説明

糖尿病患者における虚血性疾患の予防のための医薬

【課題】糖尿病患者において優れた血栓又は塞栓形成抑制作用を発揮することができる医薬を提供する。
【解決手段】式(1)のアミノアルコキシビベンジル類又はその塩を有効成分として含み、糖尿病患者において血栓又は塞栓の形成により引き起こされる虚血性疾患を予防するための医薬〔R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基;R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基;R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(nは1〜5の整数)、又はO−CO−(CH2l−COOH(lは1〜3の整数);R4は−N(R5)(R6)(R5及びR6は水素原子又はC1〜C8のアルキル基)など;mは0〜5の整数を表わす〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖尿病患者において優れた血栓又は塞栓形成抑制作用を発揮することができ、糖尿病患者において高い頻度で発生する脳梗塞や急性冠症候群などの血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患の予防のために有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞には主として動脈硬化に由来すると考えられる脳血栓と心臓弁膜症や心房細動などに伴う脳塞栓がある。脳血栓は脳動脈硬化の進展に伴い一部の領域に血栓が生じて血流が途絶する場合や、血管腔の著しい狭窄のために虚血性循環障害を生じる場合などがあり、前駆症状として短時間のうちに回復又は改善する一過性脳虚血発作(TIA)を繰り返した後に大発作に至る場合が多い。脳塞栓は脳以外の部分で形成された血栓が栓子として脳血行に入り、脳血管の一部を閉塞することにより生じる。心筋梗塞は冠動脈の大きな分岐に閉塞が生じてその灌流域に広範な壊死を生じる疾患であり、冠動脈閉塞の大部分は血栓により生じる。また、急性心筋梗塞の治療として行われる冠動脈バイパス術(CABG)や経皮経管冠動脈形成術(PTCA)の施術後に血栓や塞栓の形成傾向が高まることも知られている。
【0003】
血栓や塞栓により引き起こされるこれらの虚血性発作の患者は、多くの場合、高血圧症や糖尿病などの基礎疾患を伴うことが知られており、特に糖尿病の患者では高率にこれらの虚血性発作を発症することが知られている(本邦において耐糖能異常における脳梗塞の相対危険度は男性1.60倍、女性2.97倍であり、糖尿病は脳梗塞発症のリスクを2〜3倍高くする危険因子であるとされている:糖尿病、36、pp.17−24、1993; 脳卒中治療ガイドライン2004、「2.脳梗塞慢性期、2−1.危険因子の管理と再発予防 糖尿病」)。実際、脳梗塞の患者の半数、心筋梗塞の患者では約3分の1が糖尿病に罹患しているが、これは糖尿病においては動脈硬化が進行しやすいことが原因になっているものと考えられている。また、糖尿病の患者では多発性脳梗塞やラクナ脳梗塞などの小さな脳梗塞が起こりやすいとされており、これらの小さな脳梗塞はほとんど自覚症状がないまま徐々に進行する。従って、糖尿病患者に対しては、血栓や塞栓により引き起こされる虚血性発作を予防することが極めて重要であり、そのための薬物療法が必要になる。
【0004】
脳梗塞や急性心筋梗塞の発作は血液中のフィビリノゲンが凝固してフィブリンとなった塊が血栓となって引き起こされる場合が多いことから、これらの虚血性発作の緊急時の薬物療法としてフィブリン溶解酵素活性化剤であるウロキナーゼなどの血栓溶解剤が用いられている。一方、血栓や塞栓が原因となって引き起こされる虚血性発作を予防するためには抗血小板剤などが用いられている。抗血小板剤としては、例えば、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、シロスタゾール、又はクロピドグレルなどが知られているが、これらは血小板の粘着、凝集、放出などの機能の抑制、トロンボキサン合成や血栓形成の抑制などの作用を有している。
【0005】
代表的な抗血小板剤であるアスピリンは安全性の高い医薬としてこの目的のために汎用されており、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、及び虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作、脳梗塞)における血栓・塞栓形成の抑制、並びに冠動脈バイパス術(CABG)又は経皮経管冠動脈形成術(PTCA)の術後における血栓・塞栓形成の抑制などを目的として、予防的に1日あたり100mg経口投与されている(アスピリンの上記効能・効果については、抗血小板剤「バイアスピリン」(アスピリン腸溶錠、バイエル薬品株式会社製造販売)の添付文書を参照のこと)。また、糖尿病患者における虚血性心疾患などの予防にアスピリンを用いることが米国糖尿病学会(American Diabetes Association)で推奨されている(Deabetes Care,27、S72、Supplement 1、January 2004)
【0006】
一方、下記式(2):
【化1】

