説明

紙幣鑑別装置

【課題】真券と偽券とを貼り合わせた変造紙幣を、紙幣に穴が開いていても確実に判別する。
【解決手段】被鑑別紙幣Pから受光した透過光の画像としての1次画像G1を作成する1次画像作成部と、1次画像中に被鑑別紙幣の表面に開いた穴に由来する画像部分が存在する場合に、穴を特定する穴特定部と、1次画像G1に対してゾーベルフィルタを作用させて2次画像G2を作成する2次画像作成部と、2次画像G2において、穴にゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた3次画像G3を作成する第1補正部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偽券部分と真券部分とが貼り合わされて作成された変造紙幣を鑑別する紙幣鑑別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真券の一部を切り取って、この切り取った部分に偽券を貼り合せることで形成された変造紙幣が増加している。一般に、この種の変造紙幣の鑑別には、画像処理により真券と偽券との貼り合せの境界を際立たせて検知する方法が取られる。より具体的には、貼り合せの境界で変化する輝度を際立たせるために、紙幣の透過画像に対してエッジ(輪郭)検出法の1種であるゾーベル(Sobel)フィルタを作用させる方法である(例えば、特許文献1参照)。この方法では、ゾーベルフィルタを作用させた画像から貼り合せの境界のエッジ画像を抽出し、このエッジ画像を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−299550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、特許文献1に記載されたゾーベルフィルタを用いる方法は、使用期間が短く比較的新しい紙幣に対しては有効である。しかし、長期間の使用により状態が悪くなった紙幣では問題が発生する場合がある。
【0005】
以下、この問題について説明する。長期間使用された紙幣には、表面に微細な穴が開く場合がある。その場合、表面に穴が開いた紙幣の透過画像に対してゾーベルフィルタを作用させると、貼り合せの境界のエッジ画像に加えて穴に由来するエッジ画像が生成される。そのため、穴に由来するエッジ画像と、貼り合せ境界に由来するエッジ画像とを区別することが困難になる。結果として、表面に穴が開いた古い紙幣の場合には、貼り合された変造紙幣か否かを正確に鑑別することが困難となる。
【0006】
この出願に係る発明者は、鋭意検討の結果、穴に由来するエッジ画像を補正することにより上述した課題を解決できることに想到した。
【0007】
従って、この発明の目的は、古くなって、表面に穴が開いた紙幣に関しても、従来よりも正確に貼り合せ変造紙幣か否かを鑑別することが可能な紙幣鑑別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的の達成を図るために、この発明の紙幣鑑別装置の実施形態によれば、被鑑別紙幣から受光した透過光の画像としての1次画像を作成する1次画像作成部と、1次画像中に前記被鑑別紙幣の表面に開いた穴に由来する画像部分が存在する場合に、穴の個数と、該被鑑別紙幣の短手方向及び長手方向を直交座標とする位置と、面積とを特定する穴特定部と、1次画像に対してゾーベルフィルタを作用させて2次画像を作成する2次画像作成部と、2次画像において、穴にゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の輝度レベルを表す画素値を0に変化させた3次画像を作成する第1補正部と、3次画像において、被鑑別紙幣に予め描かれている固有の模様にゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた4次画像を作成する第2補正部と、4次画像において、前記被鑑別紙幣の短手方向に画素値を累積した累積画素値の被鑑別紙幣の長手方向に関する分布としての累積画素値分布を求める累積画素値分布算出部と、累積画素値分布を予め定められた閾値と比較して、累積画素値分布>閾値の場合に、被鑑別紙幣を偽券と判断し、及び累積画素値分布≦閾値の場合に、被鑑別紙幣を真券と判断する判別部とを備える。
