説明

糖鎖合成におけるキャッピング試薬

【課題】 キャッピング反応において水酸基と迅速に反応し、一時的な保護基の脱保護反応においてより安定であるキャッピング試薬及びそれを用いたキャッピング方法を提供すること。
【解決手段】 エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートを含む、糖又はアルコールの水酸基のためのキャッピング試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖合成で用いるための水酸基のキャッピング試薬、上記キャッピング試薬を用いた水酸基のキャッピング方法、並びに上記キャッピング試薬を用いた糖鎖合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖迅速合成はグリコシル化反応、キャッピング反応、一時的な保護基の脱保護反応のくり返しから構成される(図1)。糖鎖の迅速な合成においては、グリコシル化反応は完結させることが困難であるため、副生成物の生成を軽減し、最終目的物を効率良く単離するためにキャッピング反応が必要とされる。キャッピング反応は未反応の水酸基を不活性化するための反応操作である。
【0003】
水酸基のキャッピング反応(水酸基を不活性化するための反応)に必要な条件としては、水酸基との反応性が十分高いこと、一時的な保護基の脱保護反応、グリコシル化反応の条件において安定であることが必要とされる。また、キャッピング反応における反応時間が短いことも望ましい。さらに糖鎖自動合成化に向けては室温にて長時間の保存に耐えうる試薬、水による後処理を省くことができるもの、さらに本発明者らが開発中の短鎖ポリエチレングリコールを用いての糖鎖迅速合成においては順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製において短鎖ポリエチレングリコールが溶出する極性(酢酸エチル:メタノール4:1)に試薬が混入しないことも条件となる。
【0004】
アセチル基によるキャッピングが従来行われていたが、多量の無水酢酸が必要であり、また長時間、加熱が必要である場合もあった。また後処理が必ずしも短鎖ポリエチレングリコールを用いた系においては水による後処理を省くとシリカゲルカラムによる精製ができないことが既知であった。Schmidt (非特許文献1)らは、糖鎖固相合成におけるキャッピング試薬としてbenzoyl isocyanate の使用を開発した。しかしながら、一時的な保護基であるFmoc (フルオレニルメトキシカルボニル基)は問題なく脱保護できるが、クロロアセチル基などの他の一時的な保護基の脱保護条件においては必ずしもキャッピング体が安定ではないことがわかった。
【0005】
【非特許文献1】J. Org. Chem., 2004, 69, 1853-1857. Xiangyang Wu and Richard R. Schmidt, published on Web 2004. 2. 20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、キャッピング反応において水酸基と迅速に反応し、一時的な保護基の脱保護反応においてより安定であるキャッピング試薬及びそれを用いたキャッピング方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために各種の候補化合物の中からキャッピング試薬として最適な化合物を選択するために、キャッピング条件の検討(本明細書の実施例の試験例1)と、ClAc基脱保護条件におけるキャッピングの耐性の検討(本明細書の実施例の試験例2)を行った。その結果、エチルイソシアナトホルメート及びエチルイソチオシアナトホルメートは、温和な条件下で比較的短時間に良好な収率でキャッピング反応を行うことができると同時に、ClAc基脱保護条件においてキャッピングの耐性を示すことを意外にも見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートを含む、糖又はアルコールの水酸基のためのキャッピング試薬が提供される。
【0009】
