説明

紙幣識別装置

【課題】紙幣の識別精度が良好な小型且つ低コストの紙幣識別装置を提供する。
【解決手段】光センサと、電子ボリュームと、増幅器と、紙幣が光路に介在するときの増幅出力を紙幣を識別可能な第1電圧とするための電子ボリュームの第1調整値及び紙幣が光路に介在しないときの増幅出力を非飽和領域の第2電圧とするための電子ボリュームの第2調整値が予め記憶された記憶部と、増幅出力に基づいて紙幣を識別する識別部とを備え、識別部は、紙幣を識別する場合、記憶部を参照し電子ボリュームを第2調整値に設定し発光させ、増幅出力が第2電圧であるか否かを判別し、増幅出力が第2電圧ではない場合に増幅出力を第2電圧とするための電子ボリュームの第3調整値を求め、第2調整値及び第3調整値の差分値を求め、記憶部を参照し電子ボリュームを第1調整値と差分値に応じた値との加算値に設定し発光させ、紙幣の搬送を許可する紙幣識別装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば両替機、玉替機、自動販売機等に搭載されて、これらの機器の利用者が挿入する紙幣の真偽や種別等を識別する紙幣識別装置が知られている。この紙幣識別装置は、発光素子及び受光素子からなる光センサを、紙幣の搬送路に備えている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
発光素子からの光は、搬送路を通過する紙幣に対し透過又は反射した後、受光素子により受光される。一般に、真偽や種別等が異なる紙幣ごとにその表面の印刷パターンは異なり、紙幣からの透過光又は反射光の光量は同印刷パターンに応じて異なる。よって、受光素子により受光される透過光又は反射光の光量に基づいて、紙幣の真偽や種別等を識別できる。更に、受光素子の受光出力を増幅器により増幅すれば、同増幅器の増幅出力に基づいて、紙幣をより高精度で識別できる。
【0004】
紙幣の識別にあたって、例えば表面に印刷パターンのない白紙等(基準媒体)に対する増幅器の増幅出力が、紙幣を識別可能な基準レベルに達している必要がある。そこで、例えば、紙幣識別装置の出荷前に、発光素子の発光出力をDAコンバータ等の調整手段によって調整し、増幅器の増幅出力を基準レベルに予め設定しておく。これにより、出荷後に、紙幣識別装置は、光路に介在する紙幣を、増幅出力に基づいて識別できる。
【0005】
ところで、光センサにおける発光出力に対する受光出力の関係は、各素子(発光素子及び受光素子)の温度特性の変化や経年変化等にともない変化する。しかし、利用者が挿入する紙幣を取り込んだ状態で、限られた時間内に、増幅出力を前述した基準レベルに再設定することは極めて困難である。そこで、以下のような紙幣識別装置が開示されている。
【0006】
例えば、各素子の温度特性の変化や経年変化等に起因する増幅出力の変化を予め想定し、前述した基準レベルの許容幅を予めこの変化幅とすることによって、紙幣を所定の精度で識別する紙幣識別装置が知られている。
【0007】
また、例えば、増幅器の増幅率の高低を切り替える電子ボリューム等の切替手段を備えた紙幣識別装置が知られている。切替手段によって増幅率を低い方に切り替えれば、紙幣識別装置の出荷前後にかかわらず、紙幣が光路に介在しないときの増幅出力を、これが増幅器の飽和領域に入ることを回避しつつ、例えば前述した基準レベルに設定できる。この設定の後、切替手段によって増幅率を高い方に切り替えれば、利用者が挿入する紙幣を取り込んだとき、光路に介在する紙幣を、増幅出力に基づいて識別できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−284391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した発光素子及び受光素子の温度特性の変化や経年変化等に起因する増幅出力の変化幅を予め基準レベルの許容幅とした紙幣識別装置の場合、この幅に相当する増幅出力の差を区別できないため、やはり紙幣の真偽や種別等の識別精度が低下するという問題がある。
