説明

粗酸化亜鉛粉末から塩素を除去する方法

【課題】製鋼工程で回収された粗酸化亜鉛粉末を安価な亜鉛製錬原料として有効活用できるよう、初期投資及びランニングコスト負担の少ない脱塩素工程を提供する。
【解決手段】粗酸化亜鉛粉末中の水溶性塩化物を水抽出処理するとともに、処理中のスラリーを難水溶性の塩基性ハロゲン化亜鉛であるサイモンコライトの発生が顕著となる前に濾別することによって残渣内への塩素の混入を最低限に抑制し、処理に要する時間を短縮すると同時に塩基性塩化亜鉛の分解に必要とされていた強アルカリ薬品の使用を不要とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、主に製鋼煙灰等を原料として製造される粗酸化亜鉛粉末から塩素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から生産活動に付随して発生してくる有価金属が多々あり廃棄処理されるケースも多かったが、現在はこれらを回収して再利用するというシステムが一般化されてきている。例えば、鉄くずを電気炉にて溶解して鋼を生産する工程では製鋼煙灰が発生し、この中には有価成分である亜鉛や鉛が含まれている。そのうち、亜鉛については還元揮発法などの手法により粗酸化亜鉛粉末として回収されている。
【0003】
しかしながら、この粗酸化亜鉛粉末中にはフッ素、塩素などのハロゲン元素が多く含まれている。電解採取により金属亜鉛を得る湿式亜鉛製錬工程に於いてはこれらハロゲン元素のうち特にフッ素が電解液中に或るレベル以上存在しているとカソード板として使用しているアルミニウム金属表面を浸食し、結果としてアルミニウム板から電着した亜鉛を剥ぎ取る操作が困難になる(この現象を示したカソード板を密着板という)という極めて有害な作用を及ぼすことが知られている。一般的な湿式亜鉛製錬の電解採取工程では所定の亜鉛量がカソード板に電着したところで電解槽から引き上げて自動機械で亜鉛板を剥ぎ取り、カソード板はすぐに工程に再投入されるという自動システムを採用しているところが多く、密着板の発生は工程の運営を大きくディスターブし、採算悪化の要因になりうるのである。
【0004】
また、他のハロゲン元素特に塩素も含有量の多い元素であり、塩素含有量が高いと以下のような悪影響がある。i)亜鉛電解採取時の鉛板(アノード)を腐食させ、その寿命を短命化するとともに、カソードに析出する亜鉛の鉛品位が高くなり亜鉛純度が低下する傾向が高くなる。ii)電解溶液中の塩素濃度が高くなると、ポンプ、配管等に用いるステンレス等の腐食を促進するため好ましくない。iii)乾式製錬においては、低融点塩素化合物が煙道に堆積しガスの流れを阻害するため煙道等のクリーニング頻度が高くなり、管理コストが上昇する。従って、特許文献1の如き塩素除去方法が開示されている。
【0005】
脱ハロゲン元素の手法として特許文献2にはフッ素を含有した亜鉛原料を一般的な原料である焼鉱と同様に硫酸浸出により処理する方法が開示されている。この方法で採用されている脱フッ素処理手法はカルシウムとフッ素を反応させて難水溶性のフッ化カルシウムとして濾別除去するものであり、この方法では塩素の除去を目的とした場合には大きな効果を期待することはできないのである。
【0006】
また、特許文献3および特許文献4には粗酸化亜鉛粉末を洗浄して脱ハロゲン元素を達成するとした方法が提案されているが、脱フッ素を主目的としているためにいずれの方法でも粗酸化亜鉛粉末に水とNaOHやNaCOなどの強アルカリを添加して高アルカリ(pH:9〜13)のスラリー状態に保持(特許文献2では略2時間)して洗浄後、濾別する工程となっている。
【0007】
これらの手法を実際の処理工程として採用した場合には脱塩素の目的も達成できるのであるが、高アルカリ状態を維持する必要があるために苛性ソーダを代表とする強アルカリ薬品の大量使用が必須でありコストの増大を招くという結果になっている。すなわち、本来目指してきた安価な亜鉛製錬用原料として採用するという目的には不満が残る結果とならざるを得ないのが現実である。
【0008】
そして、粗酸化亜鉛粉末からの塩素除去方法に限定した場合、従来の湿式亜鉛製錬業界における認識では、粗酸化亜鉛粉末を水洗処理して水溶性の塩化亜鉛などの塩化物を抽出し、抽出液を中和することで塩素を除去でき、亜鉛はZn(OH)として回収できるとしていたのである。このときの化学反応は、化1として示した反応と考えていた。
