説明

糸継装置

【課題】糸継作業の成功率を高め、且つ糸継部の強度を向上させる糸継装置を提供する。
【解決手段】継ぎ合わせ対象となる糸条10の走行を支持する支持部1と、支持部1に対して相対移動可能に構成され、予備ケーキ15から引き出された継ぎ合わせ用のストランド15aを把持する把持部2と、ストランド15aにガス流を噴射する噴射部3と、を備え、把持部2が支持部1に当接することにより作業空間が形成され、当該作業空間において噴射部3からのガス流によりストランド15aを糸条10に絡み合わせて糸継ぎを行う糸継装置であって、糸継作業前のストランド15aの状態を調整する調整手段4を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を継ぎ合わせる糸継装置に関し、特に、ガラス繊維からなる糸条を継ぎ合わせる糸継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板、ガラス繊維強化プラスチック(FRP、FRTP)等の工業製品の原材料として使用されるガラス繊維は、溶融ガラスを紡糸することによって得られる直径数μm〜数十μmのガラス繊維モノフィラメントを、数十本から数千本集束してガラス繊維束とし、これを一旦ドラムに巻き取ってケーキと呼ばれる状態に加工する。その後、ケーキからガラス繊維束を巻き戻し、このガラス繊維束に撚りをかけたガラスヤーンの形態や、ガラス繊維束をさらに複数本束ねて合糸したガラスロービングの形態で出荷される。
【0003】
ここで、複数のケーキから引き出されたストランド(ガラス繊維束)が合糸された糸条からなるガラスロービングの製造工程において、例えば、ケーキに巻かれているストランドを使い果たして新たなケーキに切り替える場合や、ケーキから引き出されたストランドが不意に切断されてしまった場合、糸条を構成するストランドの本数が不足するため、糸条の一部が細くなった縮径部が発生し得る。そこで、ガラスロービングの品質を維持するためには、糸条の縮径部を回復させるための糸継作業が必要となる。この糸継作業では、糸条の縮径部に予備のストランドが絡められる。これにより、糸条は元の状態に戻る。
【0004】
上記の糸継作業は、作業員の手作業によって行われることもあるが、糸継作業を自動化する糸継装置が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、自動糸継装置により、作業員の負担が軽減され、さらに手作業と比べて糸継作業の効率を大きく向上させることができるとされている。
【0005】
また、糸継作業を実施するに際し、糸継部の強度を高めるために糸継ぎを行うスプライサー内の一対の空気噴射孔の中心の交差点をスリット側に偏心した位置に設定する技術もあった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の技術によれば、スプライサー内での空気の旋回流が複雑な流れとなり、繊維のほぐれと撚り掛けが十分になされるため、糸継部の強度を向上することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−66480号公報
【特許文献2】特開平7−125931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来技術には幾つかの問題点がある。特許文献1の自動糸継装置では、交換前の旧ケーキから引き出されたストランド(旧糸)と、交換後の新ケーキから引き出されたストランド(新糸)との糸継作業を実行するに際し、装置に設けられたフックが新糸を引き下げるように動作する。このため、新糸に強いテンションが作用し易くなっていた。特にガラス繊維は、一般的に合成繊維よりも脆い性質を有するため、ストランドを強く引き下げると、そのまま切断してしまう虞がある。従って、特許文献1の糸継装置では、特にガラス繊維を対象とする場合、旧糸と新糸との糸継ぎを確実に行うことは困難であり、さらなる改善の余地がある。
【0008】
特許文献2の技術では、2本の糸を継ぎ合わせる作業をする際に、クランプで糸を押さえて滑らないようにした上で、さらにレバーを引っ張ることで糸を延伸している。従って、特許文献2の技術においても糸に強いテンションが作用し、一般的なガラス繊維を用いた場合は切断され易いと考えられる。なお、空気噴射孔内部の旋回流を複雑にしても、空気噴射をする以前に夫々の糸が切断される確率が高いため、特許文献2の技術では、特にガラス繊維では糸継部の強度向上は期待できない。
【0009】
このように、現状においては、糸継作業を実行する際にストランドが切断されることを防止するとともに、確実に糸継ぎを行う技術は未だ開発されていない。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、糸継作業の成功率を高め、且つ糸継部の強度を向上させる糸継装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る糸継装置の特徴構成は、
