説明

紡糸パックアセンブリ

【課題】エラストマー繊維の溶融紡糸を改善すること。
【解決手段】塊をほぼ含まない流体状の熱可塑性材料を受け取り、上記材料の単繊維を排出するように動作可能な紡糸パックアセンブリを備える装置であって、上記材料が上記紡糸パックアセンブリに受け取られた後で、上記材料は上記紡糸パックアセンブリ内でほぼ反応時間内で反応して塊を形成し、上記アセンブリは、円筒形本体と、注入口と、紡糸口金プレートと、上記本体内で、上記注入口と上記繊維開口部との流体的に中間にある空洞区域と、上記空洞区域内を延び、複数の貫通孔を含むブレーカープレートであって、上記各孔は材料が貫通して流れるように動作可能であり、上記孔は、材料が上記空洞区域内に留まる時間が上記空洞区域のほぼ全体にわたって上記反応時間未満になるように上記空洞区域を通して材料が流れるように位置決めされるブレーカープレートとを含む装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ポリウレタン繊維などのエラストマー繊維の溶融紡糸で使用する装置および方法に関する。例示的な実施形態は、このような繊維を生成するのに使用する紡糸パックアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
大半の熱可塑性ポリウレタン(TPU)繊維は、溶媒でTPUを溶解することを含む乾式紡糸処理によって作製される。近年は、溶融紡糸によるTPU繊維の利用が増えている。溶融紡糸は、溶媒の使用が不要であり、したがって、環境への負荷がより少ない。
【0003】
TPU繊維の溶融紡糸は、TPUポリマーを押出機に送り込み、押出機から紡糸口金に送り出すことを含み、紡糸口金から繊維が出てくる。TPUなどのポリマーは、溶融処理機内に留まる時間が長すぎると、結晶化または架橋結合して塊が形成される傾向がある。これは、紡糸口金に送られる前に架橋剤がTPUに添加される場合に特にそうである。こうした早期に形成された結晶ポリマーおよび/または架橋ポリマーの塊は、紡糸口金を通過することがあり、繊維内に欠陥または望ましくない性質が現れることがある。繊維の破断も起こり得る。結晶化した材料および/または架橋結合した材料の塊は、繊維開口部の上流にある空洞に堆積することもある。このため、背圧が過剰になり、また、材料の流量が減少することがある。繊維がもはや生成されなくなるまで背圧が上昇することもある。こうなると、繊維の製造処理を停止し、機器を清掃して邪魔になっている材料を取り除く必要がある。
【0004】
TPU繊維の溶融紡糸で起こり得る別の問題は、繊維の弾性率が丸編み用途には大きすぎることがあることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、エラストマー繊維の溶融紡糸の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
塊をほぼ含まない流体状の熱可塑性材料を受け取り、上記材料の単繊維を排出するように動作可能な紡糸パックアセンブリを備える装置であって、上記材料が上記紡糸パックアセンブリに受け取られた後で、上記材料は上記紡糸パックアセンブリ内でほぼ反応時間内で反応して塊を形成し、上記アセンブリは、
中心軸に沿って延び、第1の軸方向端および上記第1の軸方向端から軸方向に離して配設された第2の軸方向部分を含む円筒形本体と、
上記第2の軸方向部分に隣接し、上記材料を高圧で受け取るように動作可能である注入口と、
上記第1の軸方向端に隣接し、軸方向に位置決めされた1つの繊維開口部を含む紡糸口金プレートであって、上記開口部は上記単繊維を排出するように動作可能である紡糸口金プレートと、
上記本体内で、上記注入口と上記繊維開口部との流体的に中間にある空洞区域と、
上記空洞区域内を延び、複数の貫通孔を含むブレーカープレートであって、上記各孔は材料が貫通して流れるように動作可能であり、上記孔は、材料が上記空洞区域内に留まる時間が上記空洞区域のほぼ全体にわたって上記反応時間未満になるように上記空洞区域を通して材料が流れるように位置決めされるブレーカープレートとを含む装置。
(項目2)
上記孔は、上記空洞区域のほぼ全体にわたって先入れ先出しの流れが得られるように位置決めされる、項目1に記載の装置。
(項目3)
上記複数の孔は、上記空洞区域内において、上記軸からの半径方向距離が大きくなるに従って材料の流量が多くなるように位置決めされる、項目2に記載の装置。
(項目4)
上記複数の孔の断面積はそれぞれ、上記軸からの半径方向距離が大きくなるに従って大きくなる、項目3に記載の装置。
(項目5)
上記複数の孔は、上記軸の周りに複数の同心円パターンで配置される、項目4に記載の装置。
(項目6)
各同心円パターンに含まれる上記孔はすべて、ほぼ同じ断面積を有する、項目5に記載の装置。
(項目7)
上記ブレーカープレートは、軸方向に整列された1つの中央孔を含む、項目6に記載の装置。
(項目8)
上記軸に最も近い第1の同心円パターンの複数の孔はそれぞれ、上記中央孔から半径方向に第1の半径方向距離だけ離れて配設され、上記第1の同心円パターンの上記孔のすぐ隣の半径方向外側に配設される第2の同心円パターンの上記複数の孔は、上記第1の同心円パターンの上記孔から半径方向外側に第2の半径方向距離だけ離れて配設され、上記第1の半径方向距離は上記第2の半径方向距離よりも長い、項目7に記載の装置。
(項目9)
上記ブレーカープレートは、上記第2の同心円パターンの孔のすぐ隣の半径方向外側に配設される第3の同心円パターンの孔を含み、複数の孔からなる上記第3の同心円孔パターンの上記複数の孔は、上記第2の同心円パターンの上記孔から半径方向外側に第3の半径方向距離だけ離れて配設され、上記第1の半径方向距離は上記第3の半径方向距離よりも長い、項目8に記載の装置。
(項目10)
上記空洞区域は、上記第1の軸方向端に隣接して、ほぼ平面の第1の環状表面が境界になっている、項目9に記載の装置。
(項目11)
上記空洞区域は、上記第2の軸方向部分に隣接して、ほぼ平面の第2の環状表面が境界になっている、項目10に記載の装置。
(項目12)
上記本体は、上記第1の軸方向端に隣接する環状の本体開口部を含み、上記本体開口部は、上記軸とほぼ整列しており、上記紡糸口金プレートの上記繊維開口部は上記繊維が排出される出口を含み、上記出口は上記本体開口部に対して少なくとも5mmだけ上記本体内の軸方向内側に配設される、項目11に記載の装置。
(項目13)
上記空洞区域内を延び、上記注入口と上記ブレーカープレートとの間に位置決めされるスクリーンをさらに備える、項目12に記載の装置。
(項目14)
上記紡糸パックアセンブリはさらに
搬送路部品と、
圧縮ナットとを含み、
上記搬送路部品は、環状部および軸方向に中心をもつ円筒突出部を含み、上記注入口は上記環状部および上記円筒突出部を通って延び、
上記圧縮ナットは、外部環状ねじ部および軸方向に中心をもつ進入開口部を含み、上記環状ねじ部は上記本体と動作可能に着脱可能に係合し、上記円筒突出部は上記進入開口部内を延びる、項目13に記載の装置。
(項目15)
上記材料は熱可塑性ポリウレタン(TPU)ポリマーを含む、項目14に記載の装置。
(項目16)
上記出口は、上記本体開口部に対して約15.5mmだけ上記本体内の軸方向内側に配設される、項目15に記載の装置。
(項目17)
上記空洞区域内の上記TPUは少なくとも200℃である、項目16に記載の装置。
(項目18)
上記ブレーカープレートは複数の孔を含み、上記孔は、上記軸の周りで複数の同心円パターンで配置され、各同心円パターンの上記孔は、上記軸からの半径方向距離が大きくなるに従って断面積が大きくなる、項目1に記載の装置。
(項目19)
上記ブレーカープレートは、上記軸と整列した中央孔を含む、項目18に記載の装置。
(項目20)
上記中央孔の断面積は、上記複数の同心円パターンのうちの少なくとも1つの中の孔の断面積よりも小さい、項目19に記載の装置。
(項目21)
上記複数の同心円パターンは、第1の同心円パターンおよび第2の同心円パターンを含み、上記第1の同心円パターンの上記複数の孔は、上記中央孔から第1の距離だけ半径方向に配設され、上記第2の同心円パターンの上記孔は、上記第1の同心円パターンの上記孔から第2の距離だけ半径方向外側に配設され、上記第1の半径方向距離は上記第2の半径方向距離よりも長い、項目19に記載の装置。
(項目22)
上記複数の孔は、少なくとも3つの同心円パターンの孔を含む、項目18に記載の装置。
(項目23)
上記本体は、上記第1の軸方向端に隣接して上記軸の周りを延びる本体開口部を含み、上記繊維開口部は出口を含み、上記繊維は上記出口から排出され、上記出口は、上記本体開口部に対して少なくとも5mmだけ軸方向内側に配設される、項目1に記載の装置。
