説明

糖誘導体化合物の製造方法

【課題】
アノマー位が水酸基である糖誘導体化合物を製造する優れた方法を見出すこと。
【解決手段】
下記一般式(II)[式中、Xはハロゲン原子、水素原子、保護された水酸基、Y1、Y2及びY3は、同一又は異なって、水酸基の保護基]で示される化合物のアノマー位の選択的脱アセチル化を、有機溶媒中、N-置換ピペラジンを用いて行なうことを特徴とする、下記一般式(I)で示される糖誘導体化合物の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の水酸基が保護された糖誘導体の位置選択的な脱保護法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖誘導体は水酸基を複数有するため、誘導体合成の際に特定の基の保護・脱保護をすることが重要であり、さまざまな方法が研究されている。例えば、すべての水酸基がアセチル基で保護された糖誘導体のアノマー位の位置選択的脱保護については、非特許文献1〜4に記載がある。しかしながら、脱保護において一般的に用いられる1級アミンやピペリジンを用いる脱アセチル化方法においては、反応の副生成物であるアミド体の精製除去の際の収量ロス、目的化合物へのアミド体の混入による結晶化の阻害や引き続くグリコシル化反応の阻害などが問題となっていた。
【0003】
また、アノマー位がフリーの水酸基である糖誘導体は、各種製造中間体や生理活性物質として知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・カーボハイドレート・ケミストリー18巻、4号、pp. 461-169、1999年
【非特許文献2】カーボハイドレート・リサーチ156巻、pp.241-246、1986年
【非特許文献3】テトラヘドロン・レターズ30巻、1号、pp 25-28、1989年
【非特許文献4】カーボハイドレート・リサーチ4巻、pp.486-491、1967年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、アノマー位がフリーの水酸基である糖誘導体をより高収率で、より簡便に副生成物の除去が可能な、工業的により有利な操作法の開発を目的として鋭意研究をおこなった結果、N-置換ピペラジンを用いる選択的脱アセチル化反応を見出し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明は、
(1)下記一般式(I)
【化1】

【0008】
[式中、Xはハロゲン原子、水素原子又は保護基により保護された水酸基を示し、Y1、Y2及びY3は、同一又は異なって、水酸基の保護基を示す。]で示される糖誘導体化合物の製造方法であって、
有機溶媒中(該有機溶媒は、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、エステル類、アルコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、アミド類、スルホキシド類、スルホラン及びそれらの混合溶媒から選ばれる)、下記一般式(II)
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、X、Y1、Y2及びY3は、前述したものと同意義を示す。]で示される化合物のアノマー位の選択的脱アセチル化を、下記一般式(III)
【0011】
【化3】

