説明

粘膜上皮細胞からの人工多能性幹細胞の作製方法

【目的】 宿主細胞の採取に外科的処置を必要とせず、また、癌化の危険性の低い、人工多能性幹細胞の製造方法の提供。
【解決手段】 本発明は哺乳動物由来の粘膜上皮細胞において、初期化遺伝子を発現させる工程を含む、人工多能性幹細胞の作製方法を提供する。また、本発明は、前記方法において、初期化遺伝子を細胞質持続発現型RNAベクターにより発現させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
人工多能性幹細胞は、iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)とも呼ばれ、ほぼ無制限に増殖し、全ての臓器や組織や細胞に分化できる能力を持つとされている。iPS細胞は現在では皮膚線維芽細胞から作製されることが代表的となっているが(非特許文献1)、皮膚線維芽細胞の採取は麻酔下で外科的処置(組織の切除、注射器の使用又は出血を伴う処置等)により行う必要がある。このような外科的処置は、細胞提供者に麻酔による副作用及び採取時の痛みといった負担を強いることとなる。
【0002】
また、iPS細胞の作製には、既に分化した状態にある細胞を未分化の状態に誘導する初期化工程(リプログラミング)が必要であり、このようなリプログラミングは、宿主細胞(例えば皮膚線維芽細胞)において特定の組み合わせの遺伝子(以下、「初期化遺伝子」という)を発現させることにより行われる(非特許文献1)。
【0003】
初期化遺伝子の発現は、通常、ウィルスベクター等の発現ベクターを用いて行われるが、発現ベクターが宿主細胞のゲノム遺伝子へランダムに挿入されることにより、宿主細胞が癌化する危険性を伴う。さらに、このような遺伝子導入により作製したiPS細胞は、導入した初期化遺伝子の発現がリプログラミング完了後にも低下しない場合がある。リプログラミング後に初期化遺伝子が発現を維持した場合、未分化状態を維持しようとする傾向が生じ、目的組織細胞への分化誘導が困難なものになり、また、テラトーマを形成するリスクが生じる(非特許文献2)。さらに、特定の初期化遺伝子の継続的な発現又はleakyな発現によってもiPS細胞自体が腫瘍を形成することが報告されている(非特許文献3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takahashi, K. et al., Cell (2007) Nov 30: 131 pp. 861-872
【非特許文献2】Hacein-Bey-Abina, S. et al., Science (2003) 302, pp. 415-419
【非特許文献3】Okita, K. et al., Nature (2007) 448, pp. 313-317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、宿主細胞の採取に外科的処置を必要とせず、また、癌化の危険性の低い、iPS細胞の製造方法の開発が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、外科的処置を必要としない試料採取法と遺伝毒性のないRNAウイルスベクターによる新たな手法を用いたiPS細胞を樹立することを目的して研究を進めた結果、被験者の鼻粘膜上皮を採取し、これらの細胞において初期化遺伝子を発現させることにより、外科的処置を必要せずにiPS細胞を作製することに成功した。
【0007】
また、本発明者らは、初期化遺伝子の発現に細胞質持続発現型RNAベクターを用いることにより、宿主である粘膜上皮細胞のゲノムDNAを無傷の状態に保ったまま初期化遺伝子を発現させ、これによって癌化リスクの低いiPS細胞を作製することに成功した。
【0008】
本発明は、これらの成功に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 哺乳動物由来の粘膜上皮細胞において、以下の遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つを発現させる工程を含む、人工多能性幹細胞の作製方法。
OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T、GLIS1
[2] 前記粘膜上皮細胞が鼻粘膜上皮細胞である、前記[1]に記載の方法。
[3] 前記遺伝子が発現ベクターにより発現される、前記[1]に記載の方法。
[4] 前記発現ベクターが細胞質持続発現型RNAベクターである、前記[3]に記載の方法。
[5] 前記発現ベクターがセンダイウィルスベクターである、前記[3]に記載の方法。
[6] 前記遺伝子がOCT3/4、SOX2、KLF4及びc-MYCである、前記[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、外科的処置を経ることなく、ドナー由来のiPS細胞を作製することができる。本発明の方法は、外科的処置を必要としないため、ドナーの負担が著しく低減される。このため、同一のドナーから、一回のサンプリングを行って、多くの粘膜上皮細胞を得ることが可能であり、ドナー1体からのiPS細胞の作製効率は従来法と比べても同等に有効である。また、粘膜は常に再生されているため、同一のドナーから、時期をずらして何回でも粘膜上皮細胞をサンプリングし、これを用いてiPS細胞を繰り返し作製することができる。 さらに、本発明の方法では細胞質持続発現型RNAベクターを用いてもよく、この場合、初期化遺伝子は粘膜上皮細胞のゲノムDNAに取り込まれることがないため、作製されるiPS細胞は、従来の方法により作製されるiPS細胞と比較して、癌化するリスクが低く、再生医療に有用である。
【0011】
また、細胞質持続発現型RNAベクターを使用した場合、初期化遺伝子の発現が細胞質内に限定されるため、その発現は一過性のものとなり、iPS細胞誘導後には最終的に外来性の初期化遺伝子は除去されることになる。このため、本発明の方法により作製されたiPS細胞は、目的組織細胞に分化誘導を行う際に、外来性初期化遺伝子の発現による分化阻害を受けることがなく、この点からも、再生医療に非常に有用な材料であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施態様を示す模式図である。
【図2】本発明に用いた鼻粘膜上皮細胞の顕微鏡写真である。
【図3】GFP発現センダイウィルスベクターで感染させた鼻粘膜上皮細胞の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の方法によるiPS細胞の作製効率を示す図である。
【図5】本発明の方法により得られたiPS細胞の顕微鏡写真である。
【図6】SNPシークエンス解析の結果を示す図である。
【図7】未分化マーカー遺伝子発現の解析結果を示す図である。
【図8】未分化マーカータンパク質発現の解析結果を示す図である。
【図9】本発明の方法により得られたiPS細胞、ES細胞及び鼻粘膜細胞の遺伝子発現パターンの相関性を示す図である。
【図10】Bisulfideシークエンス解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書においては、以下の略語を使用する。
【0014】

略語
iPS細胞:induced pluripotent stem cells
ES細胞:Embryonic stem cells
SeV:Sendai Virus
MEF:mouse embryonic fibroblast
SV40:Simian Vacuolating Virus 40
GFP:Green Fluorescent Protein
MOI:Multiplicity of Infection
SNP:Single Nucleotide Polymorphism

試薬
SABM培地:Small Airway Epithelial Cells Basal Medium
DMEM培地:Dulbecco's Modified Eagle Medium
DMEM-F12培地:Dulbecco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12 HAM 1:1
FBS:Fetal Bovine Serum
KSR:KnockOutTM Serum Replacement

遺伝子・タンパク
OCT3/4:Octamer-binding Transcription Factor 3/4(別名POUF5F1)
SOX2:SRY (sex determining region Y)-box 2
SOX1: SRY (sex determining region Y)-box 1
KLF4:Krueppel-like factor 4
KLF2:Krueppel-like factor 2
KLF5:Krueppel-like factor 5
c-MYC:c- myelocytomatosis viral oncogene
n-MYC:n- myelocytomatosis viral oncogene
l-MYC:l- myelocytomatosis viral oncogene
NANOG:NANOG homeobox
hTERT: human telomerase reverse transcriptase
GLIS1: GLIS family zinc finger 1
GDF3:Growth differentiation factor-3
REX1:Reduced expression gene 1
DPPA2:Developmental pluripotency associated 2
DPPA4:Developmental pluripotency-associated 4
GDPDH:Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase
SSEA3:Stage-specific embryonic antigen 3
SSEA4:Stage-specific embryonic antigen 4

