説明

糞尿アンモニアの揮散抑制資材及びその製造方法

【課題】 アンモニアの揮散を抑制する機能を保持した上で、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減する。
【解決手段】 塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムと(イオン性)界面活性剤とを含む糞尿アンモニアの揮散抑制資材であり、塩酸水溶液に(イオン性)界面活性剤を添加し、当該塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞尿アンモニアの揮散抑制資材に関し、特に、家畜糞尿から発生するアンモニアの揮散抑制機能に加え、当該資材に含まれる塩酸による金属類の腐食の抑制機能を有する糞尿アンモニアの揮散抑制資材に関する。
【背景技術】
【0002】
糞尿アンモニアの揮散抑制に関する先行技術文献情報として、例えば下記の特許文献1が有る。
前記特許文献1のものは、塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解してなる溶液資材であり、この資材を家畜糞尿等に散布により添加することによって、この家畜糞尿等から発生するアンモニアの揮散を抑制して防臭を行うものである。
又、この溶液資材は、農薬散布機等の各種液体散布機を使用することができるためその取り扱いが極めて容易であり、広い範囲での散布も容易に、且つ迅速に行える。
【特許文献1】特開2003−79708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願出願人は、糞尿アンモニアの揮散抑制資材を、アンモニアの揮散を抑制する機能に加え、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食の軽減という観点から、鋭意研究の結果、更に有用性の高い糞尿アンモニアの揮散抑制資材を発明するに至った。
【0004】
そこで本発明は、アンモニアの揮散を抑制する機能を保持した上で、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減することを課題とし、この課題を解決した糞尿アンモニアの揮散抑制資材の提供を目的とする。
更に、本発明は、アンモニアの揮散を抑制する機能を保持した上で、より高い家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減効果を備えさせることを課題とし、この課題を解決した糞尿アンモニアの揮散抑制資材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するため、下記の技術的手段を採用した。
その第1発明は、塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムと界面活性剤とを含む糞尿アンモニアの揮散抑制資材にしたことである。
ここで云う界面活性剤は、陽イオン界面活性剤又は陰イオン界面活性剤、あるいは両性界面活性剤、更には、非イオン性界面活性剤のいずれも含むが、好ましくは、第2発明のように、イオン性界面活性剤であり、より好ましくは、第3発明のように陽イオン界面活性剤である。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムや塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウム等が例示できる。
【0006】
前記第1発明〜第3発明における糞尿アンモニアの揮散抑制資材に、より効果的な腐食抑制機能を備えさせるための製造方法として、第4発明では、塩酸水溶液に界面活性剤を添加し、当該塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解する糞尿アンモニアの揮散抑制資材の製造方法を採用した。
尚、他の製造方法として、塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解し、当該塩酸水溶液に界面活性剤を添加する、糞尿アンモニアの揮散抑制資材の製造方法としても、腐食抑制機能を備えさせることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、下記の優れた効果が期待できる。
第1発明乃至第3発明によれば、アンモニアの揮散を抑制する機能を保持した上で、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を抑制することができる。
又、第4発明によれば、界面活性剤の添加量を少ない添加量としながら、アンモニアの揮散を抑制する機能を保持した上で、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を抑制することができる糞尿アンモニアの揮散抑制資材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の農作物洗浄装置を実施するための最良の形態を説明する。
本形態の揮散抑制資材(以下、溶液資材という)には、糞尿中のアンモニアを揮散しにくい化合物に変換させるのに最も効率が良く、塩酸水溶液に完全溶解され、溶液資材中に残さ物を存在させない機能を有する第一リン酸カルシウムが含有されている。
更に、本形態の溶液資材には、溶液資材に含まれる塩酸による家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減する陽イオン界面活性剤が含有されている。
ここで云う家畜糞尿等の周辺施設とは、家畜舎、糞尿処理施設、糞尿収納体等であり、これらを構成する金属部材(鉄骨や鉄筋及びトタン等)や木材、コンクリート、モルタル等の腐食を本形態の溶液資材で軽減する。
