説明

粒子導電性判別装置及び粒子導電性判別方法

【課題】浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する方法及び装置を提供する。
【解決手段】
浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する方法であって、
レーザー光発生装置から出射したレーザー光を判別対象の前記浮遊粒子に照射し、
前記照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器によって検出し、
前記前方散乱光強度と前記後方散乱光強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子導電性判別装置及び粒子導電性判別方法に関し、より詳細には、光学的手法を用いて粒子が導電性を有するか否かを判別する装置及びその判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン用リチウムイオン蓄電池が発火する事故が発生している。この原因は、蓄電池の製造過程において、電池セルの内部に金属粒子などの導電性粒子が混入し、混入した導電性粒子が正極と負極を隔てるセパレータを貫通して内部短絡を引き起こし、発煙、発火事故に繋がるものと考えられている。
【0003】
したがって、電池セル内部に導電性粒子が混入しないようにするために、製造工程において導電性粒子をモニタリングする技術が望まれる。
【0004】
一般に、浮遊する粒子を計測する方法には、光散乱方式のパーティクルカウンタが用いられることが多い。これは、レーザー光を測定対象のエアロゾルに照射し、当該エアロゾルに内在する粒子からの散乱光を検出し、内在する粒子数及び粒径を求めるものである(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−108386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の方法により浮遊粒子数や粒径を求めることはできるものの、当該粒子が導電性を有するか否かを判別することはできなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、空間を浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
空間に浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する方法であって、
レーザー光発生装置から出射したレーザー光を判別対象の前記浮遊粒子に照射し、
前記照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器によって検出し、
前記前方散乱光強度と前記後方散乱光強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別することを特徴とする粒子導電性判別方法。
【0009】
(作用効果)
本発明者は、レーザー光を判別対象の浮遊粒子に照射し、その照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器によって検出し、前記前方散乱光の強度と前記後方散乱光の強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別できることを知見した。その結果、装置的に特別なものを用意する必要はなく、装置構成は簡素なもので足り、また、判別を高い精度で実行できる。
【0010】
<請求項2記載の発明>
前記レーザー光発生装置はレーザービームを発生させる装置であり、
前記前方散乱光検出器はフォトダイオードまたは光電子増倍管であり、
前記後方散乱光検出器はフォトダイオードまたは光電子増倍管である請求項1に記載の粒子導電性判別方法。
【0011】
(作用効果)
個別粒子を捉える場合に有効である。
【0012】
<請求項3記載の発明>
前記レーザー光発生装置はレーザーライトシートを発生させる装置であり、前記前方散乱光検出器及び前記後方散乱光検出器は撮像素子である請求項1に記載の粒子導電性判別方法。
【0013】
(作用効果)
粒子を群で捉える場合や、分散分布などを把握するのに有効である。
【0014】
<請求項4記載の発明>
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に偏光フィルタを設け、観測面に対して平行な偏光を検出する請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【0015】
(作用効果)
観測面に対して垂直な偏光を検出する場合よりも、散乱光の強度比率を明確に捉えることができ、粒子の導電性の有無を高い精度で判別することができる。
【0016】
<請求項5記載の発明>
前記レーザー光発生装置の前面に偏光フィルタまたは偏光プリズムのいずれか一方と、λ/2波長板とから選択される少なくともいずれか一つを設け、観測面に対して平行な偏光を照射する請求項1〜4に記載の粒子導電性判別方法。
【0017】