1. iPS細胞の作製方法
本発明は、哺乳動物由来の粘膜上皮細胞において、少なくとも1つの初期化遺伝子を導入して発現させる工程を含む、人工多能性幹細胞の作製方法を提供する。
初期化遺伝子
初期化遺伝子の例としては、OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T、GLIS1が挙げられる。
【0015】
「OCT3/4」は、未分化状態のES細胞のマーカーとして報告される遺伝子である(Niwa, H. et al., Nat. Genet (2000) 24 (4): 372-6)。
【0016】
「SOX2」は、胚発生初期において発現する遺伝子であるが、神経幹細胞などにおいてもは発現が認められる遺伝子である(Kamachi, Y. et al., Trends Genet (2000) 16 (4): 182-7)。本発明においては、SOX2遺伝子の代わりにSOX1遺伝子を用いることも可能である(Yamanaka, S., Cell (2009) April 3:137 pp.13-17)。
【0017】
「KLF4」は、皮膚、胃、小腸及び骨格筋細胞内で発現していることが知られている(Geiman, D.E. et al., Nucleic Acids Res. (2000) 28 (5): 1106-13)。本発明においては、KLF4遺伝子の代わりに、KLF2又はKLF5遺伝子を用いることも可能である(Yamanaka, S. Cell (2009) April 3:137 pp.13-17)。
【0018】
「c-MYC」は、種々の遺伝子の発現調節及びDNA複製に関与するDNA結合因子、即ち転写因子をコードする遺伝子であるが、MYC遺伝子の発現異常は、種々のがんとの関連性が示唆されている(Dominguez-Sola, D. et al., (2007). Nature 448, pp. 445-451)。本発明においては、c-MYC遺伝子の代わりに、n-MYC又はl-MYC遺伝子を用いることも可能である(Yamanaka, S. Cell (2009) April 3:137 pp.13-17, Blelloch, R. et al., Cell Stem Cell (2007) 1: pp. 245-247)。
【0019】
「NANOG」は、未分化状態のES細胞のマーカーであるNANOGタンパク質をコードする遺伝子である(Chambers, I. et al., Cell (2003) 113(5): 643-55)。
【0020】
「LIN28」は、タンパク質LIN28 homolog Aをコードする遺伝子であり、当該タンパク質は、未分化状態のES細胞のマーカーとして知られている(Richards, M. et al, Stem Cells (2004) 22:51-64)。
【0021】
OCT3/4、SOX2、NANOG及びLIN28の4遺伝子を発現することにより、iPS細胞を誘導可能なことが報告されている(Yu, J. et al., Science (2007) 318: pp. 1917-1920)
「hTERT」は、テロメラーゼタンパク質の活性サブユニットをコードする遺伝子である(Kirkpatrick, K.L. and Mokbel, K., Eur J Surg Oncol (2001) 27(8): 754-60)。
【0022】
「SV40 large T」は、ポリオーマウィルスSV40由来のヘキサマータンパク質をコードするガン原遺伝子である(Ali, S.H. and DeCaprio, J.A., Semin Cancer Biol (2001) 11 (1): 15-23)。
【0023】
hTERT及びSV40 large T の両遺伝子は、iPS細胞の誘導に寄与することが報告されている(Park, I.H. et al., Nature (2007) 451: pp.141-146)。
【0024】
「GLIS1」は、GLIS1タンパク質をコードする遺伝子であり、GLIS1タンパク質は胚発達の特定段階において遺伝子発現のコントロールに重要な役割を果たすと考えられている(Kim, Y.S. et al., J. Biol. Chem. (2002) 277: 41888-41896)。皮膚線維芽細胞内でOCT3/4、SOX2、KLF4及びGLIS1を発現させることにより、iPS細胞を誘導可能なことが報告されている(Maekawa, M. et al. Nature (2011) Jun 8;474(7350): pp.225-9)
OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T、GLIS1の各遺伝子は、イントロンを含むゲノム遺伝子、mRNA又はcDNAのいずれの形態にあってもよいが、好ましくはcDNAである。
【0025】
OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T、GLIS1の各遺伝子のヌクレオチド配列は、NCBIデータベースGenBankに下記のAccession Numberで登録されている。
【0026】
【表1】

