納豆菌ワクチン
【課題】納豆菌ワクチンを提供する。
【解決手段】納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に抗原タンパク質の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン、及び納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
【効果】納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供することができる。
【解決手段】納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に抗原タンパク質の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン、及び納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
【効果】納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫機能調節を目的とした納豆菌のワクチンとしての利用技術に関するものであり、更に詳しくは、納豆菌(胞子)の細胞表層に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを高発現量で発現させた納豆菌ワクチンに関するものである。本発明は、納豆菌の細胞表層に発現させた抗原タンパク質又は抗原ペプチドのワクチン効果を利用した新しい納豆菌ワクチンを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、先行技術として、例えば、外来の抗原等の遺伝暗号により遺伝子改変されたバシラス属又はクロストリジウム属細菌の胞子及び該胞子をワクチンとして投与する方法が提案されている(特許文献1)。また、抗原及び胞子コートタンパク質をキメラ遺伝子としてコードする一つ以上の遺伝子構築物を含む遺伝暗号により遺伝子改変された胞子をワクチンとして投与する方法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
このように、細菌(胞子)に外来の抗原遺伝子を導入して遺伝子改変された細胞(胞子)を経口ワクチンとして投与する方法は組換え細菌を利用した新しい手法として公知である。一方、現状のワクチンは、注射により投与する形態が多く、熟練者による投与が必要である。また、ワクチンを必要とする発展途上国においては、注射針の再使用による2次感染のリスクが懸念されており、ワクチンの冷蔵・冷凍保管にかかる経済的な負担も問題である。本発明において提案する納豆菌ワクチンは、日本人が食経験をもつ納豆菌を宿主とし、組換え操作により抗原タンパク質を発現する性質を付与した経口ワクチンである。経口ワクチンは粘膜経路を介する感染症の予防に特に効果的であると考えられ、また、納豆菌はその培養が比較的容易な好気性の細菌であり、その胞子は栄養源の枯渇や乾燥に耐性を示すことから、保管及び輸送にも適している。
【0004】
上述の遺伝子改変された胞子をワクチンとして投与する方法では、先行文献には、抗原と融合し発現させるタンパク質(アンカータンパク質)として種々の胞子コートタンパク質が開示されているが、具体的に実施されているのは胞子コートタンパク質CotBであり、また、抗原タンパク質として具体的に開示されているのはTTFC(破傷風抗原タンパク質)である。しかし、実際に実用化可能な有用なワクチンを開発するには、例えば、アンカータンパク質の条件として、1)細胞表層に存在すること、2)発現量が高いこと、が理想的であり、これらの条件は、使用する宿主の種類、胞子コートタンパク質の種類、抗原タンパク質等のコンストラクトによって、大きく異なるものであることが知られている。したがって、実用化可能な有用なワクチンを開発するには、これらのあらゆる構成及び条件について詳細に試験し、実証することが極めて重要である。
【0005】
【特許文献1】特表2005−519123号公報
【特許文献2】特表2005−522195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、組換え細菌を利用して、実用化可能な有用なワクチンを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、納豆菌の特定コートタンパク質遺伝子と外来抗原遺伝子を利用した新しい納豆菌ワクチンを開発することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、納豆菌(胞子)の特定のコートタンパク質に外来抗原を融合させた経口投与可能な新しい納豆菌ワクチンを提供することを目的するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に、抗原タンパク質の遺伝子又は抗原ペプチドをコードするDNAの塩基配列の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン。
(2)抗原タンパク質が、サルモネラ菌(Salmonella enterica serovar Enteritidis)由来の鞭毛タンパク質FliCである、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(3)セリンプロテアーゼ(AprE)又は中性プロテアーゼ(NprE)の欠損株、あるいはその両方の欠損株である納豆菌を宿主として使用した、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(4)納豆菌の胞子表層タンパク質の遺伝子cotと、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質の遺伝子fliCとのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域を挿入して形質転換した組換え納豆菌ワクチンである、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(5)組換え納豆菌が、Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243である、前記(3)又は(4)に記載の納豆菌ワクチン。
