説明

粘着テープ

【課題】 限定された空間で使用するのに適しており、低臭性の粘着テープを提供する。
【解決手段】 明細書本文中に規定する測定条件Aにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が150ppm以下であり、好ましくは、さらに明細書本文中に規定する測定条件Bにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が800ppm以下であるアクリル系粘着剤層からなる粘着テープ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両や住宅内のような閉空間で接着固定に好ましく用いられる粘着テープ及び接着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、車両や住宅内において、部材を接着固定するために両面粘着テープが広く用いられている。近年、自動車や住宅などの閉空間内で用いられる粘着テープでは、低臭性であることが強く求められている。
【0003】一般に、臭気の原因は、粘着テープを構成する材料に含まれている残留溶剤、残留モノマー、粘着付与樹脂あるいは重合開始剤などであると考えられている。特開平6−122859号公報には、分子量の大きく、飽和蒸気圧が低いモノマーを重合することにより、残留モノマーの少ない粘着剤を得る方法が開示されている。また、特開平2−115291号公報には、臭気を低減するために、特定のアクリルモノマーを重合して得られたアクリル系ポリマーを用いた粘着剤が開示されている。
【0004】しかしながら、これらの方法では、一般的に使用されているモノマーを主モノマーとして用いることができず、粘着物性と低臭性を両立することが困難であった。
【0005】また、特開平8−269139号公報には、溶剤の沸点以上の温度で重合する方法により、残存溶剤に起因する臭気の低減を図る方法が提案されている。もっとも、この方法では、残存モノマー以外の物質による臭気については考慮されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来、残留モノマーや残留溶剤の低減などにより、低臭化を図る方法が上記のように提案されている。しかしながら、これらの方法は、一般的に用いられる粘着剤に適用することが困難であった。また、残存モノマー以外の臭気原因物質についてはあまり考慮されていないため、臭気を確実に低減することができなかった。
【0007】本発明は、上述した従来技術の現状に鑑み、一般的な粘着剤に用いることができ、かつより一層低臭性の粘着テープ及び接着方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に係る粘着テープは、下記の測定条件Aにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が150ppm以下であるアクリル系粘着剤層からなることを特徴とする。
【0009】測定条件A:熱脱着装置(パーキンエルマー社製、ATD−400)を用い、秤量した粘着テープを90℃で30分間加熱した際に放出された揮発性成分量を、GC−MS装置(日本電子社製、AutomassII−15)を用いて測定した。すなわち、サンプルチューブに封入した粘着テープを90℃で30分間加熱して得られた揮発性成分を、熱脱着装置に内蔵されたトラップチューブに捕集して濃縮した後、トラップチューブを280℃で10分間加熱し、GC−MSに導入した。GC−MS測定には無極性のキャピラリーカラム(アジレントテクノロジー(Agilent Technologies)社製HP−1、0.32mm×60m×0.25μm)を使用し、カラムの温度は40℃で5分維持した後、毎分5℃の昇温速度で100℃まで昇温し、しかる後、毎分10℃の昇温速度で320℃まで昇温した後、320℃の状態で保持した。MS測定範囲は30〜400amu、He流量は1.5ml/分、イオン化電圧は70eV、イオン源は230℃、インターフェイスは250℃とした。揮発性成分量は、上記により得られるピーク面積を、トルエンを標準とする絶対検量線に基づいて重量換算した濃度で算出する。
【0010】また、本発明のある特定の局面では、測定条件Aで検出された保持時間6分以上の揮発性成分量が150ppm以下であるだけでなく、下記の測定条件Bにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が800ppm以下であるアクリル系粘着剤層により粘着テープが構成されている。
【0011】測定条件B:熱脱着装置(パーキンエルマー社製、ATD−400)を用い、粘着テープを120℃で30分間加熱した際に放出された揮発性成分をGC−MS装置(日本電子社製、AutomassII−15)を用いて測定した。粘着テープの加熱条件以外は、測定条件Aと同一である。
【0012】本発明の別の特定の局面では、上記測定条件Aにより検出される残存重合開始剤量が30ppm以下とされており、それによって残存重合開始剤に基づく臭気の低減が図られる。
