説明

粘土自立膜

【課題】優れた耐熱性、透明性及び柔軟性が得られる粘土自立膜を提供すること。
【解決手段】板状の形態を有する合成スメクタイト、例えば、バイデライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイトからなる群より少なくとも1種が選ばれる合成粘土粒子と水系溶媒とを含有する懸濁液を水熱処理することにより成長させた粘土粒子から構成され、バインダーなしで自立膜を形成しており、膜厚が10〜200μmである、透明な粘土自立膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーを添加せずに、合成粘土粒子から構成される透明で柔軟な粘土自立膜に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、粘土に種々の化合物を添加した複合体、いわゆるポリマー粘土ナノコンポジットを超える耐熱性、ガスバリア性を有する粘土を主原料とした粘土膜が多く開発されている。例えば、粘土の含有率が全固体に対して70質量%以上で作製された粘土膜は、高いガスバリア性(ガス透過係数:3.2×10−11cm−1cmHg−1未満)と透明度(全光線透過率80%以上)を有しており、更に200℃で加熱しても全光線透過率は75%以上を保つことが報告されている(特許文献1)。
【0003】
本来粘土そのものの耐熱性は非常に高く、600℃で加熱しても変形変色しないものであるが、粘土単独では成膜性が低いとの問題がある。そのため、高分子樹脂等の有機物を混合させると、ガスバリア性と耐熱性とを低下させてしまうにも関らず、成膜性を高めるためバインダーとして有機物を混合せざるを得ざるのが現状である。高いガスバリア性と耐熱性を有する粘土膜の作製のためには、単独で成膜性の高い粘土を使用し、できるだけバインダーの含有率を減らす必要がある。
【0004】
一般的に、天然粘土単独で粘土膜を作製した場合、成膜性に優れるものの、不純物由来の着色があり、その色を除去することが非常に困難であるため、透明性に優れる粘土膜を作製することができない。一方、合成粘土単独では、透明性に優れる粘土膜を作製することができるが、成膜性が低いためバインダーを添加せずに粘土膜を作製することは困難である。
【0005】
ところで、天然粘土と合成粘土とで著しく異なる点の一つとして、板状形態を有する粘土粒子のアスペクト比(=直径/厚み)がある。天然粘土は合成粘土の5倍以上高いアスペクト比を有しており、積層しやすく柔軟性も高いと考えられる。一方、合成粘土はアスペクト比が小さく微細な粒子であるため、その微粒子が積層されて自立膜が形成されると、粒子間の粒界が多いためクラックが発生しやすく、結果的に成膜が難しく、機械的強度や柔軟性が低い膜になると考えられる。以上のことから、合成粘土の粘土粒子のアスペクト比を高く保持しながら、直径数十nm以上の粒子に成長させる方法の開発が求められている。
【0006】
そこで,合成粘土に水熱処理を行い、アスペクト比の高い板状粒子に成長させる技術が報告されている(特許文献2)。この報告によると、数十nm以上の結晶サイズを有し、アスペクト比の高い(約50〜1000)板状形態の粒子が水熱処理によって製造され、有機物の添加量を低減させても粘土自立膜の作製が可能となる。
【特許文献1】特開2007−063118号公報
【特許文献2】特開2007−308361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の粘土自立膜は、柔軟性に優れるものの、耐熱性及び透明性については十分でなく、改善の余地があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性、透明性及び柔軟性が得られる粘土自立膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、合成粘土粒子と水系溶媒とを含有する懸濁液を水熱処理することにより成長させた粘土粒子から構成され、バインダーなしで自立膜を形成しており、膜厚が10〜200μmであり、透明な粘土自立膜を提供する。
【0010】
本発明では、合成粘土粒子と水系溶媒とを含有する懸濁液を水熱処理することにより成長させた粘土粒子を用いることにより、粘土自立膜の柔軟性が優れたものとなり、成膜性に優れた粘土自立膜を作製することができる。また、バインダーを含まないことにより、耐熱性に優れた粘土自立膜を作製することができる。更に、上記粘土粒子を含む構成とすることにより、透明性に優れる粘土自立膜を作製することができる。従って、本発明では、優れた耐熱性、透明性及び柔軟性が得られる粘土自立膜を作製することができる。
【0011】
本発明の粘土自立膜は、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の粘土自立膜は、曲げ直径16mmでクラックが発生することがないことが好ましい。
【0013】
本発明の粘土自立膜は、500℃で1時間加熱されたときに、変形することがなく、70%以上の全光線透過率を維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、優れた耐熱性、透明性及び柔軟性が得られる粘土自立膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る粘土自立膜は、合成粘土粒子と水系溶媒とを含有する懸濁液を水熱処理することにより成長させた粘土粒子から構成される。粘土粒子(粘土鉱物粒子)は、板状の形態を有する合成スメクタイトであれば特に限定されるものではなく、例えば、バイデライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、スティーブンサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの粘土粒子は、1種単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0017】
