説明

糸巻取機及び糸引き出し方法

【課題】巻取パッケージの糸端を確実に捕捉することができる糸巻取機及び糸引き出し方法を提供する。
【解決手段】ワインダユニットは、パッケージ30を保持するクレードル23と、パッケージ30の表面に接触可能な接触ローラ29と、パッケージ30から連なる糸の糸端30aを捕捉する吸引捕捉動作を行う上糸吸引口35と、接触ローラ29から離間した非接触位置Q1及び接触ローラ29に接触する接触位置Q2でパッケージ30が保持されるようにクレードル23を移動させる駆動機構と、パッケージ30が非接触位置Q1にある状態、及び接触位置Q2にある状態の各々の状態で上糸吸引口35が吸引捕捉動作を行うように駆動機構と上糸吸引口35とを制御するユニット制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機及びその糸引き出し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、特許文献1の糸巻取機が知られている。この糸巻取機は、巻取パッケージ(綾巻ボビン)に接触するタッチローラ(支持ローラ)と、糸切断時に巻取パッケージから糸端を吸引し引き出す糸端捕捉部(吸込みノズル)と、を備えている。この機械で糸の巻取動作中に糸切断がされたときには、巻取パッケージが持ち上げられてタッチローラから離れ、巻取パッケージが反巻取方向に回転され、糸端捕捉部が巻取パッケージの表面に近づいて吸引動作を行う。巻取パッケージから連なる糸端が糸端捕捉部で吸引捕捉されると、捕捉された糸端がスプライサ装置(糸撚り装置)に引き渡され給糸ボビン側の糸端と結合されて、糸の巻取動作が再開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−261265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような糸巻取機で糸端の捕捉を確実に行うためには、巻取パッケージの表面に対し適切な接近度で糸端捕捉部を近づける必要がある。しかしながら、上記特許文献1の糸巻取機では、糸端捕捉時に巻取パッケージがタッチローラから離間するので、巻取パッケージの重量の変動や駆動機構の機械的なバラツキの影響によって、巻取パッケージの位置がバラついてしまう。その結果、巻取パッケージ表面と糸捕捉部との距離にバラツキが生じることとなり、糸端捕捉の成功率が低下する可能性もある。
【0005】
上記の事情に鑑み、本発明は、巻取パッケージの糸端を確実に捕捉することができる糸巻取機及び糸引き出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸巻取機は、巻取パッケージを保持する保持部と、巻取パッケージの表面に接触可能なタッチローラと、巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う糸端捕捉部と、タッチローラからの距離が異なる第1の位置及び第2の位置で巻取パッケージが保持されるように保持部を移動させる移動部と、巻取パッケージが第1の位置にある状態、及び巻取パッケージが第2の位置にある状態の各々の状態で糸端捕捉部が捕捉動作を行うように移動部と糸端捕捉部とを制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この糸巻取機によれば、巻取パッケージが第1の位置にある状態、及び巻取パッケージが第2の位置にある状態の各々の異なる状態で糸端捕捉部による捕捉動作が行われる。このように、巻取パッケージの位置を変えた各状態で糸端捕捉部による捕捉動作が行われるので、糸端を確実に捕捉することができる。
【0008】
また、第1の位置は第2の位置に比べてタッチローラから遠い位置であり、制御部は、巻取パッケージが第1の位置にある状態での捕捉動作の後に、巻取パッケージが第2の位置にある状態での捕捉動作が行われるように、移動部と糸端捕捉部との制御を行うこととしてもよい。
【0009】
この構成によれば、巻取パッケージが第1の位置にある状態で捕捉動作が行われ、その後、巻取パッケージがタッチローラに近い第2の位置にある状態で捕捉動作が行われる。よって、巻取パッケージとタッチローラとの距離を変えた各位置で糸端捕捉部による捕捉動作が行われるので、糸端をより確実に捕捉することができる。
【0010】
また、制御部は、巻取パッケージが第1の位置でタッチローラから離間するように移動部を制御し、巻取パッケージが第2の位置でタッチローラに接触するように移動部を制御することとしてもよい。
【0011】
この構成によれば、巻取パッケージがタッチローラに非接触である状態と、巻取パッケージがタッチローラに接触した状態と、の少なくとも2つの状態で捕捉動作が行われるので、糸端を更に確実に捕捉することができる。
【0012】
また、本発明の糸巻取機は、巻取パッケージを巻取方向と反巻取方向とに回転駆動するパッケージ駆動部を更に備え、制御部は、巻取パッケージがタッチローラから離間した状態で、巻取パッケージを反巻取方向に回転駆動するように、パッケージ駆動部を制御することとしてもよい。
【0013】
この構成によれば、巻取パッケージをタッチローラに非接触の状態で回転させることで、糸端が巻取パッケージとタッチローラとの間に押圧されて巻取パッケージの内層に埋もれ込むことが避けられ、糸端が捕捉し易い状態となる。そして、糸端が捕捉し易い上記の状態で糸端の捕捉動作を行うことができる。また、反巻取方向に巻取パッケージを回転駆動するので、糸端が巻取パッケージから繰り出されて捕捉し易くなる。その結果、糸端の捕捉を確実に行うことができる。
【0014】
また、本発明の糸巻取機は、第1の位置における巻取パッケージの反巻取方向への回転回数を設定する設定部を更に備え、制御部は、設定部での回転回数の設定に基づいてパッケージ駆動部を制御することとしてもよい。
【0015】
この構成によれば、第1の位置で巻取パッケージを所望の回数回転させることができるので、糸捕捉部による糸端の捕捉をより確実に行うことができる。