(6)納豆菌が、細胞表層にキメラタンパク質が発現する発現時期を指標として培養した納豆菌である、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(7)Difco Sporuration Medium(SD培地)を用いた培養において、OD660=1.5〜4.5の範囲で、胞子表層にキメラタンパク質を発現する、前記(6)に記載の納豆菌ワクチン。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質の発現量が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
(9)キメラタンパク質が、“CotE−抗原タンパク質”である、前記(8)に記載の納豆菌ワクチンの製造方法。
【0008】
本発明は、納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に抗原タンパク質の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とするものである。また、本発明は、上記の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とするものである。
【0009】
次に、本発明の納豆菌ワクチンの製法について説明する。本発明では、アンカータンパク質として、納豆菌(胞子)のコートタンパク質CotEを使用し、抗原タンパク質として、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質(FliC)を使用して発現系を構築した。具体的には、納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子(cotE)とサルモネラ菌の鞭毛タンパク質の遺伝子(fliC)とのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域(cotE−fliC)を、納豆菌のゲノム上のamyE遺伝子座に挿入し、キメラタンパク質CotE−FliCを発現する組換え納豆菌(TTCC G4)を作製した。
【0010】
キメラタンパク質の発現解析は、SD培地で24時間培養した胞子を集菌し、洗浄して精製胞子とし、これをローディング・バッファー(SDS+2−MeSH)に懸濁して胞子タンパク質を抽出後、抗FliC抗血清を1次抗体としたウエスタン解析によって行った。また、胞子表層のキメラタンパク質の検出は、精製胞子を使用し、抗FliC抗血清による1次処理の後に蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡観察及びFACS解析により行った。
【0011】
組換え納豆菌の評価は、胞子タンパク質のウエスタン解析によるFliCタンパク質の発現の評価、蛍光顕微鏡観察とFACS解析による胞子表層のFliCタンパク質の検出により行った。アンカータンパク質の発現時期について検討した結果、キメラタンパク質(CotE−FliC)は、SD培地での培養ではOD660=1.5〜4.5の範囲内で、胞子表層に提示されることが分かった。
【0012】
次に、動物試験について説明する。まず、本発明の納豆菌ワクチン等の試料を投与したマウスの脾臓を抽出し、細胞を分離し、刺激成分concanavalin A(ConA)と共に培養し、45時間後にIFN−γ産生量を評価した。投与群は、1)ブランク(PBS)投与群、2)FliCタンパク投与群(50μg/head)、3)非組換え納豆菌(Wild Type;TTCC 218株)投与群(1010cfu/head)、4)TTCC G4投与群(109cfu/head)、5)TTCC G4投与群(1010cfu/head)とした。
【0013】
次に、マウス脾細胞をConAにより刺激した時のIFN−γ産生量を調べた。その結果、TTCC G4(1010cfu/head)を投与した群では、PBS投与群やWild Type投与群に比べ有意に高い値を示し、TTCC G4(109cfu/head)を投与した群ではWild Type投与群に比べ有意に高い値を示した。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、実用化可能な有用な納豆菌ワクチンを提供することができる。
(2)アンカータンパク質として、細胞(胞子)表層に存在するコートタンパク質CotEを用いること及び細菌の培養時間を因子として抗原タンパク質を表層提示させることにより、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高め、従来法の胞子ワクチンと比べて高い発現量で抗原タンパク質を発現させることが可能となる。
(3)生体内で生存し、IFN−γを誘導する納豆菌(胞子)ワクチンを提供することができる。
(4)納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供することができる。
(5)納豆菌ワクチンの基本技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(宿主となる納豆菌の作製)
納豆菌は、TTCC 218株を使用した。TTCC 218株を形質転換し、セリンプロテアーゼ(AprE)と中性プロテアーゼ(NprE)を生産しない組換え納豆菌株(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)を作製した。この株を宿主として、次項に示すような性質を付与した。
【0017】
(胞子表層提示型の納豆菌ワクチンを目指したアンカータンパク質の探索)
TTCC 218株を使用し、胞子のコートタンパク質のうち転写レベルが高いものを探索した。納豆菌をLB培地にて37℃でstationary−phase前期まで培養し、菌体を回収・破砕してRNAを抽出した。このRNAを用いDNAマイクロアレイ解析を行った。尚、この解析には納豆菌の近縁種である枯草菌のGeneChip(Affimetrix)を使用した。
【0018】
(納豆菌ワクチンの作製)
納豆菌の胞子コートタンパク質(Cot)と、サルモネラ菌の鞭毛タンパク質(FliC)とのキメラタンパク質(Cot−FliC)を発現する組換え納豆菌をデザインした。cot遺伝子の下流にfliC遺伝子を連結してキメラ遺伝子(cot−fliC)を作製し、これとクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)を合わせた遺伝子領域を、相同組換えにより宿主納豆菌(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)のゲノムのamyE遺伝子領域に挿入した。
【0019】
尚、胞子のコートタンパク質には、マイクロアレイ解析で発現が高かったCotA及びCotEを選択し、CotA−FliC株を発現する組換え納豆菌(TTCC G5)及びCotE−FliC株を発現する組換え納豆菌(TTCC G4)(図1)をそれぞれ作製した。
【0020】
(キメラ遺伝子のシークエンス解析)