(項目24)
上記材料は熱可塑性ポリウレタン(TPU)ポリマーを含み、上記出口は、上記本体開口部に対して約15.5mmだけ軸方向内側に配設される、項目23に記載の装置。
(項目25)
塊をほぼ含まない流体状の熱可塑性ポリウレタン(TPU)ポリマー材料を受け取り、上記材料の単繊維を排出するように動作可能なアセンブリを備える装置であって、上記材料が上記アセンブリに受け取られた後で、上記材料は上記アセンブリ内でほぼ反応時間内で反応して塊を形成し、上記アセンブリは、
空洞区域を含む本体であって、上記空洞区域は空洞断面積を有する本体と、
上記空洞区域と流体連絡し、上記材料を高圧で受け取るように動作可能であり、注入口断面積を有する注入口であって、上記注入口断面積は上記空洞断面積よりも小さい注入口と、
上記空洞区域と流体接続し、上記単繊維を排出するように動作可能である繊維排出口と、
上記空洞区域内を延び、上記空洞区域内で材料の流れを方向づけるように動作可能であり、上記空洞区域のほぼ全体にわたって先入れ先出しの流れを維持するように動作可能である少なくとも1つの部材とを含む装置。
(項目26)
上記本体は上記注入口から離れて配設された環状本体開口部を含み、上記繊維排出口は出口を含み、上記単繊維は上記出口において上記繊維排出口から抜け、上記出口は上記本体開口部に対して内側に少なくとも5mmだけ引っ込んでいる、項目25に記載の装置。
(項目27)
上記本体は上記注入口から離れて配設された環状本体開口部を含み、上記繊維排出口は出口を含み、上記単繊維は上記出口のところで上記繊維排出口から抜け、上記出口は上記本体開口部に対して内側に約15.5mmだけ引っ込んでいる、項目25に記載の装置。
(項目28)
上記少なくとも1つの部材は、複数の貫通孔を含むプレートを備える、項目26に記載の装置。
(項目29)
上記アセンブリは、
中心軸に沿って延び、第1の軸方向端および上記第1の軸方向端から軸方向に離して配設された第2の部分を有するほぼ円筒形の本体を含み、
上記注入口は上記第2部分に隣接して軸方向に中心合わせされ、上記本体開口部は上記第1の軸方向端に隣接して軸方向に中心合わせされ、
上記空洞区域は上記本体内にほぼ円筒形の区域を含み、上記複数の孔を含む上記プレートは上記空洞区域内を延び、
上記アセンブリはさらに紡糸口金プレートを備え、上記紡糸口金プレートは上記繊維排出口を含む、項目28に記載の装置。
(項目30)
上記プレートの上記複数の孔は、上記軸からの半径方向距離が大きくなるに従って材料の流量が多くなるように配置される、項目29に記載の装置。
(項目31)
上記プレートは、少なくとも1つの円弧パターンで配置された複数の孔を含む、項目30に記載の装置。
(項目32)
上記少なくとも1つの円弧パターンは、上記軸からの半径方向距離が大きくなるに従って断面積が大きくなる孔を含む、項目31に記載の装置。
(項目33)
上記少なくとも1つの円弧パターンは、複数の孔からなる複数の同心円パターンを含み、各同心円パターンの上記孔はほぼ同じサイズである、項目32に記載の装置。
(項目34)
上記プレートは、上記軸と整列した中央孔を含む、項目33に記載の装置。
(項目35)
上記複数の同心円パターンは第1の同心円パターンを含み、上記第1の同心円パターンの孔は上記中央孔に半径方向に最も近く配設され、上記複数の同心円パターンは第2の同心円パターンを含み、上記第2の同心円パターンの上記孔は、上記第1の同心円パターンの上記孔に対して半径方向外側に配設され、上記第1の同心円パターンの上記孔と上記第2の同心円パターンの上記孔の半径方向中間に延びる、他の同心円パターンの孔はなく、上記第1の同心円パターンの孔は、上記中央孔から第1の半径方向距離だけ離れて配設され、上記第2の同心円パターンの孔は、上記第1の同心円パターンの孔から第2の半径方向距離だけ離れて配設され、上記第1の半径方向距離は上記第2の半径方向距離よりも長い、項目34に記載の装置。
(項目36)
上記プレートは、複数の孔からなる少なくとも3つの同心円パターンを含む、項目35に記載の装置。
(項目37)
上記アセンブリは紡糸パックアセンブリを含み、上記紡糸パックアセンブリは搬送路部品を含み、上記搬送路部品は上記注入口を含み、上記アセンブリは圧縮ナットを含み、上記圧縮ナットは外部環状ねじ部および軸方向に中心をもつ進入開口部を含み、上記環状ねじ部は上記本体と係合し、上記搬送路部品は上記進入開口部内を延びる、項目36に記載の装置。
(発明の要旨)
例示的な実施形態の目的は、長時間稼働可能な処理でTPUなどの弾性繊維を溶融紡糸することである。
【0007】
例示的な実施形態の別の目的は、100%の伸び率で測定した弾性率がより小さい溶融紡糸TPU繊維を作製することである。
【0008】
例示的な実施形態の別の目的は、より望ましい性質を有する繊維を生成し、より速い稼働速度を提供し、より長い稼働時間を実現する紡糸パックアセンブリを提供することである。
【0009】
例示的な実施形態のさらなる目的は、本明細書の詳細な説明および添付の特許請求の範囲で明らかになるであろう。
【0010】
上記目的は、例示的な実施形態において、紡糸パックアセンブリを使用して繊維を生成することによって達成される。この紡糸パックアセンブリは、直径のサイズが異なる複数の孔を伴う円形金属プレートを含むブレーカープレートを備える。このブレーカープレートの中央の孔は最も小さい穴であり、ブレーカープレートの中心から離れるにつれ孔は漸進的に大きくなる。中心から最も離れた孔の直径が最も大きい。ブレーカープレート内の穴をこのように構成すると、紡糸パックアセンブリ内で空洞のほぼ全体にわたって材料の先入れ先出しの流れが得られる。この例示的な実施形態の流れでは、紡糸パックアセンブリの中心軸から半径方向に離れて配設された区域では流量が多くなる。この例示的な実施形態では、この手法により、反応時間よりも短い期間では、材料が紡糸パックアセンブリ内に留まるのがほぼ妨げられる。この反応時間が過ぎると、架橋結合した、かつ/または結晶化した材料の数多くの塊がアセンブリ内で形成される。この例示的な実施形態の手法により、繊維中でほとんど欠陥が生成されない望ましい流れの性質が得られる。さらに、この紡糸パックアセンブリの構造の例では、より長い稼働時間にわたって逆圧の上昇が小さくなり、それによって、処理の停止期間が短くなり、生産性が増す。
【0011】
この紡糸パックアセンブリの例示的な実施形態では、紡糸パックアセンブリは、本体開口部を備えるほぼ円筒形の本体を有する。繊維は、紡糸口金プレート内の繊維開口部を材料が通過するときに生成される。この繊維は、出口のところで生成される。この出口は、本体開口部に対して軸方向内側に配設される。この例示的な実施形態における構造では、繊維が従来設計よりもゆっくり冷却される。そのため、より低い弾性率の繊維が得られ、稼働速度がより速くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ブレーカープレートおよび引っ込んだ紡糸口金プレート繊維出口開口部を備える例示的な紡糸パックアセンブリの断面図である。
【図2】図2は、図1のアセンブリで使用する例示的なブレーカープレートの上面図である。
【図3】図3は、従来技術による例示的なブレーカープレートの上面図である。
【図4】図4は、図1の例示的なアセンブリの例示的な搬送路部品の等角図である。
【図5】図5は、従来技術による例示的な搬送路部品の等角図である。
【図6】図6は、例示的な実施形態のスペーサおよび紡糸口金プレートの等角図である。
【図7】図7は、従来技術による紡糸口金プレートの等角図である。
【図8】図8は、例示的な紡糸パックアセンブリの本体内の構成要素の分解図である。
【図9】図9は、図8に示す構成要素を組み立てられた状態で示す等角図である。
【図10】図10は、例示的な実施形態の引っ込んだ繊維出口を示す例示的な紡糸パックアセンブリの円筒形本体の等角図である。
【図11】図11は、本体出口により近い繊維出口開口部を含む従来技術による紡糸パックアセンブリを示す等角図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
ここで図面を参照する。特に図1を参照すると、例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリ(10)が示されている。この紡糸パックアセンブリ10は、ほぼ円筒形の本体12を備える。本体12は、中心軸14に沿って延びる。
【0014】
