説明

紙幣識別装置

【課題】偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず良好な精度で識別することにある。
【解決手段】センサの検出出力を順次サンプリングしてJ個(J≧2)のアナログデータを出力するサンプリング回路と、J個のアナログデータをJ個のデジタルデータに変換しJ個のデジタルデータをJ個の実測データとして出力するAD変換回路と、J個の実測データとJ個の平均データとの乖離の度合を示すJ個の乖離度データを算出する第1算出部と、J個の乖離度データの中から乖離の度合が大きい上位K個(K≦J)の乖離度データを抽出する抽出部と、K個の乖離度データの中から乖離の度合が大きい上位側の乖離度データとの部分和を示すM個(M≦K)の乖離度部分和データを算出する第2算出部と、M個の乖離度部分和データとM個の閾値データとを比較し紙幣の真偽を判別する判別部とを備えた紙幣識別装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送路を通過する紙幣の特性を検出して同紙幣の真偽を識別する紙幣識別装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
例えば特許文献1に開示された紙幣識別装置は、紙幣が搬送路を通過する間、同搬送路に設けられたセンサが所定のタイミングで検出信号を出力することにより、同紙幣の特性を示す出力パターンが得られる。ここで、紙幣の特性を示す出力パターンとは、例えば、紙幣における搬送距離に対応する位置ごとの検出信号の電圧(出力値)の分布であり、これは同紙幣の表面の印刷パターンに応じた分布となっている。
このようにして得られた識別対象の紙幣の出力パターンと、真札の紙幣に対し予め得られている基準パターンとを比較することによって、識別対象の紙幣の真偽が判別される。ここで、出力パターンと基準パターンとの具体的な比較対象は、例えば、紙幣における(搬送距離に対応する)複数の位置のうちの予め固定された数点の位置での出力値である。つまり、基準パターンを与える真札の紙幣と、想定される偽札の紙幣との特性上の顕著な相違箇所が予めわかっており、同箇所における双方の出力値が比較される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−74448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した紙幣識別装置において、想定外の偽札の紙幣が搬送路に挿入された場合には、予め固定された位置で同偽札の紙幣と真札の紙幣との間に特性上の顕著な相違があるとは限らない。このため、紙幣識別装置は、この想定外の偽札の紙幣を真札であると誤って識別してしまう虞がある。
つまり、特性が予めわかっている偽札の紙幣の場合とは異なる位置で真札の紙幣の特性と相違した特性を有する偽札の紙幣に対し、紙幣識別装置は、この相違を見落としてしまう虞がある。
【0005】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず良好な精度で識別することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための発明は、搬送路を通過する紙幣の特性を検出するセンサと、前記センサが前記紙幣の特性を検出する期間、前記センサの検出出力を順次サンプリングしてJ個(J≧2)のアナログデータを出力するサンプリング回路と、前記J個のアナログデータをJ個のデジタルデータに変換し、前記J個のデジタルデータをJ個の実測データとして出力するAD変換回路と、前記J個の実測データと、前記J個の実測データに対応するJ個の平均データとの乖離の度合を示すJ個の乖離度データを算出する第1算出部と、前記J個の乖離度データの中から、乖離の度合が大きい上位K個(K≦J)の乖離度データを抽出する抽出部と、前記K個の乖離度データの中から、乖離の度合が大きい上位側の乖離度データとの部分和を示すM個(M≦K)の乖離度部分和データを算出する第2算出部と、前記M個の乖離度部分和データと、前記M個の乖離度部分和データに対応するM個の閾値データとを比較し、前記紙幣の真偽を判別する判別部と、を備えた紙幣識別装置である。
この紙幣識別装置によれば、乖離の度合が大きい上位K個の乖離度データが抽出されるため、例えば紙幣における予め固定された位置での乖離度データを抽出する場合に比べて、真札及び偽札の紙幣の間の特性に係る顕著な相違箇所がより確実に抽出される。これにより、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず一定の精度で識別できる。また、M個の乖離度部分和データのそれぞれは、例えば紙幣における対応する位置の乖離度データのみと比べて値が大きいため、比較対象である閾値データの値もこれにともない大きく設定できる。これは、紙幣の真偽の識別精度の向上につながる。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず良好な精度で識別できる。
【0007】
また、かかる紙幣識別装置において、前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記J個の平均データの差の絶対値を、前記J個の平均データに対応するJ個の標準偏差データで除算することにより、前記J個の乖離度データを算出することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、平均データの統計分布が考慮された乖離度データが得られる。例えば、標準偏差データが小さいほど、平均データの統計分布の幅(例えば真札の紙幣におけるその特性からの乖離の度合の許容範囲)がより狭くなるため、乖離度データの乖離の度合はより大きく設定される。一方、標準偏差データが大きいほど、平均データの統計分布の幅がより広くなるため、乖離度データの乖離の度合はより小さく設定される。つまり、乖離度データの乖離の度合には平均データの統計分布の幅に反比例する重みが付けられているため、同乖離度データは、識別対象の紙幣の特性が真札の紙幣の特性からどのような度合で乖離しているかをより正確に表わしている。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより良好な精度で識別できる。
