説明

紡糸口金およびフィラメント糸の製造方法

【課題】マルチフィラメントを製造する際に、紡糸安定性に優れ、単糸間、糸条間における繊度斑が小さく、糸の太さ斑や強度・伸度等の品質良好な糸条を得るために顕著な効果を発揮する紡糸口金を提供すること。
【解決手段】ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする紡糸口金。
(1)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(2)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔が配設された上部板と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(3)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(4)前記上部板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸口金およびフィラメント糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やナイロン繊維等、ポリエステルやポリアミド等から構成されるフィラメント糸は、一般に溶融紡糸法、即ち、ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性のポリマを溶融させて紡糸パックに供給し、紡糸パックに装備された紡糸口金からフィラメント糸として紡出し、気流等により冷却、固化させた後、必要に応じ、集束や油剤付与等を施して、ローラ等で一旦引き取り、更に必要に応じ加熱ローラ等で延伸や熱処理等を行った後に、巻き取る等の過程を経て製造される。なお、上記した延伸や熱処理等は、紡糸口金から紡出されたフィラメント糸を、気流等により冷却、固化させた後に、加熱チューブ等を通過させて行う場合や、一旦引き取り、巻き取った後に別工程で行う場合もある。
【0003】
一方、アクリル繊維等、ポリアクリロニトリル等から構成されるフィラメント糸は、一般に溶液紡糸法、即ち、ポリアクリロニトリル等のポリマを溶媒に溶解させ、ポリマ溶液として紡糸パックに供給し、紡糸パックに装備された紡糸口金からフィラメント糸として凝固浴に紡出し、固化させた後、必要に応じ、水洗や延伸、乾燥、あるいは油剤付与等を施した後に、巻き取る等の過程を経て製造される。なお、紡糸口金からフィラメント糸を凝固浴に紡出させ、固化させる方法としては、上記の様に、フィラメント糸を、直接、凝固浴に紡出して固化させる方法と、紡糸口金からフィラメント糸を、一旦、気体中に紡出し、次いで、凝固浴を通過させて固化させる方法とが知られており、一般に、前者は湿式紡糸法、後者は乾湿式紡糸法と呼ばれている。
【0004】
また、溶液紡糸法には、ポリマを揮発性の溶媒に溶解させ、ポリマ溶液として紡糸パックに供給し、紡糸パックに装備された紡糸口金からフィラメント糸として加熱気体中に紡出し、溶媒を蒸発させることで固化させた後に、ローラ等で一旦引き取り、必要に応じて、延伸等を施した後に、巻き取る等の過程を経て、フィラメント糸を製造する方法もある。この方法は、一般に乾式紡糸法と呼ばれており、ポリウレタン繊維等にはこの方法が採用されている。
【0005】
なお、本明細書においては、以下、溶融紡糸法で使用する溶融したポリマと、溶液紡糸法で使用するポリマ溶媒に溶解したポリマ溶液を総称して、ポリマと呼ぶこととする。
【0006】
これら紡糸方法において、紡糸口金は、フィラメント糸の形状・太さ・重さを正確に計量し、安定的に紡出するための極めて重要な装置として、一般に認識されている。
【0007】
他方、従来から、フィラメント糸の製造においては、生産性向上を狙いに、高速化や多糸条化等の開発が多数行われてきた。例えば、溶融紡糸法の分野では、主としてポリエステル繊維を中心に高速化の開発が進められ、当初は紡糸速度が凡そ1000m/分代までの紡糸工程で低配向未延伸糸(以下UDY:Un Drawn Yarn)を得た後、別工程で延伸や実撚付与等を行い、配向の進行した延伸糸(FOY:Full Oriented Yarn)を得る手法が主流であったが、1970年代になると、巻取速度が凡そ5000m/分代まで紡糸と延伸を直結して延伸糸を1工程で得る紡糸直延伸(以下DSD:Direct Spin Draw)が開発された。また、紡糸速度が凡そ3000〜5000m/分代までの紡糸工程で部分配向糸(以下POY:Partially Oriented Yarn)を得て、別工程で延伸糸だけでなく、延伸と仮撚加工まで施した延伸仮撚加工糸(以下DTY:Draw Textured Yarn)を得ることができる合理的な手法が開発された。更に、延伸を必要としない紡糸速度が5000m/分代のOSY(One Step Yarn)が開発され、1980年代末には8000m/分代、1990年代には10000m/分代の紡糸巻取が実現されている。
【0008】
また、同様に、生産性向上を狙いとして、一つの紡糸口金から複数のフィラメント糸を紡出させる多糸条化の開発も盛んに行われてきた。
【0009】
一方、近年は、フィラメント糸に対するニーズが多様化し、様々な機能性を付与した特品フィラメント糸が数多く開発され、上市される様になった。例えば、衣料用分野では、ソフトな風合い等を付与する狙いで単糸細繊度化・多フィラメント化や、吸水・速乾性の向上や光沢感を変更する等の狙いで単糸異形断面化、また、鮮明性に優れた染色の実現等の新たな機能性付与の狙いでポリマを改質する等の改良が行われている。また、産業用分野では、同様に単糸細繊度化・多フィラメント化や単糸異形断面化の他、高強度化、高弾性化や、耐候性、難燃性等の新たな機能性付与を狙ったポリマの改質等の改良が行われている。更に最近は、上記した様な機能性を複数組み合わせて付与する試みも盛んに行われ始めている。
【0010】
しかしながら、上記した様な特品フィラメント糸は優れた機能性を有する高機能品種である一方、紡糸が極めて難しい難紡糸品種でもある。そのため、特に、特品フィラメント糸を、高い生産性の下、具体的には、高速、多糸条、あるいは、高速且つ多糸条で、製造することが極めて難しく、特品フィラメント糸の低コスト化、延いては、特品フィラメント糸の拡販や用途拡大の妨げとなってきた。
【0011】
この問題を、溶融紡糸法の分野で、フィラメント糸を単糸細繊度化・多フィラメント化した場合を一例に説明する。単糸細繊度化を行うと、フィラメント糸の各単糸は、紡糸口金の近傍で固化し易くなり、紡糸口金の近傍で所定の引取速度に到達する様になる。そのため、本発明者らの知見によれば、紡糸口金の近傍からフィラメント糸の各単糸廻りに大きな随伴流が形成される様になる。また、フィラメント糸製造の高速化を行うと、益々大きな随伴流が紡糸口金の近傍に形成される様になる。この結果、紡糸口金の近傍の気流の流れは極めて複雑化し、乱れ易くなる。そして、装置の寸法や冷却用の気流の不均一さ等が引き金となって、局所的に、冷却用の気流が、直接、フィラメント糸の各単糸によって紡糸口金の近傍に引き込まれる等して、局所的に紡糸口金が冷やされて、紡糸口金に大きな温度斑が形成される様になる。そして、これらの結果、フィラメント糸の各単糸を紡出する紡糸口金の各吐出孔においてポリマの吐出量に大きな斑が発生する様になり、これが多糸条化を行った場合には、紡糸口金から紡出される各フィラメント糸の間の大きな繊度斑に繋がり、大きな問題となっていた。
【0012】
