説明

糖化蛋白質測定用電極及びこれの製造方法

【課題】本発明は電極表面により多量のボロン酸を結合させることができて、さらには糖化蛋白質の量をより正確に測定するためのものであり、ボロン酸が結合した電極を簡単かつ容易に製造する。
【解決手段】本発明は、糖化蛋白質(gylcoprotein)測定用電極及びこれの製造方法であって、電極表面にシスタミン(Cystamine:Cys)が結合され、前記シスタミンにはボロン酸(Boronic acid:BA)が連結されていることを特徴とし、電極表面により多量のボロン酸を結合させることができるだけではなく、糖化蛋白質の量をより正確に測定できる効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化蛋白質(gylcoprotein)を測定するための電極に関し、前記糖化蛋白質と結合可能なボロン酸を電極表面により多く結合させ、糖化蛋白質の量をより正確に測定できる糖化蛋白質測定用電極及びこれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の現在の状態を反映する重要な指標として最も多く利用されているのは、血糖(blood glucose)と糖化ヘモグロビン(glycated Hemoglobin:HbA1c)である。特に、糖化ヘモグロビンは、検査時空腹及び薬品推奨可否に伴う検査上の誤りが少なく、糖尿患者の採血時点以前血糖値の長期的な変移状況を推測できて、長期間血漿調節評価に有用であり、その特異度が良く糖尿病及びこれと係る合併症を予測するのに良い指標と見なされる。
【0003】
従来には、糖化ヘモグロビンを電気化学的に測定するために、電極表面に糖化ヘモグロビンと選択的に結合可能なボロン酸(Boronic acid:BA)を修飾した。ボロン酸は、糖類及び糖蛋白質とシス−ジオール相互作用を介して特異的に結合する特性のため、糖蛋白質や糖を測定するセンサーに多く応用されている。即ち、電極表面にボロン酸基を露出させて、そこに糖化ヘモグロビンを固定化した後、それに他の電気化学信号の変化を介して糖化ヘモグロビンの濃度を測定するものである。
【0004】
例えば、韓国公開特許2011−0002293号は、電極表面にデンドリマーを結合させ、続いてその上に4−ホルミル−フェニルボロン酸(4−Formyl−phenylboronic acid)を結合させて電極を製造し、前記4−ホルミル−フェニルボロン酸に糖化ヘモグロビンを反応させた後、糖化ヘモグロビンの量を電気化学的な方法で測定した。しかし、前記4−ホルミル−フェニルボロン酸を利用しても測定される糖化ヘモグロビン反応が不十分であって、また、前記デンドリマーによって電極表面に結合される4−ホルミル−フェニルボロン酸の密度が低いという短所を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような問題点を解決するための本発明は、電極表面により多量のボロン酸を結合させることができて、さらには糖化蛋白質の量をより正確に測定するためのものである。
【0006】
また、本発明の目的は、ボロン酸が結合した電極を簡単かつ容易に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明は、電極表面にシスタミン(Cystamine:Cys)が結合され、前記シスタミンにはボロン酸(Boronic acid:BA)が連結されている糖化蛋白質測定用電極であることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記ボロン酸は、ホルミルフェニルボロン酸(formylphenyl boronic acid:FPBA)であることが好ましく、下記式(1)で表される3−ホルミルフェニルボロン酸(3−formylphenyl boronic acid:3FPBA)であることがさらに好ましい。
【化1】

【0009】
そして、前記シスタミン中いずれか一つには3−ホルミルフェニルボロン酸2個が連結可能である。
【0010】
本発明の一具体例は、シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体が電極表面に結合した糖化蛋白質測定用電極である。
【0011】
ここで、前記接合体は、シスタミンのジスルフィド(disulfide)基によって電極表面と結合したものであってもよい。
【0012】
そして、前記接合体は、下記式(2)で表されたCys−FPBA2であってもよい。
【化2】

【0013】
また、前記本発明の糖化蛋白質測定用電極において、前記電極表面は、金(Au)からなることが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様は、シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体を準備する段階、及び前記準備した接合体を電極表面に結合させる段階、を含む糖化蛋白質測定用電極の製造方法である。