【0009】
【化1】

【0010】
【特許文献1】特開2005−213527号公報
【特許文献2】特開平7−316679号公報
【特許文献3】特開2000−128530号公報
【特許文献4】特開2002−332529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、主に製鋼工程で回収された粗酸化亜鉛等は、安価な亜鉛製錬原料として有効活用する試みが図られてきたが、フッ素含有量の少ない粗酸化亜鉛を対象とした場合やフッ素含有を問題とする必要のない乾式製錬用原料として検討した場合でも塩素単独の除去に関しては十分な効果を得られる方法がないためにフッ素除去に必要な脱ハロゲン用処理工程を採用しているのである。結果として、取り扱いが容易な不純物構成の粗酸化亜鉛粉末であっても脱ハロゲン工程にかかるコスト負担は変わらず、当初期待された通りの十分に魅力ある原料になっているとは言い難かったのである。
【0012】
したがって、亜鉛製錬原料として使用可能な粗酸化亜鉛粉末を、できれば流通の容易な粉末状態のままで、必要とされる低ハロゲン(特に塩素)含有量を達成しつつ、且つ低コストで生産できる方法が希求されていたのである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明者等は鋭意研究の結果、水洗処理による脱塩素処理を施された粗酸化亜鉛粉末中の塩素含有量が一般的な反応式から推測される含有量に比べて高いことに着目し、その原因を解明したのである。すなわち、溶液中に塩素が酸化亜鉛と共存していると、難水溶性の塩基性塩化亜鉛であるサイモンコライト(Simonkolleite)を含む塩基性塩が生成してしまうことを見いだした。したがって、一般的に実施されている水洗による塩素除去工程ではサイモンコライトを含む塩基性塩が生成してしまっており、塩素含有量を低下させるためにはアルカリ処理を実施してサイモンコライトを含む塩基性塩を再分解する必要がでてしまい、結果として脱フッ素工程と同様の高アルカリ状態を維持することを必須とされていたのである。よってこれが粗酸化亜鉛粉末の素性によらず過剰の強アルカリ薬品量が必要とされることになる原因であると結論づけたのである。
【0014】
この塩基性塩化亜鉛であるサイモンコライトの生成機構について本件発明者が考察した反応形態は、化2に示す如くである。
【0015】
【化2】

【0016】
すなわち、本来のプロセスが目的としているZn(OH)のみを形成させようという意図に反して塩基性塩化亜鉛であるサイモンコライト(Zn(OH)Cl・HO)を含む塩基性塩が形成されてしまうと、塩基性塩化亜鉛を再分解してZn(OH)が生成する方向に化学反応の平衡をずらすためには多量の強アルカリ薬品の添加が必要となるのである。この現象を突き止めることにより、本件発明者等は、化3として示した本来あるべき化学反応系を推考し、該処理工程の簡略化と管理を容易にして所期の目的である脱塩素を容易に達成できる方法を見いだしたのである。
【0017】
【化3】

【0018】
以下、本件発明に係る粗酸化亜鉛粉末から塩素を除去して精製するための方法及び該方法から得られた粗酸化亜鉛粉末について述べる。
【0019】
本件発明は粗酸化亜鉛粉末から塩素を分離する精製方法であって、以下に示す工程a及び工程bを含むことを特徴とした粗酸化亜鉛粉末の精製方法を提供する。
a:塩素を含有する粗酸化亜鉛粉末を水と混合してスラリー状とし、その後サイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著となる前に濾別して粗酸化亜鉛残渣と抽出液に分離する水抽出工程。
b:工程aから得られた抽出液を中和処理後濾別して、水酸化亜鉛含有残渣と廃液に分離する中和処理工程。
【0020】
そして、前記工程aに記載の水抽出工程においては、粗酸化亜鉛粉末を水と混合してスラリー状とした後に抽出液中の亜鉛イオン濃度が一旦最大値を示し、その後最大値の90%の値まで低下していないことをサイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著となっていないことの指標とすることも好ましい。
【0021】
そして、前記工程bに記載の中和処理工程においては、添加する薬品としてCa(OH)又はCaCOを使用することも好ましい。