【0012】
[式中、R1は、C1-6アルキル基又はC1-6フェニルアルキル基(該フェニルアルキル基は、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる同一又は異なった1乃至5個の基で置換されていてもよい)を示す。]で示されるN-置換ピペラジンを用いて行なうことを特徴とする、糖誘導体化合物(I)の製造方法、
(2)有機溶媒がエーテル類である上記(1)に記載の製造方法、
(3)水酸基の保護基が、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基である上記(1)又は(2)に記載の製造方法、
(4)水酸基の保護基が、アセチル基又はベンゾイル基である上記(1)又は(2)に記載の製造方法、
(5)Xが水素原子である上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の製造方法、
(6)R1がC1-6アルキル基である上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の製造方法、
(7)R1がメチル基である上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の製造方法である。
【0013】
本発明において「C1-6アルキル基」とは、炭素原子を1個乃至6個有する直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、4-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-メチルペンチル、1-メチルペンチル、3,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、4-メチルヘキシル、5-メチルヘキシル、1-プロピルブチル、4,4-ジメチルペンチル、オクチル、1-メチルヘプチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、5-メチルヘプチル、6-メチルヘプチル、1-プロピルペンチル、2-エチルヘキシル若しくは5,5-ジメチルヘキシル基を挙げることができる。R1においては、好適には炭素数1乃至3個のアルキル基であり、最も好適にはメチル基である。R1のC1-6フェニルアルキル基の置換基においては、好適には炭素数1乃至3個のアルキル基であり、最も好適にはメチル基である。
【0014】
本発明において「C1-6アルコキシ基」とは、前記「C1-6アルキル基」が酸素原子に結合した基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、s-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、イソペントキシ、2-メチルブトキシ、ネオペントキシ、n-ヘキシルオキシ、4-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、2-メチルペントキシ、3,3-ジメチルブトキシ、2,2-ジメチルブトキシ、1,1-ジメチルブトキシ、1,2-ジメチルブトキシ、1,3-ジメチルブトキシ、2,3-ジメチルブトキシのような炭素数1乃至6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシ基を挙げることができ、R1のC1-6フェニルアルキル基の置換基においては、好適にはメトキシ基である。
【0015】
本発明において、「C1-6フェニルアルキル基」とは、「フェニル基」が前記「C1-6アルキル基」に結合した基であり、例えば、ベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、1-フェニルプロピル、2-フェニルプロピル、3-フェニルプロピル、1-フェニルブチル、2-フェニルブチル、3-フェニルブチル、4-フェニルブチル、1-フェニルペンチル、2-フェニルペンチル、3-フェニルペンチル、4-フェニルペンチル、5-フェニルペンチル、1-フェニルヘキシル、2-フェニルヘキシル、3-フェニルヘキシル、4-フェニルヘキシル、5-フェニルヘキシル、6-フェニルヘキシル基を挙げることができる。R1においては、好適にはベンジル基又はフェネチル基であり、更に好適にはベンジル基である。
【0016】
本発明において「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、Xにおいては、好適には塩素原子、フッ素原子である。R1のC1-6フェニルアルキル基の置換基においては、好適には塩素原子又は臭素原子である。
【0017】
本発明において「水酸基の保護基」とは、通常水酸基の保護基として用いられるものであれば特に限定はないが、例えば、グリーン・ワッツ著、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス第3版(Protective groups in organic synthesis )」(米国、Wiley-Interscience社)に記載の保護基が挙げられる。例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ピバロイル、バレリル、イソバレリル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、3-メチルノナノイル、8-メチルノナノイル、3-エチルオクタノイル、3,7-ジメチルオクタノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、ヘキサデカノイル、1-メチルペンタデカノイル、14-メチルペンタデカノイル、13,13-ジメチルテトラデカノイル、ヘプタデカノイル、15-メチルヘキサデカノイル、オクタデカノイル、1-メチルヘプタデカノイル、ノナデカノイル、アイコサノイル及びヘナイコサノイルのようなアルキルカルボニル基、スクシノイル、グルタロイル、アジポイルのようなカルボキシ化アルキルカルボニル基、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチルのようなハロゲノ低級アルキルカルボニル基、メトキシアセチルのような低級アルコキシ低級アルキルカルボニル基、(E)-2-メチル-2-ブテノイルのような不飽和アルキルカルボニル基等の「脂肪族アシル基」;ベンゾイル、α-ナフトイル、β-ナフトイルのようなアリールカルボニル基、2-ブロモベンゾイル、4-クロロベンゾイルのようなハロゲノアリールカルボニル基、2,4,6-トリメチルベンゾイル、4-トルオイルのような低級アルキル化アリールカルボニル基、4-アニソイルのような低級アルコキシ化アリールカルボニル基、2-カルボキシベンゾイル、3-カルボキシベンゾイル、4-カルボキシベンゾイルのようなカルボキシ化アリールカルボニル基、4-ニトロベンゾイル、2-ニトロベンゾイルのようなニトロ化アリールカルボニル基、2-(メトキシカルボニル) ベンゾイルのような低級アルコキシカルボニル化アリールカルボニル基、4-フェニルベンゾイルのようなアリール化アリールカルボニル基等の「芳香族アシル基」;テトラヒドロピラン-2-イル、3-ブロモテトラヒドロピラン-2-イル、4-メトキシテトラヒドロピラン-4-イル、テトラヒドロチオピラン-2-イル、4-メトキシテトラヒドロチオピラン-4-イルのような「テトラヒドロピラニル又はテトラヒドロチオピラニル基」;テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロチオフラン-2-イルのような「テトラヒドロフラニル又はテトラヒドロチオフラニル基」;トリメチルシリル、トリエチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、メチルジ-t-ブチルシリル、トリイソプロピルシリルのようなトリ低級アルキルシリル基、ジフェニルメチルシリル、ジフェニルブチルシリル、ジフェニルイソプロピルシリル、フェニルジイソプロピルシリルのような1 乃至2 個のアリール基で置換されたトリ低級アルキルシリル基等の「シリル基」;メトキシメチル、1,1-ジメチル-1-メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、ブトキシメチル、t-ブトキシメチルのような低級アルコキシメチル基、2-メトキシエトキシメチルのような低級アルコキシ化低級アルコキシメチル基、2,2,2-トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ) メチルのようなハロゲノ低級アルコキシメチル等の「アルコキシメチル基」;1-エトキシエチル、1-(イソプロポキシ) エチルのような低級アルコキシ化エチル基、2,2,2-トリクロロエチルのようなハロゲン化エチル基等の「置換エチル基」;ベンジル、α-ナフチルメチル、β-ナフチルメチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、α-ナフチルジフェニルメチル、9-アンスリルメチルのような1乃至3個のアリール基で置換された低級アルキル基、4-メチルベンジル、2,4,6-トリメチルベンジル、3,4,5-トリメチルベンジル、4-メトキシベンジル、4-メトキシフェニルジフェニルメチル、2-ニトロベンジル、4-ニトロベンジル、4-クロロベンジル、4-ブロモベンジル、4-シアノベンジル、メチル、ピペロニルのような低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン、シアノ基でアリール環が置換された1 乃至3 個のアリール基で置換された低級アルキル基等の「アラルキル基」;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルのような低級アルコキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル、2-トリメチルシリルエトキシカルボニルのようなハロゲン又はトリ低級アルキルシリル基で置換された低級アルコキシカルボニル基等の「アルコキシカルボニル基」;ビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニルのような「アルケニルオキシカルボニル基」;ベンジルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4-ジメトキシベンジルオキシカルボニル、2-ニトロベンジルオキシカルボニル、4-ニトロベンジルオキシカルボニルのような、1乃至2個の低級アルコキシ又はニトロ基でアリール環が置換されていてもよい「アラルキルオキシカルボニル基」を挙げることができる。また、ジオールの保護化に使用される試薬としては、通常、ジオールの保護化に使用されるものであれば特に限定はないが、好適には、ベンズアルデヒドのようなアルデヒド誘導体、アセトンのようなケトン誘導体、2,2-ジメトキシプロパン、ジメトキシベンジルのようなジメトキシ化合物を挙げることができる。Y1、Y2及びY3において、好適には、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアラルキル基であり、特に好適には、アセチル基又はベンゾイル基である。Xの水酸基の保護基においては、好適には、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアラルキル基であり、特に好適には、アセチル基又はベンゾイル基である。
【0018】
なお、前記一般式(I)及び(II)を有する糖誘導体化合物は、種々の異性体を有する。前記一般式(I)及び(II)においては、これら不斉炭素原子に基づく立体異性体及びこれら異性体の等量及び非等量混合物がすべて単一の式で示されている。従って、本発明は、これらの異性体及びこれら異性体の種々の割合での混合物をすべて含むものである。
【0019】
Xは、好適には水素原子又は保護基により保護された水酸基であり、更に好適には水素原子又はアセチル基により保護された水酸基であり、特に好適には、水素原子である。
【0020】
Y1は、好適にはアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアラルキル基であり、更に好適にはアセチル基又はベンゾイル基であり、特に好適にはアセチル基である。
【0021】
Y2は、好適にはアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアラルキル基であり、更に好適にはアセチル基又はベンゾイル基であり、特に好適にはアセチル基である。
【0022】
Y3は、好適にはアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアラルキル基であり、更に好適にはアセチル基又はベンゾイル基であり、特に好適にはアセチル基である。
【0023】
R1は、好適にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ベンジル基、2-メチルベンジル基、3-メチルベンジル基、4-メチルベンジル基、2,4,6-トリメチルベンジル基、4-メトキシベンジル基、3,4-ジメトキシベンジル基、4-クロロベンジル基、4-ブロモベンジル基、2,6-ジクロベンジル基、フェネチル基であり、更に好適にはメチル基、エチル基、プロピル基、ベンジル基であり、特に好適にはメチル基である。
【0024】
(I)は、好適には(Ia)
【化4】

