説明

紙搬送装置

【課題】 用紙摺接部の耐摩耗性の向上により製品寿命を増大させることができ、しかも、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞がなく、環境に対する安全性が高い紙搬送装置を提供する。
【解決手段】 用紙Pを所定の搬送経路に沿って搬送する紙搬送装置11において、搬送される用紙Pが摺接するリブ63には、ガラス部材66,68組み付け用の溝部63a,63bが形成されており、溝部63a,63bにはガラス部材66,68が嵌合装着することにより組み付けられていて、これらのガラス部材66,68がリブ63の頂部となり、用紙Pが摺接する用紙摺接部としてのプラテン面51を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙を所定の搬送経路に沿って搬送する紙搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンタやファクシミリ等には、給紙側から印刷処理部のプラテン面上を通って排紙側に至る搬送経路上で用紙の搬送を行う紙搬送装置が組み込まれている。
インクジェット式プリンタにおける印刷処理部は、用紙が通過するプラテン面に対向するように、インク滴を用紙に噴射する印刷ヘッドを備えた構成となっている。
【0003】
インクジェット式プリンタでは、給紙前から用紙に折れやカールが生じている場合や、インク滴の付着によって用紙に生じる皺やカールの影響もあって、印刷処理部内、あるいは印刷処理部を通過した用紙をその下流に挟持して搬送する搬送手段の周辺で、紙ジャムが発生し易い。
【0004】
そこで、これらの部位における紙ジャムの発生を抑止する紙搬送装置として、プラテン面上に送られる用紙にコックリング付与機構によって用紙幅方向の波打ち形状のくせ付けを施すようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図10及び図11は、特許文献1に開示されたコックリング付与機構の例を示したものである。
ここに示したコックリング付与機構は、印刷処理部に向かって搬送されてくる用紙101の下面に接触するようにプラテンとなる基板103上に延設された複数本のリブ105と、これらのリブ105上を通過する用紙101の上面を各リブ105間に押圧する紙押え板107上の突起107aとから構成されている。
【0006】
複数本のリブ105は用紙搬送方向と直交する方向に適宜間隔で用紙搬送方向に沿って延設されており、これらの複数本のリブ105の頂部が、印刷処理する用紙101の下面が摺接するプラテン面となる。
紙押え板107上の突起107aは、プラテン面上を搬送される用紙101に対して、隣接するリブ105間に撓む谷部をくせ付けする。この結果、図11に示すように、プラテン面上の用紙101は、搬送方向に直交する方向(用紙幅方向)の波打ち形状が搬送方向に沿って連続するようにくせ(所謂コックリング)付けされ、このくせ付けによって用紙の搬送方向の見かけ上の剛性が向上し、プラテン面からの用紙の浮き上がりが抑止される。
【0007】
【特許文献1】特許第3507485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の紙搬送装置では、プラテン面となる複数のリブ105を有した基板103や、複数の突起107aを有した紙押え板107等は、複雑な凹凸形状を高精度に仕上げることや、加工コストをできるだけ小さく抑えること等の理由により、合成樹脂の射出成形によって形成する場合が多い。
しかし、上記のリブ105や突起107aは搬送される用紙が摺接する用紙摺接部であり、この用紙摺接部が樹脂製であると、用紙との摺接による摩耗が発生し、用紙を正確に案内することができなくなったり、装置寿命が短命化したりしてしまう。特に、搬送する用紙枚数が多く稼働率が高くなる業務用機器の場合は、この問題が顕著に発生する。そのため、摩耗した部品交換のために保守費が嵩んでしまう状況にある。
【0009】
そこで、業務用機器の場合は、用紙摺接部の耐摩耗性を向上させるべく、用紙摺接部を金属材料で製造することも考えられる。
