説明

素形材及びその成形方法

【課題】型を用いずに素形材の成形が可能であって、形状変更にも容易に対応可能とする。
【解決手段】固相率が30〜60%の範囲内にある金属スラリ10を作業台20に載せ、ナイフ形状の工具30Aによって、金属スラリ10の外形形状の加工を行い、必要に応じて、中空管形状の工具30Bやドリルによって穴明け加工を行う。加工中は、作業台20の断熱機能により、金属スラリ10が保温されるため、凝固することなく加工可能である。加工後、自然放置などにより冷却すると凝固し、素形材50が得られる。型を利用しないため、試作段階で形状変更や手直しの必要が生じても、低コスト・短時間で対応できる。また、試作品のほか、少量生産品や芸術品・記念品などの成形にも都合がよい。更に、ロボットハンド40A,40Bに工具30A,30Bを固定して利用すると、成形の再現性や、複雑な形状の成形が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素形材及びその成形方法に関し、更に具体的には、金型を使用しないダイレス成形に関するものである。
【背景技術】
【0002】
素形材の成形法としては、鋳造や鍛造が知られている。このうち、素形材の成形法として多用されている鋳造では、重力や圧力を利用して、溶湯を鋳型に流し込む方法が採用されている。前記鋳型は、金属の場合や砂の場合,あるいは、石膏の場合など様々である。例えば、下記特許文献1には、半凝固金属を加圧成形する方法と同方法に使用される金型を提供することを目的とした技術が開示されている。これに対し、前記鍛造は、前記鋳造品を素材としてハンマーやプレスなどにより形を整える方法である。このような鍛造技術としては、例えば、下記特許文献2に記載の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−126955号公報
【特許文献2】特開2006−150430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、以上のような背景技術には、次のような不都合がある。まず、鋳造においては、鋳型が金属の場合は、金型設計や金型加工のほか、金属材料,金型熱処理,金型表面処理など各種の工程を経て金型を作ることから、コストが高く、多大な製作時間が必要になるという不都合がある。また、ダイカスト鋳造では、試作品の場合であっても、製品の生産の場合と同じ金型が必要となり、これが高価であることから、思い切った試作ができないという不都合もある。更に、試作段階で僅かでも形状変更があったときは、金型改修に時間とコストが掛かるため、手直ししにくいという不都合もある。砂型や石膏型の場合では、元となる木型が必要となるが、1回の鋳造の度に破壊してしまう。そのため、1回の鋳造の度に、砂型や石膏型等を作る必要があり、型製作の場所や装置,技能,労力を要し、効率が悪いという不都合がある。一方、上述した鍛造では、鋳造品を素材に使用することから、上記の課題がそのまま残り、更に、鍛造の金型損耗が激しく、金型費用が多大になるという不都合がある。このように、いずれにしても、従来の素形材の成形方法は、各種素材の型を使用して、型に従った形状に素材を成形する方法である。
【0005】
本発明は、以上の点に着目したもので、型を必須とせずに素形材の成形が可能であって、素形材の手直しも容易な素形材の成形方法と、該方法によって成形した素形材を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の素形材の成形方法は、半凝固又は半溶融の状態の金属スラリを、断熱性を有する作業台上に載せ、該作業台上で、離型剤が表面に塗布された1つ以上の工具を用いて、前記金属スラリの少なくとも外形形状の加工を行うことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記外形形状の加工のほかに、前記工具を用いて前記金属スラリに穴明け加工を行うことを特徴とする。
【0007】
他の形態は、前記工具が、ナイフ形状工具,中空管形状工具,ドリル,押し板のうちの、少なくとも1つを含むことを特徴とする。更に他の形態は、(1)前記工具を、1つ以上のロボットハンドに着脱可能ないし交換可能に固定し、前記金属スラリの加工を行うこと,(2)前記金属スラリの固相率が、30〜60%の範囲内であること,(3)前記作業台が、平板台,メス型台,メス型とオス型によって挟み形状が得られる台のいずれかであること,(4)前記金属スラリの加工を、不活性雰囲気の導入又は温度制御の少なくとも一方が可能な室内で行うこと,を特徴とする。
【0008】
