説明

粉末被覆装置および被覆粉末の製造方法

【課題】 基材粉末の表面に品質の高い被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成する。
【解決手段】 ターゲット粉末および基材粉末が内部に充填される本体部11と、該本体部11の内部を加熱する加熱手段12と、本体部11の内部のターゲット粉末および基材粉末を撹拌する撹拌手段13aと、本体部11の内部を排気して真空状態にする排気手段15とが備えられ、排気手段15により本体部11の内部を排気しながら、ターゲット粉末および基材粉末を本体部11の内部で撹拌させた状態で加熱することにより、基材粉末の表面を、ターゲット粉末を構成する組成成分の少なくとも1つを含有する被膜で被覆する構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末被覆装置および被覆粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば磁心、モータコア、ソレノイドコイル、イグニッションコイル、リアクトル、チョークコイル若しくはセンサー等の各種電磁気回路部品に用いられる軟磁性材は、鉄損が小さいことが要求されるため、従来から、電気抵抗を高くして渦電流損を低減させることや、保磁力を小さくしてヒステリシス損を低減させることがなされている。近年では、電磁気回路の小型化や高応答性に対する要望が高く、これに伴い軟磁性材の電気抵抗をさらに高めることが要求されている。
【0003】
このような軟磁性材を製造する方法としては、例えば下記特許文献1に示されるような、絶縁性物質を含むコロイドを基材粉末(例えばFe粉末)に浸潤させて、該基材粉末の表面に絶縁性物質を含むコロイド層を形成した被覆粉末を形成し、その後、この被覆粉末を圧縮して圧粉体を成形した後にこれを焼成する方法が知られている(以下、「従来技術1」という)。
また、前記基材粉末に絶縁性物質粉末を混合し、この混合粉末を圧縮して圧粉体を成形した後に、これを焼成する方法も知られている(以下、「従来技術2」という)。
さらに、下記特許文献2および3に示されるような、前記基材粉末の表面に化学めっきや塗布等の湿式法によりフェライト等の絶縁被膜やガラス状絶縁層を形成した被覆粉末を形成し、これを圧縮して圧粉体を成形した後に、これを焼成する方法も知られている(以下、「従来技術3」という)。
【0004】
なお、以上の従来技術1から3の方法により得られた軟磁性材は、前記圧縮されて圧粉体に成形されたときに発生したひずみによって、保磁力が高くなり、鉄損のヒステリシス損が増大することから、焼鈍しを行うことにより、保磁力を低減させてヒステリシス損を低減させることがなされる。
【0005】
しかしながら、前記従来技術1から3では、電気抵抗が高められた高抵抗の軟磁性材を製造することが困難であるという問題があった。
すなわち、前記従来技術1により得られた軟磁性材では、前記コロイド層の強度が弱いため、前記圧縮時に、このコロイド層が破れて前記基材粉末の表面が露出することにより、これらの基材粉末同士が接触することとなり、これを焼成して得られた軟磁性材に高抵抗を具備させることが困難であるという問題があった。
また、前記従来技術2により得られた軟磁性材では、前記基材粉末の表面を前記絶縁性物質粉末により完全に被覆することが事実上不可能に近く、やはり前記基材粉末同士が接触することとなり、この軟磁性材に高抵抗を具備させることが困難であるという問題があった。
さらに、前記従来技術3により得られた軟磁性材では、前記絶縁被膜が前記基材粉末と反応して該絶縁被膜の絶縁性が低下するとともに、前記圧縮時に、絶縁被膜が破れる等して、基材粉末が露出することにより、やはり前記基材粉末同士が接触することとなって、この軟磁性材に高抵抗を具備させることが困難であるという問題があった。
【0006】
すなわち、上記のように、基材粉末の表面を露出させないで被覆粉末を形成することが困難であるという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するための手段として、例えば下記特許文献4に示されるような、容器の内部に前記基材粉末および絶縁性物質粉末を充填した後に、その内部を1×10−2Torr程度になるまで真空排気し、そして、当該容器を密封して密封容器とし、その後、該密封容器をその軸線回りに回転しながら、加熱することにより、前記被覆粉末を形成する方法および装置を適用することが考えられる。すなわち、この場合、密封容器を前記回転および加熱することによって、絶縁性物質粉末を原子状あるいはクラスター状に気化させ、当該気化成分を前記基材粉末の表面と反応させることにより、当該基材粉末の表面側に絶縁被膜を形成して被覆粉末を形成することが可能になる。