しかし、用紙摺接部を金属材料で形成した場合は、樹脂製の場合と比較して耐摩耗性が向上し装置寿命を長くすることができるが、その一方、摩耗で発生する金属粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞があった。特に、塗膜に含まれるクロムは環境に対する負荷が高く、好ましくない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、用紙摺接部の耐摩耗性の向上により製品寿命を増大させることができ、しかも、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞がなく、環境に対する安全性が高い紙搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできる本発明に係る紙搬送装置は、用紙を所定の搬送経路に沿って搬送する紙搬送装置において、搬送される用紙が摺接する用紙摺接部の少なくとも一部が、セラミックスにより形成されていることを特徴としている。
【0012】
上記構成の紙搬送装置によれば、用紙摺接部の少なくとも一部が樹脂材料と比較して高い硬度を有するセラミックスにより形成されていることで、用紙摺接部の耐摩耗性を大幅に向上させることができ、その耐摩耗性の向上により、製品寿命を増大させることができる。また、セラミックスの種類を選定して使用することで、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞がなく、環境に対する安全性が高いものとすることができる。
【0013】
また、本発明に係る紙搬送装置において、前記用紙摺接部は、樹脂部材に対してセラミックス部材が組み付けられた構成であることが好ましい。
【0014】
このような構成の紙搬送装置によれば、用紙が集中的に摺接する部分にセラミックス部材を配置し、その周囲は特に摩耗性を考慮せず成形性やコストに優れた樹脂部材で形成できるため、耐久性の向上や環境への安全性の向上に加えて、製造コストの低減を図ることができる。また、樹脂部材をガラス部材またはセラミックス部材より突出するように形成しておくことで樹脂部材が摩耗して、セラミックス部材と樹脂部材との境界部分を滑らかにすることができるため、樹脂部材とセラミックス部材とを厳密に寸法管理する必要がない。
【0015】
また、本発明に係る紙搬送装置において、前記用紙摺接部は、基板上に形成した複数のリブの頂部により形成されているプラテン面であり、前記リブの少なくとも頂部の一部がセラミックスにより形成されていることが好ましい。
【0016】
このような構成の紙搬送装置によれば、プラテン面の耐摩耗性が向上するため、プラテン面上で実施される印刷処理等の処理精度が摩耗により低下することを防止でき、また、摩耗粉の付着によって周囲が汚損する虞がなくなり、当該紙搬送装置を備えたプリンタ等の装置において、耐久性の向上、環境に対する安全性の向上を実現することができる。
【0017】
また、本発明に係る紙搬送装置において、前記リブの用紙搬送方向上流側の頂部がセラミックスで形成されていることが好ましい。
【0018】
このような構成の紙搬送装置によれば、リブに用紙が最初に接触する搬送方向上流側の頂部は摺動抵抗が高く、摩耗が起こりやすいため、その部分をセラミックスで形成しておくことで、効果的に用紙摺接部の摩耗を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明に係る紙搬送装置において、前記セラミックスは、ガラスであることが好ましい。
【0020】
このような構成の紙搬送装置によれば、ガラス材料は無機質で非導電体であるため、仮にガラスが摩耗しても、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞もなく、環境に対する安全性を大きく改善させることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る紙搬送装置によれば、用紙摺接部が樹脂材料と比較して高い硬度を有するガラス等のセラミックスにより形成されていることにより、用紙摺接部の耐摩耗性を大幅に向上させ、製品寿命を増大させることができる。また、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞もなく、環境に対する安全性を大きく向上させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る紙搬送装置の実施の形態の例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る紙搬送装置を搭載したインクジェット式プリンタの一実施の形態の外観斜視図であり、図2は図1に示したプリンタに組み込まれた紙搬送装置による用紙の搬送経路の概略構成を示す縦断面図であり、図3は図2に示した搬送装置の処理部周辺の拡大図であり、図4は図3に示したプラテン及び第1搬送手段の平面図であり、図5は図4のB矢視図であり、図6は図4に示したプラテン及び第1搬送手段の斜視図であり、図7は図6に示したプラテンの拡大図であり、図8は図7に示したプラテンの分解斜視図であり、図9は図7に示したプラテン上のリブの構造説明図であって、(a)は使用前の横断面図、(b)は使用により一部摩耗した状態の横断面図である。
