説明

粒子線照射制御装置

【課題】本発明の目的は、ビーム軌道に関するパラメータ検証・調整時間を削減することにより加速器技師の負担を軽減し、稼働率を向上させることである。
【解決手段】上記目的を達成するための手段として、本発明の粒子線照射制御装置は、治療シーケンスの中にビーム軌道補正計算処理を組み込み、照射対象へのイオンビームの照射が終了した後、ビーム輸送系に設置された電磁石への励磁電流値のデータを、補正後の補正励磁電流値に基づいて更新して記憶する記憶装置と、その後は、更新後の励磁電流値に基づいて電磁石の励磁電流を制御する制御装置を備える。ここで言う治療シーケンスとは、粒子線照射制御装置が治療計画装置から患者処方箋データを受け取った後からビーム照射が完了するまでの一連の処理を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを用いてガンや腫瘍等を治療する粒子線照射制御装置に関し、特に荷電粒子ビームの軌道補正に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの治療方法として、粒子線である陽子または炭素イオンなどの荷電粒子ビームを患者の患部に照射する方法が知られている。粒子線照射システムは、粒子線発生装置,ビーム輸送系,照射装置及び粒子線照射制御装置を備える。荷電粒子ビーム発生装置は円形加速器(シンクロトロン又はサイクロトロン)を有し、この円形加速器が周回軌道に沿って周回するイオンビームを所定のエネルギーまで加速させる。目標のエネルギーまで加速された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系を経て照射装置に輸送され、照射装置から出射される。粒子線照射制御装置は、円形加速器を制御する加速器制御装置,ビーム輸送系を制御する輸送系制御装置及び照射装置を制御する照射制御装置を有する。
【0003】
粒子線照射制御装置では、治療計画装置から処方箋データを受信すると、処方箋データの内容から、円形加速器及びビーム輸送系に設定するパラメータのデータベースを検索する。データベースから導出されたパラメータは加速器制御装置や輸送系制御装置及び照射制御装置などの各種制御装置に送信され、荷電粒子ビームを照射するための機器の準備が行われる。
【0004】
円形加速器やビーム輸送系に設定するパラメータは、加速器の専門知識を持った技師により治療とは別にビーム照射を行う事により作成,登録されたものである。特許文献1は、輸送系パラメータのひとつであるビーム軌道を制御するステアリング電磁石電流値の調整について開示している。具体的には、特許文献1は、荷電粒子ビームの通過位置を検出する第1ビーム位置検出器及び第2ビーム位置検出器を照射装置に設置し、この第1ビーム位置検出器及び第2ビーム位置検出器の検出結果と補正アルゴリズムを用いて荷電粒子ビームが所定のビーム軌道となる補正値を求め、ステアリング電磁石に励磁する励磁電流値を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−282300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようにビーム軌道に関わる輸送系パラメータのデータベースの作成は、加速器技師により行われているが、近年、治療が多様化し、より正確な照射が要求されるようになったことで、加速器に求められるビームも精度の高いものとなり、それに応じて治療用の加速器・輸送系パラメータも膨大な組数を準備しなければならない。
【0007】
一方、加速器・輸送系本体を設置した建屋が変動した場合など各機器状態が徐々に変化していくと、加速器から出射されるビーム軌道も徐々に変化していくため、膨大な数の治療用輸送系パラメータを定期的に検証,調整を行う必要があり、これには多大な時間と労力を要することとなる。
【0008】
粒子線照射システムは、ビーム軌道が徐々に変動している場合、ビーム位置異常,平坦度異常などのアラームを発生させる安全装置を有し、この安全装置によってビーム軌道がずれていることが判明する。その場合には、治療を一旦中断して加速器技師によるビーム調整を行うか、または、加速器技師がいない場合には治療を中止するしかないが、いずれにしろ、治療中にビーム軌道の異常が検出された場合、稼働率が低下する可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、ビーム軌道に関するパラメータ検証・調整時間を削減することにより加速器技師の負担を軽減し、稼働率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための手段として、本発明の粒子線照射制御装置では、治療シーケンスの中にビーム軌道補正計算処理を組み込み、自動的に輸送系パラメータのデータベースを更新する仕組みを備えるものとする。
【0011】
ここで言う治療シーケンスとは、粒子線照射制御装置が治療計画装置から患者処方箋データを受け取った後からビーム照射が完了するまでの一連の処理を言う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷電粒子ビームのビーム軌道に関するパラメータ検証・調整時間が削減され、システム稼働率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】荷電粒子照射装置に全体構成(回転ガントリーあり)を示した図である。
【図2】二重散乱体方式のノズル内の機器構成を示した図である。
【図3】照射制御装置の内部構成を示した図である。
【図4(a)】治療照射の準備開始から加速器のセットアップ完了までを示した治療シーケンスの処理フロー図である。