【特許文献1】特開平5−258934号公報
【特許文献2】特開平11−1702号公報
【特許文献3】特開平8−250317号公報
【特許文献4】特開2001−254168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来では、前記容器を真空排気し、その後、これを密封することにより密封容器の内部を真空状態に維持するため、密封容器毎でばらつきなく高真空にすることが困難であるという問題があった。したがって、密封容器によっては、その内部に酸素、窒素および二酸化炭素等(以下、「酸素等」という)が残存することがあり、この場合、前記気化成分が前記基材粉末の表面と反応する前に、前記酸素等と反応することがあり、当該気化成分と前記基材粉末の表面との反応親和性が損なわれ、前記絶縁被膜を高品質に形成することが困難になるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、基材粉末の表面に品質の高い被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成することが可能になる粉末被覆装置および被覆粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の粉末被覆装置は、 ターゲット粉末および基材粉末が内部に充填される本体部と、該本体部の内部を加熱する加熱手段と、前記本体部の内部の前記ターゲット粉末および前記基材粉末を撹拌する撹拌手段と、前記本体部の内部を排気して真空状態にする排気手段とが備えられ、前記排気手段により前記本体部の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を前記本体部の内部で撹拌させた状態で加熱することにより、前記基材粉末の表面を、前記ターゲット粉末を構成する組成成分の少なくとも1つを含有する被膜で被覆する構成とされたことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記排気手段により前記本体部の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を前記本体部の内部で撹拌させた状態で加熱するので、前記本体部の内部に酸素等が残存していた場合においても、この酸素等を本体部の内部から排出しながら、前記撹拌および加熱することが可能になる。したがって、本体部の内部を加熱等して、ターゲット粉末を原子状あるいはクラスター状に気化させたときに、当該気化成分が、前記基材粉末の表面と反応する前に、前記酸素等と反応することを抑制することが可能になる。これにより、前記気化成分と基材粉末の表面との反応親和性が損なわれることを回避することが可能になり、被膜を高品質に形成することができる。
【0012】
さらに、前記排気手段により前記本体部の内部を排気しながら、本体部の内部を前記加熱等することから、この加熱時における、本体部の内部に残存する前記酸素等の量についてのロット間ばらつきを最小限に抑えることが可能になり、高い品質の被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成することができる。
さらにまた、前記ターゲット粉末および基材粉末を本体部の内部に直接充填する構成とされているので、当該装置に良好な取り扱い性を具備させることができる。
【0013】
ここで、前記撹拌手段は、前記本体部をその軸線回りに回転可能に支持する駆動部を備え、前記排気手段は、前記本体部にその外側から直結されて、前記本体部がその軸線回りに回転する際に、該本体部と共回りする構成とされたことが望ましい。
この場合、排気手段が前記本体部にその外側から直結されて、前記本体部と共回りする構成とされているので、本体部が前記回転するに際し、前記排気手段と前記本体部との連結部分が摺動することがない。これにより、本体部を回転しながらその内部を高い真空度にすることが可能になる。
【0014】
また、前記排気手段は、前記本体部の前記軸線と同軸的に配設されていることが望ましい。
この場合、前記本体部の前記回転により、排気手段に作用する遠心力が最小限に抑えられ、本体部の内部を高い真空度にすることを確実に実現することができるとともに、このような真空度を長期に亙って維持することが可能になる。
【0015】
さらに、前記撹拌手段は、円板の表面に、径方向中央部から径方向外方へ向けて延びるフィンが複数環状に設けられたフィン付板を備えていることが望ましい。