継ぎ合わせ対象となる糸条の走行を支持する支持部と、
前記支持部に対して相対移動可能に構成され、予備ケーキから引き出された継ぎ合わせ用のストランドを把持する把持部と、
前記ストランドにガス流を噴射する噴射部と、
を備え、
前記把持部が前記支持部に当接することにより作業空間が形成され、当該作業空間において前記噴射部からのガス流により前記ストランドを前記糸条に絡み合わせて糸継ぎを行う糸継装置であって、
糸継作業前の前記ストランドの状態を調整する調整手段を設けてあることにある。
【0011】
上記課題で述べたように、現状においては、糸継作業を実行する際にストランドが切断し易いという問題があった。特にガラス繊維の糸継作業を行う場合、一般的にガラス繊維は合成繊維よりも脆い性質を有するため、合成繊維等を対象とする場合と同じ手法を用いたのでは、糸継作業を確実に行うことは困難であった。糸継作業を実行する際にストランドが切断してしまう原因の一つは、ストランドに強いテンションが作用するためである。従って、ストランドの切断を防止するためには、ストランドに作用するテンションをできる限り低減しつつ、ストランドの配置を最適化することが有効である。
そこで、本発明者らが鋭意検討したところ、糸継装置において、糸継作業前のストランドの状態を調整する調整手段を新たに設けることで、ストランドに作用するテンションやストランドの配置を最適化できることが分かった。例えば、調整手段により、ストランドに作用するテンションを低減するようにストランドの状態を調整することが有効である。
本構成の糸継装置であれば、上述のように糸継作業前のストランドの状態を調整する調整手段を設けているため、ストランドに強いテンションが作用することを未然に防止することができる。その結果、ストランドが切断することが防止され、確実に糸継ぎを行うことができる。また、ストランドの配置が最適化されるため、糸条に対してストランドを最適な状態で絡ませつつ、糸継部の強度を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る糸継装置において、前記調整手段は、前記ストランドを緩める弛緩手段であることが好ましい。
【0013】
上述したように、糸継作業を実行する際にストランドが切断してしまうのは、ストランドに強いテンションが作用するためである。
本構成の糸継装置であれば、調整手段がストランドを緩める弛緩手段であるため、ストランドに撓みが生じ、ストランドに作用するテンションを略ゼロにすることができる。その結果、ストランドが切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。
【0014】
本発明に係る糸継装置において、前記調整手段は、前記把持部に前記ストランドの位置を合わせる位置合わせ手段であることが好ましい。
【0015】
糸継作業を実行する際に、糸条に対してストランドを最適な状態で絡ませるためには、走行している糸条の長手方向の真上にストランドを位置させることが望ましい。このためには、ストランドを把持する把持部に対して当該ストランドの位置を合わせることを要する。位置が合わない場合、ストランドに強いテンションが作用してストランドが切断したり、ストランドが糸条に届かない虞がある。また、ストランドの位置が合っていない状態でガス流を噴射すると、ストランドのうち糸条に絡む部分の長さが不足したり、絡まりが不十分になる虞がある。このような場合、糸継作業を確実に実行することができず、さらに糸継部の強度も不十分となり得る。
本構成の糸継装置であれば、調整手段が把持部にストランドの位置を合わせる位置合わせ手段であるため、把持部で把持されているストランドが無理に引っ張られたり、ストランドの絡み合い部分の長さが不足する虞がない。さらに、支持部を走行している糸条に対して把持部で把持されているストランドを円滑に供給することができる。その結果、糸条に対してストランドを最適な状態で絡ませることができるため、より確実に糸継ぎを行うことができる。また、ストランドを最適な位置に合わせることで、糸継ぎの作業性や効率、操作性を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る糸継装置において、前記把持部は、前記ストランドを把持するに際し、糸継作業が必要でない通常時には所定以上の把持力を維持し、糸継作業が必要となる動作時には把持力を弱めるように構成されていることが好ましい。
【0017】
