説明

紙コースター素材

【課題】 クッション性、吸水性を保ったままで、表面強度が強く、オフセット印刷適性を有する紙コースター素材が得られるようにする。
【解決手段】 少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法による紙粉発生量(JIS L1096 8.17.3準拠)が50〜300mgの範囲となるように構成し、コースターとして要求されるクッション性、吸水性が確保されるとともに、表面強度が向上し、オフセット印刷時に紙剥けなどの紙層破壊が発生しにくくなる(オフセット印刷適性に優れたものとなる)ようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、紙コースター素材に関し、さらに詳しくは表面強度が改善され、オフセット印刷時の紙粉・ピッキングが発生しない紙コースター素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多層抄き合わせ板紙からなる紙コースター素材は、抄紙機で原紙抄造後、貼合加工、印刷、抜き加工を行い、飲食店等に納入されることとなっている。
【0003】
従来は、紙コースター素材への印刷は、単色、活版印刷がほとんどであったが、飲食店業界の多様化により、紙コースターにもオリジナリティが求められるようになってきており、カラフルな多色、カラーオフセット印刷化が進んでいる。
【0004】
紙コースターには、グラスを置いた時のクッション性、グラス表面の露(即ち、水滴)の吸水性が求められるため、原料パルプスラリーのフリーネスを450〜650mlCSF(カナダ標準ろ水度)に調整し、素材の密度が0.55〜0.75g/cm3となるようにしている。素材の密度が0.75g/cm3を超えてしまうと紙が硬くなり、クッション性、吸水性が低下し、また加工工程において素材表面にシワが発生するため、紙コースター素材として適さないものとなる。
【0005】
なお、紙コースター素材についての公知特許文献を調査したが、そのような特許文献を見いだすことができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、原料パルプスラリーのフリーネスを450〜650mlCSF(カナダ標準ろ水度)に調整し、且つ密度が0.55〜0.75g/cm3となるように調整すると、パルプ繊維の絡みが少なくなり、表面強度が低下してしまう。表面強度が低下すると、オフセット印刷時に紙粉が発生し、ベタ印刷時の白抜け、ピッキングの原因となる。
【0007】
上記のような事情から、クッション性、吸水性を保ったままで、表面強度が強く、オフセット印刷適性を有する紙コースター素材の開発が希求されている。
【0008】
本発明者らは、上記した事情に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層がそれぞれ木材パルプを主原料としたものにおいて、密度および実米坪を所定範囲とし、テーパ摩耗試験法(JIS L1096 8.17.3準拠)による紙粉発生量を所定の範囲とすることにより、所望の紙コースター素材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本願発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、クッション性、吸水性を保ったままで、表面強度が強く、オフセット印刷適性を有する紙コースター素材が得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の紙コースター素材は、少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法(JIS L1096 8.17.3準拠)による紙粉発生量が50〜300mgの範囲であることを特徴としている。
【0011】
上記のように構成したことにより、コースターとして要求されるクッション性、吸水性が確保されるとともに、表面強度が向上し、オフセット印刷時に紙剥けなどの紙層破壊が発生しにくい(オフセット印刷適性に優れた)紙コースター素材が得られる。なお、密度が0.55g/cm3未満になると、紙が軟らかくなりすぎ、グラスの安定性が悪くなる。0.75g/cm3を超えると、紙が硬くなりすぎて、クッション性が低下する。また、実米坪が250g/m2未満になると、クッション性を得るための紙厚が得られなくなる。650g/m2を超えると、コースターとしては厚過ぎ、経済的でない。また、紙粉発生量が50mg未満となると、表面強度が強くなりすぎ、吸水性が低下し、300mgを超えると、オフセット印刷時の紙粉の発生量が多くなる。
【0012】
本願発明の紙コースター素材において、表面層および/または裏面層に水溶性高分子を塗布することもでき、そのようにした場合、表面強度がより一層向上することとなる。
【0013】
また、本願発明の紙コースター素材において、コッブ法による30秒コッブ度(JIS P 8140準拠)が50〜900g/m2となるように調整することもでき、そのようにした場合、水溶性高分子を素材表面に歩留まらせることができ、吸水性を確保することができる。なお、30秒コッブ値(JIS P 8140準拠)が50g/m2未満になると、素材の吸水性が低下するため、グラスとコースターとがくっついてしまうという問題が生ずる。900g/m2を超えると、オフセット印刷時の湿し水によって素材自体に水分が吸収されオフセット印刷が不可能となってしまう。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の紙コースター素材によれば、少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法による紙粉発生量(JIS L1096 8.17.3準拠)が50〜300mgの範囲となるように構成したので、コースターとして要求されるクッション性、吸水性が確保されるとともに、表面強度が向上し、オフセット印刷時に紙剥けなどの紙層破壊が発生しにくくなる(オフセット印刷適性に優れたものとなる)という効果がある。