【図4(b)】ビームチェック用の照射開始から治療終了までを示した治療シーケンスの処理フロー図である。
【図5】加速器・輸送系パラメータデータベースのうちステアリング電磁石電流設定値のデータ構造例を示した図である。
【図6】加速器・輸送系パラメータデータベースのうちステアリング電磁石電流設定値のデータ検索例を示した図である。
【図7】加速器・輸送系パラメータデータベースのうちステアリング電磁石電流設定値の補正後のデータ保存例を示した図である。
【図8】ビーム軌道ずれ量の変動例を示した図である。
【図9】調整用照射シーケンスの処理フローを示した図である。
【図10】荷電粒子照射装置に全体構成(回転ガントリーなし)を示した図である。
【図11】加速器・輸送系パラメータデータベースデータのうちステアリング電磁石電流設定値の構造例を示した図である。(回転ガントリーなし)
【図12】スキャニング照射方式における荷電粒子照射装置全体構成を示した図である。
【図13】スキャニングノズル内の機器構成を示した図である。
【図14】スキャニング照射方式の照射制御装置内部構成を示した図である。
【図15(a)】治療照射の準備開始から加速器のセットアップ完了までを示したスキャニング照射方式での治療シーケンスの処理フロー図である。
【図15(b)】ビームチェック用の照射開始から治療終了までを示したスキャニング照射方式での治療シーケンスの処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態の粒子線照射システムである粒子線治療システムを図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係わる粒子線治療システムの全体を示す図である。本実施形態において、粒子線治療システムは次のように構成される。
【0016】
本実施の形態の粒子線治療システムは、図1に示すように、荷電粒子ビーム発生装置(粒子線発生装置)1と、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続された第1ビーム輸送系2と、第1ビーム輸送系2から分岐した第2ビーム輸送系3を持つ回転ガントリー4を有している。
【0017】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源を備えた直線加速器5及びシンクロトロン6を有し、シンクロトロン6は、高周波印加装置7を有している。高周波印加装置7は、シンクロトロン6の周回軌道に配置された高周波印加電極9と高周波電源10とを開閉スイッチ11にて接続して構成される。直線加速器5はイオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン,炭素イオン等)を加速してイオンビーム(粒子線)を生成し、このイオンビームをシンクロトロン6に入射する。荷電粒子ビームであるそのイオンビームはシンクロトロン6内を周回して加速され、必要なエネルギーが与えられると、予め設定されたエネルギーまで加速される。イオンビームのエネルギーは患者体内の患部の深さに合わせて決定される。シンクロトロン6内を周回するイオンビームに必要なエネルギーが与えられると、高周波電源10からの出射用の高周波が、閉じられた開閉スイッチ11を経て高周波印加電極9に達し、高周波印加電極9よりイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ12を通ってシンクロトロン6をから出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン6に設けられた四極電磁石13及び偏向電磁石14に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ11を開いて高周波印加電極9への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン6からのイオンビームの出射が停止される。
【0018】
シンクロトロン6から出射されたイオンビーム(以下、ビームという)は、第1ビーム輸送系2により下流側へと輸送される。第1ビーム輸送系2は、ステアリング電磁石17A,17B、及び偏向電磁石16を有する。第1ビーム輸送系2に導入された粒子線は、偏向電磁石16を経由して第2ビーム輸送系3及び回転ガントリー4に導入される。第2ビーム輸送系3は回転ガントリー4に取り付けられており、ビーム進行方向上流側よりステアリング電磁石17C,17D,偏向電磁石19A,ステアリング電磁石18A,18B,18C,18D,偏向電磁石19B,19Cを有している。
【0019】
ここで、ステアリング電磁石17A,17B,17C,17Dは、第2ビーム輸送系3と回転ガントリー4を取り合い点におけるビーム軌道を調整するために用いられる。これに対し、ステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dは、照射ノズル21でのビーム軌道の調整するために用いられる。また、ステアリング電磁石17A,17D,18A,18Dは、通過するイオンビームを偏向してビーム軌道の水平方向を調整し、ステアリング電磁石17B,17C,18B,18Cは、通過するイオンビームを偏向してビーム軌道の垂直方向を調整する。
【0020】
第2ビーム輸送系3に導入された粒子線はこれらの電磁石を経由して回転ガントリー4の回転胴に設置された二重散乱体方式の照射ノズル(照射装置)21へと輸送される。照射ノズル21内には、上流から、プロファイルモニタ23,第2散乱体24,平坦度モニタ25,線量モニタ26,ノズルビームストッパー27が設置されている。患者に粒子線を照射する場合、ノズルビームストッパー27がビーム軌道上から離れた位置に移動されている。ノズルビームストッパー27の動作については後述する。照射ノズル21に入射した粒子線は、ビーム軌道上に設置されたプロファイルモニタ23,第2散乱体24,平坦度モニタ25,線量モニタ26を通り、所定のイオンビーム22に形成された後、照射ノズル21から出射され、患者30体内の患部に照射される。
