粉末成形方法について、図3のフローチャートを用いて説明する。まず、図3に示されるように、ステップS1として、上述したような予備圧17によって側壁9が歪みうる金型3を用意する。そして、ステップS2として、側壁9に予備圧17を付与し、側壁9を図2の紙面下側の図のように微変形させ、すなわち、成形室7を狭めるように変形させる。なお、得ようとしている成形体の形状に適した成形室7の形状は、かかる変形後の成形室7の形状において設計することが肝要である。
【0019】
次に、ステップS3として、成形室7内に、原料粉末を充填する。原料粉末としては、様々考えられるが、例えば、フェライト部品(フェライトコア)を成形するならば、セラミック粉末が主原料となり、金属部品(金属圧粉コア)を成形するならば、金属粉末及び絶縁用樹脂を含むものが主原料となる。次に、ステップS4として、上パンチ5を下降させ成形室7内に進入させて成形室7内の原料粉末への加圧を行い、成形体を得る。成形が完了したならば、上パンチ5を上昇させ成形室7から退出させて、加圧を終了する。
【0020】
次に、ステップS5として、加圧終了後に、予備圧17を完全除去又は低減して側壁9の歪みを解消し又は緩め、何れにしても、成形室7が広がるようにする。その後、ステップS6として、成形体を金型3から抜き出す。
【0021】
このような本実施の形態の粉末成形方法においては、成形が完了した成形体を抜き出す前に、成形室7の側壁9と成形体との間の接触が解消または弱くなっている。このため、抜き出し時、成形体と金型3との摩擦力を消去または低減することができ、前述した既存の態様における、再加圧、ラミネーションクラック、異音、傷等の不具合を防止することができる。しかもかかる利点は、滑沢剤に起因するものではないので、滑沢剤使用に伴う成形体の強度低下という別の問題を発生させるものでもない。
【0022】
また、成形対象が金属部品である場合には、上記の利点に加え、さらに次のような利点もある。具体例として、成形対象が、図4に示すようなコイル部品の金属圧粉コアである場合を説明する。
【0023】
図4において、金属圧粉コイル部品101は、金属圧粉コア集合体103と、巻線部105と、一対の電極部材107とを備えており、金属圧粉コア集合体103は、紙面の概ね上下方向(巻軸A方向もしくは分離面が巻軸と直交する方向)に分離する二つの金属圧粉コア109を組み合わせることにより構成されている。金属圧粉コア109それぞれが、一つの成形室で粉末成形される。一対の電極部材107に挟まれた部分を有する側面115aには、異極となる電極部材107の引き出し部分107a、107bが配置されている。ところが、金属圧粉コア109においては、巻線部105を収容するスペースが湾曲していることから、粉末成形時、金型からの抜き出し方向は、巻軸A方向に沿わざるをえず、巻軸A方向と直交する向きを抜き出し方向に設定することは困難となっている。そして、本発明者の分析によると、金属圧粉コアを金型から抜き出す際に、金属圧粉コアが、金型における成形室の側壁と擦れ、金属圧粉コアの外表面における金属粒子が引きずられて延び(面ダレし)、隣接する金属粒子に接近もしくは接触する状態が生じる。換言するならば、金属圧粉コアの外表面において本来露出しているべき電気絶縁樹脂が引きずられて延びた金属によって覆われてしまう部位が生じることによる。このような部位が、側面115aにおいて、ある程度、連続的に発生してしまうと、ショートが生じ得る。
【0024】
これに関し、本実施の形態に係る粉末成形方法によって、金属圧粉コア109を成形すれば、金属圧粉コア109における側面115aとなる部分が、金型3からの抜き出し時に、側壁9と強く擦れることがなくなるため、コア外表面に所期のように電気絶縁樹脂が露出している部分を積極的に残すことができ、コア外表面を介したショートを確実に予防することができる。
【0025】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。例えば、金型の側壁すべてが変形対象である必要はなく、側壁の必要部分のみ変形するように企図されていてもよい。
【符号の説明】
【0026】
3 金型
7 成形室
9 側壁
11 底壁
17 予備圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形室を画定する側壁及び底壁を有する金型を用意するステップと、
前記側壁に対し、前記成形室を狭める方向に予備圧を付与しておくステップと、
前記成形室内に、原料粉末を充填するステップと、
前記予備圧が付与された状態で前記成形室内の前記原料粉末を加圧するステップと、
前記原料粉末の加圧後に、前記予備圧を除去又は低減するステップと、
前記予備圧の除去又は低減後に、前記成形室から成形体を抜き出すステップと
を備える粉末成形方法。
【請求項2】
成形室を画定する側壁及び底壁を有する金型であって、
前記側壁に沿って油圧室が内部に形成され、
前記油圧室に油圧を供給することにより、前記成形室を狭める方向に前記側壁が歪む、
金型。
【請求項3】
金型と、上パンチとを備える粉末成形装置であって、
前記金型は、請求項2に記載された金型であり、
前記上パンチは、前記金型の上方に昇降可能に設けられ、下降時に前記成形室内に進入して、前記成形室内を加圧する、
粉末成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−221290(P2010−221290A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74217(P2009−74217)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)