【0008】
また、かかる紙幣識別装置において、前記実測データに基づいて識別対象となる前記紙幣の種類を特定する紙幣特定部を備え、前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記紙幣の種類に対応する前記J個の平均データの差の絶対値を、前記J個の標準偏差データで除算することにより、前記J個の乖離度データを算出することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、紙幣が複数の種類を有する場合、紙幣特定部により特定された種類の真札の紙幣に対して偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより良好な精度で識別できる。
【0009】
また、かかる紙幣識別装置において、前記第2算出部は、前記M個の乖離度部分和データが順次大きくなるように、前記M個の乖離度部分和データを算出することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、乖離度部分和データは、対応する乖離度データが小さくなるほど、順次大きくなるため、比較対象である閾値データの値もこれにともないより大きく設定できる。これにより、紙幣の真偽の識別精度がより向上する。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより一層良好な精度で識別できる。
【0010】
また、かかる紙幣識別装置において、前記K個の乖離度データの個数を設定する設定部を備えたことが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、設定部を通じて、例えば紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度を速めるためのK値を設定できる。
【0011】
また、かかる紙幣識別装置において、前記M個の乖離度部分和データの個数を設定する設定部を備えたことが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、設定部を通じて、紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度を速めるためのM値を設定できる。
【0012】
また、かかる紙幣識別装置において、前記抽出部は、前記J個の乖離度データを略均等の個数に分割し、L個の乖離度データ群を生成する第1工程と、前記L個の乖離度データ群の中から、最大となるL個の乖離度データを抽出する第2工程と、前記L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第3工程と、最大となる乖離度データが含まれていた前記乖離度データ群の中から、当該乖離度データの次に最大となる乖離度データを抽出し、前記L個の乖離度データを再度生成する第4工程と、前記L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第5工程と、前記第4及び第5工程を前記K個の乖離度データを抽出するまで繰り返す第6工程と、を実行することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、先ず、J個の乖離度データの中で乖離の度合が最大(第1番目)の乖離度データは、第1乃至第3工程を通じて抽出される。次に、第2番目以降の乖離度データは、以下の第4及び第5工程を繰り返す第6工程を通じて抽出される。即ち、第k番目(2≦k≦K)の乖離度データは、第(k−1)番目の乖離度データが含まれていた乖離度データ群の中から当該乖離度データの次に最大となる乖離度データを抽出し、L個の乖離度データを再度生成した後、これらL個の乖離度データの中から最大となる乖離度データとして抽出される。以上の第4及び第5工程がk=Kとなるまで繰り返される都度、最大となる乖離度データの抽出対象は常に1個の乖離度データ群のみであり、残りの(L−1)個の乖離度データ群はそのままである。よって、J個の乖離度データから上位のK個の乖離度データを抽出するための処理時間が、(L−1)個の乖離度データ群を処理対象としない分だけ短縮される。従って、紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度をより一層速めることができる。尚、前述した第(k−1)番目の乖離度データは、k=2の場合、先の第3工程で抽出された最大となる乖離度データであり、k≧3の場合、先の第5工程で抽出された最大となる乖離度データである。
【0013】
また、かかる紙幣識別装置において、前記J個の平均データに対応するJ個の標準偏差データそれぞれの逆数であるJ個の逆数データを予め記憶する記憶部を備え、前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記J個の平均データの差の絶対値に対し、前記記憶部から読み出された前記J個の逆数データを乗算することにより、前記J個の乖離度データを算出することが好ましい。
J個の標準偏差データで除算することは、J個の逆数データを乗算することと等価であるが、除算のアルゴリズムよりも乗算のアルゴリズムの方が一般に高速である。よって、この紙幣識別装置によれば、J個の乖離度データを算出するための処理時間が短縮され、この短縮分だけ、紙幣の識別時間も短縮される。
【0014】