さらに本発明によれば、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートと糖又はアルコールとを反応させることを含む、糖又はアルコールの水酸基をキャッピングする方法が提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートと糖又はアルコールとを反応させることによって糖の水酸基をキャッピングする工程を含む、糖鎖の合成方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のキャッピング試薬を用いた場合、キャッピング反応は温和な条件ですみやかに完結する。また、一時的な保護基であるレブリノイル基、クロロアセチル基、クロロアジドベンジル基などの脱保護条件において全く影響を受けない。またグリコシル化反応においても安定であった。本発明のキャッピング試薬は、固相反応、可溶性高分子担体を用いた糖鎖合成においても適用できる。またペプチド合成においても有用であると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明では、糖鎖合成などにおける糖又はアルコールの水酸基のためのキャッピング試薬として、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートを使用する。
【0013】
固相あるいは高分子担体を用いた糖鎖合成においてグリコシル化反応が完結しない場合、残存している水酸基を不活性化する必要があるが、この過程をキャッピング反応と呼ぶ。糖鎖固相合成あるいは高分子担体上での合成においてキャッピング反応は不可欠であるが、元来は無水酢酸と有機塩基を用いるアセチル化を用いて行っていた。しかしながら、反応時間が長いことやときとして加熱が必要なこと、多量の試薬を用いなければならないなどの改良すべき点があった。Schmidt らはbenzoyl isocyanate を用いての水酸基のキャッピング反応について2004 年報告している。しかしながら、一時的な保護基としては塩基性条件において極めて容易に除去できるFmoc 基のみが適用されているにすぎない。また、本発明者らは、クロロアセチル基(CAc 基)を一時的な保護基として用いているが、Schmidt らによって報告されたキャッピング法はCAc 基の脱保護(MeOH:pyridine) において安定性が十分でないことが明らかになった。そこで新しいキャッピング試薬を探索することにした。
【0014】
キャッピング反応に要求される反応条件としては、
(1)短時間で水酸基と速やかに、かつ定量的に反応すること:
(2)中性条件で反応が進行し、反応条件が温和であること:
(3)グリコシル化反応、一時的な保護基の脱保護反応において完全に安定であること:
(4)グリコシル化反応、一時的な保護基の脱保護反応を妨げないこと:
(5)各種の一時的な保護基の脱保護条件下で安定であること:
が挙げられる。
【0015】
本発明で用いる、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートは上記の要件をすべて満たしている。すなわち中性条件、室温にて水酸基とethylisocyanatoformateは定量的に反応した。元来のアセチル化によるキャッピングよりも反応速度は早く、試薬量も減らすことができた。またHDTC やPyridine-MeOH でのクロロアセチル基の脱保護の条件、レブリノイル基の脱保護条件(ヒドラジン酢酸塩)、アジドクロロベンジル基の脱保護条件(DDQ),アジドブチロイル基の脱保護条件(MePPh2-H2O)にも安定であった。またグリコシル化反応条件下で安定であり、反応の進行を妨げることはなかった。以上の通り、エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートは、キャッピング試薬として非常に有用であることが証明された。
【0016】
本発明で使用するエチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートは何れも公知の化合物で、市販品(例えば、Aldrich社など)を購入して使用することができる。
【0017】
本発明のキャッピング試薬を用いてキャッピングする糖の種類とは、特に限定されず、任意の糖又は糖鎖で構わないが、例えば、保護したグルコース、グルコサミン、マンノース、ガラクトース、フコース、ラクトース、ラクトサミンなどの2糖、あるいは3糖以上の糖などが挙げられる。具体的には、以下のように、固相(黒丸で示す)にリンカーなどを介して結合している糖を挙げることができる。
【0018】
【化1】

