説明

粒状セルロースアセテートアシレート及びその製造方法

【課題】 取扱性、濾過性、洗浄性、溶媒溶解性に優れる粒状のセルロースアセテートアシレートを効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法は、セルロースアセテートアシレートを含む溶液に該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒を逐次添加するか、またはセルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を冷却して、粒状のセルロースアセテートアシレートを析出させることを特徴とする。セルロースアセテートアシレートを含む溶液中の溶媒として、ピリジン及びアセトンから選択された少なくとも1種の溶媒を使用できる。セルロースアセテートアシレートの貧溶媒としては、炭素数1〜10のアルコールが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤、フィルム、光学異性体分離剤等の原材料等として有用な粒状セルロースアセテートアシレートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートの単離方法としては、セルロースアシレートのドープ(アシル化反応溶液等)を、該セルロースアシレートの貧溶媒、例えばメタノール中に投入して、セルロースアシレートを再沈殿する方法が一般的である。しかし、この方法では、得られるセルロースアシレートが繊維状となり、濾過性が悪い、乾燥後に浮遊しやすく取り扱いにくい、嵩密度が高く保管、運搬が不利である、製品を再溶解する際に継粉(ままこ)ができやすい等の問題が生じることが多い。
【0003】
一方、セルロースアシレートを造粒して粒状のセルロースアシレートを製造する方法がある。例えば、セルロースアシレートの溶液を噴霧乾燥したり、塊状のセルロースアシレートを適度な大きさに粉砕する方法などが知られている。しかし、これらの方法では、噴霧乾燥機やニーダー、造粒機等の特別な設備が必要となる。
【0004】
また、粒状のセルロースアシレートの製造法として、セルロースアシレートのエマルジョンの状態から有機溶媒を蒸発させて、セルロースアシレートを沈殿させ、沈殿したセルロースアシレートを濾過、乾燥する方法が知られている(特許文献1、2等)。しかし、この方法では、界面活性剤などの目的物以外の成分の添加が必要であるだけでなく、粒状のセルロースアシレートの乾燥に多大な時間とエネルギーを要する。
【0005】
【特許文献1】特許第2723616号公報
【特許文献2】特許第2783819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、取扱性、濾過性、洗浄性および溶媒溶解性に優れる粒状のセルロースアセテートアシレートを効率よく製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、適度な細孔容積、比表面積を有する粒状のセルロースアセテートアシレートを提供することにある。本発明のさらに他の目的は、さらに、粒度分布の狭い粒状のセルロースアセテートアシレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、セルロースアセテートアシレートを含む溶液を貧溶媒に投入するのではなく、セルロースアセテートアシレートを含む溶液に貧溶媒を逐次添加したり、あるいはセルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を冷却すると、適度な細孔容積、比表面積を有する粒状のセルロースアセテートアシレートが析出すること、及びこの粒状のセルロースアセテートアシレートはスキン層がなく、多孔質であり、取扱性、濾過性、洗浄性および溶媒溶解性に優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、セルロースアセテートアシレートを含む溶液に該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒を逐次添加するか、またはセルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を冷却して、粒状のセルロースアセテートアシレートを析出させることを特徴とする粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法を提供する。
【0009】
セルロースアセテートアシレートを含む溶液中の溶媒として、ピリジン及びアセトンから選択された少なくとも1種の溶媒を使用できる。セルロースアセテートアシレートの貧溶媒としては、炭素数1〜10のアルコールが好ましい。
【0010】
セルロースアセテートアシレートにはセルロースアセテートベンゾエートが含まれる。
【0011】
