説明

紙製品

【課題】水分・塵・油分等の拭き取り性を向上した紙製品を提供する。
【解決手段】複数枚の積層された基材紙がエンボスによってプライ構造とされた紙製品であって、前記エンボスは、幅1〜3mmの線状の凹エンボスが格子状に配されたエンボスパターンを有し、その凹エンボスの深さが1〜3mmであり、かつ、単位面積あたりの凹エンボスの面積が2〜40%であり、前記凹エンボスで囲まれる矩形部分の対角線距離で定義されるエンボスピッチが10〜30mmである紙製品により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスを有する紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンボスを有する紙製品の一つに、各種の産業用製品やこれに用いる部品に付着した塵・埃・水分・油分の拭き取り用途に適した産業用ワイパーがある。
この産業用ワイパーにおいては、水分や油分の拭き取り性に加えて、紙粉(リント)の発生が少ないことが求められ、その拭き取り性能を高めるべく、複数枚を重ねるとともにこれらをエンボスによって一体化したプライ構造とすることが行われている。
従来の産業用ワイパーにおけるエンボスパターンは、図2に示されるピンエンボスパターンか、図3に示されるディンプル状エンボスパターンが主であった。これは、図2に示されるピンエンボスパターンは、そのエンボス凹部に塵や埃等の汚れがよく取り込まれるため、かかる粉塵物の拭き取り性に優れ、また、図3に示されるディンプル状エンボスパターンは、ディンプルの凹凸によってグリスなどの粘度の高い汚れの拭き取り性に優れるためである。
しかしながら、前者のピンエンボスパターンを有するものは、グリスなどの粘度の高い汚れの拭き取りには適さず、後者のディンプル状エンボスパターンを有するものは、水等の粘度の低い液体の拭き取りには適していなかった。
【特許文献1】特開2005−160654
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の主たる課題は、粉塵等やグリスなどの粘度の高い汚れの拭き取り性と水分の吸収性に優れる紙製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
複数枚の積層された基材紙がエンボスによってプライ構造とされた紙製品であって、
前記エンボスは、凹エンボスラインが格子状に配されたエンボスパターンを有することを特徴とする紙製品。
【0005】
<請求項2記載の発明>
前記凹エンボスラインの幅が1〜3mmであり深さが1〜3mmであり、
かつ、単位面積あたりの凹エンボスラインの面積が2〜40%であり、
前記凹エンボスラインで囲まれる矩形部分の対角線距離で定義されるエンボスピッチが10〜30mmである請求項1記載の紙製品。
【0006】
<請求項3記載の発明>
前記エンボスは、凹エンボスラインによって囲まれる矩形部分に、一つ以上の円形凹エンボスが配されているエンボスパターンを有する請求項1又は2記載の紙製品。
【0007】
<請求項4記載の発明>
前記円形凹エンボスは、半径が1〜5mm、深さが0.5〜3.0mm、隣接する円形エンボス間の距離が2〜10mmである請求項3記載の紙製品。
【発明の効果】
【0008】
以上の本発明によれば、粉塵等やグリスなどの粘度の高い汚れの拭き取り性と水分の吸収性に優れる紙製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次いで、本発明の実施の形態を図面を参照しながら以下に詳述する。
<第1の実施の形態>
図1は、本願発明にかかる紙製品である産業用ワイパー1の第1の実施形態を示すものである。以下、産業用ワイパーを例に本発明の紙製品を説明する。
この産業用ワイパー1は、複数枚の積層された基材紙がエンボスによってプライ構造とされている。
本発明においては、その積層数(プライ数)は、特に限定されはしないが2〜5プライ、特には3又は4プライであるのがよい。5プライを超えると拭き取り操作時にプライ間でズレが生じて皺が発生し、拭き取り性が低下する。
【0010】
他方、本発明の産業ワイパー1は、基材紙同士をプライ接合するためのエンボスが付与されている。このエンボスは、図1に示されるように、幅1〜3mmの線状の凹エンボスラインが格子状に配されたエンボスパターンを有する。
【0011】
かかる格子状エンボスパターンとすると、水分などの粘度の低い液体を拭き取ったときには、線状の凹エンボス内を当該液体が走りつつ吸収されるようになり、水分等の良好な拭き取り性が発揮される。また、粉塵・グリスなどの粘度の高い汚れについては、凹エンボスラインのエッジ部分により掻き取るように拭き取ることでき、もって拭き取り性能に極めて優れたものとなる。
【0012】
そして、かかる凹エンボスラインの深さについては1〜3mmとする。特に好適には1〜2とする。凹エンボスラインの深さが1mm未満であったり、3mmを超えたりすると所望の拭き取り性能が得られなくなる。
【0013】
また、この凹エンボスラインは、単位面積あたりの凹エンボスの面積が2〜40%とする。すなわち、一方面の全面積あたりの凹エンボスラインが配されている部分の比率が2〜40%とする。凹エンボスの面積が2%未満であったり、40%を超えたりすると所望の拭き取り性向上効果が得られなくなる。なお、より好ましい凹エンボスラインの面積は、10〜20%である。
【0014】
さらに、前記凹エンボスラインで囲まれる矩形部分の対角線距離で定義されるエンボスピッチは10〜30mmとする。好ましくは、15〜25とする。エンボスピッチが10mm未満であったり、30mmを超えたりすると、所望の拭き取り性が得られなくなる。
【0015】
ここで、本発明に従って線状の凹エンボスを格子状に配するにあたっては、基材紙の縦方向に対して45±10度及び135±10度の交差角となるように配するのがよい。
なお、縦方向とは、基材紙の縦方向を意味し、抄造時における流れ方向に沿う方向である。この縦方向は、一般的にはMD方向とも言われる。また、この縦方向と直交する方向は横方向という。この横方向は一般的にはCD方向とも言われる。
図1に示す例では、交差角αは45度及び135度となるようにして格子状に配している。
【0016】
他方、エンボスの付与方法については、例えば、一対のエンボスロール間に基材紙を通して付与することができる。この場合、エンボス圧が、10〜80kg/cm、好ましくは10〜25kg/cmとなるようにするのが望ましい。エンボス圧が低すぎると、エンボスが鮮明になるとの効果が、十分に発揮されないおそれがある。他方、エンボス圧が高すぎると、加工時に破断するおそれがある。
【0017】
一対のエンボスロールに関しては、エンボスパターンが付与された金属ロールと弾性ロールとの組み合せが好ましく、この場合、弾性ロールは、その表面のショア硬度(Shore hardness)が、A30〜A90であるのが好ましい。ショア硬度が低すぎると、つまり弾性ロール表面がやわらかすぎると、基材紙が破断するおそれがある。他方、ショア硬度が高すぎると、つまり弾性ロール表面が硬すぎると、エンボスが入らなくなるおそれがある。
以上のようにしてエンボスが付与された基材紙は、既知の方法に従って、インターフォルダ等により積層し折り畳んだり、巻き取ったりして製品とすることができる。
【0018】
他方、本発明の産業用ワイパーは、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)を含む、特にFSC認証されたLBKPを含むのが望ましい。特に好適には、前記基材紙は、パルプとしてLBKP(広葉樹クラフトパルプ)を10〜30重量%、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)を70〜90重量%含む。
製造は、NBKP及びLBKPを含む抄造原料を既知のクレープ紙、薄葉紙の製造に基づいて抄造することができる。
NBKP、LBKP以外の構成繊維としては、ケナフパルプ、マニラ麻等の非木材パルプ、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等の合成繊維が例示できる。
【0019】
基材紙の坪量(JIS P 8124:1998)は、1プライあたり、15〜25g/m2、好ましくは18〜23g/m2であるのがよい。15g/m2未満であると、十分な吸液量を発言させることが困難となる。また、25g/m2を超えると、厚すぎて操作性が悪くなり、特に細かい部品・部分の拭き取りがしにくいものとなる。
【0020】
加えて、この産業用ワイパーは、厚さ(尾崎製作所製ピーコックにより測定)が、200〜1000μm、好ましくは400〜700μmであるのがよい。厚さが200μm未満であると薄すぎて、拭き取り時に汚れ・汚液が裏抜けしやすく十分な拭き取り性能を得ることが難しくなり、また、皺も発生しやすくなる。1000μmを超えると厚すぎて操作性が悪くなり、特に細かい部品・部分の拭き取りがしにくいものとなる。
【0021】
他方、本発明の産業用ワイパーは、JIS P 8113に準じて測定された、縦方向の引張り強さが1500〜6000cN/25mmであり、横方向の引張り強さが500〜2000cN/25mmであるのが望ましい。
【0022】
<第2の実施の形態>
次いで、本発明のより好ましい形態を図7を参照しながら説明する。本発明の形態は、図2からも明らかなように、上述の凹エンボスライン10によって形成される矩形部分内に、さらに円形の凹エンボス11,11が配されている形態である。凹エンボスラインの構成及び基材紙の構成など、円形凹エンボスに関する構成以外の構成については、第1の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【0023】
図示例においては矩形部分に配される円形凹エンボスの数は5であるが、本形態においては、これは特に限定されない。ただし隣接する円形エンボス間の距離が2〜10mmとするのが望ましい。さらに、円形凹エンボス11を配する場合には、その円形凹エンボス11は、半径が1〜5mm、深さが0.5〜3.0mmであるのは望ましい。
【0024】
本形態にかかる産業用ワイパーでは、前記第1の形態の産業用ワイパーよりも、より粘度の高い汚れの拭き取り性に優れる。そのうえ、円形凹エンボスの配置によって意匠性にも優れる。さらに、柔らかさ及び吸水性についてもより効果が高い。
【実施例】
【0025】
次いで、本発明の実施例、比較例について、水の拭き取り性と水の吸収拡散性とについて試験し、評価した。
本願発明の各例にかかる試料はすべて、坪量19.2g/m2の基材紙を4枚重ねとしてエンボスを付与したものである。
実施例1は、第1の実施の形態にかかる上記説明の図1に示すエンボスパターンを採用したものである。
実施例2は、第2の実施の形態にかかる上記説明の図2に示すエンボスパターンを採用したものである。
なお、本例における隣接する円形エンボス間の距離は1.8mmであり、円形エンボスの半径は1.1mmである。
【0026】
比較例1は、図3に示す従来のピン状の単位エンボス凹部20を規則的に配置したピンエンボスパターンを採用した産業用ワイパーX11である。
比較例2は、図4に示すディンプル状の単位エンボス凹部30を規則的に配置したディンプル状エンボスパターンを採用した産業用ワイパーX12ある。
比較例3は、図5に示す六角形の網の目状にエンボス凹部40を配したエンボスパターンを採用した産業用ワイパーX13である。
比較例4は、図6に示す紙の横方向に沿って破線状エンボス50を配置したパターンを採用した産業用ワイパーX14である。
比較例5は、図7に示すドーナツ状の単位凹エンボス60を規則的に配置したエンボスパターンを採用した産業用ワイパーX15である。
なお、各例における単位凹エンボス(エンボスを構成する一つの凹エンボス)間の縦横の間隔Ly,Ltは、試験の結果とともに表1中に示す。
【0027】
[水の拭き取り性能]
表面平滑な水平台(一般に使われる実験台、天板材質:セグラン、セルロン)上に常温の水をマイクロピペットで250μ≡滴下し、各例に係る試料(寸法:横315mm×縦405mm)を4つ折りにし、500gのおもりを載せた状態で水平台上を約1秒間でスライド移動させて、上記滴下した水を拭き取る操作を行う。評価は、水分の拭き取り良好であるか否かを目視にて確認し、4段階評価(◎よく拭き取れる、○普通に拭き取れる、△拭き残しが確認できる。×十分に拭き取りができたとは言い難い)で評価した。
【0028】
[水の吸収拡散性]
試料となる15cm×15cmの大きさのシートの上に、ピペットで水300μlを滴下して、その水の浸透する具合を目視にて確認し、速度の印象を三段階で評価した。表中の○は極めて迅速に浸透すると感じたもの、△は、早くも遅くもないと感じたもの、×は遅いと感じたものである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示されるとおり、本発明の実施例1及び2については、水の拭き取り性及び水の吸収拡散性ともに高い評価となったのに対して、比較例1〜5については、水の拭き取り性及び水の拡散性について高評価は得られなかった。
以上のことから、本発明の産業用ワイパーは、水の拭き取り性及び水の吸収拡散性に優れることが確認できた。
【0031】
なお、本発明者らにおいて、実施例1については、グリス等の粘度の高い汚れに対する拭き取り性についてはディンプル状エンボスパターンのものと同等以上、塵などの汚れに対する拭き取り性についてはピンエンボスパターンを採用したものと同等以上であることを知見している。また、実施例2については、グリス等の粘度の高い汚れに対する拭き取り性についてはディンプル状エンボスパターンのもの以上、塵などの汚れに対する拭き取り性についてはピンエンボスパターンを採用したもの以上であることを知見している。
従って、本発明によれば、粉塵等やグリスなどの粘度の高い汚れの拭き取り性と水分の吸収性に優れる紙製品が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、産業製品や産業製品用の部品に付着した水分、油分、塵等を拭き取る紙製品に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態の産業用ワイパーのエンボスパターンを示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の産業用ワイパーのエンボスパターンを示す図である。
【図3】従来の産業用ワイパーのピンエンボスパターンを示す図である。
【図4】従来の産業用ワイパーのディンプル状エンボスパターンを示す図である。
【図5】比較例3にかかる産業用ワイパーのエンボスパターンを示す図である。
【図6】比較例4にかかる産業用ワイパーのエンボスパターンを示す図である。
【図7】比較例5にかかる産業用ワイパーのエンボスパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0034】
X1〜X2,X11〜X15…産業用ワイパー、10…凹エンボスライン、11…円形エンボス、20…ピンエンボスの単位凹エンボス、30…ディンプル状エンボスの単位凹エンボス、40…六角系状エンボスの凹エンボス部、50…破線状エンボスライン、60…ドーナツ状単位凹エンボス、L1…線状凹エンボスの幅、L2…エンボスピッチ、Ly…単位凹エンボス間の間隔(横方向)、Lt…単位凹エンボス間の間隔(縦方向)、α…線状凹エンボスと基材紙の縦方向との交差角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の積層された基材紙がエンボスによってプライ構造とされた紙製品であって、
前記エンボスは、凹エンボスラインが格子状に配されたエンボスパターンを有することを特徴とする紙製品。
【請求項2】
前記凹エンボスラインの幅が1〜3mmであり深さが1〜3mmであり、
かつ、単位面積あたりの凹エンボスラインの面積が2〜40%であり、
前記凹エンボスラインで囲まれる矩形部分の対角線距離で定義されるエンボスピッチが10〜30mmである請求項1記載の紙製品。
【請求項3】
前記エンボスは、凹エンボスラインによって囲まれる矩形部分に、一つ以上の円形凹エンボスが配されているエンボスパターンを有する請求項1又は2記載の紙製品。
【請求項4】
前記円形凹エンボスは、半径が1〜5mm、深さが0.5〜3.0mm、隣接する円形エンボス間の距離が2〜10mmである請求項3記載の紙製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−243019(P2009−243019A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94214(P2008−94214)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】