説明

精製炭化水素流から硫化水素を除去する方法

精製炭化水素流中に存在する硫化水素の量を低下させ、精製炭化水素流と接触する処理装置の腐食の量を低減する方法。この方法は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加して処理装置を保護し、保護された処理装置と接触する精製炭化水素流にグリオキサールを添加することを含む。腐食防止剤は窒素含有環を有する有機可溶性化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に炭化水素媒体の処理に関し、より詳細には、精製炭化水素流から硫化水素を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精製炭化水素流のような炭化水素媒体は、非常に低い濃度でも高度に腐食性で毒性である硫化水素を含有し得る。炭化水素媒体の取り扱いに関連する硫化水素に対する曝露の危険性は、貯蔵、輸送(船舶輸送、トラック又はパイプライン)及び加工処理中の健康及び安全性の観点から重要である。
【0003】
硫化水素捕捉剤を用いて炭化水素媒体から硫化水素を除去することができる。1つの硫化水素捕捉剤はグリオキサールである。グリオキサールの製造中、酸性の副生成物が形成されることが多い。これらの副生成物は炭化水素処理中の腐食速度を増大する可能性がある。グリオキサールを精製炭化水素流に加えたとき、精製炭化水素流に溶けないこれら酸性の副生成物は精製炭化水素流から別の水性相中に沈降する可能性がある。例えば、この水性相はパイプライン内の小さい流れとして処理若しくは精製装置の底に沿って流れたり、又は貯蔵タンクの底に沈滞したりし得る。この酸性の水性相は極めて腐食性であり、処理又は精製装置内に溝を生じさせる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要とされているのは、処理装置に腐食を生じさせることなく、精製炭化水素流から硫化水素を除去するための改良法である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態では、精製炭化水素流中に存在する硫化水素の量を低下させ、精製炭化水素流と接触する処理装置内の腐食の量を低減する方法は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加して処理装置を保護し、保護された処理装置に接触する精製炭化水素流にグリオキサールを添加することを含んでおり、腐食防止剤は窒素含有環を有する有機可溶性化合物を含む。
【発明の効果】
【0006】
様々な実施形態により、処理装置に対する腐食を最小にしながら硫化水素を低減する、精製炭化水素流のための改良水素捕捉方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
単数形態は、前後関係から明らかに他の意味を示さない限り、複数の対象も含む。同じ特性に関するあらゆる範囲の終点は独立して組み合わせ可能であり、その明示された終点を含む。引用する文献は全て、援用により本明細書の内容の一部をなす。
【0008】
量に関して使用する修飾語「約」は表示された値を含み、状況によって決定される意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連する許容範囲を含む)。
【0009】
「任意の」又は「場合により」とは、続いて記載されている事象又は状況が起こっても起こらなくてもよいこと、或いは、続いて特定されている物質が存在していてもいなくてもよいことを意味し、また、この記載は、その事象若しくは状況が起こり、又はその物質が存在する場合と、その事象若しくは状況が起こらず、又はその物質が存在しない場合とを包含することを意味する。
【0010】
一実施形態では、精製炭化水素流中に存在する硫化水素の量を低下させ、精製炭化水素流と接触する処理装置内の腐食の量を低減する方法は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加して処理装置を保護し、保護された処理装置と接触する精製炭化水素流にグリオキサールを添加することを含んでおり、腐食防止剤は窒素含有環を有する有機可溶性化合物を含む。
【0011】
精製炭化水素流は硫化水素を含むあらゆるタイプの精製炭化水素流である。一実施形態では、精製炭化水素流としては、特に限定されないが、軽油、ナフサ、FCCスラリー、ディーゼル燃料、燃料油、ジェット燃料、ガソリン、ケロシン又は真空残油がある。一実施形態では、精製炭化水素流は高温である。別の実施形態では、精製炭化水素流はほぼ周囲温度〜約150℃の温度である。別の実施形態では、精製炭化水素流は約40℃〜約100℃の温度である。
【0012】
精製炭化水素流と接触する処理装置は、パイプライン及び貯蔵タンクのような精製炭化水素流を処理するために使用することができるあらゆるタイプの設備・装置である。腐食を起こし易い処理装置は一般に炭素鋼から作製された処理装置であるが、あらゆるタイプの処理装置を保護し得る。
