説明

精子の保存及び制御された送達/解放

本発明は、精子の保存のためのバイオポリマー粒子であって、精子がバイオポリマー粒子内に包埋される、粒子に関する。本発明は、精子の保存、貯蔵及び制御された送達/解放のための方法、並びに繁殖における本発明のバイオポリマー粒子の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精子の保存のためのバイオポリマー粒子に関する。本発明は、精子の保存(preservation)、貯蔵(storage)及び制御された送達(delivery)/解放(release)のための方法、並びに繁殖における本発明のバイオポリマー粒子の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
人工授精(AI)は、自然交接ではなく、人工的手段により動物の子宮又は子宮頚部中に精子が投入される技法である。人工授精は、交配方法として、そして動物の繁殖に広範に用いられて、特に農場動物、例えば畜牛、ブタ、ヒツジ、家禽及びウマの場合においてだけでなく、ペット、例えば血統イヌ、水生動物又は絶滅危惧種の場合においても、望ましい特質を遺伝させる。
【0003】
通常、精子は収集され、増量され、そして例えば冷凍保存により保存される。冷凍保存技法の使用は、精子の質、生存能力及び受精能力のひどい劣化を生じることなく、動物の特定の種からの精子がこのような処置に耐える、ということを前提とする。精子は次に、冷凍保存されるか又は新鮮に貯蔵されて雌の居住場所に運ばれるが、これは、如何なる時でも適している。授精の時機まで、そして卵細胞(複数可)が受精の場所に到達するまで、授精後の雌動物の内部で十分な時間、精子が生存可能に維持される、ということは重要である。
【0004】
農場動物の人工授精は1940年代以来用いられてきて、目下、農業において、特に乳牛及びブタを繁殖させるために、広範に用いられている。現代のAIの発展、並びに人工授精の使用及び精子の保存に関する育種家の挑戦に関しての概要は、非特許文献1に、並びに非特許文献2に開示されている。人工授精は、特定の好ましい遺伝的特質を有する動物の繁殖及び概して動物生産の両方に関して、農業における動物の繁殖のための重要な経済的手段となってきている。
【0005】
しかしながら、人工授精を実施することによる雌動物における妊娠の達成に関しては、いくつかの制限がある。例えば収集精子の保存寿命及び生存能力は、貯蔵中、冷凍保存精子の場合は解凍後、及び授精後共に、上首尾の繁殖結果のためには不可欠である。適切な保存技法が特定の動物種に利用可能であるか否かは、異なるものになる。畜牛に関しては、冷凍保存技法が広範に用いられる。他方、他の種、例えばブタからの精子は、冷凍保存技法に対して低耐性であるため、精液処理及び貯蔵可能性に関して自由度が低くなる。
【0006】
さらに、適切な受精能力を有する精子を得るために、用いられる保存方法は授精後の受精能力の維持も提供する、というのが望ましい。収集後そして授精時点まで、長時間の間、精子が受精能力を維持することを保証する貯蔵方法及び手段を提供することを目的とする保存方法に関する多数の主眼点及び研究が存在している。
【0007】
授精後の受精能力の維持に関して保存寿命が短い場合、排卵に関して授精の好ましい時点に合わせることはより難しい。短い保存寿命特質の場合、より長い保存寿命を、したがってより長い受精能力を提供する精子のための良好な保存技法は欠くべからざるものである。雄の居住場所、したがって精液収集が実施される場所と雌レシピエントとの間に長く時間を要する輸送距離が存在する場合は特に、自由度に関する育種家の要求を満たすのに授精後の十分な期間に十分な保存寿命及び精子生存能力を提供する利用可能な保存方法は未だ存在しない。
【0008】
さらに、より制御されたそして長時間存続する精子の利用可能性を提供する保存方法は、ホルモン処置により排卵を人工的に引き起こす必要性を低減する。これは、消費者の要求に従って経済的に、そして動物の健康に関して、共に有益である。
【0009】
したがって、精子が、授精後に長期間受精能力を維持する、例えば雌レシピエントの内部に置かれた場合に長期間受精能力を維持する、ということを保証する方法に対する必要性が存在する。
【0010】
目下、畜牛における人工授精(AI)は、冷凍保存精子を用いて広範に実施されている。冷凍保存精子は、用いられるまで、数十年間、液体窒素中に貯蔵され得る。しかしながら精子が解凍される場合、AIは2〜3時間以内に実施されなければならない。解凍後、冷凍保存精子は約12〜24時間受精能力を有し、そしてAIは、排卵前約12〜24時間以内に実施されなければならない。したがって、十分な保存寿命特質を有し、そして好ましくは数日間受精能力を維持する精子を提供する畜牛の繁殖のための保存技法に対する必要性が存在する。
【0011】
いくつかの国では、AI用量あたりの精子細胞の数を低減するために、液体貯蔵雄牛精子が用いられる。精子は、授精前約24〜36時間、受精能力を有する。AIは、精子収集後約24時間以内に実施されなければならない。しかしながら液体保存雄牛精子は、保存寿命の短縮/低減、並びに分布範囲の低減といったようないくつかの欠点を課されている。
【0012】
ブタにおいては、冷凍保存精子は、輸出、長距離出荷のような特別な目的のために、そして接触伝染病の制御のために、用いられるだけである。ブタにおけるAIは、通常は液体保存精液を用いて実施される。液体保存精液(精子)の貯蔵時間は、増量剤が用いられるか否かによって決まる。短期増量剤により希釈された精子は約2〜3日間受精能力を保存するが、一方、長期増量剤で希釈された精子は最長5〜6日までの間受精能力を保存し得る。授精作業後、精子の受精能力は約12〜24時間持続する。ほとんどの雌ブタは、約24時間間隔で暑熱期間中に2回、授精作業を行われる。授精作業前により長い貯蔵時間(例えば1週間)及び/又は授精作業後に精子の貯蔵及び解放の延長(例えば24時間超)を備える自由度の高い系を用いれば、育種産業はより効率的な生産及び分布を有し、そして育種家は、排卵に対して授精時機が正確であることをあまり必要としなくなる。
【0013】
ウマ育種の場合、ウマ精子に関する適用可能な保存技法を欠くため、育種家はほとんどが新鮮な精子によっている。これはウマ育種及び競馬産業においては大きな問題であるが、それは、特定の繁殖用雌ウマの好ましい種馬は、非常にしばしば、異なる国に居て、長い輸送時間を要するためである。さらに、ウマ精子のための適切な保存方法を欠くため、新鮮なウマ精子のAIは精子収集後24時間以内に実施されなければならない。したがってウマ育種は、排卵に関して不正確な授精のため、精液の質の低減又は精子進入の低減をしばしば生じる望ましくない時間的制約を伴う。
【0014】
したがって、必要な送達輸送時間に関するより長い保存寿命、並びに授精後のより長い保存寿命の両方を保証する保存方法の必要性が存在する。ウマ精液のための適用可能な保存方法は、大きな経済的且つ実際的価値を有し、そしておそらくはウマ育種産業に大変革をもたらす。
【0015】
貯蔵中、授精の前及び後に十分な生存能力を提供する精子保存系は、概して育種産業のために有益である。より自由度の高い保存系は、動物のすべての種に関する育種作業をより容易にし、そして上首尾の授精を増大させる。育種家が、排卵に関して最も好ましい授精時点に合わせることにあまり依存しない系によって、より自由度が提供される。
【0016】
射精精子の受精能力を延ばすために、冷凍保存及び液体保存を含むいくつかの保存方法が研究されている。
【0017】
カプセル内の精子の貯蔵のいくつかの研究は、公表されている。これらの研究は、半透性膜に取り囲まれた液体コア内に精子が配置される粒子を生じるカプセル封入法を用いてきた。
【0018】
非特許文献3は、ポリリシンと組合せてアルギン酸塩から作製されるカプセル中のウシ精子の封入のための方法を記載する。この方法は、非特許文献4(これは、ランゲルハンス細胞の封入からの封入インスリン産生を伴う作業である)からの以前公表された方法に基づいている。非特許文献3は、37℃での貯蔵及び335回授精からの結果を報告し、封入精子に関する結果を非封入対照試料と比較した。封入試料及び対照試料間の主な差は、この研究では報告されなかった。他の発表済み研究も、精子が類似の方法でカプセル内に封入され、そして生体内でそれらの機能性を維持することができる、ということを実証している(非特許文献5(ウシ)、非特許文献6(ウシ)及び非特許文献7(ヒツジ))。しかしながら、非特許文献5及び非特許文献6は、同時に授精された場合、封入精子は非処理精子と同様に効率的であるわけではない、と報告している。これは、封入精子が受精が起こり得る前にしばらくの間カプセルから解放される必要があることによって説明されている。
【0019】
特許文献1及び非特許文献8は、雄ブタ精子の封入のための代替的方法を開発した。この方法では、精子はカルシウム又はバリウムを含有する溶液に付加され、そしてこの懸濁液はアルギン酸塩を含有する溶液中に滴下される。アルギン酸カルシウム又はアルギン酸バリウムのカプセルは、それがアルギン酸塩溶液とぶつかる場合、滴周囲に自発的に形成される。この方法は、非特許文献3により記載された方法と比較して細胞に対してより穏やかであると主張されている。別の利点は、この方法が精子溶液の極少量の希釈液を意味する、という点であり、これは細胞の生存能力のために有益であると主張されている。
【0020】
非特許文献9は、同一条件下で貯蔵された未処理精子と比較して、無傷アクロソームを有する精子の有意により大きい分画、並びにこの方法で封入された貯蔵精子からの酵素の低漏出を報告している。
【0021】
近年の論文において、非特許文献10も、ウシ精子の封入のための新規の系を記載している。この系は、Caアルギン酸塩又は硫酸セルロースのポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(pDADMAC)カプセルを用いる封入精子の高処理量製造用に設計される。
【0022】
最後に、特許文献2は、カプセル又は固体ビーズからの精子の時限解放による人工授精の方法であって、受精能獲得を支持しないエネルギー源の使用のため、非受精能獲得段階で精子が維持される方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】Conte et al.(1998)(欧州特許第0922 451 B1号(Universita di Pavia and Universita Degli Studi Di Milanoに発行))
【特許文献2】Chou et al.(米国特許第6,596,310 B1号(2003))
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】R.H. Foote (2002), American Society of Animal Science(http://www.asas.org/symposia/esupp2/Footehist.pdf)
【非特許文献2】「Reproduction in farm animals」, edited by B. Hafez, E.S.E. Hafez.-7th ed., Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2000.-XIII, ISBN 0-683-30577-8(ib.)
