粘弾性フォノニック結晶
防音材および防音方法を開示する。本開示の一態様では、防音材は、粘弾性固体などの第1固形媒体、および空気などの第2媒体を有する。前記2種類の媒体の少なくとも一方は、もう一方の媒体中に配設されて周期性配列を形成する。前記固形媒体は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有し、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍の速度となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許仮出願番号第61/015,796(出願日:2007年12月21日)に基づいて優先権を主張するものであり、前記出願の全ての記載をここに引用するものである。
【0002】
本発明は防音材に関するものであり、具体的にはフォノニック結晶を用いる防音材に関する。
【背景技術】
【0003】
防音材および防音構造物は、防音産業において重要な用途を有している。防音産業で従来使用される吸音材、反射材および障壁などの材料は、周波数選択的な騒音調整を備えなくても広い周波数領域にわたり有効である。有効な騒音防止装置によって周波数選択的に騒音を減少させることができる。しかし、一般にこのような騒音防止装置は、閉塞空間において最も効果を発揮するもので、電力供給用および制御用電子装置への投資およびそれを操作することが必要になる。
【0004】
周期的で非等質的な媒体である、フォノニック結晶は、音響通過バンドおよび帯域ギャップを有する防音材として利用されてきた。例えば、空気中に銅チューブを周期的に並べた配列、軟弾性素材で被覆した高密度中心部をもつ複合成分を周期的に並べた配列、および空気中に水を周期的に並べた配列などが、周波数選択的な特性を有する防音材を生み出すために用いられてきた。しかし、こうした試みには、一般に、帯域ギャップが狭くなる、または音響用には高すぎる周波数で帯域ギャップを生じる、および/または物理的にかさ高い構造を必要とするなど様々な欠点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.O.Vasseur,P.A.Deymier, A.Khelif, Ph.Lambin, B.Dajfari−Rouhani, A.Akjouj, L.Dobrzynski, N. Fettouhi,およびJ.Zemmouri,“Phononic crystal with low filling fraction and absolute band gap in the audible frequency range:A theoretical and experimental study,”Phys.Rev.E65,056608(2002)
【非特許文献2】Ph.Lambin,A.Khelif,J.O.Vasseur,L.Dobrzynski,およびB.Dajfari−Rouhani, “Stopping of acoustic waves by sonic polymer−fluid composites,”Phys.Rev.E63,06605(2001)
【非特許文献3】Z.Liu,X.Zhang,Y.Mao,Y.Y.Zhu,Z.Yang,C.T.Chan,P.Sheng,Science 289,1734頁(2000)
【非特許文献4】Polymer Handbook,第3版、J,BrandupおよびE.H.Immergut編、Willey,NY,1989
【非特許文献5】Tanaka Yukihiro,Yoshinobu Tomoyasu,およびShinichiro Tamura,“Band Structure of acoustic waves in phononic lattices:Two−dimensional composites with large acoustic mismatch.”PHYSICAL REVIEW B(2000):7387−7392頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、従来技術の欠点を減らした、より優れた防音材が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般に防音材に関するものであり、より具体的には粘弾性材料を用いて構成したフォノニック結晶に関する。
【0008】
本開示の一態様では、防音材は、(a)第1密度をもつ第1媒体、および(b)前記第1媒体中に配設した略周期性配列構造体を有し、前記構造体は、前記第1密度と異なる第2密度をもつ第2媒体で作られる。前記第1媒体および第2媒体の少なくとも一方は、固形粘弾性シリコンゴムなどの固形媒体である。この固形媒体には、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度があり、前記縦方向音波の伝播速度は前記横方向音波の伝播速度の少なくとも約30倍の速度となる。
【0009】
本開示中に用いる「固形媒体」は、その媒体の定常緩和係数が、長時間の限定内で有限値、つまり非ゼロ値となる傾向をもつ媒体である。
【0010】
また、本開示の別の態様では、防音材の製造方法に関する。ある形態では、前記方法は、(a)縦方向音波の伝播速度、横方向音波の伝播速度、および複数の緩和時間定数をもつ粘弾性材料を有する第1の候補媒体を選定する工程、(b)第2の候補媒体を選定する工程、(c)前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部に基づいて防音材の音響透過特性を決定する工程を有し、前記第1および第2の候補媒体の一方に前記第1および第2の候補媒体のもう一方を埋め込んで略周期的に並べた配列を前記防音材は含み、さらに、防音材の音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するために、前記第1および第2の候補媒体を使用するかどうかを決定する工程を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マックスウェルモデルおよびケルビン−フォークトモデルを示した図である。
【図2】マックスウェル−ヴァイヒェルトモデルを示した図である。
【図3】本開示の一態様に係るポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体の2次元配列の断面図を概略的に示す。前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行である。格子定数a=12mm、筒状体直径D=8mmである。
【図4】本開示の別の態様に係る、空気中に埋め込んだハニカム格子に配設したポリマー筒状体の2次元配列の断面図を概略的に示す。前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行である。垂直格子定数b=19.9mm、水平格子定数a=34.5mm、および、筒状体直径D=11.5mmである。
【図5A】ポリマーマトリックス中の空気筒状体配列について計算したスペクトル透過係数を示す。
【図5B】図5Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図6】ポリマーマトリックス中の空気筒状体配列に関する透過パワースペクトルの測定結果を示す。
【図7】ポリマーマトリックス中に充填率f=0.349で埋め込んだ空気筒状体からなる2次元正方格子において、有限差分時間領域(FDTD)法を用いて求めたバンド構造を示す。波数ベクトルの方向は前記筒状体の軸と垂直になる。
【図8A】ポリマーマトリックス中に充填率f=0.349で埋め込んだ空気筒状体からなる2次元正方格子中、単一モード(縦方向音響波だけの)における分散相関をプロットした図である。波数ベクトルの方向は前記筒状体の軸と垂直になる。
【図8B】図8Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図9】縦方向の刺激信号に相当する透過横方向波について、せん断透過係数をプロットした図である。
【図10】ポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について計算した、横方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図11】シリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、横方向波速度の様々な値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図12A】緩和時間τ=10−5秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図12B】図12Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図13】緩和時間τ=10−6秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図14】緩和時間τ=10−8秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図15A】無次元の平衡引張係数α0=0.5をもつシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々な緩和時間値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図15B】図15Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図16A】シリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列中での縦方向波について、一般8要素マックスウェルモデルに基づいて求めた透過係数のスペクトル図を示す。
【図16B】弾性ゴム中、シリコン粘弾性ゴム中、およびシリコンゴム−空気からなる空気筒状体複合構造中における透過振幅スペクトルを比較した図を示す。
【図17】空気中のハニカム格子上に配設した隣接ポリマー筒状体配列のスペクトル透過係数を示す(筒半径=5.75mm、六方格子パラメータ=19.9mm)。波の伝播方向の前記構造物の全体の厚みは103.5mmである。
【図18】緩和時間10−4秒をもつ空気中のハニカム格子に配設した隣接ポリマー筒状体配列について測定した、様々なα0値に対応する様々な透過係数を比較した図を示す。
【図19】空気中のハニカム格子上に配設した隣接ポリマー筒状体配列を、一般8要素マックスウェルモデルと弾性モデルとに基づいて求めたスペクトル透過係数の対比図を示す(筒半径=5.75mm、六方格子パラメータ=19.9mm)。波の伝播方向の前記構造物の全体の厚みは103.5mmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.概要
本開示は、周波数選択的に音響波を、特に可聴周波数域における音響波を遮断するフォノニック結晶に関する。
【0013】
空気中の音の波長よりも短い距離で、またはそれと同じ次数の距離で音の伝播を防止する構造物を設計することは、防音における課題である。こうした素材の開発において、少なくとも2種類の取り組みが行われてきた。第1の取り組みは、マトリックッス中に封入体を周期的に配列することにより弾性波をブラッグ散乱する方法に基づくものである。帯域ギャップの存在は、封入体およびマトリックス素材の物理的および弾性的特性、封入対の充填率、配列と封入体の幾何学的配設における差異に依存する。低周波数でのスペクトルギャップは、長い周期(および大きな封入体)および音の伝播速度が遅い素材をもつ配列の場合に生じることがある。例えば、非特許文献1では、正方単位セルの端縁部に平行な方向に沿って伝播する音響波において、4−7kHz範囲の明確な音響ギャップを、空気中の銅中空筒状体(直径28mm)を正方配列することで得ている。また、非特許文献2では、センチメートルサイズの構造物について、水/空気複合媒体によって広域なストップバンドが1kHzの低周波数まで広がることが示されている。また、第2の取り組みでは、共鳴性をもつ軟弾性素材(いわゆる「局所共鳴素材」)で被覆した重い封入体を有する構造物を使用している。非特許文献3参照。この非特許文献3では、共鳴周波数が非常に低いことが報告されているにもかかわらず(ブラッグ周波数よりも2桁低い)、生じた帯域ギャップは狭い。従って、広いストップバンドを達成するためには、様々な複数の反響構造物を重ねて合わせて使うことが必要と思われる。
【0014】
前記非特許文献が記載した構造物は予想した(いくつかのケースでは実験で示された)帯域ギャップを示すが、一方で、普通これら構造物は、超音波周波数(20kHz+GHzまで)に有効である。従って、可聴周波数制御を目的にしたとき、構造物は巨大(直径数センチメートルの金属管などを、立方デシメートルまたは立方メートルの外周サイズをもつ配列中に配設したもの)で重いものとなってしまう。従って、ほどよい外周サイズ(数センチ以下)をもち軽量な構造物を設計および構築することは、可聴周波数制御における課題である。
【0015】
本開示のある態様では、線形粘弾性材料で、いくつかは市販で入手可能な材料を用いて、可聴領域中に帯域ギャップを有するフォノニック結晶構造物を構築できる。前記材料は、軽量であるとともに数センチメートル以下の外周サイズをもつ。設計パラメータを調整することで、帯域ギャップの周波数、数、および領域幅を調整することができる。こうした設計パラメータには以下のものが含まれる。
・格子の種類(例えば、2次元(2D):正方格子、三角格子など。3次元(3D):面心立方格子(fcc)、体心立方格子(bcc)など)。
・地点間の距離(格子定数、a)。
・単位セルの構成および形状(2次元では、封入体が占有する単位セルの分画面積。これは充填率、fとしても知られる)。
