説明

粘土分散液及びその製造方法、ならびに粘土膜

【課題】耐熱性と耐水性を両立させた粘土膜を得ることが可能である粘土分散液、及びその製法、並びに該粘土分散液による粘土膜を目的とする。
【解決手段】本発明の粘土分散液は、粘土を分散させた水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させたテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、副生電解質を除去し、その水分を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を極性溶媒に添加することで、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土が分散していることを特徴とする。また、本発明の粘土膜は該テトラフェニルホスホニウム修飾粘土より形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土分散液及びその製造方法、ならびに粘土膜であり、更に詳しくは、耐熱性、耐水性に優れた粘土膜および該膜を得る為の粘土分散液を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトに代表される粘土は、水中に分散後、静置乾燥させることで、りん片状粒子が層状に配列した粘土膜を形成する。フレキシビリティーを有したこの粘土膜は、無機物で形成される為、高い耐熱特性を有する。また層状の配列の為、迷路効果を発揮し、高いガスバリア性を持ち、更に基材から剥離してもそれ自身のみで膜として存在できる自立膜として形成されることも可能である。
そこで近年、粘土膜は、その耐熱特性やガスバリア性をいかし、ディスプレイや太陽電池のフレキシブルな基板としての利用が注目されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、粘土の表面には、ナトリウムのような親水性の強いイオンが存在する。この為、該粘土により作製された粘土膜は水の浸透が容易であり、耐水性を有していなかった。従って、水に浸漬した場合に溶解し形状を保てない等の理由により、工業材料として用いるのが困難であった。
そこで、粘土膜における水の浸透を防ぐために、粘土の表面に存在する親水性イオンを有機イオンと交換した有機修飾粘土を用いることが有用であると知られている(特許文献2参照)。
【0004】
有機修飾粘土は一般的に、粘土の表面にある親水性イオンと有機イオンのイオン交換を行った後、洗浄、乾燥、及び粉砕の工程を経て粉末状粘土を得る方法で製造されている。更に、この有機修飾粘土を用いて粘土膜を形成するには、有機修飾粘土を有機溶剤に分散させる必要がある。得られた有機修飾粘土の有機溶剤への分散度合いは、親水性イオンとイオン交換する有機イオンに含まれる、炭素数、芳香環の量に従って異なり、芳香環が多く、炭素量が少ないと有機溶剤中での分散が困難となる。しかしながら、有機イオンが芳香環を持たず、炭素量が多いと、有機修飾粘土が持つ耐熱性という特徴を犠牲にせざる得ないという問題がある。最近、イオン液体によるイオン交換を行うことにより作製された有機修飾粘土を用いた粘土膜が作製されているが、その耐熱性と熱分解温度は300℃程度に留まっている(特許文献3および4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3855003号公報
【特許文献2】特開2007−84386号公報
【特許文献3】特開2008−266124号公報
【特許文献4】特開2009−137833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、更なる耐熱性と耐水性を両立させた粘土膜を得ることが可能である粘土分散液、及びその製法、並びに該粘土分散液により作製する粘土膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題のもと、粘土を分散させた水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、交換された親水性陽イオンを水と第1の極性溶剤の混合溶媒で除去し、該水と第1の極性溶剤の混合溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を第2の極性溶剤に均一に分散させて、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を含む均一な分散液を得た後、この分散液を、基材に塗布したり、容器に流し込んだりして、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、自然静置乾燥、遠心分離、濾過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に形成することにより、粘土が配向した、耐熱性が高く、柔軟性に優れ、ガスバリア性に優れた膜を得られることを見出し、下記の技術的構成により本発明を完成させたものである。
【0008】
(1)テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を含むことを特徴とする粘土分散液。