【0025】
であり、さらに好適には(Ib)
【化5】

である。
【0026】
本発明の糖誘導体化合物(I)を製造する方法について、以下に詳細に説明する。
【0027】
【化6】

【0028】
本発明は、1位の水酸基がアセチル基で保護され、他の水酸基もすべて保護基により保護された糖誘導体(II)の1位のみを選択的に脱保護し、1位のみがフリーの水酸基である糖誘導体化合物(I)を製造する方法である。
【0029】
原料化合物(II)は公知化合物の水酸基を参考例の方法や周知の方法に準じて、保護、脱保護することにより製造できる。
【0030】
本方法は、不活性溶媒下、化合物(II)とN-置換ピペリジンを反応させることにより達成される。
【0031】
本工程において反応は通常、溶媒中で行われる。溶媒を用いる場合、反応を阻害しないものであれば特に限定はない。そのような溶媒とは、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、又は石油エーテルのような脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルのようなニトリル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素のようなハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチルのようなエステル類、スルホラン、及びそれらの混合物であり、好適には芳香族炭化水素類、ニトリル類、エーテル類、エステル類、又はそれらの混合物であり、更に好適にはアセトニトリル、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフランまたはそれらの混合物であり、特に好適にはテトラヒドロフランである。
【0032】
用いるN-置換ピペラジンの量は特に限定はないが、用いる化合物(II)に対して通常1.0〜5.0当量、好適には1.0〜3.0当量、さらに好適には1.5〜2.0当量である。
【0033】
本工程における反応温度は、原料化合物、試薬量等により異なるが、通常0℃〜室温である。
【0034】
本工程の反応時間は、原料化合物、試薬、反応温度等により異なるが、通常、1時間から80時間であり、好適には1時間から48時間でである。
【0035】
本工程の反応終了後、化合物(I)もしくはその塩が結晶として晶析する場合は濾別操作によって単離することができる。化合物(I)もしくはその塩が結晶とならない場合は通常の後処理の後、抽出操作等の単離操作によって単離することができる。
【発明の効果】
【0036】
合成中間体等に有用な、アノマー位が水酸基である糖誘導体化合物の製造方法を提供する。本発明の製造方法を用いることにより、大量合成する場合も収率よく高純度で、安価な試薬を用い簡便な操作で、かつ環境負荷を小さく、目的化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の実施例等を示し、さらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下の式中、Acはアセチル基を示す。
【0039】
<実施例1>
2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノース及び2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノース(以下、α-アノマー及びβ-アノマーをまとめて化合物Aとする)の合成法(1)
<実施例1−1>
1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノースの合成
【0040】
【化7】

【0041】
デオキシグルコース(100g、609.16mmol)、無水酢酸(310.95g、3045.81mmol)、トリエチルアミン(246.56g、2436.64mmol)の酢酸エチル(1000ml)スラリー液を60〜65℃に昇温後、3時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、ジメチルアミノピリジン(1.49g、12.18mmol)を加え、4.5時間攪拌した。水(500ml)、5%重曹水(500ml)で分液洗浄後、有機層を250mlまで減圧濃縮し、イソプロピルアルコール(700ml)を加えた。スラリー液を室温にて終夜攪拌後、0〜5℃に冷却して2時間攪拌し、濾過した。0〜5℃のイソプロピルアルコール(150ml)にて洗浄後、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として163.82g(収率 80.9%、β比>95%)を取得した(母液ロス 11.9%)。
【0042】
<実施例1−2>
化合物Aの合成
【0043】
【化8】