【0009】
この紙幣鑑別装置によれば、第1補正部が、2次画像において紙幣に開いた穴に画像部分の画素値を0(=黒)に変化させる。その結果、紙幣の真贋判別に悪影響を及ぼす紙幣の穴に由来するゾーベル画像を補正することができる。よって、紙幣に穴が開いているか否かに係わらず、安定して貼り合せ紙幣の真贋鑑別を行うことができる。
【0010】
この紙幣鑑別装置の好適な実施態様によれば、第2補正部は、穴が非存在かつ真正の被鑑別紙幣から受光した透過光の画像に対してゾーベルフィルタを作用させた画像としての辞書画像を予め記憶した辞書画像記憶部を有しており、3次画像の画素値から辞書画像の画素値を画素ごとに減算して、減算後の画素値が0以下の場合に、4次画像の当該画素における画素値を0とするのがよい。
【0011】
このように構成することにより、3次画像から紙幣に固有の模様に由来する画素部分を取り除くことができるので、貼り合せ紙幣の接合線に由来する画素部分をより一層強調することができる。
【0012】
この紙幣鑑別装置の別の好適な実施態様として、真券と判断された被鑑別紙幣について、穴が存在する場合には、穴の面積を、予め定められた閾値と比較して、穴の面積が閾値よりも大きい場合に、被鑑別紙幣を損券と判断する損券判別部を更に備えるのがよい。
【0013】
このように構成することにより、真券と判断された被鑑別紙幣について、損券か否かを判断することができる。
【0014】
この発明の別の紙幣鑑別装置は、被鑑別紙幣から受光した透過光の画像としての1次画像を作成する1次画像作成部と、1次画像中に被鑑別紙幣の表面に開いた穴に由来する画像部分が存在する場合に、穴の個数、位置及び面積を特定する穴特定部と、穴が存在する場合には、穴の面積を、予め定められた閾値と比較して、穴の面積が閾値よりも大きい場合に、被鑑別紙幣を損券と判断する損券判別部とを備える。
【0015】
この紙幣鑑別装置によれば、真券か否かの判断を行わずに、紙幣の透過光の画像から、紙幣の表面に開いた穴を検出し、この穴の面積を予め定められた閾値と比較して損券か否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の紙幣鑑別装置は、上述のように構成しているので、古くなって、表面に穴が開いた紙幣に関しても、従来よりも正確に貼り合せ変造紙幣か否かを安定して鑑別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この実施の形態の紙幣鑑別装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は、1次画像の模式的な平面図であり、(B)は、2次画像の模式的な平面図であり、(C)は、3次画像の模式的な平面図である。
【図3】(A)は、辞書画像の模式的な平面図であり、(B)は、4次画像の模式的な平面図であり、(C)は、累積画素値分布の説明に供する模式図である。
【図4】測定部の構成を模式的に示す図面である。
【図5】紙幣鑑別装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。なお、各図において各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示してある。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。また、各図において、共通する構成要素には同符号を付し、その説明を省略することもある。
【0019】
(構成)
図1〜図4を参照して、紙幣鑑別装置の構成について説明する。図1は紙幣鑑別装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0020】
紙幣鑑別装置10は、ハードウエア的な観点からは、紙幣受入部12と、1次画像作成部14と、紙幣保管庫16と、CPU(Central Processing Unit)18と、記憶部20とから構成されている。
【0021】
紙幣受入部12は、真贋を鑑別すべき被鑑別紙幣Pが投入される紙幣投入口である。