また、前述した増幅器の増幅率の切替手段を備えた紙幣識別装置の場合、同手段を新たに追加する分だけ製造コストが嵩むのみならず、部品が増加した分だけ例えばプリント基板における占有面積が増加するため、同装置の小型化が困難になるという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、紙幣の識別精度が良好な小型且つ低コストの紙幣識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための発明は、紙幣の搬送路に配置され、前記紙幣の搬送方向と交差する方向に光路を形成する発光素子及び受光素子からなる光センサと、前記発光素子の発光出力を調整する電子ボリュームと、前記受光素子の受光出力を増幅する増幅器と、前記紙幣が前記光路に介在するときの前記増幅器の増幅出力を前記紙幣を識別可能な第1電圧とするための前記電子ボリュームの第1調整値と、前記紙幣が前記光路に介在しないときの前記増幅器の増幅出力を前記増幅器の非飽和領域の第2電圧とするための前記電子ボリュームの第2調整値と、が予め記憶された記憶部と、前記紙幣が前記光路を通過するときの前記増幅器の増幅出力に基づいて前記紙幣を識別する識別部と、を備え、前記識別部は、前記紙幣を識別する場合、前記記憶部を参照し、前記電子ボリュームを前記第2調整値に設定し、前記発光素子を発光させる工程と、前記増幅器の増幅出力が前記第2電圧であるか否かを判別する工程と、前記増幅器の増幅出力が前記第2電圧ではない場合、前記増幅器の増幅出力を前記第2電圧とするための前記電子ボリュームの第3調整値を求める工程と、前記第2調整値及び前記第3調整値の差分値を求める工程と、前記記憶部を参照し、前記電子ボリュームを前記第1調整値と前記差分値に応じた値との加算値に設定し、前記発光素子を発光させる工程と、前記搬送路に対する前記紙幣の搬送を許可する工程と、を実行することを特徴とする紙幣識別装置である。
この紙幣識別装置によれば、紙幣を識別するべく光路に介在する位置まで同紙幣を搬送する前に、増幅器の非飽和領域の増幅出力(第2電圧)を与える電子ボリュームの調整値に関して、例えば初期設定された第2調整値からのずれである差分値を得ることができる。次に、光路に介在する位置まで紙幣を搬送する前に、電子ボリュームの調整値に関して、例えば初期設定された第1調整値に対し前述した差分値に対応する値を加算して得た加算値とすることによって、同紙幣を識別可能な増幅出力を得ることができる。よって、電子ボリュームの例えば初期設定以後も、紙幣が光路に介在するときの増幅出力の値が略第1電圧となるように補正される。更に、識別部の一連の処理工程において例えば増幅器の増幅率の変更等がないため、このための変更手段を必要としない分だけ小型且つ低コスト化できる。以上から、紙幣の識別精度が良好な小型且つ低コストの紙幣識別装置が提供される。
【0012】
また、かかる紙幣識別装置において、前記電子ボリュームは、並列接続される複数の調整抵抗と、前記複数の調整抵抗に直列接続される複数のスイッチ素子とを有するとともに、前記発光素子に直列接続され、前記複数のスイッチ素子は、前記識別部からの指示に基づいて、前記電子ボリュームの調整値を設定するために選択的にオンオフすることが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、複数のスイッチ素子の選択的なオンオフを通じて電子ボリューム全体の合成抵抗値を変えることによって、同ボリュームと直列接続される発光素子を流れる電流(即ち、発光出力)を調整できる。つまり、複数の調整抵抗及びスイッチ素子を有する比較的簡単な構成を採用することによって、紙幣識別装置のより一層の低コスト化が図れる。
【0013】
また、かかる紙幣識別装置において、前記電子ボリュームは、前記複数の調整抵抗に並列接続される所定値の固定抵抗を有することが好ましい。
この紙幣識別装置によれば、複数のスイッチ素子が全てオフの状態であっても、発光素子に対し、固定抵抗を通じてその所定値に応じた基底電流を流すことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紙幣の識別精度が良好な小型且つ低コストの紙幣識別装置を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態の紙幣識別装置1の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1の電子ボリューム60の周辺構成例をより詳細に示すブロック図である。
【図3】図1の電子ボリューム60の周辺構成例をより詳細に示すもう一つのブロック図である。
【図4】紙幣識別装置1の出荷前における電子ボリューム60の初期設定手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】紙幣識別装置1の出荷後における増幅器21、22の出力電圧の補正手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】紙幣識別装置1の出荷前後及び媒体(紙幣や白紙等)の有無ごとの電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値に対する増幅器21、22の出力電圧の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
===紙幣識別装置の構成===