【非特許文献3】Nebel et al. (1985), Microencapsulation of bovine spermatozoa. J. Anim. Sci. 1985 60(6): 1631-39
【非特許文献4】Lim and Sun (1980), Microencapsulated islets as bioartificial endocrine pancreas. Science 1980 210(4472): 908-10
【非特許文献5】Munkittrick et al. (1992) Accessory sperm numbers for cattle inseminated with protamine sulfate microcapsules. J. Dairy Sci., 75(3): 725-31
【非特許文献6】Vishwanath et al. (1997) Selected times of insemination with microencapsulated bovine spermatozoa affect pregnancy rates of synchronized heifers. Theriogenology, 48: 369-76
【非特許文献7】Maxwell et al. (1996). Survival and fertility of micro-encapsulated ram spermatozoa stored at 5℃, Reprod. Dom. Anim., 31: 665-73
【非特許文献8】Torre et al.(2002)(Boar semen controlled delivery system: storage and in vitro spermatozoa release. J. Contol. Release, 85: 83-89)
【非特許文献9】Faustini et al.(2004)(Boar spermatozoa encapsulated in barium alginate membranes: a microdensitometric evaluation of some enzymatic activities during storage at 18℃, Theriogenology, 61(1): 173-184)
【非特許文献10】Weber et al.(2006)(Design of high-throughput-compatible protocols for microencapsulation, cryopreservation and release of bovine spermatozoa, Journ. Biotechnol., 123: 155-163)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記のように、従来技術は主に、バイオポリマーカプセル中の精子の封入を示唆するが、この場合、精子はバイオポリマーカプセルの液体コア中に含入される。固体ポリマーマトリックス中に精子を包埋する可能性に言及している参照文献は1つだけある(Chou et al., 米国特許第6,596,310 B1号)が、そこに記載された固体ビーズの例は図示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者等は、その代わりに、精子の固定化への異なるアプローチを見出した。本発明によれば、精子はアルギン酸塩ゲル製の固体ゲル網状構造内に包埋され、この場合、用いられるアルギン酸塩はグルロン酸に富む。本発明は、固体ゲル網状構造内の固定化が、従来技術で開示されたカプセル及びビーズ内の封入と比較していくつかの利点を有する、ということを見出した。
【0027】
本発明は、グルロン酸に富むアルギン酸塩から成るバイオポリマーマトリックス内の精子の包埋が、保存寿命、生存能力及び受精に関して優れた保存特質を有する精子を生じる、という意外な知見に基づいている。したがってバイオポリマー粒子及びその精子は、動物の人工授精に用いられ得る。
【0028】
本発明の精子保存バイオポリマー系の非限定的な一利点は、授精後のより長い期間の間精子受精能力を与え、したがって排卵に比して授精の時期をあまり重要でなくすることにより利益を提供する、という点である。
【0029】
本発明のバイオポリマー粒子は、農業における動物の育種に、そして生産に用いられ得る。したがってバイオポリマー粒子は、目的が動物に特に望ましい特質を提供することである場合、使用可能である。バイオポリマー粒子は、目的が概して動物を生産すること、例えば食肉用畜牛の生産のためである場合にも使用可能である。
【0030】
本発明によれば、バイオポリマー粒子は直接用いられ、バイオポリマー粒子、例えばアルギン酸塩粒子がレシピエント動物内(即ち子宮又は子宮頚部内)の生理学的条件下で溶解する場合、レシピエント動物に授精され得る。したがって本発明のバイオポリマー粒子は、精子の制御された解放を提供する。精子はさらにまた、精子の授精前にバイオポリマー粒子から溶解され得る。
【0031】
特定の理論と結びつけずに考えると、本発明のバイオポリマー粒子及び方法を用いることにより、包埋は固定化を生じ、例えば精子の自然の動きはゲル網状構造の拘束のため制限されることが推測される。高濃度の細胞並びに高粘度ポリマーの存在のための動きの物理的制限は、精巣上体尾における精子の生存及び機能性の維持に影響を及ぼす因子のうちの1つであり得る(Watson 1993)。精子は、精巣上体尾中に長時間(1週間超)貯蔵されている(Watson 1993)。
【0032】
グルロン酸に富んでいるアルギン酸塩の使用は、保存系として実際に使用可能であり、そして人工授精に、例えば動物の繁殖に用いられ得る包埋精子を含むバイオポリマー粒子を提供することを可能にする。
【0033】
したがって一態様によれば、本発明は、精子の保存のためのバイオポリマー粒子であって、精子がバイオポリマーゲル網状構造中に包埋され、そして精子を包埋するバイオポリマー粒子がグルロン酸に富むアルギン酸塩を含む、バイオポリマー粒子を提供する。
【0034】
本発明の別の態様によれば、精子を包埋するバイオポリマーは、アルギン酸カルシウムを含む。
【0035】
別の態様によれば、上記バイオポリマーは、低粘度を有するアルギン酸塩を含む。
【0036】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のバイオポリマー粒子中のアルギン酸塩の濃度は、少なくとも0.1%である。
【0037】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のバイオポリマー粒子中のアルギン酸塩の濃度は、少なくとも0.1%〜6%アルギン酸塩である。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のバイオポリマー粒子中のアルギン酸塩の濃度は、少なくとも1%である。
【0039】
さらに本発明の一態様によれば、バイオポリマー粒子中の精子濃度は、少なくとも0.1×10精子/ml、例えば少なくとも100×10精子/ml、例えば少なくとも2.5×10精子/mlまでである。
【0040】
さらに別の態様によれば、本発明の粒子は溶液中に貯蔵され、この場合、例えば貯蔵溶液:バイオポリマー粒子の比は少なくとも1:1〜1:100である。
【0041】
さらに別の態様によれば、精子は、受精能力及び/又は動物の健康の点から見て有益である化合物又は作用物質、例えば増量剤、凍結保護物質、抗生物質、抗体、酸化防止剤、タンパク質及びホルモン(これらに限定されない)から成る群から選択される化合物又は作用物質の1つ又は複数と同時包埋され得る。
【0042】
本発明の別の態様によれば、精子は、ピルビン酸塩、2,2,6,6−テトラメチルペペリジン(tetrametylpeperidin)−1−オキシル、4−ヒドロキシ(hydroksy)−2,2,6,6−テトラメチル−ペペリジン(tetrametyl-peperidin)−1−オキシル、スーパーオキシド−ジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールから成る群から選択される1つ又は複数の酸化防止剤と同時包埋される。
【0043】
一態様によれば、バイオポリマー粒子はコーティングされる。コーティングは、ポリリシン、キトサン、硫酸セルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース及び塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(これらに限定されない)から成る群から選択され得る。