【0019】
糖鎖の合成は、固相に固定されている第一の糖類に第二の糖類(糖供与体)を反応させて行う。糖鎖の合成反応は、当業者に公知の常法により行うことができる。
【0020】
固相に固定されている第一の糖類は、必要に応じて保護基を有している水酸基を有している。この水酸基の保護基は、次に行われる第二の糖類との反応の際に適宜、脱保護する必要がある。
【0021】
固相に固定されている第一の糖類の水酸基を保護するための一時的な保護基(後に脱保護される)としては、以下に構造を示すようなクロロアセチル基、アジドブチリルオキシ基、レブリノイル基、クロロアジドベンジル基、メトキシベンジル基、Fmoc (フルオレニルメチルカーボメート)基、トリアルキルシリル基などが用いられる。本発明で用いるキャッピング試薬は、上記したような一時的な保護基を脱保護する条件下において影響を受けることがなく耐性を示すことができる。
【0022】
【化2】

【0023】
糖鎖合成の際に用いる固相は糖を固定化でき、洗浄・分離などの操作を行うことができるものであれば特に限定されず、通常の糖鎖の固相合成方法で使用するものを使用することができる。本発明で用いることができる固相担体の具体例としては、マイクロプレート、ビーズ、チューブ、メンブレン、ゲル、微粒子状固相担体〔例えばアガロース粒子、ゼラチン粒子、カオリン粒子、合成ポリマー粒子(ラテックス粒子等)〕等が挙げられる。固相の具体例としては、Tentagel, Merrifield, PEGA, 可溶性高分子担体(たとえばポリエチレングリコール)、高度にフッ素化されたアルキル基など種々のものを使用することができる。
【0024】
また、リンカーは、以下に構造を示すようなWang linker, Rink linker, chlorotrityl linker, Sieber linkerなど任意の物を使用することができる。
【0025】
【化3】

【0026】
本発明で用いることができる糖類の種類は特に限定されず、単糖、二糖、又は三糖以上の多糖の何れでもよい。より具体的には、エリスロース、スレオース等のテトラオース、リボース、アラビノース、キシロース等のペントース、グルコース、マンノース、ガラクトース、アロース、タロース等のヘキソース、または2−デオキシグルコース、2−デオキシリボース等これらの糖の一部がデオキシ化された糖あるいは2−アセトアミド−2−デオキシグルコース等のアミノ糖、さらには、ラクトース、キトビオース等のようにこれらの糖が相互にエーテル結合したオリゴ糖や、シアル酸、グルクロン酸などを挙げることができる。また、これらの糖にはD体、L体が存在するが、そのいずれでも、また、混合物でも使用できる。
【0027】
特に、糖鎖合成の際に用いる糖供与体としては種々のイミデート、フッ化糖、チオグリコシドなどを用いることができる。具体的には、以下の糖供与体を用いることができる。式中、MPMは、p-メトキシベンジル基を示し、TBDPSは、tert-ブチルジフェニルシリル基を示す。
【0028】
【化4】

【0029】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
試験例1:キャッピング条件の検討
【0031】
【表1】

【0032】
上記の表1に示す試薬及び反応条件でキャッピング反応を行った。具体的には、以下の通り行った。
原料とキャッピング剤の候補として考えられた試薬をジクロロメタン中において室温あるいは60℃にて撹拌した。原料の消失はTLC (thin layer chromatography) により確認した。反応液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル混合系)により精製し、キャッピング体をそれぞれ得た。
【0033】
その結果、1)ベンゾイルイソシアネート、4)p−トルエンスルホニルイソシアネート、5)エチルイソシアナトホルメート、又は6)エチルイソチオシアナトホルメートを使用した場合は、定量的な収率又は高い収率を達成することができた。従って、これら4種類の化合物をキャッピング試薬の候補として選択した。
【0034】
試験例2:ClAc基脱保護条件における耐性の検討
試験例1で選択した4種の化合物について、ClAc基脱保護条件における耐性を検討した。具体的には、以下の通り行った。
【0035】
【化5】

【0036】
ピリジン:メタノール7:3の溶媒(1mL程度)にCAc 基がついた2糖とCapping体を1:1で混合し、60℃において36時間撹拌した。反応はTLC で追跡し、別途調製した2糖の脱保護体、および単糖のCappingが外れたものの標品と比べ、確認した。反応後、溶媒を減圧濃縮し、1H-NMR スペクトルにより、混合物の比を算出した。またシリカゲルカラムクロマトグラフィーによりCapping 体、CAc 基脱保護体を単離してそれぞれのCapping 体の耐性について比較した。
【0037】
結果を以下の表2に示す。表2に示す通り、エチルイソシアナトホルメート、又はエチルイソチオシアナトホルメートを用いた場合のみ、良好な耐性が認められた。
【0038】
【表2】