また、この問題は、単糸異形断面化されたフィラメント糸や、改質されたポリマから構成されるフィラメント糸等においても、同様に大きな問題となる。例えば、単糸異形断面化されたフィラメント糸では、単糸の表面積や空気抵抗等が丸断面と比べて大きくなるため、フィラメント糸の各単糸は紡糸口金の近傍で固化し易い。また、単糸の表面積や空気抵抗等が丸断面と比べて大きくなることから、フィラメント糸の各単糸廻りに形成される随伴流の大きさも大きくなり易い。また、例えば、熱可塑性のポリマにおいて、ポリマの改質方法の一例として、共重合が挙げられるが、一般に共重合を行うと、分子構造が乱されるため、フィラメント糸の強度や伸度等が低くなり易い。そのため、多くの場合において、ポリマの溶融粘度を高くする対応が採られるが、そうすると、紡糸口金から紡出されたフィラメント糸の各単糸は紡糸口金の近傍で固化し易くなる。また、例えば、熱可塑性のポリマの中には、一般に広く活用されているポリエステルやポリアミド等と比べ、ガラス転移温度が高いものもあり、この様な特殊なポリマから構成されるフィラメント糸においては、フィラメント糸の各単糸は紡糸口金の極めて近傍で固化し易い。
【0013】
更に、上記した様な機能性を複数組み合わせる場合、例えば、単糸細繊度化・多フィラメント化と単糸異形断面化、あるいは単糸細繊度化・多フィラメント化とポリマの改質を組み合わせる等の場合には、これら問題は更に大きな問題となる。
【0014】
なお、生産性向上の手段としては、上記の通り、高速化や多糸条化等の手段が挙げられるが、例えば、溶融紡糸法の分野では、高速化を行うと、製造できるフィラメント糸の機能性のバリエーションの幅が狭くなり易いことが知られている。具体的に言えば、OSYのフィラメント糸よりも、UDYやPOY、あるいはDSDを用いて得たフィラメント糸の方が、機能性のバリエーションの幅が広くなり易いことが知られている。加えて、近年、溶融紡糸法の分野では、高密度織物等のフィラメント糸として、フィラメント糸自体の繊度を細繊度化するニーズも高まっており、一つの紡糸口金からのフィラメント糸の生産量を維持した上で、特品フィラメント糸を複数本同時に製造できる多糸条化の重要性は、今後、益々高まるものと考えられる。
この様に、上記した様な特品フィラメント糸を、高い生産性の下、特に、多糸条で製造するにおいて、紡糸口金の温度斑を抑制し、紡糸口金から紡出される各フィラメント糸の間の繊度斑を抑制することは、極めて重要な要素であり、従来から、様々な提案が行われている。
【0015】
なお、装置の寸法や冷却用の気流の不均一さ等を、大量生産を前提とした、フィラメント糸の製造方法において是正することは極めて難しく、現実味がない。
【0016】
例えば、特許文献1では、図16に示したような紡糸口金が開示されている。図16は、特許文献1の紡糸口金の正面図である。図中、20は吐出孔、3は保温カラーをそれぞれ示す。以下、各図面において、説明済みの図に対応する部材が存在する場合は、同じ参照符号を用いて説明を省略することがある。特許文献1は、吐出孔20の下に、吐出孔20の口径よりも大きな外径を有する保温カラー3を設けることで、冷却装置からの冷却風が直接、吐出孔20の当たらず、口金面内の温度分布を均一に保つことができると記載されている。また、冷却装置の冷却風吹出し側から遠ざかるほど、保温カラー3の長さを短くすることで、冷却風吹出し側と反冷却風吹出し側との繊維物性差を著しく低減させる新規な紡糸口金が提案されている。この保温カラー3と吐出孔20を独立に構成してもよく、また、保温カラー3を伝熱の悪い金属以外の材質とすることが推奨されている。この手法を用いると、冷却装置と吐出孔20を有する紡糸口金との距離を短くしても、口金面内の温度分布を均一に保つことができ、充分な品質の糸を得ることができると記載されている。
【0017】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、吐出孔20と保温カラー3に段差を有しているため、長時間連続して紡糸を続け、吐出孔20の周りにモノマやオリゴマといった付着物が堆積した際には、それを除去する口金清掃が困難となり、糸条の曲がり、ピクツキ、糸切れ等が多発し、最悪の場合は、紡糸口金を変更しなければ、生産不可能となり、生産性が悪化する場合がある。また、本発明者らの知見によれば、保温カラー3を備えているために、口金面が凹部のような形状となることから、気流乱れ、糸揺れが発生し、糸太さ斑や、強度、伸度等の物性斑が悪化する場合がある。
【0018】
また、図17、図18に示したような溶融紡糸方法が特許文献2で開示されている。図17は、特許文献2の紡糸口金の概略図、図18は、図17の部分拡大図である。図中、1は紡糸口金、4は導入部、5はオリフィス部をそれぞれ示す。特許文献2の紡糸口金1は、複数の導入部4と、それに連結したオリフィス部5から構成されており、口金面上の温度分布は容認し、口金面上の位置によりオリフィス部5の長さを調整することで、吐出孔を通過する際の抵抗を一定にし、各吐出孔からの吐出量を均一化できる方法が記載されている。
【0019】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、紡糸条件により、口金直下の気流等が逐次変化するため、条件が変更される毎に、それに対応した紡糸口金を準備する必要がある。そのため、設備費が高額となる問題がある。また、本発明者らの知見によれば、口金面内の温度差が大きくなると、オリフィス部5の長さの調整では充分に対応し難い場合がある。また、ポリマ種類、品種、紡糸機の限界圧力に加えて、口金面温度分布を考慮して、オリフィス部5の長さや、孔径を決定せねばならず、設計が極めて煩雑となる。更に、口金面温度分布を考慮した設計を行うには、紡糸口金を試作して、紡糸評価を幾つか繰り返す必要があるが、これら期間や手間、費用が必要となり、この点においても設備費が過大となる問題がある。
【0020】
また、図19、図20に示したような紡糸口金が特許文献3で開示されている。図19は、特許文献3の紡糸口金の平面図であり、図20は、図19の部分縦断面図である。図中、6は押え板、7は電熱線、8は電熱線埋設溝、9は温度コントローラ、10は温度センサー、11は吐出孔始端部、21は導入孔をそれぞれ示す。特許文献3の紡糸口金は、押え板6、電熱線7、温度コントローラ9、温度センサー10、吐出孔20、導入孔21から構成されており、吐出孔20に対応して、多数の等間隔を隔有する直線状、又は曲線状に形成した電熱線7を、吐出孔始端部11付近に埋設すると共に、温度コントローラ9により、電熱線7を加熱することにより、口金面温度を均一化することができると記載されている。
【0021】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、口金面の放熱は、口金面の位置により異なるため、吐出孔20に対して、電熱線7を等間隔に配設するだけでは、口金面温度の不均一な状態は改善されない場合がある。また、口金面の放熱量分布に合わせて、温度コントローラ9を用いて、電熱線7の発熱量を調整するのでは、装置構成が複雑となり過ぎる問題がある。また、300℃程度の高温部に電熱線7や、温度コントローラ9を設置する必要があり、熱への対応を考慮した設計が必要となる他、メンテナス頻度が過大となったり、作業性が悪化したり、メンテナンス性が悪化する問題がある。また、吐出孔間に電熱線7を配設する構造であることから、吐出孔間ピッチが制約され、吐出孔20を高密度に配置することが難しくなり、生産性が悪化する問題がある。また、紡糸口金に加えて、電熱線7や、温度コントローラ9を必要とする構成であるため、設備費が高額となる問題がある。
【0022】
また、特許文献3と類似した構造として、図21、図22に示したような紡糸口金が特許文献4で開示されている。図21は、特許文献4の紡糸口金の正面図であり、図22は、図21のI−I断面図である。図中、2は紡糸孔、12は積層部材、13はヒータ部材、14はリード線をそれぞれ示す。特許文献4の紡糸口金は、紡糸孔2を有する積層部材12、ヒータ部材13、およびリード線14から構成されており、積層部材12を金属よりも熱容量が大きく、且つ熱伝導率が小さいセラミックス(例えば、アルミナが特許文献4に記載されている)とすることで、紡糸口金の外周部と中央部での温度分布の勾配が小さくなり、また、ヒータ部材13を加熱しても、積層部材12が急激に温度変化することは無く、その結果、紡糸口金全体が常に均一温度に保持できると記載されている。
