説明

精子懸濁液の製造方法および濾過カラム

【課題】HIVを含有する精子懸濁液より、HIVを実質的に含まない精子懸濁液を得る手段を提供すること。
【解決手段】膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜を充填したカラムを用いて濾過を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において、HIVを含有する精子懸濁液より、HIVを実質的に含まない精子懸濁液を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不治の病として恐れられてきた後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)の生命予後は、抗エイズ薬の進歩により著しく改善され、いまやコントロール可能な疾患ととらえられるようになった。このような状況のなかで、ヒト免疫不全ウィルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染者のカップルが子供を望むケースが増加している。夫がHIV陽性で妻がHIV陰性のカップルにおいて、HIV感染の危険性を可能なかぎり減少させて妊娠を成立させる方法が試みられている。花房はpercollswim−up法と呼ばれる精子洗浄法について報告している(非特許文献1)。該方法は、等量のハンクス緩衝塩類溶液で希釈した精液を多段percoll液に重層し、400x g、30分の遠心分離を行った後にHIVを含む上層を除去する。次に、80%percoll液と沈渣の精子にHTF(human tubal fluid)培地を重層し、37℃で60分培養し、浮遊する精子を回収するという方法である。この方法で回収された精子浮遊液はHIVの混入が少ないことが報告されているが、精子回収率が低いという欠点がある。さらには、HIVを含むpercoll層の分離度は操作者の技術に依存しており、安定した精子分離には高度な技術を必要とする。
【0003】
特開平6−269645号公報(特許文献1)には多孔性の精密濾過膜を用いたウィルス分離例が記載されている。特許文献1には、ひとつの面の孔の大きさが他の面の孔の大きさの2倍以上であり、孔径分布の極大値が0.01μmから10μmの間に2つ有することを特徴とする分離膜が記述されており、ウィルス分離に対する信頼性の向上と処理速度の向上が得られたことが報告されている。膜を用いた濾過法は、HIVなどの病原性を有するウィルスを取扱うにあたり、密閉系で操作できる点、ウィルス除去率が高い点、分離速度が速く、操作に特別な技術を要しない点など、多くの利点がある。特許文献1に記載のウィルス分離の原理は、ウィルスを通過させない孔径を有する膜による除去であり、回収すべき対象が膜による濾過液中に存在する場合にのみ有効である。すなわち、ウィルスを含有する精子懸濁液からのウィルス除去に該発明の膜を用いることはできない。なぜならウィルスを通過させない孔径を有する膜を用いて精子懸濁液を処理しても、回収すべき精子とウィルスは常に膜の同じ側に留まることになり、ウィルス除去という目的を果たせないからである。
【特許文献1】特開平6−269645号公報
【非特許文献1】Hideji Hanabusa, Naoaki Kuji, Shingo Kato, Hisamichi Tagami, Satoru Kaneko, Hiroaki Tanaka and Yasunori Yoshimura“An evaluation of semen processing methods for eliminating HIV−1” AIDS 2000,14:1611−1616.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、HIV含有精子懸濁液から、簡便、高い精子回収率、かつ、高いHIV除去能を有するHIVを実質的に含まない精子懸濁液を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等はかかる状況に鑑み、高い精子回収率を有し、簡便で、HIV除去能の高いHIV含有精子懸濁液からHIVを実質的に含まない精子懸濁液を得る方法を鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜を充填したカラムにHIVを含む精子懸濁液を導入して、生理的溶液による希釈と前記中空糸膜による濾過を行うことによって、前記精子懸濁液中のHIVを濾液に排出して精子懸濁液中のHIVを除去することを特徴とする、HIVを実質的に含まない精子懸濁液の製造方法。