析出したセルロースアセテートアシレートを該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒によるリパルプ処理に付してもよい。
【0012】
前記製造方法では、細孔容積が0.01〜50ml/g、BET比表面積が0.001〜10m2/gである粒状セルロースアセテートアシレートを得ることができる。
【0013】
本発明は、また、細孔容積が0.01〜50ml/g、BET比表面積が0.001〜10m2/gである粒状セルロースアセテートアシレートを提供する。
【0014】
この粒状セルロースアセテートアシレートは、平均粒子径が10〜2000μmであり、且つ粒子径の変動係数が50%以下であるのが好ましい。前記セルロースアセテートアシレートにはセルロースアセテートベンゾエートが含まれる。
【0015】
なお、本明細書において、「晶析」及び「析出」は、結晶が析出する場合だけでなく、非晶質の固体が沈殿する場合も含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、適度な細孔容積、比表面積を有するセルロースアセテートアシレートを効率よく得ることができる。また、粒度分布の狭い粒状のセルロースアセテートアシレートを得ることができる。このセルロースアセテートアシレートは、顆粒状で、スキン層がなく、多孔質であり、硬くて崩れにくい上、細かい粒子が少なく粒度分布が狭いため、濾過等の固液分離操作を速やかに行うことができるとともに、洗浄が容易である。また、乾燥後に浮遊せず、粉塵の発生がないため、取扱性に著しく優れる。さらに、嵩密度が高いので、保管や運搬に有利である。また、溶媒溶解性に優れ、再溶解の際には、継粉(ままこ)、ダマができにくいという利点も有する。さらに、セルロースアセテートアシレートを含む溶液を貧溶媒に投入する従来の再沈殿法と比較して、溶媒の使用量を著しく低減できるという利点もある。さらにまた、造粒のための特別な設備(噴霧乾燥機、ニーダー、造粒機等)を必要とせず、普通の反応器により粒状セルロースアセテートアシレートの取得が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[粒状セルロースアセテートアシレートの製造]
本発明の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法において、セルロースアセテートアシレートとしては、セルロースのグルコース骨格の水酸基がアセチル基と他のアシル基とで置換されたセルロース混合アシレートであれば特に限定されない。アセチル基以外のアシル基としては、例えば、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基などの炭素数1〜10(好ましくは、炭素数1〜6)の脂肪族カルボン酸アシル基;ベンゾイル基、1−ナフチルカルボン酸アシル基、2−ナフチルカルボン酸アシル基などの、芳香環に置換基(例えば、ハロゲン原子、シアノ基、C1-12アルキル基、C1-12アルコキシ基、C6-20アリール基、C6-20アリールオキシ基、C1-20アシル基、炭素数1〜20の置換又は無置換カルバモイル基、炭素数1〜20のスルホン酸アミド基、C1-12アルコキシ−カルボニル基、C6-20アリールオキシ−カルボニル基、炭素数1〜20のウレイド基など)を有していてもよい芳香族カルボン酸アシル基;シクロヘキサンカルボン酸アシル基等の脂環式カルボン酸アシル基;フェニルアセチル基、シンナモイル基などの芳香脂肪族カルボン酸アシル基などが挙げられる。
【0018】
セルロースアセテートアシレートのアシル基総置換度は、例えば1.5〜3.0であり、好ましくは2.0〜3.0である。また、セルロースアセテートアシレートの重量平均分子量は、例えば50,000〜1000,000、好ましくは100,000〜500,000程度である。
【0019】
なお、セルロースアセテートアシレートのグルコース骨格の水酸基の一部はアシル基以外の置換基で置換されていてもよい。アシル基以外の置換基としては、メチル基、エチル基、ベンジル基等のセルロースエーテルを形成しうる炭素数1〜10程度の炭化水素基;メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基等のセルロースカーバメートを形成しうる炭素数2〜10程度の等の炭化水素基置換カルバモイル基などが挙げられる。セルロースアセテートアシレートのアシル基以外の置換基による置換度は、例えば0〜1.0、好ましくは0〜0.5、さらに好ましくは0である。
【0020】
セルロースアセテートアシレートの代表的な例として、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースアセテートp−メチルベンゾエート、セルロースアセテートm−メチルベンゾエート、セルロースアセテートp−クロロベンゾエート、セルロースアセテートm−クロロベンゾエート等のセルロースアセテート芳香族カルボン酸エステル(=セルロースアセテートアリレート);セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースアセテート脂肪族カルボン酸エステルなどが挙げられる。なかでも、セルロースアセテートベンゾエートなどのセルロースアセテート芳香族カルボン酸エステルが好ましい。