【0016】
また、本発明の糸巻取機は、巻取パッケージを巻取方向と反巻取方向とに回転駆動するパッケージ駆動部を更に備え、パッケージ駆動部は、巻取パッケージを、タッチローラから離間した状態で巻取方向と反巻取方向とに回転駆動可能であることとしてもよい。
【0017】
この構成によれば、糸端の捕捉動作を必要とする状況が発生した場合に、巻取パッケージをタッチローラに非接触の状態としてから、巻取パッケージを減速停止させ反巻取方向に回転させることができる。すなわち、巻取パッケージをタッチローラに接触させた状態で巻取パッケージの減速停止を待つ必要がない。よって、糸端がタッチローラに押圧されて巻取パッケージの内層に埋もれ込むことを回避することができる。
【0018】
また、制御部は、巻取パッケージが第2の位置にある状態においては、糸端捕捉部と巻取パッケージの表面との距離が予め定められた所定の距離になるように糸端捕捉部の位置を制御することとしてもよい。
【0019】
捕捉動作において、糸端捕捉部と巻取パッケージの表面とが接近しすぎると、糸端ではなく糸の途中を捕捉してしまう現象(以下「二重口出し現象」と称する)が発生するおそれがあり、その一方、糸端捕捉部と巻取パッケージの表面とが離れすぎると糸端の捕捉ができない。これに対し、上記構成によれば、巻取パッケージが第2の位置にある状態において、糸端捕捉部と前記巻取パッケージの表面との距離が予め定められた所定の距離になるように制御されるので、糸端の捕捉を確実に行うことができる。
【0020】
また、本発明の糸巻取機は、タッチローラとは独立して設けられると共に巻取パッケージに巻き取られる糸をトラバースするトラバースガイドを更に備えることとしてもよい。
【0021】
トラバースガイドがタッチローラから独立して設けられた糸巻取機では、タッチローラが綾振り機能を備える必要がないので、タッチローラが綾振り溝を備えていない。このようなタッチローラにおいては、タッチローラ表面のほぼ全面が巻取パッケージに接触する。よって、糸切れや糸切断が発生した後に、巻取パッケージとタッチローラとが接触した状態で回転を続けると、糸端がタッチローラによって巻取パッケージ表面に押し付けられる可能性が高く、糸端が内層に埋もれ込んだ状態になり易い。このような糸巻取機においても、巻取パッケージの位置を変えた各状態で糸端捕捉部による捕捉動作が行われる構成を採用することで、糸端を確実に捕捉することができる。すなわち、トラバースガイドがタッチローラから独立して設けられたタイプの糸巻取機においては、巻取パッケージの位置を変えた各状態で糸端捕捉部による捕捉動作を行うといった上述の構成が特に有効である。
【0022】
また、本発明の糸引き出し方法は、巻取パッケージを保持する保持部と、巻取パッケージの表面に接触可能なタッチローラと、巻取パッケージの糸端を捕捉する糸端捕捉部と、を備える糸巻取機において巻取パッケージの糸端を引き出す糸引き出し方法であって、保持部が、巻取パッケージを第1の位置で保持する第1ステップと、糸端捕捉部が、第1の位置で保持された巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う第2ステップと、保持部が、巻取パッケージを第1の位置よりもタッチローラに近い第2の位置で保持する第3ステップと、糸端捕捉部が、第2の位置で保持された巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う第4ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0023】
この糸引き出し方法によれば、巻取パッケージが第1の位置にある状態、及び巻取パッケージが第2の位置にある状態の各々の状態で、糸端捕捉部による捕捉動作が行われる。このように、巻取パッケージの位置を変えた各状態で捕捉動作が行われるので、糸端を確実に捕捉することができる。
【0024】
また、第1の位置は、巻取パッケージがタッチローラに非接触である位置であり、第2の位置は、巻取パッケージがタッチローラに接触する位置であることとしてもよい。
【0025】
この構成によれば、巻取パッケージがタッチローラに非接触の状態と、巻取パッケージがタッチローラに接触した状態と、の2つの異なる状態において捕捉動作を行うことにより、糸端をより確実に捕捉することができる。
【0026】
また、第2ステップでは、巻取パッケージを反巻取方向に略1周又は1周以下の回転回数で回転させることとしてもよい。
【0027】
巻取パッケージの糸端が捕捉し易い状態にあれば、巻取パッケージの回転回数が1周以下であっても、糸端の捕捉が成功する可能性が大きい。その一方、巻取パッケージを略1周より多く回転させたとしても、糸端の捕捉の成功率はほとんど向上しないと考えられる。従って、巻取パッケージがタッチローラに非接触である状態において、巻取パッケージを反巻取方向に略1周又は1周以下回転させることが特に有効である。
【0028】
また、第4ステップでは、糸端捕捉部が、巻取パッケージからの距離が予め定められた所定の距離となる位置において、捕捉動作を行うこととしてもよい。
【0029】
糸端捕捉部の捕捉動作を、巻取パッケージの表面に接近し過ぎた位置で行うと二重口出し現象が発生するおそれがあり、巻取パッケージの表面から離れすぎた位置で行うと糸端の捕捉ができない。これに対し、上記構成によれば、第4ステップで、糸端捕捉部が、巻取パッケージからの距離が予め定められた所定の距離となる位置において捕捉動作を行うので、糸端の捕捉を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の糸巻取機及び糸引き出し方法によれば、巻取パッケージの糸端を確実に捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るワインダユニットを備えた自動ワインダの模式図である。
【図2】ワインダユニットの概略的な構成を示した模式図及びブロック図である。
