説明

糖鎖マーカー認識プローブ、それを用いた神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬

【課題】 E二糖単位やiE二糖単位を認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを提供する。
【解決手段】 GD3G7等のファージディスプレイ法により生産可能な抗体を用いることで、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であるか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の両方を認識可能である。これにより、例えば、高転移性細胞を低転移性細胞よりも強く染色する等の効果を得ることができる。本発明は、神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤等に幅広く応用可能であり、基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学に大きな進歩をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖マーカー認識プローブ、それを用いた神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン硫酸(CS)およびデルマタン硫酸(DS)鎖は、核タンパク質と幅広く結合し、プロテオグリカン(PGs)を形成し、哺乳類組織に広範に影響を及ぼす(非特許文献1)。CS/DS-PGsは、細胞増殖および認識(非特許文献2〜3)、細胞接着および遊走(非特許文献4〜6)、神経突起伸長(非特許文献6〜7)、傷修復および抗凝血プロセス(非特許文献8〜10)等の多くの生物学的プロセスにおける重要なレギュレータとして、ますます重要性を増している。中枢神経系(CNS)においてプロテオグリカンの大部分を構成するCS-PGsは、ニューロン核の形成、軸索伸長における境界の確立に影響することが可能であり、ニューロン伸長のモジュレータとして働く(非特許文献11)。背骨中のCS鎖は、繰り返しジサッカリドユニット(二糖単位)からなり、D-グルクロン酸(GlcUA)およびN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)残基を含む。一方、DSは、GlcUA部位に種々の比率のL-イズロン酸(IdoUA)を有するCSの立体異性変異体である。哺乳類組織においては、それらの鎖はしばしばCS/DSハイブリッド構造として見出される。それらの鎖の鎖伸長中におけるさらなる構造変異性は、種々のスルホトランスフェラーゼによる前記繰り返しジサッカリドユニットの多岐にわたる硫酸化により生じる。硫酸化は、GlcUA/IdoUAのC-2ならびに/またはGalNAcのC-4および/またはC-6において種々の組み合わせで起こり、それゆえに、特徴的硫酸化パターンおよび莫大な構造多様性を生じさせる。近年の研究は、ニワトリ、マウスおよびブタの脳におけるそれらジサッカリドユニットの割合が、発達に伴って変化することを示す(非特許文献12〜13)。そのことは、硫酸化の程度および特性が異なるCS/DS鎖が、脳発達の間の機能的多様性に関連し得ることを示唆する。さらに、種々の海生生物に由来する過硫酸化CS/DS鎖は、In vitroで増殖因子結合および神経突起伸長促進活性を示した(非特許文献14〜17)。
【0003】
しかしながら、過去に報告された神経突起生成における脳CS/DSの機能には、議論の余地がある。CS/DS鎖は、神経突起生成分子として(非特許文献6、18、19等参照)および損傷した中枢神経系の軸索再生インヒビターとして(非特許文献20〜22、37)の役割を果たす。そのような明白に矛盾する機能は、おそらく、CS/DS鎖の構造多様性に起因する。Dユニット[GlcUA(2S)-GalNAc(6S)]およびEユニット[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]等の二硫酸化ジサッカリドユニットの有意かつ多様な特性が、ウシ(非特許文献23)、胎齢13日(E13)マウス(非特許文献24)およびE18ラット(非特許文献25)の脳で検出されている(2S,4Sおよび6Sは、それぞれ2-O, 4-O,および6-O硫酸基(sulfate group)を示す)。近年、本発明者らは、ブタ胎児脳由来CS/DS鎖に含まれる希少な過硫酸化ジサッカリドユニットであるDおよび/またはiD[IdoUA(2S)-GalNAc(6S)]およびEユニットが、E-CS/DSの神経突起生成活性における決定的要素であることを報告した(非特許文献26)。さらに、アピカン(appican)由来のCS鎖では、ラットC6グリオーマ細胞により発現されたアミロイド前駆体タンパク質が、有意な割合のDおよびEユニットをそれぞれ含んでいた(非特許文献27)。メクラウナギ脊索から単離されたCS-Hは、主なジサッカリドであるHユニット[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]で特徴付けられる独特の過硫酸化構造を有し(非特許文献28〜29)、それゆえに、事実上DSである。前記GAGに対しDS-Eという用語が、Hジサッカリドユニットに対しiEユニット(“i”はIdoUAを表す)という用語が提案されている(非特許文献18)。さらに、メクラウナギ脊索由来DS-E/CS-Hは、CS-Eと同様、神経調節因子ミッドカイン(MK)が媒介する神経細胞接着に対し、かなりの阻害活性を示す(非特許文献25)。しかしながら、哺乳類の脳における過硫酸化CS-Eおよび/またはiE構造の存在は、厳密にキャラクタライズされてはいなかった。
【0004】
生合成においては、CS/DSの構造多様性は、複数のスルホトランスフェラーゼ、およびGlcUAをIdoUAに変換するグルクロン酸C5エピメラーゼ(非特許文献30〜32等を参照)によるコントロール下で生成する。コンドロイチン-4-O-スルホトランスフェラーゼ-1および-2(C4ST-1およびC4ST-2)は、コンドロイチンおよびデルマタンのGalNAc残基の4-O-硫酸化を触媒し、一方、デルマタン-4-O-スルホトランスフェラーゼ-1(D4ST-1)は、デルマタンのGalNAc残基の4-O-硫酸化を触媒する(非特許文献33〜36)。他のいくつかのスルホトランスフェラーゼ、例えば、GalNAc β1-4GlcNAcβ-の非還元末端GalNAc残基における4-O-硫酸化を触媒するN-アセチルガラクトサミン-4-O-スルホトランスフェラーゼ-1および-2等もクローン化された。しかし、一方、N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸(GalNAc4S)の6-O-位への硫酸基(sulfate)転移を触媒するN-アセチルガラクトサミン-4-硫酸-6-O-スルホトランスフェラーゼ(GalNAc4S-6ST)については、クローン化はされたが(非特許文献37)、未だ脳内で分析されてはいない。このスルホトランスフェラーゼの遺伝子発現パターンは、脳内におけるCS-E鎖の寄与パターン研究の糸口を提供できる可能性がある。
【0005】
このように、Eジサッカリドユニット(二糖単位)およびiEジサッカリドユニット(二糖単位)は興味深い研究対象である。したがって、例えば、これらのユニットを特異的に認識する抗体により、基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学等に大きな進歩をもたらす可能性がある。
【0006】
【非特許文献1】Rosenberg, L. C., Choi, H. U., Tang, L. H., Johnson, T. L., Pal, S., Webber, C., Reiner, A., and Poole, A. R. (1985) J. Biol. Chem. 260, 6304-6313
【非特許文献2】Yamaguchi, Y., Mann, D. M., and Ruoslahti, E. (1990) Nature 346, 281-284
【非特許文献3】Lyon, M., Deakin, J. A., Rahmoune, H., Fernig, D. G., Nakamura, T., and Gallagher, J. T. (1998) J.Biol. Chem. 273, 271-278
【非特許文献4】Schwartz, N. B., and Domowicz, M. (2002) Glycobiology 12, 57R-68R
【非特許文献5】Kinsella, M. G., Tsoi, C. K., Jarvelainen, H. T., and Wight, T. N. (1997) J. Biol. Chem. 272, 318-325
【非特許文献6】Sugahara, K., Mikami, T., Uyama, T., Mizuguchi, S., Nomura, K., and Kitagawa, H. (2003) Curr. Opin. Struct. Biol. 13, 612-620
【非特許文献7】Lafont, F., Rouget, M., Triller, A., Prochiantz, A., and Rousselet, A. (1992) Development 114, 17-29
【非特許文献8】Penc, S. F., Pomahac, B., Winkler, T., Dorschner, R. A., Eriksson, E., Herndon, M., and Gallo, R. L. (1998) J. Biol. Chem. 273, 28116-28121
【非特許文献9】Liaw, P. C., Becker, D. L., Stafford, A. R., Fredenburgh, J. C., and Weitz, J. I. (2001) J. Biol. Chem. 276, 5228-5234
【非特許文献10】Trowbridge, J. M., Rudisill, J. A., Ron, D., and Gallo, R. L. (2002) J. Biol. Chem. 277, 42815-42820
【非特許文献11】Schwartz, N. B., and Domowicz, M. (2004) Glycoconj. J. 21, 329-341
【非特許文献12】Maeda, N., He, J., Yajima, Y., Mikami, T., Sugahara, K., and Yabe, T. (2003) J. Biol. Chem. 278, 35805-35811
【非特許文献13】Kitagawa, H., Tsutsumi, K., Tone, Y., and Sugahara, K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 31377-31381
【非特許文献14】Nadanaka, S., Clement, A., Masayama, K., Faissner, A., and Sugahara, K. (1998) J. Biol. Chem. 273, 3296-3307
【非特許文献15】Clement, A., Sugahara, K., and Faissner, A. (1999) Neurosci. Lett. 269, 125-128
【非特許文献16】Hikino, M., Mikami, T., Faissner, A., Vilela-Silva, A. C., Pavao, M. S., and Sugahara, K. (2003) J. Biol. Chem. 278, 43744-43754