【0021】
セルロースアセテートアシレートを含む溶液(以下、「セルロースアセテートアシレート溶液」と称する場合がある)において、溶媒としては、セルロースアセテートアシレートを溶解しうる溶媒であればよく、例えば、ピリジンなどの含窒素複素環式化合物;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリフルオロトリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテートなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。これらのなかでも、ピリジン等の含窒素複素環式化合物、アセトン等のケトン、これらの混合溶媒、又はこれらを合計で50重量%以上(より好ましくは80重量%以上)含む溶媒などが特に好ましい。とりわけ、ピリジン、アセトン又はこれらの混合溶媒が好適である。
【0022】
セルロースアセテートアシレート溶液は、セルロースアセテートアシレート以外の物質を含んでいてもよい。セルロースアセテートアシレート溶液は、乾燥状態又は湿状態のセルロースアセテートアシレートを上記溶媒に溶解させたり、溶液状態のセルロースアセテートアシレートを前記溶媒で希釈することにより調製できる。セルロースアセテートアシレート溶液として、セルロースアセテートアシレートを合成した際の反応液、例えばアシル化反応液を使用することもできる。
【0023】
セルロースアセテートアシレート溶液におけるセルロースアセテートアシレートの濃度は、セルロースアセテートアシレートが溶解できる濃度であれば特に限定されないが、例えば1〜60重量%、好ましくは3〜40重量%である。セルロースアセテートアシレートの濃度が高すぎると溶液の粘度が高すぎて操作性が低下し、逆にセルロースアセテートアシレートの濃度が低すぎると生産効率が低下しやすくなる。
【0024】
セルロースアセテートアシレートの貧溶媒としては、セルロースアセテートアシレートの溶解度が極めて小さい溶媒であればよく、例えば、アルコール、水、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素などが挙げられる。貧溶媒は2種以上の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。上記の中でもアルコールが好ましい。アルコールとしては、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール等の何れであってもよく、また1価アルコール、2価アルコール、3価以上の多価アルコールの何れであってもよい。アルコールのなかでも、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノールなどの炭素数1〜10のアルコール(例えば、炭素数1〜10の脂肪族1価アルコール)が好ましく、とりわけ炭素数1〜5のアルコール(例えば、炭素数1〜5の脂肪族1価アルコール)が好ましい。特に好ましい貧溶媒はメタノール、イソプロピルアルコール又はこれらの混合溶媒である。
【0025】
本発明の方法の重要な特徴は、(1)セルロースアセテートアシレートを含む溶液に該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒を逐次添加するか、または(2)セルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を冷却して、粒状のセルロースアセテートアシレートを析出させる点にある。このような方法(以下、晶析と称する場合がある)を採用することにより、粒子が徐々に成長して適度な大きさにまで達するため、粒度分布の狭い顆粒状のセルロースアセテートアシレートが生成し、析出する。なお、従来の再沈殿法(セルロースエステルのドープを貧溶媒に投入する方法)では、かさ密度の小さい繊維状のセルロースアセテートアシレートしか得られない。本発明の方法においては、上記(2)の態様がより好ましい。
【0026】
セルロースアセテートアシレートの貧溶媒の使用量は、セルロースアセテートアシレート溶液中のセルロースアセテートアシレートが充分に析出する量であればよく、前記溶液中の溶媒の種類や該溶液のセルロースアセテートアシレート濃度、添加する貧溶媒の種類、混合液の温度などにより異なるが、一般には、セルロースアセテートアシレート溶液100重量部に対して、10〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは100〜300重量部程度である。貧溶媒の量が少なすぎると、粒状セルロースアセテートアシレートの収量が低下しやすくなり、逆に貧溶媒の量が多すぎると、経済的にも不利になる。