【0021】
また、本実施形態の粒子線照射装置は制御を行うための照射制御装置35を備えている。この照射制御装置35は、図1に示すとおり、中央制御装置50,ノズル制御装置51,加速器制御装置53,輸送系制御装置54を備える。中央制御装置50は、ノズル制御装置51,加速器制御装置53及び輸送系制御装置54に接続される。また、中央制御装置50が治療計画装置40に接続され、治療計画装置40から送信される治療計画データを受信する。ノズル制御装置51は、照射ノズル21内に設置されたプロファイルモニタ23,第2散乱体24,平坦度モニタ25,線量モニタ26,ノズルビームストッパー27を制御する。加速器制御装置53は、シンクロトロン6を構成する各機器を制御する。輸送系制御装置54は、第1ビーム輸送系及び第2ビーム輸送系を構成する各機器を制御する。ヒューマンインターフェイス端末(HMI端末)32が中央制御装置50に接続される。
【0022】
図3に示すように、中央制御装置50には、処方箋データ受信部201,治療シーケンス進行管理処理部202,ノズル機器パラメータ検索処理部203,ノズル機器パラメータデータベース205,ノズル機器パラメータ送信部206,ノズルモニタデータ受信部207,加速器パラメータ検索処理部210,加速器・輸送系パラメータデータベース(記憶装置)211,ビーム軌道補正処理部212,加速器パラメータデータ送信部213が備えられる。処方箋データ受信部201が治療計画装置40に接続され、治療計画装置40から送信された処方箋データを受信する。ノズル機器パラメータ送信部206及びノズルモニタデータ受信部207がノズル制御装置51に接続される。加速器パラメータデータ送信部213が加速器制御装置53及び輸送系制御装置54に接続される。
【0023】
次に、本実施例の特徴である治療シーケンスと照射制御装置の動作について、図1〜図3、及び図4(a),図4(b)のフローを用いて説明する。
【0024】
図3において、中央制御装置50は、これから治療を行う患者に関する治療計画データ(処方箋データ)を治療計画装置40から、処方箋データ受信部201で受け取ると、受信したデータを治療シーケンス進行管理処理部202に渡す。この処方箋データには、治療室や回転ガントリーの角度,患部の深さ(ビームエネルギー),照射野サイズなどの情報が含まれる(図4(a)F090)。
【0025】
治療シーケンス進行管理処理部202は、処方箋データをノズル機器パラメータ検索処理部203に渡す。ノズル機器パラメータ検索処理部203は、治療用に作成されたノズル機器パラメータデータベース205から検索し、ノズル制御装置51に送信するデータを導出する。ノズル制御装置51に送信されるパラメータとしては、照射ノズル21内に設置されたプロファイルモニタ23や平坦度モニタ25などのビーム計測値に対する許容値などがある(図4(a)F100)。
【0026】
ノズル機器パラメータ検索処理部203は、データベースから検索したパラメータをノズル機器パラメータ送信部206に渡し、ノズル制御装置51に送信する(図4(a)F110)。
【0027】
次に、ノズル制御装置51は、照射ノズル21内の下流部にあるノズルビームストッパー27を挿入し、患者にビームが当たらない状態とする。これは、治療照射の前にビームチェック用照射(図4(a)F130〜F140)を行うためのものである(図4(a)F115)。
【0028】
治療シーケンス進行管理処理部202は、処方箋データを加速器パラメータ検索処理部210に渡す。加速器パラメータ検索処理部210は、処方箋データのうち、治療室,回転ガントリーの角度,患部の深さ(ビームエネルギー)をキーとして、治療用に作成された加速器・輸送系パラメータデータベース211を検索し、加速器パラメータデータ送信部213を介して、加速器制御装置53、及び輸送系制御装置54に送信するパラメータを導出する(図4(a)F120)。
【0029】
加速器・輸送系パラメータデータベース211には、シンクロトロン6や第1ビーム輸送系2,第2ビーム輸送系3に設置された各機器を制御するパラメータが登録されているが、本実施例に関係するビーム軌道を決めるステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dのパラメータのデータベース構造について図5にて説明する。
【0030】
ステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dの電流設定値は、治療室,ビームエネルギー(患部の深さ),回転ガントリーの角度に依存して変える必要があるため、治療室の数,治療で使用するビームエネルギーの数,回転ガントリーの角度数の組合せ数分を治療に使用するデータベースとして登録しておく必要がある。
【0031】
例えば、治療室が3部屋,ビームエネルギーが10種類,回転ガントリーが1度毎360ケース分の場合には、この4つのステアリング電磁石のパラメータは、3部屋×10エネルギー×360ケース=10800ケースを準備することとなる。
【0032】
図6は、患者処方箋データが、治療室2,ビームエネルギー70MeV,回転ガントリー角度270度の場合にデータ検索を表しているものである。
【0033】
以上のようにして、シンクロトロン6や第1ビーム輸送系2,第2ビーム輸送系3に設置された各機器を制御する全てのパラメータが導出されると、それらのパラメータは、加速器パラメータデータ送信部213に渡される。加速器パラメータデータ送信部213は、データを受け取ると、加速器に係わるパラメータを加速器制御装置53へ送信し、輸送系に係わるパラメータを輸送系制御装置54に送信する(図4(a)F130)。