又、ここで云う散布器は、液体を散布する散布器であって、動力により作動する散布器、手動により作動する散布器いずれでも良い。
【0009】
本形態の塩酸水溶液は、その塩酸濃度が9.9%であり、本願出願人が出願した特開2003−79708号公報に記載の実施例で用いられた塩酸水溶液の塩酸濃度1.75%を大幅に上回る塩酸濃度の塩酸水溶液である。
この場合、本形態の溶液資材においては、その塩酸濃度を高めることによって、前記第一リン酸カルシウムの溶解をより確実にしているが、逆にその高い塩酸濃度によって家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食の進行が早まることになる。
しかしながら、本形態の溶液資材には、前記陽イオン界面活性剤が含有されているので、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減することができる。
又、特開2003−79708号公報に記載の溶液資材は、前記家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減をするために、溶液資材を希釈して塩酸濃度を抑えるという手段を用いているが、本形態の溶液資材は前記したように、陽イオン界面活性剤によって家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減しているので、溶液資材を希釈する必要が無い。
すなわち、希釈をすると塩酸濃度とともに、第一リン酸カルシウムの濃度が低下し、塩酸による腐食は軽減されるものの、逆に、第一リン酸カルシウムの濃度が低下して糞尿アンモニアの揮散抑制効果が低下するものと思われるが、本形態の溶液資材は、前記陽イオン界面活性剤の腐食軽減効果によって、希釈により塩酸濃度を低下させるという手段を用いること無く、その糞尿アンモニアの揮散抑制効果を保持することができる。
【0010】
本形態の溶液資材は、塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムと陽イオン界面活性剤とが含まれていれば、糞尿アンモニアの揮散抑制効果と腐食軽減効果が発揮される。
その製造方法として、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解し、当該塩酸水溶液に前記陽イオン界面活性剤を添加する製造方法が挙げられる。
又、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に、前記陽イオン界面活性剤を添加し、当該塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解する方法によって製造すると、より高い腐食軽減効果を有する溶液資材となる。
【0011】
本発明の溶液資材の使用方法は、例えば、家畜糞尿に直接施用する方法、ばっき条件下において家畜糞尿に直接施用する方法、溶液資材にアンモニアを通過させる方法等、種々の使用方法が挙げられる。
いずれの方法においても、家畜糞尿のアンモニア態窒素が水溶性リン酸の変換作用によって、熱安定性の高いアンモニア及びアンモニア化合沈殿物に変換されてアンモニアの揮散が抑制される。
熱安定性が高いということは、高温条件下においてアンモニアが揮散し難くなることであり、これによって、高温条件下でのアンモニア揮散による悪臭が抑制される。
つまり、例えば、堆肥製造過程において糞尿の温度が上昇しても、アンモニアの揮散を抑制することができる。
同時に、溶液資材に含まれる塩酸による家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食の進行を陽イオン界面活性剤が抑制し、家畜糞尿等の周辺施設等や散布機器等の腐食を軽減する。
又、アンモニアが溶解した溶液資材及びアンモニア化合沈殿物が、アンモニア肥料として再利用できる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の溶液資材の金属に対する腐食抑制効果を測定した結果を下記表1〜表3に示している。
本実施例では、試験片の金属として鉄くぎを用いて、当該鉄くぎを溶液資材に浸漬し、一定期間ごとに鉄くぎの残存率(%)を求め、この残存率を溶液資材の腐食抑制効果として示している。
前記残存率とは、浸漬前の鉄くぎの重量に対する浸漬後の鉄くぎの重量の割合である。
【0013】
本実施例に用いた溶液資材は、基本的には、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に陽イオン界面活性剤を添加し、その塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解したものである。
又、本実施例に用いた陽イオン界面活性剤は、(表1)塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、(表2)塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、(表3)塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウムであり、これらの陽イオン界面活性剤を塩酸水溶液に対する添加濃度(%)0.01%〜0.10%の範囲で添加し、夫々の陽イオン界面活性剤の前記添加濃度の範囲における鉄くぎの残存率を表1〜表3において示す。
又、本実施例では、本発明の溶液資材の腐食抑制効果の測定と、陽イオン界面活性剤の最適な添加量の測定を行った。
又、本発明の溶液資材の比較例として、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解した溶液資材を表1〜表3に例示している。
【0014】
【表1】