(作用効果)
観測面に対して垂直な偏光を照射する場合よりも、散乱光の強度比率を明確に捉えることができ、粒子の導電性の有無を高い精度で判別することができる。
【0018】
<請求項6記載の発明>
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に受光角調整装置を設け、レーザー光の入射線に対する粒子の散乱角が30度〜60度および300度〜330度の少なくとも一方の前方散乱光と、120度〜150度および210〜240度の少なくとも一方の後方散乱光を検出する請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【0019】
(作用効果)
上記の散乱角の範囲内であると、散乱光の強度比率を明確に捉えることができ、粒子の導電性の有無を高い精度で判別することができる。
【0020】
<請求項7記載の発明>
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に受光角調整装置を設け、レーザー光の入射線に対する粒子の散乱角が、40〜50度および310〜320度の少なくとも一方の前方散乱光と、130〜140度および220〜230度の少なくとも一方の後方散乱光を検出する請求項1〜6のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【0021】
(作用効果)
請求項6記載の発明の場合よりも、散乱光の強度比率を明確に捉えることができ、粒子の導電性の有無を高い精度で判別することができる。
【0022】
<請求項8記載の発明>
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に干渉フィルタを設ける請求項1〜7のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【0023】
(作用効果)
蛍光等の非弾性散乱光を除去できるため、干渉フィルタを設けない場合と比べて、粒子の導電性の有無の判別が容易になる。
【0024】
<請求項9記載の発明>
空間に浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する装置であって、
判別対象の前記浮遊粒子にレーザー光を照射するレーザー光発生装置と、
前記照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を検出する前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器と、
前記前方散乱光の強度と前記後方散乱光の強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別する手段と、を有することを特徴とする粒子導電性判別装置。
【0025】
(作用効果)
請求項1の場合と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の粒子導電性判別装置及び粒子導電性判別方法によれば、浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る粒子導電性判別装置の平面図である。
【図2】本発明に係る粒子導電性判別装置の変形例である。
【図3】導電性を有さない浮遊粒子に光を照射した場合の散乱光を示した図である。
【図4】導電性を有する浮遊粒子に光を照射した場合の散乱光を示した図である。
【図5】導電性を有する浮遊粒子に光を照射した場合の散乱光を示した図である。
【図6】前方散乱光強度と後方散乱光強度の強度比について表した図である。
【図7】浮遊粒子がガラスビーズの場合の実験結果を表した図である。
【図8】浮遊粒子がNiの場合の実験結果を表した図である。
【図9】照射光としてレーザーライトシートを、散乱光検出器として撮像素子を用いた場合の図である。
【図10】前方散乱光強度と後方散乱光強度の強度比について他の例について表した図である。
【図11】前方散乱光強度と後方散乱光強度の強度比について別の例について表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の粒子導電性判別装置及び粒子導電性判別方法の好ましい実施形態について、図1〜図11を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明にかかる粒子導電性判別装置の平面図である。
【0030】
粒子導電性判別装置は、レーザー光発生装置1と前方散乱光検出器3と後方散乱光検出器4とを含んでいる。
前記レーザー光発生装置1から、対象となる浮遊粒子2に対してレーザー光を照射すると、レーザー光が前記浮遊粒子2に当たり光が散乱する。
この光の散乱が観測面L上でどのように発生するかを、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4によって検出する。より詳しくは、前記散乱光のうち前方へ散乱したものを前方散乱光検出器3によって検出する。後方へ散乱したものを後方散乱光検出器4によって検出する。