この例示的な実施形態では、本体は、本体の軸方向端に本体開口部16を備える。本体開口部16は、本体内を延びる内腔18よりも小径である。紡糸パックアセンブリが組み立てられた状態では、この内腔にはいくつかの構成要素が重ねられる。この例示的な実施形態の構成要素には、環状スペーサ20が含まれる。この例示的な実施形態では、スペーサ20は、内腔の境界となる内向きに延びる環状段差22上で支持される。
【0015】
紡糸口金プレート24は、スペーサ20に隣接して位置決めされる。紡糸口金プレート24は、軸方向に位置決めされた繊維開口部26を備える。この紡糸パックアセンブリの例では、以下で論じるように開口部26から単繊維が生成される。単繊維は、出口28のところで生成され、繊維開口部から出てくる。この出口は、この例示的な実施形態では本体開口部の軸方向内側に配設される。例示的な紡糸口金プレート24は、その中に陥凹区域をさらに含み、この陥凹区域は、ほぼ平面の環状表面30が境界になっている。平面環状表面30は、繊維開口部26を取り囲むように全体的に延びる。
【0016】
環状座金32は、アセンブリ内で紡糸口金プレート24に隣接して位置決めされる。この例示的な実施形態の環状座金32は、紡糸口金プレートの陥凹部に直径が対応する中央開口部を含む。
【0017】
この例示的なアセンブリはさらに、ブレーカープレート34を備える。この例示的な実施形態のブレーカープレート34は、複数の貫通孔36を含む。後で詳細に論じるように、この例示的な実施形態のように孔を配置すると、紡糸パックアセンブリを通る材料の流れに、繊維を生成する際に望ましい性質をもたらす性質が与えられる。
【0018】
この例示的な実施形態のブレーカープレート34に隣接して、スクリーン38が設けられる。図8に最もよく示されるように、この例示的な実施形態のスクリーンは、中央多孔区域および周辺環状中実区域を含む。当然のことながら、この構造は例であり、他の実施形態では他の手法を用いてよいことを理解されたい。
【0019】
この例示的なアセンブリはさらに、搬送路部品40を備える。この例示的な実施形態の搬送路部品は、環状部42および円筒突出部44を含む。流体材料を受けるように動作可能な注入口46は、搬送路部品を貫通して軸方向に延びる。この例示的な実施形態では、搬送路部品は、ほぼ平面の環状表面48を含む。この例示的な実施形態では、ほぼ平面の環状表面は、注入口46を取り囲むように延びる。例示的な搬送路部品40は、円筒突出部に、圧縮座金50が位置決めされる陥凹部も含む。圧縮座金50により、繊維を形成する流体材料を供給する導管と容易に流体密封接続される。
【0020】
この例示的な紡糸パックアセンブリはさらに圧縮ナット52を備える。この例示的な実施形態の圧縮ナット52は、その外側に環状ねじ切り部54を含む。ねじ切り部54は、内腔18の対応する部分に位置決めされる嵌合ねじに係合するように構成される。圧縮ナット52はさらに、軸方向中央に配置された進入開口部56を含む。この例示的な実施形態の搬送路部品の円筒突出部は、紡糸パックアセンブリが組み立てられた状態では、この進入開口部を貫通して延びる。圧縮ナット52は、圧縮ナットの回転が容易に行われ、それによって紡糸パックアセンブリの構成要素が使用中に内腔内で組み立てられ積み重ねられた関係に保持され、また、交換、清掃その他の目的に望ましい場合に構成要素の分解が可能な孔または他の適当な構造を含み得ることも理解されたい。当然のことながら、これらの構造は例であり、他の実施形態では他の手法を用いてよいことを理解されたい。
【0021】
図8および図9から明らかなように、アセンブリの例示的な実施形態では、スペーサ、紡糸口金プレート、座金、ブレーカープレート、スクリーン、および搬送路部品を内腔18に組み付けることができる。こうして組み立てられた構成要素は、圧縮ナット52を締め付けることによってアセンブリ内で定位置に保持される。さらに、これらの構成要素が組み立てられると、紡糸パックアセンブリは、全体的に58で示す空洞区域を含むことになる。この空洞58を通って材料が注入口46と出口28の間を流れる。さらに、理解し得るように、修理、交換、または清掃のための紡糸パックアセンブリの構成要素の取外しは、圧縮ナット52を緩め、内腔から様々な構成要素を取り外すことによって行うことができる。これらの構成要素は例であり、本明細書で説明する原理は、紡糸パックアセンブリまたは熱可塑性材料の繊維を生成するように適合された他のアセンブリの他の構成要素で利用し得ることも理解されたい。
【0022】
図2に、例示的なブレーカープレート34の上面図を示す。すでに論じたように、例示的なブレーカープレート34は複数の孔36を含む。この例示的な実施形態では、これらの孔は、軸方向に整列した中央孔60を含む。紡糸パックアセンブリが組み立てられた状態では、中央孔60は軸14と整列している。例示的なブレーカープレート34はさらに、中央孔60の周りに3つの同心円パターンで配置された孔を含む。孔62は、第1の同心円パターンに含まれる。孔64は、第2の同心円パターンに含まれ、第1の同心円パターンの孔62に対して半径方向外側に配設される。第3の同心円パターンの孔66は、第2の同心円パターンの孔64に対して半径方向外側に配設される。この例示的な実施形態では3つの同心円パターンを用いたが、当然のことながら他の実施形態では他の手法を用いてよいことを理解されたい。
【0023】
この例示的な実施形態では、第1の同心円パターンの孔62は、材料の流量の観点から、第2の同心円パターンの孔64よりも有効径が小さく、断面積が小さい。同様に、この例示的な実施形態では、第3の同心円パターンの孔66は、第2の同心円パターンの孔64よりも直径がより大きく、断面積が大きい。
【0024】
さらに、この例示的な実施形態では、中央孔60から第1の同心円パターンの孔62までの半径方向距離は、孔62と孔64の間の半径方向距離よりも長く、かつ、孔64と孔66の間の半径方向距離よりも長い。この例示的な実施形態のこの構成により、この例示的な実施形態の繊維を生成するのに望ましいとわかっている流れの性質が得られる。
【0025】
この例示的な実施形態の動作中、これら複数の孔では、軸14からの半径方向距離が大きくなると、材料の流量が多くなる。こうすると、空洞区域58で望ましい流れのパターンが得られる。このように孔を配置することにより、ほぼ空洞区域全体にわたって先入れ先出しの流れが得られる。別名栓流とも呼ばれるこのような流れは、ポリマー溶融物が反応時間の動作中に空洞区域内に留まらないようにする。そうしないと、架橋結合した、かつ/または結晶状態の材料が生成され、そのため、ポリマー溶融物内で半固体の塊が生成されることになる。本開示では、「塊」という用語は、空洞区域を流れる他の材料よりも低流動性粘度の固体および半固体の物体を含むと理解すべきである。先に論じたように、このような塊は望ましくなく、生成される繊維内に欠陥や望ましくない性質が現れることがある。空洞区域内のこのような塊により背圧が高くなることもあり、それによって、紡糸パックアセンブリを通る材料の流れ、ひいては繊維の生成が妨げられる。このように流量が減少すると、運転スピードが遅くなり、最終的に、紡糸パックアセンブリを清掃することができるように生成処理を停止させることになる。
【0026】
例示的なブレーカープレート34に関連して採用した原理はさらに、図3に示す従来技術のブレーカープレート68に示す孔のパターンからも理解されよう。従来技術のブレーカープレート68は、均一なパターンの孔を含む。この均一なパターンでは、一般に、ほとんどの材料が中央孔を通過し、紡糸口金プレートの開口部を通過して繊維が生成される。他の孔を通過する材料の移動はより遅く、そのため、より多くの材料が、反応時間が終わるまでの期間、紡糸パックアセンブリ内に留まる。その結果、空洞区域内に塊が形成される。これらの塊は、流れを制限するように振る舞い、その結果、背圧が高くなり、動作スピードが遅くなる。このような塊が形成されると、紡糸口金開口部のところで生成される繊維材料の品質にも影響を与える。こうした望ましくない状況は、本明細書で説明する原理を適用することによって低減される。
【0027】
この例示的な実施形態では、同心円パターンで孔を配置することによって、望ましい流れの性質を実現するが、他の実施形態では、他の手法を用いてよい。他の手法の例には、望ましい特性を実現するために円弧パターンの孔を含むブレーカープレートが含まれる。これらの円弧パターンは、先に述べた望ましい結果をもたらす流れの特性を実現する細長いスロットや螺旋を含み得る。他の実施形態では、様々な形状の孔を含む螺旋配置の孔を使用し得る。さらに別の実施形態では、ブレーカープレート以外の構造体を採用して、所望の流れの性質を実現し得る。これらの流れの性質は、孔、羽根、堰その他の構造を使用して実現することができる。当然のことながら、これらの手法は例であり、他の実施形態では他の手法を用いてよい。
【0028】