図1乃至図3を参照しつつ、本実施の形態の紙幣識別装置1の構成例について説明する。図1は、紙幣識別装置1の構成例を示すブロック図であり、図2は、電子ボリューム60の周辺構成例をより詳細に示すブロック図であり、図3は、電子ボリューム60の周辺構成例をより詳細に示すもう一つのブロック図である。尚、図中において点線で表わしたCPU70との接続線は、同CPU70による制御のための通信線を意味する。
図1に例示されるように、紙幣識別装置1は、光センサ10と、電子ボリューム60と、増幅器21、22と、メモリ(記憶部)80と、CPU(識別部)70とを備えている。
【0017】
<<<光センサ>>>
光センサ10は、図1に例示されるように、搬送路2に対し例えば直交する方向に対をなす発光素子11a及び受光素子12aと、同搬送路2に対し例えば直交する方向に対をなす発光素子11b及び受光素子12bとから構成されている。尚、これらの二対は搬送路2に対し紙幣の搬送方向に沿って所定距離を隔てて配置されている。また、図1では図示の便宜上二対示されているが、一対又は三対以上であってもよい。
【0018】
発光素子11a、11b(「発光素子11」と総称する)のそれぞれは、例えば赤外及び赤色の2波長分のLED(発光ダイオード)からなっており、例えばPD(フォトダイオード)からなる受光素子12a、12b(「受光素子12」と総称する)に対し、紙幣を透過する方向に光路を形成するようになっている。
【0019】
発光素子11aの赤外のLEDには点灯回路31が接続され、同発光素子11aの赤色のLEDには点灯回路33が接続されるとともに、双方のLEDには直流電源13aが接続されている。また、発光素子11bの赤外及び赤色のLEDも同様に、点灯回路32、34がそれぞれ接続されるとともに、双方のLEDには直流電源13bが接続されている。
【0020】
図3に例示されるように、発光素子11aの赤外のLED(図3における説明に限り「LED11a」と称する)と、点灯回路31を構成するNPN型のバイポーラトランジスタ311と、電子ボリューム60における固定抵抗RKとは、直列に接続されている。詳しくは、LED11aのアノードが直流電源13a(例えば5V)に接続され、LED11aのカソードとトランジスタ311の入力電極(コレクタ)とが接続され、トランジスタ311の出力電極(エミッタ)と固定抵抗RKの一端とが接続され、固定抵抗RKの他端が接地されている。CPU70からトランジスタ311の制御電極(ベース)に対し制御電圧を印加することにより、トランジスタ311はオンするようになっている。
【0021】
尚、図3では、説明の便宜上、アナログスイッチ40(図2参照)によって電子ボリューム60と点灯回路31とが接続された構成のみが例示され、同アナログスイッチ40自体は省略されている。
【0022】
以上は、他の点灯回路32、33、34及び他の発光素子(発光素子11aの赤色のLED、発光素子11bの赤外及び赤色のLED)の構成に対しても同様である。
【0023】
<<<電子ボリューム>>>
電子ボリューム60は、図2及び図3に例示されるように、並列接続される例えば6段からなる調整抵抗R0(第1段)、R1(第2段)、R2(第3段)、R3(第4段)、R4(第5段)、及びR5(第6段)と、これらにそれぞれ直列接続される同じく6段からなるスイッチ素子S0(第1段)、S1(第2段)、S2(第3段)、S3(第4段)、S4(第5段)、及びS5(第6段)とを備えるとともに、アナログスイッチ40を介して発光素子11の点灯回路31、32、33、34の何れか1つに直列接続されるように構成されている。また、この電子ボリューム60は、これらの調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、及びR5に対し更に並列接続される所定値の固定抵抗RKを備えている。尚、電子ボリューム60の段数は全6段に限定されるものではなく、一般に複数段であればよい。
【0024】
スイッチ素子S0、S1、S2、S3、S4、及びS5は、CPU70のポート0、ポート1、ポート2、ポート3、ポート4、及びポート5からそれぞれ送信される、電圧の高低でオンオフを示す指示信号に基づいて、電子ボリューム60の調整値を設定するために選択的にオンオフするようになっている。つまり、複数のうちの何れか1つのオン状態のスイッチ素子(即ち、対応する調整抵抗)に応じた大きさの電流が発光素子11に供給されるようになっている。
【0025】
尚、本実施の形態の調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、及びR5の抵抗値は、それぞれ32r、16r、8r、4r、2r、及びrのようになっている。ここで、「r」は、調整抵抗R5の抵抗値を意味する。つまり、オンとされるスイッチ素子の段数を1段上げることにより、対応する段の調整抵抗の抵抗値は半分になる。よって、オン状態のスイッチ素子の段数が1段ずつ上がると、発光素子11に流れる電流は等差で大きくなる。