【0022】
1次画像作成部14は、測定部14aとA/D変換部14bとを備えており、被鑑別紙幣Pから受光した透過光の画像としての1次画像を作成する。より詳細には、測定部14aは、模式的に図4に示すように、光源Ltと受光部Jとを備えている。測定部14aは、紙幣受入部12に被鑑別紙幣Pが投入されたことをキーとして、光源Ltから、被鑑別紙幣Pに向けて白色光を照射する。照射された白色光は、被鑑別紙幣Pを透過して、被鑑別紙幣Pを挟んで光源Ltの反対側に設けられたCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子からなる受光部Jで撮像される。撮像素子で撮像された被鑑別紙幣Pの画像は、A/D変換部14bにより、例えば、256階調のグレースケール画像へとA/D変換され、記憶部20の画像記憶部20eに読み出し自在に記憶されると共に、1次画像G1として後述するCPU18の機能手段としての穴特定部18bへと出力される。
【0023】
ここで、図2(A)を参照して1次画像G1について簡単に説明する。図2(A)は、1次画像G1の模式的な平面図である。まず、図2(A)に示す1次画像G1から理解できるように、被鑑別紙幣Pは、真券部分p1と偽券部分p2とが接合線Eにおいて貼り合わされており、さらに、真券部分p1に、紙幣の表面から裏面までを貫通する微細な穴Hが開いているものとする。尚、例えば、一例として、A1は人物像の輪郭、B1は円形図形の輪郭及びC1は景色像の輪郭とする。このような被鑑別紙幣Pから得られる1次画像G1は、穴Hに対応する画素の画素値(輝度レベル)が最高値(=255)を示す。また、真券部分p1と偽券部分p2との間には微妙な色の違いがあることから、1次画像G1においては、接合線Eを境にして真券部分p1と偽券部分p2とで画素値が微妙に変化する。
【0024】
再び図1に戻ると、紙幣保管庫16は、偽券保管庫16aと、損券金庫16bと、金庫16cとを備えている。紙幣保管庫16は、後述する方法により真贋と損券か否かとが判断された被鑑別紙幣Pを、真贋と損券か否かとで分類して保管する保管庫である。より詳細には、偽券保管庫16aには、偽券と判断された被鑑別紙幣Pが保管される。損券金庫16bには、真券と判断されたものの、表面に一定面積以上の穴が開いている、言わば使い古された被鑑別紙幣Pが保管される。金庫16cには、表面に一定面積以上の穴を有さない真券、言わば、新品に近い被鑑別紙幣Pが保管される。
【0025】
CPU18は、ハードウエア的な観点からは、図示しない制御部と演算部と内部記憶部とを備えている。制御部は、CPU18の全体的な動作を制御する。演算部は、記憶部20から読み出されたプログラムを実行することにより、後述する各種機能手段を実現する。内部記憶部は、演算部でのプログラムの実行に伴い生じる変数を1時的に記憶するレジスタである。
【0026】
以下、CPU18の演算部により実現される各種の機能手段について説明する。CPU18は、機能的な観点からは、好ましくは、装置制御部18aと、穴特定部18bと、2次画像作成部18cと、第1補正部18dと、第2補正部18eと、累積画素値分布算出部18fと、判別部18gと、損券判別部18hとを備える。
【0027】
装置制御部18aは、紙幣鑑別装置10の全体的な動作を制御する。例えば、装置制御部18aは、被鑑別紙幣Pが紙幣受入部12に投入されたことを検知すると、紙幣受入部12の蓋を閉め、1次画像作成部14に指令を出して、被鑑別紙幣Pの1次画像G1を作成させる。この1次画像作成部14は、例えば、被鑑別紙幣Pの長手方向に沿って読み取り走行させてこれと直交する短手方向に沿ったライン毎に画像の読み取りが行われる。従って、長手方向を直交座標系のx方向とし、短手方向をy方向とする。
【0028】
穴特定部18bは、1次画像G1の中(図2(A))に被鑑別紙幣Pの表面に開いた穴Hに由来する画像部分が存在する場合に、穴の個数、位置及び面積を特定する。この場合、好ましくは、穴の位置は、被鑑別紙幣Pの短手方向及び長手方向を直交座標系とする座標上での位置とするのがよい。より詳細には、穴特定部18bには、1次画像作成部14から1次画像G1が入力される。穴特定部18bは、入力された1次画像G1から、白色光源の色がそのまま見えている画素、つまり画素値が最高値(=255(白色))を示す画素を検索し、この画素を穴Hと判断する。そして、穴の個数、それぞれの穴の位置としての1次画像G1の中での座標、及びそれぞれの穴の面積を従来公知の方法で測定する。そして、これらの情報を、後述する記憶部20の穴情報記憶部20aへと読み出し自在に記憶する。