【非特許文献17】Nandini, C. D., Itoh, N., and Sugahara, K. (2005) J. Biol. Chem. 280, 4058-4069
【非特許文献18】Sugahara, K., and Yamada, S. (2000) Trends Glycosci. Glycotechnol. 12, 321-349
【非特許文献19】Bandtlow, C. E., and Zimmermann, D. R. (2000) Physiol. Rev. 80, 1267-1290
【非特許文献20】Moon, L. D., Asher, R. A., Rhodes, K. E., and Fawcett, J. W. (2001) Nat. Neurosci. 4, 465-466
【非特許文献21】Bradbury, E. J., Moon, L. D., Popat, R. J., King, V. R., Bennett, G. S., Patel, P. N., Fawcett, J. W., and McMahon, S. B. (2002) Nature 416, 636-640
【非特許文献22】Rhodes, K. E., and Fawcett, J. W. (2004) J. Anat. 204, 33-48
【非特許文献23】Saigo, K., and Egami, F. (1970) J. Neurochem. 17, 633-647
【非特許文献24】Zou, P., Zou, K., Muramatsu, H., Ichihara-Tanaka, K., Habuchi, O., Ohtake, S., Ikematsu, S., Sakuma, S., and Muramatsu, T. (2003) Glycobiology 13, 35-42
【非特許文献25】Ueoka, C., Kaneda, N., Okazaki, I., Nadanaka, S., Muramatsu, T., and Sugahara, K. (2000) J. Biol. Chem. 275, 37407-37413
【非特許文献26】Bao, X., Pavao, M. S., Dos Santos, J. C., and Sugahara, K. (2005) J. Biol. Chem. 280, 23184-23193
【非特許文献27】Tsuchida, K., Shioi, J., Yamada, S., Boghosian, G., Wu, A., Cai, H., Sugahara, K., and Robakis, N. K. (2001) J. Biol. Chem. 276, 37155-37160
【非特許文献28】Anno, K., Seno, N., Mathews, M. B., Yamagata, T., and Suzuki, S. (1971) Biochem. Biophys. Acta 237, 173-177
【非特許文献29】Ueoka, C., Nadanaka, S., Seno, N., Khoo, K. H., and Sugahara, K. (1999) Glycoconj. J. 16, 291-305
【非特許文献30】Fransson, L. A., Belting, M., Jonsson, M., Mani, K., Moses, J., and Oldberg, A. (2000) Matrix Biol. 19, 367-376
【非特許文献31】Habuchi, O. (2000) Biochem. Biophys. Acta 1474, 115-127
【非特許文献32】Silbert, J. E., and Sugumaran, G. (2002) IUBMB Life 54, 177-186
【非特許文献33】Mikami, T., Mizumoto, S., Kago, N., Kitagawa, H., and Sugahara, K. (2003) J. Biol. Chem. 278, 36115-36127
【非特許文献34】Yamauchi, S., Mita, S., Matsubara, T., Fukuta, M., Habuchi, H., Kimata, K., and Habuchi, O. (2000) J. Biol. Chem. 275, 8975-8981
【非特許文献35】Hiraoka, N., Nakagawa, H., Ong, E., Akama, T. O., Fukuda, M. N., and Fukuda, M. (2000) J. Biol. Chem. 275, 20188-20196
【非特許文献36】Okuda, T., Mita, S., Yamauchi, S., Matsubara, T., Yagi, F., Yamamori, D., Fukuta, M., Kuroiwa, A., Matsuda, Y., and Habuchi, O. (2000) J. Biochem. (Tokyo) 128, 763-770
【非特許文献37】Ito, Y., and Habuchi, O. (2000) J. Biol. Chem. 275, 34728-34736
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、Eジサッカリドユニット(二糖単位)やiEジサッカリドユニットを認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記糖鎖マーカー認識プローブを用いた神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の糖鎖マーカー認識プローブは、ファージディスプレイ法により生産可能な抗体を含み、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であるか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の両方を認識可能な糖鎖マーカー認識プローブである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の糖鎖マーカー認識プローブは、ファージディスプレイ法により生産可能な抗体を含むことにより、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であるか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の両方を認識可能である。また、本発明の糖鎖マーカー認識のこの性質を利用することにより、優れた性質を有する神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、これまでに、Dジサッカリドユニット(二糖単位)を認識する抗体473HDおよびMO225や、iDジサッカリドユニット(二糖単位)を認識する抗体2A12を発見したが、EやiEに強い特異性を示す抗体は発見していなかった。しかし、本発明者らは、今回鋭意研究の結果、GD3G7等のファージディスプレイ法により生産可能な抗体(以下、単に「GD3G7等」と記すことがある)を用いることで、Eジサッカリドユニット(二糖単位)やiEジサッカリドユニットを認識可能であることを見出した。前記抗体としては、GD3G7が特に好ましい。
【0011】
また、本発明者らは、前記GD3G7等の抗体が神経突起伸長を阻害することも見出した。したがって、本発明の神経突起伸長阻害剤は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを含む神経突起伸長阻害剤である。前記神経突起伸長阻害剤は、例えば、海馬ニューロンの神経突起伸長を阻害することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明らは、前記GD3G7等の抗体を含む本発明の糖鎖マーカー認識プローブによれば、ニューロン、腫瘍細胞および免疫組織を効果的に染色できることも見出した。
【0013】
すなわち、本発明のニューロン染色剤は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを含むニューロン染色剤である。これにより、本発明のニューロン染色剤は、例えば、小脳、海馬および嗅球からなる群から選択される少なくとも一つの組織の細胞を特異的に染色することが可能である。
【0014】
また、本発明の免疫組織染色剤は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを含む免疫組織染色剤である。
【0015】
さらに、本発明の腫瘍細胞染色剤は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを含むか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)のうちEユニットのみを認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを含む腫瘍細胞染色剤である。従来、高転移性腫瘍細胞への特異性を示す抗体の報告はなかったが、本発明の腫瘍細胞染色剤によれば、GD3G7等の抗体の特異性により、例えば、高転移性細胞を低転移性細胞よりも強く染色する等の効果を得ることができる。前記本発明の腫瘍染色剤は、例えば、癌細胞を染色することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の糖鎖マーカー認識プローブは、薬学的組成物や医薬の開発にも有用である。例えば、コンドロイチン硫酸の一種であるCS-EやDS-Eは、EやiE二糖単位を豊富に含み、かつ、神経細胞接着促進活性、神経突起伸長促進活性、ヘルペスウィルス感染阻害活性、デングウィルス感染阻害活性等の生物活性を有する。したがって、例えば、本発明の糖鎖マーカー認識プローブをCS-E/DS-E糖鎖マーカー認識プローブとして利用することで、例えば、神経細胞接着、神経突起伸長、ヘルペスウィルス感染阻害、デングウィルス感染阻害等に関する薬学的組成物や医薬を開発することができる。なお、CS-EやDS-Eが前記の活性を有することは、本発明者らが見出した。
【0017】
本発明の薬学的組成物は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを用いて製造され、神経細胞接着、神経突起伸長、増殖因子結合、ウィルス感染阻害、ヘルペスウィルス感染阻害、デングウィルス感染阻害、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される。
【0018】
また、本発明の医薬は、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブを用いて製造され、神経細胞接着、神経突起伸長、増殖因子結合、ウィルス感染阻害、ヘルペスウィルス感染阻害、デングウィルス感染阻害、および細胞の増殖からなる群から選択される少なくとも一つに関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される。前記細胞の増殖に関する疾患は、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患であることが好ましい。また、前記本発明の医薬は、例えば、抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用されることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の薬学的組成物または医薬は、中性分子からなっていても塩を含んでいても良く、前記塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。
