説明

粉末成形装置

【課題】粉末成形装置におけるダイ固定方式とウィズドローアル方式とを切替える切替え作業を容易な粉末成形装置を提供すること。
【解決手段】充填部Aが形成されたダイ11と、下パンチ21と、上パンチ31と、下パンチ21とダイ11とを相対移動可能とする下ラム61とを備えた粉末成形装置1であって、ダイ11が固定されて、下ラム61に接続された下パンチ21がダイ11に対して進退させられるダイ固定成形方式と、下パンチ21が固定されて、下ラム61に接続されたダイ11が下パンチ21に対して進退させられるウィズドローアル成形方式とを切替える切替手段80を備え、切替手段80は、成形方式が入力される入力部82と、下ラム61の位置を検出する検出手段89と、成形方式にもとづいて下ラム61を原点位置に移動させる制御部88とからなる調整手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末成形品を成形する粉末成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車部品や電子部品の分野において、金属粉末を圧粉体に成形し、その圧粉体を焼結することによって製造する粉末冶金焼結法が広く用いられている。
粉末冶金焼結法としては、ダイと、ダイとともに充填部を画成する下パンチと、充填部に向かい進退可能に支持された上パンチとを備えており、充填部内に成形粉末が充填されたときに、下パンチと上パンチとによって金属粉末を圧縮して所望の成形品を形成する構成が知られ、ダイの形成された充填部に成形粉末が充填され、上パンチが充填部に向かい進入し、充填部内に充填された成形粉末を押圧することで粉末成形品が成形される。
【0003】
このような構成された粉末成形装置において、圧粉成形品の密度を均一に近づけるために、圧粉に際しては、ダイと下パンチとを上パンチの下降に対応して相対移動させることで充填部内の金属粉末を上下から押圧することが望ましい。
このように、ダイに対して下パンチを相対移動させて金属粉末を成形する場合、ダイを固定して下パンチをダイに対して前進させることにより充填部内の金属粉末を下方から圧粉する、例えば特許文献1に示されるようなダイ固定方式と、下パンチを固定してダイが下降することにより充填部内の金属粉末を相対的に下方から圧粉する、例えば特許文献2に示されるようなウィズドローアル方式とが実用化されている。
【特許文献1】特開平1−181997号公報
【特許文献2】特開平5−92299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダイ固定方式を適用する場合とウィズドローアル方式を適用する場合とでは、ダイセットの構成、ダイセットと粉末成形プレスとの取り合い関係、及び粉末成形装置の動作順序が異なるために、いずれの成形方式のダイセットにも対応可能とすることは困難であるという問題があった。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、ダイ固定方式とウィズドローアル方式のいずれの成形方式に対しても容易に対応可能とされる粉末成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載された発明は、金属粉末が充填される充填部が形成されたダイと、前記ダイに対して相対移動可能に取り付けられ、前記ダイとともに充填部を画成する下パンチと、前記ダイの上方に配置され、前記ダイに対して進退可能に支持された上パンチと、前記下パンチと前記ダイとを相対移動可能とする下ラムとを備えた粉末成形装置であって、前記ダイが固定されて、前記下ラムに接続された下パンチが前記ダイに対して進退させられるダイ固定成形方式と、前記下パンチが固定されて、前記下ラムに接続されたダイが前記下パンチに対して進退させられるウィズドローアル成形方式とを切替える切替手段を備え、前記切替手段は、成形方式が入力される入力部と、前記下ラムの位置を検出する検出手段と、前記入力された成形方式にもとづいて前記下ラムを原点位置に移動させる制御部とからなる調整手段を有することを特徴とする。
【0007】