TTCC G4のキメラ遺伝子領域の塩基配列をDNAシークエンサー ABI 310A(Applied Biosystems)により決定した。
【0021】
(キメラ遺伝子の発現解析)
TTCC G4及びTTCC G5をDifco Sporuration mediumで培養し、log−phaseからstationary−phaseにかけて集菌した。集菌したサンプルからRNAを抽出し、High capacity cDNA Archve kitにより逆転写を行った。逆転写により得られたcDNAについて、キメラ遺伝子cot−fliCの連結部分をターゲットにしたリアルタイムPCRを、7300 Real Time PCR System(Applied Biosystems)により行った。
【0022】
(胞子タンパク質の抽出)
一方で、前項と同様の操作で集菌したTTCC G4及びTTCC G5をリゾチーム処理して栄養細胞を溶解し、洗浄により除去して精製胞子を得た。精製胞子をLoading buffer(62.5mM Tris−HCl pH6.8, 4%SDS, 10% Mercapto ethanol,10% Glycerol)に懸濁し、95℃、5minの熱処理の後にShake Master ver 1.2(Bio medical science)により破砕して胞子タンパク質を抽出した。
【0023】
(キメラタンパク質の発現解析)
前項の操作により、108cfuの胞子から出した胞子タンパク質を12.5%のポリアクリドアミドゲルを用いたSDS−PAGEにより泳動した後、PVDF膜に転写し、1次抗体にウサギ由来の抗FliC抗血清、2次抗体に抗ウサギIgG抗体、検出にECL Western Blotting Detection System(GEヘルスケア)を使用してウエスタン解析を行った。一方で、前項の精製胞子をウサギ由来の抗FliC抗血清で1次抗体処理した後、Alexa488を結合した抗ウサギIgG抗体(モレキュラープローブ)で2次処理して蛍光染色した。蛍光染色した精製胞子の評価は、オールインワンBIOZERO(キーエンス)による蛍光顕微鏡観察及びFACS calibur(Becton Dickinson)によるFACS解析により行った。
【0024】
(動物試験による納豆菌ワクチンの評価)
試験動物には8週齢のC3H/HeJ雌マウス(日本エスエルシー)を用い、固形飼料及び飲料水は自由に摂取させた。投与サンプルは、1)ブランク(PBS)投与群、2)FliCタンパク投与群(50μg/head)、3)非組換え納豆菌(Wild Type;TTCC 218株)投与群(1010cfu/head)、4)TTCC G4投与群(109cfu/head)、5)TTCC G4投与群(1010cfu/head)とした。尚、3)4)5)は、SD培地で37℃、15時間の培養し、集菌後、リゾチーム処理を行い、−80℃で凍結保存したものを解凍後に用いた。
【0025】
上記の動物試験において、サンプルの投与は、1、2、3、22、23、24、44、45、46日目(合計9回、投与開始日を1日目とする)に行い、0.2ml/dayの胃内投与を行った。投与日(46日目)から1、3、6日後にマウスから糞便を採取し、PBSで懸濁した後に熱処理(70℃、20min)し、希釈液をLBプレート(クロラムフェニコール 5μg/mlを含む)に撒いて、48時間後のコロニー数を測定した。
【0026】
上記の動物試験において、投与開始後56日目又は57日目にマウスから脾臓を摘出し、10% FBS、100units/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン(インビトロジェン)を含むRPMI1640で細胞数を2×105/wellに調整して96wellプレートに分注し、Con A(Wako)を10μg/mlになるように添加して培養した。培養後の細胞上清に含まれるIFN−γをBIO Opt EIATM Mouse IFN−γ ELISA Set(BD−Bioscience)を用いて測定した。統計学的処理方法としてMann−Whitney U−testを用いた。
【0027】
(アンカータンパク質の発現解析結果)
DNAマイクロアレイ解析の結果において、納豆菌の主要な胞子コートタンパク質では遺伝子の発現量に差が見られた(図2)。特に、cotBと比較して、cotA、cotE、cotGは100倍程度の高発現を示した。このうち、CotA及びCotEをアンカータンパク質として選択し、納豆菌ワクチンの創出を行った。
【0028】
(宿主となる納豆菌の性質)
宿主として作製した組換え納豆菌株(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)では、カゼインプレート上のコロニーにおいて、カゼインタンパク質の分解に起因するハロー形成を示さなかった(図3)。一方で、AprEあるいはNprEのいずれか1つのプロテアーゼ遺伝子を欠損させた納豆菌(それぞれΔaprE::spcR、ΔnprE::neoR)はハローを形成した。
【0029】
(キメラ遺伝子のシークエンス解析の結果)
TTCC G4のキメラ遺伝子領域について、塩基配列をシークエンス解析した。結果として、キメラ遺伝子の全領域について正確な塩基配列が確認できた。
【0030】
(TTCC G4の培養結果)
TTCC G4をSD培地で培養し培養開始から6、7、11、15、19時間後のOD660の経時変化を調べた結果、11時間後に1.92であったOD660の値は、19時間後には4.54に達した(図4)。
【0031】
(キメラ遺伝子の発現解析結果)
TTCC G4及びTTCC G5をSD培地で培養し、培養開始から7、11、15、19時間後に菌体からRNA抽出を行い、これを逆転写して得られたcDNAを用いてリアルタイムPCRを行った。その結果、TTCC G4のキメラ遺伝子cotE−fliCとTTCC G5のキメラ遺伝子cotA−fliCの発現は、いずれも培養から11時間後にピークを示した(図5)。
【0032】
(キメラタンパク質の発現解析結果)
精製胞子からタンパク質を抽出し、ウエスタン解析によりFliCタンパク質の発現を確認した。TTCC G4とTTCC G5のそれぞれについて、キメラタンパク質のサイズに相当するバンドが確認できた(図6)。TTCC G4については、培養11時間後、15時間後、19時間後、23時間後についていずれもキメラタンパク質に相当するバンドが検出できた。
【0033】
ウエスタン解析において、FliCタンパク質に相当するバンドの検出値(バンドの大きさ×密度)を算出した。その結果、培養15時間後のTTCC G4では1×1010cfuの胞子あたり12.5μgのFliCタンパク質に相当するキメラタンパク質が発現していることが示唆された。
【0034】