【0020】
また、本発明の薬学的組成物または医薬において、有効成分の1回当たりの投与量および投与間隔等は特に限定されず、その目的に応じて適宜選択することができる。それらは、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、病状、投与経路、患者の代謝・排泄機能のレベル、使用される剤形、投与される特定の硫酸化多糖および硫酸化オリゴ糖ならびにそれらの塩を含む種々の要素を考慮して、当業者によって選定される。
【0021】
本発明の薬学的組成物または医薬の投与形態は特に限定されず、その目的に応じて、経口的に、または非経口的に投与することができる。経口剤として投与する時の形態は、特に限定されず、通常のおよび腸溶性錠剤、カプセル、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、溶剤、懸濁剤、シロップ、固体もしくは液体エアロゾル、および乳濁液等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。また、非経口投与時の形態も特に限定されず、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与等、当業者が通常用いる形態を選択することができる。
【0022】
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、一種類以上の薬学的に許容可能な添加物をさらに含むことが好ましい。前記添加物は、特に限定されないが、例えば、担体、希釈剤、香料、甘味料、滑沢剤、溶解剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、およびカプセル化材等の不活性物質である。また、これら以外にも、例えば、医薬の分野で一般に使用されている任意の添加物を適宜用いても良い。
【0023】
前記添加物は、経口投与する場合は、例えば、以下に列挙する物質を使用することができる。担体としては、例えば、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、炭酸ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、メチルセルロース等が可能である。崩壊剤としては、例えば、トウモロコシ粉、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、アルギン酸等が可能である。結合剤としては、例えば、ゼラチン、天然糖、ベータラクトース、トウモロコシ甘味料、天然および合成ゴム、アラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等が可能である。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、食塩、タルク等が可能である。
【0024】
本発明の薬学的組成物または医薬は、例えば、希釈剤を混合しても良いし、担体に封入しても良い。前記担体は、例えば、カプセル、小袋、紙その他の容器の形態が可能である。前記担体は希釈剤を兼ねてもよく、固体でも、半固体でも、ビヒクルとして作用する液体でも良い。また、本発明の医薬の形態は、特に限定されないが、例えば、錠剤、ピル、散剤、ローゼンジ、エリキシル、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル、軟膏、軟・硬ゼラチンカプセル、坐薬、滅菌注射用液および包装滅菌散剤等の種々の形態が可能である。
【0025】
なお、本明細書における略号の意味は以下の通りである。
すなわち、CSは、コンドロイチン硫酸を意味する。
DSは、デルマタン硫酸を意味する。
GAGは、グリコサミノグリカンを意味する。
PGは、プロテオグリカンを意味する。
GlcUAは、D-グルクロン酸を意味する。
GalNAcは、N-アセチルガラクトサミドを意味する。
IdoUAは、L-イズロン酸を意味する。
2Sは、2-O-硫酸を意味する。
4Sは、4-O-硫酸を意味する。
6Sは、6-O-硫酸を意味する。
MKは、ミッドカインを意味する。
C4STは、コンドロイチン-4-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
D4STは、デルマタン-4-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
GalNAc4S-6STは、N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸-6-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
P-ORNは、ポリ-DL-オルニチンを意味する。
NFは、ニューロフィラメントを意味する。
MAP2は、微小管結合タンパク質2を意味する。
PAPSは、ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸を意味する。
ELISAは、酵素結合免疫吸着検定法(enzyme-linked immunosorbent assay)を意味する。
BSAは、ウシ血清アルブミンを意味する。
APSは、アミノプロピル-トリエトキシシランを意味する。
MEは、メルカプトエタノールを意味する。
HPLCは、拘束液体クロマトグラフィーを意味する。
DABは、3,3'-ジアミノベンジジンを意味する。
PTNは、プレイオトロフィン(pleiotrophin)を意味する。
P7は、生後7日を意味する。
E16.5は、胎齢16.5日を意味する。
SS-DSは、サメ皮膚由来DSを意味する。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0027】
本実施例では、ファージディスプレイ抗体GD3G7を糖鎖マーカー認識プローブとして用い、CS-E, CS-H, SS-DS(サメ皮膚由来)と反応することを確認した。具体的には、皮膚DSがもつiB二糖単位を硫酸基転移酵素でiEに変換し、抗体との反応性を確認した。また、マウス脳切片を用いて、海馬、嗅球、小脳の糖鎖への前記抗体の特異的結合を確認し、海馬ニューロンのCS/DSによる突起伸長の阻害を確認し、神経マーカーの認識プローブとしての有用性を示した。そして、エピトープの最小サイズが十糖であること、および最近単離した四種の十糖配列との反応性を示した。さらにマウスLewis肺癌細胞およびマウス骨肉腫由来の高転移性細胞株との強い反応性を確認した。より詳しくは以下の通りである。
【0028】
コンドロイチン硫酸(CS)およびデルマタン硫酸(DS)鎖は、脳内のニューロン発達、例えばニューロン接着、遊走および神経突起形成等の工程と関連付けられる。CS/DS鎖の硫酸化のバリエーションは、中枢神経系発達を調節する。本発明者らは、(ヒト)ファージディスプレイ法により生産される単鎖抗体GD3G7により検出される、発生的に調節された脳のCS/DS鎖に注目した。
【0029】
本実施例では、ファージディスプレイ抗体GD3G7を糖鎖マーカー認識プローブとして用い、その特異性を、種々のCSまたはDS標品を用いて確認した。また、マウスの培養海馬ニューロンを用いた糖鎖による神経突起伸長促進活性評価系で、抗体による活性阻害、および神経細胞上のマーカーを認識することを確認した。さらに、肺性転移を示す癌細胞と肝性転移を示す癌細胞株を用い、エピトープの発現と転移の強さに相関性があることを観察した。
【0030】
また、出生後マウス脳内におけるGalNAc4S-6STの寄与を確認するためにインサイツハイブリダイゼーション法を行い、かつ、ファージディスプレイ抗体GD3G7を用い、脳発達におけるE/iE-含有構造が有する可能性のある機能について確認した。その結果、哺乳類脳内で、mGalNAc4S-6ST発現とGD3G7エピトープの間には良い相関関係が観測された。具体的には、出生後マウスの脳でインサイツハイブリッド形成法(in situ hybridization)を行い、CS/DS-Eの生合成に関連するN-アセチルガラクトサミン-4-硫酸 6-O-スルホトランスフェラーゼ(GalNAc4S-6ST)発現を確認した。GalNAc4S-6ST転写は、生後7日(P7)を除き、発達中の脳内で広範囲な発現を示した。P7において、小脳の外顆粒細胞層内で強力な発現が観測された。前記顆粒細胞層内での発現は、発達とともに次第に減少することが観測された。種々のGAG調製に対する抗体GD3G7の特異性の評価は、この抗体がイカ由来CS-E[GlcUAβ1→3GalNAc(4,6-O-硫酸)ジサッカリドユニット(二糖単位)Eが豊富],メクラウナギ由来CS-H[IdoUAα1→3GalNAc(4,6-O-硫酸)ユニットiEが豊富]およびサメ皮膚由来DS(EおよびiEの両方が豊富)と特異的に反応することを示した。興味深いことに、GalNAc4S-6STにより生成されたiEユニットもまたGD3G7に対する特異性を示し、前記抗体がCS-EおよびiEの両方を認識することを強調した。マウス脳内におけるGD3G7エピトープの免疫組織化学的局在化は、前記エピトープが小脳、海馬および嗅球内に特異的に観測されることを示した。GD3G7は、さらに、CS-Eにより媒介される、胎生期における海馬ニューロンの神経突起伸長を抑制した。このことは、GD3G7エピトープがCS-Eの神経突起伸長促進モチーフ内に包埋されていることを示唆した。さらに、CS-Eデカサッカリド(十糖)フラクションは、GD3G7による認識のために必要な臨界最小構造(critical minimal structure)であることが示された。これらの結果によれば、GD3G7等の抗体が、中枢神経系発達および種々の他の病理学的条件におけるCS/DS鎖の研究に、将来における広い適用範囲を有することが明らかである。
【0031】
以下、本実施例の具体的な工程、結果等について説明する。
【0032】
《試薬》