(2)前記HIVを実質的に含まない精子懸濁液のHIV−RNAコピー数が、1mL当たり50コピー以下であることを特徴とする(1)記載のHIVを実質的に含まない精子懸濁液の製造方法。
(3)円筒形のシリンダーに膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜が充填されており、
該シリンダー内の空間は該中空糸膜によって精子懸濁液と生理的溶液の出入口に連通する中空糸膜外側空間及び濾過液の出口に連通する中空糸膜内側空間の2つの空間に分割され、
前記濾過液の出口は注射筒が接続可能な構造であり、
前記精子懸濁液と生理的溶液の出入口は注射針又は活栓が接続可能な構造である、
精子懸濁液の濾過カラム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜を充填したカラムにHIVを含む精子懸濁液を導入して、該精子懸濁液の生理的溶液による希釈と前記中空糸膜による濾過を行うことによって、簡便かつ高い精子回収率で、HIVを実質的に含まない精子懸濁液を製造することができる。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る方法を具体的に説明する。
従来のHIV含有精液からのHIV除去方法が、開放系の操作であり、操作中の感染リスクを無視できず、かつ精子回収率が操作者の技術に大きく依存する方法であるのに対し、本発明によれば、閉鎖系のカラムにより感染リスクが少なく、特別な技術を必要としない、誰にでも安定かつ簡便な精子の回収が可能である。本発明でいう精子懸濁液は、精液を後述の生理的溶液で希釈することによって得られる。生理的溶液の温度は4〜37℃の範囲であることが一般的だが、特に制限はない。希釈倍率に特に限定はないが、通常は2倍から20倍程度の希釈が用いられる。希釈を行った後、精子懸濁液を得るための方法に特に制限はないが、一例を挙げれば、蓋付きの遠心管チューブの中などで穏やかな転倒混和を2〜3回行うことで均一な精子懸濁液を得ることができる。精子懸濁液を調製後、速やかにウィルス分離することが望ましいが、4時間程度であれば、問題ない。
【0008】
本発明で使用される生理的溶液とは、体液とほぼ等張な塩化ナトリウム濃度(0.9%)を含む溶液をいい、生理的食塩水、ハンクス緩衝塩類溶液、HTS培地、HTF培地その他の培地等をいう。
【0009】
本発明でいう膜孔径は、米国試験・材料協会規格(ASTM−F316)に記載されたパームポロメータを用いて算出されるバブルポイント法による中空糸膜の平均孔径を意味する。HIVの大きさが0.1μm、ヒト精子の大きさが頭部と尾部をあわせた長さが60μm、頭部の短径が2.5μmであることから、HIVは通過させるが、ヒト精子は通過させない中空糸膜の膜孔径の範囲は0.1μm〜2.0μmであることが必要である。孔径が0.1μmより小さくなるとHIVが精子懸濁液から中空糸膜を通過しないリスクが高くなるため好ましくない。また、孔径が2.0μmより大きくなると、懸濁液中の精子が中空糸膜を通過するため精子回収率が低下するため好ましくない。0.1μm〜1.0μmであることがより好ましく、0.3μm〜0.5μmであることが最も好ましい。
【0010】
本発明に用いられる中空糸膜の材質は特に限定されないが、血液処理用途に用いられる公知の材質であれば、例えばポリエチレンやポリプロピレンを基材とし、親水性を得るためにエチレン‐ビニルアルコール共重合体などの親水性高分子を有したポリオレフィン系膜、ポリスルホンを基材とし、親水性を得るためにポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子を有したポリスルホン系膜、あるいはポリメチルメタクリレート膜、ポリアクリロニトリル膜を用いることができる。なかでも、エチレン‐ビニルアルコール共重合体を被覆させた親水性ポリエチレン膜は、本発明で用いるための好ましい具体例として挙げられる。
【0011】
本発明で用いる中空糸膜の形状、寸法等は特に限定されるものではなく、内径は100μm〜300μm、好ましくは150μm〜250μm、膜厚は10μm〜150μm、好ましくは20μm〜100μm、長さは1cm〜20cm、好ましくは2cm〜10cmのものが好適に用いられる。
【0012】