で表される塩酸サルポグレラートに代表される特定構造のアミノプロポキシビベンジル類は5HT2受容体に高い選択性を示し、血圧にほとんど影響を与えないことが報告されており、重篤な副作用もほとんどなく、高い安全性を示す薬剤である。塩酸サルポグレラートについては、これまで脳循環障害、虚血性心疾患、末梢循環障害等の疾患における血栓生成及び血管収縮に基づく種々の微小循環障害の改善に有効であることが知られており(特開平2−304022号公報)、血栓・塞栓形成の抑制剤として有用であることも知られている(国際公開WO03/26636)。しかしながら、上記国際公開には塩酸サルポグレラートについて糖尿病患者における血栓・塞栓形成の抑制作用については示唆ないし教示がない。
【特許文献1】特開平2−304022号公報
【特許文献2】国際公開WO03/26636
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、糖尿病患者において優れた血栓又は塞栓形成抑制作用を発揮することができる医薬を提供することにある。また、本発明の課題は、糖尿病患者において高い頻度で発生する脳梗塞や心筋梗塞などの血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患を予防することができ、あるいはCABG又はPTCA後に糖尿病患者において頻発する血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患の再発を予防することができる医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行っていたが、その過程で、脳梗塞予防のために非糖尿病患者にアスピリン又は塩酸サルポグレラートを投与すると、アスピリンのほうが塩酸サルポグレラートよりも脳梗塞の再発件数が少ないという知見を得た(アスピリンを投与した532症例中、35例に脳梗塞の再発が認められたのに対して、塩酸サルポグレラートを投与した548症例中、53例に脳梗塞の再発が認められた)。さらに、驚くべきことに、糖尿病患者においては塩酸サルポグレラート投与群のほうがアスピリン投与群よりも優れた予防効果を達成でき、非糖尿病患者において得られた結果とは逆の結果が得られることを本発明者らは見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0009】
すなわち、本発明により、下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬が提供される。
【化2】

〔式中、R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、又はO−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4は−N(R5)(R6)(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はC1〜C8のアルキル基を表わす。)又は
【化3】

(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす。)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
【0010】
また、下記式(2)で表わされるアミノアルコキシビベンジル化合物、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬;及び
【化4】

下記式(3)で表わされるアミノアルコキシビベンジル化合物、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬;
【化5】