この場合、ターゲット粉末および基材粉末を、互いが接触しない程度に撹拌することを容易かつ確実に実現することができる。
【0016】
また、前記ターゲット粉末は、Mg粉末若しくはMg系の合金粉末とされるとともに、前記基材粉末は、表面に酸化膜が形成されたFe粉末若しくはFe系の合金粉末とされていることが望ましい。
この場合、基材粉末の表面側に前記被膜を強固に接合させて形成することができる。すなわち、Mg粉末等は酸化等し易い性質を有するため、このMg粉末等の前記気化成分と基材粉末の表面側(酸化膜)とで良好な反応親和性を実現することが可能になる。これにより、当該気化成分が、前記基材粉末の表面と反応する前に、本体部の内部に残存した前記酸素等と反応することを抑制することが可能になることと相俟って、前記被膜を高品質に形成することを確実に実現することができる。
【0017】
また、本発明の被覆粉末の製造方法は、請求項1から5のいずれかに記載の粉末被覆装置を用い、前記基材粉末の表面を前記被膜で被覆して、被覆粉末を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、基材粉末の表面に品質の高い被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態を示すものである。本実施形態の粉末被覆装置10は、 ターゲット粉末、および表面に酸化膜が形成された軟磁性の基材粉末が、内部に充填される本体部11と、該本体部11の内部を加熱する加熱手段12と、本体部11の内部の前記ターゲット粉末および前記基材粉末を撹拌する撹拌手段13と、本体部11の内部を排気して真空状態にする排気手段15とが備えられ、排気手段15により本体部11の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を、1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気とされた本体部11の内部で撹拌させた状態で加熱することにより、前記基材粉末の表面に、前記ターゲット粉末の金属物質、前記基材粉末の軟磁性物質、および酸素からなる三元系複合酸化物膜を形成する構成とされている。
【0020】
本体部11は、ステンレス鋼、あるいは耐熱性合金、例えばモリブデン、タンタル、若しくはタングステン、またはチタンおよびジルコニウムを含有するモリブデン合金により有底筒状に形成され、その軸線Oが鉛直方向と平行になるように縦向きに配設された縦型構造とされている。この本体部11は、大径部11fと、該大径部11fよりも小径とされ、該大径部11fの軸線O方向における上端に連設されて上方に延在する小径部11bと、大径部11fの軸線O方向における下端に連設されるとともに、下方に向かうに従い漸次縮径された縮径部11aとを備える概略構成とされている。小径部11bの上端面には、本体部11の内部と連通する開口部が形成されている。
【0021】
大径部11fの小径部11b側、つまり上端部には、前記ターゲット粉末および前記基材粉末が本体部11の内部に投入される投入口11cが設けられている。さらに、本体部11の下端部、つまり縮径部11aには、前記基材粉末の表面に前記三元系複合酸化物膜が形成された被覆粉末が、この本体部11の内部から外部に取り出される図示されない取り出し口が設けられている。
【0022】
そして、この本体部11の軸線O方向における両端部、つまり縮径部11aおよび小径部11bにそれぞれ、該軸線O方向における外方へ向けて延びるように当該本体部11と同軸的に第1、第2シャフト11d、11eが設けられている。縮径部11aに設けられた第1シャフト11dは、図示されない第1モータ(駆動部)に連結され、小径部11bに設けられた第2シャフト11eは、図示されない軸受に支持されている。以上により、前記第1モータの回転駆動力が第1シャフト11dに伝達されることにより、本体部11および第2シャフト11eも軸線O回りに回転するようになっている。
【0023】
加熱手段12は、円筒状体とされて本体部11の外周面を取り囲むように該本体部11と同軸的に配設されている。該加熱手段12により、本体部11の内部に充填された前記ターゲット粉末および前記基材粉末が、ターゲット粉末を構成する少なくとも金属物質の気化温度より高く、かつ基材粉末の溶融温度より低い温度で、本体部11の外側から加熱されるようになっている。なお、本体部11の投入口11cは、その開口部が加熱手段12の外方に位置するように本体部11に設けられている。
【0024】