CS-Aは鯨軟骨に由来し、CS-Bはブタの皮膚に由来し、CS-CおよびCS-Dはサメ軟骨に由来し、CS-Eはイカ軟骨に由来し、HSは、ウシ腸管粘膜に由来し、コンドロイチナーゼABC(EC 4.2.2.4), AC-1(EC 4.2.2.5)およびB(EC 4.2.2)は、いずれも生化学工業株式会社(日本、東京)から購入した商品名である。メクラウナギ脊索由来のCS-Hは、Nobuko Seno教授(お茶の水女子大学、日本、東京)から提供を受け、サメ皮膚由来のDSは、公知の方法(参考文献17)により調製した。生後7日および妊娠中のddyマウスは、日本エスエルシー株式会社(日本、静岡)から購入した。モノクローナル抗VSVグリコプロテインクローンP5D4は、Sigma社(ミズーリ州セントルイス)から得た。アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG+IgMは、StressGen Biotechnol Corp.社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。Surperdex peptide HR 10/30(商品名)カラムは、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社(旧名:アマシャム バイオサイエンス株式会社、日本、東京)から購入した。EZ-Link(登録商標)ビオチン-LC-ヒドラジドは、Pierce社(イリノイ州ロックフォード)から得た。偶数の飽和オリゴサッカリド(テトラ〜ヘキサデカサッカリド)フラクションは、参考文献38を参照し、ヒツジ精巣ヒアルロニダーゼを用いた部分酵素消化によりイカ軟骨由来の市販CS-Eから調製した。そして、構造決定したCS-Eのオクタおよびデカサッカリドは、ヒツジ精巣ヒアルロニダーゼを用いたCS-Eの酵素消化により調製した。ポリ-DL-オルニチン(P-ORN)および抗ニューロフィラメント抗体(NF)は、Sigma社から購入した。抗微小管結合タンパク質2(anti-microtubule-associated protein2)(MAP2)は、Leico Technologies Inc.社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。ベクタステイン(登録商標)ABCキットは、Vector Laboratories Inc.社から購入した。35S-標識3'-ホスホアデノシン5'-ホスホスルファート(PAPS)は、PerkinElmer Life Sciences社(マサチューセッツ州Wellesley)から購入した。なお、ScFv抗体GD3G7は、Gerdy et al.のファージディスプレイ法により選択することができる。また、GD3G7は、CAT(Cambridge antibody technology)社の抗体ファージディスプレイライブラリーから選択可能である。
【0033】
《酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)》
抗体の基質特異性を評価するために、ストレプトアビジン被覆プレートを用いた。種々のGAGサブタイプに対する抗体の反応性は、参考文献40を参照し、ELISAにより試験した。簡単に述べると、種々のGAGsを個々にビオチン化し、前記プレート上に固定した。ウェルは、1%ウシ結成アルブミン(BSA)でブロックし、10倍希釈の一次抗体GD3G7でインキュベートした。この抗体はVAVタグを含むため、このタグを、結合した前記抗体の検出に用いた。抗VSVタグマウスモノクローナル抗体P5D4のハイブリドーマ上澄みを0.1% BSA/PBSで5,000倍に希釈して用い、続いてアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIg(G+M)で処理した。酵素活性は、p-ニトロフェニルリン酸を用いて検出し、吸光度は415nmで測定した。
【0034】
阻害ELISAのために、一定量のGAGsまたは偶数オリゴサッカリドまたは構造決定されたオリゴサッカリドを、抗体GD3G7(周辺質フラクション、10倍希釈、50μl)により室温で1時間インキュベートし、その後、CS-E被覆ストレプトアビジンプレートに適用した。阻害は、GAGを用いずにインキュベートした対照の吸光度を差し引いた吸光度から計算した。
【0035】
《推定上のコンドロイチンGalNAc4S-6STの構築》
ゼブラフィッシュ由来GalNAc4S-6STは、マウスカウンターパートのクエリーシーケンス(GenBank(登録商標)、アクセスNO. AB 187296)を用い、TBLASTNサーチによりin silicoで同定した。第1のNH2-末端81アミノ酸残基を欠く切断型GalNAc4S-6STをエンコードするcDNAをPCR法で増幅した。前記PCR法には、タンパク質のフルコーディングシーケンスを含むpGEM-Tイージーベクターを用い、さらに、インフレームのBamHI部位を含む5'-プライマー(5'-GCGGATCCGGGCTCTTTTTAACACC-3')および、停止コドン(5'GCGGATCCACCAAGCATCGGCC T-3')から77bp下流に位置するBamHI部位を含む3'-プライマーを用いた。前記PCR法は、KOD-プラス-DNAポリメラーゼ(東洋紡エンジニアリング株式会社、東京)により、94℃で30秒、59℃で42秒および68℃で90秒の30サイクルで行った。前記PCR法による望ましいサイズの生成物は、BamHIにより消化し、発現ベクターpEF-BOS/IP(参考文献41)のBamHI部位にクローン化した。結果として生じたベクターは、インスリンリーダーペプチドを含み、そして、プロテインAのIgG-結合ドメインは、GalNAc4S-6STの切断型に続いていた。
【0036】
《推定されるコンドロイチンGalNAc4S-6STの可溶型の発現、およびエンザイムアッセイ》
発現プラスミドは、FuGENE(登録商標)6(Roche Applied Science社)を製造者の説明書に従って用い、100mmプレート中でCOS-1細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、1ml定量の培地を、10μlのGEヘルスケア バイオサイエンス株式会社(旧名:アマシャム バイオサイエンス株式会社、日本、東京)のIgG-セファロースビーズとともに、4℃で1時間インキュベートした。酵素結合ビーズは、下記アッセイ緩衝液により洗浄および再懸濁し、そして、スルホトランスフェラーゼアッセイの酵素源として用いた。
【0037】
CS/DSに対するスルホトランスフェラーゼ活性は、参考文献42の方法により行った。簡単に言うと、標準反応混合物(60μl)は、10μlの再懸濁ビーズ、50mMのイミダゾール-HCl(pH 6.8)、2mMのジチオスレイトール、10μMの[35S]PAPS(1または3×105dpm)を含み、さらに、ブタの皮膚由来CS-Bを亜硝酸で前処理したものを、アクセプターポリサッカリド(GlcUAとして2μg)として含んでいた。前記反応混合物は、37℃で1時間インキュベートし、Sephadex G-25 スーパーファインを充填したシリンジカラムを用いてゲル濾過した。なお、Sephadex G-25は、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社(旧名:アマシャム バイオサイエンス株式会社)の商品名である。前記ポリサッカリドアクセプターに組み込まれた[35S]硫酸化物(スルファート)は、流出フラクションの液体シンチレーションカウントにより放射活性を決定して定量した。
【0038】
《トランスフェラーゼ反応生成物の同定》
[35S]標識CS-Bは、前述の通りゲル濾過で単離し、乾燥し、そして、コンドロイチナーゼABC、AC-1またはB(参考文献44)による完全消化にかけた。消化物は、アミンを結合したシリカPA03カラムを用いてアニオン交換HPLCで分析するか(参考文献45)、または、Superdex(登録商標)ペプチドカラム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)によりゲル濾過し、0.2M NH4HCO3で平衡化した(参考文献46)。
【0039】
《インサイツハイブリッド形成法》
脳は、生後7日(P7)、P14およびP21のddyマウスから素早く取り出し、そして、粉末化したドライアイス中で凍らせた。連続した脳切片は、ライカ マイクロシステムズ株式会社(東京、日本)のクリオスタットで16μmの厚さに切断し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)でプレコートしたスライドガラス上に解凍マウントし、そして、使用時まで-80℃で保存した。
【0040】
GalNAc4S-6ST cDNAを含むプラスミドは、制限酵素Nco IまたはSal Iにより直線化し、アンチセンスまたはセンスRNAプローブの合成にそれぞれ用いた。酵素消化後、各消化物は、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)で処理し、そして、エタノール沈殿により生成した。35S-標識リボプローブは、MAXIscript(登録商標)T7キット(テキサス州オースティンAmbion社)を用い、5'-α-35Sチオ三リン酸(約30TBq/mmol)(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)とともに転写した。スライドに載せる前に、前記放射標識プローブは、それぞれ、ハイブリッド形成緩衝液[50%(v/v)ホルムアミド, 10%(v/v)デキストランスルファート(sulphate), 2.5x デンハート液, 4x 生理食塩水クエン酸ナトリウム(SSC), 5mM EDTA, pH 8.0, ビール酵母由来の0.5mg/ml tRNA(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、日本国東京),および20mM DTT]中に、107cpm/ml濃度で混合した。インサイツハイブリッド形成法は、参考文献47の方法で行った。簡単に言うと、まず、脳切片を、4%(v/v)ホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)により室温で15分間固定した。その後、プロテイナーゼK(2mg/ml)により37℃で10分間消化し、0.25%(v/v)無水酢酸を含む0.1Mトリエタノールアミンにより室温で10分間アセチル化し、そして、段階的な濃度のエタノールにより脱水した。乾燥後、前記組織切片を、10%(w/v)デキストランスルファートを含まないハイブリッド形成緩衝液により55℃で1時間前処理した。そして次に、RNAプローブを含むハイブリッド形成緩衝液を前記のように調製し、そして、加湿チャンバー内において55℃で18時間インキュベートした。前記切片は、次に、10mM 2-メルカプトエタノール(2ME)を含む2×SSCにより、室温で5分間、2回リンスした。そして、RNase A(50μg/ml)により55℃で30分間消化し、50%ホルムアミド/2x SSC/10mM 2MEにより、55℃で30分間、および続いて2x SSC/10mM 2MEにより室温で10分間、2回リンスし、そして、段階的な濃度のエタノールにより脱水した。前記加工した切片は、X線フィルム(Bio Max MR; Kodak社、ニューヨーク州Rochester)に1週間曝露し、シグナルを検出した。
【0041】
《免疫組織化学》
脳は、P7のddyマウスから素早く摘出し、そして、3.7%ホルムアルデヒド溶液により終夜固定した。組織は、続いて、氷冷した70%、90%および無水エタノールのいくつかの変更により、室温で15分間脱水した。続いて、組織を、50%(v/v)のポリエステルワックスを含む無水エタノール中に37℃で終夜入れ、続いて、90%(v/v)のポリエステルワックスを含む無水エタノール中に37℃で終夜入れた。組織は、90%ワックス溶液中に包埋させ、そして、ブロックはクリオスタット(ライカ マイクロシステムズ株式会社(東京、日本))により連続的に5μmにカットし、スライドガラス上に載せた。前記スライドは、4℃で終夜乾燥し、そして、この温度で使用時まで保存した。免疫染色は、参考文献26の方法で行った。簡単に言うと、ポリエステルワックス切片を、100%、90%および70%エタノールにより室温で脱ワックスし、そして蒸留水で再水和した。この切片は、次に、下記溶液で連続的に処理した。
1) 2.5%過酸化水素を含むPBS (10mM, pH 7.4)で30min;
2) 1% BSA, 4%正常ヤギ血清を含むPBSで60min;
3) 1次抗体を含む1% BSA/PBS (10倍希釈),
4)抗-VSVタグマウスモノクローナル抗体P5D4を含む1% BSA/PBS(3,000倍希釈)のハイブリドーマ上澄み
5) ビオチン化抗マウスIgGを含む1% BSA/PBSで60min;
6) ベクタステインABC溶液を含むPBS(200倍希釈)で60min;および