本発明の素形材は、前記いずれかに記載の成形方法によって成形されたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半凝固又は半溶融状態の金属スラリを、断熱性を有する作業台上におき、離型剤が表面に塗布された1つ以上の工具を用いて、少なくとも金属スラリの外形形状の加工を行い、必要に応じて穴明け加工も行うこととしたので、型を用いずに素形材の成形が可能となる。また、前記工具を、着脱可能ないし交換可能にロボットハンドに固定して、前記加工を行うことで、再現性のある素形材の成形や、従来の鋳物では不可能であった形状の成形も可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1による素形材の成形工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
最初に、図1を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例における素形材の成形工程の一例を示す図である。本発明は、半凝固ないし半溶融状態の金属スラリの成形を、型を用いずに行うものであって、図1(A)に示すように、金属スラリ10,作業台20,ロボットハンド40A及び40Bに着脱可能ないし交換可能に固定された工具30A,30B,30C,・・・を利用して行われる。本実施例では、前記金属スラリ10として、例えば、自動車部品やアルミホイールなどに用いられるアルミニウム合金であるAC4CHを用いている。また、作業台20としては、伝熱性を考慮した断熱材であって平板状のもの(例えば、イビデン株式会社製のイビウール(50mm厚さ)など)が用いられる。また、前記工具30A,30B,30Cとしては、例えば、ステンレス製のナイフ形状,中空管形状,ドリル,押し板等の各種工具が利用され、その表面には、離型剤(BN液物(ファインケミカル販売株式会社製)など)が塗布ないし表面コートされている。
【0013】
前記金属スラリ10を作業台20に載せ、ナイフ形状の工具30Aによって、例えば、金属スラリ10を切断し、または一部を削り、削った一部を寄せ、撫でて全体と一体化し、一部に線を刻むことで、外形形状を作る。また、必要に応じて、中空管形状の工具30Bや図示しないドリルによって金属スラリ10に穴明け加工をしてもよい。このような加工中(例えば数分程度)は、前記作業台20の断熱機能により、金属スラリ10は保温されているため、凝固することなく加工が可能となっている。加工後、自然放置などにより冷却すると凝固し、素形材が得られる。前記金属スラリ10は、固相率が30〜60%の範囲内であることが好ましい。これは、固相率が30%よりも低いと、70%以上が液体となるために流れ出してしまい、固相率が60%を超えると、凝固までの時間が短くなり、成形が困難となるためである。前記金属スラリ10が、AC4CH合金の場合は、液相線温度から固相線温度までの範囲が610〜555℃であるが、前記固相率を考慮すると、作業時の温度は、590〜570℃程度とするのが好ましい。
【0014】
次に、本実施例の成形方法を具体的に説明する。なお、前記ロボットハンド40A,40Bには、予め工具30A,30Bが固定されており、成形工程中、必要に応じて他の工具と交換可能となっている。本実施例では、まず、アルミニウム合金AC4CHの640℃の溶湯1.7kgを、電磁攪拌している深いカップ状のステンレス容器(図示せず)に投入し、10秒攪拌・5秒保持後に、先細りのある円柱状で重量1.7kgの固相率約45%の585℃の半凝固スラリ10を得る。該金属スラリ10を、前記ステンレス容器から、図1(A)に示すように、作業台20上に排出し、表面に離型剤が塗布されたナイフ形状の工具30Aや他の工具30Bによって金属スラリ10を加工する。本実施例では、まず、ナイフ形状の工具30Aによって図1(B-1)に点線で示すように金属スラリ10を切断して外形形状を加工し、次に、中空管形状の工具30Bによって図1(B-2)に示すように穴明け加工する。更に、工具30A又は30Bのいずれかと交換した工具30C,あるいは、他の図示しないロボットハンドに固定された工具30Cによって、穴明け加工された金属スラリのプレス加工を行うことで、図1(B-3)に示す形状の素形材50を得る。前記ナイフ形状の工具30Aは、刃のほか、先端や腹を用いて成形してもよい。
【0015】
このように、ロボットハンド40A,40Bを利用することにより、再現性のある素形材50の成形が可能となる。また、前記ロボットハンド40A,40Bに固定する工具の選択や、ロボットハンド40A,40Bの動きのプログラム化,テーチングにより、従来の鋳物では不可能であった形状の素形材の成形も可能になる。
【0016】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)半凝固又は半溶融状態の金属スラリ10を、断熱性を有する作業台20上において、離型剤が表面に塗布された1つ以上の工具30A,30Bを用いて、少なくとも外形形状の加工を行い、必要に応じて穴明け加工も行うこととしたので、型を必要とせずに素形材50の成形が可能となる。