そして、前方散乱光の強度と後方散乱光の強度の比率に基づき浮遊粒子の導電性の有無を判別するものである。
【0031】
ここで、観測面Lとは、(1)レーザー光発生装置1の出射口と浮遊粒子2を結んだ直線、(2)前方散乱光検出器3の受光口と浮遊粒子2を結んだ直線、(3)後方散乱光検出器4の受光口と浮遊粒子2を結んだ直線、の全てを含む面をいう。
また、前記レーザー光発生装置1のレーザー光出射口と前記浮遊粒子2を結んだ直線およびその延長線を縦方向基準線Yという。また、浮遊粒子2を通り、縦方向基準線Yに直角に交わる線を横方向基準線Xという。更に、前記横方向基準線Xを境として、Yプラス方向を前方といい、Yマイナス方向を後方という。なお、縦方向基準線Yと横方向基準線Xは、観測面L上にある。
また、浮遊粒子2と前方散乱光検出器3を結ぶ方向線、並びに後方散乱光検出器4を結ぶ方向線が、縦方向基準線Yとの間でなす角度を前方散乱角θ1及び後方散乱角θ2とする。
前方散乱光検出器は、フォトダイオードまたは光電子増倍管等からなり、フォトダイオードには、アバランシェフォトダイオードも含む。また、後方散乱光検出器も同様に、フォトダイオードまたは光電子増倍管等からなり、フォトダイオードには、アバランシェフォトダイオードも含む。
図1においては、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4をXプラス方向に設けた例を示したが、本発明はこの例に限られない。具体的には、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4をXマイナス方向に設けても良いし、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4をそれぞれ複数設けても良い。
【0032】
図2は、本発明にかかる粒子導電性判別装置の変形例である。
【0033】
前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4の少なくとも一方の検出器の前面に、偏光フィルタ5を設けた。偏光フィルタ5を設けることで、観測面Lに対して垂直な偏光のみ、または、観測面Lに対して平行な偏光のみを検出することができる。
本発明における粒子導電性判別方法においては、後述のように、観測面Lに対して平行な偏光を用いると、粒子の導電性の有無の判別が容易になるため、観測面Lに対して平行な偏光のみを検出する偏光フィルタ5を用いるのが好ましい。
しかし、本発明はこれに限定されず、観測面Lに対して垂直な偏光のみを検出する偏光フィルタ5を用いてもよい。
さらに、本発明における粒子導電性判別方法においては、後述のように、前方散乱角θ1が特定の範囲内にある前方散乱光、及び後方散乱角θ2が特定の範囲内にある後方散乱光を用いると、粒子の導電性の有無を高い精度で判別できるため、当該範囲の散乱光を検出するように、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4の少なくとも一方の検出器の前面に受光角調整装置7を設けた。この受光角調整装置7としては、例えばアイリスが挙げられる。
その他、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4の少なくとも一方の検出器の前面に、蛍光等の非弾性散乱光を除去するための干渉フィルタ8を設けても良い。
本発明においては、前記偏光フィルタ5、受光角調整装置7、干渉フィルタ8の全て備えるようにしても良いし、いずれかを選択して備えるようにしても良い。
さらに、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4の少なくとも一方の検出器の前方に、コリメート用レンズ9を設けても良い。
また、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4の少なくとも一方の検出器の前方に、集光用レンズ10を設けて、集光するようにしても良い。
偏光フィルタ5、受光角調整装置7、干渉フィルタ8、コリメート用レンズ9、集光用レンズ10の配置例については、後述の実験の説明で詳述する。
【0034】
一方、レーザー光発生装置1から出射するレーザー光は偏光した状態であることが望ましい。
しかし、一部のレーザー光発生装置1から出射されるレーザー光は、様々な偏光成分を含むものや、偏光比が50:1程度の望ましくないものがある。そのため、そのようなレーザー光を望ましい偏光比のレーザー光にするために、図2に示したように、レーザー光発生装置の前面に偏光フィルタ5を用いるのが好ましい。また、図2には示していないが、偏光フィルタ5の代わりに偏光プリズムを用いてよい。なお、ここでいう望ましい偏光比とは、例えば10000:1等の、偏光の垂直成分または水平成分のどちらか一方の偏光成分を強く含み、その他の偏光成分が極めて弱い状態をいう。
また、レーザー光の偏光を観測面Lに対して平行または垂直にするために、図2に示すようにレーザー光発生装置1の前面にλ/2波長板6を設けるのが好ましい。
本発明においては、前記偏光フィルタ5または偏光プリズムのいずれかと、λ/2波長板6を設けるようにしても良いし、いずれかを選択して備えるようにしても良い。