小径部11bには、その軸線Oと同軸的に水冷ジャケット14と排気手段15とが上方に向けて、つまり大径部11fから離間する方向にこの順に設けられている。
水冷ジャケット14はドーナツ状とされ、その内側に小径部11bが挿入された状態で本体部11に配設されており、小径部11bの外周面側を冷媒が循環するようになっている。
【0025】
排気手段15は、小径部11bの前記開口部を塞ぐように、本体部11に該本体部11と同軸的にその外側から直結されており、本体部11がその軸線O回りに回転する際に、該本体部11と共回りする構成とされている。また、排気手段15は、図示されない真空ポンプと連通された真空配管15aに連結されており、該本体部11の内部を排気できるようになっている。なお、排気手段15としては、例えばロータリーポンプやメカニカルポンプ等が挙げられる。また、排気手段15の内部と小径部11bの内部との連結部分には、図示されないフィルター等が配設されており、排気手段15により本体部11の内部を排気する際に、本体部11の内部の前記ターゲット粉末および基材粉末が排出されないようになっている。
【0026】
以上の構成により、本体部11の内部のガスを、前記真空ポンプによって真空配管15aを介して排気手段15から排気する際に、加熱手段12により加熱された当該ガスを、水冷ジャケット14によって一旦冷却した後に、排気手段15および真空配管15aを順次通過させるようになっている。
【0027】
撹拌手段13は、本実施形態では、前記大径部11fの下端部の内部に、本体部11の軸線Oと同軸的に配設されたフィン付板13aと、前記第1モータとにより構成されている。フィン付板13aは、小径部11bの内部に設置された図示されない第2モータにより前記軸線O回りに回転可能に支持され、円板の一方の表面、つまり本体部11の小径部11bと対向する表面に、図1(b)に示すように、径方向中央部から径方向外方へ湾曲した状態で延びるフィン13bが複数環状に設けられた構成とされている。なお、フィン付板13aはステンレス鋼または前記耐熱性合金により形成され、その径方向中央部に前記第2モータと連結された図示されないシャフトが配設される孔13cが形成されている。
【0028】
以上の構成により、前記第1モータによる本体部11の軸線O回りの回転によって、本体部11の内部に充填された前記ターゲット粉末および前記基材粉末に遠心力を作用させるとともに、フィン付板13aを前記第2モータにより軸線O回りに回転することによって、前記各粉末に、軸線O方向上方へ向けた揚力を主として作用させることができるようになっている。ここで、フィン付板13aは、前記第2モータにより軸線O回りに正逆回転可能に支持されており、これにより、該フィン付板13aによって前記各粉末に作用する遠心力の方向を変化させることができるようになっている。以上により、本体部11の内部に充填された前記ターゲット粉末、および前記基材粉末は、これらの各粉末が互いに接触しない程度に撹拌されるようになっている。すなわち、個々の前記各粉末の表面が露出する程度に撹拌されるようになっている。つまり、前記各粉末の平均自由行程が確保できるようになっている。
【0029】
ここで、前記ターゲット粉末としては、例えばMg粉末、Mg−Al系合金粉末、Mg−Si系合金粉末、若しくはMg−Si−Al系合金粉末等が挙げられる。また、前記基材粉末としては、例えばFe粉末、Fe−Al系合金粉末、Fe−Ni系合金粉末、Fe−Cr系合金粉末、Fe−Si系合金粉末、Fe−Si−Al系合金粉末、Fe−Co系合金粉末、Fe−Co−V系合金粉末、若しくはFe−P系合金粉末等が挙げられる。
【0030】
次に、以上のように構成された粉末被覆装置10により被覆粉末を製造する方法について説明する。本実施形態では、前記ターゲット粉末として平均粒径50μmのMg粉末を採用し、前記基材粉末として平均粒径70μmのFe粉末を採用した。
【0031】
まず、Fe粉末およびMg粉末を本体部11に投入するに際し予め、Fe粉末を約50℃〜500℃の酸化雰囲気中に数分間から数十時間置いて酸化処理を施し、該Fe粉末の表面に酸化膜を形成する。次に、この酸化膜の形成されたFe粉末とMg粉末とを混合した後に、該混合粉末を投入口11cから本体部11の内部に投入し、その後、投入口11cの開口部を閉塞する。
【0032】
そして、加熱手段12により、本体部11の内部を、ターゲット粉末(Mg粉末)を構成する金属物質(Mg)の気化温度より高く、かつ基材粉末(Fe粉末)の溶融温度より低い温度(約150℃〜1100℃)まで加熱した状態で、前記真空ポンプにより真空配管15aおよび排気手段15を介して不活性ガス雰囲気とされた本体部11の内部を排気して、その内圧を約1×10−12MPa〜1×10−1MPaにする。この際、本体部11の内部のガスは、水冷ジャケット14が配設された小径部11bを通過するので、加熱手段12により高温とされたガスは水冷ジャケット14によって冷却された後に排気手段15を通過する。これにより、本体部11の内部を、不活性ガス雰囲気でかつ真空雰囲気にする。