7) 0.06%ジアミノベンジジンdiaminobenzidine, 0.01%過酸化水素を含むトリス緩衝生理食塩水(20mM, pH, 7.6).
最後に、切片は、エタノール溶液のシリーズで固定し、キシレンベースのマウント培地とともにマウントした。抗体による染色特異性を確認するために、脳切片はコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(5mIU/切片)で前処理してCSおよびDSを除去し、そして、GD3G7に対する最小結合サイズを確認し、各1nmolのCS-Eオクタまたはデカサッカリドフラクションを、前記抗体により37℃で1時間プレインキュベートした後前記切片に加え、そして次に、前述の通り免疫染色した。
【0042】
《細胞培養》
海馬細胞は、胎齢(日)16.5(E16.5)のマウス脳を用いて培養した(参考文献16および48)。前記海馬は、顕微解剖により得て短時間のトリプシン処理により解離させた。解離細胞は、N2サプリメントを含むイーグルの修飾基本培地(Eagle’s modified essential medium)中に懸濁させ、P-ORN-被覆カバーガラス上に播種し、そして、5%CO2を含む加湿雰囲気中、37℃で培養した。
【0043】
《神経突起伸長アッセイ》
E16.5マウス由来海馬ニューロンの神経突起伸長は、参考文献16および48の方法によりアッセイした。簡単に言うと、まず、プラスチック製カバーガラス(10×10mm)を、1.5μg/mlのP-ORNを含む0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.2)により室温で2時間処理した。次に、PBS中、4℃で終夜、カバーガラス1枚あたり2μg/cm2の用量のCS-Eでさらに被覆し、PBSで3回洗浄し、そして、抗体GD3G7(10および100μg/ml)で被覆した。室温で2時間インキュベーション後、前記カバーガラスをPBSで3回洗浄し、そして次に、海馬細胞を10,000個細胞/cm2で播種した。陰性対照として、GAGsとの反応性を有しない無関係のscFv抗体MPB49Vを用いた。
【0044】
24時間培養後、細胞を4%(w/v)パラホルムアルデヒドで固定し、そして次に、抗MAP2および抗ニューロフィラメント抗体で免疫染色し、そして、前記抗体は、ベクタステインABCキットを用い、3',3-ジアミノベンジジンを色素源として前述のように検出した。神経突起伸長は、1細胞あたりの神経突起全長を決定して評価した。1つのカバーガラスあたり、細胞本体よりも長い神経突起を少なくとも一つ有する細胞をランダムに100個選び、明白に単離した。結果は、平均±標準偏差で表した。そして、平均間の有意性および差は、スチューデントt検定で評価した。
【0045】
《ELISAによる、抗CS抗体GD3G7の特異性の評価》
種々のGAG製剤に対するGD3G7の反応性は、ELISAを用いて試験した。この場合において、ビオチン化したGAGsは、それぞれ、ストレプトアビジン被覆プレート上に固定した。GD3G7は、CS-E、CS-H(iEを主なジサッカリドユニットとして含むメクラウナギ脊索由来の過硫酸化DS)およびSS-DS(かなりの割合のEおよびiEユニットを含むサメ皮膚由来DS)と特異的に反応し、そして、試験した他のGAG(CS-A, CS-B, CS-C, CS-Dを含む)およびヘパリンとは何ら反応しなかった(図1)。このことは、GD3G7が、E(GlcUA-GalNAc(4S,6S))およびiE(IdoUA-GalNAc(4S,6S))ユニットの両方を認識可能であることを強調する。GD3G7のiEに対する特異性をさらに調べるために、阻害性ELISAを行った。この場合において、硫酸化のためにGalNAc4S-6STで処理したかまたは処理しないCS-Bを、インヒビターとして用いた。
【0046】
ヒトのGalNAc4S-6STは、硫酸基(sulfate)をPAPSからCSAとDSのGalNAc-4-硫酸残基のC-6水酸基まで移し、GlcA-GalNAc(4S、6S)および/またはIdoUA-GalNAc(4S、6S)単位(参考文献49)を含むCSEを形成する。GalNAc4S-6STの機能分析を容易にするために、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性は、CS-Bをアクセプターとして、およびPAPSをドナー基質として使ってアッセイした。GalNAc4S-6ST反応生成物を同定するために、前記反応生成物は、第1に、Sephadex G-25(スーパーファイン)カラムを用いてゲル濾過した。そして、透過フラクションの一定分量を、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼAC-1またはコンドロイチナーゼBを用いて完全に消化した。標的のIdoUA残基に隣接するGalNAc残基の硫酸化はコンドロイチナーゼBおよびコンドロイチナーゼAC-1の活動においては基本的であり、反応は隣接する糖残基の硫酸化パターンによってはあまり影響されないことに注目すべきである。各消化物の半分はSuperdexペプチドカラムでゲル濾過し(図2A〜C)、そして、各消化物の他の半分は、アニオン交換HPLCとアミン結合シリカPA-03カラムを用い、NaH2PO4濃度16mM〜530mMまでの直線勾配で1時間以上分析した。
【0047】
ゲル濾過クロマトグラフィーは、コンドロイチナーゼABCおよびコンドロイチナーゼB消化後の35S-標識生成物がジサッカリドに対応した位置に溶出したことを明らかにした(図2D〜F)。一方、コンドロイチナーゼAC1消化後には、検出可能な生成物は溶出しなかった(図2E)。ゲル濾過により観測されたジサッカリドピークの放射活性積分は、各リアーゼ消化物の他の半分を用いたアニオン交換HPLC分析により検出されたΔDi-diSEと良い一致を示した。このことは、35S-標識ΔDi-diSEが、コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼB消化により、-IdoUA-GalNAc(4S,6S)-IdoUA- シーケンスから放出されたことを示す(図2A、C)。また、-GlcUA-GalNAc(4S,6S)-GlcUA- シーケンスからは、コンドロイチナーゼAC1消化後に何の生成物も検出されなかったため、何も放出されなかったことを示す(図2B)。これらの結果は、CS-Bをアクセプター分子として用いた場合、GalNAc4S-6STが、GlcUAよりも、IdoUAに隣接するGalNAc(4S)残基の硫酸化を触媒し、それゆえにiEジサッカリドユニットを生成することを示す。
【0048】
《GD3G7のiEに対する特異性の評価》
ゼブラフィッシュ由来GalNAc4S-6STは、CS-B中において、IdoUA残基に隣接するGalNAc(4S)残基の6-O-部位に硫酸基を優先的に転位させ、そのようにしてiE(IdoUA-GalNAc(4S,6S))ジサッカリドユニットを生成させた。GD3G7のiEに対する特異性をさらに評価するため、本発明者らは、GalNAc4S-6STで処理したかまたは処理しないCS-Bが、固定化CS-Eに対し、GD3G7の結合を阻害する能力を評価した。図3に示す通り、GalNAc4S-6ST処理したCS-Bのみが、GD3G7のCS-Eに対する結合を有意に阻害した。一方、GalNAc4S-6ST処理しないCS-Bは、GD3G7のCS-Eに対する結合を阻害しなかった。このことは、GD3G7がiEと特異的に反応することを示唆する。阻害活性は、CS-Hも示したが、CS-Dは示さなかった。これらのデータは、GD3G7がEおよびiEの両方のジサッカリドユニットを認識するという結論を示す。
【0049】
《マウス脳の生後発達中におけるCS/DS GalNAc4-硫酸 6-O-スルホトランスフェラーゼの発現》
CS/DS鎖は、中枢神経系発達を調節し、そして、神経突起生成分子として種々の役割を果たす。ブタ胎児脳由来CS/DSハイブリッド鎖のIdoUA- 含有構造が、神経突起生成および増殖因子結合活性に必要であることが示されている(参考文献50)。したがって、マウス脳の生後発達中におけるE/iEユニットを含むCS/DSハイブリッド鎖の寄与に対する洞察を得るために、マウスGalNAc4S-6STの発現を、それぞれの35S-標識アンチセンスプローブを用いてインサイツハイブリッド形成法により試験した。
【0050】
図4は、P7(図4A)、P14(図4B)およびP21(図4C)マウス脳由来の矢状切片の薄膜オートラジオグラムを示す。GalNAc4S-6ST転写は、発達中の脳の嗅球、大脳皮質、海馬、小脳および層を含む広範囲な領域について観測した。それぞれの35S-標識センスプローブの陰性対照実験として、無標識を、P21マウス脳(図4E)、P7またはP14マウス脳(データ示さず)の任意の領域について観測し、アンチセンスプローブの特異的ハイブリッド形成を確認した。この遺伝子の発現は、P7マウスの小脳に限定され、小脳の外表下流細胞層で強い発現が観測された(図4A)。小脳における発現は、外顆粒細胞層から内顆粒細胞層へとスイッチし、そして、発達にしたがって次第に減少が見られた(図4D)。このことは、おそらく、顆粒細胞の転移および/または成熟を反映する。この遺伝子の発現は、Eおよび/またはiEユニットを含むCS/DSがP7マウス小脳内に比較的大量に存在し、そして、生後の脳発達中に次第に減少することを示す。
【0051】
《マウス脳内におけるGD3G7エピトープの免疫組織化学的検出および局在化》
マウス脳内の独特なGD3G7エピトープ発現を研究するために、P7脳切片の免疫組織化学発現を、抗体GD3G7を用いて行った。P7マウス由来の連続的矢状脳切片は、抗体GD3G7でインキュベートし、その結合抗体を、抗-VSV-タグ付P5D4抗体およびペルオキシダーゼタグ付ビオチン化抗マウスIgG抗体で検出し、そして、DAB(ペルオキシダーゼに対する基質)で可視化した。前記P7マウス矢状切片の染色パターンを、図5に示す。GD3G7は、P7小脳、海馬および嗅球を特異的に染色した。前記染色は、小脳でより強く、GD3G7は、白質および外顆粒層を染色した。小脳の新生児期発達においては、顆粒細胞の生成は、外顆粒層の増殖性帯域で起こる(参考文献51)。顆粒細胞は、生後に細胞サイクルを脱し始め、それらの分化プログラムの一部として、内部に遊走し、プルキンエ細胞を通過し、内顆粒層を形成する(参考文献52)。海馬内では、GD3G7は歯状回および放線状層の多形層を染色し、嗅球内では、GD3G7エピトープは、球状層内に発現した。これらの発見は、上記インサイツハイブリッド形成法による研究結果と一致する。脳の染色は、組織部位のコンドロイチナーゼABCによる処理で完全に無効にされ、染色の特異性が確認された。これらの結果は、P7マウス脳において、CS-Eが、小脳内に、そしてさらに海馬および嗅球中にも、高度に発現したことを示す。
【0052】
《海馬ニューロンの神経突起伸長に対するGD3G7の効果》
CS-Eは、ラットE18海馬ニューロンの神経突起伸長を促進する。前記抗体GD3G7は、CS-E中のエピトープ構造を認識する。CS-E中のGD3G7エピトープが海馬ニューロンの神経突起伸長工程に関係するか否かを調べるために、前記抗体を、2つの異なる濃度(10μg/mlおよび100μg/ml)の培地で2時間培養し、その後、CS-Eで被覆した基層上にニューロン細胞を播種した。前記抗体は、CS-E含有基層上に増殖したニューロンの神経突起伸長を優位に抑制した(図6AおよびB)。この観測は、統計的形態学解析により確認した。それにより、GD3G7が神経突起形成を顕著に阻害し、かつ、100μg/mlで、1細胞あたりの全神経突起長を減少させたことが分かった(図6C)。これらの結果は、CS-Eの神経突起伸長促進モチーフ中にGD3G7のエピトープが存在することを示す。対照のscFv抗体(MPB49V)は、何の中和活性も示さなかった。