【0034】
図5,図6に挙げたステアリング電磁石電流設定値は、輸送系制御装置54に送られる。
【0035】
加速器制御装置53,輸送系制御装置54は、受信したパラメータを元に各機器に対する制御を開始し、ビームが出射できる状態(加速器セットアップ完了)となる(図4(a)F135)。
【0036】
加速器セットアップが完了すると、セラピストはビームチェック用照射を開始するために、HMI端末32の入力装置からビームチェック用の照射開始信号を入力する。HMI端末32は、照射開始信号を中央制御装置50に送信する。中央制御装置50は、照射開始信号を受信すると、各制御装置に、ビームチェック用の照射開始のための指令信号を出力する。ノズル制御装置51は、この指令信号を受信すると、照射ノズル21内のノズルビームストッパー27をビーム軌道上に移動して設置する。その後、イオンビームの照射を開始する(図4(b)F140)。ビームチェック用照射の目的は、患者にビームを治療照射を行う前に、ノズルビームストッパー27を挿入し患者にビームがあたらない状態として、治療照射と同じ条件にしてビームを出射することで、ビーム軌道などを検証し、治療の安全性を確保する事にある。
【0037】
一定の線量のビームが照射されるとビームチェック用照射を完了する。(図4(b)F145)この時に照射する線量は、ビームが検証が可能な量であればよいので治療照射に比べ極めて少量のものでよい。
【0038】
ビームチェック用照射が完了すると、プロファイルモニタ23は、ビームチェック用照射で計測したデータをノズル制御装置51に送信する。ノズル制御装置51は受信したデータからX軸ビーム位置(重心)とY軸ビーム位置(重心)を計算し、計算結果を中央制御装置に送信する。また、ノズル制御装置51は、中央制御装置50から受け取ったノズルプロファイルモニタ判定用の許容値とビーム位置を比較し、計算結果が許容値をオーバしている場合には、ビーム位置異常のアラーム信号を中央制御装置に送信する(図4(b)F148)。
【0039】
同様に、ビームチェック用照射が完了すると、平坦度モニタ25はビームチェック用照射で計測したデータをノズル制御装置51に送信する。ノズル制御装置51は受信したデータからX軸チャージバランスとY軸チャージバランスを計算し、計算結果を中央制御装置に送信する。また、ノズル制御装置51は、中央制御装置50から受け取った平坦度モニタチャージバランス判定用の許容値と計算したチャージバランスを比較し、計算結果が許容値をオーバしている場合には、平坦度モニタチャージバランス異常のアラーム信号を中央制御装置50に送信する。
【0040】
中央制御装置50は、ビームチェック用照射が完了するとノズルモニタデータ受信部207で受信したデータから、ビーム軌道に異常があるかどうかを判定する。判定処理は、プロファイルモニタ23からのビーム重心位置異常のアラームと平坦度モニタのチャージバランス異常のアラームがあるかどうかによって行い、何れかのアラームが発生していればビーム軌道異常とみなす(図4(b)F150)。
【0041】
ビーム軌道に異常がある場合、治療シーケンス進行管理処理部202は、ビーム軌道補正処理部212を実行要求する。ビーム軌道補正処理部212は、ノズルモニタデータ受信部でプロファイルモニタ23から受信したX軸ビーム位置,Y軸ビーム位置、及び、平坦度モニタから受信したX軸チャージバランス及びY軸チャージバランスを使用して、ビーム軌道補正計算処理を行い、4つのステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dの電流設定値の補正量を計算する(図4(b)F160)。
【0042】
以下にビーム補正計算の内容について説明する。
(1)平坦度モニタ25で計測したチャージバランスから第2散乱体24でのビーム位置
を算出する。ここでいうチャージバランスとは、散乱した粒子の電荷量分布のこと
を示す。チャージバランスと第2散乱体24でのビーム位置の関係は線形となり、
この関係を予め求めておく。チャージバランスのX方向,Y方向の計測値をそれぞ
れXdm,Ydm,チャージバランスと第2散乱体24でのビーム位置から決まる係数
をCLX,CLYとすると、第2散乱体でのビーム位置は以下の式で求まる。
2=CLX*Xdm
2=CLY*Ydm
(2)(1)にて得られたビーム位置X2,Y2とプロファイルモニタ23でのビー
ム位置X1,Y1を用いて、ビーム勾配を算出する。ここでLは、ノズルプロファイ
ルモニタと第2散乱体の距離である。
1′=(X2−X1)/L
2′=(Y2−Y1)/L
(3)ビーム位置,ビーム勾配からステアリング電磁石のキック量[mrad]を算出する。
目標ビーム位置,目標ビーム勾配をそれぞれ、(X0,Y0),(X0′,Y0′)す
ると水平方向,垂直方向のキック量は以下の式で求められる。キック量とは、ビー
ム軌道補正のためにビームに与える偏向量(角度変化量)である。ここで、MH
Vは2×2の行列でコース毎に異なる値である。

(4)ステアリング電磁石キック量からステアリング電磁石の励磁電流の補正量を算出す
る。
ΔIH1=CH×CP×kh1
ΔIH2=CH×CP×kh2
ΔIV1=CV×CP×kv1
ΔIV2=CV×CP×kv2
【0043】
ここで、CPは粒子の運動エネルギー(MeV)であり、以下の式で求まる。

【0044】
0は陽子の静止質量で938.27234MeV、cは光速で299,792,458m/sである。
【0045】
また、CH,CVはそれぞれのステアリング電磁石特性により異なる定数であり、予め計測した電流値とBL積との関係から決定される。