【0013】
腐食防止剤は窒素含有環を有する有機可溶性化合物を含む。一実施形態では、腐食防止剤は精製炭化水素流に混和性である。
【0014】
一実施形態では、窒素含有環は5員環又は6員環である。一実施形態では、窒素含有環はイミダゾリン誘導体である。別の実施形態では、腐食防止剤は脂肪酸イミダゾリンである。一実施形態では、脂肪酸イミダゾリンは次式の構造を有する。
【0015】
【化1】

式中、R及びR’は各々独立にC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。別の実施形態では、R及びR’は各々独立にC8〜C22アルキル、アルキレン又は芳香族基である。別の実施形態では、R及びR’は各々独立にC16〜C18アルキル、アルキレン又は芳香族基である。さらに別の実施形態では、R及びR’は各々独立に枝分れアルキル基を有するC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。一実施形態では、Rはステアリル、ナフチル、パルミル、オリル、リノリル又はリノレニルである。一実施形態では、R’はステアリル、ナフチル、パルミル、オリル、リノリル又はリノレニルである。
【0016】
一実施形態では、脂肪酸イミダゾリン化合物には、特に限定されないが、ステアリン酸イミダゾリン、ナフテン酸イミダゾリン、パルミチン酸イミダゾリン、オレイン酸イミダゾリン、リノール酸イミダゾリン又はリノレン酸イミダゾリンがある。
【0017】
一実施形態では、脂肪酸イミダゾリンは2種以上の脂肪酸イミダゾリン化合物の混合物を含む。
【0018】
一実施形態では、脂肪酸イミダゾリンは1種以上の脂肪酸とジエチレントリアミンの縮合反応によって調製され得る。一実施形態では、脂肪酸はC6〜C36の鎖長を有する。別の実施形態では、脂肪酸はC8〜C22の鎖長を有する。別の実施形態では、脂肪酸はC16〜C18の鎖長を有する。一実施形態では、脂肪酸は、トール油、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸又はナフテン酸に由来する天然の酸を含み得、又は合成脂肪酸を含む。合成脂肪酸は偶数の炭素原子又は奇数の炭素原子を有する酸を含む。一実施形態では、縮合反応は約400°Fまでの反応温度である。別の実施形態では、反応温度は約200°F〜約400°Fである。
【0019】
別の実施形態では、窒素含有環はピリミジン誘導体である。別の実施形態では、腐食防止剤は脂肪酸ピリミジンである。さらに別の実施形態では、脂肪酸ピリミジンは次式の構造を有する。
【0020】
【化2】

式中、Ra及びRbは各々独立にC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。別の実施形態では、Ra及びRbは各々独立にC8〜C22アルキル、アルキレン又は芳香族基である。別の実施形態では、Ra及びRbは各々独立にC16〜C18アルキル、アルキレン又は芳香族基である。一実施形態では、Ra及びRbは各々独立に枝分れアルキル基を有するC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。一実施形態では、Raはステアリル、ナフチル、パルミル、オリル、リノリル又はリノレニルである。一実施形態では、Rbはステアリル、ナフチル、パルミル、オリル、リノリル又はリノレニルである。
【0021】
一実施形態では、脂肪酸ピリミジン化合物には、特に限定されないが、ステアリン酸ピリミジン、ナフテン酸ピリミジン、パルミチン酸ピリミジン、オレイン酸ピリミジン、リノール酸ピリミジン又はリノレン酸ピリミジンがある。
【0022】
一実施形態では、脂肪酸ピリミジンは2種以上の脂肪酸ピリミジン化合物の混合物を含む。
【0023】
一実施形態では、脂肪酸ピリミジンは1種以上の脂肪酸と脂肪酸に由来する1,3−プロパンジアミン及びパラホルムアルデヒドとの縮合反応によって調製され得る。一実施形態では、脂肪酸はC6〜C36の鎖長を有する。別の実施形態では、脂肪酸はC8〜C22の鎖長を有する。別の実施形態では、脂肪酸はC16〜C18の鎖長を有する。一実施形態では、脂肪酸は、トール油、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸又はナフテン酸に由来する天然の酸を含むか、又は合成脂肪酸を含む。合成脂肪酸は偶数の炭素原子又は奇数の炭素原子を有する酸を含む。一実施形態では、縮合反応は約400°Fまでの反応温度である。別の実施形態では、反応温度は約200°F〜約400°Fである。
【0024】
腐食防止剤を、処理装置と接触する精製炭化水素流に添加してその処理装置を保護することができる。一実施形態では、腐食防止剤は、後に処理装置と接触する精製炭化水素流に加える。別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流が処理装置と接触しているうちにその炭化水素流に加える。