【0027】
上記(1)の態様において、貧溶媒をセルロースアセテートアシレート溶液に逐次添加する際のセルロースアセテートアシレート溶液の温度は、溶媒の沸点以下の温度範囲、例えば0〜70℃、好ましくは5〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃程度である。貧溶媒の添加は、間欠的であっても連続的であってもよい。貧溶媒の添加時間は、例えば5分〜12時間、好ましくは10分〜10時間、さらに好ましくは15分〜5時間である。
【0028】
上記(2)の態様においては、セルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との加温した混合溶液を徐々に冷却するのが好ましい。前記加温した混合溶液の温度は、室温より高く溶媒の沸点以下の温度範囲、例えば20〜100℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは45〜80℃程度である。冷却の最終温度は、例えば−20℃〜50℃、好ましくは0℃〜40℃である。冷却速度は、例えば0.01〜10℃/分、好ましくは0.05〜3℃/分である。冷却速度が速いと粒径が小さくなり、冷却速度が遅いと粒径が大きくなる傾向となる。なお、冷却の途中や冷却後に、必要に応じて、貧溶媒をさらに添加してもよい。
【0029】
上記(1)の態様においてセルロースアセテートアシレート溶液に添加する貧溶媒、および上記(2)の態様においてセルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を調製する際に用いる貧溶媒や、上記(2)の態様において混合液の冷却時又は冷却後に添加する貧溶媒には、温度調整したものを使用するのが好ましい。温度調整した貧溶媒を用いると、特にスケールアップ時におけるスケーリング等の不具合の発生を防止できる。この場合の貧溶媒の温度としては、何れも、貧溶媒の沸点以下であって、上記態様に応じて接触させるセルロースアセテートアシレート溶液と同程度の温度であり、例えば、該セルロースアセテートアシレート溶液との温度差は、0〜70℃、好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは0〜10℃である。スケーリングを抑制する観点からは、添加する貧溶媒は、セルロースアセテートアシレートを含む溶液と同程度以上に加温するのが望ましい。
【0030】
また、上記セルロースアセテートアシレートの晶析操作においては、析出した粒子同士の融着や粒子の器壁等への付着を防止するため、セルロースアセテートアシレートを含む混合液を撹拌しながらセルロースアセテートアシレートを析出させるのが好ましい。この場合の撹拌速度は、例えば1〜1000rpm、好ましくは5〜500rpmである。また、撹拌速度により、析出するセルロースアセテートアシレートの粒径を制御することもでき、撹拌速度が速いと粒径が小さくなり、撹拌速度が遅いと粒径が大きくなる傾向となる。
【0031】
上記の晶析操作により粒状のセルロースアセテートアシレートが析出する。析出したセルロースアセテートアシレートは、濾過、遠心分離等の固液分離操作に付し、好ましくは貧溶媒でリンスし、乾燥することにより粒状物として単離できる。
【0032】
固液分離により得た湿状態又は乾燥状態の粒状セルロースアセテートアシレートに対しては、貧溶媒によるリパルプ処理(固液抽出)を施してもよい。リパルプ処理を施すことにより、セルロースアセテートアシレート中に含まれている反応溶媒や反応副生成物、原料由来の不純物等を効率よく、低減、除去できるので、溶媒への再溶解、再沈殿を繰り返して精製する従来の方法と比較して、少ない溶媒量で高純度の粒状セルロースアセテートアシレートを効率よく製造できる。また、リパルプ処理を施すことにより、乾燥後のセルロースアセテートアシレート粒子表面が硬くなったり、セルロースアセテートアシレート粒子同士が融着して、例えば光学フィルム用溶媒などに溶解しにくいという問題が生じるのを防止することができる。また、リパルプ処理時の温度条件を調整することにより、セルロースアセテートアシレート中のヘミセルロースの含有量を制御することができる。
【0033】
前記リンスやリパルプに用いる貧溶媒としては、前記セルロースアセテートアシレートの晶析に用いる貧溶媒と同様の溶媒を使用できる。なかでも、貧溶媒として、炭素数1〜5のアルコール(炭素数1〜5の脂肪族1価アルコール等)が好ましく、特に、メタノール、イソプロピルアルコール又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0034】