【0044】
本発明によるバイオポリマー粒子は、ブタ、畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、家禽、ペット、例えば血統イヌ、水生動物及び絶滅危惧動物種、好ましくはブタ、畜牛、毛皮動物及びウマ(これらに限定されない)から成る群から選択される動物から収集される精子を含む。本発明のバイオポリマー粒子は、したがって、AI、IVF及びICSIのような一般的人工受精方法により適切な雌動物における妊娠を獲得するのに用いられ得る。
【0045】
本発明の一態様によれば、上記粒子を形成するために用いられる精子は精液中に含入される。
【0046】
任意に、バイオポリマー粒子は、脱水、冷凍保存又は凍結乾燥によりさらに処理され得る。
【0047】
本発明は、本発明による粒子の調製方法であって、グルロン酸に富むアルギン酸塩及び精子の混合物が滴下によりゲル化溶液に滴下付加される方法も提供する。ゲル化用液は、本発明の一態様によれば、以下の:カルシウム、ナトリウム、バリウム及びマグネシウム、好ましくはカルシウム及びナトリウムのイオン(これらに限定されない)から成る群から選択されるイオンのうちの1つ又は複数を含む。
【0048】
さらにバイオポリマー粒子は、任意に、精液容器中で直接形成され得る。
【0049】
本発明の方法の一態様によれば、粒子は、脱水、冷凍保存又は凍結乾燥によりさらに処理される。
【0050】
本発明は、ブタ、畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、家禽、ペット、例えば血統イヌ、毛皮動物、水生動物及び絶滅危惧動物種のような動物の繁殖における本発明によるバイオポリマー粒子の使用も提供する。本発明の一態様によれば、バイオポリマー粒子は、ブタ、畜牛又はウマの繁殖に用いられる。一態様によれば、粒子は直接授精される。さらに別の態様によれば、粒子は授精前に溶解される。さらに別の態様によれば、本発明の粒子は自由固定化精子と一緒に用いられる。
【0051】
最後に、本発明は、本発明の粒子中に保存される精子がレシピエント雌動物中に導入される動物の受精方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】周囲温度(ウシ20℃、雄ブタ18℃)でのウシ(区画A)及び雄ブタ(区画B)精子の生体外貯蔵を示す図である。運動性の値は、参照試料における、並びに固定化精子を有する試料における貯蔵の時間の関数として示される。
【図2】37℃でのウシ精子(区画A)及び雄ブタ精子(区画B)の生体外貯蔵を示す図である。運動性の値は、参照試料並びに固定化精子を有する試料における貯蔵の時間の関数として示される。
【図3】周囲温度(18℃)での雄ブタ精子の生体外貯蔵を示す図である。運動性の値は、参照試料における、並びに固定化精子を有する試料における貯蔵の時間の関数として示される。ビーズの量に比して異なる量の貯蔵媒質が、シリーズ名で示されるような貯蔵実験で用いられた。精子は、1×10精子/mlの濃度で直径1mmのビーズ中に固定される。
【図4】周囲温度(18℃)での雄ブタ精子の生体外貯蔵を示す図である。運動性の値は、固定化精子を有する試料における貯蔵の時間の関数として示される。異なる濃度の固定化精子を有するビーズが、シリーズ名で示されるような貯蔵実験で用いられる。精子は、直径3mmのビーズ中に固定される。
【発明を実施するための形態】
【0053】
上記のように、研究の主眼は従来、生体外受精及び人工授精を促すために、精子の封入に従来向けられてきた。本発明者等は、精子の固定化への基本的に異なるアプローチを取ってきたが、この場合、精子は固体ゲル粒子の内部のゲル又はバイオポリマー網状構造内に包埋され、そしてバイオポリマー網状構造はグルロン酸に富むアルギン酸から成る。このアプローチは、従来技術で前に記載された精子の封入とは基本的に異なっており、この場合、精子は、それらの自然環境におけるのとほぼ同様に動くことができる液体コアを有するカプセル内に含入される。本発明に従って精子を包埋するバイオポリマー粒子は、精子が非受精能獲得状態で維持されることを保証する溶液の使用によっていない。
【0054】
「包埋された」又は「包埋している」という用語は、本明細書中で用いる場合、精子がそれらの自然の運動可能性を有することを妨げられることを生じるよう精子を固定することと理解されるべきである。固定化の程度は、バイオポリマー粒子の特質、例えば機械的強さ、用いられるポリマーの種類によって変化する。しかしながら、本発明に従ってバイオポリマー粒子中に包埋される精子は、液体中、例えばカプセルの液体コア中に貯蔵される場合に有するであろう自身の自然の運動可能性を有さないようにされる、と理解されるべきである。
【0055】
「バイオポリマー粒子」という用語は、本明細書中で用いる場合、精子を含む場合に運動可能性の低減を提供する粒子を意味する。本発明によるバイオポリマー粒子は、グルロン酸に富むアルギン酸塩から成る網状構造を形成する材料で構成される。精子を保存することに関してのバイオポリマー粒子の機能は、本発明によるバイオポリマー粒子の三次元形状とは無関係である。したがって本発明によるバイオポリマー粒子は、例えば球形又は円筒形のような異なる形状を有し得る。
【0056】
アルギン酸塩は、グルロン酸(G)及びマンヌロン酸(M)から成るポリマーである。アルギン酸塩は、褐藻類(Phaeophyceae)のすべての種における細胞壁の一般的構成成分であり、そしてアルカリ溶液により一般的に抽出される。アルギン酸塩中のマンヌロン酸対グルロン酸の比率(M/G)は、特定のアルギノファイト(アルギン酸塩産生海草)によって、並びに種々の季節を通して広範に変わる。
【0057】
アルギン酸塩は、シュードモナス及びアゾトバクター細菌によっても合成される(Svanem et al., (2001), The Journal of Biological Chemistry, Vol 276: 34, 31542-31550、Jain et al., (2003), Molecular Microbiology, 47(4), 1123-1133、Scott and Quatrano (1982), Applied and Environmental Microbiology, 44: 3, 754-756)。
【0058】
アルギン酸塩は、例えば食品産業において、例えば安定剤として、及び粘度制御のために、製薬及び化粧品産業において、例えば崩壊剤として、広範に用いられる。種々の目的のために、それぞれグルロン酸又はマンヌロン酸に富むアルギン酸塩は共に利用可能であり(Mancini et al., (1999), Journal of Food Engineering 39, 369-378)、そしてグルロン酸に富むアルギン酸塩を産生するための種々の方法が既知である(国際公開第8603781号、米国特許第4,990,601、米国特許第5,639,467を参照)。
【0059】
「グルロン酸に富むアルギン酸塩」すなわち「高Gアルギン酸塩」という用語は、本明細書中で用いる場合、多糖を含むポリマー鎖中にマンヌロン酸より多くの量のグルロン酸を含むアルギン酸塩を意味する。「高G」という用語の理解の例は、当業者により一般的に用いられるように、2つの前段落に記述された従来技術から明らかである。
【0060】
アルギン酸塩ゲルは、二価イオン、例えばCa2+とアルギン酸塩ポリマー鎖中のグルロン酸のブロック構造との間の相互作用のために形成される。したがってアルギン酸塩ゲルの形成は、極低刺激性条件で実行することができ、細胞の固定化のために適している。したがってアルギン酸塩ゲルは、種々の種類の細胞の固定化のために一般的に用いられてきた。しかしながらアルギン酸塩における固定化は、液体コアを有する種々の型のカプセルのその後の形成のための出発点として、最も一般的に用いられる。
【0061】
本明細書中において以下、本発明によるアルギン酸塩、アルギン酸塩ゲル、アルギン酸塩網状構造又はバイオポリマー粒子への言及する場合、本発明による上記のアルギン酸塩、アルギン酸塩ゲル、アルギン酸塩粒子又はバイオポリマー網状構造若しくはバイオポリマー粒子はグルロン酸に富む、と理解されるべきである。
【0062】
適切なアルギン酸塩型の非限定例は、FMC LF 10/40、FMC LF 10/60及びFMC LF 20/60(FMC Biopolymer AS, Drammen, Norwayから入手可能)、又はA2033(Sigma, Oslo, Norwayから入手可能)である。
【0063】
