説明

粉末成形装置およびそれを用いた粉末成形方法

【課題】キャビティへの原料粉末の充填量のバラツキを抑制し、安定して原料粉末をキャビティへ充填する粉末成形装置およびそれを用いた粉末成形方法を提供する。
【解決手段】ウイズドロアル式の粉末成形装置において、ベースプレート31とボルスタ30の間に加圧軸方向に上昇・下降を行う駆動手段33を設けて下固定パンチ32を上昇・下降可能にするとともに、駆動手段による下固定パンチの降下がベースプレートがボルスタと当接することで停止するようにし、駆動手段により下固定パンチを上昇させた状態でキャビティに原料粉末を充填した後、駆動手段により下固定パンチを降下させるとともに下固定パンチの下降と連動させてダイ20を降下し、ベースプレートをボルスタに当接させて下パンチの下降を停止するとともに下パンチの停止と連動させてダイの降下を停止する動作を行って粉末キャビティへの原料粉末の充填を完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として金属粉末からなる圧粉体を焼結する粉末冶金法による焼結機械部品の製造方法において、前記圧粉体を造形するため、主として金属粉末からなる原料粉末をダイの型孔に充填し上下パンチで圧縮成形する、いわゆる押型法による粉末成形装置およびそれを用いた粉末成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法は、金属粉末等からなる原料粉末を所定の形状および寸法に固め、これを溶融しない温度で加熱することにより、粉末粒子を強固に結合して金属製品を製造する技術であり、一般に、金属粉末等を所定の比率で混合して原料粉末を調整する混合工程、混合工程により得られた原料粉末を成形する成形工程、成形工程により得られた成形体を焼結する焼結工程からなる。このような粉末冶金法によれば、ニアネットシェイプに造形することができ、かつ、大量生産に向くこと、および溶製材料では得られない特殊な材料を製造できること、等の特長から、自動車用機械部品や各種産業用の機械部品に適用が進んでいる。
【0003】
上記の成形においては、原料粉末をダイの型孔に充填してこれを上下パンチで圧縮成形して押し固める押型法が、一度型を作成すれば、同じ形状、寸法の成形体を多量に作製できることから、広く採用されており、このための粉末成形装置としては、ウイズドロアル式の粉末成形装置が広く用いられている(特許文献1,2等、非特許文献1等)。
【0004】
ウイズドロアル式の粉末成形装置および粉末成形工程の一例を図7に示す。同装置は、図7(a)に示すように、ボルスタ30上に載置されたベースプレート31に固定された下パンチ32と、下ラム40に連結され昇降可能なヨークプレート41に固定されたコアロッド42と、ヨークプレート41に立設したガイドロッド43の上端に固定された型孔21を有するダイプレート20と、上方に上パンチ50を備えて、これら下パンチ32、コアロッド42及びダイプレート20に設けられている型孔21とによって、粉末キャビティを形成するようになっている。
【0005】
この粉末キャビティに原料粉末10を充填し(図7(a))、上パンチ50を下降させて原料粉末10を圧縮する。このとき、同時に、ヨークプレート41を下降させてダイプレート20及びコアロッド42下降させることにより、相対的に原料粉末10は、下パンチ32による圧縮を受けることとなり、原料粉末10は加圧軸の上下両方向からの圧縮を受けることとなって、上部と下部が均一な密度の成形体を得ることができる(図7(b))。圧縮を完了した後、上パンチ50を上昇させ、ヨークプレート41をさらに降下させることによりダイプレート20とコアロッド42とを下降させて、下パンチ32の上面とダイプレート20の上面と面一とすることで、圧粉体11が型孔21により抜き出されて圧粉体の全体が離型される(図7(c))。
【0006】
図8は、一般的な機械式プレスを用いた場合のウイズドロアル式の粉末成形装置の作動線図の一例である。機械式プレスでは、主軸の回転をクランク機構やナックルジョイント等によりラムの上下動に変換し、主軸が一回転(0〜360°)する間に、上記の原料粉末の充填、原料粉末の圧縮、圧粉体の抜き出しからなる1回の成形工程を行う。原料粉末はフィーダが前進して、ダイ上面と下パンチ上面間に充填深さHで充填され、フィーダがn点で後退し、原料粉末の充填が完了する。フィーダの後退はj点で完了する。上パンチの上面は、主軸の回転角度が0〜180°の間で降下するが、a点で上パンチ上面が充填された原料粉末に当接して上パンチによる原料粉末の加圧が開始される。そして、b点でダイが下降を開始し、上パンチとダイが下降することにより下パンチによる原料粉末の加圧が開始され、c点でダイの下降が停止し下パンチによる加圧が終了し、上パンチがさらに下降してe点で上パンチによる最終加圧が完了する(主軸の回転角度180°)。これらの加圧により原料粉末は圧縮されて高さHの圧粉体が得られる。