この発明に係る粉末成形装置によれば、ダイが固定されて下ラムに接続された下パンチがダイに対して進退させられるダイ固定成形方式と、下パンチが固定されて下ラムに接続されたダイが下パンチに対して進退させられるウィズドローアル成形方式とを切替える切替手段を備え、切替手段が、成形方式が入力される入力部と、下ラムの位置を検出する検出手段と、入力された成形方式にもとづいて下ラムを原点位置に移動させる制御部とからなる調整手段を有しているので、入力部から成形方式を入力することにより、制御部は入力された成形方式の原点位置に向けて下ラムを移動させ、下ラムが原点位置にあることが検出手段によって検出されると、下ラムを原点位置に停止させる。
その結果、下ラムは、入力された成形方式に対応する原点位置に調整され、ダイ及び下パンチの位置を対応する成形方式に容易に対応させられる。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の粉末成形装置であって、前記制御部は、前記下ラムを前記成形方式に対応した順序で作動させることを特徴とする。
【0009】
この発明に係る粉末成形装置によれば、前記制御部はそれぞれの成形方式に対応した順序で下ラムを作動させることができるので、対応する成形方式に応じて粉末成形を行うことができる。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2に記載の粉末成形装置であって、前記入力部は、前記成形方式を区別するための識別部を検出する識別センサを備え、前記識別部は、金型に設けられていることを特徴とする。
【0011】
この発明に係る粉末成形装置によれば、入力部が、成形方式を区別するための識別部を検出する識別センサを備えて、金型に設けられた識別部を検出して、各金型に対応する成形方式を人手によらずに識別することができる。その結果、人手による作業が省力化され、人が識別することによる誤操作が防止される。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載の粉末成形装置であって、前記制御部は、前記識別センサの検出結果に基づいて、前記下ラムの位置を自動で原点位置に調整することを特徴とする。
【0013】
この発明に係る粉末成形装置によれば、金型に設けられた識別部を識別センサで検出し、その検出結果に基づいて、自動で下ラムが原点位置に調整される。その結果、金型交換時に、成形方式を人手により入力する必要がなくなり、作業の省力化の実現と、自動化を容易にすることができる。
【0014】
請求項5に記載された発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の粉末成形装置であって、前記検出手段は、前記ダイ固定成形方式の原点位置を検出する第1の位置センサと、前記ウィズドローアル成形方式の原点位置を検出する第2の位置センサとを備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明に係る粉末成形装置によれば、検出手段が、ダイ固定成形方式の原点位置を検出する第1の位置センサと、ウィズドローアル成形方式の原点位置を検出する第2の位置センサとを備えていて、それぞれの成形方式に対応した原点位置に下ラムが移動される。その結果、下ラムが原点位置にあるかどうかが確実に検出されるので、確実な動作とメンテナンスの容易化を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る粉末成形装置によれば、粉末成形プレスに、ダイ固定方式とウィズドローアル方式のいずれのダイセットも取付け可能であるとともに、取付けられたダイセットの成形方式に対応する成形動作を行なうことが可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は、この実施形態の粉末成形装置1を示す図であり、粉末成形装置1は、ダイセット(金型)10と、粉末成形プレス50と、ダイ固定成形方式とウィズドローアル成形方式とを切替え自在とする切替手段80とを備えている。
ここで、ダイ固定成形方式とは、ダイが固定された状態で下ラムに接続された下パンチがダイに対して進退させられる成形方式であり、ウィズドローアル成形方式とは、下パンチが固定された状態で下ラムに接続されたダイが下パンチに対して進退させられる成形方式である。
【0018】
