説明

紙葉類取引システム

【課題】
偽券又は誤識別されるおそれのある真券に関する対策を容易に講じて、紙葉類取引装置の稼動を停止させることなく、安定的に運用する。
【解決手段】
取引される紙葉類の情報を取得し、紙葉類が持っている固有の特徴が所定の範囲内にあるかを判断して、紙葉類の真偽及び真偽の確からしさを判定する識別部112と、偽券と判定される疑いのある紙葉類に関する特定情報を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶される特定情報の作成及び特定情報の更新処理を行う管理部とを有する。識別部112における判定の結果、真券又は偽券の疑いがある紙葉類と判定された場合、記憶手段を参照して関連する特定情報の紙葉類のパターンと、取引対象の紙葉類のパターンを照合し、結果に応じて、管理部は取引対象の紙葉類のパターンを特定情報として記憶手段に記憶する。識別部112は、記憶手段に記憶された特定情報を用いて、取引される紙幣を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙葉類取引システムに係り、特に紙幣或いは有価証券等の取引紙幣の真偽判定に係わる処理に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣の入出金等の取引を自動的に行う現金自動取引装置(ATM(Automated Teller Machine))は、入出金される紙幣の真偽を識別する。紙幣の真偽の判別は、通常、複数種のセンサを備えた識別ユニットにおいて、各センサにより検出された紙幣の特徴情報を用いて真偽の判定を行なう。即ち、センサから取得された情報と予め設定された基準となる真券の特徴情報とを照合し、その結果両者が合致した場合、その紙幣は真である(以下、真券)と判断し、合致しなければ偽である(以下、偽券)と判断される。
ATMにおける紙幣の真偽判定については、例えば、特許文献1(特開2003−281603号公報)や、特許文献2(特開2004−157624号公報)に開示されている。
【0003】
しかし、一般にATMでは一度に多量の現金を取引できることから、偽券関係者の格好のターゲットとされやすい。また、真券であっても、その使用期間や状況による劣化などからいずれは偽の特性を持ってしまう可能性がある。例えば、ある地域でこのような問題が発生した場合、ATMの開発製造会社は、その地域で流通する紙幣のデータを採取して分析し、問題解決用のプログラムを作成してシステムに適用することで対策しなければならない。そのため、対策期間中、銀行は現金取引システムを停止しなければならず、不利益を被ることになる。
【0004】
その対策として、例えば、特許文献3(特開2005−208955号公報)には、閾値設定プログラムによって、センサのバラツキや温度湿度の環境に合わせて、鑑別の基準となる判定値の設定及び変更を行ない、判定値の頻度分布を参照しながら判定値の上限値と下限値を直接入力して変更することが開示されている。
【0005】
しかし、この従来技術では、紙幣の真偽判定において、上限値や下限値を設定するために、各真偽の関係する部分や特徴などの知識を持った上での判断することが必要となり、特別な知識を持った者が保守作業を行わなければならず、対策が限定的となる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−281603号公報
【特許文献2】特開2004−157624号公報
【特許文献3】特開2005−208955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紙幣の真偽の判定において、例えば、基準となる真券の特徴情報と合致するように精巧に製造された偽券の場合、その紙幣は真偽判定において真であるという誤った判定をしてしまう。また、逆に、真券であっても、使用期間や使用状況による劣化で、基準となる真券の特徴情報と合致しなくなった場合は、その紙幣は真偽判定において偽であるという誤った判定をしてしまう。
このような事態は、上記の要因の他に、紙幣の搬送時のバラツキや、鑑別に用いるデータを採取するためのセンサの出力変動や、気温や湿度などの環境による要因など、様々な内的外的な要因が影響すると考えられる。
【0008】