【0027】
一実施形態において、OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T又はGLIS1の各遺伝子は、上記表に記載のGenBank Accession Numberに示されるポリヌクレオチドの塩基配列において1又は複数個(例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個(1〜数個)、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個若しくは1個)の塩基が欠失、挿入、置換若しくは付加された変異体であり、かつ、各タンパク質OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、C-MYC、N-MYC、L-MYC、NANOG、LIN28、HTERT、SV40 LARGE T若しくはGLIS1又はこれと同様の活性を有するタンパク質(例えば、OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、C-MYC、N-MYC、L-MYC、NANOG、LIN28、HTERT、SV40 LARGE T又はGLIS1のタンパク質のアミノ酸配列と、0%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードするものであってもよい。
粘膜上皮細胞
本発明において、「粘膜上皮細胞」とは、粘膜層に含まれる上皮細胞を意味し、重層扁平上皮及び単層円柱上皮のいずれをも含み得る。粘膜上皮細胞の例としては、鼻粘膜、気管支粘膜、気管粘膜及び気道粘膜等に含まれる上皮細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
好ましくは、粘膜上皮細胞は、鼻粘膜上皮細胞である。
【0029】
これら体表面に露出した粘膜に含まれる上皮細胞は、滅菌したブラシ又は綿棒等の適切な採取器具を用いて、個体から粘膜を採取し、その粘膜成分から公知の方法に従って単離することができる。
【0030】
例えば、滅菌したブラシ、セルスクレイパー又は綿棒により鼻腔、口腔、外耳道又は眼球表面より粘膜を採取し、ブラシ又は綿棒を適切な培養培地(例えば、上皮細胞増殖因子(Epithelial Growth Factor)を添加したSABM培地等)に浸けてブラシ、セルスクレイパー又は綿棒に付着した細胞を回収する。回収した細胞を適切な培養ディッシュ(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン又はポリリジン等の接着分子でコーティングしたものであってもよい)上で培養し、定期的に培養ディッシュを洗浄することにより、付着した細胞を粘膜上皮細胞として回収することができる。
【0031】
本発明において粘膜上皮細胞のドナーは、哺乳動物であれば特に限定されないが、好ましくはヒトである。
遺伝子導入方法
本発明において、初期化遺伝子を粘膜上皮細胞で発現させるには、当該遺伝子を適切な発現カセットとして発現ベクターに挿入し、該ベクターにより粘膜上皮細胞を形質転換すればよい。適切な発現カセットは、少なくとも以下の(i)〜(iii)を構成要素として含む。
(i)哺乳動物由来の粘膜上皮細胞で転写可能なプロモーター;
(ii)該プロモーターにin-frameに結合した遺伝子;及び
(iii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化シグナルをコードする配列
各初期化遺伝子は、それぞれが個別の発現ベクターに組み込まれていてもよく、あるいは、複数が同一の発現ベクターに組み込まれ、それによって同時に発現されてもよい。
【0032】
哺乳動物由来の粘膜上皮細胞で転写可能なプロモーターの例としては、CMV、CAG、LTR、EF-1α、SV40プロモーター等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
前記発現ベクターは、前記発現カセットの他に、形質転換された粘膜上皮細胞をセレクションするための選択マーカー発現カセットを有していてもよい。選択マーカーの例としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等のポジティブセレクションマーカー、LacZ、GFP(Green Fluorescence Protein)及びルシフェラーゼ遺伝子などの発現レポーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)等のネガティブセレクションマーカー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
形質転換された粘膜上皮細胞は、上記マーカーにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した細胞であれば、G418を加えた培地中で培養することにより、一次セレクションを行うことができる。また、前記マーカーに加えて発現ベクターがGFP等の蛍光タンパク質の遺伝子をマーカーとして含む場合には、薬剤耐性によるセレクションに加えて、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorter)等を用いた蛍光タンパク質発現細胞のソーティングを行ってもよい。
【0035】
粘膜上皮細胞への遺伝子の導入に使用可能な発現ベクターの好ましい例としては、粘膜上皮細胞のゲノムDNAに取り込まれない発現ベクターが挙げられる。
【0036】
宿主細胞のゲノムDNAに取り込まれない発現ベクターを用いることにより、宿主細胞の癌化を回避することができるからである。また、リプログラミング完了後に、初期化遺伝子が残存することも併せて回避することができる。
【0037】
このような発現ベクターの例としては、プラスミド(Okita, T. et al. (2008). Science 322, 949-953)又は細胞質持続発現型RNAベクターが挙げられる。
【0038】
特に、細胞質持続発現型RNAベクターは、RNAウィルスベクターであるため、宿主細胞に対して強い感染力を有し、さらに、ゲノムDNAに取り込まれることがないため、宿主細胞の内在性遺伝子を破壊する恐れがないというメリットを有する。従って、宿主細胞を癌化させる危険性がないため、このような細胞質持続発現型RNAベクターを用いて誘導したiPS細胞は、再生医療に有用である。
【0039】
このような細胞質持続発現型RNAベクターの例としては、持続感染能を有するパラミクソウィルス由来のベクターが挙げられ、特に好ましくは、センダイウィルスベクターが挙げられる。
【0040】
iPS細胞の誘導を目的とした場合、複数の初期化遺伝子を同時に発現できる細胞質持続発現型RNAベクターが好ましい。このような条件を満たす細胞質持続発現型RNAベクターとしては、例えば、Nishimura, K. et al(J. Biol. Chem (2011) Feb 11; 286(6): 4760-4771. Epub 2010 Dec 7.)、Fusaki, N. et al.,(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. (2009) 85(8):348-362)及び Li H. O., et al.,(J Virol. (2000) 74(14):6564-6569)に報告されるベクターが挙げられる。あるいは、本発明の方法において、市販のベクター(例えば、CytoTuneTM‐iPS (DNAVEC))を用いてもよい。
【0041】
このような発現ベクターを、例えば、MOI(重複感染度; Multiplicity of infection)=1〜10、2〜5、好ましくは3〜4で粘膜上皮細胞に感染させることにより、当該粘膜上皮細胞内で初期化遺伝子を発現させることができる。
【0042】
粘膜上皮細胞のゲノムDNAへの初期化遺伝子の挿入の有無は、遺伝子導入後に粘膜上皮細胞のゲノムDNA についてSNP Genotyping解析を行い、ゲノムの欠損又は重複を解析することにより確認することができる。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)
上記のように初期化遺伝子を導入した粘膜上皮細胞を、未分化状態の胚性幹細胞(ES細胞)と同様の条件下で培養することにより、最終的にリプログラミングされたiPS細胞を得ることができる。
【0043】
ES細胞の培養方法は公知であり、例えば、ヒト由来ES細胞の培養方法は、理研CDB・ヒト幹細胞研究支援室プロトコール(2008)、Takahashi, K. et al. (Cell (2007), Nov 30: 131, pp. 861-872)及びThomson, J.A. et al.(Science (1998) Nov 6:282 pp. 1145-1147)に記載されている。
【0044】
具体的には、初期化遺伝子を導入した粘膜上皮細胞は、マウス胚性線維芽細胞(MEF)等のフィーダー細胞、Leukimea Inhibitory Factor(LIF)若しくは塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)又はこれらの組み合わせの存在下で、適切な培養培地(例えば、KSRを添加したDMEM培地)中で維持培養し、iPS細胞へと誘導することができる。
【0045】
得られた細胞がiPS細胞としての特性を有するかどうかは、得られた細胞がES 細胞と同様の生物学的特性を有することを検証することにより確認することができる。
【0046】
このような検証方法の例としては、顕微鏡を用いた細胞形態観察、幹細胞マーカー発現解析(RT-PCR、免疫染色)、遺伝子発現解析、メチル化解析(Bisulfiteシーケンシング)、モデル動物への移植によるテラトーマ形成の観察等又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
例えば、幹細胞マーカー発現解析により、本発明の方法で得られた細胞がOCT3/4、SSEA4又はNANOG等の未分化ES細胞マーカーを発現しているかどうかを確認することができる。
【0048】
また、マイクロアレイを用いて得られた細胞の遺伝子発現パターンとES細胞の遺伝子発現パターンを解析し、両細胞の遺伝子発現パターンの相関性を分析することにより、得られた細胞が、ES細胞様の遺伝子発現パターンを示すかどうかを確認することができる。
【0049】
さらに、OCT3/4、SSEA4又はNANOG等の未分化ES細胞マーカー遺伝子のプロモーター領域のメチル化パターンをBisulfiteシーケンシングで解析することにより、得られた細胞のゲノムDNAが、ES細胞様の脱メチル化状態にあるかどうかを確認することができる。
【0050】
以上に挙げた方法により、本発明の方法により得られた細胞が、ES 細胞と同様の生物学的特性を有することを検証することが可能である。
【0051】
また、本発明の方法により得られた細胞が、多分化能(pluripotency)を有することを確認することも有用である。例えば、本発明の方法により得られた細胞を人工的に、複数種類の組織細胞へ分化誘導することにより、当該細胞の多分化能を検証することができる。
【0052】
例えば、上皮細胞、神経細胞、膵臓細胞、肝細胞、骨細胞、骨芽細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、上皮細胞、中皮細胞、造血幹細胞、血液細胞及び神経幹細胞から選択される組織細胞の2つ以上(好ましくは3つ以上)へ分化可能な場合には、本発明の方法に得られた細胞は、多分化能を有するものといえる。
【0053】
上記組織細胞への分化誘導の方法は、Nishimura, Y. et al.,(STEM CELLS (2006)24 pp.1381-1388)及びFusaki, N. et al.,(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. (2009) 85(8):348-362)を参照することができる。
【0054】
あるいは、本発明の方法により得られた細胞を、モデル動物に皮下移植し、テラトーマ形成の有無を観察することにより、当該細胞の多分化能を検証することができる。モデル動物の例としては、ヒトを除く哺乳動物が好ましく、特に免疫抑制された哺乳動物が好ましい。免疫抑制された哺乳動物の例としては、ヌードラット及びヌードマウスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
iPS細胞としての多分化能を確認するための方法は、公知であり、詳細については、例えば、Takahashi, K. et al., (Cell (2007) Nov 30: 131 pp. 861-872)に記載の方法を参照することができる。
【0056】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
[実施例1] 鼻粘膜上皮細胞からのiPS細胞の樹立
1.鼻粘膜上皮細胞の初代培養
(1)培地の作製
使用した培地は、以下の組成で調製した。
【0058】
【表2】