ダイセット10は、金属粉末Pが充填される充填部Aが形成されたダイ11と、ダイ11に対して相対移動可能に取り付けられ、ダイ11とともに充填部Aを画成する下パンチ21と、ダイ11の上方に配置されダイ11に対して進退可能に支持された上パンチ31とを備えている。
【0019】
ダイ11は、ダイプレート12の中央部に配置されており、ダイプレート12には、ガイド孔18Hが形成されている。
【0020】
下パンチ21は、ダイ固定式成形方式の場合には、図1に示すように本体ベッド68上に固定されたベースプレート14と相対的に移動可能とされた下パンチプレート13に立設されている。
この場合、下パンチプレート13は、押上ロッド41を介して押上プレート44と接続されるとともに、押上プレート44がT型ジョイント45を介して下ラム61と接続されており、下ラム61が上下方向に進退することで、下パンチ21及び下パンチプレート13は、押上プレート44とともに上下方向に移動するようになっている。
また、ダイプレート12は、支持部材42を介してベースプレート14に固定されている。
【0021】
ウィズドローアル成形方式の場合には、下パンチ21は、図2に示すように、ベースプレート14に立設されている。
この場合、ダイ11及びダイプレート12は、押上ロッド41を介して押上プレート44と接続されるとともに、押上プレート44がT型ジョイント45を介して下ラム61と接続されており、下ラム61が上下方向に進退することで、ダイ11及びダイプレート12が上下方向に移動するようになっている。
ここで、ダイ固定式成形方式とウィズドローアル成形方式のダイセット10において用いられるT型ジョイント45は、共通の形状、寸法を有しており、ともに下ラム61に接続自在とされている。
【0022】
上パンチ31は、上パンチプレート34に固定されるとともに、上パンチプレート34に下方(ダイ11の方向)に向けて立設され、ダイ11の充填部Aに嵌挿可能とされている。
また、上パンチプレート34は、その上部に設けられたTジョイント37を介して上ラム71に接続され、上ラム71が上ラム駆動モータ72によって、上パンチ31とともに上下方向に移動するようになっている。
【0023】
また、上パンチプレート34には、ガイドロッド18が立設されるとともにダイプレート12に形成されたガイド孔18Hに摺動自在に挿入され、上パンチ31が、ダイ11に対して上下方向に移動する際にダイ11とずれるのを抑制するようになっている。
【0024】
また、ダイセット10は、例えば、ベースプレート14に、識別センサによって有無が検出可能な識別孔(識別部)15を備えており、ダイセット10が「ダイ固定成形方式」と「ウィズドローアル成形方式」のいずれの成形方式に対応するものであるかが識別可能とされている。
この実施の形態においては、「ダイ固定成形方式」の場合には、識別孔15Aが、「ウィズドローアル成形方式」の場合には、識別孔15Bが形成されている。
【0025】
粉末成形プレス50は、この粉末成形プレス50で使用されるダイ固定式成形方式とウィズドローアル成形方式のダイセット10の双方に最大寸法に対応自在な代セット取付スペースを有するものであり、プレス下側本体部60と、プレス上側本体部70とを備えており、プレス下側本体部60とプレス上側本体部70とは、連結部材52で連結されている。
プレス下側本体部60は、下ラム61と、下ラム駆動モータ62と、下ラム駆動部支持板63と、回転軸支持板64と、下ラムベースプレート65と、廻り止めロッド66と、下ラムガイドプレート67と、本体ベッド68とを備えており、下ラム駆動部支持板63と、回転軸支持板64と、下ラムベースプレート65と、下ラムガイドプレート67と、本体ベッド68とは、下方からこの順序で配置され、廻り止めロッド66は、下ラムベースプレート65と下ラムガイドプレート67との間に立設されている。
【0026】
下ラム駆動モータ62は、回転軸62Aを上方(ダイ11の方向)に向けて、下ラム駆動部支持板63に固定されており、回転軸62Aの先端部には雄ネジ62Bが形成されている。
下ラム61は、下ラム61の下方側に、雄ネジ62Bと係合可能な雌ねじ61Bが形成され、下ラム61の外周は下ラムガイドプレート67に設けられたガイド部材67Aに挿入されるとともに上下方向に摺動自在とされ、下ラム61は基端部(下方側)が下ラムベースプレート65に固定されるとともに下ラムベースプレート65に立設されている。