例示的な紡糸パックアセンブリの別の有用な態様は、空洞区域58に関連する形状である。この例示的な実施形態では、空洞区域は、ほぼ環状の表面48および30によって軸方向に境界が設けられている。これらほぼ環状の表面により、流量が最大になり、表面積が最小になるという利点が得られる。
【0029】
図4に、この例示的な実施形態の搬送路部品40を示す。平面表面48は、材料の注入口を取り囲み、動作中は、材料が高圧で陥凹区域に入ると、材料を強制的に半径方向外向きに流す。この構造は、図5に示す従来技術構造70よりも概して迅速に搬送路部品を貫通して材料を移動させる助けになる。図から理解し得るように、従来の搬送路部品70は、より円錐形に近いチャンバを含む。この円錐形チャンバでは、面積が増加し、材料が潜在的に空洞に留まる時間が長くなる。例示の部品40の構造は、材料内に望ましくない塊ができかねないこれらの条件を最小限に抑えることを意図している。類似の原理は、紡糸口金プレート34の繊維開口部を取り囲む平面環状表面30の構成にも当てはまる。当然のことながら、これらの手法は例であり、他の実施形態では他の手法を用いてよい。
【0030】
紡糸パックアセンブリの例示的な実施形態の別の有用な態様は、本体開口部に対して紡糸口金プレートから繊維が出る構成である。この例示的な実施形態では、軸方向に位置決めされた繊維開口部26の出口28は、本体開口部16が延在する平面環状表面72に対して軸方向内側に配設されている。この例示的な実施形態では、繊維出口28は、本体環状表面内で軸方向内側に5ミリメートル(mm)よりも長く離れて配設されている。さらに、TPU繊維を生成するのに使用する例示的な実施形態では、この出口は、本体環状表面に対して15.5mm引っ込んでいる。代替実施形態では、陥凹部をより深くし得る。この陥凹構成により、繊維をよりゆっくり冷却することができる。こうなるのは、繊維が最初に紡糸口金プレートの開口部を出た後の極めて重要な期間に、繊維は紡糸パックアセンブリの高温の本体によって取り囲まれたままになるからである。さらに、繊維が出口を出てゆく際、繊維は、陥凹部で比較的よどんだ高温空気に取り囲まれ、それによってより緩慢な冷却が助長される。この例示的な実施形態でこのように冷却がゆっくり行われると、100%の伸び率での繊維の弾性率がより小さくなる。このように弾性率がより小さくなることは、布地を作製する場合など、繊維が丸編みされる場合に特に望ましい。
【0031】
図10に、この例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリの軸方向端を示すが、紡糸口金プレートの出口28は本体の開口部に対して軸方向内側に引っ込んでいる。図11には対照的に従来技術の手法が示されており、紡糸口金プレートからの出口がほぼ同じレベルであるか、あるいは、本体環状表面からわずかに、例えば2mm程度引っ込んでいるだけである。同様に、図6は、紡糸口金プレートの開口部およびその開口部の出口を本体開口部から引っ込めるように働くスペーサ20の等角図である。これは、図7に示す従来技術の紡糸口金プレート74と対照をなすものである。
【0032】
この例示的な実施形態と従来技術とを比較すると理解し得るように、この例示的な実施形態は、引っ込んだ繊維出口およびそれを取り囲む本体陥凹部の使用を介して繊維の冷却を遅らせる。こうすると、この例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリを使用して生成される繊維の性質が大きく改善される。当然のことながら、これらの構造は例であり、他の実施形態では他の手法を用いてよい。
【0033】
この例示的な実施形態では、溶融紡糸されて弾性繊維になるポリマー材料は、押出機に送られ、そこでポリマーが溶融される。溶融ポリマーは、必要に応じて、押出機から送り出し、架橋剤と混合し、マニホールドに送ることができる。架橋剤を使用しない場合、ポリマー溶融物は、直接マニホールドに送られる。このポリマーは、マニホールドからメルトポンプまで流れる。メルトポンプは、ポリマーを紡糸パックアセンブリに送る。ポリマー溶融物は、注入口46を通って紡糸パックアセンブリに入る。ポリマー溶融物は、注入口46からスクリーン38を通って進む。スクリーン38により、異物や溶解していないポリマーがあれば、それらが取り除かれる。このポリマー溶融物材料は、スクリーン38を通って進み、ブレーカープレート34に至る。このポリマーは、ブレーカープレートの孔を通過して紡糸口金プレート24に至る。紡糸口金プレート24から、ポリマー溶融物が紡糸口金プレート24の繊維開口部26を通過するときに、出口28のところで繊維が形成される。この繊維は、冷却され、仕上げ油で被覆され、糸巻きに巻かれる。
【0034】
この例示的な実施形態で使用するのに最も望ましい弾性繊維は、軽く架橋結合した熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。以下、好ましいTPUポリマーを説明する。
【0035】
好ましいTPUの実施形態はポリエーテルTPUである。このTPUは、ポリイソシアネートと反応したヒドロキシル基を末端にもつ中間体とヒドロキシル基を末端にもつ鎖伸長剤との配合物から作製される。
【0036】
ポリエーテルTPUポリマーを使用して溶融紡糸繊維を作製するとき、ヒドロキシル基を末端にもち、数平均分子量が異なる中間体同士を配合すると、繊維を溶融紡糸するための処理の特徴が優れたものになることがわかっている。ヒドロキシル基を末端にもつ中間体同士の配合物が、分子量が比較的小さい中間体と混合された分子量がより大きい中間体の加重平均分子量が少なくとも1200ダルトン、好ましくは1200〜4000ダルトン、より好ましくは1500〜2500ダルトンになるようになされているとき、例示の紡糸パックアセンブリ内で、このTPUを長時間、圧力が過剰な上昇することなく溶融紡糸することができることがわかっている。これは、繊維の破断につながる過剰な圧力を避ける。そうしないと、紡糸パックを清掃し得るまで溶融紡糸動作を停止させる必要がある。
【0037】
この例示的な実施形態に従って溶融紡糸繊維を生成するためには、ヒドロキシル基を末端にもつ少なくとも2種類の中間体と架橋剤の配合物でできたTPUを用意することが必要である。中間体の配合物の主要成分は第1のポリエーテル中間体であり、そのMは第2の中間体のMよりも高い。第2中間体は、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、およびこれらの混合物からなる群から選択され、第2中間体のMは第1中間体のMよりも低い。好ましくは、第2中間体もポリエーテルである。本明細書では、簡単のため、ポリエーテル中間体同士の配合物を有するポリエーテルTPUに関して実施形態を説明する。第2中間体はポリエーテル以外のものであり得るが、第1ポリエーテル中間体よりも少ない量で存在し、第1ポリエーテル中間体のMよりも低いMを有さなければならないことを理解されたい。
【0038】
使用するポリエーテルTPUは、ヒドロキシル基を末端にもつ少なくとも2種類のポリエーテル中間体同士の配合物と、ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤とを反応させることによって作製することができる。
【0039】
ヒドロキシル基を末端にもつポリエーテル中間体は、炭素原子数が全部で2〜15個のジオールまたはポリオールから誘導されるポリエーテルポリオール、好ましくは、炭素原子数が2〜6個のアルキレンオキシドを含むエーテルと反応させたアルキルジオールまたはアルキルグリコール、典型的には、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドあるいはそれらの混合物とする。例えば、ヒドロキシル官能性ポリエーテルは、まずプロピレングリコールとプロピレンオキシドとを反応させ、次いで、エチレンオキシドと反応させて生成することができる。エチレンオキシドから得られる第1ヒドロキシル基は第2ヒドロキシル基よりも反応性が高く、そのため好ましい。市販の有用なポリエーテルポリオールの例には、エチレングリコールと反応させたエチレンオキシドを含むポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコールと反応させたプロピレンオキシドを含むポリ(プロピレングリコール)、テトラヒドロフランと反応させた水を含むポリ(テトラメチルグリコール)(PTMEG)がある。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)は、好ましいポリエーテル中間体である。ポリエーテルポリオールはさらに、アルキレンオキシドのポリアミド付加物を含み、例えば、エチレンジアミンとプロピレンオキシドの反応生成物を含むエチレンジアミン付加物、ジエチレントリアミンとプロピレンオキシドの反応生成物を含むジエチレントリアミン付加物、および類似のポリアミドタイプのポリエーテルポリオールも含み得る。例示的な実施形態では、コポリエーテルも使用し得る。典型的なコポリエーテルの例には、THFとエチレンオキシド、またはTHFとプロピレンオキシドの反応生成物がある。これらは、ブロック共重合体であるPoly THF Bおよびランダム共重合体であるpoly THF RとしてBASF社から入手可能である。様々なポリエーテル中間体は、一般に、末端官能基アッセイによって求められる数平均分子量(M)を有し、平均分子量は、700よりも大きく、例えば、約700〜約10,000ダルトン、望ましくは約1000〜約5,000ダルトン、好ましくは約1000〜約2500ダルトンである。