【0059】
(2)初代培養
初代培養に用いた培地は、上記培地39.2mlにPenicillin-StreptoMYCin Solution Stabilised (SIGMA )800μlを加え、室温に戻して使用した。
【0060】
Cyto Soft Cytology Brush(MEDICAL PACKAGING)を用いて、医師により鼻下甲介部位の鼻粘膜上皮細胞を採取した。60mm dish(Corning)にあらかじめ用意した室温の培地3mlに採取に使用したブラシを浸け、ブラシに付着した細胞を落とし、ピペッティングにより細胞塊をほぐした。この懸濁液をBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dish(BD Biocoat)(1枚目)にまき、さらに、細胞の回収率を上げるため、再度60mm dishに培地1mlを入れ、新たなBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dish(2枚目)にまいた。この工程をもう一度行い、細胞塊がほぐれているか顕微鏡で確認した後(図2A:100倍率)、37℃、5%CO2で培養した。
【0061】
24時間後に観察し、細胞が接着していた場合、1枚目のBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dishから非接着細胞を回収し、新たなBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dish(3枚目)にまいた。その後、1枚目のDishに新たに培地を2ml加えた。この過程を48時間後に繰り返し、(3枚目のDishから回収し、4枚目の新たなBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dishにまく)。72時間後に2枚目、4枚目のDishの培地交換(2ml)を行った。
【0062】
以降、70〜90%confluent(図2B:100倍率)に達するまで中2日おきに培地交換を行った。細胞の増殖に応じて、適宜、培地添加量を増やした(25%以下:1 ml / 5 cm2、25〜45%:1.5 ml / 5 cm2、45%以上:2 ml / 5 cm2)。
(3)鼻粘膜上皮細胞の継代
タカラバイオ社製マニュアル「正常ヒト細胞培養方法」を参考とした。
【0063】
継代に使用する培地、試薬は室温に戻して使用した。
【0064】
細胞を培養したBiocoat Collagen I Cellwave 35mm DishからSMBM培地をアスピレータにより吸引除去し、 1.6mlのHEPES Buffered Solution(HEPES-BSS) (Lonza)で細胞を洗浄し、HEPES-BSSをアスピレータにより吸引除去した。続いて、0.64 mlのTrypsin/EDTA0.025% Trypsin/0.01% EDTA(HBSS中)(Lonza)を加え、Dish底面全体に行き渡らせ、顕微鏡で細胞の状態を観察しながら、細胞の約90%が剥がれて丸くなるまで室温でトリプシン処理(最大7分間)を行った。この時、2分間隔で軽くDishを横と底面から叩いた。細胞が剥がれた後、1.28mlのTrypsin Nutralizing solution(TNS) (Lonza)を加え、剥がれた細胞を速やかに15 ml用滅菌遠心チューブに移し、Dishを0.64 mlのHEPES-BSSで洗い、残りの細胞を遠心チューブに回収し、4℃、220 gで5分間遠心した。上清を100〜200 μl程度残してアスピレータにより吸引除去し、タッピングにより細胞ペレットをほぐした。 培地を加えて細胞を懸濁し、トリパンブルー染色(トリパンブルー20μl+細胞懸濁液20μl;2倍希釈)によりBuker-Turk型血球計数板で細胞数をカウントし、総細胞数・生存率を算出した。細胞懸濁液を均一にし、7.0cells/55mm2となるようCell Culture Dish 100mm×20mm(Corning)に播種し、37℃、5% CO2のインキュベーターに移し均一に広げた後、培養を行った。以降、初代培養と同様70〜90%confluentに達するまで中2日おきに培地交換を行った。細胞の増殖に応じて、適宜、培地添加量を増やした(25%以下:1 ml / 5 cm2、25〜45%:1.5 ml / 5 cm2、45%以上:2 ml / 5 cm2)。
(4)鼻粘膜上皮細胞の保存
保存培地の調整
極東 凍結保存用培地 FM-1(極東製薬工業株式会社)とSABM培地を1:1で混和し、氷冷した。
【0065】
細胞を培養したCell Culture Dish 100mm×20mmから培地を吸引除去し、室温10mlのHEPES-BSSで細胞を十分に洗浄し、吸引除去した。続いて、4.4mlのTrypsin/EDTAを加え、Dish全体に行き渡らせ、細胞を顕微鏡で観察しながら、細胞の90%が剥がれて丸くなるまでトリプシン処理(最大7分間)を行った。この時、2分間隔で軽くDishを横と底面から叩いた。細胞が剥がれた後、8.8mlの TNSを加え、剥がれた細胞を速やかに50 ml用滅菌遠心チューブに移し、Dishを4.4 mlのHEPES-BSSで洗い、残りの細胞を遠心チューブに回収し、4℃、220 gで5分間遠心した。上清を完全にアスピレータにより吸引除去し、保存培地(FM-1+SABM培地)1mlで泡立てないように懸濁した。この懸濁液20μlを氷冷していたトリパンブルー20μlに加え、Buker-Turk型血球計算盤で簡単に細胞状態の確認を行った。氷冷していたセラムチューブ(Corning Incorporated 2ml, CORNING)に懸濁液を移し、セラムチューブをBICELL(NIHON FREEZER)に入れ、ディープフリーザー(−80℃)に入れた。その後、Buker-Turk型血球計算盤で細胞をカウントし、総細胞数、細胞生存率を算出し、翌日、出来るだけ迅速に液体窒素タンクに保存した。
(5)凍結保存された鼻粘膜上皮細胞の起こし
培地は室温に戻してから使用した。
【0066】
液体窒素タンクからセラムチューブを取り出し、浮きにさして37℃の恒温槽に浮かべて振り、 チューブ内の保存液が半解凍状態になった時にベンチ内に入れ、培地1mlを一滴ずつ加えた。セラムチューブ内の培地を50mlの遠心管に移し、培地10〜20mlを一滴ずつゆっくり滴下し、 4℃、220G、5分遠心した。上清を吸引除去したら培地1mlで懸濁し、20μl取ってトリパンブルーで2倍に希釈して血球計算板で生細胞数をカウントし、細胞数、細胞生存率を算出した。10mlの培地の入ったCell Culture Dish 100mm×20mm に7.0×104 cells/55mm2で細胞懸濁液をまき、37℃、5%のCO2インキュベ内に移し、均一に広げた後、培養を開始した。 5時間後に培地交換し、以降中2日おきに培地交換を行った。
2.iPS細胞の樹立
(1)使用試薬調整
<MEF(Mouse embryonic fibroblast)培養>
【0067】
【表3】

【0068】
解凍したFBSを56℃恒温槽で30分間温め、分注して−20℃で保存した。
【0069】
【表4】

【0070】
解凍したFBSをDMEM培地500mlに加え、混和し、4℃で保存した。
【0071】
【表5】

【0072】
PBS(-)2mlをテルモシリンジ2mlにテルモカテラン針(19G×1 1/2, 1.10×38mm)で吸引
し、Mitomycin C 2mgの入ったバイアルに注入し、混和した。
【0073】
【表6】

【0074】
テルモシリンジ5mlにテルモカテラン針(0.90×70mm)でDMSO 5mlを吸引し、50mlチューブへ移し、そこへMEF用培地45ml添加し、よく懸濁し、氷冷した。
【0075】
【表7】

【0076】
400ml程度の超純水にGELATIN Type B 500mgを加え、電子レンジで溶解した。超純水で500mlにメスアップし、オートクレーブにかけ、4℃保存した。
<iPS培養>
【0077】
【表8】

【0078】
CaCl2 1.47gに超純水10mlを加え、約1分ボルテックスし、1000rpm、1分で遠心した。その後、Millex-GP 33mm PES 0.22μm Sterile 50/pk (日本ミリポア)でろ過滅菌した。
【0079】
【表9】

【0080】
Collagenase IV 100mgをPBS 10mlに加え、約1分ボルテックスし、1000rpm、1分で遠心した。その後、Millex-GP 33mm PES 0.22μm Sterile 50/pk (日本ミリポア)でろ過滅菌した。
【0081】
【表10】

【0082】
上記試薬を混和し、1.5mlずつ分注し、−20℃保存した。解凍後は4℃保存で1週間使用した。
【0083】
【表11】

【0084】
上記試薬を混和し、Millex-GP 33mm PES 0.22μm Sterile 50/pk (日本ミリポア)でろ過滅菌し、4℃保存した。
【0085】
【表12】

【0086】
上記試薬をフィルターシステム(0.22μm PES Plus Membrane 500ml Funnel (IWAKI)、 IWAKI Receiver Bottle 500ml (IWAK))に入れ、ろ過滅菌し、4℃保存した。使用直前に0.1M 2-Mercaptoethanolを1μl/培地1ml(1000倍希釈)で入れ、使用した。
【0087】
【表13】

【0088】
bFGF 50μgにヒトES培地500μlを混和し、5μlずつ分注し、−20℃保存した。
【0089】
【表14】

【0090】
bFGF濃厚原液ストック25μlにDMEM-F12 5mlを混和し、1mlずつ分注したものを4℃で保存した。4週間以内に使用した。
【0091】
【表15】

【0092】
Acetamide 0.59gを5 ml程度のヒトES細胞用培地に溶解し、Millex-GP 33mm PES 0.22μm Sterile 50/pk (日本ミリポア)でろ過滅菌する。さらに、DMSO 1.42ml、Propylene glycol 2.2mlを添加し、ヒトES培地で10mlにフィルアップしたものを適量ずつ分注し、−80℃で保存した。数回の融解、凍結は可能。
【0093】
【表16】