・封入体およびマトリックス素材の物理的特性(例えば、密度、ポアソン比、種々の係数、縦方向モードおよび横方向モードにおける音の速度など)。
・封入体の形状(例えば、棒状、球状、中空棒状、角柱状など)。
【0016】
本開示の一態様では、ゴム/空気による、小さなサイズの音響帯域ギャップ(ABG:acoustic band gap)構造物を用いて、1kHz以下の相対的に低いギャップ末端をもつ非常に広範囲な可聴周波数帯で、縦方向音響波を減衰することができる。こうしたABG構造物は、必ずしも完全な帯域ギャップを示す必要はない。しかし、ゴム内部における音波の横方向速度は、縦方向の音波の速度よりも2桁近く遅いので、縦方向モードおよび横方向モードを有効に緩和することができる。こうした固体/液体複合体は、縦波の透過に対し、基本的に液体/液体系のように作用することが見出されている。従って、有効な防音材として、こうしたゴム/空気によるABG構造物を使用できる。
【0017】
一般的に、粘弾性媒体を用いてフォノニック結晶を構築することができる。また、本開示の別の態様では、コンピュータモデリングを用いて、前記複合媒体の透過スペクトルに関する粘弾性効果を予測することで、少なくとも部分的にフォノニック結晶の音響特性を選定することができる。例えば、有限差分時間領域法(FDTD:finite difference time domain)を用いて、非等質粘弾性媒体における透過スペクトルおよび音響バンド構造を計算することができる。また、粘弾性媒体に通常存在する多緩和時間を基盤に用い、粘弾性媒体に関する圧縮性一般線形粘弾性液体の構成相関と組み合わせて、一般化マックスウェルモデルなどのモデルを使用してスペクトル応答を計算することができる。
【0018】
また、本開示の別の態様において、従来の弾性−弾性フォノニック結晶とは異なり、相対的に軽い媒体からなるマトリックス中に相対的に密度の高い相を埋め込む場合、線形粘弾性液体からなるマットリックス中に埋め込む封入体として、空気筒状体を使用する。
【0019】
II.構造物の例
A.材料の選定
本開示の一態様では、音の伝播速度が遅い特性をもつように、可聴領域にフォノニック結晶を構築するための材料を選定する。この選定は、帯域ギャップの中心周波数は結晶を通って伝播する波の平均速度に直接比例するという、ブラッグ則の結論に従うものである。なお、対象とする周波数では、音の速度が減少するにつれて音の波長も短くなる。波長が短くなると、圧力波が小さな構造物と起こす相互作用がより大きくなると考えられているので、可聴周波数活性およびセンチメートル以下の外周サイズを有するフォノニック結晶を合成することが可能である。低い弾性係数および高密度の両方の性質をもつ材料は有用であるといえる。それは、こうした材料では音の速度が低くなるためであり、また通常の材料では弾性係数が減少するに従って密度も減少するからである。ある種のゴム、ゲル、泡などを、上記の好適な特性の組み合わせをもつ材料として選定してもよい。
【0020】
また、ある種の市販で入手可能な粘弾性材料は、潜在的に魅力的な候補材料となるような特性を有している。第1に、こうした材料の機械的応答性は、様々な周波数にわたり変化するので、注文に応じた用途にも好適である。第2に、こうした材料は、線形弾性素材にはない散逸性機構を提供する。第3に、こうした材料中の音の縦方向速度は通常1000m/sオーダーであるのに対して、横方向の音の速度は縦方向の速度よりも1桁以上遅いことが観測されている。また、周波数に対して一定の弾性係数をもつ弾性材料が、種々の周波数にわたって一定の縦方向および横方向速度をもつのに対して、線形粘弾性材料は、周波数を減少させるのに従って減少する(動的)弾性係数を有している。以上のことは、音響的により低い周波数では、速度がより遅くなるほうが好適であることを意味している。
【0021】
線形粘弾性材料で観測される上記現象は、線形弾性材料の特性とは際立って対照的である。従って、粘弾性材料を含むフォノニック結晶は、その単なる弾性材料の対照物に比べて、異なった、および音響的に優れた挙動を示す。より具体的には、粘弾性があることによって、帯域ギャップが広がるだけではなく帯域ギャップの中心周波数を低周波数側に移行させることが可能になる。
【0022】
B.コンピュータモデリングを用いた粘弾性フォノニック結晶の設計
本開示の別の態様としては、コンピュータモデリングを用いてフォノニック結晶を設計することがある。このコンピュータモデリングでは粘弾性材料に存在する多数の特徴的な緩和時間を考慮する。ある態様では、時間領域における支配微分方程式を有限差分方程式に変換して少増加分における時間の一要素として方程式を解くFDTD法を用いて、多要素モデルにより防音材の音響特性を計算で求める。コンピュータモデリングを用いた粘弾性フォノニック結晶防音材の設計過程の詳細については、補遺を参照されたい。
【0023】
また、本開示の別の態様では、固体/固体および固体/液体の周期性2次元2成分系における弾性波および粘弾性波の伝播を計算で求める。こうした周期的な系のモデルとしては、等方的材料(マトリックス)Bに埋め込まれた等方的材料Aからなる無数の筒状体(円形断面をもつ)配列がある。ここで、直径dである前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行であると仮定する。続いて、前記配列は、X軸およびY軸の2方向に無限に伸びているとし、探査用の波の伝播方向(Y軸方向)では有限であると仮定する。前記筒状体の全ての軸と横平面(XOY)との交差から、特定の幾何学的特徴をもつ2次元周期性配列が形成される。刺激(入力信号)音波は、コサイン変調ガウス波形として捉えられ、これによって、中心周波数500kHzの広域帯信号を発生する。
【0024】
例えば、2種類の構造物に対して計算を行うとする。第1の構造物は、密度=1260kg/m3、縦波速度=1200m/s、および横波速度=20m/sである、ゴム状の粘弾性材料(ポリシリコンゴムなど)で構成する。
【0025】
図3に示すように、粘弾性マトリックス310中の封入体は、空気の筒状体320である。ここで、ムア吸収境界条件を適用するために、入口領域および出口領域を、前記区域中「α0=1」と設定してY軸方向に沿って試料の両端に付け加える。これらの領域は、弾性媒体として働くので、ムアの条件は変更しないままにする。しかし、弾性領域から粘弾性領域への移行では、音響波の反射が若干生じるものとする。このモデルでは、格子パラメータ「a」は12mmであり、筒状体直径は8mmである。
【0026】
また、第2の構造物を図4に示す。この構造物は、空気マトリックス410からなり、このマトリックス中に、六角形の1辺が11.5mmであるハニカム格子に配設した隣接ポリマー筒状体420(筒状体半径5.75mm、六方格子パラメータ19.9mm)の配列を埋め込んである。また、波の伝播方向に垂直方向の前記構造物の厚さの合計は、103.5mmである。前記筒状体は先に記載したのと同じポリマーで製造され、その外側の媒体は空気である。
【0027】
C.物理的防音材の例
本開示の一態様では、ポリマーマトリックス中に埋め込んだ36個(6×6)の平行な空気筒状体の正方配列で構成した2成分複合材料からなる試料について、実験に基づき測定する。このポリマーはシリコンゴムである(Dow Corning HS II RTV High Strength Mold Making Silicon Rubber、米国ウイスコンシン州、ジャーマンタウン、Ellsworth Adhesives社から入手可能。または、http//www.ellsworth.com/display/productdetail.htm?productid=425&Tab=Vendorsから入手可能)。なお、格子は12mmであり、筒状体の直径は8mmである。この試料の物理的サイズは、8×8×8cmである。前記ポリマーを測定して得た物理的特性は、密度=1260kg/m3および音の縦方向速度=1200m/sである。この材料中、音の横方向速度は、様々なゴムの物理定数の発表データから、およそ20m/秒であると推定した。例えば、非特許文献4参照。
【0028】
この実験で用いた超音波発信源は、パルサー/レシーバーモデル500PR付きPanametrics delta broad−band 500kHz P−トランスデューサである。また、信号の測定には、GPIBデータ集積カードを備えたTektronix TDS 540オシロスコープを用いた。測定した送信信号は、GPIBカードを経由してLab View によって集積し、続いて、コンピュータで処理した(平均化処理およびフーリエ変換処理)。
【0029】
先ず、円筒状のトランスデューサ(直径3.175cm)を、複合体試料検体の表面中央に設置した。次に、前記超音波放射源によって粗密波(P波)を発生させ、受信用トランスデューサによって送信波の縦方向成分だけを検出した。送信パルスと受信信号との時間遅延に基づく標準的な方法を用いて、音の縦方向速度を測定した。
【0030】
D.計算で求めた特性および実際の特性に関する結果の例
1.ゴムマトリックス/空気封入体
a.ゴム/空気構造物中での透過性
i)弾性的FDTD法
図5Aおよび図5Bに、ポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体の2次元配列から得られた、FDTD透過係数のコンピュータ計算値を示す。ここで、弾性材料の限界をα0=0とした。この透過スペクトルは、一般線形粘弾性方程式(25)、(26)および(27)を、各時間工程を7.3nsかけて221時間工程にわたり解くことにより得た。計算格子間隔5×10−5mで、XおよびY軸方向に空間を分散した。マトリックス材料からなる弾性等質媒体中で送信したスペクトルパワーと、複合体中で送信したスペクトルパワーとの比として、透過係数を計算した。
【0031】
なお、図5Aのスペクトルには2つの帯域ギャップがある。最も重要な帯域ギャップは、1.5kHzから87kHzのギャップであり、次に重要なギャップは90kHzから125kHzのギャップである。また、図5Aのスペクトルで、明確な周波数において、透過バンドが狭い範囲で急峻な減少を示している。こうした透過の減少は、空気筒状体の振動モードに対応する平坦なバンドと複合体バンドとの混成から得られたものである。こうした平坦なバンドが生じた周波数は、第1種ベッセル関数の1次導関数が0である解から得られる。つまり、J‘m(ωr/c)=0である。ここで、cは空気中の音の速度、rは空気筒状体の半径、mはベッセル関数の階数を表す。
【0032】
ii)測定
図6に、シリコンゴムマトリックス(上記参照)中に埋め込んだ36(6×6)個の平行な空気筒状体の正方配列からなる2成分複合材料の試料について測定した複合的パワースペクトルを示す。
【0033】
図6の透過スペクトルは、1kHzから200kHzで透過強度の明確な減少を示す。このスペクトル領域は、ノイズレベル強度だけを測定した周波数間隔(1−80kHz)に分解することができ、次に、80kHzから200kHzの透過強度が続く。図5Aおよび図5Bに示した、FDTD法によるシミュレーションで得た結果と比較すると、実験で得た帯域ギャップは、計算値の帯域ギャップよりも相対的に狭い。この結果は、非弾性的効果が何かの役割を果たしていることを示唆している。このことについて、さらに以下に述べる。
【0034】
図6では、ノイズのような透過が若干見られるものの、可聴領域、より具体的には約1−2kHzから75kHz超の領域で、極めて透過が低下していることを示している。従って、ここで用いた材料および他のゴム状材料は、大変優れた防音用候補材料となることが可能である。
【0035】
b.バンド構造
次に、FDTD法および実験で得たスペクトルをさらに解明するために、シリコンゴム−空気封入体構造によるバンド構造について計算した。 図7に、正方格子の第1ブリュアンゾーンの非帰結部分のGX方向に沿った、音響波に関する分散相関を、FDTD法で計算した結果を示す。なお、FDTDスキームでは、単位セル中、N×N=2402ポイントの格子とした(円形断面の中心空気封入体をもつポリマー正方形、充填率 f=0.349)。図7では、構成材料(ポリマー−空気)の間に大きな音響ミスマッチがあるのにもかかわらず、プロットした周波数領域中に完全なギャップは存在しない。この格子の分散相関の顕著な特徴は、視覚的に平坦な分岐が多数表れていることである。こうした分岐が存在することは、大きな音響ミスマッチをもつ材料で構成した複合構造の、もう一つの特徴である。計算で求めたバンド構造と透過係数との比較から、バンド構造中のほとんどの分岐が非可聴バンド(透過の計算に用いた縦方向のパルスによって励起することができない対象性をもつモードなど)に対応することが示される。こうした分岐は図5Aおよび図5Bの透過スペクトルに見られる分岐と合致する。
【0036】
前記非可聴バンドの存在は、ポリマーの横波速度がゼロに等しくなると思われる第2バンド構造の計算から確認される。つまり、ゴム/空気系は、液体様/液体複合体で近似できる。FDTD法(単位セル中、N×N=2402ポイントの格子をもつ)で計算して求めた分散相関を、図8Aおよび図8Bに示すが、バンド数が顕著に減少している。このバンド構造は、構造の縦方向モードだけを表す。従って、ゴムの横方向モードのブリュアンゾーン内に折りたたんで得られるバンドに、図8A、図8Bにはない図7の分岐を、当てはめることができるのは明らかである。ゴム中の音の横方向伝播速度が非常に遅い(20m/s)ために、横方向の分岐は非常に高い密度となる。
【0037】
図8Aは、1kHzから89kHzまでの第1ギャップおよび90kHzから132kHzまでの第2ギャップの、2つの大きなギャップを示す。図8Bは、図8Aの分散相関の第1領域を、より詳細に示した図である。第1の通過バンドの上端が約900Hzであることが分かる。
【0038】