【0023】
図1のインクジェット式プリンタ1は、フロント給・排紙タイプの業務用のインクジェット式プリンタであり、図1に示すように、下部ケース2と上部ケース3とから構成される装置ケース4の前面中央に、被搬送物である用紙を装填した略箱形の用紙カセット5が着脱自在に挿着されている。
また、用紙カセット5の上面開放部を覆うように、印刷が終了した用紙を受ける排紙トレイ6が設けられている。また、装置ケース4の前面の両側には、動作状態を表示する表示部7や操作部8が設けられている。
【0024】
装置ケース4内には、図2に示すように、円弧状搬送経路A及びこの円弧状搬送経路Aから排紙トレイ6へ繋がる第1直線状搬送経路Bを形成する紙搬送装置11を備えており、用紙カセット5と円弧状搬送経路Aと第1直線状搬送経路Bと排紙トレイ6とによって、用紙カセット5から繰り出された用紙Pを処理した後に前面の排紙トレイ6に戻すU字状搬送経路が形成されている。
【0025】
紙搬送装置11は、ASF(オートシートフィーダ)部とPF(ペーパフィーダ)部とを有している。
ASF部は、用紙カセット5に収容されている用紙Pを一枚ずつ装置後方に繰り出す用紙繰り出し機構22と、この用紙繰り出し機構22が繰り出した用紙Pを円弧状の搬送経路に沿って搬送する円弧状搬送部を形成する中間ローラ31及びガイド部34等から構成されている。
PF部は、図3に示すように、円弧状搬送部から搬送されてきた用紙Pを挟持して印刷処理部43のプラテン面51上に送る第1搬送手段40と、この第1搬送手段40によりプラテン面51上に送られる用紙Pに波打ち形状のくせ付けを施すコックリング付与機構53と、印刷処理部43を通過した用紙Pをその下流の排紙トレイ6に挟持して搬送する第2搬送手段55と、第2搬送手段55の上流側端に連続的に形成された誘い込み部材57とから構成されている。
【0026】
ASF部の用紙繰り出し機構22は、図2に示したように、先端に繰り出し用のピックアップローラ21を備えたフレーム25の後端が支持ピン24によって図中上下方向に回動可能に構成されている。この用紙繰り出し機構22は、フレーム25の上下方向の揺動により、用紙カセット5内の最上部の用紙Pに対してピックアップローラ21を接触させることが可能である。用紙繰り出し機構22は、当該プリンタ1の休止時には図2に実線で示すようにフレーム25が水平に維持されて、ピックアップローラ21が用紙カセット5上の用紙Pから離れた状態に保たれる。そして、給紙時には、支持ピン24を中心とするフレーム25の下方への回動によって、図2に二点鎖線で示すように、ピックアップローラ21が用紙カセット5上の用紙Pに押し付けられ、ピックアップローラ21の回転によって用紙カセット5上の用紙Pが傾斜した摩擦パッド23に当接して、その摩擦力と用紙Pのこしの強さによって分離されながら、一枚ずつ中間ローラ31とガイド部34の間に繰り出される。給紙が済んで、印刷処理部43によって印刷が開始される時には、図2に実線で示したように、フレーム25は元の水平状態に戻される。
【0027】
円弧状搬送経路Aは、図2に示すように、円弧状搬送経路Aの外側(プリンタ1の背面側)に設けられ略円弧状に湾曲したガイド面を有するガイド部34と、円弧状搬送経路Aの内側(プリンタ1の前面側)に設けられガイド部34の下方から上方に向かって用紙Pを送る中間ローラ31とを備えた構成である。また、ガイド部34には、下方側に設けられたリタードローラ32と、上方側に設けられたアシストローラ33とが設けられている。そして、ピックアップローラ21によって送り出された用紙Pは、中間ローラ31とリタードローラ32とによって挟持されて搬送され、さらに中間ローラ31とアシストローラ33とによって挟持されて搬送される。これにより、用紙Pは、中間ローラ31とガイド部34との間隙として形成された円弧状搬送経路Aに沿って搬送され、その先端部がプリンタ前面側に向けられてU字状搬送経路を構成する第1直線状搬送経路Bに送り出される。
【0028】
また、中間ローラ31の上方には、補助ガイド部材35を備えている。この補助ガイド部材35は、ガイド部34に対して後端側が回動可能に支持され、先端側が揺動されるようになっている。この補助ガイド部材35は、円弧状搬送経路Aから第1直線状搬送経路Bへ搬送される用紙Pを、その上方側から自重により押さえて、用紙Pを第1直線状搬送経路Bに沿ってプリンタ1の前方側に案内する。
【0029】
