説明

粘着性抗菌シートを用いた抗菌方法

【課題】 粘着性抗菌シートを使用することによる、効果的な抗菌方法を提供することを課題とする。例えば、注射針の固定等に粘着性抗菌シートを使用する場合等において、皮膚面から抗菌シートが浮き上がった状態でも、抗菌シートの面と皮膚面の間において抗菌効果が発揮されうる抗菌方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 揮散性抗菌剤が揮散する点に着目し、支持体の片面に揮散性抗菌剤を含有する非水系粘着剤層が形成された粘着性抗菌シートを使用することで、粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面が効果的に抗菌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性抗菌シートの使用方法に関し、詳しくは揮散性抗菌剤により、粘着性抗菌シートと被着体間に発生する空間に対して抗菌作用を発揮させる抗菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮膚面に貼付して使用する医療用粘着シートとして、粘着ドレッシング、巻絆創膏、救急絆創膏、粘着包帯や局所性薬物を含有するハップ剤、全身性薬物を含有する経皮吸収テープ製剤など種々のものが開発されている。これらの医療用貼付シートは、健常皮膚に貼付する場合には重要視されないが、損傷皮膚に貼付して創傷治癒に適用する場合には、たとえ製造時に滅菌処理などを施して密封包装していても、貼付後皮膚面に存在する菌の異常増殖や、外部からの菌の侵入によって創傷部が汚染されて、治癒を遅らせることが多く、時には院内感染の原因になることも考えられる。
【0003】
このような場合、貼付前に皮膚面を消毒したり、あるいは医療用貼付シートの粘着剤層や支持体層に抗菌剤を含有させたものが開発されている(特許文献1)。使用する抗菌剤としては抗菌スペクトルの広いものが一般的に使用され、例えば、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、フラジオマイシン、ストレプトマイシン等の抗生物質やビグアニド化合物、ベンザルコニウム、ジデシルシメチルアンモニウム等の表面活性を有する化合物や、フェノールやレゾルシン等のフェノール系化合物、ヨウ素やポビドンヨウ素等のヨウ素化合物、銀、銅等の金属類、アクリノール、メチルロザニリン等の抗菌色素化合物、スルファジアジン、スルフィソミジン等のサルファ剤等が使用されている。
【0004】
しかし、上記のように医療用粘着シートを皮膚面に貼付する場合は、合成物よりも天然物由来の抗菌剤を用いるほうが刺激性も少なく、好ましい。近年は天然物由来の抗菌剤である台湾ヒノキや青森ヒバの精油中に含まれるヒノキチオールが、広い抗菌スペクトルと高い抗菌活性と耐性菌を作りにくいといった点で注目されている。
【0005】
ヒノキチオールのような揮散性抗菌剤を含有させた粘着シートは、ヒノキチオールが加熱工程で揮散しやすいので製造工程において非常に取り扱いにくい。さらにヒノキチオールは光に対しても不安定であり、分散速度も速いことから、製造後であっても取り扱いにくく、製造時、保存時の安定性確保と使用時の放出制御は非常に困難であった。シクロデキストリン等による包接化合物とした揮散性抗菌剤を含有する抗菌性液について開示がある(特許文献2)。また、ヒノキチオールにおける揮散性、安定性の問題を改良するために、シクロデキストリン等の包接化合物とした抗菌剤を含有する粘着性抗菌シートについても開示がある(特許文献3)。
【0006】
医療用粘着シートは、損傷皮膚に貼付して創傷治癒に適用する場合の他、例えば輸液製剤の注入時における注射針の固定や、カテーテル挿入時の固定などのために適用される場合がある。このように医療用具の固定に粘着シートを使用する場合は、皮膚面、特に注射針等の皮膚内部への挿入局所に粘着シートが直接接触する場合は殆どなく、粘着シートは挿入局所部位では浮き上がった状態になっている。このような場合においても、挿入局所における汚染を排除するために、粘着シートと皮膚面の間においても抗菌効果が発揮されることが期待される。特許文献3では、粘着性抗菌シートの支持体背面からの空間的な抗菌効果については記載されているが、粘着シートと皮膚面の間における抗菌効果については具体的な検討はなされていない。
【特許文献1】特開昭61−2862号公報
【特許文献2】特開平10−7591号公報