及び塩酸塩の形態の上記の各医薬が提供される。
【0011】
上記発明の好ましい態様によれば、虚血性疾患が虚血性脳血管障害(好ましくは一過性脳虚血発作及び脳梗塞など)、又は急性冠症候群(acute coronary syndoromes:ACS、好ましくは心筋梗塞及び不安定狭心症など)である上記の医薬;虚血性疾患が脳梗塞である上記の医薬;虚血性疾患が血栓又は塞栓の形成により引き起こされるものである上記の医薬;血栓又は塞栓の形成が冠動脈バイパス術(CABG)又は経皮経管冠動脈形成術(PTCA)の施術後における血栓又は塞栓形成である上記の医薬が提供される。
【0012】
別の観点からは、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者において血栓又は塞栓形成の再発を抑制するための医薬が本発明により提供される。
【0013】
さらに別の観点からは、本発明により、上記医薬の製造のための上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の使用;糖尿病患者において血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患を予防する方法であって、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の予防有効量を糖尿病患者に投与する工程を含む方法;糖尿病患者において血栓又は塞栓の形成の再発を抑制する方法であって、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質の予防有効量を糖尿病患者に投与する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬は、糖尿病患者において高い頻度で発生する脳梗塞や急性冠症候群などの血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患を予防することができ、あるいはCABG又はPTCA後に糖尿病患者において頻発する血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患の再発を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の医薬は、上記一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含む。
【0016】
1は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のC2〜C6のジアルキルアミノ基を示す。R2は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC1〜C5のアルコキシ基を示す。R3は水素原子;ヒドロキシル基;−O−(CH22 −COOH、−O−(CH23−COOH等の−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を示す);−O−CO−(CH22−COOH、−O−CO−(CH23−COOH等の−O−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を示す)を示す。R4はアミノ基、若しくはメチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の炭素数1〜8のアルキル基を1〜2個有するアミノ基を示すか、又はトリメチレンアミノ基、ペンタメチレンアミノ基、3−カルボキシペンタメチレンアミノ基等の環にカルボキシル基が置換していてもよい4〜6員のポリメチレンアミノ基を表わす。
【0017】
上記一般式(1)に包含される化合物のうち、本発明に好ましく用いられる化合物のいくつかを表−1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
これらのなかでも、アミノアルコキシ基−OCH2C(R3)H−(CH2m−R4がフェニル基の2−位に結合している化合物が好ましい。また、R1は水素原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基が好ましく、R2は水素原子が好ましく、R4は少なくとも1個のC1〜C8のアルキル基を有するアミノ基又はトリメチレン基ないしはペンタメチレン基を有する4〜6員のポリメチレンアミノ基であるのが好ましく、mは0〜2の整数であることが好ましい。特に好ましいのは、R1がメトキシ基であり、R2が水素原子であり、R3が水酸基であり、R4がジメチルアミノ基であるNo.15の化合物(以下、本明細書においてこの化合物を「M−1」と呼ぶ場合がある)及びそのコハク酸エステルであるNo.14の化合物である。
【0021】
一般式(1)で表わされる化合物の薬学的に許容される塩を形成する酸としては、例えば塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、プロピオン酸、酒石酸、マレイン酸、蓚酸、クエン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が用いられる。一般式(1)で表わされる化合物のエステルとしては、例えば、コハク酸などの有機酸エステルを挙げることができる。また、一般式(1)で表わされる化合物又は薬学的に許容されるその塩の溶媒和物又は水和物も用いることができる。これらのうちで特に好ましいのは、下記式(4)で表わされる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロピル水素スクシナートの塩酸塩である(以下、本明細書において、この物質を「塩酸サルポグレラート」ということもある)。
【0022】
【化6】

