説明

粉粒体処理装置及び方法

【課題】粉粒体の表面処理を行う際に夾雑物の混入を少なくでき、且つ、均一な表面処理が可能な粉粒体処理装置及び方法を提供すること。
【解決手段】被処理粉粒体と表面処理剤との混合物90を収納でき、細長い収納空間11をもつ本体部10と、収納空間11の長軸方向を径方向に向けて回転させる駆動手段21、22と収納空間11内に配設された複数個のボール31とを有する。収納空間外から本体部10を回転させるので軸受などから出る夾雑物の混入が防止できる。駆動手段21,22は本体部10の外側から駆動するため夾雑物の混入が抑制できる。そして、全体的に本体部10を回転するため、収納空間11内において粉粒体を均一に移動でき粉粒体の表面への表面処理剤の接触も均一になる。また、ボールを構成する材料の選択の自由度は高く、夾雑物として問題にならない材料から構成することも容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒体に対して表面処理を行う粉粒体処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカなどから形成される粉粒体に対して、その表面に所望の性質を付与することを目的として、その粉粒体の表面に表面処理剤を接触させることにより表面処理がなされている(特許文献1など)。
【0003】
表面処理を行う際には粉粒体の表面に均一に表面処理剤が接触するように何かの方法により粉粒体を撹拌することが行われている。
【0004】
例えば円筒状の容器内の底部に撹拌翼を設け、粉粒体及び表面処理剤を入れた状態で撹拌を行うことにより粉粒体の表面処理を行う装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-263154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来の表面処理装置では粉粒体を撹拌するにあたり撹拌翼の回転が必須となっている。撹拌軸の回転軸は軸受により支持されており、軸受では摺動による微細な夾雑物の発生が懸念され、その夾雑物に由来する不純物の混入のおそれがある。半導体の封止材に採用される無機フィラーなどとして粉粒体を採用する場合には不純物の混入を極力抑える必要がある場合があるが、そのような要求に充分に答えることが困難になってきているのが実情である。
【0007】
また、粉粒体の撹拌は撹拌翼により行われるため、撹拌翼からの相対位置により撹拌の程度が異なる。撹拌の程度が異なることにより粉粒体に対する表面処理にもむらが生じることがあった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑み完成されたものであり、粉粒体の表面処理を行う際に夾雑物の混入を少なくでき、且つ、均一な表面処理が可能な粉粒体処理装置及び方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の粉粒体処理装置は、内部に処理対象の被処理粉粒体と表面処理剤とを収納でき、細長い収納空間を区画する本体部と、
前記収納空間の長軸方向を概ね径方向に向けて前記本体部を揺動乃至回転させる駆動手段と、
前記収納空間内に移動自在に配設された複数個の撹拌部材と、
を有し、
前記被処理粉粒体及び前記表面処理剤を内部に収納し前記被処理粉粒体の表面処理を行うものである。
【0010】
粉粒体及び表面処理剤を本体部がもつ収納空間内に収納した状態で本体部を揺動乃至回転させることにより軸受などから出る夾雑物の混入が防止できる。駆動手段は本体部の外側から本体部を駆動するため駆動手段に由来する夾雑物の混入は抑制できる。
【0011】
そして、粉粒体及び表面処理剤を収納した状態で全体的に本体部を揺動乃至回転させているため、収納空間内において粉粒体などは均一に移動させることが可能になって粉粒体の表面への表面処理剤の接触も均一に行うことができる。結果、表面処理も均一に行うことができる。
【0012】
また、撹拌部材は受動的に収納空間内にて移動する手段であるから、撹拌部材を構成する材料の選択の自由度は高く、夾雑物として問題にならない材料から構成することも容易である。
【0013】