【0022】
更に、前記工程bに記載の中和処理工程においては、添加するCa(OH)量を抽出液中のZn量に対してモル比1.2以上とすることもより好ましい。ここで言うモル比とは添加するCa(OH)量(mol/l)を抽出中のZn量(mol/l)で除した値である。
【0023】
また、前記工程bに記載の中和処理工程においては、添加するCaCO量を抽出液中のZn量に対してモル比2.4以上とすることもより好ましい。ここで言うモル比とは添加するCaCO量(mol/l)を抽出中のZn量(mol/l)で除した値である。
【0024】
そして、工程aから得られた粗酸化亜鉛残渣をアルカリ領域でスラリー化した後濾別して、精製粗酸化亜鉛粉末と廃液とに分離するアルカリ抽出工程を追加することも好ましい。
【0025】
また、前記アルカリ抽出工程においては、工程aから得られた粗酸化亜鉛残渣に工程bから得られた水酸化亜鉛含有残渣を加えてからアルカリ処理することもより好ましい。
【0026】
本件発明は、上記の方法で精製された低塩素品位の粗酸化亜鉛粉末を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本件発明に係る粗酸化亜鉛粉末からの脱塩素処理工程は、水溶性塩素化合物を水抽出工程で抽出するというプロセスである。さらに、粗酸化亜鉛粉末の水抽出時間を難水溶性である塩基性塩化亜鉛であるサイモンコライトを含む塩基性塩の生成量が微量である間に限定することにより精製粗酸化亜鉛粉末中に残留する塩素を低減可能としている。したがって、残留塩素量の低減のみならず処理に必要とされる時間が短縮でき、同時に従来サイモンコライトを含む塩基性塩の分解に必要であった強アルカリ薬品も使用する必要が無くなるのである。このようにして本件発明に係る発明によれば低塩素品位の精製された粗酸化亜鉛粉末を低コストで提供できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施の形態と実施例とを通じて、本件発明をより詳細に説明する。
〔発明の実施の形態〕
【0029】
本件発明は、粗酸化亜鉛粉末から塩素を分離する精製方法であって、以下に示す工程a及び工程bを含むことを特徴とした粗酸化亜鉛粉末の精製方法を提供する。
【0030】
a:塩素を含有する粗酸化亜鉛粉末を水と混合してスラリー状とし、その後サイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著となる前に濾別して粗酸化亜鉛残渣と抽出液に分離する水抽出工程。
b:工程aから得られた抽出液を中和処理後濾別して、水酸化亜鉛含有残渣と廃液に分離する中和処理工程。
【0031】
このプロセス構成は、粗酸化亜鉛粉末から除去しようとする不純物である塩素化合物を易水溶性の形態を維持して抽出液側に分離する故に、短時間で効率よく塩素を除去し亜鉛を回収できるものとなっているのである。
【0032】
具体的には、この工程aの水抽出工程では、水溶性の亜鉛などのハロゲン化物を可能な限り抽出し、粗酸化亜鉛粉末中の塩素品位を低下させて濾別するのである。しかしながら、水抽出工程でのスラリー化時間を長く取りすぎると液中に難水溶性の塩基性塩化亜鉛であるサイモンコライトを含む塩基性塩が生成してしまい、塩素が残渣中に再び取り込まれてしまうのである。本件発明者等の解明した、酸化亜鉛を含むスラリー中におけるサイモンコライトの生成反応によればサイモンコライトの生成に伴って抽出液中の亜鉛イオンは消費されてゆくので、スラリー状とした後抽出液中の亜鉛イオン濃度が一旦最大値を示し、その後最大値の90%の値まで低下していないことをサイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著ではないことの指標とすることが好ましいのである。その結果残渣中の塩基性塩化亜鉛増加を防止できることになり、従来法に比較して効率的な粗酸化亜鉛粉末中の脱塩素処理とできるのである。
【0033】
次に、工程bの抽出液の中和処理工程においては、添加する薬品としてCa(OH)又はCaCOを使用することが好ましいのである。この抽出液の中和処理工程とはpH調整により亜鉛を水酸化亜鉛として回収する工程であり、この手法自体の考え方は粗酸化亜鉛粉末をアルカリ処理した後亜鉛をZn(OH)として回収する従来技術と何ら変わるものではない。しかし、残渣中のハロゲン元素を溶出させることを目的とせず亜鉛の回収のみを目的とする場合には、水酸化亜鉛がアルカリ側で再溶解してしまう下限pHである10.5付近を越えない範囲にすれば良く、強アルカリ使用の必要性が無い。したがって、コスト重視の観点からCa(OH)又はCaCOを使用することが好ましいのである。
