素材押さえ装置、素材押さえ方法
【課題】簡易な構造でプレス成形機でのプレス成形品のシワ発生を防ぐ。
【解決手段】プレス成形機101は、下型と上型102とを備え、下型の上方に配置された素材Wを上型102で上方から押さえつけてプレス成形品を形成する。上型102には、素材Wの上面を押さえつける上面形成面が形成される。素材押さえ装置201は、プレス成形機101に設けられる。素材押さえ装置201は、ピン203と駆動部250とを備える。ピン203は、上型102に配置され、上下方向に延びている。駆動部250は、上型102と下型との距離に応じてピン203を上下に動かす。駆動部250によって、ピン203の下端203aは、上型102の上面形成面よりも下方の位置と、上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動する。
【解決手段】プレス成形機101は、下型と上型102とを備え、下型の上方に配置された素材Wを上型102で上方から押さえつけてプレス成形品を形成する。上型102には、素材Wの上面を押さえつける上面形成面が形成される。素材押さえ装置201は、プレス成形機101に設けられる。素材押さえ装置201は、ピン203と駆動部250とを備える。ピン203は、上型102に配置され、上下方向に延びている。駆動部250は、上型102と下型との距離に応じてピン203を上下に動かす。駆動部250によって、ピン203の下端203aは、上型102の上面形成面よりも下方の位置と、上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下型と上型とを備え、下型の上方に配置された素材(ワーク)を上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置、並びに、プレス成形機で行われる素材押さえ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の一部をなすパネル、ラッゲージコンパートメントドアアウター・パネル、バックドアアウター等のプレス成形品は、板状の素材(ワーク)をプレス成形機でプレス成形することにより形成される。プレス成形品は、稜線を頂点として車両上下方向に延びる山形状をなしている。このようなプレス成形では、プレス成形品にシワを生じさせないことが重要である。
【0003】
プレス成形機では、一般に、以下のような手順で、シワの発生が抑えられたプレス成形品が形成される。(1)まず、素材の縁部分を、プレス成形機に複数設けられた振り子ゲージの素材受け部に位置合わせし、かつ、素材の中央部分でプレス成形品での稜線となる部分を、プレス成形機に形成されたシワ押さえ面頂点に位置合わせする。(2)次に、プレス成形の途中で板状素材がズレたり浮き上がったりしないよう、素材のうちシワ押さえ面頂点に位置合わせされた部分をクランパでクランプする。(3)その後、プレス成形機に備わっている上型をスライド下降して、板状素材の絞り成形を行う。
【0004】
プレス成形品にシワが生じる要因の一つに、素材の変形の前後で、プレス成形機に備わる上型等が水平方向に揺れプレス成形品の位置ズレを生じさせてしまうことが考えられる。この点、特許文献1や特許文献2には、スプリング等によって常に上昇付勢されるプランジャやリフターガイドポストをプレス成形機の下型に設け、下方に突出し上下動可能である先行ピンをプレス成形機の上型に設け、上型を下降させる途中で先行ピンをプランジャに接しさせ、上型と下型との水平方向のズレを防止する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−083126号公報
【特許文献2】特開2008−246571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)〜(3)に示した方法でプレス成形品を形成する過程で、ブランクホールドの直前の状態(ブランクホールド状態よりも、プレス成形機の上型が20mm〜30mm上方に位置する状態)からブランクホールド状態までの間に素材に歪みが生じ、ブランクホールド状態から下死点状態に至るまでの間にこの歪みが押しつぶされてシワになってしまうことが知られている。この要因としては、素材の縁部分と中央部分とでは、プレス成形機に板状の素材が投入されてから素材がブランクホールドされるときまでに動く距離の差が大きいことが考えられる。また、別の要因として、ブランクホールド状態から下死点状態までの間での素材の下面に対する下型の接触面積は、素材の上面に対する上型の接触面積よりも小さく、これにより、素材の歪みが下方に逃げてしまうことも考えられる。
【0007】
発明者は、上記のようにして発生するシワを防ぐために、プレス成形機に対し、特許文献1や特許文献2に記載の技術を応用し、プレス成形機に備わる上型に先行ピンを設け、先行ピンの先端で素材の歪みを生じさせる箇所を押さえつけることを考えた。ところが、特許文献1や特許文献2に記載の技術をそのまま用いようとすると、先行ピンの先端は素材の上面に直接的に接触し、プレス成形品を意図しない形状に変形させてしまうことになる。ここで、発明者は、仮想例として、素材でシワが発生する箇所を先行ピンで軽く押さえ、かつ、下死点状態では先行ピンを素材に接触させ、ブランクホールドの直前の状態で先行ピンを素材から退避させることを考えた。
【0008】
図13は、仮想例でのプレス成形方法を示す説明図である。図13に基づいてこの仮想例の詳細を述べると、まず、素材受け部(図示せず)に保持された板状の素材901の上面に、先行ピン902を下方に突出させた上型903を対面させ(図13の(1))、この上型903を下方に動かす。ブランクホールド状態よりも20mm上方に上型903が位置したとき(図13の(2))、先行ピン902は上方に退避し始める。この先行ピン902は、エアシリンダ等の駆動源904により動かされる。その後、ブランクホールド状態になったとき(図13の(3))、先行ピン902の上方への退避が完了する(図13の(4))。絞り成形は、先行ピン902が退避したままで開始され(図13の(5))、下死点状態(図13の(6))になったときに素材901のプレス成形は完了する。駆動源904は、プレス成形後に上型903が上昇したときに素材901を下方に延ばし始め(図13の(7))、上死点状態に(図13の(8))なるまでに先行ピン902の突出を完了する。プレス成形された素材901は、下型905から取り外され、次の工程に搬送される。
【0009】
しかしながら、このような仮想例では、駆動源904を設けるための設備の改変が多大なものになってしまう。例えば、駆動源904にエアシリンダを採用した場合、エア配管の配設や、プレス機のストローク速度に対する先行ピン902の駆動速度の調整、他設備で用いられるエアシリンダとの関係性等の問題が生じる。そして、プレス機のストローク速度に対する先行ピン902の駆動速度の調整を厳密に行わないと、素材901における先行ピン902の軸線との交差箇所が上手く成形できず、素材901のリストライクを行わなくてはならなくなる。
【0010】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、簡易な構造でプレス成形機でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の素材押さえ装置は、下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置であって、前記上型に配置され上下方向に延びているピンと、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上下に動かし、前記ピンの下端が、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置と、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動させる駆動部と、を備える。
【0012】
本発明の素材押さえ方法は、下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機で行われる素材押さえ方法であって、前記上型に配置され上下方向に延びているピンの下端を、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置に位置付けた状態で、前記上型を下降させる第1段階と、前記上型の下降中に、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上方に動かし、前記ピンの下端を、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方となる位置との間に位置付ける第2段階と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピンが、素材の上面を下方に押し、素材を下型にフィットさせる。そして、上型が下降する途中でピンが上型の上面形成面から退避し、素材において下型にフィットされた部分が上型に確実に押さえ込まれる。したがって、簡易な構造でプレス成形機でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プレス成形機の内部構造を示す図2のA−A線断面図である。
【図2】上型を省略させて見たプレス成形機の平面図である。
【図3】素材押さえ装置を示す模式図である。
【図4】ピンを下方から見た底面図である。