【特許文献3】特開2005−120008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粘着性抗菌シートを使用することによる効果的な抗菌方法を提供することを課題とする。例えば、注射針の固定等に粘着性抗菌シートを使用する場合等において、皮膚面から該抗菌シートが浮き上がった状態でも、粘着性抗菌シートの面と皮膚面の間において抗菌効果が発揮されうる抗菌方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、揮散性抗菌剤が揮散する点に着目し、支持体の片面に揮散性抗菌剤を含有する非水系粘着剤層が形成された粘着性抗菌シートを使用することで、粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面が効果的に抗菌されることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.支持体の片面に、揮散性抗菌剤およびその包接体を含有する非水系粘着剤層が形成された粘着性抗菌シートを使用し、該粘着性抗菌シートと被着体との間に空間を設け、粘着性抗菌シートの粘着剤層面から揮散性抗菌剤を揮散させ、粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面を抗菌することを特徴とする抗菌方法。
2.透湿度が少なくとも800g/m・24hrs以上であり、支持体に紫外線吸収剤を含有させてなる粘着性抗菌シートを使用する前項1に記載の抗菌方法。
3.支持体が着色されてなる粘着性抗菌シートを使用する前項1または2に記載の抗菌方法。
4.含有する揮散性抗菌剤がヒノキチオールである前項1〜3のいずれか一項に記載の抗菌方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗菌方法によると、粘着性抗菌シートの面から揮散する抗菌剤によって、粘着剤層に対峙する特定の部位が効果的に抗菌される。例えば輸液製剤の注入時における注射針の固定や、カテーテル挿入時の固定など医療用具の固定に使用する場合、粘着性抗菌シートの面から皮膚までの空間ならびに皮膚面、医療用具、特に注射針等の皮膚内部への挿入局所が効果的に抗菌される。これにより、粘着性抗菌シートと皮膚の間に空間が生じる場合であっても、外部から菌が侵入することがなく、院内感染などの菌感染を防ぐことができる。特に、支持体に紫外線吸収剤を添加したり、着色した支持体を用いることによって、揮散性抗菌剤の光に対する安定性を向上させることにより、より効果的に抗菌効果を持続させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、「被着体」とは、粘着性抗菌シートが皮膚に直接貼付されている部位に限定されず、粘着性抗菌シートが接着するカテーテル等の医療用具も含まれる。皮膚面が粘着性抗菌シートで覆われている場合において、該抗菌シートと皮膚面との間に空間がある場合の皮膚面も「被着体」という。例えば医療用具等の固定のために使用する場合、医療用具により粘着性抗菌シートが皮膚から浮き上がった状態になる部分がある。このような場合においても、該抗菌シートに覆われている皮膚部位は、本発明において「被着体」という。また、医療用具の固定に限らず、例えばドレッシング剤の使用等において、皮膚貼付時によれが生じたために皮膚面から粘着性抗菌シートが浮き上がった部分がある場合においても同様である。
また、本発明において、「抗菌シートの面」とは、抗菌シートに抗菌剤が形成されている面、すなわち「抗菌シートの粘着剤層側の面」を意味する。
【0012】
本発明の抗菌方法に使用される粘着性抗菌シートの支持体として、例えば、無孔のプラスチックシート、多孔質プラスチックシート、または不織布を用いることができる。支持体背面から揮散性抗菌剤が揮散するのを防ぐため、無孔のプラスチックシートを使用するのが最も好適である。
【0013】
支持体に使用される無孔のプラスチックシートとして、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン/エチルアクリレート共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルポリウレタンやポリエステルポリウレタン等のポリウレタン系樹脂、ナイロン、ポリエーテルポリアミドブロック共重合体等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、サラン、サーリン等のプラスチック材料からなるものが挙げられる。
【0014】
例えば、被着体から水分が出る場合は、皮膚面を適度な湿度に保つため、透湿度を800g/m・24hrs以上、好ましくは1000〜4000g/m・24hrs、さらに好ましくは1000〜2000g/m・24hrsとするのが好適である。このような透湿度を有する無孔のプラスチックシートとして、好適には、ポリエーテルポリウレタン等のポリウレタン系樹脂や、ポリエーテルポリアミドブロック共重合体等のポリアミド系樹脂を用いることができ、これらは透湿度だけでなく、柔軟性を有するので皮膚面に貼付した際の違和感が生じず好ましいものである。