【0023】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、ヒータ部材13を設置していることから、特許文献3と同様に、メンテナンス性が悪く、また、紡糸孔2の間にヒータ部材13を配設するため、紡糸孔間ピッチが制約され、紡糸孔2を密に配設することが難しくなり、生産性が悪化し、加えて、ヒータ部材13を埋設することから、設置費用が高額となる場合がある。また、本発明者らの知見によれば、紡糸孔2をセラミックスの積層部材12とした構造では、紡糸孔2の孔径、および孔長の寸法精度がステンレス鋼に比べて劣るため、寸法精度ばらつきにより、各吐出孔間にてポリマの吐出量不均一、つまりはポリマ吐出流量斑が発生する場合がある。また、セラミックスの積層構造であることから、紡糸孔2に段差が生じ易く、段差位置が基点となって、ポリマの異常滞留が生じやすくなる場合がある。加えて、ポリエステルやポリアミドといった汎用的ポリマでは、問題とならなかったが、溶融粘度の温度の依存性の高いポリマに対しては、ポリマ吐出流量斑がより顕著になる場合がある。
【0024】
一方、紡糸口金のもう一つ重要な機能として、ポリマを安定して吐出する機能が挙げられる。しかしながら、実際の溶融紡糸では、紡糸口金は300℃程度の高温に長時間晒され、ポリマに含まれる添加物や、モノマ、オリゴマが吐出孔の周りに付着し、堆積され、口金面の汚れとなって、ポリマの吐出を阻害して、吐出ポリマの曲がりや、糸切れを引き起こし、製糸性を不安定にすることが知られている。
【0025】
そこで、この口金面汚れを低減するために、図23に示したような紡糸口金が特許文献5で開示されている。図23は、特許文献5の紡糸口金の部分縦断面図である。図中、15は上部口金、16は下部口金、17は導入・案内孔部、18セラミックス製ノズルチップ18をそれぞれ示す。
【0026】
特許文献5の紡糸口金は、吐出孔20を有したセラミックス製ノズルチップ18が埋め込まれた下部口金16と、導入・案内孔部17を有する上部口金15から構成されており、下部口金16をセラミックス化することも提案されている。特許文献5によると、金属製口金における吐出孔20の孔配置密度を維持したまま、吐出孔20に、耐摩耗性、耐熱性、離型性に優れたセラミックスを配置していることから、目やに等の堆積物の発生を抑え、紡糸口金の生産周期が大幅に延長できると記載されている。
【0027】
しかしながら、本発明者らの知見によると、セラミックス口金としても口金面汚れの発生が皆無となる訳ではなく、長時間紡糸を続けると発生は避けられない。そこで、吐出孔20の周りに汚れが発生すると、シリコン等の離型剤を口金面に吹き付け、ヘラ等の清掃治具で掻き取る、口金清掃が必要となってくる。一般に、セラミックスはステンレス鋼と比べて硬度は優れるものの、靭性に劣ることが知られている。そのため、口金清掃時のヘラ等による軽度な衝撃にて、吐出孔20に割れ、欠け等が発生し、紡糸口金自体の寿命が短くなる場合がある。また、口金清掃の際に、口金面にシリコンを吹き付けると、口金面温度が急激に低下する。そのため、口金内部に、急激な温度差による内部応力が発生し、ひび、欠けが発生する場合もある。また、吐出孔20の孔径、孔長の加工精度がステンレス鋼といった金属製部材と比較して劣るため、寸法精度ばらつきにより、各吐出孔での吐出量の不均一が発生する場合もある。
【0028】
また、本発明者らの知見によると、前述の特許文献4においても、口金面にセラミックス焼結体を採用していることから、特許文献5と同様に、口金清掃にて割れ、欠けが発生する場合がある。
【0029】
また、口金面に口金面汚れが付着しにくい表面改質技術として、特許文献6では、金属製口金にセラミックスをコーティングすることが提案されているが、特許文献5と同様に、口金清掃にて割れ、欠けが発生する場合がある。
【0030】
以上の様に、紡糸口金の温度斑を抑制し、紡糸口金から紡出される各フィラメント糸の間の繊度斑を抑制することは、フィラメント糸製造の生産性向上の上で、極めて重要な要素であるが、上記した様に、本発明者らの知見によれば、種々の問題が残されており、フィラメント糸製造の生産性向上の妨げとなってきた。従って、この繊度斑の抑制に纏わる問題を解決することは、工業上、重要な意味を有するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2001−303355号公報
【特許文献2】特開平2−33325号公報
【特許文献3】特開昭60−139821号公報
【特許文献4】特開昭58−136833号公報
【特許文献5】特開2000−303249号公報
【特許文献6】特開平2−74620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明の目的は、様々なポリマ種類、品種に対応でき、紡糸口金の製作費が安価であり、メンテナンス性、耐久性が高く、吐出孔に異物が付着しても容易に除去できると共に、紡糸安定性に優れ、単糸間、糸条間における繊度斑が小さく、糸の太さ斑や強度・伸度等の品質良好な糸条を得るために顕著な効果を発揮する紡糸口金およびフィラメント糸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記目的を達成するため、本発明によれば、ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(1)〜(4)の要件を満足する紡糸口金が提供される。
(1)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(2)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔が配設された上部板と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(3)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(4)前記上部板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【0034】
また、本発明の別の形態によれば、ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(5)〜(8)の要件を満足する紡糸口金が提供される。
(5)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(6)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔を形成する外周層と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(7)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(8)前記外周層の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【0035】
また、本発明の別の形態によれば、ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(9)〜(12)の要件を満足する紡糸口金が提供される。