【図3】ワインダユニットのトラバース装置近傍の拡大した左側面図である。
【図4】ワインダユニットのクレードル近傍を拡大して示す右側面図である。
【図5】ワインダユニットで行われる上糸の引き出し動作のフローチャートである。
【図6】非接触位置/接触位置に移動するパッケージを示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る糸巻取機及び糸引き出し方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0033】
初めに、図1を参照して、本実施形態のワインダユニット(糸巻取機)10を備える自動ワインダ1の全体的な構成について説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、糸巻取時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。
【0034】
図1に示すように、自動ワインダ1は、並べて配置された複数のワインダユニット10と、自動玉揚装置80と、機台設定装置90と、を主要な構成として備えている。
【0035】
それぞれのワインダユニット10は、給糸ボビン21から解舒された糸20を綾振り(トラバース)しながら巻き取り、パッケージ(巻取パッケージ)30を形成できるように構成されている。
【0036】
自動玉揚装置80は、各ワインダユニット10においてパッケージ30が満巻となった際に、当該ワインダユニット10の位置まで走行し、満巻のパッケージ30を回収するとともに空ボビンを供給することができるように構成されている。
【0037】
機台設定装置90は、設定部91と、表示部92と、を主要な構成として備えている。設定部91は、オペレータが所定の設定値を入力したり適宜の制御方法を選択したりすることで、各ワインダユニット10に対する設定を行うことができる。表示部92は、各ワインダユニット10の糸の巻取状況、及び、発生したトラブルの内容等を表示可能に構成されている。
【0038】
次に、図2を参照して、ワインダユニット10の構成を具体的に説明する。図2は、ワインダユニット10の概略的な構成を示した模式図及びブロック図である。それぞれのワインダユニット10は、図2に示すように、巻取ユニット本体16と、ユニット制御部(制御部)50と、を主要な構成として備えている。
【0039】
ユニット制御部50は、例えば、CPUと、RAMと、ROMと、I/Oポートと、通信ポートと、を備えて構成されている。上記ROMには、巻取ユニット本体16の各構成を制御するためのプログラムが記録されている。I/Oポートと通信ポートには、当該巻取ユニット本体16が備える各部(詳細は後述)及び機台設定装置90が接続されており、制御情報等の通信ができるように構成されている。これにより、ユニット制御部50は、巻取ユニット本体16が備える各部の動作を制御することができる。
【0040】
巻取ユニット本体16は、給糸ボビン21と接触ローラ(タッチローラ)29との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、糸解舒補助装置12と、テンション付与装置13と、スプライサ装置(糸継装置)14と、クリアラ15と、を配置した構成となっている。
【0041】
巻取ユニット本体16の下部には、巻取ボビン22側へ糸20を供給するための給糸部11が備えられている。この給糸部11は、図略のボビン搬送システムによって搬送されてきた給糸ボビン21を所定の位置に保持できるように構成されている。
【0042】
糸解舒補助装置12は、給糸ボビン21の芯管に被さる規制部材40を給糸ボビン21からの糸の解舒と連動して下降させることにより、給糸ボビン21からの糸の解舒を補助するものである。規制部材40は、給糸ボビン21から解舒された糸の回転と遠心力によって給糸ボビン21上部に形成されたバルーンに対し接触し、当該バルーンを適切な大きさに制御することによって糸の解舒を補助する。規制部材40の近傍には給糸ボビン21のチェース部を検出するための図略のセンサが備えられており、このセンサがチェース部の下降を検出すると、それに追従して規制部材40を例えばエアシリンダ(図略)によって下降させることができる。
【0043】
テンション付与装置13は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものである。テンション付与装置13としては、例えば、固定の櫛歯に対して可動の櫛歯を配置するゲート式のものを用いることができる。可動側の櫛歯は、櫛歯同士が噛合せ状態又は解放状態になるように、ロータリ式のソレノイドにより回動することができる。なお、テンション付与装置13には、上記ゲート式のもの以外にも、例えば、ディスク式のものを採用することができる。
【0044】
スプライサ装置14は、クリアラ15が糸欠点を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎするものである。このような上糸と下糸とを糸継ぎする糸継装置としては、機械式のものや、圧縮空気等の流体を用いるもの等を使用することができる。
【0045】
クリアラ15は、糸20の太さを検出するための図略のセンサが配置されたクリアラヘッド49と、このセンサからの糸太さ信号を処理するアナライザ52と、を備えている。クリアラ15は、上記センサからの糸太さ信号を監視することにより、スラブ等の糸欠点を検出するように構成されている。クリアラヘッド49の近傍には、クリアラ15が糸欠点を検出したときに直ちに糸20を切断するためのカッタ39が設けられている。
【0046】
スプライサ装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の糸端を捕捉してスプライサ装置14に案内する下糸捕捉部材25と、パッケージ30側の糸端を捕捉してスプライサ装置14に案内する上糸捕捉部材26と、が設けられている。下糸捕捉部材25は、下糸パイプアーム33と、この下糸パイプアーム33の先端に形成された下糸吸引口32と、を備えている。上糸捕捉部材26は、上糸パイプアーム36と、この上糸パイプアーム36の先端に形成された上糸吸引口(糸端捕捉部)35と、を備えている。