【0015】
支持体に使用される多孔質プラスチックシートとして、上記した無孔のプラスチックシートと同様の材料からなるものを用いることができる。多孔質化手段としては、無孔のプラスチックシートに穿孔処理を施したり、シートの製造工程で公知の多孔質化処理、例えば無機粉末や有機溶剤をシート化材料中に配合した後、シート化し、これを必要に応じて延伸処理して、最後に有機溶剤や無機粉末を抽出して多孔質化する等の処理を施してもよい。
【0016】
なお、前記無孔のプラスチックシートや上記多孔質プラスチックシートを支持体に用いた場合には、皮膚面、特に関節部等の皮膚の動きが大きい部位に貼付した際に違和感を生じなくするために、その厚みを10〜100μm、好ましくは20〜50μm程度にすることが好ましく、皮膚面貼付中の皮膚の動きに追従するためには、引張強度を100〜900kg/cm、100%モジュラスを10〜100kg/cm程度に調整することが好ましい。
【0017】
支持体に使用される不織布として、具体的にはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、レーヨン、ナイロン、ビニロン、キュプラ等の各種プラスチック材料からなる不織布や、パルプ不織布等が挙げられる。また、使用する不織布は、粘着性抗菌シートの製造時や貼付操作時の取扱性や貼付中の違和感の点からは、5〜100g/m、好ましくは24〜45g/mの坪量を有するものを用いることが望ましい。坪量が小さすぎると自己支持性に欠けるようになって取扱性が低下し、坪量が大き過ぎると柔軟性にかけて、貼付した皮膚面にゴワゴワ感(違和感)を与えるようになる。
【0018】
本発明の抗菌方法に使用される粘着性抗菌シートの粘着剤層は、上記した支持体の片面に形成されるものであって、揮散性抗菌剤を含有、保持するものであり、実質的に水を含有しない非水系の粘着剤から形成される。なお、「実質的に水を含有しない」とは、製造工程で意識的に水を含有させないという意味であり、粘着剤層が空気中に曝された場合に自然に吸湿する水分をも含有しないという意味ではない。本発明では粘着剤層中に水が存在すると、含有する揮散性抗菌剤が熱や光によって不安定化することを促進する恐れがある。特に揮散性抗菌剤がシクロデキストリン(以下単に「CD」という場合がある。)等で包接されていたり、塩形態になっている場合には、粘着剤層中の水分の存在によって、保存中に遊離体の揮散性抗菌剤になりやすくなり、使用するまでに揮散性抗菌剤の含有量低下をおこすおそれがある。
【0019】
このような粘着剤層を形成する非水系粘着剤としては、アクリル系粘着剤や天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等の粘着剤を用いることができ、これらのうち、粘着剤の品質の安定性や、粘着特性の制御容易性、粘着特性の長期安定性、皮膚に対する無刺激性などの点からアクリル系粘着剤を用いることが好ましい。アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分単量体として、これに共重合性の単量体を共重合させてなる共重合体を用いることが好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、アクリル酸やメタクリル酸に炭素数が1〜18、好ましくは4〜12のアルコールがエステル結合したものが使用できる。好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸ブチルエステルや、(メタ)アクリル酸ペンチルエステル、(メタ)アクリル酸ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸ヘプチルエステル、(メタ)アクリル酸オクチルエステル、(メタ)アクリル酸ノニルエステル、(メタ)アクリル酸デシルエステル、(メタ)アクリル酸ドデシルエステル等が挙げられる。これらのうち、優れた粘着特性を発揮するものとして、アルキル基の炭素数が6以上、特に6〜18の長鎖アルキルエステルを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましい。なお、本発明における上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキルエステル鎖は、直鎖状だけでなく、構造異性体としての分岐鎖状のものも含むことは云うまでもない。
【0021】