(9)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設された中間導入孔と、前記中間導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(10)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔が配設された上部板と、前記中間導入孔が配設された中間板と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(11)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(12)前記中間板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【0036】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記導入孔と前記吐出孔を連結する中間導入孔を有した中間板が設けられ、前記中間板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さい紡糸口金が提供される。
【0037】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記中間板の熱伝導率を小さくする手段として、前記中間板に空隙を設けた紡糸口金が提供される。
【0038】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向の一部に計量孔が配設された紡糸口金が提供される。
【0039】
また、本発明の好ましい形態によれば、上記のいずれかの紡糸口金を用いてマルチフィラメント糸を製造するフィラメント糸の製造方法が提供される。
【0040】
本発明において、「ポリマの紡出経路方向」とは、ポリマが通過する流路の主軸方向をいう。
【発明の効果】
【0041】
本発明の紡糸口金およびマルチフィラメント糸の製造方法によれば、様々なポリマ種類、品種に対応でき、紡糸口金のメンテナンス性、耐久性が高く、吐出孔に異物が付着しても容易に除去できると共に、紡糸安定性に優れ、単糸間、糸条間における繊度斑が小さく、糸の太さ斑や強度・伸度等の品質良好な糸条を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の概略断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に用いられる紡糸口金の概略断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に用いられる紡糸口金の概略断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図13】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金の他の好ましい形態の概略断面図である。
【図14】本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金と、冷却装置周辺の概略断面図である。
【図15】本発明に採用された温度が異なる2種類のポリマの剪断速度と溶融粘度の関係を表したものである。
【図16】従来例の紡糸口金の正面図である。
【図17】従来例の紡糸口金の概略断面図である。
【図18】図17の拡大図である。
【図19】従来例の紡糸口金の正面図である。
【図20】図19の部分縦断面図である。
【図21】従来例の紡糸口金の正面図である。
【図22】図21のI−I断面図である。
【図23】従来例の紡糸口金の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の紡糸口金およびフィラメント糸の製造方法の最良の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の重要な実施形態に用いられる紡糸口金の平面図であり、図2は、図1の概略断面図であり、図5、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13は、本発明の第1の実施形態に用いられる他の好ましい形態の概略断面図であり、図14は、本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金と、冷却装置周辺の概略断面図である。本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金1は、図14に示すように、紡糸パック26に、多孔板19、パッキン29等と共に装備され、スピンブロック27の中に固定され、紡糸口金1の直下に冷却装置28が構成される。そこで、紡糸パック26に導かれたポリマは、多孔板19、紡糸口金1を通過して、吐出孔20の口金下面32から吐出された後、冷却装置28により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、マルチフィラメン糸として巻き取られる。なお、図14では、蒸気付与装置35により蒸気を付与し、口金下面32をシールする構成を採用している。
【0044】
本発明の第1の実施形態に用いられる紡糸口金1は、図2に示すように、円筒等の柱状流路からなる導入孔21と、導入孔21が配設された上部板22と、前記導入孔21のポリマの紡出経路方向の下流側に、口金下面32に面して穿孔された円筒等の柱状流路からなる吐出孔20と、吐出孔20が配設された下部板23から構成され、導入孔21のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、吐出孔20のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きく、且つ、上部板22の部材の熱伝導率を、下部板23の部材の熱伝導率より小さくした特徴を持つ。その場合、上部板22と下部板23は、位置決めピンにより、導入孔21と吐出孔20の中心位置(芯)が合うように位置決めを行い、重ね合わせた後に、ネジ、ボルト等で固定してもよいが、熱圧着により金属接合させてもよい。また、上部板22に、導入孔21と吐出孔20を連通させるための円錐台等の絞り形状の流路を構成するのが好適である。
【0045】
まず始めに、上述の第1の実施形態の構成を取ることにより、紡糸口金1の口金下面32から吐出されるポリマの吐出流量斑と、それに付随する口金面清掃時の問題の両方を同時に解消できる原理を説明する。ポリマの吐出流量斑の発生要因として、一つは、吐出孔の孔径、孔長等の寸法精度悪化に起因するものと、もう一つは、口金面に発生した温度斑が引き起こすポリマの溶融粘度斑に起因するものが挙げられる。なお、前者は、近年、機械加工の精度アップが図られ、吐出孔の寸法精度が向上しており、影響は小さくなっている。従って、口金面の温度斑起因によるポリマ吐出流量斑を抑制し、それに起因する各単糸、各糸条間の繊度斑を抑制することが重要である。
【0046】
図15は、本実施形態に用いられるポリマの異なる温度における剪断速度と溶融粘度の関係を表したものである。なお、この関係は、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステルといった汎用ポリマにも同様に当てはまる。一般的に、ポリマの溶融粘度は、温度と剪断速度に強く依存しており、温度の高い方が、溶融粘度が低く、温度の低い方が、溶融粘度が高くなる。また、剪断速度の低い方が、粘度が高く、剪断速度が大きくなるに従い、溶融粘度が小さくなる。そこで、低剪断領域における温度差ΔTでの溶融粘度差ΔηLと、高剪断領域における温度差ΔTでの溶融粘度差ΔηHを比較すると、ΔηL>ΔηHとなる。つまり、低剪断領域では、温度差による溶融粘度差は大きいが、高剪断領域では、温度差による溶融粘度差が小さくなる傾向にある。本発明は、この特徴に着目し、考案したものである。
【0047】
本発明者らは、従来の技術では、何の配慮もされていなかった、紡糸口金の清掃性を高めつつ、ポリマの吐出流量斑を抑制する技術を見出すに至った。即ち、図2に示すように、紡糸口金1を低剪断速度の部分と高剪断速度の部分と(つまり、ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が大きい部分と小さい部分と)で、上部板22、下部板23に2分割し、剪断速度が小さく、温度差によってポリマの溶融粘度差の変化が大きくなり易い導入孔21の部分に温度斑が伝播し難くなるように、上部板22の熱伝導率を小さくした。これにより、温度斑が導入孔21に伝播し難くなるため、口金下面32の温度斑によるポリマの吐出流量斑を大きく抑制することができる。
