粒子加速器の製造方法
【課題】真空炉で1回加熱するだけで、加速管と接続部材とをリークを生じることなく確実に接合する粒子加速器の製造方法の提供。
【解決手段】接続部材(導波管接続部材220、真空引き管接続部材222)と加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、接続部材に設けられた貫通孔220d、222dを介して、加速管の外周部に設けられたねじ穴290、292にねじを螺合させることにより接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程と、加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、接続部材を保持治具によって保持する工程と、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、を含む。
【解決手段】接続部材(導波管接続部材220、真空引き管接続部材222)と加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、接続部材に設けられた貫通孔220d、222dを介して、加速管の外周部に設けられたねじ穴290、292にねじを螺合させることにより接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程と、加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、接続部材を保持治具によって保持する工程と、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、カソード電極と加速器を備えており、カソード電極に電力を供給することでカソード電極から熱電子を放出し、その熱電子を加速器で加速して被照射物に照射する。
【0003】
電子等の荷電粒子を加速する加速器のうち、荷電粒子を直線上で加速する線形(リニアック)加速器は、内部に複数の区画形成された空間が配された加速管を含んで構成されている。このような加速管を製造する場合、内部に孔が配された複数のセルを積層し、その後、積層したセルを真空炉に導入して加熱することで、各セルの接触部分が拡散接合(真空下や不活性ガス雰囲気下で、接合する材料同士を密着させ、加圧、加熱することで、接合面に生じる原子の拡散を利用して接合する技術)されて1つの加速管となる。なお、真空炉を利用して加速管を製造する場合、各セルの接触部分における表面状態によっては、拡散接合がなされない場合もある。したがって、バックアップとして、各セル間にロウ材を配しておき、拡散接合と並行して各セルをロウ付することも行われている。
【0004】
また、加速管の外周部には、高周波電源ユニットからの高周波電圧を伝送する導波管が接続されている(例えば、特許文献3)。したがって、加速管には、導波管と加速管とを接続するための導波管接続部材が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開平5−217695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、加速管と導波管接続部材とを接合する場合、加速管と導波管接続部材等の接続部材との間にロウ材を配し、真空炉で1000℃程度まで加熱する。この際、リークを生じることなく接合されるように、加速管と接続部材とをステンレスのワイヤで巻き回して仮固定した後に真空炉に導入していた。
【0007】
しかし、真空炉内は1000℃程度まで加熱されるため、加熱時にワイヤが緩んでしまったり、締まりすぎたりして、加速管と接続部材とが適切に接合されず、リークが生じることがあった。このように、加速管と接続部材との間にリークが生じた場合には、加速管を真空炉で再度加熱してロウ付しなければならない。
【0008】
このとき、2回目の加熱時には、1回目に利用したロウ材が溶融しないように、1回目の加熱時と異なるロウ材、すなわち1回目の加熱時に利用したロウ材よりも融点の低いロウ材を利用しなければならず、部品点数が多くなりコストが上昇してしまう。
【0009】
また真空炉を利用して接合する場合、真空炉内を1000℃程度と非常に高温にする必要があるため、2回も真空炉を利用すると、電力が著しく消費されてしまい、コスト高となってしまう。また一旦真空炉で1000℃程度まで加熱されたものを放冷するには、1日程度を要するため、真空炉で2回加熱を行って加速器を製造する場合、少なくとも2日程度といった長時間を要することになる。
【0010】
このように、加速管と接続部材とを接合する際にリークが生じると、当然のこととしてコストが上昇するとともに製造期間が長期化するため、1回の加熱処理でリークが生じないように、確実に加速管と接続部材とを接合することが望まれている。
【0011】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、加速管と接続部材とを仮固定する際に工夫することで、加速管と接続部材とをリークを生じることなく確実に接合することが可能な粒子加速器の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の粒子加速器の製造方法は、荷電粒子を加速する加速管と、高周波電源から印加される高周波電圧を加速管に供給するための導波管、または、加速管の内部を真空状態に減圧可能な真空ポンプの真空引き管を加速管の外周部に接合するための接続部材と、を備えた粒子加速器の製造方法であって、接続部材と加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、接続部材に設けられた貫通孔を介して、加速管の外周部に設けられたねじ穴にねじを螺合させることにより接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程と、加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、接続部材を保持治具によって保持する工程と、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
内部に空洞が形成された複数のセルを、ロウ材を介して積層して連結することにより加速管を組み付ける工程を含み、接続部材は、複数のセルが積層されて組み付けられた加速管の外周部に仮止めされ、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程において、複数のセルが拡散接合して加速管が形成されるとともに、加速管に接続部材が接合されてもよい。
【0014】
接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程では、導波管および加速管を接続する導波管接続部材と、真空引き管および加速管を接続する真空引き管接続部材とを、加速管の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めし、接続部材を保持治具によって保持する工程では、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面および真空引き管接続部材の接合面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、導波管接続部材および真空引き管接続部材によって加速管を挟持してもよい。
【0015】
接続部材を保持治具によって保持する工程では、加速管の外周部に当接するダミー部材を接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置し、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面およびダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、導波管接続部材およびダミー部材によって加速管を挟持してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加速管と接続部材とを仮固定する際に工夫することで、加速管と接続部材とをリークを生じることなく確実に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電子線照射装置の外観斜視図である。
【図2】図1におけるY軸方向から電子線照射装置を見た図である。
【図3】加速器の構成を説明するための説明図である。
【図4】本実施形態にかかる粒子加速器の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図5】加速管の全体構成を説明するための説明図である。
【図6】入力フランジを説明するための説明図である。
【図7】第2セルを説明するための説明図である。
【図8】第2セルを説明するための説明図である。
【図9】第2セルを説明するための説明図である。
【図10】エンドセルを説明するための説明図である。
【図11】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図12】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図13】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図14】出力フランジを説明するための説明図である。
【図15】加速管を保持するための保持治具を説明するための説明図である。
【図16】ロウ溝を説明するための説明図である。
【図17】導波管接続部材を説明するための説明図である。
【図18】真空引き管接続部材を説明するための説明図である。
【図19】仮止め工程を説明するための説明図である。
【図20】保持治具による導波管接続部材および導波管接続部材の加速管への保持を説明するための説明図である。
【図21】図20における保持治具付近の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
本実施形態では、電子を加速する粒子加速器を例に挙げて説明する。以下、まず、粒子加速器を含んで構成される電子線照射装置について説明し、続いて、粒子加速器の製造方法について詳述する。
【0020】
(電子線照射装置100)
図1は、電子線照射装置100の外観斜視図であり、図2は、図1におけるY軸方向から電子線照射装置100を見た図である。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置100を支持する支持機構を省略する。
【0021】
図1および図2に示すように、電子線照射装置100は、カソード電源104と、電子銃110と、高周波ユニット112と、導波管114と、プリバンチャ116と、粒子加速器200と、スキャンホーン120とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、粒子加速器200、スキャンホーン120は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。
【0022】
電子線照射装置100において、電子銃110から放出された熱電子は、プリバンチャ116、粒子加速器200で加速され、スキャンホーン120を通過して、コンベア等で構成される搬送装置10で搬送される被照射物Wに向かって図1中Z軸方向に照射される。以下、電子線照射装置100の各機能部について詳述する。
【0023】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃であり、カソード電源(交流電源)104から供給された電力によってカソード電極を加熱し、パルス状に印加された高電圧のグリッド電圧(引出電圧)により、電子線を放出する。
【0024】
(高周波ユニット112、導波管114)
高周波ユニット112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源112bとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および粒子加速器200を構成する加速管210に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。導波管114は、セラミック等で構成されたRF窓114a、114bを通じて、高周波増幅器112aから増幅されて供給される高周波の電圧を加速管210に供給する。導波管114におけるRF窓114aとRF窓114bの間には、六フッ化硫黄(SF6)等の絶縁ガスが充填されており、高周波増幅器112aで増幅されて出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なおRF窓114a、114bはSF6と真空とを隔てる境界の役割を果たす。