リンスやリパルプに用いる貧溶媒の量は、不純物濃度が必要とされる程度に低減できる量であれば特に限定されないが、処理に付すセルロースアセテートアシレート100重量部に対して、例えば10〜5000重量部、好ましくは100〜3000重量部程度である。また、必要に応じて、リンスやリパルプ操作を繰り返してもよい。
【0035】
[粒状セルロースアセテートアシレート]
上記本発明の製造方法により、適度な細孔容積、比表面積を有するセルロースアセテートアシレートを効率よく得ることができる。また、細かい粒子が少なく粒度分布の狭い顆粒状のセルロースアセテートアシレートが得られる。得られる粒状セルロースアセテートアシレートの細孔容積は、例えば0.01〜50ml/g、好ましくは0.05〜10ml/gの範囲であり、BET比表面積は、例えば0.001〜10m2/g(例えば0.01〜10m2/g)、好ましくは0.01〜5m2/gの範囲である。かさ密度は、例えば0.15〜0.50g/mlの範囲である。また、平均粒子径は、例えば10〜2000μm(特に100〜2000μm)であり、粒子径の変動係数は、例えば50%以下、好ましくは40%以下である。また、このような粒状セルロースアセテートアシレートによれば、製品の飛散、粉塵の発生が少なく、取扱性に優れるとともに、作業環境を汚染しないという大きな利点が得られる。また、製品を溶媒に溶解させる際に、継粉(ままこ)、ダマになりにくく、速やかに溶解するという利点もある。
【0036】
粒状セルロースアセテートアシレートの平均粒子径、粒度分布、細孔容積、比表面積は、例えば、用いる貧溶媒の種類や量、析出時の冷却速度や撹拌速度等により制御できる。
【0037】
本発明の粒状セルロースアセテートアシレートは、吸着剤、フィルム、光学異性体分離剤等の原材料等として使用できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、顆粒状のセルロースアセテートアシレートの平均粒子径は、日本工業規格 化学製品のふるい分け試験方法(JIS K 0069)により測定した。また、顆粒状のセルロースアセテートアシレートの細孔容積は水銀圧入法により、比表面積は水銀圧入法及びBET法により測定した。
【0039】
実施例1
セルロースアセテートベンゾエート(アセチル基置換度:2.45、ベンゾイル基置換度:0.55、重量平均分子量17.5万)10gに、ピリジン90gを加え、40℃に加温して完全に溶解させた。この溶液を150rpmで撹拌しながら、メタノール200gを2時間かけて滴下し、目的物を顆粒状に析出させた。この時、撹拌軸に糸状の析出物が絡みついた。滴下終了後、さらに30分以上撹拌したのち、10℃まで冷却して固体を濾過し、メタノールで2回リンスした。得られた固体を60℃で3時間、真空乾燥し、顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートを得た。回収率は90%であった。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は580μm、目開き1000μmのふるいを通過し且つ目開き250μmのふるいを通過しない顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの全体に対する割合は95.7%、粒子径の変動係数は25%、水銀圧入法による細孔容積は0.24ml/g、比表面積は41.6m2/g、BET比表面積は0.89m2/g、かさ密度は0.18g/mlであった。
【0040】
実施例2
セルロースアセテートベンゾエート(アセチル基置換度:2.45、ベンゾイル基置換度:0.55、重量平均分子量17.5万)10gに、ピリジン90gを加え、60℃に加温して完全に溶解させた。この溶液を150rpmで撹拌し、60℃を保ちながら、メタノール180gを加え、均一な溶液を得た。この溶液を5時間かけて10℃まで冷却して目的物を顆粒状に析出させた。このスラリーに10℃でメタノール20g加え、同温度で30分以上撹拌した後、析出した固体を濾過し、メタノールで2回リンスした。得られた固体を60℃で3時間、真空乾燥し、顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートを得た。回収率は96%であった。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は740μm、目開き2000μmのふるいを通過し且つ目開き500μmのふるいを通過しない顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの全体に対する割合は89.6%、粒子径の変動係数は29%、水銀圧入法による細孔容積は0.29ml/g、比表面積は42.0m2/g、BET比表面積は1.14m2/g、かさ密度は0.28g/mlであった。
【0041】
実施例3