【0047】
また、下糸パイプアーム33と上糸パイプアーム36は、それぞれ軸34,37を中心にして回動可能に構成されている。下糸パイプアーム33及び上糸パイプアーム36には適宜の負圧源がそれぞれ接続されており、下糸吸引口32及び上糸吸引口35に吸引流を発生させて、上糸及び下糸の糸端を吸引捕捉できるように構成されている。
【0048】
また、巻取ユニット本体16は、巻取ボビン22を着脱可能に支持するクレードル(保持部)23と、巻取ボビン22の周面又はパッケージ30の周面に接触して回転可能な接触ローラ29(タッチローラ)と、を備えている。また、巻取ユニット本体16は、糸20をトラバースさせるためのアーム式のトラバース装置70をクレードル23近傍に備えており、このトラバース装置70によって糸20をトラバースしながらパッケージ30に糸20を巻き取ることが可能に構成されている。なお、トラバース箇所のやや上流にはガイドプレート28が設けられ、上流側の糸20をトラバース箇所へと案内している。このガイドプレート28の更に上流には、セラミック製のトラバース支点部27が設けられ、トラバース装置70は、このトラバース支点部27を支点として図2の矢印に示す方向に、糸20をトラバースさせている。
【0049】
クレードル23は回動軸48を中心に回動可能に構成されており、巻取ボビン22への糸20の巻取に伴う糸層径の増大を、クレードル23が回動することによって吸収できるように構成されている。
【0050】
クレードル23の巻取ボビン22を狭持する部分にはサーボモータで構成されるパッケージ駆動モータ(パッケージ駆動部)41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41によって巻取ボビン22を回転駆動して糸20を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41は、巻取ボビン22を(パッケージ30を)巻取方向に回転駆動可能であると共に、反巻取方向にも回転駆動可能である。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取ボビン22をクレードル23に支持させたときに、当該巻取ボビン22と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。このパッケージ駆動モータ41の動作はパッケージ駆動制御部42により制御され、このパッケージ駆動制御部42はユニット制御部50からの運転信号を受けてパッケージ駆動モータ41の運転及び停止を制御するように構成されている。なお、パッケージ駆動モータ41としては、サーボモータに限られず、ステップモータ、インダクションモータといった各種のモータを採用することができる。
【0051】
また、回動軸48には、クレードル23の角度を検出するための角度センサ44が取り付けられている。この角度センサ44は例えばロータリエンコーダからなり,クレードル23の角度に応じた角度信号をユニット制御部50に対して送信するように構成されている。クレードル23はパッケージ30が巻き太るに従って角度が変化するので、クレードル23の回動角を角度センサ44によって検出することにより、パッケージ30のパッケージ径を検出することができる。なお、パッケージ径を検出する方法としては、角度センサ44以外にも、ホールICを用いたものやアブソリュート型エンコーダ等、パッケージの径を検出できるものであれば、適宜の構成を用いることができる。
【0052】
次に、図3を参照して、トラバース装置70の構成とトラバース装置70近傍の構成のレイアウトについて説明する。図3は、トラバース装置70近傍の拡大左側面図である。なお、本実施形態では接触ローラ29は、軸方向が巻取ユニット本体16の側方を向くように配置されているため、例えば図3のような側面図は、接触ローラ29の軸方向に見た図であるということができる。また、パッケージ30の巻取方向の回転は、図3において時計回りであり、パッケージ30の反巻取方向の回転は、図3において反時計回りである。
【0053】
図3に示すように、トラバース装置70は、トラバース駆動モータ76と、出力軸77と、トラバースアーム(トラバースガイド)74と、を備える。
【0054】
トラバース駆動モータ76は、トラバースアーム74を駆動するためのものであって、サーボモータ等により構成されている。このトラバース駆動モータ76の作動は、図2に示すように、トラバース制御部78により制御されている。なお、トラバース駆動モータ76は、ステップモータやボイスコイルモータ等の他のモータであってもよい。
【0055】
このトラバース制御部78は、専用のマイクロプロセッサによるハードウエア等から構成されており、ユニット制御部50からの信号を受けてトラバース駆動モータ76の運転及び停止を制御するように構成されている。
【0056】
そして、このトラバース駆動モータ76の動力は、図3に示す出力軸77を介して、トラバースアーム74の基端部に伝達されている。そして、トラバース駆動モータ76のロータが正逆回転することで、トラバースアーム74が、図3の紙面垂直方向(図2の左右方向)に往復旋回運動を行う。なお、図3におけるトラバースアーム74は、トラバースの端部における位置を示している。
【0057】
そして、トラバースアーム74の先端部にはフック形状の糸ガイド部73が形成されており、この糸ガイド部73によって糸20を保持・案内できるように構成されている。この糸ガイド部73が糸20を保持した状態で往復旋回運動を行うことにより、糸20をトラバースさせることができる。
【0058】