【0013】また、本発明のさらに別の特定の局面では、上記測定条件Aにより検出される残存アクリル系粘着剤構成モノマー総量が50ppm以下とされており、それによってアクリル系粘着剤構成モノマーに起因する臭気の低減が図られる。
【0014】本発明に係る粘着テープは、上記アクリル系粘着剤層のみから構成されてもよく、あるいは支持体の両面に上記粘着剤層が積層形成されているものであってもよい。
【0015】また、本発明に係る接着方法は、本発明に従って構成された粘着テープを用いて被着体同士を接合することを特徴とする。従って、粘着テープに起因する臭気の発生が生じ難い接着構造物を得ることができる。
【0016】本発明に係る接着方法のある特定の局面では、上記被着体として、気密性空間内に収容される部材が用いられ、従って車両などの気密性空間内における接着構造物に起因する臭気を効果的に低減することができる。
【0017】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、粘着テープを構成するための粘着剤層はアクリル系粘着剤層であり、該アクリル系粘着剤層は、アクリル系ポリマーを主成分として含む。
【0018】上記アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの単独重合体、または(メタ)アクリル酸エステルモノマーとこれと共重合可能な改質のためのビニルモノマーとの共重合体により構成される。
【0019】(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が4〜12の1級もしくは2級アルコールとアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステルが好適に用いられる。このような(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、アクリル系ポリマーが上記共重合体からなる場合、モノマー組成中の70〜99.9重量%を占めることが望ましい。
【0020】上記改質ビニルモノマーは、アクリル系ポリマーの凝集力を高めるために用いられ、それ自体のガラス転移点Tgが高く、ポリマー分子のガラス転移点Tgを上昇させるもの、分子内に含有する官能基と外部架橋剤との架橋反応によりポリマー同士の網目構造の形成に寄与するものなどが適宜単独であるいは併用して用いられる。
【0021】具体的には、ガラス転移点Tgが高い改質ビニルモノマーとしては、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどが挙げられ、官能基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−メチロールアクリルアミドなどの水酸基含有モノマー;グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマーなどが挙げられる。ガラス転移点Tgが高い改質ビニルモノマーは、モノマー組成中の30重量%以内とされることが臭気を低減する上で好ましく、官能基含有モノマーはモノマー組成中0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%の範囲で配合されることが望ましい。
【0022】上記アクリル系ポリマーを得る方法は、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーを重合する方法、あるいは上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとこれと共重合可能な上記改質ビニルモノマーとの混合物を共重合する方法が挙げられる。重合方法については、特に限定されず、例えば、溶液重合(沸点重合、沸点未満重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などの公知の重合方法を用いることができる。重合後の反応液中に残存している高沸点の未反応モノマー量が少ないほど好ましく、重合時あるいは重合終了後、必要に応じて未反応モノマーを除去する操作を施すことが好ましい。
【0023】用いられる重合開始剤としては、パーオキサイド系重合開始剤、アゾ系重合開始剤などが用いられ得る。パーオキサイド系重合開始剤としてはパーオキシカーボネート、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド)などの有機過酸化物が挙げられる。
【0024】また、アゾ系重合開始剤としては、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0025】上記重合開始剤は重合温度に応じて選択され、また1種または2種以上の重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤がラジカルとなった時の分子量が30〜60以下、あるいは150〜300以上であり、10時間半減期が90℃以下であり、かつ芳香環を分子内に有さない重合開始剤が臭気を低減する上で望ましい。