【0025】
腐食防止剤は、任意の慣用法で、精製炭化水素流に加える。一実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流中に注入し得る。一実施形態では、腐食防止剤は、慣用のインライン注入システムにより精製炭化水素流中に注入することができ、腐食防止剤が精製炭化水素流と混合され得るようにいかなる適切なインラインの点で注入してもよい。腐食防止剤は、精製炭化水素流に連続的に加えてもよいし、又は一回以上のバッチ式に加えることができ、添加を繰り返してもよい。
【0026】
別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流がパイプラインを通って流れているときにその精製炭化水素流中に注入される。一実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流がパイプラインに入るときに注入される。別の実施形態では、腐食防止剤は、貯蔵タンク内の精製炭化水素流中に注入される。別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流が貯蔵タンク内に入るときに注入する。
【0027】
腐食防止剤は精製炭化水素流中に分散し、その後処理装置と接触し処理装置に付着し、保護性のコーティング又は膜を形成する。腐食防止剤は処理装置に保護コーティング又は膜を形成するのに適切ないかなる量で添加してもよい。一実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流の体積を基準として約2体積ppm〜約200体積ppmの量で精製炭化水素流に添加し得る。別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流の体積を基準として約5体積ppm〜約100体積ppmの量で精製炭化水素流に添加し得る。別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流の体積を基準として約10体積ppm〜約100体積ppmの量で精製炭化水素流に加える。さらに別の実施形態では、腐食防止剤は、精製炭化水素流の体積を基準として約20体積ppm〜約100体積ppmの量で精製炭化水素流に加える。腐食防止剤は単一のバッチとして加えてもよいし、又は継続的に精製炭化水素流に加えてもよい。
【0028】
腐食防止剤は処理装置と接触するとその装置に均一に付着し始める。腐食防止剤を含む精製炭化水素流が処理装置と接触し続けるうちに保護コーティングが処理装置上に形成される。保護コーティングを形成するのに適切な時間の量は、精製炭化水素流中の腐食防止剤の量、精製炭化水素流の温度、精製炭化水素流が処理装置と接触する時間の量、及び精製炭化水素流が処理装置と接触しながら進み得るスピードのような多くの要因に依存する。一実施形態では、腐食防止剤は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加してから少なくとも約5分後に処理装置上に保護コーティング又は膜を提供する。別の実施形態では、腐食防止剤は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加した後約5分〜約100時間で処理装置上に保護コーティングを提供する。別の実施形態では、保護性の膜又はコーティングは、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加した約15分〜約75時間後の間処理装置上に形成される。さらに別の実施形態では、保護性の膜又はコーティングは、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加した後約30分〜約60時間で処理装置上に形成される。さらに別の実施形態では、保護性の膜又はコーティングは、処理装置と接触する重油に腐食防止剤を添加した約1時間〜約50時間後処理装置上に形成される。別の実施形態では、保護性の膜又はコーティングは、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加した後約10時間〜約40時間で処理装置上に形成される。別の実施形態では、腐食防止剤は、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加してから約12時間〜約36時間で処理装置に保護コーティングを提供する。
【0029】
保護された処理装置と接触する精製炭化水素流にグリオキサールを加えて硫化水素を低減する。グリオキサールは水溶性のアルデヒドであり、グリオキサールのオリゴマーを包含し得る。グリオキサールは40重量%の水溶液として市販されている。