【0048】
また、本発明の第1の実施形態は、上記温度斑の問題に付随して起こりがちな、口金下面32の清掃の問題に関しても解消できるものである。つまり、上記温度斑を解決するには、断熱性の優れた材質、例えば、セラミックス等を紡糸口金1に採用することが好ましいが、往々にして、そのような材質は、断熱性に優れるものの、靭性が劣るため、割れたり、欠けたりし易いものが多い。そのため、背景技術で記載したように、口金下面32の清掃には耐えられず、吐出孔20付近に割れ、欠けが発生する問題があった。
【0049】
それに対して、本発明の第1の実施形態では、上部板22と下部板23に分割しており、特に、ポリマの剪断速度が大きく、口金面等の温度斑の影響で、ポリマの溶融粘度の差が大きくなりにくい下部板23に熱伝導率が比較的大きく、高強度であり、耐食性、靭性の優れた材質、例えば、一般的に用いられるステンレス等の鋼材を利用できるので、口金下面32の清掃時に割れや欠けを起こすことがない。また、口金面等の温度斑の影響で、ポリマの溶融粘度差が大きくなりやすい上部板22に、熱伝導率の小さい、断熱性の優れた材質、例えば、セラミックスを利用できるので、ポリマの吐出流量斑を大きく抑制できる。従って、本発明は、ポリマの吐出流量斑と、それに付随する口金面清掃時の問題の両方を同時に解消できるものである。
【0050】
更には、口金下面32を面一定、すなわち平滑に構成できることから、紡糸口金1の直下における気流乱れや、糸揺れ等の発生が防止でき、紡糸安定性が向上し、糸太さ斑や、強度、伸度等の物性斑を低減することができる。
【0051】
また、吐出孔20は、ポリマを口金下面32から吐出する役割に加えて、ポリマを計量する役割を担っており、孔径、孔長の寸法精度がポリマ吐出量斑に直接影響を及ぼすため、極めて厳しい寸法精度が要求される。本実施形態では、この精度が要求される吐出孔20を穿孔するために、安価で切削性が良く、セラミックスと比較して、加工精度が1〜2桁ほど優れたステンレス鋼を利用できる利点を有する。
【0052】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する他の実施形態を図9、図10、図11を用いて説明する。図9に示すように、下部板23に、吐出孔20と導入孔21を連通させる円錐台等の絞り形状の流路が構成されていてもよい。また、図10に示すように、上部板22に、導入孔21と吐出孔20を連通させる円錐台等の絞り形状の流路と、吐出孔20のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積と等しい断面積を有する円筒等の柱状流路を連結した流路が構成されていてもよく、あるいは、円錐台等の絞り形状の流路と円筒等の柱状流路を複数回連結した流路が構成されていてもよい。また、図11に示すように、下部板23に、吐出孔20と導入孔21を連通させる円錐台等の絞り形状の流路と、導入孔21のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積と等しい断面積を有する円筒等の柱状流路を連結した流路が構成されていてもよく、あるいは、円錐台等の絞り形状の流路と円筒等の柱状流路を複数回連結した流路が構成されていてもよい。その場合、円錐台状の絞り形状の流路を構成することで、ポリマの異常滞留を極力抑制することができる。ここで、絞り形状の流路の広がり角度を大きくすると、デッドスペースが生じ、ポリマが滞留し易くなり、また反対に、広がり角度を小さくすると、ポリマの異常滞留は抑えられるが、絞り形状の流路長が長くなり、結果として、紡糸口金1全体が大きくなるため、広がり角度を30〜120度範囲で適宜調整するのが好ましい。また、図11の実施形態では、上部板22と下部板23の合わせ面において、比較的孔径が大きな導入孔21となることから、上部板22と下部板23の芯合わせが容易となり芯ズレが発生し難くなる。
【0053】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する他の実施形態を、図8を用いて説明する。図8に示すように、導入孔21のポリマの紡出経路方向の一部において、導入孔21より孔径を小さくした計量孔31が配設された構成であってもよい。その場合、ポリマを計量している吐出孔20に加えて、導入孔21の一部に計量孔31を配設することで、吐出孔20より吐出されるポリマの計量性が向上し、ポリマの吐出流量斑を抑制することができる。
【0054】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する他の実施形態を、図13を用いて説明する。図13に示すように、上部板22のポリマの紡出経路方向の上流側に、下部板23と同じ熱伝導率を持つ導入孔21を連続して配設し、導入孔21のポリマの紡出経路方向の一部において、導入孔21より孔径を小さくした計量孔31が配設された構成であってもよい。その場合、ポリマを計量している吐出孔20に加えて、計量孔31を配設することで、吐出孔20より吐出されるポリマの計量性が向上することに加えて、計量孔31を、口金下面32から遠ざけることで、口金下面32の温度斑影響を低減することができ、ポリマの吐出流量斑を抑制することができる。
【0055】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果を有する他の実施形態を、図12を用いて説明する。図12に示すように、一つの導入孔21に対して、複数の吐出孔20が配設された構成であってもよく、吐出孔20の個数に限定されない。その場合、導入孔21のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、導入孔21に連結される全ての吐出孔20のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積の合計より大きくなるように構成される。一つの導入孔21に対して、複数の吐出孔20を配設することにより、口金下面32において、吐出孔20を高密度に配置できる。
【0056】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する他の実施形態を、図5を用いて説明する。図5に示すように、上部板22と下部板23との間に、導入孔21と吐出孔20を連結する中間導入孔25と、中間導入孔25が配設された中間板24が構成され、中間板24の部材の熱伝導率を、下部板23の部材の熱伝導率より小さくした構成であってもよい。その場合、下部板23での温度斑が上部板22へ伝導されるのを抑制し、その結果、上部板22が均温化され、ポリマの吐出流量斑を抑制することができる。また、上部板22と下部板23を熱伝導率の異なる材質を用いる場合、各部材の線膨張係数が異なるために、高温時には、導入孔21と吐出孔20の位置にズレが生じ易くなるため、上部板22と下部板23の中間的な線膨張係数となる中間板24を配設することで、位置ズレを緩和させることができる。また、中間板24は、上部板22の下面(口金上面33とは反対側、中間板24側の面)、または下部板23の上面(口金下面32とは反対側、中間板24側の面)、もしくは上部板22の下面と、下部板23の上面の両面に熱伝導率の小さい液体をコーティングしてもよく、また、物理的蒸着、化学的蒸着法を用いて気相コーティングしてもよい。また、中間導入孔25は、導入孔21と吐出孔20を連結させる円錐台等の絞り形状の流路にすることがポリマの異常滞留抑制のために好適であるが、導入孔21とポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が等しい円筒等の柱状流路でもよく、吐出孔20とポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が等しい円筒等の柱状流路でもよい。