【0015】
ここで、前記接合体を準備する段階は、前記シスタミンとボロン酸を3〜5時間反応させる段階を含んでもよい。
【0016】
さらに、前記接合体を準備する段階は、前記シスタミンとボロン酸をトリエチルアミン(triethylamine:TEA)の存在下反応させる段階を含んでもよい。
【0017】
また、前記接合体を準備する段階は、前記シスタミンとボロン酸を40〜60℃の温度で反応させる段階を含むことが好ましい。
【0018】
その他実施例の具体的な事項は、詳細な説明及び図面に含まれている。
【発明の効果】
【0019】
前記本発明は、電極表面にシスタミンが結合され、前記シスタミンにはボロン酸が連結されていることを特徴とし、電極表面にさらに多量のボロン酸を結合させることができるだけではなく、これによって糖化蛋白質の量をより正確に測定できる効果がある。
【0020】
さらに、本発明は、シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体を準備した後、ここに電極を浸漬する1段階の電極浸漬過程だけで、ボロン酸が結合した電極を簡単かつ容易に製造できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係る糖化蛋白質測定用電極の製造過程及びこれによる糖化蛋白質の測定方法を説明するための模式図である。
【図2】本発明の一実施例によりBottom−up方式(○、red line)とconjugation方式(△、blue line)で製造された電極における電気化学信号値である。
【図3】本発明の一実施例によりシスタミンとボロン酸の反応時間を変えて合成したCys−FPBA2電極における電気化学信号値である。
【図4】本発明の一実施例によりシスタミンとボロン酸の反応時添加する触媒の種類に応じたCys−FPBA2電極における電気化学信号値である。
【図5】本発明の一実施例によりシスタミンとボロン酸の反応温度を変えて合成したCys−FPBA2電極における電気化学信号値である。ここで、Cys−FPBA2_25(○、red line)は、25℃で反応させたもので、Cys−FPBA2_50(△、blue line)は、50℃で反応させたものである。
【図6】本発明の一実施例によりシスタミン−ボロン酸接合体が結合した電極(△、blue line)と比較例としてシスタミンが結合した電極(○、red line)における、糖酸化酵素(GOX)固定化実験結果である。
【図7】本発明の一実施例に係る電極に対する、HbA1c試料濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。
【図8】本発明の一実施例に係る電極に対する、%HbA1c濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。
【図9】本発明の一実施例に係る電極に対する、参考試料内の%HbA1c濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、多様な変換を加えることができ、種々の実施例を持つことができ、特定実施例を図面に例示して、詳細な説明で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物乃至代替物を含むものと理解されなければならない。本発明を説明するに当たり関連した公示技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を不明瞭にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0023】
本出願で用いた用語は、単に特定の実施例を説明するために用いられたもので、本発明を限定しようとする意図はない。単数の表現は、文脈上明白に異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。本出願において、「含む」または「構成する」等の用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品、または、これらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品、または、これらの組み合わせ等の存在、または付加の可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
【0024】
