説明

糖尿病に関連した治療を自動モニタリングする方法およびシステム

本発明は、患者の糖尿病治療のモニタリングに用いるモニタリングシステムおよび方法を開示する。このシステムは、血糖値を示す測定データを処理し、血糖値を示す第1の処理データを生成する第1のプロセッサモジュール、および少なくとも1つのファジー論理モジュールを備える第2のプロセッサモジュールを含む制御部を備え、第2のプロセッサモジュールが、測定データ、第1の処理データ、および個別の患者のプロフィール関連データや個別の患者の治療歴関連データを含む参照データに対応する入力パラメータを受信し、受信したデータを処理して患者の治療パラメータを示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータ生成し、第2のプロセッサモジュールが、いずれかの治療パラメータを変更するか決定するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病に関連した治療のモニタリングの分野にあり、糖尿病に関連した治療を自動モニタリングする方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常糖尿病と呼ばれる真性糖尿病は、個人の膵臓がインスリンを十分に作ることができない、または個人の身体が、正常な量のインスリンを適切に使用することができない病気である。膵臓によって生成されるホルモンであるインスリンは、正常な血糖値を維持するのを助ける。
【0003】
1型糖尿病は、さもなければ膵臓のランゲルハンス島のベータ細胞によって製造および分泌されるホルモンのインスリンを送達する膵臓の不全によって引き起こされる命にかかわる慢性の病気である。内因性インスリンが結果として存在しないため、1型糖尿病の人々は、外来インスリンの投与のなしに自らの血糖を正常血糖の範囲に調節することができない。しかし、低血糖値または高血糖値を最小化し、可能であればいつでも低血糖値または高血糖値をなくすように、正確なインスリンの投薬を行うことが重要である。高血糖として知られる高グルコース値と、低血糖として知られる低グルコース値とは共に、消耗および有害な結果をもたらし得る。低血糖は、昏睡をもたらし得ると共に、脳障害および麻痺が含まれる急性合併症を引き起こす可能性がある。一方、重症の高血糖は、やはり昏睡になる可能性があり、軽度の慢性高血糖は、血管疾患、腎臓の合併症、視力障害、神経変性、および皮膚疾患などの長期にわたる有害で命にもかかわる合併症をもたらす可能性がある。
【0004】
したがって、1型糖尿病の人は、自らの血糖を正常血糖の範囲の近くに維持するために絶え間なく努力して、自らの血糖を監視し、1日数回外来のインスリンを投与する必要がある。これは、骨の折れるきつい療法である。この療法を忠実に守ることに成功している人でも多かれ少なかれそれによって負担を負わされており、しばしば良好な血糖コントロールを維持するのにさらに苦しむ。両方に従わない人は、重症合併症の危険がある。
【0005】
1型患者は通常、インスリンを送達するための2つの送達療法を用いる。これら療法は、膵臓がインスリンを送達する生理学的な方法に由来したものである。すなわち、(1)正常なグルコース値を維持するめに少量のインスリンを連続的に血流に送達する、一定の血糖値を維持するための一定のベーサルレートであり、この値は、高い、低い、または正常の範囲内にあり得るものである、ベーサルレートと、(2)大量のインスリンを素早く送達する(通常この量はほんの数分で送達される)、食事を摂取するのを補償し、または高い血糖値を補正するためのボーラスである。
【0006】
理想的な人工膵臓(AP:Artificial Pancreas)システムの中核は、測定したグルコース値に応じてインスリン(適宜他のホルモン)送達を自動調節する制御アルゴリズムである。現在の最先端の臨床用途向けの制御アルゴリズムは、伝統的な制御理論に着目するか、グルコース/インスリンダイナミクスを記述する方程式のセットに頼っている。
【0007】
人工膵臓システムは、通常、伝統的な線形制御理論に基づいているか、グルコース/インスリンダイナミクスの数学モデルに頼っている。最も一般的な技法は、比例積分微分制御(PID)[非特許文献1]、およびモデル予測制御(MPC)[非特許文献2〜5]に基づいている。しかし、生体系の非線形性、複雑性、および不確実性は、測定装置の固有の遅延および誤差と共に、モデルを定義し、個々の患者の生理学的な挙動を正確に評価するのを困難にさせる[非特許文献1〜3、5]。加えて、制御アルゴリズムの大部分が、多入力および多出力に適していないので、一般に、測定した血糖値が実装される唯一の入力であり、インスリン送達が実装される唯一の出力である。
【0008】
PID制御アルゴリズムは、3つの要素の[I]によって推定される、ベータ細胞によってなされる分泌プロフィールに類似するインスリンプロフィールを生成する。いくつかのコントローラは、要素の部分セットを含み、例えば、比例微分(PD)コントローラは、ロバスト性を改善するために比例要素および微分要素を含む。PIDとPDは共に、測定した血糖値を唯一の入力として使用し、前もって投与したインスリン投与量などの他のパラメータは無視する。MPCは、様々なインスリン投与量および炭水化物消費量に対するグルコース値を記述する数学モデルおよび方程式に基づいている。異なるインスリン治療への応答が、方程式のセットによって示唆されているので、最適な治療を見つけ出し、それに応じて適用することができる。この数学モデルは、被験者特有のものであり、必要なパラメータを評価するめのシステム認識フェーズに依存する[非特許文献3]。グルコース制御に関連したMPCの主な欠点は、患者の生理学的な挙動を記述するために、良好なきびきびした数学モデルおよび良好なパラメータ評価方法の必要がある。しかし、生体系の複雑性により、これらのモデルは、極端な不確実性にさらされ、これによりモデルを適切に評価および定義することをとても難しくさせる。皮下(S. C.)閉ループシステムを開発しようとするこれまでの試みの大部分は、線形制御の方法を使用して非線形の生体系を制御し[非特許文献2、5]、生体系および測定装置の不確実性を軽視していた。加えて、これらの方法を用いて多入力および多出力を実行することはかなり困難である。
【0009】
参考文献
以下の参考文献は、本発明の背景を理解するために関係があると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Steil G、Panteleon A、Rebrin K、「Closed-loop insulin delivery-the path to physiological glucose control」、Adv Drug Deliv Rev 2004、56、125〜144頁
【非特許文献2】Parker R、Doyle Fr、Peppas N、「A model-based algorithm for blood glucose control in type I diabetic patients」、IEEE Trans Biomed Eng 1999、46、148〜157頁
【非特許文献3】Hovorka R、Chassin L、Wilinska M、Canonico V、Akwi J、Federici M、Massi-Benedetti M、Hutzli I、Zaugg C、Kaufmann H、Both M、Vering T、Schaller H、Schaupp L、Bodenlenz M、Pieber T、「Closing the loop: the adicol experience」、Diabetes Technol Ther 2004、6、307〜318頁
【非特許文献4】Hovorka R、Canonico V、Chassin L、Haueter U、Massi-Benedetti M、Orsini Federici M、Pieber T、Schaller H、Schaupp L、Vering T、Wilinska M、「Nonlinear model predictive control of glucose concentration in subjects with type 1 diabetes」、Physiol Meas 2004、25、905〜920頁
【非特許文献5】Magni L、Raimondo D、Bossi L、Dalla Man C、De Nicolao G、Kovatchev B、Cobelli C、「Model predictive Control of Type 1 diabetes: An In Silico Trai」、J diabetes Sci Technol 2007、1、804〜812頁
【非特許文献6】6. Pedrycz W、Gomide F、「Fuzzy Systems Engineering Towards Human-Centeric Computing」、Hoboken、New Jersy、John Wiley & Sons、inc.、2007年
【非特許文献7】Sincanandam SN、Sumathi S、Deepa SN、「Introduction to Fuzzy Logic using MATLAB」、Verlag Berlin Heidelberg、Springer、2007年
【非特許文献8】8. Sparacino G、Zanderigo F、Corazza S、Maran A、Facchinetti A、Cobelli C、「Glucose concentration can be predicted ahead in time from continuous glucose monitoring sensor time-series」、IEEE Trans Biomed Eng 2007、54、931〜937頁
【非特許文献9】Magni L、Raimondo D、Dalla Man C、Breton M、Patek S、De Nicolao G、Cobelli C、Kovatchev B、「Evaluating the Efficacy of Closed-Loop Glucose Regulation via Control-Variability Grid Analysis」、J diabetes Sci Technol 2008、 2、630〜635頁
【非特許文献10】「Standards of medical care in diabetes-2009」、Diabetes Care 2009、32 Suppl 1、S13-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
皮下(S.C)インスリンポンプやS.C連続グルコースセンサ(CGS: continuous glucose sensors)などの現在の糖尿病治療技術は、T1DMのコントロールを改善するのに役立つことが分かっている。これにも関わらず、患者の糖尿病管理の日常的な要求に関して患者を支援するこれら技術の可能性は、実現されていない。したがって、膵臓細胞の活動を真似し、患者の血糖値を厳格にコントロールしつつ重症の低血糖事象を回避するAPシステムが必要とされている。そのようなシステムは、糖尿病に対応する日々の負担から患者を解放する機会ももたらし得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、機能する膵臓のベータ細胞の活動を真似し、患者の血糖値を厳格にコントロールする機会をもたらす閉ループ人工膵臓システムを提供する。本発明のモニタリング技法は、静脈注射および/または皮下薬物注射装置によって発生するデータ、ならびにグルコースセンサによって発生するデータを解析し、薬物注射装置の動作を制御することによって治療変更を判断する。
【0013】
インスリン吸収の遅延、および間質液が血糖値を必ずしもいつも正確に表すとは限らないことは、ループを閉じる任務(mission of closing the loop)をとても挑戦的なものに変えることに留意されたい。糖尿病治療の最終目標は、膵臓のベータ細胞の活動を真似する自律および自動モニタリングおよび治療システムを開発することである。したがって、そのようなシステムは、通常の生理学的な血糖値を維持することができ、したがって低血糖を回避する。このシステムは、完全に自動化され(患者が投薬の示唆に対する承認を与える必要はない)、グルコースの動態およびインスリンを連続的に解析する。
【0014】
したがって、本発明の幅広い一態様によれば、患者の糖尿病治療のモニタリングに用いる、モニタリングシステムが提供される。このシステムは、血糖値を示す測定データを処理し、血糖値を示す第1の処理データを生成する第1のプロセッサモジュール、および少なくとも1つのファジー論理モジュールを備える第2のプロセッサモジュールを含む制御部を備え、第2のプロセッサモジュールが、測定データ、第1の処理データ、個別の患者のプロフィール関連データや個別の患者の治療歴関連データを含む参照データに対応する入力パラメータを受信し、受信したデータを処理して患者の治療パラメータを示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生成し、第2のプロセッサモジュールが、いずれかの治療パラメータを変更するか決定するようになっている。
【0015】
本発明のモニタリングシステムは、1型糖尿病の患者の治療手続きをリアルタイムに自動モニタリングできるコンピュータシステムである。このモニタリングシステムは、皮下または血管内の感知および送達の経路における自動的なグルコース調整のための個別の(被験者特有の)制御方法を与える。このモニタリング技法は、測定したグルコース値および/または他のパラメータに応じて、インスリン(および適宜他のホルモン)の送達を自動調節する。このシステムは、追加のインスリン注入を検討するために、グルコース値を連続的に追跡し、血中に存在する活性なインスリン(または他のホルモン)を連続的に評価する。個々の被験者の治療歴を考慮に入れることによって、本発明のシステムは、制御パラメータを正確に調整し、複数の患者間および一人の患者の変動性を克服する。本発明のモニタリング技法は、低血糖を防ぎつつ、高グルコースピークを最小にすることを可能にする。
【0016】
外部グルコースセンサおよび外部インスリンポンプに関連付けられると、したがって、本発明のモニタリングシステムは、完全な閉ループ人工膵臓として動作可能である。モニタリングシステムは、メモリユーティリティや制御部などのとりわけ機能部品を含む。このシステムは、(例えば、植込み型測定装置によって)血液/組織のグルコース値を測定し、任意の適当な薬物注射装置(例えば皮下インスリンポンプなどの送達ポンプ)を制御する任意の知られている適当な測定装置が生成する測定データを処理するために使用され、したがって、測定データの閉ループ解析が実現される。したがって、制御部は、薬物注射装置に関連付けられてもよい。制御部は、薬物注射装置の動作を制御するように構成されると共に動作可能である。測定データは、ある時間に対する現在および過去のグルコース値を含む。
【0017】
(連続的または非連続的な)測定のタイプ、および(埋込み型または非植込み型の、有線または無線による信号伝送によって動作可能な)使用される注入装置のタイプに応じて、モニタリングシステムは、測定装置と注入装置の間で通信し、参照データおよび/または測定データのうちの少なくとも1つを受信する適切なデータ送受信装置(通信ユーティリティ)を備えてもよい。このデータ送受信装置は、制御部の少なくとも1つの出力パラメータを薬物注射装置へ伝送するように動作可能である。
【0018】
本発明においては、閉ループ解析は、治療中のある特定の患者に関する意思決定のための医師の手法に基づいており、それに応じてさらなる治療を制御するようになされている(フィードバック)ことを理解されたい。これは、(MPCなどの)数学モデルが、測定したグルコース値データから薬物送達装置の設定を評価するために使用される、特定のタイプのシステムに用いられている従来の手法とは対照的である。
【0019】
本発明によれば、第2のプロセッサモジュールは、範囲制御(control to range)(CRM)出力治療提案を与えてもよい。第2のプロセッサモジュールは、範囲制御モジュール(control to range module)(CRM)を含んでもよい。範囲制御モジュールまたは手法は、少なくとも1つの所望の範囲内に患者のグルコース値を持っていく出力治療提案を与える。CRM出力治療提案は、インスリンのベーサルレート、インスリンボーラス、またはグルカゴンボーラスのうちの少なくとも1つを含む。CRMモジュールは、少なくとも1つのファジー論理モジュールによって実行することができる。ある実施形態では、本発明のシステムおよび方法は、2つ以上のファジー論理モジュール(またはCRMモジュール)を用いる。ある実施形態では、ファジー論理モジュール(またはCRMモジュール)は、イベントを取り扱うように割り当て、構成または適合されている。本発明によれば、第2のプロセッサモジュールは、モデル化されたルール構造(またはルールのセット)を有する少なくとも1つのファジー論理モジュールを備え、このファジー論理モジュールは、入力パラメータを1つまたは複数の定性的な出力パラメータに変換するためにモデル化された1つまたは複数のメンバー関数を利用する。いくつかの実施形態では、2つ以上のファジー論理モジュールを用いる場合、2つ以上のファジー論理モジュールが用いられ、それぞれが、同一のおよび/もしくは異なるモデル化されたルール構造、同一のおよび/もしくは異なる入力パラメータ、同一のおよび/もしくは異なる定性的な出力パラメータのいずれかを有する。入出力パラメータおよびルールのセットは、ある特別のイベントを取り扱うように設計することができる。
【0020】
ファジー論理モジュールの少なくとも1つの定性的な出力パラメータは、ボーラスグルカゴン(bolus glucagon)、ボーラスインスリン(bolus insulin)、およびベーサルインスリン(basal insulin)のうちの少なくとも1つの治療パラメータを示すデータを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、制御部は、ファジー論理モジュールの少なくとも1つの定性的な出力パラメータを受信し、少なくとも1つの出力パラメータを処理して、いずれかの治療パラメータを変更するか決定する第3のプロセッサモジュールをさらに含む。
【0022】
第3のプロセッサモジュールは、さらなる処理を適用し、送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの投与量を決定、すなわち、いずれかの治療パラメータを変更するか決定する目標制御(control to target)モジュール(CTM)、または「トリートメントジュリー(Treatment Jury)」を含んでもよい。この目標制御の手法は、患者のグルコース値を所望の範囲内外のある特定の目標値に持っていくことを可能にする。
【0023】
いくつかの実施形態では、CTMは、さらなる処理をファジー論理モジュールの出力(CRMモジュールの出力など)に適用し、送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの投与量を決定する。したがって、第3のプロセッサは、範囲制御(CRM)出力治療提案を受信し、患者のプロフィールのグルコース目標に応じて投与量を決定する。この量は、患者のインスリンまたはグルカゴンの薬力学および上記測定データのうちの少なくとも1つに応じて調整することができる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明のシステムおよび方法は、個々のグルコース値を自動調節するために、範囲制御および目標制御の手法の組み合わせを実行するように適宜構成されると共に動作可能である。このシステムは、組織中の測定したグルコース値に基づいて血中のグルコース値を予測し、感知および送達の遅延を克服する(任意の知られているタイプの)個別の予測ツールを適宜有する。
【0025】
CRMは、ファジー論理ベースのモデル(「ルールのテーブル(table of rules)」)を利用し、このファジー論理ベースのモデルは、(測定/計算した)定量的な入力パラメータおよび定性的な入力パラメータを受け取り、それらを、所定のルール、およびこのルールの統計的一致度に対応する定性的なパラメータに変換するように構成される。いくつかの実施形態では、この所定のルールは、医療知識に基づいて処理される。一般に、ファジー論理モジュール主要要素は、複数の入力および単一または複数の出力のファジー集合、IF(入力)-THEN(出力)の形態によって構築されるファジールール、ならびに入力[6,7]に基づいてファジールール出力を評価するためのファジー化および非ファジー化の方法である。本発明では、ファジー論理モジュールは、連続的に与えられた入力パラメータを受信し、および/または連続的に与えられた入力パラメータに応答するために連続的に使用することができる。いくつかの実施形態では、本発明のファジー論理モジュールは、ある特別のイベントに応答する。
【0026】
これに関連して、本発明のシステムは、治療パラメータの可能な変更を決定するためにファジー論理モジュールを用いる連続コントローラを提供することを理解されたい。ファジー論理モジュールは、数学モデルに基づいて次の血糖値を予測する予測子として、または低血糖を予測する予測ツールとして使用されるのではない。