【0033】
そして、前記第1モータにより本体部11をその軸線O回りに回転することにより、本体部11の内部に充填されたFe粉末およびMg粉末に遠心力を作用させる。さらに、前記第2モータによりフィン付板13aをその軸線O回りに回転することによって、Fe粉末およびMg粉末に、軸線O方向上方へ向けた揚力を主として作用させる。ここで、フィン付板13aの正逆回転を所定のタイミングで異ならせることにより、前記各粉末に作用する該フィン付板13aによる遠心力の方向を変化させる。
【0034】
なお、本体部11の大径部11fの外径が約600mmで、かつ軸線O方向の大きさが約2500mmであって、本体部11の内部にFe粉末を99.8kg、Mg粉末を0.2kgそれぞれ充填した場合、該本体部11を約0.2rpm〜3rpmで回転させるとともに、フィン付板13aを約0.2rpm〜120rpmで回転させる。
以上により、個々のFe粉末およびMg粉末は、前述のように互いが接触しない程度に撹拌される。
【0035】
この状態で、かつ排気手段15により本体部11の内部を排気しながら、数分間から数十時間保持することにより、Fe粉末(基材粉末)が、Mg粉末(ターゲット粉末)のMg成分(金属物質)が原子状あるいはクラスター状に気化されたガス中に曝されることによって、Fe粉末の表面に、Mg(ターゲット粉末の金属物質)、Fe(基材粉末の金属物質)、および酸素Oからなる三元系複合酸化物膜を、MgおよびOが当該酸化物膜の表面からその内部に向かって減少する一方、Feがその内部に向かって増加する濃度勾配を具備させて形成し、被覆粉末を形成する。
その後、図示されない取り出し口を開口して、前記複合粉末を取り出した後に、該複合粉末を約50℃〜500℃の酸化雰囲気中に数時間置いて後酸化処理を施す。そして、この複合粉末を圧縮して圧粉体を成形した後に、約400℃〜1300℃で焼成することによって、軟磁性材を形成した。
【0036】
以上説明したように本実施形態に係る粉末被覆装置10および被覆粉末の製造方法によれば、排気手段15により本体部11の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を本体部11の内部で撹拌させた状態で加熱するので、本体部11の内部に酸素等と反応した前記原子状あるいはクラスター状に気化されたガスが残存していた場合においても、この反応したガスを本体部11の内部から排出しながら、前記撹拌および加熱することが可能になる。したがって、本体部11の内部を加熱等して、ターゲット粉末を原子状あるいはクラスター状に気化させたときに、当該気化成分が、前記基材粉末の表面と反応する前に、前記酸素等と反応することを抑制することが可能になる。これにより、前記気化成分と基材粉末の表面との反応親和性が損なわれることを回避することが可能になり、被膜を高品質に形成することができる。
【0037】
さらに、同様に、排気手段15により本体部11の内部を排気しながら、本体部11の内部を前記加熱等することから、この加熱時における、本体部11の内部に残存する前記酸素等の量についてのロット間ばらつきを最小限に抑えることが可能になり、高い品質の被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成することができる。
さらにまた、前記ターゲット粉末および基材粉末を本体部11の内部に直接充填する構成とされているので、当該装置10に良好な取り扱い性を具備させることができる。
【0038】
また、排気手段15が本体部11にその外側から直結されて、本体部11と共回りする構成とされているので、本体部11が前記回転するに際し、排気手段15と本体部11との連結部分が摺動することがない。これにより、本体部11を回転しながらその内部を高い真空度に保つことが可能になる。
【0039】
さらに、排気手段15が、本体部11の前記軸線Oと同軸的に配設されているので、本体部11の前記回転により、排気手段15に作用する遠心力が最小限に抑えられ、本体部11の内部を高い真空度にすることを確実に実現することができるとともに、このような真空度を長期に亙って維持することが可能になる。
【0040】