本発明の目的は、偽券又は誤識別されるおそれのある真券に関する対策を容易に講じて、紙葉類取引装置の稼動を停止させることなく、安定的に運用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、好ましくは、利用者の操作に従って紙葉類を自動的に取引する紙葉類取引システムにおいて、取引される紙葉類の情報を取得し、紙葉類が持っている固有の特徴が所定の範囲内にあるかを判断して、紙葉類の真偽及び真偽の確からしさを判定する識別部と、識別部で偽券と判定される疑いのある紙葉類に関する情報を特定情報として記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶される特定情報の作成及び特定情報の更新処理を行う管理部と、を有し、識別部における紙葉類の判定の結果、真券又は偽券の疑いがある紙葉類と判定された場合、記憶手段を参照して関連する特定情報の紙葉類のパターンと、取引対象の紙葉類のパターンを照合して、照合の結果に応じて、管理部は取引対象の紙葉類のパターンを含む特定情報を記憶手段に記憶する紙葉類取引システムとして構成される。
好ましい例では、前記管理部は、取引される紙幣の金種に応じて、偽券の疑いがある紙幣を1又は複数のグループに分け、グループに分類される紙幣を排除するために、真偽判定の対象とする特徴の部位、真偽判定、及び取引される紙幣のパターンを含む特定情報(以下、テンプレートという)を自動的に作成し、作成されたテンプレートを記憶手段に記憶する。
【0010】
また、好ましくは、紙幣の判定要因の処理結果から取引が正常になされているかを判断する取引状態判断処理手段と、識別部で不正な紙幣を検知した場合は、その判定要因から紙幣をその紙幣の特徴が属するグループに分類する(グループ判定という)グループ判定処理手段と、を有する。
また、好ましくは、利用者により取引された紙幣に関して、前記グループ判定処理手段によって分類されたグループごとに、紙幣のパターンを累積して記憶手段に記憶する。
また、好ましくは、前回までの取引に従って、前記グループ判定処理手段によって分類されたグループごとに記憶手段に記憶された情報と、今回の取引で、前記グループ判定処理手段によって同じグループに分類された紙幣の情報をグループ別に累積処理するグループ別累積処理手段を有し、グループ別累積処理手段による処理の結果に応じて、紙幣の情報を記憶手段に記憶する。
【0011】
また、好ましくは、前記グループ別累積処理手段によって、前記グループ判定処理手段により分類されるグループごとの特徴別の紙幣の累積データから、そのグループに分類される紙幣を排除するため又は受け入れるための照合の対象となる前記テンプレートを自動的に作成して、記憶手段に記憶する。
また、好ましくは、利用者に対して紙幣の取引を行うATMと、ATMに通信手段を介して接続され、前記記憶手段と前記管理部を持つホストコンピュータと、を含む紙葉類取引システムであって、ATMは前記テンプレートに関する情報を通信手段を介してホストコンピュータに送信する。
【0012】
また、好ましくは、前記記憶手段は、真偽判定の対象とする特徴の部位、真偽判定によって真券と判定されてしまう偽券及び又は偽券と判定されてしまう真券かを示す情報、及び取引される紙幣のパターンを含む情報を、前記テンプレートとして記憶する。
また、好ましくは、前記識別部は、利用者の取引の対象となる紙幣から取得された特徴と、記憶手段にテンプレートとして記憶されたパターンとを照合することで、真券と判定されてしまう偽券及び又は偽券と判定されてしまう真券かを判別する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偽券を排除するためのテンプレートを自動的に作成してそれを適用することで、現金自動取引装置における偽券の取引を防止することができる。
また、様々な理由により特定の真偽判定において偽券の特徴を持つ真券が流通して、その紙幣が現金自動取引装置に投入されることによって真券の返却率が高くなった場合にも、その真券を受け付けるためのテンプレートを適用することで、真券の返却率を改善させることができる。これにより、紙葉類取引装置の稼動を停止させることなく、安定的に運用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
図1は、一実施例による現金取引システムの構成を示す。
現金取引システムは、金融機関が管理する、紙幣等の現金の入出金や振込み等の取引を行うシステムであり、ATM1などの現金自動取引装置がネットワーク3を介してホストコンピュータ(以下単にホストという)2と接続して構成される。なお、図1では、1台のATMを示しているが、実際には多数のATM1がホスト1に接続される。
【0015】
この現金取引システムは、真券と誤って判定されてしまう偽券が入金された場合、その偽券を排除するために偽券の疑いがある紙幣の情報をテンプレートとして設定しておき、これによって偽券の入金を防止する。また、特定の真偽判定において偽券の特徴を持つ真券が投入されることにより、真券の返却率が高くなった場合でも、その真券を受け付けるためのテンプレートを適用して、真券の返却率を改善させることができる。