【0015】
本願発明の紙コースター素材において、表面層および/または裏面層に水溶性高分子を塗布することもでき、そのようにした場合、表面強度がより一層向上することとなる。
【0016】
また、本願発明の紙コースター素材において、コッブ法による30秒コッブ値(JIS P 8140準拠)が50〜900g/m2となるように調整することもでき、そのようにした場合、水溶性高分子を素材表面に歩留まらせることができ、吸水性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本願発明の好適な実施の形態について説明する。
【0018】
この紙コースター素材は、少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法による紙粉発生量(JIS L1096 8.17.3準拠)が50〜300mgの範囲であることを特徴としている。
【0019】
本願発明において、表面層、裏面層および両層間に位置する中間層の各層の主原料である木材パルプとしては、特に制限されないが、例えば、ダグラスファー、ラジアータパイン、杉、松などの針葉樹;ユーカリ、オークなどの広葉樹を主原料としたクラフトパルプ(KP)、セミケミカルパルプ(SCP)、砕木パルプ(GP)、ケミグランドパルプ(CGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ディインキングパルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)などが挙げられ、使用に際しては単独もしくは2種以上混合して用いることができる。なお、本願発明の効果を阻害しない範囲で、ケナフ、バガス等の非木材パルプを混合することもできる。
【0020】
表面層、裏面層および中間層は、それぞれ同じ木材パルプを用いて形成してもよく、また異なる木材パルプを用いて形成してもよい。具体的には、表面層および裏面層は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)および広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を用いて形成するのが望ましく、中間層は、針葉樹、広葉樹を原料としたクラフトパルプ(KP)もしくはディインキングパルプ(DIP)を用いて形成するのが望ましい。
【0021】
また、各層には、本願発明の所望の効果を損なわない範囲で、種々の他の成分を添加することができる。具体的には、表面層および裏面層には、後述する塗工液を塗工して該塗工液に含まれる種々成分を含ませることができる他、表面層、裏面層、中間層いずれの層にも、紙力剤、歩留まり向上剤、着色剤、消泡剤、増粘剤を用いることができる。このように他の成分を用いる場合には、前記木材パルプの使用量は、各層の全体量中90重量部以上とするのが、本願発明の所望の効果を得るために好ましく、93〜97重量部とするのがさらに好ましい。
【0022】
本願発明の紙コースター素材において、前記表面層および/または裏面層に水溶性高分子を塗布することもでき、そのようにした場合、表面強度がより一層向上することとなる。
【0023】
前記水溶性高分子としては、ポリビニールアルコール(PVA)、澱粉、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリアクリルアミド(PAM)等が挙げられる。
【0024】
また、水溶性高分子の平均分子量は、用いる水溶性高分子の種類によって差があるが、5万以上とするのが好ましく、また、ポリビニールアルコール(PVA)を用いる場合、その重合度は、1000〜2000とされ、ケン化度は、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上の完全ケン化タイプとされる。ケン化度の高いPVAは、冷水では膨潤するのみでほとんど溶解せず、高温水に溶解するため、塗工液の調整が煩雑だが、皮膜強度が高く、吸湿性も低いため、紙粉発生の抑制に効果を発現する。
【0025】
また、本願発明の紙コースター素材において、コッブ法による30秒コッブ値(JIS P 8140準拠)が50〜900g/m2となるように調整することもでき、そのようにした場合、水溶性高分子を素材表面に歩留まらせることができ、吸水性を確保することができる。なお、コッブ法による30秒コッブ値が50g/m2未満になると、コースターの本質的役割である吸水性を示さず、グラスとコースターがくっついてしまい非常に使用しにくくなる。900g/m2を超えると、オフセット印刷時の湿し水によって素材自体に水分が吸収されオフセット印刷が不可能となってしまう。
【0026】
本願発明の紙コースター素材は、公知の多層抄き抄紙機を用いて製造することができる。
【0027】
次に、本願発明を、下記の実施例1〜7および比較例1〜8に基づいて詳述するが、本願発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下、kg/tとは、パルプ絶乾重量t当たりの有姿での添加量を表す。また、各実施例、各比較例において、米坪の調整は、抄き合わせる層数(4〜7層)と1層当たりの米坪とにより行い、密度の調整は、カレンダー加圧条件と発泡剤の添加量とにより行ったものである。
【0028】
実施例1