【図5】上型が下降して油圧シリンダが作動し始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図6】図5に続いて、受動カムが動かされた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図7】図6に続いて、受動部が上昇しきった状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図8】図7に続いて、油圧シリンダがさらに作動した状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図9】図8に続いて、上型が上昇し始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図10】図9に続いて、上型がさらに上昇した状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図11】図10に続いて、上型がさらに上昇し案内カムと受動カムとの係合が解除され始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図12】図11に続いて、案内カムと受動カムとの係合が解除された状態に至った素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図13】仮想例でのプレス成形方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の一形態を、図1ないし図12に基づいて説明する。
【0016】
図1は、プレス成形機101の内部構造を示す図2のA−A線断面図である。図2は、上型102を省略させて見たプレス成形機101の平面図である。プレス成形機101は、板状の素材W(ワーク)をプレス成形して、自動車の一部をなすパネル、ラッゲージコンパートメントドアアウター・パネル、バックドアアウター等のプレス成形品を形成する装置である。本実施の形態のプレス成形機101は、稜線を有し、この稜線から離れるにつれて下方に下がるような傾斜面を形成して、稜線を頂点として上下方向に延びる山形状をなすプレス成形品を形成するために、特に有用である。
【0017】
プレス成形機101は、上型102と、スライド103と、下型104と、ボルスタ105と、クッションリング106と、クッションピン107とを備える。スライド103は、プレス成形機101の上方に設けられる。スライド103の下面には、上型102が取付けられている。スライド103は、この上型102を上下方向に動かす。上型102の下面は、素材Wから形成されるプレス成形品の上面を形成する上面形成面102aとして機能する。ボルスタ105は、プレス成形機101の下方に設けられる。ボルスタ105の上面には、下型104が取付けられている。下型104は、上型102に対面している。下型104の上面は、素材Wから形成されるプレス成形品の下面を形成する下面形成面104aとして機能する。クッションリング106は、下型104を水平方向に取り囲むように配置される。クッションリング106の上面には、スライド103によって下方に動かされた上型102が接触する。クッションピン107は、スプリング等の弾性体(図示せず)を介してボルスタ105に取付けられており、このボルスタ105から上方に延びる。クッションピン107は、クッションリング106を支持する。クッションピン107は、上型102に押されて下方に動き、このクッションリング106を上方に押し戻そうとする。
【0018】
素材Wは、上型102と下型104とが開かれた状態でプレス成形機101の内部に配置される。このとき、素材Wの縁部分は、クッションリング106の上面に設けられたゲージ108や振り子ゲージ109に位置合わせされる。また、素材Wの中央部分(図2の左右方向における中央部分)は、稜線状のシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされる。このシワ押さえ面頂点106bは、クッションリング106の上面でゲージ108、振り子ゲージ109、頂部クランパ110(後述)よりも内側の領域(シワ押さえ面106a)に形成されるものである。さらに、プレス成形の途中で素材Wがズレたり浮き上がったりしないよう、素材Wの縁部分でシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされた部分が、クッションリング106の上面に設けられた頂部クランパ110によってクランプされる。また、下型104の上面(下面形成面104a)には、稜線部104bが設けられる。稜線部104bは、稜線状のシワ押さえ面頂点106bに連なるように延びている。続いて、スライド103を動かして上型102を下降させ、素材Wを上型102と下型104とで挟み込むことで、素材Wは絞り成形されることになる。絞り成形の際、素材Wは、上型102に押されて、素材Wのうちシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされた部分から折れていく。クッションリング106のシワ押さえ面106aは、上型102の下面(上面形成面102a)と平行をなしていて、上型102が下降し続けると、上型102の下面(上面形成面102a)とクッションリング106のシワ押さえ面106aとが密着する(ブランクホールド状態)。その後、上型102がクッションリング106を下死点まで押し切ると(下死点状態)、プレス成形が完了する。その後、上型102と下型104とが開かれて、プレス成形品となった素材Wが取り出される。
【0019】
素材Wにおいて、下型104の上面(下面形成面104a)と上型102の下面(上面形成面102a)とに挟まれる箇所は、上下方向に圧縮されプレスされる。同様に、素材Wにおいて、下型104の上面(下面形成面104a)とクッションリング106のシワ押さえ面106aとに挟まれる箇所も、上下方向に圧縮されプレスされる。クッションリング106のシワ押さえ面頂点106bと下型104の稜線部104bとは、素材Wをプレス成形してなるプレス成形品での稜線を形成する。
【0020】
プレス成形機101は、素材押さえ装置201を備える。素材押さえ装置201は、上型102に取付けられている。素材押さえ装置201は、本体部202と、ピン203と、油圧シリンダ204と、ホース205とを備える。本体部202には、動力伝達部251が設けられる。動力伝達部251は、リニアアクチュエータ207、作動部208、受動部214、スプリング222、ストッパ218等(いずれも図3に基づいて後述)で構成され、油圧シリンダ204により検知された上型102と下型104との距離に応じてピン203を上下に動かす。
【0021】
本体部202は、上型102に埋設される。ピン203は、本体部202から下方に延びて、上下変位自在となっており、ピン203の下端203aが、上型102の下面(上面形成面102a)よりも下方の位置と、上型102の下面(上面形成面102a)と面一な位置との間を動くようになっている。そして、ピン203は、本体部202と油圧シリンダ204とホース205とによって、図5〜図12に基づいて後述するように、上型102と下型104との距離に応じて上下に動かされる。ここに、駆動部250(図3参照)が構成される。
【0022】
なお、別の実施の形態として、ピン203を上型102の下面(上面形成面102a)から上方に没しさせるまで動かし、このピン203の下端203aが上型102の下面(上面形成面102a)よりも上方にくるようにしてもよい。
【0023】
油圧シリンダ204は、基部204aとピストン部204bとを有する。基部204aは、上型102に取付けられ、上型102とともに上下に動く。ピストン部204bは、基部204aから下方に延びる。ピストン部204bの先端は、上型102が上下移動したときにクッションリング106の上面でシワ押さえ面106aよりも外側の周辺領域106cに接触し、上下方向に変位する。ここに、油圧シリンダ204は、上型102と下型104との距離を検知する検知部としての役割を果たす。
【0024】
ホース205は、本体部202と油圧シリンダ204の基部204aとを連結する。ホース205は、ピストン部204bの変位によって変化した基部204a内の油(図示せず)の油圧を、リニアアクチュエータ207(図3参照)に伝達する。
【0025】
図3は、素材押さえ装置201の内部構造を示す正面図である。説明のために、図3では、油圧シリンダ204とホース205とが模式的に示されている。図3に基づいて、素材押さえ装置201を構成する本体部202及びピン203について説明する。
【0026】
本体部202は、ケース206を有する。ケース206の側面には、リニアアクチュエータ207が取付けられる。リニアアクチュエータ207は、上下方向に移動自在の作用部207aを有し、ホース205を介して伝わる油圧シリンダ204の油圧変動に応じて作用部207aを上下に動かす。
【0027】