【0053】
《GD3G7による認識に必要な最小構造のキャラクタリゼーション》
CS-E中のGD3G7エピトープが神経突起伸長促進活性に関係するであろうとの観点から、本発明者らは、この抗体による認識に必要なCS-Eの最小構造をキャラクタライズした。イカ軟骨由来CS-Eのヒツジ精巣ヒアルロニダーゼによる部分消化で調製した偶数のCS-Eオリゴサッカリドフラクション(38)を、固定化CS-Eに対するGD3G7結合のインヒビターとして用いた。図7Aは、デカ-およびさらに大きなオリゴサッカリドが阻害活性を示し、そして、活性が分子サイズにつれて大きくなったことを示す。しかしながら、オクタサッカリドフラクションは、ヘキササッカリドフラクションと比較してややGD3G7と反応したように見える。
次に、GD3G7により認識されるCS-Eの最小構造を正確に決定するために、CS-E オクタ-およびデカサッカリドを、GD3G7のCS-Eへの結合に対するインヒビターとして用いた。図7Bは、GD3G7が、CS-E由来のデカサッカリドと優先的に反応したが、オクタサッカリドフラクションとは反応しなかったことを示す。GD3G7のCS-Eデカサッカリドフラクションに対する結合の程度は、用量依存性の増加を示した。一方、オクタサッカリドは、用量を多くしても結合は見られなかった。これらの結果は、CS-E由来デカサッカリドフラクションが、GD3G7による認識に必要な臨界的最小サイズであるという前記の知見と一致する。
本発明者らは、CS-Eオリゴサッカリドをインヒビターとして用い、脳部位中の抗体の免疫反応性を評価することにより、上記ELISAデータを実証した。CS-E由来のオクタ-およびデカサッカリドフラクションを、生後7日マウスの脳切片における免疫組織化学染色のインヒビターとして用いた。GD3G7は、CS-Eオクタ-およびデカサッカリドフラクション各1nmolで、室温において1時間インキュベートし、その後、脳切片とともにインキュベートした。図8に、生後7日マウス脳由来矢状切片の染色パターンを示す。CS-EデカサッカリドによるGD3G7のプレインキュベーションは、前記抗体による脳切片染色を妨げた。一方、CS-Eオクタサッカリドをインヒビターとして用いた場合、小脳、海馬および嗅球における免疫染色はなお視認可能であった。この知見は、CS-EデカサッカリドフラクションがGD3G7の最も効果的なインヒビターであることを示す。すなわち、このことは、CS-E由来デカサッカリドフラクションが、GD3G7結合に必要な最小構造であることを示す。
【0054】
GD3G7エピトープ構造のさらなるキャラクタリゼーションのために、CS-E由来のすでに構造決定された4つのデカサッカリドフラクションおよび一つのオクタサッカリドフラクションを、GD3G7のCS-Eに対する結合の阻害ELISA実験に用いた。4つのデカサッカリドフラクションは、全て、固定化CS-EへのGD3G7結合に対し、同様の阻害を示した。しかし、オクタサッカリドフラクションはそのような阻害を示さなかった(図9)。この結果は、基本的には、図7Bで観測されたサイズ依存反応性と一致する。前記オリゴサッカリドの構造を下記表1にまとめて示す。GD3G7は、構造決定されたデカサッカリドと優先的に反応したが、4つのEユニットを有するオクタサッカリドは、この抗体と結合しなかった。個々で観測された結合の優先順位は、この抗体が、デカサッカリドを、3つの連続したEユニットの最小として認識し得ることを示す。
【0055】
【表1】

【0056】
《ルイス肺癌セルライン細胞表面におけるGD3G7エピトープの免疫組織学的検出》
図10は、ルイス肺癌セルライン細胞表面におけるGD3G7エピトープの免疫組織学的検出を示す図である。10%FBSを含む300μl DMEM培地中の、高度および低度の転移能を有するルイス肺癌細胞(5×104)(文献1)(それぞれH11およびP29セルライン)を、チャンバースライド状に播種し、24時間培養し、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。これらを、モノクローナル抗体GD3G7(文献2)で1時間インキュベートし、結合したGD3G7を、抗-VSVグリコプロテイン抗体(Sigma社、米国、カタログ番号V5507)および続いてAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で検出し、そして共焦点顕微鏡観察により可視化した。H11細胞(図10A)は、強力に染色された。しかし、P29細胞(図10C)は、微かに染色されたのみであった。対照実験として、H11細胞(図10B)およびP29細胞(図10D)を、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche社、ドイツ、カタログ番号1697498)の存在下、コンドロイチナーゼABCで処理し、続いて、前述の通り免疫染色した。
【0057】
《マウス骨肉腫セルラインの、単鎖抗体GD3G7による染色》
図11は、肝臓に対する転移能が低度および高度のマウス骨肉腫セルラインLM8(図10A)およびLM8G7(図10B)(参考文献77)の、GD3G7エピトープによる免疫組織化学的検出を示す図である。10% FBSを含む300μL DMEM培地中のLM8(パネルA)およびLM8G7細胞(5×104)を、ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製lab-tekチャンバースライド(登録商標)システム1774028ウェルスライドガラス上に播種し、24時間培養し、そして、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。この固定化した細胞を、モノクローナル抗体GD3G7(参考文献76)(1:50)で1時間および続いて二次抗体VSV-タグP5D4(1:1000)で1時間(1:1000)でインキュベートし、さらにAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で処理し、そして共焦点顕微鏡(Fluoview)により可視化した。低転移能および高転移能細胞の両方とも染色されたが、低転移能細胞の染色は弱かった(図10AおよびB)。
【0058】
なお、下記表2に、前記LM8およびLM8G7細胞におけるCSジサッカリド(二糖)成分について示す。
【0059】
【表2】

【0060】
また、スルホトランスフェラーゼ遺伝子C4ST1は、高転移性マウス骨肉腫セルラインLM8G7では、低転移性LM8細胞と比較して高度に発現した。C6ST1およびGalNAc4S-6STの発現は、これら2つのセルライン間では差は見られなかった。これらセルラインでは、USTの発現は見られなかった。さらに、In vitro matrigel浸潤アッセイは、CS-Eがこれら腫瘍セルラインの浸潤を顕著に阻害したことを示す。
【0061】
《ディスカッション》
本実施例では、生後マウス脳におけるCS-E/DS-Eハイブリッド鎖の特徴的空間時間的分布を、ファージディスプレイ法により生産された抗体GD3G7を糖鎖マーカー認識プローブとして用いて詳細に確認した。この抗体は、ELISA評価によれば、特徴的iEユニットを有するCS-EおよびCS-H(参考文献28、29、52a)、および、全ジサッカリドの10%のE(またはiE)を有するSS-DS(参考文献17)と特異的に反応する。このことは、必須の認識ユニットが、付属しているGlcUAまたはIdoUAと無関係なGalNAc(4S, 6S)残基であることを示す。メクラウナギ脊索(参考文献28)および対応する哺乳類組織由来CS-Hは、腹部ニューロンの生成および運動ニューロンの分化(参考文献53)と結び付けられる可溶なソニックヘッジホッグタンパク質を生産する。CS-Hは構造がCS-Eと同様であるが、CS-Eと異なり、主要なウロン酸としてGlcUAに代えてIdoUAを含み、過硫酸化DSとみなせる(参考文献25)。CS-E/DS-Eの生合成に関するGalNAc4S-6STのインサイツハイブリッド形成法は、CS-E/DS-Eハイブリッド鎖が小脳内においてより高濃度であることを示す。このことは、CS-E/DS-Eハイブリッド鎖が脳発達中において重要であるという洞察を提供する。GalNAc4S-6STは、CSおよびDS中において、硫酸基をPAPSからGalNAc(4S)の6位に転位させる。精製GalNAc4S-6STを用い、CS-BからDS-Bのin vitro合成を行ったところ、IdoUAα1-3GalNAc(4S)を優先的に生成した。興味深いことに、生成物は、固定化CS-EへのGD3G7の結合を阻害し、抗体GD3G7がCS-BのiE-エンリッチ領域を認識したことを示した。そのように、抗体GD3G7は、EおよびiEユニットの両方を認識し、そして、E-およびiE-含有CS/DS構造の寄与の研究ツールとして有用である。
【0062】
スルホトランスフェラーゼの分化発現は、完全に評価されてはいない。Kitagawa et al.(参考文献13)は、CS鎖の硫酸化特性と、スルホトランスフェラーゼC4STおよびコンドロイチン6-O-スルホトランスフェラーゼ(C6ST)活性の比が、ニワトリ胚脳の発達につれて顕著に変化する硫酸化特性を形成し、かつ、それらの変更が正確にコーディネートされたことを示した。ここで、本発明者らは、脳発達中におけるGalNAc4S-6STの寄与をはじめて示した。GalNAc4S-6STの強力な発現は、P7マウス脳における小脳の外顆粒細胞層では、制限される(図4A)。その制限された発現は、内顆粒細胞層に、およびおそらくはプルキンエ細胞層にスイッチし、そして、発達につれて緩やかに減少した。このことは、E/iE-含有CS/DS鎖が、脳発達中において決定的な役割をすることを示す。GalNAc4S-6STは、発達中脳の海馬、大脳皮質および線条体において強力に発現することも発見された。このことは、E/iE-含有CS/DS鎖が、それら領域の神経可塑性および/または神経生存に関係することを示す。最近、アルツハイマー患者におけるアミロイドプリカーサータンパク質のCS-PG形態であるアピカンが、14.3% CS-Eユニットを含むグリオーマ細胞により清算されることが示された(参考文献27)。アピカン中のCS鎖は、ラット海馬初代培養における神経細胞接着および神経突起伸長促進の原因である。なぜならば、アルツハイマー患者におけるアミロイドプリカーサータンパク質の核は、アピカンPGよりも接着および神経突起伸長の促進力が弱いためである(参考文献54および55)。アピカンPG中におけるEユニットの存在は、アピカンの神経栄養性活性を説明可能であると思われる。過硫酸化ジサッカリドが主に特定CS-PGsにより示される神経栄養性活性の原因であるという仮説は、過硫酸化イカ由来CS-EおよびサメCS-Dがラット海馬ニューロン初代培養において神経突起伸長を促進するという先駆観察(参考文献15、56)に基づく。反対に、過硫酸化ユニットを欠くCS-PGsは、神経突起伸長を促進しないか、または阻害活性を示した(参考文献57)。生後脳が過硫酸化Eユニットを含むという本発明者らの観察は、この仮説を支持し、そして、CS-E/DS-Eが脳内において神経突起伸長促進の機能を果たし得ることを示す。最近、CS-Eが種々の増殖因子に結合し得ることが示された(参考文献58)。このことは、神経調節活性が、少なくとも、種々の増殖因子により媒介されるそのシグナル伝達によって発揮されることを示す。事実、最近、ブタ胎児脳由来CS/DS鎖について、そのCS/DS鎖の核タンパク質は同定されていないものの、前記CS/DS鎖が内在性PTNを補充し、海馬細胞培養システムにおいて神経突起生成を促進する(参考文献40)ことが示された。以前に、マウス乳腺上皮細胞由来の膜貫通型PGであるシンデカン-1が、E-含有CS鎖を有することが示された(参考文献59)。ただし、ラット中枢神経系により発現されMKおよびPTNに結合するシンデカン-1がCS-Eを含むか否かは、未知である。