上記した中空糸膜を精子懸濁液濾過カラムとして使用する場合には、本発明の中空糸膜を充填したカラムは、中空糸束をU字型に折り曲げ、両端をポッティングして市販カラム(例えば2.5mLラボラトリーカラムMo Bi Tec社製)に固定して作製しても良いし、市販の注射筒を利用して作製することも可能である。中空糸束をU字型に折り曲げ、両端をポッティングする代わりに一方の末端を接着剤やヒートシーラー等を用いて封止し、もう一方の末端をポッティングしてカラムを作製することも可能である。カラムの形状は特に限定されないが、作製のしやすさから円筒状のカラムが好適である。カラムの容量は特に限定されないが1mL〜100mL、好ましくは1mL〜10mLのものが好適に用いられる。本発明の中空糸膜を充填したカラムは、必要に応じて滅菌処理を行う。滅菌方法は公知の方法から選択すればよく、例えば乾燥状態でエチレンオキサイド、高圧蒸気、放射線滅菌、あるいはカラム内に水を充填して高圧蒸気、放射線照射等の処理を行えばよい。
【0013】
本発明のカラムに接続する注射針は、特に限定はないが、吸引の際に精子に物理的なダメージを与えないことが重要であり、18ゲージ以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のカラムに接続する活栓は、医療分野で薬液の輸注や採血で使用されるディスポーザブルのルアーロック式二方活栓や三方活栓などが好適に用いられる。
【0015】
本発明でいうHIVを実質的に含まないとは、精子懸濁液中のHIV−RNA量がEU基準である50コピー/mL以下であることを言い、より好ましくは、定量的RT−PCR法において、検出限界以下であることを言う。HIV−RNAのコピー数は、市販の定量標準RNAを用いた定量RT−PCRキットを用いることによって算出することができる。本発明の方法によれば、20倍の希釈濾過洗浄操作を4回以上、より好ましくは5回以上繰り返すことにより、HIVを実質的に含まない精子懸濁液を得ることができる。
非特許文献1には、HIV陽性男性12人の精液中のHIV−RNA量が記載されており、最も濃度の低い例で50コピー/mL精液以下、最も濃度の高い例で30000コピー/mLであったことが記載されている。ヒトの平均精液量はおよそ3mLであることから、除去すべきHIV−RNA量の目安は、100000コピー/精液と考えられる。
本発明による中空糸膜は、HIVを通過させる孔径を有するため、1回の操作で20倍希釈する希釈濾過操作によりHIV−RNA量は約1/20になる。本発明の方法により4回の希釈濾過を繰り返すと、HIV−RNA量は約1/160000になるから、HIVを実質的に含まない精子懸濁液を得ることができる。さらに希釈濾過を繰り返すことにより、回収精子懸濁液中のHIV混入のリスクを低減することが可能である。
【0016】
精子の回収率は血球計算板を用いた顕微鏡観察や自動血球計数機など通常の細胞計数の方法を用いて、濾過前の全精子数に対する濾過後の回収精子数の比率を算出することによって求められる。HIV除去能は濾過前の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA量をa、濾過後の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA量をbとするとき、{(a − b)/a } ×100で示され、HIV量は定量RT−PCR法によって容易に求められる。
【0017】
以下、本発明の使用方法を図を参照しながら説明する。
用手法によりHIV陽性者精液を50mL蓋付の遠心管に採取し、10mLのHTS培地を加えて精液を希釈し、転倒混和によって均一な精子懸濁液を準備する。
図1のカラムの入口側栓7を外し、ハウジング4からポート3を開放して、充填されている注射用水を廃液する。ポート3をハウジング4に再び装着し、出入口6に注射針9を取り付ける。注射針の代わりに活栓を接続してもよいし、注射針と活栓の両者を接続しても良い。出口側栓1を外して注射筒8を取り付ける。注射針9よりHTS培地を吸い上げて、中空糸膜内部に残っている注射用水をHTS培地に置換する。
注射筒8で注射針9より精子懸濁液を吸引し、HIVを含む精子懸濁液を濾過する。
新しい遠心管に新鮮なHTS培地を加え、注射針9より注射筒8にて吸引し、HIVを含むHTS培地を濾過する。注射針の代わりに活栓、または注射針と活栓の両者を接続する場合は、活栓を開状態にして吸引する。遠心管に新鮮なHTS培地を加えてから、注射針9より注射筒8にて吸引し、HIVを含むHTS培地を濾過するまでの操作を更に3〜4回繰り返すことにより、ウィルス粒子を実質的に含まない精子懸濁液を得ることができる。カラム内の精子の回収は以下の要領で行うことができる。
まず注射筒8を濾過液の出口2から取り外し、あらかじめ新鮮なHTS培地の入った清浄な注射筒を接続する。注射筒のプランジャーを押し、HTS培地を中空糸膜内に導入することにより、カラム内の精子を回収する。
[実施例]
【0018】
本発明を次に実施例及び比較例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