(2)粘土を分散させた水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土に存在する親水性陽イオンと前記テトラフェニルホスホニウムイオンをイオン交換させたテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、第1の極性溶媒を用い、副生電解質を除去し、該第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土に第2の極性溶媒を添加することで、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土が分散したことを特徴とする粘土分散液。
(3)前記粘土が、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の粘土分散液。
(4)前記第1の極性溶媒が水、アセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールの少なくとも1つを含むことを特徴とする前記(2)または(3)に記載の粘土分散液。
(5)前記第2の極性溶媒が水、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つを含むことを特徴とする前記(2)乃至(4)のいずれかに記載の粘土分散液。
(6)水を主成分とする液体に粘土を分散させる第1工程と、該粘土を分散させた液体にテトラフェニルホスホニウムイオンを投入し、該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、第1の極性溶媒を用い、副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土に第2の極性溶媒を添加し、第1及び第2の極性溶媒の混合溶媒中にテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を分散する第3の工程を有することを特徴とする粘土分散液の製造方法。
(7)前記(1)から前記(5)のいずれかに記載の粘土分散液を、基材へ塗工した後、もしくは容器へ流しこんだ後に、該粘土分散液中の水と極性溶媒を除去して得られることを特徴とする粘土膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、更なる耐熱性と耐水性を両立させた粘土膜を得ることが可能である粘土分散液、及びその製法、並びに該粘土分散液により作製する粘土膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい例を詳細に説明する。
〔粘土分散液〕
本発明の粘土分散液は以下のようにして得られる。粘土を分散させた、水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させたテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得る。この後、交換された親水性陽イオン(副生電解質)を、第1の極性溶媒を用いて除去し、その第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を、第2の極性溶媒に添加することで、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土が分散した分散液を得る事ができる。
本発明において、粘土に存在する親水性陽イオンとは、粘土の表面または層間の少なくとも一方に存在するものを意味する。
【0011】
(粘土)
本発明の粘土分散液で用いる粘土は特に限定されず必要に応じて選択できる。例えば天然または合成物からなる粘土を挙げることができる。具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であると好ましい。中でも、膨潤性が高く粒子径がナノオーダーで偏平状の形態を示すため自己組織化(self organization)による配向が起こりやすく、また比較的入手が安易である為、ヘクトライト、スチーブンサイト、サポナイト及びモンモリロナイトを使用するのが特に好ましい。単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0012】
また、粘土膜に透明性が必要な場合は、合成粘土を用いることが好ましい。合成粘土は天然粘土に比べて着色の原因である不純物が少なく、また粘土の粒子径が小さいことから、合成粘土を用いた膜は透明性が付与される。
【0013】
また、粘土の種類によって、製膜後の膜の特性が異なっており、例えば、膜の柔軟性が良好な膜になったり、透明性に優れた膜になったりする。所望の膜特性を得る為に、種々の粘土を組み合わせて製膜後の膜の特性を種々調整することができる。例えば、合成サポナイトは柔軟性に優れるが、透明性が若干悪い膜となり、合成ヘクトライトは透明性に優れるも、柔軟性が若干悪い膜となる。これらの粘土を所定の比率で混合することで、製膜後の膜は柔軟で透明性に優れた膜とすることが可能である。製膜後の粘土膜に柔軟性と透明性を付与させたい場合は、合成サポナイトと合成ヘクトライトの質量比を80/20〜20/80の範囲にすることが好ましく、60/40〜40/60にするとより好ましい。
【0014】
(テトラフェニルホスホニウムイオン)
本発明の粘土分散液で粘土に存在する親水性イオンとイオン交換するイオンとしては、テトラフェニルホスホニウムイオンを用いる。なお、本発明において、有機オニウムイオンとしてアンモニウムイオン、イミダゾリウムイオンを用いた場合、あるいは、プラス電荷を有する原子に、隣接して存在する置換基にフェニル基以外の炭素を含有する置換基を含む場合、全ての置換基にフェニル基を用いない場合、いずれの場合においても得られる粘土膜の熱分解開始温度は300℃以下となり、本発明で用いるテトラフェニルホスホニウムイオンにはおよばない。