【0029】
2次画像作成部18cは、画像記憶部20eから読み出された1次画像G1に対してゾーベルフィルタを作用させて2次画像G2を作成して、画像記憶部20eに読み出し自在に記憶する。より詳細には、2次画像作成部18cには、穴特定部18bで穴Hが特定された1次画像G1(図2(A))が入力される。1次画像G1が入力されると、2次画像作成部18cは、1次画像G1に対して、従来公知の水平方向及び垂直方向のゾーベルフィルタを作用させ、2次画像G2を作成する。
【0030】
ここで、図2(B)を参照して、2次画像G2について簡単に説明する。従来公知のようにゾーベルフィルタは、注目画素を中心とした上下左右の画素の画素値(輝度レベル)が変化している注目画素については、画素値をゾーベルフィルタの演算で定まる0(ゼロ)以外の値とする。逆に、上下左右の画素値(輝度レベル)が変化しない注目画素については、画素値を0(ゼロ)すなわち、黒色とする。
【0031】
このことより、図2(A)に示す1次画像G1に対してゾーベルフィルタを作用すると、得られる2次画像G2は、図2(B)に示すように、穴Hに対応する位置で、環状に画素値が255(白色)の値を持つこととなる。また、2次画像G2では、真券部分p1と偽券部分p2との接合線Eに対応して、直線状に画素値が0(ゼロ)以外の値を持つ。さらに、2次画像G2では、被鑑別紙幣Pに予め描かれている固有の模様(例えば、人物や文字等)の輪郭線にも対応して、画素値が0(ゼロ)以外の値を持つ。すなわち、この例では、図2(A)のA1、B1及びC1は、それぞれA2,B2及びC2となる。
【0032】
再び図1に戻ると、第1補正部18dは、画像記憶部20eから2次画像G2を読み出してきて、この2次画像G2において、穴Hにゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた3次画像G3を作成して、画像記憶部20eに読み出し自在に記憶する。より詳細には、第1補正部18dは、穴情報記憶部20aから、1次画像G1における穴Hの個数、座標、及び面積を読み出す。そして、これらの穴Hのそれぞれについてゾーベルフィルタを作用させるシミュレーションを行い、2次画像G2上におけるこれらの穴の延在座標範囲(以下、「補正範囲」と称する。)を計算する。
【0033】
そして、読み出された図2(B)の2次画像G2において、それぞれの穴Hごとに、これらの補正範囲における画素値を0(=黒)に変化させる。これにより、図2(C)に示すように、2次画像G2上で穴Hに対応する画素範囲の画素値が0に変化した3次画像G3が得られる。従って、この例では、図2(B)のA2,B2及びC2は、それぞれA3,B3及びC3となる。
【0034】
このように第1補正部18dが、2次画像G2上で穴Hに由来する画像部分の画素値を0に補正するので、後に行われる判別部18gでの被鑑別紙幣Pの真贋鑑定に穴Hに由来する画像が影響を与えるのを回避することができる。
【0035】
第2補正部18eは、画像記憶部20eから3次画像G3を読み出してきて、3次画像G3において、被鑑別紙幣Pに予め描かれている固有の模様にゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた4次画像G4を作成して、画像記憶部20eに読み出し自在に記憶する。より詳細には、第2補正部18eは、3次画像G3において、被鑑別紙幣Pに予め描かれている固有の模様に由来する部分を取り除く。すなわち、後述する記憶部20の辞書画像記憶部20bには、穴Hが非存在かつ真正の被鑑別紙幣Pから受光した透過光の画像に対してゾーベルフィルタを作用させた画像としての辞書画像GRが予め記憶されている。つまり、辞書画像GRとは、図3(A)に示すように、真正であることが知られている被鑑別紙幣Pの1次画像(図2(A)参照)に対してゾーベルフィルタを作用させて得られた画像である。この辞書画像GRにおいては、上述の図2(A)に示した、A1、B1及びC1に対応する各輪郭は、それぞれAGR、BGR及びCGRとして生じている。