「保存寿命」という用語は、本明細書中で用いる場合、授精前の生体外貯蔵並びにレシピエント動物における生体内授精後の両方に関して、精子が受精能力を維持する時間を意味する。異なる起源の精子の特定の保存寿命は変わり得る。それにも拘わらず、精子が本発明によるバイオポリマー粒子中に包埋される本発明の保存系は、精液収集後の従来の貯蔵方法後に授精される精子と比較して、授精後により長い貯蔵寿命を提供する。本発明の一例によれば、ブタ精子は、授精後12時間より長く、さらに好ましくは授精後24時間より長く優れた受精能力を維持する。本発明のさらに別の例によれば、雄牛精子は、授精後12時間より長く、さらに好ましくは授精後24時間より長く、優れた受精能力を維持する。
【0064】
「繁殖」という用語は、本明細書中で用いる場合、雌動物における妊娠を達成するために用いられる任意の方法を意味する。このような方法の非限定的例としては、IVF、人工授精及びICSIが挙げられる。さらに繁殖は、特に望ましい特質を有する動物を提供することに関する、そして商業的生産に関する繁殖の両方を包含する。
【0065】
「精子」という用語は、本明細書中で用いる場合、そのようなものとしての精子並びに精液中に含入される精子も包含し、即ち、本発明によるバイオポリマーを形成する場合、精液が直接用いられ得る。しかしながら精液から単離され、任意に他の適切な貯蔵溶液中に含入される精子も、本発明によるバイオポリマー粒子を形成するために用いられ得る。
【0066】
「精液容器」という用語は、本明細書中で用いる場合、精子の維持及び貯蔵に適したすべての型の包装を包含する。
【0067】
従来技術に開示された、そして上記のような前封入方法は労力を要するものであり、そして固定化手法は通例、いくつかのステップを含有する。しかしながら、本発明によるバイオポリマー粒子の調製は、ワンステップ手法で調製され得る。より正確には、精子を含有するアルギン酸カルシウム粒子は、固定化細胞に対する最低限の生理学的及び化学的ストレスで容易に形成される。アルギン酸粒子は、種々のサイズ及び形状で、そして種々のアルギン酸塩型、アルギン酸塩の濃度及び固定化精子の濃度で作製され得る。
【0068】
本発明に従って精子を包埋する目的のために、バイオポリマー材料としてのアルギン酸塩の使用は、i)低刺激条件下でゲルを形成し得る、ii)アルギン酸塩は精子及びレシピエント動物の両方に関して非毒性である、並びにiii)アルギン酸塩は生理学的条件下で溶解し、したがって子宮又は子宮頚部内で精子を解放し得る、という事実のため、特に適している。
【0069】
本発明の一態様によれば、アルギン酸塩粒子は、アルギン酸塩及び精子滴を含む溶液をゲル化溶液中へ滴下付加して、その中に包埋された精子を伴うアルギン酸塩ビーズの形成を生じることにより、調製される。
【0070】
アルギン酸塩ビーズの調製は、例えばSmidsrod, O. and Skjak-Brek, G. (1990) Alginate as immobilization matrix for cells. Trends in Biotechnology 8, 71-78及び米国特許第6,497,902号に開示されているように、当業者に既知である。
【0071】
種々のゲル溶液は、バイオポリマー粒子、例えばアルギン酸塩ビーズを形成するために適用され得る。種々のバイオポリマー粒子を形成するのに適している種々の溶液は、十分に当業者の知識内である。本発明によれば、二価イオン(本明細書中ではゲル化イオンとも呼ばれる)、例えばカルシウム及びバリウムは、アルギン酸粒子を形成するために、例えばアルギン酸塩のゲル化を達成するために用いられ得る。アルギン酸塩は、多数の二価イオン及び多価イオンの存在下でゲルを形成する。カルシウムイオンの使用は、迅速なゲル化及び相対的に強い粒子を生じる。他方で、バリウムイオンの使用は、生理学的条件下でより安定しているさらに強い粒子を生じる。本発明によるバイオポリマー粒子を形成するために用いられるべきゲル化イオンの種類及び量は、とりわけ形成されるゲルの所望の強度、用いられるアルギン酸塩の種類及び濃度、グルロン酸含量、並びにアルギン酸塩のG−ブロック長、用いられる精子の種類及び供給源、粒子中に組入れられるべき付加的作用物質の種類(例えば抗生物質、増量剤、酸化防止剤等)によって変わり得ること、そしてこのような修正は本発明の範囲内であると理解されるべきである。従来技術並びに本明細書の指針に基づいて、本発明によるバイオポリマー粒子中に精子と共に同時包埋されるべき種々の化合物を、過度の苦労を伴わずに、当業者は同定し、確定する。
【0072】
本発明の一態様によれば、カルシウムイオン及びナトリウムイオンは、バイオポリマー粒子を形成するために用いられる。したがって、アルギン酸濃度及び交差結合の程度を変えることにより、種々の精子解放特質を有し、そして例えば動物の特定の種又は種々の動物における特定排卵条件に適合される粒子を獲得し得る。
【0073】
さらに、アルギン酸塩の濃度は、バイオポリマー粒子の機械的特質に、したがって粒子の溶解特質にも影響を及ぼす。したがってアルギン酸塩の濃度は、例えばレシピエント動物に応じて各場合に必要とされる溶解特質によって変わり得る。本発明によるバイオポリマー粒子を調製する場合に用いるための高Gアルギン酸塩の種々の適用可能な濃度を、当業者は、自身の一般的知識に基づいて、そして本明細書中の指針に基づいて、過度の苦労を伴わずに確定する。本発明の一態様によれば、本発明によるバイオポリマー粒子中のアルギン酸塩の濃度は、少なくとも0.1%〜6%である。
【0074】
本発明によるバイオポリマー粒子中に包埋される精子の濃度は、例えば精子の種類/供給源、血統、レシピエント動物、授精技法又はシステム、受精技法又はシステム、粒子中に含まれる他の作用物質(抗生物質、酸化防止剤、増量剤、タンパク質等)の存在によって変わり得る。原則として、精子濃度の下限はなく、そして濃度は例えば受精方法、精子の起源、レシピエント動物、バイオポリマー粒子の溶解特質等によって変わり得る。本明細書の指針及び一般的知識を用いて、所望の受精方法、精子の起源、レシピエント動物等に基づいて、当業者は、過度の実験の苦労を伴わずに、各場合に用いられるべき適切な精子濃度を確定する。例えば人工授精と比較して、所望の受精方法としてICSIが用いられる場合、より少量の精子が用いられ得る、ということが認められるべきである。
【0075】
本発明の一態様によれば、精子濃度は、したがって、少なくとも0.1×10精子/mlである。
【0076】
本発明の知見は、いくつかの動物に関して、精子の生存は精子濃度の増大に伴って大きく増大される、ということを示す。したがって本発明の一例によれば、少なくとも2.5×10個のブタ精子/mlがバイオポリマー粒子中に包埋される(図4を参照)。しかしながら100×10個のブタ精子/mlも、雌動物における妊娠を生じる。雄牛精子に関しては、ブタ精子と同一濃度範囲が適用可能である。
【0077】
バイオポリマー粒子中の精子の濃度は、ゲル化前のアルギン酸塩の量に比して精子の量を変更することにより、あるいはアルギン酸塩溶液及び精子を含む溶液を混合する前に精子溶液を濃縮又は希釈することにより、さらに修正され得る。しかしながら精子の量の修正は、最終的には得られる粒子中のアルギン酸塩の濃度の修正を生じるため、バイオポリマー粒子中のアルギン酸塩の濃度が維持されるべきである場合、出発アルギン酸塩溶液中のアルギン酸塩の濃度は調整されなければならない。溶液中のアルギン酸塩の高粘性のため、4%〜6%より高いアルギン酸塩を有するアルギン酸塩溶液を用いることは実際は難しい。したがって本発明の一態様によれば、バイオポリマー粒子は低粘性を有するアルギン酸塩から成る。
【0078】
さらに、本発明によるバイオポリマー粒子中に包埋される精子は周囲環境から或る程度単離され、そしてアルギン酸カルシウムゲル網状構造が溶解されるまで解放されない。さらにアルギン酸カルシウムゲル網状構造は、生理学的条件下で徐々に溶解し、これが、固定化マトリックスからの精子の緩徐解放を引き起こす。この作用のために、受精能力を有する精子はより長期間存在し得る。溶解速度は、固定化マトリックス上の異なる型のコーティングを用いて制御され得る。種々の有用なコーティングが既知であり、例としては、ポリリシン、キトサン、硫酸セルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース又は塩化ポリジアリルジメチルアンモニウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
精子の質をさらに改良するために、精子は、精子生存及び活力度にとって重要性を有する種々の溶液と共に同時包埋され得る。本発明の一実施形態によれば、増量剤が本発明のバイオポリマー粒子中に含まれる。
【0080】
精子増量剤は、いくつかの目的のために一般的に用いられる:
− 容積を増大するため