【0027】
下ラムベースプレート65は、その中央部に貫通孔65Aが形成され、下ラム61の雌ネジ孔61Aが貫通孔65Aと同心とされ、下ラム61の雌ネジ孔61Aには下ラム駆動モータ62の回転軸62Aが挿入され、雄ネジ62Bと雌ネジ61Aが係合されている。
また、雌ネジ61Aは、ダイ固定式成形方式のダイセット10を取り付けた場合に雄ネジ62Bが雄ネジ62Bに対して相対的に下降するとともに、ウィズドローアル成形方式のダイセット10を取り付けた場合に雄ネジ62Bが雄ネジ62Bに対して相対的に上昇して接続する構成とされる。
そのため、雌ネジ61Aの軸線方向の長さは、成形可能とされる粉末成形品Wの成形ストロークの1/2以上の距離を雄ネジ62Bが移動できるように形成されている。
【0028】
また、下ラムベースプレート65に形成された孔65Bに廻り止めロッド66が貫通されることにより、下ラム駆動モータ62の回転軸62Aが回転した場合に、下ラム61及び下ラムベースプレート65が回転するのが防止されている。
その結果、下ラム駆動モータ62の回転軸62Aが回転されると、回転軸62Aの雄ネジ62Bと下ラム61の雌ネジ61Aが係合して、下ラム駆動モータ62の回転が上下方向の移動に変換され、下ラム61が上下方向に進退するようになっている。
【0029】
プレス上側本体部70は、上ラム71と、上ラム駆動モータ72と、上ラム駆動部支持板73と、回転軸支持板74と、上ラムベースプレート75と、廻り止めロッド76と、上ラムガイドプレート77とを備えており、上ラム駆動部支持板73と、回転軸支持板74と、上ラムベースプレート75と、上ラムガイドプレート77とは、上方からこの順序で配置され、廻り止めロッド76は、上ラムベースプレート75と上ラムガイドプレート77との間に立設されている。
【0030】
上ラム駆動モータ72は、回転軸72Aを下方(ダイ11の方向)に向けて、上ラム駆動部支持板73に固定されており、回転軸72Aの先端部には雄ネジ72Bが形成されている。
上ラム71は、上ラム71の上方側に、雄ネジ72Bと係合可能な雌ねじ71Bが形成され、上ラム71の外周は上ラムガイドプレート77に設けられたガイド部材77Aに挿入されるとともに上下方向に摺動自在とされ、上ラム71は基端部(上方側)が上ラムベースプレート75に固定されるとともに上ラムベースプレート75に立設されている。
【0031】
上ラムベースプレート75は、その中央部に貫通孔75Aが形成され、上ラム71の雌ネジ孔71Aが貫通孔75Aと同心とされ、上ラム71の雌ネジ孔71Aには上ラム駆動モータ72の回転軸72Aが挿入され、雄ネジ72Bと雌ネジ71Aが係合されている。
【0032】
また、上ラムベースプレート75に形成された孔75Bに廻り止めロッド76が貫通されることにより、上ラム駆動モータ72の回転軸72Aが回転した場合に、上ラム71及び上ラムベースプレート75が回転するのが防止されている。
その結果、上ラム駆動モータ72の回転軸72Aが回転されると、回転軸72Aの雄ネジ72Bと上ラム71の雌ネジ71Aが係合して、上ラム駆動モータ72の回転が上上方向の移動に変換され、上ラム71が上下方向に進退するようになっている。
【0033】
切替手段80は、「ダイ固定成形方式」と「ウィズドローアル成形方式」のいずれかの成形方式が入力される入力部82と、下ラム61の位置を検出する検出手段89と、入力された成形方式にもとづいて下ラム61を、それぞれの成形方式に対応する原点位置に移動させる制御部88とからなる調整手段を備えている。
【0034】
入力部82は、セレクトスイッチ82Aを備え、セレクトスイッチ82Aは、「ダイ固定成形方式」スイッチと、「ウィズドローアル成形方式」スイッチと、「自動モード」スイッチとを備えており、「ダイ固定成形方式」スイッチ及び「ウィズドローアル成形方式」スイッチは、作業者が手動で入力することにより「ダイ固定成形方式」、「ウィズドローアル成形方式」を選択するようになっている。
【0035】
また、「自動モード」のときには、金型に形成された識別孔15に基づく成形方式の識別情報が、識別センサ85A、85Bから制御部88に直接入力され、制御部88は、その識別情報に基づいて、ダイセット10が「ダイ固定成形方式」と「ウィズドローアル成形方式」のいずれの成形方式のものであるかを区別するようになっている。