以下の例では、入金取引にテンプレートを適用した例を説明するが、入金取引に限らず、出金や振込みの取引にも適用できることは容易に理解されるであろう。
【0016】
ATM1は、主制御部102、通信部104、時刻管理部106、操作部108、紙幣取扱部110、識別部112、カード・通帳取扱部114、記憶部116を有する。
ここで、紙幣取扱部110は、図2に示すように、紙幣を受け入れる紙幣投入部103、紙幣を搬送する搬送路107、紙幣を一時的に保管する一時スタッカ部109、紙幣を収納する紙幣収納庫118〜122、の各機構部を有して構成される。
【0017】
図1及び2において、操作部108は、例えばタッチパネルの如き表示部と入力部を有し、取引のための案内を表示して利用者の操作を誘導すると共に、取引のための利用者の入力操作を受け付ける。紙幣取扱部110は、ATM1内での紙幣の搬送および紙幣の入出金を行う。識別部112は、投入された紙幣の真偽の判定、及びその判定の根拠となる要因を検出する。すなわち、識別部110は、複数の識別センサ105を備え、各センサは紙幣の識別に必要な特徴情報を読み取って取得する。
【0018】
カード・通帳取扱部114は、キャッシュカードや通帳を取扱う機構部であり、印字部及び磁気読み書き機構を有する。印字部でキャッシュカードや通帳に必要な情報を印字し、また磁気読み書き機構によってキャッシュカードや通帳に貼付された磁気ストライプに記録されている情報、例えば口座番号等の情報を読み取る。記憶部116は、取引に必要な各種のファイルやプログラムを記憶する。
通信部104は、ホスト2との間で取引やデータ送信などの通信を行う。時刻管理部106は、計時機能を有し、現在日時を管理する。
【0019】
主制御部102は、ATM1の上記各部を制御する機能を有する。操作部108の制御に関して言えば、主制御部102は取引案内の表示及び利用者による入力操作を制御して、利用者の氏名と連絡先を利用者情報として取得する。また、先に利用者が行った取引についての確認事項を表示するように制御することもできる。
【0020】
ここで、識別部112は、主制御部102からの命令を受けて、判定要因カウント処理及び取引状態判断処理を行う。これらの処理動作については、後述するが、判定要因カウント処理とは、識別部112における紙幣の判定の結果、その判定要因について紙幣の部位又は真偽判定の種類毎に分類、判断する処理をいう。また、取引状態判断処理とは、判定要因カウント処理の結果から取引が正常になされているかを判断する処理をいう。
【0021】
ホスト2の構成について説明すると、ホスト2は、主制御部202、通信部204、取引実行部206、取引情報DB208、取引履歴管理部210、テンプレートDB212、テンプレート管理部214を有する。
取引実行部206は、利用者の入出金等の取引に関する管理及び情報処理を行う。例えば、ATM1を操作して入金を行う場合、ATM1からの更新要求を受信して取引情報DB208の口座残高を更新して、入金取引を実行する。取引情報DB208は、利用者情報、金融機関番号、口座番号、取引日時、残高等に関する取引情報を記憶する。利用者情報とは、利用者の氏名、住所、生年月日等の個人情報である。
取引情報管理部210は、取引情報DB208を管理し、取引情報DB208を更新する。
【0022】
テンプレートDB212は、対策用テンプレートを記憶する。テンプレート管理部214は、テンプレートDB212を管理し、テンプレートDB212を更新する。ここで、対策用テンプレートとは、紙幣の判定処理によって分類されるパターンごとの特徴別取引紙幣累積データから、あるグループに属するパターンに分類される取引紙幣を排除、または受け入れるためのテンプレートをいう。また、グループ判定処理とは、不正な取引紙幣が使用されていると検知した場合、その判定要因からその紙幣の特徴が属するパターンに分類する処理をいう。図4を参照して後述するが、金種番号「1」の判定では、パターン1〜3までの3つのグループから成り、グループ判定処理によって3つのグループの何れかに分類されることになる。
主制御部202は、ホスト2内に構成される上記の各部を統括制御する。通信部204は、ネットワーク3を介してATM1との間で取引やデータ送信などの通信を行う。
【0023】
図3は紙幣の識別判定の部位を示す図である。
この例では、紙幣の識別のために、センサで取得される紙幣の特徴を示す7つの部位(真偽1から真偽7)が予め決められている。
紙幣の判定に当たり、真偽1から真偽7から選択された複数の部位の組合せによってテンプレートとなるパターンが設定される。1つの金額の紙幣に対して、複数の種類のパターンを設定してそれぞれパターン番号1〜nを付与することができる。図4には、設定されたパターン番号及び各パターン番号に属する構成要素としての複数の真偽h、j、k等が示される。