【0015】
表1の結果から、本発明の溶液資材は、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムの添加量0.01%から0・10%の範囲において、比較例の溶液資材に比べて、鉄くぎに対する腐食抑制効果が極めて高いことが証明された。
又、この結果から推察すると、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムの添加量が0.01%未満の量でも、0.10%を超す量であっても、鉄くぎに対する腐食抑制効果が期待できる。
【0016】
【表2】

【0017】
表2の結果から、本発明の溶液資材は、塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウムの添加量が0.01%から0・10%の範囲において、比較例の溶液資材に比べて、鉄くぎに対する腐食抑制効果が極めて高いことが証明された。
又、この結果から推察すると、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムの添加量が0.01%未満の量でも、0.10%を超す量であっても、鉄くぎに対する腐食抑制効果が期待できる。
【0018】
【表3】

【0019】
表3の結果から、表2の結果から、本発明の溶液資材は、塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウムの添加量が0.01%から0・10%の範囲において、比較例の溶液資材に比べて、鉄くぎに対する腐食抑制効果が極めて高いことが証明された。
又、この結果から推察すると、塩化ドデシルトリメチルアンモニウムの添加量が0.01%未満の量でも、0.10%を超す量であっても、鉄くぎに対する腐食抑制効果が期待できる。
【0020】
次に、前記3種の溶液資材の最適な製造方法について、前記表1〜表3に示される溶液資材の金属に対する腐食抑制効果と、下記表4〜表6に示される溶液資材の金属に対する腐食抑制効果とを比較した。
表1〜表3に用いられた溶液資材は、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に陽イオン界面活性剤を添加し、その塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解する方法で製造されたものであるのに対し、表4〜表6に用いられた溶液資材は、塩酸濃度を9.9%とする塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解した塩酸水溶液に、陽イオン界面活性剤を添加する方法で製造されたものである。
本実施例では、試験片の金属として鉄くぎを用いて、当該鉄くぎを溶液資材に浸漬し、一定期間ごとに鉄くぎの残存率(%)を求め、この残存率を溶液資材の腐食抑制効果として示している。
又、本実施例に用いた陽イオン界面活性剤は、(表1及び表4)塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、(表2及び表5)塩化ヤシアルキルトリメチルアンモニウム、(表3及び表6)塩化牛脂アルキルトリメチルアンモニウムである。
そして、表1〜表3では、前記各陽イオン界面活性剤を塩酸水溶液に対する添加濃度(%)を0.01%〜0.10%の範囲で添加し、夫々の陽イオン界面活性剤の前記添加濃度の範囲における鉄くぎの残存率を示す。
又、表4〜表6では、前記各陽イオン界面活性剤を塩酸水溶液に対する添加濃度(%)を0.05%〜1.00%の範囲で添加し、夫々の陽イオン界面活性剤の前記添加濃度の範囲における鉄くぎの残存率を示す。
【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
【表6】

【0024】
前記表1〜表3の結果と表4〜表6の結果とから、同じ陽イオン界面活性剤を添加した溶液資材であっても、表1〜表3で用いられた溶液資材の陽イオン界面活性剤を添加量が、表4〜表6で用いられた溶液資材の陽イオン界面活性剤を添加量に比べて少量の添加量で高い腐食抑制効果が得られた。
すなわち、表1〜表3用いられた溶液資材の製造方法で製造された溶液資材は、表4〜表6で用いられた溶液資材の製造方法で製造された溶液資材よりも、陽イオン界面活性剤をより少ない添加量、又は同量の添加量で、同等以上の高い腐食抑制効果を有することが証明された。
尚、本発明の溶液資材は、表4〜表6で用いた溶液資材の製造方法を用いてなるものでも、腐食抑制効果を有しているので、溶液資材を当該製造方法で製造しても良い。
【0025】
なお、本発明は、例示した実施の形態に限定するものでは無く、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。
例えば、例示した陽イオン界面活性剤以外にも、これらと同等の機能を有する陽イオン界面活性剤であればその使用が可能である。
又、陰イオン界面活性剤や両性界面活性剤、あるいは、非イオン性界面活性剤の使用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムと界面活性剤とを含む糞尿アンモニアの揮散抑制資材。
【請求項2】
界面活性剤がイオン性界面活性剤である請求項1に記載の糞尿アンモニアの揮散抑制資材。
【請求項3】
イオン性界面活性剤が陽イオン界面活性剤である請求項2に記載の糞尿アンモニアの揮散抑制資材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の糞尿アンモニアの揮散抑制資材の製造方法において、塩酸水溶液に界面活性剤を添加し、当該塩酸水溶液に第一リン酸カルシウムを完全溶解することを特徴とする糞尿アンモニアの揮散抑制資材の製造方法。

【公開番号】特開2007−61283(P2007−61283A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249500(P2005−249500)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(597012460)十勝農業協同組合連合会 (3)
【Fターム(参考)】