図3には、トラバース駆動モータ76の回転軸線(トラバースアーム74の回転軸線)が符号L1で、トラバースアーム74の基端部からトラバースアーム74の側面における長手方向へ真っ直ぐ引いた仮想線(トラバースアーム74の側面における中心線)が符号L2で、それぞれ示されている。トラバースアーム74の往復旋回運動に伴って、糸ガイド部73は、トラバースアーム74の回転軸線L1に垂直な仮想平面内で円弧状の軌跡を描いて往復運動する(以下、この仮想平面を「旋回面」と称する)。本実施形態においてトラバースアーム74は回転軸線L1に対してほぼ垂直に配置されているので、仮想線L2は回転軸線L1に対して垂直となっている。従って、トラバースアーム74は上記旋回面内で往復旋回運動するということができる。
【0059】
本実施形態では、トラバースアーム74の先端部付近の糸道(ガイドプレート28の端部から接触ローラ29に至る糸道)を示す直線である糸道線L3を考えたときに、当該糸道線L3と、トラバースアーム74の回転軸線L1と、が平行になるようなレイアウトが実現されている。言い換えれば、糸道線L3と上記の旋回面(及び仮想線L2)とが垂直なレイアウトとなっている。
【0060】
以上のように、トラバースアームの長手方向が糸巻取機の設置面に対して略平行であるように綾振りを行う方式を、以下、「水平トラバース方式」と称する場合がある。水平トラバース方式が採用された本実施形態のワインダユニット10では、トラバース時に糸20を糸道線L3の方向に引っ張ったり弛ませたりする力がほとんど加わらない。そのため、特にトラバース端部において糸ガイド部に起因する糸の屈曲を軽減させることができるので、パッケージの品質低下を抑制することができる。
【0061】
続いて、図4を参照してクレードル23の構成について更に詳細に説明する。図4は、クレードル23の近傍を拡大した右側面図である。
【0062】
図4に示すように、巻取ユニット本体16は、回動軸48を中心に回転可能な回転プレート17を有している。また、クレードル23は、回動軸48を中心として回転プレート17と一体的に回動するように構成されている。回転プレート17には、引張バネとして構成された接圧漸減のためのスプリング18と、エアシリンダ60とが接続されている。このスプリング18及びエアシリンダ60により、クレードル23に対して所定の回転トルクを加えることができる。
【0063】
エアシリンダ(移動部)60はピストン601を内部に備えた複動形シリンダとして構成されている。図4において、ピストン601の図面右側のシリンダ室には空気圧P1の圧縮空気が、ピストン601の図面左側のシリンダ室には空気圧P2の圧縮空気がそれぞれ供給されている。
【0064】
空気圧P2の圧縮空気をエアシリンダ60に供給するためのパイプには電空レギュレータ61が接続されており、この電空レギュレータ61によって空気圧P2を無段階に調節可能に構成されている。また、電空レギュレータ61による空気圧P2の制御は、ユニット制御部50から入力される制御信号に基づいて行われる。
【0065】
図4の構成で空気圧P2を減少させると、エアシリンダ60がクレードル23を引っ張る力が増大するので、回動軸48を中心にして巻取ユニット本体16の正面側へクレードル23を回転させるトルクが増大する。接触ローラ29は回動軸48よりも巻取ユニット本体16の正面側に配置されているので、空気圧P2の減少により、パッケージ30と接触ローラ29との接圧を高めることができる。逆に空気圧P2を増加させれば、エアシリンダ60がクレードル23を引っ張る力が弱まるので、回動軸48を中心にして巻取ユニット本体16の背面側へクレードル23を回転させるトルクが増大する。これにより、パッケージ30と接触ローラ29との接圧を弱めることができる。また、空気圧P2を更に増加させることにより、パッケージ30を接触ローラ29表面から離間させることもできる。
【0066】
回動軸48は図4の紙面に垂直な方向に細長く形成され、その紙面奥側の端部には角度センサ44が接続されている。この角度センサ44は、クレードル23の回転角を検出可能に構成されている。また、この角度センサ44はユニット制御部50に接続されている。
【0067】
上記構成に基づいて、エアシリンダ60はクレードル23を移動させパッケージ30を移動させることができる。この場合、パッケージ30は、接触ローラ29から離間した位置(接触ローラ29に非接触である位置)と、接触ローラ29に接触する位置と、に移動することができる。
【0068】
以上説明したワインダユニット10において、クリアラ15が糸欠点を検出して行う糸切断又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ(以下「糸切断等」という)が発生した場合には、スプライサ装置14で下糸と上糸とを糸継ぎする必要がある。このため、下糸吸引口32で給糸ボビン21側の下糸を捕捉すると共に、上糸吸引口35でパッケージ30側の上糸を捕捉して引き出す必要がある。
【0069】
以下、糸切断等が発生した際に、ワインダユニット10で行われる上糸の引き出し動作の制御及び引き出し方法について、図2,4〜6等を参照し、詳細に説明する。
【0070】
まず、糸切断等が発生する前の巻取動作中には、パッケージ30の表面は接触ローラ29に接触している。このように、接触ローラ29に接触するようなパッケージ30の位置を、以下「接触位置」と称し符号「Q2」で表す。
【0071】
〔第1ステップ〕
巻取動作中に糸切断等が発生した直後には、ユニット制御部50から電空レギュレータ61に駆動信号が送られる。上記駆動信号に基づく電空レギュレータ61の駆動により、エアシリンダ60の空気圧P2が変更され、図6に示すように、クレードル23が接触ローラ29から離れる向きに駆動される(図5:S101)。これにより、パッケージ30は、接触ローラ29から離間し、接触ローラ29と非接触である所定の位置に保持される。このときの移動先のパッケージ30の位置を、以下「非接触位置」と称し符号「Q1」で表す。同時に、ユニット制御部50がパッケージ駆動制御部42に対して運転信号を送信することで、パッケージ30の回転が減速停止され、パッケージ30の反巻取方向(矢印A方向)への回転が開始される(図5:S103)。