【0040】
例示的な実施形態では、2種類以上のポリエーテル中間体同士の配合物を用い、一方のポリエーテルは他方のポリエーテルよりも分子量が大きい。分子量が小さい方のポリエーテルの分子量Mは、700〜1500ダルトンであり、分子量が大きい方のポリエーテルのMは、約1500〜約4000ダルトン、好ましくは、約1800〜約2500ダルトンである。この配合物の加重平均分子量は1200ダルトンよりも大きく、好ましくは、1500ダルトンよりも大きくすべきである。例えば、70重量%の2000Mポリエーテルと30重量%の1000Mポリエーテルを配合した1000グラムの試料では、この1000グラムの混合物内のこれら2つの成分の加重平均Mは1538ダルトンになる。2000Mポリエーテル成分のモル数は0.35(1000×0.7/2000)になり、1000Mポリエーテル成分のモル数は0.3(1000×0.3/1000)になる。全モル数は、この1000グラムの試料では0.65(0.35+0.3)モルになり、加重平均Mは(1000/0.65)、すなわち1538Mになる。
【0041】
ヒドロキシル基を末端にもつ第1ポリエーテル中間体とヒドロキシル基を末端にもつ第2中間体の配合物中での重量比は、約60:40〜約90:10、好ましくは、約70:30〜90:10である。第1ポリエーテル中間体の量は、第2中間体の量よりも大きい。
【0042】
本実施形態のTPUポリマーを作製するのに必要な第2の成分はポリイソシアネートである。
【0043】
ポリイソシアネートは一般に、化学式R(NCO)を有する。式中、nは一般に2〜4であり、組成物を熱可塑性とする場合には2が極めて好ましい。そのため、ポリイソシアネートにより架橋結合させる場合には、官能価が3〜4のポリイソシアネートを、ポリイソシアネートの全重量に対して5重量%未満、望ましくは2重量%未満など、極めて少量で用いる。Rは、炭素原子の総数が概して2〜約20の芳香族、脂環式、および脂肪族のもの、あるいはこれらの組合せとし得る。適切な芳香族ジイソシアネートの例には、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、H12MDI、m−キシリレンジイソシアネート(XDI)、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、フェニレン−1,4−ジイソシアネート(PDDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、およびジフェニルメタン−3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアネート(TODI)が含まれる。適切な脂肪族ジイソシアネートの例には、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,6−ジイソシアネート−2,2,4,4−テトラメチルヘキサン(TMDI)、1,10−デカンジイソシアネート、およびトランス−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)が含まれる。極めて好ましいジイソシアネートは、約3重量%未満のオルト−パラ(2,4)異性体を含むMDIである。2種類以上のポリイソシアネートの配合物を使用し得る。
【0044】
TPUポリマーを作製するのに必要な第3の成分は鎖伸長剤である。適切な鎖伸長剤は、炭素原子数が約2〜約10である低級脂環式グリコールまたは短鎖グリコールであり、その例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキシルジメチロールのシス−トランス異性体、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサジオール、1,3−ブタンジオール、および1,5−ペンタジオールが含まれる。鎖伸長剤として芳香族グリコールを使用することもでき、芳香族グリコールは、高熱応用例では好ましい選択である。ベンゼングリコール(HQEE)およびキシレングリコールは、本発明のTPUを作製するのに使用する適切な鎖伸長剤である。キシレングリコールは、1,4−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼンと1,2−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼンとの混合物である。ベンゼングリコールは好ましい芳香族鎖伸長剤であり、その具体的な例には、ヒドロキノン、すなわち、1,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとしても知られるビス(β−ヒドロキシエチル)エーテル、レソルシノール、すなわち、1,3−ジ(2−ヒドロキシエチル)ベンゼンとしても知られるビス(β−ヒドロキシエチル)エーテル、カテコール、すなわち、1,2−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとしても知られるビス(β−ヒドロキシエチル)エーテル、およびこれらの組合せが含まれる。耐熱性繊維には、ベンゼングリコール(HQEE)が所望の鎖伸長剤である。HQEEとともにHQEEの異性体を使用することによって、極めて良好な結果が得られる。
【0045】
上記の鎖伸長剤とともに補鎖伸長剤(co−chain extender)を使用することが好ましい。補鎖伸長剤は、鎖伸長剤として上記で説明した材料の1つであり得る。補鎖伸長剤は、好ましくは、TPUの結晶化速度を遅くし、TPUの高温溶融ピークをなくすことができる材料から選択する。ジプロピレングリコールおよびネオペンチルグリコールなどの分岐化合物は優れた補鎖伸長剤である。また、高熱応用例には、ヒドロキシエチルレソルシノール(HER)などのHQEEの異性体が極めて有効な補鎖伸長剤である。補鎖伸長剤を使用する場合、その使用レベルは、鎖伸長剤のおよび補鎖伸長剤の合計モル数の約2〜約50モル%、好ましくは10〜30モル%である。
【0046】
所望の場合には、2種類以上の鎖伸長剤の配合物を、2種類以上の補鎖伸長剤の配合物とともに使用し得る。しかし、簡単のため通常は、1種類の鎖伸長剤を1種類の補鎖伸長剤とともに使用する。
【0047】
上記3つの必要な成分(異なるMのポリエーテル中間体同士の配合物、ポリイソシアネート、および鎖伸長剤)は、好ましくは、触媒の存在下で反応させる。
【0048】
一般に、任意の従来の触媒を用いて、ジイソシアネートとポリエーテル中間体または鎖伸長剤を反応させることができ、このことは当技術分野ならびに文献でよく知られている。適切な触媒の例には、様々なビスマスまたはスズのアルキルエーテルまたはアルキルチオールエーテルが含まれる。ここで、アルキル部分の炭素原子数は1〜約20である。具体的な例は、ビスマスオクトアート、ビスマスラウレートなどである。好ましい触媒の例には、第一錫オクトアート、ジブチル錫ジオクトアート、ジブチル錫ジラウレートなどの様々なスズ触媒が含まれる。このような触媒の量は、一般に少量であり、例えば、ポリウレタン形成モノマーの全重量の約20〜約200ppmである。
【0049】
本発明のポリエーテルTPUポリマーは、当技術分野ならびに文献で周知の従来の重合法のいずれかによって作製することができる。
【0050】