【0035】
ここで、レーザー光が浮遊粒子に当たり、散乱した光の強度である光散乱光強度Ijは、下式(1)〜(3)のように、レーザー光の波長λ、浮遊粒子から散乱光検出器までの距離R、散乱角θ、粒径パラメータα、粒子屈折率mの関数で表される。
【数1】

【数2】

【数3】

【0036】
ここで、dは前記浮遊粒子の粒経を表す。また、j=1の場合は観測面Lに対して垂直な偏光を照射する場合を指し、j=2の場合は観測面Lに対して平行な偏光を照射する場合を指す。
【0037】
前記粒子屈折率mは、光散乱のパラメータの1つであり、上記の式(2)のように複素数で表される。粒子が非導電性の場合、屈折率の虚部n’はn’=0となり、導電性の場合、屈折率の虚部n’はn’=0とならない。
複素数の屈折率の虚部n’の前記特性を利用して、n’を変化させた場合の散乱光強度分布の変化を計算し、その結果を図3〜図5に表した。したがって以下に説明するように、逆に、本発明に従って、前方散乱光の強度と後方散乱光の強度の比率に基づき浮遊粒子の導電性の有無を判別することができるのである。
【0038】
図3は、粒子の屈折率m=1.5−0iの場合、つまり粒子に導電性がない場合において、粒径パラメータαを20とし、波長λを532nmとし、粒径dを3.4μmとして、散乱光強度の角度分布を算出した結果を示したものである。
また、図4は、粒子の屈折率m=1.5−1iの場合、つまり粒子に導電性がある場合において、粒径パラメータαを20とし、波長λを532nmとし、粒径dを3.4μmとして、散乱光強度の角度分布を算出した結果を示したものである。
また、図5は、粒子の屈折率m=1.5−0.1iの場合、つまり粒子に導電性がある場合において、粒径パラメータαを20とし、波長λを532nmとし、粒径dを3.4μmとして、散乱光強度の角度分布を算出した結果を示したものである。
散乱光強度としては上記の数1で示したij(j=1,2)を算出したものを示した。
図3〜図5においては、図1および図2に示した縦方向基準線Yが、図3〜図5の0度と180度を結んだ線に該当し、図1および図2に示した横方向基準線Xが、図3〜図5の90度と270度を結んだ線に該当する。また、レーザー光発生装置1は、図3〜図5の180度の位置にあり、そこから図3〜図5のグラフの中心に位置する浮遊粒子にレーザー光を照射し、発生した散乱光の強度の分布を示している。さらに、0〜90度及び270〜360度の散乱光の強度を前方散乱光強度といい、90〜270度の散乱光の強度を後方散乱光強度という。
なお、粒径パラメータαは照射光の波長に対する粒子の相対的な大きさを示しており、例えば、粒径パラメータα=10は、照射光の波長λがλ=532nmの場合に、約1.7μmの粒径を表す。また、図中の実線は観測面Lに対し平行な偏光を、破線は観測面Lに対し垂直な偏光を180度の方向から中央の浮遊粒子2に照射した場合に、照射光が浮遊粒子に当たって発生した散乱光が各方向にどのような強度で散乱されるかについて、散乱光の強度の分布を表したものである。
【0039】
図3においては、前方散乱光強度のうち30度〜60度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち120度〜150度の後方散乱光強度よりも非常に強いことがわかる。また、前方散乱光強度のうち300度〜330度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち210度〜240度の後方散乱光強度よりも非常に強いことがわかる。
特に、前方散乱光強度のうち40度〜50度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち130度〜140度の後方散乱光強度よりも顕著に強いことがわかる。また、前方散乱光強度のうち310度〜320度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち220度〜230度の後方散乱光強度よりも顕著に強いことがわかる。
【0040】
また、図4においては、前方散乱光強度のうち30度〜60度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち120度〜150度の後方散乱光強度よりも弱いことがわかる。また、前方散乱光強度のうち300度〜330度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち210度〜240度の後方散乱光強度よりも弱いことがわかる。
特に、前方散乱光強度のうち40度〜50度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち130度〜140度の後方散乱光強度よりも顕著に弱いことがわかる。また、前方散乱光強度のうち310度〜320度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち220度〜230度の後方散乱光強度よりも顕著に弱いことがわかる。
【0041】