本構成の糸継装置であれば、通常時には、糸継作業に備えてストランドを把持部に確実に留めておくことができる。また、動作時には、糸継ぎに必要な長さのストランドを確保しつつ、ストランドの動きが邪魔されない程度に当該ストランドを把持部に留めておくことができる。すなわち、動作時のみにストランドに作用するテンションを弱めることができる。従って、ストランドが切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。
【0018】
本発明に係る糸継装置において、前記把持部は、0.1〜1.1g重/mmの把持力で前記ストランドを把持することが好ましい。
【0019】
本構成の糸継装置であれば、把持部の把持力の下限値を0.1g重/mmとすることで、ストランドが把持部から脱落することがない。一方、把持部の把持力の上限値を1.1g重/mmとすれば、糸継作業を実行する際のストランドの動きが邪魔されない。その結果、ストランドが切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。
【0020】
本発明に係る糸継装置において、前記ガス流を攪乱させる攪乱手段を前記作業空間の内部に設けてあることが好ましい。
【0021】
本構成の糸継装置であれば、ストランドを糸条に絡ませるためのガス流を噴射すると、作業空間の内部に設けられたガス流を攪乱させる攪乱手段によって、作業空間の内部のガスの流れが複雑な乱流となる。その結果、糸条に対してストランドを十分に絡ませることができるため、糸継部の強度が向上する。
【0022】
本発明に係る糸継装置において、前記噴射部からのガス流が前記ストランドに直接作用するように構成されていることが好ましい。
【0023】
本構成の糸継装置であれば、ガス流がストランドに直接作用する(すなわち、直撃する)ことになる。このため、ストランドは作業空間の内部で激しく動き回る。その結果、糸条とストランドとの絡み合いが十分となり、効率よく糸継作業を行うことができる。また、このようにして形成した糸継部は、十分な強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の糸継装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、把持部の概略断面図である。
【図3】図3は、ハンガーの側面図である。
【図4】図4は、糸継動作を段階的に説明する本発明の糸継装置の要部構成図である。
【図5】図5は、糸継作業時に当接した状態にある把持部と支持部との構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の糸継装置の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0026】
<糸継装置>
複数のガラス繊維束(以下、「ストランド」と称する。)を合糸してなる糸条を巻き取ってガラスロービングを製造するに際し、本実施形態では、4つのケーキ11、12、13、及び14からストランド11a、12a、13a、及び14aが夫々引き出され、それらを第1合流部X1で束ねて合糸した糸条10が巻取装置60によって巻き取られる。なお、糸条10を「本線」と称する場合がある。ストランド11a、12a、13a、及び14aは、夫々赤外線センサー31、32、33、及び34によって糸切れの有無の検査が行われる。ここで「糸切れ」とは、ストランドを使い果たして新たなケーキに切り替える際の空白状態や、ケーキから引き出されたストランドが切断された状態を含む。また、ケーキ11、12、13、及び14とは別に、糸継ぎ用(回復用)の予備のストランド15aが巻かれた予備ケーキ15が設けられる。予備ケーキ15から引き出されている予備のストランド15aも赤外線センサー35によって監視されている。予備のストランド15aは、第1合流部X1を通して待機状態にされている。予備のストランド15aを第1合流部X1に通す理由は、将来、本線を構成する通常のストランドとして利用されることになるからである。ここで、例えば、ケーキ11から引き出されているストランド11aが切断した場合、糸条10を構成するストランドの本数が4本から3本に減少するため、糸条10が細くなってしまう。この状態を「縮径部」とする。糸条10に縮径部が発生した場合、当該縮径部を元の状態に回復させるための糸継作業が実行される。詳細については後述するが、ストランド11aが切断したことを赤外線センサー31が検知すると、予備ケーキ15から引き出された予備のストランド15aが糸条10に絡められる。これにより、糸条10を構成するストランドが3本から4本に増加するため、糸条10に発生していた縮径部は元の状態に回復する。糸継ぎに使用された予備のストランド15aは、以後、通常のストランドとして本線を構成することになる。また、切断したストランド11aを供給するケーキ11は、今度は予備ケーキとして利用される。このような糸継作業を実施するための本発明の糸継装置100の構成を、以下に説明する。