【0027】
第2のプロセッサモジュールによって受信される入力パラメータは、以下のもの、すなわち、過去の血糖値傾向、(例えば、皮下連続グルコースセンサ(CGS)によって測定された)現在の血糖値、未来の血糖の傾向、未来の血糖値のうちの少なくとも1つを含む。
【0028】
定量的な入力パラメータは、処理モジュールによって前処理されて、所定の予測範囲内でグルコーストレース(glucose trace)を予測する少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生み出す。これに関連して、各患者は、いくつかのパラメータを含む患者自らの治療歴を有し、グルコーストレースの予測は、この治療歴のパラメータに関して計算されることを理解されたい。ファジー論理モジュールの出力は、個々の治療歴の割合であってもよい。
【0029】
CTMは、患者のグルコースをある特定の目標値に持っていくことを目的とする。最終的な投薬推奨(final dosing recommendation)に到達するために、CTMは、(割合での)CRMの推奨、所定のグルコース目標値、および個別の患者のプロフィール関連データを考慮に入れる。
【0030】
このシステムは、測定データを解析し、そのような定性的な入力を、特定の患者の治療の履歴(例えば、時間の関数としてのグルコース値、およびインスリン治療歴)、および個別の/個別化した患者のプロフィール(例えば、インスリン/グルカゴン注入に対する感受性、例えば、低血糖になる傾向)として利用するために、プロセッサモジュールを使用する。
【0031】
個別の患者のプロフィール関連データは、インスリン感受性、グルカゴン感受性、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値または目標範囲値、およびインスリン/グルカゴン活性モデルのうちの少なくとも1つから選択されるパラメータを含む。
【0032】
個別の患者のプロフィール関連データは、治療中または手続きのモニタリング中に(リアルタイムに学習した)前もって計算または更新/較正されたパラメータのセットを含む。いくつかの実施形態では、個別の患者のプロフィール関連データは、動作前および/または動作中に更新および/または較正することができる。
【0033】
計算したパラメータは、事前記憶したデータから(例えば、連続グルコースセンサ(CGS)読取り値、グルコメータ測定値、食事日誌などのインスリン治療および活動日誌から)抽出することができる。これらパラメータは、治療に関する患者の状態を示しており、インスリン吸収の応答時間、食事に対するインスリンの感受性、およびグルコース値、ならびに好ましくはグルカゴンなどでもあり、好ましくは全てが時間の関数であり、患者の活動に応じた患者の現在の状態である。これに関連して、用語「インスリン/グルカゴン感受性」は、閉ループセッションの場合のグルコース値補正についてのインスリン/グルカゴン補正係数と呼ばれることに留意されたい。開ループセッションの場合、用語「インスリン感受性」は炭水化物の補正(correction of the carbohydrate)も含む。
【0034】
個別の患者の治療歴関連データには、例えば、一日の様々な時間で患者に与えられる患者のインスリン送達療法(インスリン基本計画、ならびにインスリン補正係数(insulin correction factor)および/またはインスリンカーボ比(insulin carbohydrate ratio))、インスリン薬力学、および患者の身体的特徴が含まれる。患者の治療歴は、モニタリング/治療手続き中に患者動態についての測定データを受信すると、連続的に更新される。
【0035】
患者の治療歴と制御部の性能は共に調整可能であり、システムが、複数の患者間および一人の患者の変動性に対応することが可能である。
【0036】
本発明が、較正可能/更新可能なパラメータのセットを含む患者のプロフィールを利用するとき、このシステムは、実行した治療に基づいて更新した患者のプロフィールに自己学習の手法を適用する。
【0037】
好ましい実施形態では、システム出力は、インスリンとグルカゴンを共に注入することによって患者の治療を制御することを目的としている。グルカゴンは、対抗制御的な武器(counter regulatory arm)として働くことができることに留意されたい。グルカゴンは、身体自体のグルコースの蓄えを利用することによってグルコース調整において生理系を真似る。さらに、1型糖尿病では、内因性のグルカゴンの分泌が幾分損なわれている。したがって、グルカゴンは、グルコース調整を改善し、インスリンだけに頼る閉ループ制御システムから期待できるものよりも安全な動作を実現する。また、グルカゴンを加えることによって、本発明のシステムは、インスリン投与により積極的になることができ、いずれの設定でも低血糖のイベントなしで目標値に到達する時間を大きくより短縮することになる。
【0038】
いくつかの実施形態では、第2のプロセッサモジュールは、少なくとも1つのイベントを示すグルコース値の少なくとも1つのパターンを解析する検出器モジュールによって引き起こされるイベントに応答して動作可能なファジー論理モジュールを含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、モニタリングシステムは、時間の関数として患者がある特別のイベントにあることの発生または確率を決定するように構成されると共に動作可能であるイベント検出器モジュールを備える。特別なイベントは、睡眠、食事、運動および病気のイベントまたは休息のうちの少なくとも1つであり得る。第2のプロセッサモジュール(例えばCRM)は、複数のファジーエンジンを含み、それぞれが、異なる特別なイベントと関係している。第2のプロセッサモジュールは、それぞれが異なるイベントを取り扱う少なくとも2つのファジー論理モジュールの間で交互に実行するように構成されると共に動作可能である。
【0040】
詳細には、いくつかの実施形態では、第2のプロセッサモジュールは、食事のイベントの影響を受ける患者の状態解析、必要ならば治療変更を生成し、したがって血糖値を監視するように構成されると共に動作可能である食事検出および治療モジュールとして動作可能である。
【0041】
この場合、入力パラメータは、以下の入力パラメータ、すなわち、検出した特別なイベントの間の経過時間、特別なイベントに関する血糖値のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0042】
本発明の別の幅広い態様によれば、糖尿病に関連した治療を自動モニタリングする方法も提供される。この方法は、個別の患者のプロフィール関連データや個別の患者の治療歴関連データを含む参照データを得る段階と、薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される測定データを解析する段階と、薬物注射装置の動作を制御して治療手続きのリアルタイム自動個別モニタリングを可能にすることによって参照データに応じて治療変更について判断する段階とを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、治療変更について判断する段階は、個別の患者の治療歴関連データに応じて治療変更を決定する段階を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、データを解析する段階は、血糖値を示す測定データを処理する段階と、血糖値を示す第1の処理データを生成する段階と、患者の治療を示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生成するように、測定データ、第1の処理データ、および参照データに対応する入力パラメータに少なくとも1つのファジー論理モデルを適用する段階を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、測定データに対応する入力パラメータに少なくとも1つのファジー論理モデルを適用する段階は、血糖の傾向を様々なカテゴリーに分類する段階を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、この方法は、測定したグルコース値または過去のグルコース値傾向に基づいて血中グルコース傾向を予測するための予測モデルを適用する段階を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、治療変更について判断する段階が、以下のもの、すなわち、個別の基本計画を制御する段階、目標値に対する現在の血糖値の補正、炭水化物の補正、送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの量の補正を示すインスリン/グルカゴン感受性を制御する段階、個別の血糖目標値を制御する段階、インスリンおよび/またはグルカゴン薬物動態セッティングを制御する段階のうちの少なくとも1つを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、個別の基本計画を制御する段階は、時間の関数として一連の個別のベーサル治療レートを得る段階と、測定データ(測定したグルコース)を得る段階と、ベーサル治療レートとグルコース値の変化との間の個別の時間遅延を決定して、それによって時間遅延における一連のベーサル治療レートおよび対応するグルコース値の変化を得る段階と、経時的なグルコース値の変化を最小にするベーサルレートを組み込む基本計画を選択する段階とを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、データを解析する段階が、時間の関数として患者がある特別のイベントにあることの発生または確率を決定する段階を含む。
【0050】
本発明の別の幅広い態様によれば、糖尿病に関連した治療を自動モニタリングするのに用いる方法が提供される。この方法は、薬物送達装置、グルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される開ループ測定データを解析し、患者の初期治療プロフィールを決定する段階と、薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される測定データを連続的に受信する段階と、閉ループ治療中に患者の初期治療プロフィールを更新する自己学習手続きを適用し、それによって糖尿病に関連した治療をモニタリングする段階とを含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、患者の初期治療プロフィールは、目標値に対する現在の血糖値の補正、炭水化物の補正、ならびに送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの量の補正を示すインスリン感受性、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値、または目標範囲値のうちの少なくとも1つを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、インスリン感受性を決定する段階は、患者によって摂取される炭水化物、測定データ、および患者の治療のうちの少なくとも1つを用いる段階を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、患者の初期治療プロフィールを決定する段階は、血中インスリン活性の量を決定する段階を含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、血中インスリン活性の量を決定する段階は、ある特別のイベントの関数として上記量を決定する段階を含む。
【0055】
本発明の別の幅広い態様によれば、インスリン基本計画を決定する方法も提供される。この方法は、時間の関数として一連のベーサル治療レートを得る段階と、時間の関数として患者のグルコース値の測定データを得る段階と、ベーサル治療レートおよびグルコース値の変化から測定される患者の個人的な時間遅延を決定し、それによって一連のベーサル治療レートおよび患者のグルコース値の対応する変化を得る段階と、経時的なグルコース値の変化を最小にするベーサルレートを組み込む基本計画を選択する段階とを含む。
【0056】
本発明の別の幅広い態様によれば、患者が必要とする閉ループ治療に用いるインスリン感受性を決定する方法も提供される。この方法は、時間ウィンドウを定める第1のグルコースセンサ読取り値および第2のグルコースセンサ読取り値を得る段階と、前記第1のグルコースセンサ読取り値と前記第2のグルコースセンサ読取り値の間の差を得る段階と、時間ウィンドウ内に摂取した炭水化物に由来するグルコースの量を評価することによって第1のグルコースセンサ読取り値と第2のグルコースセンサ読取り値の間の前記差を調整する段階と、それによって調整したグルコースの量を得る段階と、時間ウィンドウ中に与えられる前記調整したグルコースの量とインスリンボーラスの間の関係に応じてインスリン感受性の補正係数を決定する段階とを含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、時間ウィンドウは、開ループセッションを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、この調整は、摂取した炭水化物と炭水化物によって得られるグルコースとの比率を定める係数を考えることによって実現される。
【0059】
インスリン感受性は、時間ウィンドウ中の最小のセンサ読取り値と、差し迫った低血糖中でも低血糖でもないときに記録された最も低い血糖読取り値との間の比率に応じて変更することができる。時間ウィンドウ中の最小のセンサ読取り値と、差し迫った低血糖中でも低血糖でもないときに記録された最も低い血糖読取り値の間の比率は、最小のセンサ読取り値を得る前の時間帯における最大のセンサ読取り値によってさらに変更することができる。
【0060】
本発明を理解すると共に本発明が実際にどのように実行できるのか知るために、ここで、添付図面を参照して限定ではない単なる例によって実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のモニタリングシステムを利用した治療システムの概略図である。
【図2A】患者の糖尿病治療をモニタリングする本発明の方法の流れ図である。
【図2B】患者の糖尿病治療をモニタリングする本発明の方法の流れ図である。
【図3】ボーラス注射後の血中インスリン活性の割合を示すグラフである。
【図4】ファジー論理モジュールのパラメータを例示する図である。
【図5】本発明の一実施形態による本発明のモニタリングシステムを利用した治療システムの概略図である。
【図6】本発明を利用したモニタリングシステムの動作の一例を示すグラフである。
【図7A】被験者に行われた24時間の閉ループセッションの結果であり、CGS読取り値(黒線)および基準測定値(黒ダイヤ)を示すグラフである。
【図7B】被験者に行われた24時間の閉ループセッションの結果であり、本発明のモニタリングシステムによって送達されたインスリン治療を示すグラフである。
【図7C】被験者に行われた24時間の閉ループセッションの結果であり、在宅ケア(円)と、24時間の期間中(図7C)制御変動グリッド解析(Control Variability Grid Analysis)[非特許文献9]を用いて本発明のモニタリングシステム(四角)を使用したケアとの間の制御性能の比較の結果を示すグラフである。
【図7D】被験者に行われた24時間の閉ループセッションの結果であり、在宅ケア(円)と、夜間中(図7D)制御変動グリッド解析[非特許文献9]を用いて本発明のモニタリングシステム(四角)を使用したケアとの間の制御性能の比較の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1を参照すると、本発明のモニタリングシステム20を利用して糖尿病治療(インスリンおよびグルカゴンの制御可能な送達)を実行する治療システム10が、構成図によって例示されている。モニタリングシステム20は、グルコース測定装置22(連続グルコースセンサ)と、薬物送達装置24(インスリンポンプ)とに関連している。薬物送達装置は、グルカゴン送達ポンプを含むことができる。
【0063】
モニタリングシステム20は、個別の患者のプロフィール関連データ、および個別の患者の治療歴関連データが含まれる参照データを記憶および/または更新するためのメモリユーティリティ32(図においては履歴ログと呼ばれる)を備える。制御部30は、血糖値208を示す(図中データ解析と呼ばれる)測定データを処理し、血糖値を示す第1の処理データを生成する第1のプロセッサモジュール34、およびファジー論理モジュールを含む、範囲制御モジュール(CRM)36としても示され得る第2のプロセッサモジュールを備えており、このファジー論理モジュールは、測定データ208、第1の処理データ、および参照データに対応する入力パラメータを受信し、受信したパラメータを処理して患者の治療パラメータを示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生成する。制御部30は、いずれかの患者の状態/治療を変更するか最終決定する目標制御モジュール(CTM)38も含む。
【0064】
(直接測定した、または場合によっては、測定した組織のグルコース値から予測した)測定装置22からの測定した血糖(BG)値は、制御部30に入る。
【0065】
第2のプロセッサ36は、測定データ、第1の処理データ、および参照データに対応する定量的な入力パラメータを受信し、受信した定量的なパラメータを処理して患者の状態を示す定性的な出力パラメータを生成し、いずれかのこれら状態を変更するか決定することを可能にする。データ解析モジュール34の出力(第1の処理データ)は、第2のプロセッサ36のファジーモジュールによって処理される。次いで、ファジー論理モジュール36の定性的な出力パラメータは、第3のプロセッサモジュールによって処理され、この第3のプロセッサモジュールは、いずれかの患者の状態/治療を変更するか決定するCTM38としても示され得る。モジュール38からのデータに関連する最終判断は、メモリユーティリティ32中の参照データを更新するために使用することができる。
【0066】
測定データは、食事、身体活動、睡眠時間等など特別なイベントを含むこともできる。
【0067】
糖尿病に関連した治療を自動モニタリングする本発明の方法の流れ図を例示する図2(2A、2B)をここで参照する。概して、この方法は、薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成されるデータを解析する段階と、患者の状態を認識する段階と、薬物注射装置の動作を制御して治療手続きのリアルタイム自動個別モニタリングを可能にすることによって治療変更について決定する段階とを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、データを解析することは、参照データを与えることを含む(ステップ100)。参照データには、患者のプロフィール関連データ102、治療歴関連データ104、およびルール構造または「ルールのテーブル」の設定105が含まれる。ルール構造の設定は、測定値を評価する医師の手法に基づいている。患者のプロフィール関連データ102は、患者の状態についての(モニタリング手続き中または治療中に較正可能または更新可能な)パラメータのセットを含む。例えば、患者のプロフィールは、患者をモニタリングシステムに接続する前に数日データを収集することから抽出される。
【0069】
いくつかの実施形態では、パラメータのセットは、学習アルゴリズムによって自動変更される。
【0070】
いくつかの実施形態では、治療変更は、以下のこと、すなわち、個別の基本計画を制御すること、目標値に対する現在の血糖値の補正、送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの量の補正を示す(「補正係数」と呼ばれる)グルコース値に対する患者の特定のインスリン感受性を制御すること、個別の血糖目標値を制御すること、インスリンおよび/またはグルカゴンに対する各患者の感受性をそれぞれ決定するためにインスリンおよび/またはグルカゴン薬物動態セッティングを制御することのうちの少なくとも1つを含む。
【0071】
より具体的には、以下の状態のうちの少なくとも1つが制御される。
【0072】
(1)基本計画: 1日中、時刻に従って患者に注入されるインスリンのレート。例えば、1型患者は、日中にインスリンの連続投与を受ける。この投与量は、インスリンに対する患者の感受性の変化に応じて日中変化してもよい。基本計画は、時間の関数として一連の個別のベーサル治療レートとして表すことができる。ベーサル治療の役割は、肝臓によって内部から生じるグルコースの放出に対処することである。したがって、最適な基本計画は、グルコース値を安定に保つ。
【0073】
(2)補正係数(CF)インスリン/グルカゴン計画:以下の式(1)を使用して、(インスリン/グルカゴン計算のための基準値として定義される)目標値に対して現在のBG値を補正し、インスリン/グルカゴンボーラスを計算する。
【0074】
【数1】