ケース206内には、作動部208と受動部214とが配置される。作動部208は、プレート209と、弾性体210と、案内カム211と、錘212とを含む。プレート209は、ケース206の内壁面に沿って上下方向にスライド自在となっている。プレート209には、リニアアクチュエータ207の作動部208が連結されていて、油圧シリンダ204の油圧変動に応じて上下変位する。弾性体210は、プレート209と案内カム211との間に挟まれ、案内カム211を受動カム217(後述)に向けて水平方向に押し出す。弾性体210の一例は、ウレタンゴムである。案内カム211は、プレート209とともに上下移動する。案内カム211の側面には、下方に向かうに連れてプレート209から離れる方向に傾斜する第1傾斜部213が形成される。案内カム211の側面で第1傾斜部213の下方には、受動カム217に形成された第2係合部219a(後述)や第3係合部219c(後述)と係合する第1係合部213aが形成される。錘212は、案内カム211に取り付けられる。錘212は、作動部208の重量を増大させ、油圧シリンダ204からの油圧がリニアアクチュエータ207に作用していないときに作動部208を下降させる。なお、プレート209や案内カム211に充分な重量があれば、作動部208に錘212を取り付けることを要しない。
【0028】
受動部214は、作動部208によって動かされる部位である。受動部214は、プレート215と、弾性体216と、受動カム217と、ストッパ218とを含む。プレート215は、ケース206の内側面であって作動部208のプレート209に対面する箇所に配置される。プレート215は、この内側面に沿って上下方向にスライド自在となっている。弾性体216は、プレート215と受動カム217との間に挟まれ、受動カム217を案内カム211に向けて水平方向に押し出す。弾性体216の一例は、ウレタンゴムである。受動カム217は、ピン203のカム支持部203b(後述)とストッパ218の第4係合部218b(後述)とに上下方向に挟まれて、図3における左右方向にスライド自在となっている。受動カム217の側面には、案内カム211の第1傾斜部213に摺接する第2傾斜部219が形成される。受動カム217の側面で第2傾斜部219の上方には、第2係合部219aが形成される。また、受動カム217の側面には、この第2傾斜部219よりも図3における右方向かつ上方に位置し、第2傾斜部219と平行に延びる第3傾斜部219bも形成される。そして、受動カム217の側面で第3傾斜部219bの上方には、第3係合部219cが形成される。第2係合部219aや第3係合部219cは、受動カム217に形成された第1係合部213aや、ストッパ218に形成された第4係合部218b(後述)に係合する。特に、受動カム217がピン203のカム支持部203b(後述)とストッパ218の第4係合部218b(後述)とに上下方向に挟まれた状態では、受動カム217の第3係合部219cは、ストッパ218の第4係合部218bに接する。
【0029】
ストッパ218は、ケース206の天井の一部をなす天板206aから垂下している。ストッパ218は、受動カム217の第3傾斜部219bに摺接する第4傾斜部218aと、第4傾斜部218aよりも下方に位置し受動カム217に形成された第3係合部219cに係合する第4係合部218bとを有する。ストッパ218は、図5〜図12に基づいて後述するように、受動部214の動きを規制する。
【0030】
ピン203は、上下方向に延びる棒状をなす。ピン203は、ケース206の底部206bを貫通し、さらに上型102に上下に貫通形成された貫通孔220に挿通される。貫通孔220の内周面にはブッシュ221が設けられる。ピン203の外周面は、ブッシュ221に摺動自在に接する。ピン203の上端には、カム支持部203bが設けられる。カム支持部203bの上面は、受動カム217の下面217aを支持し、この下面217aに摺動自在に接している。
【0031】
ケース206の底部206bとピン203のカム支持部203bとの間には、付勢部としてのスプリング222が配置される。スプリング222は、ピン203のカム支持部203bを上方に押し上げ、受動カム217も上方に押し上げる。また、受動部214が後述のように押し下げられると、受動部214がピン203を下方に押し下げ、スプリング222が縮む。このように、ピン203は、受動部214の上下変位に連動する。
【0032】
ケース206内には、解除ドライバ223も配置される。解除ドライバ223は、図11及び図12に基づいて後述するように、案内カム211と受動カム217との係合を解除するものである。解除ドライバ223は、傾斜部223aを有する。案内カム211は、下降するときに後述するように傾斜部223aに滑り接触し、この傾斜部223aに押される。これにより、案内カム211と受動カム217との係合は解除される。
【0033】
図4は、ピン203を下方から見た底面図である。図1、図3及び図4を参照する。ピン203は、上型102の上面形成面102aから突出形成された凸部102bに設けられる。この凸部102bは、下型104の上面に形成された凹部104cに噛み合う形状に形成されているものである。ピン203は、上下に変位して、プレス成形の際に素材Wにおける凸部102bに入り込むべき部分をまんべんなく上方から押し、素材Wの下面を凹部104cの内周面にフィットさせる。このために、ピン203は、凹部104cの形状に合うように複数配置される。
【0034】
上記のように構成されるプレス成形機101での素材Wのプレス成形方法について述べる。図5は、上型102が下降して油圧シリンダ204が作動し始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図5は、ブランクホールドになる前で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも20mm上方に位置する状態を示している。プレス成形機101では、上死点状態から図5に示す状態までは、ピン203が上型102の上面形成面102aよりも下方に突出している。
【0035】
スライド103(図1参照)が作動して上型102が下降すると、ピン203の下端203aは、下型104(図1参照)の上方に配置された素材Wに接触し、下型104の凹部104c(図1参照)内に向けて素材Wを押さえこむ。その後、上型102の下降に伴って油圧シリンダ204のピストン部204bがクッションリング106の周辺領域106cに接触し始めると、リニアアクチュエータ207の作用部207aは上方に動き、作動部208が上昇する。これにより、案内カム211の第1傾斜部213は、受動カム217の第2傾斜部219に滑り接触し、受動カム217を図5における右方向にスライドさせ、弾性体216を圧縮させる。これに伴い、案内カム211は、受動カム217に押されて図5における左方向に動く。また、弾性体210は圧縮される。
【0036】
図6は、図5に続いて、受動カム217が動かされた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図6は、図5よりもブランクホールドに近づいた状態で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも15mm上方に位置する状態を示している。受動カム217が図6における右方向に動くと、受動カム217の第3係合部219cとストッパ218の第4係合部218bとの係合が外れる。なお、この係合が外れるまでは、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長は不変である。
【0037】
図7は、図6に続いて、受動部214が上昇しきった状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図7は、図6よりもブランクホールドに近づいた状態で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも10mm上方に位置する状態を示している。受動カム217の第3係合部219cとストッパ218の第4係合部218bとの係合が外れると、受動部214は、スプリング222の押し上げ力によって上昇する。また、スプリング222の押し上げ力によってピン203が高速で上昇し、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長が短くなる。そして、受動カム217の第3係合部219cが天板206aに接触すると、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとは面一になる。このとき、弾性体216は、受動カム217を図7における左方向に押し付け、受動カム217の第3傾斜部219bとストッパ218の第4傾斜部218aとを押圧力をもって接しさせる。これにより、受動部214はストッパ218に引っ掛かり、落下しない。
【0038】
なお、別の実施の形態として、受動カム217の第2係合部219aがストッパ218の第4係合部218bに接したときに、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとが面一になるようにしてもよい。
【0039】
図8は、図7に続いて、油圧シリンダ204がさらに作動した状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図7は、図6よりもブランクホールドに近づいて、まさにブランクホールド状態となる直前の高さ位置に上型102が位置する状態を示している。上型102がさらに下降すると、油圧シリンダ204での油圧によって作動部208がさらに上昇し、案内カム211が受動カム217に再び接触する。このとき、案内カム211の第1傾斜部213と受動カム217の第2傾斜部219とが接触して、作動部208の上昇とともに、受動カム217が図8における右方向に移動する。その後、作動部208はさらに上昇すると、案内カム211の第1係合部213aが受動カム217の第2係合部219aよりも上方に位置付けられる(図9参照)。ここで、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとは面一をなしたままであり、プレス成形機101が下死点状態になるまで上型102が下降し続け、素材Wの絞りが完了する。
