説明

精密ろ過方法

【課題】粗製乳酸などの発酵生成物を外圧ろ過方式で精密ろ過するための新規有用な手法を提供する。
【解決手段】有機酸発酵により得られた粗製有機酸を精製して有機酸を製造する際に該精製の前処理として行われる精密ろ過方法において、粗製有機酸を含む処理原液を中空ろ過膜の外側から内側にろ過する外圧方式を採用し、且つ、中空ろ過膜の膜面の有効ろ過部付近に付着した汚染物を除去することによりろ過能力を維持させる。付着汚染物の除去は、処理原液をジェット噴流にしてジェット噴出装置22からろ過膜12、特にその上方部に吹き付けることによって行うのが効果的である。また、処理原液を槽11中で撹拌することも付着汚染物除去に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精密ろ過方法に関し、特に、米や澱粉質を含む農産物などを原料として発酵により乳酸や他の有機酸を精製する工程の後に、その精製や分離・濃縮を行うための前処理としてろ過膜を用いて精密ろ過を行う際の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から米などの澱粉質と糖質とを含む農産物を原料として発酵により乳酸の製造を行っている。発酵によって得られた粗製乳酸は、精製により乳酸とされ、食品添加物や薬品の原料などに用いられると共に、現在普及しつつある生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料にもなる。
【0003】
このような乳酸発酵工程を主体にした製造方法は、大別すると、乳酸カルシウムから乳酸に精製する方法と、乳酸発酵によって得られたアンモニア型の粗製乳酸から乳酸に精製する方法とがある。
【0004】
前者は、一般的に糖類原料を用いて乳酸発酵を経て得られた粗製乳酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させて乳酸カルシウムとして回収し、その後、酸たとえば硫酸と反応させて乳酸に精製する方法であり、古くから乳酸製造に用いられてきた方法であるが、乳酸に生成する際に硫酸で反応分離するために大量の硫酸カルシウムの廃棄物が発生するなどの欠点があった。
【0005】
後者は、これに対する代替法として、乳酸発酵によって得られたアンモニア型の粗製乳酸を電気透析法または陽イオン交換法によって乳酸に化学変化させて精製する方法である。その一例として、特許文献1は、アンモニア型粗製乳酸(以下単に「粗製乳酸」と呼ぶ)をろ過により清澄化した後に、イオン交換膜を用いた電気透析法によりを乳酸に精製する方法を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開平7−155191号公報
【0007】
なお、精製の前処理として行われるろ過処理は、粗製乳酸から濁質を取り除きイオン交換膜やイオン交換樹脂への不純物付着を回避してその精製を円滑に実施するために汎用されており、たとえば特許文献2に開示されるような精密ろ過膜を使用して行われる。
【0008】
【特許文献2】特開平7−222917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
粗製乳酸などの発酵生成物を精製前に精密ろ過処理する場合、これまでは、酒やワインでの清澄化処理において実用化されてきた内圧方式が採用されてきた。内圧方式は、中空糸膜の内側に処理原液を通して外側にろ過する方式である。
【0010】
しかし、粗製乳酸のように粘性が高く、蛋白質と糖類を含む凝集性粒子が多く含まれる処理原液を内圧方式でろ過しても、短時間で中空糸膜に目詰まりが発生してろ過流速を極端に低下させ、目詰まり回復処理(薬品での洗浄処理)を頻繁に行わなければならなかった。
【0011】
そこで、本発明者らは、粗製乳酸などの発酵生成物を処理対象とするろ過において、従来の内圧方式に代えて外圧方式を採用することを検討した。外圧方式は、処理原液を中空糸膜の外側から内側にろ過する方式である。
【0012】
外圧ろ過方式については、たとえば排水処理の最終ろ過において、外圧型の中空糸膜モジュールを用いてエアーバブリングする処理が有効であるとの報告がなされている(平成14年第41回下水道研究発表会講演会「円筒型中空糸膜モジュールを用いた膜分離、活性汚泥法による維持管理コスト縮減」より)。
【0013】
しかしながら、粗製乳酸には凝集性や粘着性の高い物質が多く含まれていることから、そのろ過について単に外圧方式を採用したのでは、所望の結果が得られないことが懸念される。外圧ろ過では、ストローのように内側からろ過液を吸引するので、処理原液の全量がろ過処理の対象となる。このため、粗製乳酸を処理対象とする場合、膜面の目詰まりやろ過流速の低下が内圧方式による場合よりもさらに悪化することが懸念される。
【0014】
また、外圧ろ過方式による場合は、ろ過膜を通過しない物質はろ過膜の外側に付着することとなるため、その除去は比較的容易であると考えられるが、上記排水処理の最終ろ過方法におけるエアーバブリングを粗製乳酸のような対象物について行うと、エアーによって粘性物質の膜面への付着を促進させてしまい、かえってろ過機能を低下させることが懸念される。
【0015】
本発明の課題は、粗製乳酸に相応しい新規且つ有用なろ過技術を提供することにより、後段処理である精製工程の歩留まりを向上させることにある。特に、粗製乳酸の精密ろ過において外圧ろ過方式を採用するに当たり、上記のような懸念事項を払拭するための手法を講ずることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、後述するような多くの試験を行い、その結果と知見を基にしてさらに研究と考察を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、請求項1に係る本発明は、有機酸発酵により得られた粗製有機酸を精製して有機酸を製造する際に該精製の前処理として行われる精密ろ過方法であって、粗製有機酸を含む処理原液を中空ろ過膜の外側から内側にろ過する外圧方式を採用すると共に、中空ろ過膜の膜面の有効ろ過部付近に付着した汚染物を除去することによりろ過能力を維持させることを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の精密ろ過方法において、処理原液槽中の外圧型ろ過膜の上方部に対して処理原液のジェット噴流を吹き付けることにより付着汚染物を除去することを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る本発明は、請求項2記載の精密ろ過方法において、処理原液槽に貯留されている処理原液をポンプで槽外に導出した後にジェット噴射装置からジェット噴流として外圧型ろ過膜の上方部に吹き付ける還流処理を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る本発明は、請求項1記載の精密ろ過方法において、処理原液槽中の処理原液を撹拌することにより付着汚染物を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機酸発酵により得られた粗製有機酸を精製して有機酸を製造する際に該精製の前処理として行われる精密ろ過方法において、粗製有機酸を含む処理原液を中空ろ過膜の外側から内側にろ過する外圧方式を採用しつつ、処理原液のジェット噴射や撹拌などの手法により中空ろ過膜の膜面の有効ろ過部付近に付着した汚染物を除去しているので、ろ過膜を通る流量の低下を防止し、長期にわたってろ過能力を維持させることができる。したがって、ろ過膜の目詰まりの回復処理を頻繁に行う必要がなくなり、処理効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内において多種多様な変形を取り得るものである。
【0023】
(試験例1)
まず、粗製乳酸などの発酵生成物の精密ろ過として従来汎用されてきた内圧ろ過処理を検証するため、図1に示す構成の従来方式の内圧型ろ過装置を用いて処理原液をろ過処理した。処理原液は、乳酸発酵液槽1から乳酸発酵液をポンプ2で吸い上げ、約100μm孔径のフィルタープレス装置3で処理した液であり、この処理原液を粗ろ過液槽4に貯留した。ろ過膜5には、旭化成ケミカルズ社製の内圧型、膜面積3.7m、0.1μm孔径のPVDF製中空糸精密ろ過膜USP343を用い、粗ろ過液槽4から200リットルの処理原液をポンプ6で吸い上げてろ過処理した。処理原液をろ過膜5の内側から外側にろ過して、ろ過液7を得た。ろ過膜5をろ過しない処理原液は粗ろ過液槽4に戻した。符号8はポンプ6の吸引圧力を計測する圧力計、符号9はろ過液7の流量を計測する流量計である。
【0024】
この試験では、定圧ろ過としてポンプ供給圧力とろ過液出口圧力の差を濃縮水の流量を調整しつつ0.1MPaに固定して、200リットルの処理原液をろ過し、時間経過ごとにそのろ過流量を流量計28で測定した。
【0025】
ろ過処理は、3時間30分で190リットルを処理した時点で完了した。流量低下率は、処理開始後10分後の流量を100%とみなし、その後の処理時間経過による流量低下を%で示すこととした。その結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示す結果から、従来の内圧型ろ過処理では時間経過に伴う流量低下が著しく、短時間で中空糸膜に目詰まりが発生してろ過流速を極端に低下させるため、目詰まり回復処理(薬品での洗浄処理)を頻繁に行わなければならないことが実証された。
【0028】
(試験例2)
この試験では、粗製乳酸を外圧ろ過処理したときの膜面における汚染物質の付着状態を確認した。汚染物質は発酵残渣の微細なものであり、微生物が分泌した粘性物質、蛋白質、糖類などが多く含まれており、これが膜面に粘着するとろ過能力を大幅に低下させる。
【0029】
そこで、これらの汚染物質がろ過膜のどの部分に多く付着してろ過能力を低下させているのかを検証するため、外圧方式でのろ過処理を行った後に、ろ過膜を構成する中空糸を1本ずつ取り出して7cmの長さに正確に切り、一端を塞いで他端から発酵液をシリンジで3mlずつ引いて、その膜を半分の長さに切って正確に秤量したところ、表2の結果を得た。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、膜の下方部では無処理の場合の膜重量に比べてほとんど変化が見られないのに対し、吸引部付近である上方部の重量が増大しており、汚染物質が膜の上方部に集中して付着していることが分かった。
【0032】
すなわち、外圧方式によって粗製乳酸をろ過処理する場合には、汚染物質が膜の上方部に集中して付着する傾向を示すが、膜の下方部への汚染物質の付着はごく微量である。このことは、外圧方式によるろ過処理において、膜の上方部に付着する汚染物質を効率的に除去することができれば、ろ過能力の低下を最小限に抑制した新規有用なろ過方法となり得ることを意味している。
【0033】
(試験例3)
この試験では、粗製乳酸を処理対象液として外圧ろ過処理を行う場合において、ろ過膜の上方部に集中して付着する汚染物質を効果的に除去できる手法を検証した。付着汚染物質を有効に除去することができれば、ろ過流量の低下を抑制し、ろ過処理を長期間継続させることができる。
【0034】
この試験は図2に示す装置を用いて行った。粗ろ過液10は、乳酸発酵液を約100μm孔径のフィルタープレス装置で粗ろ過処理して得た液であり、図1に示す装置において内圧ろ過処理を行った処理対象原液と同じものである。
【0035】
この原液10を粗ろ過液槽11に投入し貯留した。旭化成ケミカルズ社製のPVDF製内圧型中空糸精密ろ過膜USP343(膜面積3.7m、0.1μm孔径)と同等の膜素材を用いた膜面積1.2mのものをシェル(膜保護のための外殻管)を設けずに試作して外圧型ろ過膜12とし、これを粗ろ過液槽11の内部に設置した。粗ろ過液槽11に貯留した粗ろ過液10を、ろ過膜12の外側から内側にろ過し、ポンプ13で吸い上げてろ過液14を得た。符号15はポンプ13の吸引圧力を示す圧力計、符号16はろ過液の流速を示す流量計である。
【0036】
さらに、この装置には、エアー17または窒素ガス18をろ過膜12の上方部(有効ろ過部)付近に向けて噴射するガス噴射装置19と、ろ過膜12の下方において粗ろ過液槽11中の粗ろ過液10を撹拌するための撹拌翼20と、粗ろ過液槽11中の粗ろ過液10をポンプ21で吸い上げた後に再度粗ろ過液槽11内のろ過膜12の上方部に向けて噴射するジェット噴射装置22とが付設されている。符号23はジェット噴射装置22から噴射される粗ろ過液10の流量を示す流量計である。
【0037】
そして、1)ろ過膜12の上方部に向けてガス噴射装置19から加圧エアー17を吹き付ける、2)ろ過膜12の上方部に向けてガス噴射装置19から加圧窒素ガス18を吹き付ける、3)粗ろ過液槽11中で撹拌翼20を作動して粗ろ過液を撹拌する、4)ジェット噴射装置22により粗ろ過液のジェット噴流を生成してろ過膜12の上方部に向けて吹き付ける、5)何もしない、という5通りの条件で、いずれも吸引ろ過圧力(圧力計4で測定)を0.1MPaに固定して、100リットルの処理原液を最大6時間まで外圧ろ過処理した。
【0038】
1)における加圧エアーおよび2)における加圧窒素ガスは、ガス噴射装置19から0.15MPaにて0.1Nm/hでろ過膜12の上方部に吹き付けた。
【0039】
3)における撹拌翼20は0.1kw、150rpmにてろ過膜12の下方10cmのところで粗ろ過液を撹拌しながら上昇移動させるようにモータ24で回転した。
【0040】
4)におけるジェット噴射装置22は0.1MPaにて0.1Nm/hでジェット噴流をろ過膜12の上方部に吹き付けた。
【0041】
これらの処理結果は表3に示す通りであった。表3中の流量低下率は、処理開始後10分後の流量を100%として、その後の処理時間経過による流量低下を%で示したものである。また、各処理の最下欄にはろ過処理不能になったときのろ過総量を示したが、4)の場合は360分を経過してもなおろ過処理を継続可能であったので、360分経過時のろ過総量を示した。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示されるように、無処理の場合5)には流量低下が著しく、120分で19リットルをろ過した時点でろ過膜3が目詰まりを起こしてろ過処理不能となったのに対し、2)〜4)の場合にはより長時間ろ過処理を継続させ且つより多くのろ過を行うことができ、目詰まり防止に対して一応の効果が認められた。
【0044】
加圧エアーをろ過膜12の上方部に吹きつける処理を行った場合1)は、180分で16リットルをろ過した時点でろ過膜12が目詰まりを起こしてろ過処理継続不能となり、目詰まり防止効果が見られなかった。エアー吹き付けを外圧ろ過に併用することは下水処理の最終ろ過方法としては有効であるが、ろ過対象を粗製乳酸とした場合は、微生物が分泌した粘性物質、蛋白質、糖類などの微細な発酵残渣が多く含まれており、エアーを膜面に当てると、これらの微細物質の膜面への付着がエアーと共に促進的に働いてしまい、ろ過機能をかえって低減させてしまうものと推測された。
【0045】
加圧窒素ガスを膜面に吹き付ける処理を行った場合2)もほぼ同様であり、粗製乳酸のろ過処理においては目止まり防止効果を期待できない。
【0046】
撹拌翼で粗ろ過液を撹拌する処理を行った場合3)は、300分で32リットルをろ過した時点でろ過膜12が目詰まりを起こしてろ過処理不能となったが、無処理の場合5)に比べると格段に目詰まり防止効果が向上していることが実証された。70%の流量低下を膜回生処理の目安とすると、この処理の場合には約2時間が限界であった。
【0047】
ジェット噴流を膜面に当てる処理を行った場合4)は最も目詰まり防止効果が大きく、360時間を経過して65リットルをろ過した時点でも目詰まりを起こすことなく、さらに継続してろ過処理を行うことが可能であった。前記と同様に70%の流量低下を膜回生処理の目安とすると、この処理の場合には約6時間継続してろ過処理を行うことができたことになる。
【0048】
この試験結果から、外圧方式によるろ過処理において、特に、撹拌翼で粗ろ過液を撹拌する処理3)を行い、またはジェット噴流を膜面の上方部に当てる処理4)を行い、あるいはこれらの処理3),4)を併用することによって、ろ過膜3の上方部に集中して付着する汚染物質を有効に除去することができ、ろ過性能を長期間持続させ、目詰まり回復措置を行う頻度を大幅に減少させる効果があることが実証された。
【0049】
