説明

粒子挙動解析装置、粒子挙動解析方法、及びコンピュータプログラム

【課題】 大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって解析する場合の解析時間を短縮しつつ、可及的に正確に粒子の挙動を解析できるようにする。
【解決手段】 粒子データ保存処理において、粒子データ保存位置301を通過するまでは通常通りDEMによる計算をする。その後、計算対象除外位置302を通過するまでは当該粒子には他の粒子や構造物からの力が作用しないようにする。ここで、粒子データ保存位置301を通過したときの当該粒子の情報を記憶する。その後、計算対象除外位置302を通過すると、当該粒子を計算対象から除外する。粒子データ読み込み処理において、粒子の保存情報に基づき、粒子データ発生位置402に粒子を発生させ、計算対象位置401を通過するまでは当該粒子には他の粒子や構造物からの力が作用しないようにする。その後、計算対象位置401を通過すると通常通りDEMによる計算をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子挙動解析装置、粒子挙動解析方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、DEM(Discrete Element Method;離散要素法)を用いて粒子の挙動を解析するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、DEMを用いて、粒子の挙動を解析することが行われている。
特許文献1では、コンベアベルトにより搬送される石炭や鉱石等の搬送物の挙動を解析するようにしている。この際、特許文献1では、ベルト搬送面の一部や案内板等、搬送物の挙動に直接的に影響する部分だけを記述して解析するようにしている。
また、特許文献2では、電子写真プロセスにおけるトナー粒子の挙動を解析するようにしている。この際、特許文献2では、解析領域を分割した領域内の代表的なトナー粒子(代表粒子)として、当該領域内において、他の粒子又は壁に接触している粒子のうちの所定割合の粒子を抽出する。そして、抽出した代表粒子を移動させようとする作用力が、当該代表粒子を保持しようとする作用力を上回る場合に、当該代表粒子を移動粒子とし、この移動粒子が所定割合以上となる領域についてのみ粒子の挙動を計算し、その他の領域の粒子の挙動を計算しないようにしている。
従来は、以上のようにしてDEMにおける解析時間を短縮するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−139116号公報
【特許文献2】特開2007−262453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、鉄鋼業における製銑工程では、コークスや鉄鉱石(焼結鉱等)はベルトコンベアで高炉に運ばれ、所定の炉頂ホッパーに装入される。そして、ベルレス式高炉の場合、ホッパーに装入されたコークスや鉄鉱石は、高炉本体内にある旋回シュートに装入され、旋回シュートから高炉本体内に堆積される。このようなベルレス式高炉において、例えば、旋回シュートの傾動角のみを変えて、コークスや鉄鉱石の挙動を解析することがある。
しかしながら、従来の技術では、このような場合であっても、高炉の全工程にわたって、コークスや鉄鉱石の挙動を解析しなければならなかった。したがって、大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって解析する場合には、解析時間を十分に短縮することができないという問題点があった。
【0005】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって解析する場合の解析時間を短縮しつつ、可及的に正確に粒子の挙動を解析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粒子挙動解析装置は、設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析装置であって、前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定手段と、前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定手段と、前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析手段と、を有し、前記粒子挙動解析手段は、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定手段と、前記第1の判定手段により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶する記憶手段と、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定手段と、前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動手段と、前記第2の判定手段により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外手段と、前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生手段と、前記粒子発生手段により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し手段と、前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定手段と、前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し手段により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動手段と、を更に有することを特徴とする。
【0007】
本発明の粒子挙動解析方法は、設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析方法であって、前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定工程と、前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定工程と、前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析工程と、を有し、前記粒子挙動解析工程は、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定工程と、前記第1の判定工程により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶する記憶工程と、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定工程と、前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動工程と、前記第2の判定工程により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外工程と、前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生工程と、前記粒子発生工程により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し工程と、前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定工程と、前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し工程により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動工程と、を更に有することを特徴とする。
【0008】