この実施の形態では、識別センサ85Aが識別孔15Aの存在を検出すると、ダイ固定成形方式とされ、識別センサ85Bが識別孔15Bの存在を検出すると、ウィズドローアル成形方式とされている。
【0036】
検出手段89は、下ラム61の上下方向の位置を検出するためのものであり、ダイ固定成形方式の原点位置を検出する第1の位置センサ89Aと、ウィズドローアル成形方式の原点位置を検出する第2の位置センサ89Bと、下ラム61に設けられた位置検出部材89Cとを備えており、位置検出部材89Cを第1の位置センサ89A又は第2の位置センサ89Bが検出することによって、下ラム61が、ダイ固定成形方式又はウィズドローアル成形方式の原点位置に位置しているのを検出するようになっている。
この実施の形態では、第1の位置センサ89Aと第2の位置センサ89Bは、リニアスケールに設けられている。
【0037】
制御部88は、入力部82と、切替スイッチ91と、自動起動スイッチ92と、検出手段89とから信号が入力されるようになっており、また、下ラムドライバ94、上ラムドライバ95を介して、下ラム駆動モータ61、上ラム駆動モータ71を駆動するようになっている。
【0038】
セレクトスイッチ82Aが「自動モード」の場合に、切替スイッチ91を「ON」にすると、制御部88は、識別センサ85A、85Bの検出結果に基づいて、ダイセット10が「ダイ固定成形方式」及び「ウィズドローアル成形方式」のいずれの成形方式であるかを区別して、必要に応じて下ラム駆動モータ62を回転させるとともに下ラム61を対応する成形方式の原点位置に自動で移動して調整をするようになっている。
【0039】
また、「自動運転」モードにおいて、自動起動スイッチ92を「ON」にすると、下ラム61、上ラム71等は、図示しない記録装置に予め記録された動作手順に従って粉末成形プレス50を自動で作動させるようになっている。
【0040】
以上のように構成された粉末成形装置1の成形方式を切替える場合、及び粉末成形品Wを生産する場合について、ダイ固定成形方式、ウィズドローアル成形方式に分けて説明する。
【0041】
<ダイ固定成形方式>
まず、手動により、「ダイ固定成形方式」に切替える場合について説明する。
「ダイ固定成形方式」のダイセット10を粉末成形プレス50に取付ける。
セレクトスイッチ82を「ダイ固定成形方式」に切替えて、切替スイッチ91を「ON」にする。
自動切替スイッチ91が「ON」にされると、下ラム駆動モータ62が駆動して回転軸62Aが回転し、回転軸62Aの雄ネジ62Bが下ラム61の雌ネジ62Bに係合するとともに、回転軸62Aの回転が下ラム61の上下方向の移動に変換される。
【0042】
第1の位置センサ89Aの位置に下ラム61の位置検出部材89Cが到達して、第1の位置センサ89Aが下ラムがダイ固定成形方式の原点位置に到達したのを検出すると下ラム駆動モータ62の駆動が停止する。切替スイッチ91を「ON」にした時点で、第1の位置センサ89Aが位置検出部材89Cを検出している場合には、下ラム駆動モータ62は駆動しない。
【0043】
つぎに、自動により、「ダイ固定成形方式」に切替える場合について説明する。
まず、「ダイ固定成形方式」のダイセット10を粉末成形プレス50に取付けて、セレクトスイッチ82を「自動モード」に切替えて、切替スイッチ91を「ON」にする。
ダイセット10に形成された識別孔15Aの存在が識別センサ85Aによって検出され、その検出結果が、制御部88に伝送されることにより、ダイセット10が固定ダイ成形方式であると区別される。その後の動作は、手動の場合と同じであり、説明を省略する。
【0044】
次に、粉末成形装置1を使用して、粉末成形品Wを製造する場合について、図3、図4に基づいて説明する。
図3、図4は、ダイ固定成形方式におけるダイセット10の動作を示すものであり、図3は、固定されたダイ11に対する下パンチ21と上パンチ31の動作を、図4は、横軸に成形開始からの時間をとったときの下パンチ21及び上パンチ31の相対的な位置関係を示したものであり、L21は下パンチ21の動作線図を、L31は上パンチ31の動作線図を示しており、L11はダイ11の上面を示している。
【0045】