【0026】
また、本実施の形態では、固定抵抗RKによって、発光素子11には例えば0.1mA程度の基底電流が流れるようになっている。
【0027】
更に、本実施の形態では、図3に例示されるように、電子ボリューム60は、トランジスタ311を介して、LED11aに間接的に直列接続されているが、これに限定されるものではない。例えば、電子ボリューム60は、LED11aに直接的に直列接続されてもよく、この場合、LED11aを点灯させるとき、直流電源13aからの電源電圧をLED11aに投入するようにしてもよい。
【0028】
<<<増幅器>>>
増幅器21、22は、図1に例示されるように、受光素子12a、12bからの出力電圧(受光出力)をそれぞれ増幅した電圧(増幅出力)を出力する。
尚、本実施の形態の増幅器21、22の出力電圧は、後述するように、媒体(紙幣や白紙等)が光センサ10の光路に介在する場合に紙幣を識別可能な出力電圧となるように、電子ボリューム60の調整抵抗が選択される。しかし、これも後述するように、媒体が光路に介在しない場合には、同媒体が介在する場合に選択された調整抵抗をそのまま用いると、増幅器21、22の出力電圧はその飽和領域に達することになる。
【0029】
<<<メモリ>>>
メモリ80は、紙幣識別装置1の出荷前に例えば工場等において初期設定された「媒体(紙幣や白紙等)あり」及び「媒体なし」の状態ごとの電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値を示す情報と、同抵抗値における増幅器21、22の出力電圧を示す情報とを対応付けて記憶する例えば不揮発メモリである。
また、このメモリ80は、紙幣識別装置1の出荷後、搬送路2の紙幣挿入口に挿入された紙幣を取り込む前の「媒体なし」状態(待機状態)で再調整される電子ボリューム60の調整抵抗に対応する値を示す情報を記憶する。
更に、このメモリ80は、搬送路2の紙幣挿入口に挿入された紙幣を取り込んだとき、光センサ10の光路を紙幣が通過する間、同紙幣を識別するべく例えば一定のタイミングでサンプリングされた増幅器21、22の出力電圧を示す情報を記憶する。
【0030】
<<<CPU>>>
CPU70は、増幅器21、22の出力電圧を補正したり、この補正後に、紙幣を識別するべく増幅器21、22の出力電圧の時間変化を解析したりする。
増幅器21、22の出力電圧を受信する場合、CPU70は、タイマ(不図示)等により計時される所定の時間刻みで、例えば、発光素子11aの赤外のLEDを点灯させ、発光素子11bの赤外のLEDを点灯させ、発光素子11aに赤色のLEDを点灯させ、発光素子11bの赤色のLEDを点灯させるべくアナログスイッチ40及び点灯回路31、32、33、34を制御する。
【0031】
<<<入口センサ、アナログスイッチ、固定抵抗>>>
図1に例示されるように、紙幣識別装置1は、入口センサ3と、アナログスイッチ40と、固定抵抗51、52、53、54とを更に備えている。
【0032】
入口センサ3は、搬送路2の入口に紙幣が挿入されたことを検出するための例えば光センサやメカニカルスイッチ等である。
【0033】
アナログスイッチ40は、1つの電子ボリューム60を、4つの点灯回路31、32、33、34の何れか1つに対し例えば時分割で切り替えて接続する切替手段である。
【0034】
固定抵抗51、52、53、54は、点灯回路31、32、33、34とそれぞれ対応し、アナログスイッチ40を介して電子ボリューム60と接続されていない何れか3つの点灯回路(例えば点灯回路32、33、34)に対し、対応する3つの固定抵抗(例えば固定抵抗52、53、54)がそれぞれ直列に接続されるようになっている。一方、アナログスイッチ40により電子ボリューム60と接続されている何れか1つの点灯回路(例えば点灯回路31)に対し、対応する1つの固定抵抗(例えば固定抵抗51)が電子ボリューム60の固定抵抗RK(図2参照)と並列に接続されるようになっている。
【0035】
尚、前述した電子ボリューム60には、固定抵抗RKがなくてもよい。この場合、アナログスイッチ40により選択される何れか1つの点灯回路(例えば点灯回路31)に直列接続される固定抵抗(例えば固定抵抗51)が、電子ボリューム60の調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、R5と並列接続されて、固定抵抗RKと同じ機能を果たす。
【0036】