【0025】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と粒子加速器200の間に設けられ、導波管114を通じて高周波ユニット112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速管210に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波増幅器112aから供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子線は、バンチングされて加速管210に入射する。プリバンチャ116で電子線をバンチングすることにより、加速管210で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0026】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子線の加速管210への入射タイミングが、加速管210における高周波の正位相と同期したときのみ、電子線は加速管210で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速管210への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。また、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ)も加速管210による加速効率に影響するため、すなわち、電子線の長さが短い程、加速効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0027】
(粒子加速器200)
粒子加速器200は、電子を加速する加速管210と、導波管114と加速管210とを接続する導波管接続部材220と、真空ポンプ102と加速管210とを接続する真空引き管接続部材222とを含んで構成される。
【0028】
図3は、加速管210の構成を説明するための説明図である。本実施形態では、粒子加速器200として、定在波型の線形(リニアック)加速器を例に挙げて説明しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器を採用することもできる。
【0029】
図3に示すように、電子銃110から放出される電子線(図3中、黒い塗つぶしで示す)は、図3中Z軸方向に広がった状態で放出され、プリバンチャ116の内部空間に入射される。そして、プリバンチャ116によるバンチング機能により、電子線は、Z軸方向に圧縮されて加速管210に入射される。
【0030】
ここで、加速管210は、内部に複数の加速空間230(図3中、230a〜230cで示す)を有している。図3では理解を容易にするために、加速空間230を3個として簡略化して説明するが、後述するように本実施形態の加速管210は31個の加速空間230を有する。
【0031】
高周波電源112から導波管接続部材220を通じて加速管210に高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、複数の加速空間230が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間的に変化する電界が生じる。そして、この時間的に変化する電界で電子線を加速する。
【0032】
具体的に説明すると、加速管210の加速空間230は、高周波電源112から導入される高周波の電圧によって、例えば、時刻t0に空間電荷が正(+)になっている箇所232aは、図3(b)に示すように、次の時刻t1には空間電荷が負(−)になる。電子は負の電荷を帯びているので、空間電荷が正に帯電している箇所(正位相の箇所)に引き寄せられる。ここで、電子線の速度と加速空間230における正に帯電するタイミングが同期するように、高周波電源112から供給される電圧の周波数と、加速空間230の距離Lが設計されているため、電子線は加速管210内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速されて、スキャンホーン120に入射される。なお、電子銃110から所定数の加速空間230の距離L(加速空間230における電子線の進行方向(図3中Z軸方向)の距離)は、電子銃110から遠ざかるに従って徐々に長くなるように構成され、以降の加速空間230の距離Lは、所定長さに維持されるように構成される。加速空間230の距離Lについては、後に具体的に説明する。
【0033】
(スキャンホーン120)
スキャンホーン120は、その内部空間が加速管210と連結され、加速管210の出口付近に設けられたスキャン電磁石122と、加速管210と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部124とを含んで構成される(図1、図2参照)。
【0034】
スキャン電磁石122は、加速管210から入射された電子線を水平方向(図1中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は鉛直方向(図1中Z軸方向)であるため、スキャン電磁石122が鉛直方向に進行する電子線を水平方向に走査することにより、水平方向に幅のある被照射物Wに確実に電子線を照射することができる。
【0035】
電子線取出部124は、例えば、50μm程度の厚みのTi箔で構成され、内部空間と、大気とを隔てる境界の役割を果たす。そして、電子線取出部124から大気中に取り出された電子線は、被照射物Wに照射される。
【0036】
こうして、電子銃110で放出された電子線は、粒子加速器200で加速されて、電子線取出部124を通じて、被照射物Wに照射される。以下、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器200の製造方法について説明する。
【0037】
図4は、本実施形態にかかる粒子加速器200の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0038】
図4に示すように、粒子加速器200の製造方法は、加速管210を組み付ける工程(加速管組付工程)S300と、組み付けた加速管210に接続部材(導波管接続部材220、真空引き管接続部材222)を仮止めする工程(仮止め工程)S302、加速管210に仮止めした接続部材を保持治具によって保持する工程(保持工程)S304、保持治具よって保持された接続部材と加速管210とを真空炉に導入して加熱する工程(加熱工程)S306とを含む。以下、各工程について説明する。
【0039】
(加速管組付工程S300)
まず、内部に空洞が形成された複数のセル(後述する入力フランジ250、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、カップラーセル256、エンドセル260、出力フランジ262)を、ロウ材を介して積層して連結することにより、加速管210を組み付ける。なお、以下に説明する各セルには、各セル同士の位置決めを行うためのピンを挿入する穴が設けられているが記載を省略する。また、各セルの他のセルと当接する面は鏡面に研磨されている。
【0040】
図5は、加速管210の全体構成を説明するための説明図である。図5に示すように、加速管210は、プリバンチャ116に接続される側から順に、入力フランジ250、第1セル#1〜第7セル#7で構成されるバンチングセル252、第8セル#8〜第15セル#15で構成されるレギュラーセル254、第16セル#16で構成されるカップラーセル256、第17セル#17〜第30セル#30で構成されるレギュラーセル258、第31セル#31で構成されるエンドセル260、出力フランジ262が連結されて構成される。以下、各セル具体的な構成について説明する。
【0041】
(入力フランジ250)
図6は、入力フランジ250を説明するための説明図であり、図6(a)は、入力フランジ250をプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図6(b)は、図6(a)のVI(b)−VI(b)断面図であり、図6(c)は、入力フランジ250をスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0042】
入力フランジ250は、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、図6に示すように、プリバンチャ116と接続するための接続部250aと、後述する導水管を形成する導水孔250bと、プリバンチャ116から入射される電子線が通過する空洞250cとを含んで構成される。また入力フランジ250には、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面にロウ材を嵌入するためのロウ溝250dが形成されている。他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面ロウ溝250dが形成される理由については、他のセルのロウ溝とともに後に詳述する。なお、入力フランジ250におけるステンレス(SUS)で構成される層に接続部250aが形成され、入力フランジ250における銅で構成される層にロウ溝250dが形成されている。
【0043】
(バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256)
バンチングセル252は、銅で構成され、プリバンチャ116から入射された電子線をさらに圧縮して加速する機能を有する。レギュラーセル254、258、エンドセル260およびカップラーセル256は、銅で構成され、バンチングセル252で圧縮された電子線をさらに加速する機能を有する。バンチングセル252と、レギュラーセル254、258とは、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さが異なるが、構成は実質的に等しいので、ここでは、第2セル#2を例に挙げて説明する。
【0044】
図7から図9は、第2セル#2を説明するための説明図であり、図7(a)は、第2セル#2を構成する第2セル#2Lをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図7(b)は、図7(a)のVII(b)−VII(b)断面図であり、図7(c)は、第2セル#2Lをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。また、図8(a)は、第2セル#2を構成する第2セル#2Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図8(b)は、図8(a)のVIII(b)−VIII(b)断面図であり、図8(c)は、第2セル#2Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0045】
図7および図8に示すように、第2セル#2Lおよび第2セル#2Rは、導水管を形成する導水孔270と、電子線が通過する空洞272とを含んで構成される。また第2セル#2Lおよび第2セル#2Rには、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面、すなわち、図5に示す状態でスキャンホーン120に臨む方向に、ロウ溝274が形成されている。ロウ溝274は、導水孔270を囲んで形成されている。
【0046】
第2セル#2は、図9に示すように、1組の第2セル#2Lおよび第2セル#2Rで構成される。つまり、第2セル#2Lの空洞272と、第2セル#2Rの空洞272とで、1つの加速空間230が形成されることになる。
【0047】
なお、第1セル#1は、第2セル#2Rと実質的に等しい構成である。また、第10セル#10および第27セル#27には、粒子加速器200を電子線照射装置100の構成装置として利用する際に、粒子加速器200を支持する台座に粒子加速器200を固定するための部材を仮止めするためのねじ穴が設けられている。
【0048】
図10は、エンドセルを説明するための説明図であり、図10(a)は、エンドセル260を構成する第31セル#31Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図10(b)は、図10(a)のX(b)−X(b)断面図であり、図10(c)は、エンドセル260を構成する第31セル#31Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。なお、エンドセル260を構成する第31セル#31Lは、第2セル#2Lと実質的に等しい構成であるため説明を省略する。
【0049】
図10に示すように、第31セル#31Rは、第2セル#2Rと同様に、導水管を形成する導水孔270と、電子線が通過する空洞272と、を含み、さらに、水を導水孔270に供給するための水供給管を仮止めするための穴276(例えば、エンドセル260の周方向に10個)が設けられている。また第31セル#31Rには、出力フランジ262と積層したときに鉛直下方向に臨む面、すなわち、図5に示す状態でスキャンホーン120に臨む方向に、ロウ溝274が形成されている。ロウ溝274は、導水孔270を囲んで形成されている。