(5)以上により算出したステアリング電磁石の電流補正量を現在の設定値に加算する。
【0046】
本実施例では、プロファイルモニタ23のビーム位置と平坦度モニタ25のチャージバランスからビーム軌道補正計算を行っているが、補正計算はモニタの種類によらず、2点のビーム位置とその間の距離が判れば計算できる。
【0047】
以上により算出されたステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dの補正後の電流値は、加速器パラメータデータ送信部213を経由して、輸送系制御装置54に送信される。輸送系制御装置54はステアリング電磁石18A,18B,18C,18Dの補正後の電流設定値を受信すると設定値に従い励磁制御する。(図4(b)F170)ステアリング電磁石電流の励磁電流の実測値が設定値に追従した段階で再度ビームチェック用照射が可能な状態となる。セラピストは再度ビームチェック用照射を行い、照射が完了するとビームの検証が行われる(図4(b)F140〜F150)。
【0048】
このようにビーム軌道が正常と判定されるまでセラピストはビームチェック用照射を繰り返し行う。(図4(b)F140→F145→F150→F160→F140→F145→F150→…)通常は1回、ビーム軌道補正処理を実行すればビーム軌道は所望の位置に移動する。
【0049】
ビーム軌道の判定が正常であれば、ノズル制御装置51はノズルビームストッパー27を排出し、患者に直接ビームがあたる状態、即ち治療照射が行える状態とする(図4(b)F180)。
【0050】
治療照射の準備が完了するとセラピストは、治療照射を開始する(図4(b)F190)。
【0051】
患者処方箋データにある治療計画線量に達すると治療照射が完了する(図4(b)F200)。
【0052】
治療照射が完了すると中央制御装置50のノズルモニタデータ受信部207は、ノズル制御装置51から送信されるプロファイルモニタ23でのビーム位置と平坦度モニタ25でのチャージバランスのデータを受信する。これは、ビームチェック用照射完了時の動作(図4(b)F148)と同じである(図4(b)F205)。
【0053】
ノズルモニタデータ受信部207から受信したデータをビーム軌道補正処理部212に渡し、そのデータからビーム軌道補正計算が実行される。これは、ビームチェック用照射でビーム軌道が異常と判定された場合に行う補正計算(図4(b)F160)と同じで動作である(図4(b)F210)。
【0054】
補正計算が完了するとビーム軌道補正処理部212は補正後のステアリング電磁石電流設定値を加速器・輸送系パラメータデータベース(記憶装置)211の今回照射した条件と同じ位置に上書き保存する(図4(b)F220)。
【0055】
例えば、図7に示すように、患者処方箋データが、治療室2,ビームエネルギー70MeV,回転ガントリー角度270度で治療照射が行われた場合、加速器・輸送系パラメータデータベース211は、その条件のデータを補正後の値に更新して記憶する。このように加速器・輸送系パラメータデータベース211は、イオンビームの照射終了後に、ステアリング電磁石への励磁電流値のデータを、補正後の補正励磁電流値に基づいて更新して記憶するため、この補正後の値は、次回以降の治療照射でビーム条件が同一となった場合に使用されることになる。
【0056】
以上、説明したように本実施例では治療シーケンスの2箇所(ビームチェック用照射でのビーム軌道異常時と治療照射完了時)にビーム軌道補正計算処理が組み込まれているが、その意味について説明する。
【0057】
通常の粒子線における治療では、ある患者に対して、同一のビーム条件での照射を20日程度に分けて繰り返し行われることが多い。
【0058】
このことを踏まえた上で、もし、ビーム軌道の目標位置からのずれ量が日々増加したと仮定し、毎日同一条件で照射が行われた場合のビーム軌道ずれ量変動を図8に示す。治療シーケンスの中で、ビームチェック用照射で異常が発生した場合のみ補正計算を行った場合をケースAとし、ビームチェック用照射で異常が発生した場合及び治療完了時の2箇所で補正計算を行った場合をケースBとする。図8において、BC1はビームチェック用照射1回目、BC2はビームチェック用照射2回目、TXは治療照射を表す。また、●,■は各照射におけるモニタの計測結果から得られたビームずれ量を表し、●は照射完了後に軌道補正計算が行われないもの、■は照射完了後に軌道補正計算が行われるものを意味する。ビームずれ量は2つのモニタで計測するため、2箇所でのずれ量があるが、ここでは説明をわかりやすくするため、1箇所での計測結果でのみとしている。
【0059】
図8のケースAでは、1〜5日目まではビーム軌道のずれ量が徐々に増加しているにもかかわらず、ビームチェック用照射でビーム軌道ずれ量がアラーム判定の許容値をオーバしていないので軌道補正計算は実行されない。6日目にビームチェック用照射でビーム軌道ずれ量が許容値をオーバしてアラームが発生し、初めてビーム軌道補正計算がされる。同様に、7日目以降もビーム軌道は正常と判定され、数日後に再びアラームが発生するという動きとなる。
【0060】
一方、図8のケースBでは、治療完了時に毎回補正が行われ、データベースが更新されるので照射を行うたびにビーム軌道のずれ量はリセットされる。よって、毎日同じ照射を繰り返している限りは、ケースAのようにビームチェック用照射でアラームは発生することはない。
【0061】
但し、ケースBの場合でも、新患の場合で、しばらく使用されていない条件のビームで照射が行われた場合、ビームチェック用照射でビームずれ量が許容値を超え、ビーム軌道が異常となる可能性があるが、その時点でビーム軌道補正されることにより、ビーム軌道ずれ量がリセットされる。
【0062】