上記のように設定された複数の部位から成る複数の異なるパターン(パターン番号が異なる)を選択的に用いて、各パターンに含まれる真偽の部位を照合することで、紙幣の真偽を判定する。
【0024】
図4はテンプレートDB212の記憶フォーマットの例を示す。
テンプレートDBは、偽券の疑いがある紙幣の情報をテンプレートDB情報(以下、単にテンプレートという)として予め記憶するDBである。図示のように、テンプレートとして、金種番号、パターン番号、そのパターンを持つ紙幣の取引回数、テンプレートが作成された紙幣の真偽、判定要因カウント処理における構成要素、及び累積データを含む。
【0025】
ここで、金種とは複数の金種、例えば千円、5千円、一万円等の紙幣の種類をいう。金種番号「1」は例えば千円である。この例では、千円の金種のテンプレートしか示していないが、実際には5千円、一万円等の複数種のテンプレートがテンプレートDB212に記憶される。パターン番号とは、金種ごとに設定された、図3に示すような部位の組合せから成るパターンの種類を特定する番号である。
【0026】
取引回数とは、各パターンを持つ紙幣の取引枚数を言う。真偽とは、例えば金種番号1のパターン番号1,2,3の取引回数10回、7回又は13回全てが真であるか又は偽であるかを示す。構成要素とは、パターンの構成要素であり、具体的には、パターンを構成する図3の部位を示す。累積データとは、該当するパターンに分類された紙幣の特徴を累積したデータ、具体的には紙幣のイメージパターンをいう。累積データとしては、パターン番号ごとに代表的な1つの紙幣パターンでもよいし、複数の紙幣パターンを対象としてもよい。
真券と誤って判定されてしまう偽券が取引された場合、又はある真偽判定において偽券の特徴を持つ真券が取引された場合に、後述する処理動作(図6)により、このテンプレートDB212に記憶されたテンプレートの情報が更新される。
【0027】
図5は、真偽判定結果の分布図を示す。
図5において、領域Aは、取引された紙幣が、偽券の疑いがない真券である、と判定される分布領域である。領域Bは、取引された紙幣が、真券の分布領域に属しているが、真偽判定の閾値に近い分布を示しているため、偽券の疑いが残る紙幣である、と判定される分布領域である。ここで、領域Bは、B(H)と、B(L)に分類される。B(H)は、閾値の最大値近傍に分布する値であり、B(L)は、閾値の最小値近傍に分布する値である。そのため、これらB(H)、B(L)の領域に分布する紙幣は、許容範囲Aとは言え、異なる特徴を持つ可能性がある紙幣として、区別して管理する。
【0028】
また、領域Cは、領域Bの更に外側にあり、偽券の分布領域に属しているが、真偽判定の閾値に近い分布を示しているため、真券の疑いがある紙幣である、と判定される分布領域である。また、領域CもC(H)とC(L)に分類される。C(H)は、閾値の最大値近傍に分布する値であり、C(L)は、閾値の最小値近傍に分布する値である。そこで、これらの領域に分布する紙幣は、異なる別の特徴を持つ可能性がある紙幣として区別して管理する。
領域Dは、偽券の分布領域に属する領域である。この領域は、閾値からも遠い分布を示すため、完全に偽券であると判定される。
【0029】
なお、図5においては、ある一つの真偽判定における判定結果の分布を示しており、実際には複数の真偽において、それぞれ独立した判定結果の分布を持つこととなる。
紙幣の識別処理においては、各真偽判定のうち、全ての要素が真券の領域、つまり、全ての真偽判定において、AかBの領域に分布される判定値を得る紙幣を真券、それ以外を偽券であると判定する。
【0030】
本実施例において特徴的なことは、紙幣データを累積して自動的に対策用テンプレートを作成すること、及びその対象として、複数の真偽判定のうち、領域BとCに分布される判定値を持つ紙幣の情報を予め登録しておき、かつそれを更新することである。
その理由は、あまりに真券からかけ離れた特徴を示す紙幣を受け付けるためのテンプレートを作成して適用した場合、偽券を受け付ける誤判別可能性が高くなってしまうことが考えられるからである。また、逆に偽券の疑が全く無い紙幣を排除するためのテンプレートを作成して適用した場合、真券を排除してしまう誤判別可能性が高くなってしまうことが考えられるからである。
【0031】
ここで、図5における各領域の設定は、予め紙幣の特徴を調査して分析した結果の値を設定することで行う。紙幣に対するある真偽判定の結果、B(H)・B(L)、C(H)・C(L)に分布された場合は、判定要因カウント処理として、主制御部102の命令により識別処理の際に、紙幣ごとにその根拠となった真偽判定の要素をカウントして管理する。