【0075】
インスリン/グルカゴンに対する感受性の変化によって、CFは、時刻に従ってホルモンごとに設定されてもよい。
【0076】
(3)BG目標 - 血糖値目標は、例えばインスリン/グルカゴンボーラスの補正に使用される基準値として患者ごとに定められる。
【0077】
(4)インスリン/グルカゴン薬物動態(PK)設定: 警戒曲線(precaution curve)は、以下詳述するように、インスリン/グルカゴンに対する各患者の感受性を決定するように作り上げられている。
【0078】
(5)適宜、以下詳述するように、カテゴリー分けした血中濃度(例えば非常に低い、低い、正常、正常高値、高い、および非常に高い)などのファジー論理モジュールのルール構造の設定。
【0079】
図2に戻ると、測定データ106は、一定期間での、血中または皮下組織中で直接測定したBG値を示す。
【0080】
このデータの解析は、データ解析34において測定データ106を処理し、血糖値を示す第1の処理データを生成することによって実行される(ステップ115)。ファジー論理モデルが、測定データ106、第1の処理データに対応する定量的な入力パラメータ(ステップ118)にルール構造の設定を用いて適用されて(ステップ120)、患者の状態を示す定性的な出力パラメータを生成する。
【0081】
いくつかの実施形態では、測定データ(ステップ115)の処理は、グルコース値変化の過去の傾向の計算(ステップ110)、未来のBG値の値の予測(ステップ112)、および予測結果を用いて未来の傾向を計算すること(ステップ114)を含む。
【0082】
これに関連して、グルコースの過去/未来の傾向は、3つの要因、すなわち、(i)ある時間ウィンドウ内のグルコース値の平均変化率(毎分mg/dl)(すなわち、平均変化率)、(ii)変化の経過(すなわち、上昇中または下降中)、および(iii)この経過の継続時間によって影響を受けるパラメータであることを理解されたい。
【0083】
定量的な入力は、モジュール106、110、112および114に関連する測定データから供給されるパラメータのベクトルである。
【0084】
例えば、定量的な入力には、以下の4つのパラメータ、すなわち、過去の傾向、未来の傾向、現在のBG値、および予測したBG値が含まれる。
【0085】
ファジー論理処理120を利用して、ルール構造の設定を用いて、定量的な入力ベクトルを、患者の状態を示すファジー化入力ベクトルとして示される定性的な出力ベクトル(例えば複数のベクトル)に変換する(ステップ122)。いくつかの場合、複数のファジー化入力ベクトルは、ファジー論理処理から得られ、各ファジー化入力ベクトルは、上記の通り定めた「ルールのテーブル」のマッチングルールに関連付けられる(ステップ124)。これらの場合、各マッチングルールは、各ルールがどの程度適用されるかを記述する統計的一致因子(statistical agreement factor)に割り当てられる。適用された全ルールは、統計的一致に従ってスタックされ、非ファジー関数(deFuzzy Function)が、非ファジー化出力ベクトル(deFuzzified Output Vector)を計算し(ステップ125)、これにはファジー論理が治療の変化を割合で推奨することが含まれる。
【0086】
例えば、以下の入力ベクトル、すなわち、[0.7 110 2 170]は、最後の20分間、傾向は0.7[mg/dl/分]であり、現在の血糖値は110[mg/dl]であり、血糖値に関する予測される傾向は2[mg/dl/分]であり、30分間に予測される値は170[mg/dl]であると解釈される。この入力ベクトルが、ファジー論理モジュール36に入ると、この入力ベクトルは、以下のファジー化入力ベクトルに変換される。
1. [高い 正常 非常に高い 正常高値]
2. [高い 正常 非常に高い 高い]
【0087】
これらファジー化入力ベクトルは、ルール番号73(73%一致)、およびルール番号204(27%一致)に合致する。これらのルールの出力は共に考慮され、それらの出力メンバー関数は、それらの重み(すなわち、統計的一致の割合)に応じてスタックされる。
【0088】
非ファジー関数は、これらスタックした関数の重みの中心を(出力ごと別々に)計算して、関係のあるルール全てに重みを付け、以下の非ファジー化出力ベクトル:[50 2.59 0]を与える。
【0089】
一般に、各ルールは、患者に送達されている現在の治療の変更を含み、ファジー化入力ベクトルによって示される特定の患者の状態に適合される。上記のように、治療パラメータ(すなわち、非ファジー化出力ベクトル)は、以下のパラメータ、すなわち、ベーサルレートおよび/またはインスリン/グルカゴンボーラスの割合の変更のうちの少なくとも1つを含む。各ルールは、寄与因子(重み)に関連付けられてもおり、この寄与因子は、患者の状態が特定のルールに関連付けられる尤度(likelihood)を示す。より詳細には、重みは、そのようなルールが現実に起こる確率であり、0〜1の数字に量子化されている。この重みは、ルールに割り当てられた重要性に応じて決定することもできる。加えて、この重みは、ファジー論理エンジンによって取り扱われるある特別のイベントに応じていてもよい。
【0090】
CRM 34から受けたった当初の推奨は、割合である。2つの出力の投薬量を単位または単位/時で決定するために、CTM 36は、CRM 34の推奨およびグルコース目標値を検討する。次いで、インスリン薬力学に関連した投薬療法履歴および安全上の制約、ならびにグルカゴンおよび/またはインスリン活性の量を考えて、特別なグルコースの動態解析を適用して、最終的な投薬推奨を得る。
【0091】
患者とインスリン/グルカゴンの薬力学を決定する警戒曲線を示す図3に例示するように、血中のグルカゴンおよび/またはインスリン活性(Gactive,Iactive)セクションの現在の量は、患者のプロフィール102に応じて決定される(ステップ126)。この曲線は、インスリン/グルカゴンボーラスの送達後のある時間での血中のインスリン/グルカゴン「活性」の割合を示す。したがって、本発明は、患者の糖尿病治療のモニタリングに用いるシステムを提供し、このシステムは、治療を受けた患者のインスリン/グルカゴン薬力学に応じて治療(すなわち、インスリン/グルカゴンのボーラスまたはベーサル治療)を変更または提供するように構成されると共に動作可能である。いくつかの実施形態では、インスリン/グルカゴン薬力学は、インスリン/グルカゴンボーラスの送達後のある時間での血中のインスリン/グルカゴン「活性」の割合(または他の量)を記述する曲線または関数によって表される。また、本発明は、患者の糖尿病治療のモニタリングに用いる方法も提供する。この方法は、治療を受けた患者のインスリン/グルカゴン薬力学を得る段階と、治療を受けた患者のインスリン/グルカゴン薬力学に応じて治療(すなわち、インスリン/グルカゴンのボーラスまたはベーサル治療)を調整する段階とを含む。
【0092】
血中に存在するインスリンの量(例えば、割合)が、最後のボーラス注射以降のインスリンの活性を特徴付ける3つの異なる期間(P1、P2、P3)で表されている。ボーラスまたはベーサル治療後の患者のインスリン/グルカゴンの吸収度(すなわち、減衰率)を示す、各患者に特有である同様のグラフは、一般に、患者のプロフィールに含まれ得る。これらの減衰率は、血中に存在する活性なインスリン/グルカゴンの量を決定するために治療歴と共に使用することができる。
【0093】
活性なインスリンおよび活性なグルカゴンの計算は、以上詳述したように、インスリンおよびグルカゴン治療歴104、ならびに患者のプロフィール102から取得した患者の個々のグルカゴンおよびインスリン薬力学を用いてCTMモジュール38によって行われる。
【0094】
現時点では、活性なグルカゴンの計算は、以下のように行われる。TGおよびVGとして示す、グルカゴンの時間および投与量が与えられており、両ベクトルは大きさNである。現在の時間は、t0よって示される。活性なグルカゴンは、Gactiveによって示される。グルカゴンの活性関数(activity function) fG(t)は、患者の個々の設定によって、
【0095】
【数2】

【0096】
のように決定される。
【0097】
ただし、t1-3、P1-3は、患者ごとに個々に設定されると共に自己学習アルゴリズムによって自動的に学習および更新され得るグルカゴン時定数である。
【0098】
活性なグルカゴンは、以下のように計算される。
【0099】
【数3】

【0100】
同様に、活性なインスリンも、現時点で計算することができる。
【0101】
TIおよびVIによって示す、インスリンの時間および投与量が与えられており、両ベクトルは大きさKである。現在の時間は、t0によって示される。活性なインスリンは、Iactiveによって示される。
【0102】
インスリンの活性関数f1(t)は、患者の個々の設定によって次のように決定される。
【0103】
【数4】

【0104】
ただし、t4-6、P4-6は、患者ごとに個々に設定されると共に学習アルゴリズムによって自動的に学習および更新され得るインスリン時定数である。
【0105】
活性なグルカゴンは、次のように計算される。
【0106】
【数5】

【0107】
送達されるホルモン(すなわち、インスリンおよび/またはグルカゴン)の量は、ファジー論理モジュール36から受信した当初の推奨(パーセント単位で)、患者の治療歴104、(患者のプロフィール102からの)インスリン/グルカゴン感受性、および血中ホルモン活性の量126に基づいて、CTMモジュール38によって決定され(ステップ128)、例えば以下の通りである。
【0108】
ファジー論理出力ベクトルは、グルカゴン、ボーラスインスリン、およびベーサルインスリンのそれぞれの割合の推奨であるGp、BpおよびBapを示す。(Gpは0〜100[%]で変化し、Bpは0〜100[%]で変化し、Bapは-100〜100[%]で変化する)。薬物送達装置によって受け取られるグルカゴン、ボーラスインスリン、およびベーサルインスリンの対応する量は、Ga、BaおよびBaaとして示される。Sは、最新のセンサ読取り値である。CFGおよびCFrは、グルカゴンおよびボーラスインスリン感受性因子であり、これら感受性因子は、患者のプロフィールの一部であり、患者ごとに個々に設定され、リアルタイムに学習され得る。これら感受性因子は、時間依存性であり、日々の様々な時間で変化してグルカゴンおよび/またはインスリン感受性の自然変化を反映する。
【0109】
GTは、患者の個々のグルコース目標値である。
【0110】
基本的に、グルカゴンおよびインスリン投与治療の量は、それぞれ以下の通り定められる。
【0111】
【数6】