また、図5において、前方散乱光強度のうち30度〜60度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち120度〜150度の後方散乱光強度と同程度であることがわかる。また、前方散乱光強度のうち300度〜330度の前方散乱光強度が、後方散乱光強度のうち210度〜240度の後方散乱光強度と同程度であることがわかる。
さらに、前方散乱光強度のうち40度〜50度の前方散乱光強度も、後方散乱光強度のうち130度〜140度の後方散乱光強度と同程度であることがわかる。また、前方散乱光強度のうち310度〜320度の前方散乱光強度も、後方散乱光強度のうち220度〜230度の後方散乱光強度と同程度であることがわかる。
【0042】
なお、図3のm=1.5−0iの30度〜60度の前方散乱光強度は、図4のm=1.5−0.1iや図5のm=1.5−1iの30度〜60度の前方散乱光強度よりも強いこともわかる。また、図3のm=1.5−0iの300度〜330度の前方散乱光強度は、図4のm=1.5−0.1iや図5のm=1.5−1iの300度〜330度の前方散乱光強度よりも強いこともわかる。
【0043】
なお、本発明において、前方散乱光または後方散乱光の好適な検出角度範囲例を上述のように説明したが、その角度範囲内における一部の散乱光を強度比較基準として取り込む場合と、その角度範囲内における全部の散乱光を強度比較基準として取り込む場合との両形態を包含するものであることを付言しておく。
【0044】
ここに、本発明者による他の多くの試行によれば、粒径パラメータαが1のときは、導電性粒子の散乱光強度および非導電性粒子の散乱光強度に顕著な違いが見られなかった。しかし、粒径パラメータαが10以上の場合は、観測面に対し平行な偏光を非導電性粒子に照射した際の強度分布に関し、0度〜90度及び270度〜360度の前方散乱光強度が、90度〜270度の後方散乱光強度よりも強い傾向がある。また、粒径パラメータαが10以上の場合は、観測面に対し平行な偏光を導電性粒子に照射した際の強度分布に関し、0度〜90度及び270度〜360度の前方散乱光強度が、90度〜270度の後方散乱光強度に対し同程度か弱い傾向にある。
【0045】
前記の図3〜図5においては、40度〜50度の散乱光と130度〜140度の散乱光に特に違いが見られるため、下式(4)に示す前方散乱光強度Ifと、下式(5)に示す後方散乱光強度Ibの比(If/Ib)を図6に示す。
【数4】

【数5】

【0046】
図6によると、前記浮遊粒子2の粒経パラメータαが約20より大きい場合は、前記比(If/Ib)に違いが生じている。つまり、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−0iであり、当該浮遊粒子2が非導電性粒子である場合、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約7以上になっている。また、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−1iや1.5−0.1iであって、当該浮遊粒子2が導電性粒子である場合は、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約2以下になっている。
従って、前記浮遊粒子2の粒径パラメータαが約20よりも大きい粒子について、前記比(If/Ib)が約2〜7の間にある値を閾値として用いて、浮遊粒子の導電性の有無を判別できるか否かについて実験により検証した。
【0047】
当該実験は、図2に示したような粒子導電性判別装置を用いた。
具体的には、レーザー光発生装置1からレーザー光を浮遊粒子2に照射し、レーザー光が当該浮遊粒子2に当たって生じる前方散乱光および後方散乱光を前記前方散乱光検出器3および前記後方散乱光検出器4の前面に設置したコリメート用レンズ9で平行光とし、さらに前記前方散乱光検出器3および前記後方散乱光検出器4と前記コリメート用レンズ9の間に設置した集光用レンズ10で集光した上で、前記前方散乱光検出器3および前記後方散乱光検出器4であるフォトダイオードで検出した。
図3〜図5によると、観測面Lに対し平行な偏光を用いた場合、前方散乱光強度と後方散乱光強度に違いが見られたため、前記レーザー光発生装置1の前面に偏光プリズム及びλ/2波長板6を設け、観測面に対し平行な偏光のみを照射するようにした。
また、図3〜図5によると、観測面Lに対し平行な偏光を用いた場合、前方散乱光強度と後方散乱光強度に違いが見られたため、前記コリメート用レンズ9と前記集光用レンズ10の間に偏光フィルタ5を設け、観測面に対し平行な偏光のみを検出するようにした。
さらに、図3〜図5によると、前方散乱光および後方散乱光のうち、40度〜50度の範囲及び130度〜140度の範囲に顕著な違いが見られたため、当該範囲の散乱光を検出するように、前記各コリメート用レンズ9の前面に受光角調整装置7としてアイリスを設けた。
その他、前記コリメート用レンズ9と前記集光用レンズ10の間に、蛍光等の非弾性散乱光を除去するための干渉フィルタ8を設けた。
【0048】