精製胞子の蛍光顕微鏡観察では、Wild TypeとTTCC G5にはキメラタンパク質の存在を示す蛍光が見られなかったが、TTCC G4で明確な蛍光が見られた(図7)。更に、精製胞子のFACS解析では、TTCC G4はWild Typeに比べて明らかに強い蛍光強度に粒子数のピークを示し、FliCタンパク質が胞子表層に提示されていることが示唆された(図8)。
【0035】
精製胞子のFACS解析における粒子数のピーク値は培養開始から15時間後程度で最も強い蛍光強度を示し、その前後では蛍光強度が弱かった(図9)。尚、TTCC G4を培養から15時間後に集菌した精製胞子について、これを凍結保存(−80℃)した場合の影響を調べたが、FACS解析において大きな差異は見られなかった。
【0036】
(動物試験による納豆菌ワクチンの評価の結果)
TTCC G4を3連続日でマウスに経口投与した後、マウスの糞便中からはクロラムフェニコールに耐性を示す耐熱性のコロニーがみられ、PBS、FliCタンパク質、Wild Typeを投与したマウスの糞便からはこのようなコロニーは検出されなかった。また、TTCC G4を1010cfu/head投与したマウスでは投与日から6日後まで、109cfu/headの投与群では、投与日から3日後まで104cfu/feces以上のTTCC G4が糞便中に排泄された(図10)。
【0037】
各投与群のマウスから脾細胞を調製し、Con A刺激により産生されるIFN−γ量を比較したところ、TTCC G4(1010cfu/head)を投与した群では、PBS投与群やWild Type投与群に比べ有意に高い値を示し、TTCC G4(109cfu/head)を投与した群ではWild Type投与群に比べ有意に高い値を示した(図11)。投与動物の免疫応答を引き起こすためのコントロールである、FliCタンパク質50μg/headの投与群と比較した場合にも、TTCC G4の投与群のIFN−γ産生値はより高かった。ウエスタン解析によって、1010cfuのTTCC G4 は12.5μgのFliCタンパク質に相当するキメラタンパク質を発現していることが示唆されている。動物試験においてTTCC G4は、投与しているFliC相当量以上の効果を示していることが考えられ、抗原運搬体としての納豆菌のアドバンテージが期待できる。
【0038】
作製した組換え納豆菌の株、TTCC G4及びTTCC G5を微生物寄託機関に寄託した。受領機関名:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受領日:平成19年3月8日、微生物:Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243、Bacillus subtilis TTCC G5;FERM AP−21244。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳述したように、本発明は、納豆菌ワクチンに係るものであり、本発明により、実用化可能な有用な納豆菌ワクチンを提供することができる。本発明では、アンカータンパク質として、細胞(胞子)表層に存在するコートタンパク質CotEを用いることにより、細胞表層に抗原タンパク質を表層提示させて、従来法の胞子ワクチンと比べて高い発現量で抗原タンパク質を発現させることを可能とした。本発明は、納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】TTCC G4におけるamyE遺伝子座の概略図を示す。
【図2】納豆菌の主要な胞子コートタンパク質の発現を示す。
【図3】カゼインプレート上で宿主納豆菌が示すプロテアーゼ活性を示す。
【図4】SD培地中におけるTTCC G4の生育曲線を示す。
【図5】ウエスタン解析による、キメラ遺伝子cot−fliCの発現解析結果を示す。
【図6】キメラタンパク質Cot−FliCタンパク質の発現を示す。
【図7】蛍光顕微鏡による、胞子表層のFliCタンパク質の検出結果を示す。
【図8】FACS解析による、胞子表層のFliCタンパク質の検出結果を示す。
【図9】TTCC G4の培養時間が胞子表層のFliCタンパク質の発現に与える影響を示す。
【図10】TTCC G4を胃内投与したマウスの糞便中に含まれるTTCC G4の菌数を示す。
【図11】ConA刺激による脾細胞のIFN−γ産生量を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫機能調節を目的とした納豆菌のワクチンとしての利用技術に関するものであり、更に詳しくは、納豆菌(胞子)の細胞表層に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを高発現量で発現させた納豆菌ワクチンに関するものである。本発明は、納豆菌の細胞表層に発現させた抗原タンパク質又は抗原ペプチドのワクチン効果を利用した新しい納豆菌ワクチンを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、先行技術として、例えば、外来の抗原等の遺伝暗号により遺伝子改変されたバシラス属又はクロストリジウム属細菌の胞子及び該胞子をワクチンとして投与する方法が提案されている(特許文献1)。また、抗原及び胞子コートタンパク質をキメラ遺伝子としてコードする一つ以上の遺伝子構築物を含む遺伝暗号により遺伝子改変された胞子をワクチンとして投与する方法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
このように、細菌(胞子)に外来の抗原遺伝子を導入して遺伝子改変された細胞(胞子)を経口ワクチンとして投与する方法は組換え細菌を利用した新しい手法として公知である。一方、現状のワクチンは、注射により投与する形態が多く、熟練者による投与が必要である。また、ワクチンを必要とする発展途上国においては、注射針の再使用による2次感染のリスクが懸念されており、ワクチンの冷蔵・冷凍保管にかかる経済的な負担も問題である。本発明において提案する納豆菌ワクチンは、日本人が食経験をもつ納豆菌を宿主とし、組換え操作により抗原タンパク質を発現する性質を付与した経口ワクチンである。経口ワクチンは粘膜経路を介する感染症の予防に特に効果的であると考えられ、また、納豆菌はその培養が比較的容易な好気性の細菌であり、その胞子は栄養源の枯渇や乾燥に耐性を示すことから、保管及び輸送にも適している。
【0004】