また、各固定抵抗51、52、53、54の抵抗値を、発光素子11が消灯状態となる程度まで大きく設定してもよい。これにより、アナログスイッチ40により選択されていない点灯回路31、32、33、34に対応する発光素子11は、同回路のオンオフと関係なく消灯される。
【0037】
===紙幣識別装置の動作===
図4乃至図6を参照しつつ、前述した構成を備えた紙幣識別装置1の動作例について説明する。図4は、紙幣識別装置1の出荷前における電子ボリューム60の初期設定手順の一例を示すフローチャートであり、図5は、紙幣識別装置1の出荷後における増幅器21、22の出力電圧の補正手順の一例を示すフローチャートであり、図6は、紙幣識別装置1の出荷前後及び媒体(紙幣や白紙等)の有無ごとの電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値に対する増幅器21、22の出力電圧の関係の一例を示すグラフである。
【0038】
<<<出荷前>>>
本実施の形態では、紙幣識別装置1の出荷前の例えば工場等において、「媒体(白紙等)あり」状態及び「媒体なし」状態ごとに、増幅器21、22が以下述べる出力電圧(図6のVa、Vb)を与えるように、電子ボリューム60の調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、及びR5の初期設定が行われる。具体的には、作業者が、所定の入力手段(不図示)を通じて、アナログスイッチ40を切り替えつつ、発光素子11aの赤外のLED、発光素子11bの赤外のLED、発光素子11aの赤色のLED、発光素子11bの赤色のLEDのそれぞれに対し、電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値を初期設定する。尚、以下の例では、発光素子11aの赤外のLEDに対する電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値の初期設定について説明するが、他のLEDに対しても、同様の初期設定が行なわれるものとする。
【0039】
図4に例示されるように、先ず、作業者は、例えば白紙等の基準媒体を光センサ10の光路に介在するように搬送路2に配置させる(S100)。
【0040】
作業者は、発光素子11aと対をなす受光素子12aの増幅器21の出力電圧が紙幣を識別可能なVa(第1電圧)となるように、前述した入力手段を通じて、電子ボリューム60のスイッチ素子S0、S1、S2、S3、S4、及びS5の何れか1つをオン状態とする(S101)。尚、出力電圧Vaは、例えば実験等で予め得られているものとする。前述したように、スイッチ素子(即ち、調整抵抗)に対して、1段ずつ増えると発光素子11aに流れる電流が等差で大きくなる段数(第1段乃至第6段)が対応付けられているため、作業者は、選択する段数を上げて発光素子11aの発光出力を大きくしたり、或いは、選択する段数を下げて発光素子11aの発光出力を小さくしたりする。以上により、増幅器21の出力電圧がVaとなるための電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値(第1調整値)が得られる。尚、この調整抵抗は、以下述べるメモリ80に記憶される場合、対応する段数(第1段乃至第6段)で特定されてもよいし、或いは、抵抗値で特定されてもよい。但し、説明の便宜上、電子ボリューム60の調整動作の説明(例えば1段上げる又は下げる)以外では、調整抵抗をその抵抗値で特定することとする。
【0041】
紙幣識別装置1のCPU70は、前述した出力電圧Vaを示す情報と、前述した調整抵抗の抵抗値Raを示す情報とを、「媒体あり」状態を示す情報と対応付けてメモリ80に記憶させる(S102)。この状態は、図6に例示される調整抵抗の抵抗値と増幅器21の出力電圧との関係を示す「出荷前且つ媒体あり」の実線上の点Aの状態に相当する。
【0042】
次に、作業者は、基準媒体を搬送路2から排出させる(S103)。
【0043】
作業者は、前述したステップS101の工程と同様に、増幅器21の出力電圧が同増幅器21の非飽和領域のVb(第2電圧)となるように、電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値を設定する(S104)。前述したステップS101の工程で設定された調整抵抗の抵抗値Raのままでは、搬送路2に媒体がない場合の増幅器21の出力電圧は、図6に例示される点Cの飽和領域の電圧になってしまう。そこで、調整抵抗をその抵抗値が大きくなる方向(図6の点Cから点Bへ向かう太線の矢印参照)に変更して(第2調整値)、増幅器21の出力電圧を同増幅器21の例えば線形性を有する非飽和領域のVbとする。尚、出力電圧Vbは、例えば実験等で予め得られているものとする。
【0044】