【0023】
一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、並びに薬学的に許容されるその塩及びそのエステルは公知であり、特開昭58−32847号公報に記載の方法又はそれに準じた方法により容易に合成できる。なお、上記式(4)で表される塩酸サルポグレラートは、三菱ウェルファーマ株式会社より「アンプラーグ(登録商標)」として市販されており、本発明においては市販の「アンプラーグ」をそのまま使用することも可能である。
【0024】
本発明の医薬を糖尿病患者に対して予防的に投与することにより、糖尿病患者において血栓又は塞栓の形成を極めて有効に抑制することができる。一般的に、血栓とは、例えば動脈硬化を生じた血管で生じた凝血塊がその部位又はその周囲の動脈に詰まって引き起こされる虚血状態であり、塞栓とは、例えば遠隔部位の血管で生じた凝血塊が血流で運ばれて他の部位の血管において栓子となることで生じる虚血状態として理解されている。もっとも、これらの用語をいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈しなければならない。
【0025】
本発明の医薬は、糖尿病患者において亢進している血栓又は塞栓の形成傾向を抑制する作用を有しており、上記の抑制作用に基づいて、糖尿病患者において血栓又は塞栓の形成により引き起こされる虚血性疾患を有効に予防することができる。血栓又は塞栓の形成により引き起こされる虚血性疾患としては、例えば、脳梗塞(脳血栓及び脳塞栓を含む)や一過性脳虚血発作などの虚血性脳血管障害、又は急性冠症候群などを挙げることができるが、症状を伴わない無症候性脳梗塞なども本明細書において用いられる虚血性疾患の用語に包含される。脳梗塞や急性冠症候群の発作を経験した糖尿病患者では高率に血栓又は塞栓形成による脳梗塞や急性冠症候群を再発することが知られているが、本発明の医薬は、このような虚血性疾患の再発の予防のためにも有効である。また、急性冠症候群及び虚血性脳血管障害などの虚血性心臓発作を発症した糖尿病患者に対して血流再開のために冠動脈バイパス術(CABG)又は経皮経管冠動脈形成術(PTCA)を行うと、術後に高い頻度で血栓又は塞栓形成が生じ、その結果、急性冠症候群及び虚血性脳血管障害の再発が生じる。本発明の医薬は、上記の抑制作用に基づいて、糖尿病患者においてCABG又はPTCAの術後に引き起こされる虚血性疾患を有効に予防することができる。
【0026】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の医薬についてはすでに血栓・塞栓抑制作用を有することが知られているが(国際公開WO 03/026636)、本発明者らの研究によれば、本発明の医薬は非糖尿病患者において血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患を相当程度予防できるものの、その予防効果はアスピリンと比較してマイルドである。一方、本発明の医薬を糖尿病患者に対して血栓又は塞栓形成により引き起こされる虚血性疾患の予防のために投与した場合には、本発明の医薬はアスピリンに比べてより優れた予防効果を達成できる。本発明の医薬が、糖尿病患者という特定の疾患群において血栓又は塞栓により引き起こされる虚血性疾患に対して特に優れた予防効果を発揮できることは驚くべきことである。アスピリンは米国糖尿病学会において虚血性疾患の予防のために推奨されているが(Deabetes Care,27、S72、Supplement 1、January 2004)、本発明の医薬はアスピリンに替わる上記予防のための医薬として糖尿病患者に安全に投与することができる。
【0027】
本発明の医薬は、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、線維素溶解剤などの薬剤を既に投与している患者に対して、上記薬剤と同時に、又は時間をかえて併用投与することが可能である。また、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、又は線維素溶解剤などの薬剤の投与を中止した後に本発明の医薬を投与することも可能である。また、本発明の医薬は糖尿病の治療のための医薬を投与している患者に対して投与することができ、糖尿病の治療のための医薬と同時に、又は時間をかえて併用投与することが可能である。
【0028】
血小板凝集阻害剤の例としては、アスピリン製剤(バファリン、バイアスピリン等)、塩酸チクロピジン(パナルジン等)、シロスタゾール(プレタール等)、クロピドガレル、ジピリダモール(ペルサンチン、アンギナール等)、オザグレルナトリウム(カタクロット、キサンボン等)、塩酸オザグレル(べガ、ドメナン)、イコサペント酸エチル(エパデール等)、ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン)、リマプロストアルファデクス(オパルモン、プロレナール)、アルプロスタジル製剤(リプル、パルクス、プロスタンディン等)等が挙げられ、抗凝固剤としては、ワルファリンカリウム(ワーファリン等)、アルガトロバン(ノバスタン、スロンノン等)、ヘパリン製剤(フラグミン、ヘパリンナトリウム等)等が挙げられ、線維素溶解剤としては、ウロキナーゼ(ウロキナーゼ等)、ナサルプラーゼ(トロンボリーゼ等)、アルテプラーゼ(グルトパ等)、チソキナーゼ(プラスベータ等)、ナテプラーゼ(ミライザー)、パミテプラーゼ(ソリナーゼ)、モンテプラーゼ(クリアクター)等が挙げられる。糖尿病の治療のための医薬としては、インスリン製剤のほか、スルホニルウレア製剤などのインスリン分泌促進薬、ビグアナイド製剤やのインスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体など)などのインスリン作用増強薬、糖質消化阻害薬などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0029】