本発明のコンピュータプログラムは、設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定工程と、前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定工程と、前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析工程と、をコンピュータに実行させ、前記粒子挙動解析工程は、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定工程と、前記第1の判定工程により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶媒体に記憶する記憶工程と、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定工程と、前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動工程と、前記第2の判定工程により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外工程と、前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生工程と、前記粒子発生工程により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し工程と、前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定工程と、前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し工程により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動工程と、を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子データ保存位置で粒子の情報を保存し、当該粒子が計算対象除外位置を通過するまでは、所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させる。このとき、当該粒子が粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合には、当該粒子に作用する力を計算しないが、当該他の粒子に作用する力は計算する。その後、粒子データ発生位置で粒子を発生させ、当該粒子が計算対象位置を通過するまでは、所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させる。このとき、当該粒子が計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合には、当該粒子に作用する力を計算しないが、当該他の粒子に作用する力は計算する。したがって、設備の複数の領域毎に個別に粒子の挙動を解析することができると共に、粒子の消滅させるときや、粒子を発生させるときに、当該粒子に接触している他の粒子であって、DEMによる解析の対象となっている粒子が、当該粒子の消滅や発生によって影響を受けることを可及的に防止することができる。よって、大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって解析する場合の解析時間を短縮しつつ、可及的に正確に粒子の挙動を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示し、ベルレス式高炉の概略構成の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、粒子挙動解析装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、粒子データ保存処理で設定される等速直線運動領域の一例を概念的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、粒子データ保存処理で設定される等速直線運動領域の一例を概念的に示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、相互に接触している2つの粒子の様子の一例と、粒子の挙動の一例を概念的に示す図である。
【図6−1】本発明の実施形態を示し、粒子データ保存処理を行う際の粒子挙動解析装置の処理の一例を説明するフローチャートである。
【図6−2】本発明の実施形態を示し、図6−1に続くフローチャートである。
【図7−1】本発明の実施形態を示し、粒子データ読み込み処理を行う際の粒子挙動解析装置の処理の一例を説明するフローチャートである。
【図7−2】本発明の実施形態を示し、図7−1に続くフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態を示し、解析時間の短縮効果の一例を表形式で示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、ベルレス式高炉の模擬実験装置の構成の一例を示した図である。
【図10】本発明の実施形態を示し、模擬実験の結果と解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、ベルレス式高炉における粒子の挙動を解析する場合を例に挙げて説明する。
図1は、ベルレス式高炉の概略構成の一例を模式的に示す図である。
図1において、ベルトコンベア1によって搬送されたコークスと鉄鉱石(焼結鉱等)は、切替シュート2を介して、一定の周期で固定ホッパー3a、3bに交互に装入される。本実施形態では、コークスは固定ホッパー3aに装入され、鉄鉱石は固定ホッパー3bに装入されるものとする。
【0012】
固定ホッパー3a、3bに装入されたコークスと鉄鉱石は、固定ホッパー3a、3bの下端部にある上部流調ゲート4a、4bの開度に応じて貯留ホッパー5に一定の周期で交互に装入される。貯留ホッパー5に装入されたコークス又は鉄鉱石は、貯留ホッパー5の下端部にある下部流調ゲート6の開度に応じて、高炉本体7内の頂部付近にある旋回シュート8に導かれ、旋回シュート8の動作に従って高炉本体7内に堆積される。このようにすることによって、高炉本体7内に、コークスの層と鉄鉱石の層とが高さ方向において交互に形成される。
【0013】
旋回シュート8は、傾動角θ及び回転速度を変更することが可能な構成となっており、これらを変更して旋回シュート8を動作させることにより、コークスや鉄鉱石を、高炉本体7の円周方向において可及的に均一に堆積させることができる。
本実施形態では、DEMを用いた解析に際し、このようなベルレス式高炉の領域を、下部流調ゲート6で分割する。そして、下部流調ゲート6を通過したときの焼結鉱の挙動を、DEMを用いて解析して保存しておく。その後、下部流調ゲート6から旋回シュート8に装入された焼結鉱が高炉本体7内にどのように堆積するのかを、保存しておいた焼結鉱の挙動を基にDEMを用いて解析する。本実施形態では、このようにすることによって、例えば、旋回シュート8の傾動角のみを変えた場合の焼結鉱の挙動を解析したい場合には、下部流調ゲート6までの焼結鉱の挙動を解析する回数を減らすことができる。
【0014】
図2は、粒子挙動解析装置100の機能的な構成の一例を示す図である。
粒子挙動解析装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、各種インターフェース、及びディスプレイ等を備えた情報処理装置(パーソナルコンピュータ)を用いることにより実現できる。以下に、粒子挙動解析装置100が備える機能を詳細に説明する。
【0015】
(解析形態指定部101)
解析形態指定部101は、ユーザによるユーザインターフェースの操作に基づいて、高炉を分割した領域の何れの解析を行うのかを指定する。すなわち、図1に示す例では、解析形態指定部101は、固定ホッパー3bに装入されてから、下部流調ゲート6に到達するまでの焼結鉱の挙動を解析するのか、それとも、下部流調ゲート6から旋回シュート8に装入されて高炉本体7に堆積するまでの焼結鉱の挙動を解析するのかを指定する。以下の説明では、「固定ホッパー3bに装入されてから、下部流調ゲート6に到達するまでの焼結鉱の挙動を解析する」処理を必要に応じて「粒子データ保存処理」と称する。また、「下部流調ゲート6から旋回シュート8に装入されて高炉本体7に堆積するまでの焼結鉱の挙動を解析する」処理を必要に応じて「粒子データ読み込み処理」と称する。
解析形態指定部101は、例えば、CPUが、ユーザによるユーザインターフェースの操作の内容を識別し、当該操作の内容が、粒子データ保存処理及び粒子データ読み込み処理の何れに対応するのかを判断し、判断した結果をRAM等に記憶することにより実現される。
【0016】
(粒子情報取得部102)
本実施形態では、解析対象となる焼結鉱を球形状と見なし、球形状の粒子の挙動を、DEMを用いて解析するようにしている。粒子情報取得部102は、この粒子に関する情報を取得する。尚、以下の説明では、「粒子に関する情報」を必要に応じて「粒子情報」と称する。具体的、粒子情報取得部102は、各粒子の質量及び大きさ(直径又は半径)の情報を粒子情報として取得する、また、粒子情報取得部102は、後述するようにして粒子に作用する力を求める際に必要となる物性値を粒子情報として取得する。本実施形態では、この物性値として、粒子の法線方向のばね定数Kn、粒子の法線方向の粘性定数ηn、粒子の摩擦係数μ、粒子のせん断方向のばね定数Kt、及び、粒子のせん断方向の粘性定数ηt、慣性モーメントIが取得される。
以上のような粒子情報は、ユーザが、ユーザインターフェースを操作することにより入力されるようにしてもよいし、粒子挙動解析装置100に装着された可搬型の記憶媒体から読み出されるようにしてもよい。すなわち、粒子情報は、粒子挙動解析装置100の外部から取得されるようにしていれば、その取得の方法は、特に限定されるものではない。
粒子情報取得部102は、例えば、CPUが、ユーザによるユーザインターフェースの操作の内容から粒子情報を識別してHDD等に記憶したり、USBメモリ等の記憶媒体から粒子情報を読み出してHDD等に記憶したりすることによって実現される。
【0017】
(高炉情報取得部103)
高炉情報取得部103は、高炉に関する情報を取得する。尚、以下の説明では、「高炉に関する情報」を必要に応じて「高炉情報」と称する。具体的に、高炉情報取得部103は、高炉の各部の位置を示す座標の情報を高炉情報として取得する。また、高炉情報取得部103は、後述するようにして粒子に作用する力を求める際に必要となる物性値を高炉情報として取得する。本実施形態では、この物性値として、高炉の各部のヤング率やポアソン比等が取得される。