また、かかる紙幣識別装置において、前記実測データに基づいて識別対象となる前記紙幣の種類を特定する紙幣特定部を備え、前記記憶部は、前記J個の逆数データを前記紙幣の種類ごとに予め記憶し、前記第1算出部は、前記紙幣特定部により特定された前記紙幣の種類に対応する前記J個の逆数データを前記記憶部から読み出し、前記J個の実測データ及び前記紙幣特定部により特定された前記紙幣の種類に対応する前記J個の平均データの差の絶対値に対し、前記記憶部から読み出された前記J個の逆数データを乗算することにより、前記J個の乖離度データを算出することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、J個の乖離度データを算出するための処理時間が短縮され、この短縮分だけ、紙幣特定部により特定された種類の紙幣の識別時間も短縮される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず良好な精度で識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態の紙幣識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態の紙幣識別装置の機能ブロックの構成例を示す図である。
【図3】紙幣識別装置による紙幣識別動作で用いられる各種データの構成例を示す模式図である。
【図4】紙幣識別装置による紙幣識別動作におけるCPUの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】(a)は識別対象の紙幣の平面図であり、(b)は識別対象の紙幣のJ個(J≧2)の実測データを視覚化したグラフであり、(c)は種類Tの真札の紙幣のJ個の平均データ及びJ個の標準偏差データを視覚化したグラフである。
【図6】(a)はJ個の乖離度データを視覚化したグラフであり、(b)はK個(K≦J)の乖離度データを視覚化したグラフであり、(c)はM個(M≦K)の乖離度部分和データを視覚化したグラフであり、(d)はM個の閾値データを視覚化したグラフである。
【図7】紙幣識別装置がJ個の乖離度データから大きい上位K個の乖離度データを抽出する際のCPUの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】J個の乖離度データからの最大の乖離度データの抽出のし方を示す模式図である。
【図9】J個の乖離度データからの第k番目(2≦k≦K)に大きい乖離度データの抽出のし方を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===紙幣識別装置の構成===
図1乃至図3を参照しつつ、本実施の形態の紙幣識別装置1の構成例について説明する。図1は紙幣識別装置1の構成例を示すブロック図であり、図2は紙幣識別装置1の機能ブロックの構成例を示す図であり、図3は紙幣識別装置1による紙幣識別動作で用いられる各種データ51、52、53、54、55、56、57の構成例を示す模式図である。
【0018】
図1に例示されるように、紙幣識別装置1は、センサ3と、サンプリング回路21と、AD変換回路22と、メモリ(記憶部)42と、CPU10とを備えている。
【0019】
センサ3は、紙幣の搬送路2を挟む例えば一対の発光素子31及び受光素子32からなる。発光素子31からの光は、紙幣に対し透過又は反射した後に受光素子32により受光され、受光素子32は、透過光又は反射光の光量に応じた電圧を有する信号を出力する。
【0020】
サンプリング回路21は、受光素子32から出力される信号の波形を所定周期でサンプリングするとともに増幅し、このサンプリング及び増幅して得られた信号をアナログデータとして出力する。
【0021】
AD変換回路22は、サンプリング回路21から出力されるアナログデータをデジタルデータに変換する。
【0022】
メモリ42は、後述する、J個(J≧2)の実測データ51、J個の平均データ52、J個の標準偏差データ53、J個の乖離度データ54、K個(K≦J)の乖離度データ55、M個(M≦K)の乖離度部分和データ56、及びM個の閾値データ57(図3)を記憶する。尚、このメモリ42は、後述するように、J個の平均データ52と、J個の標準偏差データ53と、J個の閾値データ57とを、紙幣の種類ごとに予め記憶している。
【0023】
CPU10は、メモリ42に記憶されたJ個の実測データ51、J個の平均データ52、J個の標準偏差データ53、及びJ個の閾値データ57に基づいて、紙幣識別動作に係る演算処理を実行する。
【0024】
具体的には、図2に例示されるように、CPU10は、後述するROM40に記憶されたプログラムにより、紙幣特定部61、第1算出部62、抽出部63、第2算出部64、及び判別部65の機能を実行するようになっている。紙幣特定部61は、識別対象の紙幣の種類を特定する。第1算出部62は、J個の実測データ51、J個の平均データ52、及びJ個の標準偏差データ53からJ個の乖離度データを算出する。抽出部63は、J個の乖離度データ54から上位K個の乖離度データ55を抽出する。第2算出部64は、K個の乖離度データ55からM個の乖離度部分和データ56を抽出する。判別部65は、M個の乖離度部分和データ56とM個の閾値データ57とをそれぞれ比較して、識別対象の紙幣の真偽を判別する。尚、これらの機能の詳細は、紙幣識別動作として後述する。
【0025】
図1に戻って、紙幣識別装置1は、点灯回路11と、DA変換回路12と、ROM40と、RAM41と、設定部43とを更に備えている。
【0026】