− AI用量中の精子数を標準化するため
− 緩衝能を遂行するため
− 浸透性に関して生理学的環境を提供するため
− 精子細胞への栄養を支持するため
− 微生物学的汚染を制御するため(抗生物質)、又は冷凍保存の場合:
− 冷凍損傷及び解凍損傷から精子細胞を保護するため。
【0081】
例えば精子の種類(起源)、種、保存方法、貯蔵温度、授精方法、動物園衛生要件、及び国際法に基づいて、本発明によるバイオポリマー粒子中に用いられ得る適切な増量剤を選択することは、十分に当業者の知識内である。ミルク増量剤及びTRISは、膨大な数の適用可能な市販の精子増量剤の中のわずかな非限定例に過ぎない。別の有用な増量剤は、Aalbers, JG, Rademaker, JHM, Grooten, HJG and Johnson, LA, 1983: Fecundity of boar semen stored in BTS, Kiev, Zorlesco and Modena extenders under field conditions. J. Anim. Sci. 75 (Suppl. 1), 314-315及びAalbers, JG, Johnson, LA, Rademaker, JHM and Grooten HJG, 1984: Use of boar spermatozoa for AI: fertility and morphology of semen diluted in BTS and used for insemination within 24 hrs or 25 to 48 hrs after collection. Proc. 10th Int Congr. Anim. Reprod and Artif. Insemin. Urbana IL, Vol II, No 180, pp 1-3(BTSとして一般に既知である)に報告された増量剤である。BTSは、Minitueb i Tyskland.(Minitueb Abfuell-und Labortechnik GmbH & Co. KG, Hauptstrasse 41, DE-84184 Tiefenbach, Germanyから市販されている。
【0082】
さらに別の有用な増量剤は、IMV(Instrument de Medecine Veterinaire, 10, rue Georges Clemenceau, B.P. 81, FR-61302 L’AIGLE Cedex, France)から市販されているTri X−Cell(商標)増量剤である。
【0083】
種々の増量剤は、組成、pH、緩衝能、浸透性及び抗生物質において異なる。多くが発表されているが、一方、商業的に極秘であるものもある。最も簡便な増量剤は、例えばラクトース及びグルコースのような異なる糖溶液のみで構成される。精子保存の分野内の当業者の一般知識に基づいて、種々の増量剤が本発明に従って用いられ得る、と理解される。本発明に従って用いられる増量剤の種類は、精子の起源、用いられるポリマーの種類、保存方法、貯蔵温度等によって変わり得る。明細書及び添付の特許請求の範囲に開示された本発明の範囲を逸脱することなく、用いられる増量剤の種類及び適量を確定し、選択することは、当業者の知識の範囲内である。
【0084】
本発明によるバイオポリマー粒子は、当該技術分野で既知の方法に従って種々のサイズで形成され得る。どのサイズが適切であるかは、種々の因子、例えば精子供給源、用いられる受精装置の種類及びサイズ、用いられる精液容器のサイズ及び形状等によって変わる。本発明によるバイオポリマー粒子は、容易な操作、取扱い、輸送及び保存を可能にするために、従来技術の授精技法のすべてに適した直径で形成され得る。
【0085】
本発明のさらに別の態様によれば、バイオポリマー粒子は、例えば授精ストローのような容器内に形成されて、容器のサイズに完璧に調整された粒子を生じる。したがって、容器内にバイオポリマー粒子を形成する場合、さらなる貯蔵溶液は必要ではない。
【0086】
本発明の一態様によれば、バイオポリマー粒子は、畜牛から収集される精子を含む。本発明のさらに別の態様によれば、本発明のバイオポリマー粒子は、ブタから収集される精子を含む。
【0087】
本発明はそれぞれ畜牛及びブタから収集された精子を含むアルギン酸塩粒子により例証されるが、しかしバイオポリマー粒子は他の種の動物からの精子も包埋し得る。バイオポリマー粒子は、例えばウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、家禽、ペット、例えば血統イヌ、水生動物及び種々の絶滅危惧種から収集された精子も包埋し得るが、これらに限定されない。
【0088】
さらに、本発明のバイオポリマー粒子はヒト精子の保存に有用でなく、したがって無子の治療に有用でない、ということは全く示されていない。したがって「動物」という用語は、本明細書中で用いる場合、ヒトも含むと理解されるべきである。
【0089】
さらに、精子保存技法は、水産養殖産業でも広範に必要とされている。したがって水生動物から生じる精子も本発明によるバイオポリマー粒子中に包埋され、したがってさらにまた本明細書中で用いられるような「動物」という用語に含まれ得る。
【0090】
バイオポリマーゲル網状構造内の精子の固定化は、雌生殖器官内でさえ、精子の貯蔵のために有益である微小環境を作成するためにも用いられ得る。これは、精子、受精の程度、動物の健康等に関して有益である溶液をさらに同時包埋することを伴って実行され得る。例えば貯蔵中の生存能力を増強する物質の非限定例は、酸化防止剤又はタンパク質、ホルモン等である。精子は、受精能力又は動物の健康の点で有益である他の作用物質又は化合物とも同時包埋され得る。このような作用物質又は化合物は、例えば抗生物質、例えばストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、リンコマイシン、スペクチノマイシン、アモキシシリン、タイロシン等(これらは性病を制御又は防止するために用いられ得る)、凍結保護物質、抗体、ホルモン、あるいは生殖効率を増大する化合物、例えば米国特許第5,972,592号から既知の化合物であり得る。
【0091】
したがって本発明のさらに別の態様によれば、バイオポリマー粒子は、精子のほかに、受精能力又は動物の健康に関して有益である化合物、例えば酸化防止剤、抗生物質、抗体、ホルモン又は生殖効率増大作用物質あるいはそれらの組合せを含む。本発明の好ましい一実施形態によれば、バイオポリマー粒子は、酸化防止剤、例えばピルビン酸塩を含む。
【0092】
本発明によるバイオポリマー粒子は、任意に、既知の精子貯蔵溶液、例えばミルク増量剤、PBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)、BTS、Tri X−Cell(商標)、EDTA増量剤、Kiev増量剤、Modena、MR−A、Androhep、Acromax、Triladyl(登録商標)、Biladyl(登録商標)、Bioxcell、Biociphos plus等中に、酸化防止剤、例えばピルビン酸塩、2,2,6,6−テトラメチルペペリジン−1−オキシル(一般にTempoと略される)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ペペリジン−1−オキシル(一般にTempolと略される)、スーパーオキシド−ジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ブチル化ヒドロキシトルエン(一般にBHTと略される)、ブチル化ヒドロキシアニソール(一般にBHAと略される)と共に、又は伴わずに貯蔵され得る。貯蔵溶液の選択は、貯蔵溶液がバイオポリマー粒子の特質に負の影響を及ぼし得る化合物を含まない限り、重要でない。例えばアルギン酸塩粒子の場合、貯蔵溶液は、二価イオンの撤退を、したがってゲルの溶解を生じるほど多すぎるキレート化合物を含むべきでない。
【0093】
貯蔵中、貯蔵溶液に対するバイオポリマー粒子の割合は、高Gアルギン酸塩の種類及び濃度、精子の供給源、用いられる受精方法等によって変わり得る。本発明の例によれば、貯蔵溶液:バイオポリマー粒子比は、少なくとも1:1、例えば少なくとも1:2、少なくとも1:3、少なくとも1:4、少なくとも1:5、少なくとも1:6、少なくとも1:7、少なくとも1:8、少なくとも1:9又は少なくとも1:10である。少なくとも1:100までの貯蔵溶液:バイオポリマー粒子比が、本発明に従って用いられ得る。
【0094】