【0057】
また、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する実施形態を、図7を用いて説明する。図7に示すように、導入孔21と吐出孔20を連結する中間導入孔25と、中間導入孔25が配設された中間板24に加えて、熱伝導率を小さくする手段として、上部板22と下部板23の間に空気層30が配設された構成でもよい。空気層30を設けることで、口金下面32における温度斑が下部板23から上部板22へ伝熱するのを抑制できるため、上部板23が均温化され、ポリマの吐出流量斑が抑制できる。また、空気層30には、常圧の空気を充満してもよいが、真空にすることで断熱性をより強化できる。更には、熱伝導率の低い気体として、アルゴン、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニアを充満させることで断熱性を強化することができる。
【0058】
次に、図3に示したように、本発明の第1の実施形態と同様な効果を有し、異なる実施形態として、本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に用いられる紡糸口金1の概略断面図であり、円筒等の柱状流路からなる導入孔21と、導入孔21が形成された外周層34と、導入孔21のポリマの紡出経路方向の下流側に、口金下面32に面して穿孔された円筒等の柱状流路からなる吐出孔20と、吐出孔20が配設された下部板23から構成され、導入孔21のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、吐出孔20のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きく、且つ、外周層34の部材の熱伝導率が、下部板23の部材の熱伝導率より小さくした特徴を持つ。その場合、紡糸口金1の外周層34のみを熱伝導率の低い材質とすることができ、効率的な断熱性能が得られ、温度斑を抑制することができる。また、外周層34を紡糸口金1のピース部品として嵌合できる構造とすることで、容易に取付け、取外しができ、ポリマ種類、品種に応じて外周層34の交換が可能となり、設備費を安価にすることができる。また、外周層34の熱伝導率を小さくする別の方法としては、熱伝導率の小さい液体を導入孔21の流路側面にコーティングしてもよく、また、物理的蒸着、化学的蒸着法を用いて気相コーティングしてもよい。
【0059】
また、本発明の第2の実施形態と同様な効果を有しつつ、異なる効果も有する他の実施形態を、図6を用いて説明する。前述の第1の実施形態と同様に、中間導入孔25と、中間板24を構成とすることで、下部板23での温度斑が外周層34へ伝導されるのを抑制し、外周層34が均温化され、ポリマの吐出流量斑を抑制することができる。
【0060】
次に、図4に示したように、本発明の第1の実施形態、第2の実施形態と同様な効果を有し、異なる実施形態として、本発明の第3の実施形態について説明する。図4は、本発明の第3の実施形態に用いられる紡糸口金1の概略断面図であり、円筒等の柱状流路からなる導入孔21と、導入孔21が配設された上部板22と、導入孔21のポリマの紡出経路方向の下流側に配設された中間導入孔25と、中間導入孔25が配設された中間板24と、中間導入孔25のポリマの紡出経路方向の下流側に、口金下面32に面して穿孔された円筒等の柱状流路からなる吐出孔20と、吐出孔20が配設された下部板23から構成され、導入孔21のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、吐出孔20のポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きく、且つ、中間板24の部材の熱伝導率を、下部板23の部材の熱伝導率より小さくした特徴を持つ。前述の第1の実施形態と同様に、中間導入孔25と、中間板24を構成とすることで、下部板23での温度斑が上部板22へ伝導されるのを抑制し、上部板22が均温化され、ポリマ吐出流量斑を抑制することができる。また、紡糸口金1を、上部板22と下部板23に2分割し、その間に中間板24を挟み込む、またはコーティングすることで、ポリマの吐出流量斑を抑制できることから、設備費を比較的安価とすることができる。
【0061】
次に、図2に示した本発明の第1の実施形態と、図3に示した本発明の第2の実施形態と、図4に示した本発明の第3の実施形態の紡糸口金1に共通した各部材、各部材の形状について詳細に説明する。
【0062】
本発明の第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の紡糸口金1は、円形状に限定されず、四角形であってもよく、多角形であってもよい。また、紡糸口金1における吐出孔20の配列は、マルチフィラメント糸の本数、糸条数、冷却装置28に応じて、適宜決定すればよい。冷却装置28として、外周から内周に冷却風を吹き付ける環状冷却装置では、吐出孔20を一列、もしくは複数列に渡り環状に配列するのがよく、また、冷却風を一方向から吹き付ける一方向冷却装置では、吐出孔20を千鳥に配列するのがよい。その場合には、冷却装置28から吹き付けられた気流が糸間、糸条間を通過し易くなり、糸斑を抑制し、糸物性斑を低減し、更には糸切れを低減させることができる。
【0063】
本発明の第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の吐出孔20、および導入孔21は、ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面は丸形状に限定されず、異形断面形状や中空断面状であってもよい。
【0064】
また、本発明の第1の実施形態、第2の実施形態の上部板22、外周層34の材質は、熱伝導率の小さいセラミックスの酸化ジルコニウム(熱伝導率3W/m・K)が好適であるが、下部板23に対して、熱伝導率が小さければよく、例えば、上部板22、外周層34の材質として、熱伝導率が3〜15W/m・Kの範囲となるインコネル600、インコネルX750、インコロイ800、ハステロイX、ステライト6B、ニモニック80A、ニクロム、超鋼合金(化学組成式:34WC−60Tic−6Co)、6Al−4V合金等であってもよい。
【0065】
また、本発明の第3の実施形態の上部板22の材質は、高強度であり、耐食性に優れたSUS630(熱処理H1075)が最も好適であるが、他のステンレス鋼のSUS420J2であってもよく、SUS304であってもよく、炭素鋼であってもよい。(ステンレス鋼の熱伝導率範囲:15〜30W/m・K)更に、上述の通り、熱伝導率の小さいセラミックスの酸化ジルコニウムでもよく、下部板23に対して、熱伝導率が小さければよく、例えば、上部板22の材質として、インコネル600、インコネルX750、インコロイ800、ハステロイX、ステライト6B、ニモニック80A、ニクロム、超鋼合金(化学組成:34WC−60Tic−6Co)、6Al−4V合金等であってもよい。
【0066】
また、上述の通り、本発明の第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態の下部板23の材質は、高強度であり、耐食性、靭性に優れたSUS630(熱処理H1075)が最も好適であるが、他のステンレス鋼のSUS420J2であってもよく、SUS304であってもよく、炭素鋼等であってもよい。
【0067】