以上のような高炉情報は、ユーザが、ユーザインターフェースを操作することにより入力されるようにしてもよいし、粒子挙動解析装置100に装着された可搬型の記憶媒体から読み出されるようにしてもよい。すなわち、高炉情報は、粒子挙動解析装置100の外部から取得されるようにしていれば、その取得の方法は、特に限定されるものではない。
高炉情報取得部103は、例えば、CPUが、ユーザによるユーザインターフェースの操作の内容か高炉情報を識別してHDD等に記憶したり、USBメモリ等の記憶媒体から高炉情報を読み出してHDD等に記憶したりすることによって実現される。尚、本実施形態で示す座標は、全て同一の3次元座標系であるものとする。
【0018】
(領域設定部104)
領域設定部104は、解析形態指定部101によって、粒子データ保存処理を行うことが指定されると動作する。領域設定部104は、粒子情報取得部102により取得された粒子情報(粒子の大きさ)に基づいて、粒子径(大きさ)の最大値を取得する。また、領域設定部104は、高炉情報取得部103により取得された高炉情報(高炉の各部の位置を示す座標)に基づいて、下部流調ゲート6の座標を粒子データ保存位置の情報として取得する。そして、領域設定部104は、粒子径(大きさ)の最大値と、下部流調ゲート6の座標とに基づいて、等速直線運動領域を設定する。
【0019】
図3は、粒子データ保存処理で設定される等速直線運動領域の一例を概念的に示す図である。
本実施形態では、図3に示すように、粒子データ保存位置301からその下方の計算対象除外位置302までの領域を、粒子が等速直線運動をする領域(等速直線運動領域)としている。ここで、粒子データ保存位置301から計算対象除外位置302までの最短距離はL1である。尚、図3では、等速直線運動領域を2次元の領域として示しているが、等速直線運動領域は実際には3次元の領域である。
【0020】
本実施形態では、粒子データ保存処理において、固定ホッパー3bに装入されてから、下部流調ゲート6に到達するまでの焼結鉱の挙動を解析する。したがって、下部流調ゲート6を通過した粒子311については、その時点で消滅させ、計算対象から除外するということも考えられる。しかしながら、このようにすると、当該粒子311に接触している粒子312が受ける力は、粒子311が存在しなくなったことによって変化する。更に、粒子312に接触している粒子313が受ける力も変化する。このように、計算を終了させる位置(ここでは、下部流調ゲート6)を通過した粒子を、その時点で消滅させ、計算対象から除外すると、実際の粒子の挙動を正確に反映したものでなくなる虞がある。
【0021】
そこで、本実施形態では、粒子の中心が、粒子データ保存位置301を通過するまでは、通常通り、DEMによる計算をする(粒子312〜315を参照)。
その後、粒子の中心が、粒子データ保存位置301を通過してから計算対象除外位置302を通過するまでの間は、当該粒子は等速直線運動をするものとする(粒子311、316を参照)。ここで、粒子の中心が、粒子データ保存位置301を通過したとき、そのときの「当該粒子の位置(座標)・並進速度・回転速度、当該粒子と接触している粒子の識別番号、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力(法線方向及びせん断方向の作用力)、通過時間」を記憶する。尚、以下の説明では、これら「粒子の位置・並進速度・回転速度、当該粒子と接触している粒子の番号、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力、通過時間」を必要に応じて「粒子の保存情報」と称する。
【0022】
本実施形態では、DEMによる計算を行うに際し、等速直線運動外にある粒子312(粒子データ保存位置301を通過していない粒子312)に接触している「等速直線運動内にある粒子311」については、当該粒子312によって作用する力を計算しない。一方、等速直線運動内にある粒子311に接触している「等速直線運動外にある粒子312」については、当該粒子311によって作用する力を計算する。
そして、粒子の中心が、計算対象除外位置302を通過すると、当該粒子を消滅させ、計算対象から除外する(粒子317を参照)。
【0023】
ここで、粒子データ保存位置301から計算対象除外位置302までの最短距離L1は、粒子径(大きさ)の最大値を超える長さであるとする。このようにすれば、計算対象除外位置302を通過した粒子317が、粒子データ保存位置301を通過していない粒子312〜315と接触することがなくなり、計算対象除外位置302を通過した粒子317が、粒子データ保存位置301を通過していない粒子312〜315に大きな影響を与えることがなくなるからである。
領域設定部104は、例えば、CPUが、HDD等から、下部流調ゲート6の座標と、各粒子の粒子径(大きさ)とを読み出し、読み出した情報から、等速直線運動領域の座標を設定し、設定した座標をRAM等に記憶することによって実現される。
【0024】
(領域設定部105)
領域設定部105は、解析形態指定部101によって、粒子データ読み込み処理を行うことが指定されると動作する。領域設定部105は、粒子情報取得部102により取得された粒子情報(粒子の大きさ)に基づいて、粒子径(大きさ)の最大値を取得する。また、領域設定部105は、高炉情報取得部103により取得された高炉情報(高炉の各部の位置を示す座標)に基づいて、下部流調ゲート6の座標を計算対象位置の情報として取得する。そして、領域設定部105は、粒子径(大きさ)の最大値と、下部流調ゲート6の座標とに基づいて、等速直線運動領域を設定する。
図4は、粒子データ読み込み処理で設定される等速直線運動領域の一例を概念的に示す図である。
本実施形態では、図4に示すように、計算対象位置401からその上方(焼結鉱の進行方向における後方側)の粒子データ発生位置402までの領域を、粒子が等速直線運動をする領域(等速直線運動領域)としている。ここで、計算対象位置401から粒子データ発生位置402までの最短距離はL2である。尚、図4でも、図3と同様に、等速直線運動領域を2次元の領域として示しているが、等速直線運動領域は実際には3次元の領域である。
【0025】
本実施形態では、粒子データ読み込み処理において、下部流調ゲート6から旋回シュート8に装入され高炉本体7に堆積するまでの焼結鉱の挙動を解析する。したがって、下部流調ゲート6において、前述した粒子データ保存処理で保存した「粒子の保存情報」を読み出し、その情報に従って、粒子を順次発生させるようにすることも考えられる。しかしながら、このようにすると、例えば、図4の粒子411に接触している粒子412の影響を考慮して粒子411が受ける力を求めることができない。よって、実際の粒子の挙動を正確に反映したものでなくなる虞がある。
【0026】
そこで、本実施形態では、計算対象位置401を通過するよりも前に粒子を発生させる。すなわち、粒子データ保存処理で保存した「粒子の保存情報」に含まれる通過時間に基づいて、早く保存した粒子から当該通過時間に基づく時間隔で、粒子を、粒子データ発生位置402であって、当該粒子の保存情報に示されている「粒子の位置を示す座標」に対応する位置に順次発生させる(粒子412、413を参照)。その後、粒子の中心が、計算対象位置401を通過するまでの間は、当該粒子は等速直線運動をするものとする(粒子412、413を参照)。このときの運動は、粒子の保存情報に含まれる並進速度及び回転速度で規定される。
【0027】
その後、粒子の中心が、計算対象位置を通過すると、当該粒子を、通常通り、DEMによる計算を行う粒子とする(粒子411、414〜416を参照)。
本実施形態では、DEMによる計算を行うに際し、等速直線運動外にある粒子411(計算対象位置401を通過した粒子411)に接触している「等速直線運動内にある粒子412」については、当該粒子411によって作用する力を計算しない。一方、等速直線運動内にある粒子412に接触している「等速直線運動外にある粒子411」については、当該粒子412によって作用する力を計算する。
【0028】
ここで、計算対象位置401から粒子データ発生位置402までの最短距離L2は、粒子径(大きさ)の最大値を超える長さであるとする。このようにすれば、計算対象位置401にある粒子411、414〜416に影響を与える可能性のある全ての粒子412、413を計算対象領域内に発生させることができるからである。
領域設定部105は、例えば、CPUが、HDD等から、下部流調ゲート6の座標と、各粒子の粒子径(大きさ)とを読み出し、読み出した情報から、等速直線運動領域の座標を設定し、設定した座標をRAM等に記憶することによって実現される。
【0029】
(粒子挙動解析部106)
粒子挙動解析部106は、粒子の挙動を、DEMを用いて解析する。
まず、粒子データ保存処理における粒子挙動解析部106の動作の一例について説明する。
粒子挙動解析部106は、粒子情報取得部102により取得された粒子情報と、高炉情報取得部103により取得された高炉情報と、ユーザによるユーザインターフェースの操作の内容(粒子の配置に関する情報)とに基づいて、各粒子を所望の位置に配置する。また、粒子挙動解析部106は、配置した各粒子に対し、粒子を識別する粒子番号を付与すると共に、各粒子のフラグの値として0を設定する。粒子のフラグの値が0であるということは、当該粒子は等速直線運動領域に入っていないことを示す。