(1)最初に、図1に示す構成で精子懸濁液の濾過カラムの作製方法について説明する。内径330μm、膜厚50μm、平均孔径0.3μm、全長12cmのポリエチレン製中空糸膜に親水化剤としてポリエチレン−ビニルアルコール共重合体を被覆した中空糸膜を用い、該中空糸膜を20本束ねて、束を中央でU字型に曲げ両端を1つに束ね、予め40℃で一昼夜脱泡したポリウレタン系接着剤を用いて内径5mm、外径7mm、全長1.5cmのポリエチレン製チューブに中空糸膜端部を挿入し固定した。ポリウレタンを硬化させるため該中空糸膜を挿入したチューブを一昼夜40℃で加熱した後、ポリエチレン製チューブの端部を1cm程度切断し、中空糸膜端部を開口させた。該チューブ側面をシアノアクリレート樹脂系瞬間接着剤(東亜合成株式会社製)を用いて2.5mLラボラトリーカラム(Mo Bi Tec社製)ポート3の内側に固定し、該中空糸膜部分を70wt%エタノールに浸漬、注射用水に置換した後、2.5mLラボラトリーカラムのハウジング4に中空糸膜部分を傷つけないよう挿入し、該ポート3を回してロックした。入口6に16ゲージニードル(STEMCELL TECHNOLOGIES INC社製)、出口2に一般汎用注射筒(10mL)(株式会社テルモ製)を取り付けてカラム内に注射用水を充填し、該カラムの入口6側を上に向け、入口6側の16ゲージニードルを取り外し入口側栓7で密栓し、該カラムの入口6側を下に向け、汎用注射筒(10mL)を取り外し出口側栓1で密栓した。該カラムをγ線滅菌(25kGy)し、精子懸濁液の濾過カラム図1を作製した。カラムあたりの有効膜面積は17cmであった。
(2)次に、図1の該カラム内に充填された注射用液を廃液し、中空糸膜内を注射用液からHTS培地に置換する操作方法について説明する。なお、この操作は安全キャビネット内で行う。図1の該カラムの入口側栓7を外しハウジング4からポート3を開放して、充填されていた注射用水を廃液した。ポート3をハウジング4に装着し、入口に図2の16ゲージニードル9を取り付け、出口側栓1を外して汎用注射筒(10mL)8を取り付けた。16ゲージニードル9よりHTS培地(Irvine Scientific社製)を吸い上げて、中空糸膜内部を注射用水からHTS培地に置換した。
(3)次に、該カラムのHIV除去率を評価するための精子懸濁液の作製について説明する。健常者精液(精子濃度2000万/mL以上)3mLにHTS培地7mLを添加し精子懸濁液を調製し、更にHIV(5×10コピー)を添加してHIV含有精子懸濁液を作製した。
(4)次に、該カラムを使用して精子懸濁液中のHIV濾過方法について説明する。なお、この操作は安全キャビネット内で行った。精子懸濁液10mLをファルコンチューブ(50mL)に加えた。該カラム先端の16ゲージニードル9を該ファルコンチューブ(50mL)内に挿入し、汎用注射筒(10mL)で精子懸濁液を吸引してHIV含有精子懸濁液を濾過した。新たに該カラムのファルコンチューブ(50mL)にHTS培地10mLを加え、汎用注射筒(10mL)でHTS培地を吸引してHIVを含むHTS培地を濾過した。該ファルコンチューブ(50mL)にHTS培地10mLを加えてから、汎用注射筒(10mL)でHTS培地を吸引してHIVを含むHTS培地を濾過するまでの操作をさらに4回繰り返した。該カラム出口にHTS培地5mLを内蔵した新しい汎用注射筒(10mL)を接続し、汎用注射筒(10mL)から該カラム内にHTS培地5mLを排出して、精子を回収した。
(5)次に、該カラムにおける精子懸濁液中のHIV除去率の求め方を説明する。
HIV量の測定には、アンプリコアHIV−1モニターキット(日本ロッシュ社製)を使用し、以下のように行った。精子懸濁液500μLを2〜8℃、23,600 x gで1時間遠心し、上清除去した沈渣を核酸抽出に用いた。キット添付の方法に従って、逆転写反応によるRNAからのcDNAの合成とPCR反応によるcDNAの増幅後、増幅DNAの希釈系列の作成とDNAプローブによるハイブリダイゼーション反応を行い、酵素作用による発色反応を行ってDNA量を定量した。
HIV除去率(%)は以下の式により算出した。
HIV除去率(%)={(a−b)/a } ×100
a:濾過前の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA量
b:濾過後の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA量
(6)次に、該カラムにおける精子懸濁液中からの精子回収率の求め方を説明する。