【0050】
図11から図13は、カップラーセル256を説明するための説明図であり、図11(a)は、カップラーセル256を構成するカップラーセル256Lをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図11(b)は、カップラーセル256Lをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図であり、図11(c)は、図11(b)のXI(c)−XI(c)断面図であり、図11(d)は、図11(b)のXI(d)−XI(d)断面図である。また、図12(a)は、カップラーセル256を構成するカップラーセル256Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図12(b)は、カップラーセル256Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図であり、図12(c)は、図12(a)のXII(c)−XII(c)断面図であり、図12(d)は、図12(a)のXII(d)−XII(d)断面図である。
【0051】
図11および図12に示すように、カップラーセル256Lおよびカップラーセル256Rは、銅で構成されており、導水管を形成する導水孔280と、電子線が通過する空洞282と、ロウ溝284と、導波管114から供給される高周波電圧が導入される電圧導入孔286と、加速管210の内部空間と真空ポンプ102とを連通させるための真空孔288と、導波管接続部材220を仮止めするためのねじ穴290と、真空引き管接続部材222を仮止めするためのねじ穴292が設けられている。ここでもロウ溝284は、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面に形成されており、ロウ溝284は、空洞282と導水孔280を囲んで形成されている。
【0052】
カップラーセル256は、図13に示すように、1組のカップラーセル256Lおよびカップラーセル256Rで構成される。つまり、カップラーセル256Lの空洞282と、カップラーセル256Rの空洞282とで、1つの加速空間230が形成されることになる。
【0053】
続いて、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さについて説明する。バンチングセル252は、プリバンチャ116から電子線の加速方向に遠ざかるにつれて、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さが長くなるように構成される。具体的に説明すると、バンチングセル252において、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の、第1セル#1の長さをL1、第2セル#2の長さをL2、第3セル#3の長さをL3、第4セル#4および第5セル#5の長さをL4、第6セル#6および第7セル#7の長さをL6とすると、バンチングセル252は、L1<L2<L3<L4<L6の関係を満たすように構成される。これは、プリバンチャ116から入射された電子線は、30KeV程度であり、バンチングセル252で2MeV程度まで加速するためである。
【0054】
一方、2MeV以上は、光速と等しい速度に換算することができる。したがって、第8セル#8〜第15セル#15までのレギュラーセル254と、第16セル#16であるカップラーセル256、第17セル#17〜第30セル#30までのレギュラーセル258、第31セル#31であるエンドセル260の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さLXを実質的に等しくすることができる。なお、第1セル#1に入射される30keVの電子線の移動速度より、第8セル#8入射される2MeVの電子線の移動速度(光速)は、はるかに速いため、所定の期間に移動する距離が長くなる。したがって、レギュラーセル254、258、カップラーセル256、エンドセル260の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さLXは第7セル#7の長さよりも長く形成される。
【0055】
(出力フランジ262)
図14は、出力フランジ262を説明するための説明図であり、図14(a)は、出力フランジ262をプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図14(b)は、図14(a)のXIV(b)−XIV(b)断面図であり、図14(c)は、出力フランジ262をスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0056】
図14に示すように、出力フランジ262は、ステンレス(SUS)、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、スキャンホーン120と接続するための接続部262bと、後述する挿通棒410を挿通させるための挿通孔262aと、電子線が通過する空洞262cとを含んで構成される。ここでは、出力フランジ262がステンレス(SUS)で構成される例について説明する。
【0057】
以上説明した、各セル(入力フランジ250、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256)に形成されたロウ溝250d、274、284にロウ材を嵌めこみ、ロウ材を介して各セルを積層する。ここで利用されるロウ材は、金、パラジウム、銀等を含んで構成されるロウ材である。
【0058】
そして、各セルが積層されて構成された加速管210は、保持治具で保持される。図15は、加速管210を保持するための保持治具400を説明するための説明図である。なお、図15(b)中、理解を容易にするために、各セルにおける導水孔、挿通孔以外の構成の記載を省略する。
【0059】
図15(a)に示すように、保持治具400は、ステンレス(SUS)、または、耐高温材料(例えば、インコネル(登録商標)やセラミック等)で構成され、挿通棒410と、上部加速管押え板412aと、下部加速管押え板412bと、バネ押え板414と、バネ416と、吊り下げ板418とを含んで構成される。挿通棒410は、後述するナット420a、420bと螺合する溝(タップ)が切られている。なお、ここでは、挿通棒410、ナット420a、420bをインコネル(登録商標)で構成し、バネ416をセラミックで構成し、上部加速管押え板412a、下部加速管押え板412b、バネ押え板414、吊り下げ板418をステンレス(SUS)で構成する例について説明する。
【0060】
このように、荷重がかかる挿通棒410、ナット420a、420bをインコネル(登録商標)で構成することで、クリープ現象の発生を抑制し、破断が生じる事態を回避することができる。また、バネ416をセラミックで構成することで、高温に曝したとしてもバネ剛性を維持することができる。
【0061】
まず、各セルに設けられた導水孔250b、270、280が連通することで構成された導水管240、および、出力フランジ262に設けられた挿通孔262aに挿通棒410を挿通する。そして、下部加速管押え板412bに設けられた挿通孔を鉛直(図15中Z軸方向)上方向に向かって、挿通棒410に挿入し、加速管210の下部(出力フランジ262)に当接させ、ナット420aで固定する。
【0062】
続いて、上部加速管押え板412aに設けられた挿通孔を、鉛直下方向に向かって挿通棒410に挿入し、加速管210の上部(入力フランジ250)に当接させる。そして、上部加速管押え板412aの上方からバネ416を挿通棒410に挿入し、バネ416の上方からバネ押え板414の挿通孔に挿通棒410を挿入して、バネ押え板414をナット420bで固定する。ここで、ナット420bを鉛直下方向に向かって絞めていくと、バネ押え板414が鉛直下方(図15中、白抜き矢印で示す)に移動する。そうすると、バネ416の弾性力が鉛直下方に付与され、上部加速管押え板412aに鉛直下方の力がかかる。そうすると、上部加速管押え板412aと下部加速管押え板412bとの距離が縮み、加速管210を挟持することになる。
【0063】
このようにして、保持治具400を用いて、ロウ材を介して複数のセルを積層して連結することにより、加速管210を組み付ける。また、上述したように、ロウ溝250d、274、284は、保持治具400を用いて連結したときに、各セルにおける、鉛直下方向に臨む面に設けられる。
【0064】
図16は、ロウ溝を説明するための説明図である。図16では、レギュラーセル254に設けられたロウ溝274を例に挙げて説明する。図16では、特に、第13セル#13、第12セル#12、第11セル#11を示している。保持治具400を用いて各セルを連結すると、鉛直下方向から、出力フランジ262、第31セル#31(エンドセル260)、第30セル#30(レギュラーセル258)、…、第16セル#16(カップラーセル256)、…第13セル#13(レギュラーセル254)、第12セル#12(レギュラーセル254)、第11セル#11(レギュラーセル254)、…、第1セル#1(バンチングセル252)、入力フランジ250の順で鉛直上方向に積層される。
【0065】
ここで図16に示すように、ロウ溝274は、保持治具400に保持されて積層されたときに鉛直下方向に臨む面274aに設けられる。これは、後述する加熱工程S306において、保持治具400に保持させたまま加速管210を加熱すると、ロウ溝274に嵌めこまれたロウ材が溶融して自重によって鉛直下方に移動するためである。つまり、鉛直下方(図16中、Z軸方向)に向かって開口したロウ溝274にロウ材を嵌めこんでおけば、溶融したときに、その自重によって、ロウ溝274から鉛直下方に当接されたセルに向かって(図16に示す拡大図では、第11セル#11Lのロウ溝274から第11セル#11Rに向かって)、ロウ材が溶融することになる。したがって、セル同士を確実にロウ付けすることが可能となる。なお、ここでは、図16を用いてロウ溝274について説明したが、ロウ溝250d、284についても同様の効果を得ることができる。
【0066】
(仮止め工程S302)
仮止め工程S302は、加速管組付工程S300において組み付けられた加速管210のうち、カップラーセル256に導波管接続部材220と真空引き管接続部材222とを仮止めする工程である。
【0067】
図17は、導波管接続部材220を説明するための説明図であり、図17(a)は、導波管接続部材220を説明するための断面図を示し、図17(b)は、図17(a)に示すX軸方向から導波管接続部材220を見た図を示す。
【0068】
図17に示すように、導波管接続部材220は、銅、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、導波管114から供給される高周波電圧を加速管210に導入するための電圧導入孔220aと、挿通孔220bと、ロウ溝220cと、貫通孔220dとを含んで構成される。貫通孔220dは、導波管接続部材220とカップラーセル256とを当接させると、カップラーセル256におけるねじ穴290と連通するように形成されている。なお、ここでは、導波管接続部材220が銅およびステンレスの2層構造で構成される例について説明し、導波管接続部材220におけるステンレスで構成される層に挿通孔220bが形成され、導波管接続部材220における銅で構成される層にロウ溝220cと、貫通孔220dとが形成される。
【0069】
図18は、真空引き管接続部材222を説明するための説明図であり、図18(a)は、真空引き管接続部材222を説明するための断面図を示し、図18(b)は、図18(a)に示すX軸方向から真空引き管接続部材222を見た図を示す。
【0070】
図18に示すように、真空引き管接続部材222は、銅、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造、または、ステンレス(SUS)で構成され、加速管210の内部空間と真空ポンプ102とを連通させるための真空孔222aと、挿通孔222bと、ロウ溝222cと、貫通孔222dとを含んで構成される。貫通孔222dは、真空引き管接続部材222とカップラーセル256とを当接させると、カップラーセル256におけるねじ穴292と連通するように形成されている。なお、ここでは、真空引き管接続部材222がステンレス(SUS)で構成される例について説明する。
【0071】