紙幣識別装置1のCPU70は、前述した出力電圧Vbを示す情報と、前述した調整抵抗の抵抗値Rb(Rb>Ra)を示す情報とを、「媒体なし」状態を示す情報と対応付けてメモリ80に記憶させる(S105)。この状態は、図6に例示される調整抵抗の抵抗値と増幅器21の出力電圧との関係を示す「出荷前且つ媒体なし」の実線上の点Bの状態に相当する。
【0045】
<<<出荷後>>>
本実施の形態では、出荷後の紙幣識別装置1において、発光素子11及び受光素子12の温度特性の変化や経年変化等に起因して、増幅器21の出力電圧が出荷前よりも低下したものとする(図6の2つの点線を参照)。
【0046】
図4に例示されるように、CPU70は、入口センサ3を通じて紙幣が挿入されたか否かを判別する(S200)。
【0047】
紙幣が挿入されたと判別した場合(S200:YES)、CPU70は、メモリ80を参照して、「媒体なし」状態に対応する前述した出力電圧Vb及び調整抵抗の抵抗値Rbを読み出し、電子ボリューム60の調整抵抗を抵抗値Rbに設定し(S201)、アナログスイッチ40及び点灯回路31を制御して、発光素子11aの赤外のLEDを点灯させる(S202)。
【0048】
CPU70は、増幅器21の出力電圧Vを検出し(S203)、この出力電圧Vと、メモリ80から読み出した出力電圧Vbとを比較して、その大小関係を判別する(S204)。
【0049】
出力電圧Vが出力電圧Vbよりも大きいと判別した場合(S204:V>Vb)、CPU70は、電子ボリューム60の調整抵抗の段数を1段下げることによって(抵抗値をより小さくすることによって)、発光素子11aに流れる電流をより大きくし(S205)、ステップS203の処理を再度実行する。
【0050】
出力電圧Vが出力電圧Vbよりも小さいと判別した場合(S204:V<Vb)、CPU70は、電子ボリューム60の調整抵抗の段数を1段上げることによって(抵抗値をより大きくすることによって)、発光素子11aに流れる電流をより小さくし(S206)、ステップS203の処理を再度実行する。
【0051】
出力電圧Vが出力電圧Vbと等しいと判別した場合(S204:V=Vb)、CPU70は、電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値(図6のRb’(<Rb)、第3調整値)と、メモリ80から読み出した調整抵抗の抵抗値Rbとの差分値(図6のΔRb(=Rb’−Rb))を求めて、同差分値を示す情報をメモリ80に記憶させる(S207)。
【0052】
図6に例示されるように、増幅器21の出力電圧が出荷前よりも低下したため、「出荷前且つ媒体なし」の実線は、「出荷後且つ媒体なし」の点線に遷移している。このため、実線上の点Bにおける出力電圧Vbを、点線上においても維持するためには、電子ボリューム60の設定を、点Bの調整抵抗の抵抗値Rbから点B’の調整抵抗の抵抗値Rb’に変更する必要がある。
【0053】
CPU70は、メモリ80を参照して、「媒体あり」状態に対応する前述した調整抵抗の抵抗値Raを読み出し、電子ボリューム60の調整抵抗を抵抗値Raに設定する(S208)。
【0054】
CPU70は、メモリ80を参照して、前述した差分値ΔRb(<0)を読み出し、同差分値だけ電子ボリューム60の設定を変更する(S209)。具体的には、CPU70は、電子ボリューム60の調整抵抗の段数をΔRbに相当する段数分だけ下げることによって(抵抗値をより小さくすることによって)、発光素子11aに流れる電流をより大きくする。
【0055】
図6に例示されるように、増幅器21の出力電圧が出荷前よりも低下したため、「出荷前且つ媒体あり」の実線は、「出荷後且つ媒体あり」の点線に遷移している。このため、実線上の点Aにおける出力電圧Vaを、点線上においても維持するためには、電子ボリューム60の設定を、点Aの調整抵抗の抵抗値Raから点A’の調整抵抗の抵抗値Ra’に変更する必要がある。しかし、「出荷後且つ媒体あり」の状態で電子ボリューム60を自動的に再設定することは困難であるため、前述した「媒体あり」の状態(待機状態)で求めた差分値ΔRb(<0)を調整抵抗の抵抗値Raに加算して得た加算値(Ra+ΔRb)をもって、点A’における調整抵抗の抵抗値Ra’の近似値としている。つまり、実際に求めることが困難な差分値ΔRa(=Ra’−Ra)を、求めることができた差分値ΔRbと略等しいと近似して、「出荷後且つ媒体あり」の状態での電子ボリューム60を再設定している。
【0056】
尚、前述した加算値は、差分値ΔRbを調整抵抗の抵抗値Raに加算して得た値に限定されるものではなく、例えば差分値ΔRbに対し所定の係数を加減乗除して得た値(差分値に応じた値)を、調整抵抗の抵抗値Raに加算した得た値であってもよい。例えば経験的又は非経験的に求められた所定の係数を用いることによって、調整抵抗の抵抗値Ra’に対する加算値の近似を向上させることができる。