【0040】
図9は、図8に続いて、上型102が上昇し始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。素材Wの絞りが完了し、スライド103が作動して上型102が上昇し始めると、作動部208がその自重により落下し始める。作動部208が下降すると、案内カム211の第1係合部213aが受動カム217の第2係合部219aに引っかかり、案内カム211が受動カム217を押し下げ、受動部214の全体が下方に動き始める。このとき、作動部208のそれ自身の自重による落下と、上型102と下型104との離反により、リニアアクチュエータ207内の油(図示せず)がピストン部204bに戻って油圧シリンダ204のピストン部204bが延び始める。
【0041】
図10は、図9に続いて、上型102がさらに上昇した状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。受動部214の全体が下方に動くことにより、上型102の上面形成面102aからピン203が突出し始める。また、受動カム217が押し下げられると、受動カム217の第3傾斜部219bがストッパ218の第4傾斜部218aを滑り、受動カム217がストッパ218に押されて弾性体216を圧縮させながら図10における右方向に動く。これにより、受動カム217とストッパ218との引っ掛かりが外れる。
【0042】
図11は、図10に続いて、上型102がさらに上昇し案内カム211と受動カム217との係合が解除され始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。作動部208がさらに下降すると、案内カム211は、解除ドライバ223の傾斜部223aに滑り接触する。傾斜部223aは、下方に向かうにつれて作動部208に近づくように傾斜している。案内カム211は、下降すると、傾斜部223aに押されて図11における左方向に動く。これにより、案内カム211の第1係合部213aと受動カム217の第2係合部219aとの係合が徐々に外れていく。
【0043】
受動カム217が押し下げられると、受動カム217の第3係合部219cがストッパ218の第4係合部218bと同じ高さ位置に至って受動カム217とストッパ218との係合も外れ、受動カム217がストッパ218に規制されることなく図11における左方向に移動できるようになる。これにより、受動カム217は、弾性体216の復元力によって図11における左方向に動く。
【0044】
図12は、図11に続いて、案内カム211と受動カム217との係合が解除された状態に至った素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。受動カム217は、案内カム211に押し下げられた後、解除ドライバ223(図11参照)によって案内カム211との係合が外されると、スプリング222によって再び押し上げられる。これにより、受動部214は、ピン203のカム支持部203bとストッパ218の第4係合部218bとに上下方向に挟まれる。その結果、受動部214は、上下方向に動かなくなる。また、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長は、図5に示したものと同じになる。ここで、解除ドライバ223は、ストッパ218と受動カム217との係合が解除されると同時に、案内カム211と受動カム217との係合を解除するような高さ位置に配置されている。このため、ピン203が、上型102の上面形成面102aから必要以上に下方に突出した後に上方に戻るようなことはない。
【0045】
解除ドライバ223によって案内カム211と受動カム217との係合が外されると、作動部208はさらに下降できるようになる。この状態で、上型102はさらに上昇を続け、プレス成形機101は上死点状態に至る。上死点状態では、プレス成形品に転じた素材W(図11参照)は取り出され、下型104(図1参照)の上方に新たな板状の素材Wが配置される。
【0046】
上死点状態に至った後、プレス成形機101では、スライド103(図1参照)によって上型102が下方に動かされ、図5に示す状態に至る。このようにして、上型102の上下移動が繰り返される。これにより、素材押さえ装置201の内部では、図5に示す状態から図12に示すまでの各部の動きが繰り返され、ピン203が繰り返し上下変位して素材Wを凹部104c(図1参照)に向けて押さえこむ。
【0047】
図5から図12に基づいて述べたように、受動部214は、作動部208によって動かされながらも、ストッパ218による押さえこみや受動部214に含まれる弾性体216によって、動きが規制される。詳細には、ストッパ218は、作動部208の上昇により動かされる受動部214の上方への動きを規制しつつ、水平方向の動きを許容する。その後、水平方向に動かされた後にスプリング222によって押し上げられた受動部214は、ストッパ218と弾性体216とにより保持される。そして、ストッパ218と弾性体216とは、このように保持された状態の受動部214が作動部208の下降により下方へ動かされることを許容している。ここに、受動部214の動きを規制する規制部252(図3参照)が構成される。
【0048】
このように、本実施の形態のプレス成形機101によれば、ピン203が、素材Wの上面を下方に押し、素材Wを下型104の凹部104cにフィットさせる。そして、上型102の下降途中でピン203が上型102の上面形成面102aから退避し、素材Wにおいて凹部104cにフィットされた部分が、上型102に確実に押さえ込まれる。したがって、簡易な構造でプレス成形機101でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことができる。
【0049】
また、本実施の形態のプレス成形機101では、油圧シリンダ204により上型102と下型104との距離が検知され、しかも、本体部202に設けられる動力伝達部251は、エアシリンダ等を用いずにシンプルな構成で成り立っている。このため、従来の設備に対する採用が容易である。とりわけ、エアシリンダを採用した場合に考慮すべき事項であった駆動速度の調整が不要となる。
【0050】
さらに、本実施の形態では、規制部252によって受動部214が特有の動き方をし、ピン203はスプリング222に押し上げられて高速で上方に移動する。これにより、ブランクホールドの直前にピン203が素材Wに接触しなくなり、このピン203の接触による素材Wのシワの発生が抑えられる。
【0051】
さらに、本実施の形態では、作動部208の自重が錘212によって増加されており、作動部208が素早く下降する。このため、上型102の移動速度の高める際にピン203の往復速度を考慮する必要がなくなり、プレス成形機101でのプレス成形品の製造効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0052】
101 プレス成形機
102 上型
102a 上面形成面
104 下型
201 素材押さえ装置
202 本体部
203 ピン
204 油圧シリンダ(検知部)
208 作動部
214 受動部
222 スプリング(付勢部)
250 駆動部
251 動力伝達部
252 規制部
W 素材
【技術分野】
【0001】
本発明は、下型と上型とを備え、下型の上方に配置された素材(ワーク)を上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置、並びに、プレス成形機で行われる素材押さえ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の一部をなすパネル、ラッゲージコンパートメントドアアウター・パネル、バックドアアウター等のプレス成形品は、板状の素材(ワーク)をプレス成形機でプレス成形することにより形成される。プレス成形品は、稜線を頂点として車両上下方向に延びる山形状をなしている。このようなプレス成形では、プレス成形品にシワを生じさせないことが重要である。
【0003】
プレス成形機では、一般に、以下のような手順で、シワの発生が抑えられたプレス成形品が形成される。(1)まず、素材の縁部分を、プレス成形機に複数設けられた振り子ゲージの素材受け部に位置合わせし、かつ、素材の中央部分でプレス成形品での稜線となる部分を、プレス成形機に形成されたシワ押さえ面頂点に位置合わせする。(2)次に、プレス成形の途中で板状素材がズレたり浮き上がったりしないよう、素材のうちシワ押さえ面頂点に位置合わせされた部分をクランパでクランプする。(3)その後、プレス成形機に備わっている上型をスライド下降して、板状素材の絞り成形を行う。
【0004】
プレス成形品にシワが生じる要因の一つに、素材の変形の前後で、プレス成形機に備わる上型等が水平方向に揺れプレス成形品の位置ズレを生じさせてしまうことが考えられる。この点、特許文献1や特許文献2には、スプリング等によって常に上昇付勢されるプランジャやリフターガイドポストをプレス成形機の下型に設け、下方に突出し上下動可能である先行ピンをプレス成形機の上型に設け、上型を下降させる途中で先行ピンをプランジャに接しさせ、上型と下型との水平方向のズレを防止する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−083126号公報