【0036】
よって、図2(C)に示すような3次画像G3から、図3(A)に示すような辞書画像GRを差し引くことにより、被鑑別紙幣Pに固有の模様を除去することができる。具体的には、辞書画像GRにおいて黒色(画素値=0)以外の画素の画素値を、対応する3次画像G3の画素の画素値から差し引く。そして、差し引いた値が0以下の場合には、新たな4次画像G4の対応画素の画素値を0とする。また、差し引いた値が0より大きい場合には、その値を新たな4次画像G4の対応画素の画素値とする。この例では、各輪郭A3,B3及びC3の各画素値から、これに対応する辞書画像GR中の各輪郭AGR、BGR及びCGRの各画素値を差し引いた値を4次画像G4の画素値とする。
【0037】
ここで、図3(B)を参照して4次画像G4について簡単に説明する。図3(B)は4次画像G4の模式的な平面図である。上述したように、4次画像G4は、3次画像G3から、被鑑別紙幣Pに固有の模様等に由来する画像を差し引いたものである。従って、図3(B)に示すように、4次画像G4では、被鑑別紙幣Pの真券部分p1と偽券部分p2の接合線Eに由来する部分の画素値が0以外(≠0)であり、輪郭線A3,B3及びC3の各画素値は対応する輪郭線AGR、BGR及びCGRよりも小さい値であるので、これら輪郭線の差し引いた値は0以下となり、従って接合線E以外の部分の画素値は0(ゼロ)となる。
【0038】
再び図1に戻ると、累積画素値分布算出部18fは、4次画像G4において、被鑑別紙幣Pの短手方向に画素値を累積した累積画素値の被鑑別紙幣Pの長手方向に関する分布としての累積画素値分布Dを求めて、累積画素値分布記憶部20fに読み出し自在に記憶する。
【0039】
より詳細には、累積画素値分布算出部18fは、4次画像G4を構成する各画素の画素値(輝度レベル)を被鑑別紙幣Pの短手方向、従ってこの例ではy方向に1列に渡って累積した累積画素値を求める。そして、この操作を被鑑別紙幣Pの長手方向すなわちx方向の一端部から他端部にかけて、画素列ごとに行い、累積画素値の被鑑別紙幣Pの長手方向に関する分布である累積画素値分布Dを算出する。
【0040】
つまり、図3(C)に示すように、累積画素値分布Dは、被鑑別紙幣Pの接合線Eに対応する位置で大きな値を取り、それ以外の位置では殆ど0に近い値を取る。
【0041】
判別部18gは、累積画素値分布記憶部20fから各x座標のy値を読み出してきて累積画素値分布Dを求め、この累積画素値分布Dを予め定められた各x座標共通の閾値と比較して、累積画素値分布D>真贋閾値Th1の場合に、被鑑別紙幣Pを偽券と判断し、及び累積画素値分布D≦真贋閾値Th1の場合に、被鑑別紙幣Pを真券と判断する。
【0042】
より詳細には、判別部18gは、累積画素値分布Dが算出されたことをキーとして、後述する記憶部20の真贋閾値記憶部20cから、真贋閾値Th1を読み出してくる。次いで、判別部18gは、好ましくは、累積画素値分布Dと真贋閾値Th1とをx座標毎に順番に比較する。そして、図3(C)に示すように、あるx座標値において、累積画素値分布D>真贋閾値Th1の場合には、そのx座標値に対応する被鑑別紙幣Pの長手方向の箇所で接合が行われていると判断して、その被鑑別紙幣Pは偽券であると判断する。被鑑別紙幣Pが偽券であると判断された場合に、判別部18gは、当該被鑑別紙幣Pが偽券であることと接合箇所の両情報を真贋閾値記憶部20cに記憶する。さらに、判別部18gは、紙幣保管庫16の偽券保管庫16aへと指令を送り、紙幣受入部12から、被鑑別紙幣Pを偽券保管庫16aへと受け入れ、処理を終了する。
【0043】
逆に、累積画素値分布D≦真贋閾値Th1の場合には、その被鑑別紙幣Pは真券であると判断する。そして、判別部18gは、「真券である」との判別結果を損券判別部18hへと出力する。
【0044】