一方、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは一種からなる単独重合体、もしくは二種以上を組み合わせてなる共重合体として粘着剤とすることもできるが、皮膚接着性や内部凝集性、タック(粘着性)等の粘着特性を容易に調整するためには、共重合性単量体を共重合することが好ましい。このような共重合性単量体としては、分子内にカルボキシル基やスルホニル基、アミノ基、アミド基、ビニルエステル基、アルコシキル基、ヒドロキシル基等を有する単量体を用いることができる。具体的には、アクリル酸やメタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸等のカルボキシル基含有単量体や、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホプロピルエステル等のスルホキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステル等のアミノ基含有単量体、アクリルアミドやメタクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド等のアミド基含有単量体、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等のビニルエステル基含有単量体、(メタ)アクリル酸メトシキポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ブトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルや(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル等のヒドロキシル基含有単量体の他、ビニルピリジンやビニルピロール、ビニルイミダゾール等のビニルアミン類、アクリロニトリルやスチレン等の単量体を一種もしくは二種以上を併用して用いることができる。
【0022】
これらの共重合性単量体は、前記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル40〜97重量%に対して、3〜60重量%、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステル60〜95重量%に対して5〜40重量%の範囲で共重合することで、本発明に用いる粘着特性に優れた粘着剤を調製することができる。
【0023】
上記した粘着剤には、必要に応じて自体公知の可塑剤や軟化剤、充填剤、粘着付与剤等の添加剤を適宜配合することができる。粘着剤層の低変形領域でのモジュラスを低下させて、粘着性抗菌シートの皮膚接着性を良好にすると共に、該抗菌シートを皮膚面から剥離除去する際に角質損傷が少なく、痛みも低減するようにするために、脂肪酸エステルを含有させることが好ましい。
【0024】
含有させる脂肪酸エステルとして、上記した粘着剤の粘着特性を阻害し、粘着特性のバラツキを生じないようにするために、粘着剤と親和性や相溶性を有するものが好ましい。具体的には、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、イソステアリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、フタル酸ジエチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、2−エチルヘキサン酸デシル、2−エチルヘキサン酸イソセチル、2−エチルヘキサン酸ステアリル、コハク酸ジオクチル等の一価アルコールを用いたカルボン酸エステル、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジイソステアリン酸プロピレングリコール、モノカプリル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン等の二価以上の多価アルコールを用いたカルボン酸エステルを用いることができる。
【0025】
これらの脂肪酸エステルのうち、酸化劣化が少ないものとして、脂肪酸中に不飽和結合を有さない飽和脂肪酸とグリセリンとのエステルを用いることが、品質の安定性の点から好ましい。特に、カプリル酸やカプリン酸、2−エチルヘキサン酸のトリグリセリンエステルを用いることが好適である。
【0026】
上記脂肪酸エステルは、その一種もしくは二種以上を併用して前記粘着剤、特にアクリル系共重合体と共に配合して粘着剤層を形成する成分とするが、その配合量は、アクリル系共重合体100重量部に対して20〜120重量部、好ましくは30〜100重量部の範囲に調整する。脂肪酸エステルの配合量が少なすぎると、皮膚面に本発明の粘着性抗菌シートを貼着した場合、皮膚面からの発汗を充分に粘着剤層が吸収できず、皮膚接着性の低下を招く恐れがある。また、脂肪酸エステルの配合量が多すぎると、粘着剤層が可塑化されすぎて皮膚接着力が大きく低下することがある。
【0027】