更にこの装置における前記駆動手段は前記収納空間内には可動部をもたないことが望ましい。収納空間内に可動部が存在しないことにより、可動部に存在しがちな摺動部分が粉粒体に接触することが抑制できる。結果、摺動面から生成する夾雑物(摺動により生成するゴミ、摺動面にある潤滑油など)が粉粒体に混入するおそれがなくなる。
【0014】
上記課題を解決する本発明の粉粒体処理方法は、上記粉粒体処理装置を用いて粉粒体の表面処理を行う表面処理方法であり、上述の粉粒体処理装置が奏する効果により粉粒体の表面処理を行う際に不純物の混入を少なくでき、且つ、均一な表面処理が実現できる。具体的には、上述の粉粒体処理装置内に前記被処理粉粒体及び前記表面処理剤を収納する工程と、
前記駆動手段を所定時間作動させる処理工程と、
を有する粉粒体処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で用いた粉粒体処理装置の模式透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の粉粒体処理装置及び処理方法について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の粉粒体処理装置及び方法が対象とする粉粒体(被処理粉粒体)は特に限定しない。シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、それらの混合物、複合酸化物などの無機酸化物、ケイ素、アルミニウム、チタン、鉄、銅などの金属などから形成されていても良いし、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリルエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂などの有機材料などから形成されていてよい。粉粒体の粒径としては特に限定されず、nmオーダーからμmオーダー、mmオーダーなどどのような粉粒体であっても良い。ただ、粒径が小さな粉体は凝集などが進行しやすいために本粉粒体処理装置により表面処理を均一に行うことができる。
【0017】
表面処理剤としては特に限定されない。例えば被処理粉粒体として無機物を採用する場合に表面処理剤としてはシランカップリング剤、シラザン類などの通常用いる表面処理剤が例示できる。
【0018】
被処理粉粒体と表面処理剤との投入割合は被処理粉粒体に対して必要な量の表面処理剤の量が選択される。なお、後述するように、収納空間の内面、撹拌部材の表面にて表面処理剤が消費されるような場合には、その消費される量を考慮した量の表面処理剤を投入する。
【0019】
本実施形態の粉粒体処理装置は本体部と駆動手段と撹拌部材とを有する。そして、本実施形態の粉粒体処理方法はこの粉粒体処理装置を用いて被処理粉粒体に対して表面処理剤を接触させて表面処理を行う方法である。
・本体部
本体部は内部に収納空間が区画される部材である。収納空間は細長い形状をしている。細長いとはその空間の形状がある方向(長軸方向)に長くなっていることをいい、例えば直交する他の方向よりも2倍以上、更には4倍以上長くなっていることをいう。収納空間の大きさとしては特に限定されず、処理される粉粒体の種類、粒径、量などに応じて決定できる。例えば5kg程度のシリカ粒子に対して表面処理を行う場合には長軸の長さが150cm程度、直径が30cm程度の円筒形の収納空間の大きさが例示できる。収納空間の大きさの一例としては被処理粉粒体と表面処理剤との体積の和の2倍、3倍、4倍程度の体積になるようにすることができる。また、収納空間の形状としては長軸方向の両端が半球状になった円筒形が望ましい。
【0020】
本体部を構成する材料は特に限定しないが、粉粒体に混入しても問題ない材料から形成することが望ましい。そして、混入してはいけない材料からは構成しないことが望ましい。但し、本体部を構成する材料であったとしても常に粉粒体中に混入するとは限らないため混入のおそれの程度に応じて材料の選択を行うことができる。また、使用される表面処理剤に反応しないような材料から形成されることが望ましい。万が一反応する材料であった場合には収納空間の内面と反応する量を考慮して添加する表面処理剤の量を決定する。
【0021】
例えば、ポリオレフィン、ポリカーボネートなどの樹脂材料、ステンレス鋼などの金属材料などから形成できる。更にはフッ素樹脂、ポリオレフィンなどにより収納空間の内面を内張することもできる。