まず、図3(A)に示すように、上パンチ31をダイ11の上方の所定位置で停止させて、下パンチ21をダイ11の充填部Aの所定位置に配置する。その後、図示しないシューボックスを前進移動させて充填部Aの上方に到達したときに充填部Aに金属粉末Pが充填される。(図4、第1行程D1)
【0046】
次に、図3(B)に示すように、上ラム駆動モータ72を回転させることにより上パンチ31を充填部Aに向けて下降させる。(図4、第2行程D2)
【0047】
次いで、図3(C)に示すように、上パンチ31がダイ11の上面に到達したら、上パンチ31を充填部Aの内部に挿入するとともに、下パンチ駆動モータ62を駆動して、上パンチ31と同じ速度で下パンチ21を上昇させて金属粉末Pを上下から圧粉する。(図4、第3行程D3)
【0048】
次に、図3(D)に示すように、圧粉が完了して粉末成形品Wが成形された状態にて、下ラム駆動モータ62と上ラム駆動モータ72は停止され、上パンチ31と下パンチ21は、金属粉末Pを加圧した状態にて保持する。(図4、第4行程D4)
【0049】
その後、図3(E)に示すように、下ラム駆動モータ62と上ラム駆動モータ72が駆動されるとともに下ラム61及び上ラム71が同期して上昇し、上パンチ31と下パンチ21が粉末成形品Wを保持したままで上昇する。(図4、第5行程D5)
【0050】
図3(F)に示すように、粉末成形品Wの下面がダイ11の表面まで上昇して粉末成形品Wがダイ11から抜き出されると、下パンチ21の上昇が停止され、上ラム駆動モータ72が回転して上パンチ31は、上パンチプレート34ともに原位置まで上昇する。上パンチ31が上昇すると、粉末成形品Wの保持が解除される。(図4、第6行程D6)
【0051】
その後、図示しない取出し装置によって、粉末成形品Wがダイ11から取り除かれると、図3(G)に示すように、下ラム駆動モータ62の回転軸62Aが逆回転して下ラム61が下降するとともに、下パンチ21が下降して原点位置に戻る。(図4、第7行程D7)
【0052】
<ウィズドローアル成形方式>
次に、手動により、「ウィズドローアル成形方式」に切替える場合について説明する。
セレクトスイッチ82を「ウィズドローアル成形方式」に切替えることと、第1の位置センサ89Aに代えて、第2の位置センサ89Aが下ラム61の位置検出部材89Cを検出する点を除き、上記「ダイ固定成形方式」と同様であるので説明を省略する。
【0053】
つぎに、自動により、「ダイ固定成形方式」に切替える場合について説明する。
この場合、ダイセット10に形成された識別孔15Bの存在が識別センサ85Bによって検出され点を除き、「ダイ固定成形方式」の場合と同様であるので説明を省略する。
【0054】
次に、粉末成形装置1を使用して、粉末成形品Wを製造する場合について、図5、図6に基づいて説明する。
図5、図6は、ダイ固定成形方式におけるダイセット10の動作を示すものであり、図5は、固定されたダイ11に対する下パンチ21と上パンチ31の動作を、図6は、横軸に成形開始からの時間をとったときの下パンチ21及び上パンチ31の相対的な位置関係を示したものであり、L21は下パンチ21の動作線図を、L31は上パンチ31の動作線図を示しており、L11はダイ11の上面を示している。
【0055】
まず、図5(A)に示すように、上パンチ31をダイ11の上方の所定位置で停止させて、下パンチ21をダイ11の貫通孔の所定位置に配置して充填部Aを画成する。その後、図示しないシューボックスを前進移動させて充填部Aの上方に到達したときに充填部Aに金属粉末Pを充填する。(図6、第1行程E1)
【0056】
次に、図5(B)に示すように、上ラム駆動モータ72を回転させることにより上パンチ31を充填部Aに向けて下降させる。(図6、第2行程E2)
【0057】
次いで、図5(C)に示すように、上パンチ31がダイ11の上面に到達したら、上パンチ31を充填部Aの内部に挿入するとともに、下パンチ駆動モータ62を駆動して、ダイプレート12とともにダイ11を上パンチ31の1/2の速度で下降させて金属粉末Pを上下から圧粉する。(図6、第3行程E3)
【0058】
圧粉が完了して粉末成形品Wが成形されると、上ラム駆動モータ72は停止される。上パンチ31と下パンチ21は、金属粉末Pを加圧した状態にて保持する。(図6、第4行程E4)