本発明は、糖化蛋白質測定用電極に関し、炭水化物鎖のシス−ジオールグループを持つ糖化蛋白質、例えば、糖化ヘモグロビン(Glycated Hemoglobin、HbA1c)、または糖化アルブミン等の存在可否、またはその量を測定できる電極に関するものである。
【0025】
前記電極としては、導体性電極の金(Au)電極、白金(Pt)電極、または半導体性電極として炭素電極等が用いられ、好ましくは金電極を用いる。
【0026】
本発明の電極は、炭水化物鎖のシス−ジオールグループを持つ糖化蛋白質と結合するために、前記シス−ジオールグループとシス−ジオール相互作用(cis−diol interaction)によって結合できるボロン酸(Boronic acid:BA)をその周縁に持つことが好ましい。そして、特別に前記ボロン酸を電極表面に結合させるために、前記電極とボロン酸との間にシスタミン(Cystamine:Cys)が存在することを特徴とする。ここで、前記ボロン酸は特に制限されず、この技術分野において広く知られた多様な形態のボロン酸を含む。例えば、前記ボロン酸は、ホルミルフェニルボロン酸(formylphenyl boronic acid:FPBA)であって、3−ホルミルフェニルボロン酸(3FPBA)であってもよく、前記式(1)で表される3−ホルミルフェニルボロン酸(3−formylphenyl boronic acid:3FPBA)であることが好ましい。
【0027】
即ち、本発明は、電極表面にシスタミンが結合され、前記シスタミンにはボロン酸が連結されている糖化蛋白質測定用電極である。前記シスタミン(cystamine)は、中にジスルフィド(disulfide)基を有するため、金属等からなる電極表面に結合可能で、両末端にはアミン基を有するため、アルデヒド基を有するボロン酸とも結合することができる。従って、シスタミンの一つは、前記両末端のアミン基によって2個のボロン酸(3−ホルミルフェニルボロン酸)を修飾できる効果がある。
【0028】
それと共に、本発明に係る電極は、シスタミンを電極により効果的に結合させるために、電極表面に形成された表面改質層をさらに含んでもよく、これはこの技術分野において通常の知識を有する者には明らかに分かる。
【0029】
従来、ボロン酸を電極表面に結合させるためには、電極表面に、まずアミンと反応できる作用基を持った3,3'−ジチオ−ビス−プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(3,3'−dithio−bis−propionic acid N−hydroxysuccinimide ester、DTSP)を結合させて、その上にポリ(アミドアミン)(poly(amidoamine))、ポリ(アルキレンイミン)(poly(alkyleneimine))などのようなデンドリマーを結合させた後、さらにその上にボロン酸を結合させなければならなかった。即ち、BA/デンドリマー/DTSP/電極のような構造を有しなければならなかった。
【0030】
しかし、本発明によると、電極表面にシスタミンを結合させて、その上にボロン酸を結合させることができるため、従来より簡単なBA/シスタミン/電極の構造を有し、その製造方法においても従来より簡単かつ容易になる。
【0031】
このような本発明に係る電極は、電極表面の上にシスタミンが結合され、前記シスタミンにはボロン酸が連結されていれば足りる。このような構造の電極は、まずシスタミンとボロン酸が結合したCys−FPBA2接合体を準備した後、1段階の電極浸漬だけで前記接合体を電極表面に一度に結合させるコンジュゲーション(conjugation)方式によって製造されることが好ましく、電極表面の上にシスタミンを結合させ、続いて前記シスタミンにボロン酸を順に結合させるボトムアップ(bottom−up)方式によって製造されることもできる。
【0032】
本発明のように電極表面にシスタミンとボロン酸が順に結合した構造の電極は、従来技術によっては容易に考えられなかったが、それは、第一にスタミンにおいてジスルフィド基が前記シスタミンの末端に位置するのではなく、中間に位置しており、第二に後述するようにボロン酸が結合した電極を製造する一般的な方法である前記ボトムアップ方式による場合より、前記コンジュゲーション方式によって製造することがさらに好ましいからである。
【0033】
これにより、本発明の一具体例は、シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体が、電極表面に結合した糖化蛋白質測定用電極であってもよい。ここで、前記接合体は、シスタミンと3−ホルミルフェニルボロン酸(3FPBA)が下記反応式により合成されたCys−FPBA2であってもよい。
【化3】

【0034】
また、前記接合体は、糖化蛋白質との結合のためにボロン酸のジオール(diol)基が周縁に向かうように電極表面と結合することが好ましく、それにより、前記接合体はシスタミンのジスルフィド(disulfide)基によって電極表面と結合することがさらに好ましい。