【0094】
Y-27632 5mgに超純水1.48mlを混和し、40μlずつ分注し、−20℃保存した。
(2)フィーダー細胞(MEF)の準備
MEF のマイトマイシンC 処理working stock (凍結) の作成
MEFは北山ラベスより購入した。
[1] MEF を起こす (10 cm dish 5 枚)
15 ml 遠沈管にMEF 用培地9 ml を入れ、37℃恒温槽で温めておき、37℃恒温槽でMEF を半解凍した。温めた培地を遠沈管から1 ml 程度とり、MEF のチューブに添加し細胞を融解した後、遠沈管に素早く回収し、約170 g (1,000 rpm)、4℃で5 分間遠心後、上清を吸引し、MEF 用培地5 ml で懸濁した。細胞培養用10 cm dish(Falcon) 5 枚にMEF 用培地を各9 ml 入れ、細胞懸濁液を各1ml 播種し、均一に広げた後、37℃、5% CO2 条件下で培養開始した。翌日、培地交換を行った。
【0095】
[2] 継代 (15 cm dish 15 枚)
PBS (Ca、Mg不含)(SIGMA)、0.05 % Trypsin/5.3mM EDTA solution(Invitrogen)、MEF 用培地、1 mg/ml Mitomycin Cは37℃恒温槽で温めたものを使用した。
【0096】
コンフルエントになっているMEF の培養液を吸引し、PBS 10 ml で洗浄し、0.05% Trypsin-EDTA を3 ml/dish 添加した。37℃、5% CO2条件下で5 分間インキュベートした後、ディッシュを揺すって細胞を剥がし、細胞懸濁液を50 ml 遠沈管に回収した。さらに、MEF 用培地を3 ml/dish 添加し、残りの細胞も遠沈管に回収し、約170 g (1,000 rpm)、 4℃で5 分間遠心後、上清を吸引し、MEF 用培地30 ml(6 ml/dish)で懸濁した。続いて、細胞培養用15 cm dish(Falcon)15 枚に、MEF 用培地を各28 ml 入れ、細胞懸濁液をDishに各2 ml播種した。均一に広げ、37℃、5% CO2 条件下で培養開始した。
【0097】
[3] Mitomycin C処理
コンフルエントになった細胞培養用15 cm dish 3 枚から、培養液を15 ml ずつ遠沈管に回収し、遠沈管 (15 ml×3 =45 ml 培養液)に1 mg/ml Mitomycin Cを900 μl 添加し、よく混和した後、再び2) の細胞培養用15 cm dishに15 ml ずつ戻した。これを培養ディッシュ15 枚分、繰り返した。37℃、5% CO2 条件下で3 時間インキュベートし、アスピレーターで培養液を吸引除去した後、DMEM 25 ml/dish でMEF を3 回洗浄した。その後、MEF 用培地25 ml を入れ、37℃/5% CO2 条件下で一晩培養した。
【0098】
[4] 凍結保存
PBS (Ca、Mg不含)(SIGMA)、0.05 % Trypsin/5.3mM EDTA solution(Invitrogen)、MEF 用培地は37℃恒温槽で温めて使用した。また、10% DMSO/MEF 用培地、凍結保存用cryogenic vial(Falcon)は氷中で、BICELL(NIHON FREEZER)は4℃で冷やして使用した。
【0099】
MEF の培養液を吸引し、PBS 30 ml/dishで洗浄し、0.05% Trypsin-EDTA を5 ml/dish添加した。37℃、5% CO2条件下で5 分間インキュベートした後、ディッシュを揺すって細胞を剥がし、細胞懸濁液を50 ml 遠沈管に回収した。さらに、MEF 用培地を5 ml/dish 添加し、残りの細胞も遠沈管に回収する工程を2回行った。よく混合後、50 μl取ってBuker-Turk型血球計算盤で細胞をカウントし、必要なMEF ストック用培地量を算出した(hES フィーダー用; 4.0X105 cells/60 mm dish)。その後、約170 g (1,000 rpm)、 4℃で5 分間遠心後、上清を吸引し、ペレットをほぐすため軽くタッピングしたものにMEF ストック用培地を必要量加え、ピペッティングした。この懸濁液を凍結保存用cryogenic vialに適量ずつ分注し、チューブをBICELL に入れ、容器ごと-80℃へ移し一晩置き、翌日に凍結保管場所に移した。
【0100】
iPS細胞の継代前日〜当日に、必要量のMEF をゼラチンコートしたDish上に解凍し、フィーダー細胞として使用した。
【0101】
[5] MEFのMitomycin C 処理working stock (凍結)の解凍
MEF用培地は37℃恒温槽で温めて使用した。また、使用するDishにおいて0.1% ゼラチン溶液を添加し(5 ml/100mmDish、3 ml/60mmDish、1 ml/35mmDish)、37℃のCO2インキュベーター内で30 分以上静置し、使用直前にゼラチン溶液をアスピレーターで除去したものを使用した。
【0102】
15 ml 遠沈管にMEF 用培地9 ml を入れ、37℃恒温槽で温めておき、37℃恒温槽でMitomycin C済みMEF を半解凍した。温めた培地を遠沈管から1 ml 程度とり、MEF のチューブに添加し細胞を融解した後、遠沈管に素早く回収し、約170 g (1,000 rpm)、4℃で5 分間遠心後、上清を吸引し、適当な細胞濃度になるようMEF 用培地を加え、懸濁した。適量MEF培地を入れた(播種量+培地=5ml/60mm dish)細胞培養用60 mm dish(Falcon)に細胞懸濁液を適宜播種し、均一に広げた後、37℃、5% CO2 条件下で培養開始した。翌日、培地交換を行った。本実施例では、以下の細胞濃度で使用した。
【0103】

遺伝子導入後の継代:1.5×105cells/100mm dish
コロニー単離:24‐well pleteに4.7×104cells/well
維持培養:4.0×105cells/60mm dish
(3)遺伝子導入
[1] フィーダー細胞の準備(細胞継代の前日)
予めゼラチンコートした培養ディッシュに1.5×105cells/100mm dish になるようにMEF を播種し、翌日、MEF用培地を用いて培地交換を行った。
【0104】
[2] GFPによるSeV感染の確認
遺伝子導入における条件検討およびSeV感染を確認するために鼻粘膜上皮細胞にGFPベクターを導入した。図3は、MOI=3でSeV感染させた鼻粘膜上皮細胞の顕微鏡写真である(100倍率)。
【0105】
鼻粘膜上皮細胞を1.0×105cells/Dish になるようにBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dishへ播種し、37oC、5% CO2条件下で1 晩培養した。
【0106】
翌日、−80℃ で保存されているCytoTuneTM‐iPS (DNAVEC)のGFPベクター溶液のチューブ下端を37℃恒温槽で温めて半解凍後、速やかに氷中へ移した。SABM培地1mL の入った15 mL遠心管に、ベクター溶液を適量加え、数回ピペッティングし、5 分以内に用意した鼻粘膜上皮細胞の培地を吸引除去し、直ちにCytoTuneTM‐iPS・SABM培地混液を1mlずつ静かに培養Dishそれぞれに添加し、全体によくなじませた。 37℃、5% CO2条件下で24 時間培養後、SABM培地で培地交換を行った(2 mL/Dish)。
【0107】
37℃、5% CO2条件下でさらに5〜6 日間培養し、SABM培地を用いて毎日培地交換を行った。
【0108】
[3] 初期化遺伝子の導入
鼻粘膜上皮細胞を1.0×105cells/Dish になるようにBiocoat Collagen I Cellwave 35mm Dishへ播種し、37℃、5% CO2条件下で1 晩培養した。
【0109】
翌日、‐80℃ で保存されているCytoTuneTM‐iPS (DNAVEC)の各チューブ下端を順に37℃恒温槽で温めて半解凍後、速やかに氷中へ移した。SABM培地2 mL の入った15 mL遠心管に、そこに4 種類のチューブ(OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)のベクター溶液を適量それぞれ加え(106 細胞に対しMOI=3 となる)、数回ピペッティングし、5 分以内に用意した鼻粘膜上皮細胞の培地を吸引除去し、用意したCytoTuneTM‐iPS・SABM培地混液を1mlずつ静かに培養Dishそれぞれに添加し、全体によくなじませた。 37℃、5% CO2条件下で24 時間培養後、SABM培地で培地交換を行った(2 mL/Dish)。
【0110】
37℃、5% CO2条件下でさらに5〜6 日間培養し、SABM培地を用いて毎日培地交換を行った。
【0111】
【表17】

【0112】
遺伝子導入の6〜7 日後、鼻粘膜上皮細胞の継代手順に従い、細胞を剥離回収した。細胞数を計測した後、予め用意したフィーダー細胞上に誘導した細胞を約1.0×105〜2.0×105 cells/100mm dish になるよう重層し(残りの細胞は、RT‐PCR によるSeV ベクター検出の陽性コントロールに使用するため、凍結保存した)、37oC、5% CO2条件下で24 時間培養後、ES 細胞用培地(4ng/mlとなるようにbFGFも添加した)に交換し、37oC、3% CO2条件下で培養した。以降、同培地にて毎日培地交換を行った。
(4)iPS細胞コロニーの単離
[1]コロニーピックアップ用の培地調整
コロニーの単離時に用いたES細胞用培地は以下の組成のものを用いた。
【0113】
【表18】