【0022】
収納空間内には邪魔部材を設けることができる。邪魔部材は収納空間の内面から突設された部材であり、内部を移動する被処理粉粒体の動きを邪魔する作用をもつ。更には撹拌部材の動きを阻害しても良い。邪魔部材としては突起や、内面に橋のように渡された棒状部材、棒状部材を網目状に組み合わせた網状部材などが挙げられる。網状部材は繊維状の部材から構成しても良い。棒状部材は並行に複数はしご状に設けることもできる。網目の大きさ、はしごの間隔は特に限定されず、間を被処理粉粒体が通過可能な大きさに設定される。撹拌部材の大きさよりも小さな間隔にすることにより邪魔部材により撹拌部材の動きを制限しても良い。
・駆動手段
駆動手段は本体部を揺動乃至回転させる手段である。駆動源としては電動機、内燃機関、人力などどのような手段を採用しても良い。
【0023】
本体部は収納空間の長軸方向を径方向(駆動手段が本体部を回転させる際における径方向)に概ね向けて揺動乃至回転させる。つまり、収納空間の長軸方向と駆動手段が回転させる回転軸とが交差するように回転軸を設定し、その場合の交差は直角に近い方が望ましい(収納空間の長軸方向が径方向に一致する交差角の大きさが直角である)。
【0024】
揺動の程度は収納空間内に収納された被処理粉粒体及び表面処理剤が収納空間内の長軸方向で移動可能な程度には行う。特に、収納空間内に収納された被処理粉粒体及び表面処理剤が収納空間内の長軸方向の一方側と他方側との間で往復運動できる程度に揺動させることが望ましい。
【0025】
また、揺動乃至回転の速さとしては、被処理粉粒体などが回転又は揺動により生じる遠心力により、収納空間の長軸方向の一端側又は他端側に張り付いて留まらない程度にする。つまり、揺動乃至回転により被処理粉粒体が張り付く速さよりも遅い速度で揺動乃至回転を行う。
【0026】
特に駆動手段は収納空間内に可動部分を持たない構成を採用することが望ましい。可動部が収納空間内に存在すると可動部由来の夾雑物が生成・混入するおそれが高まるからである。
・撹拌部材
撹拌部材は収納空間内において被処理粉粒体などと共に収納される部材であり、撹拌部材が収納空間の長軸方向に移動することにより被処理粉粒体を撹拌する効果を発現する。撹拌部材は複数個ある。撹拌部材の形状は特に限定しないが、球状、サイコロ状、板状などの形態が採用できる。特に球状とすることが望ましい。撹拌部材の大きさは収納空間内で自由に移動可能になるように収納空間の大きさよりも小さくする。特に収納空間の長軸方向に直交する方向における断面における長さよりも小さくすること(例えば4分の1、6分の1、8分の1、10分の1程度)にすることができる。
【0027】
撹拌部材を構成する材料としては特に限定しないが、混入しても問題が無い(少ない)材料から構成されることが望ましい。例えばステンレス鋼、樹脂材料などから形成できる。表面のみそのような問題が少ない材料から構成しても良い。例えば内部は重さを重くするために比重が大きい金属材料から形成し、周囲を樹脂材料で被覆することができる。樹脂材料としてはポリオレフィン、フッ素樹脂などが例示できる。
【0028】
撹拌部材の数としては特に限定しない。撹拌部材は見かけ体積(撹拌部材のみで測定する場合の体積)が収納空間の体積の4分の1、6分の1、8分の1、10分の1程度などにすることができる。
【実施例】
【0029】
本発明の粉粒体処理装置及び処理方法について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
(粉粒体処理装置)
本実施例の粉粒体処理装置は、図1に示すように、本体部10と、駆動手段21,22と、撹拌部材(ボール31)と、架台41〜43とを有する。本体部10は透明なポリカーボネート製であり、内部に収納空間11を区画する。収納空間11は長軸方向の長さが 180cm、直径が30cmの円筒形をしており、内容積は10Lであった。長軸方向の両端は半球状に膨らんでいる。収納空間11内には、適宜、網状部材(図略)を配置した。配置部位は収納空間11の長軸方向の中央に収納空間11を二分するように配置した。網状部材の網目の大きさは20mmとした。
【0030】