【0059】
その後、図5(D)に示すように、下ラム駆動モータ62が駆動されるとともに下ラム61が下降し、上パンチ31と下パンチ21が粉末成形品Wを保持したまま、ダイ11が下降する。(図6、第5行程E5)
【0060】
ダイ11が下降して、図5(E)に示すように、粉末成形品Wの下面がダイ11の表面に到達して粉末成形品Wがダイ11から抜き出される。(図6、第6行程E6)
次いで、図5(F)に示すように、下ラム駆動モータ62の駆動が停止され、ダイ11の下降が停止され、その後、上ラム駆動モータ72が回転されて上パンチ31が上昇するとともに粉末成形品Wの保持が解除される。(図6、第6行程E7)
【0061】
図示しない取出し装置によって、粉末成形品Wがダイ11から取り除かれると、図5(G)に示すように、下ラム駆動モータ62の回転軸62Aが逆回転して下ラム61が上昇するとともに、ダイ11が上昇して原点位置に戻る。(図6、第8行程E8)
【0062】
上記実施形態に係る粉末成形装置1によれば、粉末成形プレス50が、ダイ固定方式とウィズドローアル方式のダイセット10のいずれも収容可能なスペースを有するとともに、ダイ固定方式とウィズドローアル方式のダイセット10が粉末成形プレス50に対して共通の取付関係を有しているので、セレクトスイッチ82Aを自動モード又はダイ固定成形方式、ウィズドローアル成形方式に切替えることで、制御部88が、下ラム61を、入力された成形方式に対応する原点位置に向けて移動させるとともに、下ラム61が対応する成形方式の原点位置まで移動したときに下ラム21を停止させて、各成形方式に対応する原点位置に下ラム61を調整するので、ダイ固定成形方式又はウィズドローアル成形方式に容易に切替えることができる。
【0063】
また、制御部88が、「ダイ固定成形方式」、「ウィズドローアル成形方式」のそれぞれの成形方式に対応した順序で下ラム61等を自動で作動させることができるので、対応する成形方式に応じた粉末成形を容易に自動運転することができる。
また、ダイセット10に、成形方式に対応した識別孔15が設けられ、その識別孔15の有無を識別センサ85が検出して、成形方式を区別するようになっているので、対応する成形方式を自動で切替えることができる。また、識別センサ85が故障した場合に誤作動が生じにくい。
【0064】
また、下ラム61の原点位置の検出手段89が、第1の位置センサ89Aと第2の位置センサ89Bとを備え、各成形方式に対応した原点位置を検出するので、簡単な構成で下ラム61が原点位置にあるかどうかを検出することが可能とされ、確実な動作と容易なメンテナンスが可能である。
【0065】
この発明に係る粉末成形装置1によれば、入力部が成形方式を区別するための識別部を検出する識別センサを備えて、識別部が金型に設けられているので、各金型に対応する成形方式の識別を人手によらずに行うことができる。その結果、人が識別することによるご操作が防止され、人手による作業の省力化の実現と、自動化を容易にすることができる。
【0066】
なお、本発明の技術的範囲は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、例えば、上記実施の形態においては、下ラム61及び上ラム71が、下ラム駆動モータ62、上ラム駆動モータ72の回転を上下方向の移動に変換する場合について説明したが、下ラム61と上ラム71の駆動については、他の方法によることも可能である。
【0067】
また、各成形方式を識別する識別部がダイセット10に設けられた識別孔15による場合について説明したが、識別部は、金型に設けられたICタグや、その他の識別手段を用いることが可能であり、また、成形方式の入力を人手により行うことも可能である。
下ラム61に設けられる第1の位置センサ89Aと第2の位置センサ89Bは、リニアスケールの他、近接スイッチ、リミットスイッチとすることが可能であり、また、エンコーダ等の検出手段を用いることも可能である。
【0068】
また、上記実施の形態においては、下パンチ21及び上パンチ31が、それぞれひとつの場合について説明したが、下パンチ21及び上パンチ31は、そのいずれか一方又は双方が複数のパンチから構成されていてもよいし、下パンチ21、上パンチ31のいずれか又は双方にコアロッドを備えた構成とすることも可能である。