【0039】
試験例3:キャッピングの反応例
【化6】

【0040】
PEG 結合糖 (17.7 mg, 0.0123 mmol) をジクロロメタン (0.7 mL) に溶解し、ethyl isocyanatoformate (25μL) を室温において滴下した。反応液を1時間撹拌し、MeOH (0.1 mL )を加え、10分撹拌した。その後反応液を直接、カートリッジカラム(VARIAN MEGA BE-SI, 2GM 12ML, 20/PK)に供し、溶出溶媒として(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)を50 mLを流す。次いで、溶出溶媒(酢酸エチル:メタノール=4:1)を50 mL流し、その溶液を減圧濃縮して目的とするPEG糖 (18.5 mg)を得た。
【0041】
1HNMR (CDCl3) δ 7.76-7.00 (6 H, m), 6.94-6.65 (10 H, m), 5.63 (d, J = 7.5 Hz), 5.11 (t , J = 9.0 Hz), 4.78 (s, 2 H), 4.60-4.34 (m), 4.21 -4.17 (m), 3.83-3.51 (m), 3.35 (s, 3 H), 1.27 (m, 5H).
【0042】
上記の反応の結果、PEG糖における水酸基を定量的にキャッピングすることができた。
【0043】
実施例1:
【化7】

【0044】
アルコール体 1 (300 mg, 0.596 mmol) を塩化メチレン (10 mL) に溶解し、エチルシアネートイソシアネート (120μL, 1.19 mmol) を室温にて滴下した。室温にて1時間撹拌した後、メタノール(40 μL) を加えた。5分撹拌の後、反応液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル2:1- 1:1)により精製し、キャッピング糖 2 (360.1 mg, 98%) を得た。
data of 2; 1HNMR (CDCl3) δ 7.82-7.24 (m, 9H), 6.84-6.70 (m, 4H), 5.9
5 (m, 2H), 5.51 (s, 1H), 4.61 (t , 1H, J = 8.3 Hz), 4.40 (m, 1H), 4.07 (m, 2H), 3.90-3.86 (m, 3H), 3.68 (s, 3H), 1.23-1.14 (m, 4H);13C NMR (CDCl3) δ167.5 (C), 155.4 (C),150.1 (C), 150.0 (C), 149.3 (C), 136.3 (C), 134.1
(CH), 131.0 (C), 128.9 (CH), 127.9 (CH), 126.0 (CH), 123.6 (CH), 118.4 (CH), 114.3 (CH), 101.5 (CH), 97.8 (CH), 78.9 (CH), 71.2 (CH2), 68.3 (CH2), 66.1 (CH), 62.1 (CH2), 55.5 (CH3), 55.1 (CH), 14.2 (CH), 14.1 (CH).
【0045】
実施例2:
【化8】

【0046】
保護した糖3 (38.5 mg, 0.0577 mmol) とキャッピングした糖 2 (35.6 mg, 0.0577 mmol) をジオキサン(0.9 mL) と水(0.1 mL) に溶解し、MePPh2 (43μL, 0.223 mmol) を室温して添加した。アルゴン雰囲気下室温にて10 分撹拌し、反応液をそのまま減圧濃縮した。残渣をプレパラティブTLC (ヘキサン:酢酸エチル1:1)にて精製し、脱保護体4 (27.5 mg, 86%) を得た。キャッピングした糖 2 は影響を受けずに回収された。(34.4 mg, 97%).
【0047】
data of 3; 1HNMR (CDCl3) δ 7.31-7.10 (m, 15H), 4.94 (d, 1H, J
= 10.9 Hz), 4.84-4.72 (m, 3H), 4.62-4.57 (dd, 2H), 4.51 (d, 1H, J = 3.4 Hz), 3.97 (t , 1H, J = 9.2 Hz), 3.73 (dd, 1H, J = 2.7, J = 11.9 Hz), 3.65-3.57 (m, 3H), 3.46 (t , 1H, J = 9.2 Hz), 3.43 (dd, 1H, J = 3.4, J = 9.7 Hz), 3.31 (s, 3H);13C NMR (CDCl3) δ138.6 (C), 137.9 (C), 128.3 (CH), 128.2 (CH), 127.9 (CH), 127.8 (C
H), 127.7 (CH), 127.6 (CH), 127.4 (CH), 98.1 (CH), 81.9 (CH), 80.0 (CH), 75.6 (CH2), 75.0 (CH2), 73.4 (CH2), 70.6 (CH), 61.9 (CH2), 55.2 (CH3).
【0048】
実施例3:
【化9】