【0044】
実施例1−1で得られた1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノース(160g、481.49mmol、β比>95%)のテトラヒドロフラン(800ml)溶液に、N-メチルピペラジン(72.34g、722.24mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した。0〜5℃に冷却後、濃塩酸(50.16g、481.49mmol)を加え、320mlまで減圧濃縮した。酢酸エチル(2400ml)を加え、水(320ml)にて2回、5%重曹水(320ml)、水(320ml)で分液洗浄した。有機層を320mlまで減圧濃縮し、ジブチルエーテル(640ml)を加え、320mlまで減圧濃縮した。濃縮液にジブチルエーテル(160ml)、酢酸エチル(32ml)を加え、接種し、室温にて1時間攪拌後、メチルシクロヘキサン(1440ml)を滴下し、終夜攪拌した。0〜5℃に冷却後、スラリー液を濾過し、メチルシクロヘキサン(160ml)にて洗浄後、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として131.27g取得した(収率 93.9%、母液ロス 3.0%)。
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ5.19(t,1H,J=10.0Hz), 4.88-4.75(m,3H), 4.68(brs,1H), 3.60(dq,1H,J=9.7,6.1Hz), 2.07(s,3H), 2.02(s,3H), 2.00(s,3H), 1.23(d,3H,J=6.1Hz)
【0045】
<実施例2>
化合物Aの合成法(2)
<実施例2−1>
メチル 2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-6-ヨード-α-D-グルコピラノシド
【0046】
【化9】

【0047】
メチルグルコース(60g、308.99mmol)、トリフェニルホスフィン(89.15g、339.89mmol)、イミダゾール(29.45g、432.59mmol)のテトラヒドロフラン(300mL)懸濁液を還流条件下、30分攪拌後、ヨウ素(86.26g、339.89mmol)のテトラヒドロフラン(120ml)溶液を3時間かけて滴下した。滴下後、還流条件下にて更に2時間攪拌した後、室温まで冷却後、ピリジン(146.65g、1853.94mmol)、無水酢酸(157.72g、1544.95mmol)を添加し、35℃にて15時間攪拌した。反応後の溶液を室温に冷却し、酢酸エチル(720ml)、10%食塩水(480ml)を加え、分液後、有機層を濃塩酸(150ml)、10%食塩水(360ml)混合液、5%チオ硫酸ナトリウム、10%食塩水混合液(480ml)、10%食塩水(480ml)で順次洗浄した。有機層を420mlまで減圧濃縮後、イソプロピルアルコール(900ml)を加え、600mlまで減圧濃縮し、イソプロピルアルコール(120ml)を加えた。得られたスラリー液を室温にて1時間、0〜5℃にて1時間攪拌後、濾過し、0〜5℃のイソプロピルアルコール(180ml)にて洗浄した。その後、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として111.41gを取得した(収率 83.8%)。
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ5.46(dd,1H,J=10.0,9.5Hz), 4.96(d,1H,J=3.7Hz), 4.87(t,2H,J=10.0Hz), 3.79(ddd,1H,J=9.5,8.4,2.5Hz), 3.48(s,3H), 3.30(dd,1H,J=10.9,2.5Hz), 3.13(dd,1H,J=10.9,8.4Hz), 2,07(s,3H), 2.05(s,3H), 2.00(s,3H)
【0048】
<実施例2−2>
メチル2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの合成法
【0049】
【化10】

【0050】
実施例2−1で得られたメチル 2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-6-ヨード-α-D-グルコピラノシド(50g、116.23mmol)の酢酸エチル(500ml)溶液に、酢酸ナトリウム(19.07g、232.46mmol)水溶液(100ml)、5%パラジウム炭素(54.5%含水品、16.46g)を加え、35℃に昇温後、3気圧の水素雰囲気下にて5時間攪拌した。パラジウム炭素を濾過し、酢酸エチル(250ml)にて洗浄後、濾液を5%チオ硫酸ナトリウム、10%食塩水混合液(400ml)、10%食塩水(250ml)にて分液洗浄した。得られた有機層を50mlまで減圧濃縮し、酢酸(100ml)を加え、再び50mlまで減圧濃縮して、標記目的化合物の酢酸溶液を取得した。
【0051】
<実施例2−3>
1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノース、1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノースの合成法
【0052】
【化11】