【0015】
なお、本発明の粘土分散液は、当該粘土分散液を使用して得られた粘土膜の熱分解開始温度が300℃超となるものであればよいのであって、粘土分散液を構成する粘土に存在し得るイオンがテトラフェニルホスホニウムイオンのみからなる必要はない。したがって、例えば、テトラフェニルホスホニウムイオンの他に有機オニウムイオンとしてアンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ホスホニウムイオン等が粘土に存在していてもよい。また、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土に、親水性イオンが存在(残存)していてもよい。
【0016】
(第1極性溶媒)
本発明で使用する第1の極性溶媒は、粘土に存在する陽イオンをイオン交換後除去することができるものであればよく、特に制限されるものではない。第1の極性溶媒として使用することができるものは、使用する粘土の種類によって異なるが、例えば、水、アセトニトリル、あるいはアルコール類が好ましい。アルコール類としては、エタノール、メタノール、プロパノールが好ましい。これら第1極性溶媒は単独で使用しても混合して使用してもよい。
【0017】
第1の極性溶媒として、水と水以外の上記溶媒を混合したものを使用した場合、水と水以外の上記溶媒の質量比の好適範囲は90/10〜10/90であり、さらに好ましくは60/40〜40/60である。このとき、水以外の上記溶媒の割合が低すぎる場合、十分な親水性イオンを除去する洗浄効果が得られず結果的に膨大な時間をかけて洗浄を繰り返さなければならない。また、後記する第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を、第2の極性溶媒に均一に分散させて粘土分散液を得る際に粘土の凝集がおこる可能性があり、均一な分散液を得ることが困難となる。
【0018】
(第2極性溶媒)
本発明で使用する第2の極性溶媒は、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土の分散性に優れるものであればよく、特に制限されない。第2の極性溶媒としては、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を構成する粘土の種類によって異なるが、高沸点であることが好ましく、水、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。これら第2極性溶媒は単独で使用しても混合して使用してもよい。
なお、第2の極性溶媒は第1の極性溶媒よりも粘土の分散性に優れる(凝集性の少ない)ものであればよい。
【0019】
(製法)
本発明の粘土分散液は水を主成分とする液体に粘土を分散させる第1工程と、該粘土を分散させた液体にテトラフェニルホスホニウムイオンを投入し、該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、第1の極性溶媒を用い、副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土に第2の極性溶媒を添加し、第1及び第2の極性溶媒の混合溶媒中にテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を分散する第3の工程を有することを特徴とする。
【0020】
(第1工程)
第1工程は、水を主成分とする液体に粘土を分散させることを特徴とする。尚、水を主成分とする液体とは、イオン交換水、蒸留水等の水を、50質量%以上含有する液体である。前記液体は全て水であっても良い。前記液体は水の他に、水に任意の割合で混合することができる有機溶剤を含有しても良い。具体的には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、及び/又はアルコール等を必要に応じて含有して良い。前記水を主成分とする液体の量は、膨潤性粘土100質量部に対して200〜200000質量部であることが好ましく、1000〜100000質量部であることがより好ましい。また、これらの液体に粘土を分散させるには、回転式攪拌機、及び振とう式攪拌機等の一般的な攪拌機を用いることができる。
また、分散させる際に加熱するとさらに良い。温度としては50〜80℃に加熱しながら攪拌することにより、粘土の分散を効率よく進めることが可能となる。
【0021】
(第2工程)
第2工程は、テトラフェニルホスホニウムイオンを、粘土を分散させた水を主成分とする液体に投入し、粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、副生電解質を除去することを特徴とする。
本発明で用いる粘土は、リン片状の無機化合物粒子が層状に配向する事ができる粘土である。その粘土にはナトリウムに代表される親水性陽イオンが存在する。この陽イオンは、他の陽イオンとイオン交換が可能である。そこで、テトラフェニルホスホニウムイオンを用いてイオン交換を行い、親水性を失い、溶媒(例えば、第1極性溶媒、第2極性溶媒等)への分散が可能なテトラフェニルホスホニウム修飾粘土とする。