【0035】
前記のような本発明は、電極表面にシスタミンが結合され、前記シスタミンにはボロン酸が連結されていることを特徴とし、電極表面にさらに多量のボロン酸を結合させることができるだけでなく、これを介して糖化蛋白質の量をより正確に測定できる効果がある。
【0036】
本発明の他の態様は、シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体を準備する段階、及び前記準備した接合体を電極表面に結合させる段階、を含む糖化蛋白質測定用電極の製造方法である。即ち、シスタミンとボロン酸が結合したCys−FPBA2接合体を先ず準備した後、前記接合体を含む溶液に電極を1回だけ浸漬させるコンジュゲーション(conjugation)方式を介して、簡単かつ容易に糖化蛋白質測定用電極を製造することである。後述するように、このような方式によって製造された電極は、従来の一般的であるボトムアップ方式によって製造された電極より顕著に優秀な効果を持つ。
【0037】
前記接合体を準備する方法は、特に制限されなく、例えば、シスタミンと3FPBAを溶液上で室温で数時間反応させることもでき、前記溶液は、DMSO(ジメチルスルホキシド)が溶解したものが好ましい。
【0038】
そして、前記接合体を電極表面に結合させる方法も特に制限されなく、例えば、金が蒸着された電極表面を洗浄した後、前記Cys−FPBA2が溶解したDMSO溶液に数時間担持するものであってもよく、前記担持の前にピラニア(Piranha)溶液で汚染物質を除去することと担持後にDMSOとエタノールで洗浄することが好ましい。
【0039】
また、本発明者等は、後述する実施例で記載された通り、高収率のCys−FPBA2合成のための最適条件を探すために種々の条件に対する最適化実験を行い、その結果、前記接合体を準備する段階において、反応時間は3〜5時間にすることが好ましく、3〜4時間にすることがさらに好ましいが、仮に、反応時間が3時間未満の場合、Cys−FPBA2の合成が微弱で糖酸化酵素(GOX)による信号が弱く、反応時間が5時間を超える場合、返って、反応信号が減少するためである。そして、反応時には、トリエチルアミン(triethylamine:TEA)を触媒として用いることが好ましいが、一般的なシッフ塩基合成反応で触媒として多く使われるHClより、トリエチルアミンの条件下で反応させる場合、その効果が優秀なためである。また、反応温度は40〜60℃にすることが好ましく、45〜55℃にすることがさらに好ましいが、反応温度が40℃ 未満の場合、Cys−FPBA2の合成が弱く(糖酸化酵素(GOX)による信号が弱い)、反応温度が60℃を超える場合、返って接合体が分解される恐れがある。
【0040】
図1は、本発明の一実施例に係る糖化蛋白質測定用電極を利用して、糖化ヘモグロビン(HbA1c)を電気化学的に測定するための競合アッセイ(competition assay)の一例を示す反応模式図である。
【0041】
ここに示した通り、電極表面にボロン酸を修飾した後、それぞれの測定しようとする濃度のHbA1c試料と一定濃度の糖酸化酵素(GOX)を同時に反応させると、HbA1cの濃度が増加するほど相対的に高い濃度のHbA1cがGOXが電極表面に固定化することを妨害し、それに伴う電気化学信号は減少することになる。この時、利用するGOXは、糖蛋白質として何ら生化学的処理をしなくてもBAと反応することができ、HbA1cとの競合によって電極表面に固定化されると、生物学的触媒反応により増幅された電気化学的信号を検出できるようにする特性を持つ。
【0042】
本発明は、下記実施例によってよりよく理解でき、下記実施例は本発明の例示目的のためのものであり、添付された特許請求範囲によって限定される保護範囲を制限しようとするものではない。
【実施例】
【0043】
実施例:糖化蛋白質測定用電極の製造
まず、ボロン酸自家組み立て形成層(BA SAM)を形成させる方法として、予めシスタミン(cystamine)とボロン酸(BA)の合成反応を進行した後、自家組み立て形成層(SAM)を形成させるコンジュゲーション(conjugation)方式と、シスタミンとBAを順次反応させるボトムアップ(bottom−up)方式に分けて実験を進行した。
【0044】
続いて、高収率のCys−FPBA2合成のための最適条件を探すために、種々の条件に対する最適化実験を行った。
【0045】
実施例1:コンジュゲーション(conjugation)方式による糖化蛋白質測定用電極の製造
先ず、チタニウムが処理されたシリコンウェハー(20nm Ti)に純度99.999%の金を200nmの厚さで抵抗性蒸着(resistive evaporation)させて電極を準備した。