【0114】
[2]フィーダー細胞の準備(コロニー継代の前日)
予めゼラチンコートした24‐well pleteに4.7×104cells/well になるようにMEF を播種し、翌日、MEF用培地を用いて培地交換を行った。
【0115】
[3]コロニーピックアップ
コロニー培養Dishから培地を吸引除去し、PBSを10 ml/dishで洗浄し、ES細胞用培地を5 ml/dish加えた。続いて、P10ピペットマンを用いて顕微鏡下でコロニーをpick upし、予めES培地を20 μl/well入れた96-well pleteに移した。この96-well pleteにES培地を180μl/well加え、20〜30個程の細胞塊になるように顕微鏡下でピペッティングし、この細胞懸濁液をフィーダー処理済み24-well pleteに播種し、ES培地を300μl/well加えた。
【0116】
37℃、3% CO2条件下で培養を始め、翌日、ES 細胞用培地に交換し、以降同培地(ROCK阻害剤不含)にて毎日培地交換を行った。80〜90% confluentになった時点で6-well pleteに継代した。
(5)iPS細胞の培養・保存
ヒト多能性幹細胞培養 理研CDB・ヒト幹細胞研究支援室 2008のプロトコールを参照した。
【0117】
[1]フィーダー細胞の準備
予めゼラチンコートした60mm dishに4.0×105cells/60mm dishになるようにMEF を播種し、翌日、MEF用培地を用いて培地交換を行った。
【0118】
[2]iPS細胞の維持培養(継代)
コロニーが十分大きくなったヒトiPS 細胞の培養Dishの培養液を吸引除去し、PBS(培地の半量) で1 回洗浄し、解離液を400〜500 μl/60 mm dish で添加し、37℃条件下で5〜7 分程度インキュベートした。インキュベート後、MEF培地を1 ml 添加し、P-1000 のピペットマンにてコロニーを剥がしながら、適当な大きさ (1 塊あたりの細胞数が数十個程度)に砕けるまで注意深くピペッティングし、細胞懸濁液を15 ml 遠沈管に回収した。再度、同じディッシュにES培地を3.5 ml 添加し、P-1000 のピペットマンにてピペッティングして回収し、先程の遠沈管と併せ(計5ml程)、4℃、約170 g (1,000 rpm)、3 分間遠心後、上清を可能な限り吸引除去した。新しい培地(5 ml/60mm dish)に懸濁し、使用直前に培地を吸引したMEF 培養ディッシュに細胞懸濁液を播種した。4 ng/ml となるようにbFGF を添加し、37℃、3% CO2条件下で培養開始し、以後、継代可能となるまで原則、毎日培地交換を行った。
【0119】
[3]iPS細胞の保存(ガラス化法)
凍結保存液(DAP213)と凍結用保存バイアルは氷上で冷やしたものを使用した。
コロニーが十分大きくなったヒトiPS 細胞の培養Dishの培養液を吸引除去し、PBS(培地の半量) で1 回洗浄し、解離液を400〜500 μl/60 mm dish で添加し、37℃条件下で5〜7 分程度インキュベートした。インキュベート後、MEF培地を1 ml 添加し、P-1000 のピペットマンにてコロニーを剥がしながら、適当な大きさ (1 塊あたりの細胞数が数十個程度)に砕けるまで注意深くピペッティングし、細胞懸濁液を15 ml 遠沈管に回収した。再度、同じディッシュにES培地を3.5 ml 添加し、P-1000 のピペットマンにてピペッティングして回収し、先程の遠沈管と併せ(計5ml程)、4℃、約170 g (1,000 rpm)、3 分間遠心後、上清を吸引除去した。再び遠心し(170gに達したら止める)、チューブ側面に残った培養上清を落とした後、上清を可能な限り除去し、氷上に置いた。凍結保存液を200 μl(凍結する細胞数に関わらず、凍結保存液の液量は200 μl)を細胞ペレットに加え、軽く1〜2回ピペッティングして、凍結保存用チューブへ移し、すばやく蓋を閉めて、チューブの底部から2/3までを液化窒素に浸し、液化窒素中で十分に冷却し(約1分程度)、内部まで完全に凍結した。その後、凍結保存バイアル(チューブは液体窒素に浸漬した状態のまま)を液化窒素タンクに移し保存した。
【0120】
[4]凍結保存iPS細胞の解凍
15 ml遠心チューブにES細胞用培地を9 ml加え、37℃の恒温槽で温めたものを用意し、細胞凍結チューブを凍結保管場所から出した後、すぐに液化窒素を入れた発泡スチロール容器に浮かべ、確実に保冷しながらクリーンベンチまで運んだ。
【0121】
凍結チューブを液化窒素から取り出し、37℃に温めたES細胞用培地1 mlを凍結チューブに加え、10回程ピペッティングを行い急速解凍し、細胞懸濁液を遠心チューブに移し、4℃、1,000rpm(170g)で3分間遠心した。上清を可能な限り除き、適量の新しい培地(5 ml/60mm dish)に懸濁後、フィーダー細胞を播種しておいた培養Dishに5mlずつ移し、4 ng/ml となるようにbFGF を添加し、37℃、3%CO2 条件下で培養を開始した。翌日、ヒトiPS細胞の細胞塊がDishに接着していることを確認後、培地交換を行った(培地量: 5 ml/60 mm dish)。以後、継代可能となるまで原則、毎日培地交換を行った。
[5]iPS細胞作製効率の計算
得られたiPS細胞に対しギムザ染色あるいはクリスタルバイオレット染色を行った。以下の式に従って、iPS細胞の作製効率を求めた。
【0122】

作製効率=[染色されたコロニー数]× 100/[遺伝子導入に用いた細胞数]

作製効率は、約0.08〜0.1%であった。 MOI=4で1.0×105個の鼻粘膜上皮細胞にSeVを感染させた場合、作製効率は0.1%(図4A:ギムザ染色)、0.088%、0.079%(図4B左及び中央:クリスタルバイオレット染色)であり、MOI=3で1.0×105個の鼻粘膜上皮細胞にSeVを感染させた場合、作製効率は0.075%の作製効率であった(図4B右:クリスタルバイオレット染色)。
3.作製されたiPS細胞の評価
(1)細胞形態観察
樹立したiPS細胞の形態を顕微鏡を用いて観察し、写真撮影を行った。
(2)SNP Genotyping解析
[1]DNA抽出
DNeasy Blood & Tissue Kit(50)(QIAGEN、Cat#:69504)を用い、当該キットに添付のプロトコルに従って、凍結保存したiPS細胞及び回収したiPS細胞からDNAサンプルを抽出した。
【0123】
抽出後、Nano Dropを用いてDNA濃度を測定し、抽出したDNAサンプルは−20℃で保存した。
[2]マイクロアレイ
Human Infinium HD 610-Quad BeadChip (Illumina社) を用い、Invitrogen社の「Infinium HD Assay Super Manual EUC11 294817 Jプロトコール」に従ってマイクロアレイ解析を行った。Human Infinium HD 610-Quad BeadChipにサンプルDNAを結合させ、Illumina Bead Scanで発光強度を測定した。データ解析はBead Studio(Illumina社)を用いて行った。
(3)RT-PCRによる幹細胞マーカー発現解析
[1]RNA抽出
RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用い、当該キットに添付のプロトコルに従って、凍結保存したiPS細胞及び回収したiPS細胞からRNAサンプルを抽出した。
【0124】
抽出後、Nano Dropを用いてRNA濃度を測定し、抽出したRNAサンプルは−80℃で保存した。
[2]cDNA合成
以下のMixtureを調製した。
【0125】
【表19】

【0126】
調製したMixtureを11μlずつ8連チューブにアプライし、抽出した各RNAを9μlずつ8連チューブに分注し、ゆっくり2〜3回ピペッティングして混合し、サーマルサイクラーにセットし、以下の条件で反応させることにより、cDNAを調製した。
42℃ 60min
65℃ 10min
25℃ 適宜
[3]PCR反応
上記で調製したcDNAを鋳型として、以下のプライマー及びPCR条件にてPCR反応を行った。
【0127】

