説明

粘度計

【課題】本発明は粘度計における問題点を解決し、小型かつ安価で、非ニュートン粘性の測定まで可能な小型の粘度計を微細加工技術を用いて実現することを課題とする。
【解決手段】本発明の粘度計は、基板に形成された円筒状の孔と、該孔に径方向の隙間を有して嵌入される円筒状の可動子と、該可動子の上下面および前記基板の上下面にそれぞれ密着・固定され前記隙間の上下を封止するダイヤフラムと、前記可動子を軸方向に変位させるアクチュエータと、該アクチュエータを制御する制御手段と、前記可動子の変位を測定する変位量センサーと、前記孔と可動子との隙間内に測定対象の試料を注入、排出する試料導入口および排出口とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度計に関するもので、特に、エンジン潤滑油のその場測定や、流量計の粘度補正のための粘度の常時モニタリングや、液体を用いた工業プロセスにおける品質管理あるいは工程制御を目的とした粘度のリアルタイム測定や、カテーテルに当該粘度計を取り付けて血液あるいは体液の粘度を体内で測定する方法に適用できる微細加工技術を用いて作製された小型の粘度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型化を目指した粘度計として、すべり波振動子の液体中での共振特性が粘弾性に依存することを利用するものにおいて、振動素子と液体を入れる容器との一体化を図ったものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、高粘性物や高温物の粘度を測定する装置として、ピエゾ振動素子に粘性抵抗を伝達するための粘性抵抗伝達部材を接合したものを粘度センサーとして用い、該センサーの該粘性抵抗伝達部材の先端を試料内に挿入し、この状態において該素子に対してその共振周波数からわずかにずらした周波数の交流の電気信号を印加するとともに、該素子から出力される電流信号を電圧信号に変換させて測定するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
さらに、インラインすなわちプロセスの最中に、回転するサンプルを用いて流体の粘度を測定する装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
さらにまた、持ち運び可能なポータブル粘度計として、その本体内に配置されている電気制御回路を有する計器本体と、分析対象の流体の中に沈入させるための水晶共振子型センサと温度センサとを含むセンサプローブとを備えたものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−265576号公報
【特許文献2】特開2003−42924号公報
【特許文献3】特開2003−121332号公報
【特許文献4】特開平11−51841号公報
【0004】
上記した特許文献1、2および4に記載の従来の技術は、インラインでの粘度測定や、連続測定にはコスト面、大きさに関して適していなかった。従って、粘度計を車載化し粘度のリアルタイム測定をすることや、工業プロセスでの品質管理のための粘度モニタリング、などの粘度計のアプリケーションの実現性は低かった。
また、上記した特許文献3に記載の従来の技術は、インラインでの粘度測定を可能にするものであるが、サンプルを回転させる回転体が流体内で非接触式に、かつ、磁気的にステータに軸支される必要があり、また、回転磁場を形成するなど機構的に複雑であり、さらに、非ニュートン粘性まで測定をすることは不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は粘度計における上記の問題点を解決し、小型かつ安価で、非ニュートン粘性の測定まで可能な小型の粘度計を微細加工技術を用いて実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔発明の原理〕
図1は、本発明による粘度測定の原理を説明するための説明図である。
まず、初期段階として図1のステップ1のように、内部の円筒をコイルの電磁力によって引き上げる。その後、コイルの電流を絶ち、電磁力をゼロにすると、円筒はダイヤフラムの弾性力によって元に戻ろうとする。円筒の速度は正弦関数的に増してゆくが、ある所望の速度に達したときに、その速度で一定になるように、
Fc=Kt−K (1)
となるような力をコイルによって加える。このときKは所望の速度vとダイヤフラムのばね定数kの積であり、Kは所望の速度vに達した時の位置に関係する正の定数である。
速度が一定になった状況で、円筒の変位量センサーによって、変位量xと速度vを測定する。得られた変位量xと速度v、および加えた力の大きさFcを用いて次式によって粘度ηを算出する。
η=l(kx−Fc)/S・v (2)
この式中のlは円筒と孔の隙間、Sは円筒の側面の面積である。
この測定を様々な粘度で行うことで、非ニュートン粘度を含む粘度を測定できる。
【0007】
〔解決手段〕
上記目的を達成するため本発明の粘度計は、基板に形成された円筒状の孔と、該孔に径方向の隙間を有して嵌入される円筒状の可動子と、該可動子の上下面および前記基板の上下面にそれぞれ密着・固定され前記隙間の上下を封止するダイヤフラムと、前記可動子を軸方向に変位させるアクチュエータと、該アクチュエータを制御する制御手段と、前記可動子の変位を測定する変位量センサーと、前記孔と可動子との隙間内に測定対象の試料を注入、排出する試料導入口および排出口とを備えることを特徴としている。
また、本発明の粘度計は、微細加工技術を用いて作製されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘度計は、液体の非ニュートン粘度まで含めた粘度をリアルタイム、その場で、安価にセンシングすることが可能になる。そのため、液体を扱う多くの産業で、粘度センサーのリアルタイム測定値を、流量の制御や、品質管理などを行うための指標のひとつとして用いることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図2は本発明の実施の形態に係る粘度計の要部を示す斜視図であって、制御手段および電源等は省略されている。
また、図3は、図2の断面図である。
【0010】
図2および3において、基板1は、例えばシリコンからなり、一定の厚みを有し、中央部に円筒状の孔2を有する。