明確に分かりやすくするために、空気筒状体の平坦バンドを、図8Aおよび図8Bから除いた。第1の5つの平坦バンドについて行ったFDTDバンド計算から得た周波数を、表Iに示した。こうした周波数は、第1種ベッセル関数の1次導関数を0とした解に一致する。なお、J‘m(ωr/c)=0であり、cは空気中の音の速度、rは空気筒状体の半径、mはベッセル関数の次数を表す。
【0039】
従って、図5Aおよび図5Bの透過スペクトルの通過バンドが、シリコンゴム/空気系の縦方向モードの励起に相当することは明らかである。
【0040】
表I.半径r=4mm、周期a=12mmをもつ、シリコンゴム中の空気筒状体における完全正方格子の固有振動数。(mはバンドを求めたベッセル関数の階数)
【表1】
【0041】
c.横方向の刺激
図9は、刺激粗密波束に対応する透過せん断波のパワースペクトルを示す。このスペクトルは、変位のX成分(パルスの伝播方向に垂直な成分)の時間応答をフーリエ変換である。図9は、図7のバンド構造で予測したようにゴム/空気複合体を通って、横方向モードが伝播することを示す。しかし、透過したせん断波の強度が非常に弱いことは、粗密波からせん断波への変換率がほとんど無視できることを示す。
【0042】
次に、第2のシミュレーションでは、構造物は、音響せん断波だけによって刺激されると仮定する。図10の透過スペクトルは、音の横方向速度が非常に遅いために、非長に長い積算時間(7.3nsで10×106時間工程)を要するFDTD法を用い、透過せん断波について計算して求めた。図10の透過スペクトルには、2つの帯域ギャップが見られた。第1の帯域ギャップは540Hzから900Hzに位置しており、第2の帯域ギャップは、4150Hzから4600Hzに位置する。仮に、粗密波に対応するバンドを除いたとした場合、これらのギャップは図7に示したバンド構造とよく一致する、
【0043】
d.横方向速度の効果
シリコンゴム材料中の異なる値の横方向波の速度を用いてシミュレーションを行う。図11は、シリコンゴム−空気複合体の種々の横方向波速度(Ct=0m/sからCt=100m/s)に対応する縦方向波の透過係数の比較を示した。Ct=0m/sに対応するスペクトル中に既に存在するバンドと比較すると、せん断波(Ct=20−100m/sの異なる横方向速度)に対応する別のバンドが現れるのに気が付く。こうしたバンドは、25kHzよりも低周波数で90kHzから130kHzの周波数の間に最も多く現れる。
なお、前記材料中で横方向波が変化したときでも、Ct=20m/sにあるバンドは位置を変えない。
【0044】
e.粘弾性の効果
i).単一マックスウェル要素
縦方向波の実験的透過スペクトルとシミュレーションした系とをさらに比較研究するために、ゴム/空気系特性の粘弾性効果をコンピュータで求めた。また、同じシミュレーションを、粘弾性シリコンゴムマトリックスに埋め込んだ空気筒状体の2次元配列について7回実行する。以下のシミュレーションでは、ゴムの粘弾性レベルを決定するα0および緩和時間τの、2つの変数を用いた。緩和時間の値を10−2sから10−9sの範囲で変化させ、種々のα0値(0.75、0.5、0.25および0.1)を用いて、全てのτ値についてシミュレーションを行なう。
【0045】
図12A、図12Bは、緩和時間を10−5sとし、種々のα0値(0.25、0.5、0.75、および最後にα0=1)に対応する様々な透過スペクトルを示す。
【0046】
α0が減少するにしたがいマトリックスの粘性は増加するので、高周波の透過率係数が減少して、通過バンドはより高周波数側にシフトする。
【0047】
図12Bに示すように、最も低い通過バンドの上端は、音響波を減衰ささせるロスのために透過係数レベルの減少以外はあまり影響を受ないように見える。
【0048】
また、10−2sから10−5sで変化する緩和時間の透過スペクトルにも、同様のことが観測された。緩和時間τが10−6sから10−7sになると、透過スペクトル中の高周波数バンド(150kHzから500kHz)は非常に減衰する。
【0049】
図13は、τ=10−6sについての種々のα0値に対応する様々な透過スペクトルを示す。なお、150kHz(図12A、図12B中)以上にあるバンドは図13では非常に減衰する。第1通過バンドは、この効果によって影響を受けないように見える。
【0050】
緩和時間τが非常に短く(10−8s未満)なると、透過スペクトルはもはや強く減少しない。α0が減少するにしたがい、マトリックスの粘弾性は高くなるので、通過バンドは一層減衰するが、周波数シフトはしない。図14は、緩和時間10−8sをもつ種々のα0値に対応する異なる透過スペクトルを示す。α0値が小さくなるに伴って減衰も大きくなるが、バンドの位置は変化しない。
【0051】
図15Aおよび図15Bは、α0値を0.5に固定し、10−3sから10−8sに変化させた種々の緩和時間τ値に対応する透過係数の比較を示す。なお、図15Aで、10−3sから10−6sで変化したτについて、150kHzから400kHzまでの周波数で、透過率の低下が存在する。τ=10−6sのこうしたバンド中で、減衰は最大になる。緩和時間が短いとき(τ=10−8s)、130kHzで始まる周波数で透過が再び現れ、それ以上の周波数は、弾性スペクトル(α0=1.0)中の通過バンドの始点に相当する。
【0052】
図15Bに、図15Aの透過スペクトルの第1領域をより詳細に示した。なお、図15Bにおいて、10−3sから10−4sで変化したτに対して、第1通過バンド中に最大透過減少が存在する。また、τ=10−4s付近で減衰が最大に達するとき、周波数シフトが見られる。
【0053】
ii)一般多要素マックスウェルモデル
本開示の別の態様では、表IIに示した8個の要素を用いて、上記のような再帰法に基づき、多要素マックスウェルモデルを使用した。
【0054】
【表2】
表II:シュレーションで用いたαi値およびτi値
【0055】
図16Aに、シリコンゴム−空気複合体について、一般多要素マックスウェルモデルによる縦方向波の透過係数を示す。図からは、2kHzより帯域ギャップが始まり、高周波数領域には他の透過ギャップはないことが分かる。また、1kHzと2kHzの間のバンドの透過レベルが減少しているのも明らかである(8%未満に)。
【0056】
次に、図16Bに、同じ幅と弾性特性をもつ、弾性ゴム、シリコン粘弾性ゴム、およびシリコンゴム−空気複合構造物中の各透過振幅スペクトルの比較を示した。シリコン粘弾性ゴム構造物は高周波数の透過スペクトルで減衰を示したが、シリコンゴム−空気複合体構造物が示したような低周波数での帯域ギャップは示さない。この結果は、シリコンゴムマトリックス中に周期的に並んだ空気筒状体配列の存在が重要であることを示している。なお、マトリックス材料で構成した弾性等質媒体中を透過するスペクトルパワーと、複合体中を透過するスペクトルパワーとの比として、透過係数を計算して求める。
【0057】
2. 空気マトリックス/ゴム封入体
a.空気/ゴム構造物中の透過
空中に埋め込んだハニカム格子に配設したポリマー筒状体配列全てについて計算を実行する(図4参照)。この構造体の透過係数(図16Aおよび図16Bに示す)は、非常に長時間の積算(14nsで2.5×106時間工程数)によるFDTD法を用いて算出した。なお、1.5kHzから始まり50kHzを超えて広がる、長い帯域ギャップがある。また、別のギャップが480kHzと1300kHzとの間に存在する。1300kHzと1500kHzの間にあるバンドの透過レベルは低い(3%)。
【0058】
b.粘弾性の効果
10−4sに固定した緩和時間をもつα0にパラメータを変えて、同様のシミュレーションを空気/ゴム構造物について数回実行する。図18は、種々のα0値(0.25、0.5、0.75、および弾性体に相当するα0=1)に対応する異なる透過スペクトルを示す。なお、α0の減少につれて粘弾性は減少するので、α0=1で1.3kHzから1.5kHzの通過バンドは消失するか、または非常に減衰する。また、第1の通過バンド(480kHz未満)中、明確な変化はない。
【0059】
最後に、図19に、上記の空気/ゴム構造物における弾性モデルに基づくスペクトル透過係数と、一般8要素マックスウェルモデルに基づくスペクトル透過係数との比較を示す。なお、第1の通過バンド(500kHz未満)の振幅に、明確な低下が見られる。また、単一要素誘導法と同様に、α0=1で1.3kHzから1.5kHzの通過バンドが消失する。
【0060】
3.応用例
本開示の態様の応用例として、防音材を構築できる。この防音材は、(a)第1密度をもつ第1媒体と、(b)前記第1媒体中に略周期的に配設した配列構造体を有し、前記構造体は第1密度とは異なる第2密度をもつ第2媒体から製造する。前記第1媒体および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向の音波伝播速度および横方向の音波伝播速度をもつ固形媒体であり、前記縦方向の音波伝播速度は前記横方向の音波伝播速度の少なくとも約30倍の速度であり、少なくとも可聴域の音響周波数であるのが好ましい。
【0061】
また、別の応用例としては、音響壁は、(a)粘弾性素材を有する第1媒体と、(2)前記第1媒体よりも小さな密度をもつ第2媒体(空気などの)を有する。この第2媒体は、略周期的に配設した配列構造体で構成し、前記第1媒体中に埋め込む。
【0062】
また、さらに別の応用例では、防音材の製造方法を考案できる。この製造方法は、(a)縦方向の音波伝播速度、横方向の音波伝播速度、および複数の緩和時間定数をもつ粘弾性材料を有する第1の候補媒体を選定する工程、(b)第2の候補媒体を選定する工程、(3)前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部に基づいて略周期性配列を有する防音材の音響透過特性を決定する工程を有し、前記第1および第2の候補媒体の一方に前記第1および第2の候補媒体のもう一方を埋め込んで略周期的に並べた配列を前記防音材は含み、さらに、(4)防音材の音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するために、前記第1および第2の候補媒体を使用するかどうかを決定する工程を有することを特徴とする。
【0063】
また、さらに別の応用例では、防音方法は、約300mm以下の厚さの上記構成の防音材を用い、約4kHz以下から約20kHz以上にわたる周波数領域中で、少なくとも99.0%の音響パワーを防止する工程を有する。
【0064】
III.まとめ
可聴域(例えば、500kHz近くから約15kHz)に非常に広い遮断バンドを示す適度に小さな構造物を、ゴムなどの粘弾性材料を使用して構築することができる。このような構造物は、必ずしも完全な帯域ギャップを示す必要はない。しかし、ゴムの中の音の横方向速度は縦波速度よりも2桁近く遅いために、縦方向および横方向モードを効果的に緩和することができる。こうした固体/液体複合体は、縦波の透過に関し、液体/液体系と基本的に類似した挙動を示す。
【0065】
粘弾性係数α0およびτを含む材料特性は、周波数依存的であってよく、粘弾性ポリマー−液体複合体中の通過バンドをシフト、または強く減衰させるのに重要な影響をおよぼす。従って、このような材料特性によって、所望の音響特性をもつ防音材を設計することができる。
【0066】
前記した詳細な説明、例およびデータによって、本発明の粘弾性フォノニック結晶、およびその製造方法、使用方法が詳しく述べられる。本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明の多数の実施形態は実施可能であり、本明細書に添付した請求項に本発明は帰するものである。
【0067】
【0068】
この仮定を通して、考慮する物質および対象の変形は「小さい」ものとみなす。この場合、「ひずみテンソル」は、以下の式(1)で定義される。
(式1)
(式1)
ここで、上付き文字Tは転置行列を表す。
【0069】
また、ε・=ε(u・)=ε(v)とする。さらに、考慮するすべての変形は小さいものなので、領域の初期状態をΩ0=Ωと定義し、任意の時間tにおける領域状態Ωtに関する相関ではなく、この初期状態の領域に関する相関関係を考慮する。この仮定によって、単一領域Ωおよび境界δΩを用いて作業することが可能になる。
【0070】
1.モデリング
不可逆的材料中の音響波の伝播について、粘弾性材料の挙動をFDTD法の基礎部分として記述する並行微分方程式を以下に説明する。
【0071】
先ず、対象とする粘弾性材料の幅広い種類を現実的に表す、ある構成関係を選定する。この課題に向けられたレオロジーの幅広い分野によって示されるように、選定すべき相関関係は多い。本発明の一態様中、線形音響波である場合、置換およびひずみは小さいものなので、全ての(非線形の)構成相関関係は、材料の本質に客観的に従う、一つのユニークな形態にすることができる。こうした材料の種類を、一般線形粘弾性液体(GLVF:General Linear Viscoelastic Fluids)と称する。GLVF材料が圧縮性でもあるときは、全応力テンソルは以下の式(2)として与えられる。
(式2)
(式2)
ここで、tは時間、v(t)は速度ベクトル、D(x,t)は以下の式(3)で与えられる変形テンソルの割合を示す。
(式3)
(式3)
また、G(t)およびK(t)は、それぞれ定常せん断係数およびかさ高さ係数を表す。これら係数は、流量測定によって実験的に測定することができて、そのデータは様々な方法に適用できる。バネダッシュポット(以下に示した)などの機械的アナログモデルの使用を含めて、この適用を行うことができる。
【0072】
粘弾性モデル、または効果的に挙動パターンを記述するモデルは、それぞれ弾性因子および粘性因子を表す、バネおよびダッシュポットの組み合わせとして模式的に示される。ここで、バネは、弾性変形の特性を反映すると仮定し、同様に、ダッシュポットは、粘性をもつ流れの特徴を描写するものと仮定する。なお、粘弾性モデルを概略的に構築する最も簡単な方法は、明らかに、直列または並列の何れか一方で、各構成成分を1つずつ結合させてゆく方法である。こうした結合によって、2種類の基礎的粘弾性モデル、つまり、マックスウェルモデルおよびケルビン−フォークトモデルが得られる。図1に、これらのモデルを概略的に示した。