(i)hOCT3/4 (endo)
Forward: 5’-GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG-3’ (配列番号15)
Reverse: 5’-CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC-3’ (配列番号16)
(ii)hSOX2 (endo)
Forward: 5’-GGGAAATGGGAGGGGTGCAAAAGAGG-3’ (配列番号17)
Reverse: 5’-TTGCGTGAGTGTGGATGGGATTGGTG-3’ (配列番号18)
(iii)hKLF4 (endo)
Forward: 5’-ACGATCGTGGCCCCGGAAAAGGACC-3’ (配列番号19)
Reverse: 5’-TGATTGTAGTGCTTTCTGGCTGGGCTCC-3’ (配列番号20)
(iv)hMYC (endo)
Forward: 5’-GCGTCCTGGGAAGGGAGATCCGGAGC-3’ (配列番号21)
Reverse: 5’-TTGAGGGGCATCGTCGCGGGAGGCTG-3’ (配列番号22)
(v)hNANOG
Forward: 5’-CAGCCCCGATTCTTCCACCAGTCCC-3’ (配列番号23)
Reverse: 5’-CGGAAGATTCCCAGTCGGGTTCACC-3’ (配列番号24)
(vi)hGDF3
Forward: 5’-CTTATGCTACGTAAAGGAGCTGGG-3’ (配列番号25)
Reverse: 5’-GTGCCAACCCAGGTCCCGGAAGTT-3’ (配列番号26)
(vii)hREX1
Forward: 5’-CAGATCCTAAACAGCTCGCAGAAT-3’ (配列番号27)
Reverse: 5’-GCGTACGCAAATTAAAGTCCAGA-3’ (配列番号28)
(viii)hDPPA2
Forward: 5’-CCGTCCCCGCAATCTCCTTCCATC-3’ (配列番号29)
Reverse: 5’-ATGATGCCAACATGGCTCCCGGTG-3’ (配列番号30)
(ix)hDPPA4
Forward: 5’-GGAGCCGCCTGCCCTGGAAAATTC-3’ (配列番号31)
Reverse: 5’-TTTTTCCTGATATTCTATTCCCAT-3’ (配列番号32)
(x)hOCT3/4 (transgene)
Forward: 5’-CCCGAAAGAGAAAGCGAACCAG-3’ (配列番号33)
Reverse: 5’-AATGTATCGAAGGTGCTCAA-3’ (配列番号34)
(xi)hSOX2 (transgene)
Forward: 5’-ACAAGAGAAAAAACATGTATGG-3’ (配列番号35)
Reverse: 5’-ATGCGCTGGTTCACGCCCGCGCCCAGG-3’ (配列番号36)
(xii)hKLF4 (transgene)
Forward: 5’-ACAAGAGAAAAAACATGTATGG-3’ (配列番号37)
Reverse: 5’-CGCGCTGGCAGGGCCGCTGCTCGAC-3’ (配列番号38)
(xiii)hMYC (transgene)
Forward: 5’-TAACTGACTAGCAGGCTTGTCGT-3’ (配列番号39)
Reverse: 5’-CCACATACAGTCCTGGATGATGATG-3’ (配列番号40)
(xiv)GAPDH
Forward: 5’-CAGAACATCATCCCTGCCTCTAG-3’ (配列番号41)
Reverse: 5’-TTGAAGTCAGAGGAGACCACCTG-3’ (配列番号42)
(xv)Transgene およびSeV ゲノムの検出用プライマー(CytoTuneTM-iPS ver.1.0(DNAVEC))
Forward: 5’-GGATCACTAGGTGATATCGAGC-3’ (配列番号43)
Reverse: 5’-ACCAGACAAGAGTTTAAGAGATATGTATC-3’ (配列番号44)

PCR条件
条件1.使用したプライマーセット:hSOX2(endo), hKLF4(endo), hMYC(endo), hNANOG(endo), hGDF3
95℃ 10min
[95℃ 30sec、56℃ 30sec、72℃ 60sec]×35サイクル
72℃ 7min
4(25)℃ 適宜

条件2.使用したプライマーセット:hOCT3/4(tg), hSOX2(Tg), hKLF4(Tg), hMYC(Tg), SeV
95℃ 10min
[95℃ 30sec、54℃ 30sec、72℃ 60sec]×35サイクル
72℃ 7min
4(25)℃ 適宜

条件3.使用したプライマーセット:hOCT3/4(endo), hDPPA2, hDPPA4
95℃ 10min
[95℃ 30sec、56℃ 30sec、72℃ 60sec]×40サイクル
72℃ 7min
4(25)℃ 適宜

条件4.使用したプライマーセット:hREX1
95℃ 10min
[95℃ 30sec、60℃ 30sec、72℃ 60sec]×40サイクル
72℃ 7min
4(25)℃ 適宜

条件5.使用したプライマーセット:GAPDH
95℃ 10min
[95℃ 30sec、60℃ 30sec、72℃ 60sec]×35サイクル
72℃ 7min
4(25)℃ 適宜
RT-PCRの増幅産物を2%アガロースゲル電気泳動により分析した。
(4)免疫染色による幹細胞マーカー発現解析
CSTジャパン株式会社の「免疫蛍光染色プロトコール(メタノール透過処理)」に従って、iPS細胞の免疫染色を行った。
【0128】
一次抗体は、StemLite(商標)Pluripotency kit(Cell Signaling, Cat#:9656)に含まれるもの(OCT4, SOX2, NANOG, SSEA4, TRA-1-60, TRA-1-81)を用いた。
使用した二次抗体は、以下の通り。
【0129】
Anti-mouse IgG(Alexa Fluor(R) 488 Conjugate, Host;Goat)(Molecular Probes, Cat#:A11001)
Anti-rabbit IgG(Alexa Fluor(R) 568 Conjugate, Host;Goat)(Molecular Probes, Cat#:A11011)
Anti-mouse IgM(Alexa Fluor(R) 488 Conjugate, Host;Goat)(Molecular Probes, Cat#:A21042)
Prolong(登録商標)Gold Antifade Reagent (Invitrogen, Cat# P36930)を用いて、蛍光強度を維持した。
(5)遺伝子発現解析
方法
[1]RNA抽出
上記項目「(3)RT-PCRによる幹細胞マーカー発現解析」と同様に、iPS細胞、ES細胞及び鼻粘膜上皮細胞からRNAを抽出した。ES細胞は、筑波大学人間総合科学研究科の高崎真美助教よりRNA抽出用RLTバッファーに溶解した状態でご提供頂いた。
[2]cRNA合成
上記で抽出したRNAから、Illumina Total Prep RNA Amplification kit(Illumina、Cat#:AM1L1791)を用いてcRNAを合成した。
[3]マイクロアレイ解析 Sentrix BeadChip Array For GenExpression HumanRef-8.V2 Bead Chip (Illumina社) を用い、Invitrogen社の「Whole-Genome Gene Expression with IntelliHyb Seal EUC RevB 11226030 Jプロトコール」に従ってマイクロアレイ解析を行った。合成したビオチンラベルcRNAをBead Chipにハイブリダイズさせ、さらにCy3-ストレプトアビジンで反応させた後BeadStation 500X遺伝子解析システム(Illumina社)を用いて蛍光強度を測定した。
【0130】
データ解析はイルミナ解析ソフトR (http://www.r-project.org/)を用いて行った。
(6)メチル化解析
[1]DNA抽出
DNeasy Blood & Tissue Kit(50)(QIAGEN、Cat#:69504)を用い、Neasy Blood & Tissue Kit プロトコールに従って、iPS細胞、PS細胞、ES細胞及び鼻粘膜上皮細胞からゲノムDNAを抽出した。
[2]Bisulfite処理
EpiTect Bisulfite Kit(48)(QIAGEN、Cat#:59104)を用いて、上記で抽出したゲノムDNAをBisulfite処理した。
[3]Bisulfite処理後のPCR
上記Bisulfite処理したゲノムDNAのNANOG遺伝子及びOCT3/4遺伝子をPCR増幅し、PCR産物をアガロース電気泳動により分離した。
(i)NANOGの増幅
AmpliTaq Gold 360 Master Mix(ABI社)及び以下のプライマーを用いて、NANOG遺伝子をPCR増幅した。
プライマー:mehNANOG
mehNANOG-F1-S: 5’-TGGTTAGGTTGGTTTTAAATTTTTG-3’ (配列番号45)
mehNANOG-F1-AS: 5’-AACCCACCCTTATAAATTCTCAATTA-3’ (配列番号46)

PCR反応条件は、以下の通り。
【0131】
95℃ 10min、
[94℃ 30sec、56.8℃ 30sec、72℃ 1min]× 45サイクル
72℃ 10min
25℃ 適宜

(ii)OCT3/4の増幅
Pyromark PCR Kit(QIAGEN)及び以下のプライマーを用いて、OCT4/3遺伝子をPCR増幅した。
プライマー:OCT4/3
OCT4-3 F: 5’-ATT-TGT-TTT-TTG-GGT-AGT-TAA-AGGTA-3’ (配列番号47 )
OCT4-3 R: 5’-CCA-ACT-ATC-TTC-ATC-TTA-ATA-ACA-TCCA-3’ (配列番号48)