円筒状の孔2内には、該孔2の内径より小さい外径を有し、孔2の高さと同じ高さ(基板1の厚さと同じ高さ)を有する円筒状の可動子3が孔2の中心に中心を有するようにして嵌入されている。このため、円筒状の孔2内面と円筒状の可動子3外側面との間には隙間4が形成される。
可動子3および基板1のそれぞれの上下面に密着・固定され、前記隙間4の上下を覆って封止するように2つのダイヤフラム5、5が設けられている。このダイヤフラム5は薄い板状のばね部材から形成されるもので、図2、3に示す例では、1枚の薄い板状のばね部材で基板1の上面あるいは下面の全体を覆うように設けられている。
【0011】
基板1の上面側には、測定対象の液体を前記隙間4に注入するための試料導入口6が、また、基板1の下面側には隙間4から測定対象の液体を排出するための試料排出口7が穿設されている。隙間4への試料の注入あるいは排出は、圧力差の利用、あるいは、図示しない内蔵ポンプ等によって行われる。
【0012】
円筒状の可動子3をその軸方向上下に変位させるためアクチュエータが設けられる。図2および3に示す例では、このアクチュエータは、隙間4の内側に位置する可動子3の上下面および隙間4の外側に位置する基板1の上下面にそれぞれ設けられた電磁コイル8、9により構成されている。
これらの電磁コイル8、9には、図示しない電源から電流が供給されるようになっており、電流の大きさおよびオン・オフ制御するための制御手段が設けられる。
上記アクチュエータを構成するものとしては、上記した電磁コイルを設ける他、可動子3に圧電素子を結合して変位を与えたり、あるいは、可動子3の下面に対向電極を設置し、その静電気力によって変位させるようにしたもの等がある。
【0013】
円筒状の可動子3の変位量を測定するため、変位量センサーが設けられる。図2および3に示す例では、この変位量センサーは、前記隙間4にまたがるようにして上下のダイヤフラム5、5にそれぞれ接着して設けられた4つのひずみゲージ10からなるホイートストンブリッジにより構成されている。
これらのひずみゲージ10の両端には引出線が接続され、ひずみを電気量に変換して可動子3の変位量を測定する。
上記変位量センサーを構成するものとしては、上記ひずみゲージの他、静電センサー、圧電センサー等がある。
【0014】
上記した粘度計において、小型の粘度計を作製する場合は、微細加工技術を用いて作製されるのが望ましい。すなわち、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路を1つのシリコン基板上に集積化したデバイスとして形成されることが望ましい。
【0015】
上記の装置を用いた測定対象の液体の粘度測定は、以下の要領により行う。
(1)試料液体を、内部に設けられた試料導入口6から、可動子3と孔2との隙間4に流入させ、隙間4を埋めるようにして充填する。
(2)電磁コイル8、9に通電して円筒状の可動子3を上方に引き上げる。その際、ダイヤフラム5が変形される。
(3)電磁コイル8、9への通電を停止し、電磁力をゼロにする。
(4)円筒状の可動子3がダイヤフラム5の弾性力により元に戻ろうとし、その速度を次第に増加させる。
(5)円筒状の可動子3の速度が一定値に達したときに、電磁コイル8、9に通電して、可動子3の速度が一定になるように制御する。電磁コイル8、9への通電量により可動子3に加えた力Fcがわかる。
(6)可動子3の速度が一定になった状態でひずみゲージ8からなる変位量センサーにより可動子3の変位量xおよび速度vを測定する。
(7)上で求めた力Fc、変位量x、速度v及び既知である隙間の幅l、ダイヤフラムのバネ定数k、可動子の側面の面積Sの値を上記の式(2)に代入して試料液体の粘度ηを求める。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、小型、軽量、安価の粘性センサーであって、自動車のエンジンオイルの粘度をリアルタイムに測定するセンサー、あるいは自動車用燃料の粘度センサー、あるいは船舶用エンジンのエンジンオイルのリアルタイム粘度センサー、あるいは船舶用燃料の混合比のモニタリング用粘度センサー、あるいは印刷業におけるインクの粘度モニタリング用センサー、あるいはフィルム製造業における塗布液の粘度モニタリングセンサー、あるいはコーティング業における塗布液の粘度モニタリングセンサー、あるいはペイント業の塗布液の粘度モニタリングセンサー、あるいは製本業における製本用のりの粘度モニタリングセンサー、あるいは合板製造業における合板接合用接着剤の粘度モニタリングセンサー、あるいは電子製品製造業におけるプリント基板のコーティングにおける塗布液の粘度モニタリングセンサー、あるいはスピンコーティングを用いるあらゆる産業における塗布液の粘度モニタリングセンサー、あるいは食品製造業における液体の粘度モニタリングセンサー、あるいは粘度測定を元にした温度計、として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による粘度の測定の原理を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る粘度計の要部を示す斜視図である。
【図3】図2の断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 基板
2 円筒状の孔
3 円筒状の可動子
4 隙間
5 ダイヤフラム
6 試料導入口
7 試料排出口
8 電磁コイル
9 電磁コイル
10 ひずみゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された円筒状の孔と、該孔に径方向の隙間を有して嵌入される円筒状の可動子と、該可動子の上下面および前記基板の上下面にそれぞれ密着・固定され前記隙間の上下を封止するダイヤフラムと、前記可動子を軸方向に変位させるアクチュエータと、該アクチュエータを制御する制御手段と、前記可動子の変位を測定する変位量センサーと、前記孔と可動子との隙間内に測定対象の試料を注入、排出する試料導入口および排出口とを備えることを特徴とする粘度計。
【請求項2】
微細加工技術を用いて作製されることを特徴とする請求項1記載の粘度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−58340(P2009−58340A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225285(P2007−225285)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)