図19は、仮止め工程S302を説明するための説明図である。仮止め工程S302では、まず、導波管接続部材220における、カップラーセル256(加速管210)の外周部と接合する面(接合面)に設けられたロウ溝220cと、真空引き管接続部材222におけるカップラーセル256の外周部と接合する面に設けられたロウ溝222cとにロウ材を配しておく。そして、図19に示すように、貫通孔220dを介して、カップラーセル256の外周部に設けられたねじ穴290にねじを螺合させることにより、導波管接続部材220をカップラーセル256の外周部に仮止めする。また、貫通孔222dを介して、カップラーセル256の外周部に設けられたねじ穴292にねじを螺合させることにより、真空引き管接続部材222を、カップラーセル256の外周部に仮止めする。ここで、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、カップラーセル256の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされる。
【0072】
また、仮止め工程S302では、第10セル#10および第27セル#27に台座を仮止めし、第31セル#31には、水を導水孔270に供給するための水供給管を仮止めする。
【0073】
(保持工程S304)
保持工程S304は、加速管210(カップラーセル256)の外周部に仮止めされた導波管接続部材220および真空引き管接続部材222を保持治具500で保持する工程である。
【0074】
図20は、保持治具500による導波管接続部材220および導波管接続部材220の加速管210への保持を説明するための説明図であり、図21は、図20における保持治具500付近の詳細図である。図21に示すように、保持治具500は、ステンレス(SUS)、または、耐高温材料(例えば、インコネル(登録商標)やセラミック等)で構成され、挿通棒510と、導波管接続部材220を押さえる押え板512aと、真空引き管接続部材222を押さえる押え板512bと、バネ516を押さえる押え板514a、514b、バネ516とを含んで構成される。挿通棒510は、後述するナット520a、520bと螺合する溝(タップ)が切られている。
【0075】
なお、ここでは、挿通棒510、ナット520a、520bをインコネル(登録商標)で構成し、バネ516をセラミックで構成し、押え板512a、512b、514a、514bをステンレス(SUS)で構成する例について説明する。
【0076】
このように、荷重がかかるおそれのある挿通棒510、ナット520a、520bをインコネル(登録商標)で構成することで、クリープ現象の発生を抑制し、破断が生じる事態を回避することができる。また、バネ516をセラミックで構成することで、高温に曝したとしてもバネ剛性を維持することができる。
【0077】
まず、押え板512aを導波管接続部材220に当接させ、押え板512bを真空引き管接続部材222に当接させた状態で、押え板512aに設けられた挿通孔522aと、押え板512bに設けられた挿通孔522bとに挿通棒510を挿入する。ここで、上述したように、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、加速管210の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされているので、1本の挿通棒510が挿通孔522aと挿通孔522bとを挿通することになる。
【0078】
そして、押え板512aの導波管接続部材220と当接している面と対向する面にバネ516が当接するように、バネ516を挿通棒510に挿入し、押え板512bの真空引き管接続部材222と当接している面と対向する面にバネ516が当接するように、バネ516を挿通棒510に挿入する。
【0079】
続いて、バネ516を押え板512aまたは押え板512bと挟むように、押え板514a、514bの挿通孔522a、522bを挿通棒510に挿入して、押え板514a、514bをナット520a、520bで固定する。
【0080】
ここで、ナット520a、520bを加速管210に向かって絞めていくと、押え板514a、514bが加速管210に移動する。そうすると、バネ516の弾性力が、加速管210の外周部に導波管接続部材220の接合面が圧接する方向(図21中、白抜き矢印で示す)と、加速管210の外周部に真空引き管接続部材222の接合面が圧接する方向(図21中、黒い塗りつぶしの矢印で示す)に付与される。つまり、加速管210の外周部と導波管接続部材220の接合面とを押しつけ合うように、また、加速管210の外周部と真空引き管接続部材222の接合面とを押しつけ合うように弾性力を付与する。そうすると、押え板512aと押え板512bとの距離が縮み、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222によって加速管210が挟持されることになる。
【0081】
なお、上述したように、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、加速管210の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされているので、押え板512aと押え板512bのみで、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222を加速管210に保持させることができる。
【0082】
そうすると、図20に示すように、各セルが連結されてなる加速管210と、加速管210に仮止めされた台座450と、水供給管470と、加速管210に仮止めされ、かつ保持治具500によって保持された導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とが一体となって保持される。
【0083】
(加熱工程S306)
加熱工程は、保持治具400、500によって保持された加速管210、導波管接続部材220、真空引き管接続部材222を真空炉に導入して1000℃程度まで加熱する工程である。具体的に説明すると、図20に示す、吊り下げ板418に設けられた吊り下げ孔418aを真空炉の部材に吊り下げて、真空炉に加速管210を固定して加熱する。
【0084】
上述したように、各セルの他のセルと当接する面は鏡面に研磨されているため、加熱工程S306を経ることで、複数のセルが拡散接合して、加速空間230が外部(大気)と隔離された加速管210が形成される。また、各セルの他のセルと当接する面の研磨が十分でなく、拡散接合が為されなかったとしても、各セルの間に配されたロウ材が溶融し、各セル間の空隙を埋めることができる。
【0085】
さらに、導波管接続部材220は、導波管接続部材220とカップラーセル256との間に配されたロウ材が溶融することによって、加速管210(カップラーセル256)と接合される。真空引き管接続部材222は、真空引き管接続部材222とカップラーセル256との間に配されたロウ材が溶融することによって、加速管210(カップラーセル256)と接合される。ここで、仮止め工程S302と保持工程S304を経ることにより、導波管接続部材220と真空引き管接続部材222をカップラーセル256の外周部に確実に保持させることができ、真空炉で加熱したとしても、導波管接続部材220や真空引き管接続部材222が加速管210(カップラーセル256)からずれてしまう事態を回避することができる。したがって、真空炉による1回の加熱で、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222の双方をカップラーセル256と確実に接合することが可能となる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態にかかる粒子加速器200の製造方法によれば、加速管組付工程S300、仮止め工程S302、保持工程S304を経ることで、真空炉で1回加熱するだけで、リークを生じることのない加速管210の形成、および、リークが生じない、加速管210と導波管接続部材220、真空引き管接続部材222の接合を遂行することができる。したがって、真空炉の利用に費やしていたコストを削減することができる。また真空炉の利用回数が低減することから、粒子加速器200の製造時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、上述した実施形態では、荷電粒子として電子を加速する粒子加速器200の製造方法を例に挙げて説明したが、陽子やイオン化した原子を加速する粒子加速器の製造方法にも適用できる。
【0089】
また、上述した実施形態では、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222にロウ溝274、284が形成されているが、カップラーセル256の外周部にロウ溝274、284が形成されてもよい。
【0090】
さらに、上述した実施形態では、定在波型の線形(リニアック)加速器を例に挙げて説明したが、進行波型の線形加速器の製造に本発明の粒子加速器の製造方法を適用することもできる。進行波型の線形加速器の場合、加速管に導波管接続部材が2つ接合されることになる。このとき、一方の導波管接続部材は、その接合面に対して、加速管の周方向に180度位相をずらした位置に真空引き管接続部材が接合されるが、他方の導波管接続部材は、その接合面に対して、加速管の周方向に180度位相をずらした位置に真空引き管接続部材等の他の接続部材が配されない。
【0091】
この場合、加速管の外周部に当接するダミー部材を、導波管接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置しておく。そうすると、上述した保持治具500の押え板512aが導波管接続部材に、押え板512bがダミー部材に当接することにより、バネ516によって、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面およびダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与され、導波管接続部材およびダミー部材によって加速管が挟持されることになる。
【0092】
また、上述した実施形態の出力フランジ262に構成された挿通孔262aは、接合後にステンレス(SUS)ピースが挿入された後、溶接され、封止されるとよい。
【0093】
さらに、上部加速管押え板412a、下部加速管押え板412b、押え板512a、512bにおける、加速管210と接触する面に、窒化ホウ素(BN)等の耐高温性の剥離材を塗布したり、セラミック板を挟んだりすることで、不要な接合を回避してもよい。また、挿通棒410、510、ナット420a、420b、520a、520bのタップには、焼き付けを防止するための、窒化ホウ素(BN)等の耐高温性の剥離材を塗布してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
S300 …加速管組付工程
S302 …仮止め工程
S304 …保持工程
S306 …加熱工程
200 …粒子加速器
210 …加速管
220 …導波管接続部材(接続部材)
222 …真空引き管接続部材(接続部材)
400、500 …保持治具
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、カソード電極と加速器を備えており、カソード電極に電力を供給することでカソード電極から熱電子を放出し、その熱電子を加速器で加速して被照射物に照射する。
【0003】
電子等の荷電粒子を加速する加速器のうち、荷電粒子を直線上で加速する線形(リニアック)加速器は、内部に複数の区画形成された空間が配された加速管を含んで構成されている。このような加速管を製造する場合、内部に孔が配された複数のセルを積層し、その後、積層したセルを真空炉に導入して加熱することで、各セルの接触部分が拡散接合(真空下や不活性ガス雰囲気下で、接合する材料同士を密着させ、加圧、加熱することで、接合面に生じる原子の拡散を利用して接合する技術)されて1つの加速管となる。なお、真空炉を利用して加速管を製造する場合、各セルの接触部分における表面状態によっては、拡散接合がなされない場合もある。したがって、バックアップとして、各セル間にロウ材を配しておき、拡散接合と並行して各セルをロウ付することも行われている。
【0004】
また、加速管の外周部には、高周波電源ユニットからの高周波電圧を伝送する導波管が接続されている(例えば、特許文献3)。したがって、加速管には、導波管と加速管とを接続するための導波管接続部材が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開平5−217695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、加速管と導波管接続部材とを接合する場合、加速管と導波管接続部材等の接続部材との間にロウ材を配し、真空炉で1000℃程度まで加熱する。この際、リークを生じることなく接合されるように、加速管と接続部材とをステンレスのワイヤで巻き回して仮固定した後に真空炉に導入していた。
【0007】
しかし、真空炉内は1000℃程度まで加熱されるため、加熱時にワイヤが緩んでしまったり、締まりすぎたりして、加速管と接続部材とが適切に接合されず、リークが生じることがあった。このように、加速管と接続部材との間にリークが生じた場合には、加速管を真空炉で再度加熱してロウ付しなければならない。