損券判別部18hは、判別部18gにより真券と判断された被鑑別紙幣Pについて、穴Hが存在する場合には、穴Hの面積を、予め定められた閾値と比較して、穴Hの面積が閾値よりも大きい場合に、被鑑別紙幣Pを損券と判断する。
【0045】
より詳細には、損券判別部18hは、真券と判断された被鑑別紙幣Pに一定面積以上の穴が開いていないかどうかを判別する。具体的には、損券判別部18hは、記憶部20の穴情報記憶部20aから、被鑑別紙幣Pに関する穴の情報(個数、位置、面積)を読み出す。さらに、損券判別部18hは、記憶部20の損券閾値記憶部20dから損券閾値Th2を読み出す。そして、損券閾値Th2と穴の面積とを比較する。比較の結果、損券閾値Th2以上の面積を有する穴が見つかった場合には、その被鑑別紙幣Pは損券であると判定する。一方、損券閾値Th2未満の面積の穴の場合や、又は穴が存在しない場合には、その被鑑別紙幣Pは損券ではないと判定する。
【0046】
判定結果は、損券判別部18hから紙幣保管庫16へと出力され、損券は、損券金庫16bに保管され、損券でない被鑑別紙幣Pは金庫16cに保管される。
【0047】
記憶部20は、ハードウエア的には、ROM(Read Only Memory)や、RAM(Random Accsess Memory)や、ハードディスクドライブ等の記憶装置から構成されている。記憶部20は、上述した穴情報記憶部20aと、辞書画像記憶部20bと、真贋閾値記憶部20cと、損券閾値記憶部20dと、画像記憶部20eと、累積画素値分布記憶部20fとを記憶領域として備えている。
【0048】
穴情報記憶部20aは、上述したように、穴特定部18bが特定した、1次画像G1中の穴Hの個数、座標及び面積を読み出し自在に記憶する。
【0049】
辞書画像記憶部20bは、上述したように、穴Hが非存在かつ真正の被鑑別紙幣Pから受光した透過光の画像に対してゾーベルフィルタを作用させた画像としての辞書画像GRを、予め読み出し自在に記憶する。
【0050】
真贋閾値記憶部20cは、上述したように、被鑑別紙幣Pが貼り合せ偽券か否かを判断するための真贋閾値Th1を読み出し自在に記憶する。
【0051】
損券閾値記憶部20dは、上述したように、被鑑別紙幣Pが真券の場合に、その被鑑別紙幣Pに一定面積以上の穴Hが開いていないかどうかを判断するための損券閾値Th2を読み出し自在に記憶する。
【0052】
(動作)
次に、図1〜図5を参照して、紙幣鑑別装置10の動作について説明する。図5は、紙幣鑑別装置10の動作を示すフローチャートである。
【0053】
まずステップS1において、紙幣鑑別装置10の紙幣受入部12に対して、被鑑別紙幣Pが投入される。
【0054】
続いて、ステップS2において、1次画像作成部14が被鑑別紙幣Pの1次画像G1(図2(A))を作成する。より詳細には、1次画像作成部14の光源Ltが白色光を被鑑別紙幣Pに向けて照射し、被鑑別紙幣Pからの透過光を受光部Jが撮像することにより1次画像G1が作成される。
【0055】
続いて、ステップS3において、穴特定部18bが、1次画像G1において、被鑑別紙幣Pの穴Hに由来する画像部分を特定する。そして、穴特定部18bは、穴の個数、座標、及び面積を記憶部20の穴情報記憶部20aへと記憶する。
【0056】
続いて、ステップS4において、2次画像作成部18cが、1次画像G1にゾーベルフィルタを作用させることにより、2次画像G2(図2(B))を作成する。これにより、1次画像G1のエッジ(輪郭)に対応する画素のみが0以外の画素値を持ち、それ以外の画素の画素値が0となった、エッジが強調された2次画像G2が形成される。
【0057】
続いて、ステップS5において、第1補正部18dが、2次画像G2に1次補正を施して、3次画像G3(図2(C))を作成する。より詳細には、第1補正部18dは、記憶部20の穴情報記憶部20aから、被鑑別紙幣Pに開いている穴の情報(個数、座標及び面積)を読み出す。そして、読み出した穴のそれぞれにゾーベルフィルタを作用させるシミュレーションを行い、ゾーベルフィルタ適用後の穴の延在座標範囲(補正範囲)を計算する。そして、2次画像G2上における穴の一つ一つについて、シミュレーションによって計算された延在座標範囲の画素値を0に変化させる。これにより、2次画像G2において穴に由来する全画像範囲の画素値が0に補正された3次画像G3が作成される。