そして、グループ判定処理として、紙幣が真券である場合、偽券である場合それぞれにおいて、判定要因カウント処理によって挙げられた真偽判定の構成要素からパターン分けして、最も関係するグループ(図4のパターン番号のグループ)に分類する。
【0032】
ここで、分類されるグループの構成要素は、取引されることが予想される偽券のパターンを予め設定しておくことによって、そのパターンと同じ構成要素をもつ紙幣が取引された際に既存のパターンとして分類する。また、予め設定されていないパターンの紙幣が取引された場合には、その後、新規パターンとしてテンプレートDB212に記憶する。
【0033】
次に、図3及び図4に示す例を参照して、グループ判定処理について概念的に説明する。
例えば、金種1において、紙幣の識別処理として、図3に示す7種類の真偽判定を行う。また、テンプレートDB212には、金種1のテンプレートとして、パターン1から3の累積データが記憶されている。ここで、パターン1に分類される紙幣は、過去に10回取引された。それは偽券の疑いのある真券のデータであり、その判定要因となった真偽判定の構成要素は、真偽1のB(H)に分布される判定結果と、真偽2のB(L)に分布される判定結果と、真偽3のB(L)に分布される判定結果を持つ。かつ他の構成要素、即ち真偽4から真偽7の判定値は、Aの領域に分布される紙幣である。
【0034】
同様に、パターン2に分類される紙幣は、過去に7回取引され、それは偽券の疑いのある真券のデータである。その判定要因となった真偽判定の構成要素は、真偽5のB(L)に分布される判定結果と、真偽7のB(L)に分布される判定結果を持ち、且つ他の真偽判定値は、Aの領域に分布される紙幣である。
【0035】
また、パターン3に分類される紙幣は、過去に13回取引された、真券の疑いのある偽券のデータである。その判定要因となった真偽判定の構成要素は、真偽2のC(H)に分布される判定結果と、真偽6のC(H)に分布される判定結果を持ち、且つ真偽7のB(L)に分布される判定結果を持ち、且つ他の真偽判定値は、Aの領域に分布される紙幣である。
【0036】
次に、図6を参照して現金取引システムにおける取引動作を説明する。
この取引システムの処理動作は、ATM1の処理動作と、ホスト2の処理動作の連携によって実行される。
まず、ATM1の利用者は、例えば入金の取引時にキャッシュカード又は通帳をATM1のカード・通帳取扱部114に挿入する(S10)。カード・通帳取扱部114は、通帳またはキャッシュカードの磁気ストライプに記録された口座番号を読み取り、その読み取った口座番号を基に利用者の本人を確認する(S20)。ここで、本人確認の方法としては、操作部108より入力された暗証番号と予め設定された暗証番号とを照合する方法や、利用者の生体情報を検知して本人を認証する方法などがある。本人確認の結果、正当な本人であることが確認されたら(S20/Yes)、読み取った口座番号を、通信部104を介してホスト2へ送信し、利用者情報の送信を要求する(S30)。
ホスト2で利用者情報の要求を受け取ると、取引情報管理部210は、取引情報DBを検索して当該口座番号に対応する利用者情報を読み出してATM1へ送信する(S40)。
【0037】
ATM1は、ホスト2から送信された利用者情報を受信すると、操作部108に取引案内を表示して、利用者に紙幣投入部103から紙幣投入を促す(S50)。投入された紙幣は、紙幣取扱部110の搬送路を通って識別部112へ搬送され、そこで識別処理される(S60)。識別処理は、複数のセンサからの検知データに従って複数の真偽判定が行なわれる。紙幣は、複数の真偽判定における全ての結果を総じて、真券かまたは偽券か(S70)が判定される。
【0038】
ここで、真券である(S70/Yes)と判定されるには、全ての真偽判定において、図5の許容範囲で示される領域Aに分布する結果を得なければならない。また、偽券である(S70/No)と判断されるには、各真偽判定のうち、1つでも図5のリジェクト範囲の領域B〜Dに分布される結果を得た場合である。
【0039】
紙幣が真券である(S70/Yes)と判定された場合、判定要因カウント処理を行い、各真偽判定のうち、Bの領域に分布するものがないか、カウントする(S80)。ここで、全ての真偽判定の結果、Aの領域に分布する判定結果となった場合(S80/Yes)、その紙幣は疑いようのない真券として、取引金額を記憶部116に記憶して、その紙幣を紙幣収納庫120〜124の何れかに金種別に収納する(S150―1)。
【0040】