【0057】
以上述べたステップS201乃至S209は、発光素子11aの赤外のLEDに対する電子ボリューム60の再設定に関する処理であるが、他のLEDについても、ステップS201乃至S209と同様の処理が同LEDの数だけ繰り返される。
【0058】
CPU70は、所定の駆動モータ等(不図示)を制御して、搬送路2の紙幣挿入口に挿入された紙幣を識別するべく、同紙幣を光センサ10の光路に介在する位置まで取り込む動作を開始させる(S210)。
【0059】
尚、その後、CPU70は、光センサ10の光路を紙幣が通過する間、同紙幣を識別するべく一定のタイミングで増幅器21、22の出力電圧をサンプリングし、その結果である時系列情報をメモリ80に記憶させる。例えば種別の異なる真札及び偽札は、表面の印刷パターンが異なるが故に、増幅器21、22の出力電圧の時系列パターンも異なっている。そこで、真札に関する出力電圧の時系列パターンを予め種別ごとにメモリ80に記憶しておき、挿入された紙幣の時系列パターンと比較することによって、挿入された紙幣の真偽、及び真札の場合にはその種別を識別できる。
【0060】
本実施の形態の紙幣識別装置1は、少なくとも、紙幣の搬送路2に配置され、紙幣の搬送方向と交差する方向に光路を形成する発光素子(例えば発光素子11a、11b)及び受光素子(例えば受光素子12a、12b)からなる光センサ(例えば光センサ10)と、発光素子の発光出力を調整する電子ボリューム(例えば電子ボリューム60)と、受光素子の受光出力を増幅する増幅器(例えば増幅器21、22)と、紙幣が光路に介在するときの増幅器の増幅出力を紙幣を識別可能な第1電圧(例えば図6のVa)とするための電子ボリュームの第1調整値(例えば図6のRa)と、紙幣が光路に介在しないときの増幅器の増幅出力を増幅器の非飽和領域の第2電圧(例えば図6のVb)とするための電子ボリュームの第2調整値(例えば図6のRb)とが予め記憶されたメモリ80と、紙幣が光路を通過するときの増幅器の増幅出力に基づいて紙幣を識別するCPU70とを備え、CPU70は、紙幣を識別する場合、メモリ80を参照し、電子ボリュームを第2調整値に設定し、発光素子を発光させる工程と、増幅器の増幅出力が第2電圧であるか否かを判別する工程と、増幅器の増幅出力が第2電圧ではない場合、増幅器の増幅出力を第2電圧とするための電子ボリュームの第3調整値(例えば図6のRb’)を求める工程と、第2調整値及び第3調整値の差分値(例えば図6のΔRb)を求める工程と、メモリ80を参照し、電子ボリュームを第1調整値と差分値に応じた値(例えば図6のΔRb)との加算値(例えばRa+ΔRb)に設定し、発光素子を発光させる工程と、搬送路2に対する紙幣の搬送を許可する工程とを実行すればよい。
【0061】
この紙幣識別装置1によれば、紙幣を識別するべく光路に介在する位置まで同紙幣を搬送する前に、増幅器の非飽和領域の増幅出力(第2電圧)を与える電子ボリュームの調整値に関して、例えば初期設定された第2調整値からのずれである差分値を得ることができる。次に、光路に介在する位置まで紙幣を搬送する前に、電子ボリュームの調整値に関して、例えば初期設定された第1調整値に対し前述した差分値に対応する値を加算して得た加算値とすることによって、同紙幣を識別可能な増幅出力を得ることができる。よって、電子ボリュームの例えば初期設定以後も、紙幣が光路に介在するときの増幅出力の値が略第1電圧となるように補正される。更に、識別部の一連の処理工程において例えば増幅器の増幅率の変更等がないため、このための変更手段を必要としない分だけ小型且つ低コスト化できる。以上から、紙幣の識別精度が良好な小型且つ低コストの紙幣識別装置1が提供される。
【0062】
また、前述した紙幣識別装置1において、電子ボリュームは、並列接続される複数の調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、及びR5と、複数の調整抵抗に直列接続される複数のスイッチ素子S0、S1、S2、S3、S4、及びS5とを有するとともに、発光素子に直列接続され、複数のスイッチ素子は、CPU70からの指示に基づいて、電子ボリュームの調整値を設定するために選択的にオンオフする。
この紙幣識別装置1によれば、複数のスイッチ素子の選択的なオンオフを通じて電子ボリューム全体の合成抵抗値を変えることによって、同ボリュームと直列接続される発光素子を流れる電流(即ち、発光出力)を調整できる。つまり、複数の調整抵抗及びスイッチ素子を有する比較的簡単な構成を採用することによって、紙幣識別装置1のより一層の低コスト化が図れる。
【0063】
また、前述した紙幣識別装置1において、電子ボリュームは、複数の調整抵抗に並列接続される所定値の固定抵抗RKを有する。