点灯回路11は、発光素子31を点灯又は消灯する。DA変換回路12は、CPU10から出力されるデジタル信号である制御信号をアナログ信号に変換し、同アナログ信号により点灯回路11に対し発光素子31の点灯又は消灯を行なわせる。ROM40は、CPU10の紙幣識別動作に係る演算処理の手順を定めるプログラム等を記憶する。RAM41は、CPU10の紙幣識別動作に係る演算処理に用いられるデータ等を記憶する。設定部43は、後述するK個の乖離度データ55のK値やM個の乖離度部分和データ56のM値等を紙幣識別装置1の外部から入力するための手段である。具体的には、この設定部43は、例えばキーボード等である。作業者がキーボードの操作を通じてK値及びM値を示すデータを入力すると、CPU10は、ROM40に記憶された所定のプログラムに基づいて、メモリ42に既に記憶されているK値及びM値を示すデータを新たに入力されたデータに書き換えるようになっている。或いは、この設定部43は、例えばUSBメモリ等である。USBメモリがCPU10に接続されると、CPU10は、ROM40に記憶された所定のプログラムにより、USBメモリに記憶されたK値及びM値を示すデータを読み出し、メモリ42に既に記憶されているK値及びM値を示すデータを、読み出されたデータに書き換えるようになっている。
【0027】
図3(a)に例示されるように、実測データX(j)(1≦j≦J)は、識別対象の紙幣におけるその搬送方向の複数の等間隔の位置の順番を示すjごとのAD変換回路22のデジタルデータである。以後、J個の実測データ51を、単に「実測データ51」と称する。尚、jで示される紙幣上の位置どうしの間隔は、このように等間隔に限定されるものではない。例えば真札の紙幣と偽札の紙幣との間で特性上の相違が顕著な複数の箇所が予めわかっている場合には、たとえ複数の箇所どうしが搬送方向に等間隔でなくても、これらを順にjで表わしてもよい。
【0028】
図3(b)に例示されるように、平均データA(T、j)は、種類Tの真札の紙幣のN組(N≧2)の実測データ51のそれぞれにおけるN個の実測データX(T、j、n)(1≦n≦N)の平均値である(「式1」参照)。尚、N組の実測データ51は、例えば、紙幣N枚分の実測データ51であってもよいし、又は、同紙幣1枚を用いたN回分の実測データ51であってもよい。或いは、これら2つを組み合わせて、N組の実測データ51は、紙幣NA枚を用いたNB回分の実測データ51(N=NA×NB、NA≧2、NB≧2)であってもよい。何れの場合も、N組の実測データ51は、予め実験等により求められる。また、Tは、紙幣の種類を表わすT個の変数t(1≦t≦T)のうちの1つを意味する。具体例として、種類Tは、日本銀行券であれば、1万円新札(対応する変数tを1とする)、1万円旧札(対応する変数tを2とする)、5千円新札(対応する変数tを3とする)、5千円旧札(対応する変数tを4とする)、2千円札(対応する変数tを5とする)、1千円新札(対応する変数tを6とする)、及び1千円旧札(対応する変数tを7とする)の合計7(=T)種類のうちの1つである。以後、J個の平均データ52を、単に「平均データ52」と称する。

【0029】
図3(c)に例示されるように、標準偏差データS(T、j)は、種類Tの真札の紙幣のN組の実測データ51のそれぞれにおけるN個の実測データX(T、j、n)(1≦n≦N)の標準偏差である(「式2」参照)。以後、J個の標準偏差データ53を、単に「標準偏差データ53」と称する。

【0030】
図3(d)に例示されるように、乖離度データD(j)は、識別対象の紙幣の前述した実測データX(j)と、同識別対象の紙幣と同じ種類Tの真札の紙幣の前述した平均データA(T、j)との差分の絶対値を、前述した標準偏差データS(T、j)で除算して得られる(「式3」参照)。以後、J個の乖離度データ54を、単に「乖離度データ54」と称する。

【0031】
図3(e)に例示されるように、乖離度データF(k)(1≦k≦K)は、乖離度データ54を大きい順に上位K個までソートして得られる。以後、K個の乖離度データ55を、単に「乖離度データ55」と称する。
【0032】
図3(f)に例示されるように、乖離度部分和データG(m)(1≦m≦M)は、乖離度データ55におけるk=1からk=MまでのM個の乖離度データF(k)のそれぞれにおいてF(1)からF(k)までの累積和をとって得られる(「式4」参照)。尚、これに限定されるものではなく、乖離度部分和データG(m)は、対応する乖離度データF(m)と、少なくとも乖離の度合がより大きい乖離度データF(m’)(1≦m’<m)との和であればよい。以後、M個の乖離度部分和データ56を、単に「乖離度部分和データ56」と称する。

【0033】
図3(g)に例示されるように、閾値データH(T、m)(1≦m≦M)は、乖離度部分和データG(m)ごとに比較されるべき閾値である。真札の紙幣の実測データX(j)には前述した統計分布があるため、たとえ真札の紙幣どうしであっても、前述した「式1乃至4」に基づいてG(m)を算出すれば、0ではない値を有するG(m)が得られる。一例として、このようなG(m)の最大値を予め実験で求め、その最大値を含む所定幅の範囲内で閾値(H(T、m))を設定すれば、同閾値を超えるG(m)の紙幣は偽札であり、同閾値以下のG(m)の紙幣は真札であると判別できる。以後、M個の閾値データ57を、単に「閾値データ57」と称する。
【0034】
尚、前述した、平均データ52、標準偏差データ53、及び閾値データ57のそれぞれは、紙幣の種類t(1≦t≦T)ごとにメモリ42に記憶されている。
【0035】
===紙幣識別装置の動作===
図4乃至図9を参照しつつ、前述した構成を備えた紙幣識別装置1の動作例について説明する。
【0036】
図4は紙幣識別装置1による紙幣識別動作におけるCPU10の処理手順の一例を示すフローチャートである。図5(a)は識別対象の紙幣の平面図であり、図5(b)は識別対象の紙幣の実測データ51を視覚化したグラフであり、図5(c)は種類Tの真札の紙幣の平均データ52及び標準偏差データ53を視覚化したグラフである。図6(a)は乖離度データ54を視覚化したグラフであり、図6(b)は乖離度データ55を視覚化したグラフであり、図6(c)は乖離度部分和データ57を視覚化したグラフであり、図6(d)は閾値データ57を視覚化したグラフである。図7は紙幣識別装置1が乖離度データ54から乖離度データ55を抽出する際のCPU10の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8は乖離度データ54からの最大の乖離度データの抽出のし方を示す模式図である。図9は乖離度データ54からの第k番目(2≦k≦K)に大きい乖離度データの抽出のし方を示す模式図である。