【0030】
そして、粒子挙動解析部106は、粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触しているか否かを判定する。
粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触している場合、粒子挙動解析部106は、法線方向及びせん断方向の反発力を求めて並進の運動方程式を解くことと、重心周りの力のモーメントを求めて回転の運動方程式を解くこととを行って、当該粒子に作用する力を求めることを各粒子のそれぞれについて行い、その結果に基づいて各粒子を移動させる。
【0031】
粒子挙動解析部106は、このような接触判定処理と各粒子の移動処理とを所定の時間隔毎に行う。そして、その結果から各粒子の解析時間における挙動を得る。尚、この解析時間において粒子間に発生している力のバランスを崩す条件を与えることにより、粒子が動くことになる。
【0032】
具体的に、粒子挙動解析部106は、例えば、以下の(1)式により、粒子i、jの接触領域における法線方向の反発力Fn,ijを求め、以下の(2)式により、粒子i、jの接触領域におけるせん断方向の反発力Ft,ijを求め、以下の(3)式の並進の運動方程式を解き、以下の(4)式により回転の運動方程式を解く。
【0033】
【数1】

【0034】
図5は、相互に接触している2つの粒子501、502の様子の一例(図5(a))と、粒子503の挙動の一例(図5(b))を概念的に示す図である。図5を参照しながら、(1)式から(4)式のパラメータを説明する。
(1)式において、Knは、法線方向のばね定数であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。ただし、Knは、図5(a)の距離Hやδnに応じて設定することもできる。Δun,ijは、2つの粒子i、j間の重心の法線方向における相対的な並進変位である。ηnは、法線方向の粘性定数であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。nijは、法線方向の単位ベクトルである。Δtは、所定の時間隔であり、予め設定されるものである。
【0035】
(2)式において、min[A,B]は、AとBのうち小さい方を採用することを意味する。μは、摩擦係数であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。ただし、μは、状態等に応じて異ならせることもできる。tijはせん断方向の単位ベクトルである。Ktは、せん断方向のばね定数であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。ただし、Ktは、図5(a)の距離Hやδn、δtに応じて設定することができる。Δut,ijは、2つの粒子i、j間の重心のせん断方向における相対的な並進変位である。Δφijは、粒子の回転に起因する接触領域の相対的な回転変位であり、例えば、図5(a)の粒子501の回転変位φiと粒子502の回転変位φjとの差により表すことができる。ηtは、せん断方向の粘性定数であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。Δtは、所定の時間隔であり、予め設定されるものである。
尚、高炉情報取得部103によって取得される高炉情報に含まれるヤング率やポアソン比は、(1)式に示すKn、ηnや、(2)式に示すKt、ηtを決定する際に使用されるものである。
【0036】
(3)式において、vは、解析用粒子の速度である(図5を参照)。vの上に付されている・は時間微分を表す。Fは、せん断方向及び法線方向の反発力の総和である。mは粒子の質量であり、粒子情報取得部102により取得されるものである。gは、重力加速度である。尚、粒子が他の粒子や構造物と接触していない場合、(3)式の右辺の第1項は0(ゼロ)になる。
(4)式において、ωは、粒子の角速度である(図5を参照)。ωの上に付されている・は時間微分を表す。Mは、力のモーメントの総和であり、せん断方向及び法線方向の反発力Fn,ij、Ft,ijから求められる。Iは、慣性モーメントであり、粒子情報取得部102により取得されるものである。
【0037】
尚、粒子の挙動を解析する手法(粒子挙動解析部106が実行する解析手法)は、DEMにおける粒子の挙動についての種々の公知の解析手法を適用することができ、前述した(1)式〜(4)式を用いた手法に限定されるものではない。
【0038】
このようにして粒子を移動させた後、中心が粒子データ保存位置301を通過した粒子がある場合、粒子挙動解析部106は、当該粒子のフラグの値を0から1に変更する。粒子のフラグの値が1ということは、当該粒子は等速直線運動領域内にあるということを示す。そして、粒子挙動解析部106は、中心が粒子データ保存位置301を通過した時点における「粒子の保存情報」を記憶する。前述したように、粒子の保存情報は、粒子の位置・並進速度・回転速度、当該粒子と接触している粒子の番号、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力・通過時間である。
【0039】
粒子挙動解析部106は、フラグの値が1の粒子については、前述した(1)〜(4)式の計算をしない。また、粒子挙動解析部106は、中心が粒子データ保存位置301を通過した時点における粒子の「位置を示す座標、並進速度」に基づいて、当該粒子を等速直線運動させて、フラグの値が1の粒子を移動させる。尚、フラグの値が1の粒子からフラグの値が0の粒子に作用する力は、フラグの値が1の粒子の保存情報(並進速度、回転速度、接触している粒子の番号、作用力)に基づいて計算される。
また、中心が計算対象除外位置302を通過した粒子がある場合、粒子挙動解析部106は、当該粒子のフラグの値を1から2に変更する。粒子のフラグの値が2ということは、当該粒子は計算対象から除外されたということを示す。したがって、フラグの値が2の粒子は存在しないものとして扱われる。
【0040】
次に、粒子データ読み込み処理における粒子挙動解析部106の動作の一例について説明する。
まず、粒子挙動解析部106は、前述したように、粒子データ保存処理で保存した「粒子の保存情報」に含まれる通過時間に基づいて、早く保存した粒子から当該通過時間に基づく時間隔で、粒子を、粒子データ発生位置402に順次発生させる(粒子412、413を参照)。本実施形態では、粒子挙動解析部106は、粒子データ保存処理で一番早く保存した粒子の通過時間(粒子の保存情報に含まれる時間)を0として計時を行う。そして、粒子挙動解析部106は、発生対象となる粒子の通過時間から、粒子データ保存処理で一番早く保存した粒子の通過時間を減算した値が計時した時間に一致すると、当該発生対象となる粒子を発生させる。また、前述したように、粒子データ発生位置402は、粒子の保存情報に含まれている「粒子の位置(座標)」に対応する。
ここで、本実施形態では、粒子データ保存位置301と計算対象位置401とを同じ位置(下部流調ゲート6)にしているので、図3及び図4において、複数の粒子における「粒子データ保存位置301の通過時間の関係」と、当該複数の粒子における「計算対象位置401の通過時間の関係」とが同じになるように、粒子データ発生位置402に粒子を発生させるのが好ましい。例えば、1番目に保存した粒子の「粒子データ保存位置301の通過時間」と、2番目に保存した粒子の「粒子データ保存位置301の通過時間」との差がt秒であった場合、1番目に発生した粒子の「計算対象位置401の通過時間」と2番目に発生した粒子の「計算対象位置401の通過時間」との差もt秒とするのが好ましい。このようにするには、例えば、粒子データ保存位置301から計算対象除外位置302までの最短距離L1と、計算対象位置401から粒子データ発生位置402までの最短距離L2とを同じにし、且つ、粒子データ保存位置301から計算対象除外位置302までの等速直線運動領域と、計算対象位置401から粒子データ発生位置402までの等速直線運動領域における粒子の速度を同じにすればよい。
【0041】
粒子挙動解析部106は、粒子データ発生位置402に発生させた粒子のフラグの値を1に設定する。粒子のフラグの値が1ということは、当該粒子は等速直線運動領域内にあるということを示す。粒子挙動解析部106は、フラグの値が1の粒子については、前述した(1)〜(4)式の計算をしない。また、粒子挙動解析部106は、中心が粒子データ保存位置301を通過した時点における粒子の保存情報(位置、並進速度)に基づいて、当該粒子を等速直線運動させて当該粒子を移動させる。その後、中心が計算対象位置401を通過した粒子がある場合、粒子挙動解析部106は、当該粒子のフラグの値を1から0に変更する。粒子のフラグの値が0であるということは、当該粒子は等速直線運動領域から出たことを示す。そして、粒子データ保存処理における「フラグの値が0の粒子の処理」と同様に、接触判定処理と、移動処理((1)〜(4)式を参照)とを所定の時間隔毎に行い、その結果から各粒子の解析時間における挙動を得る。尚、前述したように、フラグの値が1の粒子からフラグの値が0の粒子に作用する力は、フラグの値が1の粒子の保存情報(並進速度、回転速度、接触している粒子の番号、作用力)に基づいて計算される。