【0073】
マックスウェル−ヴァイヒェルトとしても知られる一般マックスウェルモデルでは、単一の時間定数をもつ緩和が起きないが、一定の分布の緩和時間をもつ緩和は生じるという事実を考慮する。このことは、ヴァイヒェルトモデルにおいては、正確に前記分布を表すために、多数のバネ−ダッシュポットマックスウェル要素が必要であるということによって表現される。図2参照。
【0074】
一般マックスウェルモデルを以下に示す。
(式4)
(式4)
ここで、式5を以下に定義する。
(式5)
(式5)
ここで、α0、αiは、以下のように表される。
こうして、式6または式7を得る。
(式6)
(式6)
(式7)
(式7)
次に式8および式9と表すことができる。
(式8)
(式8)
(式9)
(式9)
このとき、G∞およびK∞は、式10および式11で表される。
(式10)
(式10)
(式11)
(式11)
なお、λおよびμは、ラーメの定数であり、vはポアソン比である。
【0075】
ここで、FDTD法を行うために、2次元空間領域(d=2)について、以下の方程式12および方程式13を展開する。
(式12)
(式12)
【0076】
方程式(8)、方程式(9)および方程式(12)を、方程式(2)に組み合わせると、以下の方程式13が得られる。
(式13)
(式13)
【0077】
上記方程式は、以下の3つの基本方程式で表すことができる。
(式14)
(式14)
(式15)
(式15)
(式16)
(式16)
【0078】
a.単一要素マックスウェルモデル
マックスウェル要素が単一である場合、方程式(8)および方程式(9)は、以下の方程式(17)および方程式(18)で表される。
(式17)
(式17)
(式18)
(式18)
ここで、方程式(14)を以下のように展開する。
(式19)
(式19)
(式20)
(式20)
なお、C11=2μ+λ、C12=λ、およびC44=μなので、方程式(20)は以下のように方程式(21)となる。
(式21)
(式21)
【0079】
あるいは、方程式(21)を時間で微分して、以下の方程式を得る。
(式22)
(式22)
(式23)
(式23)
【0080】
次に、方程式(21)を方程式(23)に導入して、以下の方程式(24)、および最後に方程式(25)を得る。
(式24)
(式24)
ここで、αiは以下の式になる。
(式25)
(式25)
同様の計算をσyyおよびσxyに行って、以下の方程式(26)および方程式(27)を得る。
(式26)
(式26)
(式27)
(式27)
【0081】
b.一般多要素マックスウェルモデル
多要素マックスェルモデルについて、方程式(14)は以下の方程式(28)で表わされる。
(式28)
(式28)
この方程式(28)を展開すると、方程式(29)になる。
(式29)
(式29)
【0082】
さらにこの方程式は以下のようにあらわすことができる。
(式30)
(式30)
ここで、C11=2μ+λ、C12=λおよびC44=μである。
積分および加算処理を行い、以下の方程式を得る。
(式31)
(式31)
【0083】
次に、以下の積分を行って、Ixi(t)となる。
(式32)
(式32)
ここで、w=t−t‘と仮定すると、dw=−dt’となり、方程式(31)に代入して方程式(33)を得る。
(式33)
(式33)
【0084】
ここで、Ixi(t+dt)を計算する。
(式34)
(式34)
(式35)
(式35)
s=w−dt⇒ds=dwと変換することにより、
(式36)
(式36)
(式37)
(式37)
【0085】
最後に、積分計算について回帰式を得る。
(式38)
(式38)
ここで、Ixi(0)=0である。
【0086】
同様の方程式をyy成分およびxy成分について得る。
【0087】
2.FDTDバンド構造
複合材料の音響バンド構造はFDTD法を用いてコンピュータ計算できる。この方法は従来の平面波拡大法(PWE:Plane Wave Expansion)を適用できない構造について使用することができる。非特許文献5参照。XOY平面内での周期性により、格子置換、速度および応力テンソルはブロック定理を満たす以下のように表わされる。
(式39)
(式39)
(式40)
(式40)
(式41)
(式41)
ここで、k=(kx、ky)はブロック波ベクトルであり、U(r,t),V(r,t)およびSij(r、t)は、U(r+a,t)=(Ur,t)およびSij(r+a,t)=Sij(r,t)を満たす周期関数である。「a」は格子翻訳ベクトルである。従って、方程式(25)、(26)および(27)は以下のようにある。
(式42)
(式42)
(式43)
(式43)
(式44)
(式44)
【0088】
3.有限差分法
本開示の一態様では、FDTD法は単一マックスウェル要素とともに使用する。この方法は、時間領域中の微分方程式(方程式(25)、(26)および(27))を有限差分に変換し、時間小増加分における進捗として解く工程を有する。これらの方程式は、2次元粘弾性系にFDTD法を実行するために基礎となる。FDTD法を実行するために、Nx×Nyサブ領域(グリッド)の計算領域を、次元dx、dyを用いて分割する。
【0089】
空間および時間の両方における導関数は、有限差分を用いて近似できる。空間の導関数については、中央差分を使用できるが、このときy方向はx方向にたいしてねじれ形である。また、時間の導関数には、漸進差分を使用できる。
方程式(25)について、位置(i,j)および時間(t)で拡張して、以下の方程式を得る。
(式45)
(式45)
ここで、位置(i,j)および時間(n+1)における応力σxxを、変換領域Ux,Uyおよびベクトル領域Vx,Vyおよび時間(n)における旧応力から計算する。方程式(45)を展開して、以下の方程式を得る。
(式46)
(式46)
上記方程式において、以下の数式が成り立つ。
および
および
また、方程式(26)について、(i,j)で拡張すると、次式(47)となる。
(式47)
(式47)
【0090】
また、方程式(27)について、(i,j)で拡張すると、次式(48)となる。
(式48)
(式48)
ここで、以下の式が成り立つ。
【0091】
方程式を上記のように離散化することで空間導関数について2次精密中心差分を保証できる。なお、領域成分uxおよびuyは、異なる空間位置で中央化しなければならない。
最後に、等方的非等質媒体中の弾性波方程式に従って速度場を求める。
(式49)
(式49)
また、2次元空間において、方程式(49)は以下のようになる。
(式50)
(式50)
および、
(式51)
(式51)
方程式(50)について、位置(i,j)および時間(n)での拡張を行い、次式を得る。
(式52)
(式52)
さらに、方程式(52)を展開して次式を得る。
(式53)
(式53)
【0092】
次に、y方向において以下の式を得る。
(式54)
(式54)
ここで、以下の数式が成り立つ。
なお、FDTDバンド構造法の離散化の詳細については、非特許文献5を参照されたい。
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許仮出願番号第61/015,796(出願日:2007年12月21日)に基づいて優先権を主張するものであり、前記出願の全ての記載をここに引用するものである。
【0002】
本発明は防音材に関するものであり、具体的にはフォノニック結晶を用いる防音材に関する。
【背景技術】
【0003】
防音材および防音構造物は、防音産業において重要な用途を有している。防音産業で従来使用される吸音材、反射材および障壁などの材料は、周波数選択的な騒音調整を備えなくても広い周波数領域にわたり有効である。有効な騒音防止装置によって周波数選択的に騒音を減少させることができる。しかし、一般にこのような騒音防止装置は、閉塞空間において最も効果を発揮するもので、電力供給用および制御用電子装置への投資およびそれを操作することが必要になる。
【0004】
周期的で非等質的な媒体である、フォノニック結晶は、音響通過バンドおよび帯域ギャップを有する防音材として利用されてきた。例えば、空気中に銅チューブを周期的に並べた配列、軟弾性素材で被覆した高密度中心部をもつ複合成分を周期的に並べた配列、および空気中に水を周期的に並べた配列などが、周波数選択的な特性を有する防音材を生み出すために用いられてきた。しかし、こうした試みには、一般に、帯域ギャップが狭くなる、または音響用には高すぎる周波数で帯域ギャップを生じる、および/または物理的にかさ高い構造を必要とするなど様々な欠点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.O.Vasseur,P.A.Deymier, A.Khelif, Ph.Lambin, B.Dajfari−Rouhani, A.Akjouj, L.Dobrzynski, N. Fettouhi,およびJ.Zemmouri,“Phononic crystal with low filling fraction and absolute band gap in the audible frequency range:A theoretical and experimental study,”Phys.Rev.E65,056608(2002)
【非特許文献2】Ph.Lambin,A.Khelif,J.O.Vasseur,L.Dobrzynski,およびB.Dajfari−Rouhani, “Stopping of acoustic waves by sonic polymer−fluid composites,”Phys.Rev.E63,06605(2001)
【非特許文献3】Z.Liu,X.Zhang,Y.Mao,Y.Y.Zhu,Z.Yang,C.T.Chan,P.Sheng,Science 289,1734頁(2000)
【非特許文献4】Polymer Handbook,第3版、J,BrandupおよびE.H.Immergut編、Willey,NY,1989
【非特許文献5】Tanaka Yukihiro,Yoshinobu Tomoyasu,およびShinichiro Tamura,“Band Structure of acoustic waves in phononic lattices:Two−dimensional composites with large acoustic mismatch.”PHYSICAL REVIEW B(2000):7387−7392頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、従来技術の欠点を減らした、より優れた防音材が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般に防音材に関するものであり、より具体的には粘弾性材料を用いて構成したフォノニック結晶に関する。
【0008】
本開示の一態様では、防音材は、(a)第1密度をもつ第1媒体、および(b)前記第1媒体中に配設した略周期性配列構造体を有し、前記構造体は、前記第1密度と異なる第2密度をもつ第2媒体で作られる。前記第1媒体および第2媒体の少なくとも一方は、固形粘弾性シリコンゴムなどの固形媒体である。この固形媒体には、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度があり、前記縦方向音波の伝播速度は前記横方向音波の伝播速度の少なくとも約30倍の速度となる。
【0009】
本開示中に用いる「固形媒体」は、その媒体の定常緩和係数が、長時間の限定内で有限値、つまり非ゼロ値となる傾向をもつ媒体である。
【0010】
また、本開示の別の態様では、防音材の製造方法に関する。ある形態では、前記方法は、(a)縦方向音波の伝播速度、横方向音波の伝播速度、および複数の緩和時間定数をもつ粘弾性材料を有する第1の候補媒体を選定する工程、(b)第2の候補媒体を選定する工程、(c)前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部に基づいて防音材の音響透過特性を決定する工程を有し、前記第1および第2の候補媒体の一方に前記第1および第2の候補媒体のもう一方を埋め込んで略周期的に並べた配列を前記防音材は含み、さらに、防音材の音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するために、前記第1および第2の候補媒体を使用するかどうかを決定する工程を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マックスウェルモデルおよびケルビン−フォークトモデルを示した図である。
【図2】マックスウェル−ヴァイヒェルトモデルを示した図である。
【図3】本開示の一態様に係るポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体の2次元配列の断面図を概略的に示す。前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行である。格子定数a=12mm、筒状体直径D=8mmである。
【図4】本開示の別の態様に係る、空気中に埋め込んだハニカム格子に配設したポリマー筒状体の2次元配列の断面図を概略的に示す。前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行である。垂直格子定数b=19.9mm、水平格子定数a=34.5mm、および、筒状体直径D=11.5mmである。
【図5A】ポリマーマトリックス中の空気筒状体配列について計算したスペクトル透過係数を示す。
【図5B】図5Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図6】ポリマーマトリックス中の空気筒状体配列に関する透過パワースペクトルの測定結果を示す。