精子濃度測定には、マクラー氏精子算定盤を使用し、以下の式により精子回収率(%)を算出した。
精子回収率(%)={(b×d)/(a×c)} ×100
a:濾過前の精子懸濁液の精子濃度[cells/mL]
b:濾過後の精子懸濁液の精子濃度[cells/mL]
c:濾過前の精子懸濁液量[mL]
d:回収した精子懸濁液量[mL]
(7)健常者3名から提供された精液を用いて、(3)〜(4)に示した操作方法によりHIVの濾過を行った。その結果を表1に示す。濾過後の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNAはいずれも検出限界(50コピー/mL)以下でありHIV除去率は99.99%以上、精子回収率は81%であった。
【0020】
【表1】

【比較例1】
【0021】
図1に示す精子懸濁液中のHIVを濾過するカラムにおいて、内径175μm、膜厚40μm、平均孔径0.03μm、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体製中空糸膜を用いたこと以外は実施例1と同様に作製した。健常者精液3mLにHIV(5×10コピー)を含む培地7mLを加えた精子懸濁液を使用して、濾過後の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA量及び精子回収率を測定したところ、HIV除去率は0%、精子回収率は80%であった。
【比較例2】
【0022】
図1に示す精子懸濁液中のHIVを濾過するカラムにおいて、内径3mm、膜厚1mm、平均孔径2.5μm、ポリスルホン製中空糸膜に親水化剤としてポリエチレンビニルアルコールを被覆した中空糸膜を用い、該中空糸膜1本の一方の端部をヒートシーラーを使用して封止し、他方の端部を5.0mLラボラトリーカラム(MoBi Tec社製)ポートの内側にポリウレタン系接着剤を用いて直接固定したこと以外は、実施例1と同様に作製した。健常者精液3mLにHIV(5×10コピー)を含む培地7mLを加えた精子懸濁液を使用して、濾過後の精子懸濁液中に含まれるHIV−RNA及び精子回収率を測定したところ、HIV除去率は99.99%、精子回収率は62%であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係るHIVを実質的に含まない精子懸濁液の製造方法及び精子懸濁液の濾過カラムは、HIVを含む精液から簡便かつ確実にHIVを除去し、しかも精子の回収率が高いので、HIV陽性男性が精液提供者である人工授精や体外受精に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の精子懸濁液の濾過カラムの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の精子懸濁液の濾過カラムに注射筒と注射針を接続した例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1 出口側栓
2 濾過液の出口
3 ポート
4 ハウジング
5 中空糸膜
6 精子懸濁液と生理的溶液の出入口
7 入口側栓
8 注射筒
9 注射針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜を充填したカラムにHIVを含む精子懸濁液を導入して、生理的溶液による希釈と前記中空糸膜による濾過を行うことによって、前記精子懸濁液中のHIVを濾液に排出して精子懸濁液中のHIVを除去することを特徴とする、HIVを実質的に含まない精子懸濁液の製造方法。
【請求項2】
前記HIVを実質的に含まない精子懸濁液のHIV−RNAコピー数が、1mL当たり50コピー以下であることを特徴とする請求項1記載のHIVを実質的に含まない精子懸濁液の製造方法。
【請求項3】
円筒形のシリンダーに膜孔径0.1μm〜2.0μmの中空糸膜が充填されており、
該シリンダー内の空間は該中空糸膜によって精子懸濁液と生理的溶液の出入口に連通する中空糸膜外側空間及び濾過液の出口に連通する中空糸膜内側空間の2つの空間に分割され、
前記濾過液の出口は注射筒が接続可能な構造であり、
前記精子懸濁液と生理的溶液の出入口は注射針又は活栓が接続可能な構造である、
精子懸濁液の濾過カラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−148176(P2009−148176A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326932(P2007−326932)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】