別のケースとして、ビームチェック用照射完了時に、ビーム軌道のアラーム発生有無によらず、ビーム軌道補正を実行した場合を考えてみる。この場合、ビーム軌道のずれ量はケースBと同じような変動となるが、ビーム用チェック照射の計測結果からビーム軌道補正計算が実行され、その後に補正量が設定値に反映されることになるので、安全性を考慮すると、再度、ビームチェック用照射を行う必要があり、治療シーケンスの中でビームチェック用照射を必ず2回行うことになるので、治療設備としては非効率と言える。
【0063】
また、ビーム軌道補正計算に使用されるビーム位置の情報は、少量のビームで計測した結果よりは、より多くビームで積算された計測結果を使用する方が、正確で精度の高い補正結果が得られるため、ビームチェック用照射よりも治療照射での計測結果を利用した方がよい。
【0064】
以上のことから、治療シーケンスの2箇所(ビームチェック用照射でのビーム軌道異常時と治療照射完了時)にビーム軌道補正計算処理を組み込み、加速器・輸送系パラメータデータベースを更新する本実施例の方式によれば、ビーム軌道に関するパラメータ検証・調整時間を削減することにより加速器技師の負担を軽減することができる。また、患者への治療照射におけてビーム軌道が発生した場合、医療従事者が意識することなく、治療の一連の手順の中でビーム軌道に関するパラメータを補正し、稼働率を向上させることができる。
【0065】
本実施例によれば、治療シーケンスの中にビーム軌道補正処理を組み込み、セラピストが意識することなく、輸送系パラメータデータベースを自動的に更新することができるようになる。
【実施例2】
【0066】
以下に、本発明の他の実施例の粒子線照射システムを、図1及び図9を用いて説明する。
【0067】
本実施例の粒子線照射システムは、実施例1の粒子線治療システムと同様の構成を有する。実施例1では、治療照射に限定して説明したが、本実施例では、図1に示す粒子線照射システムを治療照射以外に応用した例について説明する。例えば、ビーム調整用の照射シーケンスの中で実施例1と同じビーム軌道補正の処理を組み込むと、輸送系パラメータ作成に用いることができる。
【0068】
調整用照射シーケンスの処理フローを、図9を用いて説明する。
【0069】
調整用照射では、治療照射と異なり、治療計画装置40による処方箋データが存在しないため、処方箋データを自分で入力する。ここで入力するデータは、今から調整するビームに合わせ、自由に入力することができる(図9 F090)。
【0070】
次にビーム軌道補正実施有無を指定する(図9 F095)。
【0071】
調整用照射の場合は、必ずしも、ビーム軌道調整を目的として照射を行うとは限らない。そのため、ビーム照射を行う前にビーム軌道補正実施有無を指定することができれば、目的に応じたビーム調整が可能となる。
【0072】
以下、ノズル機器パラメータ検索(図9 F100)から加速器セットアップ完了(図9 F135)までは、基本的に治療用照射シーケンスと同様の処理となる。
【0073】
なお、調整用照射の場合には、患者がいないため、ビームチェック用照射は不要となり、それに関する処理はない。
【0074】
以下、照射開始から軌道補正を行い、データベースを更新するまでの処理(図9 F190〜F220)に関しては基本的に治療用照射シーケンスと同じであるが、ビーム軌道の補正実施なしを選択している場合には、補正計算及び輸送系データベースの更新は行われない。
【実施例3】
【0075】
以下に、本発明の他の実施例の粒子線照射システムを、図10を用いて説明する。
【0076】
実施例1では、粒子線治療システムに回転ガントリーを有する場合で説明したが、本実施例の粒子線治療システムは、図10に示すように、回転ガントリーがない例について説明する。つまり、本実施例の粒子線治療システムは、第2ビーム輸送系3の下流側に照射ノズル21を設置した構成を有する。本実施例のように回転ガントリーが無い構成の場合には、補正対象のステアリング電磁石は、第1ビーム輸送系2に設置されたステアリング電磁石17A,17B及び第2ビーム輸送系3に設置されたステアリング電磁石17C,17Dとなり、データベースの構造は図11のようになる。
【実施例4】
【0077】
以下に、本発明の他の実施例の粒子線治療システムを、図12,図13及び図14を用いて説明する。
【0078】
実施例1では、荷電粒子ビームを散乱させるパッシブ照射方式の照射ノズル21を有する粒子線治療システムの例を説明したが、本実施例では細い荷電粒子ビームを照射対象になぞるように照射するスキャニング照射方式の照射ノズル21を有する粒子線治療システムに適用した場合を説明する。
【0079】
スキャニング照射方式の概要について説明する。粒子線は、患者に対して中心となるビーム方向に垂直な平面、すなわちレイヤー(患部を層状に分割した仮想的な板状の領域)を走査することにより2次元的な患部形状に合わせた照射が可能となる。深さ方向の制御は粒子線のエネルギーを変えることによって行う。これらを組み合わせることにより、患部の3次元構造にあわせた照射を行うことがスキャニング照射の特徴である。
【0080】
スキャニング照射方式の照射ノズル21はそのようなスキャニング照射を行うため、ビーム進行方向上流から、ビームの形状を計測するプロファイルモニタ62,スキャニング電磁石63,64,線量モニタ65,ビーム位置モニタ66等を備えている。スキャニング電磁石63,64は、ビーム軸と垂直な平面上において互いに直行する方向(X方向,Y方向)に粒子線を変更し、照射位置に動かすためのものであり、スキャニング電磁石63,64の励磁量を制御することにより、粒子線は偏向され、レイヤーを走査する。
【0081】