【0037】
図4に例示されるように、CPU10は、識別対象の紙幣におけるその搬送方向の複数の等間隔の位置の順番を示すj(1≦j≦J)ごとに、AD変換回路22から出力されるデジタルデータを実測データX(j)としてメモリ42に記憶させる(図5(a)、図5(b)参照)(S100)。
【0038】
CPU10(紙幣特定部61)は、識別対象の紙幣が前述した種類t(1≦t≦T)のうちの何れかに該当するか否かを実測データX(j)に基づいて判別する(S101)。具体的には、CPU10は、メモリ42を参照して、紙幣の種類を特徴付ける例えば数点の位置におけるX(j)と、これに対応する平均データA(t、j)とを、種類tごとに比較する。尚、メモリ42には、紙幣の種類tごとに、「種類tである」旨を特定可能なA(t、j)の許容範囲を示すデータが記憶されている。CPU10は、メモリ42を参照して、例えばX(j)とA(t、j)との差分の絶対値が前述した許容範囲内となる種類tがあるか否かを判別する。この紙幣の種類の特定条件は、後述する紙幣の真偽の判別条件よりも緩く設定されている。
【0039】
識別対象の紙幣が種類t(1≦t≦T)のうちの何れにも該当しないと判別した場合(S101:NO)、CPU10は、所定の駆動部(不図示)を制御して、搬送路2に挿入された紙幣を返却させる(S109)。
【0040】
識別対象の紙幣が種類t(1≦t≦T)のうちの何れかに該当すると判別した場合(S101:YES)、CPU10は、該当する種類Tに対応する真札の紙幣の平均データA(T、j)及び標準偏差データS(T、j)(1≦j≦J)をメモリ42から読み出す(S102)。尚、図5(c)に例示されるように、標準偏差データS(T、j)は、実測データX(j)と比較されるべき平均データA(T、j)の統計分布を表わしている。つまり、真札であっても、例えば紙幣の汚損やサンプリング回路21における増幅器(不図示)のオフセット又はゲイン等のばらつきに応じた分布を有している。
【0041】
CPU10(第1算出部62)は、メモリ42から読み出された、実測データX(j)、平均データA(T、j)、及び標準偏差データS(T、j)に対し、前述した「式3」を適用して乖離度データD(j)(1≦j≦J)を求め、これをメモリ42に記憶させる(S103)。尚、前述した「式3」に示されるように、図6(a)に例示される乖離度データD(j)は、実測データX(j)と平均データA(T、j)との差分の絶対値に対し「1/S(T、j)」という「重み」が付されている。
【0042】
CPU10(抽出部63)は、メモリ42に記憶された乖離度データD(j)(1≦j≦J)を大きい順に上位K個までソートして乖離度データF(k)(1≦k≦K)を求め(図6(b)参照)、これをメモリ42に記憶させる(S104)。尚、上位K個までのソートのし方の詳細については後述する。
【0043】
CPU10(第2算出部64)は、メモリ42に記憶された乖離度データF(k)(1≦k≦K)における第1番目から第M番目の乖離度F(k)に対し、前述した「式4」を適用して乖離度部分和データG(m)(1≦m≦M)を求め(図6(c)参照)、これをメモリ42に記憶させる(S105)。
【0044】
CPU10(判別部65)は、メモリ42から、紙幣の種類Tに対応する閾値データH(T、m)(1≦m≦M)を読み出し(S106)、全てのm(1≦m≦M)に対して、乖離度部分和データG(m)が閾値データH(T、m)以下であるか否かを判別する(S107)。もし、何れかのmに対しG(m)>H(T、m)であると判別した場合(S107:NO)、CPU10は、前述した所定の駆動部を制御して、搬送路2に挿入された紙幣を返却させる(S109)。一方、全てのm(1≦m≦M)に対しG(m)≦H(T、m)であると判別した場合(S107:YES)、CPU10は、前述した所定の駆動部を制御して、搬送路2に挿入された紙幣を取り込む(S108)。
【0045】
図7に例示されるように、本実施の形態では、乖離度データD(j)(1≦j≦J)を大きい順に上位K個までソートして乖離度F(k)(1≦k≦K)を求める前述したステップS104の処理は、詳しくは、以下述べるステップS200乃至S209の処理からなっている。
【0046】
先ず、CPU10(抽出部63)は、乖離度データD(j)(1≦j≦J)を、I個(I≧2)のD(j)からなるL組(L≧2)の群に分けてメモリ42の所定の記憶領域(以後「第1記憶領域」と称する)に格納する(S200、第1工程)。尚、L及びIは、例えばJ≦L×I<J+Iとなるように設定されている。L及びIの積がJより大きい場合、例えば第L番目の群における(L×I−J)個分の空き領域には、無効を示すデータ(図8(a)の「VOID」)が格納される。
【0047】
CPU10は、各群l(1≦l≦L)において、I個の乖離度データのうちの最大値を抽出する(S201、第2工程)。尚、以後、乖離度データを、群l及び同群の中のi番目で特定することにより「D(l、i)」(1≦l≦L、1≦i≦I)と称する。
【0048】
CPU10は、各群lで最大値のD(l、i)をE(l)(1≦l≦L)としてメモリ42の前述した所定の記憶領域とは別の記憶領域(以後「第2記憶領域」と称する)に格納するとともに、同D(l、i)(1≦l≦L)にはそれぞれ「VOID」を格納する(S202)(図8(b)参照)。尚、各群lで最大値を抽出する処理は、「VOID」を0として行なう。
【0049】
CPU10は、メモリ42の前述した第2記憶領域に格納されたE(l)(1≦l≦L)の中から最大値のE(l)を抽出し、これを第1番目のF(1)としてメモリ42の更に別の記憶領域(以後「第3記憶領域」と称する)に格納するとともに(図8(c)参照)、同E(l)には「VOID」を格納する(S203、第3工程)。