また、上述の通り、本発明に用いられる紡糸口金1の中間板24の材質は、熱伝導率の小さいセラミックスの酸化ジルコニウムが好適であるが、下部板23に対して、熱伝導率が小さければよく、例えば、中間板24の材質として、インコネル600、インコネルX750、インコロイ800、ハステロイX、ステライト6B、ニモニック80A、ニクロム、超鋼合金(化学組成式:34WC−60Tic−6Co)、6Al−4V合金等であってもよい。
【0068】
本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、紡糸口金およびフィラメント糸の製造方法によって得られる全てのマルチフィラメント糸に好適である。従って、マルチフィラメント糸を構成するポリマにより特に限られるものではない。例えば、本発明に好適なマルチフィラメント糸を構成するポリマの一例を挙げれば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々が挙げられる。
【0069】
更に、上記したポリマに、製糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤が含有されていても良く、共重合が含まれても良い。
【0070】
また、本発明に用いられるポリマは、単一成分で構成しても、複数成分で構成してもよく、複数成分の場合には、例えば、芯鞘、サイドバイサイド等の構成が挙げられる。また、マルチフィラメント糸の断面形状は、丸、三角、扁平等の異形状や中空であってもよい。
【0071】
本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、紡糸口金、およびマルチフィラメント糸の製造方法によって得られる全てのマルチフィラメント糸に好適である。従って、マルチフィラメント糸の単糸繊度により特に限られるものではない。単糸繊度が小さければ小さいほど、従来の技術との差異が明確となる。
【0072】
また、マルチフィラメント糸の単糸数により特に限られるものではなく、マルチフィラメント糸の単糸数が多ければ多いほど、従来の技術との差異が明確となる。更には、マルチフィラメント糸の糸条数により特に限られるものでも無く、1糸条であってもよく、2糸条以上の多糸条であってもよい。多糸条のマルチフィラメント糸を製造する場合は、口金下面32に吐出孔20が穿孔されている穿孔部と、吐出孔20が穿孔されていない非穿孔部が設けられ、穿孔部と非穿孔部では、冷却装置28から吹き付けられる気流の通過量が異なるため、口金面温度差が発生し易くなるため、本発明の紡糸口金1を用いることにより、従来との差異がより明確となる。
【0073】
また、本発明の紡糸口金1を用いてマルチフィラメント糸を製造する場合は、ポリマを紡糸口金1から吐出し、冷却装置28の吹き出された冷却風により冷却され、引き取った後一旦巻き取り、ついで延伸または延伸仮撚してもよく、また延伸せずに巻き取ってもよい。
【実施例】
【0074】
実施例中に使用した各特性値は以下の測定方法により求めた。
(1)繊度変動値CV(%)、繊度斑:
マルチフィラメント糸の糸条の繊度測定は、JIS L 1013−1999 8.3.1繊度 正量繊度A法に準じて測定を行い、次式より求めた繊度変動率CV(%)に対して、「1.0未満」を◎、「1.0以上1.5未満」を○、「1.5以上2.0未満」を△、「2.0以上」を×とし、繊度斑として評価した。
【0075】
繊度変動率CV(%)=(糸条繊度の標準偏差)/(糸条繊度の算術平均)×100
(2)糸切れ:
紡糸するに際し、試作量2トンを採取し、この間の糸切れ回数を測定し、「1.5回未満」を◎、「1.5回以上3回未満」を○、「3回以上5回未満」を△、「5回以上」を×として評価した。
(3)極限粘度[η]
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(4)98%硫酸相対粘度[ηr]
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下速度(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃の落下速度(T2)を測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下記式により算出する。測定温度は25℃とする。
【0076】
[ηr]=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}
[実施例1]
ナイロン6(98%硫酸相対粘度[ηr]2.8のチップ、溶融温度260℃)のポリマを溶融し、本発明の第1の実施形態の紡糸口金1より吐出後、蒸気噴出装置35により蒸気を口金下面32に吹き付け、冷却装置28により冷却し、その後、給油、交絡処理、熱延伸を行い、巻取ローラで4000m/分の速度で引き取り、マルチフィラメント糸を製造した。その際、紡糸口金1は、図2に示したように、上部板22の材質にセラミックスの酸化ジルコニウム、下部板23の材質にSUS630(熱処理H1075)を用いて、また、導入孔21の孔径φ1.5mm、吐出孔20の孔径φ0.17mmとし、吐出孔20を環状に配列した。上記の紡糸口金1を用いて、10dtex、19本のフィラメント糸、6糸条のポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は0.8%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは最良な結果、および得られた繊維の繊度斑は最良な結果を得た。
[実施例2]
実施例1と同等のポリマ、同等の繊度、糸条数で紡糸し、本発明の第2の実施形態の紡糸口金1を用いた実施例として、実施例2を説明する。紡糸口金1として、図3に示したように、導入孔21を形成する外周層34の材質にセラミックスの酸化ジルコニウム、下部板23の材質にSUS630(熱処理H1075)を用いて、また、導入孔21の孔径φ1.5mm、吐出孔20の孔径φ0.17mmとし、吐出孔20を環状に配列した。上記の紡糸口金1を用いて、ポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は1.2%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは最良な結果、および得られた繊維の繊度斑は良好な結果を得た。
[実施例3]
実施例1と同等のポリマ、同等の繊度、糸条数で紡糸し、本発明の第3の実施形態の紡糸口金1を用いた実施例として、実施例3を説明する。紡糸口金1として、図4に示したように、上部板22の材質にSUS630(熱処理H1075)、下部板23の材質にSUS630(熱処理H1075)、中間板24の材質にセラミックスの酸化ジルコニウムを用いて、また、導入孔21の孔径φ1.5mm、吐出孔20の孔径φ0.17mmとし、吐出孔20を環状に配列した。上記の紡糸口金1を用いて、ポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は1.4%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは最良な結果、および得られた繊維の繊度斑は良好な結果を得た。
[実施例4]
実施例3と同等のポリマ、同等の繊度、糸条数で紡糸し、本発明の第3の実施形態の紡糸口金1の上部板22の材質をセラミックスの酸化ジルコニウムに変更し、また、中間板24に空気層30を設けた実施例として、実施例4を説明する。紡糸口金1において、図7に示したように、上部板22の材質にセラミックスの酸化ジルコニウム、下部板23の材質にSUS630(熱処理H1075)、中間板24の材質にセラミックスの酸化ジルコニウムを用いて、また、導入孔21の孔径φ1.5mm、吐出孔20の孔径φ0.17mmとし、吐出孔20を環状に配列した。また、空気層30には、完全密閉された空間に、空気を充満した。上記の紡糸口金1を用いて、ポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は0.8%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは良好な結果、および得られた繊維の繊度斑は最良な結果を得た。