【0112】
Gactive、Iactiveは、活性なグルカゴンおよびインスリンであり、それらの計算は、上記の通り定めた。Gsが負である、またはGpが50%未満である場合、Gsは0である。Bsが負である場合、Bsは0である。
【0113】
同様に、ベーサル治療は、以下のようにBas=fBA(t0)*(1+0.01*Bap)として定義され、fBAは、一日の時間ごとのベーサルレートを示す患者の基本計画である。この関数は、患者のプロフィールの中に定められ、患者ごとに個々に定めることができる。加えて、この関数は、本発明の教示を用いて先に変更した治療を示す所与のデータセットによって更新することができる。
【0114】
グルカゴンボーラス、ベーサルレート、およびボーラス治療を決定するとき、最近の治療が考慮に入れられる。tGおよびtBは、最新のグルカゴン送達および最新のボーラスインスリン送達からそれぞれ経過した時間である。グルカゴン送達がなかった場合またはボーラスインスリン送達がなかった場合、tG=∞およびtB=∞である。t0は、現在の時間である。グルカゴン/インスリン吸収の応答時間は、グルカゴンおよびインスリンの活性時間(activity time)によって決定される一定時間tEである。
【0115】
これらは、患者ごとの個々の設定であり、例えば以下の通りである。
【0116】
tG≦t1の場合、Ga=GS、Ba=0およびBaa=0である。
【0117】
t1< tG<t2の場合、Ga=GS、Ba=0およびBaa=Bas=0である。
【0118】
t3<tGの場合、以下の手法が採用されなければならず、すなわち、BTは、ボーラス送達を可能にするグルコース値の閾値である。FBは、典型的には比較的高い値を有する送達される第1のボーラスとして定義される。SBは、典型的にはFBよりも低い値を有する送達される第2のボーラスとして定義される。
【0119】
S>BTおよびBs>0.5およびtB≦t4の場合、FBは真である。その他の場合、FBは偽である。
【0120】
S>BTおよびBs>0.25およびtB>t4の場合、SBは真である。その他の場合、FBは偽である。
【0121】
SBが真またはFBが真の場合、Ga=0、Bα=BsおよびBaa=Basである。その他の場合、Ga=0、Ba=0およびBaa=Basである。
【0122】
ファジー論理モジュール38の定性的な入力パラメータの定義を例示する図4を参照する。これらのパラメータは、個別のものであり(すなわち、各患者に適合可能であり)、これらのパラメータは、制御部によって自動的に変えることができる。
【0123】
例えば、定性的な入力パラメータは、6つのレベル(非常に低い、低い、正常、正常高値、高い、および非常に高い)にカテゴリー分けされ、下限および上限を有するBG値のファジー値(mg/dL)を含む。この定性的な入力パラメータは、5つのレベル(急下降、下降、通常、上昇、および急上昇)にカテゴリー分けされるBG傾向のファジー傾向(mg/dL/分)も含む。
【0124】
第1のプロセッサモジュール34は、測定データ106を処理して、グルコーストレース(過去の傾向110および未来の傾向114)の傾向を計算し、ある範囲内で未来のグルコーストレース114を予測する。
【0125】
グルコース値の傾向は、次のように決定される。グルコース値の傾向は、ある時間ウィンドウ内のグルコース値の平均変化率に応じて決定することができる。例えば、ある時間ウィンドウ内のグルコース値の平均変化率
【0126】
【数7】

【0127】
を移動平均法を用いて計算して、(傾向を定量化する)振幅、および傾向の経過を決定することができる。本明細書で詳述するように、グルコース値の傾向は、傾向を適切に記述する定性的な入力パラメータを選択するために使用することができる。現時点より前の時間帯に関して決定したグルコース値の傾向は、過去の傾向として示される。したがって、過去の傾向は、現在の測定したグルコース値に先立つ傾向に関連し得る。
【0128】
傾向持続因子(trend duration factor)は、係数の時間尺度の傾向を与えるために用いることができる。したがって、この傾向持続因子τTDは、次のように定義することができる。
【0129】
【数8】

【0130】
ただし、TSLTC[分]は、グルコースの傾向が下降から上昇へ、またはその逆に変化する時点であり、τiは、時定数である。この傾向パラメータは、
【0131】
【数9】

【0132】
およびτTDの関数として定義される。例えば、傾向パラメータは、次のように決定することができる。計算した傾向=
【0133】
【数10】

【0134】
例えば、最後の20分間、過去の血糖値がBG=[153、140、137、128、120]である場合、各グルコース読取り値の間の時差は、5分であり、
【0135】
【数11】

【0136】
は、-1.33mg/dl/分となる。このため、
【0137】
【数12】

【0138】
は、負号を有し、この負号は、グルコース値が下降していることを意味する。例えば、TSLTCが45分である(すなわち、グルコース値が、45分間、下降している)場合、τTDは2である。したがって、計算した傾向は、-2.66mg/dl/分となる。
【0139】
将来のグルコース値を予測するために、いくつかの予測モデルが、独立して使用されてもよく、または本発明のモニタリング技法との組み合わせとして使用されてもよい。この予測モデルは、感知および送達の遅延を克服することを可能にする。予測子出力(predictor output)は、ファジー論理モジュールによって使用される。
【0140】
上述の通り、CRM 36は、参照データ100を使用し、4つの入力、すなわち、過去および未来のグルコースの傾向
【0141】
【数13】

【0142】
および
【0143】
【数14】

【0144】
、ならびに現在および将来のグルコース値(BGCurrおよび
【0145】
【数15】

【0146】
)を備えるMamdani(マムダニ)式ファジー論理コントローラであってもよい。例えば、ルールごとに2つの出力を有する、すなわち、(a)ベーサルレートの変化(Bap)、および(b)ボーラスの部分(portion of insulin bolus)(Bp)(それぞれが、患者の基本計画、および計算したボーラスからの割合である)を有する処理ルールのセットが開発された。複数のルールからなるファジー集合を用いて入力パラメータの臨床的意味を解釈するために、入力パラメータについての各メンバー関数は、関数の値が1である間隔を有し、続いてこの間隔の外側で0に滑らかに減少しなければならない。したがって、2側面ガウシアン曲線メンバー関数(two-sided Gaussian curve member functions)が選択された。出力パラメータについては、ガウシアンメンバー関数が、冗長性を防ぎ、メンバー関数間の滑らかな移行を維持するために選択された。
【0147】
ファジールールは、医療スタッフと共同でフレーズ化した。このルールは、グルコース値を80〜120mg/dlの範囲内で安定に保つように設計された。ルールの前提 (すなわちルールのIF部分)を評価するために、ANDファジー動作を用いた。出力(非ファジー化)は、重心法によって計算された。次いで、CRM出力治療提案は、CTM 38へ伝達された。
【0148】
非限定の例によって、本発明のファジー論理モジュールは、MathWorksによるMATLABなどのコンピュータエンジン(computerized engine)を用いて実行することができる。例示がMATLABに関する場合、メンバー関数(MF)の参照は、その中に用意されたビルドインメンバー関数を参照するものとする。
【0149】
以下の入力は、本発明のファジー論理モジュールにおいて使用され得る、定性的なパラメータの例である。
【0150】
入力1:最後の20分間にセンサによって記録されたデータに基づいて、血糖値の計算した傾向を示す過去の傾向。
【0151】
入力2:予測したデータに基づいて、次の30分間の血糖値の計算した傾向を示す未来の傾向。
【0152】
過去の傾向および未来の傾向の値は、次のようにカテゴリー分けされる。
【0153】
急下降 - -5[mg/dl/分]〜-2[mg/dl/分]で範囲が定義される。メンバー関数は、Z字形関数のパラメータとして範囲境界-0.1/+0.1をそれぞれ用いるZ字形関数として定義される。
【0154】
下降 - -2[mg/dl/分]〜-0.5[mg/dl/分]で範囲が定義される。
【0155】
メンバー関数は、それぞれの範囲境界+0.1/-0.1、および分散として0.075を用いる2次元ガウス関数として定義される。
【0156】
安定 - -0.5[mg/dl/分]〜+0.5[mg/dl/分]で範囲が定義される。
【0157】
メンバー関数は、それぞれの範囲境界+0.1/-0.1および分散として0.075を用いる2次元ガウス関数として定義される。
【0158】
上昇 - +0.5[mg/dl/分]〜+2[mg/dl/分]で範囲が定義される。
【0159】
メンバー関数は、それぞれの範囲境界+0.1/-0.1、および分散として0.075を用いる2次元ガウス関数として定義される。
【0160】
急上昇 - +2[mg/dl/分]〜+5[mg/dl/分]で範囲が定義される。
【0161】
メンバー関数は、S字形関数パラメータとしてそれぞれ範囲境界+0.1/10.1を用いるS字形関数として定義される。
【0162】
範囲および時間間隔は、想定されるある特定の治療に応じて変更することもできることが当業者には理解されよう。
【0163】
入力3:センサによって記録された最新の血糖値を示す現在の血糖値。
【0164】
入力4:次の30分間の予測血糖値を示す未来の値。
【0165】
血糖値を示す現在の血糖値および未来の値は、次の通りカテゴリー分けされている。
【0166】
非常に低い - 50[mg/dl]〜70[mg/dl]で範囲が定義される。
【0167】
メンバー関数は、Z字形関数として定義される。
【0168】
低い - 70[mg/dl]〜90[mg/dl]で範囲が定義される。
【0169】
メンバー関数は、2次元ガウス関数として定義される。
【0170】
正常 - 90[mg/dl]〜140[mg/dl]で範囲が定義される。
【0171】
メンバー関数は、2次元ガウス関数として定義される
【0172】
正常高値 - 140[mg/dl]〜170[mg/dl]で範囲が定義される。
【0173】
メンバー関数は、2次元ガウス関数として定義される。
【0174】
高め - 170[mg/dl]〜250[mg/dl]で範囲が定義される。
【0175】
メンバー関数は、2次元ガウス関数として定義される。
【0176】
非常に高い - 250[mg/dl]〜500[mg/dl]で範囲が定義される。
【0177】
メンバー関数は、S字形関数として定義される。
【0178】
メンバー関数についての全てのパラメータ(S字形関数およびZ字形関数のパラメータ、期待値、および2次元ガウス関数の分散)は、以下のルール、すなわち、(1)S字形関数およびZ字形関数は、y=0.5を満たさなければならない;(2)S字形関数およびZ字形関数は、5%の重なりを有する、を満たすように計算される。
【0179】
範囲および時間間隔は、想定されるある特定の治療に応じて変更することもできることが当業者には理解されよう。以下の出力は、定性的な出力パラメータの例である。
【0180】
出力1:送達したベーサルレートにおける、ベーサルレートの変化の割合、すなわちデフォルトの現在のベーサルレート(0%)に対する割合での推奨の変化を示すベーサルレート。割合の変化は、-100%(インスリン送達停止)〜100%(デフォルトの現在のベーサルレートの2倍)であり得る。この範囲は、等しく離れたステップに量子化され得る。
【0181】
出力2:計算したインスリンボーラスの示唆された割合を示すボーラスの割合。割合の変化は、0%(ボーラスなし)〜100%(全部ボーラス)であり得る。この範囲は、等しく離れたステップの広範囲に量子化され得る。
【0182】
出力3:適宜の、計算したグルカゴンの示唆された割合を示すグルカゴン。割合の変化は、0%(グルカゴンなし)〜100%(全部グルカゴン)であり得る。この範囲は、等しく離れたステップの広範囲に量子化され得る。
【0183】
入力数は、1入力〜4入力とすることができ、出力数は、1出力〜3出力とすることができる。
【0184】
ルールの構造セットは、各治療手続きに応じて変更できる治療戦略の組み合わせを含むことができる。この戦略は、例えば、他の戦略が互いに独立可能でありつつ、重なってもよい。これら戦略は、定性的な入力パラメータと対応する出力パラメータの間の一定の関係によって表される。本発明のモニタリングシステムは、最適な出力パラメータを示唆するために、どのルールのセット(個数および組み合わせ)が適切に使用できるかを決定することができる。
【0185】
例えば、ルールのセットは、以下のような96個のルールを含む。
・ルール#7:現在の血糖値が低い場合、いかなるボーラスも与えない。
・ルール#22:現在の血糖値が正常であり、未来の血糖の傾向が下降である場合、ベーサルレートを60%だけ減少させる。
・ルール#28:現在の血糖値が正常である場合、ベーサルレートを変更しない。
・ルール#53:現在の血糖値が正常高値であり、予測される血糖値が正常高値である場合、ベーサルレートを60%だけ増加させる。
・ルール#55:血糖の過去の傾向が下降しておらず、現在の血糖値が正常高値であり、未来の血糖の傾向が安定であり、予測される血糖値が正常より高い場合、50%のボーラスの示唆を与える。
【0186】
一般的に、各ルールは、入力パラメータの値から推測される特定の患者の現在の状態と、患者に送達される適切な治療との間の関係(例えば、変更)を含む。詳細には、ルールは、定性的なパラメータと患者への示唆された治療との間の関係を規定することができる。例えば、ルールは、グルコース測定値の過去のトレースまたはパターンと適切な治療の間の関係を与えることができる。別の例では、ルールは、グルコース測定値の予測したトレースまたはパターンと適切な治療の間の関係を与えることができる。適切な治療は、測定したグルコース値の範囲を所望の範囲に持っていくことに対応することができる。(過去のまたは予測した)パターンまたはトレースは、計算した傾向によって表すことができる。ちなみに、グルコーストレースまたはパターンは、ある時間でそれぞれ得られる一連のグルコースの測定値によって表すことができる。したがって、グルコーストレースまたはパターンは、ある時間間隔で得られた少なくとも2つのグルコースの測定値によって表すこともできる。予測される傾向は、過去のトレースまたはパターンから推測することができ、すなわち、過去のトレースまたはパターンを使用して予測されるトレースまたはパターンを決定することができる。典型的には、そのような決定は、予測モデルを用いることによって行うことができ、予測モデルのいくつかは、当技術分野で知られている。また、予測されるトレースまたはパターンの1つの要素(グルコース値)は、予測される血糖値または未来の値であるように選択することができる。
【0187】
本発明の一実施形態による、本発明のモニタリングシステムを利用した治療システムの流れ図を例示する図5をここで参照する。
【0188】
いくつかの実施形態では、システムは、時間の関数としてイベントの発生または患者がある特別のイベントにある確率を決定するように動作可能なイベント検出器モジュール302を備える。この特別なイベントは、睡眠、食事、運動、または病気のイベントであり得る。イベント検出器モジュールは、各特別なイベントに関連付けられるそのような特別な動態を検出するように設計されている。検出されたイベントに基づいて、適切なCRMおよびCTMが選択される。
【0189】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つのコントローラが使用され、すなわち、休息時間コントローラ(例えば、以前に上述したファジー論理エンジン)、および食事などの特別なイベントに対応するように設計された、食事治療モジュール/食事時間コントローラと呼ばれるコントローラである。したがって、本発明は、少なくとも2つのファジー論理エンジン(休息時間コントローラと食事時間コントローラ)の間で交互に実行する段階を提供する。
【0190】
本発明のいくつかの実施形態によれば、制御部30は、食事のイベントを検出できるイベント検出器302を備える。食事のイベントが検出された場合、食事のイベントの解析を生成するように構成されると共に動作可能である食事治療モジュール306が作動する。必要ならば、食事治療モジュール306は、食事のイベントに合わせるように患者の状態について治療変更を行う。他の場合においては、食事のイベントが検出されていないとき、休息時間コントローラ304が動作可能である。各ントローラは、それ自体のCRM(402および502)およびCTM(404および504)をそれぞれ有する。休息時間コントローラ304のCRM502およびCTM504は、上記のモジュールに類似している。食事治療モジュール306のCRM402は、異なるルールのテーブルを実行する。各ルールは、食事中に、可能なインスリン/グルカゴン治療についての変更の提案を含むことができる。
【0191】
具体的には、イベント検出モジュール302は、特化した治療を必要とするイベントを検出するために利用される。例えば、食事検出モジュールは、食事のイベントに適した治療を可能にするために使用することができる。このモジュールは、血糖値を監視し、グルコース値のパターンまたはトレースを解析する。いくつかの実施形態では、食事のイベント検出器は、ファジー論理モジュールのために上記定義されたようなグルコースの定性的なパラメータの定義を使用してもよい。血糖値に異常を検出すると、ある特別のイベントが呼び出され、システムがそのイベントを取り扱うことを可能にし、そのイベントを取り扱うために必要な時間(またはその他)のリソースを与える。
【0192】
加えて、食事のイベントなどのある特別のイベントの発生を検出するための手続きまたはテストを使用してもよい。これに関して、いくつかのテストが用いられ得る。患者からの食事のイベントを否定するためのテストを用いることもできる。いくつかの実施形態では、食事のイベントは、グルコース測定値のパターンまたはトレースに応じて決定される。
【0193】
以下の用語は、以下の可能なテストに用いられる。
【0194】
用語「長い特別なイベントに関連のある傾向」は、N個のサンプル、典型的には、最近または最新のN個のサンプルにおいて決定されるような血糖値のログ/パターンの傾向を指している。適宜、この傾向は、先に本明細書に詳しく述べた方法によって決定することができる。この傾向は、a1…aNとして示し、相対的な回数はτ1…τN、ただしτii+1であることが便利であり得る。
【0195】
用語「短い特別なイベントに関連のある傾向」は、M<NであるM個のサンプルにおいて決定されるような血糖のログ/パターンの傾向を指している。典型的には、最近または最新のM個のサンプルをこのイベントに使用する。この傾向はa1…aMであり、相対的な回数はτ1…τM、ただしτii+1である。適宜、この傾向は、先に本明細書に詳しく述べた方法によって決定することができる。
【0196】
用語「継続時間」は、解析に使用されるサンプルの個数を表す所定の数のサンプルを指している。
【0197】
用語「長い特別なイベントの微分」は、N個のサンプル、典型的には、最近または最新のN個のサンプルにおいて決定されるような血糖のログ/パターンの傾き(または微分係数)を指している。この傾向はd1…dNであり、この傾向の対応するサンプルの回数はτ1…τN、ただしτii+1である。
【0198】
用語「短い特別なイベントの微分」は、M<NであるM個のサンプルにおいて決定されるような血糖のログ/パターンの傾き(または微分係数)を指している。典型的には、最近または最新のM個のサンプルをこのイベントに使用する。この傾向はd1…dMであり、対応するサンプルの回数はτ1…τM、ただしτii+1である。
【0199】
いくつかの実施形態では、イベントは、グルコース値の測定値のパターンまたはトレースに応じて決定される。いくつかの実施形態では、イベントの発生は、グルコース測定値のパターンまたはトレースの傾向に応じて決定される。このイベントは、食事のイベント、またはデフォルトの安定したグルコース値(すなわち、測定したグルコース値の定常状態)であり得る。いくつかの実施形態では、この傾向は、長い特別なイベントに関連のある傾向、または短い特別なイベントに関連のある傾向のいずれかである。
【0200】
具体的には、イベント(食事のイベントなど)は、この傾向が、一定の閾値、または一定の定性的な入力パラメータについての閾値を超える場合に決定され得る。適宜、このイベントは、計算した傾向が、グルコース測定値のトレースの先行する傾向を超える場合に決定され得る。いくつかの実施形態では、イベントは、計算した傾向が、一定の継続時間の間、一定の閾値を超える場合に決定され得る。
【0201】
加えて、イベント(運動イベントなど)は、この傾向が、一定の閾値、または一定の定性的な入力パラメータについての閾値を下回って減少する場合に決定され得る。このイベントの発生は、計算した傾向が、グルコース測定値のトレースの先行する傾向を下回って減少する場合に決定され得る。いくつかの実施形態では、このイベントは、計算した傾向が、一定の継続時間の間、一定の閾値を下回って減少する場合に決定され得る。例えば、テストAは、∀a∈短い特別なイベントに関連のある傾向に対して、以下の条件を満足する場合に、食事のイベントを確実に認識する。
i.ai≧ai+1
ii.a1≧w・(急上昇の下境界)+(1-w)・(上昇の下限界)、0 <w<1
ただし、wは、経験的に設定される重み因子である。
【0202】
定性的なパラメータは、ユーザによって、または自動的に自動化手続きによって経験的に設定される急上昇の下境界および上昇の下限界として定めることができる。
【0203】
テストBは、∀a∈長い特別なイベントに関連のある傾向に対して、以下の条件を満足する場合に食事のイベントを確実に検出する。
iii.少なくとも継続時間の間、サンプルai≧安定である
iv.a1>安定、かつa2>安定
ただし、安定の定義は、ファジーエンジンまたはユーザによって設定されるその他のものにおける安定したメンバー関数の定義に従うことができる。
【0204】
テストCは、∀a∈短い特別なイベントに関連のある傾向に対して、以下の条件を満足する場合に食事のイベントを確実に検出する。τ1での血糖値とτMでの血糖値の間の差は、少なくともXである。
v.τ1での血糖値とτMでの血糖値の間の差は、少なくともYであり、ただしY≧X。
【0205】
テストDは、以下の条件を満足する場合に食事のイベントを確実に識別する。
∀ai|i=1,2,3, ai> w・(急上昇の下境界)+(1-w)・(上昇の下限界)
ただし、wは、経験的に設定される、または自動化手続きによって設定される重み因子である。
【0206】
テストEは、最新の(または以前の)サンプルの傾きが、下限界の上昇より小さいことを、確認する。テストEは、患者の食事の可能性を否定するために使用することができる。
【0207】
本明細書に開示したシステムまたは方法の動作中に各テスト点で、以上の上記テストのうちの1つまたは複数が、満足され得る。この点に関して、他のテストがやはり考え出されてもよい。食事/イベント検出モジュールは、検出テストを実行することによって食事などのイベントを検出するように構成されると共に動作可能であり得る。測定データの大きいセットに対して食事検出モジュールを実行することによって、各単一テストの食事/イベントを検出する確率(すなわち、テストの確実な予測値)、ならびに同じサンプル時間で食事/イベントを検出するテストの確率の組み合わせを見定めることができる。加えて、先のサンプルに与えられた食事/イベントを検出するための単一のテストおよび/またはテストの組み合わせの条件付き確率を、見定めることができる。各テストの確実な予測値を計算するために、食事検出モジュールは、データに対して実験的にテストさせられてもよい。次いで、計算結果は、食事のイベントを確実に検出するテストごとの確率として使用することができる。食事のイベントがないことも、同様にして検出することができる。
【0208】
以下の表は、UVa/Padovaシミュレータ[非特許文献5]のトレーニングバージョンにより10人の成人グループを用いて計算した、(上述した)各テストおよびテストの組み合わせの確率の一例を与える。テストまたはテストの組み合わせの利用頻度(1は最も頻繁に使用、および14は稀にしか使用されていない)は、テストが稼働された回数にしたがってテストをスケール変更するパラメータである。例えば、食事を確実に検出するテストAの確率は、100%であるが、これはめったに稼働されない。
【0209】
【表1】