【0050】
次に、CPU10は、カウンタ(不図示)又はメモリ42に対し、次に抽出する乖離度データF(k)の順番であるk=2を設定する(S204)。
【0051】
この後、以下述べるステップS205乃至S209の処理を繰り返し実行することによって(第6工程)、乖離度データF(k)(1≦k≦K)が求められる。
【0052】
以下、第k番目(2≦k≦K)のF(k)を求めるための各ステップの詳細について説明する。
【0053】
CPU10は、前回のステップでE(l)(1≦l≦L)の中の最大値のE(l)(「VOID」が格納されている)に対応する群lの中で次の最大値を抽出し(S205、第4工程)(図9(a)参照)、ステップS205で抽出された最大値のE(l)を、残りの(L−1)個のE(l)とともにメモリ42の前述した第2記憶領域に格納する(S206、第4工程)。尚、群lを構成するD(l、i)が全て「VOID」の場合、その最大値E(l)は0とする。
【0054】
CPU10は、メモリ42の前述した第2記憶領域に格納されたE(l)(1≦l≦L)の中から最大値のE(l)を抽出し、これを第k番目のF(k)としてメモリ42の前述した第3記憶領域に格納するとともに(図9(b)参照)、同E(l)には「VOID」を格納する(S207、第5工程)。
【0055】
CPU10は、前述したカウンタ又はメモリ42で設定されたkがKと等しいか否かを判別する(S208)。もし、k=Kではないと判別した場合(S208:NO)、CPU10は、kを1だけインクリメントさせて(S209)、ステップS205の処理を再度実行する。一方、k=Kであると判別した場合(S208:YES)、CPU10は処理を終了する。尚、前述したステップS204、S208、及びS209において、2から1ずつインクリメントされる「k」は、単に、抽出される乖離度データF(k)の順番を表わしている。
【0056】
本実施の形態の紙幣識別装置1は、少なくとも、搬送路2を通過する紙幣の特性を検出するセンサ3と、センサ3が紙幣の特性を検出する期間、センサ3の検出出力を順次サンプリングしてJ個(J≧2)のアナログデータを出力するサンプリング回路21と、J個のアナログデータをJ個のデジタルデータに変換し、J個のデジタルデータをJ個の実測データ51として出力するAD変換回路22と、J個の実測データ51と、J個の実測データ51に対応するJ個の平均データ52との乖離の度合を示すJ個の乖離度データ54を算出する第1算出部62と、J個の乖離度データ54の中から、乖離の度合が大きい上位K個(K≦J)の乖離度データ55を抽出する抽出部63と、K個の乖離度データ55の中から、乖離の度合が大きい上位側の乖離度データとの部分和を示すM個(M≦K)の乖離度部分和データ56を算出する第2算出部64と、M個の乖離度部分和データ56と、M個の乖離度部分和データ56に対応するM個の閾値データ57とを比較し、紙幣の真偽を判別する判別部65とを備えていればよい。
【0057】
この紙幣識別装置1によれば、乖離の度合が大きい上位K個の乖離度データ55が抽出されるため、例えば紙幣における予め固定された位置(搬送路2の通過距離に対応する紙幣上の位置)での乖離度データを抽出する場合に比べて、真札及び偽札の紙幣の間の特性に係る顕著な相違箇所がより確実に抽出される。これにより、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず一定の精度で識別できる。また、M個の乖離度部分和データ56のそれぞれ(G(m))は、例えば紙幣における対応する位置の乖離度データF(k)のみと比べて値が大きいため、比較対象である閾値データH(T、m)の値もこれにともない大きく設定できる。これは、紙幣の真偽の識別精度の向上につながる。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらず良好な精度で識別できる。
【0058】
また、前述した紙幣識別装置1において、第1算出部62は、J個の実測データ51及びJ個の平均データ52の差の絶対値を、J個の平均データ52に対応するJ個の標準偏差データ53で除算することにより、J個の乖離度データ54を算出している。
【0059】
この紙幣識別装置1によれば、平均データ52の統計分布が考慮された乖離度データ54が得られる。例えば、標準偏差データ53が小さいほど、平均データ52の統計分布の幅(例えば真札の紙幣におけるその特性からの乖離の度合の許容範囲)がより狭くなるため、乖離度データ54の乖離の度合はより大きく設定される。一方、標準偏差データ53が大きいほど、平均データ52の統計分布の幅がより広くなるため、乖離度データ54の乖離の度合はより小さく設定される。つまり、乖離度データD(j)の乖離の度合には平均データA(T、j)の統計分布の幅に反比例する重みが付けられているため、同乖離度データD(j)は、識別対象の紙幣の特性が真札の紙幣の特性からどのような度合で乖離しているかをより正確に表わしている。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより良好な精度で識別できる。
【0060】
また、前述した紙幣識別装置1は、実測データX(j)に基づいて識別対象となる紙幣の種類Tを特定する紙幣特定部61を備え、第1算出部62は、J個の実測データ51及び紙幣の種類Tに対応するJ個の平均データ52の差の絶対値を、J個の標準偏差データ53で除算することにより、J個の乖離度データ54を算出している。
【0061】
この紙幣識別装置1によれば、紙幣が複数の種類t(1≦t≦T)を有する場合、紙幣特定部61により特定された種類Tの真札の紙幣に対して偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより良好な精度で識別できる。
【0062】