【0007】
この後、主軸の回転角度が180〜160°の間で上パンチが上昇するが、f点でダイの下降が開始され、圧粉体の抜き出しが開始され、ダイの正面と下パンチの上面が面一となるg点で圧粉体の抜き出しが完了する。そして、h点でダイの上昇が開始され、後述するフィーダの前進により原料粉末の充填が開始され、i点でダイの復帰が完了するとともに、所定の充填深さの粉末キャビティが形成される。このときフィーダはk点で前進が開始されており、l点で抜き出された圧粉体の払い出しが開始されるとともに、h点でのダイの上昇にともない粉末キャビティへの原料粉末の充填が開始され、m点でフィーダの前進が停止され、圧粉体の払い出しが終了される。これら一連の動作の間、下パンチは固定であり、その位置は一定である。
【0008】
以上の動作は一例であり、非同期3回加圧の例であるが、ダイの下降のタイミングを調整して上下パンチの最終加圧を同期させることができ、上パンチの作動曲線を変更して充填時間を長くしたり、加圧時間を長くしたりすることができる。また、フィーダの前進、後退のタイミングを調整して、粉末キャビティへの原料粉末の充填をダイの上昇が完了して粉末キャビティを形成した後原料粉末を粉末キャビティ内に落下させて充填する落とし込み充填としたり、ダイが上昇する前にフィーダを粉末キャビティ位置に配置しダイの上昇により粉末キャビティを形成するとともに粉末キャビティに原料粉末を吸い込みながら充填する吸い込み充填としたり、初期に落とし込み充填で後期に吸い込み充填となる折衷した充填としたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−0269600号公報
【特許文献2】特開2002−192393号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】焼結部品の成形技術 発行者:日本粉末冶金工業会 2004年5月14日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
粉末冶金法による焼結機械部品の製造方法においては、安定した寸法で製造するためには、粉末キャビティへの原料粉末の充填量を如何に安定させるかが重要である。上記の落とし込み充填においては、粉末キャビティ内部の空気と原料粉末の置換が円滑に行われないと空気の閉じ込めが発生して粉末キャビティへの原料粉末の充填量のバラツキが生じ易い。一方、吸い込み充填においては空気の置換は不要で落とし込み充填に比して均一な原料粉末の充填が果たされるが、フィーダ内の原料粉末にブリッジングが生じているとこれがそのまま充填されるため、ある程度の原料粉末の充填量のバラツキが生じ得る。また、これらの充填方法は、いずれも原料粉末の嵩密度(3.0〜3.3Mg/m程度)以上の充填はできない。しかしながら、上記の原料粉末の充填は、粉末キャビティの容積で計量されることから、このような低密度では、わずかのバラツキで粉末キャビティに充填される原料粉末の量が大きくばらつくこととなる。
【0012】
これらのことから、本発明は、粉末キャビティへの原料粉末の充填量のバラツキを抑制し、安定して原料粉末を粉末キャビティへ充填する粉末成形装置およびそれを用いた粉末成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の粉末成形装置は、ボルスタ上に載置されたベースプレートに固定された下固定パンチと、昇降可能なヨークプレートに立設されたガイドロッドの上端に固定された型孔を有するダイプレートと、上方に上パンチを備えたウイズドロアル式の粉末成形装置であって、前記ベースプレートと前記ボルスタの間に、加圧軸方向に上昇・下降を行う駆動手段を設けて、下固定パンチを上昇・下降可能にするとともに、前記駆動手段による下固定パンチの降下が、前記ベースプレートが前記ボルスタと当接することで停止するようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の粉末成形方法は、下固定パンチおよびダイプレートに設けた型孔とによって形成した粉末キャビティに原料粉末を充填し、上パンチを下降させながら、ヨークプレートの下降に伴うダイプレートの下降によって、粉末キャビティに充填された粉末を圧縮するウイズドロアル法による粉末成形方法において、上記の本発明の粉末成形装置を用い、粉末キャビティに原料粉末を充填した後、もしくは充填しながら、前記駆動手段により前記ベースプレートを上昇させて前記下固定パンチを上昇させるとともに、前記下固定パンチの上昇と連動させて前記ダイプレートを上昇させ、または、前記駆動手段により前記ベースプレートを上昇させて前記下固定パンチを上昇させるとともに、前記下固定パンチの上昇と連動させて前記ダイプレートを上昇させた後、粉末キャビティに原料粉末を充填し、その後、前記駆動手段により前記ベースプレートを降下させて下固定パンチを降下させるとともに、前記下固定パンチの下降と連動させて前記ダイプレートを降下し、