本発明の医薬の投与方法は当業者が適宜選択可能である。例えば、皮下注射、静脈内注射、筋肉注射、腹腔内注射等の非経口投与、又は経口投与のいずれの投与経路を選択することも可能である。投与量は患者の年齢、健康状態、体重などの条件、同時に投与される医薬がある場合にはその種類や投与頻度などの条件、あるいは所望の効果の性質等により適宜決定することができる。一般的には、有効成分の1日投与量は0.5〜50mg/kg体重、通常1〜30mg/kg体重であり、一日あたり1回あるいはそれ以上投与することができる。
【0030】
本発明の医薬は、上記の有効成分と1種又は2種以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、粉剤、液剤、エリキシル剤等を挙げることができ、非経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、液剤あるいは懸濁化剤等の殺菌した液状の形態の医薬組成物を例示することができる。
【0031】
医薬組成物の調製に用いられる製剤用添加物の種類は特に制限されず、種々医薬組成物の形態に応じて適宜の製剤用添加物を選択することが可能である。製剤用添加物は固体又は液体のいずれであってもよく、例えば固体担体や液状担体などを用いることができる。固体担体の例としては通常のゼラチンタイプのカプセルを用いることができる。また、例えば、有効成分を1種又は2種以上の製剤用添加物とともに、あるいは製剤用添加物を用いずに錠剤化することができ、あるいは粉末として調製して包装することができる。これらのカプセル、錠剤、粉末は、一般的には製剤の全重量に対して5〜95重量%、好ましくは5〜90重量%の有効成分を含むことができ、投与単位形態は5〜500mg、好ましくは25〜250mgの有効成分を含有するのがよい。液状担体としては水、あるいは石油、ピーナツ油、大豆油、ミネラル油、ゴマ油等の動植物起源の油又は合成の油が用いられる。また、一般に生理食塩水、デキストロールあるいは類似のショ糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類が液状担体として好ましく、特に生理食塩水を用いた注射液の場合には通常0.5〜20%、好ましくは1〜10%重量の有効成分を含むように調製することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、以下で用いた塩酸サルポグレラートとしては、三菱ウェルファーマ株式会社から市販されている「アンプラ−グ(登録商標)」を使用した。
例1
脳梗塞患者1,499名のうち、747名に塩酸サルポグレラートを1回100 mg、1日3回(300 mg/日)投与し、752名にアスピリンを1回81 mg、1日1回(81 mg/日)投与して、二重盲検群間比較試験を実施した。投与期間は各症例で異なるが、最長投与期間は3.5年であった。これらの脳梗塞患者のうち、糖尿病合併患者は419名であり、そのうちの199名に塩酸サルポグレラートを投与し、残りの患者(220名)にアスピリンを投与した。非糖尿病患者は1080名であり、そのうちの548名に塩酸サルポグレラートを投与し、残りの患者(532名)にアスピリンを投与した。
【0033】
その結果、糖尿病合併症例における脳梗塞再発例は、塩酸サルポグレラート投与群で19例(9.55%)であるのに対し、アスピリン投与群では23例(10.45%)であり、塩酸サルポグレラート投与群において高い予防効果が認められた。糖尿病合併症例における全身血管イベント(脳卒中、急性冠症候群、血管性致死)発現例は、塩酸サルポグレラート投与群で22例(11.06%)であるのに対し、アスピリン投与群は32例(14.55%)であった。一方、非糖尿病患者における脳梗塞再発例は、塩酸サルポグレラート投与群で53例(9.67%)であるのに対し、アスピリン投与群では35例(6.58%)であった。非糖尿病患者における全身血管イベント発現例は、塩酸サルポグレラート投与群で68例(12.41%)であるのに対し、アスピリン投与群では53例(9.96%)であった。
【0034】
以上の結果から、アスピリンに比べて塩酸サルポグレラートは糖尿病合併症例において特異的に高い脳梗塞再発予防効果を達成できることが示された。また、アスピリンに比べて塩酸サルポグレラートは糖尿病合併症例において特異的に高い全身血管イベント発現予防効果を達成することが示された。