前記実験の詳細について、以下に説明する。レーザーには波長532nm、出力2WのNd:YAGレーザーの2倍波を用いた。そして、レーザー光は計測ポイントにおいて観測面に対し平行な偏光となるように照射した。導電性の有無を測定する浮遊粒子2は、乾燥粉末状のものを空気搬送により計測ポイントに供給した。測定粒子としては、非導電性粒子として約30μmのガラスビーズGBL−30(日本粉体工業協会)を用いた。また、導電性粒子として約2〜10μmのNi(Duke Scientific)を用いた。
【0049】
実験結果を図7および図8に示す。各々のグラフは横軸を前方散乱光強度If、縦軸を後方散乱光強度Ibとしたものである。また、図中の実線は粒子の導電性の有無を判別するためにIf/Ibの閾値としてIf/Ib=2とした場合を示している。当該実線より右側にあれば浮遊粒子2は非導電性であり、左側にあれば浮遊粒子2は導電性であることを示している。図7のガラスビーズの場合は、概ねIf/Ib=2の線の右側に分布しており、非導電性であることを示している。また、図8のNiの場合は、概ねIf/Ib=2の線の左側に分布しており、導電性であることを示している。
この結果、各々の粒子の前方散乱光強度If、後方散乱光強度Ibを計測し、その比If/Ibに適切な閾値を設けることで、各々の浮遊粒子2が導電性を有するか否かを判別することができることが示された。
【0050】
上述例では、レーザー光発生装置1から発生する照射光としてレーザービームを、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4としてフォトダイオードを用いて、点で計測を行う例を記載した。点で計測を行う当該例においては、フォトダイオード等の光センサーの他に、レンズを用いた集光光学系、検出器の前方に、特定の偏光のみ透過する偏光フィルタ、蛍光等の非弾性散乱光を除去するための干渉フィルタ、受光角を調整するための開口を設けても良い。
【0051】
その他の例としては、図9に示したように、レーザー光発生装置1から発生する照射光として2次元のレーザーライトシートを、前方散乱光検出器3および後方散乱光検出器4として二次元の撮像素子を用いて、二次元で計測を行っても良い。この例においても、撮像管、CCD、CMOS等の撮像素子を用いたカメラとカメラ用レンズの他に、特定の偏光のみを透過する偏光フィルタ、蛍光等の非弾性散乱光を除去するための干渉フィルタ、受光角を調整するための開口を設けても良い。
また、レーザー光発生装置1の前方に偏光フィルタ5もしくは偏光プリズムのいずれかを設け、λ/2波長板6を設けるようにしてもよい。
さらに、カメラの設置方法がレーザーライトシートに対して直角ではなく、カメラのレーザーライトシートに対する角度やカメラレンズのF値によっては撮影領域の全てにピントが合わなくなることがある。そのため、カメラ用レンズにはチルト機構を有するものを用いても良い。
【0052】
前記実験では、40度〜50度の範囲の前方散乱光と、130度〜140度の範囲の後方散乱光を検出して、その結果を分析した。
しかし、本発明は、当該範囲以外の散乱光を用いても、粒子の導電性を判別することができる。
【0053】
例えば、前記図3〜図5において、30度〜40度の前方散乱光と140度〜150度の後方散乱光にも違いが見られる。そのため、前記式(4)においてθf1=30[deg]、θf2=40[deg]とした前方散乱光強度Ifと、前記式(5)においてθb1=140[deg]、θb2=150[deg]とした後方散乱光強度Ibの比(If/Ib)を図10に示した。
【0054】
図10によると、前記浮遊粒子2の粒経パラメータαが約20より大きい場合は、前記比(If/Ib)に違いが生じている。つまり、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−0iであり、当該浮遊粒子2が非導電性粒子である場合、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約7以上になっている。また、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−1iや1.5−0.1iであって、当該浮遊粒子2が導電性粒子である場合は、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約6以下になっている。
【0055】
また、前記図3〜図5において、50度〜60度の前方散乱光と120度〜130度の後方散乱光にも顕著な違いが見られる。そのため、前記式(4)においてθf1=50[deg]、θf2=60[deg]とした前方散乱光強度Ifと、前記式(5)においてθb1=120[deg]、θb2=130[deg]とした後方散乱光強度Ibの比(If/Ib)を図11に示した。
【0056】
図11によると、前記浮遊粒子2の粒経パラメータαが約20より大きい場合は、前記比(If/Ib)に違いが生じている。つまり、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−0iであり、当該浮遊粒子2が非導電性粒子である場合、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約4以上になっている。また、浮遊粒子2の粒子屈折率mが1.5−1iや1.5−0.1iであって、当該浮遊粒子2が導電性粒子である場合は、粒径パラメータαが20以上では、前記比(If/Ib)が約1以下になっている。