イオン交換の方法は、第1工程で粘土を、水を主成分とする液体に十分に分散させた後、この分散液にテトラフェニルホスホニウムイオンを添加し、回転式攪拌機等の一般的な攪拌機で分散液が均一となるまで攪拌してテトラフェニルホスホニウム修飾粘土とする。この時、添加するテトラフェニルホスホニウムイオンは、粘土イオン交換量の1〜10倍相当量程度であると好ましく、1〜5倍程度であるとより好ましい。用いるテトラフェニルホスホニウムイオンが粘土イオン交換量の10倍相当量を越えた場合は、有機物が過剰に粘土膜に取り込まれ、形成した粘土膜の熱分解特性が悪化しやすい。一方、粘土イオン交換量が1倍相当量未満の場合では十分なイオン交換ができずナトリウムイオン等の親水性イオンが粘土表面または層間の少なくとも一方に残留し粘土膜として加工した際十分な疎水性を得ることができにくい。ここで言うイオン交換量とは乾燥粘土100g中に保持されているすべての交換性陽イオンのミリグラム当量(meq)で表すことができ、硝酸アンモニウム溶液浸出法やメチレンブルー吸着法を用いて測定することができる。なおmeq/100gを、cmol(+)/kgで表すこともできる。
【0022】
攪拌により生成したテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を自然沈降させ、その後、親水性イオンを含有する上澄み液を除去する。上澄み液を取り除く方法の例としては、遠心分離や吸引濾過等の方法が挙げられる。
上澄み液除去後のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土100質量部に対して、第1の極性溶媒を1000〜10000質量部添加し、攪拌し、再びテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を沈降させて上澄み液を取り除く。これを何度か繰り返し、上澄み液中の親水性イオン濃度が100ppm以下、好ましくは10ppm以下、更に好ましくは1ppm以下になるまでテトラフェニルホスホニウム修飾粘土の洗浄を行う。洗浄を問題なく行う事ができれば、その他の方法を用いてもよい。このようなデカンテーションの繰返しという方法のほかにも、例えば、吸引濾過もしくは遠心分離を行いながら連続的に洗浄水を注入する連続式洗浄なども可能である。ここで、親水性イオン濃度が100ppmを越えた場合は粘土膜として加工した際に、疎水性を得難い。
【0023】
(第3工程)
第3工程では、第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を、第2の極性溶媒に添加し、第1の極性溶媒と第2の極性溶媒の混合溶媒中にテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を分散して、本発明の粘土分散液を得る。すなわち下記に示す従来技術で必要とされる乾燥工程を経ずに、粘土分散液を得ることを特徴としている。
一般的には粘土分散液は以下のような方法で得られている。すなわち、得られた有機修飾粘土の水分を乾燥により完全に除去して固形分とし、該固形分を粉砕して粘土粉末を得る。そして、得られた粘土粉末を有機溶剤に添加し、膨張、すなわち膨潤させ、粘土分散液を得ていた。
このような従来の方法の場合、粘土粉末を有機溶剤中で膨張可能であるものとする為にイオン交換の際の有機オニウムイオンとして、炭素量の多いイオン、例えばジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩を用いていた。これは、有機オニウムイオンの炭素量を減少させると、溶剤への膨潤が劣り、充分な分散液を得ることができない為である。しかし、前記炭素量の多いイオン、例えばジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩は耐熱性が低い為、従来の粘土分散液では耐熱性の低い粘土膜しか得られていなかった。
【0024】
本発明では、上記に示した従来技術で必要とされる乾燥工程を経ずに、粘土分散液を得ることを特徴としている。具体的には本発明では、第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだテトラフェニルホスホニウム修飾粘土はそのまま第2の極性溶媒に添加される。そして、第1および第2の極性溶媒の混合液中で、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を膨潤させ、分散して、本発明の粘土分散液を得る。第2の極性溶媒は、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土が分散するものであれば特に限定されないが、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンを用いる。また、分散液の分散状態および所望の粘性を得る為に、第2の極性溶媒として水を加えることもできる。このとき、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土100質量部に対し、第2の極性溶媒が50〜10000質量部であると好ましく、500〜1000質量部であると更に好ましい。第2の極性溶媒が10000質量部を越えた場合は固形分が少なくなり分散液が本発明に最適な粘性が得られず製膜が困難となりやすい。一方、50質量部未満の場合ではテトラフェニルホスホニウム修飾粘土が十分に分散されず、非常に高粘度となり均一な粘土膜の形成が困難となりやすい。
【0025】
(製膜)
本発明の粘土膜は、前記方法で得られた粘土分散液を、基材へ塗工した後、もしくは容器へ流しこんだ後に、該粘土分散液中の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を除去して得ることを特徴とする。本発明の粘土膜は任意の表面形状を有することができる。