PF部の第1搬送手段40は、図2に示したように、紙送りローラ対41,42により構成されている。紙送りローラ対41,42は、円弧状搬送経路Aの出口端(ガイド部34の下流側端部)から装置前面側に所定距離離れた位置に設けられており、円弧状搬送経路Aから略直線状の経路(第1直線状搬送経路B)に送り出されてきた用紙Pを挟持して印刷位置である印刷処理部43の下に搬送する。そして、回転駆動量を制御することにより、用紙Pを印刷処理部43に対して位置決めすることが可能である。
第1搬送手段40において、紙送りローラ41は制御部(図示省略)により回転駆動される駆動ローラである。また、紙送りローラ42は、回転自在に支持された従動ローラである。
【0030】
印刷処理部43は、印字ヘッド44を有するキャリッジ45を備えており、このキャリッジ45は、送り込まれた用紙Pに対してその幅方向へ移動可能に支持されている。
【0031】
この印字ヘッド44は、図2に示すように、用紙Pに向かってインク滴を吐出させる吐出ノズル46を有しており、この吐出ノズル46に対して、プリンタ1の前方側には、用紙Pを検出するとともに、その幅を検出するPWセンサ47が設けられている。このPWセンサ47は、用紙Pに向かって照射した光の反射光を検出することにより、用紙Pの有無を検出し、キャリッジ45の移動により用紙Pの幅を検出する。
【0032】
コックリング付与機構53は、図4から図6に示すように、プラテンとしての基板61に隆起形成されてその上面がプラテン面51を構成する複数本(図示では8本)のリブ63と、これらのリブ63間にリブ63よりも突出高さが低く隆起形成された補助リブ65と、プラテン面51に用紙Pを押し付ける紙案内補助67とから構成されている。これらリブ63、補助リブ65、紙案内補助67は、用紙Pと摺接しながら用紙Pを搬送経路に沿って案内する用紙摺接部である。特に、複数のリブ63の頂部によって用紙摺接部としてのプラテン面51が形成されている。
【0033】
リブ63は、用紙Pの搬送方向に沿って延設されており、用紙Pの幅方向に一定の間隔で設けられている。リブ63相互の間隔Lは、処理する用紙Pのサイズが変わっても、用紙Pを安定に支持できるプラテン面51が確保できる程度に設定される。本実施の形態の場合は、リブ63相互の間隔は、約27mmに設定されていて、処理する用紙PがA4サイズの場合は8本のリブ63が用紙の裏面を支え、処理する用紙Pがはがきサイズの場合は3本のリブ63が用紙の裏面を支えることが可能である。
【0034】
補助リブ65は、本実施の形態の場合、各リブ63間に2本ずつ設けられていて、高さは、リブ63よりも0.3mm程度低く形成されている。この補助リブ65は、リブ63間に用紙Pを撓ませて波打ち形状の谷部を形成する際に、用紙Pの谷部の裏面を支えることで、用紙Pの撓み過ぎを防止する。
【0035】
紙案内補助67は、図3に示すように、第1搬送手段40による紙搬送経路の上方に配置されたホルダ71の先端に取り付けられている。
この紙案内補助67は、用紙サイズ(用紙幅)に応じて押さえ幅を変更する必要があるため、本実施の形態では図4から図6に示すように、用紙の幅方向に4つに分割されており、それぞれが独立して動くように構成されている。
それぞれの紙案内補助67は、図6に示すように、用紙Pを各プラテン面51に押さえ付けるための第1押え部67aと、隣接するリブ63,63間に突出する突起67bとが、用紙幅方向に交互に並ぶ構成となっている。
突起67bは、リブ63,63間に用紙Pを撓ませて、用紙Pに波打ち形状の谷部のくせ付けをする。
【0036】
リブ63及び補助リブ65が形成されたプラテンとしての基板61と、第1押え部67a及び突起67bが形成された紙案内補助67との間を用紙Pが摺接しながら通過することで、プラテン面51上に搬送される用紙Pには、搬送方向に直交する用紙幅方向の波打ち形状が搬送方向に沿って連続するように山部と谷部のくせ付けが施される。この波打ち形状のくせ付けは、用紙Pの搬送方向における見かけ上の剛性を強化して搬送方向の直線性を増し、用紙Pのプラテン面51からの浮き上がりを抑止する。
【0037】
第2搬送手段55は、図2及び図3に示すように、印刷処理部43を通過した用紙Pの上面を所定の高さの搬送基準位置73に押さえる三列のガイドローラ75,76,77と、ガイドローラ76,77との協働で用紙Pを挟持して搬送する二列のピンチローラ78,79と、各ガイドローラ75,76,77を所定の位置関係に支持する第1ローラフレーム81と、二列のピンチローラ78,79を支持する第2ローラフレーム(図示省略)とから構成されている。
【0038】