さらに、撹拌手段13が、円板の表面に、径方向中央部から径方向外方へ向けて延びるフィン13bが複数環状に設けられたフィン付板13aを備えているので、ターゲット粉末および基材粉末を、互いが接触しない程度に撹拌することを容易かつ確実に実現することができる。
【0041】
さらにまた、前記ターゲット粉末は、Mg粉末若しくはMg系の合金粉末とされるとともに、前記基材粉末は、表面に酸化膜が形成されたFe粉末若しくはFe系の合金粉末とされているので、基材粉末の表面側に前記被膜を強固に接合させて形成することができる。すなわち、Mg粉末等は酸化等し易い性質を有するため、このMg粉末等の前記気化成分と基材粉末の表面側(酸化膜)とで良好な反応親和性を実現することが可能になる。これにより、当該気化成分が、前記基材粉末の表面と反応する前に、本体部11の内部に残存した前記酸素等と反応することを抑制することが可能になることと相俟って、前記被膜を高品質に形成することを確実に実現することができる。
【0042】
さらに、前記被覆粉末を製造するに際し、加熱手段12により、本体部11の内部を、ターゲット粉末(Mg粉末)を構成する金属物質(Mg)の気化温度より高く、かつ基材粉末(Fe粉末)の溶融温度より低い温度となるように加熱するので、Fe粉末を溶融させないで、Mg粉末のMg成分を気化させることが可能になり、Fe粉末を、前記気化されたMg成分を含有するガス中に曝すことができる。したがって、Fe粉末の表面に、該表面を露出させることなく、均質な被膜を強固に接合させて形成することが可能になる。
【0043】
さらに、Fe粉末の表面に酸化膜を形成した後に、このFe粉末と前記Mg粉末とを本体部11の内部に投入し、その後、該本体部11の内部を1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気にした状態で、前記被覆粉末を形成するので、Fe粉末の表面に、該Fe粉末のFe成分、Mg粉末のMg成分、および酸素Oからなる均質な三元系複合酸化物膜を強固に接合させて形成することが可能になる。
【0044】
特に、本実施形態では、Fe粉末の表面に形成された被膜を、MgおよびOが当該被膜の表面からその内部に向かって減少する一方、Feがその内部に向かって増加する濃度勾配を具備する三元系複合酸化物膜として形成したので、得られた個々の被覆粉末に高い絶縁性を具備させることができる。したがって、前述のように被膜の破れを防ぐことが可能になることと相俟って、高抵抗の軟磁性材をさらに確実に形成することができる。
【0045】
以下、前述した粉末被覆装置10および被覆粉末の製造方法により、前記被覆粉末を形成する実施例について説明する。ここで、各実施例および後述する比較例において、Fe粉末の表面に酸化膜を形成する製造条件は全て同一であるので、まず、この酸化膜の製造条件について説明する。すなわち、Fe粉末を温度が220℃とされた大気中に置いて2時間保持し、酸化処理を施すことにより、その表面に酸化膜を形成した。
【0046】
実施例1では、前記酸化膜の形成されたFe粉末と、Mg粉末とを混合した後に、この混合粉末を、内部温度が650℃とされるとともに、内圧が1.33×10−8kPa(真空雰囲気)とされ、かつ不活性ガス雰囲気とされた本体部11の内部に投入口11cから投入する。そして、本体部11をその軸線O回りに3rpmで回転させるとともに、フィン付板13aをその軸線O回りに10rpmで回転させた状態で1時間保持することによって、前記被覆粉末を形成した。次に、該被覆粉末の前記三元系複合酸化物膜におけるMg、FeおよびOの厚さ方向の濃度分布を、オージェ電子分光装置を用いて測定したところ、MgおよびOが当該酸化物膜の表面からその内部に向かって減少する一方、Feがその内部に向かって増加していることが確認された。
【0047】
実施例2では、実施例1で得られた前記被覆粉末を、温度が220℃とされた大気中に置いて2時間保持して酸化処理を施した。そして、該被覆粉末の前記三元系複合酸化物膜におけるMg、FeおよびOの厚さ方向の濃度分布を、オージェ電子分光装置を用いて測定したところ、MgおよびOが当該酸化物膜の表面からその内部に向かって減少する一方、Feがその内部に向かって増加していることが確認された。さらに、前記三元系複合酸化物膜の表面には、Feが全く存在しないことが確認された。
【0048】
次に、実施例1および2の前記被覆粉末を圧縮して、縦55mm×横10mm×厚さ5mmの平面視矩形状の板状とされた板状圧粉体を成形するとともに、外径35mm×内径25mm×厚さ5mmのリング状とされたリング状圧粉体を成形した。そして、これらの圧粉体を、温度が600℃とされた窒素雰囲気中に置いて30分間保持して焼成し、板状軟磁性材およびリング状軟磁性材を形成し、前記板状軟磁性材の相対密度、比抵抗および抗折力を測定するとともに、前記リング状軟磁性材に巻き線を施して、BHトレーサにより磁束密度を測定した。これらの結果を図2に示す。