表面が平坦である粘土膜形成に用いる基材は、表面が平坦で粘土乾燥温度での変形が無く、乾燥後の粘土膜の剥離が容易であれば、特に限定はなく必要に応じて選択できる。中でも、比較的安価で利用しやすい、ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材として使用すると好ましい。一方、容器としては、フッ素樹脂をコーティングしたものを用いると好ましい。また、粘土膜と他の部材との複合した部材を得ることもできる。具体的には、複合したい部材上に本発明の粘土分散液を塗布あるいはディップ等の工程を施して、その後、乾燥により溶媒を除去することにより任意の部材上に粘土膜が形成された複合部材を得ることができる。複合したい部材の形状は特に限定されず、曲面を有する複雑なものでも粘土分散液が入り込めばそこに粘土膜を作製することができ、複合化が可能となる。
表面が平坦でない粘土膜形成に用いる基材は、表面が平坦であること、粘土乾燥温度での変形がないことは必ずしも必要ではない。表面が平坦でない基材を用いて粘土膜の形成時に使用する場合、当該粘土膜表面に基材の表面形状(例えば、凹凸形状)が転写されることとなり、防眩性を有する粘土膜を形成させることができる。
【0026】
具体的な形成方法の例を以下に述べる。まず、得られた粘土分散液を、アプリケーター等によって基材に塗布する、又は、容器に流し込む。次に、これら分散液を、熱風循環電気温乾燥機等を用いて乾燥させて、粘土膜を得るのが好ましい。なお、塗布する又は流し込む粘土分散液の厚さは100〜5000μmであることが好ましい。塗料の固形分濃度により好ましい範囲は異なるが、乾燥後の膜厚が10〜200μmとなる厚さが好適である。乾燥後の厚さが10μm以上のものでは、乾燥後自立膜として使用することが可能であり、10μm未満の場合では機械的強度が低くなり、膜の破損がおこりやすくなる。厚さ上限は求められる特性に応じて選択すればよい。本発明における粘土膜の概念には、「膜」よりも厚さのある「板」も包含されるものである。
また、得られた粘土膜におけるテトラフェニルホスホニウム修飾粘土成分は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であると更に好ましい。100質量%であってもよい。粘土成分が70質量%未満の場合では耐熱性や低線膨張性、ガスバリア性など粘土本来の持つ特性を損なう可能性がある。
【0027】
得られた粘土膜は、基材から剥離して自立膜とし、透明性を有する粘土膜は、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板、電子ペーパー用基板、電子デバイス用封止フィルム、レンズフィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、タッチパネル用フィルム、各種機能性フィルムの基板、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等に使用することができる。また透明性を有さない粘土膜は、シール材、パッキン材、ガスケット材、ガスバリア材、電子回路用基板、難燃シート、放熱部材等の産業用機器部材に利用することができる。また、自立膜としてではなく、任意の部材との複合化による複合材として利用することもできる。
【0028】
本発明の粘土膜は、基材から剥離して、単独でも自立膜として利用可能である。しかしながら、より高いガスバリア性、耐薬品性、及び表面平滑性などを得るために、粘土膜の片面または両面に、無機薄膜または有機薄膜のうち少なくとも一方を、単層または複数層で形成することもできる。
粘土膜に積層する膜種は特に限定されず、用途により最適なものを選択できる。例えば無機薄膜として酸化珪素(SiO)もしくは酸化窒化珪素をスパッタ法もしくはプラズマCVD法により粘土膜に製膜させることにより高いガスバリア性及び耐薬品性を付与することができる。
更には有機薄膜として有機ポリマーを粘土膜に塗布することにより表面に平坦性を持たせることができる。またハードコート層を積層して、ハードコート性を付与することもできる。これらの無機及び有機の薄膜を粘土膜の表面に積層することにより、粘土膜単独では持ち得ない特性を付与することができる。
【0029】
また、本発明の粘土分散液に、樹脂、硬化助剤、酸化防止剤、界面活性剤、顔料、レベリング剤等の一般的な添加剤を種々含有させることができる。これらの添加剤を加えることで、粘土分散液の特性、例えば粘性や固形分等を調整することが可能となる。また、添加剤を加えた粘土分散液を用いて得た粘土膜には、添加剤成分が含まれ、粘土膜の特性向上に影響を与える場合がある。例えば、樹脂を添加することで、粘土膜の強度向上や柔軟性の付与が可能になる場合がある。
【0030】
本発明では、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を膨潤し有機溶媒に分散させるにあたり、一般的な製法における乾燥工程を省き、更に有機溶媒として極性溶媒を使用したことで、一般的な製法では膨潤及び分散させることが不可能であるテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を分散することが可能となり、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土分散液を得ることが可能となった。また、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土分散液を用いることにより、耐熱性、耐水性に優れた粘土膜を得ることが可能となった。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