三列のガイドローラ75,76,77は、用紙搬送方向に沿って間隔を開けて配列されている。これらのガイドローラ75,76,77は、その周方向に一定間隔で突起を備えた所謂ギザローラで、第1ローラフレーム81に回転自在に支持されている。また、ガイドローラ75,76,77はコイルばね状の軸によって支持されており、用紙Pの押圧時に回転軸と直交する方向に適宜弾性変位して、用紙に対する位置及び接触圧が適切に調節されるようになっている。また、最上流側に位置したガイドローラ75は、用紙幅方向に沿って紙案内補助67の突起67bと同じ間隔で配置されることで、コックリング付与機構53が用紙Pに形成した波打ち形状の谷部をその上面から押さえて、波打ち形状の維持を図る。
【0039】
二列のピンチローラ78,79は、最上流側のガイドローラ75を除いた、下流側二列のガイドローラ76,77に対応して配置されていて、これらのガイドローラ76,77との協働で、用紙Pを挟持して搬送する。
このように、最上流側のガイドローラ75は、用紙Pを挟持して搬送するために備えたピンチローラ78,79よりも上流側に設けられていて、二列のピンチローラ78,79と二列のガイドローラ76,77との間に用紙Pが挟持される前に、コックリング付与機構53が付けた用紙Pの谷部を維持するように、用紙の上面を押さえ込む。したがって、第2搬送手段55では、最上流側のガイドローラ75により用紙Pのコックリングが維持された状態で、用紙Pを挟持しつつ下流側へ搬送することができる。
【0040】
また、図3に示すように、二列のピンチローラ78,79の内、上流側のピンチローラ78は、プラテン面51を提供する基板61に連続的に設けられた支持フレーム83に支持されている。この支持フレーム83の上面は、プラテン面51と同一平面となるように設定され、また、プラテンとしての基板61の場合と同様に、用紙Pを波打ち形状にくせ付けするためのリブ63及び補助リブ65が隆起形成されている。
【0041】
誘い込み部材57は、印刷処理部43を通過して印刷処理部43から第2搬送手段55への搬送基準位置73から浮き上がった用紙Pの先端を、案内面87によって搬送基準位置73に誘導する。
本実施の形態の案内面87は、搬送基準位置73から所定距離だけ離れた位置に設定された始端87aから第2搬送手段55の最上流側のローラであるガイドローラ75の外周に近接する終端87bまで滑らかに連続し、かつ、終端87b付近は近接するガイドローラ75の外周に滑らかに連続する、凸状の湾曲面に形成されている。
【0042】
本実施の形態の紙搬送装置11では、用紙摺接部である複数個のリブ63及び補助リブ65を備えた基板61は、ABS樹脂等の合成樹脂材料による射出成形によって、所定の寸法形状に一体成形されている。
但し、図8及び図9に示すように、基板61に設けられたリブ63は、その頂部に、ガラス部材66,68組み付け用の溝部63a,63bが形成されている。リブ63は、用紙搬送方向の上流側部分が一部分だけ分離して形成されており、溝部63bはその分離した上流側部分に形成され、溝部63aは残りの中流及び下流側部分に形成されている。
【0043】
そして、溝部63a,63bには、図7に示すようにセラミックス部材としてのガラス部材66,68が嵌合装着することにより組み付けられていて、これらのガラス部材66,68がリブ63の頂部となり、用紙Pが摺接する用紙摺接部としてのプラテン面51を形成している。各溝部63a,63bに組み付けられたガラス部材66,68は、緊密嵌合または接着剤の塗布により、固定されている。ガラス部材66,68の材質は、二酸化珪素(SiO2)を主成分とする石英ガラスであり、スチール等の金属材料と同等の硬度を備えている。そのため、ABS樹脂等の合成樹脂材料と比較して、用紙Pの摺接による摩耗が格段に起こりにくくなっており、用紙摺接部としてのプラテン面51を形成するリブ63の耐摩耗性が飛躍的に向上している。また、ガラスは無機質材料で、非導電体であるため、仮に摩耗した場合でも、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、周囲環境を汚損する虞がなく、環境に対する安全性が高い。さらに、ガラスは人体に対しても無害である。
なお、ガラス部材66,68の材質は、純石英である必要はなく、二酸化珪素に対して多少の不純物や何らかの添加物が含まれていても構わない。そのため、ガラス部材66,68を安価に製造することができる。
【0044】
また、第1搬送手段40によって搬送された用紙Pがリブ63と摺接する際には、まずリブ63の用紙搬送方向における最上流側部分に用紙Pの先端が接触して、リブ63の頂部により形成されるプラテン面51に案内される。したがって、リブ63の最上流側部分の頂部は摺動抵抗が高くなる。そのため、少なくともリブ63の最上流側部分の頂部にガラス部材が設けられていることが望ましい。本実施形態では、最上流側部分の頂部として溝部63bにガラス部材68が装着されている。
また、リブ63の最上流側部分は、用紙Pをプラテン面51に向けてスムースに案内するために頂部に向けて傾斜した面が形成されており、この傾斜面の摺動抵抗も高くなると考えられる。そのため、溝部63bに装着されたガラス部材68はその傾斜面に露出し、かつ沿うように形成されている。
このように、用紙摺接部の中でも比較的用紙Pとの摺動抵抗が大きく摩耗が起こりやすい箇所をガラスにより形成しておくことで、効果的に用紙摺接部の摩耗を防ぐことができる。
【0045】
また、図9(a)に示すように、ガラス部材66,68を溝部63a,63bへ装着する時には、溝部63a,63bの深さをガラス部材66,68の高さより僅かに大きく設定しておき、装着した状態で溝部63a,63bの上縁よりも微小寸法sだけ頂部の位置が下がるようにすると良い。この場合、用紙Pの搬送が繰り返し行われて樹脂製のリブ63の突出部分が用紙Pとの摺接によって摩耗すると、図9(b)に示すように、ガラス部材66,68の頂部が周囲の樹脂部に滑らかに連続し、用紙Pを案内する用紙摺接部として高精度形状を得ることができる。このように、樹脂部材に対してガラス部材を組み付けることで用紙摺接部を構成すれば、ガラス部材と樹脂部材とを厳密に形状合わせしておく必要がない。
【0046】
以上説明した本実施の形態の紙搬送装置11によれば、搬送される用紙Pが摺接する用紙摺接部となるプラテン面51を形成しているリブ63の頂部をガラス部材66,68により形成していることで、リブ63の耐摩耗性を大幅に向上させている。また、ガラス材料は無機質で非導電体であるため、摩耗粉が機器内部の電気絶縁性を阻害したり、あるいは周囲環境を汚損する虞もなく、環境に対する安全性を大きく向上させることもできる。
【0047】
また、本実施の形態の場合、ガラス部材66,68により形成されるプラテン面51の耐摩耗性が高いため、プラテン面51上で実施される印刷処理の処理精度がプラテン面51の摩耗により低下することを防止でき、また、摩耗粉の付着によって周囲が汚損する虞がなくなり、当該紙搬送装置11を備えたインクジェット式プリンタ1において、耐久性の向上、環境に対する安全性の向上を達成することができる。
【0048】
また、本実施の形態の場合、リブ63を有する基板61は、合成樹脂材料の射出成形により形成し、リブ63の頂部のみをガラスとしたものである。このように、用紙Pが集中的に摺接する部分にガラス部材66,68を配置し、その周囲は特に摩耗性を考慮せず成形性やコストに優れた樹脂部材で形成しているため、製造コストも低く抑えられている。
また、ガラス材料は、樹脂材料と比較して融点が高いため、基板61の廃棄等の際には、加熱処理によって簡単に樹脂材料とガラス材料を分別回収することができ、材料資源のリサイクルを行うことも容易である。
【0049】
なお、以上の紙搬送装置11において、ガラスにより形成した部分を有する用紙摺接部は、上記実施の形態で示したリブ63の頂部に限らない。
例えば、紙案内補助67の突起67bや第1押え部67a、円弧状搬送経路Aのガイド部34など、用紙Pとの摺接度合いが高い部位はいずれも、ガラスにより形成して、耐摩耗性を向上させることが有効である。また、用紙カセット5に装填した用紙Pを下流側へ搬送する際に用紙Pの先端を摺接させて案内する、用紙カセット5の後面壁の内側に設けられたガイド壁の一部を、ガラスにより形成することも有効である。
さらに、用紙Pの側端部が接触する部分、例えば用紙カセット5の側壁面や、搬送経路を形成するガイド部の用紙Pの幅方向を規制する部分などの一部にも形成することも耐摩耗性の向上に有効である。
【0050】
また、用紙摺接部の一部をガラスにより形成する形態は、上記のようにガラス部材を組み付ける形態に限らない。例えば、樹脂部材の表面にガラス膜を形成するようにしても良い。
【0051】
また、上記実施の形態では用紙摺接部の少なくとも一部がガラスにより形成されている場合について説明したが、ガラス以外のセラミックスを用いても良い。用いるセラミックスの種類は、耐摩耗性が良好なこと、環境負荷が少ないこと、加工し易いこと、摩擦係数を小さくできること、安価に入手できること、等を考慮して選定すると良い。本発明に好適に使用可能なセラミックスとして、アルミナ、ジルコニア、クロミア、炭化珪素を例示できる。
【0052】