【0027】
図1は、本発明の糸継装置100の全体構成を示す構成図である。糸継装置100は、主要な構成要素として、支持部1、把持部2、噴射部3、及び調整手段としてのハンガー4を備えている。
【0028】
支持部1は、継ぎ合わせ対象となる糸条10の走行を支持する。「糸条の走行を支持する」とは、糸条10が支持部1を円滑に走行することを支援することを意味する。従って、糸条10が支持部1に直接接触することを要するものではない。支持部1には、後述する把持部2と当接状態にあるときに、ストランド15aにガス流を噴射する噴射部3が設けられている。噴射部3には、空気や窒素ガス等を供給するガス供給源50が接続されている。ガス供給源50には、ガスボンベやコンプレッサ等が用いられる。また、支持部1には、後述する糸継作業を行うための作業空間の少なくとも一部が形成されている。作業空間が形成されると、ストランド15aが糸条10に絡み合うように、噴射部3からガス流が噴射される。
【0029】
図2は、把持部2の概略断面図である。把持部2は、予備ケーキ15から引き出されたストランド15aを把持する。具体的には、図1に示した糸条10の走行方向から見て把持部2の略中央に設けられたブロック状の把持部材2aにストランド15aが数回巻き付けられ、その状態で留め具90を用いてストランド15aを仮固定する。留め具90としては、例えば、磁力によりストランド15aを固定可能なマグネット装置を使用することができる。特に、図2に示すような把持部材2aに当接する金属製の円筒91にリングマグネット92を装着したものが好ましい。この場合、円筒91の内部にドーナツ型のリングマグネット92を複数枚積層して磁力を調節する。リングマグネット92の積層枚数を変更することにより、磁力(把持力)を容易に変更することができる。従って、リングマグネット92を用いれば、把持部2の把持力を好適な範囲である0.1〜1.1g重/mmに調整可能である。把持力が0.1g重/mm以上であれば、ストランド15aが把持部2から脱落することがない。一方、把持力が1.1g重/mm以下とすれば、糸継作業を実行する際のストランド15aの動きが邪魔されない。その結果、ストランド15aが早期に切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。
【0030】
また、把持部2は、糸継作業が必要でない通常時は支持部1から一定距離離間した位置(図1では、支持部1の直上)に待機しているが、糸継作業が必要となる動作時には支持部1に対して当接する位置まで相対移動可能に構成されている。さらに、把持部2の内部には糸継作業を行うための作業空間の一部が形成されており、把持部2が支持部1に当接すると、完全な作業空間が形成される。
【0031】
把持部2は、通常時に把持力が所定以上の大きさとなり、糸継作業時には把持力が弱くなるように構成することも有効である。この場合、通常時には、糸継作業に備えてストランド15aを把持部2に確実に留めておくことができる。また、動作時には、糸継ぎに必要な長さのストランド15aを確保しつつ、ストランド15aの動きが邪魔されない程度に当該ストランド15aを把持部2に留めておくことができる。すなわち、動作時のみにストランド15aに作用するテンションを弱めることができる。その結果、ストランド15aが切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。このような把持力を可変とする把持部2は、例えば、梃子の原理を利用し、通常時に作用点がストランド15aを強く押圧した状態となり、糸継作業時に力点に力を付与すると作用点の押圧力を弱めるような構成として実現することができる。
【0032】
ハンガー4は、糸継作業前のストランド15aの状態を調整する調整手段として機能する。調整手段には、例えば、ストランド15aを緩める機能(弛緩手段)や、把持部2にストランド15aの位置を合わせる機能(位置合わせ手段)が含まれる。
【0033】
ハンガー4が弛緩手段として機能する場合、ストランド15aをハンガー4に緩く通してストランド15aを弛緩させ、撓みを生じさせる。ハンガー4は、図3の側面図に示すように、回動可能な基部40と、ストランド15aが通される引掛部41とから構成されている。回動前の引掛部41を実線で示し、回動後の引掛部41を破線で示す。糸継作業に合わせて引掛部41が回動すると、ストランド15aは引掛部41から離脱する。このようなハンガー4の動作により、ストランド15aに作用するテンションを略ゼロにすることができる。その結果、ストランド15aが切断することが防止され、より確実に糸継ぎを行うことができる。なお、ハンガー4の動作機構は上記回動機構に限られず、例えば、基部40を上下方向にスライド移動させる構成でも構わない。