上記した脂肪酸エステルを粘着剤中に配合する場合、脂肪酸エステルの保持性を向上させ、しかも粘着剤層の皮膚接着力と内部凝集力のバランスをとるために、粘着剤に架橋処理を施すことが好ましい。架橋処理としては、脂肪酸エステルを確実に保持するために粘着剤を構成する高分子間に適度な自由空間を確保するように、有機過酸化物やイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、金属キレート化合物等の有機化合物を用いた分子間架橋剤を用いた化学的架橋処理や電離性放射線照射による物理的架橋処理を施すことが好ましい。化学的架橋処理としては、具体的には過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物や多官能性イソシアネート化合物、グリセリントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ系化合物、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等の金属キレート化合物が挙げられる。これらのうち、架橋反応性や取扱容易性の点から、イソシアネート化合物や多官能性イソシアネート化合物、金属キレート化合物を用いることが好ましい。
【0028】
一方、物理的架橋処理としては、電子線やγ線、X線等を照射処理する方法が挙げられ、安全性や取扱性の点からは電子線やγ線を用いることが好ましい。照射線量としては15〜50kGy、好ましくは20〜35kGyとする。なお、電離性放射線を照射することによって、粘着剤に架橋処理を施すだけでなく、所謂滅菌処理も施すことができるので、本発明のような皮膚貼付用途においては極めて好都合である。
【0029】
上記非水系粘着剤層中には、揮散性抗菌剤が含有される。
使用可能な揮散性抗菌剤は、殺菌作用や静菌作用等の抗菌作用と共に、揮散性を有するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、イソチオシアン酸エステル類、ユーカリ油、メントール、ローズマリー、ヒノキチオール等が挙げられる。揮散性抗菌剤は、非水系粘着剤層中に0.01〜10重量%程度の量で含有される。これらの揮散性抗菌剤のうち、イソチオシアン酸エステル類を主成分とする抽出物やヒノキチオール、特にヒノキチオールが、安全性や幅広い抗菌スペクトル、耐性菌を作りにくい、皮膚常在菌の増殖抑制性、空間抗菌性の点から好適である。
【0030】
イソチオシアン酸エステル類を主成分とする抽出物として、カラシやワサビの辛味成分であるイソチオシアン酸アリル、イソチオシアン酸フェニル、イソチオシアン酸メチル、イソチオシアン酸エチル、イソチオシアン酸プロピル、イソチオシアン酸イソプロピル、イソチオシアン酸ブチル、イソチオシアン酸イソブチル、イソチオシアン酸イソアミル、イソチオシアン酸ベンジル、イソチオシアン酸シクロヘキシル等を主成分とする抽出物を使用することができる。
【0031】
また、ヒノキチオールは、台湾ヒノキやヒバ、アスナロ等の植物由来の精油から抽出された天然物であってもよく、化学合成品であってもよい。さらに、本発明に用いるヒノキチオールはフリー体だけでなく、塩形態であってもよい。具体的には、ナトリウム塩やカリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、銅塩、亜鉛塩に代表される金属塩のような無機塩や、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、プロパノールアミン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩等の有機塩等も用いることができる。
【0032】
上記揮散性抗菌剤は、製造工程で揮散して含量安定性に乏しかったり、光分解性を有するので、化学修飾することが好適である。化学修飾は種々検討されているが、揮散抑制や酸化防止、光分解防止等の安定性向上、徐放性等のために、シクロデキストリン(CD)等を用いるのが好適である。CDは熱等にも安定である。CDを用いて揮散性抗菌剤を包接し、包接化合物として粘着剤層に含有させることができる。CDによる包接化合物に含まれる揮散性抗菌剤は、水分の存在により遊離体の揮散性抗菌剤になる。例えば、被着体(皮膚)から水分が出る場合は、CDによる包接化合物とすることで揮散性抗菌剤が効果的に揮散される。使用可能なCDとしては、α−CD、β−CD、γ−CD、メチル化CD、ヒドロキシプロピル化CD、モノアセチル化CD、トリアセチル化CD、モノクロロトリアジノ化CD、スルホブチル化CD、グリコシル,マルトシル化CD、CDポリマー、アミノ化CD、ヒドロキシブテニルCD、エポキシ化CD、4級アンモニウム化CD、メタクリル化CD、硫酸化CDを用いることができるが、揮散性抗菌剤の包接性などの点からは、β−CDが好ましい。なお、CDは安全性も高く、上記揮散性抗菌剤の抗菌作用を安定してより有効に発揮させることができる。