【0058】
この1次補正を行うことにより、2次画像G2における穴Hに由来する画像部分の画素値が0となったので、紙幣鑑別装置10は、真券部分p1と偽券部分p2の接合線Eに由来する画像部分を確実に検出することができる。
【0059】
続いてステップS6において、第2補正部18eが、3次画像G3から辞書画像GRを差し引く2次補正を行って、4次画像(図3(B))を作成する。より詳細には、第2補正部は、記憶部20の辞書画像記憶部20bから、辞書画像GRを読み出す。ここで、辞書画像GRとは、穴Hが非存在かつ真正の被鑑別紙幣Pから受光した透過光の画像に対してゾーベルフィルタを作用させた画像である。
【0060】
そして、第2補正部18eは、辞書画像GRの各画素の画素値を、3次画像G3の対応する画素の画素値から差し引く演算を行い、差し引いた値を4次画像G4の対応画素における画素値とする。なお、差し引いた値が0未満の場合には、4次画像の対応画素における画素値は0とする。
【0061】
ステップS6を経ることにより、3次画像G3から、被鑑別紙幣Pの固有の模様等に由来する画素部分が取り除かれた4次画像G4が得られる。
【0062】
続いて、ステップS7において、累積画素値分布算出部18fは、図3(C)に示すように、4次画像G4の累積画素値分布Dを算出する。より詳細には、累積画素値分布算出部18fは、被鑑別紙幣Pの短手方向に沿って並ぶ画素の画素値を1列に渡って加算して、その列における累積画素値を算出する。この累積画素値算出の操作を、被鑑別紙幣Pの長手方向について一端部から他端部にかけて行い、累積画素値の分布としての累積画素値分布Dを算出する。
【0063】
続いて、ステップS8において、判別部18gは、累積画素値分布Dと真贋閾値Th1とを比較して、被鑑別紙幣Pの真贋の鑑別を行う。より詳細には、判別部18gは、記憶部20の真贋閾値記憶部20cから真贋閾値Th1を読み出してきて、真贋閾値Th1と累積画素値分布Dとを順に比較していく。そして、累積画素値分布D>真贋閾値Th1の場合には、被鑑別紙幣Pを偽券であると判断して、処理はステップS9へと移行する。それに対して、累積画素値分布D≦真贋閾値Th1の場合には、被鑑別紙幣Pは真券であると判断して、処理はステップS10に移行する。
【0064】
上述のように、被鑑別紙幣Pが偽券と判断された場合には、処理はステップS9へと移行する。このステップでは、判別部18gは、紙幣保管庫16の偽券保管庫16aに指令を出力し、紙幣受入部12に投入されている被鑑別紙幣Pを偽券保管庫16aへと保管させ、処理を終了する。
【0065】
被鑑別紙幣Pが真券と判断された場合には、処理はステップS10へと移行する。このステップで、損券判別部18hが、真券と判断された被鑑別紙幣Pについて、穴Hが存在する場合には、穴Hの面積を、予め定められた閾値と比較して、穴Hの面積が閾値以上の場合に、前記被鑑別紙幣を損券と判断する。
【0066】
具体的には、損券判別部18hは、記憶部20の穴情報記憶部20aから、被鑑別紙幣Pに関する穴の情報(個数、位置、面積)を読み出す。さらに、損券判別部18hは、記憶部20の損券閾値記憶部20dから損券閾値Th2を読み出す。そして、損券閾値Th2と穴の面積とを比較する。比較の結果、損券閾値Th2以上の面積を有する穴が見つかった場合には、その被鑑別紙幣Pは損券であると判定し、損券判別部18hは、損券金庫16bに対して指令を送り、ステップS11で、紙幣受入部12から被鑑別紙幣Pを損券金庫16bに保管させ、処理を終了する。
【0067】
それに対し、損券閾値Th2未満の面積の穴の場合や、又は穴が存在しない場合には、その被鑑別紙幣Pは損券ではないと判定し、損券判別部18hは、金庫16cに対して指令を送り、ステップS12において、紙幣受入部12から被鑑別紙幣Pを金庫16cに保管させ、処理を終了する。
【0068】
(効果)
次に、この実施の形態の紙幣鑑別装置10の効果について説明する。この紙幣鑑別装置10は、たとえ、被鑑別紙幣Pに穴Hが開いていたとしても、その穴Hに由来する画像部分を第1補正部18dが補正して3次画像G3を作成する。その結果、被鑑別紙幣Pに開いた穴Hに由来する画像が、被鑑別紙幣Pの真贋鑑別に与える悪影響を取り除くことができる。