水熱処理後の粘土粒子の直径は、0.5〜2μmであることが好ましい。この場合、本発明の効果を良好に得ることができる。粘土粒子の直径は、レーザー散乱法を用いて粘土粒子の平均直径(Z―average値)として測定することができる。
【0018】
粒子を成長させる方法は、粘土粒子を水系溶媒に分散・懸濁した後、その懸濁液を水熱条件にまで加熱し、更に、一定速度で冷却することにより行われる。
【0019】
水系溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、水、エタノール、メタノール、ジオキサンが好ましい。これらの水系溶媒は、1種単独で、又は2種類以上からなる混合液として用いることができる。
【0020】
粘土粒子の分散濃度としては、懸濁液全体100質量%に対して、好ましくは0.001〜30質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0021】
本実施形態に係る粘土自立膜は、高分子樹脂等のバインダーなしで自立膜を形成する。
【0022】
懸濁液を水熱条件まで加熱する方法としては、懸濁液を耐熱容器(オートクレーブ)に封入することによって加熱する方法(バッチ法)、ないしは、加熱した耐圧配管中に懸濁液を、流通させる方法(流通法)が例示される。なお、バッチ法、流通法を単独で用いるだけでなく、両方を組み合わせること、もしくはそれぞれの方法を複数回繰り返してもよい。
【0023】
水熱条件としては、粘土の粒子が破壊又は相変態せずに粒成長する温度または圧力であり,具体的な温度については180〜280℃の範囲が好ましい。水熱温度が180℃未満では、透明度は高いが柔軟性が低い粘土自立膜となる傾向がある。一方、水熱温度が280℃を超えると、柔軟性は高いが透明度が低い粘土自立膜となる傾向がある。また、具体的な圧力については、好ましくは0.2〜33.0MPa、更に好ましくは0.7〜5.0MPaの範囲である。
【0024】
一方、同一温度と圧力において水熱処理時間を長くしても粒子成長が進み、大きなサイズの粘土粒子ができるが、温度と圧力に比べて効果は大きくない。
【0025】
水熱処理した粘土は、そのまま成膜させても良いが、一度乾燥させてから成膜に適した固液比に合わせた水分散液(粘土分散液)にして成膜を行うことが好ましい。成膜方法としては、例えば、キャスト法や各種の薄膜調製方法を用いることができる。
【0026】
粘土自立膜は、底が平らな容器に粘土分散液を入れ、乾燥させることで得ることができる。基板としての容器は、粘土分散液との密着が強すぎないものを選ぶことが好ましい。密着性が高いと、粘土分散液の乾燥後に膜を基板から剥がす際に膜が損傷しやすくなる。
【0027】
本発明に係る粘土自立膜は、膜厚が10〜200μmであり、好ましくは15〜150μm、更に好ましくは30〜100μmである。膜厚はマイクロメータにより測定することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
(スティーブンサイトの水熱処理)
合成粘土であるスティーブンサイト(クニミネ社製、製品名:スメクトンST)の固液比0.2質量%の水分散液250mlを調整した後、ステンレス内筒に移し変え、耐熱容器(オートクレーブ)中に静置した。この耐熱容器を密閉した後、4時間かけて200℃まで昇温させた。その後、200℃で10時間保持した後、放冷した。
【0029】
(粒子サイズの測定)
冷却された溶液を回収し、レーザー散乱法を用いて、粘土粒子の平均直径(Z―average値)を粒子径測定装置(シスメックス社製、製品名:ゼータサイザーナノシリーズ Nano−S)により測定した。結果を表1に示す。
【0030】
(粘土自立膜の作製)
固液比2.5質量%の粘土粒子の水分散液を調整し、テフロン(登録商標)加工された容器内に注ぎ、室温で三日間乾燥させた。容器全体に平らに作製された粘土自立膜は、手で剥がすことにより粘土自立膜として得られた。膜の一部をカットした様子を図1(a)に示す。
【0031】
(膜厚測定)
粘土自立膜の膜厚をマイクロメータにより測定した。結果を表1に示す。
【0032】
(膜の柔軟性測定)
粘土自立膜の柔軟性をマンドレル測定器(コーテック株式会社製、製品名:BD−2000)を用いて測定した(ISO1519)。マンドレル棒の直径が大きいものから小さいものへ順に変え、粘土自立膜にクラックが発生しない最小のマンドレル棒の直径を柔軟性として評価した。その結果を表1に示す。直径16mmのマンドレル棒を用いて曲げても膜に損傷がない柔軟性を有することが確認された。
【0033】
(膜の透明度測定)
粘土自立膜の全光線透過率を濁度計(日本電色工業株式会社製、製品名:NDH5000)を用いて測定した(ISO13458−1)。結果を表1に示す。粘土自立膜の全光線透過率は90%以上であり、高い透明度を示すことが確認された。この粘土自立膜の写真を図2(a)に示す。膜の下のロゴが鮮明に見える透明度を有していることが確認された。
【0034】
(膜の耐熱性)