【0042】
粒子挙動解析部106は、例えば、CPUが、RAM等から、等速直線運動領域の座標や粒子の情報を読み出すと共に、HDD等から、粒子情報や高炉情報を読み出して前述した演算処理を実行し、実行した結果をRAM等に記憶することにより実現される。
【0043】
(粒子挙動表示部107)
粒子挙動表示部107は、粒子挙動解析部106により解析された「各粒子の挙動」をディスプレイに表示する。
粒子挙動表示部107は、例えば、CPUが、HDD等から、各粒子の挙動の解析結果の情報を読み出してディスプレイに表示するための処理を行い、ディスプレイが、解析対象時間における各粒子の挙動を表示することにより実現される。
【0044】
(粒子挙動解析装置100の動作フローチャート)
次に、図6のフローチャートを参照しながら、粒子データ保存処理を行う際の粒子挙動解析装置100の処理の一例を説明する。尚、ここでは、解析形態指定部101により粒子データ保存処理を行うことが指定されており、且つ、粒子情報取得部102により粒子情報が取得されており、且つ、高炉情報取得部103により高炉情報が取得されているものとして説明を行う。
まず、図6−1のステップS1において、領域設定部104は、粒子情報(粒子の大きさ)に基づいて、粒子径(大きさ)の最大値を取得する。
次に、ステップS2において、領域設定部104は、下部流調ゲート6の座標を粒子データ保存位置の情報として取得する。
次に、ステップS3において、領域設定部104は、ステップS1で取得された粒子径(大きさ)の最大値と、ステップS2で取得された下部流調ゲート6の座標とに基づいて、等速直線運動領域を設定する(図3を参照)。
【0045】
次に、ステップS4において、粒子挙動解析部106は、粒子情報取得部102により取得された粒子情報と、高炉情報取得部103により取得された高炉情報と、ユーザによるユーザインターフェースの操作の内容(粒子の配置に関する情報)とに基づいて、各粒子を所望の位置に配置し、配置した各粒子に対し、粒子を識別する粒子番号を付与すると共に各粒子のフラグの値として0を設定する。
次に、ステップS5において、粒子挙動解析部106は、解析時間tをΔtに設定する。このΔtは、(1)式及び(2)式のΔtに対応するものである。
次に、ステップS6において、粒子挙動解析部106は、未選択の粒子を1つ選択する。
【0046】
次に、ステップS7において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の粒子データ保存位置301を通過したか否かを判定する(図3を参照)。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の粒子データ保存位置301を通過していない場合には、ステップS8、S9を省略して、後述するステップS10に進む。一方、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の粒子データ保存位置301を通過した場合には、ステップS8に進む。
【0047】
ステップS8に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子のフラグの値を0から1に変更する。
次に、ステップS9において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子の保存情報を記憶する。前述したように、粒子の保存情報は、中心が粒子データ保存位置301を通過した時点における「粒子の位置・並進速度・回転速度、当該粒子と接触している粒子の番号、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力、通過時間」の情報である。
次に、ステップS10において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象除外位置302を通過したか否かを判定する(図3を参照)。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象除外位置302を通過していない場合には、ステップS11を省略して、後述する図6−2のステップS12に進む。一方、ステップS6で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象除外位置302を通過した場合には、ステップS11に進む。
ステップS11に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子のフラグの値を1から2に変更する。
【0048】
次に、図6−2のステップS12において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触しているか否かを判定する。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触していない場合には、当該粒子に作用する力を計算しないので、ステップS13〜S16を省略して、後述するステップS17に進む。一方、ステップS6で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触している場合には、ステップS13に進む。
ステップS13に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)のうち未選択のものを1つ選択する。
次に、ステップS14において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子のフラグの値が0であるか否かを判定する。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子のフラグの値が0ではない場合には、ステップS13で選択した粒子からステップS6で選択した粒子に作用する力を計算しないので、ステップS15の処理を省略して、後述するステップS16に進む。一方、ステップS6で選択した粒子のフラグの値が0である場合には、ステップS15に進む。
【0049】
ステップS15に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子に作用する力を(せん断方向及び法線方向の反発力)を(1)式及び(2)式により求め、その結果に基づいて、当該粒子の速度vを(3)式により、当該粒子の角速度ωを(4)式により、それぞれ求める。ここで、フラグの値が1の粒子からフラグの値が0の粒子に作用する力は、フラグの値が1の粒子の「並進速度、回転速度、作用力」に基づいて計算される。
次に、ステップS16において、粒子挙動解析部106は、ステップS6で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択したか否かを判定する。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択していない場合には、ステップS13に戻る。一方、ステップS6で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択した場合には、ステップS17に進む。
【0050】
ステップS17に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS4で配置した全ての粒子を選択したか否かを判定する。この判定の結果、全ての粒子を選択していない場合には、図6−1のステップS6に戻る。一方、全ての粒子を選択した場合には、ステップS18に進む。ステップS18に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS15の計算の結果に基づいて、各粒子を移動させる。ここで、フラグの値として1が設定されている粒子については、等速直線運動させて当該粒子を移動させる。
次に、ステップS19において、粒子挙動解析部106は、解析時間tが解析終了時間Tになったか否かを判定する。尚、解析終了時間Tは、例えば、ユーザによるユーザインターフェースの操作に基づいて、予め設定されている。
この判定の結果、解析時間tが解析終了時間Tになっていない場合には、ステップS20に進み、粒子挙動解析部106は、解析時間tをΔtだけ進めて解析時間tを更新する。そして、図6−1のステップS6に戻り、更新後の解析時間tにおける各解析用粒子の挙動を求める。
一方、解析時間tが解析終了時間Tになった場合には、ステップS21に進み、粒子挙動表示部107は、解析開始時間(解析時間t=0)から解析終了時間Tまでの各解析用粒子の挙動をディスプレイに表示する。そして、図6のフローチャートによる処理を終了する。
【0051】
次に、図7のフローチャートを参照しながら、粒子データ読み込み処理を行う際の粒子挙動解析装置100の処理の一例を説明する。尚、ここでは、解析形態指定部101により粒子データ読み込み処理を行うことが指定されており、且つ、粒子情報取得部102により粒子情報が取得されており、且つ、高炉情報取得部103により高炉情報が取得されているものとして説明を行う。
まず、図7−1のステップS31において、領域設定部105は、粒子情報(粒子の大きさ)に基づいて、粒子径(大きさ)の最大値を取得する。
次に、ステップS32において、領域設定部105は、下部流調ゲート6の座標を計算対象位置の情報として取得する。