撹拌の回転数を300rpmとした以外は、実施例2と同様の操作を行い、顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートを得た。回収率は95%であった。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は284μm、目開き500μmのふるいを通過し且つ目開き150μmのふるいを通過しない顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの全体に対する割合は93.8%、粒子径の変動係数は23%、水銀圧入法による細孔容積は0.16ml/g、比表面積は41.0m2/g、BET比表面積は0.075m2/g、かさ密度は0.39g/mlであった。
【0042】
実施例4
セルロースアセテートベンゾエート(アセチル基置換度:2.45、ベンゾイル基置換度:0.55、重量平均分子量17.5万)の湿粉(セルロースアセテートベンゾエート50重量%、メタノール48重量%、ピリジン2重量%、安息香酸及び安息香酸メチルをそれぞれ微量含む)20gに、ピリジン90gを加え、60℃に加温して完全に溶解させた。この溶液を150rpmで撹拌し、60℃を保ちながら、メタノール170gを加え、均一な溶液を得た。この溶液を同回転数で撹拌しながら、5時間かけて10℃まで冷却して目的物を顆粒状に析出させた。このスラリーに10℃でメタノール20g加え、同温度で30分以上撹拌した後、析出した固体を濾過し、メタノールで2回リンスした。得られた固体を60℃で3時間、真空乾燥し、顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートを得た。回収率は97%であった。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は843μm、目開き1400μmのふるいを通過し且つ目開き500μmのふるいを通過しない顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの全体に対する割合は93.1%、粒子径の変動係数は28%、水銀圧入法による細孔容積は0.32ml/g、比表面積は42.2m2/g、BET比表面積は1.30m2/g、かさ密度は0.27g/mlであった。
【0043】
実施例5
酢酸セルロース(アセチル基置換度:2.45、重量平均分子量13.5万)13.0gをピリジン117gに溶解し、室温で塩化ベンゾイル6.7gを滴下した。滴下終了後、60℃で5時間反応させた。
得られた反応液を150rpmで撹拌し、60℃に保ちながら、メタノール246gを加え、均一な溶液を得た。この溶液を同回転数で撹拌しながら、5時間かけて10℃まで冷却して目的物を顆粒状に析出させた。このスラリーに10℃でメタノール27.3gを加え、同温度で30分以上撹拌した後、析出した固体を濾過し、メタノール27gで2回リンスした。得られた固体にメタノール270gを加えて40℃で1時間撹拌した後、固体を濾過し、メタノール27gでリンスした。このリパルプ及びリンス操作をもう1回繰り返し、得られた固体を60℃で3時間、真空乾燥し、顆粒状のセルロースアセテートベンゾエート13.0gを得た。回収率は85%であった。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は155μm、目開き250μmのふるいを通過し且つ目開き75μmのふるいを通過しない顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの全体に対する割合は99.8%、粒子径の変動係数は19%、水銀圧入法による細孔容積は0.12ml/g、比表面積は40.7m2/g、BET比表面積は0.043m2/g、かさ密度は0.42g/mlであった。また、不純物含量はそれぞれ次の通りであった。ピリジン:41重量ppm、安息香酸:検出されず、安息香酸メチル:4重量ppm。得られた顆粒状のセルロースアセテートベンゾエートの写真及び顕微鏡写真(倍率100倍)をそれぞれ図1及び図3に示す。
【0044】
比較例1
セルロースアセテートベンゾエート(アセチル基置換度:2.45、ベンゾイル基置換度:0.55、重量平均分子量17.5万)10gに、塩化メチレン362g、ヘプタノール16gを加え、完全に溶解させた。得られた溶液を、400rpmで撹拌されている0.75重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液300gに室温で滴下した。同速度の撹拌下において、塩化メチレンを40〜42℃において蒸発させることによって除去した。残渣を濾過によって単離し、水及びエタノールで洗浄した。生成物を減圧乾燥器中、80℃で20時間乾燥させ、粉末状のセルロースアセテートベンゾエート4.6gを得た(回収率92%)。篩別によって微細凝集物を除去し、ほぼ球状のセルロースアセテートベンゾエート粒子を得た。回収率は67%であった。得られた球状のセルロースアセテートベンゾエートの平均粒子径は35μm、目開き53μmのふるいを通過し且つ目開き20μmのふるいを通過しない球状のセルロースアセテートベンゾエートの微細凝集物除去後の粒子全体に対する割合(重量基準)は99.7%、粒子径の変動係数は20%、BET比表面積は47.6m2/g、かさ密度は0.43g/mlであった。