【0072】
〔第2ステップ〕
更に、ユニット制御部50が上糸捕捉部材26に駆動信号を送ることで、上糸パイプアーム36が回動し、図6に示されるように、上糸吸引口35が接触ローラ29近傍の所定の位置に移動する。なお、このときの上糸吸引口35の位置は、パッケージ30の表面にも近い。そして、非接触位置Q1のパッケージ30が反巻取方向Aに回転している状態で、上糸吸引口35の吸引動作が行われる(図5:S105)。上記吸引動作によって、パッケージ30に連なる上糸の糸端30aが上糸吸引口35に吸引捕捉される可能性がある。
【0073】
以上のように、非接触位置(第1の位置)Q1で保持されたパッケージ30を接触ローラ29と非接触の状態で反巻取方向Aに回転させながら行う吸引捕捉動作を、以下、「第1吸引捕捉動作」と称する。
【0074】
第1吸引捕捉動作中におけるパッケージ30の回転回数は、事前に設定部91(図1参照)から設定入力された情報に基づき、ユニット制御部50からの運転信号によって制御される。すなわち、オペレータのキー操作等により設定部91から入力された回転回数情報は、各ワインダユニット10のユニット制御部50に制御情報として送信される。このような構成により、オペレータは、パッケージ30の上記回転回数を所望の回数に設定することができる。ここで設定される回転回数は、略1周又は1周以下の数値であることが好ましく、中でも回転回数は1周に設定されることが好ましい。糸端30aが捕捉し易い状態にあれば、パッケージ30の回転回数が1周以下であっても、糸端30aの捕捉が成功する可能性が大きい。その一方、パッケージ30が1周より多く回転されたとしても、糸端30aの捕捉の成功率はほとんど向上しないと考えられ、動作時間の無駄が発生する。また、上記回転回数は、0.5周以上の数値であることが好ましい。0.5周未満の場合には、糸端30aが上糸吸引口35近傍に到達せずに、吸引捕捉ができない可能性がある。上記の「糸端30aが捕捉し易い状態」の代表的な例としては、糸端30aがパッケージ30表面から浮いている状態がある。
【0075】
〔第3ステップ〕
その後、第1吸引捕捉動作による糸端30aの捕捉の成功/失敗に関わらず、以下の動作が行われる。すなわち、第1吸引捕捉動作の後、クレードル23が接触ローラ29に近づく向きに駆動され、パッケージ30は、接触ローラ29に接触する接触位置Q2に戻る(図5:S107)。このとき、パッケージ30の反巻取方向Aへの回転は継続されるので、パッケージ30は接触ローラ29に接触しながら反巻取方向Aへ回転し、接触ローラ29がパッケージ30に従動回転する。
【0076】
〔第4ステップ〕
また、このとき、上糸吸引口35は上記の所定の位置に留まっており、上糸吸引口35による吸引動作も継続されている(図5:S109)。よって、接触位置Q2のパッケージ30が反巻取方向Aに回転している状態で、上糸吸引口35の吸引動作が行われることで、糸端30aが上糸吸引口35に吸引捕捉される可能性がある。このように、接触位置(第2の位置)Q2で保持されたパッケージ30を接触ローラ29と接触させた状態で回転させながら行う吸引捕捉動作を、以下、「第2吸引捕捉動作」と称する。
【0077】
以上の第1〜第4ステップの後、上糸パイプアーム36が下方に回動し、捕捉した糸端30aをスプライサ装置14に案内する。
【0078】
続いて、上述のような引き出し動作制御を実行するワインダユニット10及び引き出し方法の作用効果について説明する。
【0079】
第1吸引捕捉動作では、糸切断等の発生直後にパッケージ30が接触ローラ29から離間し、パッケージ30は減速停止の後、反巻取方向Aへ回転する。よって、糸切断等で発生した糸端30aが、パッケージ30と接触ローラ29との間に押圧されてパッケージ30の内層に埋もれ込むことが避けられる。そうすると、糸端30aがパッケージ30表面から浮いた状態になり易く、上糸吸引口35の吸引流で吸引され易い状態となる。また、糸端30aがパッケージ30表面から浮いていない場合にも、パッケージ30の反巻取方向Aへの回転によって、糸端30aがパッケージ30表面から浮いた状態になる可能性がある。また、反巻取方向Aにパッケージ30を回転駆動するので、糸端30aがパッケージ30から繰り出されて捕捉し易くなる。
【0080】
すなわち、第1吸引捕捉動作では、上記のように糸切断等が発生した直後にパッケージ30を接触ローラ29と離間させ反巻取方向Aへ回転させることによって、糸端30aが上糸吸引口35に吸引捕捉されやすい状態になるので、糸端30aの捕捉が成功し易い。また、糸端30aがパッケージ30表面から浮いた状態になり易く、上糸吸引口35をパッケージ30の表面に近付けすぎる必要がなくなることから、二重口出し現象が発生する可能性も低減される。
【0081】
第2吸引捕捉動作では、パッケージ30が接触ローラ29に接触することにより、パッケージ30表面が接触ローラ29に対して正確に位置決めされる。その一方、上糸パイプアーム36の駆動においては、パッケージ30の重量のような不確定要素の影響はほとんどないので、接触ローラ29に対する上糸吸引口35の相対的な位置は、予め設定された位置にほぼ正確に制御される。従って、パッケージ30を接触ローラ29に当接させることで、パッケージ30表面と上糸吸引口35との距離を、予め設定された所定の距離に正確に合わせることができる。なお、上記の予め設定された所定の距離とは、糸端30aの吸引捕捉に最も適した距離であり、糸20の種類等によって異なる。上記所定の距離は、例えば、上糸パイプアーム36が接触して位置決めされる図略のストッパにより規定される距離である。また、上記所定の距離は、オペレータによって予め設定部91から設定入力されるようにしてもよい。
【0082】