次に、ステップS33において、領域設定部105は、ステップS31で取得された粒子径(大きさ)の最大値と、ステップS32で取得された下部流調ゲート6の座標とに基づいて、等速直線運動領域を設定する。
【0052】
次に、ステップS34において、粒子挙動解析部106は、解析時間tをΔtに設定する。このΔtは、(1)式及び(2)式のΔtに対応するものである。
次に、ステップS35において、粒子挙動解析部106は、図6−1のステップS9で保存した「粒子の保存情報」に含まれる通過時間が最も早い粒子を、粒子データ発生位置402のうち、当該粒子の保存情報に含まれている「粒子の位置(座標)」に対応する位置に発生させる(図4を参照)。このとき、粒子挙動解析部106は、発生させた粒子の保存情報のうち、粒子の位置・並進速度・回転速度、当該粒子と接触している粒子の番号、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力の情報を読み出す。
次に、ステップS36において、粒子挙動解析部106は、発生させた粒子のフラグの値として1を設定する。
次に、ステップS37において、粒子挙動解析部106は、未選択の粒子を1つ選択する。
【0053】
次に、ステップS38において、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象位置401を通過したか否かを判定する(図4を参照)。この判定の結果、ステップS37で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象位置401を通過していない場合には、ステップS39を省略して後述する図7−2のステップS40に進む。
一方、ステップS37で選択した粒子の中心が、等速直線運動領域の計算対象位置401を通過した場合には、ステップS39に進む。ステップS39に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子のフラグの値を1から0に変更する。
【0054】
次に、図7−2のステップS40において、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触しているか否かを、当該粒子の保存情報等に基づいて判定する。この判定の結果、ステップS37で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触していない場合には、当該粒子に作用する力を計算しないので、ステップS41〜S44を省略して、後述するステップS45に進む。一方、ステップS37で選択した粒子が他の粒子や高炉内の構造物と接触している場合には、ステップS41に進む。
ステップS41に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)のうち未選択のものを1つ選択する。
次に、ステップS42において、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子のフラグの値が0であるか否かを判定する。この判定の結果、ステップS37で選択した粒子のフラグの値が0ではない場合には、ステップS41で選択した粒子からステップS37で選択した粒子に作用する力を計算しないので、ステップS43の処理を省略して、後述するステップS44に進む。一方、ステップS37で選択した粒子のフラグの値が0である場合には、ステップS43に進む。
【0055】
ステップS43に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子に作用する力を(せん断方向及び法線方向の反発力)を(1)式及び(2)式により求め、その結果に基づいて、当該粒子の速度vを(3)式により、当該粒子の角速度ωを(4)式により、それぞれ求める。ここで、フラグの値が1の粒子からフラグの値が0の粒子に作用する力は、フラグの値が1の粒子の保存情報(並進速度、回転速度、接触している粒子の番号、作用力)に基づいて計算される。
次に、ステップS44において、粒子挙動解析部106は、ステップS37で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択したか否かを判定する。この判定の結果、ステップS6で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択していない場合には、ステップS41に戻る。一方、ステップS37で選択した粒子の接触相手(粒子又は構造物)を全て選択した場合には、ステップS45に進む。
【0056】
ステップS45に進むと、粒子挙動解析部106は、発生している全ての粒子を選択したか否かを判定する。この判定の結果、全ての粒子を選択していない場合には、図7−1のステップS37に戻る。一方、全ての粒子を選択した場合には、ステップS46に進む。ステップS46に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS43の計算の結果に基づいて、各粒子を移動させる。ここで、フラグの値として1が設定されている粒子については、粒子の保存情報(位置、並進速度)に基づいて、等速直線運動させることにより当該粒子を移動させる。
次に、ステップS47において、粒子挙動解析部106は、解析時間tが解析終了時間Tになったか否かを判定する。この判定の結果、解析時間tが解析終了時間Tになった場合には、ステップS48に進み、粒子挙動表示部107は、解析開始時間(解析時間t=0)から解析終了時間Tまでの各解析用粒子の挙動をディスプレイに表示する。そして、図7のフローチャートによる処理を終了する。
【0057】
一方、解析時間tが解析終了時間Tになっていない場合には、ステップS49に進む。ステップS49に進むと、粒子挙動解析部106は、解析時間tをΔtだけ進めて解析時間tを更新する。
次に、ステップS50において、粒子挙動解析部106は、図6−1のステップS9で保存した「粒子の保存情報」に含まれる通過時間に基づいて、粒子を発生させるタイミングであるか否かを判定する。前述したように、本実施形態では、粒子挙動解析部106は、図7−1のステップS35で一番早く保存した粒子の通過時間を0として計時を行い、発生対象となる粒子の通過時間から、粒子データ保存処理で一番早く保存した粒子の通過時間を減算した値が計時した時間に一致すると、当該発生対象となる粒子を発生させるタイミングであると判定する。
【0058】
この判定の結果、粒子を発生させるタイミングでない場合には、図7−1のステップS37に戻る。一方、粒子を発生させるタイミングである場合には、ステップS51に進む。ステップS51に進むと、粒子挙動解析部106は、ステップS50で発生させるタイミングであると判定された粒子を、粒子データ発生位置402のうち、当該粒子の保存情報に含まれている「粒子の位置(座標)」に対応する位置に発生させる(図4を参照)。このとき、粒子挙動解析部106は、発生させた粒子の保存情報を読み出す。そして、図7−1のステップS36に戻る。
【0059】
(解析時間の短縮について)
図8は、本実施形態のようにして、ベルレス式高炉の領域を下部流調ゲート6で分割して焼結鉱の挙動を解析した場合の解析時間の短縮効果の一例を表形式で示す図である。
図8において、Aは、固定ホッパー3bに装入されてから、下部流調ゲート6に到達するまでの焼結鉱の挙動を解析する際の計算負荷(粒子データ保存処理の計算負荷)を示す。Xは、粒子データ保存処理の処理水準数を示す。Bは、下部流調ゲート6から旋回シュート8に装入され高炉本体7に堆積するまでの焼結鉱の挙動を解析する際の計算負荷(粒子データ読み込み処理の計算負荷)を示す。Yは、粒子データ読み込み処理の処理水準数を示す。
例えば、図8の1行目に示すように、ベルレス式高炉の領域を分割せずに焼結鉱の挙動を解析した場合、全体で120(=(10+2)×10)の計算負荷が生じる。これに対し、本実施形態のように、ベルレス式高炉の領域を下部流調ゲート6で分割して焼結鉱の挙動を解析した場合、30(=(10×1)+(2×10))の計算負荷が生じる。よって、計算負荷は、ベルレス式高炉の領域を分割しない場合の4分の1になる(すなわち、解析時間を4倍高速化することができる)。
【0060】
(解析結果の妥当性について)
図9は、ベルレス式高炉の模擬実験装置の構成の一例を示した図である。尚、図9では、表記の都合上、ベルレス式高炉の模擬実験装置の構成を簡略化して示している。
図9において、ベルレス式高炉の模擬実験装置は、固定ホッパー3b及び貯留ホッパー5を模した模擬ホッパー91と、旋回シュート8を模した模擬旋回シュート92と、高炉本体7を模した模擬高炉93とを有する。
ここでは、焼結鉱の挙動を調べるために、以下の条件で模擬実験を行った。
焼結鉱1個の大きさ:3mm〜5mm
焼結鉱全体の重さ:10kg
焼結鉱の密度:3300kg/m3
模擬ホッパー91の出口の高さH:600mm
模擬旋回シュート92の傾動角θ:40°
模擬高炉93の大きさ:幅360mm、奥行160mm
【0061】
また、以下の条件で、本実施形態の粒子挙動解析装置100により焼結鉱の挙動を解析した。
試料、装置の条件:模擬実験と同じ
分割位置:模擬ホッパー91の最下部94
Δt:7.5×10-7sec
1、L2:6mm(=焼結鉱の最大径(=5mm)の1.2倍)
【0062】
図10は、模擬実験の結果(図10(a))と解析の結果(図10(b))を示す図である。