【特許文献2】特開2008−246571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)〜(3)に示した方法でプレス成形品を形成する過程で、ブランクホールドの直前の状態(ブランクホールド状態よりも、プレス成形機の上型が20mm〜30mm上方に位置する状態)からブランクホールド状態までの間に素材に歪みが生じ、ブランクホールド状態から下死点状態に至るまでの間にこの歪みが押しつぶされてシワになってしまうことが知られている。この要因としては、素材の縁部分と中央部分とでは、プレス成形機に板状の素材が投入されてから素材がブランクホールドされるときまでに動く距離の差が大きいことが考えられる。また、別の要因として、ブランクホールド状態から下死点状態までの間での素材の下面に対する下型の接触面積は、素材の上面に対する上型の接触面積よりも小さく、これにより、素材の歪みが下方に逃げてしまうことも考えられる。
【0007】
発明者は、上記のようにして発生するシワを防ぐために、プレス成形機に対し、特許文献1や特許文献2に記載の技術を応用し、プレス成形機に備わる上型に先行ピンを設け、先行ピンの先端で素材の歪みを生じさせる箇所を押さえつけることを考えた。ところが、特許文献1や特許文献2に記載の技術をそのまま用いようとすると、先行ピンの先端は素材の上面に直接的に接触し、プレス成形品を意図しない形状に変形させてしまうことになる。ここで、発明者は、仮想例として、素材でシワが発生する箇所を先行ピンで軽く押さえ、かつ、下死点状態では先行ピンを素材に接触させ、ブランクホールドの直前の状態で先行ピンを素材から退避させることを考えた。
【0008】
図13は、仮想例でのプレス成形方法を示す説明図である。図13に基づいてこの仮想例の詳細を述べると、まず、素材受け部(図示せず)に保持された板状の素材901の上面に、先行ピン902を下方に突出させた上型903を対面させ(図13の(1))、この上型903を下方に動かす。ブランクホールド状態よりも20mm上方に上型903が位置したとき(図13の(2))、先行ピン902は上方に退避し始める。この先行ピン902は、エアシリンダ等の駆動源904により動かされる。その後、ブランクホールド状態になったとき(図13の(3))、先行ピン902の上方への退避が完了する(図13の(4))。絞り成形は、先行ピン902が退避したままで開始され(図13の(5))、下死点状態(図13の(6))になったときに素材901のプレス成形は完了する。駆動源904は、プレス成形後に上型903が上昇したときに素材901を下方に延ばし始め(図13の(7))、上死点状態に(図13の(8))なるまでに先行ピン902の突出を完了する。プレス成形された素材901は、下型905から取り外され、次の工程に搬送される。
【0009】
しかしながら、このような仮想例では、駆動源904を設けるための設備の改変が多大なものになってしまう。例えば、駆動源904にエアシリンダを採用した場合、エア配管の配設や、プレス機のストローク速度に対する先行ピン902の駆動速度の調整、他設備で用いられるエアシリンダとの関係性等の問題が生じる。そして、プレス機のストローク速度に対する先行ピン902の駆動速度の調整を厳密に行わないと、素材901における先行ピン902の軸線との交差箇所が上手く成形できず、素材901のリストライクを行わなくてはならなくなる。
【0010】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、簡易な構造でプレス成形機でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の素材押さえ装置は、下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置であって、前記上型に配置され上下方向に延びているピンと、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上下に動かし、前記ピンの下端が、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置と、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動させる駆動部と、を備える。
【0012】
本発明の素材押さえ方法は、下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機で行われる素材押さえ方法であって、前記上型に配置され上下方向に延びているピンの下端を、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置に位置付けた状態で、前記上型を下降させる第1段階と、前記上型の下降中に、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上方に動かし、前記ピンの下端を、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方となる位置との間に位置付ける第2段階と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピンが、素材の上面を下方に押し、素材を下型にフィットさせる。そして、上型が下降する途中でピンが上型の上面形成面から退避し、素材において下型にフィットされた部分が上型に確実に押さえ込まれる。したがって、簡易な構造でプレス成形機でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プレス成形機の内部構造を示す図2のA−A線断面図である。
【図2】上型を省略させて見たプレス成形機の平面図である。
【図3】素材押さえ装置を示す模式図である。
【図4】ピンを下方から見た底面図である。
【図5】上型が下降して油圧シリンダが作動し始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図6】図5に続いて、受動カムが動かされた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図7】図6に続いて、受動部が上昇しきった状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図8】図7に続いて、油圧シリンダがさらに作動した状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図9】図8に続いて、上型が上昇し始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図10】図9に続いて、上型がさらに上昇した状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図11】図10に続いて、上型がさらに上昇し案内カムと受動カムとの係合が解除され始めた状態での素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図12】図11に続いて、案内カムと受動カムとの係合が解除された状態に至った素材押さえ装置の内部構造の正面図である。
【図13】仮想例でのプレス成形方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の一形態を、図1ないし図12に基づいて説明する。
【0016】
図1は、プレス成形機101の内部構造を示す図2のA−A線断面図である。図2は、上型102を省略させて見たプレス成形機101の平面図である。プレス成形機101は、板状の素材W(ワーク)をプレス成形して、自動車の一部をなすパネル、ラッゲージコンパートメントドアアウター・パネル、バックドアアウター等のプレス成形品を形成する装置である。本実施の形態のプレス成形機101は、稜線を有し、この稜線から離れるにつれて下方に下がるような傾斜面を形成して、稜線を頂点として上下方向に延びる山形状をなすプレス成形品を形成するために、特に有用である。
【0017】
プレス成形機101は、上型102と、スライド103と、下型104と、ボルスタ105と、クッションリング106と、クッションピン107とを備える。スライド103は、プレス成形機101の上方に設けられる。スライド103の下面には、上型102が取付けられている。スライド103は、この上型102を上下方向に動かす。上型102の下面は、素材Wから形成されるプレス成形品の上面を形成する上面形成面102aとして機能する。ボルスタ105は、プレス成形機101の下方に設けられる。ボルスタ105の上面には、下型104が取付けられている。下型104は、上型102に対面している。下型104の上面は、素材Wから形成されるプレス成形品の下面を形成する下面形成面104aとして機能する。クッションリング106は、下型104を水平方向に取り囲むように配置される。クッションリング106の上面には、スライド103によって下方に動かされた上型102が接触する。クッションピン107は、スプリング等の弾性体(図示せず)を介してボルスタ105に取付けられており、このボルスタ105から上方に延びる。クッションピン107は、クッションリング106を支持する。クッションピン107は、上型102に押されて下方に動き、このクッションリング106を上方に押し戻そうとする。