【0034】
更に、工程bに記載の中和処理工程において、添加する薬品をCa(OH)とした場合には抽出液中のZn量に対してモル比(〔Ca(OH)(mol/l)〕÷〔Zn(mol/l)〕)が1.2以上、CaCOとした場合には抽出液中のZn量に対してモル比(〔CaCO(mol/l)〕÷〔Zn(mol/l)〕)が2.4以上とすることもより好ましいのである。この添加量は水酸化亜鉛が形成されるpH領域に調整できる量であり、薬品を若干過剰気味に添加したとしてもpHが10.5を超えることがなく好ましいのである。
【0035】
そして、アルカリ抽出工程で工程aから得られた粗酸化亜鉛残渣をアルカリ領域でスラリー化した後濾別して、精製粗酸化亜鉛粉末と廃液とに分離することも好ましい。この工程では粗酸化亜鉛粉末中に含まれる難水溶性のフッ化物などのハロゲン化物をアルカリ抽出し、粗酸化亜鉛粉末中のトータルハロゲン元素品位を低下させて濾別するのである。したがって、ごく微量ながら生成してしまったサイモンコライトを含む塩基性塩を分解する効果もあることから好ましいのである。
【0036】
また、アルカリ抽出工程において、工程aから得られた粗酸化亜鉛残渣に工程bから得られた水酸化亜鉛含有残渣を加えてからアルカリ処理することもより好ましいのである。この工程は残渣に含まれるハロゲン元素を除去する工程であるため、抽出液の中和処理工程でCaFが生成して水酸化亜鉛含有残渣に含有されてしまっていても脱フッ素処理がなされることになるのである。
【0037】
さらに、アルカリ抽出工程においては必要に応じて、NaCOを使用することも推奨される。NaCOの添加は粗酸化亜鉛粉末に共存することの多い鉛のハロゲン化合物を分解してハロゲン成分を抽出することを目的としているのである。
【0038】
そして、本件発明は上記の方法で精製された低塩素品位の粗酸化亜鉛粉末を提供している。上記方法により得られた精製粗酸化亜鉛粉末は、難水溶性化合物である塩基性塩化亜鉛の生成を防止するプロセスとした脱塩素処理工程によったものであり、抽出処理に要する時間を短縮したものとなっており、そして、脱塩素に目的を特化した場合には強アルカリを必要とないため精製コストが大幅に低減されるのである。
【実施例】
【0039】
脱塩素処理対象とする粗酸化亜鉛末粉末200gを準備し、本件発明に係る主要成分であるZn,F及びClと、一般的に含有されることの多いPb,Ca,K及びNaについてその含有量を分析し、(Zn/F/Cl/Pb/Ca/K/Na/水分:109.6/0.7/22.4/14.2/0.36/10.6/4.6/0.0各g)の結果を得た。
【0040】
〔水抽出試検〕
予察試検として対象とする粗酸化亜鉛粉末からの易水溶性成分の抽出試検を実施した。
試検ではこの粗酸化亜鉛粉末400gを1.0lの純水でスラリー化し、26.1℃で攪拌しながら抽出液中の亜鉛イオン濃度の経時変化を測定した。その結果、被検粗酸化亜鉛末については水抽出開始後5分で抽出液中の亜鉛濃度が一旦最大となり、その後亜鉛濃度が低下し始め、16分を経過したところで抽出液中の亜鉛濃度が最大値の90%となることが確認できた。得られた亜鉛濃度の経時推移データを表1及び図1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
〔脱ハロゲン元素試検〕
本件発明は脱ハロゲン元素処理工程の一部(前処理工程)として適用可能であると考え、脱ハロゲン元素試験として実施した。実施に当たっては、上記水抽出試験の結果からこの試料に対する最適な水抽出時間を5分と設定した。具体的な処理工程は図2に示すフローで実施した。
【0043】
(水抽出工程)
この粗酸化亜鉛粉末200gを0.5lの純水でスラリー化し、26℃5分間攪拌後吸引濾過を実施し、得られた粗酸化亜鉛残渣は更に0.5lの純水でスラリー化し、26℃5分間攪拌後吸引濾過を実施した。2度目の濾別により得られた粗酸化亜鉛残渣量は256gであり、抽出液量は合計0.9lであった。そして粗酸化亜鉛残渣の組成は(Zn/F/Cl:65.0/0.40/2.2各dry−wt%)であり水分は40.2%であった。また、抽出液の組成は(Zn/F/Cl:9.3/0.04/17.4各g/l)であった。ここに示した粗酸化亜鉛残渣中の構成成分組成は、濾別して得られた残渣を乾燥後分析して得られた各成分の重量%を示していることから、単位をdry−wt%と表記している(以降同様)。