【0049】
この図に示す比較例の軟磁性材は、Mg粉末と前記酸化膜の形成されたFe粉末とを大気中で混合した後、直ちに、前述と同様にして、圧粉体を形成した後に、該圧粉体を焼成して得られたものである。すなわち、この比較例の軟磁性材は、図1に示す装置10による処理が施されず、単に大気中で混合して得られた混合粉末を用いて前記圧粉体等を形成したものである。
【0050】
この図2に示す結果から、実施例1および2により得られる前記被覆粉末に基づいて形成された軟磁性材は、比較例と比べて抗折強度、磁束密度および比抵抗が全て優れていることが確認できた。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施例では、1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気とされた本体部11の内部で前記ターゲット粉末および前記基材粉末を加熱したが、これに代えて、真空雰囲気中で加熱するようにしてもよい。また、前記第1、第2モータを設け、本体部11およびフィン付板13aをともに軸線O回りに回転した構成を示したが、第1、第2モータのいずれか一方のみを設け、本体部11およびフィン付板13aのいずれか一方のみを前記回転させるようにしてもよい。この場合、前記第1モータのみを設け、フィン付板13aを、大径部11fの下端部の内部に本体部11の軸線Oと同軸的に固定状態で配設し、前記第1モータにより本体部11のみをその軸線O回りに回転するようにしてもよい。
【0052】
また、前記回転させることにより、ターゲット粉末および基材粉末を撹拌させるのに代えて、例えば本体部11およびフィン付板13aの少なくとも一方を、軸線O方向、若しくは軸線Oと交差する方向に振動あるいは揺動させることにより前記撹拌させるようにしてもよい。さらに、フィン付板13aに代えて、縮径部11aの内周面に、周方向に所定の間隔をあけて複数のフィン状体を配設するようにしてもよい。
さらに、前記実施形態では、ターゲット粉末をMg粉末とし、基材粉末をFe粉末としたが、これに限定されるものではない。
【0053】
さらにまた、本体部11の内部に投入する基材粉末として、金属粉末または合金粉末の表面に酸化膜が形成された構成を採用したが、酸化膜の形成されていない基材粉末を採用してもよい。また、基材粉末の表面に、三元系複合酸化物膜を形成する方法を示したが、ターゲット粉末を構成する組成成分の少なくとも1つを含有する被膜で基材粉末の表面を被覆するようにすれば、この被膜の構成は前記三元系複合酸化物膜に限定されるものではない。
【0054】
また、前記実施形態では、粉末被覆装置10として前記縦型構造を示したが、これに代えて、図3に示すような、横型構造の粉末被覆装置20を採用してもよい。
すなわち、本体部21を、有底筒状として、その軸線Oが水平方向に延び、かつ鉛直方向と直交するように、その両端部21a、21cを支持部22により支持させるとともに、図示されない第1モータにより回転可能とされた状態で横向きに配設する。そして、この本体部21の軸線O方向における一方の端部21aに、水冷ジャケット14と排気手段15とを配設するとともに、本体部21の軸線O方向中央部21bの外周面を囲み、かつ該軸線O方向両端部21a、21cが突出するように、加熱手段12を配設する。さらに、本体部21の前記両端部21a、21cと前記中央部21bとの各連結部分に、開口部が加熱手段12よりも外方に位置するように、投入口11cおよび取り出し口21dを配設する。さらにまた、前記両端部21a、21cにそれぞれ、該端部21a、21cを昇降可能に支持する昇降手段(例えば流体圧シリンダー)23を配設する。これにより、前記被覆粉末を形成した後に、これを取り出すときに、取り出し口21cが設けられた他方の端部21c側が下方に、前記一方の端部21a側が上方に移動するように、本体部21をその軸線Oに対して傾けることができるようになっている。なお、本体部21の前記一方の端部21aの内部と排気手段15の内部との連結部分には、図示されないフィルター等が配設されており、排気手段15により本体部21の内部を排気する際に、本体部21の内部の前記ターゲット粉末および基材粉末が排出されないようになっている。また、前記中央部21bの内周面には、図3(b)に示すように、径方向内方へ向けて延びるフィン21eが、周方向に所定の間隔をあけて複数突設されている。このフィン21eは、前記軸線O方向に連続的に延在しても、断続的に延在してもよい。