このように、第2吸引捕捉動作中においては、パッケージ30を接触ローラ29に当接させるといった簡易な制御によって、パッケージ30表面と上糸吸引口35との距離を、糸端30aの吸引捕捉に適した所定の距離に正確に制御することができる。そして、パッケージ30表面と上糸吸引口35との距離(接近度)が確実に保証される結果、糸端30aがパッケージ30と接触ローラ29との間に押圧されたとしても、高い確率で糸端30aが上糸吸引口35に吸引捕捉され、糸端30aの捕捉が成功する可能性が高い。また、パッケージ30表面と上糸吸引口35との距離について、糸端30aの吸引捕捉に適した距離が実現されることから、二重口出し現象が発生する可能性も低減される。
【0083】
以上のように、パッケージ30を接触ローラ29に非接触で回転させる第1吸引捕捉動作、及びパッケージ30を接触ローラ29に接触させて回転させる第2吸引捕捉動作、といった条件が異なる2通りの吸引捕捉動作を連続して行うので、少なくとも何れか一方で糸端30aの捕捉が成功する可能性は極めて高い。すなわち、糸切断等の発生後、パッケージ30が非接触位置Q1に移動した時点では、糸端30aがパッケージ30表面から浮いている場合と、糸端30aがパッケージ30表面から浮いていない場合と、が考えられる。そして、前者の場合には第1吸引捕捉動作によって捕捉が成功する可能性が高く、後者の場合にも、少なくとも第2吸引捕捉動作によって捕捉が成功する可能性が高い。よって、上述した引き出し動作の制御及び引き出し方法によれば、パッケージ30の糸端を確実に捕捉することができる。
【0084】
また、第1吸引捕捉動作ではパッケージ30と接触ローラ29とが非接触であることから、パッケージ30の重量や機械的なバラツキ等によってパッケージ30表面と上糸吸引口35との距離がバラつく可能性もある。しかしながら、上述のように第1及び第2吸引捕捉動作を連続して行うことにより、糸端30aの捕捉が成功する可能性が高められているので、非接触位置Q1へのパッケージ30の移動量や、パッケージ30表面と上糸吸引口35との距離を厳密に制御する必要性が比較的低い。よって、このような制御を省略し構成の複雑化やコストアップを避けることができる。
【0085】
また、第1吸引捕捉動作による糸端30aの捕捉の成功/失敗に関わらず、第2吸引捕捉動作が行われるので、糸端30aの捕捉の成功/失敗を検知する必要がない。よって、上糸吸引口35に吸引された糸を検出するためのセンサ類を省略することができ、構成の複雑化やコストアップを避けることができる。
【0086】
また、ワインダユニット10においては、クレードル23にパッケージ駆動モータ41が取り付けられているので、パッケージ30が接触ローラ29と非接触状態であっても、パッケージ30を巻取方向と反巻取方向Aとに回転駆動することができる。この構成により、糸切断等が発生した場合には、パッケージ30を接触ローラ29から離間させてから、パッケージ30を減速停止させ反巻取方向Aへ回転させることができる。よって、パッケージ30の減速停止中に、糸端30aがパッケージ30と接触ローラ29とに押圧されてパッケージ30の内層に埋もれ込むことを回避することができる。
【0087】
また、この種の他の糸巻取機においては、接触ローラの表面に設けた綾振り溝で糸をガイドし綾振りを行う方式(以下、「綾振りドラム方式」と称する)を採用するタイプも存在する。一方、ワインダユニット10は、接触ローラ29とは別の独立したトラバースガイドとして、トラバースアームで綾振りを行う方式(以下、「アームトラバース方式」と称する)を採用しているので、接触ローラ29の表面には綾振り溝が設けられていない。このような綾振り溝がない接触ローラ29においては、ローラ表面の全面がパッケージ30に接触する。従って、糸切断等が発生した後に、パッケージ30と接触ローラ29とが接触した状態で回転を続けると、糸端30aが接触ローラ29によってパッケージ30表面に押し付けられる可能性が高く、糸端30aが内層に埋もれ込んだ状態になり易い。
【0088】
これに対し、ワインダユニット10では、上述のように第1及び第2吸引捕捉動作を連続して行う構成によって、糸端30aを確実に捕捉することができる。このように、接触ローラとは別の独立したトラバースガイドを備える糸巻取機においては、糸端が捕捉し難い状態になる傾向が強いので、上述のワインダユニット10の構成が特に有効である。なお、接触ローラとは別の独立したトラバースガイドを用いる方式としては、前述のアームトラバース方式の他にも、特開2001−299791号公報に開示されたいわゆる「ベルト式トラバース方式」や、特開2002−104729号公報に開示されたいわゆる「羽根トラバース方式」等がある。
【0089】
また、アームトラバース方式としては、ワインダユニット10で採用される水平トラバース方式のみならず、いわゆる「垂直トラバース方式」もある。垂直トラバース方式とは、トラバースアームの長手方向が糸巻取機の設置面に対して略垂直であるようなトラバース装置で綾振りを行う方式を指し、例えば特開2010−13259号公報に開示されている。
【0090】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、第1及び第2吸引捕捉動作を行うときのパッケージ30の位置として、接触ローラ29から離間する非接触位置Q1と、接触ローラ29に接触する接触位置Q2と、を設定しているが、これは第1及び第2の位置の一例に過ぎない。すなわち、本発明では、第1及び第2の位置として、接触ローラ29との距離が互いに異なる2箇所を適宜設定すればよく、接触ローラに接触するような巻取パッケージの位置を選択することは必須ではない。また、実施形態では、非接触位置Q1における第1吸引捕捉動作を先に、接触位置Q2における第2吸引捕捉動作を後に実行しているが、本発明では、上記の実行順は逆にしてもよい。
【0091】
また、例えば、実施形態では本発明を水平トラバース方式のワインダユニット10に適用しているが、本発明は垂直トラバース方式の糸巻取機に適用してもよい。更に本発明は、アームトラバース方式の糸巻取機に限られず、ベルト式トラバース方式や羽根トラバース方式の糸巻取機に適用してもよい。更に、本発明は綾振りドラム方式の糸巻取機に適用してもよい。
【0092】
