説明

糖尿病合併症治療薬

【課題】 本発明の目的は、長期投与においても安全性が高く、糖尿病合併症の予防および/または治療が行える薬剤を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、ベンゼン環を有するアスピリン、サリチル酸及びそれらの誘導体からなる化合物を配位子として含有する亜鉛有機錯体を、血圧降下作用、レプチン抵抗性改善作用、インスリン抵抗性改善作用をもつ化合物として提案し、糖尿病合併症の予防および/または治療薬として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下作用、レプチン抵抗性改善作用、およびインスリン抵抗性改善作用をもち、ベンゼン環を有するアスピリン、サリチル酸およびそれらの誘導体等からなる化合物を配位子として含有する亜鉛有機錯体を含む、医薬製剤および/または予防製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の合併症として特徴的な病変の一つとして、大血管障害が存在することが知られている(非特許文献1)。大血管障害は特に、心臓、脳などで血栓などを引き起こし、心筋梗塞、脳梗塞などを発症する。その結果、患者の生活の質、そして生命の予後に重要な影響を与えることが多い。
【0003】
糖尿病合併症の成因は、以下に示す複数の因子が関わっていると考えられている。(1)アルドース還元酵素を介するポリオール経路の代謝亢進、(2)タンパクの非酵素的糖化、(3)血管平滑筋や内皮細胞におけるβ2型プロテインキナーゼCの活性化、(4)酸化ストレスの亢進。
【0004】
ところで、亜鉛にはコレステロール低下作用、抗酸化作用などが知られているが、高容量を必要とする報告が多く、糖尿病合併症の発症、進展を効果的に予防することは難しいとされている(非特許文献2)。そのため、本発明においては、亜鉛イオンよりも毒性が低く、ほど良い安定性をもち、ほど良い脂溶性をもつ亜鉛錯体を合成し、糖尿病合併症に対する医薬製剤および/または予防製剤を提供することを目的とする。
【0005】
今回、配位子として用いたサリチル酸は、ヤナギの葉や樹皮に含まれ、古くから鎮痛作用や解熱剤として用いられてきた。単離されたサリチル酸は、鎮痛剤として広く使われるようになったが、胃を痛めるという副作用があり、サリチル酸をアセチル化したアスピリン(アセチルサリチル酸)が合成され、サリチル酸の欠点が克服された。今までに、アスピリンは、抗炎症作用、鎮痛作用、抗がん作用、血小板凝集抑制作用、血栓予防作用、および心臓の発作や卒中の原因となる血液凝固阻害作用をもつことが明らかにされており、大血管障害の予防薬の可能性を有している。100年間飲まれてきたアスピリンは、患者の健康回復に寄与すると同時に、疾患の予防にも効果があるとされている。
【0006】
一方、上述のように亜鉛には糖尿病の合併症を予防、治療できる作用を潜在的に有しており、アスピリン、サリチル酸およびそれらの誘導体との錯体を用いることは、相乗作用が期待されるにもかかわらず、糖尿病合併症の予防および/または治療に用いられたことはなかった。
【0007】
【非特許文献1】斎藤勇一郎、門脇孝、永井良三、医学のあゆみ、192、605−609(2000).
【非特許文献2】Wingertzahn M.A., Rehman K.U., Altaf W., Wapnir R.A., Pediatr Res, 53,434−439(2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
糖尿病の重篤な合併症として、心筋梗塞、脳血管障害などがある。そのため、それらを予防および/または治療するには高血圧の改善やインスリン抵抗性を改善する薬剤が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのような課題を克服するために、本発明は、亜鉛イオンよりも毒性が低く、ほど良い安定性をもち、ほど良い脂溶性をもつ亜鉛錯体からなる糖尿病合併症の予防および/または治療可能な薬剤を提供することを目的とする。本発明では、血圧降下作用、レプチン抵抗性改善作用およびインスリン抵抗性改善作用を有し、安全に糖尿病合併症の予防、治療が行える薬剤として、アスピリン、サリチル酸およびそれらの誘導体を配位子とする亜鉛錯体を提供することを目的とする。
【0010】
発明者らは、動物実験によって、アスピリン、サリチル酸およびそれらの誘導体を亜鉛イオンに配位させることで、亜鉛の吸収を高めると同時に、レプチン抵抗性、インスリン抵抗性を改善し、血圧降下作用を示すことを確かめた。この発明が解決しようとしている課題は、前記、亜鉛錯体を有効成分として含有する医薬組成物であり、高血圧、レプチン抵抗性、インスリン抵抗性を予防、治療する為の医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、前記した亜鉛錯体のほかに、さらに製薬上許容される単体およびそれらの混合物を含有してなる医薬組成物が好ましい。
【0011】
本発明は、亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物と亜鉛源とを含んでなる薬剤に関する。亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物としては、例えば、一般式(1)の他に、ベンゼン環を有する有機物類等が好ましいものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明で用いられる亜鉛源としては、ヒトおよび/または他の動物への投与に好適な亜鉛源であればどのようなものでもよいが、例えば、亜鉛の鉱産塩や亜鉛有機錯体などが好ましいものとして挙げられる。亜鉛の鉱産塩としては、例えば、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。なお、亜鉛源として亜鉛の鉱産塩を使用した場合には、pH調整剤として、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム等の塩基性水溶液や、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液を併用してもよい。