針葉樹晒クラフトパルプ40重量%(600mlCSF)、広葉樹晒クラフトパルプ60重量%(500mlCSF)を原料パルプとし、硫酸バンド10kg/t、サイズ剤(ハリマ化成株式会社製 ハーマイド F15)20kg/t、発泡剤(松本油脂製薬株式会社製 マツモトマイクロスフェアー F−30D)25kg/tを使用し、米坪250g/m2、密度0.55g/cm3に調整し、表面にPVA(日本合成化学株式会社製 ゴーセノールN300)をカレンダー塗工(塗工量0.5g/m2)し、コースター素材を得た。このコースター素材の紙粉発生量、オフセット印刷適性、コースターとしての使用適性を総合的に評価した。
【0029】
実施例2
米坪650g/m2とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0030】
実施例3
密度0.75g/cm3とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0031】
実施例4
米坪650g/m2、密度0.75g/cm3とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0032】
実施例5
米坪400g/m2、密度0.65g/cm3とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0033】
実施例6
米坪650g/m2とし、サイズ剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0034】
実施例7
米坪400g/m2、密度0.55g/cm3、サイズ剤10kg/tとした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0035】
比較例1
米坪150g/m2とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0036】
比較例2
米坪700g/m2とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0037】
比較例3
密度0.80g/cm3とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0038】
比較例4
PVA塗工なしとした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0039】
比較例5
米坪400g/m2、密度0.65g/cm3とし、PVA塗工なしとした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0040】
比較例6
密度0.75g/cm3とし、PVA塗工なしとした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0041】
比較例7
米坪400g/m2、密度0.45g/cm3とした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0042】
比較例8
密度0.75g/cm3、サイズ剤30kg/tとした以外は、実施例1と同様に抄造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0043】
上記実施例1〜7および比較例1〜8にて製造した紙コースター素材について下記の項目を測定して評価した。結果は表1に示した。
コッブサイズ度:コッブ法による30秒コッブ度(JIS P 8140準拠)
紙粉発生量:テーパ摩耗試験法による紙粉発生量(JIS L1096 8.17.3準拠)
オフセット印刷適性:オフセット枚葉印刷機で4色印刷を行い、1000枚印刷後、ブランケットに付着した紙粉の発生量を評価した。
コースターとしての使用適性:オフセット印刷機で合格したサンプルについて、氷水を入れたグラスをコースターに置き、グラスの安定感、10分経過後のグラスとコースターとの付着について評価した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果によれば、少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法による紙粉発生量(JIS L1096 8.17.3準拠)が50〜300mgでコッブ法による30秒コッブ度50〜900g/m2(JIS P 8140準拠)の範囲である実施例1〜7が、比較例1〜8に比して、紙粉発生量及びオフセット印刷時の印刷適性、コースターとしての使用適性において優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面層、裏面層と両層間に位置する中間層との3層以上の層からなる多層抄き合わせ板紙であって、前記各層はそれぞれ木材パルプを主原料としており、密度0.55〜0.75g/cm3、実米坪250〜650g/m2で、テーパ摩耗試験法(JIS L1096 8.17.3準拠)による紙粉発生量が50〜300mgの範囲であることを特徴とする紙コースター素材。
【請求項2】
前記表面層および/または裏面層に水溶性高分子を塗布したことを特徴とする請求項1記載の紙コースター素材。
【請求項3】
コッブ法による30秒コッブ値(JIS P 8140準拠)が50〜900g/m2に調整されたことを特徴とする請求項2記載の紙コースター素材。

【公開番号】特開2006−16730(P2006−16730A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196361(P2004−196361)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】