[実施例5]
実施例1と同等のポリマ、同等の繊度、糸条数で紡糸し、本発明の第1の実施形態の紡糸口金1の導入孔21の一部に計量孔31が配設された実施例として、実施例5を説明する。計量孔31の孔径φ0.17mmの紡糸口金1を用いて、ポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は0.7%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは最良な結果、および得られた繊維の繊度斑は最良な結果を得た。
[比較例1]
実施例1にて使用した紡糸口金1において、上部板22の材質をSUS630(熱処理H1075)に変更し、その他は、実施例1と同等の紡糸口金1を用いて、同等のポリマ、繊度、糸条数で紡糸し、ポリアミド繊維を製造した結果、繊度変動率は2.4%となった。表1に記載のとおり、紡糸の際の糸切れは悪化し、および得られた繊維の繊度斑が悪化した。また、比較例1の類似構造として、上部板22と下部板23が完全に結合され、一体構造となった紡糸口金においても、上記と同様の結果を得た。
[比較例2]
実施例1にて使用した紡糸口金1において、下部板23の材質をセラミックスの酸化ジルコニウムに変更し、その他は、実施例1と同等の紡糸口金1を用いて、同等のポリマ、繊度、糸条数で紡糸し、ポリアミド繊維を製造した結果、吐出孔20の孔径、孔長の加工精度ばらつき起因により、ポリマ吐出流量斑が発生し、繊度変動率は1.6%となった。表1に記載のとおり、得られた繊維の繊度斑は良好であったが、紡糸の際の糸切れは悪化した。また、比較例2の類似構造として、上部板22と下部板23が完全に結合され、一体構造となった紡糸口金においても、上記と同様の結果を得た。
[まとめ]
実施例1と比較例1の比較では、上部板22の材質をSUS630(熱処理H1075)からセラミックスの酸化ジルコニウムに変更することで、温度斑が導入孔21に伝播し難くなり、その結果、ポリマの吐出流量斑が低減され、繊度斑を抑制することができた。
【0077】
また、実施例1と比較例2の比較では、下部板23の材質をセラミックスの酸化ジルコニウムからSUS630(熱処理H1075)に変更することで、吐出孔20の孔径、孔長の加工精度が向上し、また、口金清掃時の割れ、かけ等の発生を抑制でき、その結果、ポリマの吐出流量斑が低減され、繊度斑を抑制することができた。
【0078】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、溶液紡糸法に用いられる紡糸口金およびマルチフィラメント糸の製造方法に限らず、湿式紡糸法や、乾湿式紡糸法に用いられる紡糸口金およびマルチフィラメント糸の製造方法にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0080】
1 紡糸口金
2 紡糸孔
3 保温カラー
4 導入部
5 オリフィス部
6 押え板
7 電熱線
8 電熱線埋設溝
9 温度コントローラ
10 温度センサー
11 吐出孔始端部
12 積層部材
13 ヒータ部材
14 リード線
15 上部口金
16 下部口金
17 導入・案内孔部
18 セラミックス製ノズルチップ
19 多孔板
20 吐出孔
21 導入孔
22 上部板
23 下部板
24 中間板
25 中間導入孔
26 紡糸パック
27 スピンブロック
28 冷却装置
29 パッキン
30 空気層
31 計量孔
32 口金下面
33 口金上面
34 外周層
35 蒸気付与装置
ΔηL 低剪断領域における温度差ΔTでの溶融粘度差
ΔηH 高剪断領域における温度差ΔTでの溶融粘度差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする紡糸口金。
(1)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(2)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔が配設された上部板と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(3)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(4)前記上部板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【請求項2】
ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする紡糸口金。
(1)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(2)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔を形成する外周層と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(3)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(4)前記外周層の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【請求項3】
ポリマをフィラメント糸として紡出する紡出孔が配設された紡糸口金であって、以下の(1)〜(4)の要件を満足することを特徴とする紡糸口金。
(1)前記紡出孔が、少なくとも、導入孔と、前記導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設された中間導入孔と、前記中間導入孔より前記ポリマの紡出経路方向の下流側に配設され、前記紡糸口金の下面から前記ポリマを吐出する吐出孔とから構成されること。
(2)前記紡糸口金が、少なくとも、前記導入孔が配設された上部板と、前記中間導入孔が配設された中間板と、前記吐出孔が配設された下部板とから構成されること。
(3)前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積が、前記吐出孔の前記ポリマの紡出経路方向に垂直な方向の断面積より大きいこと。
(4)前記中間板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいこと。
【請求項4】
前記導入孔と前記吐出孔を連結する中間導入孔を有した中間板が設けられ、前記中間板の熱伝導率が、前記下部板の熱伝導率より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の紡糸口金。
【請求項5】
前記中間板の熱伝導率を小さくする手段として、前記中間板に空隙を設けたことを特徴とする請求項3または4に記載の紡糸口金。
【請求項6】
前記導入孔の前記ポリマの紡出経路方向の一部に計量孔が配設されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の紡糸口金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の紡糸口金を用いてマルチフィラメント糸を製造することを特徴とするフィラメント糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−63906(P2011−63906A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215370(P2009−215370)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】