【0057】
従って、上記の範囲の散乱光を用いた場合も、前記比(If/Ib)に明確な違いが表れている。
従って、上記の範囲の前方散乱光強度If、後方散乱光強度Ibを計測し、その比If/Ibに適切な閾値を設けることで、各々の浮遊粒子2が導電性を有するか否かを判別することができる。
この場合の閾値としては、図6、図10、図11のようなグラフを用いて、導電性粒子と非導電性粒子で明確な違いが現れる前記比(If/Ib)の値を用いるのが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
1:レーザー光発生装置、2:浮遊粒子、3:前方散乱光検出器、4:後方散乱光検出器、5:偏光フィルタ、6:λ/2波長板、7:受光角調整装置、8:干渉フィルタ、9:コリメート用レンズ、10:集光用レンズ。
L:観測面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する方法であって、
レーザー光発生装置から出射したレーザー光を判別対象の前記浮遊粒子に照射し、
前記照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器によって検出し、
前記前方散乱光の強度と前記後方散乱光の強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別することを特徴とする粒子導電性判別方法。
【請求項2】
前記レーザー光発生装置はレーザービームを発生させる装置であり、
前記前方散乱光検出器はフォトダイオードまたは光電子増倍管であり、
前記後方散乱光検出器はフォトダイオードまたは光電子増倍管である請求項1に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項3】
前記レーザー光発生装置はレーザーライトシートを発生させる装置であり、前記前方散乱光検出器及び前記後方散乱光検出器は撮像素子である請求項1に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項4】
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に偏光フィルタを設け、観測面に対して平行な偏光を検出する請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項5】
前記レーザー光発生装置の前面に偏光フィルタまたは偏光プリズムのいずれか一方と、λ/2波長板とから選択される少なくともいずれか一つを設け、観測面に対して平行な偏光を照射する請求項1〜4に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項6】
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に受光角調整装置を設け、レーザー光の入射線に対する粒子の散乱角が30度〜60度および300度〜330度の少なくとも一方の前方散乱光と、120度〜150度および210〜240度の少なくとも一方の後方散乱光を検出する請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項7】
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に受光角調整装置を設け、レーザー光の入射線に対する粒子の散乱角が、40〜50度および310〜320度の少なくとも一方の前方散乱光と、130〜140度および220〜230度の少なくとも一方の後方散乱光を検出する請求項1〜6のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項8】
前記前方散乱光検出器および後方散乱光検出器の前面に干渉フィルタを設ける請求項1〜7のいずれか1項に記載の粒子導電性判別方法。
【請求項9】
空間に浮遊する粒子が導電性を有するか否かを判別する装置であって、
判別対象の前記浮遊粒子にレーザー光を照射するレーザー光発生装置と、
前記照射によって生じる前方散乱光及び後方散乱光を検出する前方散乱光検出器及び後方散乱光検出器と、
前記前方散乱光の強度と前記後方散乱光の強度の比率に基づき前記浮遊粒子の導電性の有無を判別する手段と、を有することを特徴とする粒子導電性判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−168057(P2012−168057A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30139(P2011−30139)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(390018474)新日本空調株式会社 (88)