【0049】
レブリノイル基で保護された糖5 (38.3 mg, 0.0585 mmol) とキャッピングした糖 2 (38.3 mg, 0.0584 mmol) をエタノール (0.5 mL)に溶解し、ヒドラジン酢酸(10.8 mg, 0.117 mmol) を室温にて加えた。室温にて30 分撹拌した後、減圧濃縮し、残渣をプレパラティブTLC (ヘキサン:酢酸エチル1:1)にて精製し、脱保護体3 (30.0 mg, 92%) を得た。キャッピングした糖 2 は影響を受けずに回収された。(34.5 mg, 96%).
【0050】
実施例4:
【化10】

【0051】
クロロアセチル基保護された糖 6 (47.1 mg, 0.0791 mmol) とキャッピングした糖 2 (48.9 mg, 0.0791 mmol)をアセトニトリル(1.5 mL) に溶解し、ヒドラジノジチオカーボネート溶液 (0.63 mL, 0.24 mmol) を室温して滴下した。反応液を室温にて30 分撹拌した後、減圧濃縮した。残渣をプレパラティブTLC (ヘキサン:酢酸エチル1:2) にて精製し、脱保護体7 (34.1 mg, 86%) を得た。キャッピングした糖 2 は影響を受けずに回収された。(46.3 mg, 95%).
【0052】
実施例5:
【化11】

【0053】
クロロアセチル基で保護された糖 6 (12.7 mg, 0.0112 mmol) とキャッピングした糖 2 (6.9 mg, 0.0112 mmol) をピリジン (0.7 mL)とメタノール(0.3 mL) に溶解し、50 °Cにて36 時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣をプレパラティブTLC (ヘキサン:酢酸エチル1:2)にて精製した。脱保護体 7 (10.5 mg, 89 %)とキャッピング体2 (6.4 mg, 93%) を回収した。
【0054】
Data of 7; 1H-NMR δ 7.62-6.75 (m, 28H), 6.64-6.50 (m, 4H), 5.38 (d, 1H,
J = 8.5 Hz), 5.24 (d, 1H, J = 8.0 Hz), 4.75 (d, 1H, J = 12.6 Hz), 4.70 (d, 1H, J = 12.1 Hz), 4.47-4.37 (m, 6H), 4.27 (dd, 1H, J = 8.5 Hz, 10.7 Hz), 4.16 (dd, 1H, J = 8.2 Hz, 10.7 Hz), 4.13-4.03 (m, 3H), 3.75 (t, 1H, J = 10.2 Hz), 3.66 (dd, 1H, J = 4.3 Hz, 10.0 Hz), 3.57 (s, 3H), 3.48 (m, 2H), 3.34 (m, 2H), 3.02 (bs, 1H).
【0055】
実施例6:
【化12】

【0056】
クロロアジドベンジル基により保護した糖 8 (19.2 mg, 0.031 mmol) とキャッ
ピングした糖 2 (19.5 mg, 0.031 mmol)を塩化メチレン (1.5 mL) に溶解し、トリフェニルホスフィン (12.2 mg, 0.046 mmol) を加えた。アルゴン雰囲気下4時間撹拌した後、反応液を減圧濃縮した。残渣を塩化メチレン (1.5 mL)、酢酸 (0.3 mL)、水 (0.3 mL) に溶解し、DDQ (10.9 mg, 0.0463 mmol) を0 °Cにて加えた。5分後、アスコルビン酸緩衝液を加え、水層をクロロホルムで抽出した。あわせた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4 を用いて乾燥した。溶媒を減圧濃縮し、残渣をプレパラティブTLC (ヘキサン:酢酸エチル1:1)により精製し、脱保護体 3 (13.6 mg, 70%)を得た。キャッピング体 2 は回収された。(18.5 mg, 95%).
【0057】
実施例7:
【化13】