【図7】ポリマーマトリックス中に充填率f=0.349で埋め込んだ空気筒状体からなる2次元正方格子において、有限差分時間領域(FDTD)法を用いて求めたバンド構造を示す。波数ベクトルの方向は前記筒状体の軸と垂直になる。
【図8A】ポリマーマトリックス中に充填率f=0.349で埋め込んだ空気筒状体からなる2次元正方格子中、単一モード(縦方向音響波だけの)における分散相関をプロットした図である。波数ベクトルの方向は前記筒状体の軸と垂直になる。
【図8B】図8Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図9】縦方向の刺激信号に相当する透過横方向波について、せん断透過係数をプロットした図である。
【図10】ポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について計算した、横方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図11】シリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、横方向波速度の様々な値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図12A】緩和時間τ=10−5秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図12B】図12Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図13】緩和時間τ=10−6秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図14】緩和時間τ=10−8秒のシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々なα0値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図15A】無次元の平衡引張係数α0=0.5をもつシリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列について、様々な緩和時間値に対応する縦方向波の透過係数のスペクトル図を示す。
【図15B】図15Aで示した図の一部をより詳細に示す。
【図16A】シリコンゴムマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体配列中での縦方向波について、一般8要素マックスウェルモデルに基づいて求めた透過係数のスペクトル図を示す。
【図16B】弾性ゴム中、シリコン粘弾性ゴム中、およびシリコンゴム−空気からなる空気筒状体複合構造中における透過振幅スペクトルを比較した図を示す。
【図17】空気中のハニカム格子上に配設した隣接ポリマー筒状体配列のスペクトル透過係数を示す(筒半径=5.75mm、六方格子パラメータ=19.9mm)。波の伝播方向の前記構造物の全体の厚みは103.5mmである。
【図18】緩和時間10−4秒をもつ空気中のハニカム格子に配設した隣接ポリマー筒状体配列について測定した、様々なα0値に対応する様々な透過係数を比較した図を示す。
【図19】空気中のハニカム格子上に配設した隣接ポリマー筒状体配列を、一般8要素マックスウェルモデルと弾性モデルとに基づいて求めたスペクトル透過係数の対比図を示す(筒半径=5.75mm、六方格子パラメータ=19.9mm)。波の伝播方向の前記構造物の全体の厚みは103.5mmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.概要
本開示は、周波数選択的に音響波を、特に可聴周波数域における音響波を遮断するフォノニック結晶に関する。
【0013】
空気中の音の波長よりも短い距離で、またはそれと同じ次数の距離で音の伝播を防止する構造物を設計することは、防音における課題である。こうした素材の開発において、少なくとも2種類の取り組みが行われてきた。第1の取り組みは、マトリックッス中に封入体を周期的に配列することにより弾性波をブラッグ散乱する方法に基づくものである。帯域ギャップの存在は、封入体およびマトリックス素材の物理的および弾性的特性、封入対の充填率、配列と封入体の幾何学的配設における差異に依存する。低周波数でのスペクトルギャップは、長い周期(および大きな封入体)および音の伝播速度が遅い素材をもつ配列の場合に生じることがある。例えば、非特許文献1では、正方単位セルの端縁部に平行な方向に沿って伝播する音響波において、4−7kHz範囲の明確な音響ギャップを、空気中の銅中空筒状体(直径28mm)を正方配列することで得ている。また、非特許文献2では、センチメートルサイズの構造物について、水/空気複合媒体によって広域なストップバンドが1kHzの低周波数まで広がることが示されている。また、第2の取り組みでは、共鳴性をもつ軟弾性素材(いわゆる「局所共鳴素材」)で被覆した重い封入体を有する構造物を使用している。非特許文献3参照。この非特許文献3では、共鳴周波数が非常に低いことが報告されているにもかかわらず(ブラッグ周波数よりも2桁低い)、生じた帯域ギャップは狭い。従って、広いストップバンドを達成するためには、様々な複数の反響構造物を重ねて合わせて使うことが必要と思われる。
【0014】
前記非特許文献が記載した構造物は予想した(いくつかのケースでは実験で示された)帯域ギャップを示すが、一方で、普通これら構造物は、超音波周波数(20kHz+GHzまで)に有効である。従って、可聴周波数制御を目的にしたとき、構造物は巨大(直径数センチメートルの金属管などを、立方デシメートルまたは立方メートルの外周サイズをもつ配列中に配設したもの)で重いものとなってしまう。従って、ほどよい外周サイズ(数センチ以下)をもち軽量な構造物を設計および構築することは、可聴周波数制御における課題である。
【0015】
本開示のある態様では、線形粘弾性材料で、いくつかは市販で入手可能な材料を用いて、可聴領域中に帯域ギャップを有するフォノニック結晶構造物を構築できる。前記材料は、軽量であるとともに数センチメートル以下の外周サイズをもつ。設計パラメータを調整することで、帯域ギャップの周波数、数、および領域幅を調整することができる。こうした設計パラメータには以下のものが含まれる。
・格子の種類(例えば、2次元(2D):正方格子、三角格子など。3次元(3D):面心立方格子(fcc)、体心立方格子(bcc)など)。
・地点間の距離(格子定数、a)。
・単位セルの構成および形状(2次元では、封入体が占有する単位セルの分画面積。これは充填率、fとしても知られる)。
・封入体およびマトリックス素材の物理的特性(例えば、密度、ポアソン比、種々の係数、縦方向モードおよび横方向モードにおける音の速度など)。
・封入体の形状(例えば、棒状、球状、中空棒状、角柱状など)。
【0016】
本開示の一態様では、ゴム/空気による、小さなサイズの音響帯域ギャップ(ABG:acoustic band gap)構造物を用いて、1kHz以下の相対的に低いギャップ末端をもつ非常に広範囲な可聴周波数帯で、縦方向音響波を減衰することができる。こうしたABG構造物は、必ずしも完全な帯域ギャップを示す必要はない。しかし、ゴム内部における音波の横方向速度は、縦方向の音波の速度よりも2桁近く遅いので、縦方向モードおよび横方向モードを有効に緩和することができる。こうした固体/液体複合体は、縦波の透過に対し、基本的に液体/液体系のように作用することが見出されている。従って、有効な防音材として、こうしたゴム/空気によるABG構造物を使用できる。
【0017】
一般的に、粘弾性媒体を用いてフォノニック結晶を構築することができる。また、本開示の別の態様では、コンピュータモデリングを用いて、前記複合媒体の透過スペクトルに関する粘弾性効果を予測することで、少なくとも部分的にフォノニック結晶の音響特性を選定することができる。例えば、有限差分時間領域法(FDTD:finite difference time domain)を用いて、非等質粘弾性媒体における透過スペクトルおよび音響バンド構造を計算することができる。また、粘弾性媒体に通常存在する多緩和時間を基盤に用い、粘弾性媒体に関する圧縮性一般線形粘弾性液体の構成相関と組み合わせて、一般化マックスウェルモデルなどのモデルを使用してスペクトル応答を計算することができる。
【0018】
また、本開示の別の態様において、従来の弾性−弾性フォノニック結晶とは異なり、相対的に軽い媒体からなるマトリックス中に相対的に密度の高い相を埋め込む場合、線形粘弾性液体からなるマットリックス中に埋め込む封入体として、空気筒状体を使用する。
【0019】
II.構造物の例
A.材料の選定
本開示の一態様では、音の伝播速度が遅い特性をもつように、可聴領域にフォノニック結晶を構築するための材料を選定する。この選定は、帯域ギャップの中心周波数は結晶を通って伝播する波の平均速度に直接比例するという、ブラッグ則の結論に従うものである。なお、対象とする周波数では、音の速度が減少するにつれて音の波長も短くなる。波長が短くなると、圧力波が小さな構造物と起こす相互作用がより大きくなると考えられているので、可聴周波数活性およびセンチメートル以下の外周サイズを有するフォノニック結晶を合成することが可能である。低い弾性係数および高密度の両方の性質をもつ材料は有用であるといえる。それは、こうした材料では音の速度が低くなるためであり、また通常の材料では弾性係数が減少するに従って密度も減少するからである。ある種のゴム、ゲル、泡などを、上記の好適な特性の組み合わせをもつ材料として選定してもよい。
【0020】
また、ある種の市販で入手可能な粘弾性材料は、潜在的に魅力的な候補材料となるような特性を有している。第1に、こうした材料の機械的応答性は、様々な周波数にわたり変化するので、注文に応じた用途にも好適である。第2に、こうした材料は、線形弾性素材にはない散逸性機構を提供する。第3に、こうした材料中の音の縦方向速度は通常1000m/sオーダーであるのに対して、横方向の音の速度は縦方向の速度よりも1桁以上遅いことが観測されている。また、周波数に対して一定の弾性係数をもつ弾性材料が、種々の周波数にわたって一定の縦方向および横方向速度をもつのに対して、線形粘弾性材料は、周波数を減少させるのに従って減少する(動的)弾性係数を有している。以上のことは、音響的により低い周波数では、速度がより遅くなるほうが好適であることを意味している。
【0021】
線形粘弾性材料で観測される上記現象は、線形弾性材料の特性とは際立って対照的である。従って、粘弾性材料を含むフォノニック結晶は、その単なる弾性材料の対照物に比べて、異なった、および音響的に優れた挙動を示す。より具体的には、粘弾性があることによって、帯域ギャップが広がるだけではなく帯域ギャップの中心周波数を低周波数側に移行させることが可能になる。
【0022】
B.コンピュータモデリングを用いた粘弾性フォノニック結晶の設計
本開示の別の態様としては、コンピュータモデリングを用いてフォノニック結晶を設計することがある。このコンピュータモデリングでは粘弾性材料に存在する多数の特徴的な緩和時間を考慮する。ある態様では、時間領域における支配微分方程式を有限差分方程式に変換して少増加分における時間の一要素として方程式を解くFDTD法を用いて、多要素モデルにより防音材の音響特性を計算で求める。コンピュータモデリングを用いた粘弾性フォノニック結晶防音材の設計過程の詳細については、補遺を参照されたい。
【0023】
また、本開示の別の態様では、固体/固体および固体/液体の周期性2次元2成分系における弾性波および粘弾性波の伝播を計算で求める。こうした周期的な系のモデルとしては、等方的材料(マトリックス)Bに埋め込まれた等方的材料Aからなる無数の筒状体(円形断面をもつ)配列がある。ここで、直径dである前記筒状体は、デカルト座標(OXYZ)のZ軸に平行であると仮定する。続いて、前記配列は、X軸およびY軸の2方向に無限に伸びているとし、探査用の波の伝播方向(Y軸方向)では有限であると仮定する。前記筒状体の全ての軸と横平面(XOY)との交差から、特定の幾何学的特徴をもつ2次元周期性配列が形成される。刺激(入力信号)音波は、コサイン変調ガウス波形として捉えられ、これによって、中心周波数500kHzの広域帯信号を発生する。
【0024】
例えば、2種類の構造物に対して計算を行うとする。第1の構造物は、密度=1260kg/m3、縦波速度=1200m/s、および横波速度=20m/sである、ゴム状の粘弾性材料(ポリシリコンゴムなど)で構成する。
【0025】
図3に示すように、粘弾性マトリックス310中の封入体は、空気の筒状体320である。ここで、ムア吸収境界条件を適用するために、入口領域および出口領域を、前記区域中「α0=1」と設定してY軸方向に沿って試料の両端に付け加える。これらの領域は、弾性媒体として働くので、ムアの条件は変更しないままにする。しかし、弾性領域から粘弾性領域への移行では、音響波の反射が若干生じるものとする。このモデルでは、格子パラメータ「a」は12mmであり、筒状体直径は8mmである。
【0026】
また、第2の構造物を図4に示す。この構造物は、空気マトリックス410からなり、このマトリックス中に、六角形の1辺が11.5mmであるハニカム格子に配設した隣接ポリマー筒状体420(筒状体半径5.75mm、六方格子パラメータ19.9mm)の配列を埋め込んである。また、波の伝播方向に垂直方向の前記構造物の厚さの合計は、103.5mmである。前記筒状体は先に記載したのと同じポリマーで製造され、その外側の媒体は空気である。
【0027】
C.物理的防音材の例