一方、真偽判定(S70)において、1つでも領域Bに分布される判定結果があった場合は(S80/No)、領域Bに分布されることになった真偽判定をその紙幣の特徴として、グループ判定処理を行う(S90)。ATM1は、グループ判定処理(S90)の結果から、ホスト2に要求してテンプレートDB212を参照して、同じパターンに分類される累積データが記憶されているかどうかを調べる(S100)。これは、判定対象の紙幣のパターンと、累積データとしてのパターンとを照合して行う。
【0041】
ホスト2は、同じグループの累積データを記憶している場合には、その累積データをATM1に送信する(S110)。また、同じパターンの累積データが無い場合には、送信しない。この場合、送信の対象とする累積データとしては、1つの紙幣パターンでも良いし、複数のパターンでも良い。
【0042】
ATM1で受信された累積データは、記憶部116に一時記憶される。ATM1は、ホスト2から累積データを受け取った後、その累積データ中に、今回新たに取引された同じグループに分類された紙幣のパターンを累積するための処理を行う。また、テンプレートDB212に同じパターンのデータが無い場合には、新規の累積データとしてその紙幣パターンを累積するための処理を行う(S130)。そこで、累積される新たなデータ(累積データ)は、ATM1の記憶部116に一時記憶され、一連の処理が全て終わった時に、ホスト2へ送信される(S140)。
【0043】
ホスト2では、テンプレート管理部214の処理の下、受信した累積データを、テンプレートDB212内の対応するパターン番号の累積データとして記憶する。累積データの記憶に関して、テンプレートDB212に既に同じパターンの累積データが存在する場合には、取引回数と累積データを更新する。即ち、受信した新たなパターンを累積データとして登録する。また、テンプレートDB212に、受信した紙幣のパターンと同じ累積データが存在しない場合には、その紙幣パターンを新たなテンプレートとして作成して記憶する(S220)。なお、累積データは、パターンを構成する各真偽判定の要素ごとでも良いし、複数の各真偽判定の要素を同時に累積しても良い。
以上の処理が終了したら、真券と判定された紙幣の取引金額を記憶部116へ記憶して、その紙幣を金種に応じて紙幣格納庫120〜124に収納する(S150)。
【0044】
真偽判定(S70)において、紙幣が偽券である(S70/No)と判定された場合、判定要因カウント処理を行い、各真偽判定のうち、領域Cに分布されるものがないかをカウントする(S160)。この際、真偽判定の結果が1つでも領域Dに分布される場合には(S160/No)、その紙幣は疑いようのない偽券として処理するために、その紙幣を搬送して紙幣投入部103へ返却する。
【0045】
一方、各真偽判定において、領域Dに分布される判定結果が1つも無く、領域Cに分布される判定結果で偽券と判定された場合は(S160/Yes)、判定値が領域Cに分布した真偽判定と、判定値が領域Bに分布した真偽判定が存在したら、それらをパターンの構成要素として、グループ判定処理を行う(S170)。ATM1は、グループ判定処理(S170)の結果から、ホスト2に要求してテンプレートDB212内に同じパターンに分類される累積データが記憶されているかどうかを調べる(S180)。すなわち、テンプレート管理部214の制御の下、テンプレートDB212を参照して、同じグループの累積データを記憶している場合には、その累積データをATM1に送信する(S110)。また、同じパターンの累積データが無い場合には、送信しない。
【0046】
ATM1で受信された累積データは、記憶部116に一時記憶される。ATM1では、ホスト2から受け取った累積データに、今回新たに取引された、同じグループに分類される紙幣のデータを新たに累積して、累積データを更新する。一方、テンプレートDB212に同じパターンのデータがない場合には、そのパターンを新規の累積データとして記憶する処理を行う(S190)。すなわち、新規の累積データは記憶部116に一時記憶され、対象となる全ての累積処理が終わった時に、ホスト2へ送信される(S200)。
【0047】
ホスト2で受信された累積データは、テンプレートDBに既に同じパターンの累積データが存在する場合は、取引回数と累積データを更新する。また、テンプレートDB内に同じパターンの累積データが存在しない場合は、受信したデータから新規のテンプレートを作成して、そのパターンを累積データとして記憶する(S220)。
【0048】
以上の処理が終了すると、ATM1では偽券と判断した紙幣を紙幣投入部103へ返却する。ここで、同じパターンを持つ、真券の疑いのある偽券が大量に取引された場合には、そのATMの取引を停止できるようにするのがよい。例えば、単一金種において、同じパターンの真券の疑いがある偽券が、全取引数の30%以上を占めるときは、主制御部102が取引停止命令を発行して、操作部108にその旨を表示し、取引を停止する。