【0008】
このとき、2回目の加熱時には、1回目に利用したロウ材が溶融しないように、1回目の加熱時と異なるロウ材、すなわち1回目の加熱時に利用したロウ材よりも融点の低いロウ材を利用しなければならず、部品点数が多くなりコストが上昇してしまう。
【0009】
また真空炉を利用して接合する場合、真空炉内を1000℃程度と非常に高温にする必要があるため、2回も真空炉を利用すると、電力が著しく消費されてしまい、コスト高となってしまう。また一旦真空炉で1000℃程度まで加熱されたものを放冷するには、1日程度を要するため、真空炉で2回加熱を行って加速器を製造する場合、少なくとも2日程度といった長時間を要することになる。
【0010】
このように、加速管と接続部材とを接合する際にリークが生じると、当然のこととしてコストが上昇するとともに製造期間が長期化するため、1回の加熱処理でリークが生じないように、確実に加速管と接続部材とを接合することが望まれている。
【0011】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、加速管と接続部材とを仮固定する際に工夫することで、加速管と接続部材とをリークを生じることなく確実に接合することが可能な粒子加速器の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の粒子加速器の製造方法は、荷電粒子を加速する加速管と、高周波電源から印加される高周波電圧を加速管に供給するための導波管、または、加速管の内部を真空状態に減圧可能な真空ポンプの真空引き管を加速管の外周部に接合するための接続部材と、を備えた粒子加速器の製造方法であって、接続部材と加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、接続部材に設けられた貫通孔を介して、加速管の外周部に設けられたねじ穴にねじを螺合させることにより接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程と、加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、接続部材を保持治具によって保持する工程と、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
内部に空洞が形成された複数のセルを、ロウ材を介して積層して連結することにより加速管を組み付ける工程を含み、接続部材は、複数のセルが積層されて組み付けられた加速管の外周部に仮止めされ、保持治具によって保持された接続部材と加速管とを真空炉に導入して加熱する工程において、複数のセルが拡散接合して加速管が形成されるとともに、加速管に接続部材が接合されてもよい。
【0014】
接続部材を加速管の外周部に仮止めする工程では、導波管および加速管を接続する導波管接続部材と、真空引き管および加速管を接続する真空引き管接続部材とを、加速管の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めし、接続部材を保持治具によって保持する工程では、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面および真空引き管接続部材の接合面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、導波管接続部材および真空引き管接続部材によって加速管を挟持してもよい。
【0015】
接続部材を保持治具によって保持する工程では、加速管の外周部に当接するダミー部材を接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置し、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面およびダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、導波管接続部材およびダミー部材によって加速管を挟持してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加速管と接続部材とを仮固定する際に工夫することで、加速管と接続部材とをリークを生じることなく確実に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電子線照射装置の外観斜視図である。
【図2】図1におけるY軸方向から電子線照射装置を見た図である。
【図3】加速器の構成を説明するための説明図である。
【図4】本実施形態にかかる粒子加速器の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図5】加速管の全体構成を説明するための説明図である。
【図6】入力フランジを説明するための説明図である。
【図7】第2セルを説明するための説明図である。
【図8】第2セルを説明するための説明図である。
【図9】第2セルを説明するための説明図である。
【図10】エンドセルを説明するための説明図である。
【図11】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図12】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図13】カップラーセルを説明するための説明図である。
【図14】出力フランジを説明するための説明図である。
【図15】加速管を保持するための保持治具を説明するための説明図である。
【図16】ロウ溝を説明するための説明図である。
【図17】導波管接続部材を説明するための説明図である。
【図18】真空引き管接続部材を説明するための説明図である。
【図19】仮止め工程を説明するための説明図である。
【図20】保持治具による導波管接続部材および導波管接続部材の加速管への保持を説明するための説明図である。
【図21】図20における保持治具付近の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
本実施形態では、電子を加速する粒子加速器を例に挙げて説明する。以下、まず、粒子加速器を含んで構成される電子線照射装置について説明し、続いて、粒子加速器の製造方法について詳述する。
【0020】
(電子線照射装置100)
図1は、電子線照射装置100の外観斜視図であり、図2は、図1におけるY軸方向から電子線照射装置100を見た図である。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置100を支持する支持機構を省略する。
【0021】
図1および図2に示すように、電子線照射装置100は、カソード電源104と、電子銃110と、高周波ユニット112と、導波管114と、プリバンチャ116と、粒子加速器200と、スキャンホーン120とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、粒子加速器200、スキャンホーン120は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。
【0022】
電子線照射装置100において、電子銃110から放出された熱電子は、プリバンチャ116、粒子加速器200で加速され、スキャンホーン120を通過して、コンベア等で構成される搬送装置10で搬送される被照射物Wに向かって図1中Z軸方向に照射される。以下、電子線照射装置100の各機能部について詳述する。
【0023】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃であり、カソード電源(交流電源)104から供給された電力によってカソード電極を加熱し、パルス状に印加された高電圧のグリッド電圧(引出電圧)により、電子線を放出する。
【0024】
(高周波ユニット112、導波管114)
高周波ユニット112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源112bとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および粒子加速器200を構成する加速管210に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。導波管114は、セラミック等で構成されたRF窓114a、114bを通じて、高周波増幅器112aから増幅されて供給される高周波の電圧を加速管210に供給する。導波管114におけるRF窓114aとRF窓114bの間には、六フッ化硫黄(SF6)等の絶縁ガスが充填されており、高周波増幅器112aで増幅されて出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なおRF窓114a、114bはSF6と真空とを隔てる境界の役割を果たす。
【0025】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と粒子加速器200の間に設けられ、導波管114を通じて高周波ユニット112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速管210に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波増幅器112aから供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子線は、バンチングされて加速管210に入射する。プリバンチャ116で電子線をバンチングすることにより、加速管210で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0026】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子線の加速管210への入射タイミングが、加速管210における高周波の正位相と同期したときのみ、電子線は加速管210で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速管210への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。また、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ)も加速管210による加速効率に影響するため、すなわち、電子線の長さが短い程、加速効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0027】
(粒子加速器200)
粒子加速器200は、電子を加速する加速管210と、導波管114と加速管210とを接続する導波管接続部材220と、真空ポンプ102と加速管210とを接続する真空引き管接続部材222とを含んで構成される。
【0028】
図3は、加速管210の構成を説明するための説明図である。本実施形態では、粒子加速器200として、定在波型の線形(リニアック)加速器を例に挙げて説明しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器を採用することもできる。
【0029】
図3に示すように、電子銃110から放出される電子線(図3中、黒い塗つぶしで示す)は、図3中Z軸方向に広がった状態で放出され、プリバンチャ116の内部空間に入射される。そして、プリバンチャ116によるバンチング機能により、電子線は、Z軸方向に圧縮されて加速管210に入射される。
【0030】
ここで、加速管210は、内部に複数の加速空間230(図3中、230a〜230cで示す)を有している。図3では理解を容易にするために、加速空間230を3個として簡略化して説明するが、後述するように本実施形態の加速管210は31個の加速空間230を有する。
【0031】
高周波電源112から導波管接続部材220を通じて加速管210に高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、複数の加速空間230が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間的に変化する電界が生じる。そして、この時間的に変化する電界で電子線を加速する。
【0032】
具体的に説明すると、加速管210の加速空間230は、高周波電源112から導入される高周波の電圧によって、例えば、時刻t0に空間電荷が正(+)になっている箇所232aは、図3(b)に示すように、次の時刻t1には空間電荷が負(−)になる。電子は負の電荷を帯びているので、空間電荷が正に帯電している箇所(正位相の箇所)に引き寄せられる。ここで、電子線の速度と加速空間230における正に帯電するタイミングが同期するように、高周波電源112から供給される電圧の周波数と、加速空間230の距離Lが設計されているため、電子線は加速管210内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速されて、スキャンホーン120に入射される。なお、電子銃110から所定数の加速空間230の距離L(加速空間230における電子線の進行方向(図3中Z軸方向)の距離)は、電子銃110から遠ざかるに従って徐々に長くなるように構成され、以降の加速空間230の距離Lは、所定長さに維持されるように構成される。加速空間230の距離Lについては、後に具体的に説明する。