【0030】
グリオキサールは、任意の慣用法で、精製炭化水素流に添加し得る。一実施形態では、グリオキサールは、慣用のインライン注入システムによって、精製炭化水素流中に注入し得、グリオキサールが精製炭化水素流と混合され得るようにあらゆる適切なインラインの点で注入し得る。グリオキサールは精製炭化水素流に連続的に加えてもよいし、又は一回以上のバッチ式で加えることができ、繰り返して添加してもよい。
【0031】
グリオキサールは、精製炭化水素流中の硫化水素のレベルを低減するのに充分な任意の量で精製炭化水素流に加える。一実施形態では、グリオキサールは、精製炭化水素流の体積を基準として約1ppm〜約3000体積ppmの量で添加し得る。別の実施形態では、グリオキサールは、精製炭化水素流の体積を基準として約10体積ppm〜約2000体積ppmの量で添加し得る。別の実施形態では、グリオキサールは、精製炭化水素流の重量を基準として約50体積ppm〜約1500体積ppmの量で添加し得る。さらに別の実施形態では、グリオキサールは、精製炭化水素流の体積を基準として約100体積ppm〜約1200体積ppmの量で添加し得る。
【0032】
精製炭化水素流中の硫化水素の量が低減され得、残留する硫化水素の実際の量は最初の量に応じて変化する。一実施形態では、硫化水素レベルは、蒸気相内で測定したとき、精製炭化水素流の体積を基準として150体積ppm以下に低下する。別の実施形態では、硫化水素レベルは蒸気相内で測定したとき、精製炭化水素流の体積を基準として100体積ppm以下に低下する。別の実施形態では、硫化水素レベルは蒸気相内で測定したとき、精製炭化水素流の体積を基準として50体積ppm以下に低下する。さらに別の実施形態では、硫化水素レベルは蒸気相内で測定したとき、精製炭化水素流の体積を基準として20体積ppm以下に低下する。
【0033】
グリオキサールの製造中、酸性の副生成物が形成され、そのグリオキサールは約2〜約3の範囲のpHを有する可能性がある。これらの副生成物は極めて腐食性である可能性がある。グリオキサールは水性系であり、最初精製炭化水素流全体に分散した後、最終的に重油から水性相中に沈降する。この水性相は非常に酸性であり、処理装置を腐食する可能性がある。腐食防止剤によって処理装置上に形成されたコーティング又は膜は処理装置を保護し、酸性の水性相による腐食を低減又は排除する。
【0034】
保護された処理装置と接触する精製炭化水素流にグリオキサールを添加しつつ、腐食防止剤を加え続けてもよい。腐食防止剤は処理装置に付着し続け、処理装置の保護を維持する。この追加の腐食防止剤は、精製炭化水素流の体積を基準として約1体積ppm〜約20体積ppmの量で添加し得る。別の実施形態では、腐食防止剤は精製炭化水素流の体積を基準として約5体積ppm〜約10体積ppmの量で添加し得る。
【0035】
一実施形態では、触媒を添加して硫化水素の除去を増強し得る。一実施形態では、触媒は第四アンモニウム塩である。触媒は任意の適切な第四アンモニウム塩である。一実施形態では、触媒は次式Iを有する。
1234+-
式中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、又は炭素原子数7〜30のアリールアルキル基であり、Xはハロゲン化物、硫酸基、硝酸基又はカルボン酸基である。アルキル基及びアリール基は置換されていても非置換でもよい。
【0036】
一実施形態では、R1は炭素原子数1〜24のアルキル基である。一実施形態では、R2は炭素原子数1〜24のアルキル、炭素原子数6〜24のアリール基、又は炭素原子数7〜24のアリールアルキル基である。
【0037】
一実施形態では、R3及びR4は各々独立に炭素原子数1〜24のアルキル基である。別の実施形態では、R3及びR4は各々独立に炭素原子数1〜4のアルキル基である。
【0038】
アルキル基としては、特に限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル又はドデシルがある。アリール基はフェニルである。アリールアルキル基にはベンジルが包含され得る。ハロゲン化物は塩化物、臭化物又はヨウ化物である。硫酸基はメチル硫酸基である。硝酸基は重硫酸硝酸基である。カルボン酸基は酢酸基である。
【0039】
一実施形態では、第四アンモニウム塩はアルキルベンジルアンモニウムクロリド又はベンジルココアルキル(C12−C18)ジメチルアンモニウムクロリドである。別の実施形態では、第四アンモニウム塩には、特に限定されないが、ジココアルキル(C12−C18)ジメチルアンモニウムクロリド、ジタロウジメチルアンモニウムクロリド、ジ(水素化タロウアルキル)ジメチル第四アンモニウムメチルクロリド、メチルビス(2−ヒドロキシエチルココアルキル(C12−C18)第四アンモニウムクロリド、ジメチル(2−エチル)タロウアンモニウムメチルスルフェート、n−ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、n−オクタデシルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムスルフェート、大豆アルキルトリメチルアンモニウムクロリド又は水素化タロウアルキル(2−エチルヘキシル)ジメチル第四アンモニウムメチルスルフェートがある。