前記ベースプレートを前記ボルスタに当接させて前記下パンチの下降を停止するとともに、前記下パンチの停止と連動させて前記ヨークプレートの降下を停止してダイの降下を停止する動作を行って粉末キャビティへの原料粉末の充填を完了することを特徴とする。
【0015】
上記の粉末成形装置および粉末成形方法においては、ベースプレートとダイプレートの間に、バネで上方へ付勢されたリフティングロッドで支持されている浮動パンチプレートに固定された下浮動パンチを配置してもよく、ヨークプレートにコアロッドを固定して配置してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉末成形装置および粉末成形方法においては、粉末キャビティ内に充填する原料粉末の密度を嵩密度より高くして充填できるため、充填量のバラツキが抑制され、安定した寸法の圧粉体を成形でき、安定した寸法の製品を得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の粉末成形装置の構造を示す縦断面図であり、これを用いた粉末充填工程を説明する図である。
【図2】同装置を用いた圧縮工程および抜き出し工程を説明する図である。
【図3】同装置における、上パンチ、ダイ、フィーダの動作の一例を示す作動線図である。
【図4】本発明の粉末成形装置の別の構造を示す縦断面図であり、これを用いた粉末成形工程を説明する図である。
【図5】本発明の粉末成形装置の別の構造を示す縦断面図であり、図4に続いてこれを用いた粉末成形工程を説明する図である。
【図6】本発明の粉末成形装置の別の構造を示す縦断面図であり、図5に続いてこれを用いた粉末成形工程を説明する図である。
【図7】従来の粉末成形装置の構造を示す縦断面図であり、これを用いた粉末成形工程を説明する図である。
【図8】従来の粉末成形装置における、上パンチ、ダイ、フィーダの動作の一例を示す作動線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施態様を説明する。図1〜2は、本発明の粉末成形装置の構造を説明するとともに成形工程における各部の動作を説明する縦断面図である。ウイズドロアル式の各プレートの配置構成は図10に示したものと同様であり、同様な構成部品は同一符号で示す。ベースプレート31がボルスタ30上に載置される点、下パンチ32がベースプレート31に固定されている点、およびヨークプレート41が下ラム40に連結され、コアロッド42がヨークプレート41に固定されるとともに、型孔21を有するダイプレート20がガイドロッド43を介してヨークプレート41に固定される点は従来と同様である。
【0019】
図7に示す従来の粉末成形装置と異なる点は、ボルスタ30とベースプレート31との間に、油圧シリンダもしくはサーボモータ等からなる駆動手段33を設けたことである。この駆動手段33により、下パンチ32とともにベースプレート31は、ガイドバー34に案内され加圧軸方向に上昇・下降が行われる。また、ベースプレート31の下降はボルスタ30と当接することで、それ以上下降しないよう配置される。
【0020】
次に、このような駆動手段33を有する本発明の粉末成形装置を用いる本発明の粉末成形方法について説明する。下パンチ32、コアロッド42および型孔21とによって形成した粉末キャビティを覆う位置にフィーダ70を配置し、粉末キャビティ内に原料粉末10を充填する(図1(a))。次いで、図1(b)に示すように、駆動手段33を駆動してベースプレート31および下パンチ32を加圧軸方向に上昇させると同時に、この下パンチ32の上昇と同期するよう、下ラム40を加圧軸方向に上昇させてダイプレート20およびコアロッド42を上昇させる。このとき下パンチ32とダイプレート20の型孔21およびコアロッド42は同期して上昇するため、粉末キャビティの形状が維持されて上昇する。
【0021】