【0018】
素材Wは、上型102と下型104とが開かれた状態でプレス成形機101の内部に配置される。このとき、素材Wの縁部分は、クッションリング106の上面に設けられたゲージ108や振り子ゲージ109に位置合わせされる。また、素材Wの中央部分(図2の左右方向における中央部分)は、稜線状のシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされる。このシワ押さえ面頂点106bは、クッションリング106の上面でゲージ108、振り子ゲージ109、頂部クランパ110(後述)よりも内側の領域(シワ押さえ面106a)に形成されるものである。さらに、プレス成形の途中で素材Wがズレたり浮き上がったりしないよう、素材Wの縁部分でシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされた部分が、クッションリング106の上面に設けられた頂部クランパ110によってクランプされる。また、下型104の上面(下面形成面104a)には、稜線部104bが設けられる。稜線部104bは、稜線状のシワ押さえ面頂点106bに連なるように延びている。続いて、スライド103を動かして上型102を下降させ、素材Wを上型102と下型104とで挟み込むことで、素材Wは絞り成形されることになる。絞り成形の際、素材Wは、上型102に押されて、素材Wのうちシワ押さえ面頂点106bに位置合わせされた部分から折れていく。クッションリング106のシワ押さえ面106aは、上型102の下面(上面形成面102a)と平行をなしていて、上型102が下降し続けると、上型102の下面(上面形成面102a)とクッションリング106のシワ押さえ面106aとが密着する(ブランクホールド状態)。その後、上型102がクッションリング106を下死点まで押し切ると(下死点状態)、プレス成形が完了する。その後、上型102と下型104とが開かれて、プレス成形品となった素材Wが取り出される。
【0019】
素材Wにおいて、下型104の上面(下面形成面104a)と上型102の下面(上面形成面102a)とに挟まれる箇所は、上下方向に圧縮されプレスされる。同様に、素材Wにおいて、下型104の上面(下面形成面104a)とクッションリング106のシワ押さえ面106aとに挟まれる箇所も、上下方向に圧縮されプレスされる。クッションリング106のシワ押さえ面頂点106bと下型104の稜線部104bとは、素材Wをプレス成形してなるプレス成形品での稜線を形成する。
【0020】
プレス成形機101は、素材押さえ装置201を備える。素材押さえ装置201は、上型102に取付けられている。素材押さえ装置201は、本体部202と、ピン203と、油圧シリンダ204と、ホース205とを備える。本体部202には、動力伝達部251が設けられる。動力伝達部251は、リニアアクチュエータ207、作動部208、受動部214、スプリング222、ストッパ218等(いずれも図3に基づいて後述)で構成され、油圧シリンダ204により検知された上型102と下型104との距離に応じてピン203を上下に動かす。
【0021】
本体部202は、上型102に埋設される。ピン203は、本体部202から下方に延びて、上下変位自在となっており、ピン203の下端203aが、上型102の下面(上面形成面102a)よりも下方の位置と、上型102の下面(上面形成面102a)と面一な位置との間を動くようになっている。そして、ピン203は、本体部202と油圧シリンダ204とホース205とによって、図5〜図12に基づいて後述するように、上型102と下型104との距離に応じて上下に動かされる。ここに、駆動部250(図3参照)が構成される。
【0022】
なお、別の実施の形態として、ピン203を上型102の下面(上面形成面102a)から上方に没しさせるまで動かし、このピン203の下端203aが上型102の下面(上面形成面102a)よりも上方にくるようにしてもよい。
【0023】
油圧シリンダ204は、基部204aとピストン部204bとを有する。基部204aは、上型102に取付けられ、上型102とともに上下に動く。ピストン部204bは、基部204aから下方に延びる。ピストン部204bの先端は、上型102が上下移動したときにクッションリング106の上面でシワ押さえ面106aよりも外側の周辺領域106cに接触し、上下方向に変位する。ここに、油圧シリンダ204は、上型102と下型104との距離を検知する検知部としての役割を果たす。
【0024】
ホース205は、本体部202と油圧シリンダ204の基部204aとを連結する。ホース205は、ピストン部204bの変位によって変化した基部204a内の油(図示せず)の油圧を、リニアアクチュエータ207(図3参照)に伝達する。
【0025】
図3は、素材押さえ装置201の内部構造を示す正面図である。説明のために、図3では、油圧シリンダ204とホース205とが模式的に示されている。図3に基づいて、素材押さえ装置201を構成する本体部202及びピン203について説明する。
【0026】
本体部202は、ケース206を有する。ケース206の側面には、リニアアクチュエータ207が取付けられる。リニアアクチュエータ207は、上下方向に移動自在の作用部207aを有し、ホース205を介して伝わる油圧シリンダ204の油圧変動に応じて作用部207aを上下に動かす。
【0027】
ケース206内には、作動部208と受動部214とが配置される。作動部208は、プレート209と、弾性体210と、案内カム211と、錘212とを含む。プレート209は、ケース206の内壁面に沿って上下方向にスライド自在となっている。プレート209には、リニアアクチュエータ207の作動部208が連結されていて、油圧シリンダ204の油圧変動に応じて上下変位する。弾性体210は、プレート209と案内カム211との間に挟まれ、案内カム211を受動カム217(後述)に向けて水平方向に押し出す。弾性体210の一例は、ウレタンゴムである。案内カム211は、プレート209とともに上下移動する。案内カム211の側面には、下方に向かうに連れてプレート209から離れる方向に傾斜する第1傾斜部213が形成される。案内カム211の側面で第1傾斜部213の下方には、受動カム217に形成された第2係合部219a(後述)や第3係合部219c(後述)と係合する第1係合部213aが形成される。錘212は、案内カム211に取り付けられる。錘212は、作動部208の重量を増大させ、油圧シリンダ204からの油圧がリニアアクチュエータ207に作用していないときに作動部208を下降させる。なお、プレート209や案内カム211に充分な重量があれば、作動部208に錘212を取り付けることを要しない。
【0028】
受動部214は、作動部208によって動かされる部位である。受動部214は、プレート215と、弾性体216と、受動カム217と、ストッパ218とを含む。プレート215は、ケース206の内側面であって作動部208のプレート209に対面する箇所に配置される。プレート215は、この内側面に沿って上下方向にスライド自在となっている。弾性体216は、プレート215と受動カム217との間に挟まれ、受動カム217を案内カム211に向けて水平方向に押し出す。弾性体216の一例は、ウレタンゴムである。受動カム217は、ピン203のカム支持部203b(後述)とストッパ218の第4係合部218b(後述)とに上下方向に挟まれて、図3における左右方向にスライド自在となっている。受動カム217の側面には、案内カム211の第1傾斜部213に摺接する第2傾斜部219が形成される。受動カム217の側面で第2傾斜部219の上方には、第2係合部219aが形成される。また、受動カム217の側面には、この第2傾斜部219よりも図3における右方向かつ上方に位置し、第2傾斜部219と平行に延びる第3傾斜部219bも形成される。そして、受動カム217の側面で第3傾斜部219bの上方には、第3係合部219cが形成される。第2係合部219aや第3係合部219cは、受動カム217に形成された第1係合部213aや、ストッパ218に形成された第4係合部218b(後述)に係合する。特に、受動カム217がピン203のカム支持部203b(後述)とストッパ218の第4係合部218b(後述)とに上下方向に挟まれた状態では、受動カム217の第3係合部219cは、ストッパ218の第4係合部218bに接する。
【0029】
ストッパ218は、ケース206の天井の一部をなす天板206aから垂下している。ストッパ218は、受動カム217の第3傾斜部219bに摺接する第4傾斜部218aと、第4傾斜部218aよりも下方に位置し受動カム217に形成された第3係合部219cに係合する第4係合部218bとを有する。ストッパ218は、図5〜図12に基づいて後述するように、受動部214の動きを規制する。
【0030】
ピン203は、上下方向に延びる棒状をなす。ピン203は、ケース206の底部206bを貫通し、さらに上型102に上下に貫通形成された貫通孔220に挿通される。貫通孔220の内周面にはブッシュ221が設けられる。ピン203の外周面は、ブッシュ221に摺動自在に接する。ピン203の上端には、カム支持部203bが設けられる。カム支持部203bの上面は、受動カム217の下面217aを支持し、この下面217aに摺動自在に接している。
【0031】