例示的な実施形態の熱可塑性ポリウレタンは、好ましくは、「ワンショット」法によって作製される。「ワンショット」法では、すべての成分を同時またはほぼ同時に加熱した押出機に加え、反応させてポリウレタンを形成する。ジイソシアネートとヒドロキシル基を末端にもつポリエーテル中間体およびジオール鎖伸長剤の全当量との当量比は、一般に、約0.95〜約1.10、望ましくは約0.97〜約1.03、好ましくは約0.97〜約1.00である。この当量比は1.0未満であることが好ましく、それによってTPUが末端ヒドロキシル基を有し、その結果、繊維紡糸処理中に架橋剤との反応が強められる。形成されるTPUのショア硬さAは、最も望ましい溶融紡糸繊維が得られるように、65A〜95A、好ましくは約75A〜約85Aとすべきである。ウレタン触媒を使用する反応の温度は一般に、約175℃〜約245℃、好ましくは約180℃〜約220℃である。熱可塑性ポリウレタンの分子量(M)は一般に、ポリスチレンを標準としたGPCで測定した場合、約25,000〜約300,000、望ましくは約50,000〜約200,000、好ましくは約75,000〜約150,000である。これらの好ましいMは、TPU繊維についての従来技術の推奨値よりも小さいが、こうしてMを小さくすると、TPUと架橋剤がより良好に混合され、そのため繊維紡糸が極めて良好に行われる。
【0051】
熱可塑性ポリウレタンは、プレポリマー法を利用して調製することもできる。プレポリマー法では、ヒドロキシル基を末端にもつポリエーテル中間体を、一般に当量よりも多い1種または複数種のポリイソシアネートと反応させて、遊離または未反応のポリイソシアネートを含むプレポリマー溶液を形成する。反応は、一般に、約80℃〜約220℃、好ましくは約150℃〜約200℃の温度で、適切なウレタン触媒の存在下で実施する。その後、先に述べたように、選択性鎖伸長剤を、一般にイソシアネート末端基と、遊離または未反応のジイソシアネート化合物があればそれを加えたものにほぼ等しい当量で添加する。そのため、全ジイソシアネートとヒドロキシル基を末端にもつポリエーテルおよび鎖伸長剤の全当量との全当量比は、約0.95〜約1.10、望ましくは約0.98〜約1.05、好ましくは約0.99〜約1.03になる。65A〜95A、好ましくは75A〜85Aのショア硬さが得られるように、ヒドロキシル基を末端にもつポリエーテルと鎖伸長剤との当量比を調整する。鎖伸長の反応温度は一般に、約180℃〜約250℃であるが、約200℃〜約240℃が好ましい。プレポリマー法は、典型的には任意の従来型装置で実施することができるが、押出機が好ましい。そのため、押出機の最初の部分で、ポリエーテル中間体と当量よりも多いジイソシアネートとを反応させてプレポリマー溶液を形成し、次いで、下流部分で鎖伸長剤を添加し、プレポリマー溶液と反応させる。任意の従来型押出機を使用することができるが、長さ−直径の比が少なくとも20、好ましくは少なくとも25のバリアスクリューを装えた押出機を使用する。プレポリマー法では、TPUの高温溶融ピークを下げ、ワンショット法で先に説明した補鎖伸長剤を不要にすることができる。
【0052】
有用な添加剤を適切な量で用いることができる。添加剤の例には、不透明顔料、着色剤、鉱物充填剤、安定剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、処理補助剤、ならびに所望の場合には他の添加物が含まれる。有用な不透明顔料の例には、二酸化チタン、酸化亜鉛、およびチタネートイエローが含まれ、有用な着色顔料の例には、カーボンブラック、黄色酸化物、茶色酸化物、ローシエナおよびバーントシエナまたはローアンバーおよびバーントアンバー、酸化クロムグリーン、カドミウム顔料、クロム顔料、および他の酸化金属と有機顔料の混合物が含まれる。有用な充填剤の例には、珪藻土(スーパーフロス)、シリカ、タルク、マイカ、ウォルストナイト、硫酸バリウム、および炭酸カルシウムが含まれる。所望の場合には、酸化防止剤などの有用な安定剤を使用することができる。酸化防止剤の例にはフェノール酸化防止剤が含まれ、有用な光安定剤の例には、有機リン酸、有機錫チオラート(メルカプチド)が含まれる。有用な潤滑剤の例には、ステアリン酸金属、パラフィン油、およびアミドワックスが含まれる。有用な紫外線吸収剤の例には、2−(2’−ヒドロキシフェノール)ベンゾトリアゾールおよび2−ヒドロキシベンゾフェノンが含まれる。
【0053】
可塑剤添加物も、性質に影響を及ぼすことなく硬さを減少させるために有利に使用することができる。
【0054】
溶融紡糸処理中に、上記で説明したTPUポリマーを架橋剤で軽く架橋結合させる。この架橋剤は、ヒドロキシル基を末端にもつ中間体のプレポリマーであり、こうした中間体は、ポリイソシアネートと反応させたポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、またはこれらの混合物である。ポリエステルまたはポリエーテルは、架橋剤を作製するためのヒドロキシル基を末端にもつ好ましい中間体である。この架橋剤、すなわちプレポリマーのイソシアネート官能性は、約1.0よりも大きく、好ましくは約1.0〜約3.0、より好ましくは約1.8〜約2.2である。ヒドロキシル基を末端にもつ中間体の両末端にイソシアネートによってキャップを形成すると特に好ましく、それによって、イソシアネートの官能性が2.0になる。
【0055】
架橋剤を作製するのに使用するポリイソシアネートは、TPUポリマーを作製するのに上記で説明したものと同じである。MDIなどのジイソシアネートは、この場合の好ましいジイソシアネートである。
【0056】
架橋剤を作製するのに使用するヒドロキシル基を末端にもつポリエステル中間体は、一般に、直鎖の、または分岐したポリエステルであり、その数平均分子量(M)は、約500〜約10,000、望ましくは約700〜約5,000、好ましくは約700〜約4,000であり、酸価は一般に、1.3未満、好ましくは0.8未満である。分子量は、末端官能基のアッセイによって求められ、数平均分子量に関係している。こうしたポリマーは、(1)1種または複数種のグリコールと1種または複数種のジカルボン酸またはジカルボン酸無水物とのエステル化反応、または(2)エステル交換反応、すなわち、1種または複数種のグリコールとジカルボン酸のエステルとの反応によって生成される。グリコールと酸のモル比を概して1モルよりも大きくするのが好ましく、そうすると末端ヒドロキシル基が大半を占める直鎖が得られる。適切なポリエステル中間体の例には、典型的にはε−カプロラクトンおよびジエチレングリコールなどの二官能性開始剤から作製されるポリカプロラクトンなどの様々なラクトンも含まれる。これら所望のポリエステルのジカルボン酸は、脂肪族、脂環式、芳香族のもの、またはこれらの組合せとし得る。単独で、または組み合わせて使用し得る適切なジカルボン酸は、炭素原子の総数が一般に4〜15個であり、その例には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが含まれる。上記のジカルボン酸の無水物、例えば、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸なども使用し得る。アジピン酸は好ましい酸である。所望のポリエステル中間体を形成するために反応させるグリコールは、脂肪族、芳香族、またはこれらの組合せとすることができ、炭素原子の総数は2〜12個とし得る。こうしたグリコールの例には、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコールなどが含まれる。1,4−ブタンジオールおよびネオペンチルグリコールとの混合物は好ましいグリコールである。
【0057】
米国特許第4,131,731号を、ヒドロキシル基を末端にもつポリカーボネートおよびその調製についての開示に関して、ここに参照により組み込む。このポリカーボネートは、直鎖であり、末端ヒドロキシル基を有し、本質的に他の末端基が除かれている。必須反応物はグリコールおよびカーボネートである。適切なグリコールは、4〜40個、好ましくは4〜12個の炭素原子を含む脂環式および脂肪族のジオールから、また、1分子当たり2〜20個のアルコキシ基を含み、各アルコキシ基が2〜4個の炭素原子を含むポリオキシアルキレングリコールから選択される。例示的な実施形態で使用するのに適切なジオールの例には4〜12個の炭素原子を含む脂肪族ジオールが含まれ、それらは例えば、ブタンジオール−1,4、ペンタンジオール−1,4、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール−1,6、2,2,4−トリメチルヘキサンジオール−1,6、デカンジオール−1,10、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール、および脂環式ジオールである。この脂環式ジオールは、シクロヘキサンジオール−1,3、ジメチロールシクロヘキサン−1,4、シクロヘキサンジオール−1,4、ジメチロールシクロヘキサン−1,3、1,4−エンドメチレン−2−ヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルシクロヘキサン、およびポリアルキレングリコールなどである。この反応で用いるジオールは、最終生成物で所望される性質に応じて単一ジオールまたは複数のジオールの混合物とし得る。