【0049】
以上の取引が終了したら、ATM1は、取引情報の更新処理を行うために、今回の取引で取り扱った金額を集計する(S230)。そして、集計された金額情報を含む取引情報を、ATM1からホスト2へ送信する(S240)。ホスト2では、その取引情報を受信すると、取引情報管理部210の制御の下、その利用者に関して取引情報DB208を更新する処理を行う(S250)。例えば、利用者の口座残高を更新し、例えば入金取引の情報をログとして記憶する等の処理を行う。
ATM1では、キャッシュカードや通帳を利用者に返却すると共に、記憶部116に記憶された本人確認のための個人情報を消去して、一連の取引を終了する(S260)。
【0050】
上記した図6に基づく取引処理により、取引された紙幣の特徴パターンを累積データとしてテンプレートを自動的に作成して、テンプレートDB212を構築することができる。このテンプレートを利用して特定の特徴を持つ紙幣に対する対策を講じることができる。例えば、金融機関の係員は、操作部108を操作してATMを運用モードから保守モードに切り替え、ターゲットとなる紙幣の特徴を持つパターンを選択して、ATMでの排除または受け付けを設定することが可能である。その場合、テンプレートDB212に記憶されているテンプレートから、ある特徴を持つ紙幣が、過去に何回取引されたかを表す取引回数を用いて、適用するテンプレートを制御することが可能である。
【0051】
例えば、ある特徴を持つ紙幣が100回以上取引された場合、その紙幣に関するテンプレートを対象とするATMに適用して、ATM内の記憶部116にそのテンプレートにおける紙幣のパターンを記憶しておく。ATM1の識別部112は、記憶部116に記憶されたそのテンプレートの紙幣のパターンと、取引される紙幣の特徴パターンとを照合することで、その照合結果に応じて対象とする疑いのある紙幣を排除することができる。また、この取引回数の上限値は、任意に設定することも可能である。
【0052】
なお、このようなテンプレートを設定する処理は、その適用範囲としてATMごとに設定しても良い。また、複数のATMが、ホストに接続された複数のサーバにそれぞれ接続されている場合、そのサーバ単位に支店ごと又は地域ごとに設定することができる。更には全てのATMを対象として設定してもよい。また、設定方法としては、上記したようにATM1の操作部108を操作して行っても良いし、或いはホスト2を制御して通信部を介してシステムに接続されているATMに適用しても良い。
【0053】
また、他の代案として、上記実施例は、ホスト2がテンプレートDB212を有する例であるが、このテンプレートDB212及びその管理部214は、ATMごと又は、ローカルなサーバごとに設置するようにしてもよい。そのような構成にしても本発明の実質的な処理は変わらないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】一実施例による現金取引システムを示す図。
【図2】一実施例におけるATMの構成例を示す側面図。
【図3】一実施例における紙幣の識別判定の部位を示す図。
【図4】一実施例におけるテンプレートDB210の記憶フォーマットの例を示す図。
【図5】一実施例における真偽判定結果の分布を示す図。
【図6】一実施例における紙幣の取引処理動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0055】
1:ATM 102:主制御部 103:投入部 104:通信部 105:識別機センサ 106:時刻管理部 107:搬送路 108:操作部 109:一時スタッカ部 110:紙幣取扱部 112:鑑別部 114:カード・通帳取扱部 116:記憶部 118〜122:紙幣収納庫 2:ホストコンピュータ 202:主制御部 204:通信部 206:取引実行部 208:取引情報DB 210:取引情報管理部 212:テンプレートDB 214:テンプレート管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の操作に従って紙葉類を自動的に取引する紙葉類取引システムにおいて、
取引される紙葉類の情報を取得し、該該紙葉類が持っている固有の特徴が所定の範囲内にあるかを判断して、紙葉類の真偽及び真偽の確からしさを判定する識別部と、該識別部で偽券と判定される疑いのある紙葉類に関する情報を特定情報として記憶する記憶手段と、該記憶手段に記憶される該特定情報の作成及び該特定情報の更新処理を行う管理部と、を有し、