【0033】
(スキャンホーン120)
スキャンホーン120は、その内部空間が加速管210と連結され、加速管210の出口付近に設けられたスキャン電磁石122と、加速管210と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部124とを含んで構成される(図1、図2参照)。
【0034】
スキャン電磁石122は、加速管210から入射された電子線を水平方向(図1中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は鉛直方向(図1中Z軸方向)であるため、スキャン電磁石122が鉛直方向に進行する電子線を水平方向に走査することにより、水平方向に幅のある被照射物Wに確実に電子線を照射することができる。
【0035】
電子線取出部124は、例えば、50μm程度の厚みのTi箔で構成され、内部空間と、大気とを隔てる境界の役割を果たす。そして、電子線取出部124から大気中に取り出された電子線は、被照射物Wに照射される。
【0036】
こうして、電子銃110で放出された電子線は、粒子加速器200で加速されて、電子線取出部124を通じて、被照射物Wに照射される。以下、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器200の製造方法について説明する。
【0037】
図4は、本実施形態にかかる粒子加速器200の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0038】
図4に示すように、粒子加速器200の製造方法は、加速管210を組み付ける工程(加速管組付工程)S300と、組み付けた加速管210に接続部材(導波管接続部材220、真空引き管接続部材222)を仮止めする工程(仮止め工程)S302、加速管210に仮止めした接続部材を保持治具によって保持する工程(保持工程)S304、保持治具よって保持された接続部材と加速管210とを真空炉に導入して加熱する工程(加熱工程)S306とを含む。以下、各工程について説明する。
【0039】
(加速管組付工程S300)
まず、内部に空洞が形成された複数のセル(後述する入力フランジ250、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、カップラーセル256、エンドセル260、出力フランジ262)を、ロウ材を介して積層して連結することにより、加速管210を組み付ける。なお、以下に説明する各セルには、各セル同士の位置決めを行うためのピンを挿入する穴が設けられているが記載を省略する。また、各セルの他のセルと当接する面は鏡面に研磨されている。
【0040】
図5は、加速管210の全体構成を説明するための説明図である。図5に示すように、加速管210は、プリバンチャ116に接続される側から順に、入力フランジ250、第1セル#1〜第7セル#7で構成されるバンチングセル252、第8セル#8〜第15セル#15で構成されるレギュラーセル254、第16セル#16で構成されるカップラーセル256、第17セル#17〜第30セル#30で構成されるレギュラーセル258、第31セル#31で構成されるエンドセル260、出力フランジ262が連結されて構成される。以下、各セル具体的な構成について説明する。
【0041】
(入力フランジ250)
図6は、入力フランジ250を説明するための説明図であり、図6(a)は、入力フランジ250をプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図6(b)は、図6(a)のVI(b)−VI(b)断面図であり、図6(c)は、入力フランジ250をスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0042】
入力フランジ250は、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、図6に示すように、プリバンチャ116と接続するための接続部250aと、後述する導水管を形成する導水孔250bと、プリバンチャ116から入射される電子線が通過する空洞250cとを含んで構成される。また入力フランジ250には、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面にロウ材を嵌入するためのロウ溝250dが形成されている。他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面ロウ溝250dが形成される理由については、他のセルのロウ溝とともに後に詳述する。なお、入力フランジ250におけるステンレス(SUS)で構成される層に接続部250aが形成され、入力フランジ250における銅で構成される層にロウ溝250dが形成されている。
【0043】
(バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256)
バンチングセル252は、銅で構成され、プリバンチャ116から入射された電子線をさらに圧縮して加速する機能を有する。レギュラーセル254、258、エンドセル260およびカップラーセル256は、銅で構成され、バンチングセル252で圧縮された電子線をさらに加速する機能を有する。バンチングセル252と、レギュラーセル254、258とは、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さが異なるが、構成は実質的に等しいので、ここでは、第2セル#2を例に挙げて説明する。
【0044】
図7から図9は、第2セル#2を説明するための説明図であり、図7(a)は、第2セル#2を構成する第2セル#2Lをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図7(b)は、図7(a)のVII(b)−VII(b)断面図であり、図7(c)は、第2セル#2Lをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。また、図8(a)は、第2セル#2を構成する第2セル#2Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図8(b)は、図8(a)のVIII(b)−VIII(b)断面図であり、図8(c)は、第2セル#2Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0045】
図7および図8に示すように、第2セル#2Lおよび第2セル#2Rは、導水管を形成する導水孔270と、電子線が通過する空洞272とを含んで構成される。また第2セル#2Lおよび第2セル#2Rには、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面、すなわち、図5に示す状態でスキャンホーン120に臨む方向に、ロウ溝274が形成されている。ロウ溝274は、導水孔270を囲んで形成されている。
【0046】
第2セル#2は、図9に示すように、1組の第2セル#2Lおよび第2セル#2Rで構成される。つまり、第2セル#2Lの空洞272と、第2セル#2Rの空洞272とで、1つの加速空間230が形成されることになる。
【0047】
なお、第1セル#1は、第2セル#2Rと実質的に等しい構成である。また、第10セル#10および第27セル#27には、粒子加速器200を電子線照射装置100の構成装置として利用する際に、粒子加速器200を支持する台座に粒子加速器200を固定するための部材を仮止めするためのねじ穴が設けられている。
【0048】
図10は、エンドセルを説明するための説明図であり、図10(a)は、エンドセル260を構成する第31セル#31Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図10(b)は、図10(a)のX(b)−X(b)断面図であり、図10(c)は、エンドセル260を構成する第31セル#31Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。なお、エンドセル260を構成する第31セル#31Lは、第2セル#2Lと実質的に等しい構成であるため説明を省略する。
【0049】
図10に示すように、第31セル#31Rは、第2セル#2Rと同様に、導水管を形成する導水孔270と、電子線が通過する空洞272と、を含み、さらに、水を導水孔270に供給するための水供給管を仮止めするための穴276(例えば、エンドセル260の周方向に10個)が設けられている。また第31セル#31Rには、出力フランジ262と積層したときに鉛直下方向に臨む面、すなわち、図5に示す状態でスキャンホーン120に臨む方向に、ロウ溝274が形成されている。ロウ溝274は、導水孔270を囲んで形成されている。
【0050】
図11から図13は、カップラーセル256を説明するための説明図であり、図11(a)は、カップラーセル256を構成するカップラーセル256Lをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図11(b)は、カップラーセル256Lをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図であり、図11(c)は、図11(b)のXI(c)−XI(c)断面図であり、図11(d)は、図11(b)のXI(d)−XI(d)断面図である。また、図12(a)は、カップラーセル256を構成するカップラーセル256Rをプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図12(b)は、カップラーセル256Rをスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図であり、図12(c)は、図12(a)のXII(c)−XII(c)断面図であり、図12(d)は、図12(a)のXII(d)−XII(d)断面図である。
【0051】
図11および図12に示すように、カップラーセル256Lおよびカップラーセル256Rは、銅で構成されており、導水管を形成する導水孔280と、電子線が通過する空洞282と、ロウ溝284と、導波管114から供給される高周波電圧が導入される電圧導入孔286と、加速管210の内部空間と真空ポンプ102とを連通させるための真空孔288と、導波管接続部材220を仮止めするためのねじ穴290と、真空引き管接続部材222を仮止めするためのねじ穴292が設けられている。ここでもロウ溝284は、他のセルと積層したときに鉛直下方向に臨む面に形成されており、ロウ溝284は、空洞282と導水孔280を囲んで形成されている。
【0052】
カップラーセル256は、図13に示すように、1組のカップラーセル256Lおよびカップラーセル256Rで構成される。つまり、カップラーセル256Lの空洞282と、カップラーセル256Rの空洞282とで、1つの加速空間230が形成されることになる。
【0053】
続いて、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さについて説明する。バンチングセル252は、プリバンチャ116から電子線の加速方向に遠ざかるにつれて、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さが長くなるように構成される。具体的に説明すると、バンチングセル252において、電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の、第1セル#1の長さをL1、第2セル#2の長さをL2、第3セル#3の長さをL3、第4セル#4および第5セル#5の長さをL4、第6セル#6および第7セル#7の長さをL6とすると、バンチングセル252は、L1<L2<L3<L4<L6の関係を満たすように構成される。これは、プリバンチャ116から入射された電子線は、30KeV程度であり、バンチングセル252で2MeV程度まで加速するためである。
【0054】
一方、2MeV以上は、光速と等しい速度に換算することができる。したがって、第8セル#8〜第15セル#15までのレギュラーセル254と、第16セル#16であるカップラーセル256、第17セル#17〜第30セル#30までのレギュラーセル258、第31セル#31であるエンドセル260の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さLXを実質的に等しくすることができる。なお、第1セル#1に入射される30keVの電子線の移動速度より、第8セル#8入射される2MeVの電子線の移動速度(光速)は、はるかに速いため、所定の期間に移動する距離が長くなる。したがって、レギュラーセル254、258、カップラーセル256、エンドセル260の電子線の加速方向(図1中Z軸方向)の長さLXは第7セル#7の長さよりも長く形成される。