さらに、本発明によるバイオポリマー粒子は、任意に、周囲温度より低い温度、例えば18℃又は20℃、生理学的温度(37℃)、あるいは冷却条件、例えば5℃で貯蔵され得る。さらに、バイオポリマー粒子は、脱水、冷凍保存又は凍結乾燥によりさらに処理され得る。次にバイオポリマー粒子は、冷凍保存の場合、授精前に解凍される。
【0095】
通常は液体保存される精子は、本発明によるバイオポリマー粒子中に包埋される場合、より長期間貯蔵され得る。本発明の別の実施形態によれば、バイオポリマー粒子は、レシピエント動物を授精するために直接用いられる。任意に、バイオポリマー粒子は、授精前に精子を解放するために溶解され得る。しかしながらバイオポリマー粒子は、さらに別の実施形態によれば、自由精子と一緒に、そして組合せて用いられ得る。
【0096】
本発明をその特定の実施形態と結びつけて記載してきたが、さらなる修正が可能であると理解される。本出願は、任意の変更、概して本発明の原則に従う本発明の使用又は採用を、本発明が関する当該技術分野内の既知の且つ通例の実行内に入るような、そして上に開示された不可欠な特徴に適用され得るような本発明の開示からのそのような逸脱を含めて、そして添付の特許請求の範囲に従って、包含するよう意図される。
【0097】
本発明の種々の態様の上記の説明は本発明の一般的性質を明示しており、当業者は、人工授精及び繁殖技術の領域内の一般的知識(本明細書中で引用された参考文献の記載内容を含めて)を適用することにより、過度の実験を伴わずに、本発明の一般概念及び添付の特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の応用のために本発明のバイオポリマー粒子並びにその調製及び使用を容易に修正し、且つ/又は適合する。このような適合又は修正は、したがって、本明細書中に示された教示及び指針に基づいて、開示された実施形態の均等物の範囲の意味内にあることを意図する。本明細書中に用いられる用語は説明のためであって、本発明を限定するものではない、と理解されるべきである。したがって本明細書の用語は、本明細書中に示された教示及び指針に鑑みて、当業者の知識と組合せて、当業者に解釈されるべきものである。
【0098】
以下の実施例で本発明をさらに例証するが、それらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0099】
アルギン酸塩中の精子の固定化
材料及び方法
材料
以下の化学物質を用いた:CaCl・HO、KHPO、NaHPO、NaCl及びクエン酸ナトリウム(Riedel de Haen, Seelze, Germany);グルコース一水和物(Norsk Medisinaldepot, Oslo, Norway);アルギン酸ナトリウム(PROTANAL LF 10/60)(FMC Biopolymer A/S, Drammen, Norwayから供給)。
【0100】
精子の供給元
ウシ精子を、Geno施設(Hallsteingard, Trondheim, Norway)で収集した。雄ブタ精子を、Norsvin施設(Hamar, Norway)で収集した。ウシ精子を、射精直後にミルク増量剤中で1+2で希釈した。雄ブタ精子を、TRI X−CELL(商標)(IMV Technologies, L’Aigle Cedex, France)中で1+4で希釈した。この希釈に関しては、希釈緩衝液の選択は、固定化手法又は固定化後の精子の長期生存のためには重要でないが、しかし精子がさらに処理され得るまで貯蔵を手助けするために単に実行される。
【0101】
緩衝溶液
以下の培地を用いた。改良IVT:3gl−1グルコース、20gl−1クエン酸ナトリウム、2.1gl−1NaHCO、1.16gl−1NaCl、3gl−1EDTA、pH7.35。BTS(3mMのCaを有する):37gl−1グルコース、0.44gl−1CaCl、4.5gl−1クエン酸ナトリウム、1.25gl−1NaHCO、1.25gl−1EDTA、0.74gl−1KCl、1gl−1ネオマイシン、pH7.2。ビーズゲル化溶液:7.3gl−1CaCl、5.96gl−1NaCl。ミルク増量剤:110gl−1Molicoスキムミルク、120mll−1卵黄、6.25gl−1ストレプトマイシン、1.5mlI.El−1ペニシリン。
【0102】
細胞固定化
精子細胞をGeno施設又はNorsvin施設で収穫し、上記のように希釈した。固定化前に、遠心分離(800g、20分、20℃)により精子を濃縮した。各バッチ中の除去されるべき上清の量は、完成ビーズ中の精子の所望の濃度によって変わる。余分量の上清の除去後、軽く振盪することにより細胞ペレットを静かに再懸濁する。次に細胞懸濁液を滅菌6%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液とゆっくり混合する。アルギン酸塩溶液を、2部の細胞懸濁液対1部のアルギン酸塩溶液の容積比で付加する(アルギン酸塩の濃度、アルギン酸塩溶液の容積比及び細胞懸濁液の多数の異なる組合せが検査された。典型的値及び手法をここに示す)。
【0103】
アルギン酸塩及び細胞の混合物を、ビーズゲル化溶液中に1滴ずつ付加する(上記参照)。3mmの直径を有するビーズを製造するために、溶液を内径0.5mmを有する注射器先端を介して付加する。より小さい直径(直径1mm未満に下げる)を有するビーズを製造するために、針上に形成する小滴サイズを制限するために気流の使用を基礎にした系を用いる。ビーズ全体の均質多糖濃度を保証するために、塩化ナトリウムをゲル化溶液中に用いる(Smidsrod, O. and Skjak-Braek, G. (1990) Alginate as immobilization matrix for cells. Trends in Biotechnology 8, 71-78)。ビーズ中のCa2+の量を制限するために、ビーズゲル化溶液中で8分以下の間、ビーズを撹拌する。全固定化手法を、周囲温度で実施する。
【0104】
周囲温度で生体外での固定化精子の貯蔵
固定化手法の一目的は、精子が授精前に貯蔵され得る時間を延長することである。したがって、精子を緩衝溶液中で周囲温度で生体外で貯蔵する実験を実行した。同一射精からの非固定化精子を有する参照試料が、すべての実験に含まれる。貯蔵期間中の異なる時点での運動性の測定により、精子の質を評価する。各時点で、試料を分析し、固定化精子の運動性及び対照試料の運動性を記録する。実験系を最適化するために、貯蔵容積及び細胞密度の多数の組合せを検査した(データは示されていない)。下記の実験条件は典型的であり、そして以下に報告する実験に用いられた。
【0105】
ウシ精子を用いる実験において、固定化精子を有する約2mlのビーズを13ml遠心管に移し、ミルク増量剤溶液を1+2の容積比で付加した。13ml遠心管中に1+15の総希釈を実行することにより、自由懸濁精子を有する対照試料を作製する(約6mlの容積を全管中に用いる)。この希釈は、前の実験では、参照試料において貯蔵中に運動性を持続するためにほぼ最適であることが示されている(データは示されていない)。
【0106】
雄ブタ精子を用いた実験では、精子をBTS(3mMのCaを有する)中で18℃で貯蔵した。以下に報告される実験では、対照試料を全実験において1+10で希釈して、50ml遠心管中に20の総容積を得た(この希釈は、貯蔵中の運動性を持続するために最適であることが前に示されている)。固定化精子を含有するビーズを50ml遠心管に移し、BTS(3mMのCaClを有する)を1+3の比で付加した。固定化精子を含有するビーズを、貯蔵溶液に移す前に貯蔵溶液ですすいだ。
【0107】
37℃での固定化精子の貯蔵
生理学的温度での精子の生存を査定するために、37℃での精子の貯蔵中に精子の運動性を記録した。ウシ精子を、37℃での貯蔵実験の前に緩衝溶液に移した。上記のように、同一射精からの参照試料が、すべての実験に含まれる。各管中に総容積8mlを有する13ml遠心管中で、試験を実施した。参照試料を、貯蔵溶液中で1+4で希釈した。固定化精子に関しては、精子を含有するビーズ3mlを6mlの緩衝溶液に付加し、13ml遠心管中に貯蔵した。雄ブタ精子を同様に処理したが、但し、標準BTS(3mMのCaを含む)を用いた。
【0108】
運動性の査定
精子の運動性を、顕微鏡評価により査定した。試料(典型的には1ml)を貯蔵容器から抜き出して、1.5mlエッペンドルフ管に移した。管を、査定前に37℃でヒートブロック中で最低15分間予熱させた。測定時に、2.5μlの試料を予熱顕微鏡スライドに付加し、光学顕微鏡を用いて直ちに検査した。各試料中の運動性精子の数を概算し、最も近くて5%間隔であった。実際に可能な場合、オペレーターは、査定中の試料の素性を知らされずにいた。
【0109】
固定化精子は、運動性の評価前にビーズから解放されなければならない。アルギン酸塩ビーズを溶解するために、1部のビーズを、13ml遠心管中の3部のIVT溶液に付加した。次に管を管タンブラー中に入れ、査定前に約30分間混合させた。