【0058】
ヒドロキシル基を末端にもつポリカーボネート中間体は、一般に、当技術分野ならびに文献にてよく知られたものである。適切なカーボネートは、以下の一般化学式を有する5〜7員環から構成されるアルキレンカーボネートから選択される。
【0059】
【化1】


式中、Rは、2〜6個の直鎖炭素原子を含む飽和二価ラジカルである。本明細書で使用するのに適したカーボネートの例には、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−エチレンカーボネート、1,3−ペンチレンカーボネート、1,4−ペンチレンカーボネート、2,3−ペンチレンカーボネート、および2,4−ペンチレンカーボネートが含まれる。
【0060】
また、本明細書で適切なのは、ジアルキルカーボネート、脂環式カーボネート、およびジアリールカーボネートである。ジアルキルカーボネートは、各アルキル基に2〜5個の炭素原子を含むことがあり、その具体的な例は、ジエチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートである。脂環式カーボネート、特に二脂環式カーボネートは、各環状構造に4〜7個の炭素原子を含むことがあり、このような構造が1つまたは2つあることがある。一方の基が脂環式である場合、他方はアルキルまたはアリールのいずれかであり得る。一方、一方の基がアリールである場合、他方はアルキルまたは脂環式であり得る。各アリール基に6〜20個の炭素原子を含み得るジアリールカーボネートの好ましい例は、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、およびジナフチルカーボネートである。
【0061】
この反応は、グリコールと、カーボネート、好ましくはモル数が10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の範囲のアルキレンカーボネートとを、温度を100℃〜300℃とし、圧力を0.1〜300mmHgの範囲として、エステル交換触媒が存在している場合としていない場合で、低沸点のグリコールを蒸留によって取り除きながら反応させることによって行う。
【0062】
より詳細には、ヒドロキシル基を末端にもつポリカーボネートを2段階で調製する。第1段階では、グリコールとアルキレンカーボネートを反応させて、ヒドロキシル基を末端にもつ低分子量のポリカーボネートを形成する。低沸点のグリコールは、100℃〜300℃、好ましくは150℃〜250℃で、圧力を10〜30mmHg、好ましくは50〜200mmHgに下げた状態で蒸留によって取り除く。分留塔を使用して、反応混合物から副生成物グリコールを分離する。副生成物グリコールを塔の上部から取り除き、未反応のアルキレンカーボネートおよびグリコールの反応物を還流として反応容器に戻す。不活性ガスまたは不活性溶媒の流れを利用すると、副生成物グリコールをそれが形成されるときに除去するのが容易である。得られる副生成物グリコールの量から、ヒドロキシル基を末端にもつポリカーボネートの重合度が2〜10の範囲にあることが示されると、圧力は徐々に低くなり0.1〜10mmHgになって、未反応のグリコールおよびアルキレンカーボネートが取り除かれる。これが、反応の第2段階の始まりを示しており、第2段階では、グリコールが形成されるときに、100℃〜300℃で、好ましくは150℃〜250℃、かつ、0.1〜10mmHgの圧力でグリコールを蒸留することによって、ヒドロキシル基を末端にもつ低分子量のポリカーボネートが濃縮され、最終的に、ヒドロキシル基を末端にもつ所望の分子量のポリカーボネートが得られる。ヒドロキシル基を末端にもつポリカーボネートの分子量(M)は、約500〜約10,000まで変化し得るが、好ましい実施形態では分子量は500〜2500の範囲である。
【0063】
ポリエーテル架橋剤が所望される場合、ポリエーテル架橋剤は、TPUポリマーを作製するために上記で説明したようにヒドロキシル基を末端にもつポリエーテル中間体から生成され、ポリイソシアネートと反応してプレポリマーが形成される。
【0064】
この架橋剤の数平均分子量(M)は、約1,000〜約10,000、好ましくは約1,200〜約4,000、より好ましくは約1,500〜約2,800である。Mが約1500よりも大きい架橋剤は、より良好な硬化特性を有する。
【0065】
TPUポリマーとともに使用する架橋剤の重量%は、約5.0%〜約20%、好ましくは約8.0%〜約15%、より好ましくは約10%〜約13%である。使用する架橋剤の割合は、TPUポリマーおよび架橋剤の合計重量に対する重量%である。
【0066】
TPU繊維を作製するための例示的な溶融紡糸処理は、予備成形されたTPUポリマーを送ることを含む。このTPUポリマーは通常、押出機内で溶融され、TPU溶融物が押出機を出るところの近くの下流で、あるいは、TPU溶融物が押出機を出た後で、架橋剤を連続して添加する。架橋剤は、溶融物が押出機を出る前に、あるいは、溶融物が押出機を出た後で、押出機に添加することができる。溶融物が押出機を出た後で架橋剤を添加する場合、静的または動的な混合機を使用して架橋剤とTPU溶融物を混合する必要があり、それによって、架橋剤がTPUポリマー溶融物内で適切に混合されるようにする。押出機および混合機を出た後で、架橋剤を伴う溶融TPUポリマーは、マニホールドに流入する。マニホールドにより、溶融物の流れが別々の流れに分割され、それぞれの流れは複数の紡糸パックアセンブリに送られる。通常、マニホールドから流れ出るそれぞれの異なる流れにはメルトポンプがあり、各メルトポンプはいくつかの紡糸パックアセンブリへの供給を行う。各紡糸パックアセンブリは先に説明したタイプのものでもよいし、代替構造のものでもよい。
【0067】
TPU溶融材料は、高圧によって強制的に紡糸パックアセンブリを通り、繊維の形態で紡糸口金プレートを出る。紡糸口金プレートの穴のサイズは、繊維の所望のサイズ(デニール)に基づいている。繊維は、紡糸パックアセンブリを出るときに引かれ、すなわち、伸び、糸巻きに巻かれる前に冷却される。繊維は、紡糸パックアセンブリを出る繊維のスピードよりも速いスピードで糸巻きに巻かれることによって伸びる。溶融紡糸TPU繊維の場合、糸巻きは通常、紡糸パックアセンブリを出る繊維のスピードの4〜6倍の速さで巻かれるが、特定の機器では巻き取りスピードをこれよりも遅くすることもできるし、速くすることもできる。典型的な糸巻きの巻き取りスピードは、100〜3000メートル/分の範囲で変化し得るが、TPU溶融紡糸繊維の場合、より典型的なスピードは300〜1200メートル/分である。通常、冷却後、糸巻きに巻かれる直前にシリコーン油などの仕上げ油を繊維の表面に添加する。
【0068】
溶融紡糸処理の例の重要な態様は、TPUポリマー溶融物と架橋剤の混合処理である。均一な繊維の性質を実現し、繊維が破断することなく長時間稼働を実現するには、均一な混合を適切に行うことが重要である。TPU溶融物と架橋剤の混合は、栓流を実現する方法、すなわち先入れ先出しとすべきである。適切な混合は、動的混合機または静的混合機によって実現することができる。静的混合機の方が清掃が難しいので、動的混合機が好ましい。送りねじおよび混合ピンを有する動的混合機が好ましい混合機である。米国特許第6,709,147号に、このような混合機が記載されており、回転可能な混合ピンが設けられている。この特許を参照により本明細書に組み込む。混合ピンは固定位置、例えば、混合機の胴体に取り付け、送りねじの中心線に向かって延びるように設けることもできる。混合送りねじは、ねじ部によって押出機スクリューの端部に取り付けることができ、混合機の筐体は、押出機にボルト締めすることができる。動的混合機の送りねじは、逆混合がほとんどない状態でポリマー溶融物を漸進的に移動させて、溶融物の栓流が得られる設計とすべきである。混合ねじのL/Dは、3よりも大きく、30よりも小さく、好ましくは約7〜約20、より好ましくは約10〜約12とすべきである。
【0069】
TPUポリマー溶融物と架橋剤が混合される混合領域における温度は、約200℃〜約240℃、好ましくは約210℃〜約225℃である。上記温度は、ポリマーを劣化させずに反応を行うのに必要なものである。
【0070】