駆動手段21,22は電動機とその出力を減速する減速機とからなる駆動部21と、駆動部21の出力軸が接続され本体部10の長軸方向中央に接続された回転軸22とをもつ。駆動部21により回転軸22が回転されることにより本体部10はその長軸方向を径方向(回転軸22の軸方向に対して垂直方向)に向けて回転する。駆動手段21,22による回転速度は6rpmとした。
【0031】
ボール31は直径が15mmのナイロン製である。ボール31は500個(見かけ体積は0.7L程度)又は1000個(見かけ体積は1.5L程度)用いた。被処理粉粒体は体積平均粒径が0.5μmの球状シリカ(アドマテックス製、SO−E2)を5kg(見かけ体積2.5L)を用い、表面処理剤としてはシランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、KBM403、信越化学製)を50g用いた。
【0032】
これらの装置は架台41〜43により支持されている。
(試験)
本実施例の粉粒体処理装置を用いて表面処理を行い、その際の表面処理量のむらの程度を評価した。本実施例の粉粒体処理装置はその構成を表1に示すように変化させて処理を行った。具体的にはボール31の量及び有無、網状部材の有無、処理時間(60分間)を変化させた。更に、従来から用いている粉粒体処理装置(直径60cm、高さ50cmの円筒形の釜であり、底部に直径50cm程度の撹拌翼をもつ)を用い、撹拌速度200rpmで撹拌翼を30分間撹拌させた。撹拌時間を30分間としたのはそれ以上撹拌を行っても、それ以上の均一な表面処理は進行しないとの予備試験の結果があるからである。
【0033】
むらの程度は表面処理が終了した被処理粉粒体の3箇所からサンプルを採取し、そのサンプルに含まれる炭素量を測定し、測定された炭素量のバラツキから評価した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より明らかなように、本発明の粉粒体処理装置を用いて表面処理を行った試験例3,4,5は、その他の試験例1,2,6よりも炭素量のバラツキが小さく、より均一に表面処理ができたことが分かった。特に網状部材の存在はボールを用いない場合には分散を小さくする方向には作用しないが(試験例1及び2より)、ボールと共存させることにより分散を小さくする方向に作用することが分かった(試験例4,5より)。また、ボールの個数は500個よりも1000個の方が分散が小さくなることが分かった。但し、闇雲にボールの個数が多い方が撹拌が均一になるとは考えられず、適正値が存在するものと考えられた。更に、ボールを採用せずに本発明装置を用いて表面処理を行っても従来技術よりも小さな分散を示すことはできなかったがボールを用いることで分散が小さくできた(試験例3,4,6より)。従って、本発明の粉粒体処理装置を用いることにより、表面処理を均一に行うことができることが明らかになった。
【符号の説明】
【0036】
10…本体部 11…収納空間
21…駆動部(駆動手段) 22…回転軸(駆動手段)
31…ボール(撹拌部材)
41〜43…架台
90…被処理粉粒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に処理対象の被処理粉粒体と表面処理剤とを収納でき、細長い収納空間を区画する本体部と、
前記収納空間の長軸方向を概ね径方向に向けて前記本体部を揺動乃至回転させる駆動手段と、
前記収納空間内に移動自在に配設された複数個の撹拌部材と、
を有し、
前記被処理粉粒体及び前記表面処理剤を内部に収納し前記被処理粉粒体の表面処理を行う粉粒体処理装置。
【請求項2】
前記駆動手段は前記収納空間内には可動部をもたない請求項1に記載の粉粒体処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粉粒体処理装置内に前記被処理粉粒体及び前記表面処理剤を収納する工程と、
前記駆動手段を所定時間作動させる処理工程と、
を有する粉粒体処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214540(P2012−214540A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78964(P2011−78964)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】