上述の遺伝子改変された胞子をワクチンとして投与する方法では、先行文献には、抗原と融合し発現させるタンパク質(アンカータンパク質)として種々の胞子コートタンパク質が開示されているが、具体的に実施されているのは胞子コートタンパク質CotBであり、また、抗原タンパク質として具体的に開示されているのはTTFC(破傷風抗原タンパク質)である。しかし、実際に実用化可能な有用なワクチンを開発するには、例えば、アンカータンパク質の条件として、1)細胞表層に存在すること、2)発現量が高いこと、が理想的であり、これらの条件は、使用する宿主の種類、胞子コートタンパク質の種類、抗原タンパク質等のコンストラクトによって、大きく異なるものであることが知られている。したがって、実用化可能な有用なワクチンを開発するには、これらのあらゆる構成及び条件について詳細に試験し、実証することが極めて重要である。
【0005】
【特許文献1】特表2005−519123号公報
【特許文献2】特表2005−522195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、組換え細菌を利用して、実用化可能な有用なワクチンを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、納豆菌の特定コートタンパク質遺伝子と外来抗原遺伝子を利用した新しい納豆菌ワクチンを開発することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、納豆菌(胞子)の特定のコートタンパク質に外来抗原を融合させた経口投与可能な新しい納豆菌ワクチンを提供することを目的するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に、抗原タンパク質の遺伝子又は抗原ペプチドをコードするDNAの塩基配列の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン。
(2)抗原タンパク質が、サルモネラ菌(Salmonella enterica serovar Enteritidis)由来の鞭毛タンパク質FliCである、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(3)セリンプロテアーゼ(AprE)又は中性プロテアーゼ(NprE)の欠損株、あるいはその両方の欠損株である納豆菌を宿主として使用した、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(4)納豆菌の胞子表層タンパク質の遺伝子cotと、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質の遺伝子fliCとのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域を挿入して形質転換した組換え納豆菌ワクチンである、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(5)組換え納豆菌が、Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243である、前記(3)又は(4)に記載の納豆菌ワクチン。
(6)納豆菌が、細胞表層にキメラタンパク質が発現する発現時期を指標として培養した納豆菌である、前記(1)に記載の納豆菌ワクチン。
(7)Difco Sporuration Medium(SD培地)を用いた培養において、OD660=1.5〜4.5の範囲で、胞子表層にキメラタンパク質を発現する、前記(6)に記載の納豆菌ワクチン。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質の発現量が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
(9)キメラタンパク質が、“CotE−抗原タンパク質”である、前記(8)に記載の納豆菌ワクチンの製造方法。
【0008】
本発明は、納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に抗原タンパク質の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とするものである。また、本発明は、上記の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とするものである。
【0009】
次に、本発明の納豆菌ワクチンの製法について説明する。本発明では、アンカータンパク質として、納豆菌(胞子)のコートタンパク質CotEを使用し、抗原タンパク質として、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質(FliC)を使用して発現系を構築した。具体的には、納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子(cotE)とサルモネラ菌の鞭毛タンパク質の遺伝子(fliC)とのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域(cotE−fliC)を、納豆菌のゲノム上のamyE遺伝子座に挿入し、キメラタンパク質CotE−FliCを発現する組換え納豆菌(TTCC G4)を作製した。
【0010】
キメラタンパク質の発現解析は、SD培地で24時間培養した胞子を集菌し、洗浄して精製胞子とし、これをローディング・バッファー(SDS+2−MeSH)に懸濁して胞子タンパク質を抽出後、抗FliC抗血清を1次抗体としたウエスタン解析によって行った。また、胞子表層のキメラタンパク質の検出は、精製胞子を使用し、抗FliC抗血清による1次処理の後に蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡観察及びFACS解析により行った。
【0011】
組換え納豆菌の評価は、胞子タンパク質のウエスタン解析によるFliCタンパク質の発現の評価、蛍光顕微鏡観察とFACS解析による胞子表層のFliCタンパク質の検出により行った。アンカータンパク質の発現時期について検討した結果、キメラタンパク質(CotE−FliC)は、SD培地での培養ではOD660=1.5〜4.5の範囲内で、胞子表層に提示されることが分かった。
【0012】
次に、動物試験について説明する。まず、本発明の納豆菌ワクチン等の試料を投与したマウスの脾臓を抽出し、細胞を分離し、刺激成分concanavalin A(ConA)と共に培養し、45時間後にIFN−γ産生量を評価した。投与群は、1)ブランク(PBS)投与群、2)FliCタンパク投与群(50μg/head)、3)非組換え納豆菌(Wild Type;TTCC 218株)投与群(1010cfu/head)、4)TTCC G4投与群(109cfu/head)、5)TTCC G4投与群(1010cfu/head)とした。
【0013】