【0210】
食事検出モジュールの出力は、正または負であり得る。加えて、食事検出モジュールの出力は、ある特別のイベント、すなわち食事または血糖値の急上昇が生じる確率である。
【0211】
閾値確率(P%)は、特別なイベントの発生に関して決定することができる。システムが、ある特別のイベントの確率が決定した閾値を超えたと認識すると、このシステムは、以前に使用したCRMおよびCTM、すなわち、(図5で休息時間コントローラ304として参照した)デフォルトのCRMおよびCTM、または他の特別なイベント向けに設計された別の治療モジュールのスイッチを入れることができる。
【0212】
食事治療モジュール306のCRM402は、休息時間CRM502に説明したものと典型的には同じ動作原理を有するファジー論理エンジンを使用する。CRM402は、入力パラメータが異なっていてもよく、CRM402は、同じ出力パラメータ、または変更した出力パラメータを有してもよい。食事に関連したCRMファジー論理エンジン(「特別なイベントのファジーエンジン」)の可能な戦略は、測定した一連の第1の検出した特別なイベントからの経過時間に基づく。したがって、これは、特別なイベントに対応するために、第1のステージにおいてより大量のインスリンを含む治療ルールを適用することを可能にすることができる。一方、これは、低血糖を防ぐために、ベーサルレートを減少させ、インスリン注入を停止さえもすることに対して、システムをより断固とさせることもできる。
【0213】
食事治療モジュール306と休息時間コントローラ304を切り替えること、または食事治療モジュール306と休息時間コントローラ304の間で交互に実行することを制御することができるいくつかの条件がある。
【0214】
例えば、最後に使用したモジュールが休息時間コントローラである場合、条件は以下のようになり得る。
【0215】
1.血糖値の読取り値を得る。
【0216】
2.特別なイベントの確率がP%以上である場合、特別なイベントのファジーエンジンに切り替わり、それ以外は休息時間コントローラを続ける。
【0217】
例えば、最後に使用したコントローラが、食事治療モジュールである場合、
【0218】
1.サンプル時間(time sample)[ti-N:ti]の間に、血糖値([BGi-N:BGi])の読取り値、および過去のグルコースの傾向
【0219】
【数16】

【0220】
を得る。
【0221】
2.以下の条件のうちの1つを満足する場合、休息時間コントローラに切り替える。
【0222】
a.各値
【0223】
【数17】

【0224】
が、安定な範囲であり、かつ、各サンプル[BGi-N:BGi]が閾値、例えば130mg/dlより低い場合。
【0225】
b.各サンプル[BGi-N:BGi]が、[血糖目標-Y%、血糖目標+Z%]の血糖範囲にあり、かつ、各サンプル
【0226】
【数18】

【0227】
が、安定範囲の上境界より低い場合。
【0228】
3.さもなければ、現在のサンプルで先の/最後の一連の第1の検出した特別なイベントからT分を超えてしまっており、ある特別のイベントも検出された場合、現在のサンプルを新たな一連の第1の検出した特別なイベントとして設定し、食事治療モジュールを用いて続行する。
【0229】
4.上記の条件をどれも満足していない場合、食事治療モジュールを使用する。
【0230】
特別なイベントのファジーエンジンの入力パラメータは、次の通りであり、すなわち、最後のT1分の血糖値傾向、現在の血糖値、次のT2分に予測される血糖値傾向、T2分に予測される血糖値、先の/最後の測定の一連の第1の検出した特別なイベントからの経過時間、先の/最後の一連の第1の検出した特別なイベント前の最後のT3分の血糖値傾向、および最後の一連の第1の検出した特別なイベントの時間での血糖値である。
【0231】
特別なイベントのファジーエンジンの出力パラメータは、次の通りであり、すなわち、インスリン/グルカゴンボーラスのデフォルトのベーサルおよび割合からのベーサル注入レートの変化である。
【0232】
非限定の例によって、以下本明細書において使用される入力パラメータおよび対応するメンバーシップ関数は、MATLABに構築したメンバーシップ関数を次のように呼ぶ。すなわち、「smf」、形状メンバーシップ関数(shaped membership function);「Zmf」、Z字形メンバーシップ関数;「gauss2mf」、ガウシアンコンビネーションメンバーシップ関数;「trimf」、三角形ビルトインメンバーシップ関数;および「trapmf」、三角形ビルトインメンバーシップ関数である。
【0233】
定性的な入力パラメータ
・血糖の過去の傾向(すなわち、最後のT1分[mg/dl/分]の血糖値傾向)
【0234】
【表2】