【0055】
(出力フランジ262)
図14は、出力フランジ262を説明するための説明図であり、図14(a)は、出力フランジ262をプリバンチャ116側から図5中Z軸方向に見た図であり、図14(b)は、図14(a)のXIV(b)−XIV(b)断面図であり、図14(c)は、出力フランジ262をスキャンホーン120側から図5中Z軸方向に見た図である。
【0056】
図14に示すように、出力フランジ262は、ステンレス(SUS)、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、スキャンホーン120と接続するための接続部262bと、後述する挿通棒410を挿通させるための挿通孔262aと、電子線が通過する空洞262cとを含んで構成される。ここでは、出力フランジ262がステンレス(SUS)で構成される例について説明する。
【0057】
以上説明した、各セル(入力フランジ250、バンチングセル252、レギュラーセル254、258、エンドセル260、カップラーセル256)に形成されたロウ溝250d、274、284にロウ材を嵌めこみ、ロウ材を介して各セルを積層する。ここで利用されるロウ材は、金、パラジウム、銀等を含んで構成されるロウ材である。
【0058】
そして、各セルが積層されて構成された加速管210は、保持治具で保持される。図15は、加速管210を保持するための保持治具400を説明するための説明図である。なお、図15(b)中、理解を容易にするために、各セルにおける導水孔、挿通孔以外の構成の記載を省略する。
【0059】
図15(a)に示すように、保持治具400は、ステンレス(SUS)、または、耐高温材料(例えば、インコネル(登録商標)やセラミック等)で構成され、挿通棒410と、上部加速管押え板412aと、下部加速管押え板412bと、バネ押え板414と、バネ416と、吊り下げ板418とを含んで構成される。挿通棒410は、後述するナット420a、420bと螺合する溝(タップ)が切られている。なお、ここでは、挿通棒410、ナット420a、420bをインコネル(登録商標)で構成し、バネ416をセラミックで構成し、上部加速管押え板412a、下部加速管押え板412b、バネ押え板414、吊り下げ板418をステンレス(SUS)で構成する例について説明する。
【0060】
このように、荷重がかかる挿通棒410、ナット420a、420bをインコネル(登録商標)で構成することで、クリープ現象の発生を抑制し、破断が生じる事態を回避することができる。また、バネ416をセラミックで構成することで、高温に曝したとしてもバネ剛性を維持することができる。
【0061】
まず、各セルに設けられた導水孔250b、270、280が連通することで構成された導水管240、および、出力フランジ262に設けられた挿通孔262aに挿通棒410を挿通する。そして、下部加速管押え板412bに設けられた挿通孔を鉛直(図15中Z軸方向)上方向に向かって、挿通棒410に挿入し、加速管210の下部(出力フランジ262)に当接させ、ナット420aで固定する。
【0062】
続いて、上部加速管押え板412aに設けられた挿通孔を、鉛直下方向に向かって挿通棒410に挿入し、加速管210の上部(入力フランジ250)に当接させる。そして、上部加速管押え板412aの上方からバネ416を挿通棒410に挿入し、バネ416の上方からバネ押え板414の挿通孔に挿通棒410を挿入して、バネ押え板414をナット420bで固定する。ここで、ナット420bを鉛直下方向に向かって絞めていくと、バネ押え板414が鉛直下方(図15中、白抜き矢印で示す)に移動する。そうすると、バネ416の弾性力が鉛直下方に付与され、上部加速管押え板412aに鉛直下方の力がかかる。そうすると、上部加速管押え板412aと下部加速管押え板412bとの距離が縮み、加速管210を挟持することになる。
【0063】
このようにして、保持治具400を用いて、ロウ材を介して複数のセルを積層して連結することにより、加速管210を組み付ける。また、上述したように、ロウ溝250d、274、284は、保持治具400を用いて連結したときに、各セルにおける、鉛直下方向に臨む面に設けられる。
【0064】
図16は、ロウ溝を説明するための説明図である。図16では、レギュラーセル254に設けられたロウ溝274を例に挙げて説明する。図16では、特に、第13セル#13、第12セル#12、第11セル#11を示している。保持治具400を用いて各セルを連結すると、鉛直下方向から、出力フランジ262、第31セル#31(エンドセル260)、第30セル#30(レギュラーセル258)、…、第16セル#16(カップラーセル256)、…第13セル#13(レギュラーセル254)、第12セル#12(レギュラーセル254)、第11セル#11(レギュラーセル254)、…、第1セル#1(バンチングセル252)、入力フランジ250の順で鉛直上方向に積層される。
【0065】
ここで図16に示すように、ロウ溝274は、保持治具400に保持されて積層されたときに鉛直下方向に臨む面274aに設けられる。これは、後述する加熱工程S306において、保持治具400に保持させたまま加速管210を加熱すると、ロウ溝274に嵌めこまれたロウ材が溶融して自重によって鉛直下方に移動するためである。つまり、鉛直下方(図16中、Z軸方向)に向かって開口したロウ溝274にロウ材を嵌めこんでおけば、溶融したときに、その自重によって、ロウ溝274から鉛直下方に当接されたセルに向かって(図16に示す拡大図では、第11セル#11Lのロウ溝274から第11セル#11Rに向かって)、ロウ材が溶融することになる。したがって、セル同士を確実にロウ付けすることが可能となる。なお、ここでは、図16を用いてロウ溝274について説明したが、ロウ溝250d、284についても同様の効果を得ることができる。
【0066】
(仮止め工程S302)
仮止め工程S302は、加速管組付工程S300において組み付けられた加速管210のうち、カップラーセル256に導波管接続部材220と真空引き管接続部材222とを仮止めする工程である。
【0067】
図17は、導波管接続部材220を説明するための説明図であり、図17(a)は、導波管接続部材220を説明するための断面図を示し、図17(b)は、図17(a)に示すX軸方向から導波管接続部材220を見た図を示す。
【0068】
図17に示すように、導波管接続部材220は、銅、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造で構成され、導波管114から供給される高周波電圧を加速管210に導入するための電圧導入孔220aと、挿通孔220bと、ロウ溝220cと、貫通孔220dとを含んで構成される。貫通孔220dは、導波管接続部材220とカップラーセル256とを当接させると、カップラーセル256におけるねじ穴290と連通するように形成されている。なお、ここでは、導波管接続部材220が銅およびステンレスの2層構造で構成される例について説明し、導波管接続部材220におけるステンレスで構成される層に挿通孔220bが形成され、導波管接続部材220における銅で構成される層にロウ溝220cと、貫通孔220dとが形成される。
【0069】
図18は、真空引き管接続部材222を説明するための説明図であり、図18(a)は、真空引き管接続部材222を説明するための断面図を示し、図18(b)は、図18(a)に示すX軸方向から真空引き管接続部材222を見た図を示す。
【0070】
図18に示すように、真空引き管接続部材222は、銅、または、銅およびステンレス(SUS)の2層構造、または、ステンレス(SUS)で構成され、加速管210の内部空間と真空ポンプ102とを連通させるための真空孔222aと、挿通孔222bと、ロウ溝222cと、貫通孔222dとを含んで構成される。貫通孔222dは、真空引き管接続部材222とカップラーセル256とを当接させると、カップラーセル256におけるねじ穴292と連通するように形成されている。なお、ここでは、真空引き管接続部材222がステンレス(SUS)で構成される例について説明する。
【0071】
図19は、仮止め工程S302を説明するための説明図である。仮止め工程S302では、まず、導波管接続部材220における、カップラーセル256(加速管210)の外周部と接合する面(接合面)に設けられたロウ溝220cと、真空引き管接続部材222におけるカップラーセル256の外周部と接合する面に設けられたロウ溝222cとにロウ材を配しておく。そして、図19に示すように、貫通孔220dを介して、カップラーセル256の外周部に設けられたねじ穴290にねじを螺合させることにより、導波管接続部材220をカップラーセル256の外周部に仮止めする。また、貫通孔222dを介して、カップラーセル256の外周部に設けられたねじ穴292にねじを螺合させることにより、真空引き管接続部材222を、カップラーセル256の外周部に仮止めする。ここで、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、カップラーセル256の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされる。
【0072】
また、仮止め工程S302では、第10セル#10および第27セル#27に台座を仮止めし、第31セル#31には、水を導水孔270に供給するための水供給管を仮止めする。
【0073】
(保持工程S304)
保持工程S304は、加速管210(カップラーセル256)の外周部に仮止めされた導波管接続部材220および真空引き管接続部材222を保持治具500で保持する工程である。
【0074】
図20は、保持治具500による導波管接続部材220および導波管接続部材220の加速管210への保持を説明するための説明図であり、図21は、図20における保持治具500付近の詳細図である。図21に示すように、保持治具500は、ステンレス(SUS)、または、耐高温材料(例えば、インコネル(登録商標)やセラミック等)で構成され、挿通棒510と、導波管接続部材220を押さえる押え板512aと、真空引き管接続部材222を押さえる押え板512bと、バネ516を押さえる押え板514a、514b、バネ516とを含んで構成される。挿通棒510は、後述するナット520a、520bと螺合する溝(タップ)が切られている。
【0075】
なお、ここでは、挿通棒510、ナット520a、520bをインコネル(登録商標)で構成し、バネ516をセラミックで構成し、押え板512a、512b、514a、514bをステンレス(SUS)で構成する例について説明する。
【0076】
このように、荷重がかかるおそれのある挿通棒510、ナット520a、520bをインコネル(登録商標)で構成することで、クリープ現象の発生を抑制し、破断が生じる事態を回避することができる。また、バネ516をセラミックで構成することで、高温に曝したとしてもバネ剛性を維持することができる。
【0077】
まず、押え板512aを導波管接続部材220に当接させ、押え板512bを真空引き管接続部材222に当接させた状態で、押え板512aに設けられた挿通孔522aと、押え板512bに設けられた挿通孔522bとに挿通棒510を挿入する。ここで、上述したように、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、加速管210の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされているので、1本の挿通棒510が挿通孔522aと挿通孔522bとを挿通することになる。
【0078】
そして、押え板512aの導波管接続部材220と当接している面と対向する面にバネ516が当接するように、バネ516を挿通棒510に挿入し、押え板512bの真空引き管接続部材222と当接している面と対向する面にバネ516が当接するように、バネ516を挿通棒510に挿入する。
【0079】
続いて、バネ516を押え板512aまたは押え板512bと挟むように、押え板514a、514bの挿通孔522a、522bを挿通棒510に挿入して、押え板514a、514bをナット520a、520bで固定する。
【0080】
ここで、ナット520a、520bを加速管210に向かって絞めていくと、押え板514a、514bが加速管210に移動する。そうすると、バネ516の弾性力が、加速管210の外周部に導波管接続部材220の接合面が圧接する方向(図21中、白抜き矢印で示す)と、加速管210の外周部に真空引き管接続部材222の接合面が圧接する方向(図21中、黒い塗りつぶしの矢印で示す)に付与される。つまり、加速管210の外周部と導波管接続部材220の接合面とを押しつけ合うように、また、加速管210の外周部と真空引き管接続部材222の接合面とを押しつけ合うように弾性力を付与する。そうすると、押え板512aと押え板512bとの距離が縮み、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222によって加速管210が挟持されることになる。