次に、マウス脾細胞をConAにより刺激した時のIFN−γ産生量を調べた。その結果、TTCC G4(1010cfu/head)を投与した群では、PBS投与群やWild Type投与群に比べ有意に高い値を示し、TTCC G4(109cfu/head)を投与した群ではWild Type投与群に比べ有意に高い値を示した。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、実用化可能な有用な納豆菌ワクチンを提供することができる。
(2)アンカータンパク質として、細胞(胞子)表層に存在するコートタンパク質CotEを用いること及び細菌の培養時間を因子として抗原タンパク質を表層提示させることにより、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高め、従来法の胞子ワクチンと比べて高い発現量で抗原タンパク質を発現させることが可能となる。
(3)生体内で生存し、IFN−γを誘導する納豆菌(胞子)ワクチンを提供することができる。
(4)納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供することができる。
(5)納豆菌ワクチンの基本技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(宿主となる納豆菌の作製)
納豆菌は、TTCC 218株を使用した。TTCC 218株を形質転換し、セリンプロテアーゼ(AprE)と中性プロテアーゼ(NprE)を生産しない組換え納豆菌株(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)を作製した。この株を宿主として、次項に示すような性質を付与した。
【0017】
(胞子表層提示型の納豆菌ワクチンを目指したアンカータンパク質の探索)
TTCC 218株を使用し、胞子のコートタンパク質のうち転写レベルが高いものを探索した。納豆菌をLB培地にて37℃でstationary−phase前期まで培養し、菌体を回収・破砕してRNAを抽出した。このRNAを用いDNAマイクロアレイ解析を行った。尚、この解析には納豆菌の近縁種である枯草菌のGeneChip(Affimetrix)を使用した。
【0018】
(納豆菌ワクチンの作製)
納豆菌の胞子コートタンパク質(Cot)と、サルモネラ菌の鞭毛タンパク質(FliC)とのキメラタンパク質(Cot−FliC)を発現する組換え納豆菌をデザインした。cot遺伝子の下流にfliC遺伝子を連結してキメラ遺伝子(cot−fliC)を作製し、これとクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)を合わせた遺伝子領域を、相同組換えにより宿主納豆菌(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)のゲノムのamyE遺伝子領域に挿入した。
【0019】
尚、胞子のコートタンパク質には、マイクロアレイ解析で発現が高かったCotA及びCotEを選択し、CotA−FliC株を発現する組換え納豆菌(TTCC G5)及びCotE−FliC株を発現する組換え納豆菌(TTCC G4)(図1)をそれぞれ作製した。
【0020】
(キメラ遺伝子のシークエンス解析)
TTCC G4のキメラ遺伝子領域の塩基配列をDNAシークエンサー ABI 310A(Applied Biosystems)により決定した。
【0021】
(キメラ遺伝子の発現解析)
TTCC G4及びTTCC G5をDifco Sporuration mediumで培養し、log−phaseからstationary−phaseにかけて集菌した。集菌したサンプルからRNAを抽出し、High capacity cDNA Archve kitにより逆転写を行った。逆転写により得られたcDNAについて、キメラ遺伝子cot−fliCの連結部分をターゲットにしたリアルタイムPCRを、7300 Real Time PCR System(Applied Biosystems)により行った。
【0022】
(胞子タンパク質の抽出)
一方で、前項と同様の操作で集菌したTTCC G4及びTTCC G5をリゾチーム処理して栄養細胞を溶解し、洗浄により除去して精製胞子を得た。精製胞子をLoading buffer(62.5mM Tris−HCl pH6.8, 4%SDS, 10% Mercapto ethanol,10% Glycerol)に懸濁し、95℃、5minの熱処理の後にShake Master ver 1.2(Bio medical science)により破砕して胞子タンパク質を抽出した。
【0023】
(キメラタンパク質の発現解析)
前項の操作により、108cfuの胞子から出した胞子タンパク質を12.5%のポリアクリドアミドゲルを用いたSDS−PAGEにより泳動した後、PVDF膜に転写し、1次抗体にウサギ由来の抗FliC抗血清、2次抗体に抗ウサギIgG抗体、検出にECL Western Blotting Detection System(GEヘルスケア)を使用してウエスタン解析を行った。一方で、前項の精製胞子をウサギ由来の抗FliC抗血清で1次抗体処理した後、Alexa488を結合した抗ウサギIgG抗体(モレキュラープローブ)で2次処理して蛍光染色した。蛍光染色した精製胞子の評価は、オールインワンBIOZERO(キーエンス)による蛍光顕微鏡観察及びFACS calibur(Becton Dickinson)によるFACS解析により行った。
【0024】
(動物試験による納豆菌ワクチンの評価)
試験動物には8週齢のC3H/HeJ雌マウス(日本エスエルシー)を用い、固形飼料及び飲料水は自由に摂取させた。投与サンプルは、1)ブランク(PBS)投与群、2)FliCタンパク投与群(50μg/head)、3)非組換え納豆菌(Wild Type;TTCC 218株)投与群(1010cfu/head)、4)TTCC G4投与群(109cfu/head)、5)TTCC G4投与群(1010cfu/head)とした。尚、3)4)5)は、SD培地で37℃、15時間の培養し、集菌後、リゾチーム処理を行い、−80℃で凍結保存したものを解凍後に用いた。
【0025】
上記の動物試験において、サンプルの投与は、1、2、3、22、23、24、44、45、46日目(合計9回、投与開始日を1日目とする)に行い、0.2ml/dayの胃内投与を行った。投与日(46日目)から1、3、6日後にマウスから糞便を採取し、PBSで懸濁した後に熱処理(70℃、20min)し、希釈液をLBプレート(クロラムフェニコール 5μg/mlを含む)に撒いて、48時間後のコロニー数を測定した。
【0026】