【0235】
・現在の血糖値[mg/dl]
【0236】
【表3】

【0237】
・未来の血糖の傾向(すなわち、次のT2分に予測される血糖値傾向[mg/dl/分])
【0238】
【表4】

【0239】
・T2分の血糖値の予測[mg/dl]
【0240】
【表5】

【0241】
・最後の一連の第1の検出した特別なイベントからの時間の経過[min])
【0242】
【表6】

【0243】
・最後の一連の第1の検出した特別なイベント前の最後のT3分[mg/dl/分])の血糖値傾向
【0244】
【表7】

【0245】
・最後の一連の第1の検出した特別なイベントの時間での血糖値[mg/dl]
【0246】
【表8】

【0247】
出力パラメータ
・デフォルトのベーサルからのベーサル注入レートの割合の変化[%]
【0248】
【表9】

【0249】
・ボーラスの割合[%]
【0250】
【表10】

【0251】
グルコースの範囲、メンバー関数、および時間間隔は、想定される適切な特定の治療に応じて変更することもできることを当業者は理解されよう。
【0252】
特別なイベントモジュール(または特別なイベントCRM)のルールのテーブルは、1〜7つの入力であるいくつかの入力と、1〜2つであるいくつかの入力とを有してもよい。そのような入力および出力の範囲は、それ自体定められており、ファジー論理モジュールごとに異ならない。
【0253】
例えば、食事のイベントのためのCRMは、130個のルールを含む。いくつかの例示的なルールは、次のように与えられる。
・ルール#21:食事開始から経過した時間が45分以下であり、現在の血糖値が正常であり、予測される血糖値が非常に高い場合、ベーサルの200%、および推奨ボーラスの300%を与える。
・ルール#84:食事開始から経過した時間が45分を超え、血糖の過去の傾向が急速に増加中でなく、現在の血糖値が高い場合、ベーサルレートの100%、および推奨ボーラスの100%を与える。
・ルール#110:食事開始から経過した時間が45分を超え、現在の血糖値が高く、未来の血糖の傾向が急速に増加中でなく、予測される血糖値が高い場合、ベーサルレートの100%、および推奨ボーラスの120%を与える。
・ルール#126:食事開始から経過した時間が45分を超え、血糖の過去の傾向が急速に下降中でなく、現在の血糖値が正常より高く、予測される血糖値が正常より高い場合、ベーサルの100%を与え、ボーラスは何も与えない。
・ルール#128:食事開始から経過した時間が45分を超え、血糖の過去の傾向が安定であり、現在の血糖値が正常より高く、予測される血糖値が正常より高い場合、ベーサルの100%、および推奨ボーラスの100%を与える。
【0254】
食事検出および治療モジュールは、ファジー論理モデルとグルコースプロフィールの傾向解析の組み合わせを用いる。食事検出および治療モジュールを含むこのシステムは、UVA/Padovaシミュレータを用いてコンピュータ内で24時間、3食付きの試験によって評価された。改良システムは、180mg/dlを上回るところで費やされる時間を10%(p=0.02)だけ減少させることによって、70〜180mg/dlで費やされる時間を同様の割合(p=0.02)で増加させ、70mg/dl未満で費やされる時間を増加させないことに成功した。両システムにおいて、70mg/dl未満で費やされた時間は、平均すると、1.6%未満であった。加えて、平均BG値は、150mg/dlから138mg/dlへ減少した(p=0.002)。
【0255】
本発明のシステムの動作の一例を示す図6を参照する。丸く囲った領域は、測定データがグルコース値190mg/dlであるこのシステムの現在の判断点(15時31分)である。丸く囲った領域の前のグラフの部分は、履歴ログに記憶された測定データである。
【0256】
患者のプロフィールには、基本計画、補正係数、活性なインスリンなどが含まれる。例えば、時刻15時31分に割り当てられた基本計画から得られるベーサルレートは、時間当り0.9単位(0.9 units per hour)であり、補正係数は、50mg/dl/単位、所定のグルコース目標値は110mg/dlである。
【0257】
データ解析34は、例えば、過去の傾向が0mg/dl/分であり、未来の傾向が-0.24mg/dl/分であり、来たるべき30分における予測されるグルコース値が179mg/dl/分であることを与える。
【0258】
特別なイベントが検出されなかったので、休息時間コントローラが適用される。
【0259】
CRM402は、ルールのテーブルから適切なルールを使用し、したがってベーサルレートを79%だけ、および計算したボーラスの送達73%を増加させた。CTM404は、グルコース値190mg/dlについて、インスリンの量1.6単位を出力する。推奨ボーラスの1.6単位の73%は、1.1単位である。示唆は、履歴ログに記憶することもできる。
【0260】
ボーラスが推奨されているので、CTMは、ベーサルレートを増加させるCRM推奨を無視する判断をし、以下の命令、すなわち、ベーサルレート=0.9単位/時、およびボーラス単位という命令を送達ポンプに送信する。インスリンポンプ24は、送達されるインスリンの量を受信する。
【0261】
本発明の別の幅広い態様によれば、閉ループシステムの性能、したがって特定の患者に対する治療を改善および維持する方法が提供される。この方法は、一人の患者のグルコース/インスリンダイナミクスの変動に対する制御性能を自動解析し、それに応じて制御パラメータを調整する学習アルゴリズムである。この学習方法は、データから患者のプロフィールを抽出するための独立モジュールによって実行することができる。
【0262】
この方法は、開ループデータに基づいて初期設定を解析する段階と、閉ループ動作中に周期的な調整をする段階とを含む。
【0263】
学習が統合された方法(learning integrated method)の性能は、UVa/Padovaシミュレータから10人の被験者の成人集団を用いて評価された。公称のシミュレーションの1日(A nominal simulation day)は、3回の食事(午前9時、午後2時、および午後7時に、それぞれ40g、70gおよび50g)が定められて成る。被験者全員が、同じシナリオに従っており、このシナリオは、開ループの不十分な食事の炭水化物評価(open-loop un-perfect meals carbohydrate estimation)(2日間)、続けて閉ループ(5日間)セラピーを含む。学習方法は、開ループセクション後に、ならびに閉ループの24時間ごとに最適な性能が達成されるまで、自動的に稼働した。閉ループの最適日(OpCL:Optimal day of close-loop)、閉ループの1日目(D1CL:day1 of close-loop)、および平均開ループ(AOL: average open-loop)の間に実現した臨床測定が、比較された(一元配置分散分析(one way ANOVA))。70mg/dl未満のBGは、シミュレーションの全ての日において0〜0.4%だった。投与したインスリンに有意な変化はなかったが、80〜120mg/dlに費やした時間は、D1CL(41±8%)およびAOL(18±8%)(p<0.001)に対してOpCL(53±8%)において有意に長かった。平均BGは、D1CL(p=0.01)における129±7mg/dl、およびAOLにおける140±7mg/dl(p<0.001)に比べて、OpCLにおいて121±5mg/dlだった。
【0264】
本発明は、患者の初期治療プロフィールを自動決定することを可能にする自動学習方法およびシステムを開示する。これらの方法は、それらを実行するように構成されると共に動作可能である専用モジュールによって実行することができる。この学習方法は、2つの主/副手続きに分けることができる。
【0265】
I) 開ループに関連した治療中に被験者の測定データを受信する初期の学習。典型的には、測定データは、患者が自宅で自ら自身の治療を行っている間に収集される。データは、典型的には、薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成され、センサ読取り値、食事の量および回数、ならびに/またはボーラスおよびベーサルどちらかのインスリン治療を含む。初期学習手続きは、(測定または計算された)データを解析し、患者の初期治療プロフィールを自動的に決定することができる。患者の初期治療プロフィールは、補正係数、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値または目標範囲値、グルカゴン服用、インスリンボーラス、およびインスリン活性モデルのうちの少なくとも1つを含む。
【0266】
II) 連続的な学習手続きは、閉ループ動作中に患者の治療プロフィールを更新することができる。患者の治療プロフィールは、基本計画、炭水化物およびグルコース値の補正についてのインスリン感受性因子、グルカゴン感受性因子、およびインスリン/グルカゴン薬力学関連データのうちの少なくとも1つを含む。患者の治療プロフィールは、閉ループ履歴ログに応じて適応させることができる。
【0267】
初期学習要素的手続き(initial learning sub procedure)および連続的な学習手続きは、別々に、連続的に、または組み合わせて実行することができる。
【0268】
ある実施形態では、(CFとして示す、炭水化物およびグルコース値の補正についての)インスリン感受性因子が、初期学習手続き中に決定される。いくつかの実施形態では、インスリン感受性因子は、患者によって摂取される炭水化物、グルコースセンサ読取り値の測定データ、およびインスリン服用または基本計画を含み得る患者の治療に少なくとも応じて決定される。
【0269】
適宜、データは、患者が家にいる間に収集される。一実施形態では、適宜、初期学習手続き中にインスリン感受性因子CF1は、次のように決定される。
- 炭水化物の量、グルコースおよびインスリン関連データに応じてCF1を決定する。
【0270】
【数19】

【0271】
ただし、Geは、開ループセッションの第1のセンサ読取り値[mg/dl]であり、Gsは、開ループセッションの最新のセンサ読取り値[mg/dl]であり、dCは、グルコースと炭水化物の比である。グルコースと炭水化物の比は、(経験的知識に基づいて)3.33であってもよく、Cは、開ループ中に摂取される炭水化物の量[例えばgr]であり、Bは、開ループセッション中に与えられるボーラスインスリンの量[インスリンの単位]である。
【0272】
Ge-Gsは、Ge(第1のグルコースセンサ読取り値)と、Gs(第2のグルコースセンサ読取り値)の間の差として定義される。2つのグルコースセンサ読取り値の間の時間間隔は、時間ウィンドウを定義することであり得る。
【0273】
いくつかの実施形態では、時間ウィンドウ内の摂取した炭水化物に由来するグルコースが評価される。そのような評価は、時間ウィンドウにおいて摂取される炭水化物の量を得て、炭水化物の量を炭水化物に由来するグルコースに変換することによって実行することができる。
【0274】
変換は、摂取した炭水化物と、それによって得られるグルコース、例えば(上記dC)との比率を定める係数を決定することによって行うことができる。この係数を時間ウィンドウ内で摂取した炭水化物量の量に乗じることによって、摂取した炭水化物に由来するグルコースが決定される。
【0275】
第1および第2のグルコースセンサ読取り値の間の差の調整は、1および第2のグルコースセンサ読取り値の間の差を、摂取した炭水化物に由来するグルコースと合計することによって達成することができ、それによって調整したグルコースの量を得る。
【0276】
インスリン感受性(例えばCF1)を決定することは、調整したグルコースの量と、時間ウィンドウ中で与えられるインスリンボーラスとの間の関係に応じて決定されてもよい。関係は、以上に示したような各値の間の比率によって定めることができる。
【0277】
いくつかの実施形態では、Geは、開ループセッションの一部の第1の読取り値であってもよく、および/またはGsは、開ループセッションの一部の最新のセンサ読取り値であり得る。いくつかの実施形態では、Geは、閉ループセッションの一部の第1の読取り値であってもよく、および/またはGsは、閉ループセッションの一部の最新のセンサ読取り値であり得る。
【0278】
適宜、CF1などの感度因子は、患者が家にいる間に収集したデータを用いて、患者のグルコース制御の質の解析に基づいて変更することができる。
【0279】
いくつかの実施形態では、インスリン感受性因子(例えばCF1)は、測定したグルコース値に応じて変更される。例えば、インスリン感受性因子は、低血糖中でも低血糖でもないときに記録された最小のセンサ読取り値または最も低い血糖読取り値に応じて変更される。ある特定の例では、インスリン感受性は、時間ウィンドウ中の最小のセンサ読取り値と、低血糖中でも低血糖でもないときに記録された最も低い血糖読取り値との間の比率に応じて変更される。いくつかの実施形態では、インスリン感受性は、最小のセンサ読取り値を得る前の時間間隔における最大のセンサ読取り値に応じて変更される(一例を以下に示す)。
【0280】
したがって、インスリン感受性すなわちCF1は、因子(a)に応じてさらに変更することができて、公式CF2=a・CF1に従って変更された補正係数CF2を生成するものであり、ただし、因子(a)は、CF1の変更因子として定義される。
【0281】
因子aは、以下の手順によって決定することができる。
If Thypo>0 またはTihypo>1
If(Speak>Smin)かつ(Speak>UpperLimit)
a=(Speak-Smin)/(Speak-UpperLimit);
Else
a=UpperLimit/Smin;
End
Else
ただし、Thypoは、関連のある期間中に一定の低血糖範囲内で費やされた時間の割合であり、Tihypoは、関連のある期間中に一定の差し迫った低血糖の範囲内で費やされた時間の割合であり、Sminは、関連のある期間中の最小のセンサ読取り値であり、Smeanは、関連のある期間中の平均センサ読取り値であり、Smaxは、関連のある期間中の最大のセンサ読取り値であり、Speakは、関連のある期間中のSmin timの前の3時間までの時間範囲における最大センサ値であり、UpperLimitは、差し迫った低血糖でも低血糖でもない間に記録されている最も低い血糖読取り値であり、Sn_lowは、(約80〜120mg/dlの範囲内のグルコース範囲として経験的に定義できる)典型的には80に設定される「厳密に正常な」グルコース範囲の下側境界であり、Sn_highは、120に設定され得る「厳密に正常な」グルコース範囲の上側境界であり、dNは、減算Sn_high-Sn_lowである。
【0282】
ヒストグラム(または代替として分布関数)は、患者の測定したグルコース値を用いて決定することができる。このヒストグラムは、ある時間ウィンドウの間に患者の各測定したグルコース値の発生を表す関数である。Pは、ある特定の幅の間隔(dNは、グルコース測定間隔を表す)での発生の総和(または累積した測定グルコース値)として定義でき、ただし、vは、患者ごと個別の、この特定のウィンドウ内の初期グルコース読取り値である。
【0283】
val=argmaxv{P(v,v+dN)}、ただしP(v,v+dN)は、範囲[v,v+dN]であるグルコース読取り値の割合であり、argmaxvは、Pが最大値に到達するvを決定することを意味する。
【0284】
α=0.57・α_Tsn+0.28・α_Hyper+0.15・α_Mean、ただし、
a_Tsn=sn_low/val;
a_Hyper=180/Smax; 典型的には経験的に定められる
a_Mean=110/Smean; 典型的には経験的に定められる
W=[0.57 0.28 0.15]、重み付けベクト/係数であり、典型的には経験的に定められる。
【0285】
終わり(END)
【0286】
重み付けベクトルは、特定のインスリン/グルカゴン治療に適合するように調整または変更されてもよいことを当業者は理解されよう。
【0287】
いくつかの実施形態では、したがって、ある時間ウィンドウの間の患者の測定したグルコース値の発生を表すヒストグラムが決定される。次いで、グルコース測定間隔における局所的な最大(またはピーク)は、上記の例示のように関数P(v,v+dN)を最大にすることに得ることができる。
【0288】
したがって、いくつかの実施形態では、インスリン感受性因子は、グルコース値間隔内の測定したグルコース値のヒストグラムの局所的な最大(またはピーク)に応じて変更される。いくつかの実施形態では、インスリン感受性因子は、グルコース値間隔内のヒストグラムにおける累積した測定したグルコース値に応じて変更される。インスリン感受性因子の変更は、重み付けベクトルまたは係数に応じて累積した測定したグルコース値を変換するという形態をとることができる。
【0289】
いくつかの実施形態では、CF2またはCF1の安全性は、与えられるインスリンの投薬が安全であるかを検証するためにテストされ得る。このテストは、治療される患者(治療を受けた患者など)について事前に得られた一連のグルコースセンサ読取り値、すなわち事前のグルコーストレースを処理することによって実行することができる。したがって、開ループセッションからのセンサ読取り値を使用して閉ループ制御についてのインスリンボーラス推奨をシミュレートすることができる。
【0290】
いくつかの実施形態では、このテストは、次の通り定義される。
IF Bsim>Btotal
【0291】
【数20】