【0026】重合段階で残存モノマー、すなわち残存アクリル系粘着剤構成モノマーを低減する具体的な手段としては、例えば、重合終期に還流溶媒中の残存モノマーを分離・除去する方法、アクリル系モノマーや改質ビニルモノマーと反応するが揮発除去され易い低沸点のスキャベンジャーモノマーを重合終期に添加する方法などが挙げられる。
【0027】残存モノマーを終期に分離・除去する方法では、重合溶媒の還流液を新鮮な溶媒に置換する方法が考えられる。また、スキャベンジャーモノマーを重合終期に添加する方法では、例えば、酢酸ビニル、ビニルブチルエーテル、アクリル酸メチル、スチレンなどの比較的低沸点のスキャベンジャーモノマーを重合率が95%以上、好ましくは98%以上となった段階で残存モノマー以上のモル比で添加する方法が考えられる。上記スキャベンジャーモノマーは、粘着テープ製造時の乾燥工程で除去すればよい。
【0028】重合終了後のアクリル系ポリマーから残存モノマーを除去する方法も採用され得る。この場合には、アクリル系ポリマーに対する貧溶媒を用いてアクリル系ポリマーを洗浄する方法が一般的である。アクリル系ポリマーに対する貧溶媒の中でも、沸点が低いものが好ましく、代表的にはメタノール、エタノール、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどが挙げられる。
【0029】また、本発明では、上記のように様々な臭気低減方法を用いて得られたアクリル系ポリマーに各種添加剤が必要に応じて加えられてもよい。このような添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料などが挙げられる。上記粘着付与剤としては、ロジン変性フェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、不均化ロジンエステル樹脂類、水添ロジンエステル樹脂類、テルペンフェノール樹脂類、石油樹脂類などが挙げられる。
【0030】粘着付与剤を混合する場合、アクリル系ポリマーに対し、0.1〜10重量%の割合で混合することが望ましく、粘着物性を付与しかつ臭気を低減する場合には、粘着剤を構成するアクリル系ポリマーに対し、粘着付与剤は1〜5重量%の割合で混合することが望ましい。
【0031】溶液重合されたアクリル系ポリマーは、通常、ポリマー中に導入された官能基と反応する架橋剤により架橋され、それによって凝集力が高められる。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤などが挙げられる。
【0032】粘着テープを製造する際に臭気を低減する方法としては、粘着剤層が発泡しない程度に乾燥温度を高める方法、乾燥炉内における滞留時間を長くする方法、乾燥炉内を負圧に設定する方法、乾燥風量を大きくする方法などが考えられ、これらの方法を適宜組み合わせて用いることができる。
【0033】粘着テープの養生保管時に有機性揮発物質による臭気を低減する方法としては、養生室内を加温するとともに、減圧する方法が考えられる。粘着テープの製造方法としては、必要に応じて上記のように処理されたアクリル系ポリマー溶液に、必要に応じて適宜処理された添加剤を配合した粘着剤溶液を準備し、必要に応じて架橋剤を混合撹拌し、粘着剤を調製する。次に、粘着剤を支持体に直接塗布することにより、あるいは離型処理された工程紙上に塗布することにより粘着剤層を形成し、乾燥する。乾燥した後、前者の場合には、そのままロール状に巻き取ることにより、あるいは離型紙の離型面に粘着剤層を重ね合わせた後に巻き取ることにより粘着テープが得られる。後者の場合には、支持体に粘着剤層を転写した後、巻き取ることにより、粘着テープを得ることができる。
【0034】また、支持体の両面に粘着剤層が形成された両面粘着テープの場合には、通常、両面が離型処理された離型紙上に第1の粘着剤層を形成し、この粘着剤層に例えば不織布のような支持体を積層した後、工程紙上に形成された第2の粘着剤層を、工程紙を剥離しながら支持体の他方の面に転写してロール状に巻き取る方法により製造する。
【0035】上記支持体としては、特に限定されず、紙、不織布、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリクロロプレン、塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂などからなるシート状物を適宜用いることができ、発泡処理を行った支持体を用いてもよい。これらの基材についても、低臭性を果たすために、予め精製された材料により構成されていることが望ましい。
【0036】
【発明の実施の形態】以下、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下において「部」は、「重量部」を意味する。