また、前述した紙幣識別装置1において、第2算出部64は、M個の乖離度部分和データ56が順次大きくなるように、M個の乖離度部分和データ56を算出している。
【0063】
この紙幣識別装置1によれば、乖離度部分和データG(m)は、例えば紙幣における対応する位置(搬送路2の通過距離に対応する紙幣上の位置)の乖離度データF(k)が小さくなるほど、順次大きくなるため、比較対象である閾値データH(T、m)の値もこれにともないより大きく設定できる。これにより、紙幣の真偽の識別精度がより向上する。以上から、偽札の紙幣を同偽札の紙幣の特性にかかわらずより一層良好な精度で識別できる。
【0064】
また、前述した紙幣識別装置1は、K個の乖離度データ55の個数を設定する設定部43を備えている。
【0065】
この紙幣識別装置1によれば、設定部54を通じて、例えば紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度を速めるためのK値を設定できる。
【0066】
また、前述した紙幣識別装置1は、M個の乖離度部分和データ56の個数を設定する設定部43を備えている。
【0067】
この紙幣識別装置1によれば、設定部54を通じて、紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度を速めるためのM値を設定できる。
【0068】
また、前述した紙幣識別装置1において、抽出部63は、J個の乖離度データ54を略均等の個数に分割し、L個の乖離度データ群を生成する第1工程と、L個の乖離度データ群の中から、最大となるL個の乖離度データを抽出する第2工程と、L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第3工程と、最大となる乖離度データが含まれていた乖離度データ群の中から、乖離度データの次に最大となる乖離度データを抽出し、L個の乖離度データを再度生成する第4工程と、L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第5工程と、第4及び第5工程をK個の乖離度データ55を抽出するまで繰り返す第6工程とを実行している。
【0069】
この紙幣識別装置1によれば、第6工程において第4及び第5工程が繰り返される都度、最大となる乖離度データの抽出対象は常に1個の乖離度データ群のみであり、残りの(L−1)個の乖離度データ群はそのままである。よって、J個の乖離度データから上位のK個の乖離度データを抽出するための処理時間が、(L−1)個の乖離度データ群を処理対象としない分だけ短縮される。従って、紙幣の真偽に関してその識別精度を良好に保ちつつその識別速度をより一層速めることができる。
【0070】
尚、乖離度データD(j)(1≦j≦J)から上位K個の乖離度データF(k)(1≦k≦K)を抽出するに際し、例えばK=Jの場合には、前述したようにD(j)の最大値から順に抽出してもよいが、これに限定されるものではなく、例えばD(j)の最小値から順に抽出してもよい。つまり、D(j)を大きい順にソートすることと、D(j)を小さい順にソートした結果を大きい順に用いることとは、実質的に同一の結果をもたらす。
【0071】
以下、小さい順にソートする場合の抽出部63の動作について述べる。
先ず、抽出部63は、J個の乖離度データ54を略均等の個数に分割し、L個の乖離度データ群を生成する第1工程と、L個の乖離度データ群の中から、最小となるL個の乖離度データを抽出する第2工程と、L個の乖離度データの中から、最小となる乖離度データを抽出する第3工程とを実行する。これにより、J個の乖離度データの中で乖離の度合が最小(第1番目)の乖離度データが抽出される。
【0072】
次に、小さい順に第2番目以降の乖離度データは、以下の第4及び第5工程を繰り返す第6工程を通じて抽出される。即ち、小さい順に第k番目(2≦k≦J)の乖離度データは、第(k−1)番目の乖離度データが含まれていた乖離度データ群の中から当該乖離度データの次に最小となる乖離度データを抽出し、L個の乖離度データを再度生成し(第4工程)、これらL個の乖離度データの中から最小となる乖離度データとして抽出する(第5工程)。以上の第4及び第5工程がk=Jとなるまで繰り返される都度、最小となる乖離度データの抽出対象は常に1個の乖離度データ群のみであり、残りの(L−1)個の乖離度データ群はそのままである。よって、J個の乖離度データを小さい順にソートするための処理時間が、(L−1)個の乖離度データ群を処理対象としない分だけ短縮される。ここで、前述した第(k−1)番目の乖離度データは、k=2の場合、先の第3工程で抽出された最小となる乖離度データであり、k≧3の場合、先の第5工程で抽出された最小となる乖離度データである。
【0073】
また、前述した「式3」において、実測データX(j)と平均データA(T、j)との差分の絶対値を標準偏差データS(T、j)で除算して乖離度データD(j)を求める際の「除算」の演算処理は、同絶対値に対し標準偏差データS(T、j)の逆数である逆数データSINV(T、j)(=1/S(T、j)、不図示)を「乗算」する演算処理と算術上は等価である。
【0074】
この「乗算」の具体例として、先ず、紙幣の種類t(1≦t≦T)ごとに、J個の標準偏差データS(t、j)それぞれのJ個の逆数データSINV(t、j)(=1/S(t、j))を予め求めておき、このJ個の逆数データSINV(t、j)を、紙幣の種類t(1≦t≦T)ごとに予めメモリ42に記憶しておく。
【0075】
次に、紙幣識別時において、第1算出部62(CPU10)は、紙幣特定部61(CPU10)により特定された紙幣の種類Tに対応するJ個の逆数データSINV(T、j)をメモリ42から読み出し、J個の実測データX(j)とJ個の平均データA(T、j)との差分の絶対値に対し、メモリ42から読み出されたJ個の逆数データSINV(T、j)をそれぞれ乗算することにより、J個の乖離度データD(j)を算出する。
【0076】