この後、駆動手段33を逆方向に駆動してベースプレート31および下パンチ32を加圧軸方向に降下させると同時に、この下パンチ32の降下と同期して、下ラム40を加圧軸方向に降下させて粉末キャビティの形状を維持したままダイプレート20およびコアロッド42を降下させる。この降下はベースプレート31がボルスタ30に当接して着座することで急停止される。この降下において、原料粉末10は下向きの慣性力を与えられるが、ベースプレート31の下降が急停止することにより、粉末キャビティ内の原料粉末10には下向きの慣性力により圧縮される方向に荷重が加わることになる。また、粉末キャビティ内の原料粉末10にはベースプレート着座時の衝撃が伝播されて原料粉末10内のブリッジングの解砕が行われる。これらの慣性力および衝撃により粉末キャビティ内の原料粉末10は、図1(c)に示すように、嵩密度よりも高い密度で充填されることとなり、従来に比して、充填量が安定することとなる。
【0022】
なお、粉末キャビティへの原料粉末10の充填は、上記の下パンチ32、コアロッド42およびダイプレート20の上昇の前に行ってもよく、これらの上昇の過程で行ってもよく、これらの上昇後に行ってもよい。また、フィーダ70は、粉末キャビティ内の原料粉末10の密度が増加して不足した分の原料粉末を追加して供給できるよう、降下完了の際まで、粉末キャビティを覆う位置に配置される。
【0023】
充填完了後の原料粉末の圧縮、圧粉体の抜き出しは、従来のウイズドロアル式の粉末成形方法と同じである。すなわち、フィーダを後退させて、図2(d)に示すように、上パンチ50を降下させて原料粉末10に当接させた後、図2(e)に示すように、上パンチ50を下降させて原料粉末10を圧縮するとともに、ヨークプレート41を下降させてダイプレート20及びコアロッド42下降させることにより原料粉末10を下パンチ32により圧縮する。圧縮完了後は、上パンチ50を上昇させるとともに、ヨークプレート41をさらに降下させて、下パンチ32の上面とダイプレート20およびコアロッド42の上面と面一とすることで、図2(f)のように、圧粉体11が型孔21により抜き出されて圧粉体11の全体が離型される。
【0024】
図3は、本発明の粉末成形方法を図8に示す一般的なウイズドロアル式機械式プレスに適用した場合の作動線図の一例であり、説明のため図8のものと主軸の回転角度を90°ずらして記載してある。図8の一般的なウイズドロアル式機械式プレスにおける作動線図と異なる点は、ダイ上面のi−s−t−u点および下パンチ上面のo−p−q−r点の動作が追加されている点である。すなわち、本発明例においては、i点でダイの復帰が完了した後、引き続きダイをs点まで上昇させる。このとき、下パンチ上面について、ダイがi点に到達するのと同時のo点で駆動手段により上昇を開始するとともに、ダイの上昇速度と同じ速度で下パンチ上面を、ダイの上昇が停止するs点と同時のp点まで上昇させる。その後、ダイ上面および下パンチ上面を同時(t点およびq点)に同じ速度で降下させ下パンチがボルスタに当接して降下が停止するr点と同時のu点でダイの降下を停止する。このダイ上面および下パンチ上面の動作により、上記の原料粉末への慣性力および衝撃の作用により粉末キャビティ内の原料粉末の密度を高める訳である。なお、その他の動作については従来のウイズドロアル式のものと同じであり、本来固定される下パンチを駆動手段により可動としているものの、圧縮および抜き出し時に下パンチは固定であり、ウイズドロアル式のものである。このため種々の改良されたウイズドロアル式の成形方法に適用可能である。
【0025】
上記の作動線図はクランク式機械式プレスの場合の例であるが、本発明の粉末成形装置および粉末成形方法は、機械式プレスに限定されるものではなく、サーボモータにより各部を機械的に駆動する機械式プレスや、サーボモータにより油圧を制御して各部を駆動する油圧プレス等にも適用可能であり、サーボモータを電子制御するCNCプレスにも適用可能である。
【0026】
上記の例は下パンチが一つの単純形状の場合の例であるが、本発明の粉末成形装置および粉末成形方法は、段付き圧粉体を成形するため下パンチを内外に分割した成形金型装置にも適用可能である。この下パンチを内外に分割した成形金型装置に適用した実施態様につき以下に説明する。図4〜6は、本発明の粉末成形装置の構造および成形工程における各部の動作を説明する縦断面図であり、図4(a)は原料粉末の充填工程の初期、図4(b)は駆動手段により下パンチとダイおよびコアロッドを上昇させた状態、図5(c)は駆動手段により下パンチとダイおよびコアロッドを降下させた状態、図5(d)は上パンチを降下させて原料粉末に当接させた状態、図6(e)は最終加圧状態、図6(f)は抜き出し状態である。
【0027】