PCR反応条件は、以下の通り。
【0132】
95℃ 15min(Hot start)
[94℃ 30sec、50℃ 30sec、72℃ 30sec]× 45 サイクル
72℃ 10min
25℃ 適宜
[4]TA cloning
上記でPCR増幅したNANOG遺伝子及びOCT4/3遺伝子をシークエンス解析するため、TOPO TA Cloning Kit for Sequencing(Invitrogen)を用い、それぞれTAクローニングした。NANOG遺伝子及びOCT4/3遺伝子をTAクローニングした各ベクターをそれぞれヒートショック法によりコンピテントセルDH5α Competent high(TOYOBO、DNA-903)に導入し、形質転換及びミニカルチャーを行った。得られた形質転換体をLB/Amp(50μl/ml)プレート上で一晩培養してコロニーを形成させた。
[5]シークエンスする大腸菌の選択、PCR鋳型の調製(コロニーPCR)
上記で形成させたコロニーに対し、コロニーPCRを行い、インサートチェックを行った。具体的には、複数個のコロニーをピックアップし、AmpliTaq Gold 360 Master Mixキット(ABI)及び当該キットに添付のプライマー(M13 Forward primer、M13 Reverse primer)を用い、インサート配列部分のPCR増幅を行った。
【0133】
PCR反応条件は、以下の通り。
【0134】
95℃ 10min
[94℃ 1min、55℃ 1min、72℃ 1min]× 40サイクル
72℃ 5min
25℃ 適宜

PCR増幅産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、インサートをチェックした。
[6]シークエンス解析
上記コロニーPCRにより得られたPCR産物(インサートが確認されたもの)に対し、Big Dye Teminator v1.1 Cycle Sequencing kit、AmpliTaq Gold 360 Master Mixキット(ABI)に添付のプライマー(M13 Forward primer、M13 Reverse primer)及びBig Dye v1.1 (or V 3.1)(ABI)を用いてシークエンス解析を行った。実験操作は、Big Dye Teminator v1.1 Cycle Sequencing kitのプロトコールに従って行った。
【0135】
シークエンス反応条件は、以下の通り。
【0136】
96℃ 1min
[96℃ 10sec、50℃ 5sec、60℃ 4min]× 25サイクル
25℃ 適宜

[7]メチル化解析
ソフトウェアQUMA(http://quma.cdb.riken.jp/top/quma_main_j.html)を用いて、上記シークエンス解析の結果を比較し、NANOG遺伝子及びOCT4/3遺伝子のプロモーター領域のメチル化の状態を解析した。
4.実験結果
(1)細胞形態観察
樹立したiPS細胞は、ヒトES細胞と酷似した細胞形態を有していた(図5:100倍率)。
(2)SNP Genotyping解析結果
ランダムに抽出した7種類の細胞株について解析を行った。いずれの細胞株にも大きなゲノムの欠損は認められなかった。しかし、前記7株のうち2つの細胞株でゲノムの重複が認められた(図6)。図6において、赤丸で囲った部分が重複部位を示す。重複の認められた2株を除いた5つの細胞株(iPS-B2、iPS-B3、iPS-2B1、iPS-3A2、iPS-4B1)について以下の(3)〜(6)の評価実験を行った。
(3)RT-PCR結果
ES細胞のマーカー遺伝子であるNANOG、OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC、GDF3、REX31、DPPA2、DPPA4がiPS細胞にも発現していることが確認された(図7A)。トランスジーンである4つの遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、MYC)とSeVベクター由来の遺伝子はSeVに感染後の鼻粘膜上皮細胞のみに発現がみられ、作製されたiPS細胞はSeVベクターフリーであることも確認された(図7B)。図7A及び図7Bにおいて、レーン1〜9は、それぞれ鼻粘膜上皮細胞(レーン1)、SeV感染後の鼻粘膜上皮細胞(レーン2)、iPS-B2(レーン3)、iPS-B3(レーン4)、iPS-2B1(レーン5)、iPS-3A2(レーン6)、iPS-4B1(レーン7)、ES細胞(レーン8)及び蒸留水(DW:レーン9)に対応する。
(4)免疫染色結果
免疫染色を行った5株のiPS細胞(iPS-B2、iPS-B3、iPS-2B1、iPS-3A2、iPS-4B1)の全てにおいて、6つの未分化マーカー(NANOG、OCT4、SSEA3、SSEA4、Tra-1-60、Tra-1-81)が発現していることが確認された(図8)。図8において、上段は蛍光染色画像(赤:Alexa 568、緑:Alexa 488、100倍率)であり、下段は明視野画像(100倍率)である。上段の各蛍光染色画像と下段の各明視野画像は、それぞれ対応するiPSコロニーを示す。
(5)遺伝子発現パターン結果
樹立したiPS細胞と鼻粘膜上皮細胞の発現は相関がみられず(r=0.87又はr=0.86)、2つの遺伝子発現は異なる(図9中央パネル)。一方、樹立iPS細胞とES細胞の間には相関がみられ(r=0.99)、iPS細胞とES細胞の遺伝子発現パターンは類似する(図9右パネル)。また、樹立iPS細胞同士も類似の遺伝子発現パターンを示す(r=0.99:図9左パネル)。 観察された遺伝子発現パターンは、解析に用いた5株のiPS細胞(iPS-B2、iPS-B3、iPS-2B1、iPS-3A2、iPS-4B1)の全てにおいて共通していた。
(6)メチル化解析結果
鼻粘膜上皮細胞ではNANOG遺伝子及びOCT3/4遺伝子のプロモーター領域にメチル化CpGが多く認められた(図10)。従って、体細胞である鼻粘膜上皮細胞では両遺伝子のプロモーター領域はメチル化された状態にあるといえる。これに対し、iPS細胞やES細胞ではNANOG遺伝子及びOCT3/4遺伝子のプロモーター領域に非メチル化CpGが多くみられる(図10)。従って、iPS細胞では、ES細胞と同様にNANOG遺伝子及びOCT3/4遺伝子のプロモーター領域が脱メチル化を起こしているといえる。 図10において、黒丸領域は、メチル化CpGを示し、白丸領域は非メチル化CpG領域を示す。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の方法により、外科的処置を経ることなく、ドナー由来のiPS細胞を作製することができる。本発明の方法は、外科的処置を必要としないため、ドナーの負担が著しく低減される。さらに、本発明の方法において細胞質持続発現型RNAベクターを使用して初期化遺伝子を発現させた場合、宿主である粘膜上皮細胞のゲノムDNAは損傷を受けないため、本発明の方法により作製されたiPS細胞は、癌化のリスクが低く、再生医療に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0138】
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
配列番号19:合成DNA
配列番号20:合成DNA
配列番号21:合成DNA
配列番号22:合成DNA
配列番号23:合成DNA
配列番号24:合成DNA
配列番号25:合成DNA
配列番号26:合成DNA
配列番号27:合成DNA
配列番号28:合成DNA
配列番号29:合成DNA
配列番号30:合成DNA
配列番号31:合成DNA
配列番号32:合成DNA
配列番号33:合成DNA
配列番号34:合成DNA
配列番号35:合成DNA
配列番号36:合成DNA
配列番号37:合成DNA
配列番号38:合成DNA
配列番号39:合成DNA
配列番号40:合成DNA
配列番号41:合成DNA
配列番号42:合成DNA
配列番号43:合成DNA
配列番号44:合成DNA
配列番号45:合成DNA
配列番号46:合成DNA
配列番号47:合成DNA
配列番号48:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物由来の粘膜上皮細胞において、以下の遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つを発現させる工程を含む、人工多能性幹細胞の作製方法。
OCT3/4、SOX1、SOX2、KLF4、KLF2、KLF5、c-MYC、n-MYC、l-MYC、NANOG、LIN28、hTERT、SV40 large T、GLIS1
【請求項2】
前記粘膜上皮細胞が鼻粘膜上皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子が発現ベクターにより発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記発現ベクターが細胞質持続発現型RNAベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発現ベクターがセンダイウィルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子がOCT3/4、SOX2、KLF4及びc-MYCである、請求項1に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−85481(P2013−85481A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226000(P2011−226000)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国立大学法人筑波大学「平成23年度フロンティア医科学専攻修士論文中間発表要旨集」平成23年9月30日発行
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】