【0110】
結果及び考察
固定化精子の生存
参照試料(非固定化精子を用いる)並びに固定化精子を用いる試料における精子の貯蔵に関する実験からのデータを、ウシ及び雄ブタ精子の両方に関して図1に示す。雄ブタ精子に関しては、2つの異なるビーズサイズからのデータを示す。この理由は、現行の利用可能な設備を用いて子宮内授精用のビーズを使用するため、ビーズサイズが1mmより小さくなければならないからである。
【0111】
図1に示したデータから分かるように、固定化精子は、固定化直後の参照試料における精子より多少低い運動性を有するように思われる。運動性におけるこの差は、固定化精子を含有するビーズは運動性査定前に溶解されねばならないので、固定化手法又は溶解手法の両方により引き起こされ得る。しかしながら、ビーズは生理学的条件で徐々に溶解する(データは示されていない)ので、授精前にビーズを溶解する必要はない。
【0112】
参照試料の運動性が、特に雄ブタ精子に関しては、固定化試料の場合より急速に低下すると思われるので、参照試料と固定化精子との間の運動性における差は貯蔵期間中に低減される。固定化雄ブタ精子に関しては、この特定実験での3mmの直径を有するビーズにおいて、貯蔵5日後に、約50%の運動性を記録した。この時点で、参照試料においては10%の運動性を記録した。これらの結果は、18℃での生体外貯蔵に耐えるそれらの能力に有益であるやり方で、固定化が細胞又は細胞の局所的環境に影響を及ぼす、ということを示す。
【0113】
ウシ精子に関しては、示された実験の後期において、参照試料と固定化精子との間に運動性の有意差は認められない。
【0114】
しかしながら貯蔵条件及び固定化手法のさらなる最適化は、固定化ウシ精子の貯蔵の時間を改良し得る。固定化ウシ精子及び参照試料における非固定化精子のグルコースの消費及び乳酸塩の産生の測定は、アルギン酸カルシウムゲル網状構造内に貯蔵された精子が低減された代謝率を有する、ということを示す(実施例2を参照)。
【0115】
生理学的条件、すなわち精子の活動が最大になるはずである条件を固定化精子が生き残るか否かを評価するために、貯蔵実験を37℃の温度で実行した。37℃で貯蔵中のウシ及び雄ブタ精子の生体外貯蔵に関する実験からのデータを、図2に示す。
【0116】
周囲温度での生体外貯蔵を用いた実験で分かるように、試料の調製後の参照試料とアルギン酸塩固定化精子を用いた試料との間の運動性に差異が認められる。しかしながらウシ及び雄ブタ精子の両方に関して、37℃で貯蔵中、非固定化精子を用いた参照試料において運動性はかなり急速に低下する。固定化精子を用いた試料では、運動性は有意にゆっくり低下する。37℃で15時間の生体外貯蔵後、両方のビーズサイズにおける雄ブタ精子の運動性は依然として50%より上である。実際、3mm直径を有するビーズでは、37℃で60時間の貯蔵後、運動性は依然として約30%である。
【0117】
ウシ精子に関しては、運動性は、この実験系における雄ブタ精子に関するものより速く低下すると思われる。しかしながら、雄ブタ精子を用いた場合と同様に、ウシ精子に関するこの実験における貯蔵中の運動性低下の割合の間に有意差が認められる。24時間貯蔵後、固定化ウシ精子は依然として45%の運動性を有するが、一方、参照試料における運動性は記録されなかった。
【0118】
図2に示したデータは人工実験系を用いて得られるが、これは雌動物内の体内状態を代表するものではない、ということは留意しなければならない。しかしながら図2に提示したデータは、ウシ及び雄ブタ精子は共に、生理学的温度でさえ、アルギン酸カルシウムゲル網状構造中に固定された場合、かなり長期間生存し、そして運動性を制止し得る、ということを示す。データは、生理学的温度で貯蔵中の精子の運動性を持続するために、アルギン酸カルシウムゲル網状構造による固定化が用いられ得る、ということも示す。これは、良好な受精結果を得るためには授精の時機が重要であるので、特に重要であり得る。精子は授精後の生存時間が制限されているため、授精の時機は重要である。したがって結果は、授精から受精までの時間を延長するため、授精後の制御された解放と組合された精子の固定化が用いられ得る、ということを示す。
【0119】
授精試験
1群において合計9匹の成熟雌ブタで、授精試験を実施した。成熟雌ブタは、子ブタの事前の同腹子の離乳直後に選び取るためであったが、しかし選び取りは、授精後約4週まで延期された。
【0120】
畜殺場で、内臓摘出直後に生殖器官を収集し、15分以内に検査した。卵巣中の黄体の数及び子宮角中の胚(ある場合に)の数を計数し、記録した。妊娠のこの初期段階での阻止により、存在するすべての胚(変性したものでさえ)を観察する可能性は相対的に高い。臨月に生まれた子ブタの数を観察することにより、高いパーセンテージの胚を失う危険性が高くなるが、これは、骨形成前に任意の受胎産物及び死んだ胚が母体系により再吸収され、そして終わりになって目に見える残余物がないためである。30%もの受精ブタ卵子が、受胎から骨形成までに死亡し、消失する。本発明の試験では、4週目に胚の数及び黄体の数を計数することにより、各雌ブタに関して受精率の良好な見積もりを計算し得る。
【0121】
授精の時機は、標準から標準より1日早くまで変化し、単一及び二重の両方の授精を実施した。これらの授精試験の結果を、表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
授精試験を、ウシ精子を用いても実施した。大型試験群が利用可能でないので、これらの試験は定量するのがあまり容易でない。20頭の利用可能な若雄牛を有する一群で、これらの試験を実行した。授精前に、若雄牛を同時に発情させた。固定化ウシ精子を用いて、良好な受精率を達成した。試験においては、24時間貯蔵された固定化精子で授精された12頭の若牡牛からの6頭を受精させ、妊娠対照により確証した。
【0124】
精子をアルギン酸塩中に固定し、周囲温度で異なる期間の間貯蔵固定して、溶解又は非溶解授精した。授精の時機は、標準から標準より1日早くまで変わり、単一授精のみを実施した。授精後5〜7週に直腸検査により、妊娠動物を確証した。これらの試験の結果を、表2に示す。
【0125】
【表2】

【0126】
これらのデータは、アルギン酸カルシウムビーズ中に固定された精子は運動性を維持するだけでなく、受精に必要なすべての機能的特性も維持する、ということを示す。したがって、アルギン酸カルシウムゲル中に固定された精子は授精のために用いられ、そして畜牛及びブタの両方の受精を生じ得る、ということをGeno及びNorsvinは実証した。
【実施例2】
【0127】
固定化精子のエネルギー消費
一つの特定の理論に限定されずに考えると、精子の固定化は、精子によるエネルギー消費の低減を生じ、そしてこれは保存寿命及びそれらの受精能に関して有益であると考えられる。したがってこの理論を精査するために、ウシ精子を約150×10精子/mlの濃度でアルギン酸塩ゲル中に固定し、ビーズ容積のミルク希釈緩衝液に2回付加した。ミルク希釈緩衝液中に同一総濃度の精子/総容積を含有する同一射精液から、自由懸濁精子を用いた参照試料を調製した。20℃での貯蔵前に、Nで洗い流すことにより、試料を嫌気性にした。ミルク希釈緩衝液の試料を貯蔵期間中に採取し、試料中の精子からの乳酸塩の産生をHPLCにより測定した。結果を、表3に示す。
【0128】
【表3】

【実施例3】
【0129】
アカギツネ(vulpes vulpes)からの精液の固定化
3匹の成体アカギツネ(Vulpes vulpes)雄からの良質の混合性液をEDTA増量剤中に希釈して、228×10精子細胞/mlとして、実験室に運んだ。収集及び希釈の3時間後に、精液のアリコートを、2000rpmで10分間、遠心分離した。沈殿物をアルギン酸塩(LF 10/60)と混合し、本特許出願に記載したようにビーズを形成した。ビーズを18℃で改質Biladyl中に貯蔵した。残りの精液を、対照として18℃でEDTA中に貯蔵した。
【0130】
ビーズを48時間後に溶解した。溶解精液及び対照精液を共に、35℃まで20分間加熱した後、運動性精子%としての運動性の評価を38℃で加熱プレート上で10倍及び25倍の倍率で位相差顕微鏡により実施した。
【0131】
【表4】

【実施例4】
【0132】
アルギン酸塩固定化雄ブタ精液を用いた単一子宮内授精後に臨月で生まれた仔ブタ
3匹の成熟雄ブタからの混合精液を本発明に従って処理し、臨月妊娠後に分娩した雌ブタの子宮内授精のためにビーズを用いた。雌ブタは、2007年2月8日に事前の同腹仔から引き離されており、2007年2月12日に一度アルギン酸塩ビーズ中に固定化された精液で授精された。その雌ブタは、2007年6月10日に16匹の生きて産まれた仔ブタを出産した。同腹仔中に死産仔ブタはなく、すべての仔ブタが臨床検査で正常に見えた。