本開示の一態様では、ポリマーマトリックス中に埋め込んだ36個(6×6)の平行な空気筒状体の正方配列で構成した2成分複合材料からなる試料について、実験に基づき測定する。このポリマーはシリコンゴムである(Dow Corning HS II RTV High Strength Mold Making Silicon Rubber、米国ウイスコンシン州、ジャーマンタウン、Ellsworth Adhesives社から入手可能。または、http//www.ellsworth.com/display/productdetail.htm?productid=425&Tab=Vendorsから入手可能)。なお、格子は12mmであり、筒状体の直径は8mmである。この試料の物理的サイズは、8×8×8cmである。前記ポリマーを測定して得た物理的特性は、密度=1260kg/m3および音の縦方向速度=1200m/sである。この材料中、音の横方向速度は、様々なゴムの物理定数の発表データから、およそ20m/秒であると推定した。例えば、非特許文献4参照。
【0028】
この実験で用いた超音波発信源は、パルサー/レシーバーモデル500PR付きPanametrics delta broad−band 500kHz P−トランスデューサである。また、信号の測定には、GPIBデータ集積カードを備えたTektronix TDS 540オシロスコープを用いた。測定した送信信号は、GPIBカードを経由してLab View によって集積し、続いて、コンピュータで処理した(平均化処理およびフーリエ変換処理)。
【0029】
先ず、円筒状のトランスデューサ(直径3.175cm)を、複合体試料検体の表面中央に設置した。次に、前記超音波放射源によって粗密波(P波)を発生させ、受信用トランスデューサによって送信波の縦方向成分だけを検出した。送信パルスと受信信号との時間遅延に基づく標準的な方法を用いて、音の縦方向速度を測定した。
【0030】
D.計算で求めた特性および実際の特性に関する結果の例
1.ゴムマトリックス/空気封入体
a.ゴム/空気構造物中での透過性
i)弾性的FDTD法
図5Aおよび図5Bに、ポリマーマトリックス中に埋め込んだ空気筒状体の2次元配列から得られた、FDTD透過係数のコンピュータ計算値を示す。ここで、弾性材料の限界をα0=0とした。この透過スペクトルは、一般線形粘弾性方程式(25)、(26)および(27)を、各時間工程を7.3nsかけて221時間工程にわたり解くことにより得た。計算格子間隔5×10−5mで、XおよびY軸方向に空間を分散した。マトリックス材料からなる弾性等質媒体中で送信したスペクトルパワーと、複合体中で送信したスペクトルパワーとの比として、透過係数を計算した。
【0031】
なお、図5Aのスペクトルには2つの帯域ギャップがある。最も重要な帯域ギャップは、1.5kHzから87kHzのギャップであり、次に重要なギャップは90kHzから125kHzのギャップである。また、図5Aのスペクトルで、明確な周波数において、透過バンドが狭い範囲で急峻な減少を示している。こうした透過の減少は、空気筒状体の振動モードに対応する平坦なバンドと複合体バンドとの混成から得られたものである。こうした平坦なバンドが生じた周波数は、第1種ベッセル関数の1次導関数が0である解から得られる。つまり、J‘m(ωr/c)=0である。ここで、cは空気中の音の速度、rは空気筒状体の半径、mはベッセル関数の階数を表す。
【0032】
ii)測定
図6に、シリコンゴムマトリックス(上記参照)中に埋め込んだ36(6×6)個の平行な空気筒状体の正方配列からなる2成分複合材料の試料について測定した複合的パワースペクトルを示す。
【0033】
図6の透過スペクトルは、1kHzから200kHzで透過強度の明確な減少を示す。このスペクトル領域は、ノイズレベル強度だけを測定した周波数間隔(1−80kHz)に分解することができ、次に、80kHzから200kHzの透過強度が続く。図5Aおよび図5Bに示した、FDTD法によるシミュレーションで得た結果と比較すると、実験で得た帯域ギャップは、計算値の帯域ギャップよりも相対的に狭い。この結果は、非弾性的効果が何かの役割を果たしていることを示唆している。このことについて、さらに以下に述べる。
【0034】
図6では、ノイズのような透過が若干見られるものの、可聴領域、より具体的には約1−2kHzから75kHz超の領域で、極めて透過が低下していることを示している。従って、ここで用いた材料および他のゴム状材料は、大変優れた防音用候補材料となることが可能である。
【0035】
b.バンド構造
次に、FDTD法および実験で得たスペクトルをさらに解明するために、シリコンゴム−空気封入体構造によるバンド構造について計算した。 図7に、正方格子の第1ブリュアンゾーンの非帰結部分のGX方向に沿った、音響波に関する分散相関を、FDTD法で計算した結果を示す。なお、FDTDスキームでは、単位セル中、N×N=2402ポイントの格子とした(円形断面の中心空気封入体をもつポリマー正方形、充填率 f=0.349)。図7では、構成材料(ポリマー−空気)の間に大きな音響ミスマッチがあるのにもかかわらず、プロットした周波数領域中に完全なギャップは存在しない。この格子の分散相関の顕著な特徴は、視覚的に平坦な分岐が多数表れていることである。こうした分岐が存在することは、大きな音響ミスマッチをもつ材料で構成した複合構造の、もう一つの特徴である。計算で求めたバンド構造と透過係数との比較から、バンド構造中のほとんどの分岐が非可聴バンド(透過の計算に用いた縦方向のパルスによって励起することができない対象性をもつモードなど)に対応することが示される。こうした分岐は図5Aおよび図5Bの透過スペクトルに見られる分岐と合致する。
【0036】
前記非可聴バンドの存在は、ポリマーの横波速度がゼロに等しくなると思われる第2バンド構造の計算から確認される。つまり、ゴム/空気系は、液体様/液体複合体で近似できる。FDTD法(単位セル中、N×N=2402ポイントの格子をもつ)で計算して求めた分散相関を、図8Aおよび図8Bに示すが、バンド数が顕著に減少している。このバンド構造は、構造の縦方向モードだけを表す。従って、ゴムの横方向モードのブリュアンゾーン内に折りたたんで得られるバンドに、図8A、図8Bにはない図7の分岐を、当てはめることができるのは明らかである。ゴム中の音の横方向伝播速度が非常に遅い(20m/s)ために、横方向の分岐は非常に高い密度となる。
【0037】
図8Aは、1kHzから89kHzまでの第1ギャップおよび90kHzから132kHzまでの第2ギャップの、2つの大きなギャップを示す。図8Bは、図8Aの分散相関の第1領域を、より詳細に示した図である。第1の通過バンドの上端が約900Hzであることが分かる。
【0038】
明確に分かりやすくするために、空気筒状体の平坦バンドを、図8Aおよび図8Bから除いた。第1の5つの平坦バンドについて行ったFDTDバンド計算から得た周波数を、表Iに示した。こうした周波数は、第1種ベッセル関数の1次導関数を0とした解に一致する。なお、J‘m(ωr/c)=0であり、cは空気中の音の速度、rは空気筒状体の半径、mはベッセル関数の次数を表す。
【0039】
従って、図5Aおよび図5Bの透過スペクトルの通過バンドが、シリコンゴム/空気系の縦方向モードの励起に相当することは明らかである。
【0040】
表I.半径r=4mm、周期a=12mmをもつ、シリコンゴム中の空気筒状体における完全正方格子の固有振動数。(mはバンドを求めたベッセル関数の階数)
【表1】
【0041】
c.横方向の刺激
図9は、刺激粗密波束に対応する透過せん断波のパワースペクトルを示す。このスペクトルは、変位のX成分(パルスの伝播方向に垂直な成分)の時間応答をフーリエ変換である。図9は、図7のバンド構造で予測したようにゴム/空気複合体を通って、横方向モードが伝播することを示す。しかし、透過したせん断波の強度が非常に弱いことは、粗密波からせん断波への変換率がほとんど無視できることを示す。
【0042】
次に、第2のシミュレーションでは、構造物は、音響せん断波だけによって刺激されると仮定する。図10の透過スペクトルは、音の横方向速度が非常に遅いために、非長に長い積算時間(7.3nsで10×106時間工程)を要するFDTD法を用い、透過せん断波について計算して求めた。図10の透過スペクトルには、2つの帯域ギャップが見られた。第1の帯域ギャップは540Hzから900Hzに位置しており、第2の帯域ギャップは、4150Hzから4600Hzに位置する。仮に、粗密波に対応するバンドを除いたとした場合、これらのギャップは図7に示したバンド構造とよく一致する、
【0043】
d.横方向速度の効果
シリコンゴム材料中の異なる値の横方向波の速度を用いてシミュレーションを行う。図11は、シリコンゴム−空気複合体の種々の横方向波速度(Ct=0m/sからCt=100m/s)に対応する縦方向波の透過係数の比較を示した。Ct=0m/sに対応するスペクトル中に既に存在するバンドと比較すると、せん断波(Ct=20−100m/sの異なる横方向速度)に対応する別のバンドが現れるのに気が付く。こうしたバンドは、25kHzよりも低周波数で90kHzから130kHzの周波数の間に最も多く現れる。
なお、前記材料中で横方向波が変化したときでも、Ct=20m/sにあるバンドは位置を変えない。
【0044】
e.粘弾性の効果
i).単一マックスウェル要素
縦方向波の実験的透過スペクトルとシミュレーションした系とをさらに比較研究するために、ゴム/空気系特性の粘弾性効果をコンピュータで求めた。また、同じシミュレーションを、粘弾性シリコンゴムマトリックスに埋め込んだ空気筒状体の2次元配列について7回実行する。以下のシミュレーションでは、ゴムの粘弾性レベルを決定するα0および緩和時間τの、2つの変数を用いた。緩和時間の値を10−2sから10−9sの範囲で変化させ、種々のα0値(0.75、0.5、0.25および0.1)を用いて、全てのτ値についてシミュレーションを行なう。
【0045】
図12A、図12Bは、緩和時間を10−5sとし、種々のα0値(0.25、0.5、0.75、および最後にα0=1)に対応する様々な透過スペクトルを示す。
【0046】
α0が減少するにしたがいマトリックスの粘性は増加するので、高周波の透過率係数が減少して、通過バンドはより高周波数側にシフトする。
【0047】
図12Bに示すように、最も低い通過バンドの上端は、音響波を減衰ささせるロスのために透過係数レベルの減少以外はあまり影響を受ないように見える。
【0048】
また、10−2sから10−5sで変化する緩和時間の透過スペクトルにも、同様のことが観測された。緩和時間τが10−6sから10−7sになると、透過スペクトル中の高周波数バンド(150kHzから500kHz)は非常に減衰する。
【0049】
図13は、τ=10−6sについての種々のα0値に対応する様々な透過スペクトルを示す。なお、150kHz(図12A、図12B中)以上にあるバンドは図13では非常に減衰する。第1通過バンドは、この効果によって影響を受けないように見える。
【0050】
緩和時間τが非常に短く(10−8s未満)なると、透過スペクトルはもはや強く減少しない。α0が減少するにしたがい、マトリックスの粘弾性は高くなるので、通過バンドは一層減衰するが、周波数シフトはしない。図14は、緩和時間10−8sをもつ種々のα0値に対応する異なる透過スペクトルを示す。α0値が小さくなるに伴って減衰も大きくなるが、バンドの位置は変化しない。
【0051】
図15Aおよび図15Bは、α0値を0.5に固定し、10−3sから10−8sに変化させた種々の緩和時間τ値に対応する透過係数の比較を示す。なお、図15Aで、10−3sから10−6sで変化したτについて、150kHzから400kHzまでの周波数で、透過率の低下が存在する。τ=10−6sのこうしたバンド中で、減衰は最大になる。緩和時間が短いとき(τ=10−8s)、130kHzで始まる周波数で透過が再び現れ、それ以上の周波数は、弾性スペクトル(α0=1.0)中の通過バンドの始点に相当する。
【0052】
図15Bに、図15Aの透過スペクトルの第1領域をより詳細に示した。なお、図15Bにおいて、10−3sから10−4sで変化したτに対して、第1通過バンド中に最大透過減少が存在する。また、τ=10−4s付近で減衰が最大に達するとき、周波数シフトが見られる。
【0053】
ii)一般多要素マックスウェルモデル
本開示の別の態様では、表IIに示した8個の要素を用いて、上記のような再帰法に基づき、多要素マックスウェルモデルを使用した。
【0054】
【表2】
表II:シュレーションで用いたαi値およびτi値
【0055】
図16Aに、シリコンゴム−空気複合体について、一般多要素マックスウェルモデルによる縦方向波の透過係数を示す。図からは、2kHzより帯域ギャップが始まり、高周波数領域には他の透過ギャップはないことが分かる。また、1kHzと2kHzの間のバンドの透過レベルが減少しているのも明らかである(8%未満に)。
【0056】
次に、図16Bに、同じ幅と弾性特性をもつ、弾性ゴム、シリコン粘弾性ゴム、およびシリコンゴム−空気複合構造物中の各透過振幅スペクトルの比較を示した。シリコン粘弾性ゴム構造物は高周波数の透過スペクトルで減衰を示したが、シリコンゴム−空気複合体構造物が示したような低周波数での帯域ギャップは示さない。この結果は、シリコンゴムマトリックス中に周期的に並んだ空気筒状体配列の存在が重要であることを示している。なお、マトリックス材料で構成した弾性等質媒体中を透過するスペクトルパワーと、複合体中を透過するスペクトルパワーとの比として、透過係数を計算して求める。
【0057】
2. 空気マトリックス/ゴム封入体
a.空気/ゴム構造物中の透過
空中に埋め込んだハニカム格子に配設したポリマー筒状体配列全てについて計算を実行する(図4参照)。この構造体の透過係数(図16Aおよび図16Bに示す)は、非常に長時間の積算(14nsで2.5×106時間工程数)によるFDTD法を用いて算出した。なお、1.5kHzから始まり50kHzを超えて広がる、長い帯域ギャップがある。また、別のギャップが480kHzと1300kHzとの間に存在する。1300kHzと1500kHzの間にあるバンドの透過レベルは低い(3%)。
【0058】
b.粘弾性の効果
10−4sに固定した緩和時間をもつα0にパラメータを変えて、同様のシミュレーションを空気/ゴム構造物について数回実行する。図18は、種々のα0値(0.25、0.5、0.75、および弾性体に相当するα0=1)に対応する異なる透過スペクトルを示す。なお、α0の減少につれて粘弾性は減少するので、α0=1で1.3kHzから1.5kHzの通過バンドは消失するか、または非常に減衰する。また、第1の通過バンド(480kHz未満)中、明確な変化はない。