【0053】
実施例2−2で得られたメチル2,3,4-トリ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノシドの酢酸溶液(50ml)に無水酢酸(11.87g、116.23mmol)、硫酸(5.70g、58.12mmol)を加え、20〜25℃にて終夜攪拌した(攪拌開始後、6時間で無水酢酸(3.9g、58.12mmol)を追加した)。酢酸ナトリウム(9.53g、116.23mmol)を加え、30分攪拌後、酢酸エチル(500ml)、5%重曹水(500ml)を添加して、30分攪拌した。分液後、得られた有機層に、5%重曹水(500ml)加え、30分攪拌後、分液し、有機層に5%重曹水(500ml)を再度加え、30分攪拌して分液した。有機層を100mlまで減圧濃縮後、イソプロピルアルコール(400ml)を加え、175mlまで減圧濃縮した。有機層に水(800ml)を滴下し、室温にて1時間、0〜5℃にて1.5時間攪拌後、濾過し、0〜5℃のイソプロピルアルコール/水(1/5, v/v)の混合溶媒(100ml)にて洗浄した。その後、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として34.80g取得した(実施例2−2からの通算収率 90.1%、α/β比 8/2)。
α-anomer 1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ6.26(d,1H,J=4.0Hz), 5.43(t,1H,J=10.4Hz), 5.06(dd,1H,J=10.4,4.0Hz), 4.85(t,1H,J=10.4Hz), 4.02(m,1H), 2.21(s,3H), 2.13(s,3H), 2.04(s,3H), 2.01(s,3H), 1.24(d,3H,J=6.3Hz)
β-anomer 1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ5.66(d,1H,J=8.3Hz), 5.17(t,1H,J=9.6Hz), 5.07(dd,1H,J=9.6,8.3Hz), 4.82(t,1H,J=9.6Hz), 3.68(m,1H), 2.08(s,3H), 2.02(s,3H), 1.99(s,3H), 1.98(s,3H), 1.21(d,3H,J=6.3Hz)
【0054】
<実施例2−4>
化合物Aの合成法
【0055】
【化12】

【0056】
実施例2−3で得られた1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノース及び1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノースの混合物(40g、120.37mmol、α/β比 8/2)のテトラヒドロフラン(60ml)溶液に、N-メチルピペラジン(18.08g、180.56mmol)を加え、室温にて15時間攪拌した。0〜5℃に冷却後、濃塩酸(20.06g)、酢酸エチル(400ml)を加え、水(120ml)にて四回洗浄した。有機層を80mlまで減圧濃縮し、ジブチルエーテル(120ml)加え、80mlまで減圧濃縮した。濃縮液を40〜45℃に昇温後、酢酸ブチル(12ml)を加え、接種し、同温にて30分攪拌した。ジブチルエーテル(40ml)を滴下し、30分攪拌後、ヘプタン(280ml)を滴下し、室温にて終夜攪拌した。その後、スラリー液を濾過し、ヘプタン(80ml)にて洗浄後、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として28.42g取得した(収率 81.3%、母液ロス 2.1%)。
α-anomer 1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ5.46(t,1H,J=10.0Hz), 5.43(d,1H,J=4.0Hz), 4.88-4.75(m,2H), 4.16(dq,1H,J=10.0,6.1Hz), 3.05(brs,1H), 2.06(s,3H), 2.03(s,3H), 1.99(s,3H), 1.16(d,3H,J=6.1Hz)
β-anomer 1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ5.19(t,1H,J=10.0Hz), 4.88-4.75(m,3H), 4.68(brs,1H), 3.60(dq,1H,J=9.7,6.1Hz), 2.07(s,3H), 2.02(s,3H), 2.00(s,3H), 1.23(d,3H,J=6.1Hz)
【0057】
<実施例3> 母液中の化合物A定量分析法
試料溶解液:50%アセトニトリル水溶液
標準溶液は以下のように調製した。
化合物A標準品を10mlのメスフラスコ中に正確に量り取り(約0.10g)、試料溶解液を加えて10mlにして、標準溶液とした。
測定試料溶液は以下のように調製した。
母液5mlを量り取り、濃縮乾固後、試料溶解液5mlを加え、測定試料溶液とした。
HPLC条件は、以下の通り。
【0058】
検出波長:210nm
カラム:SPELCO Ascentis RP-Amide(4.6×250mm)
移動相:0.01M酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル
流速:1ml/min
注入量:10μl
カラム温度:40℃
グラジエント条件:0-5min アセトニトリル25%
5-20min アセトニトリル25→60%
20-30min アセトニトリル60%
化合物A保持時間 約9.0〜11.0min
【0059】
クロマトグラムからピーク面積を求め、下記式に従って、母液中の化合物A量を計算した。
母液中の化合物A量(g)=W1/10×Q2/Q1×V
W1:化合物A標準品の秤取量(g)
V :母液総量(ml)
Q1:標準溶液における化合物Aのピーク面積
Q2:測定試料溶液における化合物Aのピーク面積