【0069】
また、上記実施形態においては、入力部が、金型に形成された識別部を検出して、下ラムが原点位置に自動的に移動するとともに、下ラムの作動順序が制御される場合について説明したが、作動順序を自動によるのではなく手動操作によることとして、メンテナンス等に使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明に係るダイ固定成形方式の粉末成形装置の概略を示す図である。
【図2】この発明に係るウィズドローアル成形方式の粉末成形装置の概略を示す図である。
【図3】この発明に係るダイ固定成形方式における金型の動作を示す図であり、(A)から(G)は、各行程における下パンチ、上パンチの位置関係を示したものである。
【図4】この発明に係るダイ固定成形方式における金型の動作を示す図であり、各行程におけるダイ、下パンチ、上パンチの位置関係を経過時間にしたがって示したものである。
【図5】この発明に係るウィズドローアル成形方式における金型の動作を示す図であり、(A)から(G)は、各行程における下パンチ、上パンチの位置関係を示したものである。
【図6】この発明に係るウィズドローアル成形方式における金型の動作を示す図であり、各行程におけるダイ、下パンチ、上パンチの位置関係を経過時間にしたがって示したものである。
【符号の説明】
【0071】
A 充填部
P 金属粉末
1 粉末成形装置
10 ダイセット(金型)
11 ダイ
15、15A、15B 識別孔(識別部)
21 下パンチ
31 上パンチ
61 下ラム
80 切替手段
82 入力部
85、85A,85B 識別センサ
88 制御部
89 検出手段
89A 第1の位置センサ
89B 第2の位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末が充填される充填部が形成されたダイと、
前記ダイに対して相対移動可能に取り付けられ、前記ダイとともに充填部を画成する下パンチと、
前記ダイの上方に配置され、前記ダイに対して進退可能に支持された上パンチと、
前記下パンチと前記ダイとを相対移動可能とする下ラムとを備えた粉末成形装置であって、
前記ダイが固定されて、前記下ラムに接続された下パンチが前記ダイに対して進退させられるダイ固定成形方式と、
前記下パンチが固定されて、前記下ラムに接続されたダイが前記下パンチに対して進退させられるウィズドローアル成形方式とを切替える切替手段を備え、
前記切替手段は、
成形方式が入力される入力部と、
前記下ラムの位置を検出する検出手段と、
前記入力された成形方式にもとづいて前記下ラムを原点位置に移動させる制御部とからなる調整手段を有することを特徴とする粉末成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粉末成形装置であって、
前記制御部は、前記下ラムを前記成形方式に対応した順序で作動させることを特徴とする粉末成形装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の粉末成形装置であって、
前記入力部は、前記成形方式を区別するための識別部を検出する識別センサを備え、
前記識別部は、金型に設けられていることを特徴とする粉末成形装置。
【請求項4】
請求項3に記載の粉末成形装置であって、
前記制御部は、前記識別センサの検出結果に基づいて、前記下ラムの位置を自動で原点位置に調整することを特徴とする粉末成形装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の粉末成形装置であって、
前記検出手段は、
前記ダイ固定成形方式の原点位置を検出する第1の位置センサと、
前記ウィズドローアル成形方式の原点位置を検出する第2の位置センサとを備えていることを特徴とする粉末成形装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−73726(P2008−73726A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255818(P2006−255818)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)