説明

紅麹ドリンクおよびその製造方法

【課題】紅麹の粉砕物を含有する紅麹ドリンク剤であって、粉砕物が完全に沈殿することなく飲用しやすく、かつ1mg以上のモナコリンKを含有させることができる製造方法を提供する。
【解決手段】モナコリンK高生産紅麹菌を用い、紅麹に含有されるモナコリンK濃度を高める。得られた高濃度のモナコリンKを含有する紅麹を、D50<10μmとなるよう微粉砕することによって、液中で沈殿しない紅麹含有ドリンク剤を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モナコリンKを含有することを特徴とした、微粉砕加工された紅麹を含む紅麹ドリンクに関する。
【背景技術】
【0002】
紅麹とは、穀類にモナスカス属の菌株を繁殖させた麹のことであり、中国、台湾などで、紅酒、老酒、紅腐乳などの醸造原料として利用されている。また、古来より生薬として「消食活血」「健脾燥胃」などの効果が知られている(李珍「本草綱目」(1590年))。さらに、近年は本願出願人らが発見した強い血圧降下作用(特許文献1、2)やコレステロール低下作用が注目されている。そのため、健康志向の高まりと相重なって、黒酢、味噌、醤油などの醸造食品やパンや麺類など主食への添加、そしてさまざまな健康補助食品(サプリメント)など、食品分野で幅広く利用されている。
【0003】
健康補助食品としては、有用な成分を一度に摂取できることが望ましい。健康補助食品の形態としては、錠剤などに成型することが考えられる。しかしながら、錠剤などの形状の場合には水とともに摂取する必要があるなど、食品としての摂取方法には問題がある。特に高齢者などは、硬い錠剤を噛み砕くことや飲み込むことが困難な場合もあり、ドリンク形状とすることにより摂取しやすくなる。
【0004】
本願出願人は、これまでにも紅麹エキスを含有するドリンク剤を開発してきた(特許文献3)。しかしながら、1日に必要な紅麹の有効成分を摂取するためには、0.5g以上の紅麹を飲食する必要があり、そのために紅麹から有効成分だけを抽出して健康補助食品とする必要があった。
【特許文献1】特許第1669591号公報
【特許文献2】特許第1863899号公報
【特許文献3】特開平5−184342号公報
【0005】
また、紅麹のような水に不溶性の固形物を飲料に添加するためには、粉砕物を添加するなどの方法があるが、このような粉砕物は沈殿しやすく、またザラザラとした食感が飲料としては適さないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、モナコリンKを高濃度に含有する紅麹を用い、飲料として1日に必要な有効成分を一時に摂取することが可能であり、かつ、紅麹を微粉砕することによって紅麹含有ドリンク剤を製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コレステロール低下作用などの効果を得るためには、1日に1mg以上のモナコリンKを摂取することが必要である。しかしながら、従来の紅麹菌では0.2%以下のモナコリンKを含む紅麹しか産生されず、1日に必要なモナコリンKを摂取するためには0.5g以上の紅麹を飲食する必要があった。0.5g以上の紅麹をドリンク剤にすると、固形成分が多すぎるためにもはや飲料とはいえない状態になってしまうという問題があった。
【0008】
本願発明者は紅麹からモナコリンKなどの有効成分のみを抽出し、抽出物をドリンク剤として加工する方法を開発したが(特許文献3)、抽出工程や成分調整など煩雑な製造工程となることから、生産性に問題があった。
【0009】
紅麹に含有されるモナコリンKの含有量を高めることができれば、1日に摂取することが必要な紅麹の量を低減することが可能になり、したがって、ドリンク剤に含まれる紅麹の量を低減することが可能となる。その結果として、紅麹から抽出工程を経ることなく、紅麹含有ドリンク剤を製造することが可能になり、上述の問題を解決することができる。
【0010】
本願出願人は、モナコリンKを高生産するモナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)に属する紅麹菌株(以下、高MK生産紅麹菌と略す)を開発した(特許文献4)。このような高MK生産紅麹菌としては、出願人が開発した受託番号NITE P−412によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された紅麹菌が例示される。前記高MK生産紅麹菌を用いることにより、紅麹に含有されるモナコリンKの量を10倍にすることが可能になった。
【特許文献4】特願2007−271481未公開
【0011】
紅麹のような水不溶性の固形物を飲料に添加するには、粉砕して粉末として添加することが必要である。しかしながら、水不溶性の粉末を添加してもすぐに沈殿してしまい、飲食する際に粉末状の紅麹を効率よく摂取できないという問題があった。
【0012】
本願発明者は鋭意検討の結果、紅麹粉砕物の平均粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定したとき、半数の粒子の粒径がAμm以下であることを示す値(D50=Aμm)が10μm以下、すなわちD50<10μmであれば、ドリンクに添加しても3時間以内に完全に沈殿することがなく、24時間後であっても完全に沈殿を生じることがなく、飲用する直前に少し撹拌するだけで効率よく紅麹を摂取できることを明らかにした。
【発明の効果】
【0013】
前述のごとく、高MK生産紅麹菌を用いることにより、ドリンク剤に添加する紅麹の量を0.1gに低減することが可能になった。さらに、紅麹粉砕物の粒径をD50<10μmにすることによって沈殿が生じにくくなり、飲用に適したドリンク剤の性状とすることが可能になった。