なお、上記試験において副作用発現頻度の指標となる出血性有害事象の割合は、糖尿病合併症例において塩酸サルポグレラート投与群で25例(12.6%)であるのに対し、アスピリン投与群では34例(15.3%)であり、非糖尿病患者において塩酸サルポグレラート投与群で64例(11.6%)であるのに対し、アスピリン投与群では97例(18.1%)であり、糖尿病合併症例及び非糖尿病患者のいずれにおいても塩酸サルポグレラート投与群のほうが低く、本発明の医薬がアスピリンと比較して高い安全性を有することが示された。
【0035】
例2
例1における脳梗塞患者1,108名のうち、546名に塩酸サルポグレラートを1回100 mg、1日3回(300 mg/日)投与し、562名にアスピリンを1回81 mg、1日1回(81 mg/日)投与した場合について、二重盲検群間比較試験を実施して結果を解析した。投与期間は各症例で異なるが、最長投与期間は3.5年であった。これらの脳梗塞患者のうち、糖尿病合併患者は302名であり、そのうちの145名に塩酸サルポグレラートを投与し、残りの患者(157名)にアスピリンを投与した。非糖尿病患者は806名であり、そのうちの401名に塩酸サルポグレラートを投与し、残りの患者(405名)にアスピリンを投与した。
【0036】
その結果、糖尿病合併症例における無症候性脳梗塞巣の発現例は、塩酸サルポグレラート投与群で11例(7.59%、うち2症例は例1における脳梗塞再発症例である)であるのに対し、アスピリン投与群では13例(8.28%)であり、塩酸サルポグレラート投与群において高い予防効果が認められた。一方、非糖尿病患者における無症候性脳梗塞巣の発現例は、塩酸サルポグレラート投与群で39例(9.73%)であるのに対し、アスピリン投与群では28例(6.9%)であった。
以上の結果から、アスピリンに比べて塩酸サルポグレラートは糖尿病を伴う患者群において特異的に高い脳梗塞再発予防効果を達成できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬。
【化1】

〔式中、R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、又はC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子又はC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、又はO−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4は−N(R5)(R6)(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はC1〜C8のアルキル基を表わす。)又は
【化2】

(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす。)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
【請求項2】
下記の式(2)で表わされるアミノアルコキシビベンジル化合物、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬。
【化3】

【請求項3】
下記の式(3)で表わされるアミノアルコキシビベンジル化合物、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者における虚血性疾患の再発を予防するための医薬。
【化4】

【請求項4】
塩酸塩の形態の請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
虚血性疾患が虚血性脳血管障害又は急性冠症候群である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
虚血性疾患が脳梗塞である請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
虚血性疾患が血栓又は塞栓の形成により引き起こされるものである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
血栓又は塞栓の形成が冠動脈バイパス術又は経皮経管冠動脈形成術の術後における血栓又は塞栓形成である請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
請求項1に記載の一般式(1)で表されるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩若しくはそのエステル、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群から選ばれる物質を有効成分として含み、糖尿病患者において血栓又は塞栓形成の再発を抑制するための医薬。

【公開番号】特開2007−238609(P2007−238609A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31475(P2007−31475)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】