【0040】
一実施形態では、触媒は、グリオキサールの重量を基準として約0.01〜約15重量%で存在する。別の実施形態では、触媒はグリオキサールの重量を基準として約1〜約10重量%で存在する。
【0041】
触媒は、グリオキサールと同時に精製炭化水素流に加えてもよいし、又はグリオキサールとは別々に添加し得る。一実施形態では、触媒は、精製炭化水素流に加える前にグリオキサールと予めブレンドする。
【実施例】
【0042】
当業者が本開示をより良好に実施することができるように、限定ではなく例示の目的で以下に実施例を記載する。
【0043】
実施例1
グリオキサールは約2〜約3のpHを有する水性系の化合物である。これは、精製炭化水素流中に分散されると、最終的に精製炭化水素流から酸性の水性相中に沈降し、処理装置の底に沈殿して腐食を起こす。腐食防止剤が腐食を低減する効力を試験するために、水中で腐食試験をシミュレートした。
【0044】
Carbon C1010鋼の2つの金属片を秤量し、800mlのAuto−Clave内の撹拌シャフトに取り付けた2つのスピンドルに加えた。これらの金属片は互いに180°であった。撹拌シャフトを水中に入れ、表1に示す毎分回転数で撹拌した。この毎分回転数を用いてパイプラインを通る概略の流れを計算し、表1に示す。腐食防止剤を、室温において、表1に示す量で水に加えた。15分後、グリオキサールを表1に示す量で水中に注入した。Auto−Claveを密閉し、水を約180°Fに加熱して、処理中の典型的な精製炭化水素流の温度をシミュレートした。4時間後、金属片の重量損失を測定し、金属片に関して平均することによって金属片の腐食を試験した。
【0045】
【表1】

有機可溶性の腐食防止剤はブランク(試料CE−1)と比べて際立った腐食の減少を示す。水溶性の腐食防止剤を試験した(試料CE−2)が、腐食が現に増大した。
【0046】
実施例2
有機可溶性の腐食防止剤に対して追加の腐食試験を実施し、実施例1に従って水中で行った。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

試料1−5の有機可溶性腐食防止剤はブランク(試料CE−3)と比較して、また有機可溶性のダイマー/トリマー酸(試料CE−4)と比較して改良腐食抵抗性を示す。
【0048】
実施例3
腐食実験及び硫化水素捕捉を、800mlのAuto−Clave内でオイルガスと水の混合物に対して試験した。軽油には最初にケロシン中H2Sのおよそ0.5wt.%の溶液を入れた後、水と混合した。Carbon C1010鋼の2つの金属試験片を秤量し、撹拌シャフトに取り付けた2つのスピンドルに加えた。これらの金属試験片は互いに180°であった。撹拌シャフトを軽油と水の混合物中に入れ、300rpmで撹拌した。オイルガスと水の混合物は、軽油が200ml、水が400mlであった。この2:1の体積比の水と軽油により、試験片が300rpmで常に水に浸されて、水性相内の腐食を確実に試験した。腐食防止剤を、室温において表3に示す量で軽油混合物に加えた。15分後、グリオキサールを表3に示す量で軽油混合物中に注入した。Auto−Claveを密閉し、軽油と水の混合物を約180°Fに加熱して典型的な処理温度をシミュレートした。4時間後、金属試験片の重量損失を測定し、金属試験片で平均し、一年当たりのミル(MPY)を計算することによって、金属試験片の腐食を試験した。
【0049】
処理(140°F)の2時間後Drager管で蒸気相H2Sを測定する改変型のASTM 5705−95試験を用いて硫化水素試験を行った。最終H2S濃度の測定値を表3に示す。
【0050】
【表3】

いずれの試料(CE−5及び1)も硫化水素の除去を示したが、試料1はまたブランク(試料CE−5)と比較して際立った腐食の減少を示す。
【0051】
例示の目的から典型的な実施形態について説明して来たが、以上の記載は本発明の範囲に限定を課すものと考えてはならない。従って、当業者には、本発明の思想と範囲から逸脱することなく、様々な修正、変更及び選択が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製炭化水素流中に存在する硫化水素の量を低下させ、精製炭化水素流と接触する処理装置の腐食の量を低減する方法であって、処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加して処理装置を保護し、保護された処理装置と接触する精製炭化水素流にグリオキサールを添加することを含み、腐食防止剤が窒素含有環を有する有機可溶性化合物を含む、方法。