【0034】
ハンガー4が位置合わせ手段として機能する場合、ハンガー4に通された直後のストランド15aが把持部2の略中央に設けられた把持部材2aに巻き付けられているストランド15aに対して最短距離でつながるように、ハンガー4の位置が合わせられる。最適には、上方視で、ストランド15aと糸条10とが略重なるように、ハンガー4の位置合わせを行う。このような位置に調整すれば、把持部2で把持されているストランド15aが無理に引っ張られたり、糸継作業で使用するストランド15aの絡み合い部分の長さが不足したりする虞がない。さらに、ハンガー4の位置を最適に調節することによって、糸継作業時を行うための作業空間の内部でもストランド15aが走行している糸条10の長手方向の直上に位置するように設定することができる。これにより、糸継作業時に作業空間の内部に発生する旋回流を最大限に利用して、糸条10にストランド15aを十分に絡ませることができる。その結果、糸継部の強度を向上させることができる。また、位置合わせを実行することにより、糸継ぎの成功率が高まり、ストランド15aの無駄な動きを減らすこともできる。
【0035】
なお、ハンガー4によりストランド15aの状態を調整した場合でも、例えば、予備ケーキ15からストランド15aの引き出しが遅れると、ストランド15aに強いテンションが作用し、ストランド15aが切断してしまう虞がある。そこで、ハンガー4と予備ケーキ15との間のストランド15aを撓ませておくことも有効である。これにより、待機しているストランド15aに対してテンションが急激に作用することを未然に防止することができる。
【0036】
<糸継作業の動作>
次に、本発明の糸継装置100を用いて実行する糸継作業の動作について、具体的に説明する。図4は、糸継動作を段階的に説明する本発明の糸継装置100の要部構成図である。
【0037】
図4(a)は、糸継作業が発生していない通常時の動作であり、把持部2、ハンガー4、及び噴射部3は待機状態となっている。本線を構成する正常な糸条10は、支持部1を通り、図外の巻取装置60に向かって走行している。把持部2の把持部材2aには、糸継ぎのためのストランド15aが脱落しない程度の把持力でマグネット装置等の留め具90により把持されており、把持部2は支持部1から離間した状態で待機している。ハンガー4には、ストランド15aが通されており、十分な撓みが生じている。ガス供給源50から噴射部3へのガスの供給は停止されている。
【0038】
図4(b)は、糸条10に縮径部70が発生した状態を示している。図1に示したストランド11a、12a、13a、及び14aの少なくとも一本に糸切れが生じた場合、本線を構成するストランドの本数が減少し、糸条10が細くなった縮径部70が発生する。赤外線センサー31、32、33、及び34は各ストランドの糸切れを検知し、別に設けられた図示しないコンピュータに検知信号を送信する。その際、コンピュータは、糸継装置100に糸継作業を行うよう指示する。同時に、ガス供給源50からガスを供給するため準備が始まる。なお、赤外線センサー31、32、33、及び34からの検知信号を、コンピュータを介さずに、糸継作業を行う各部に直接送信するように構成することも可能である。
【0039】
図4(c)は、把持部2が支持部1に当接した状態を示している。この状態において糸継作業が行われる。糸継作業は、赤外線センサー31、32、33、及び34が糸切れを検知してから所定の時間経過後に行われる。糸切れが検知されると、先ず把持部2が支持部1に向けて下方に移動する。それとともに、ストランド15aの撓みを維持するべく、ハンガー4が支持部1に接近するよう変位する。この把持部2及びハンガー4の動作は、夫々所定のタイミングで実行される。例えば、把持部2及びハンガー4の各動作は、カム機構等を用いて機械的に調整される。両者の動作を機械的又は電気的に連動させることも可能である。把持部2が支持部1に当接すると、両者間に作業空間が形成され、当該作業空間の内部で糸継作業が行われる。糸継作業は、支持部1に設けられた噴射部3にガス供給源50からガスが注入されると直ちに作業空間の内部にガス流が噴射され、把持部2に把持されているストランド15aにガスが吹き付けられる。その結果、ストランド15aは作業空間の内部で複雑に動き回り、糸条10の縮径部70に絡み付く。その後、ストランド15aは、糸条10の走行とともに予備ケーキ15から連続的に引き出される。
【0040】
図4(d)は、糸継作業が完了した状態を示している。把持部2及びハンガー4は元に存在した位置に退行する。糸継ぎに使用された予備のストランド15aは、以後は通常のストランドとしてそのまま利用され、第2合流部X2で糸条10と合わされて本線となる。糸継作業が完了した糸条10は図外の巻取装置60に巻き取られてガラスロービングとなる。図4(a)〜(d)の一連の工程の後は、次回の糸継作業に備えて、ハンガー4及び把持部2に新たな予備のストランドがセットされる。