【0063】
Eユニットは、ウシの脳(参考文献23)およびニワトリ脳由来CS鎖中にかなりの割合を占めること、および、それらが、発生的に調節された発現を示すこと(参考文献13)が報告されている。興味深いことに、抗体GD3G7は、P7マウス脳の限定された領域のみを染色した。これは、哺乳類脳内におけるCS-E/DS-E-含有構造発現を示す。しかしながら、マウス脳内のGD3G7エピトープがiEユニットを含むDSドメイン中に存在するか否かは、決定すべき事項として残っていた。D/iD, B/iB,およびE/iE等の過硫酸化ジサッカリドは、脳の発達に関係する(参考文献6、16および18)最近、Bao et al.(参考文献26)は、ホヤ由来DSに対するモノクローナル抗体2A12を用い、発達中マウス脳内における機能的iD-含有ドメインの存在を示した。Maeda et al.(参考文献12)は、生後マウス脳の発達中における、CS-56およびMO-225エピトープを含むいくつかのCSエピトープの組織的免疫組織化学局在化を報告した。前記CS-56エピトープは、大脳皮質内において、生後の早い期間に高発現する。そして、その発現は、生後三週間で顕著に減少する(参考文献12)。対照的に、MO-225エピトープの発現は、発達段階中において、大脳皮質内では弱いが、小脳を含む他の領域ではより強い。小脳中におけるMO-225の反応性は、生後14日で最高点に達し、その後は減少する(参考文献12)。Yamagata et al.(参考文献60a)における最初の研究は、テトラサッカリドΔA-DおよびΔE-Dに対するMO-225の反応性を示した。最近、Ito et al.(参考文献61)は、MO-225が、サメ軟骨のCS-Dに由来するオクタ-およびさらに大きなオリゴサッカリドフラクションと強力に反応し得ることを示した。そして、最近の研究結果(S.S. Deepa, K. Kittiwan, Y. Ito, S. Yamada, T. Mikami and K. Sugahara. In preparation.)は、MO-225が、イカ軟骨由来CS-Eから調製したEユニットが豊富なジサッカリドと反応したことを示した。
【0064】
CS-Eは、in vitroでの海馬細胞培養において、ニューロンに対する軸索様神経突起伸長を促進する(参考文献15)。GD3G7抗体は、CS-Eにより媒介される神経突起生成活性を阻害する。このことは、CS-E鎖の神経突起生成活性機能ドメインもまた、GD3G7エピトープを含むことを示す。Ueoka et al.(参考文献25)は、E18ラット脳内のCS-Eの存在を示し、かつ、過硫酸化EモチーフがMKの神経調節活性に関係していると思われることを示した。しかしながら、脳内のどのCS-PGsが前記Eモチーフを含むかについては、研究の余地があった。ブレビカン(参考文献62)およびニューロカン(参考文献63)ならびにNG2(参考文献64)、PTNζおよびニューログリカンC(参考文献65)等の膜貫通型CS-PGs、等の可溶性CS-PGsが同定されているにも関わらず、核タンパク質に結合しているCS鎖は、厳密に研究されてはこなかった。Maurel et al.(参考文献66)は、PTPζの細胞外変異体であるホスファカン(phosphacan)、脳内に大量発現されるレセプター型タンパク質であるチロシンホスファターゼが、MKのような同様の遺伝子ファミリーに結合するPTNに結合し、そして、PTNのホスファカン/PTPζに対する結合が、このプロテオグリカンのCS部分に依存し、さらに、種々のCS製剤がこの結合を競合的に阻害することを示した(参考文献67〜68)。特に、Eユニットを高比率で含むイカ軟骨由来CS-Eは、前記結合を非常に効果的に阻害した。このことは、過硫酸化CS構造が、ホスファカン/PTPζのPTNへの結合において重要な役割を演じることを示す(参考文献67〜68)。PTPζおよび/またはホスファカンは、異なる発達段階中において、特有の硫酸化特性を有するCS鎖を帯びることが可能である。PTPζ/ホスファカン-PTNシグナル伝達は、神経突起伸長、ニューロン遊走、グリオーマ遊走、およびプルキンエ細胞形態発生に関する(参考文献67〜71)。Deepa et al.は、PTNおよびMKがCS-Eと相互作用することを示した(参考文献58)。これらの報告の観点から、脳内における、E/iEユニットを含む特定オリゴサッカリドシーケンスが、MKおよびPTNのPTPζに対する高親和性結合の原因であり、それゆえに、小脳ニューロンの神経突起生成を媒介するという可能性も排除できない。
【0065】
本発明者らは、さらに、CS-EデカサッカリドフラクションがGD3G7のCS-Eに対する結合を阻害する最小のオリゴサッカリドフラクションであり、そして、より大きいオリゴサッカリドフラクションがより強力な阻害を示すことを示した。前記CS-Eデカサッカリドフラクションは、さらに、マウス脳スライス切片に対するGD3G7の反応性を阻害した。このことは、前記デカサッカリドがGD3G7結合の必要最小サイズであるという前記概念の確認となる。構造的に決定されたオクタ-およびデカサッカリドに対するGD3G7の反応性は、3の連続的Eユニットを有するデカサッカリドはGD3G7に対しエピトープ構造となり得るが、4の連続的Eユニットを有するオクタサッカリドはなり得ないことを示す。したがって、この抗体を認識するためには、Eユニットのみならずサイズが重要であると結論付けられる。さらに、脳内のGD3G7エピトープが、核E-および/もしくはiE-ユニット、または機能ドメインに沿って散らばったE/iE-ユニット混合物を有するデカサッカリドであるという可能性も排除できない。脳由来CS/DS鎖からのGD3G7反応性構造の単離は、この独特のエピトープの構造解明を助けるであろう。
【0066】
これらの結果は、全体として、脳内のCS-E/DS-E発現が、脳発達中において重要な役割をすることを示す。ここで述べるヒトscFv抗体は、他の抗体に対して示すCSの構造多様性を視覚化するツールとして使用可能である(参考文献73〜74)。単鎖抗体のcDNAが入手可能であれば、抗体は、大量に生産および精製可能である。そのような特徴的なE/iE-含有GD3G7エピトープを保有するPGsを同定することは興味深いことである。そのことは、中枢神経系の発達期間中において、CS-PGs機能の有用情報を提供する。
【0067】
以上の通り、本実施例によれば、ファージディスプレイ法で作成した単鎖抗体GD3G7を糖鎖マーカー認識プローブとして用い、特異性E二糖単位に富むCS-EとiE二糖単位に富むメクラウナギのDS-E(CS-Hとも呼ぶ)に対するこれまでに報告のない結合特異性を確認した。また、新生マウス脳切片の組織染色における、小脳、海馬、嗅球に対する特異的染色性を確認した。そして、CS-Eを塗布した基質上で培養した初代培養海馬ニューロンの神経突起伸長を阻害する前記抗体の活性を確認した。さらに、マウス由来の肺性転移を示す培養Lewis 肺癌細胞株と肝性転移を示すマウス骨肉腫細胞株のそれぞれについて、低転移性株よりも高転移性株に対するより強い染色性を確認した。また、エピトープの最小サイズを十糖と決定し、さらに四種類の十糖配列に対する特異性も決定した。これらの結果から、本発明は、基礎医学、臨床医学分野等の分野における広い応用が考えられる。
【0068】
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【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明した通り、本発明によれば、Eジサッカリドユニット(二糖単位)やiEジサッカリドユニットを認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを提供することができる。本発明の糖鎖マーカー認識プローブは、E二糖単位とiE二糖単位を特異的に認識する新しい糖鎖認識プローブであり、基礎医学、臨床医学分野における利用価値が高く、特に、神経科学分野および癌を始めとする糖鎖病理学分野における研究等に有用なツールである。その利用方法としては、例えば、前記両分野での疾病診断法の開発、創薬ターゲットとしての糖鎖マーカーの検索等があり、基礎医学にも臨床医学にも応用が考えられる。
【0070】
さらに、本発明は、前記糖鎖マーカー認識プローブを用いた神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬を提供する。本発明が適用可能な分野としては、血清診断法の開発、抗体の特異性を利用した制癌剤の開発、創薬ターゲット糖鎖の検索、特異的感染症の予防や治療法の開発等の応用分野、および、免疫組織染色、癌転移、ウィルスや細菌感染のメカニズム解明等の基礎医学分野がある。さらに、本発明の糖鎖マーカー認識プローブは、今回の結果は、神経細胞糖鎖マーカー、高転移性腫瘍糖鎖マーカーの認識プローブ等として有用であるため、免疫組織染色等におけるGAGの糖鎖生物学の広い分野に応用可能である。このように、本発明は、基礎医学、応用医学、創薬分野、糖鎖工学に大きな進歩をもたらす発明である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、単鎖可変フラグメント抗体GD3G7の基質特異性のキャラクタリゼーションを示す図である。 種々のGAG種に対する抗体GD3G7の反応性を、ELISAで分析した。前記GAG種としては、標準的GAGsおよびサメ皮膚由来DS製剤であるSS-DSを含んでいた。ビオチン化GAGs(各2μg)を、それぞれ、ストレプトアビジン被覆プラスチックプレートのウェルに固定化し、そして、一次抗体GD3G7(10倍希釈)でインキュベートした。結合抗体は、続いて、マウス抗-VSV抗体P5D4、およびその後のアルカリ性ホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIg(G+M)(5,000倍希釈)によるインキュベーションで、可視化した。酵素活性は、p-ニトロフェニルホスファターゼを基質として用い、415nmで測定した。棒グラフは、平均±SD(n=3)を表す。
【図2】図2は、zGalNAc4S-6STを酵素源とし、亜硝酸処理したCS-Bを硫酸アクセプターとして用いて調製した反応生成物のアニオン交換HPLCおよびゲル濾過クロマトグラフィー分析を示す図である。 zGalNAc4S-6STにより生成された35S-標識CS-Bの一定量を、コンドロイチナーゼABC(AおよびD)、AC-I(BおよびE)またはB(CおよびF)で消化した。各消化物の半分を、Superdexペプチドカラム(A-C)によるゲル濾過で分析した。なお、Superdexは、GSヘルスケア バイオサイエンス株式会社の商品名である。各消化物の他の半分は、フルオロフォア(2AB)で標識し、アニオン交換HPLCで分析した。前記アニオン交換HPLCは、アミン結合シリカPA-03カラムを用い、破線で示す通り直線NaH2PO4勾配により60分間(D-F)行った。縦軸は、ブタ皮膚DS由来の、標準偶数オリゴサッカリドの溶出位置を示す。第1はヘキササッカリドであり、第2はテトラサッカリドであり、第3はジサッカリドである(D-F)。数字付矢印は、2AB-誘導体化した不飽和ジサッカリドの溶出位置を示す。1はΔDi-0S(ΔO)であり、2はΔDi-6S(ΔC)であり、3はΔDi-4S(ΔA)であり、4はΔDi-diSD(ΔD)であり、5はΔDi-diSE(ΔE)であり、6はΔDi-triS(ΔT)である。
【図3】図3は、抗体GD3G7の、GalNAc4S-6ST処理後または未処理CS-Bに対する反応性を示す図である。 ゼブラフィッシュ由来GalNAc4S-6STで処理したまたは未処理のCS-Bを、固定化CS-Eに対するGD3G7結合のインヒビターとして用いた。各GAGの0.1、0.5および1.0nmolを、阻害ELISAを行うことで試験した。GalNAc4S-6STは、硫酸を、CS-BにおけるIdoUAに隣接するGalNAc4S残基の6-O-位置に転位させ、そして、最終的にiEユニットを生成する。GalNAc4S-6ST処理CS-BおよびCS-Hは、CS-Eに対するGD3G7の結合を阻害したが、天然CS-BまたはCS-Dは、GD3G7と結合しなかった。数値は、2回の独立実験の平均として得た。
【図4】図4は、生後発達中のマウス脳内GalNAc4S-6STにおけるインサイツハイブリッド形成法を示す図である。 P7(A), P14(B), P21(CおよびE)および7W(D)マウス由来の連続的な矢状脳切片を、GalNAc4S-6STに対する35S-標識アンチセンス(A-D)またはセンス(E)cRNAプローブでハイブリッド形成し、そして、X線フィルムで1週間被爆させた。センスプローブでハイブリッド形成したそれぞれの隣接する脳切片(Eおよびデータ示さず)には、標識は観測されなかった。GalNAc4S-6STトランスクリプトは、P7を除く発達中脳内において広範な発現を示した。P7では、小脳の外顆粒細胞層(矢じり)において強力な発現が観測された。前記顆粒細胞層における発現は、内部領域ににスイッチしそして、発達につれて次第に減少するのが確認された。GalNAc4S-6STの強力発現は、発達中脳の海馬、大脳皮質および線条体においても観測された。OBは嗅球を表す。Cxは大脳皮質を表す。Hiは海馬を表す。Cbは小脳を表す。Stは線条体を現す。スケールバーは5mmを表す。
【図5】図5は、マウス脳内におけるGD3G7エピトープの免疫組織化学的局在化を示す図である。 P7マウス脳由来の連続的矢状脳切片を、単鎖可変抗-CS抗体GD3G7で染色した。詳細は、「実験方法」で述べた通りである。GD3G7に対する免疫反応性は、小脳、海馬および嗅球で観測された。P7マウス由来組織切片をコンドロイチナーゼABCで処理することにより、染色は完全に消失した。スケールバーは50μmを表す。
【図6】図6は、培地中海馬ニューロンの神経突起伸長に対する単鎖可変フラグメント抗体GD3G7の効果を示す図である。 抗体GD3G7を、2つの異なる濃度(10μg/mlおよび100μg/ml)の培地中に加え、2時間後、E16.5マウス由来海馬細胞を、CS-E被覆基層状に播種した。24時間培養後、前記細胞を、抗-MAP2および抗-NF抗体で免疫染色した。100μg/ml GD3G7の非存在下(A)または存在下(B)で得られた細胞形態の代表的画像を示す。Cは、1細胞あたりの神経突起全長測定により評価した、GD3G7の神経突起伸長に対する効果を示す図である。無関係なscFv抗体MPB49Vを、陰性対照として用いた。数値は、2回の独立実験を三通り繰り返して得られた平均値±SDを表す。**, 0.001<p<0.01では、外因性抗体内で得られた実験数値と有意な差が見られた。
【図7】図7は、GD3G7による認識のための、CS-Eオリゴサッカリドの最小サイズ決定を示す図である。 イカ軟骨由来CS-Eから得た偶数オリゴサッカリドフラクションの各0.5μgを、固定化CS-Eに対するGD3G7反応のインヒビターとして、ELISAで試験した。デカサッカリドフラクションは、有意な阻害活性を示す最小フラクションであった。これに対し、オクタサッカリドフラクションは、ヘキササッカリドフラクションと比較してややGD3G7と反応するように見える。Bは、異なる用量のCS-Eオクタおよびデカサッカリドフラクション(0、0.5、1および2μg)を、固定化CS-Eに対するGD3G7反応のインヒビターとして、ELISAで試験した結果を示す図である。GD3G7は、CS-E由来デカサッカリドフラクションと優先的に反応した。数値は、2回の独立実験の平均値として得た。
【図8】図8は、マウス脳内GD3G7エピトープの免疫組織化学染色に対するCS-Eオリゴサッカリドの効果を示す図である。 CS-Eデカ-およびオクタサッカリド各1nmolを、P7マウス脳のGD3G7染色に対するインヒビターとして試験した。GD3G7をデカサッカリドでプレインキュベーションしたところ、マウス脳切片の染色は無効になった。これに対し、オクタサッカリドをインヒビターとして用いたところ、なお染色が観測された。
【図9】図9は、構造的に決定されたCS-Eオクタ-およびデカサッカリドのGD3G7に対する反応性を示す図である。 CS-Eから調製された、4の構造的に決定されたデカサッカリドフラクションおよび1のオクタサッカリドフラクションを、固定化CS-EとGD3G7の反応に対するインヒビターとして用いた。各デカサッカリドフラクションの0.01、0.05および0.1nmolと、オクタサッカリドフラクションの0.1nmolを試験した。4のデカサッカリドフラクションは全て同様に阻害活性を示したが、オクタサッカリドは阻害活性を示さなかった。数値は、2回の独立実験によって得られた平均値±SDとして表している。
【図10】図10は、ルイス肺癌セルライン細胞表面におけるGD3G7エピトープの免疫組織学的検出を示す図である。 10%FBSを含む300μl DMEM培地中の、高度および低度の転移能を有するルイス肺癌細胞(5×104)(それぞれH11およびP29セルライン)を、チャンバースライド状に播種し、24時間培養し、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。これらを、モノクローナル抗体GD3G7で1時間インキュベートし、結合したGD3G7を、抗-VSVグリコプロテイン抗体(Sigma社、米国、カタログ番号V5507)および続いてAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で検出し、そして共焦点顕微鏡観察により可視化した。対照実験として、H11細胞(図10B)およびP29細胞(図10D)を、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche社、ドイツ、カタログ番号1697498)の存在下、コンドロイチナーゼABCで処理し、続いて、前述の通り免疫染色した。
【図11】図11は、肝臓に対する転移能が低度および高度のマウス骨肉腫セルラインLM8(図10A)およびLM8G7(図10B)の、GD3G7エピトープによる免疫組織化学的検出を示す図である。 10% FBSを含む300μL DMEM培地中のLM8(パネルA)およびLM8G7細胞(5×104)を、ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製lab-tekチャンバースライド(登録商標)システム1774028ウェルスライドガラス上に播種し、24時間培養し、そして、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。この固定化した細胞を、モノクローナル抗体GD3G7(1:50)で1時間および続いて二次抗体VSV-タグP5D4(1:1000)で1時間(1:1000)でインキュベートし、さらにAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で処理し、そして共焦点顕微鏡(Fluoview)により可視化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージディスプレイ法により生産可能な抗体を含み、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であるか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の両方を認識可能な糖鎖マーカー認識プローブ。
【請求項2】
前記抗体がGD3G7である請求項1に記載の糖鎖マーカー認識プローブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを含む神経突起伸長阻害剤。
【請求項4】
海馬ニューロンの神経突起伸長を阻害する請求項3に記載の神経突起伸長阻害剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを含むニューロン染色剤。
【請求項6】
小脳、海馬および嗅球からなる群から選択される少なくとも一つの組織の細胞を特異的に染色する請求項5に記載のニューロン染色剤。
【請求項7】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを含むか、または、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)のうちEユニットのみを認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを含む腫瘍細胞染色剤。
【請求項8】
癌細胞を染色する請求項7に記載の腫瘍細胞染色剤。
【請求項9】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを含む免疫組織染色剤。
【請求項10】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを用いて製造され、神経細胞接着、神経突起伸長、増殖因子結合、ウィルス感染阻害、ヘルペスウィルス感染阻害、デングウィルス感染阻害、細胞増殖阻害、細胞死誘導、腫瘍細胞増殖阻害、腫瘍細胞浸潤阻害、腫瘍細胞転移阻害、腫瘍細胞遊走阻害、腫瘍細胞死誘導からなる群から選択される少なくとも一つに関する用途に使用される薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブを用いて製造され、神経細胞接着、神経突起伸長、増殖因子結合、ウィルス感染阻害、ヘルペスウィルス感染阻害、デングウィルス感染阻害、および細胞の増殖からなる群から選択される少なくとも一つに関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬。
【請求項12】
前記細胞の増殖に関する疾患が、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患である請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される請求項11または12に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−256217(P2007−256217A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84323(P2006−84323)
【出願日】平成18年3月25日(2006.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発表した刊行物:「第5回神戸薬科大学ハイテク・リサーチ・シンポジウム ガン・加齢性疾患の克服を目指して」 発行者名:神戸薬科大学 頒布年月日:平成18年2月16日 発表した研究集会:第5回神戸薬科大学ハイテク・リサーチ・シンポジウム 主催者名:神戸薬科大学 開催日:平成18年2月25日 発表日:平成18年2月25日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】