ケース206の底部206bとピン203のカム支持部203bとの間には、付勢部としてのスプリング222が配置される。スプリング222は、ピン203のカム支持部203bを上方に押し上げ、受動カム217も上方に押し上げる。また、受動部214が後述のように押し下げられると、受動部214がピン203を下方に押し下げ、スプリング222が縮む。このように、ピン203は、受動部214の上下変位に連動する。
【0032】
ケース206内には、解除ドライバ223も配置される。解除ドライバ223は、図11及び図12に基づいて後述するように、案内カム211と受動カム217との係合を解除するものである。解除ドライバ223は、傾斜部223aを有する。案内カム211は、下降するときに後述するように傾斜部223aに滑り接触し、この傾斜部223aに押される。これにより、案内カム211と受動カム217との係合は解除される。
【0033】
図4は、ピン203を下方から見た底面図である。図1、図3及び図4を参照する。ピン203は、上型102の上面形成面102aから突出形成された凸部102bに設けられる。この凸部102bは、下型104の上面に形成された凹部104cに噛み合う形状に形成されているものである。ピン203は、上下に変位して、プレス成形の際に素材Wにおける凸部102bに入り込むべき部分をまんべんなく上方から押し、素材Wの下面を凹部104cの内周面にフィットさせる。このために、ピン203は、凹部104cの形状に合うように複数配置される。
【0034】
上記のように構成されるプレス成形機101での素材Wのプレス成形方法について述べる。図5は、上型102が下降して油圧シリンダ204が作動し始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図5は、ブランクホールドになる前で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも20mm上方に位置する状態を示している。プレス成形機101では、上死点状態から図5に示す状態までは、ピン203が上型102の上面形成面102aよりも下方に突出している。
【0035】
スライド103(図1参照)が作動して上型102が下降すると、ピン203の下端203aは、下型104(図1参照)の上方に配置された素材Wに接触し、下型104の凹部104c(図1参照)内に向けて素材Wを押さえこむ。その後、上型102の下降に伴って油圧シリンダ204のピストン部204bがクッションリング106の周辺領域106cに接触し始めると、リニアアクチュエータ207の作用部207aは上方に動き、作動部208が上昇する。これにより、案内カム211の第1傾斜部213は、受動カム217の第2傾斜部219に滑り接触し、受動カム217を図5における右方向にスライドさせ、弾性体216を圧縮させる。これに伴い、案内カム211は、受動カム217に押されて図5における左方向に動く。また、弾性体210は圧縮される。
【0036】
図6は、図5に続いて、受動カム217が動かされた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図6は、図5よりもブランクホールドに近づいた状態で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも15mm上方に位置する状態を示している。受動カム217が図6における右方向に動くと、受動カム217の第3係合部219cとストッパ218の第4係合部218bとの係合が外れる。なお、この係合が外れるまでは、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長は不変である。
【0037】
図7は、図6に続いて、受動部214が上昇しきった状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図7は、図6よりもブランクホールドに近づいた状態で、一例として、上型102がブランクホールド状態よりも10mm上方に位置する状態を示している。受動カム217の第3係合部219cとストッパ218の第4係合部218bとの係合が外れると、受動部214は、スプリング222の押し上げ力によって上昇する。また、スプリング222の押し上げ力によってピン203が高速で上昇し、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長が短くなる。そして、受動カム217の第3係合部219cが天板206aに接触すると、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとは面一になる。このとき、弾性体216は、受動カム217を図7における左方向に押し付け、受動カム217の第3傾斜部219bとストッパ218の第4傾斜部218aとを押圧力をもって接しさせる。これにより、受動部214はストッパ218に引っ掛かり、落下しない。
【0038】
なお、別の実施の形態として、受動カム217の第2係合部219aがストッパ218の第4係合部218bに接したときに、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとが面一になるようにしてもよい。
【0039】
図8は、図7に続いて、油圧シリンダ204がさらに作動した状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。図7は、図6よりもブランクホールドに近づいて、まさにブランクホールド状態となる直前の高さ位置に上型102が位置する状態を示している。上型102がさらに下降すると、油圧シリンダ204での油圧によって作動部208がさらに上昇し、案内カム211が受動カム217に再び接触する。このとき、案内カム211の第1傾斜部213と受動カム217の第2傾斜部219とが接触して、作動部208の上昇とともに、受動カム217が図8における右方向に移動する。その後、作動部208はさらに上昇すると、案内カム211の第1係合部213aが受動カム217の第2係合部219aよりも上方に位置付けられる(図9参照)。ここで、ピン203の下端203aと上型102の上面形成面102aとは面一をなしたままであり、プレス成形機101が下死点状態になるまで上型102が下降し続け、素材Wの絞りが完了する。
【0040】
図9は、図8に続いて、上型102が上昇し始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。素材Wの絞りが完了し、スライド103が作動して上型102が上昇し始めると、作動部208がその自重により落下し始める。作動部208が下降すると、案内カム211の第1係合部213aが受動カム217の第2係合部219aに引っかかり、案内カム211が受動カム217を押し下げ、受動部214の全体が下方に動き始める。このとき、作動部208のそれ自身の自重による落下と、上型102と下型104との離反により、リニアアクチュエータ207内の油(図示せず)がピストン部204bに戻って油圧シリンダ204のピストン部204bが延び始める。
【0041】
図10は、図9に続いて、上型102がさらに上昇した状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。受動部214の全体が下方に動くことにより、上型102の上面形成面102aからピン203が突出し始める。また、受動カム217が押し下げられると、受動カム217の第3傾斜部219bがストッパ218の第4傾斜部218aを滑り、受動カム217がストッパ218に押されて弾性体216を圧縮させながら図10における右方向に動く。これにより、受動カム217とストッパ218との引っ掛かりが外れる。
【0042】
図11は、図10に続いて、上型102がさらに上昇し案内カム211と受動カム217との係合が解除され始めた状態での素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。作動部208がさらに下降すると、案内カム211は、解除ドライバ223の傾斜部223aに滑り接触する。傾斜部223aは、下方に向かうにつれて作動部208に近づくように傾斜している。案内カム211は、下降すると、傾斜部223aに押されて図11における左方向に動く。これにより、案内カム211の第1係合部213aと受動カム217の第2係合部219aとの係合が徐々に外れていく。
【0043】
受動カム217が押し下げられると、受動カム217の第3係合部219cがストッパ218の第4係合部218bと同じ高さ位置に至って受動カム217とストッパ218との係合も外れ、受動カム217がストッパ218に規制されることなく図11における左方向に移動できるようになる。これにより、受動カム217は、弾性体216の復元力によって図11における左方向に動く。
【0044】
図12は、図11に続いて、案内カム211と受動カム217との係合が解除された状態に至った素材押さえ装置201の内部構造の正面図である。受動カム217は、案内カム211に押し下げられた後、解除ドライバ223(図11参照)によって案内カム211との係合が外されると、スプリング222によって再び押し上げられる。これにより、受動部214は、ピン203のカム支持部203bとストッパ218の第4係合部218bとに上下方向に挟まれる。その結果、受動部214は、上下方向に動かなくなる。また、上型102の上面形成面102aからのピン203の突出長は、図5に示したものと同じになる。ここで、解除ドライバ223は、ストッパ218と受動カム217との係合が解除されると同時に、案内カム211と受動カム217との係合を解除するような高さ位置に配置されている。このため、ピン203が、上型102の上面形成面102aから必要以上に下方に突出した後に上方に戻るようなことはない。