【0081】
なお、上述したように、導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とは、加速管210の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めされているので、押え板512aと押え板512bのみで、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222を加速管210に保持させることができる。
【0082】
そうすると、図20に示すように、各セルが連結されてなる加速管210と、加速管210に仮止めされた台座450と、水供給管470と、加速管210に仮止めされ、かつ保持治具500によって保持された導波管接続部材220と、真空引き管接続部材222とが一体となって保持される。
【0083】
(加熱工程S306)
加熱工程は、保持治具400、500によって保持された加速管210、導波管接続部材220、真空引き管接続部材222を真空炉に導入して1000℃程度まで加熱する工程である。具体的に説明すると、図20に示す、吊り下げ板418に設けられた吊り下げ孔418aを真空炉の部材に吊り下げて、真空炉に加速管210を固定して加熱する。
【0084】
上述したように、各セルの他のセルと当接する面は鏡面に研磨されているため、加熱工程S306を経ることで、複数のセルが拡散接合して、加速空間230が外部(大気)と隔離された加速管210が形成される。また、各セルの他のセルと当接する面の研磨が十分でなく、拡散接合が為されなかったとしても、各セルの間に配されたロウ材が溶融し、各セル間の空隙を埋めることができる。
【0085】
さらに、導波管接続部材220は、導波管接続部材220とカップラーセル256との間に配されたロウ材が溶融することによって、加速管210(カップラーセル256)と接合される。真空引き管接続部材222は、真空引き管接続部材222とカップラーセル256との間に配されたロウ材が溶融することによって、加速管210(カップラーセル256)と接合される。ここで、仮止め工程S302と保持工程S304を経ることにより、導波管接続部材220と真空引き管接続部材222をカップラーセル256の外周部に確実に保持させることができ、真空炉で加熱したとしても、導波管接続部材220や真空引き管接続部材222が加速管210(カップラーセル256)からずれてしまう事態を回避することができる。したがって、真空炉による1回の加熱で、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222の双方をカップラーセル256と確実に接合することが可能となる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態にかかる粒子加速器200の製造方法によれば、加速管組付工程S300、仮止め工程S302、保持工程S304を経ることで、真空炉で1回加熱するだけで、リークを生じることのない加速管210の形成、および、リークが生じない、加速管210と導波管接続部材220、真空引き管接続部材222の接合を遂行することができる。したがって、真空炉の利用に費やしていたコストを削減することができる。また真空炉の利用回数が低減することから、粒子加速器200の製造時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、上述した実施形態では、荷電粒子として電子を加速する粒子加速器200の製造方法を例に挙げて説明したが、陽子やイオン化した原子を加速する粒子加速器の製造方法にも適用できる。
【0089】
また、上述した実施形態では、導波管接続部材220および真空引き管接続部材222にロウ溝274、284が形成されているが、カップラーセル256の外周部にロウ溝274、284が形成されてもよい。
【0090】
さらに、上述した実施形態では、定在波型の線形(リニアック)加速器を例に挙げて説明したが、進行波型の線形加速器の製造に本発明の粒子加速器の製造方法を適用することもできる。進行波型の線形加速器の場合、加速管に導波管接続部材が2つ接合されることになる。このとき、一方の導波管接続部材は、その接合面に対して、加速管の周方向に180度位相をずらした位置に真空引き管接続部材が接合されるが、他方の導波管接続部材は、その接合面に対して、加速管の周方向に180度位相をずらした位置に真空引き管接続部材等の他の接続部材が配されない。
【0091】
この場合、加速管の外周部に当接するダミー部材を、導波管接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置しておく。そうすると、上述した保持治具500の押え板512aが導波管接続部材に、押え板512bがダミー部材に当接することにより、バネ516によって、加速管の外周部に、導波管接続部材の接合面およびダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与され、導波管接続部材およびダミー部材によって加速管が挟持されることになる。
【0092】
また、上述した実施形態の出力フランジ262に構成された挿通孔262aは、接合後にステンレス(SUS)ピースが挿入された後、溶接され、封止されるとよい。
【0093】
さらに、上部加速管押え板412a、下部加速管押え板412b、押え板512a、512bにおける、加速管210と接触する面に、窒化ホウ素(BN)等の耐高温性の剥離材を塗布したり、セラミック板を挟んだりすることで、不要な接合を回避してもよい。また、挿通棒410、510、ナット420a、420b、520a、520bのタップには、焼き付けを防止するための、窒化ホウ素(BN)等の耐高温性の剥離材を塗布してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、電子等の荷電粒子を加速する粒子加速器の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
S300 …加速管組付工程
S302 …仮止め工程
S304 …保持工程
S306 …加熱工程
200 …粒子加速器
210 …加速管
220 …導波管接続部材(接続部材)
222 …真空引き管接続部材(接続部材)
400、500 …保持治具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速する加速管と、
高周波電源から印加される高周波電圧を前記加速管に供給するための導波管、または、前記加速管の内部を真空状態に減圧可能な真空ポンプの真空引き管を前記加速管の外周部に接合するための接続部材と、
を備えた粒子加速器の製造方法であって、
前記接続部材と前記加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、該接続部材に設けられた貫通孔を介して、前記加速管の外周部に設けられたねじ穴にねじを螺合させることにより前記接続部材を前記加速管の外周部に仮止めする工程と、
前記加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と前記加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、前記接続部材を保持治具によって保持する工程と、
前記保持治具によって保持された前記接続部材と前記加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、
を含むことを特徴とする粒子加速器の製造方法。
【請求項2】
内部に空洞が形成された複数のセルを、ロウ材を介して積層して連結することにより前記加速管を組み付ける工程を含み、
前記接続部材は、前記複数のセルが積層されて組み付けられた前記加速管の外周部に仮止めされ、
前記保持治具によって保持された前記接続部材と前記加速管とを真空炉に導入して加熱する工程において、前記複数のセルが拡散接合して加速管が形成されるとともに、該加速管に前記接続部材が接合されることを特徴とする請求項1に記載の粒子加速器の製造方法。
【請求項3】
前記接続部材を前記加速管の外周部に仮止めする工程では、
前記導波管および前記加速管を接続する導波管接続部材と、前記真空引き管および前記加速管を接続する真空引き管接続部材とを、当該加速管の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めし、
前記接続部材を保持治具によって保持する工程では、
前記加速管の外周部に、前記導波管接続部材の接合面および前記真空引き管接続部材の接合面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、前記導波管接続部材および前記真空引き管接続部材によって前記加速管を挟持することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子加速器の製造方法。
【請求項4】
前記接続部材を保持治具によって保持する工程では、
前記加速管の外周部に当接するダミー部材を前記接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置し、
前記加速管の外周部に、前記導波管接続部材の接合面および前記ダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、前記導波管接続部材および前記ダミー部材によって前記加速管を挟持することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子加速器の製造方法。
【請求項1】
荷電粒子を加速する加速管と、
高周波電源から印加される高周波電圧を前記加速管に供給するための導波管、または、前記加速管の内部を真空状態に減圧可能な真空ポンプの真空引き管を前記加速管の外周部に接合するための接続部材と、
を備えた粒子加速器の製造方法であって、
前記接続部材と前記加速管の外周部との接合面にロウ材が配されるとともに、該接続部材に設けられた貫通孔を介して、前記加速管の外周部に設けられたねじ穴にねじを螺合させることにより前記接続部材を前記加速管の外周部に仮止めする工程と、
前記加速管の外周部に仮止めされた接続部材の接合面と前記加速管の外周部とを押しつけ合うように弾性力を付与させた状態で、前記接続部材を保持治具によって保持する工程と、
前記保持治具によって保持された前記接続部材と前記加速管とを真空炉に導入して加熱する工程と、
を含むことを特徴とする粒子加速器の製造方法。
【請求項2】
内部に空洞が形成された複数のセルを、ロウ材を介して積層して連結することにより前記加速管を組み付ける工程を含み、
前記接続部材は、前記複数のセルが積層されて組み付けられた前記加速管の外周部に仮止めされ、
前記保持治具によって保持された前記接続部材と前記加速管とを真空炉に導入して加熱する工程において、前記複数のセルが拡散接合して加速管が形成されるとともに、該加速管に前記接続部材が接合されることを特徴とする請求項1に記載の粒子加速器の製造方法。
【請求項3】
前記接続部材を前記加速管の外周部に仮止めする工程では、
前記導波管および前記加速管を接続する導波管接続部材と、前記真空引き管および前記加速管を接続する真空引き管接続部材とを、当該加速管の外周部に180度位相をずらしてそれぞれ仮止めし、
前記接続部材を保持治具によって保持する工程では、
前記加速管の外周部に、前記導波管接続部材の接合面および前記真空引き管接続部材の接合面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、前記導波管接続部材および前記真空引き管接続部材によって前記加速管を挟持することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子加速器の製造方法。
【請求項4】
前記接続部材を保持治具によって保持する工程では、
前記加速管の外周部に当接するダミー部材を前記接続部材に対して加速管の周方向に180度位相をずらして配置し、
前記加速管の外周部に、前記導波管接続部材の接合面および前記ダミー部材の当接面を押しつけ合うように弾性力を付与するとともに、前記導波管接続部材および前記ダミー部材によって前記加速管を挟持することを特徴とする請求項1または2に記載の粒子加速器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−37865(P2013−37865A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172497(P2011−172497)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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