本実施形態においては、下パンチは下固定パンチ32(内側)と下浮動パンチ61(外側)に分割されて構成される。下固定パンチ32は、ベースプレート31上に固定され、ベースプレート31とボルスタ30間に油圧シリンダもしくはサーボモータ等からなる駆動手段33が配置される。この駆動手段33により、下固定パンチ32とともにベースプレート31は、ガイドバー34に案内され加圧軸方向に上昇・下降が行われる。また、ベースプレート31の下降はボルスタ30と当接することで、それ以上下降しないよう配置される。ヨークプレート41は、下ラム40に連結され、ヨークプレート41にコアロッド42が配置されるとともに、上端に型孔21を有するダイプレート20が固定されたガイドロッド43が配置される。下浮動パンチ61は浮動パンチプレート60に固定され、浮動パンチプレート60は、ヨークプレート41に設けられたバネ、エアシリンダ等の浮動手段65により上方へ付勢された浮動ロッド64を介して浮動支持される。
【0028】
粉末キャビティは、これら下固定パンチ32、下浮動パンチ61、コアロッド42およびダイプレート20に設けた型孔21とによって形成され、粉末キャビティを覆う位置にフィーダ70を配置し、粉末キャビティ内に原料粉末10を充填する(図4(a))。次いで、図4(b)に示すように、駆動手段33を駆動してベースプレート31および下パンチ32を加圧軸方向に上昇させると同時に、この下パンチ32の上昇と同期するよう、下ラム40を加圧軸方向に上昇させてヨークプレート41を上昇させ、ダイプレート20およびコアロッド42を上昇させる。このときヨークプレート41に設けられた浮動手段65により浮動支持された浮動パンチプレート60も上昇され浮動下パンチ61も上昇する。このため下固定パンチ32、下浮動パンチ61、コアロッド42およびダイプレート20に設けた型孔21とによって形成される粉末キャビティは、形状が維持されて上昇する。
【0029】
この後、駆動手段33を逆方向に駆動してベースプレート31および下固定パンチ32を加圧軸方向に降下させると同時に、この下固定パンチ32の降下と同期して、下ラム40を加圧軸方向に降下させてヨークプレート41を降下させ、粉末キャビティの形状を維持したままダイプレート20、コアロッド42および下浮動パンチ61を降下させる。この降下はベースプレート31がボルスタ30に当接して着座することで急停止される(図5(c))。この降下において、原料粉末10は下向きの慣性力を与えられるが、ベースプレート31の下降が急停止することにより、粉末キャビティ内の原料粉末10には下向きの慣性力により圧縮される方向に荷重が加わることになる。また、粉末キャビティ内の原料粉末10にはベースプレート着座時の衝撃が伝播されて原料粉末10内のブリッジングの解砕が行われる。この降下および着座による急停止により、上記のように、慣性力および衝撃を粉末キャビティ内の原料粉末10に与えて粉末キャビティ内の原料粉末10の密度を高める。フィーダ70は、粉末キャビティ内の原料粉末の密度が増加して不足した分の原料粉末を追加して供給できるよう、降下完了の際まで、粉末キャビティを覆う位置に配置される。
【0030】
充填完了後の原料粉末の圧縮、圧粉体の抜き出しは、従来のウイズドロアル式の粉末成形方法と同様に行う。すなわち、フィーダ70を後退させて、図5(d)に示すように、上パンチ50を降下させて原料粉末10に当接させた後、図6(e)に示すように、上パンチ50を下降させて原料粉末10を圧縮するとともに、ヨークプレート41を下降させてダイプレート20及びコアロッド42下降させることにより原料粉末10を下パンチ32により圧縮する。このとき下浮動パンチ61は、浮動手段65による上方への付勢力より上パンチ50の加圧力が大きくなる結果、下方へ移動するが、浮動パンチプレート60の下方に向けて設けられたストッパ63がヨークプレート41上に加圧軸と鉛直方向に摺動自在に配置されたスライディングブロック44に当接して下固定パンチ32と下浮動パンチ61との段差が固定された状態となって、粉末キャビティ内の粉末10が圧縮される。
【0031】
圧縮を完了した後、上パンチ50を上昇させ、ダイプレート20とコアロッド42とを下降させると、図6(f)のように、圧粉体11が離型される。このとき、浮動パンチプレート60の上方に向けて設けられた抜き出し調整ロッド62がダイプレート21に当接するとともに、ダイプレートの下方に向けて設けられたウエッジロッド22によって、スライディングブロック44が加圧軸と鉛直方向(図の左右方向)に移動することにより、浮動パンチプレート60の下方が開放され、さらにヨークプレート41を下降させてダイプレート20、コアロッド42およびの下浮動パンチ61を下降させることにより、浮動パンチプレート60のストッパ63がベースプレート31に当接してダイプレート20と面一になるとともに、下固定パンチ32はダイプレート20と面一になり、圧粉体11の全体が離型される。
【0032】