【0046】
そして、シスタミン(5mM)と3FPBA(20mM)をDMSO(ジメチルスルホキシド)の溶液に室温で4時間反応させてCys−FPBA2を合成した。すると、シスタミンのアミノ基はシッフ塩基を媒介として、FPBAのアルデヒド基と混合されて結合される。触媒としてトリエチルアミン(Triethylamine:TEA)は、塩基環境を作る前に混合された溶液に注入した。
【0047】
その後、前記蒸着された金表面をピラニア(Piranha)溶液に5分間担持し蒸溜水で洗浄した後、ホウ素変換された(boronate−modified)自家組み立て形成層(SAM)を生成するために、前記Cys−FPBA2が溶解されたDMSO溶液に2時間担持した。以後、前記電極を溶液から取り出してDMSOとエタノールで洗浄した後、蒸溜水(DDW)で洗いおとした。最後に、電極はリン酸緩衝食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)に浸漬して保存した。
【0048】
実施例2:ボトムアップ(bottom up)方式による糖化蛋白質測定用電極の製造
前記実施例1と同様な方法で電極を準備し、前記実施例1と同様に5mMシスタミンと20mM 3FPBAを利用し、溶媒もDMSOを利用した。
【0049】
即ち、前記金電極に先ずシスタミンを反応させて電極表面にアミン基が露出するようにした後、アミン基と反応できるアルデヒド基が結合した3FPBAを反応させてシッフ塩基による結合ができるようにした。
【0050】
実験例1:コンジュゲーション方式とボトムアップ方式による電極の電気化学信号測定
前記実施例1と2の電極において、BA SAMの修飾の可否は、合わせて25μg/mlの糖酸化酵素(GOX)をBA−SAM/Au/Si電極に反応させて、GOXの糖鎖とBAのシス−ジオール相互作用に結合されて現れるGOX酵素増幅反応を介した電気化学信号の大きさを利用して追跡した。この時使った電子伝達物質は、0.1mM フェロセン(Fc)溶液で、GOXの基質である10mM glucoseが添加されたものを利用した。電気化学的測定方式は、循環電圧電流法(cyclic voltammetry)を利用し、走査速度は5mv/sにした。
【0051】
図2は、本発明の一実施例によるボトムアップ方式(○、red line)とコンジュゲーション方式(△、blue line)で製造された電極における電気化学信号(cyclic voltammogram、CV)値である。図2から分かるようにコンジュゲーション方式のBA SAMでは基質がないバックグランド信号に比べて約2μA信号が増加したことを見ることができた。これは、金電極表面上のBAとシス−ジオール相互作用によって固定化されたGOXによるもので、金電極表面にBAが修飾されていることが確認された。しかし、ボトムアップ方式は、約0.3μA増加したことからコンジュゲーション方式に比べてほとんどBAが修飾されていないと考えられる。
【0052】
これによって、BA SAMの形成方式はボトムアップ方式より、先に合成反応を進行して得たCys−FPBA2を利用して、SAMを形成させるコンジュゲーション方式が大きく効果的であることが分かり、以後の全ての実験は、コンジュゲーション方法を通して得たBA−SAM/Au/Si電極を利用して行った。
【0053】
実施例3:Cys−FPBA2の合成反応時間に応じた電極製造及び電気化学信号測定
最適なCys−FPBA2合成反応時間を決めるために、2時間から8時間まで合成反応を進行して、反応時間に応じたCys−FPBA2合成程度を比較した。実施例1と同様にCys−FPBA2の合成は、DMSO上の5mM シスタミンと20mM 3FPBAで行い、反応時間に応じたCys−FPBA2の合成収率によるBA SAMの修飾程度は前記実験例1(BA SAM修飾方式試験)と同様にGOX固定化実験を介して確認し、合成時間に応じた電気化学的実験結果は図3に示した。
【0054】
図3に示されたように、4時間までは反応時間が増加するほどGOXによる信号も大きくなることを見ることができる。しかし、4時間過ぎになると、徐々に反応収率が減少することから、最適な反応時間として4時間を選択した。これに伴い、今後のCys−FPBA2は、5mM シスタミンと20mM 3FPBAをDMSO上で4時間合成して用いる。
【0055】
実施例4:Cys−FPBA2の合成時用いる触媒に応じた電極製造及び電気化学信号測定
感度のよいHbA1c測定が可能になるためには、合成されるCys−FPBA2の合成収率を最大に高めなければならない。より効率的かつ高収率でCys−FPBA2を合成するために触媒を用いた。前記実施例1を基に、添加する触媒としてはHCl、トリエチルアミン(TEA)を選択し、対照群としては触媒も添加しないもの、の三つを互いに比較した。既に本発明者等がシッフ塩基合成反応で用いた触媒を参考にして、HClの場合、0.35% 100μlを3mlのCys−FPBA2接合体に添加し、TEAは1.1μlを添加した。