図13は粒子線が患部を照射する様子を示す図であり、代表的なスポット照射の場合を例として示している。患部81は、その領域の深さ方向に複数のレイヤーに分けられる。陽子線や重粒子の粒子線は、患部に対する効果を、その飛程の最後で最も大きく与えるという特徴がある。そのため、体表面からの深い側のレイヤーを照射する場合は、粒子線のエネルギーを大きく(例:230MeV)、浅い側のレイヤーを照射する場合はエネルギーを低く(例:70MeV)すれば、粒子線の性質により、目的の深さの患部を照射することができる。
【0082】
レイヤーの数はNとする。ここでは患部の深いレイヤーL1からはじめ、浅いレイヤーLNまで順次照射するものとする。K番目のレイヤーのスポット数をnKとする。レイヤーの照射では、スキャニング電磁石63,64の励磁量を制御することにより、粒子線の方向を当該レイヤーの最初のスポットspot1に偏向させる。この状態で照射が行われ、線量モニタ65により線量をカウントし、そのカウント値を線量モニタ65からノズル制御装置51に上げ線量が計測される。ノズル制御装置は、計測線量が中央制御装置から設定された1スポットあたりの目標線量に達すると、線量満了信号をスキャニング制御装置に出力し、スキャニング制御装置71は、粒子線を次のスポットspot2に変更させる。この動作を繰り返すことにより、最終スポットまで照射を行い、当該レイヤーの照射を終了する。その後、粒子線のエネルギーを所定の値に変更し、次のレイヤーの照射を行う。
【0083】
次に、スキャニング照射方針での治療シーケンスと照射制御装置の動作について、図12〜図14、及び図15(a),図15(b)のフローを用いて説明する。
【0084】
図12に示すように、照射制御装置35は、中央制御装置50,ノズル制御装置51,加速器制御装置53,輸送系制御装置54及びスキャニング制御装置71を備える。中央制御装置50は、ノズル制御装置51,加速器制御装置53,輸送系制御装置54及びスキャニング制御装置71に接続される。また、中央制御装置50は治療計画装置40に接続され、治療計画装置から送信される治療計画データを受信する。スキャニング制御装置71は、照射ノズル21内に設置されたスキャニング電磁石63,64の励磁電流を制御し、粒子線の照射位置を制御する。ヒューマシンインターフェイス端末(表示装置)32が中央制御装置50に接続される。
【0085】
図14に示すように、中央制御装置50は、処方箋データ受信部201,治療シーケンス進行管理処理部202,ノズル機器パラメータ検索処理部203,ノズル機器パラメータデータベース205,ノズル機器パラメータ送信部206,ノズルモニタデータ受信部207,加速器パラメータ検索処理部210,加速器・輸送系パラメータデータベース211,ビーム軌道補正処理部212,加速器パラメータデータ送信部213が備えられる。ノズル機器パラメータ送信部206及びノズルモニタデータ受信部207がスキャニング制御装置71に接続される。
【0086】
おいて、中央制御装置50は、これから治療を行う患者に関する治療計画データ(処方箋データ)を治療計画装置40から、処方箋データ受信部201で受け取ると、受信したデータを治療シーケンス進行管理処理部202に渡す。この処方箋データには、治療室や回転ガントリーの角度,全レイヤー数,全スポット数,各レイヤーの深さ(ビームエネルギー),レイヤーのスポット数,スポット毎の線量,スポット位置などの情報が含まれる(図15(a)F090)。
【0087】
治療シーケンス進行管理処理部202は、処方箋データをノズル機器パラメータ検索処理部203に渡す。ノズル機器パラメータ検索処理部203は、治療用に作成されたノズル機器パラメータデータベース205から検索し、ノズル制御装置に送信するデータを導出する。本実施例では、ノズル制御装置に送信されるパラメータとしては、ノズル内に設置されたプロファイルモニタやスポット位置モニタなどのビーム計測値に対する許容値や、スポット毎の線量,スポット位置などがある。また、スキャニング制御装置に送信されるパラメータとしては、スポット位置に対応したスキャニング電磁石の励磁量を制御するための電流値などがある(図15(a)F100)。
【0088】
ノズル機器パラメータ検索処理部203は、データベースから検索したパラメータをノズル機器パラメータ送信部206に渡し、ノズル制御装置51及びスキャニング制御装置71に送信する(図15(a)F110,F115)。
【0089】
この後、加速器パラメータの検索から加速器セットアップ完了までは,基本的に実施例1(パッシブ照射方式)の場合と同じであるが、以下の点が異なる。パッシブ照射方式の場合は、エネルギー1つのみの検索となるが、スキャニング照射方式の場合は、患部をレイヤーで分割してるため、深さ方向を決定するエネルギーの数がレイヤー数分となり、その数だけ、加速器・輸送系パラメータデータベース211を検索し、検索結果が加速器制御装置53、及び輸送系制御装置54に送信される。
【0090】
なお、加速器・輸送系パラメータデータベース211のデータベース構造については、図5と同じであるが、エネルギー数が増えるので事前に調整し登録される組数は当然ながら多くなる。
【0091】
加速器セットアップが完了すると、照射を開始する。各レイヤーでの全スポット分の照射が完了すると、ノズル制御装置51はビーム位置モニタ66で計測されたスポット位置実測データ(当該レイヤーのスポット全数分)とスキャニング電磁石63,64の上流にあるプロファイルモニタ62で計測した当該レイヤーのビーム位置(重心)X軸,Y軸分を中央制御装置50に送信する(図15(b)F150〜F160)。
【0092】
中央制御装置50は、処方箋のスポット位置データ(計画値)とスポット位置実測データの差分をX方向とY方向で計算する。これをスポット全数にて計算し、最後にそのレイヤーにおける差分の平均計算をX方向,Y方向それぞれで行う。(図15(b)F170)この計算結果は所望のビーム位置からどれくらいのずれがあるかを表している数値となる。