【0037】(実施例1)温度計、攪拌機、冷却管及び滴下漏斗を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート85部、2−エチルヘキシルアクリレート13部、アクリル酸1部、及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート1部からなるモノマー混合物を酢酸エチル80部に溶解し、重合開始剤としてラウロイルパーオキサイド0.3部を用いて、沸点下にて10時間反応させた。このようにして得られた溶液を冷却した後、メタノールを600部加えてポリマーを沈殿させ、上澄み液を分離・除去した。さらにメタノール300部を加え、上澄み液を分離・除去した後、トルエンにてアクリルポリマーを再溶解し、アクリルポリマーの50重量%溶液を調製した。
【0038】上記アクリルポリマー溶液100部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名:コロネートL(有効成分55%))1部を均一に混合し、アクリル系粘着剤を調製した。
【0039】上記アクリル系粘着剤を、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータの片面に、乾燥後の厚みが60μmとなるように塗布し、100℃で10分乾燥した後、レーヨンからなる不織布基材の両面にラミネートし、粘着テープを得た。
【0040】(実施例2)実施例1において、10時間反応させた後、さらにラウロイルパーオキサイド0.05部及び酢酸ビニル10部を加え10時間反応させた。このようにして得られた溶液を冷却し、アクリルポリマー溶液を得た。上記アクリルポリマー溶液の不揮発分を測定した後、トルエンにてアクリルポリマーの50重量%溶液とし、以下実施例1と同様にして粘着テープを作製した。
【0041】(比較例1)メタノールによる洗浄操作をしなかったこと及びトルエン希釈にて50%溶液としたこと以外は、実施例1と同様にして粘着テープを得た。
【0042】(実施例3)粘着テープ製造時の乾燥条件を120℃で20分としたこと以外は、比較例1と同様にして粘着テープを得た。
【0043】(実施例4)比較例1の粘着テープを40℃、0.1気圧の条件で1週間保管した。
【0044】(比較例2)重合開始剤としてラウロイルパーオキサイドに代えてベンゾイルパーオキサイドを使用したこと以外は、実施例3と同様にして粘着テープを作製した。
【0045】(実施例及び比較例の評価)上記のようにして得られた各粘着テープについて、■物性測定、■臭気性及び■揮発性成分量評価を以下の要領で行った。
【0046】■物性評価:得られた粘着テープの180°剥離力をJIS Z0237に準じて測定した。結果を下記の表1に示す。
■臭気:上記粘着テープを23℃の雰囲気下に放置し、その臭気を下記の5点法で官能評価した。なお、官能評価に際しては、10人のパネラーがそれぞれ粘着テープを上記5点法で評価した。下記の表1に示す値は10人のパネラーのうち最も多くのパネラーが判定した評価を記載した。
5点:臭気無し4点:ほとんど臭気無し3点:臭気有り2点:やや臭気有り1点:かなり強い臭気有り
【0047】■揮発性成分量の測定前述した測定条件A及びBにより揮発性成分量を評価した。
【0048】
【表1】


【0049】
【発明の効果】本発明に係る粘着テープでは、条件Aで検出された保持時間6分以上の揮発成分量が150ppm以下であるため、従来の粘着テープに比べて低臭性の粘着テープを提供することができる。従って、車両内や住宅内の限定された空間での接着固定に最適な粘着テープを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 明細書本文中に規定する測定条件Aにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が150ppm以下であるアクリル系粘着剤層からなる粘着テープ。
【請求項2】 明細書本文中に規定する測定条件Bにより検出される保持時間6分以上の揮発性成分量が800ppm以下であるアクリル系粘着剤層からなる請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】 上記測定条件Aにより検出される残存重合開始剤量が30ppm以下である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】 上記測定条件Aにより検出される残存アクリル系粘着剤構成モノマー総量が50ppm以下である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項5】 支持体の両面に前記粘着剤層が積層形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の粘着テープ。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の粘着テープを用いて被着体同士を接合することを特徴とする接着方法。
【請求項7】 前記被着体が気密性空間内に収容される部材である請求項6に記載の接着方法。