【0056】
図4は、触媒に応じた電気化学信号を示したもので、CV(cyclic voltammogram)上の電圧400mVにおける電流値から基質がないバックグランド信号を差し引いた電流値を示した。図4から分かるように、TEAを添加した場合、添加しなかった場合とHClを添加した場合よりGOXによる信号が高いことがわかる。このことから、合成反応時TEAを添加することが、Cys−FPBA2の合成をより容易にすることが分かり、以後Cys−FPBA2合成はTEA 1.1μlを添加して進行した。
【0057】
実施例5:Cys−FPBA2の合成反応温度に応じた電極製造及び電気化学信号測定
一方、Cys−FPBA2の合成収率を最大に高めるために、前記実施例1を基に、Cys−FPBA2も常温条件である25℃と50℃で合成を進行して、それぞれの温度で合成したCys−FPBA2を適用してその結果を比較した。
【0058】
図5は、それぞれの温度で合成して形成したCys−FPBA2 SAMに固定化されたGOXに応じた電気化学信号を示す。図5から分かるように、25℃で合成したBA SAMでより50℃で合成したBA SAMに固定化されたGOXによる信号が1μAほど(x2)より大きいことが分かる。このことから50℃で合成したCys−FPBA2でのGOXが固定化された量がより多く、これは50℃で合成したCys−FPBA2が効率がずっと良いことが分かる。従って、Cys−FPBA2合成のための温度は、50℃にして実験を進行した。
【0059】
実験例2:Cys−FPBA2 SAM/Au形成確認
前記実施例1〜5と実験例1から得た最適なCys−FPBA2合成条件は、DMSOを溶媒として5mM シスタミンと20mM 3−ホルミルフェニルボロン酸を50℃で4時間反応させ、触媒としてTEA 1.1μlを添加した。
【0060】
このように合成されたCys−FPBA2 SAM/Au表面が意図した通り修飾されたか確認するために、BAが合成されなかったシスタミンと比較実験を行った。前記BA修飾を確認した実験と同様にBAが合成されなかったシスタミンとCys−FPBA2が固定化された金電極に25μg/ml GOXを反応させてGOXの固定化様子を比較した。
【0061】
BAが修飾された場合は、BAとシス−ジオール相互作用によってGOXが電極表面に固定化されてGOXによる電気化学信号が検出され、BAがスムーズに修飾されなかったシスタミンの場合には、GOXが固定化できる作用基が存在しないために固定化にならないと予想した。
【0062】
実際の実験結果、図6から分かるように、Cys−FPBA2の場合、バックグランド対比約2.2μAが増加したが、シスタミンの場合には0.5μA増加した。これは、Cys−FPBA2電極の場合には、GOXと電極表面とBA群との間のシス−ジオール相互作用による特異的結合によって固定化されたことであり、シスタミンの場合は、GOXとシスタミンのアミン基との間の非特異的結合(静電気力による結合であり、その結合は弱くて溶液pHによって可変的であるためバイオセンシングに利用できない)によるものである。このことから、本発明に係るCys−FPBA2が十分合成されて電極表面にBA基が修飾されることが確認できた。このように確認した最適条件のCys−FPBA2を利用して、金電極表面にBA SAMを形成させて、HbA1c測定のための競合アッセイを行った。
【0063】
実験例3:電気化学方式の%HbA1c測定
前記実施例及び実験例から確認された条件によって合成されたCys−FPBA2を利用して、電極表面にBA SAMを形成した後、HbA1cの%濃度に応じた電気化学式測定を進行した。HbA1cの電気化学的測定のために、天然GOXと競合アッセイを行った。
【0064】
実験は、HbA1cだけからなる緩衝液上試料(実験例3−1)と、BSAを含んだ%HbA1c(実験例3−2)、そして参考試料(実験例3−3)を利用して、競合アッセイを行った。
【0065】
実験例3−1:HbA1c試料(PBS緩衝液中)に対する%HbA1c測定
本発明に係る競合アッセイが、%HbA1cを測定するのに適合するか判断するために、まず精製されたHbA1cだけを利用してHbA1cの濃度に応じた電気化学信号を検出した。用いられたHbA1c試料の濃度は、一般人の全ヘモグロビンの平均濃度である150mg/mlを7500倍に希釈した20μg/mlをHb 100%として、各々0%から15%までの濃度(0.5μg/ml〜3μg/ml)で試料を希釈してHbA1cの濃度に応じた信号を測定した。
【0066】