【0093】
これと同時に中央制御装置50は、ノズル制御装置51から受信したビーム位置と先に計算した差平均の値の2点をビーム軌道補正処理部212に渡し、そのデータからビーム軌道補正計算が実行され、ステアリング電磁石電流設定値の補正量を算出し、サーバ内に一時保存する(図15(b)F190)。
【0094】
以上の動作をレイヤー数分繰り返し行い、全ての照射が完了したところで、レイヤー数分の補正量が保持される。ビーム軌道補正処理部212は補正後のステアリング電磁石電流設定値を加速器・輸送系パラメータデータベース211の照射したレイヤーに対応したエネルギーの条件と同じ位置に上書き保存する。このデータベース更新はレイヤー数分繰り返し行われる(図15(b)F220)。
【0095】
以上のようにスキャニング照射方式でも治療用輸送系パラメータデータベースを自動的に更新する方式を適用することが可能である。
【0096】
なお、この実施例では実施例1と異なり、ビームチェック用照射を省略している。これは、スキャニング照射方式のビームをチェックする場合、レイヤー数即ちエネルギー数分のビームを照射してその結果をチェックする必要があるため、パッシブ照射方式に比べ、多くの時間がかかることが考慮してためであるが、時間的制約がないのであれば、実施例1と同じようにビームチェック用照射を治療シーケンスの中に含めても良い。
【符号の説明】
【0097】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 第1ビーム輸送系
3 第2ビーム輸送系
4 回転ガントリー
5 直線加速器
6 シンクロトロン
7 高周波印加装置
8 加速装置
9 高周波印加電極
10 高周波電源
11 開閉スイッチ
12 出射用デフレクタ
13 四極電磁石
14,19A,19B,19C 偏向電磁石
17A,17B,17C,17D,18A,18B,18C,18D ステアリング電磁石
21 照射ノズル
22 イオンビーム
23,62 プロファイルモニタ
24 第2散乱体
25 平坦度モニタ
26,65 線量モニタ
27 ノズルビームストッパー
30 患者
32 HMI端末(ヒューマンマシンインターフェイス端末)
35 照射制御装置
40 治療計画装置
50 中央制御装置
51 ノズル制御装置
53 加速器制御装置
54 輸送系制御装置
61 スキャニングノズル
63 スキャニング電磁石(X方向)
64 スキャニング電磁石(Y方向)
66 ビーム位置モニタ
81 患部
201 処方箋データ受信部
202 治療シーケンス進行管理処理部
203 ノズル機器パラメータ検索処理部
205 ノズル機器パラメータデータベース
206 ノズル機器パラメータ送信部
207 ノズルモニタデータ受信部
210 加速器パラメータ検索処理部
211 加速器・輸送系パラメータデータベース
212 ビーム軌道補正処理部
213 加速器パラメータデータ送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速する加速器と、
加速された前記荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、
前記加速器から出射した前記荷電粒子ビームを前記照射装置に輸送するビーム輸送系とを備え、
前記ビーム輸送系は、通過する前記荷電粒子ビームを偏向する電磁石を有し、
前記荷電粒子ビームのビーム軌道を補正するために前記電磁石へ励磁する補正励磁電流値を求めるビーム軌道補正処理装置と、
前記照射対象への前記荷電粒子ビームの照射が終了した後、前記電磁石への励磁電流値のデータを、前記補正励磁電流値に基づいて更新して記憶する記憶装置と、
前記記憶された前記励磁電流値に基づいて、前記電磁石の励磁電流を制御する制御装置とを備えることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
前記照射装置から前記荷電粒子ビームを照射する前に、前記ビーム軌道補正処理装置が、前記荷電粒子ビームのビーム軌道が許容範囲外にあると判断すると前記補正励磁電流値を求め、
前記記憶装置は、記憶されている励磁電流値のデータを、ここで求めた前記補正励磁電流値に基づいて更新して記憶することを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
ビーム照射の用途に応じて、ビーム軌道補正処理、及び輸送系パラメータデータベースの自動更新の実施有無を選択可能な構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
前記ビーム輸送系に設けられた電磁石のうちでもっとも下流側に設けられた電磁石よりも下流側で前記荷電粒子ビームの軌道に沿って配置され、前記荷電粒子ビームの通過位置を検出する第1ビーム位置検出器と、
前記第1ビーム位置検出器よりも下流側で前記軌道に沿って配置され、前記荷電粒子ビームの通過位置を検出する第2ビーム位置検出器を備え、
前記ビーム軌道補正処理装置は、
前記第1ビーム位置検出器及び前記第2ビーム位置検出器のそれぞれから出力される検出信号に基づいて、前記補正励磁電流値を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粒子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【公開番号】特開2011−5096(P2011−5096A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153184(P2009−153184)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】