【0044】
(抽出液の中和処理工程)
上記抽出液0.9lに水酸化カルシウム12.6gを添加し、30分間攪拌し、反応させた。このときの液温は27℃であり、pHは10.4であった。その後濾別して残渣64.1gと廃液0.9lを得た。水酸化亜鉛含有残渣の組成は(Zn/F/Cl:55.3/0.14/0.6各dry−wt%)であり水分は75.1%であった。また、廃液の組成は(Zn/F/Cl:0.0/0.01/15.5各g/l)であった。
【0045】
(粗酸化亜鉛残渣のアルカリ抽出工程)
前記粗酸化亜鉛残渣256gと上記中和工程で得られた水酸化亜鉛含有残渣64.1gを合わせ、純水0.77lと炭酸ナトリウム7.0gを加えてスラリー化し、60℃120分間攪拌後濾別し精製粗酸化亜鉛粉末253gと廃液0.77lを得た。
【0046】
濾別により得られた精製粗酸化亜鉛粉末の組成は(Zn/F/Cl:66.0/0.16/0.06各dry−wt%)であり水分は39.5%であった。また、廃液の組成は(Zn/F/Cl:0.0/0.55/4.9各g/l)であった。
【0047】
(総薬品使用量)
上記処理工程で使用した薬品量は以下の如くであった。
水酸化ナトリウム 0.0kg/t−粗酸化亜鉛粉末
炭酸ナトリウム 33.7kg/t−粗酸化亜鉛粉末
水酸化カルシウム 63.1kg/t−粗酸化亜鉛粉末
【比較例】
【0048】
比較例としては、粗酸化亜鉛からの脱塩素工程に関する公開された文献は見あたらないので一般的な脱ハロゲン元素工程を適用する中で塩素濃度の変化にも着目した。
このとき使用した試料は実施例と同じものであり、処理工程は図3に示すフローで実施した。
【0049】
(NaOH洗浄工程)
粗酸化亜鉛粉末200gを1.0lの純水に5M−NaOHを74ml加えたもので60℃2時間スラリー化後吸引濾過を実施し、残渣217gと抽出液1.0lを得た。 スラリー化中のpHは10.5であり、濾別された残渣の組成は(Zn/F/Cl:64.1/0.32/1.3各dry−wt%)であり水分は21.3%であった。また、廃液の組成は(Zn/F/Cl:0.01/0.15/20.1各g/l)であった。
【0050】
(残渣のNaCO洗浄工程)
濾過残渣は0.85lのイオン交換水に炭酸ナトリウム5.1gを加えた溶液で60℃2時間スラリー化しその後に吸引濾過を実施して残渣220gと廃液0.85lを得た。
濾別された残渣の組成は(Zn/F/Cl:69.5/0.16/0.056各dry−wt%)であり水分は28.8%であった。また、廃液の組成は(Zn/F/Cl:0.0/0.30/2.1各g/l)であった。
【0051】
(総薬品使用量)
上記処理工程で使用した薬品量は以下の如くであった。
水酸化ナトリウム 74.0kg/t−粗酸化亜鉛粉末
炭酸ナトリウム 24.2kg/t−粗酸化亜鉛粉末
上記実施例及び比較例の結果を得て表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
ところで、水に難溶性の塩基性塩化亜鉛の生成を防止する手段として上記実施例中で述べた水抽出工程におけるスラリー化後濾過するまでの時間は、上述のように本件発明者等が実施した試験で得られた被検サンプルに最適であった時間であり、液温やpHのほかに対象とする粗酸化亜鉛粉末に含有されるハロゲン元素の構成及び各元素の含有率によっては生成までの時間に違いがあることが予想されるものである。したがって、実際の操業に於いても処理対象とする粗酸化亜鉛粉末のサンプリングを実施して水抽出試験をおこない、溶出亜鉛濃度の時系列データから最適な時間設定をすることが推奨されるのである。
【0054】
(サイモンコライトの生成)