図7は、本発明の一実施例に係る電極に対する、HbA1c試料濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。図7から分かるように、HbA1cの濃度が増加するほど電気化学信号は減ることが分かる。HbA1cの濃度が増加すると、電極表面上に固定化されるHbA1cの量が増加するため、信号が出せるGOXの結合が空間的に制限されて、相対的に結合する量が減少することになる。従って、HbA1cの濃度が増加するほどGOXによる電気化学的信号は減少することになる。図7のようにHbA1cの診断範囲である2.5〜15%で徐々に信号が減少し、このことからCys−FPBA2 SAMを利用してHbA1c濃度測定が可能な電気化学的測定方式が有効であることが確認された。
【0067】
さらに、再現性を検証するために、3回の独立的な繰り返し実験を介して、HbA1cの測定範囲中、低濃度2.5% (0.5μg/ml)、中濃度7% (1.4μg/ml)、高濃度15% (3μg/ml)を選択して、COV(変動係数)を求めた。HbA1cだけを利用した標準溶液サンプルのCOVは、2.5%(0.5μg/ml)で9%、7%(1.4μg/ml)の場合17%、高濃度15%(3μg/ml)は29%であり、高濃度でCOVが相対的に高いことが分かった。これは、本測定システムの特性上、高濃度で信号値(電流)が小さくなるため、相対的にCV値が高まるものと考えられる。本サンプル実験を介して、BA SAMを基にした競合アッセイが、HbA1cの測定に有用であることが確認された。
【0068】
実験例3−2:%HbA1c試料(PBS緩衝液中BSA)に対する%HbA1c測定
前記実験例3−1のHbA1c試料は、それぞれの%HbA1cに該当するHbA1cだけからなる試料であるため、GOXと混合した電極に反応させる試料の全蛋白質濃度は、全て異なることになる。最終的に目的とする%HbA1cは、糖化されているヘモグロビン(Hb)のHbA1cと糖化されていなかったHbA0からなる全Hb試料におけるHbA1cを測定することである。
【0069】
HbA0とHbA1cからなる全Hbで実験を進行する前に、HbA0の代わりに糖化蛋白質でないBSAとHbA1cからなる%HbA1cに応じた信号を測定した。同様に全蛋白質(100% Hbと仮定)は、20μg/mlとして2.5%から15%のHbA1c試料を準備して、GOXと競合アッセイを行った。
【0070】
図8は、本発明の一実施例に係る電極に対する、%HbA1c濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。図8の左側グラフから分かるように、HbA1cの濃度が増加するほど電気化学信号は減少することが分かる。右側の表は、HbA1c標準溶液試料を利用して実験と同様に3回の繰り返し実験から得られたCOV値を示す。HbA1cだけを含む実験例3−1の実験結果よりCOV値が全体的に低くなっていることが分かるが、これはHbA1cだけを利用した試料の場合、全蛋白質量が全て一定ではないが、BSAで全蛋白質量を一定に合わせると、全体的な蛋白質試料条件がより均一になるため、再現性がさらに良くなるためと考えられる。
【0071】
さらに、本実験を介して、競合アッセイが全Hbを利用した実験に適用可能であることが確認でき、競合アッセイのためのHb試料とGOX試料との間の比率が適切であることも確認できた。競合アッセイを行うに当たり、二つの試料との間の濃度比率が大変重要な要素になるが、これはGOXの比率が相対的に高過ぎたり低過ぎると、電気化学的信号は大き過ぎたり小さすぎるため、HbA1cによる信号を精度よく区分し切れなくなるためである。
【0072】
実験例3−3:%HbA1c試料(参考試料)に対する%HbA1c測定
血液内%HbA1cを測定するために、Bio−Rad社から購入したHbA1c参考試料(Lyphochek Hemoglobin Linearity set)を利用して実験を進行した。用いられた試料は、それぞれのHbA1cレベルに応じた凍結乾燥された全血に近い参考試料である。Linearity setに含まれた4個の試料には、全ヘモグロビン数値が表記されていないため、競合アッセイを行う前にRoche社のレフロトロン(Reflotron)を利用して各サンプルの全ヘモグロビンとグルコースの量を測定した。測定結果、各サンプルの全Hb量が異なり、サンプル毎に相当量のグルコースが含まれていることが確認された。血液内のグルコースはHbA1c同様にBAと反応できるため、%HbA1c濃度の測定に妨げとなる。正確なHbA1cの測定のために、試料内のグルコースを取り除いた後、希薄して各々試料の全Hbを20μg/mlに合わせて実験を進行した。
【0073】