【0058】
化合物10(18.8 mg, 13.1 μmol)をジクロロメタン(0.3 mL)に溶解し、窒素気流下、0℃にて化合物9 (27 mg, 39.3 μmol)を加え、次いでBF3・OEt2 (16μL, 197 μmol)を加え0℃にて1時間撹拌する。その後、反応液をそのままカートリッジカラム(VARIAN MEGA BE-SI, 2GM 12ML, 20/PK)に供し、溶出溶媒として(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)を50 mLを用いて試薬、化合物2の分解物を除いた。次いで、溶出溶媒(酢酸エチル:メタノール=4:1)を50 mL用い、その溶液を減圧濃縮して目的とするPEG糖10, 11 (32.8 mg, 10:11 = 69:31)を得た。
【0059】
11 のデータ; 1H-NMR δ 5.44 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 5.29 (d, 1H,
J = 8.5 Hz), 5.15 (t, 1H, J = 9.0 Hz).
【0060】
実施例8:
【化14】

【0061】
化合物10, 11(23.5 mg, 10:11 = 69:31)をジクロロメタン(0.6 mL)に溶解し、窒素気流下、室温にてEthyl isocyanatoformate(33μL, 0.33 mmol;化合物1の残存水酸基に対して30eq)を加えて室温にて1時間撹拌する。その後メタノール(10μL)を加え過剰の試薬を分解した後、反応液をそのままカートリッジカラム(VARIAN MEGA BE-SI, 2GM 12ML, 20/PK)に供し、溶出溶媒として(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)を50 mLを用いて試薬を除く。次いで、溶出溶媒として(酢酸エチル:メタノール=4:1)を50 mL用い、その溶液を減圧濃縮して目的とするPEG糖 11, 12 ( 28.4 mg, 11:12 = 69:31)を得た。
Data of 12: 1HNMR δ 5.63 (d, 1H, J = 8.2 Hz), 1.27 (m, 4H).
【0062】
実施例9:
【化15】

【0063】
化合物11, 12(28.4 mg)をピリジン:メタノール=7:3の混合溶媒(1 mL)に溶解し、50℃にて36 時間撹拌する。反応液を減圧濃縮後、カートリッジカラム(VARIAN MEGA BE-SI, 2GM 12ML, 20/PK)に供し、溶出溶媒として(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)を50 mLを流す。次いで、溶出溶媒(酢酸エチル:メタノール=4:1)を50 mL流し、その溶液を減圧濃縮して目的とするPEG糖 12, 13 (20.6 mg, 12:13 = 69:31)を得た。
13のデータ; 1H-NMR δ 5.43 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 5.28 (d, 1H, J = 8.0 Hz).
【0064】
実施例10
【化16】

【0065】
化合物12, 13(20.6 mg, 12:13 = 69:31)をジクロロメタン(0.3 mL)に溶解し、窒素気流下、0℃にて化合物9(8 mg, 11.6 μmol)を加え、次いでBF3・OEt2 (4.8μL, 59.1μmol)を加え0℃にて1時間撹拌する。その後、反応液をそのままカートリッジカラム(VARIAN MEGA BE-SI, 2GM 12ML, 20/PK)に供し、溶出溶媒として(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)を50 mLを用いて試薬、化合物9の分解物を除く。次いで、溶出溶媒(酢酸エチル:メタノール=4:1)を50 mL用い、その溶液を減圧濃縮して目的とするPEG糖 12, 14 (23.1 mg, 12:14 = 69:31) を得た。
【0066】
14 のdata; 1HNMR (CDCl3) δ 7.76-7.75 (m), 7.32-7.31 (m), 6.98-6.58 (m)
, 5.63 (d, J = 7.8 Hz), 5.43 (d, J = 8.5 Hz), 5.28 (d, J = 8.0 Hz), 5.10 (t , J = 9.7 Hz)
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、糖鎖自動合成サイクルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートを含む、糖又はアルコールの水酸基のためのキャッピング試薬。
【請求項2】
エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートと糖又はアルコールとを反応させることを含む、糖又はアルコールの水酸基をキャッピングする方法。
【請求項3】
エチルイソシアナトホルメート又はエチルイソチオシアナトホルメートと糖又はアルコールとを反応させることによって糖の水酸基をキャッピングする工程を含む、糖鎖の合成方法。


【図1】
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