今回対象とした粗酸化亜鉛粉末では表1及びこのデータをグラフ化した図1に明らかなように、水に粗酸化亜鉛粉末を加えてスラリーとした後5分後まではハロゲン化亜鉛が溶出して亜鉛イオン濃度が上昇していく様子を見ることができる。そして、5分後に迎えた亜鉛イオン濃度の最高値はこれ以降低下を始め、最高値を示した後16分間後には10%の低下を見ている。すなわち、亜鉛濃度が最大濃度を示した以降低下していくという結果は、溶液中の亜鉛イオンは酸化亜鉛の共存下で塩素イオンと反応し、水に難溶性の塩基性塩化亜鉛サイモンコライトを生成するために消費されるという本件発明者等の考察した反応系を裏付けていると考えられる。したがって、本件発明の方法によれば水抽出による脱塩素の効果を最大限に達成できるのである。
【0055】
(総合評価)
表1及び表2のデータから、本件発明に係る方法は粗酸化亜鉛粉末中の塩素除去法として有効であることが明らかとなった。さらに、従来技術として行われている脱ハロゲン元素工程の前段処理法として適用た場合にも従来法と比較して亜鉛の回収率及びフッ素除去率はほぼ同等であり実用上は遜色ない効果を発揮できるものである。そしてこの場合を従来法と比較してみると、粗酸化亜鉛粉末からの脱塩素工程の主要部分を水抽出プロセスでの処理を可能とすることによって処理時間が短縮され、さらに添加薬品量が少なくて低価格の薬品が使用できるコストパーフォーマンスの優れた方法であることが明確である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件発明に係る粗酸化亜鉛粉末の脱塩素処理工程を用いることにより、粗酸化亜鉛中から目的とする塩素のみを効率良く除去することが可能となった。また、本工程を脱ハロゲン元素工程の一部として適用した場合にも従来法と同等品位の精製粗酸化亜鉛粉末を得ることができる。脱ハロゲン元素工程の実行面に於いては工程数は増えるものの各工程に要する処理時間が短縮されているため、処理設備の小型化が可能であり初期投資は少なくてすむのである。さらに、使用する薬品も安価なカルシウム系を適用可能としていることによりランニングコストの大幅な削減を実現可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例〔水抽出工程〕における亜鉛イオン濃度の推移を示すグラフ
【図2】実施例〔脱ハロゲン元素処理試験〕において採用した処理フロー
【図3】比較例において採用した処理フロー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗酸化亜鉛粉末から塩素を分離する精製方法であって、以下に示す工程a及び工程bを含むことを特徴とする粗酸化亜鉛粉末の精製方法。
a:塩素を含有する粗酸化亜鉛粉末を水と混合してスラリー化し、その後サイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著となる前に濾別して粗酸化亜鉛残渣と抽出液に分離する水抽出工程。
b:工程aから得られた抽出液を中和処理後濾別して、水酸化亜鉛含有残渣と廃液に分離する中和処理工程。
【請求項2】
前記工程aに記載の水抽出工程において、粗酸化亜鉛粉末を水と混合してスラリー化した後に抽出液中の亜鉛イオン濃度が一旦最大値を示し、その後最大値の90%の値まで低下していないことをサイモンコライトを含む塩基性塩の生成が顕著となっていないことの指標とすることを特徴とする請求項1に記載の粗酸化亜鉛粉末の精製方法。
【請求項3】
前記工程bに記載の中和処理工程において、添加する薬品としてCa(OH)又はCaCOを使用することを特徴とする請求項1に記載の粗酸化亜鉛粉末の精製方法。
【請求項4】
前記工程aから得られた粗酸化亜鉛残渣をアルカリ領域でスラリー化した後濾別して、精製粗酸化亜鉛と廃液とに分離するアルカリ抽出工程を有することを特徴とする請求項1に記載の粗酸化亜鉛粉末の精製方法。
【請求項5】
前記アルカリ抽出工程に於いて粗酸化亜鉛残渣に工程bから得られた水酸化亜鉛含有残渣を加えてからアルカリ処理することを特徴とする請求項1に記載の粗酸化亜鉛粉末の精製方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に記載の方法で精製された粗酸化亜鉛粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−70149(P2007−70149A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257742(P2005−257742)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】