一般に、除算のアルゴリズムよりも乗算のアルゴリズムの方が高速であるため、J個の乖離度データD(j)を算出するための処理時間が短縮される。これは、紙幣の識別時間の短縮につながる。
【0077】
===その他の実施の形態===
前述した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0078】
前述したセンサ3は、光学センサであったが、これに限定されるものではなく、例えば磁気センサ等であってもよい。要するに、搬送路2を通過する紙幣の特性を検出するための手段であれば如何なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 紙幣識別装置 2 搬送路 3 センサ
10 CPU 11 点灯回路 12 DA変換回路
21 サンプリング回路 22 AD変換回路 31 発光素子
32 受光素子 40 ROM 41 RAM
42 メモリ 43 設定部 51 実測データ
52 平均データ 53 標準偏差データ 54 J個の乖離度データ
55 K個の乖離度データ 56 乖離度部分和データ 57 閾値データ
61 紙幣特定部 62 第1算出部 63 抽出部
64 第2算出部 65 判別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路を通過する紙幣の特性を検出するセンサと、
前記センサが前記紙幣の特性を検出する期間、前記センサの検出出力を順次サンプリングしてJ個(J≧2)のアナログデータを出力するサンプリング回路と、
前記J個のアナログデータをJ個のデジタルデータに変換し、前記J個のデジタルデータをJ個の実測データとして出力するAD変換回路と、
前記J個の実測データと、前記J個の実測データに対応するJ個の平均データとの乖離の度合を示すJ個の乖離度データを算出する第1算出部と、
前記J個の乖離度データの中から、乖離の度合が大きい上位K個(K≦J)の乖離度データを抽出する抽出部と、
前記K個の乖離度データの中から、乖離の度合が大きい上位側の乖離度データとの部分和を示すM個(M≦K)の乖離度部分和データを算出する第2算出部と、
前記M個の乖離度部分和データと、前記M個の乖離度部分和データに対応するM個の閾値データとを比較し、前記紙幣の真偽を判別する判別部と、
を備えたことを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記J個の平均データの差の絶対値を、前記J個の平均データに対応するJ個の標準偏差データで除算することにより、前記J個の乖離度データを算出することを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項3】
前記実測データに基づいて識別対象となる前記紙幣の種類を特定する紙幣特定部を備え、
前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記紙幣の種類に対応する前記J個の平均データの差の絶対値を、前記J個の標準偏差データで除算することにより、前記J個の乖離度データを算出することを特徴とする請求項2に記載の紙幣識別装置。
【請求項4】
前記第2算出部は、前記M個の乖離度部分和データが順次大きくなるように、前記M個の乖離度部分和データを算出することを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項5】
前記K個の乖離度データの個数を設定する設定部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項6】
前記M個の乖離度部分和データの個数を設定する設定部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項7】
前記抽出部は、
前記J個の乖離度データを略均等の個数に分割し、L個の乖離度データ群を生成する第1工程と、
前記L個の乖離度データ群の中から、最大となるL個の乖離度データを抽出する第2工程と、
前記L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第3工程と、
最大となる乖離度データが含まれていた前記乖離度データ群の中から、当該乖離度データの次に最大となる乖離度データを抽出し、前記L個の乖離度データを再度生成する第4工程と、
前記L個の乖離度データの中から、最大となる乖離度データを抽出する第5工程と、
前記第4及び第5工程を前記K個の乖離度データを抽出するまで繰り返す第6工程と、
を実行することを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項8】
前記J個の平均データに対応するJ個の標準偏差データそれぞれの逆数であるJ個の逆数データを予め記憶する記憶部を備え、
前記第1算出部は、前記J個の実測データ及び前記J個の平均データの差の絶対値に対し、前記記憶部から読み出された前記J個の逆数データを乗算することにより、前記J個の乖離度データを算出することを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項9】
前記実測データに基づいて識別対象となる前記紙幣の種類を特定する紙幣特定部を備え、
前記記憶部は、前記J個の逆数データを前記紙幣の種類ごとに予め記憶し、
前記第1算出部は、前記紙幣特定部により特定された前記紙幣の種類に対応する前記J個の逆数データを前記記憶部から読み出し、前記J個の実測データ及び前記紙幣特定部により特定された前記紙幣の種類に対応する前記J個の平均データの差の絶対値に対し、前記記憶部から読み出された前記J個の逆数データを乗算することにより、前記J個の乖離度データを算出することを特徴とする請求項8に記載の紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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