(2)前記工具30A,30Bを、着脱可能又は交換可能にロボットハンド40A,40Bに固定して前記外形形状加工や穴明け加工を行うことで、再現性のある素形材50の成形が可能になる。また、工具の選択やロボットの動きのプログラム化,テーチングにより、従来の鋳物では複雑であった形状の素形材の成形が可能となる。
(3)型を利用しないため、試作段階で形状変更や手直しの必要が生じても、低コスト・短時間で対応できる。
(4)試作品のほか、少量生産品や芸術品・記念品などの成形にも都合がよい。
【0017】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例で示した作業温度は一例であり、金属スラリ10として利用する金属によって適宜変更可能である。
(3)本発明は、型を必要としない成形方法であるが、型と併用することを妨げるものではない。例えば、前記実施例では、作業台20として平板状の台を利用することとしたが、これも一例であり、メス型の台や、メス型台とオス型台によって挟み形状を得る台としてもよい。
(4)前記実施例では、工具30A〜30Cをロボットハンド40A,40Bに固定して成形を行うこととしたが、図1(C)に示すように、作業者60が工具30A,30Bを手持ちして手作業で行うことを妨げるものではない。
【0018】
(5)前記実施例で示した金属スラリ10の製造方法は一例であり、公知の各種の製造方法を適用してよい。
(6)前記実施例では断熱性を有する平板台を作業台20としており、該作業台20は、一定の保温状態を維持していると考えることができるが、より複雑な形状を作るために長時間の作業をする場合は、積極的な保温を行い、その後、凝固させる段階では冷却できると都合がよい。このため、人と隔離した作業室等で、温度コントロール(加温、保冷、冷却)してもよい。また、前記作業室内が不活性雰囲気であれば、酸化が抑制されやすく、アルミニウム以外の金属にも都合がよいので、前記作業室に不活性雰囲気を導入できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、半凝固又は半溶融状態の金属スラリを、断熱性を有する作業台上におき、離型剤が表面に塗布された1つ以上の工具を用いて、手作業又はロボットハンドにより、少なくとも金属スラリの外形形状の加工を行うこととしたので、型を利用しない素形材の成形に適用できる。特に、試作品や、少量生産品,芸術品,記念品などを成形する場合に好都合である。
【符号の説明】
【0020】
10:金属スラリ
20:作業台
30A,30B,30C:工具
40A,40B:ロボットハンド
50:素形材
60:作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半凝固又は半溶融の状態の金属スラリを、断熱性を有する作業台上に載せ、該作業台上で、離型剤が表面に塗布された1つ以上の工具を用いて、前記金属スラリの少なくとも外形形状の加工を行うことを特徴とする素形材の成形方法。
【請求項2】
前記外形形状の加工のほかに、前記工具を用いて前記金属スラリに穴明け加工を行うことを特徴とする請求項1記載の素形材の成形方法。
【請求項3】
前記工具が、ナイフ形状工具,中空管形状工具,ドリル,押し板のうちの、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の素形材の成形方法。
【請求項4】
前記工具を、1つ以上のロボットハンドに着脱可能ないし交換可能に固定し、前記金属スラリの加工を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の素形材の成形方法。
【請求項5】
前記金属スラリの固相率が、30〜60%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の素形材の成形方法。
【請求項6】
前記作業台が、平板台,メス型台,メス型台とオス型台によって挟み形状が得られる台のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の素形材の成形方法。
【請求項7】
前記金属スラリの加工を、不活性雰囲気の導入又は温度制御の少なくとも一方が可能な室内で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の素形材の成形方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の成形方法によって成形されたことを特徴とする素形材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−194436(P2011−194436A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63571(P2010−63571)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(595046665)株式会社リテラ (5)