また、実施形態のワインダユニット10では、パッケージ駆動モータ(パッケージ駆動部)41でパッケージ30を直接回転駆動しているが、本発明では、接触ローラを回転駆動してパッケージを従動させる方式としてもよい。この場合、糸切断等が発生したときには、接触ローラを減速停止し逆回転させて、従動するパッケージを反巻取方向へ回転させる。その後、パッケージを接触ローラから離間させることにより、パッケージと接触ローラとが非接触の状態で、パッケージを惰性で反巻取方向に回転させることができる。
【符号の説明】
【0093】
10…ワインダユニット(糸巻取機)、20…糸、23…クレードル(保持部)、29…接触ローラ(タッチローラ)、30…パッケージ(巻取パッケージ)、30a…糸端、35…上糸吸引口(糸端捕捉部)、41…パッケージ駆動モータ(パッケージ駆動部)、50…ユニット制御部(制御部)、60…エアシリンダ(移動部)、74…トラバースアーム(トラバースガイド)、91…設定部、Q1…非接触位置(第1の位置)、Q2…接触位置(第2の位置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取パッケージを保持する保持部と、
前記巻取パッケージの表面に接触可能なタッチローラと、
前記巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う糸端捕捉部と、
前記タッチローラからの距離が異なる第1の位置及び第2の位置で前記巻取パッケージが保持されるように前記保持部を移動させる移動部と、
前記巻取パッケージが前記第1の位置にある状態、及び前記巻取パッケージが前記第2の位置にある状態の各々の状態で前記糸端捕捉部が前記捕捉動作を行うように前記移動部と前記糸端捕捉部とを制御する制御部と、を備えたことを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記第1の位置は前記第2の位置に比べて前記タッチローラから遠い位置であり、
前記制御部は、
前記巻取パッケージが前記第1の位置にある状態での前記捕捉動作の後に、前記巻取パッケージが前記第2の位置にある状態での前記捕捉動作が行われるように、前記移動部と前記糸端捕捉部との制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記制御部は、
前記巻取パッケージが前記第1の位置で前記タッチローラから離間するように前記移動部を制御し、
前記巻取パッケージが前記第2の位置で前記タッチローラに接触するように前記移動部を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記巻取パッケージを巻取方向と反巻取方向とに回転駆動するパッケージ駆動部を更に備え、
前記制御部は、
前記巻取パッケージが前記タッチローラから離間した状態で、前記巻取パッケージを前記反巻取方向に回転駆動するように、前記パッケージ駆動部を制御することを特徴とする請求項3に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記第1の位置における前記巻取パッケージの前記反巻取方向への回転回数を設定する設定部を更に備え、
前記制御部は、
前記設定部での前記回転回数の設定に基づいて前記パッケージ駆動部を制御することを特徴とする請求項4に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記巻取パッケージを巻取方向と反巻取方向とに回転駆動するパッケージ駆動部を更に備え、
前記パッケージ駆動部は、
前記巻取パッケージを、前記タッチローラから離間した状態で巻取方向と反巻取方向とに回転駆動可能であることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記制御部は、
前記巻取パッケージが前記第2の位置にある状態においては、前記糸端捕捉部と前記巻取パッケージの表面との距離が予め定められた所定の距離になるように前記糸端捕捉部の位置を制御することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項8】
前記タッチローラとは独立して設けられると共に前記巻取パッケージに巻き取られる糸をトラバースするトラバースガイドを更に備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項9】
巻取パッケージを保持する保持部と、前記巻取パッケージの表面に接触可能なタッチローラと、前記巻取パッケージの糸端を捕捉する糸端捕捉部と、を備える糸巻取機において前記巻取パッケージの前記糸端を引き出す糸引き出し方法であって、
前記保持部が、前記巻取パッケージを第1の位置で保持する第1ステップと、
前記糸端捕捉部が、前記第1の位置で保持された前記巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う第2ステップと、
前記保持部が、前記巻取パッケージを前記第1の位置よりも前記タッチローラに近い第2の位置で保持する第3ステップと、
前記糸端捕捉部が、前記第2の位置で保持された前記巻取パッケージから連なる糸の糸端を捕捉する捕捉動作を行う第4ステップと、を備えたことを特徴とする糸引き出し方法。
【請求項10】
前記第1の位置は、前記巻取パッケージが前記タッチローラから離間する位置であり、
前記第2の位置は、前記巻取パッケージが前記タッチローラに接触する位置であることを特徴とする請求項9に記載の糸引き出し方法。
【請求項11】
前記第2ステップでは、
前記巻取パッケージを反巻取方向に略1周又は1周以下の回転回数で回転させることを特徴とする請求項10に記載の糸引き出し方法。
【請求項12】
前記第4ステップでは、
前記糸端捕捉部が、前記巻取パッケージからの距離が予め定められた所定の距離となる位置において、前記捕捉動作を行うことを特徴とする請求項9〜11の何れか1項に記載の糸引き出し方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate