説明

糸条吸引装置

【課題】圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引・排出する糸条吸引装置において、該糸条吸引装置から発せられる騒音を効果的に低減し、かつ糸条詰まりのない、あらゆる種類の糸条吸引装置に適用可能な消音器を配した糸条吸引装置を提供すること。
【解決手段】圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引および排出する糸条吸引装置の糸条排出側に消音器を設けた糸条吸引装置において、該吸引装置の排出配管内径より2〜6倍の内径でかつ15〜55倍の長さを有する多孔板金属材料からなる吸音パイプと、該吸音パイプの外周に配される多孔質プラスチック発泡体からなる消音体と、該消音体の外周に配される金属外管とを有することを特徴とする糸条吸引装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維糸条を吸引・排出する糸条吸引装置の消音器に関する。さらに詳しくは、圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引・排出する糸条吸引装置の騒音発生を効果的に抑制し、かつ糸条詰まりのない糸条吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の製造工程においては、圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引処理する糸条吸引装置が多用されている。一般的に繊維製造工程で使用される糸条吸引装置は、圧縮空気を専用のノズルに導いて高速空気流を発生させ、糸条を吸引・排出する、いわゆるサクションガン、あるいはアスピレーターと呼ばれるものである。
【0003】
かかる糸条吸引装置においては、圧縮空気を用いて高速空気流を発生させる原理を採用しているために、著しい騒音を伴うのが常である。
【0004】
こうした糸条吸引装置で発生する騒音を低減する消音器として、例えば、特許文献1、特許文献2の装置が提案されている。しかしながら、特許文献1においては、消音器内部の糸条の通路部分の構造が複雑で糸条詰まりを生じやすく、連続的に安定した糸条の吸引・排出が困難であるという問題があり、特許文献2においては、糸条吸引装置と一体となった構造設計が必要で、特定の吸引装置に限定されるとか、糸掛け作業用の吸引装置としては操作性の面で使用が困難であるといった、用途的に限定されるという問題がある。
【特許文献1】実開昭55−164263号公報
【特許文献2】特開昭53−10716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記した問題を解決することを目的とするものであり、圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引・排出する糸条吸引装置において、該糸条吸引装置から発せられる騒音を効果的に低減し、かつ糸条詰まりのない、あらゆる種類の糸条吸引装置に適用可能な消音器を配した糸条吸引装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の目的は、以下の(1)に記載の本発明による糸条吸引装置の構成とすることによって達成することができる。
【0007】
(1)圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引および排出する糸条吸引装置の糸条排出側に消音器を設けた糸条吸引装置において、該吸引装置の排出配管内径より2〜6倍の内径でかつ15〜55倍の長さを有する多孔板金属材料からなる吸音パイプと、該吸音パイプの外周に配される多孔質プラスチック発泡体からなる消音体と、該消音体の外周に配される金属外管とを有することを特徴とする糸条吸引装置。
【0008】
かかる本発明の糸条吸引装置の消音器は、さらに、以下の(2)記載の好ましい態様を有する。
【0009】
(2)前記多孔板金属材料からなる吸音パイプの多孔板の孔径がφ4mm〜φ7mmで、かつ開口面積率が30%〜50%であることを特徴とする前記(1)記載の糸条吸引装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧縮空気を用いる糸条吸引装置において、該吸引装置から発せられる著しい騒音を効果的に低減させ、かつ糸条詰まりのない消音器を配した糸条吸引装置を提供することができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の糸条吸引装置について、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明による消音器を糸条吸引装置の排出側に配した糸条吸引装置の一実施態様例の断面概略図である。図2は本発明による糸条吸引装置の消音器部分の構成概要図であり、図1におけるB部分に該当するものである。
【0013】
図1において、A部分は糸条吸引装置の全体断面構成を、B部分はA部分に接続した、本発明による糸条吸引装置の消音器部分の全体断面構成を示している。
【0014】
糸条吸引装置部分Aは、糸条Yを吸引・排出するアスピレーター式の糸条吸引装置1、該糸条吸引装置1の入口に設けられた糸条Yを糸条吸引装置1に案内するガイド2、および糸条吸引装置の排出配管3からなっている。そして、吸引装置1に圧縮空気Zを供給することにより、ガイド2の先端部分には空気の吸引流が生じて糸条Yが連続的に吸引され、吸引装置の排出配管3、さらには消音器内部の吸音パイプ4を通過して外部に排出されるようになっている。
【0015】
さらに、消音器部分Bは、前記吸引装置の排出配管3に外挿されて直結する継ぎ手7、該継ぎ手7の下流側に連結される多孔板金属材料からなる吸音パイプ4、該吸音パイプ4の外周に配された多孔質プラスチック発泡体からなる消音体5、および該消音体5の外周に被せられた金属外管6からなるものである。
【0016】
ここで、図1では、本発明による消音器を継ぎ手7により糸条吸引装置に直結する構成としているが、この態様は糸条吸引装置を固定して使用する場合に有効であり、例えば繊維製造工程における糸掛け作業のように、糸条吸引装置を動かしながら使用する場合においては、継ぎ手7の代わりにホース配管等によって連結使用できることは言うまでもない。
【0017】
図2は本発明による消音器の構成概要図であり、多孔板金属材料からなる吸音パイプ4の外周に、たとえば軟質ウレタンフォーム等の多孔質プラスチック発泡体からなる消音体5を配し、該消音体5の外周に金属外管6を被せる構成としたものである。
【0018】
ここで、吸引装置から発せられる著しい騒音を効果的に低減させ、かつ糸条詰まりのない消音器を提供するためには、多孔板金属材料からなる吸音パイプ4の仕様が重要となる。吸音パイプ4の内径Dは吸引装置1の排出配管3の内径dより2〜6倍の大きさであり、さらに好適な範囲は3〜5倍の大きさである。吸音パイプ4の内径Dが前記した範囲より小さい場合は糸条の通路断面積が小さくなることにより、流速抵抗が大きくなって、吸引装置1の吸引能力が低下し糸条の吸引不良となったり、また、吸音パイプ4の内面に糸条が擦過されやすくなって糸詰まりを生じやすくなる。一方、吸音パイプ4の内径Dが前記した範囲より大きい場合においても、糸条の通路断面積が極端に大きくなるため、空気流速が急低下し、消音器の下流側に糸条が勢いよく排出されなくなって吸音パイプ4内で糸溜まりが成長し、糸詰まりの原因となる。
【0019】
また、吸音パイプ4の長さLは、吸引装置の排出配管6の内径dより15〜55倍の長さであり、さらに好適な範囲は20〜50倍の長さである。吸音パイプ4の長さLが前記した範囲より短い場合は十分な消音効果が得られず、長い場合は流速抵抗が大きくなって糸条吸引装置の吸引力が低下し、糸詰まりを生じやすくなる。
【0020】
さらに、吸音パイプ2の材料は、多孔板金属材料であって、その多孔板の単一孔の孔径がφ4mm〜φ7mmで、かつ、多孔板全体を占める多孔部分の面積比率、いわゆる開口面積率が30%〜50%のものにおいて、その目的とする効果、すなわち、消音効果が大きく、しかも糸詰まりがなく安定した糸条の吸引を可能ならしめる、より好ましい形態となる。多孔板の孔形状は、より汎用的な円形打ち抜き板が好ましいが、前記した孔径と開口面積率に相当するものであれば、楕円または矩形等、他の形状であっても良い。また、多孔板金属材料の材質は、防錆性、耐摩耗性、平滑性等の面からステンレス鋼が好ましいが、たとえばメッキ処理等の表面処理によって、防錆性、耐摩耗性、平滑性等を維持できるようにした他の材料とすることも可能である。
【実施例】
【0021】
本発明による糸条吸引装置の消音器について、以下の条件にて評価した。
(評価条件)
・圧縮空気供給圧力Z:0.6 MPa
・騒音測定基準:昭和51年労働省告示第46号に基づく等価騒音レベルB測定
・測定位置:騒音発生源より1000mm
・評価場所環境騒音:約70(dB)
・消音器無し使いでの糸条吸引装置の騒音:約103(dB)
・糸条吸引装置の排出配管内径 d=8mm
・吸音パイプ用多孔板金属材料
:孔径φ5mm、開口面積率46%、材質SUS304、板厚1.5mm
・消音体:軟質ウレタンフォーム
実施例1〜4、比較例1〜2
上記評価条件にて、吸音パイプ内径(D mm):3d
とし、
・吸音パイプ長さ(Lmm):10d(比較例1)
・吸音パイプ長さ(Lmm):15d(実施例1)
・吸音パイプ長さ(Lmm):20d(実施例2)
・吸音パイプ長さ(Lmm):35d(実施例3)
・吸音パイプ長さ(Lmm):50d(実施例4)
・吸音パイプ長さ(Lmm):60d(比較例2)
とした。
その結果、実施例1、2、4は糸詰まり、および消音効果ともに実用上問題ないレベルであった。また、実施例3は糸詰まりなく、消音効果大(80dB以下)で実用化最適であった。また、比較例1〜2は、糸詰まり、あるいは消音効果小(85dB以上)で実用化不適であった。
【0022】
実施例5〜9、比較例3〜4
上記評価条件にて、吸音パイプ内径(D mm):4d
とし、
・吸音パイプ長さ(Lmm):10d(比較例3)
・吸音パイプ長さ(Lmm):15d(実施例5)
・吸音パイプ長さ(Lmm):20d(実施例6)
・吸音パイプ長さ(Lmm):35d(実施例7)
・吸音パイプ長さ(Lmm):50d(実施例8)
・吸音パイプ長さ(Lmm):55d(実施例9)
・吸音パイプ長さ(Lmm):60d(比較例4)
とした。
その結果、実施例5、9は糸詰まり、および消音効果ともに実用上問題ないレベルであった。また、実施例6〜8は糸詰まりなく、消音効果大(80dB以下)で実用化最適であった。また、比較例3〜4は、糸詰まり、あるいは消音効果小(85dB以上)で実用化不適であった。
【0023】
実施例10〜12、比較例5〜6
上記評価条件にて、吸音パイプ内径(D mm):5d
とし、
・吸音パイプ長さ(Lmm):10d(比較例5)
・吸音パイプ長さ(Lmm):20d(実施例10)
・吸音パイプ長さ(Lmm):35d(実施例11)
・吸音パイプ長さ(Lmm):50d(実施例12)
・吸音パイプ長さ(Lmm):60d(比較例6)
とした。
その結果、実施例10は糸詰まり、および消音効果ともに実用上問題ないレベルであった。また、実施例11〜12は糸詰まりなく、消音効果大(80dB以下)で実用化最適であった。また、比較例5〜6は、糸詰まり、あるいは消音効果小(85dB以上)で実用化不適であった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による消音器を糸条吸引装置の排出側に配した糸条吸引装置の一実施態様例を示した断面概略図である。
【図2】本発明による糸条吸引装置の消音器部分の一例を示す構成概要図である。
【符号の説明】
【0025】
Z:圧縮空気
Y:糸条
A:糸条吸引装置部分
B:消音器部分
d:糸条吸引装置の排出配管の内径
D:吸音パイプの内径
L:吸音パイプ(及び消音器)の長さ
1:糸条吸引装置
2:ガイド
3:糸条吸引装置の排出配管
4:吸音パイプ
5:多孔質プラスチック発泡体
6:外管
7:継ぎ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を用いて繊維糸条を吸引および排出する糸条吸引装置の糸条排出側に消音器を設けた糸条吸引装置において、該吸引装置の排出配管内径より2〜6倍の内径でかつ15〜55倍の長さを有する多孔板金属材料からなる吸音パイプと、該吸音パイプの外周に配される多孔質プラスチック発泡体からなる消音体と、該消音体の外周に配される金属外管とを有することを特徴とする糸条吸引装置。
【請求項2】
前記多孔板金属材料からなる吸音パイプの多孔板の孔径がφ4mm〜φ7mmで、かつ開口面積率が30〜50%であることを特徴とする請求項1記載の糸条吸引装置。

【図1】
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【図2】
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