繊維紡糸処理中に、形成されたTPUと架橋剤を反応させて、繊維形態のTPUの分子量(M)を約200,000〜約800,000、好ましくは約250,000〜約500,000、より好ましくは約300,000〜約450,000とする。TPUが紡糸パックアセンブリを出る時点での繊維紡糸処理におけるTPUと架橋剤の間の反応は、20%よりも高く、好ましくは約30%〜約60%、より好ましくは約40%〜約50%とすべきである。典型的な従来技術によるTPUポリマーと架橋剤の間のTPU溶融物紡糸反応は、20%未満、通常は約10〜15%である。この反応は、NCO基の消失によって確認される。例示的な実施形態の反応の割合が比較的高いと、溶融物の強度が向上し、そのため、紡糸温度を高くすることができ、それによって、TPUの紡糸性を改善することができる。繊維は通常、オーブン内で糸巻きに巻かれた状態でエージングさせて反応を完全に完了させ、そのため、衣料品に使用される繊維内のNCO基はすべて消失する。
【0071】
紡糸温度(紡糸パックアセンブリ内でのポリマー溶融物の温度)は、ポリマーの融点よりも高く、好ましくは、ポリマーの融点よりも約10℃〜約20℃高くすべきである。利用し得る紡糸温度が高いほど、一般に、紡糸処理がより良好に行われる。ただし、紡糸温度が高すぎると、ポリマーは劣化することがある。したがって、例示的な実施形態では、TPUポリマーの融点よりも約10℃〜約20℃高い温度が、ポリマーの劣化を伴わずに紡糸処理を良好に平衡させるのに最適である。紡糸温度が低すぎると、紡糸口金内でポリマーが凝固することがあり、繊維が破断することがある。例示的な実施形態で生成する繊維の紡糸温度は、200℃よりも高く、好ましくは約205℃〜約220℃である。
【0072】
溶融紡糸TPU繊維作製の重要な態様は、処理を停止せずに連続して行うことができる期間である。処理を停止することが必要とされるのは、通常、繊維が破断した場合である。繊維の破断は、紡糸パックアセンブリの注入口での圧力が許容し得ないレベルに上昇したときに起こる。圧力が上昇して1平方cm当たり約140〜200kgの力に達すると、通常、繊維が破断する。圧力はいくつかの理由で上昇し得る。例えば、混合が不適切だと、架橋剤の自己反応による生成物が形成され、それによって、繊維用紡糸口金の小径出口穴が部分的に詰まる。この例示的な実施形態では、圧力上昇が悪影響を及ぼすレベルを超えて繊維が破断するまでの稼働期間をかなり長くすることができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例に、従来方式の紡糸パックアセンブリに対する上記例示的な紡糸パックアセンブリの利点を示す。従来技術による紡糸パックアセンブリに対して例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリを評価した。この評価は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)ポリマーを溶融紡糸することによって実施した。使用したTPUポリマーは、ヒドロキシル基を末端にもつポリエーテル中間体(2000MのPTMEGと1000MのPTMEGの配合物)と、グリコール芳香族鎖伸長剤[ベンゼングリコール(HQEE)とヒドロキシルエチルレソルシノール(HER)の配合物]と、ジイソシアネート(MDI)とを反応させて作製した。これら3種類の成分(ポリエーテル中間体、グリコール鎖伸長剤、およびジイソシアネート)を2軸スクリュー押出機内で、200℃でのワンショット処理を利用して反応させた。TPUポリマーをパレット化し、それらを以下の実施例1および2で使用して繊維を紡糸した。紡糸パックアセンブリによって繊維が生成される出口は、紡糸パックアセンブリの本体の開口部から軸方向に約15.5mm引っ込ませた。
【0074】
(実施例1(比較例))
上記で説明したTPUポリマーを使用して40デニールの繊維を溶融紡糸した。TPUポリマーのパレットを押出機内で溶融し、動的混合機内でポリマー溶融物とポリエステルプレポリマー架橋剤(Hyperlast(登録商標)5255)を混合した。次いで、架橋剤を含むTPU溶融物を従来技術による紡糸パックアセンブリに送り、40デニールの溶融紡糸繊維を生成した。繊維にシリコン仕上げ油を塗布し、それらを600メートル/分のスピードで糸巻きに巻き上げた。60時間連続稼働させた後で、紡糸パック内の圧力は、初期圧力よりも81.2%高くなり、繊維が破断し始めた。繊維が破断したので、運転を停止した。
【0075】
(実施例2)
この実施例では、上記で説明した例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリを使用して、40デニールの繊維を作製した。実施例1の場合と同じTPUポリマーおよび同じ架橋剤を使用し、同じ溶融紡糸処理を用いた。唯一の違いは、従来技術による紡糸パックアセンブリの代わりに上記例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリを使用したことであった。120時間連続させた後で、紡糸パック内の圧力は、初期圧力よりも9.5%しか高くならなかった。材料がすべて消費されたので、120時間後に運転を停止した。
【0076】
比較例1および実施例2で行った繊維の物理的な性質の試験から、実施例2で作製した繊維の方が100%伸び率での弾性率が低いことがわかった。これは、繊維の出口が紡糸パックアセンブリから引っ込んでおり、それによって、繊維がよりゆっくり冷却されたことを示しており、そのため、編み作業および織り作業での繊維の性質が改善される。
【0077】
これらの実施例から、上記例示的な実施形態の紡糸パックアセンブリは、TPUなどの弾性繊維を作製する際に重要な利点を有することがわかる。過剰な圧力上昇による繊維の破断が発生するまでの稼働時間をかなり長くすることによって、溶融紡糸処理の経済性がより高くなり、繊維の破断の結果として生じる廃棄材料の無駄が少なくなる。TPU繊維の性質も改善され、その結果、繊維を編み、織って衣料品にする作業が良好に行われる。
【0078】
溶融紡糸TPU繊維は、様々なデニールのものを作製することができる。デニールは、当技術分野では繊維のサイズを指定する用語である。デニールは、長さ9000メートルの繊維の重量であり、単位はグラムである。作製される典型的な溶融紡糸TPU繊維のデニールサイズは、240未満、より典型的には10以上240未満であり、20〜40デニールが一般的なサイズである。
【0079】
弾性TPU繊維を使用して、編むか、または織ることによって、天然繊維または合成繊維などの他の繊維と組み合わせて、様々な衣料品が作製される。TPU繊維は様々な色に染めることができる。
【0080】
例示的な実施形態の溶融紡糸弾性TPU繊維は通常、編むか、または織ることによって、綿、ナイロン、またはポリエステルなどの他の繊維と組み合わせられて、衣料品を含めて様々な最終商品が作製される。最終用途における溶融紡糸弾性繊維の重量%は、所望の弾力性に応じて変えることができる。例えば、弾性溶融紡糸繊維は、編物では1〜8重量%、肌着では2〜5重量%、水着および運動着では8〜30重量%、ファンデーションでは10〜45重量%、医療用ホースでは35〜60重量%含まれており、残りの量は別のタイプの非弾性繊維である。
【0081】
上記例示的な紡糸パックアセンブリの構成例では、繊維はよりゆっくり冷却されるように生成され、それによって、100%伸び率での弾性率が小さくなることがわかった。このように弾性率が小さくなると、丸編みなどの繊維の編み作業をより良好に行うことができる。
【0082】
この例示的な紡糸パックアセンブリでは、ポリマーについては材料の流れの性質が改善され、それによって、繊維の破断などの問題が発生するまでの稼働時間を長くすることができる。
【0083】
特許法に従って、最良の形態および好ましい実施形態を記載してきたが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の範囲によって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−53505(P2010−53505A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281040(P2009−281040)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2008−547738(P2008−547738)の分割
【原出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(506347528)ルブリゾル アドバンスド マテリアルズ, インコーポレイテッド (74)
【Fターム(参考)】