上記のように、本発明の粉末成形装置および粉末成形方法は、下多段パンチの場合にも適用可能であり、段数が増えても同様の効果を得ることができる。なお、上記の例はコアロッド42を配して中空な圧粉体を成形する場合のものであるが、コアロッド42を廃して、中実な圧粉体を成形することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上記のように、本発明の粉末成形装置および粉末成形方法は、下パンチが一段もしくは多段の各種ウイズドロアル式の粉末成形装置に適用可能であり、粉末冶金法による各種焼結機械部品の製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
10 原料粉末
11 圧粉体
20 ダイプレート
21 型孔
22 ウエッジロッド
30 ボルスタ
31 ベースプレート
32 下パンチ(下固定パンチ)
33 駆動手段
34 ガイドバー
40 下ラム
41 ヨークプレート
42 コアロッド
43 ガイドロッド
44 スライディングブロック
50 上パンチ
60 浮動パンチプレート
61 下浮動パンチ
62 抜き出し調整ロッド
63 ストッパ
64 浮動ロッド
65 浮動手段
70 フィーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルスタ上に載置されたベースプレートに固定された下固定パンチと、
昇降可能なヨークプレートに立設されたガイドロッドの上端に固定された型孔を有するダイプレートと、
上方に上パンチを備えたウイズドロアル式の粉末成形装置であって、
前記ベースプレートと前記ボルスタの間に、加圧軸方向に上昇・下降を行う駆動手段を設けて、下固定パンチを上昇・下降可能にするとともに、
前記駆動手段による下固定パンチの降下が、前記ベースプレートが前記ボルスタと当接することで停止するようにしたことを特徴とする粉末成形装置。
【請求項2】
前記ベースプレートと前記ダイプレートの間に、バネで上方へ付勢されたリフティングロッドで支持されている浮動パンチプレートに固定された下浮動パンチを備えることを特徴とする請求項1に記載の粉末成形装置。
【請求項3】
前記ヨークプレートに固定されたコアロッドを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末成形装置。
【請求項4】
下固定パンチおよびダイプレートに設けた型孔とによって形成した粉末キャビティに原料粉末を充填し、上パンチを下降させながら、ヨークプレートの下降に伴うダイプレートの下降によって、粉末キャビティに充填された粉末を圧縮するウイズドロアル法による粉末成形方法において、
請求項1に記載の粉末成形装置を用い、
粉末キャビティに原料粉末を充填した後、もしくは充填しながら、前記駆動手段により前記ベースプレートを上昇させて前記下固定パンチを上昇させるとともに、前記下固定パンチの上昇と連動させて前記ダイプレートを上昇させ、または、
前記駆動手段により前記ベースプレートを上昇させて前記下固定パンチを上昇させるとともに、前記下固定パンチの上昇と連動させて前記ダイプレートを上昇させた後、粉末キャビティに原料粉末を充填し、
その後、前記駆動手段により前記ベースプレートを降下させて下固定パンチを降下させるとともに、前記下固定パンチの下降と連動させて前記ダイプレートを降下し、
前記ベースプレートを前記ボルスタに当接させて前記下パンチの下降を停止するとともに、前記下パンチの停止と連動させて前記ヨークプレートの降下を停止してダイの降下を停止する動作を行って粉末キャビティへの原料粉末の充填を完了することを特徴とする粉末成形方法。
【請求項5】
前記ベースプレートと前記ダイプレートの間に、浮動手段により上方へ付勢された浮動ロッドで支持されている浮動パンチプレートに固定された下浮動パンチを備え、前記粉末キャビティを前記下固定パンチ、前記下浮動パンチおよび前記ダイプレートに設けた前記型孔により形成することを特徴とする請求項4に記載の粉末成形方法。
【請求項6】
前記ヨークプレートに固定されたコアロッドを備え、前記粉末キャビティを前記下固定パンチ、前記コアロッドおよび前記ダイプレートに設けた前記型孔により形成する、もしくは前記粉末キャビティを前記下固定パンチ、前記コアロッド、前記下浮動パンチおよび前記ダイプレートに設けた前記型孔により形成することを特徴とする請求項4または5に記載の粉末成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−177739(P2011−177739A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43433(P2010−43433)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)