(試験例4)
発酵生成物のように粘性が高く、蛋白質と糖類を含む凝集性粒子を多く含有する処理対象液の場合、これらの凝集性粒子に有機酸が多く吸着しているものと考えられ、且つ、凝集性粒子が原液槽(粗ろ過液槽)に沈降していることが予想される。この場合、処理対象液中の有機酸濃度は原液槽の下方で大きく、上方で小さくなり、濃度差が生ずる。試験例2(表2)で確認したように、外圧ろ過処理においてはろ過膜の上方部が有効ろ過部となるので、原液槽の上方で有機酸濃度が小さくなることは、その後の精製対象物が実質的に減少することを意味し、処理効率を低下させる。
【0050】
また、ろ過膜に付着する汚染物質を効率的に除去する上記処理を行うことにより、粗製乳酸のような処理原液を対象として、外圧ろ過処理が有効に機能するとしても、このろ過処理によって次工程での精製対象物である有機酸(乳酸)までもが除去されてしまうようでは、精製前の粗製乳酸ろ過処理として有効に実施することができない。発酵生成物に含まれる凝集性粒子が膜面に付着すると、ろ過流量が低下するだけでなく、精製対象の有機酸がろ過しにくくなって、精製の歩留まりが低下する。
【0051】
そこで、粗製乳酸を処理対象液として外圧ろ過を行う場合において、汚染物質除去処理を行うことによる粗ろ過液槽中の乳酸濃度均一化に与える影響、および、汚染物除去処理が精製対象である有機酸(乳酸)濃度の低下に与える影響を確認するための試験を行った。
【0052】
この試験では、既述の試験に用いたと同じ処理原液について、図2に示す構成の装置を用いて、1)ろ過膜3の上方部に直接加圧エアー17をガス噴射装置19から吹き付ける、2)粗ろ過液をジェット噴射装置22からろ過膜12の上方部に吹き付ける、3)何もしない、という3通りの条件で、いずれも吸引ろ過圧力(圧力計4で測定)を0.1MPaに固定して、100リットルの処理原液を外圧ろ過処理し、処理開始後60分および120分経過時の粗ろ過液槽11上方部の粗ろ過液、ろ過液14および粗ろ過液槽11下方部の粗ろ過液について各々乳酸濃度を計測した。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示されるように、無処理の場合3)は粗液ろ過槽11の下方で測定した乳酸濃度が上方の乳酸濃度より高く、しかもろ過処理の継続に伴ってその濃度差がより大きくなり、したがってろ過液14における乳酸濃度も低い。
【0055】
これに対して、ジェット噴流を吹き付けた場合2)は、粗液ろ過槽11内の原液を撹拌する効果が得られることから、粗液ろ過槽11内の原液における乳酸濃度が上下域でほぼ均一となり、且つ、ろ過液5中の乳酸濃度もこれらとほぼ同一の値を示し、この処理によっても精製対象物である乳酸が除去されることなくほぼ全量がろ過膜12を通過してろ過液14中に移行することが確認された。
【0056】
加圧エアーを吹き付けた場合1)は、粗液ろ過槽11内の原液乳酸濃度を均一化する効果が薄く、また、既述したように原液に含まれる粘性物質などがエアー吹き付けによって膜面に付着しやすくなることから、乳酸がろ過しにくくなる傾向がある。
【0057】
(試験例5)
試験例3の結果から、粗ろ過液槽11に駐留された粗ろ過液をポンプ21で送出してジェット噴射装置22からジェット噴流としてろ過膜12の上方部に吹き付けることが、ろ過膜12の上方部に集中して付着する汚染物質を有効に除去してろ過性能を長期間持続させ、目詰まり回復措置を行う頻度を大幅に減少させる効果があることが実証され、また、試験例2の結果から、この処理を行うことにより粗ろ過液の乳酸濃度を槽11内の上下域にわたって均一化させることができ、且つ、ろ過液14においても乳酸濃度を低下させないことが実証された。
【0058】
そこで、この試験では、図3に示す装置を用いて、ろ過膜12の対向する両側2箇所からそれぞれジェット噴射装置22にて粗ろ過液のジェット噴流をろ過膜12の上方部に吹き付けた場合の流量低下を測定した。
【0059】