母液ロス率=(母液中の化合物A量/化合物Aの理論収量)×100
【0060】
以下の表に、脱アセチル化の際の塩基による収率及び母液ロス率への影響についてまとめる。
【0061】
【表1】

*カラム精製しないと結晶が得られなかった。
【0062】
<比較例1>
化合物Aの合成法(ベンジルアミンを使用した脱アセチル化)
【0063】
【化13】

【0064】
実施例1−1で得られた1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノース(5g、15.05mmol、β比>95%)のテトラヒドロフラン(50ml)溶液に、ベンジルアミン(2.42g、22.57mmol)を加え、室温にて24時間攪拌した。1M塩酸水(50ml)、酢酸エチル(50ml)を加え、分液後、有機層を濃縮乾固した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:2, v/v)で精製し、濃縮乾固して、標記目的化合物を固体として3.21gを得た(収率 73.5%)。
【0065】
<比較例2>
化合物Aの合成法(N,N-ジエチルエチレンジアミンを使用した脱アセチル化)
【0066】
【化14】

【0067】
実施例1−1で得られた1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノース(50g、150.47mmol、β比>95%)のテトラヒドロフラン(250ml)溶液を、0〜5℃に冷却し、N,N-ジエチルエチレンジアミン(20.98g、180.56mmol)を加え、同温にて16時間攪拌した。濃塩酸(23.51g)を加え、100mlまで減圧濃縮し、酢酸エチル(750ml)加えた後、水(150ml)で3回、2%重曹水(150ml)、水(150ml)で分液洗浄した。得られた有機層を濃縮乾固し、残渣にイソプロピルエーテル(200ml)、メチルシクロヘキサン(300ml)を加え、終夜攪拌した。スラリー液を0〜5℃に冷却後、濾過し、減圧乾燥を行い、標記目的化合物を結晶として29.69g取得した(収率 68.0%、母液ロス 18.3%)。
【0068】
<参考例1>
1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-α-D-グルコピラノース、1,2,3,4-テトラ-O-アセチル-6-デオキシ-β-D-グルコピラノースの合成
【0069】
【化15】

【0070】
デオキシグルコース(100g、609.16mmol)の無水酢酸(373.13g、3654.96mmol)スラリー液を40〜45℃に昇温後、酢酸ナトリウム(35.35g、426.41mmol)を加え、同温にて1時間攪拌した。その後、80〜85℃に昇温し、2.5時間攪拌後、反応液を50〜55℃に冷却した。水(50ml)を加え、同温にて30分攪拌後、イソプロピルアルコール(150ml)、水(400ml)を添加した。溶液を室温まで冷却し、水(900ml)を滴下後、0〜5℃に冷却して1時間攪拌した。その後、スラリー液を濾過し、0〜5℃の水(300ml)にて洗浄後、減圧乾燥を行い標記目的化合物を結晶として189.61g取得した(収率 93.7%、α/β比 2/8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】


[式中、Xはハロゲン原子、水素原子又は保護基により保護された水酸基を示し、Y1、Y2及びY3は、同一又は異なって、水酸基の保護基を示す。]で示される糖誘導体化合物の製造方法であって、
有機溶媒中(該有機溶媒は、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、エステル類、アルコール類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、アミド類、スルホキシド類、スルホラン及びそれらの混合溶媒から選ばれる)、下記一般式(II)
【化2】


[式中、X、Y1、Y2及びY3は、前述したものと同意義を示す。]で示される化合物のアノマー位の選択的脱アセチル化を、下記一般式(III)
【化3】


[式中、R1は、C1-6アルキル基又はC1-6フェニルアルキル基(該フェニルアルキル基は、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる同一又は異なった1乃至5個の基で置換されていてもよい)を示す。]で示されるN-置換ピペラジンを用いて行なうことを特徴とする、糖誘導体化合物(I)の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒がエーテル類である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Y1、Y2及びY3が同一又は異なって、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
Y1、Y2及びY3が同一又は異なって、アセチル基又はベンゾイル基である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
Xが水素原子である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
R1がC1-6アルキル基である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
R1がメチル基である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−219401(P2011−219401A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89060(P2010−89060)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】