該識別部における該紙葉類の判定の結果、真券又は偽券の疑いがある紙葉類と判定された場合、該記憶手段を参照して関連する該特定情報の紙葉類のパターンと、取引対象の紙葉類のパターンを照合して、該照合の結果に応じて、該管理部は取引対象の紙葉類のパターンを含む該特定情報を該記憶手段に記憶することを特徴とする紙葉類取引システム。
【請求項2】
前記管理部は、取引される紙幣の金種に応じて、偽券の疑いがある紙幣を1又は複数のグループに分け、該グループに分類される紙幣を排除するために、真偽判定の対象とする特徴の部位、真偽判定、及び取引される紙幣のパターンを含む特定情報(以下、テンプレートという)を自動的に作成し、作成された該テンプレートを該記憶手段に記憶することを特徴とする請求項1の紙葉類取引システム
【請求項3】
紙幣の判定要因の処理結果から取引が正常になされているかを判断する取引状態判断処理手段と、該識別部で不正な紙幣を検知した場合は、その判定要因から該紙幣をその紙幣の特徴が属するグループに分類する(グループ判定という)グループ判定処理手段と、を有することを特徴とする請求項2記載の紙葉類取引システム。
【請求項4】
該識別部は、取引される紙幣の図柄及び金額を含む特徴を検出する複数のセンサを有し、該センサによって取得された紙弊の情報を該記憶手段に記憶することを特徴とする請求項2又は3の取引システム。
【請求項5】
利用者により取引された紙幣に関して、前記グループ判定処理手段によって分類されたグループごとに、紙幣の該パターンを累積して該記憶手段に記憶することを特徴とする請求項3又は4の紙葉類取引システム。
【請求項6】
前回までの取引に従って、前記グループ判定処理手段によって分類されたグループごとに該記憶手段に記憶された情報と、今回の取引で、前記グループ判定処理手段によって同じグループに分類された紙幣の情報をグループ別に累積処理するグループ別累積処理手段を有し、該グループ別累積処理手段による処理の結果に応じて、紙幣の情報を該記憶手段に記憶することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかの紙葉類取引システム。
【請求項7】
前記グループ別累積処理手段によって、前記グループ判定処理手段により分類されるグループごとの特徴別の紙幣の累積データから、そのグループに分類される紙幣を排除するため又は受け入れるための照合の対象となる前記テンプレートを自動的に作成して、該記憶手段に記憶することを特徴とする請求項6の紙葉類取引システム。
【請求項8】
利用者に対して紙幣の取引を行うATMと、該ATMに通信手段を介して接続され、前記記憶手段と前記管理部を持つホストコンピュータと、を含む紙葉類取引システムであって、該ATMは前記テンプレートに関する情報を該通信手段を介して該ホストコンピュータに送信することを特徴とする請求項2乃至6のいずれかの紙葉類取引システム。
【請求項9】
前記記憶手段は、真偽判定の対象とする特徴の部位、真偽判定によって真券と判定されてしまう偽券及び又は偽券と判定されてしまう真券かを示す情報、及び取引される紙幣のパターンを含む情報を、前記テンプレートとして記憶することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかの紙葉類取引システム。
【請求項10】
前記識別部は、利用者の取引の対象となる紙幣から取得された特徴と、該記憶手段に該テンプレートとして記憶されたパターンとを照合することで、真券と判定されてしまう偽券及び又は偽券と判定されてしまう真券かを判別することを特徴とする請求項2乃至9の何れかの紙葉類取引システム。
【請求項11】
利用者の操作に従って紙葉類を自動的に取引する紙葉類取引装置において、
取引される紙葉類の情報を取得し、該該紙葉類が持っている固有の特徴が所定の範囲内にあるかを判断して、紙葉類の真偽及び真偽の確からしさを判定する識別部と、該識別部で偽券と判定される疑いのある紙葉類に関する情報を特定情報として記憶する記憶手段と、該記憶手段に記憶される該特定情報の作成及び該特定情報の更新処理を行う管理部と、を有し、
該識別部における該紙葉類の判定の結果、真券又は偽券の疑いがある紙葉類と判定された場合、該記憶手段を参照して関連する該特定情報の紙葉類のパターンと、取引対象の紙葉類のパターンを照合して、該照合の結果に応じて、該管理部は取引対象の紙葉類のパターンを含む該特定情報を該記憶手段に記憶することを特徴とする紙葉類取引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−140262(P2008−140262A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327316(P2006−327316)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】