一方、被着体から水分が出ない場合は、揮散性抗菌剤を効果的に揮散させるために、CDで修飾する必要はない。しかし、CD等で包接しない場合は、熱安定性等の問題があるため、金属錯体化やマイクロカプセル化、シリカハイブリッド化等の化学修飾を行うのが好適である。
【0033】
揮散性抗菌剤の持続性の制御は、支持体材料の選択や、支持体において、無孔のプラスチックシート、多孔質プラスチックシートおよび/または不織布を積層する等により行うことができる。また、揮散性抗菌剤の光に対する安定性を向上させるために、支持体に紫外線吸収剤を添加したり、支持体を着色することができる。支持体は、茶色やオレンジ色、赤色系統に着色することができ、着色の方法は自体公知の方法を適用することができる。
【0034】
粘着性抗菌シートを使用するまでの間に、揮散性抗菌剤が粘着剤層面から揮散するのを防ぐために、500g/m・24hrs以下、好ましくは200g/m・24hrs以下の透湿度を有する裏打シートを、さらに好ましくは実質的に透湿度を有さない裏打シートを剥離可能に積層することもできる。該裏打シートを積層している間は揮散性抗菌剤の揮散が抑制されているが、必要に応じてこの裏打シートを剥離除去することで、粘着剤層中に含有する揮散性抗菌剤を持続的に効率よく利用することができる。該裏打シートに紫外線吸収剤を添加してもよく、着色しても良い。
本発明に使用する粘着性抗菌シートは、使用単位ごとに個別包装してもよく、該包装材料に紫外線吸収剤を添加してもよい。また、遮光のために、包装材料は茶色やオレンジ色、赤色系統の着色材料とすることもできる。
【0035】
支持体、裏打シート、または包装材料等に含有されうる紫外線吸収剤は、医療用シートに適用可能なものであれば良く、自体公知のものを使用することができる。例えばベンゾフェノン系、トリアゾール系等の有機系紫外線吸収剤 あるいは微粒子状の酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄等の無機系紫外線吸収剤が挙げられる。フィルムの透明性が要求される場合は有機系紫外線吸収剤が、透明性を要求されない場合はブリードアウトのない無機系の紫外線吸収剤が好ましく使用される。好ましい紫外線吸収剤として酸化チタンが挙げられる。紫外線吸収剤の配合量は特に制限されず、支持体等から溢れ出さない程度であればよく、例えば支持体、裏打シート、または包装材料等の樹脂成分100重量部に対して、通常0.01〜10重量部程度、好ましくは0.05〜5重量部である。
【0036】
裏打シート、あるいは包装材料は、医療用シートに適用可能なものであれば良く、自体公知のものを使用することができる。各種プラスチックシートや金属箔、金属蒸着したプラスチックシート、プラスチックシートと金属箔との積層シート、プラスチックシートを積層した紙基材等を用いることができ、透湿度の制御は材質やシート厚みで行えばよい。裏打シートの場合、剥離可能に支持体背面に積層する手段としては、自体公知の方法を適用することができる。
【0037】
上記により得られた粘着性抗菌シートを次のようにして使用し、被着体を抗菌することができる。粘着性抗菌シートを使用し、該抗菌シートと被着体との間に空間が設けられるように貼付する。
例えば、シリコンチューブやカテーテルなどの医療用具をカバー・固定したり、ガーゼのような多孔質体のうえから、カバー・固定する場合などが挙げられる。
かかる使用方法により、粘着性抗菌シートの面から揮散性抗菌剤を揮散させ、該粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面を抗菌することができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0039】
ヒノキチオールのシクロデキストリン包接体含有粘着性抗菌シートの作製
<粘着剤層の作製>
アクリル酸イソノニル65重量部、アクリル酸2−メトキシエチル30重量部、アクリル酸5重量部からなる単量体混合物を、トルエン80重量部に均一に溶解重合し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.3重量部を添加して共重合反応を行い、アクリル共重合体を得た。得られたアクリル共重合体100重量部に対して、カプリル酸トリグリセリル60重量部、架橋剤として三官能性イソシアネート化合物(商品名:コロネートHL、日本ポリウレタン社製)0.1重量部をトルエン中にて配合して均一な粘着剤溶液Aを作製した。
【0040】
一方で抗菌剤(ヒノキチオール(R)シクロデキストリン包接体:セイワテクニクス社製)7.0重量部の20%酢酸エチル懸濁液を超音波照射で均一分散させたものを、上記粘着剤溶液Aに滴下し、粘着剤層を作製した。