【0059】
最後に、図19に、上記の空気/ゴム構造物における弾性モデルに基づくスペクトル透過係数と、一般8要素マックスウェルモデルに基づくスペクトル透過係数との比較を示す。なお、第1の通過バンド(500kHz未満)の振幅に、明確な低下が見られる。また、単一要素誘導法と同様に、α0=1で1.3kHzから1.5kHzの通過バンドが消失する。
【0060】
3.応用例
本開示の態様の応用例として、防音材を構築できる。この防音材は、(a)第1密度をもつ第1媒体と、(b)前記第1媒体中に略周期的に配設した配列構造体を有し、前記構造体は第1密度とは異なる第2密度をもつ第2媒体から製造する。前記第1媒体および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向の音波伝播速度および横方向の音波伝播速度をもつ固形媒体であり、前記縦方向の音波伝播速度は前記横方向の音波伝播速度の少なくとも約30倍の速度であり、少なくとも可聴域の音響周波数であるのが好ましい。
【0061】
また、別の応用例としては、音響壁は、(a)粘弾性素材を有する第1媒体と、(2)前記第1媒体よりも小さな密度をもつ第2媒体(空気などの)を有する。この第2媒体は、略周期的に配設した配列構造体で構成し、前記第1媒体中に埋め込む。
【0062】
また、さらに別の応用例では、防音材の製造方法を考案できる。この製造方法は、(a)縦方向の音波伝播速度、横方向の音波伝播速度、および複数の緩和時間定数をもつ粘弾性材料を有する第1の候補媒体を選定する工程、(b)第2の候補媒体を選定する工程、(3)前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部に基づいて略周期性配列を有する防音材の音響透過特性を決定する工程を有し、前記第1および第2の候補媒体の一方に前記第1および第2の候補媒体のもう一方を埋め込んで略周期的に並べた配列を前記防音材は含み、さらに、(4)防音材の音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するために、前記第1および第2の候補媒体を使用するかどうかを決定する工程を有することを特徴とする。
【0063】
また、さらに別の応用例では、防音方法は、約300mm以下の厚さの上記構成の防音材を用い、約4kHz以下から約20kHz以上にわたる周波数領域中で、少なくとも99.0%の音響パワーを防止する工程を有する。
【0064】
III.まとめ
可聴域(例えば、500kHz近くから約15kHz)に非常に広い遮断バンドを示す適度に小さな構造物を、ゴムなどの粘弾性材料を使用して構築することができる。このような構造物は、必ずしも完全な帯域ギャップを示す必要はない。しかし、ゴムの中の音の横方向速度は縦波速度よりも2桁近く遅いために、縦方向および横方向モードを効果的に緩和することができる。こうした固体/液体複合体は、縦波の透過に関し、液体/液体系と基本的に類似した挙動を示す。
【0065】
粘弾性係数α0およびτを含む材料特性は、周波数依存的であってよく、粘弾性ポリマー−液体複合体中の通過バンドをシフト、または強く減衰させるのに重要な影響をおよぼす。従って、このような材料特性によって、所望の音響特性をもつ防音材を設計することができる。
【0066】
前記した詳細な説明、例およびデータによって、本発明の粘弾性フォノニック結晶、およびその製造方法、使用方法が詳しく述べられる。本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明の多数の実施形態は実施可能であり、本明細書に添付した請求項に本発明は帰するものである。
【0067】
【0068】
この仮定を通して、考慮する物質および対象の変形は「小さい」ものとみなす。この場合、「ひずみテンソル」は、以下の式(1)で定義される。
(式1)
(式1)
ここで、上付き文字Tは転置行列を表す。
【0069】
また、ε・=ε(u・)=ε(v)とする。さらに、考慮するすべての変形は小さいものなので、領域の初期状態をΩ0=Ωと定義し、任意の時間tにおける領域状態Ωtに関する相関ではなく、この初期状態の領域に関する相関関係を考慮する。この仮定によって、単一領域Ωおよび境界δΩを用いて作業することが可能になる。
【0070】
1.モデリング
不可逆的材料中の音響波の伝播について、粘弾性材料の挙動をFDTD法の基礎部分として記述する並行微分方程式を以下に説明する。
【0071】
先ず、対象とする粘弾性材料の幅広い種類を現実的に表す、ある構成関係を選定する。この課題に向けられたレオロジーの幅広い分野によって示されるように、選定すべき相関関係は多い。本発明の一態様中、線形音響波である場合、置換およびひずみは小さいものなので、全ての(非線形の)構成相関関係は、材料の本質に客観的に従う、一つのユニークな形態にすることができる。こうした材料の種類を、一般線形粘弾性液体(GLVF:General Linear Viscoelastic Fluids)と称する。GLVF材料が圧縮性でもあるときは、全応力テンソルは以下の式(2)として与えられる。
(式2)
(式2)
ここで、tは時間、v(t)は速度ベクトル、D(x,t)は以下の式(3)で与えられる変形テンソルの割合を示す。
(式3)
(式3)
また、G(t)およびK(t)は、それぞれ定常せん断係数およびかさ高さ係数を表す。これら係数は、流量測定によって実験的に測定することができて、そのデータは様々な方法に適用できる。バネダッシュポット(以下に示した)などの機械的アナログモデルの使用を含めて、この適用を行うことができる。
【0072】
粘弾性モデル、または効果的に挙動パターンを記述するモデルは、それぞれ弾性因子および粘性因子を表す、バネおよびダッシュポットの組み合わせとして模式的に示される。ここで、バネは、弾性変形の特性を反映すると仮定し、同様に、ダッシュポットは、粘性をもつ流れの特徴を描写するものと仮定する。なお、粘弾性モデルを概略的に構築する最も簡単な方法は、明らかに、直列または並列の何れか一方で、各構成成分を1つずつ結合させてゆく方法である。こうした結合によって、2種類の基礎的粘弾性モデル、つまり、マックスウェルモデルおよびケルビン−フォークトモデルが得られる。図1に、これらのモデルを概略的に示した。
【0073】
マックスウェル−ヴァイヒェルトとしても知られる一般マックスウェルモデルでは、単一の時間定数をもつ緩和が起きないが、一定の分布の緩和時間をもつ緩和は生じるという事実を考慮する。このことは、ヴァイヒェルトモデルにおいては、正確に前記分布を表すために、多数のバネ−ダッシュポットマックスウェル要素が必要であるということによって表現される。図2参照。
【0074】
一般マックスウェルモデルを以下に示す。
(式4)
(式4)
ここで、式5を以下に定義する。
(式5)
(式5)
ここで、α0、αiは、以下のように表される。
こうして、式6または式7を得る。
(式6)
(式6)
(式7)
(式7)
次に式8および式9と表すことができる。
(式8)
(式8)
(式9)
(式9)
このとき、G∞およびK∞は、式10および式11で表される。
(式10)
(式10)
(式11)
(式11)
なお、λおよびμは、ラーメの定数であり、vはポアソン比である。
【0075】
ここで、FDTD法を行うために、2次元空間領域(d=2)について、以下の方程式12および方程式13を展開する。
(式12)
(式12)
【0076】
方程式(8)、方程式(9)および方程式(12)を、方程式(2)に組み合わせると、以下の方程式13が得られる。
(式13)
(式13)
【0077】
上記方程式は、以下の3つの基本方程式で表すことができる。
(式14)
(式14)
(式15)
(式15)
(式16)
(式16)
【0078】
a.単一要素マックスウェルモデル
マックスウェル要素が単一である場合、方程式(8)および方程式(9)は、以下の方程式(17)および方程式(18)で表される。
(式17)
(式17)
(式18)
(式18)
ここで、方程式(14)を以下のように展開する。
(式19)
(式19)
(式20)
(式20)
なお、C11=2μ+λ、C12=λ、およびC44=μなので、方程式(20)は以下のように方程式(21)となる。
(式21)
(式21)
【0079】
あるいは、方程式(21)を時間で微分して、以下の方程式を得る。
(式22)
(式22)
(式23)
(式23)
【0080】
次に、方程式(21)を方程式(23)に導入して、以下の方程式(24)、および最後に方程式(25)を得る。
(式24)
(式24)
ここで、αiは以下の式になる。
(式25)
(式25)
同様の計算をσyyおよびσxyに行って、以下の方程式(26)および方程式(27)を得る。
(式26)
(式26)
(式27)
(式27)
【0081】
b.一般多要素マックスウェルモデル
多要素マックスェルモデルについて、方程式(14)は以下の方程式(28)で表わされる。
(式28)
(式28)
この方程式(28)を展開すると、方程式(29)になる。
(式29)
(式29)
【0082】
さらにこの方程式は以下のようにあらわすことができる。
(式30)
(式30)
ここで、C11=2μ+λ、C12=λおよびC44=μである。
積分および加算処理を行い、以下の方程式を得る。
(式31)
(式31)
【0083】
次に、以下の積分を行って、Ixi(t)となる。
(式32)
(式32)
ここで、w=t−t‘と仮定すると、dw=−dt’となり、方程式(31)に代入して方程式(33)を得る。
(式33)
(式33)
【0084】
ここで、Ixi(t+dt)を計算する。
(式34)
(式34)
(式35)
(式35)
s=w−dt⇒ds=dwと変換することにより、
(式36)
(式36)
(式37)
(式37)
【0085】
最後に、積分計算について回帰式を得る。
(式38)
(式38)
ここで、Ixi(0)=0である。
【0086】
同様の方程式をyy成分およびxy成分について得る。
【0087】
2.FDTDバンド構造
複合材料の音響バンド構造はFDTD法を用いてコンピュータ計算できる。この方法は従来の平面波拡大法(PWE:Plane Wave Expansion)を適用できない構造について使用することができる。非特許文献5参照。XOY平面内での周期性により、格子置換、速度および応力テンソルはブロック定理を満たす以下のように表わされる。
(式39)
(式39)
(式40)
(式40)
(式41)
(式41)
ここで、k=(kx、ky)はブロック波ベクトルであり、U(r,t),V(r,t)およびSij(r、t)は、U(r+a,t)=(Ur,t)およびSij(r+a,t)=Sij(r,t)を満たす周期関数である。「a」は格子翻訳ベクトルである。従って、方程式(25)、(26)および(27)は以下のようにある。
(式42)
(式42)
(式43)
(式43)
(式44)
(式44)
【0088】
3.有限差分法
本開示の一態様では、FDTD法は単一マックスウェル要素とともに使用する。この方法は、時間領域中の微分方程式(方程式(25)、(26)および(27))を有限差分に変換し、時間小増加分における進捗として解く工程を有する。これらの方程式は、2次元粘弾性系にFDTD法を実行するために基礎となる。FDTD法を実行するために、Nx×Nyサブ領域(グリッド)の計算領域を、次元dx、dyを用いて分割する。
【0089】
空間および時間の両方における導関数は、有限差分を用いて近似できる。空間の導関数については、中央差分を使用できるが、このときy方向はx方向にたいしてねじれ形である。また、時間の導関数には、漸進差分を使用できる。
方程式(25)について、位置(i,j)および時間(t)で拡張して、以下の方程式を得る。
(式45)
(式45)
ここで、位置(i,j)および時間(n+1)における応力σxxを、変換領域Ux,Uyおよびベクトル領域Vx,Vyおよび時間(n)における旧応力から計算する。方程式(45)を展開して、以下の方程式を得る。
(式46)
(式46)
上記方程式において、以下の数式が成り立つ。
および
および
また、方程式(26)について、(i,j)で拡張すると、次式(47)となる。
(式47)
(式47)
【0090】
また、方程式(27)について、(i,j)で拡張すると、次式(48)となる。
(式48)
(式48)
ここで、以下の式が成り立つ。
【0091】
方程式を上記のように離散化することで空間導関数について2次精密中心差分を保証できる。なお、領域成分uxおよびuyは、異なる空間位置で中央化しなければならない。
最後に、等方的非等質媒体中の弾性波方程式に従って速度場を求める。
(式49)
(式49)
また、2次元空間において、方程式(49)は以下のようになる。
(式50)
(式50)
および、
(式51)
(式51)
方程式(50)について、位置(i,j)および時間(n)での拡張を行い、次式を得る。
(式52)
(式52)
さらに、方程式(52)を展開して次式を得る。
(式53)
(式53)
【0092】
次に、y方向において以下の式を得る。
(式54)
(式54)
ここで、以下の数式が成り立つ。
なお、FDTDバンド構造法の離散化の詳細については、非特許文献5を参照されたい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1密度を有する第1媒体と、
前記第1媒体中に配設した略周期的配列構造体であって、前記構造体は前記第1密度と異なる第2密度を有する第2媒体で作られた略周期的配列構造体を有する防音材であって、
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有する固体媒体であり、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音材。