【0069】
(変形例)
(1)この実施の形態においては、紙幣鑑別装置10は、損券判別部18hを有する構成としたが、紙幣鑑別装置10が損券判別部18hを有さなくとも良い。その場合には、真券と判別された被鑑別紙幣Pについては、穴の有無に関わらず、金庫16cに保管されることとなる。
【0070】
(2)また、この実施の形態においては、紙幣鑑別装置10の一部の構成要素として損券判別部18hを有する構成としたが、損券判別部18hは、それだけで独立した装置としてもかまわない。すなわち、この場合には、紙幣鑑別装置10は、被鑑別紙幣Pに開いた穴の面積から、被鑑別紙幣Pが損券か否かを判断することになる。
【符号の説明】
【0071】
10 紙幣鑑別装置
12 紙幣受入部
14 1次画像作成部
14a 測定部
14b A/D変換部
16 紙幣保管庫
16a 偽券保管庫
16b 損券金庫
16c 金庫
18 CPU
18a 装置制御部
18b 穴特定部
18c 2次画像作成部
18d 第1補正部
18e 第2補正部
18f 累積画素値分布算出部
18g 判別部
18h 損券判別部
20 記憶部
20a 穴情報記憶部
20b 辞書画像記憶部
20c 真贋閾値記憶部
20d 損券閾値記憶部
20e 画像記憶部
20f 累積画素値分布記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被鑑別紙幣から受光した透過光の画像としての1次画像を作成する1次画像作成部と、
前記1次画像中に前記被鑑別紙幣の表面に開いた穴に由来する画像部分が存在する場合に、当該穴の個数、位置及び面積を特定する穴特定部と、
前記1次画像に対してゾーベルフィルタを作用させて2次画像を作成する2次画像作成部と、
前記2次画像において、前記穴に前記ゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた3次画像を作成する第1補正部と、
前記3次画像において、前記被鑑別紙幣に予め描かれている固有の模様に前記ゾーベルフィルタを作用させたことに由来して作成された画像部分を構成する画素の画素値を0に変化させた4次画像を作成する第2補正部と、
前記4次画像において、前記被鑑別紙幣の短手方向に前記画素値を累積した累積画素値の前記被鑑別紙幣の長手方向に関する分布としての累積画素値分布を求める累積画素値分布算出部と、
前記累積画素値分布を予め定められた閾値と比較して、累積画素値分布>閾値の場合に、前記被鑑別紙幣を偽券と判断し、及び累積画素値分布≦閾値の場合に、前記被鑑別紙幣を真券と判断する判別部とを備えることを特徴とする紙幣鑑別装置。
【請求項2】
前記第2補正部は、穴が非存在かつ真正の被鑑別紙幣から受光した透過光の画像に対してゾーベルフィルタを作用させた画像としての辞書画像を予め記憶しており、
前記3次画像の画素値から前記辞書画像の画素値を画素ごとに減算して、減算後の画素値が0以下の場合に、前記4次画像の当該画素における画素値を0とすることを特徴とする請求項1に記載の紙幣鑑別装置。
【請求項3】
真券と判断された被鑑別紙幣について、前記穴が存在する場合には、該穴の面積を、予め定められた閾値と比較して、前記穴の面積が閾値よりも大きい場合に、前記被鑑別紙幣を損券と判断する損券判別部を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の紙幣鑑別装置。
【請求項4】
被鑑別紙幣から受光した透過光の画像としての1次画像を作成する1次画像作成部と、
前記1次画像中に前記被鑑別紙幣の表面に開いた穴に由来する画像部分が存在する場合に、当該穴の個数、位置及び面積を特定する穴特定部と、
前記穴が存在する場合には、該穴の面積を、予め定められた閾値と比較して、前記穴の面積が閾値よりも大きい場合に、前記被鑑別紙幣を損券と判断する損券判別部とを備える紙幣鑑別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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