【0292】
Else
CF=CF2
End
ただし、Bsimは、(開ループセンサ読取り値をシミュレートする場合に)シミュレートした閉ループシステムによって与えられる合計インスリンボーラスであり、Btotalは、開ループセッション中に与えられるボーラスインスリンの総量である。
【0293】
上記のように、インスリン感受性は、2つの別個の因数、すなわち、炭水化物についてのインスリン感受性、およびグルコース値補正についてのインスリン感受性を含み得る。
【0294】
いくつかの実施形態では、個人のインスリン/グルカゴン薬力学は、食事のイベントに関連付けられるある時間での血中のインスリン/グルカゴン「活性」を記述する一連のものまたは曲線によって表される。したがって、初期設定は、開ループデータから結論付けられるように、個々の患者に対する(活性なインスリンとして示される)インスリンについての薬力学パラメータを決定することをさらに含むことができる。活性なインスリンは、ある特定の食事または一連の食事を参照して定めることができる。
【0295】
AIiは、ある特定の食事についての活性なインスリンとして定義される。食事の時間は、T0として示される。食事(開ループデータに示される炭水化物の摂取)ごとに、第1の時間ウィンドウは、開ループデータにおいてこの特定の食事T0から開始し、次の食事時間または食事の7時間後、それら2つのうちの早い方までと定義される。食事が認識された後のピークのセンサ値は、Smmaxとして示される。ピーク後に生じた最小のセンサ値は、Smminとして示される。ピークが得られたときの各時間タグが、典型的には記録され、時間SmmaxとSmminの間の第2の時間ウィンドウを定義する。第2の時間ウィンドウ中のセンサデータが得られる。得られたセンサデータは、一連の[Ti,Vi]によって表すことができ、ただし、Tiは、食事の開始T0を基準にしたセンサ読取り値の時間タグであり、Viは、各Tiで測定したセンサ値である。
【0296】
いくつかの実施形態では、測定したセンサ読取り値は、正規化される。測定したセンサ読取り値は、0〜1の値に正規化することができる。Niは、各Viの正規化した値を表す。
【0297】
Niは、次のように計算することができる。
【0298】
Ni=Vi/(Smmax-Smmin)
【0299】
正規化した一連の値[Ti,Ni]は、このようにして得ることができる。
【0300】
いくつかの実施形態では、一連の値([Ti,Vi]または[Ti,Ni])は、単調な一連の値、例えば単調で増加しない一連の値などに変更される(または「強制される」)。したがって、一実施形態では、増加しない一連の値は、各Niと最小正規化Nj,j=1〜iを関係付けることによって得られる。
【0301】
すなわち、Ni=min( {Nj}, j=1:i)である。
【0302】
例えば、一連の値Nj={1,0.9,0.8,1.2,0.7}の場合、Niは{1,0.9,0.8,0.8,0.7}となる。
【0303】
食事ピーク値が、すなわちT0において、追加されてもよい。
【0304】
[T0,1]は、一連の値[Ti,Ni]の始めである。
【0305】
したがって、得られた一連の値は、ある特定の食事についての活性なインスリンAIiを表す。
【0306】
したがって、本発明は、食事のイベントに関連付けられるある時間ウィンドウでの血中インスリン/グルカゴンを記述する一連の値または曲線を決定する方法を提供し、この方法は、T0で開始する時間ウィンドウ中で測定した複数のセンサデータを得る段階と、食事の発生時間を表す段階と、適宜、センサデータを正規化する段階と、測定したセンサデータ(または正規化したセンサデータ)を単調な増加しない一連の値または曲線に変換する段階と、それによって食事のイベントに関連付けられる時間ウィンドウでの血中インスリン/グルカゴンを記述する一連の値または曲線を得る段階とを含む。
【0307】
血中インスリン/グルカゴンを記述する一連の値または曲線を決定する方法は、開ループセッション中にまたは閉ループセッション中に(すなわちリアルタイムに)実行できる。したがって、患者の治療プロフィールは、初期学習フェーズにおいてもしくはその前に、または治療中に変更することができる。
【0308】
いくつかの実施形態では、時間ウィンドウ中で測定した複数のセンサデータは、一連の値[Ti,Vi]によって表すことができ、ただし、Tiは食事の開始T0を基準にしたセンサ読取り値の時間タグであり、Viは、各Tiで測定したセンサ値である。
【0309】
いくつかの実施形態では、測定したセンサデータを単調な増加しない一連の値に変換する段階は、結果として得られた単調な増加しない一連の値の各Viを、測定したセンサデータにおける最小Vj,j=1〜Iに関係付ける段階を含む。
【0310】
いくつかの実施形態では、正規化した測定したセンサデータを単調な増加しない一連の値に変換する段階は、結果として得られた単調な増加しない一連の値の各Niを、正規化したセンサデーにおける最小正規化Nj,j=1〜Iに関連付ける段階を含む。
【0311】
食事が2回以上行われる場合、一セットの食事についての活性なインスリン一連の値を得ることができる。一実施形態では、一セットの食事についての活性なインスリンは、全ての食事の一連の値{AIi}の中央値である。AI_totalとして示された結果として得られた一連の値は、活性なインスリン曲線を表す。これらの値は、治療を受けた患者の中で未だに活性であるインスリンの割合を表す。例えば、AI_total一連の値内の[t=25,v=0.8]の要素は、ボーラス注入後25分で、インスリンの80%の割合が未だに活性であったことを示し得る。
【0312】
いくつかの実施形態では、基本計画は監視され、適宜変更される。インスリンのベーサルレートは、典型的には、グルコース値の動態に影響を及ぼすが、この影響は炭水化物の摂取(食事)および所与のインスリン(ボーラス)の観察された効果に比べてわずかである。したがって、開ループデータは、食事またはボーラスインスリンの影響を受ける可能性のあるグルコース値の全てのセグメントを取り出すことによって「クリーン」にされる。
【0313】
いくつかの実施形態では、食事および/またはボーラス注射の両方のウィンドウまたはゾーンの効果が、(自動的に、または医者などによって手動によって)決定される。例えば効果ゾーンは、ボーラスまたは食事を与えてから測定して3時間後であり得る。適宜、効果ゾーンは、ボーラスまたは食事を与えてから測定して2、3.5、4、6または8時間後、あるいはさらにそれ以上であるように設定される。
【0314】
効果ゾーン中のグルコースセンサ読取り値(G(t))およびベーサルレート(B(t))は、「クリーンデータ」と呼ばれ得る。時間(t)におけるグルコース値の変化は、DG(t)=dG/dtによって定義することができる。
【0315】
B(t)のベーサルレートは、注入によって引き起こされる遅延時間により、DG(t+A)に影響を及ぼす。A、時間遅延は、A=argmax(A,E{B(t)DG(t+A)})を決定することに由来し得るものであり、式中Aは、乗算した一連の値B(t)*DG(t+A)の期待値を最大化するパラメータである。
【0316】
Aが与えられると、一連の[DG(t+A),B(t)]を定義することができる。したがって、いくつかの実施形態では、ボーラス注射とグルコース値の変化の間の関係は、一連の値[DG(t+A),B(t)]によって表され、それによって一連のベーサル治療レートおよび治療を受けた患者のグルコース値の対応する変化を得る。適宜、一連の値[DG(t+A),B(t)]は、DG(t+A)=0のときにB(t)を見つけるための一連の値が内挿されてもよく、それによって一連のベーサル治療レートからのグルコース値(例えばB(t))の変化を最小にするベーサル治療レートを選択することを可能にする。得られたベーサル治療レートは、例えば、得られたベーサル治療レートを基本計画の要素として挿入することによって治療を受けた患者の基本計画を変更するために使用することができる。したがって、得られたベーサル治療計画は、グルコース値の最小変化をもたらす。患者の個人的な基本計画を制御するために、この方法を使用することができる。
【0317】
したがって、本発明の一態様では、本発明は、インスリンを必要としている患者に適したインスリン基本計画を決定する方法に関し、この基本計画は、治療を受けた患者のグルコース値の変化を減少させることによって特徴付けられる。インスリン基本計画は、一連のベーサル治療レートに由来する。したがって、得られた基本計画は、最適であり得る。この方法は、開ループ制御中または閉ループ制御中に実行することができる。
【0318】
インスリンを必要としている患者の一連のベーサル治療レートからインスリン基本計画を決定する方法は、時間の関数として一連のベーサル治療レートを得る段階と、時間の関数として患者のグルコース値の測定データを得る段階と、時間の関数としてグルコース値の一連の変化を決定する段階と、一連のベーサル治療レートおよびグルコース値の一連の変化から評価される治療を受けた患者の個人的な時間遅延を決定し、それによって一連のベーサル治療レートおよび患者のグルコース値の対応する変化を取得する段階と、グルコース値の変化を最小にするベーサルレートを組み込む基本計画を選択する段階とを含む。
【0319】
いくつかの実施形態では、患者のグルコース値の測定データは、G(t))として上述のグルコースセンサ読取り値に由来する。いくつかの実施形態では、時間の関数としてのベーサル治療レートは、B(t)として上述のベーサルレートに由来する。
【0320】
いくつかの実施形態では、この方法は、所定の効果ゾーン中適用される。いくつかの実施形態では、時間(t)におけるグルコース値の変化は、DG(t)=dG/dtによって定義することができる。
【0321】
いくつかの実施形態では、治療を受けた患者の個人的な時間遅延は、A=argmax(A,E{B(t)DG(t+A)})であるように、乗算した一連の値B(t)*DG(t+A)の期待値を最大にすることによって決定され、ただし、Aは、乗算した一連の値B(t)*DG(t+A)の期待値を最大にするパラメータである。
【0322】
いくつかの実施形態では、連続的な学習手続き(またはルーチンの学習)は、観察可能/測定データに応じてインスリン感受性因子(例えばCF)を変更する。このインスリン感受性因子は、セット{CF(i),LOG(i)}のうちの少なくとも1つに応じて変更することができ、ただし、CF(i=1)は第1のCFであり、LOG(i=1)は、CF(i=1)の対応する期間、すなわちシステムがCF(i)を利用した時間帯についての関連のあるLOGである。
【0323】
連続的な学習手続きの第1のステップは、セット中の最新のCFおよびLOGによる因子aを決定することである。これらは、便宜上、CF(END)およびLOG(END)として示す。LOG(END)は、システムがCF(END)を利用した対応する時間帯/期間を定義する。因子aは、初期学習手続きに関して以前に示したように決定することができる。
【0324】
変更した補正係数CFnewは、次のように、すなわち、CFnew=a*CF(END)として決定することができる。いくつかの実施形態では、変更した補正係数は、合理的または安全と検証される。変更した補正係数の検証は、制約を強制することによって実行することができる。例えば、制約が満たされていない場合、2つの制約が、変更したCFnewを変化させる。この制約は、2つの境界を含み得る。
【0325】
2つの制約は、
1.CFnew>UP_境界の場合、CFnew=UP_境界とし、
2.CFnew<DOWN_境界の場合、CFnew=Down境界とする。
ただし、UP_境界およびDOWN_境界は、次のように定義することがでる。
【0326】
UP_境界は、{CF(i),LOG(i)}の最小CFとして定義され、関連があるLOG(i)に達した最小センサ値は、ある閾値、例えば70mg/dlを上回っていた。
【0327】
DOWN_境界は、以下のものによって定義することができる。
【0328】
50未満の最小センサ値をもたらした最大CFは、最小センサ値LEV1を有するCF1であると定義される。
【0329】
50を超える最小センサ値をもたらした最小CFは、最小センサ値LEV2を有するCF2であると定義される。
【0330】
両方のCFが存在し、CF1<CF2である場合、下側境界は以下のように定義される。
DOWN_境界=(70-LEV1)/(LEV2-LEV1)*(CF2-CF1)+CF1
【0331】
以下のものは、本発明のモニタリングシステムおよび方法を用いた臨床試験の結果である。
【0332】
研究対象の集団は7人の患者、女性5人および男性2人、年齢19〜30歳からなる。糖尿病の平均継続時間は、10±4年であり平均HbA1Cは6.6±0.7%であり、平均体格指数は22±2.5kg/m2であった。患者の人口統計データ、糖尿病歴、および他の重要な病歴が、身長、体重、およびHbA1cレベルに加えて記録された。患者は、CGS(Freestyle Navigator(商標)、Abbott Diabetes Care、Alameda、カリフォルニア州、米国、またはSTS-Seven(登録商標)システム、DexCom、San Diego、カリフォルニア州、米国)を身に着け、患者の食事および身体活動を3〜5日連続して記録した。これらデータおよび(インスリンポンプから取り込んだ)対応するインスリン投与量は、本発明のモニタリングシステムに適用するための患者の治療歴を形成するために使用された。
【0333】
短時間作用型インスリン類似体(NovoRapid(登録商標)、Novo Nordisk、Bagsvaerd、デンマーク)が、臨床試験に使用された。CGS読取り値は、(自動的または手動で)5分ごとに本発明のモニタリングシステムに取り込まれ、入るたびにこのシステムは、インスリン投与推奨を与えた。
【0334】
範囲制御は90〜140mg/dlで設定され、目標制御は110mg/dlで設定された。各臨床セッションは、糖尿病専門医によって監督され、この糖尿病専門医が、いずれの治療推奨も、ポンプによって患者に自動的または手動で送達される前に、承認しなければならなかった。参照血糖値は、YSI 2300 STAT Plus (YSI、USA)によって30分ごとに測定された。参照血糖値が70mg/dlを下回って低下したときに、炭水化物が投与された。
【0335】
8時間の閉ループ制御が、2つの条件、断食または食事の下で、安静状態で行われた。被験者のインスリンポンプは、研究インスリンポンプ(OmniPod Insulin Management System(商標)、Insulet Corp、Bedford、マサチューセッツ州、米国またはMiniMed Paradigm(登録商標)722 Insulin Pump、Medtronic、Northridge、カリフォルニア州、米国)によって置き換えられた。断食、閉ループの条件では、被験者は夜間絶食後に朝(通常08時00分)に病院に到着し、目覚めたとき(通常06時30分)に血糖を測定するように指導を受けた。低血糖ではなくその値が120mg/dl未満であれば、被験者は、1〜2枚スライスしたパンを食べるように求められた。食事が課題の閉ループ制御では、患者は、約8時間の断食後に病院に到着し、含有量40〜60grの炭水化物を含む混合食を摂取した。
【0336】
2回の24時間閉ループの訪問が行われた。被験者は、少なくも3時間の断食の後の午後に病院に到着した。被験者のインスリンポンプは、通常のPCと通信する機能を有する変更されたOmniPodインスリンポンプと置き換えられた。3度の標準的な混合食が、患者の日常の食事に基づいて19時30分、08時00分、および13時00分に摂取された。食事ごとの炭水化物の推定含有量は、17.5〜70grであった。各患者は、研究期間中の夜には7〜8時間睡眠した。
【0337】
8時間の閉ループ制御中に本発明のモニタリングシステムの制御性能を調査するために、グルコース変動および安定化度の2つのパラメータが解析された。
【0338】
グルコース変動は、ピークの食後のグルコース値と、閉ループ制御の開始からグルコース値が180mg/dl未満へ戻るまでの時間とによって決定される。
【0339】
安定グルコース値は、少なくとも30分の期間にわたって±10mg/dlの変化であるとして定義された。閉ループ制御または食事時間の開始から安定状態が得られるまでの時間、および安定状態での平均グルコース値が、計算された。
【0340】
加えて、24時間の閉ループ制御、および患者の家での開ループ制御が比較された。70〜180mg/dlの範囲内およびその上下の範囲でグルコースの読取り値の割合が決定された。開ループ制御のデータセットは、24時間の閉ループ制御の前の3日間からのセンサ読取り値を含んだ。コントロールバリアビリティグリッド解析(Control variability grid analysis)(CVGA)[非特許文献9]が、副項目評価としての役割を果した。この解析では、開ループデータセットは、9〜16日間からのセンサ読取り値を含んだ。CVGAは、24時間および夜間(00時00分〜08時00分)の2つの期間にわたって行われた。
【0341】
全ての実験の間、糖尿病の医師が、本発明のモニタリングシステムの治療提案の1つ1つの示唆に承認を与えた。
【0342】
8時間の閉ループセッション臨床研究の平均および範囲の結果をまとめたTable 1(表11)を参照する。
【0343】
【表11】

【0344】
合計9回の閉ループ制御セッションが、6人の被験者について安静で絶食状態下で行われた。平均血糖値は、閉ループ制御の開始時に237mg/dlであったが、4.4時間以内に106mg/dlまで減少した。低血糖の発症はなかった。
【0345】
断食セッションのうちの1つの間、本発明のモニタリングシステムは、患者が病院に到着する前に、インスリンの過剰投与が患者によって送達された後の低血糖発症を防ぐことに成功した。本発明のモニタリングシステムは、患者のグルコース値の全体傾向を検出し、過剰投与を考慮に入れ、次いでインスリンのベーサルレートを完全に止めるように減少させた。この作用により、患者のグルコース値を2時間以内に安定平均80mg/dlに下げることに成功した。
【0346】
3回の食事課題セッションは、2人の被験者によって行われた。食事は、食事摂取後に平均23分でモジュールによって検出され、処理された。ピークの食後のグルコース値は、平均で234mg/dlであり、最大は251mg/dlだった(Table 1(表11)参照)。食事課題セッションの場合、血糖値は、平均で2.5時間以内に180mg/dl未満に減少し、少なくとも1時間あった後、3.5時間以内に正常の範囲で安定化した。
【0347】
2つの24時間の閉ループ制御が、被験者#1(女性、30歳、BMI 22.9kg/m2、HbA1c 5.9%、糖尿病継続時間19年)、および#2(男性、23歳、BMI 21.2 kg/m2、HbA1c 7%、糖尿病継続時間8年)に対して行われた。夜間中、血糖値は80〜160mg/dlの範囲であり、最低点は、被験者#1の場合93mg/dl、および被験者#2の場合80mg/dlであった。
【0348】
被験者#1の24時間の閉ループ制御を示す図7A〜図7Dを参照すると、グルコース値は、夕食後260mg/dl、朝食後190mg/dl、および昼食後210mg/dlでピークとなった。被験者#2についての対応する値は、221mg/dl、211mg/dl、および219mg/dlであった。食事と食事の間、グルコース値は、両被験者については平均2.7±0.8時間以内に180mg/dl未満に戻った。セッション全体(8時間および24時間)にわたる平均のピークの食後のグルコース値は224±22mg/dlであり、グルコース値は、平均間隔2.6±0.6時間で180mg/dl未満に戻った。安定するまでの平均時間は4±1時間であった。
【0349】
図7Aは、CGS読取り値(黒線)、基準測定値(黒ダイヤ)、および食事時間(黒三角)を含むグルコーストレースを示す。図7Bは、被験者#1の24時間閉ループ試験中の本発明のモニタリングシステムによって送達されるインスリン治療を示す(水平線はベーサルレートを表し、黒円付きの垂直線は、インスリンボーラス線-ベーサルレートおよびステム-インスリンボーラスを表す)。コントロールバリアビリティグリッド解析(CVGA)[非特許文献9]を用いた在宅ケア(円)と本発明のモニタリングシステム(四角)の間の制御性能の比較の結果は、図7C(期間24時間)および夜間の図7Dに示されている。図7Cは、被験者#1についての24時間の期間にわたるコントロールバリアビリティグリッド解析(CVGA)を示す。図7Dは、被験者#1についての終夜のコントロールバリアビリティグリッド解析(00:00〜08:00)を示す。CVGAの9つのゾーンは、様々な質の血糖調整(glycemic regulation)に関連付けられており、A-正確な制御、下側B-問題のない低血糖へのずれ、B-問題のない制御のずれ、上側B-問題のない高血糖へのずれ、下側C-低血糖のオーバー補正、上側C-高血糖のオーバー補正、下側D-低血糖の取扱い不全、上側D-高血糖の取扱い不全、およびE-誤った制御である。両図において、円は、在宅ケア中の関連のある期間のグルコース読取り値から得られる最小/最大グルコース値を表し、四角形は、本発明のモニタリングシステムを用いて調節された閉ループ制御中の値を示す。
【0350】
制御性能解析に基づいて、グルコース制御は、プレ研究の在宅ケアよりも、本発明の方法を用いて調整された24時間閉ループ制御中により良いことを見出した。
【0351】
試験日前の3日間の開ループ期間にわたる70.5%に比べて、測定されたセンサ値の73%が、閉ループ制御中に70〜180mg/dlであった。加えて、開ループ制御の15.3%に比べて、閉ループ制御中に70mg/dlを下回るセンサ読取り値はなかった。しかし、開ループ制御中の14.2%に比べて、センサ値の27%が、閉ループ制御中に180mg/dlを超えた。CVGAでは、モニタリングシステムは、24時間の視点にわたって良性の制御を維持したのに対し、在宅ケアの被験者は、補正し過ぎ、低血糖の管理に失敗した。夜間中も、モニタリングシステムは、良性すなわち正確な制御を維持したのに対し、在宅ケアは、大きな変動によって特徴付けられた。被験者#1のこの解析結果は、図7C〜図7Dに示されている。
【0352】
図7Cおよび7Dに示すように、CVGAを使用してモニタリングシステムの性能と、家での開ループ制御の性能を比較した。この結果、開ループ制御中、被験者#1および被験者#2の両者について1日あたり60mg/dl未満のグルコースの記録が少なくとも1回あったことが分かった(図7C)。概して、これらの値は、日中の食事の後に出現し、食後のグルコース変動の制御が不十分であることを示した。2つの24時間閉ループ実験だけが行われたが、CVGAは、昼夜にわたってモニタリングシステムに関する大きな改善を示した(図7Cおよび図7D)。ピークの食後のグルコース値が、両システムにおいて同様であったのに対して、モニタリングシステムだけが、遅い食後の低血糖を防いだ。
【0353】
8時間または24時間の閉ループ制御中、低血糖の発症は起こらなかった。2つの場合で(8時間の閉ループ制御)、約10分間グルコース値が62〜65mg/dlの範囲にある状態で、差し迫った低血糖イベントが検出された。被験者は低血糖の徴候を感じなかったが、医師は、安全のために速効の炭水化物(fast carbohydrate)15grの投与を決断した。
【0354】
実現性の研究が、1型糖尿病(年齢19〜30歳、平均糖尿病継続時間10±4年、平均HbA1C、6.6±0.7%)の7人の成人で行われた。全員が8時間(絶食状態および食事状態)および24時間の14回の完全な閉ループ制御セッションを受けた。
【0355】
平均のピークの食後の(全体セッション)グルコース値は、224±22mg/dlであった。食後のグルコース値は、2.6±0.6時間以内に180mg/dl未満に戻り、少なくとも1時間あった後も正常の範囲で安定を留めた。24時間の閉ループ制御中、センサ値の73%が70〜180mg/dlの範囲にあり、27%が180mg/dlを超え、70mg/dl未満はなかった。どの試験中も症状を示す低血糖の発症はなかった。
【0356】
グルコース値は、夜間、正常の範囲(80〜160mg/dl)近くで維持された。モニタリングシステムは、患者のグルコース値の下降傾向全体を検出することによって夜の低血糖を防ぎ、次いで完全に止まるようにインスリンのベーサルレートを減少させた。14回の閉ループ制御のうちの2回において、差し迫った無症状性の低血糖の短いインシデントがあった。被験者は、病院の日前に症状を示す夜の低血糖イベント(50mg/dl未満)を経験し、これは自宅で治療した。モニタリングシステムは、妥当な治療提案を行い、これは担当の糖尿病医師によって承認を受け、患者のベーサルレートを完全に止めるように下げることによってグルコースの下降傾向に対処した。医師は、低血糖再発の危険の増加を考慮し、したがって実験を止めた。
【符号の説明】
【0357】
10 治療システム
20 モニタリングシステム
22 グルコース測定装置、連続グルコースセンサ
24 薬物送達装置、インスリンポンプ
30 制御部
32 メモリユーティリティ、履歴ログ
34 第1のプロセッサモジュール、データ解析、データ解析モジュール
36 第2のプロセッサ、範囲制御モジュール、ファジー論理モジュール
38 目標制御モジュール
100 参照データ
102 患者のプロフィール、患者のプロフィール関連データ
104 治療歴関連データ
105 ルール構造の設定、「ルールのテーブル」の設定
106 測定データ
208 測定データ、現在の血糖値
302 イベント検出器、イベント検出モジュール
304 休息時間コントローラ
306 食事治療コントローラ
402 CRM、範囲制御モジュール
404 CTM、目標制御モジュール
502 CRM、範囲制御モジュール
504 CTM、目標制御モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の糖尿病治療のモニタリングに用いるモニタリングシステムであって、
血糖値を示す測定データを処理し、血糖値を示す第1の処理データを生成する第1のプロセッサモジュール、および
少なくとも1つのファジー論理モジュールを備える第2のプロセッサモジュール
を含む制御部を備え、前記ファジー論理モジュールが、前記測定データ、前記第1の処理データ、および個別の患者のプロフィール関連データや個別の患者の治療歴関連データを含む参照データに対応する入力パラメータを受信し、受信した前記パラメータを処理して患者の治療パラメータを示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生成し、前記第2のプロセッサモジュールが、いずれかの前記治療パラメータを変更するか決定するようになっているシステム。
【請求項2】
前記第2のプロセッサモジュールが、範囲制御出力治療提案を与える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記範囲制御出力治療提案が、インスリンのベーサルレート、インスリンボーラス、またはグルカゴンボーラスのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記入力パラメータが、以下の入力パラメータ、すなわち、過去の血糖値傾向、現在の血糖値、未来の血糖値傾向、未来の血糖値のうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのファジー論理モジュールが、前記入力パラメータを少なくとも1つの定性的な出力パラメータに変換するためにモデル化された1つまたは複数のメンバー関数を利用する、ルールのセットおよび少なくとも1つのファジーエンジンを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記ファジー論理モジュールの前記少なくとも1つの出力パラメータが、ボーラスグルカゴン、ボーラスインスリン、およびベーサルインスリン治療のうちの少なくとも1つを示すデータを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記制御部が、前記ファジー論理モジュールの前記少なくとも1つの定性的な出力パラメータを受信し、前記少なくとも1つの出力パラメータを処理して、前記いずれかの前記治療パラメータを変更するか決定する第3のプロセッサモジュールを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記制御部が、送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの投与量を決定する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第3のプロセッサが、範囲制御出力治療提案を受信し、前記患者のプロフィールのグルコース目標に応じて前記量を決定する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記量が、患者のインスリンまたはグルカゴンの薬力学および前記測定データのうちの少なくとも1つに応じて調整される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記制御部が、薬物注射装置に関連付けられ、前記薬物注射装置の動作を制御するように構成されると共に動作可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記参照データおよび前記測定データのうちの少なくとも1つを受信するデータ送受信装置を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記データ送受信装置が、前記制御部の前記少なくとも1つの出力パラメータを前記薬物注射装置へ伝送するように動作可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記個別の患者のプロフィール関連データが、インスリン感受性、グルカゴン感受性、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値または目標範囲値、およびインスリン/グルカゴン活性モデルのうちの少なくとも1つから選択されるパラメータを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記システムが、治療中または手続きのモニタリング中に、前記個別の患者のプロフィール関連データを更新および/または較正するように動作可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記個別の患者の治療歴関連データが、一日の様々な時間で前記患者に与えられる患者のインスリン送達療法を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
各ルールが、寄与因子に関連付けられる、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記第2のプロセッサモジュールが、少なくとも1つのイベントを示すグルコース値の少なくとも1つのパターンを解析する検出器モジュールによって引き起こされるイベントに応答して動作可能なファジー論理モジュールを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記イベントが、睡眠、食事、運動および病気のイベントまたは休息のうちの少なくとも1つを含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記システムが、それぞれが異なるイベントを取り扱う少なくとも2つのファジー論理モジュールの間で交互に実行するように構成されると共に動作可能である、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
食事治療モジュールとして動作可能な前記第2のプロセッサモジュールが、前記血糖値を監視するように構成される、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記入力パラメータが、以下の入力パラメータ、すなわち、検出した特別なイベントの間の経過時間、前記特別なイベントに関する血糖値のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記測定データが、ある時間で得られる、請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記測定データが、前記ある時間に対する現在および過去のグルコース値を含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
糖尿病に関連した治療を自動モニタリングする方法であって、
個別の患者のプロフィール関連データや個別の患者の治療歴関連データを含む参照データを得る段階と、
薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される測定データを解析する段階と、
前記薬物注射装置の動作を制御して治療手続きのリアルタイム自動個別モニタリングを可能にすることによって、前記参照データに応じて治療変更について決定する段階と
を含む方法。
【請求項26】
前記治療変更について判断する段階が、前記個別の患者の治療歴関連データに応じて前記治療変更を決定する段階を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記個別の患者のプロフィール関連データを前記得る段階が、インスリン感受性、グルカゴン感受性、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値または目標範囲値、およびインスリン活性モデルのうちの少なくとも1つから選択されるパラメータを得る段階を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記治療に応じて前記患者のプロフィール関連データを更新する段階を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
個別の患者の治療歴関連データを前記得る段階が、一日の様々な時間で前記患者に与えられる患者のインスリン送達療法のうちの少なくとも1つを得る段階を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記データを解析する段階が、血糖値を示す測定データを処理する段階と、血糖値を示す第1の処理データを生成する段階と、患者の治療を示す少なくとも1つの定性的な出力パラメータを生成するように、前記測定データ、前記第1の処理データ、および前記参照データに対応する入力パラメータに少なくとも1つのファジー論理モデルを適用する段階とを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記測定データに対応する入力パラメータに少なくとも1つのファジー論理モデルを前記適用する段階が、血糖の傾向を様々なカテゴリーに分類する段階を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
測定したグルコース値に基づいて血中グルコース傾向を予測するための予測モデルを適用する段階を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つのファジー論理モデルを前記適用する段階が、それぞれが異なるイベントを取り扱うように構成される少なくとも2つのファジー論理モデルの間で交互に実行する段階を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
治療変更について判断する段階が、以下のもの、すなわち、個別の基本計画を制御する段階、目標値に対する現在の血糖値の補正、炭水化物の補正、ならびに送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの量の補正を示すインスリン/グルカゴン感受性を制御する段階、個別の血糖目標値を制御する段階、インスリンおよび/またはグルカゴン薬物動態セッティングを制御する段階のうちの少なくとも1つを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記個別の基本計画を制御する段階が、時間の関数として一連の個別のベーサル治療レートを得る段階と、前記測定データを得る段階と、前記一連の個別のベーサル治療レートのベーサル治療レートとグルコース値の変化との間の個別の時間遅延を決定して、それよって時間遅延での一連のベーサル治療レートおよび対応するグルコース値の変化を得る段階と、前記グルコース値の変化を最小にする前記ベーサルレートを組み込む基本計画を選択する段階とを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記データを解析する段階が、時間の関数として前記患者がある特別のイベントにある確率を決定する段階を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
前記特別なイベントを決定する段階が、睡眠、食事、運動、病気または休息のイベントのうちの少なくとも1つを決定する段階を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
糖尿病に関連した治療を自動モニタリングするのに用いる方法であって、
薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される開ループ測定データを解析し、患者の初期治療プロフィールを決定する段階と、
薬物送達装置およびグルコース測定装置のうちの少なくとも1つによって生成される測定データを連続的に受信する段階と、
閉ループ治療中に前記患者の初期治療プロフィールを更新する自己学習手続きを適用し、それによって前記糖尿病に関連した治療をモニタリングする段階と
を含む方法。
【請求項39】
前記患者の初期治療プロフィールが、目標値に対する現在の血糖値の補正、炭水化物の補正、ならびに送達されるインスリンおよび/またはグルカゴンの量の補正を示すインスリン感受性、基本計画、インスリン/グルカゴン薬物動態関連データ、グルコース目標値、または目標範囲値のうちの少なくとも1つを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記インスリン感受性を決定する段階が、以下のパラメータ、すなわち、前記患者によって摂取される炭水化物、測定データ、および患者の治療のうちの少なくとも1つを用いる段階を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
患者の初期治療プロフィールを前記決定する段階が、血中インスリン活性の量を決定する段階を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記血中インスリン活性の前記量を前記決定する段階が、ある特別のイベントの関数として前記量を決定する段階を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
インスリンを必要としている患者の一連のベーサル治療レートからインスリン基本計画を決定する方法であって、
時間の関数として一連のベーサル治療レートを得る段階と、
時間の関数として前記患者のグルコース値の測定データを得る段階と、
時間の関数としてグルコース値の一連の変化を決定する段階と、
前記一連のベーサル治療レートおよび前記グルコース値の一連の変化から評価される前記患者の個人的な時間遅延を決定し、それによって一連のベーサル治療レートおよび前記患者のグルコース値の対応する変化を得る段階と、
前記グルコース値の変化を最小にする前記ベーサルレートを組み込む基本計画を選択する段階と
を含む方法。
【請求項44】
患者が必要とする閉ループ治療に用いるインスリン感受性を決定する方法であって、
時間ウィンドウを定める第1のグルコースセンサ読取り値および第2のグルコースセンサ読取り値を得る段階と、前記第1のグルコースセンサ読取り値と前記第2のグルコースセンサ読取り値の間の差を得る段階と、
前記時間ウィンドウ内の摂取した炭水化物に由来するグルコースを評価することによって前記第1のグルコースセンサ読取り値と前記第2のグルコースセンサ読取り値の間の前記差を調整する段階と、それによって調整したグルコースの量を得る段階と、
前記時間ウィンドウ中の与えられる前記調整したグルコースの量とインスリンボーラスの間の関係に応じて前記インスリン感受性を決定する段階と
を含む方法。
【請求項45】
前記時間ウィンドウが、開ループセッションを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記調整する段階が、摂取した炭水化物と前記炭水化物によって得られるグルコースとの比率を定める係数を決定する段階を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記インスリン感受性を前記決定する段階が、前記時間ウィンドウ中の最小のセンサ読取り値と低血糖中でも低血糖でもないときに記録された最も低い血糖読取り値との間の比率に応じて前記インスリン感受性を変更する段階を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記インスリン感受性を前記変更する段階が、前記最小のセンサ読取り値を得る前の時間間隔における最大のセンサ読取り値に応じて前記インスリン感受性を変更する段階を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記インスリン感受性を前記変更する段階が、ある時間ウィンドウの間の前記患者の測定したグルコース値の存在を表すヒストグラムに応じて前記インスリン感受性を変更する段階を含む、請求項48に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【公表番号】特表2012−519018(P2012−519018A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551567(P2011−551567)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000161
【国際公開番号】WO2010/097796
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511207693)モール・リサーチ・アプリケーションズ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】