各実施例及び比較例の各物性の測定は以下の方法で行った。
【0032】
〔示差熱熱重量同時分析(TG−DTA分析)〕
装置名:EXSTAR6000ステーション(セイコーインスツメント社製、型番:TG/DTA6200)を用い空気中で、室温から600℃の温度範囲を1分あたり5℃の昇温で、重量変化を測定した。重量変化の変化率(DTG)を温度毎にプロットしその変曲点を分解温度とした。
【0033】
〔実施例1〕
粘土として天然の精製モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアG)10gを蒸留水1000g中に加え、温度70℃に加熱しながらマグネチックスターラーで分散および膨潤させて分散液を得た。
次に、分散液に市販のテトラフェニルホスホニウムブロミド(和光純薬工業社製)10gを添加して、更に2時間攪拌した。その後、6000回転で10分間遠心分離機にかけて固液分離をおこなった。分離した上澄み液を除去した後、全体の重量が500cmになるように蒸留水/エタノール=50/50の混合溶液を加えて攪拌した。攪拌後に再び遠心分離機により上記条件で固液分離を行い、分離された上澄み液を再び除去した。以上の攪拌と遠心分離を上澄み液のナトリウムイオン濃度が1ppm以下になるまで繰り返し行った。以上の操作で得られた固形物は、固形分10%の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土であった。
次に上記得られた固形分10%の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土40gにN,N−ジメチルホルムアミド60gを加えてエースホモジナイザー「AM−001」(株式会社日本精機製作所製)を用い5,000rpmの回転数で60分間攪拌し、均一な粘土分散液を得た。
次にこの粘土分散液を、真空乾燥機内で真空に引くことで泡を除去し、PET「エンブレットS50」(ユニチカ社製)上にアプリケーターを用いて膜状に塗工し、強制送風式オーブン中で100℃の温度条件下で1時間乾燥し、PETより剥離して厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0034】
〔実施例2〕
実施例1で使用した粘土を合成サポナイト(クニミネ工業社製、商品名:スメクトンSA)を用いた以外は同様にして、均一な粘土分散液を得た。
次に実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0035】
〔実施例3〕
実施例1で使用した粘土を合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名:ラポナイトS482)を用いた以外は同様にして、均一な粘土分散液を得た。
次に実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0036】
〔実施例4〕
実施例1で使用した粘土を合成サポナイト(クニミネ工業社製、商品名:スメクトンSA)4gと合成ヘクトライト(ロックウッドアディティブス社製、商品名:ラポナイトS482)6gの混合粘土を用いた以外は同様にして、均一な粘土分散液を得た。
次に実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0037】
〔比較例1〕
実施例1で使用したテトラフェニルホスホニウムブロミドをメチルエチルイミダゾリウムブロミド(日本合成化学工業社製)にした以外は同様にして、均一な粘土分散液を得た。
次に実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0038】
〔比較例2〕
実施例1で使用したテトラフェニルホスホニウムブロミドをテトラメチルアンモニウムブロミド(和光純薬工業社製)にした以外は同様にして、均一な粘土分散液を得た。
次に実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。
【0039】
〔比較例3〕
実施例1において、蒸留水/エタノール=50/50の混合溶液を加えて攪拌と遠心分離を繰り返して得られた固形分10%の水とエタノールを含んだゲル状のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を110℃で、含水率0.1%になるまで乾燥させた後、カッターミルで乾燥物を50マイクロメートル程度まで粉砕して粘土固形物を得た。得られた粘土固形物4gに蒸留水18g、エタノール18g、N,N−ジメチルホルムアミド60gを加えて、エースホモジナイザー「AM−001」(株式会社日本精機製作所製)を用い5,000rpmの回転数で60分間攪拌したが、塊が存在し均一な粘土分散液を得ることが出来なかった。
次に実施例1と同様の方法で製膜したが、粘土塊が多数存在し均一な粘土膜を得ることができなかった。
【0040】
〔比較例4〕