図10(a)に示す模擬実験の結果では、焼結鉱の傾斜角度は35.5°となった。一方、図10(b)に示す解析の結果では、焼結鉱の傾斜角度は35.9°となった。このように、本実施形態のようにして解析を行うと、粒子の挙動を可及的に正確に解析することができることが分かる。
【0063】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、粒子データ保存処理において、粒子の中心が、粒子データ保存位置301を通過するまでは、通常通り、DEMによる計算をする。その後、粒子の中心が、計算対象除外位置302を通過するまでは、当該粒子を等速直線運動させ、当該粒子には他の粒子や構造物からの力が作用しないようにする。ここで、粒子の中心が、粒子データ保存位置301を通過したときの当該粒子の情報(粒子の保存情報)を記憶する。その後、粒子の中心が、計算対象除外位置302を通過すると、当該粒子を計算対象から除外する。粒子データ読み込み処理において、粒子の保存情報に基づき、粒子データ発生位置402に粒子を順次発生させ、粒子の中心が、計算対象位置401を通過するまでは、当該粒子を等速直線運動させ、当該粒子には他の粒子や構造物からの力が作用しないようにする。その後、粒子の中心が、計算対象位置401を通過すると、通常通り、DEMによる計算をする。
以上のように、ベルレス式高炉の領域を分割し、分割した領域毎に個別に粒子の挙動を解析することによって、大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって解析する場合に、メモリの使用量を削減することができ、解析時間を短縮することができる。
また、粒子データ保存位置301で粒子を計算対象から除外したり、計算対象位置401で粒子を発生させたりすると、そのことによって、当該粒子に接触する粒子の挙動に影響を与え、実際の粒子の挙動を正確に反映したものでなくなる虞がある。これに対し、本実施形態では、粒子データ保存位置301を通過しても粒子を計算対象から除外しないようにすると共に、計算対象位置401よりも前の粒子データ発生位置402で粒子を発生させ、当該粒子に接触する粒子にだけ力を作用させ、当該粒子には力を作用させない。したがって、大規模な設備における粒子の挙動をDEMによって可及的に正確に解析することができる。
【0064】
(変形例)
本実施形態では、ベルレス式高炉の領域を、下部流調ゲート6で分割するようにしたが、分割する場所は、下部流調ゲート6に限定されない。例えば、ベルレス式高炉の領域を、ベルトコンベア1で分割するようにしてもよい。また、ベルレス式高炉の領域を、3つ以上の領域に分割するようにしてもよい。
また、本実施形態では、等速直線運動領域を設定し、等速直線運動領域では粒子が等速直線運動をするようにしたが、これらの領域での粒子の運動を把握することができれば、必ずしも、これらの領域で粒子が等速直線運動をしなくてもよい。例えば、重力加速度で粒子が加速するようにしてもよい。
【0065】
また、本実施形態では、粒子の中心が、粒子データ保存位置301、計算対象除外位置302、計算対象位置401、粒子データ発生位置402を通過したか否かを判定するようにしたが、粒子の所定の位置が通過したか否かを判定するようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、粒子の下端部が通過したか否かを判定するようにしてもよい。
また、本実施形態では、粒子の保存情報として、通過時間を記憶するようにした。この通過時間は、時刻そのものでなくてもよい。例えば、通過時間は、図6−2のステップS20の繰り返し数であってもよい。
【0066】
また、本実施形態では、粒子データ保存位置301と計算対象位置401とを同じ位置(下部流調ゲート6)にしたが、これらは同じ位置である必要はなく、計算対象位置401を任意の位置に設定することができる。
また、本実施形態では、高炉における焼結鉱の挙動を解析する場合を例に挙げて説明したが、解析対象となる粒子は焼結鉱に限定されない。また、解析する領域は、高炉に限定されない。例えば、電子写真プロセスにおけるトナー粒子の挙動を解析するようにしてもよい。
【0067】
尚、本実施形態では、例えば、領域設定部104を用いることにより第1の領域設定手段が実現される。ここで、ベルレス式高炉の下側の領域が、粒子の進行方向における前方側の領域の一例であり、粒子データ保存処理で設定される等速直線運動領域(図3を参照)が、第1の運動領域の一例である。また、例えば、領域設定部105を用いることにより第2の領域設定手段が実現される。ここで、ベルレス式高炉の上側の領域が、粒子の進行方向における後方側の領域の一例であり、粒子データ読み込み処理で設定される等速直線運動領域(図4を参照)が、第2の運動領域の一例である。また、例えば、粒子挙動解析部106を用いることにより粒子挙動解析手段が実現される。
具体的に、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS7の処理を行うことにより、第1の判定手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS9の処理を行うことにより、記憶手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS10の処理を行うことにより、第2の判定手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS15、S18の処理を行うことにより、第1の移動手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS11の処理を行うことにより、除外手段が実現される。
また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS35、S51の処理を行うことにより、粒子発生手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS35、S51の処理を行うことにより、読み出し手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS38の処理を行うことにより、第3の判定手段が実現される。また、例えば、粒子挙動解析部106が、ステップS43、S46の処理を行うことにより、第2の移動手段が実現される。
また、設備の相対的に上工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示されることは、例えば、解析形態指定部101により、粒子データ保存処理を行うことが指定されることにより実現される。また、設備の相対的に下工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示されることは、例えば、解析形態指定部101により、粒子データ読み込み処理を行うことが指定されることにより実現される。
【0068】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ベルトコンベア
2 切替シュート
3 固定ホッパー
4 上部流調ゲート
5 貯留ホッパー
6 下部流調ゲート
7 高炉本体
8 旋回シュート
100 粒子挙動解析装置
101 解析形態指定部
102 粒子情報取得部
103 高炉情報取得部
104 領域設定部
105 領域設定部
106 粒子挙動解析部
107 粒子挙動表示部
301 粒子データ保存位置
302 計算対象除外位置
401 計算対象位置
402 粒子データ発生位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析装置であって、
前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定手段と、
前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定手段と、
前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析手段と、を有し、
前記粒子挙動解析手段は、
前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定手段と、
前記第1の判定手段により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶する記憶手段と、
前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定手段と、
前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動手段と、
前記第2の判定手段により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外手段と、
前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生手段と、
前記粒子発生手段により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し手段と、
前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定手段と、