本発明にかかる薬剤の形状は、粉末状、顆粒状、錠剤型、カプセル、液状、ゲル状、その他いずれのものでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る、亜鉛と錯体を形成し得る有機化合物と亜鉛源とを含んでなる薬剤は、亜鉛イオンよりも毒性が低く、ほど良い安定性をもち、ほど良い脂溶性をもち、かつ血圧降下作用、レプチン抵抗性改善作用およびインスリン抵抗性改善作用をもつ亜鉛錯体を含んでなる糖尿病合併症の予防および治療薬として大いに期待されるものである。また、本発明の亜鉛錯体は、長期間の摂取においても、実質的な副作用を伴わず、安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の製造例および実施例は、この発明を説明するために示したものであり、本発明はこれらの実施例や試験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
ビス(アスピリン)/亜鉛錯体([Zn(asp)(HO)])は、Singla and Wadhwa、小嶋らによって合成され、血糖値降下作用が報告されている。(非特許文献3、特許文献1参照)
【0016】
【非特許文献3】K. Singla and H. Wadhwa, Int. J. Phamaseutics, 108, 173−185 (1994).
【特許文献1】小嶋、吉川、梶原、桜井、谷口、血糖降下作用を有する亜鉛含有物、特開2004−155766.
【実施例2】
【0017】
ビス(5−ニトロサリチル酸)/亜鉛錯体([Zn(5NOsal)])の合成は、5−ニトロサリチル酸(2ミリモル)と水酸化リチウム(2ミリモル)をメタノールと水の混合溶液(1:1)に溶かし、30分後、その溶液に、塩化亜鉛(1ミリモル)のメタノール溶液を加え、一夜、攪拌放置する。生じた沈澱を集めて、メタノールで洗浄し、目的物を得た。
収率:65%.元素分析値:実験値、C:31.51、H:3.84、N:5.16、Zn(C1410)・5.8HOに対する計算値、C:31.48、H:3.70、N:5.24.
質量分析値: FAB(−) m/z 427 [M−H]
(薬理試験例1)
【0018】
血圧降下作用の評価には、2型糖尿病モデル動物のKK−Aマウスを用いた。KK−Aマウスに一日一回、14日間腹腔内に血糖値が250 mg/dL以上の日には、3 mg Zn/kg体重となるように、250 mg/dL以下の日には、1.5 mg Zn/kg体重となるように、100 mg/dL以下の日には、0.1 mg Zn/kg体重となるように、錯体を投与した。錯体投与時には、体重、摂餌量、摂水量の変化も同時にモニターした。14日間の投与終了後、血圧測定、血清レプチン濃度測定、血清インスリン濃度測定を行った。錯体投与群として、ビス(アスピリン)/亜鉛錯体、[Zn(asp)(HO)]およびビス(5−ニトロサリチル酸)/亜鉛錯体、[Zn(5NOsal)]を、腹腔内投与したときの血圧、血清レプチン濃度および血清インスリン濃度をそれぞれ図1−図3に示す。
【0019】
図1−3に示すように、錯体投与14日後の血圧は錯体を投与していない群と比較して、低下していた。血清レプチン濃度および血清インスリン濃度に関しても、錯体を14日間投与することにより低下していた。以上の結果より、本発明で提案された亜鉛錯体は、高レプチン血症、高インスリン血症を是正し、高血圧状態を改善し、糖尿病合併症の予防および治療薬として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ビス(アスピリン)/亜鉛錯体、[Zn(asp)(HO)]、およびビス(5−ニトロサリチル酸)/亜鉛錯体、[Zn(5NOsal)]を、一日一回14日間腹腔内投与したときの血圧降下作用を示すグラフ。p<0.05 vs. control, p<0.005 vs. control
【図2】ビス(アスピリン)/亜鉛錯体、[Zn(asp)(HO)]、およびビス(5−ニトロサリチル酸)/亜鉛錯体、[Zn(5NOsal)]を、一日一回14日間腹腔内投与したときの血清レプチン低下作用を示すグラフ。p<0.05 vs. control, **p<0.01 vs. control
【図3】ビス(アスピリン)/亜鉛錯体、[Zn(asp)(HO)]、およびビス(5−ニトロサリチル酸)/亜鉛錯体、[Zn(5NOsal)]を、一日一回14日間腹腔内投与したときの血清インスリン低下作用を示すグラフ。**p<0.01 vs. control, p<0.005 vs. control

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛と錯体を形成し得る、アスピリン、サリチル酸およびそれらの誘導体からなる有機化合物を配位子とする亜鉛源とを含んでなる、糖尿病合併症の予防および/または治療のための薬剤。
【請求項2】
亜鉛源が亜鉛の鉱産塩又は有機錯体である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
サリチル酸類が、次式の一般式(化1)、
【化1】

(式中、Rは、水酸基、低級アルコキシ基、又は低級アルキル基で置換されてもよいアミノ基を示し、RおよびRは、各々独立して水素、アルコキシ基、アルキル基、ニトロ基、ハロゲン基又は水酸基を示す。)で表されるベンゼン環を有する誘導体。
【請求項4】
ベンゼン環を有する有機物類が、一般式(化1)で表される化合物およびそれらの混合物からなる請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
糖尿病の合併症の予防および/または治療のための薬剤が、血圧降下作用、レプチン抵抗性改善作用、インスリン抵抗性改善作用を有するものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−8834(P2007−8834A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189149(P2005−189149)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(305029830)
【Fターム(参考)】