この紙幣識別装置1によれば、複数のスイッチ素子が全てオフの状態であっても、発光素子に対し、固定抵抗RKを通じてその所定値に応じた基底電流を流すことができる。
【0064】
尚、前述した実施の形態では、電子ボリューム60は、調整抵抗R0、R1、R2、R3、R4、及びR5の何れか1つのみを選択するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、これらの調整抵抗のうちの何れか1以上を選択するものであってもよい。この場合、電子ボリューム60の調整値は、1以上の調整抵抗の組合せにより特定される。このような1以上の組合せの場合、各調整抵抗の抵抗値は同一であってもよい。
【0065】
また、前述した実施の形態では、出荷後の紙幣識別装置1において、発光素子11及び受光素子12の温度特性の変化や経年変化等に起因して、増幅器21の出力電圧が出荷前よりも低下したことを前提としたが、これに限定されるものではない。例えば、発光素子11及び受光素子12の温度特性の変化に起因したとすれば、周囲の温度によっては、増幅器21の出力電圧が初期設定値よりも上昇する場合がある。この場合、前述した電子ボリューム60の調整抵抗の差分値ΔRbは正の値となる。
【0066】
===その他の実施の形態===
前述した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0067】
前述した実施の形態では、「媒体(白紙等)あり」及び「媒体なし」の状態ごとの電子ボリューム60の調整抵抗の抵抗値を初期設定する操作が、紙幣識別装置1の出荷前に工場で行なわれるものであったが、これに限定されるものではない。このような人間系による設定操作であっても、例えば紙幣識別装置1がその出荷後に既に稼動している途中で所定の作業者により適時行なわれてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 紙幣識別装置 2 搬送路 3 入口センサ 10 光センサ
11、11a、11b 発光素子 12、12a、12b 受光素子
13a、13b 電源 21、22 増幅器
31、32、33、34 点灯回路 40 アナログスイッチ
51、52、53、54 固定抵抗 60 電子ボリューム
70 CPU 80 メモリ 311 NPN型バイポーラトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣の搬送路に配置され、前記紙幣の搬送方向と交差する方向に光路を形成する発光素子及び受光素子からなる光センサと、
前記発光素子の発光出力を調整する電子ボリュームと、
前記受光素子の受光出力を増幅する増幅器と、
前記紙幣が前記光路に介在するときの前記増幅器の増幅出力を前記紙幣を識別可能な第1電圧とするための前記電子ボリュームの第1調整値と、前記紙幣が前記光路に介在しないときの前記増幅器の増幅出力を前記増幅器の非飽和領域の第2電圧とするための前記電子ボリュームの第2調整値と、が予め記憶された記憶部と、
前記紙幣が前記光路を通過するときの前記増幅器の増幅出力に基づいて前記紙幣を識別する識別部と、を備え、
前記識別部は、
前記紙幣を識別する場合、
前記記憶部を参照し、前記電子ボリュームを前記第2調整値に設定し、前記発光素子を発光させる工程と、
前記増幅器の増幅出力が前記第2電圧であるか否かを判別する工程と、
前記増幅器の増幅出力が前記第2電圧ではない場合、前記増幅器の増幅出力を前記第2電圧とするための前記電子ボリュームの第3調整値を求める工程と、
前記第2調整値及び前記第3調整値の差分値を求める工程と、
前記記憶部を参照し、前記電子ボリュームを前記第1調整値と前記差分値に応じた値との加算値に設定し、前記発光素子を発光させる工程と、
前記搬送路に対する前記紙幣の搬送を許可する工程と、を実行する
ことを特徴とする紙幣識別装置。
【請求項2】
前記電子ボリュームは、並列接続される複数の調整抵抗と、前記複数の調整抵抗に直列接続される複数のスイッチ素子とを有するとともに、前記発光素子に直列接続され、
前記複数のスイッチ素子は、前記識別部からの指示に基づいて、前記電子ボリュームの調整値を設定するために選択的にオンオフする
ことを特徴とする請求項1に記載の紙幣識別装置。
【請求項3】
前記電子ボリュームは、前記複数の調整抵抗に並列接続される所定値の固定抵抗を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の紙幣識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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