【0045】
比較例2
酢酸セルロース(アセチル基置換度:2.45、重量平均分子量13.5万)13.0gをピリジン117gに溶解し、室温で塩化ベンゾイル6.7gを滴下した。滴下終了後、60℃で5時間反応させた。
撹拌下にあるメタノール500gに上述の反応液を加え、析出した固体を濾過し、メタノール50gで2回リンスした。得られた固体をアセトン110gに溶解し、この溶液を撹拌下にあるメタノール500gに加えて析出した固体を濾過し、メタノール50gで1回リンスした。この操作をさらに2回繰り返したのち、得られた固体を60℃で12時間、真空乾燥し、繊維状のセルロースアセテートベンゾエート13.2gを得た。回収率は86%であった。得られた繊維状のセルロースアセテートベンゾエートのかさ密度は0.10g/mlであった。また、不純物含量はそれぞれ次の通りであった。ピリジン:43重量ppm、安息香酸:13重量ppm、安息香酸メチル:11重量ppm。得られた繊維状のセルロースアセテートベンゾエートの写真及び顕微鏡写真(倍率50倍)をそれぞれ図2及び図4に示す。
【0046】
評価試験
実施例1〜5および比較例1〜2においてセルロースアセテートベンゾエートを析出させた際の、析出物の撹拌軸への付着の有無を観察した。さらに、実施例1〜5および比較例1〜2で得られた各セルロースアセテートベンゾエート1gをジクロロメタン9gに溶解させ、ままこ(継粉)の発生状況を確認した。ままこの発生がないものを○、ままこが僅かに発生したものを△、ままこが多く発生したものを×とした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例5で得られた顆粒状セルロースアセテートベンゾエートの写真である。
【図2】比較例2で得られた繊維状セルロースアセテートベンゾエートの写真である。
【図3】実施例5で得られた顆粒状セルロースアセテートベンゾエートの顕微鏡写真である。
【図4】比較例2で得られた繊維状セルロースアセテートベンゾエートの顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアセテートアシレートを含む溶液に該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒を逐次添加するか、またはセルロースアセテートアシレートを含む溶液と該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒との混合溶液を冷却して、粒状のセルロースアセテートアシレートを析出させることを特徴とする粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項2】
セルロースアセテートアシレートを含む溶液中の溶媒が、ピリジン及びアセトンから選択された少なくとも1種の溶媒である請求項1記載の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項3】
セルロースアセテートアシレートの貧溶媒が炭素数1〜10のアルコールである請求項1又は2記載の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項4】
セルロースアセテートアシレートがセルロースアセテートベンゾエートである請求項1〜3の何れかの項に記載の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項5】
析出したセルロースアセテートアシレートを該セルロースアセテートアシレートの貧溶媒によるリパルプ処理に付す請求項1〜4の何れかの項に記載の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項6】
細孔容積が0.01〜50ml/g、BET比表面積が0.001〜10m2/gである粒状セルロースアセテートアシレートを得る請求項1〜5の何れかの項に記載の粒状セルロースアセテートアシレートの製造方法。
【請求項7】
細孔容積が0.01〜50ml/g、BET比表面積が0.001〜10m2/gである粒状セルロースアセテートアシレート。
【請求項8】
平均粒子径が10〜2000μmであり、且つ粒子径の変動係数が50%以下である請求項7記載の粒状セルロースアセテートアシレート。
【請求項9】
セルロースアセテートアシレートがセルロースアセテートベンゾエートである請求項7又は8記載の粒状セルロースアセテートアシレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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