図9は、本発明の一実施例に係る電極に対する、参考試料内の%HbA1c濃度に応じた電気化学信号及びCOV値である。即ち、グルコースを取り除き適宜希釈した4個のHbA1cレベルの参考試料を利用した競合アッセイの結果である。提供されたサンプル・データ・シートには、それぞれのHbA1cレベルに応じた試料を商用化されたHbA1c測定機器を介して得られたHbA1cの%濃度値が示されている。本実験では、Roche/Hitachi Cobas c systemsを利用して測定したIFCC値のHbA1c%濃度を試料毎の%HbA1c値として選択して実験を進行した。図9の右側のデータシートによると、試料1は、1.7%、2は4.4%、3は17%のHbA1cが含まれていることが分かった。
【0074】
図9に示された通り、陽性対照としてHbが含まれないGOX/BSA試料をHbA1c 0%として、レベル4まで合わせて5個の試料に対する実験結果である。図9の左側のグラフから分かるように、%HbA1c濃度が増加するほど競合アッセイによる電気化学信号は減少することが分かる。これは、本研究によって開発された競合アッセイが、グルコースを取り除いた血液において%HbA1cの測定が可能であることを証明するものである。COV値も6%台であり、他の試料と比較した際に再現性も相対的に高いことが分かる。
【0075】
一方、前記では本発明を特定の好ましい実施例に関連して図示して説明したが、以下の特許請求範囲によって用意される本発明の技術的特徴や分野を逸脱しない限度内で本発明が多様に改造及び変化できることは、当業界において通常の知識を有する者にとっては明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極表面にシスタミン(Cys)が結合され、前記シスタミンにはボロン酸(Boronic acid:BA)が連結されていることを特徴とする、糖化蛋白質測定用電極。
【請求項2】
前記ボロン酸は、ホルミルフェニルボロン酸(FPBA)であることを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【請求項3】
前記ボロン酸は、下記式(1)で表される3−ホルミルフェニルボロン酸(3FPBA)であることを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【化1】

【請求項4】
前記シスタミン一つに3−ホルミルフェニルボロン酸2個が連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【請求項5】
シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体が電極表面に結合していることを特徴とする、糖化蛋白質測定用電極。
【請求項6】
前記接合体は、シスタミンのジスルフィド基によって電極表面と結合していることを特徴とする、請求項5に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【請求項7】
前記接合体は、下記式(2)で表されたCys−FPBA2であることを特徴とする、請求項5に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【化2】

【請求項8】
前記電極表面は、金(Au)からなることを特徴とする、請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の糖化蛋白質測定用電極。
【請求項9】
シスタミンとボロン酸が連結されたシスタミン−ボロン酸接合体を準備する段階と、前記準備した接合体を電極表面に結合させる段階とを含むことを特徴とする、糖化蛋白質測定用電極の製造方法。
【請求項10】
前記接合体を準備する段階は、
前記シスタミンとボロン酸を3〜5時間反応させる段階を含むことを特徴とする、請求項9に記載の糖化蛋白質測定用電極の製造方法。
【請求項11】
前記接合体を準備する段階は、
前記シスタミンとボロン酸をトリエチルアミン(TEA)の存在下で反応させる段階を含むことを特徴とする、請求項9に記載の糖化蛋白質測定用電極の製造方法。
【請求項12】
前記接合体を準備する段階は、
前記シスタミンとボロン酸を40〜60℃の温度で反応させる段階を含むことを特徴とする、請求項9に記載の糖化蛋白質測定用電極の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24870(P2013−24870A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156685(P2012−156685)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(502032105)エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド (2,269)