このような構成においても、図1の実施形態と略同様の作用効果を奏することができる。
【0055】
ここで、図1および図3で示した粉末被覆装置10、20では、排気手段15を、本体部11、21にその外側から直結させて、本体部11、21がその軸線O回りに回転する際に、該本体部11、21と共回りさせる構成を示したが、これに代えて、本体部11、21に例えばロータリージョイントを直結し、該ロータリージョイントを介して本体部11、21の内部と排気手段15とを連通させるようにしてもよい。すなわち、排気手段15により本体部11、21の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を本体部11、21の内部で撹拌させた状態で加熱することができる構成であれば、排気手段15を本体部11、21とは独立した位置に配設するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
基材粉末の表面に品質の高い被膜をロット間ばらつきを最小限に抑えて形成することが可能になる粉末被覆装置および被覆粉末の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る第1実施形態として示した(a)粉末被覆装置の概略構成図、および(b)フィン付板の平面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態として示した被覆粉末の製造方法により得られた被覆粉末の作用効果を検証した結果を示す図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態として示した(a)粉末被覆装置の概略構成図および(b)(a)のX−X線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10、20 粉末被覆装置
11、21 本体部
12 加熱手段
13a フィン付板(撹拌手段)
13b フィン
15 排気手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット粉末および基材粉末が内部に充填される本体部と、該本体部の内部を加熱する加熱手段と、前記本体部の内部の前記ターゲット粉末および前記基材粉末を撹拌する撹拌手段と、前記本体部の内部を排気して真空状態にする排気手段とが備えられ、
前記排気手段により前記本体部の内部を排気しながら、前記ターゲット粉末および前記基材粉末を前記本体部の内部で撹拌させた状態で加熱することにより、前記基材粉末の表面を、前記ターゲット粉末を構成する組成成分の少なくとも1つを含有する被膜で被覆する構成とされたことを特徴とする粉末被覆装置。
【請求項2】
請求項1記載の粉末被覆装置において、
前記撹拌手段は、前記本体部をその軸線回りに回転可能に支持する駆動部を備え、前記排気手段は、前記本体部にその外側から直結されて、前記本体部がその軸線回りに回転する際に、該本体部と共回りする構成とされたことを特徴とする粉末被覆装置。
【請求項3】
請求項2記載の粉末被覆装置において、
前記排気手段は、前記本体部の前記軸線と同軸的に配設されていることを特徴とする粉末被覆装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の粉末被覆装置において、
前記撹拌手段は、円板の表面に、径方向中央部から径方向外方へ向けて延びるフィンが、複数環状に設けられたフィン付板を備えていることを特徴とする粉末被覆装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の粉末被覆装置において、
前記ターゲット粉末は、Mg粉末若しくはMg系の合金粉末とされるとともに、前記基材粉末は、表面に酸化膜が形成されたFe粉末若しくはFe系の合金粉末とされていることを特徴とする粉末被覆装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の粉末被覆装置を用い、前記基材粉末の表面を前記被膜で被覆して、被覆粉末を形成することを特徴とする被覆粉末の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213944(P2006−213944A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25583(P2005−25583)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】