【0041】
<糸継装置におけるその他の構成>
本発明の糸継装置100では、特にガラス繊維を対象とした糸継作業を確実に行うために種々の工夫がなされる。以下、そのような工夫について説明する。
【0042】
図5は、糸継作業時に当接した状態にある把持部2と支持部1との構造を示す概略断面図である。支持部1の内部にある作業空間Sの一部には、ガス流の攪乱手段として、湾曲管81が設けられている。湾曲管81は、噴射部3と協同して機能する。噴射部3は、噴射管83と当該噴射管83の一端に形成された噴射口84とから構成される。糸継作業時には、ガス供給源50から供給されたガスは噴射口84から噴射され、湾曲管81の内部を通り、湾曲管出口82からストランド15aに向けて噴出される。湾曲管出口82がストランド15aに近接した状態に配置されている場合、湾曲管出口82から噴射されたガス流は、ストランド15aに直接作用する(すなわち、直撃する)ことになる。このため、ストランド15aはマグネット装置等の留め具90によって仮固定された把持部材2aから外れて作業空間Sの内部で激しく動き回る。その結果、糸条10とストランド15aとの絡み合いが十分となり、効率よく糸継作業を行うことができる。また、このようにして形成した糸継部は、十分な強度を有している。
【0043】
本発明の糸継装置100において、ハンガー4を複数設けても構わない。図示しないが、例えば、ハンガー4を2つ並べて設けた場合、2つのハンガー4の間でストランド15aが長く撓むことになる。その結果、糸継作業を実行する際にストランド15aが切断することが防止され、より確実に糸継作業を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の糸継装置は、プリント配線板、ガラス繊維強化プラスチック(FRP、FRTP)等の工業製品の原材料として使用されるガラス繊維をガラスロービングの形態に加工する製造工程において、ガラス繊維に欠陥が発生した場合に利用可能である。また、ガラス繊維以外の繊維(例えば、合成繊維、天然繊維、金属繊維)における糸継作業にも利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 支持部
2 把持部
3 噴射部
4 ハンガー(調整手段)
10 糸条
15 予備ケーキ
15a 予備のストランド
81 湾曲管(攪乱手段)
90 留め具
100 糸継装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
継ぎ合わせ対象となる糸条の走行を支持する支持部と、
前記支持部に対して相対移動可能に構成され、予備ケーキから引き出された継ぎ合わせ用のストランドを把持する把持部と、
前記ストランドにガス流を噴射する噴射部と、
を備え、
前記把持部が前記支持部に当接することにより作業空間が形成され、当該作業空間において前記噴射部からのガス流により前記ストランドを前記糸条に絡み合わせて糸継ぎを行う糸継装置であって、
糸継作業前の前記ストランドの状態を調整する調整手段を設けてある糸継装置。
【請求項2】
前記調整手段は、前記ストランドを緩める弛緩手段である請求項1に記載の糸継装置。
【請求項3】
前記調整手段は、前記把持部に前記ストランドの位置を合わせる位置合わせ手段である請求項1又は2に記載の糸継装置。
【請求項4】
前記把持部は、前記ストランドを把持するに際し、糸継作業が必要でない通常時には所定以上の把持力を維持し、糸継作業が必要となる動作時には把持力を弱めるように構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の糸継装置。
【請求項5】
前記把持部は、0.1〜1.1g重/mmの把持力で前記ストランドを把持する請求項1〜4の何れか一項に記載の糸継装置。
【請求項6】
前記ガス流を攪乱させる攪乱手段を前記作業空間の内部に設けてある請求項1〜5の何れか一項に記載の糸継装置。
【請求項7】
前記噴射部からのガス流が前記ストランドに直接作用するように構成されている請求項1〜6の何れか一項に記載の糸継装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101908(P2012−101908A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252421(P2010−252421)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(507420732)電気硝子ファイバー加工株式会社 (7)