【0045】
解除ドライバ223によって案内カム211と受動カム217との係合が外されると、作動部208はさらに下降できるようになる。この状態で、上型102はさらに上昇を続け、プレス成形機101は上死点状態に至る。上死点状態では、プレス成形品に転じた素材W(図11参照)は取り出され、下型104(図1参照)の上方に新たな板状の素材Wが配置される。
【0046】
上死点状態に至った後、プレス成形機101では、スライド103(図1参照)によって上型102が下方に動かされ、図5に示す状態に至る。このようにして、上型102の上下移動が繰り返される。これにより、素材押さえ装置201の内部では、図5に示す状態から図12に示すまでの各部の動きが繰り返され、ピン203が繰り返し上下変位して素材Wを凹部104c(図1参照)に向けて押さえこむ。
【0047】
図5から図12に基づいて述べたように、受動部214は、作動部208によって動かされながらも、ストッパ218による押さえこみや受動部214に含まれる弾性体216によって、動きが規制される。詳細には、ストッパ218は、作動部208の上昇により動かされる受動部214の上方への動きを規制しつつ、水平方向の動きを許容する。その後、水平方向に動かされた後にスプリング222によって押し上げられた受動部214は、ストッパ218と弾性体216とにより保持される。そして、ストッパ218と弾性体216とは、このように保持された状態の受動部214が作動部208の下降により下方へ動かされることを許容している。ここに、受動部214の動きを規制する規制部252(図3参照)が構成される。
【0048】
このように、本実施の形態のプレス成形機101によれば、ピン203が、素材Wの上面を下方に押し、素材Wを下型104の凹部104cにフィットさせる。そして、上型102の下降途中でピン203が上型102の上面形成面102aから退避し、素材Wにおいて凹部104cにフィットされた部分が、上型102に確実に押さえ込まれる。したがって、簡易な構造でプレス成形機101でのプレス成形品のシワ発生を防ぐことができる。
【0049】
また、本実施の形態のプレス成形機101では、油圧シリンダ204により上型102と下型104との距離が検知され、しかも、本体部202に設けられる動力伝達部251は、エアシリンダ等を用いずにシンプルな構成で成り立っている。このため、従来の設備に対する採用が容易である。とりわけ、エアシリンダを採用した場合に考慮すべき事項であった駆動速度の調整が不要となる。
【0050】
さらに、本実施の形態では、規制部252によって受動部214が特有の動き方をし、ピン203はスプリング222に押し上げられて高速で上方に移動する。これにより、ブランクホールドの直前にピン203が素材Wに接触しなくなり、このピン203の接触による素材Wのシワの発生が抑えられる。
【0051】
さらに、本実施の形態では、作動部208の自重が錘212によって増加されており、作動部208が素早く下降する。このため、上型102の移動速度の高める際にピン203の往復速度を考慮する必要がなくなり、プレス成形機101でのプレス成形品の製造効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0052】
101 プレス成形機
102 上型
102a 上面形成面
104 下型
201 素材押さえ装置
202 本体部
203 ピン
204 油圧シリンダ(検知部)
208 作動部
214 受動部
222 スプリング(付勢部)
250 駆動部
251 動力伝達部
252 規制部
W 素材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置であって、
前記上型に配置され上下方向に延びているピンと、
前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上下に動かし、前記ピンの下端が、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置と、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動させる駆動部と、
を備える素材押さえ装置。
【請求項2】
前記駆動部は、
前記上型の内部に配置され、前記ピンを下方に突出させる本体部と、
前記上型と前記下型との距離を検知する検知部と、
前記本体部に設けられ、前記検知部で検知された前記距離に応じて前記ピンを上下に動かす動力伝達部と、
を含む、請求項1記載の素材押さえ装置。
【請求項3】
前記動力伝達部は、
前記検知部で検知された前記距離に応じて上下変位する作動部と、
前記作動部によって動かされる受動部と、
前記受動部を押し上げる付勢部と、
前記作動部の上昇により動かされる前記受動部の上方への動きを規制して水平方向の動きを許容し、水平方向に動かされた後に前記付勢部に押し上げられた前記受動部を保持し、保持された状態の前記受動部の前記作動部の下降による下方への動きを許容する規制部と、
を含み、
前記ピンは、前記受動部の上下変位に連動する、
請求項2記載の素材押さえ装置。
【請求項4】
前記作動部の自重が、前記作動部の下降に寄与する、
請求項3記載の素材押さえ装置。
【請求項5】
下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機で行われる素材押さえ方法であって、
前記上型に配置され上下方向に延びているピンの下端を、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置に位置付けた状態で、前記上型を下降させる第1段階と、
前記上型の下降中に、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上方に動かし、前記ピンの下端を、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方となる位置との間に位置付ける第2段階と、
を備える素材押さえ方法。
【請求項6】
前記第2の段階では、前記ピンは、付勢部に押し上げられて高速で上方に移動する、
請求項5記載の素材押さえ方法。
【請求項1】
下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機に用いられる素材押さえ装置であって、
前記上型に配置され上下方向に延びているピンと、
前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上下に動かし、前記ピンの下端が、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置と、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方の位置との間に位置するよう上下移動させる駆動部と、
を備える素材押さえ装置。
【請求項2】
前記駆動部は、
前記上型の内部に配置され、前記ピンを下方に突出させる本体部と、
前記上型と前記下型との距離を検知する検知部と、
前記本体部に設けられ、前記検知部で検知された前記距離に応じて前記ピンを上下に動かす動力伝達部と、
を含む、請求項1記載の素材押さえ装置。
【請求項3】
前記動力伝達部は、
前記検知部で検知された前記距離に応じて上下変位する作動部と、
前記作動部によって動かされる受動部と、
前記受動部を押し上げる付勢部と、
前記作動部の上昇により動かされる前記受動部の上方への動きを規制して水平方向の動きを許容し、水平方向に動かされた後に前記付勢部に押し上げられた前記受動部を保持し、保持された状態の前記受動部の前記作動部の下降による下方への動きを許容する規制部と、
を含み、
前記ピンは、前記受動部の上下変位に連動する、
請求項2記載の素材押さえ装置。
【請求項4】
前記作動部の自重が、前記作動部の下降に寄与する、
請求項3記載の素材押さえ装置。
【請求項5】
下型と上型とを備え前記下型の上方に配置された素材を前記上型で上方から押さえつけてプレス成形品を形成するプレス成形機で行われる素材押さえ方法であって、
前記上型に配置され上下方向に延びているピンの下端を、前記上型に形成され前記素材の上面を押さえつける上面形成面よりも下方の位置に位置付けた状態で、前記上型を下降させる第1段階と、
前記上型の下降中に、前記上型と前記下型との距離に応じて前記ピンを上方に動かし、前記ピンの下端を、前記上面形成面と面一もしくはこれより上方となる位置との間に位置付ける第2段階と、
を備える素材押さえ方法。
【請求項6】
前記第2の段階では、前記ピンは、付勢部に押し上げられて高速で上方に移動する、
請求項5記載の素材押さえ方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−143791(P2012−143791A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4362(P2011−4362)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
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