粘土自立膜を500℃で1時間加熱を行った。粘土自立膜の変形はなく、全光線透過率は85%であった。
【0035】
(実施例2)
水熱処理を行う温度を250℃としたことを除き実施例1と同様の処理を行った。また、粒子サイズの測定を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0036】
実施例1と同様の方法を用いて粘土自立膜の作製を行った。膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例3)
実施例1と同様な粘土水分散液をテフロン製内筒のオートクレーブに入れた後、15分かけて200℃まで昇温させた。その後、200℃で40時間保持した後、放冷した。
【0038】
実施例1と同様の方法を用いて粘土自立膜の作製を行った。膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
水熱処理を行う温度を150℃としたことを除き実施例1と同様の処理を行った。また、粒子サイズの測定を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例1と同様の方法を用いて粘土自立膜の作製を行った。膜の一部をカットした様子を図1(b)に示す。膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
水熱処理を行う温度を400℃としたことを除き実施例1と同様の処理を行った。また、粒子サイズの測定を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例1と同様の方法を用いて粘土自立膜の作製を行った。膜の一部をカットした様子を図1(c)に示す。膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例6)
水熱処理を行う温度を300℃としたことを除き実施例1と同様の処理を行った。また、粒子サイズの測定を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0044】
実施例1と同様の方法を用いて粘土自立膜の作製を行った。この粘土自立膜の写真を図2(b)に示す。膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
水熱処理していないスティーブンサイト(クニミネ社製、製品名:スメクトンST)を用いた。また、粒子サイズの測定を実施例1と同様の方法により行った。結果を表1に示す。
【0046】
(粘土自立膜の作製)
固液比2.5質量%の粘土粒子の水分散液を、テフロン加工された容器内に注ぎ、室温で三日間乾燥させた。粘土は乾燥中にクラックとうねりが発生して小さい破片状態となった。破片の一部の様子を図1(d)に示す。様々な基板(容器)を用いて粘土自立膜の作製を試みたが、例えば、ポリプロピレン容器ではクラックとうねりが発生し、銅板では粘土が基板から剥がれない等により、平らな粘土自立膜は得られなかった。クラックによりひび割れた様子を図3(a),(b)に示す。なお、粘土自立膜が作製できなかったため、膜厚測定、膜の柔軟性測定、透明度測定及び耐熱性の評価はできなかった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の粘土自立膜は、バインダー等の不純物を含まず純度の高い合成粘土を用いており、高いガスバリア性、柔軟性と共に高い透明度を特徴としており、ディスプレイ材料・包装材料・電子デバイス封止材料等としての使用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1、実施例4〜6についての粘土自立膜の一部を示す写真である。
【図2】実施例1及び実施例6により得られた粘土自立膜を示す写真である。
【図3】比較例1の粘土についての成膜後の状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成粘土粒子と水系溶媒とを含有する懸濁液を水熱処理することにより成長させた粘土粒子から構成され、
バインダーなしで自立膜を形成しており、
膜厚が10〜200μmである、透明な粘土自立膜。
【請求項2】
全光線透過率が85%以上である、請求項1に記載の粘土自立膜。
【請求項3】
曲げ直径16mmでクラックが発生することがない、請求項1又は2に記載の粘土自立膜。
【請求項4】
500℃で1時間加熱されたときに、変形することがなく、70%以上の全光線透過率を維持する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘土自立膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−30864(P2010−30864A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196851(P2008−196851)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本化学会 刊行物名 日本化学会第88春季年会 2008年 講演予稿集 I 発行日 平成20年3月12日 主催者名 社団法人 日本化学会 研究集会名 日本化学会第88春季大会 2008年 開催日 平成20年3月26日から平成20年3月30日「5日間」
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】