前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し手段により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動手段と、を更に有することを特徴とする粒子挙動解析装置。
【請求項2】
前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの最短距離と、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの最短距離は、前記粒子の大きさの最大値を超える長さであることを特徴とする請求項1に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項3】
前記粒子発生手段は、前記粒子の保存情報に含まれている通過時間に応じた時間隔で、前記粒子データ発生位置であって、前記粒子の保存情報に含まれている位置に対応する位置に、粒子を順次発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項4】
前記第1の領域設定手段、前記第1の判定手段、前記記憶手段、前記第2の判定手段、前記第1の移動手段、及び前記除外手段は、前記設備の相対的に上工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示された場合に実行され、
前記第2の領域設定手段、前記粒子発生手段、前記読み出し手段、前記第3の判定手段、及び前記第2の移動手段は、前記設備の相対的に下工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示された場合に実行されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項5】
前記所定の運動は、等速直線運動であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の粒子挙動解析装置。
【請求項6】
設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析方法であって、
前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定工程と、
前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定工程と、
前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析工程と、を有し、
前記粒子挙動解析工程は、
前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定工程と、
前記第1の判定工程により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶する記憶工程と、
前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定工程と、
前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動工程と、
前記第2の判定工程により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外工程と、
前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生工程と、
前記粒子発生工程により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し工程と、
前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定工程と、
前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し工程により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動工程と、を更に有することを特徴とする粒子挙動解析方法。
【請求項7】
前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの最短距離と、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの最短距離は、前記粒子の大きさの最大値を超える長さであることを特徴とする請求項6に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項8】
前記粒子発生工程は、前記粒子の保存情報に含まれている通過時間に応じた時間隔で、前記粒子データ発生位置であって、前記粒子の保存情報に含まれている位置に対応する位置に、粒子を順次発生させることを特徴とする請求項6又は7に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項9】
前記第1の領域設定工程、前記第1の判定工程、前記記憶工程、前記第2の判定工程、前記第1の移動工程、及び前記除外工程は、前記設備の相対的に上工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示された場合に実行され、
前記第2の領域設定工程、前記粒子発生工程、前記読み出し工程、前記第3の判定工程、及び前記第2の移動工程は、前記設備の相対的に下工程の領域に対して解析することがオペレータによって指示された場合に実行されることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項10】
前記所定の運動は、等速直線運動であることを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の粒子挙動解析方法。
【請求項11】
設備における複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記設備の所定の領域を粒子データ保存位置とすると共に、前記粒子データ保存位置よりも前記粒子の進行方向における前方側の領域を計算対象除外位置とし、前記粒子データ保存位置から前記計算対象除外位置までの領域を第1の運動領域として設定する第1の領域設定工程と、
前記設備の所定の領域を計算対象位置とすると共に、前記計算対象位置よりも前記粒子の進行方向における後方側の領域を粒子データ発生位置とし、前記粒子データ発生位置から前記計算対象位置までの領域を第2の運動領域として設定する第2の領域設定工程と、
前記複数の粒子の挙動を、離散要素法を用いて解析する粒子挙動解析工程と、をコンピュータに実行させ、
前記粒子挙動解析工程は、
前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したか否かを判定する第1の判定工程と、
前記第1の判定工程により、前記粒子が前記粒子データ保存位置を通過したと判定されると、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力と、通過時間を示す情報とを含む情報を、粒子の保存情報として記憶媒体に記憶する記憶工程と、
前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したか否かを判定する第2の判定工程と、
前記粒子が、前記粒子データ保存位置を通過してから前記計算対象除外位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記粒子データ保存位置を通過していない他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第1の移動工程と、
前記第2の判定工程により、前記粒子が前記計算対象除外位置を通過したと判定されると、当該粒子を離散要素法による解析対象から除外する除外工程と、
前記第1の運動領域における全ての粒子の挙動が解析された後に、前記粒子の保存情報に含まれる通過時間に基づいて、前記粒子データ発生位置に粒子を発生させる粒子発生工程と、
前記粒子発生工程により発生された粒子の保存情報のうち、当該粒子の位置、並進速度及び回転速度と、当該粒子と接触している粒子の識別情報と、当該粒子及び当該粒子に接触している粒子の間に作用している力とを読み出す読み出し工程と、
前記粒子が前記計算対象位置を通過したか否かを判定する第3の判定工程と、
前記粒子が、前記粒子データ発生位置を通過してから前記計算対象位置を通過するまでの間に、当該粒子が前記計算対象位置を通過した他の粒子と接触している場合、当該粒子に作用する力を計算せずに、当該粒子が所定の運動を行うものとして当該粒子を、前記読み出し工程により読み出された当該粒子の保存情報に基づいて移動させると共に、当該粒子から当該他の粒子に作用する力を計算し、計算した力に基づいて当該他の粒子を移動させる第2の移動工程と、を更に有することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−48564(P2012−48564A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191163(P2010−191163)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】