【0014】
その結果として、1日に必要な1mg以上のモナコリンKを一時に摂取することが可能な、モナコリンKを含有する紅麹ドリンクを製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(作製方法)
精白米を一晩水に浸漬し約1時間水切りした後、オートクレーブで125℃、20分間蒸気滅菌し蒸米を得た。これをフラスコ当たり30g入れた培地に紅麹菌(Monascus pilosus NITE P−412)を植菌し、最初の4日間は30〜35℃、4日目以後は23〜25℃で、計8週間培養した。なお、培養期間中の水分率は40〜68%に調整した。こうして得た培養物および培養終了後の紅麹を110℃、20分間の熱処理により紅麹菌と酵素を失活させた後、通風60℃で水分率を10%まで乾燥した。
【0017】
得られた紅麹をシングルトラック・ジェットミル(セイシン企業製STJ−200)により粉砕した。粉砕された紅麹の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(セイシン企業製SKレーザーマイクロンサイザーLMS−300)により測定したところ、D50=3.887μmであった。
【0018】
粉砕された紅麹を、0.1g/100mLの割合で添加することにより、紅麹ドリンクを製造した。モナコリンK含量は、ドリンク溶液を遠心分離した後の沈殿物に2〜10倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出した抽出液および上澄み液を高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。
【0019】
(評価)
得られたドリンクに含有されているモナコリンKの量は1.62mg/100mLであった。ドリンクを撹拌した後に静置して3時間後および24時間後に目視観察をしたところ、3時間後では粉末が浮遊して濁った状態であり、24時間後であってもドリンクの液中に紅麹粉末が浮遊した状態で存在して完全に沈殿していなかった。飲用する直前に少し撹拌するだけで、ザラザラとした食感を感じることなく摂取することができた。
【実施例2】
【0020】
(作製方法)
精白米を一晩水に浸漬し約1時間水切りした後、オートクレーブで125℃、20分間蒸気滅菌し蒸米を得た。これをフラスコ当たり30g入れた培地に紅麹菌(Monascus pilosus NITE P−412)を植菌し、最初の4日間は30〜35℃、4日目以後は23〜25℃で、計8週間培養した。なお、培養期間中の水分率は40〜68%に調整した。こうして得た培養物および培養終了後の紅麹を110℃、20分間の熱処理により紅麹菌と酵素を失活させた後、通風60℃で水分率を10%まで乾燥した。
【0021】
得られた紅麹を強力小型粉砕器(三紳工業社製WS−2)により粉砕した。粉砕された紅麹の粒度分布をレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(セイシン企業製SKレーザーマイクロンサイザーLMS−300)により測定したところ、D50=27.281μmであること以外、実施例1と同じ条件でドリンク剤を製造した。
【0022】
(評価)
得られたドリンクに含有されているモナコリンKの量は1.50mg/100mLであった。ドリンクを撹拌した後に静置して3時間後および24時間後に目視観察をしたところ、いずれもドリンクの液中に紅麹粉末は浮遊しておらず、完全に沈殿していた。そのため飲用する直前に撹拌しても、ザラザラとした食感を感じ摂取しにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、1日に必要なモナコリンKを含有する、紅麹ドリンクを製造することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モナコリンKを1mg以上含有することを特徴とする、紅麹ドリンク。
【請求項2】
モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)に属するモナコリンK高産生紅麹菌を穀類に植菌し、培養することによって得られた紅麹を用いることを特徴とする請求項1に記載の紅麹ドリンク。
【請求項3】
紅麹粉砕物の粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定したとき、半数の粒子の粒径がAμm以下であることを示す値(D50=Aμm)が10μm以下である紅麹粉砕物を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の紅麹ドリンク。
【請求項4】
受託番号:NITE P−412によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された紅麹菌を穀類に植菌し、培養することによって得られた紅麹を粉砕し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定したとき、半数の粒子の粒径がAμm以下であることを示す値(D50=Aμm)が10μm以下の紅麹粉砕物とすることを特徴とする紅麹ドリンクの製造方法。

【公開番号】特開2010−94033(P2010−94033A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265118(P2008−265118)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】