【実施例5】
【0133】
アルギン酸塩中の雄ヒツジ精液の固定化
2匹のAI雄ヒツジからの精液を人工膣で収集し、10分以内に実験室に運んだ。精液をスキムミルクベースの増量剤中に1+3で希釈した(Curtis PG, Forteath AD, Polge C. Survival of bull sperm frozen in milk diluents containing varying concentrations of glycerol and fructose. Proc IVth Int Congr Anim Reprod 1961; 3: 952-956)後、アルギン酸塩を付加し、特許出願第0613288.0号、実施例1に記載されたようにビーズを形成した。5℃で又は周囲温度で、スキムミルクベースの増量剤中にビーズを貯蔵した。固定化精子をビーズから解放した後、運動性精子細胞%として運動性の顕微鏡的評価を、固定化の24時間後及び48時間後に実施した。実際的理由のため、対照はこの試験に含まれなかった。しかしながら生存能力パラメーター、例えば運動性は、5℃又は20℃で30時間の液体雄羊精液の貯蔵中に減損される(Paulenz H, Soderquist L, Perez-Pe R, Berg KA. Effect of different extenders and storage temperatures on sperm viability of liquid ram semen. Theriogenology 2002: 57(2): 823-36)。
【0134】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子の保存のためのバイオポリマー粒子であって、前記精子がバイオポリマーゲル網状構造中に包埋され、前記精子を包埋する前記バイオポリマーがグルロン酸中に豊富に存在するアルギン酸塩を含む、バイオポリマー粒子。
【請求項2】
前記精子を包埋する前記バイオポリマーがアルギン酸カルシウムを含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記バイオポリマーが低粘度でアルギン酸塩を含む、請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
前記アルギン酸塩の濃度が少なくとも0.1%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
前記アルギン酸塩の濃度が少なくとも0.1%〜6%アルギン酸塩である、請求項4に記載の粒子。
【請求項6】
前記アルギン酸塩の濃度が少なくとも1%である、請求項5に記載の粒子。
【請求項7】
前記アルギン酸塩の濃度が少なくとも2%である、請求項4に記載の粒子。
【請求項8】
前記アルギン酸塩の濃度が6%である、請求項4に記載の粒子。
【請求項9】
少なくとも0.1×10精子/mlの精子濃度を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項10】
少なくとも100×10精子/mlの精子濃度を有する、請求項9に記載の粒子。
【請求項11】
少なくとも2.5×10精子/mlの精子濃度を有する、請求項9に記載の粒子。
【請求項12】
溶液中に貯蔵される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項13】
前記貯蔵溶液:前記バイオポリマー粒子の比が少なくとも1:1〜1:100である、請求項12に記載の粒子。
【請求項14】
前記精子が1つ又は複数の酸化防止剤と同時包埋される、請求項12又は13に記載の粒子。
【請求項15】
前記酸化防止剤が、ピルビン酸塩、2,2,6,6−テトラメチルペペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ペペリジン−1−オキシル、スーパーオキシド−ジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールから成る群から選択される、請求項14に記載の粒子。
【請求項16】
前記粒子がコーティングされる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項17】
前記コーティングが、ポリリシン、キトサン、硫酸セルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース又は塩化ポリジアリルジメチルアンモニウムから成る群から選択される、請求項16に記載の粒子。
【請求項18】
前記精子がさらに、受精能力及び/又は動物の健康のために有益である化合物又は作用物質と同時包埋される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項19】
前記精子が、増量剤、凍結保護物質、抗生物質、抗体、酸化防止剤、タンパク質及びホルモンから成る群から選択される化合物又は作用物質の1つ又は複数と同時包埋される、請求項18に記載の粒子。
【請求項20】
前記精子が、ブタ、畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、家禽、ペット、例えば血統イヌ、毛皮動物、水生動物及び絶滅危惧動物種から成る群から選択される動物から生じる、請求項1〜20のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項21】
前記精子が、ブタ、畜牛、毛皮動物及びウマから成る群から選択される動物から収集される、請求項20に記載の粒子。
【請求項22】
前記精子が精液中に含入される、請求項1〜21のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項23】
脱水、冷凍保存又は凍結乾燥によりさらに処理される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項24】
精液容器中で直接形成される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項25】
アルギン酸塩及び精子の混合物がゲル化溶液に付加される、請求項1〜24のいずれか一項に記載の粒子の調製方法。
【請求項26】
前記ゲル化溶液が、カルシウム、ナトリウム、バリウム、マグネシウムから成る群から選択されるイオンのうちの1つ又は複数を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ゲル化溶液がカルシウムイオン及びナトリウムイオンを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記粒子が脱水、冷凍保存又は凍結乾燥によりさらに処理される、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
動物の繁殖における請求項1〜24のいずれか一項に記載のバイオポリマー粒子の使用。
【請求項30】
前記粒子が、ブタ、畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、家禽、ペット、例えば血統イヌ、毛皮動物、水生動物及び絶滅危惧動物種から成る群から選択される動物の繁殖に用いられる、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記粒子が直接授精される、請求項29又は30に記載の使用。
【請求項32】
前記粒子が授精前に溶解される、請求項29又は30に記載の使用。
【請求項33】
前記粒子が自由精子と一緒に用いられる、請求項29又は30に記載の使用。
【請求項34】
請求項1〜24に記載の粒子中に保存される精子がレシピエント雌動物中に導入される動物の受精方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−542636(P2009−542636A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518024(P2009−518024)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000256
【国際公開番号】WO2008/004890
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509003184)スパームヴァイタル アクティーゼルスカブ (1)
【Fターム(参考)】