【0041】
<粘着性抗菌シートの作製>
上記のように作製した粘着剤層をポリウレタン/一軸延伸ポリプロピレン積層フィルムのポリウレタン側に圧着転写して貼り合わせ、本発明の方法に使用する粘着性抗菌シート(表1に記載の大きさ)を作製し、試験サンプルとした。紫外線吸収剤として酸化チタンを含み、茶色着色させた透明性のあるポリエステル/ポリエチレン積層構造の包装材料にて、粘着性抗菌シートを密封包装し、25kGyのγ線を照射して滅菌を施した。
【0042】
ヒノキチオールCD包接体:ヒノキチオール導入率12.0wt%
CD体:0.25wt%粘着シートの場合、CD包接体3.5重量部
CD体:0.05wt%粘着シートの場合、CD包接体0.7重量部
フリー体:0.50wt%粘着シートの場合、フリー体0.8重量部の10%メタノール溶液を添加する。
【0043】
支持体:透湿性の高い/低い部分を設けたPU
透湿性高い部分:赤(PUのみ)
透湿性低い部分:青(PUにPETを貼り付けた)
抗菌試験の結果は、フリー体は青の部分のみ効果が認められた。
【0044】
各実施例および比較例にて作製した粘着性抗菌シートについて、以下に示す方法で試験を行い、その結果を表1および図に示した。
【0045】
(実験例1)抗菌性試験
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)またはMRSAを菌種に用いた。各菌種を、SCD寒天培地(トリプトソーヤ寒天培地)に移植して、37℃で24時間培養した。発育した菌を内径1mmの白金耳で10白金耳量掻き取り滅菌生理食塩水に懸濁させた後、これを希釈して10cfu/cmの量の菌を、直径9cmのシャーレ内のSCD寒天培地上に播種した。
次いで、図2に示すように、シャーレの蓋にあたる部分に表1に示す支持体形状の試験サンプルを、粘着剤層面と菌面が平行になるように設置した。なお、実施例11、12に用いた試験サンプルは、図3に示す形状のものを用いた。蓋をした後、37℃で48時間培養を行い、培養終了後の阻止円の形状と大きさを測定し、抗菌活性を調べた。その結果を表1および図4に示した。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の抗菌方法によると、粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面が効果的に抗菌される。例えば輸液製剤の注入時における注射針の固定や、カテーテル挿入時の固定など医療用具の固定に粘着性抗菌シートを使用する場合、該抗菌シートの面から皮膚までの空間ならびに皮膚面、特に注射針等の皮膚内部への挿入局所が効果的に抗菌される。これにより、粘着性抗菌シートと皮膚の間に空間が生じる場合であっても、外部から菌が侵入することがなく、院内感染などの菌感染を防ぐことができる。特に、支持体に紫外線吸収剤を添加したり、着色したりして、揮散性抗菌剤の光に対する安定性を向上させることにより、より効果的に抗菌効果を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】抗菌性試験方法を示す図である。(実験例1)
【図2】抗菌性試験に使用した試験シートの形状を示す図である。(実験例1)
【図3】抗菌性試験結果を示す図である。(実験例1)
【符号の説明】
【0049】
1 シャーレ
2 ゴム
3 支持体
4 粘着剤層
5 培地
6 透湿性の高い部分
7 透湿性の低い部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に、揮散性抗菌剤およびその包接体を含有する非水系粘着剤層が形成された粘着性抗菌シートを使用し、該粘着性抗菌シートと被着体との間に空間を設け、粘着性抗菌シートの粘着剤層面から揮散性抗菌剤を揮散させ、粘着性抗菌シートの面から被着体に至るまでの空間および該空間に接する被着体の表面を抗菌することを特徴とする抗菌方法。
【請求項2】
透湿度が少なくとも800g/m・24hrs以上であり、支持体に紫外線吸収剤を含有させてなる粘着性抗菌シートを使用する請求項1に記載の抗菌方法。
【請求項3】
支持体が着色されてなる粘着性抗菌シートを使用する請求項1または2に記載の抗菌方法。
【請求項4】
含有する揮散性抗菌剤がヒノキチオールである請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−68723(P2007−68723A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258070(P2005−258070)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】