【請求項2】
前記第1および第2媒体の各々は、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の範囲に音響共鳴周波数をもたないことを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記配列構造体は、少なくとも1つの次元中で大きさ30mm以下の周期を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項4】
前記配列構造体の各々は、少なくとも1つの次元中で長さ10mm以下の成分を有することを特徴とする請求項3に記載の防音材。
【請求項5】
前記配列構造体の各々は、筒状の成分を有することを特徴とする請求項3に記載の防音材。
【請求項6】
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、粘弾性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項7】
前記粘弾性材料は、粘弾性シリコンゴムであることを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項8】
前記第1媒体は粘弾性材料を有し、前記第2媒体は液体を有することを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項9】
前記第2媒体は気相材料を有することを特徴とする請求項7に記載の防音材。
【請求項10】
前記粘弾性材料は、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の音響帯域ギャップを生じるのに十分な粘弾性係数および粘性の組み合わせを有し、前記音響壁の厚さが20cm以下であるとき、前記帯域ギャップ内の周波数の縦方向音波の透過係数が0.05以下となることを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項11】
粘弾性係数と粘性および略周期性配列構造の組み合わせで、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の音響帯域ギャップを十分生み出すことができ、前記帯域ギャップ内の周波数の縦方向音波の透過振幅は、対照音響壁を通る周波数の縦方向音波の透過振幅より少なくとも10倍小さいものであって、前記対照音響壁は等質構造をもち、前記粘弾性材料をもつ媒体と同じ大きさおよび同じ弾性特性をもつ弾性または粘弾性材料で作られることを特徴とする請求項10に記載の防音材。
【請求項12】
縦方向音波の伝播速度は、横方向音波の伝播速度の少なくとも50倍であることを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項13】
前記略周期性配列は、2次元配列を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項14】
前記略周期性配列は、3次元配列を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項15】
粘弾性材料を有する第1媒体と、
前記第1媒体よりも低い密度をもつ第2媒体であって、略周期性配列構造体の構造をもち、前記第1媒体中に埋め込まれた第2媒体を有する防音材。
【請求項16】
前記第1媒体は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有し、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音材。
【請求項17】
前記第2媒体は液体を有することを特徴とする請求項16に記載の防音材。
【請求項18】
前記第2媒体は気相材料を有することを特徴とする請求項17に記載の防音材。
【請求項19】
前記略周期性配列は、少なくとも1つの次元において30mm以下の周期を有することを特徴とする請求項15に記載の防音材。
【請求項20】
前記配列構造体の各々は、少なくとも1つの次元において10mm以下の成分を有することを特徴とする請求項15に記載の防音材。
【請求項21】
防音材の製造方法であって、前記方法は、
縦方向音波の伝播速度、横方向音波の伝播速度および複数の緩和時間定数がある粘弾性材料を有する第1候補媒体を選定する工程と、
第2候補媒体を選定する工程と、
前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部分に基づいて、略周期性配列を有する防音材の音響透過特性を決定する工程であって、前記第1および第2候補媒体の一方は、前記第1および第2候補媒体のもう一方の中に埋め込まれており、
前記第1および第2候補媒体を使用して前記音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するかどうかを決定する工程を有する。
【請求項22】
音響透過特性を決定する前記工程が、一般マックスウェルモデルを用いて音響透過係数をコンピュータ計算することを含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
音響透過特性を決定する前記工程が音響透過特性が所定の基準に合致することを示す結果を出した後に、前記第1候補媒体および第2候補媒体を用いて防音材を構築する工程をさらに含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
防音方法であって、前記方法は、
厚さ300mm以下の防音材であって、第1密度をもつ第1媒体を有する防音材を用いて、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の範囲にある周波数における音響パワーの少なくとも99.0%を遮断する工程を有し、
前記第1媒体中に略周期性配列構造を配設し、前記構造は前記第1密度と異なる第2密度をもつ第2媒体から作られ、
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有し、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音方法。
【請求項1】
第1密度を有する第1媒体と、
前記第1媒体中に配設した略周期的配列構造体であって、前記構造体は前記第1密度と異なる第2密度を有する第2媒体で作られた略周期的配列構造体を有する防音材であって、
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有する固体媒体であり、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音材。
【請求項2】
前記第1および第2媒体の各々は、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の範囲に音響共鳴周波数をもたないことを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記配列構造体は、少なくとも1つの次元中で大きさ30mm以下の周期を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項4】
前記配列構造体の各々は、少なくとも1つの次元中で長さ10mm以下の成分を有することを特徴とする請求項3に記載の防音材。
【請求項5】
前記配列構造体の各々は、筒状の成分を有することを特徴とする請求項3に記載の防音材。
【請求項6】
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、粘弾性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項7】
前記粘弾性材料は、粘弾性シリコンゴムであることを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項8】
前記第1媒体は粘弾性材料を有し、前記第2媒体は液体を有することを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項9】
前記第2媒体は気相材料を有することを特徴とする請求項7に記載の防音材。
【請求項10】
前記粘弾性材料は、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の音響帯域ギャップを生じるのに十分な粘弾性係数および粘性の組み合わせを有し、前記音響壁の厚さが20cm以下であるとき、前記帯域ギャップ内の周波数の縦方向音波の透過係数が0.05以下となることを特徴とする請求項6に記載の防音材。
【請求項11】
粘弾性係数と粘性および略周期性配列構造の組み合わせで、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の音響帯域ギャップを十分生み出すことができ、前記帯域ギャップ内の周波数の縦方向音波の透過振幅は、対照音響壁を通る周波数の縦方向音波の透過振幅より少なくとも10倍小さいものであって、前記対照音響壁は等質構造をもち、前記粘弾性材料をもつ媒体と同じ大きさおよび同じ弾性特性をもつ弾性または粘弾性材料で作られることを特徴とする請求項10に記載の防音材。
【請求項12】
縦方向音波の伝播速度は、横方向音波の伝播速度の少なくとも50倍であることを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項13】
前記略周期性配列は、2次元配列を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項14】
前記略周期性配列は、3次元配列を有することを特徴とする請求項1に記載の防音材。
【請求項15】
粘弾性材料を有する第1媒体と、
前記第1媒体よりも低い密度をもつ第2媒体であって、略周期性配列構造体の構造をもち、前記第1媒体中に埋め込まれた第2媒体を有する防音材。
【請求項16】
前記第1媒体は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有し、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音材。
【請求項17】
前記第2媒体は液体を有することを特徴とする請求項16に記載の防音材。
【請求項18】
前記第2媒体は気相材料を有することを特徴とする請求項17に記載の防音材。
【請求項19】
前記略周期性配列は、少なくとも1つの次元において30mm以下の周期を有することを特徴とする請求項15に記載の防音材。
【請求項20】
前記配列構造体の各々は、少なくとも1つの次元において10mm以下の成分を有することを特徴とする請求項15に記載の防音材。
【請求項21】
防音材の製造方法であって、前記方法は、
縦方向音波の伝播速度、横方向音波の伝播速度および複数の緩和時間定数がある粘弾性材料を有する第1候補媒体を選定する工程と、
第2候補媒体を選定する工程と、
前記複数の緩和時間定数の少なくとも一部分に基づいて、略周期性配列を有する防音材の音響透過特性を決定する工程であって、前記第1および第2候補媒体の一方は、前記第1および第2候補媒体のもう一方の中に埋め込まれており、
前記第1および第2候補媒体を使用して前記音響透過特性を決定した結果の少なくとも一部に基づいて防音材を構築するかどうかを決定する工程を有する。
【請求項22】
音響透過特性を決定する前記工程が、一般マックスウェルモデルを用いて音響透過係数をコンピュータ計算することを含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
音響透過特性を決定する前記工程が音響透過特性が所定の基準に合致することを示す結果を出した後に、前記第1候補媒体および第2候補媒体を用いて防音材を構築する工程をさらに含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
防音方法であって、前記方法は、
厚さ300mm以下の防音材であって、第1密度をもつ第1媒体を有する防音材を用いて、少なくとも4kHz以下から20kHz以上の範囲にある周波数における音響パワーの少なくとも99.0%を遮断する工程を有し、
前記第1媒体中に略周期性配列構造を配設し、前記構造は前記第1密度と異なる第2密度をもつ第2媒体から作られ、
前記第1および第2媒体の少なくとも一方は、縦方向音波の伝播速度および横方向音波の伝播速度を有し、前記縦方向音波の伝播速度は、前記横方向音波の伝播速度の少なくとも30倍であることを特徴とする防音方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2011−508263(P2011−508263A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539679(P2010−539679)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/086823
【国際公開番号】WO2009/085693
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(506067903)スリーエム イノベーティブ プロパティーズ カンパニー (23)
【出願人】(510172712)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/086823
【国際公開番号】WO2009/085693
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(506067903)スリーエム イノベーティブ プロパティーズ カンパニー (23)
【出願人】(510172712)
【Fターム(参考)】
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