上記の動物試験において、投与開始後56日目又は57日目にマウスから脾臓を摘出し、10% FBS、100units/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン(インビトロジェン)を含むRPMI1640で細胞数を2×105/wellに調整して96wellプレートに分注し、Con A(Wako)を10μg/mlになるように添加して培養した。培養後の細胞上清に含まれるIFN−γをBIO Opt EIATM Mouse IFN−γ ELISA Set(BD−Bioscience)を用いて測定した。統計学的処理方法としてMann−Whitney U−testを用いた。
【0027】
(アンカータンパク質の発現解析結果)
DNAマイクロアレイ解析の結果において、納豆菌の主要な胞子コートタンパク質では遺伝子の発現量に差が見られた(図2)。特に、cotBと比較して、cotA、cotE、cotGは100倍程度の高発現を示した。このうち、CotA及びCotEをアンカータンパク質として選択し、納豆菌ワクチンの創出を行った。
【0028】
(宿主となる納豆菌の性質)
宿主として作製した組換え納豆菌株(ΔaprE::spcR×ΔnprE::neoR)では、カゼインプレート上のコロニーにおいて、カゼインタンパク質の分解に起因するハロー形成を示さなかった(図3)。一方で、AprEあるいはNprEのいずれか1つのプロテアーゼ遺伝子を欠損させた納豆菌(それぞれΔaprE::spcR、ΔnprE::neoR)はハローを形成した。
【0029】
(キメラ遺伝子のシークエンス解析の結果)
TTCC G4のキメラ遺伝子領域について、塩基配列をシークエンス解析した。結果として、キメラ遺伝子の全領域について正確な塩基配列が確認できた。
【0030】
(TTCC G4の培養結果)
TTCC G4をSD培地で培養し培養開始から6、7、11、15、19時間後のOD660の経時変化を調べた結果、11時間後に1.92であったOD660の値は、19時間後には4.54に達した(図4)。
【0031】
(キメラ遺伝子の発現解析結果)
TTCC G4及びTTCC G5をSD培地で培養し、培養開始から7、11、15、19時間後に菌体からRNA抽出を行い、これを逆転写して得られたcDNAを用いてリアルタイムPCRを行った。その結果、TTCC G4のキメラ遺伝子cotE−fliCとTTCC G5のキメラ遺伝子cotA−fliCの発現は、いずれも培養から11時間後にピークを示した(図5)。
【0032】
(キメラタンパク質の発現解析結果)
精製胞子からタンパク質を抽出し、ウエスタン解析によりFliCタンパク質の発現を確認した。TTCC G4とTTCC G5のそれぞれについて、キメラタンパク質のサイズに相当するバンドが確認できた(図6)。TTCC G4については、培養11時間後、15時間後、19時間後、23時間後についていずれもキメラタンパク質に相当するバンドが検出できた。
【0033】
ウエスタン解析において、FliCタンパク質に相当するバンドの検出値(バンドの大きさ×密度)を算出した。その結果、培養15時間後のTTCC G4では1×1010cfuの胞子あたり12.5μgのFliCタンパク質に相当するキメラタンパク質が発現していることが示唆された。
【0034】
精製胞子の蛍光顕微鏡観察では、Wild TypeとTTCC G5にはキメラタンパク質の存在を示す蛍光が見られなかったが、TTCC G4で明確な蛍光が見られた(図7)。更に、精製胞子のFACS解析では、TTCC G4はWild Typeに比べて明らかに強い蛍光強度に粒子数のピークを示し、FliCタンパク質が胞子表層に提示されていることが示唆された(図8)。
【0035】
精製胞子のFACS解析における粒子数のピーク値は培養開始から15時間後程度で最も強い蛍光強度を示し、その前後では蛍光強度が弱かった(図9)。尚、TTCC G4を培養から15時間後に集菌した精製胞子について、これを凍結保存(−80℃)した場合の影響を調べたが、FACS解析において大きな差異は見られなかった。
【0036】
(動物試験による納豆菌ワクチンの評価の結果)
TTCC G4を3連続日でマウスに経口投与した後、マウスの糞便中からはクロラムフェニコールに耐性を示す耐熱性のコロニーがみられ、PBS、FliCタンパク質、Wild Typeを投与したマウスの糞便からはこのようなコロニーは検出されなかった。また、TTCC G4を1010cfu/head投与したマウスでは投与日から6日後まで、109cfu/headの投与群では、投与日から3日後まで104cfu/feces以上のTTCC G4が糞便中に排泄された(図10)。
【0037】
各投与群のマウスから脾細胞を調製し、Con A刺激により産生されるIFN−γ量を比較したところ、TTCC G4(1010cfu/head)を投与した群では、PBS投与群やWild Type投与群に比べ有意に高い値を示し、TTCC G4(109cfu/head)を投与した群ではWild Type投与群に比べ有意に高い値を示した(図11)。投与動物の免疫応答を引き起こすためのコントロールである、FliCタンパク質50μg/headの投与群と比較した場合にも、TTCC G4の投与群のIFN−γ産生値はより高かった。ウエスタン解析によって、1010cfuのTTCC G4 は12.5μgのFliCタンパク質に相当するキメラタンパク質を発現していることが示唆されている。動物試験においてTTCC G4は、投与しているFliC相当量以上の効果を示していることが考えられ、抗原運搬体としての納豆菌のアドバンテージが期待できる。
【0038】
作製した組換え納豆菌の株、TTCC G4及びTTCC G5を微生物寄託機関に寄託した。受領機関名:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受領日:平成19年3月8日、微生物:Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243、Bacillus subtilis TTCC G5;FERM AP−21244。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳述したように、本発明は、納豆菌ワクチンに係るものであり、本発明により、実用化可能な有用な納豆菌ワクチンを提供することができる。本発明では、アンカータンパク質として、細胞(胞子)表層に存在するコートタンパク質CotEを用いることにより、細胞表層に抗原タンパク質を表層提示させて、従来法の胞子ワクチンと比べて高い発現量で抗原タンパク質を発現させることを可能とした。本発明は、納豆菌を利用した「食べるワクチン」を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】TTCC G4におけるamyE遺伝子座の概略図を示す。