【請求項2】
精製炭化水素流が、軽油、ナフサ、FCCスラリー、ディーゼル燃料、燃料油、ジェット燃料、ガソリン、ケロシン及び真空残油からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
精製炭化水素流が高温である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
精製炭化水素流がほぼ周囲温度〜約150℃の温度である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
処理装置がパイプライン又は貯蔵タンクである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
処理装置が炭素鋼製である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
腐食防止剤が5員又は6員窒素含有環を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
腐食防止剤がイミダゾリン誘導体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
腐食防止剤が脂肪酸イミダゾリンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
脂肪酸イミダゾリンが次式の構造を有する、請求項8記載の方法。
【化1】

式中、R及びR’は各々独立にC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。
【請求項11】
窒素含有環がピリミジン誘導体である、請求項7記載の方法。
【請求項12】
ピリミジン誘導体が脂肪酸ピリミジンである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
脂肪酸ピリミジンが次式の構造を有する、請求項12記載の方法。
【化2】

式中、Ra及びRbは各々独立にC6〜C36アルキル、アルキレン又は芳香族基である。
【請求項14】
腐食防止剤を精製炭化水素流中に注入する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
腐食防止剤が精製炭化水素流の体積を基準として約2体積ppm〜約100体積ppmで存在する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
処理装置と接触する精製炭化水素流に腐食防止剤を添加した少なくとも約5分後に腐食防止剤が処理装置上に保護コーティングを提供する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
グリオキサールを、精製炭化水素流の体積を基準として約1ppm〜約3000体積ppmの量で精製炭化水素流に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
グリオキサールを添加した後、精製炭化水素流に腐食防止剤を添加し続ける、請求項1記載の方法。
【請求項19】
腐食防止剤を、精製炭化水素流の体積を基準として約1体積ppm〜約20体積ppmの量で添加し続ける、請求項18記載の方法。
【請求項20】
グリオキサールがさらに触媒を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
触媒が第四アンモニウム塩である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
触媒が次式Iを有する、請求項21記載の方法。
1234+-
式中、R1、R2、R3及びR4は各々独立に炭素原子数1〜30のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基又は炭素原子数7〜30のアリールアルキル基であり、Xはハロゲン化物、硫酸基、硝酸基又はカルボン酸基である。
【請求項23】
第四アンモニウム塩がアルキルベンジルアンモニウムクロリド又はベンジルココアルキル(C12−C18)ジメチルアンモニウムクロリドである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
触媒がグリオキサールの重量を基準として約0.01〜約15重量%で存在する、請求項21記載の方法。

【公表番号】特表2013−501126(P2013−501126A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523623(P2012−523623)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/040871
【国際公開番号】WO2011/016935
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】