図3の装置は図2の装置とほぼ同様の構成であり、粗ろ過液槽2内の粗ろ過液1をポンプ12で吸い上げた後に2経路に分岐して、ジェット噴射装置13,13からジェット噴流をろ過膜3の上方部に吹き付け、このときの流量を流量計14,14で時系的に測定した。その結果を表5に示す。なお、処理対象の粗ろ過液10、ろ過膜12の構成、および処理条件は試験例3と同様である。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示されるように、ジェット噴流をろ過膜12の上方部2箇所に吹き付けた場合、240分で85リットルのろ過処理を行うことができ、且つ、そのときの流量低下率も57%と小さく、70%の流量低下を膜回生処理の目安としてもまだ十分にろ過処理を継続して行うことが可能であった。この結果を試験例3における表3の処理4)の結果と比較すると、粗ろ過液のジェット噴流を膜上方部に吹き付ける処理は1箇所でも十分に効果が認められるが、これを2箇所で行うことによってさらにろ過機能を持続させる効果が増大することが実証された。
【0062】
(試験例6)
試験例1で行った内圧ろ過処理、試験例3で行った加圧エアー吹き付け処理1),撹拌翼による撹拌処理3),1箇所へのジェット噴流吹き付け処理4)、および試験例5で行った2箇所へのジェット噴流吹き付け処理について、膜面積(1m)当たりと圧力(0.1MPa)当たりにしてろ過流量を換算した数値(=基準ろ過流量)を表6に示す。
【0063】
【表6】

【0064】
表6は、ジェット噴流を吹き付けることによるろ過流量の維持に関する効果が大きいことを示している。たとえば内圧型ろ過とジェット噴流2箇所とで、基準ろ過流量が11リットル/h・mまで低下するまでに要する時間を比較すると、後者(240分)の方が前者(120分)より2倍も長い。つまり、ジェット噴流によると目詰まりの回復処理を頻繁に行う必要がないことを示しており、ろ過処理が簡易化されることを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】試験例1で用いた内圧型ろ過装置の概略構成図である。
【図2】試験例3で用いた外圧型ろ過装置の概略構成図である。
【図3】試験例5で用いた外圧型ろ過装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1 乳酸発酵液槽
2 ポンプ
3 フィルタープレス
4 粗ろ過液槽
5 内圧型ろ過膜
6 ポンプ
7 ろ過液
8 圧力計
9 流量計
10 粗ろ過液
11 粗ろ過液槽
12 外圧型ろ過膜
13 ポンプ
14 ろ過液
15 圧力計
16 流量計
17 加圧エアー
18 窒素ガス
19 ガス噴射装置
20 撹拌翼
21 ポンプ
22 ジェット噴射装置
23 流量計
24 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸発酵により得られた粗製有機酸を精製して有機酸を製造する際に該精製の前処理として行われる精密ろ過方法であって、粗製有機酸を含む処理原液を中空ろ過膜の外側から内側にろ過する外圧方式を採用すると共に、中空ろ過膜の膜面の有効ろ過部付近に付着した汚染物を除去することによりろ過能力を維持させることを特徴とする精密ろ過方法。
【請求項2】
処理原液槽中の外圧型ろ過膜の上方部に対して処理原液のジェット噴流を吹き付けることにより付着汚染物を除去することを特徴とする、請求項1記載の精密ろ過方法。
【請求項3】
処理原液槽に貯留されている処理原液をポンプで槽外に導出した後にジェット噴射装置からジェット噴流として外圧型ろ過膜の上方部に吹き付ける還流処理を行うことを特徴とする、請求項2記載の精密ろ過方法。
【請求項4】
処理原液槽中の処理原液を撹拌することにより付着汚染物を除去することを特徴とする、請求項1記載の精密ろ過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−178776(P2008−178776A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13160(P2007−13160)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(303036326)株式会社シー・シー・ワイ (7)
【Fターム(参考)】