なお、本発明に係る紙搬送装置が搭載される機器は、上記実施の形態に示したインクジェット式のプリンタに限らない。本発明の紙搬送装置は、紙搬送経路を持つコピー機、ファクシミリ、両替機などの各種の機器に、耐摩耗性に優れた紙搬送装置として組み込むことができる。
【実施例】
【0053】
紙搬送装置に設けられた、プラテン面を形成するリブに対して、通紙摩耗耐久試験を行った。
本発明に係る実施例として、上記実施の形態で示した、リブ63の頂部にガラス部材66,68を組み付けた紙搬送装置11において、A4サイズの普通紙を13万枚搬送して、搬送前と搬送後のリブ63の高さの変化を測定した。また、従来の紙搬送装置に係る比較例として、リブの全体をABS樹脂で形成した紙搬送装置においても同様に、A4サイズの普通紙を13万枚搬送して、搬送前と搬送後のリブの高さの変化を測定した。リブの高さは、各リブについて最上流部分、中流部分、下流部分の3箇所を対象として測定し、その3箇所について各リブの平均値を算出した。
【0054】
リブにガラスを用いていない従来の紙搬送装置(比較例)では、最上流部分で約1.1mm、中流部分で約0.5mm、下流部分で約0.2mmの減少変化(摩耗)が認められた。これに対して、リブ63の頂部にガラス部材66,68を組み付けた本発明に係る紙搬送装置11(実施例)では、最上流部分、中流部分、下流部分の何れにおいても、僅か0.01mm程度の増減変化が認められたが、これは測定誤差範囲内の変化であり、実質的な摩耗は発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る紙搬送装置を搭載したインクジェット式プリンタの一実施の形態の外観斜視図である。
【図2】図1に示したプリンタに組み込まれた紙搬送装置による用紙の搬送経路の概略構成を示す縦断面図である。
【図3】図2に示した搬送装置の処理部周辺の拡大図である。
【図4】図3に示したプラテン及び第1搬送手段の平面図である。
【図5】図4のB矢視図である。
【図6】図4に示したプラテン及び第1搬送手段の斜視図である。
【図7】図6に示したプラテンの拡大図である。
【図8】図7に示したプラテンの分解斜視図である。
【図9】図7に示したプラテン上のリブの構造説明図で、(a)は使用前の横断面図、(b)は使用により一部摩耗した状態の横断面図である。
【図10】従来のプリンタにおけるプラテン周辺の斜視図である。
【図11】図10のA−A線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 プリンタ
40 第1搬送手段
43 印刷処理部
44 印字ヘッド
45 キャリッジ
51 プラテン面
53 コックリング付与機構
55 第2搬送手段
57 誘い込み部材
61 基板
63 リブ
63a,63b 溝部
65 補助リブ
66,68 ガラス部材(セラミックス部材)
67 紙案内補助
67a 第1押え部
67b 突起
73 搬送基準位置
75,76,77 ガイドローラ
78,79 ピンチローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙を所定の搬送経路に沿って搬送する紙搬送装置において、搬送される用紙が摺接する用紙摺接部の少なくとも一部が、セラミックスにより形成されていることを特徴とする紙搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紙搬送装置であって、
前記用紙摺接部は、樹脂部材に対してセラミックス部材が組み付けられた構成であることを特徴とする紙搬送装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の紙搬送装置であって、
前記用紙摺接部は、基板上に形成した複数のリブの頂部により形成されているプラテン面であり、前記リブの少なくとも頂部の一部がセラミックスにより形成されていることを特徴とする紙搬送装置。
【請求項4】
請求項3に記載の紙搬送装置であって、
前記リブの用紙搬送方向上流側の頂部がセラミックスで形成されていることを特徴とする紙搬送装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の紙搬送装置であって、
前記セラミックスは、ガラスであることを特徴とする紙搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−232540(P2006−232540A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54044(P2005−54044)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】