天然の精製モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアG)5gをイオン交換水100g中に加え7,000rpmで30分間、ホモジナイザーで分散を行ったところ、褐色の均一溶液を得た。得られた粘土分散液を用い、実施例1と同様の方法で厚さ約40マイクロメートルの粘土膜を得た。この粘土膜を5cm角に切り出し200ccのイオン交換水に1時間浸した後、ピンセットでイオン交換水から取り出したところ、粘土膜はバラバラとなり浸漬前の形状を維持することができなかった。
【0041】
表1に実施例および比較例で得られた粘土膜の各評価を行った結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表より明らかなとおり、本発明の粘土分散液を使用して作製した各実施例の粘土膜は、従来の粘土膜における耐熱性の限界であった300℃を超える耐熱性(350℃以上)を有するものであった。また、各実施例の粘土膜は300℃を超える耐熱性を有していると共に、耐水性をも具備するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の粘土分散液及び粘土膜は粘土の持つ特性により、多くの製品に利用することができる。例えば、透明性を有する粘土膜は、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板、電子ペーパー用基板、電子デバイス用封止フィルム、レンズフィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、タッチパネル用フィルム、各種機能性フィルムの基板、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等に使用することができる。また透明性を有さない粘土膜は、シール材、パッキン材、ガスケット材、ガスバリア材、電子回路用基板、難燃シート、放熱部材等の産業用機器部材に利用することができる。また、自立膜としてではなく、任意の部材との複合化による複合材として、更なる耐熱性およびガスバリア性が付与された複合材として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフェニルホスホニウム修飾粘土を含むことを特徴とする粘土分散液。
【請求項2】
粘土を分散させた水を主成分とする液体に、テトラフェニルホスホニウムイオンを投入して該粘土に存在する親水性陽イオンと前記テトラフェニルホスホニウムイオンをイオン交換させたテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、第1の極性溶媒を用い、副生電解質を除去し、該第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土に第2の極性溶媒を添加することで、テトラフェニルホスホニウム修飾粘土が分散したことを特徴とする粘土分散液。
【請求項3】
前記粘土が、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、クリソタイル、リザーダイド、アメサイト、パイロフィライト、タルク、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、スチーブンサイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト、白雲母、パラゴナイト、イライト、セリサイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト及び層状チタン酸からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘土分散液。
【請求項4】
前記第1の極性溶媒が水、アセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の粘土分散液。
【請求項5】
前記第2の極性溶媒が水、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及び1−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の粘土分散液。
【請求項6】
水を主成分とする液体に粘土を分散させる第1工程と、該粘土を分散させた液体にテトラフェニルホスホニウムイオンを投入し、該粘土に存在する親水性陽イオンとイオン交換させてテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を得た後、第1の極性溶媒を用い、副生電解質を除去する第2工程と、第2工程で得られた第1の極性溶媒を含んだ状態のテトラフェニルホスホニウム修飾粘土に第2の極性溶媒を添加し、第1及び第2の極性溶媒の混合溶媒中にテトラフェニルホスホニウム修飾粘土を分散する第3の工程を有することを特徴とする粘土分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の粘土分散液を、基材へ塗工した後、もしくは容器へ流しこんだ後に、該粘土分散液中の水と極性溶媒を除去して得られることを特徴とする粘土膜。

【公開番号】特開2011−46553(P2011−46553A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195167(P2009−195167)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構「ディスプレイ用高耐熱高透明性粘土フィルム基板」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】