【図2】納豆菌の主要な胞子コートタンパク質の発現を示す。
【図3】カゼインプレート上で宿主納豆菌が示すプロテアーゼ活性を示す。
【図4】SD培地中におけるTTCC G4の生育曲線を示す。
【図5】ウエスタン解析による、キメラ遺伝子cot−fliCの発現解析結果を示す。
【図6】キメラタンパク質Cot−FliCタンパク質の発現を示す。
【図7】蛍光顕微鏡による、胞子表層のFliCタンパク質の検出結果を示す。
【図8】FACS解析による、胞子表層のFliCタンパク質の検出結果を示す。
【図9】TTCC G4の培養時間が胞子表層のFliCタンパク質の発現に与える影響を示す。
【図10】TTCC G4を胃内投与したマウスの糞便中に含まれるTTCC G4の菌数を示す。
【図11】ConA刺激による脾細胞のIFN−γ産生量を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に、抗原タンパク質の遺伝子又は抗原ペプチドをコードするDNAの塩基配列の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン。
【請求項2】
抗原タンパク質が、サルモネラ菌(Salmonella enterica serovar Enteritidis)由来の鞭毛タンパク質FliCである、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項3】
セリンプロテアーゼ(AprE)又は中性プロテアーゼ(NprE)の欠損株、あるいはその両方の欠損株である納豆菌を宿主として使用した、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項4】
納豆菌の胞子表層タンパク質の遺伝子cotと、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質の遺伝子fliCとのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域を挿入して形質転換した組換え納豆菌ワクチンである、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項5】
組換え納豆菌が、Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243である、請求項3又は請求項4に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項6】
納豆菌が、細胞表層にキメラタンパク質が発現する発現時期を指標として培養した納豆菌である、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項7】
Difco Sporuration Medium(SD培地)を用いた培養において、OD660=1.5〜4.5の範囲で、胞子表層にキメラタンパク質を発現する、請求項6に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質の発現量が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
【請求項9】
キメラタンパク質が、“CotE−抗原タンパク質”である、請求項8に記載の納豆菌ワクチンの製造方法。
【請求項1】
納豆菌の胞子コートタンパク質CotEの遺伝子に、抗原タンパク質の遺伝子又は抗原ペプチドをコードするDNAの塩基配列の遺伝子を連結した遺伝子で形質転換した納豆菌ワクチンであって、該納豆菌の培養時間を因子として、細胞表層における抗原タンパク質の発現量を高めて該タンパク質を表層提示させたことを特徴とする納豆菌ワクチン。
【請求項2】
抗原タンパク質が、サルモネラ菌(Salmonella enterica serovar Enteritidis)由来の鞭毛タンパク質FliCである、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項3】
セリンプロテアーゼ(AprE)又は中性プロテアーゼ(NprE)の欠損株、あるいはその両方の欠損株である納豆菌を宿主として使用した、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項4】
納豆菌の胞子表層タンパク質の遺伝子cotと、サルモネラ菌由来の鞭毛タンパク質の遺伝子fliCとのキメラ遺伝子を含む遺伝子領域を挿入して形質転換した組換え納豆菌ワクチンである、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項5】
組換え納豆菌が、Bacillus subtilis TTCC G4;FERM AP−21243である、請求項3又は請求項4に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項6】
納豆菌が、細胞表層にキメラタンパク質が発現する発現時期を指標として培養した納豆菌である、請求項1に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項7】
Difco Sporuration Medium(SD培地)を用いた培養において、OD660=1.5〜4.5の範囲で、胞子表層にキメラタンパク質を発現する、請求項6に記載の納豆菌ワクチン。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の納豆菌ワクチンを製造する方法であって、キメラタンパク質の発現量が所定のレベルに高まるまで培養することにより、細胞表層に存在する抗原タンパク質の発現量を調整乃至高めた納豆菌ワクチンを作製することを特徴とする納豆菌ワクチンの製造方法。
【請求項9】
キメラタンパク質が、“CotE−抗原タンパク質”である、請求項8に記載の納豆菌ワクチンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−231063(P2008−231063A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75677(P2007−75677)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000108616)タカノフーズ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000108616)タカノフーズ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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